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関連審決 審判1998-35126
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ26626特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ14010損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  使用方法 /  公然知られ(29条1項1号) /  守秘義務 /  共同発明 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  同一の発明 /  技術常識 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許出願日 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  権原 /  先使用権(先使用) /  社会通念 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  共同発明者 /  実施権 /  通常実施権 /  実施の事業 /  知らないで /  発明の実施である事業 /  事業の準備 /  対価 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 18173号 特許権侵害差止等請求事件
原告 日本ロール製造株式会社
訴訟代理人弁護士 増岡章三
同 増岡研介
同 片山哲章
同 中島茂
同 栗原正一
同 小出一郎
補佐人弁理士 早川政名
同 長南 満輝男
同 細川貞行
同 石渡英房
被告 石川島播磨重工業株式会社
訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
訴訟復代理人弁護士 窪田 英一郎
補佐人弁理士 荒崎勝美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録記載の物件を製造し,譲渡してはならない。
2 被告は,上記物件及びその半製品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが,完成に至らないもの)を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金1758万円及びこれに対する平成12年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
6 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項及び第2項と同旨 2 被告は,原告に対し,金2673万円及びこれに対する平成12年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,6本ロールカレンダーを製造,販売している被告の行為が原告の有する特許権を侵害するとして,製造等の差止め等と不当利得の返還を求めた事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明」という。)を有する。
(ア) 発明の名称 6本ロールカレンダーの構造及び使用方法 (イ) 出願日 昭和60年7月5日 (ウ) 登録日 平成5年2月17日 (エ) 特許番号 第1735179号 (オ) 特許請求の範囲 別紙「訂正明細書」写しの該当欄(1)記載のとおり(以下同明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて, B 第1ロールR1と第2ロールR2とを略水平に並列し, C 該第2ロールR2の下側または上側に第3ロールR3を第2ロールR2と平行でかつ第1ロールR1方向と略直交状に配置し, D 該第3ロールR3の横側で第1ロールR1と反対側位置に第4ロールR4を第3ロールR3と略水平でかつ第2ロールR2方向と略直交状に並置し, E この第4ロールR4の下側または上側で前記第2ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第5ロールR5を第4ロールR4と略平行でかつ第3ロールR3方向と略直交状に配置し, F 更に第5ロールR5の下側または上側で前記第2ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第6ロールR6を第4ロールR4及び第5ロールR5と平行でかつ第3ロールR3と略直交状に設置し, G 各ロール周速を第1ロールR1から順次後方に行くに従って速くした, H ことを特徴とする6本ロールカレンダーの構造 (3) 被告の行為 被告は,業として,別紙物件目録記載の被告装置(以下「被告装置」という。)を製造販売している。
(4) 被告装置の本件発明の構成要件充足性 被告装置の構成は,本件発明の技術的範囲に属する。
2 争点及び当事者の主張 (1) 先使用(抗弁) (被告の主張) 被告は,本件特許出願より前の昭和60年2月8日に,本件発明の内容を知らないで自ら発明(以下「被告乙3発明」という場合がある。)をして,被告の社内で図面(乙3,以下「本件図面」という場合がある。)を作成して登録した。
被告は,本件特許出願がされた昭和60年7月5日に,発明の実施である事業の準備をしていた。したがって,被告は,特許法(以下「法」という。)79条所定の先使用に基づく通常実施権を有する。
ア 被告乙3発明と本件発明の同一性 (ア) 構成要件Gの充足性 本件図面には,被告乙3発明の周速について特別の記載がない。しかし,以下のとおり,本件図面は,周速を順次速くする構成を当然の前提としている発明が記載されていると解すべきである。すなわち, a 特別な条件がない限り,圧延された材料がロールの周速の速い方に巻き付くというのが当業者の常識であり,引取りを最終ロールから行おうとする場合,ロールの周速を順次後方に行くに従って速くすることは周知である。このような観点から本件図面のカレンダーを見た場合,同カレンダーにおける引取りは最終の第6ロールから行われているのであるから(第6ロールの右横に引取りロールが設けられていることから明らかである。),当業者であれば本件図面を見て,容易に周速が順次後方に行くに従って速くなっていることを読み取ることができる。このように,ロールの周速を順次後方に行くに従って速くしていく技術は,周知である。
