審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ26626特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ14010損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 公然実施(29条1項2号) / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 善意 / 権利の濫用(権利濫用) / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 先使用権(先使用) / 構成要件 / 構成要件充足性 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 実施権 / 通常実施権 / 発明の実施である事業 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
21942号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 日本車輌洗滌機株式会社 訴訟代理人弁護士 野上 邦五郎 同 冨永博之 同 杉本進介 被告 株式会社ヒラマツ 訴訟代理人弁護士 塩見渉 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/07/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙物件目録1ないし3記載の洗車機を製造販売してはならない。 2 被告は,原告に対し,4200万円及びこれに対する平成11年10月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,被告の負担とする。 4 仮執行宣言 |
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事案の概要
本件は,後記特許権を有する原告が,被告の製造販売する別紙物件目録1ないし3記載の洗車機(以下「被告製品」と総称する。)が,原告の特許発明の技術的範囲に属するものであり,原告の特許権を侵害するものであると主張して,被告に対し,被告製品の製造販売の差止め及び損害賠償の支払を求めている事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。 ア 特許番号 第1743117号 発明の名称 洗車機 出願年月日 昭和58年9月9日 出願公告年月日 平成2年10月19日 登録年月日 平成5年3月15日 イ 上記特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。これを掲載した特許公報〔本判決末尾添付。ただし特許請求の範囲については,補正前のものが記載されている。〕を「本件公報」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。 「先端部に長手方向及び幅方向に突出する突出物を有する被洗車輌を幅方向に跨ぎ,該車輌の長手方向に沿って走行可能な門型フレームと,該門型フレームに垂下され,該門型フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシと,該洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器と,該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向中央側の限界位置に到来したことを検出する幅方向限界位置検出器と,該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器と,前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向先端側の退避位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向退避位置検出器と,前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向中央側の限界位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向限界位置検出器と,少なくとも被洗車輌の前面と側面を前記洗車ブラシにより洗滌させ,前面洗條から側面洗條への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行に際して,前記各位値検出器からの位置信号及び接触検出器からの接触信号により門型フレームを前後後進させ(註,「前後進させ」の誤記と認められる。)且つ前記洗車ブラシを横行させ,前記突出物を洗車ブラシと当接させずに被洗車輌の洗滌を行わせる制御装置と,を備えたことを特徴とする洗車機」 (2) 上記発明の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件A」のようにいう。)。 A 先端部に長手方向及び幅方向に突出する突出物を有する被洗車輌を幅方向に跨ぎ,該車輌の長手方向に沿って走行可能な門型フレームと, B 該門型フレームに垂下され,該門型フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシと, C 該洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器と, D 該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向中央側の限界位置に到来したことを検出する幅方向限界位置検出器と, E 該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器と, F 前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向先端側の退避位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向退避位置検出器と, G 前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向中央側の限界位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向限界位置検出器と, H 少なくとも被洗車輌の前面と側面を前記洗車ブラシにより洗滌させ,前面洗條から側面洗條への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行に際して,前記各位値検出器からの位置信号及び接触検出器からの接触信号により門型フレームを前後後進させ且つ前記洗車ブラシを横行させ,前記突出物を洗車ブラシと当接させずに被洗車輌の洗滌を行わせる制御装置と, I を備えたことを特徴とする洗車機 (3) 被告は,遅くとも平成7年ころから現在まで別紙物件目録1記載の洗車機(以下「イ号物件」という。)を,遅くとも平成3年ころから現在まで同目録2記載の洗車機(以下「ロ号物件」という。)及び3記載の洗車機(以下「ハ号物件」という。)を,製造販売している。 (4) イ号物件の構成要件充足性 イ号物件は,構成要件A,B,E及びIを充足する。 (5) ロ号及びハ号物件の構成要件充足性 ロ号及びハ号物件は,その構成はほとんど同じである(ハ号物件にはトップブラシがある点が異なるのみである。)ので,構成要件充足性の点では,両者を同様に考えることができる。 ロ号及びハ号物件は,構成要件A,B,E,G,H及びIを充足する。 2 被告製品の構成及び作動についての当事者の主張 (1) 原告の主張 ア イ号物件の構成について イ号物件の構成は,次のとおりである。 a 被洗車輌30を幅方向に跨ぎ,該車輌30の長手方向に沿って走行可能な門型フレーム1と, b 門型フレーム1における左右の縦フレーム間に亘って取り付けられた2本のブラシ移行用レール2,2'と,該レール2,2'上にあって,該レールに沿って左右に走行可能な左右一対のブラシ移行用台車3,3'と,前記ブラシ移行用台車3,3'の下に垂下された左右一対の洗車ブラシ5,5'と,該洗車ブラシ5,5'の回転軸の頂部でかつ前記ブラシ移行用台車3,3'内に設けられたブラシ駆動用モーター4,4'と, c 前記ブラシ駆動用モーター4,4'に供給される電流値が一定値を超えると,リレーが作動して門型フレーム1の走行を停止させる働きをする電流メーターリレー6,6'と, d 前記レール2の左右端部付近に設けられており,前記ブラシ移行用台車3,3'の一部が接触することによってスイッチがオンとなり,そのオン信号によってブラシ移行用台車3,3'の左右への移行を停止させて洗車ブラシ5,5'の最外端位置(洗車ブラシがこれ以上外側には行かないという限界の位置,イ第4-A〜C図,イ第5図のイ,イ'点)を規定するための左右一対のリミットスイッチ7,7'と, e 