b 被告は,ロールの周速を順次後方に行くに従って速くする技術を古くから採用していた。被告は,昭和43年に米国のアダムソンユナイテッドカンパニーと技術提携をし,同社から技術導入を受けたが,同社は既にその2年前にはロールの周速を順次速くする技術を発表している。また,被告は「M+1」型を開発する以前の逆L型,Z型,M型のいずれにもこのように周速を順次速くする技術を採用していた。
c 乙22号証の1,2は,被告が昭和47年に製造した逆L型カレンダーラインの確定仕様書及び図面であるが,仕様書の7頁では,ロールの周速比が第1ロールから第4ロールにかけて,それぞれ0.80:0.93:1.0:1.0〜1.4と記載されている。
乙23号証の1,2は,被告が昭和43年に製造したZ型カレンダーラインの確定仕様書及び図面であるが,仕様書の1頁では,ロールの回転比が第1ロールから第4ロールにかけて,0.69:0.85:0.95:1.00と記載されている。
乙24号証の1,2は,被告が昭和46年に製造したM型カレンダーラインの確定仕様書及び図面であるが,仕様書の1頁では,ロールの回転比が第1ロールから第5ロールにかけて,(0.79:0.92:1.00)×0.8〜1.02:0.8〜1.02:1.00と記載されている。
このように,被告は逆L型,Z型,M型のいずれにおいても,ロールの周速を後方に行くに従って速くする構成が昭和40年代から採用され,本件図面のカレンダーにおいてもこれが採用されていると解するのが自然である。
なお,原告は,甲7,8に基づいて,第3ロールと第4ロールとを等速にするのが普通であると主張する。しかし,甲7は昭和40年4月30日に,同8は昭和36年10月20日に,それぞれ発行され,いずれも,本件特許出願の20年以上も前の文献であり,これらが本件特許出願当時の当業者の認識を表しているとは到底いえないので,原告の主張は失当である。
(イ) その他の構成要件の充足性 被告乙3発明は,「ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダー」におけるものであることから,構成要件Aを充足する。被告乙3発明は,図面上のロールの配置から明らかなように,構成要件BないしFを充足する。被告乙3発明は,6本ロールカレンダーの構造に関する発明であるから,構成要件Hを充足する。
(ウ) 以上から,被告乙3発明と本件発明は同一であり,被告が本件発明と同一の発明を,本件発明を知ることなく,本件特許出願前に完成していた。
事業の準備 (ア) 被告は,以下のとおり,本件特許出願の際,現に発明の実施である事業の準備をしていた。
a 被告は,昭和59年9月に,三晃プラスチック株式会社(以下「三晃プラスチック」という。)から既存のラインの改造及びM型ロールの製造について,製造能力や取引条件等の打診(以下「引合い」という場合がある。)を受けた。この引合いは被告の案件発番台帳に記帳されている。
同年11月8日に,被告の鍛圧機械事業部U技師長ら4名が三晃プラスチックに赴き,詳細な打合せを行った。この打合せの中では,三晃プラスチックが世界一品質の良い硬質シートを生産できる設備を要望していたこと,発注時期は早くても昭和60年夏から秋であること等の話が出た。
その後,被告と三晃プラスチックとの間で,技術的な意見交換を行い,被告は,「M+1」型カレンダーを提案することとし,被告社内のプラスチック設計部において「M+1」型カレンダーの図面を作成して,これを昭和60年2月8日に図番登録した(乙3,本件図面)。
しかし,被告と三晃プラスチックとの間での取引は成立せず,被告は,本件図面どおりの6本ロールカレンダーを三晃プラスチックに納入するには至らなかった。
b 被告は,昭和60年2月6日に台湾の富順興業社長のYの訪問を受け,その話の中で「M+1」型6本ロールカレンダーが話題となった。その後の同年3月8日に,被告の前記U技師長らが,台湾の富順興業を訪ね,Yに対して,被告の6本ロールカレンダーの技術説明を行い,被告は,Yの依頼に基づき,後日「M+1」型6本ロールカレンダーのフローシートを送付したことがあった。
c 被告は,昭和60年3月12日,理研ビニル工業株式会社からも「M+1」型6本ロールカレンダーの引合いがあったが,同社に対しては,見積りを出すには至っていない。
d 被告は,その後も引き続き,硬質カレンダー用として「M+1」型6本ロールカレンダーの営業を行っていたが,当時,カレンダーのロール型式としては,逆L型が主流であり,被告が初めて「M+1」型を受注したのは昭和63年になってからである。
(イ) 以上のとおり,被告は,@三晃プラスチックからの引合いを受け,設計図を作成して,図番登録をし,相手方に提出し,相手方に「M+1」型6本ロールカレンダーについて説明して,受注があればすぐにでも製造を開始できる状態を備えていたこと,Aその後も富順興業に対して技術説明をしたり,フローシートを送付したこと,Bその他の引合いに応じて「M+1」型の提案を行ったこと,C本件特許出願後ではあるが被告乙3発明の実施品を顧客に納入したことに照らすと,被告は,本件特許出願の際に,「M+1」型6本ロールカレンダーを即時に実施する意図を有しており,その意図は客観的に認識可能であったといえる。
(原告の反論) 被告が本件特許出願前の昭和60年2月ころ本件発明の内容を知らないで被告乙3発明をしたこと,被告が本件特許出願がされた昭和60年7月5日に,発明の実施である事業の準備をしていたことは否認する。
ア 被告乙3発明と本件発明の同一性 (ア) 構成要件Gの充足性 被告乙3発明は,以下の各記載に照らすと,当業者が本件図面を普通に見る限り,各ロールの周速を第1ロールから順次後方に行くに従って速くした構成を含むものとはいえないので,本件発明の構成要件Gを充足しない。