前記レール2の中央やや右側に設けられており,右側ブラシ移行用台車3が幅方向内側に移動して,その一部が接触することによってスイッチがオンとなり,そのオン信号によって右側洗車ブラシ5の幅方向内側への移行を停止して右側洗車ブラシの中央側停止位置(イ第4-A図,イ第5図のロ点)を規定するためのリミットスイッチ8と,洗車ブラシ5が被洗車輌前面に接触して前記電流メーターリレー6がオンとなってから所定時間経過するまで,洗車ブラシ5を被洗車輌前面幅方向外側に移動させて被洗車輌の突出物31に当接しない幅方向内側の位置(イ第5図のニ点)に到達させ,そこで幅方向内側に反転させるためのタイマーT1と, f 前記レール2の中央やや左側に設けられており,左側ブラシ移行用台車3'が幅方向内側に移動して,その一部が接触することによってスイッチがオンとなり,そのオン信号によって左側洗車ブラシ5'の幅方向内側への移行を停止して左側洗車ブラシの中央側停止位置(イ第5図のロ'点)を規定するためのリミットスイッチ8'と,洗車ブラシ5'が被洗車輌前面に接触して前記電流メーターリレー6'がオンとなってから所定時間経過するまで,洗車ブラシ5'を被洗車輌前面幅方向外側に移動させて被洗車輌の突出物31'に当接しない幅方向内側の位置(イ第5図のホ'点)に到達させ,そこで幅方向内側に反転させるためのタイマーT2と, g 門型フレームの左側下部に設けられ,門型フレームが前後の走行限界位置(門型フレームがこれ以上走行できないという限界の位置)に来たときに,地面に設置された鉄片9a',9b'とそれぞれ対向するようになっている2個の近接スイッチ9a,9bと, h 門型フレームの右側下部に設けられ,門型フレームが走行して右側洗車ブラシ5が被洗車輌の突出物31に当接しない被洗車輌長手方向中央側の位置(イ第5図のへ点)に来たときに,地面に設置された鉄片9c'と対向するようになっている近接スイッチ9cと,前記リミットスイッチ7'がオンとなってから所定時間経過するまで,門型フレームを移動させて洗車ブラシ5'を被洗車輌の突出物31'に当接しない被洗車輌長手方向中央側の位置(イ第5図のヘ'点)へ到達させ,そこで門型フレームの走行を停止させるタイマーT3と, i 被洗車輌30の前面と側面とを前記洗車ブラシ5,5'により洗滌させ,前記リレーや各スイッチ及びタイマーからの信号により,門型フレーム1を前後進させかつ洗車ブラシ5,5'を幅方向に移動させ,突出物31,31'に当接しないように洗車ブラシを回避させて被洗車輌30の洗滌を行わせる制御装置40と, j を備えたことを特徴とする洗車機。 (図面の説明) イ第1図 洗車機と被洗車輌の左側面図 イ第2図 洗車機と被洗車輌の平面図 イ第3図 洗車機の正面図(被洗車輌の後方から前方を見た図) イ第4図 洗車ブラシの開閉駆動機構を示す平面図 イ第5図 作動説明図 (図面の符号の説明) 1 門型フレーム 2,2' ブラシ移行用レール 3,3' ブラシ移行用台車 4,4' ブラシ駆動用モーター 5,5' 洗車ブラシ 6,6' 電流メーターリレー 7,7' リミットスイッチ(左右端部) 8,8' リミットスイッチ(中央側) 9a,9b,9c 近接スイッチ 30 被洗車輌 31,31' 被洗車輌の突出物 40 制御装置 イ,イ' 洗車ブラシの最外端位置 ロ,ロ' 洗車ブラシの中央側停止位置 ニ 右側洗車ブラシ5が右の突出物31に当接しない幅方向内側の位置 ホ' 左側洗車ブラシ5'が左の突出物31'に当接しない幅方向内側の位置 ヘ,ヘ' ブラシ5,5'が突出物31,31'に当接しない長手方向中央側の位置 イ イ号物件の作動について イ号物件の作動は,次のとおりである。イ第5図は,大型バスを洗滌するときのイ号物件の洗車ブラシの作動を説明するための図である。以下,本項で「図」というときは同図を指す。 (ア) 初期位置 左右の洗車ブラシ5,5'は最も外側に開いた最外端位置で,門型フレーム1が最も後退(門型フレームが図の被洗車輌の後方へ走行することを前進,その逆を後退という。以下同じ。)した位置(初期位置,図中のイ,イ'点)にあり,門型フレーム,洗車ブラシとも停止しており,ブラシの回転も停止している。 (イ) 作動@,@' 門型フレームは停止した状態で,左右の両洗車ブラシ5,5'が内側方向に移動を開始し,左右の洗車ブラシ5,5'が中央側停止位置(図中のロ,ロ'点)に来ると洗車ブラシの移動は停止し,門型フレームが被洗車輌に向かって(ロ,ロ'点からハ,ハ'点へ向かって)前進して左右の洗車ブラシ5,5'が被洗車輌前面に接触すると門型フレームは停止する(図中のハ,ハ'点)。この間左右の洗車ブラシ5,5'は,図中のロ,ロ'点付近から回転を開始する。 (ウ) 作動A,A' 門型フレームが停止した状態で,左右の洗車ブラシ5,5'が,その軸間距離を保ちながら,右方向に(ハ,ハ'点からニ,ニ'点に向かって)移動して車輌前面を洗滌し,右側洗車ブラシ5が右側の突出物31のある位置より幅方向内側の位置(図中のニ点)まで来ると左右の洗車ブラシ5,5'は移動を停止する。 (エ) 作動B,B' 門型フレームが停止した状態で,左右の洗車ブラシ5,5'がこれまでとは逆の左方向に(ニ,ニ'点からハ,ハ'点に向かって),その軸間距離を保ちながら移動を開始し,車輌前面を洗滌して左側洗車ブラシ5'が左側の突出物31'のある位置より幅方向内側の位置(図中のホ'点)に来ると左右の洗車ブラシは移動を停止する。 (オ) 作動C,C' 門型フレームが停止した状態で,左右の洗車ブラシ5,5'がこれまでとは逆の右方向に(ホ,ホ'点からハ,ハ'点に向かって),その軸間距離を保ちながら移動を開始し,車輌前面を洗滌して左右の洗車ブラシ5,5'が元のハ,ハ'点に来ると移動を停止する。 (カ) 作動D,D' 門型フレームが後退を開始し,左右の洗車ブラシ5,5'が,元のロ,ロ'点に達すると停止して,左右の洗車ブラシ5,5'が外側に(右側洗車ブラシ5がロ点からイ点に向かって,左側洗車ブラシ5'が,ロ'点からイ'点に向かって)移動して初期位置(図中のイ,イ'点)に戻る。この間,ロ,ロ'点の付近で洗車ブラシの回転が停止する。 (キ) 作動E,E' 左右の洗車ブラシ5,5'は回転していない状態で門型フレームが前進を開始し(右側洗車ブラシはイ点からへ点に向かって,左側洗車ブラシ5'はイ'点から,へ'点に向かって移動を開始し),左側洗車ブラシ5'が突出物31'を超えた長手方向の位置(図中のへ'点)に達すると門型フレームは停止する。 (ク) 作動F' 門型フレームが停止した状態で,左側の洗車ブラシ5'は回転を開始しながら,幅方向内側に向かって(図中のへ'点からト'点に向かって)移動し,被洗車輌に接触すると,移動は停止する(図中のト'点)。その後門型フレームが前進を開始し,右側洗車ブラシ5が突出物31を超えた長手方向の位置(図中のへ点)に達すると門型フレームは停止する。 (ケ) 作動F 門型フレームが停止した状態で,右側の洗車ブラシ5は回転を開始しながら,幅方向内側に向かって(図中のへ点からト点に向かって)移動し,被洗車輌に接触すると,移動は停止する(図中のト点)。 (コ) 作動G,G' 左右両洗車ブラシは内側への移動を停止したまま,門型フレームが前進して(右側洗車ブラシ5はチ点へ向かって,左側洗車ブラシ5'はチ'点に向かって)被洗車輌の側面を洗滌し,左右の洗車ブラシ5,5'が被洗車輌の後面を過ぎた点(図中のチ,チ'点)に達すると門型フレームは停止する。 (サ) 作動H,H' 左右の洗車ブラシ5,5'は回転を開始しながら,幅方向内側に移動して中央側停止位置で停止し,その後門型フレームが後退して,左右の洗車ブラシ5,5'が被洗車輌後面に接触すると,移動は停止する(図中のリ,リ'点)。 ウ ロ号物件の構成 ロ号物件の構成は,次のとおりである。 a 被洗車輌30を幅方向に跨ぎ,該車輌30の長手方向に沿って走行可能な門型フレーム1と, b 門型フレーム1における左右の縦フレーム間に亘って取り付けられた2本のブラシ移行用レール2,2'と,該レール2,2'上にあって,該レールに沿って左右に走行可能な左右一対のブラシ移行用台車3,3'と,前記ブラシ移行用台車3,3'の下に垂下された左右一対の洗車ブラシ5,5'と,該洗車ブラシ5,5'の頂部に設けられたブラシ駆動用モーター4,4'と, c 前記門型フレーム1の右側前端に設けられ,該門型フレームの左側対向位置に設けられた光源10a',10b'からの光を感知して被洗車輌30の前端又は後端を検知するための光電センサー10a,10bと,該光電センサーによって,被洗車輌の前端を検知したときから計測を開始し,所定時間経過後にタイムアップして,回転している右側洗車ブラシ5が被洗車輌前面と接触する位置で門型フレーム1を停止させるための信号を発するタイマーT1と,該光電センサーによって,被洗車輌の後端を検知したときから計測を開始し,所定時間経過後にタイムアップして,回転している洗車ブラシ5'が被洗車輌後面と接触する位置で門型フレーム1を停止させるための信号を発するタイマーT2と,前記ブラシ移行用台車3,3'の中央側両角部に設けられ,洗車ブラシ5,5'が被洗車輌の前後面に適度の接触深さを超えて強く接触してブラシ移行用台車3,3'が前後に傾斜したときに門型フレーム1を停止させるための信号を発する一対のリミットスイッチ11a,11b,11a',11b'と, d 