a 「プラスチック成形機械と成形技術」(甲7)806〜807頁には,「2本のロール間でコンパウンドが圧延された場合,生成したシートは,表面速度の大きい方のロールに伴なって行かれやすく,また,温度の高い方のロールへ伴なって行かれやすい。」そして,逆L字型4本カレンダーにおいては,「第3ロールに伴なって移動して来たシートは第3ロールと第4ロールの間げきに送り込まれ,厚さを決定され,表面状態を決定される。この両ロールは普通等速で,シートの移送は温度差で行われる。もしも,すべてのロールが等速であるならば,各ロールに5℃の温度差を付すことによってシートの移動は容易に行なえるであろう。」との記載がある。
b また,プラスチックのカレンダー加工に関する甲8の443頁には,シートの素材がプラスチックの場合,逆L字型4本カレンダーでは「最終的に厚さを決定する第3,第4ロールは同速にするのが普通であるが,シートの移行のためには第4ロールが5℃以上高いと作業しやすい。もし,すべてのロールが同速ならば各ロールに5℃の温度差を順次高くなるようにつけるのがよい。」との記載がある。
(イ) その他の構成要件の充足性 被告乙3発明に係る本件図面には,以下のとおりの理由から,本件発明のG以外の構成要件も記載されているとはいえない。
すなわち,本件図面のような6本ロールの配置構成を前提としたとしても,以下の@ないしHのとおり,ロールの回転方向やバンクを作る位置を変える組合せを採ることによって,多様な圧延パスラインの選択が可能であるから,被告乙3発明は,当然には,本件発明のG以外の構成要件を含んでいるということはできない。
@ 本件発明と同一の構成を採用する場合 A 第3と第4ロールとの間に間隙を設け,逆回転法を採用する場合 B 第4と第5ロールとの間に間隙を設け,逆回転法を採用する場合 C 第3と第4ロールとの間に間隙を設ける場合 D 第4と第5ロールとの間に間隙を設ける場合 E 第5と第6ロールとの間に間隙を設ける場合(甲9) F 第2と第3ロールとの間に間隙を設ける場合 G 第4と第5と第6ロールとの間に間隙を設ける場合 H 第3と第4と第5と第6ロールとの間に間隙を設ける場合 (ウ) 被告出願に係る甲9発明との関係 被告は,本件発明の出願後である昭和62年7月29日に甲9記載の発明(以下「甲9発明」という)を特許出願した。甲9発明に係る特許明細書の特許請求の範囲には,最終のカレンダーロールを隣接するカレンダーロールに対して近接離反可能に取り付けた構成が記載され,また,実施例には,本件図面と同一のロール配置の6本ロールカレンダーの例が記載されている。本件図面は,正に前記「近接離反可能に取り付けたこと」にほかならないから,被告乙3発明は,本件発明の各構成要件を含んでいるということはできない。
事業の準備 被告が本件特許出願の際,現に発明の実施である事業の準備をしていたとの被告の主張は否認する。
すなわち,「事業の準備」といえるためには,特許出願に係る発明と同一発明について,即時実施の意図があり,その意図が客観的に認識されうる態様,程度において表明されていることが必要であるが,本件においては,以下のとおり,これらの点を欠いている。
(ア) 一般に,本件のような装置に係る発明の実施について,事業の準備に必要な工程について,原告の場合を例として挙げると次のとおりである(証拠は参考として挙げた。)。
a 本件発明の実施に関して事業化するためには,まず,以下の工程について検討する必要がある。
@ φ610・6本カレンダーフレーム強度計算 A φ610・4本カレンダーフレーム強度計算 B 石膏フレーム破壊試験 C ストレインゲージ(ひずみ測定器)による歪み応力測定・φ610・4本カレンダーとφ610・6本カレンダーの強度比較 b 上記φ610は,最も標準的なロールの大きさである。ロールはそれ自体相当な重量を有するところ,本件発明は,従来技術の4本カレンダーより更に2本もロールが増え全6本のロールが高速回転することから,フレームの強度計算の見積にはとりわけ労力を要する(工程@,甲12)。原告においては,従来技術である4本カレンダーのフレームの強度計算をやり直し,4本カレンダーのフレームにおける1番弱い箇所を再確認して,6本カレンダーのフレームの強度計算の比較資料とした(工程A)。
c 次に,石膏で小さなフレームを作って,フレームの簡易な破壊試験を行い,4本カレンダーと6本カレンダーの強度比較を行った後(甲13),鋼板でフレームを作り,ロールの回転によって生じる力を実際と同一方向からかけてフレームの歪み具合を測定し(甲14の1ないし3,甲15),4本カレンダーと6本カレンダーのフレームの強度比較を行った(工程C)。
d 最後に,原告は,以上の試験を踏まえて試作機を製造し,圧延荷重の策定及びロールの適正温度に関するデータを収集した上で顧客からの引合いに応じる。十分な強度計算及び試験を行わないと,顧客が使用中にフレームが割れるなどといったリスクを負うことになり,それは製造会社の信用を毀損させる結果となる。
以上のとおり,本件発明の即時実施の意図があり,それが客観的に認識され得る態様,程度において表明されているといえるためには,少なくとも,強度計算書等(甲12ないし15)が完成していることが必要である。
(イ) 最高裁判所第2小法廷昭和61年10月3日判決民集40巻6号1068頁においては,電動式ウオーキングビーム式加熱炉の見積仕様書と設計図を提出し,さらに受注した場合は,見積仕様書と設計図を基に細部の打ち合わせを行って最終的な仕様を確定し,それに伴い最終製作図面(工作設計図)を作成し,それに従って加熱炉を築造する予定であって,受注に備えて各装置部分について下請会社に見積りを依頼していたという事案に関して,現に実施の事業の準備をしていたことを肯定した。
しかし,本件においては,以下のとおり,事案が異なる。
本件図面は,三晃プラスチックからの引合いに応じて製品を提案するために作成されたものであるにすぎず,これが真に実施の準備行為であるならば,当然,これに近接した時期に具体的な設計図,部品図等が作成され,また,強度計算や試作機の製造などがされるはずであるが,被告にこのような行為を行った形跡はない。「見積仕様書」や「設計図」の具体的な内容が問題なのであり,当該名称の書類が作成されていれば足りるというわけではない。