前記レール2'の左右端部付近に設けられており,前記ブラシ移行用台車3,3'の一部が接触することによってスイッチがオンとなり,そのオン信号によってブラシ移行用台車3,3'の左右への移行を停止させて洗車ブラシ5,5'の開き限界位置(洗車ブラシがこれ以上外側には行かないという限界の位置,ロ第4図,ロ第5図のイ,イ'点)を規定するための左右一対のリミットスイッチ7,7'と, e 前記レール2'の中央と前記右側リミットスイッチ7との間に設けられており,右側ブラシ移行用台車3の一部が接触することによってスイッチがオンとなり,そのオン信号によって右側洗車ブラシ5の左右の移行を停止して右側洗車ブラシ5の被洗車輌の右の突出物31に洗車ブラシが当接しない幅方向内側の位置(ロ第5図のハ点)を規定するためのリミットスイッチ8と, f 前記リミットスイッチ8がオンとなってから,所定時間経過後にタイムアップして,その際の信号によって右側洗車ブラシ5の左右の移行を停止して右側洗車ブラシ5が被洗車輌の左の突出物31'に当接しない幅方向内側の位置(ロ第5図のニ点)を規定するためのタイマーT3と, g 門型フレームの左側下部に設けられ,門型フレームが前後の走行限界位置(門型フレームがこれ以上走行できないという限界の位置)に来たときに,地面に設置された鉄片9a',9b'とそれぞれ対向するようになっている2個の近接スイッチ9a,9bと, h 門型フレームの左側下部に設けられ,門型フレームが走行して洗車ブラシ5,5'が被洗車輌の突出物31,31'に当接しない被洗車輌中央側の位置に来たときに,地面に設置された鉄片9c'と対向するようになっている近接スイッチ9cと, i 被洗車輌30の前面と側面とを前記洗車ブラシ5,5'により洗滌させ,前記各スイッチやタイマーからの信号により,門型フレーム1を前後進させかつ洗車ブラシ5,5'を幅方向に移動させ,突出物31,31'に当接しないように洗車ブラシを回避させて被洗車輌30の洗滌を行わせる制御装置40と, j を備えたことを特徴とする洗車機。 (図面の説明) ロ第1図 洗車機と被洗車輌の左側面図 ロ第2図 洗車機と被洗車輌の平面図 ロ第3図 洗車機の正面図(被洗車輌の後方から前方を見た図) ロ第4図 洗車ブラシの開閉駆動機構を示す平面図 ロ第5図 作動説明図 (図面の符号の説明) 1 門型フレーム 2,2' ブラシ移行用レール 3,3' ブラシ移行用台車 4,4' ブラシ駆動用モーター 5,5' 洗車ブラシ 6,6' 電流メーターリレー 7,7' リミットスイッチ(左右端部付近) 8,8' リミットスイッチ(中央側) 10a,10b 光電センサー 10a',10b' 光源 11a,11b ブラシ移行用台車3に設置されたリミットスイッチ 11a',11b' ブラシ移行用台車3'に設置されたリミットスイッチ 30 被洗車輌 31,31' 被洗車輌の突出物 40 制御装置 イ,イ' 洗車ブラシの最外端位置 ハ 右側洗車ブラシ5が右の突出物31に当接しない幅方向内側の位置 ニ 右側洗車ブラシ5が左の突出物31'に当接しない幅方向内側の位置 エ ロ号物件の作動 ロ号物件の作動は,次のとおりである。ロ第5図は,大型バスを洗滌するときのロ号物件の洗車ブラシの作動を説明するための図である。以下,本項で「図」というときは同図を指す。 (ア) 初期位置 洗車ブラシ5,5'は最も外側に開いた最外端位置で,門型フレーム1が最も後退した位置(初期位置,図中のイ,イ'点)にあり,門型フレーム,洗車ブラシとも停止しており,ブラシの回転も停止している。 (イ) 作動@ 門型フレームは停止した状態で,右側洗車ブラシ5が内側方向(左側方向)に移動を開始し,突出物31のある位置より幅方向内側の位置(図中のロ点)に来ると洗車ブラシの移動は停止する。次に門型フレームが被洗車輌に向かって(ロ点からハ点へ向かって)前進して右側洗車ブラシ5が被洗車輌前面に接触すると門型フレームは停止する(図中のハ点)。この間右側洗車ブラシ5は図中のロ点付近から回転を開始する。 作動@では,左側洗車ブラシ5'は移動,回転とも停止したままである。 (ウ) 作動A 門型フレームが停止した状態で,右側洗車ブラシ5が回転しながら,再び左側(ハ点からニ点に向かって)に移動して車輌前面を洗滌し,左側の突出物31'のある位置より幅方向内側の位置(図中のニ点)まで来ると右側洗車ブラシ5の移動は停止する。 