被告が本件発明の実施である事業の準備をしていたことの証拠として提出したものは,果たして被告において本件発明が完成していたかどうかも定かではない本件図面及び陳述書等にとどまっており,見積仕様書や設計図と呼べるものすらない。
(ウ) したがって,被告は,本件特許出願時に,被告乙3発明の即時実施の意図もなく,少なくとも,当該意図が客観的に認識され得る態様,程度において表明されているとはいえない。
(2) 本件特許には明らかな無効理由があり,原告の請求が権利濫用となるか。
(抗弁) (被告の主張) ア 出願前公知(法29条1項1号) 本件発明は,出願人である原告自身の行為によってその出願日前に公知となったので,法29条1項1号に該当する無効理由があることが明らかである。
(ア) 本件特許に係る平成10年審判第35126号の無効審判請求事件において,@本件特許の発明者である原告の設計者Kは,本件発明が昭和56年に完成した旨の証言をしていること(乙7),A原告は,本件発明が記載された図面番号「M-6298」の図面を昭和56年9月に作成したこと(乙8),B本件特許権の共同発明者の1人であるTは,上記審判手続において,上記図面は,ある会社からの引合いに対して作成されたものであり,その後も特許出願前に様々な会社に対して6本ロールの提案をしたと証言したこと(乙9)等の事実によれば,本件発明は原告自身の行為によって公知になったといえる。なお,通常このような引合いについては秘密保持契約を結ぶことがなく,条理によって顧客が提案内容について秘密の保持義務が発生することはない。
(イ) @原告は,昭和59年12月26日には図面番号「M-6509」の図面を作成し,昭和60年1月に,冨順興業のYに手渡していること(乙9,Tの供述),A原告は,昭和60年2月に原告を訪れたYに本件発明を記載した「M-6516」,「M-6517」の図面(乙10,11)を交付したこと,B原告は,Yに対して見積書を提出し,同機械について3日間打合せを行ったことに照らせば,機械の細かいスペックについても話合いが行われたと推認されること等の事実によれば,本件発明は,原告自身の行為によって,出願前に公知になったといえる。
なお,上記各図面には第5ロールに軸交叉装置を設け,第6ロールに間隙調整装置を設けること,各ロールの周速を第1口ールから順次後方に行くに従って速くすることは直接的に記載されていないが,これらは当業者であれば当然の前提とする技術であり,またYとの打合せは長時間にわたっているのであるから,原告はこれをYに説明していたと推認される。
進歩性欠如(法29条2項) 本件発明は,乙13(「plastics age」 1974年8月号)に記載されたM形5本ロールカレンダーに,当業者の周知慣用の技術を適用したものであり,進歩性を欠くことが明らかである。
乙13に記載されたM形5本ロールカレンダーと本件発明の相違点は,形式的なものも含めて,以下の5点である。
すなわち,@M形5本ロールカレンダーにおいてはロールの数が5であるのに対して,本件発明は6であること,A本件発明においては,第5ロールの下に第6ロールが設けられていること,B本件発明においては,第5ロールが軸交叉装置を有すること,C本件発明においては,第6ロールが間隙調整装置を有すること,D本件発明においては,ロールの周速を順次後方に行くに従って速くしたことである。
これらの相違点は,いずれも,周知慣用の技術を適用することにより容易に想到することができる。
(ア) ロールの数 カレンダーにおいて,必要に応じてロールの数を増やすことができることは当業者の常識に属する。したがって,本件発明のロールの数がM形5本ロールカレンダーよりも1本多いことは,何ら発明的工夫を要するような相違点ではない。
(イ) 第5ロールと第6ロールの位置関係 カレンダーの技術的な進歩の流れから見ても,最終ロール,すなわち第5ロールの次に1本追加することは当業者が極めて容易に思いつく選択である。
4本ロールカレンダーにおいてZ形及び逆L形がともに周知であったから(乙14),M形5本ロールカレンダーの最終ロールの次に1本追加するに際しても,その下側にするか,右側(乙13)にするかは,ともに当業者が容易に想到し得ることである。M形5本ロールカレンダーに基づいて,その第5ロールの下側にロールをさらに1本追加することは当業者が容易に想到できたことである。
(ウ) 第5ロールが軸交叉装置を有すること 第5ロールが軸交叉装置を設けた点は,6本ロールカレンダーを前提とした以上,当業者の技術常識に基づいて当然に選択できる事柄であるから,そもそも実質的な相違点ということもできない。
軸交叉とは,ロール僥み等よりシートの厚みが中央部で厚く,端部で薄くなる傾向を補正するために,隣接するロールの軸を交叉させ,中央部の隙間を小さくし,端部の隙間を大きくすることである。このような補正を途中の段階で行うことは可能ではあるが,補正後に再び不均一な厚みが生ずるのは不都合であるから,最終のロール間隙で行うことが望ましく,この点は,当業者にとって自明な選択である。したがって,6本ロールカレンダーにおいては,第5ロールと第6ロールとの間で軸交叉を行うことが望ましい。そのためには,第5ロールに軸交叉装置を設ける方法と,第6ロールに軸交叉装置を設ける方法が考えられるが,最終ロールと最終ロールに近接して設けられる引取りロールとの平行性を維持するために第6ロールには軸交叉装置を設けない方が望ましい。これも,当業者に周知の事柄である。
(エ) 第6ロールが間隙調整装置を有すること 間隙調整装置は,シートの厚さの大小を調整する目的を有する。したがって,軸交叉の場合と同様,最終のロール間隙を調整することが最も望ましく,これは,当業者に自明なことである。6本ロールカレンダーにおいて,第6ロールに間隙調整装置を設けて第5ロールとの間隙を調整することが望ましいことは当業者に自明なことである。本件発明では,間隙調整装置が第6ロールに設けられていることを構成としているが,これも当業者に自明で,かつ望ましい事柄を特定しているにすぎない。
(オ) ロールの周速を順次後方に行くに従って速くしたこと ロールの周速については,他の条件の許す限り,前のロールよりも後のロールの周速を速くする方が望ましいことは,当然であり,乙13にも明記されている。そして,ロール間隙を形成している2本のロールの間に周速差がある場合,周速の速いロールにシートが巻き付くことも当業者に周知の事柄であり,原告もこのことを当然の前提として本件明細書を作成している。
(原告の反論) ア 出願前公知の主張について 被告は,原告が「M-6516」,「M-6517」等の図面(乙10,11など)を台湾の富順興業のYに交付したことをもって,原告が自らの行為により本件発明を出願前に公知にしたことは明らかである旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
まず,上記図面には本件発明の「各ロールの周速を第1ロールから順次後方にいくに従って速くした」とする構成要件Gは表れていないから,上記図面の交付をもって本件発明が出願前公知となったものとはいえない。
また,仮にYに対して本件発明の内容が示されていたとしても,Yは,社会通念上又は商慣習上,原告側の特段の明示的な指示や要求がなくとも,当該6本ロールカレンダーの技術内容につき,原告のために秘密を保つべき関係にある者というべきであるから,本件発明が公然知られた状態となったものとはいえない。
この点につき,前記無効審判請求事件に対する審決取消訴訟判決は,Yは原告のために守秘義務が課せられていることを認定し,本件発明が公然知られた状態となったものということはできない旨判示し,出願前公知を理由とする本件特許に無効理由が存在するとの被告主張を斥けている。
進歩性欠如の主張について 本件発明は,以下のとおりの理由から,乙13記載のM形5本ロールカレンダーに,当業者の周知慣用の技術を適用して容易に想到することができたということはできない。
(ア) 前記相違点@,Aについて 乙13,14には6本ロールカレンダーについての具体的なロール構造やそれを示唆した記載はない。本件発明は,ロールの数及び配置には様々な選択があり得る中で,総合的な判断によって最良な選択として新規な配置構成を決定したものであるから,被告が主張するように単にM形5本ロールカレンダーに1本のロールを追加したものと考えるべきではない。仮にM形5本ロールカレンダーにロールを1本追加したものと考えるとしても,その基礎となる5本カレンダーには多様な配置が考えられるのであって,その中からM形5本ロールカレンダーを選択してさらにロールを1本追加すること自体,当業者にとって容易であったと即断することはできない。
さらに,本件発明がM形5本ロールカレンダーに1本のロールを追加したものであると仮定しても,追加するロールの位置は,第5ロールの水平右側を選択するのが自然であるから,M形5本ロールカレンダーに追加するロールの位置としてその第5ロールの垂直下側を選択し本件発明の構成とすることは,当業者において容易に想到し得るものではない。
(イ) 前記相違点B,Cについて 第5ロールに軸交叉装置を設けること(相違点B)及び第6ロールに間隙調整装置を設けることという本件発明の構成は,以下のとおり,当業者が容易に想到することとはいえない。
6本ロールカレンダーにあっては,第1ロール,第5ロール,第6ロールに軸交叉装置を設けることが可能であるところ,従来のM形5本ロールカレンダーでは,最終の第5ロールに間隙調整装置と軸交叉装置を設けていたように,6本ロールカレンダーにおいても,従来どおり最終ロールである第6ロールに間隙調整装置と軸交叉装置を設ける選択をすることが考えられる。
また,M形5本カレンダーがZ形4本カレンダーの「バンクから次のバンクまでの距離が全て1/4円周で最も短い」ことに伴う利点を継承した発展形態であると仮定した上で,前記利点を継承しつつ6本ロールカレンダーの配置を決定するとすれば,M形5本ロールカレンダーの第5ロールの水平右側に第6ロールを配置することになるところ,この場合は,直前のロールの右側に最終ロールを配した点で共通するZ形4本ロールと同様に最終ロールに間隙調整装置と軸交叉装置の両者を設ける構成を選択することが十分に考えられる。以上のとおり,当業者は,相違点B及びCに見られる本件発明の構成を容易に想到することはできなかった。
(ウ) 前記相違点Dについて 甲7,8によれば,ロールの周速は通常等速であったから,本件発明における周速を順次後方に行くに従って速くするという構成について,当業者が容易に想到することはできない。
ウ 被告の主張に係る無効理由の不存在についての審決取消訴訟の確定 被告が本件において主張する無効理由は,いずれも被告が東京高等裁判所平成11年(行ケ)第368号審決取消請求訴訟事件において主張した無効理由と同一である。同主張は,平成12年12月25日に言い渡された前記訴訟の判決において否定された。被告はこの判決に対して上告したが,最高裁判所は,平成13年6月14日,上告棄却及び上告不受理の決定をした。
(3) 損害額 (原告の主張) 被告は,被告装置を平成2年9月から平成12年8月までの間に少なくとも3台製造,販売(輸出を含む。)した。
被告の上記3台の売上金額は,合計8億9100万円を下らない。
本件特許権の実施料率は売上金額の3パーセントを下回らない。
被告は,被告の売上金額に実施料率を乗じた金額である2673万円を不当に利得しているので,原告は不当利得返還請求権に基づき,上記金額を請求する。
(被告の認否) 被告が原告主張の時期に3台の被告装置を製造,販売(輸出を含む。)したことは認める。
被告の上記3台の売上金額は,合計5億8600万円である。
実施料率については争わない。
争点に対する判断
1 争点1(先使用)について (1) 被告乙3発明と本件発明との同一性 ア 構成要件Gの充足性について (ア) 本件図面には,ロールの周速に関して特別の記載がない。しかし,以下のとおりの理由から,本件図面が作成された当時の技術に照らして,後方のロールの周速を順次速くする構成を当然の前提としていると解するのが相当である。