作動Aでは,左側洗車ブラシ5'は移動,回転とも停止したままである。 (エ) 作動B 門型フレームが停止した状態で,右側洗車ブラシ5がこれまでとは逆の右方向に(ニ点からハ点に向かって)移動を開始し,車輌前面を洗滌して洗車ブラシ5が元のハ点に来ると移動を停止する。 作動Bでは,左側洗車ブラシ5'は移動,回転とも停止したままである。 (オ) 作動C 門型フレームが後退を開始し,右側洗車ブラシ5が元のロ点に達すると停止して,右側洗車ブラシ5が右方向に(ロ点からイ点に向かって)移動して初期位置(図中のイ点)に戻る。この間,ロ点の付近で洗車ブラシ5の回転が停止する。 作動Cでは,左側洗車ブラシ5'は移動,回転とも停止したままである。 (カ) 作動D 左右の洗車ブラシ5,5'は回転していない状態で門型フレームが前進を開始し(右側洗車ブラシはイ点からホ点に向かって,左側洗車ブラシは,イ'点からホ'点に向かって移行を開始し),突出物31,31'を超えた長手方向の位置(図中のホ,ホ'点)に達すると門型フレームは停止する。 (キ) 作動E 門型フレームが停止した状態で,左右の洗車ブラシは回転を開始しながら,幅方向内側に向かって(右側洗車ブラシ5はホ点からへ点に向かって,左側洗車ブラシ5'は,ホ'点からへ'点に向かって)移動し,被洗車輌に接触すると,移動は停止する(図中のへ,へ'点)。 (ク) 作動F 左右両洗車ブラシは内側への移動を停止したまま,門型フレームが前進して(右側洗車ブラシ5はへ点からト点へ向かって,左側洗車ブラシ5'は,へ'点からト'点に向かって)被洗車輌の側面を洗滌し,右側洗車ブラシがト点に,左側洗車ブラシがト'点に来ると門型フレームは停止し,右側洗車ブラシ5の回転が停止する。 (ケ) 作動G 左側洗車ブラシ5'は回転を続けながら右側へ(ト'点からチ'点に向かって)移動し,被洗車輌の後面を洗滌する。 オ ハ号物件の構成及び作動 ハ号物件の構成及び作動は,上記ロ号物件の構成に,「j 被洗車輌の屋根部分を洗滌するための洗車ブラシ20と」が付加されるのみで,その余は全くロ号物件と同様であるから,省略する。図面としてハ第1図(洗車機と被洗車輌の左側面図),ハ第2図(洗車機と被洗車輌の平面図)及びハ第3図(洗車機の正面図(被洗車輌の後方から前方を見た図))を添付する。 (2) 被告の主張 ア イ号物件の構成について 以下に述べる部分以外は,原告の主張する構成を認める。 (ア) 構成eについて 原告の主張する「洗車ブラシ5が被洗車輌前面に接触して前記電流メーターリレー6がオンとなってから所定時間経過するまで」の部分は否認する。 (イ) 構成fについて 原告の主張する「洗車ブラシ5'が被洗車輌前面に接触して前記電流メーターリレー6'がオンとなってから所定時間経過するまで」の部分は否認する。 イ イ号物件の作動について 以下に述べる部分以外は,原告の主張する作動の説明を認める。 (ア) 作動@,@'について 門型フレームが被洗車輌に向かって前進して「左右の洗車ブラシ5,5'が被洗車輌前面に接触すると門型フレームは停止する」の部分は否認する。 (イ) 作動A,A'について 「幅方向内側の位置(図中のニ点)まで来ると左右の洗車ブラシ5,5'は移動を停止する。」との部分は否認する。タイマーによる所定時間の経過により洗車ブラシは反転するものである。 (ウ) 作動B,B'について 「幅方向内側の位置(図中のホ'点)に来ると左右の洗車ブラシは移動を停止する。」との部分は否認する。タイマーによる所定時間の経過により洗車ブラシは反転するものである。 (エ) 作動E,E'について 「左側洗車ブラシ5'が突出物31'を超えた長手方向の位置(図中のへ'点)に達すると門型フレームは停止する。」との部分は否認する。 停止はタイマーによる所定時間の経過によるもので,位置によって規定されていない。 ウ ロ号及びハ号物件の構成について (ア) 構成cにつき,リミットスイッチ11a,11b,11a',11b'は,非常時において機械全体の動きを停止するもので,洗車作業の流れの中でこれらスイッチが洗車ブラシ5,5'の被洗車輌の前後面への接触を検出する作用はない。 (イ) 構成fにつき,タイマーT3は,右側洗車ブラシの幅方向内側の反転する位置を規定しているものではない。 上記以外は,原告の主張する構成を認める。 エ ロ号及びハ号物件の作動について 以下に述べる部分以外は,原告の主張する作動の説明を認める。 (ア) 作動@について 「右側洗車ブラシ5が被洗車輌前面に接触すると門型フレームは停止する(図中のハ点)。」との部分は否認する。 (イ) 作動Aについて 「幅方向内側の位置(図中のニ点)まで来ると右側洗車ブラシ5の移動は停止する。」との部分は否認する。タイマーによる所定時間の経過により洗車ブラシは反転するものである。 (ウ) 作動Bについて 原告の主張を認めるが,洗車ブラシ5が元のハ点に止まらず,そこを通過して直接イ点に戻る構成もある。 3 争点 (1) 被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属し,被告製品の製造・販売が本件特許権を侵害するか。なかでも, ア 被告製品が構成要件Cを充足するか(争点1)。 イ 被告製品が構成要件Dを充足するか(争点2)。 ウ 被告製品が構成要件Fを充足するか(争点3)。 エ イ号物件が構成要件Gを充足するか(争点4)。 オ イ号物件が構成要件Hを充足するか(争点5)。 (2) 本件特許権に無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか(争点6)。(3) 被告の先使用による通常実施権の成否(争点7) (4) 原告の損害(争点8) |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品が構成要件Cを充足するか)について (1) 原告の主張 ア イ号物件について イ号物件の構成cによれば,イ号物件は左右の洗車ブラシを回転させるブラシ駆動用モーター4,4'毎に電流メーターリレー6,6'が設けられている。 洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触すると,ブラシと接触面との摩擦によってブラシを回転させるトルクが増加し,ブラシ駆動用モーターの電流値が増加する。そしてその電流値が一定値を超えると電流メーターリレー6,6'が作動して門型フレームを停止させるようになっているのであり,この電流メーターリレー6,6'は,洗車ブラシが被洗車輌の前後面に一定の強さで接触していることを検知しているから,電流メーターリレー6,6'が本件特許発明の「接触検出器」に相当するので本件特許発明の構成Cを充足する。 被告は,電流メーターリレーは,被洗車輌の後面及び側面への接触を検知しているのみで,前面への接触を検知していないから,「接触検出器」に当たらないと主張するが,電流メーターリレーは接触の摩擦による負荷を受けるとブラシ駆動用モーターの電流値が増加することを利用して接触を検出するものであり,後面及び側面への接触を検知しているのなら,当然に前面への接触をも検知しているはずである。また,被告は門型フレームを停止させているのはタイマーであると主張しているが,タイマーであっても「接触検出器」に当たる。 イ ロ号及びハ号物件について ロ号及びハ号物件の構成cによれば,ロ号及びハ号物件は門型フレームの右側前端に被洗車輌の前端又は後端を検知するための光電センサー10a,10bが設けられており,該光電センサー10a,10bが被洗車輌の前端を検知した時に計測を開始し,回転中の右側洗車ブラシ5と被洗車輌前面との接触深さが適度になった時にタイムアップして,その信号により門型フレーム1を停止させるタイマーT1と,該光電センサー10a,10bが被洗車輌の後端を検知した時に計測を開始し,回転中の左側洗車ブラシ5と被洗車輌後面との接触深さが適度になった時にタイムアップして,その信号により門型フレーム1を停止させるタイマーT2とを有している。すなわち,光電センサー10a,10bとタイマーT 1,T 2とによって,洗車ブラシ5,5'が被洗車輌の前後面に接触していることを検知している。さらに,ロ号及びハ号物件は,ブラシ移行用台車3,3'の中央側両角部にリミットスイッチ11a,11b,11a',11b'を有しており,洗車ブラシ5,5'が被洗車輌の前後面に適度の接触深さを超えて強く接触してブラシ移行用台車が傾斜すると前記リミットスイッチのレバーがブラシ移行用レール2,2'に当接してスイッチがオンとなり,門型フレーム1の走行を停止させるための信号を発するようになっている。それゆえ光電センサー10a,10bとタイマーT 1,T 2及びリミットスイッチ11a,11b,11a',11b'が,洗車ブラシ5,5'が被洗車輌の前後面に接触していることを検知するものであるから「接触検出器」に該当する。したがって,ロ号及びハ号物件は,本件特許発明の構成要件Cを充足する。 (2) 被告の主張 ア イ号物件について イ号物件には,洗車ブラシが被洗車輌の前面に接触することにより電流メーターリレー6,6'が作用し門型フレームを停止させる構成は有しない。