a 本件発明の出願公告時の明細書(出願公告公報)2頁左欄29行目ないし35行目には,「Z型4本カレンダー(第1図)の下側にロールR5を設けたM型5本カレンダー(第14図)が一部で使用されているが,この型式では圧延された材料が第14図の太実線に示す様にロールR4の表面に沿わせてから該ロールより剥がされる場合,ロールR5の周速をロールR4より遅くしなければならない。」と記載され(甲2),また,同明細書のその他の部分の記載においても,材料が周速の速いロールに巻き付いて移動することが当然の前提とされている。同記載に照らすならば,本件特許出願がされた昭和60年7月ころににおいて,シートは,周速の速いロールに巻き付いて移動するように制御されることが技術的常識となっていたことが窺える。
b 被告は,昭和43年に米国のアダムソンユナイテッドカンパニーと技術提携を行い,同社からカレンダー装置についての技術の導入を行った(乙21,26)。同社は,当時,カレンダーロールについて,後方のロールの周速を順次速くする技術を発表していた(乙16,26)。また,被告が製造,販売した製品の確定仕様書(乙22ないし24)によれば,逆L型4本ロール,Z型4本ロール,M型5本ロールのカレンダーにおいて,後方に行くに従って,ロール周速を順次速くしていく技術を採用していたことが認められる。
(イ) これに対して,原告は,甲7,8には,ロールを等速とすることが示されており,これによれば本件発明当時はロールを等速とすることが通常であったと主張する。しかし,甲7,8は,いずれも4本ロールカレンダーにおいて,最終的に厚さを決定する第3ロールと最終第4ロールについて,等速とする旨が記載されているにすぎないのみならず,これらが発行されたのは,それぞれ昭和40年4月,同36年10月であり,本件発明や被告乙3発明のころより相当に前のものであること,被告は前記のとおり,昭和43年以降,後方のロールの周速を速くする技術を導入していると認められることから,原告の主張は採用できない。
イ その他の構成要件の充足性について (ア) 被告乙3発明は,「ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダー」であることから構成要件Aを充足する。また,被告乙3発明は,本件図面に示されたロールの配置から明らかなように,構成要件BないしFを充足する。さらに,被告乙3発明は,6本ロールカレンダーの構造に関する発明であるから構成要件Hを充足する。
なお,確かに,本件図面のみからは,構成要件E(第5ロールに軸交叉装置が備えられていること)及び構成要件F(第6ロールに間隙調整装置が備えられていること)を読みとることができない。しかし,本件明細書添付の第7図(従来例)には,従来技術として,最終ロールに間隙調整装置が備えられ,最終ロールの直前のロールに軸交叉装置が備えられているものが示されていることから,被告乙3発明は,構成要件E及びFを充足していると解するのが相当である。
(イ) また,原告は,本件図面(乙3)のような6本ロールの配置構成を前提としても,ロールの回転方向やバンクを作る位置を変えることによって,少なくとも9種類の多様な圧延パスラインの選択が可能であるから,被告乙3発明は,本件発明の構成要件G以外の要件を充足したということはできないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり採用できない。
a 本件発明の出願公告時の明細書(甲2)の2頁左欄3行目ないし14行目には,「ゴム及びプラスチック等高分子用カレンダーとしては,逆L型4本カレンダー・・・等の4本ロール型式のカレンダーが多く使用されて来た。然るにこれら4本ロール型式のカレンダーにおいては,ゴム及びプラスチック等高分子用カレンダー材料がロールによって圧延される場合を生ずる,ロール間隙を通過しきれない過剰材料の溜り,所謂バンクがB1,B2,B3の3ケ所しか形成されない為,材料の転換が不充分で,圧延されたシート等の品質,外観等の点で満足なものが出来ないことがある。」と記載されているとおり,カレンダーにより圧延される製品の品質を向上させるためには,圧延作用を担うバンク数を増加する必要があることについては,当時の技術常識であったと認められる。
b 確かに,本件図面のロール配置を前提とした場合には,抽象的には,原告主張のような多種の圧延パスラインを選択することが可能である。しかし,上記の技術常識に沿って,できる限り多くの(すなわち,5個の)バンクを使用することを意図した場合には,本件明細書添付の第1図と同じ位置にバンクを形成するのが合理的であるといえる。
したがって,本件図面に示された被告乙3発明は,本件発明のG以外の要件を充足する構成が開示されている。
(ウ) さらに,原告は,以下のとおり主張する。
すなわち,被告が本件発明の出願後に特許出願した甲9発明には,最終のカレンダーロールを隣接するカレンダーロールに対して近接離反可能に取り付けた構成が記載されていることに照らすならば,被告は,本件図面において,専ら,本件発明とは異なる甲9発明のみの実施を意図していたと主張する。
しかし,甲9発明は,6本ロールカレンダーにおいて,最終ロールを近接離反可能に取り付けることを予定したものであって,本件発明を実施する意図と甲9発明を実施する意図とは必ずしも両立し得ないものではないことに照らして,原告の上記主張は,採用できない。
ウ 小括 以上の事実によれば,被告乙3発明は,本件発明のすべての構成要件を充足していると解するのが相当である。そして,被告装置は,被告乙3発明の構成のすべてを充足している。
(2) 事業の準備79条にいう発明の実施である「事業の準備」とは,特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が,その発明につき,いまだ事業の実施の段階には至らないものの,即時実施の意図を有しており,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていることを意味すると解するのが相当である(前記最高裁判所第2小法廷昭和61年10月3日判決)。以下この観点から判断する。
ア 事実認定 証拠(各認定事実の末尾に摘示した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足る証拠はない。
(ア) 本件図面作成の経緯 a 被告は,昭和59年9月,三晃プラスチックから,カレンダーラインの新設及び改造に関する打診を受け,同打診は,同月27日,M型ラインの改造についての引合いとして案件発番台帳に記帳された(乙1,25)。
同年11月8日,被告の鍛圧機械事業部のU技師長ら4名が三晃プラスチック土浦工場に出向き,詳細な打合せを行った。この打合せの中で,三晃プラスチックは,世界一品質の高い硬質シートを生産できる設備としたいこと,最高2.5mmの厚物シートの生産にも対応するため,カレンダーの型式はF型5本ロールとすること,第1ロールとの間隙が調整可能な傾斜型フィードミルを配置してほしいことなどを要望し,発注時期として,早くても昭和60年夏から秋であることなどを伝えた(乙2,25)。なお,出張報告書(乙2)には,技術的事項として,従来型のF型に関する若干の記載がされているのみである。
b 被告は,三晃プラスチックの要望事項について,技術的な観点から検討を重ねた。傾斜型フィードミルを三晃プラスチックの要望通りの位置に配置することは,第1ロールとの関係において困難であること,そもそも被告にはF型5本ロールカレンダーの設計製作実績がなく,F型5本ロールでは,第3ロールと第4ロールとの間のバンクの回転が不安定となることが予想されるなどの問題点が指摘された(乙25)。
c 被告は,検討の結果,6本ロールカレンダーを提案することとし,本件図面を作成した(乙3,25)。同図面は,昭和60年2月8日に被告内部において図面登録された(乙4)。本件図面には,「26X78 M+1 TYPE PRECISION CALENDER」と表題が付され,第1ないし第6ロールが被告装置と同一の配置で図示され,装置全体の概略的な構造,寸法等が記載されているのみである。
被告において,従来のM型カレンダーの最終第5ロールの直下に第6ロールを加えた配置であることから,「M+1型カレンダー」と呼ぶようになった。
d しかし,三晃プラスチックとの取引交渉はその後進展することはなく,結局,契約不成立で終わった。
(イ) 被告乙3発明の実施に関するその他の引合い a 被告は,昭和60年2月6日,横浜第2工場に富順興業のYらの訪問を受け,前記鍛圧機械事業部のU技師長らが対応した(乙6,25)。
被告は,Yに対して本件図面を示したところ,Yは即座に「これがいい」と発言し,「M+1」型6本ロールカレンダーに興味を示した。その後,同年3月8日,被告のU技師長らが台湾の富順興業を訪ね,Yは,将来的には半硬質シート生産用カレンダーの設置を考えていること,富順興業はヨーロッパ,日本を主体に設備の技術調査を行っていること,カレンダーの型式について,5本か6本ロールに関心を持っていることなどの説明を受けた。そして,YからM+1型6本ロールカレンダーのフローシートの送付を求められたため,これを送付した(乙5,25)。しかし,被告は,原告による本件特許出願に至るまでの間に,富順興業から「M+1型カレンダー」について受注を受けるには至らなかった。
b 被告は,昭和60年3月12日ころまでに,理研ビニル工業株式会社から,逆L型4本,M型5本又はM+1型6本ロールカレンダーに関して照会を受けたことがあったが,最終的に見積りを出すには至らなかった(乙6,25)。
(ウ) 被告のカレンダーに関する製造実績等 被告は,昭和60年2月ころまでに,逆L型4本ロールカレンダー,L型4本ロールカレンダー,Z型4本ロールカレンダー,傾斜Z型4本ロールカレンダー,M型5本ロールカレンダー等については,製造受注した実績があった(乙22ないし24,26)。また,被告は,ロール軸交叉装置,ロール間隙調整装置についても,M+1型ロールカレンダー以外の装置については,製造受注した実績がある(乙26)。
被告が上記逆L型4本ロールカレンダー,Z型4本ロールカレンダー,M型5本ロールカレンダー等を受注し,製造するに際しては,確定仕様書を作成し,各ロール配置とそれに伴う附属設備等を記載した詳細な図面を作成している(乙22ないし24)。
しかし,被告は,本件発明の出願日である昭和60年7月5日前に被告装置と同一の構成を有する6本ロールカレンダーを受注したことはなく,はじめて受注したのは昭和63年になってからである(弁論の全趣旨)。
(エ) 事業の準備に関する一般的な工程 a 本件発明の実施品である塩化ビニール等の高分子用6本ロールカレンダーは,顧客の発注を受けて,個別的な用途に合わせて製造する製品である(弁論の全趣旨)。製造,販売の対価(販売価格)は製品の仕様により異なるが,カレンダー本体部分のみでも1億7000万円ないし2億円余りであり,周辺機器等として引取ラインや電気設備等を含めると,装置全体では3億ないし4億円余りとなる。受注から装置の完成まで,通常は,数か月から1年程度の期間が必要である(乙33,35)。
b 原告が,本件特許出願日ころ,本件発明の実施品たる6本ロールカレンダーを受注して納品するために行った準備としては,@6本ロールカレンダーを生産するに必要な詳細図面を作成すること,A本件発明は,従来技術の4本カレンダーより更に2本もロールが増えて,全6本のロールが高速回転することから,綿密なフレームの強度計算の見積りを行うこと,B石膏で小さなフレームを作って,フレームの簡易な破壊試験を行い,4本カレンダーと6本カレンダーの強度比較を行うこと,C鋼板でフレームを作り,ロールの回転によって生じる力を実際と同一の方向から力をかけてフレームの歪み具合を測定して,4本カレンダーと6本カレンダーのフレームの強度比較を行うこと,D以上の試験を踏まえて試作機を製造し,圧延荷重の策定及びロールの適正温度に関するデータを収集することなどがあった(甲12ないし15)。
イ 判断 上記認定した事実によれば,被告が,本件特許出願の際,現に本件発明の実施である事業の準備をしていたということはできない。その理由は以下のとおりである。
すなわち,@被告は,三晃プラスチックからの打診を受けて,6本ロールカレンダーを提案し,その過程で本件図面を作成したが,本件図面は,装置の大まかな構造を示すものであって,寸法も装置全体の長さを表記した程度のものであって,あくまでも概略図にすぎないこと,A被告は,三晃プラスチックからの引合いの過程で作成した本件図面をどのように使用したか(交付したのかどうか,提示したのかどうか)について不明であること,B被告が三晃プラスチックに対して提案した「M+1型」カレンダーについて,本件図面の他に,製造や工程に関する具体的内容を示すものは何ら存在しないこと,C一般に,高分子用カレンダーのような装置については,顧客の要望にあわせて設備全体の仕様,ロールに用いる材質等を決め,設計を行う必要があるところ,製造,販売するための手順,工程,フレーム等の強度計算等が行われた形跡は全くないこと,D被告において,M+1型ロールカレンダー以外の装置について製造の注文を受けた場合には,確定仕様書や各ロール配置とこれに伴う附属設備等を記載した詳細な図面を作成しているが(乙22ないし24),M+1型ロールカレンダーについては,このような作業が全くされていないこと,E確定仕様書には,ロールの形状,寸法,運転速度,周速比,駆動電動機の種類や能力,伝導装置の構成,温度制御の方式,対象となる処理材料等のすべてにわたり,具体的,詳細な内容が記載されるが,そのような書面が存在しないこと等の事実に照らすならば,被告は,本件特許出願時において,本件発明の実施について,実施予定も具体化しない極めて概略的な計画があったにすぎないと解されるのであって,被告において本件発明を即時実施する意図を有しており,これが客観的に認識される態様,程度において表明されていたとは到底いえないというべきである。
よって,本件発明の実施としての事業の準備があったとは認められない。
2 争点2(明らかな無効理由)について 被告は,本件特許には,出願前公知(法29条1項1号)及び進歩性欠如(法29条2項)の無効理由が存在することが明らかであると主張する。
しかし,同無効理由については,被告の提起した本件特許についての無効審判請求に対し請求は成り立たないとした審判に対する審決取消請求事件(東京高等裁判所平成11年(行ケ)第368号 審決取消請求事件)において,既に判断されている。すなわち,東京高等裁判所平成12年12月25日判決は,原告がYに対して本件発明の記載された図面を示したとされる行為について,Yは原告のため秘密を保つべき関係にあり,その他の顧客に6本ロールカレンダーの提案をしたとされる点については証拠がないなどとして,出願前公知に関する無効理由は存在しないこと,M型5本ロールカレンダーにロールを1本追加すること,そしてその1本を追加する場合に第5ロールの下側に配置することは,いずれも当業者にとって容易に想到し得るものとはいえないこと,第5ロールにロール軸交叉装置を,第6ロールにロール間隙調整装置を設けることも当業者にとって自明とはいえないことを認定し,上記各無効理由は存在しないとして,被告の請求を棄却した(甲6)。
この判決は最高裁判所の上告棄却及び上告不受理の決定により確定した(甲16)。
以上の経緯によれば,本件特許の無効に係る被告の主張はすべて理由がない。
3 争点3(損害額)について 被告が原告主張の時期に被告装置3台を製造・販売(輸出を含む)したこと,本件特許権の実施料率が3パーセントであることについては当事者間に争いがない。
被告の上記3台の被告装置の合計売上金額が,5億8600万円であることについては乙35号証及び弁論の全趣旨により認められる。本件全証拠によるも,これを超える販売金額が存在したということは認められない。
これによれば,被告の売上金額に実施料率を乗じた金額は,1758万円となり,被告は同額を不当に利得していることになる。
結論
以上のとおりであるから,本件請求のうち,主文において認容した限度で理由がある。
追加
物件目録下記の「構造の説明」及び「図面」の構成を有する6本ロールカレンダーT構造の説明a塩化ビニール等の高分子用カレンダーにおいて,b第1ロール1と第2ロール2とを略水平に並列し,c第2ロール2の下側に第3ロール3を第2ロール2と平行でかつ第1ロール1方向と略直交状に配置し,d第3ロール3の横側で第1ロール1と反対側位置に第4ロール4を第3ロール3と略水平でかつ第2ロール2方向と略直交状に並置し,eこの第4ロール4の下側で第2ロール2と反対側位置にロール軸交叉装置7を備えた第5ロール5を第4ロール4と略平行でかつ第3ロール3方向と略直交状に配置し,f第5ロール5の下側で第2ロール2と反対側位置にロール間隙調整装置8を有する第6ロール6を第4ロール4及び第5ロール5と平行でかつ第3ロール3と略直交状に設置し,g各ロール周速を第1ロール1から順次後方に行くに従って速くしたhことを特徴とする6本ロールカレンダーU作動(1)第1ロール1と第2ロールとの間に塩化ビニール等の高分子材料を投入して両ロールの間で圧延し,(2)これを第2ロール2のロール表面に沿って後方に送り,(3)次に第2ロール2と第3ロール3との間で圧延して,(4)順次第3ロール3と第4ロールとの間で圧延して,(5)更に第4ロール4と第5ロール5との間で圧延して,(6)最後に第5ロール5と第6ロール6との間で圧延する(7)各ロール間のバンクの回転が順次反対方向となる(8)そして,ロール軸交叉装置7を備えた第5ロール5とロール間隙調整装置8を有する第6ロール6とによって,シートの両端部より中央部が厚くなる誤差を補正し,シートの左右の厚さが均一になるよう調整される。
V図面の説明図は,6本ロールカレンダーの概略断面図である。
W図面の符号の説明1第1ロール2第2ロール3第3ロール4第4ロール5第5ロール6第6ロール7ロール軸交叉装置8ロール間隙調整装置【訴状物件目録の図面を添付する。】【添付する明細書として「訂正明細書」(甲5)を添付する。】図面訂正明細書第1図〜第14図
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智
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