本件明細書の記載(本件公報4欄27行〜34行,5欄30行〜31行,6欄17行〜19行)からすれば,構成要件Cにおける「接触検出器」は,被洗車輌前後面に当たって傾動したとき,すなわち被洗車輌前後面に接触したときに作動し,その位置信号が制御装置に送られ,門型フレームの動きを制御するものであり,前後面への接触を検出することが,その後の動きの前提となっている。 イ号物件における門型フレームの被洗車輌前面における停止は,タイマーによる時間的経過によるものであり,ブラシの接触を検出して門型フレームの動きを制御しているものではない。被洗車輌前面には,通常,看板,アンテナ,ミラーなどの突出物が設置されており,前面接触によると突出物が破損したりするので,そのような不具合を回避するため,被洗車輌前面と洗車ブラシは常に一定間隔を保つようにした。そのため,被洗車輌前面をセンサー検知により一定位置に停車させた上で,洗車ブラシを一定時間のタイマーによる操作で制御することにより,常に被洗車輌前面と一定間隔を保つ位置に停止させる方法としたのである。したがって,イ号物件におけるタイマーを「接触検出器」と認めることはできず,イ号物件は構成要件Cを充足しない。 イ ロ号及びハ号物件について ロ号及びハ号物件の光電センサー10a,10bとタイマーT1,T 2も同様に,ブラシが被洗車輌前後面に接触するのを検知するものではなく,光電センサーとタイマーの両者の作用により所定時間経過することによって門型フレームを停止させるものである。したがって,ロ号及びハ号物件には「接触検出器」は存在せず,ロ号及びハ号物件は構成要件Cを充足しない。 2 争点2(被告製品が構成要件Dを充足するか)について (1) 原告の主張 ア イ号物件においては,タイマーT1が,被洗車輌の右側の突出物31に当接しない幅方向内側の位置で右側の洗車ブラシ5の移動を,タイマーT2が,被洗車輌の左側の突出物31'に当接しない幅方向内側の位置で左側の洗車ブラシ5'の移動を,いずれも停止させている。 被告は,イ第5図のニ,ホ'点はタイマーによって規定されているので,「幅方向限界位置検出器」は存在しないと主張する。しかし,「位置検出器」は,リミットスイッチ等のように一定の位置に設置されたスイッチに限る必要はなく,洗車ブラシが一定位置に達してから所定時間経過後に到達する位置を検出することによっても可能である。したがって,イ号物件の電流メーターリレーとタイマーはいずれも「幅方向限界位置検出器」に該当し,本件特許発明の構成要件Dを充足している。 イ ロ号及びハ号物件の構成eによれば,レール2の右側に設けられたリミットスイッチ8は,右側洗車ブラシ5が被洗車輌の右の突出物31に当接しない幅方向内側の位置(作動説明図のハ点,本件特許発明の「幅方向限界位置」)に来たときに,右側ブラシ移行用台車3の一部と接触してスイッチが入るので,リミットスイッチ8が「幅方向限界位置検出器」に相当するから,本件特許発明の構成Dを有している。また,ロ号及びハ号物件の構成fによれば,リミットスイッチ8とタイマーT3とによって右側洗車ブラシ5が被洗車輌の左の突出物31'に当接しない幅方向内側の位置(作動説明図のニ点,本件特許発明の「幅方向限界位置」)を検出しているので,リミットスイッチ8'とタイマーT3が「幅方向限界位置検出器」に相当するから,この点からも本件特許発明の構成Dを有している。 (2) 被告の主張 ア イ号物件のリミットスイッチ8には,左側ブラシ移行用台車3'の一部が接触してスイッチがオンとなり,右側洗車ブラシの幅方向限界位置を規定する作用はなく,リミットスイッチ8'も同じく,左側洗車ブラシの幅方向限界位置を規定する作用はない。これらリミットスイッチは,中央側停止位置ロ,ロ'を規定するにすぎず,前面洗滌における洗車ブラシの往復運動はタイマーによるものである。本件明細書の記載(本件公報5欄30行〜31行,6欄24行〜27行)からすると,本件特許発明における「幅方向限界位置検出器」とは,ブラシが中間の位置まで来るとそこに設置されたスイッチが作動し,その位置信号により制御する技術思想に基づくものであり,タイマーによる時間的経過に基づく制御の技術思想とは全く異なる。したがって,イ号物件には,「幅方向限界位置検出器」は存在せず,構成要件Dを充足しない。 イ イ号物件同様に,ロ号及びハ号物件につき,リミットスイッチとタイマーが,「幅方向限界位置検出器」に当たるとする点は否認する。ロ号及びハ号物件は,構成要件Dを充足しない。 3 争点3(被告製品が構成要件Fを充足するか)について (1) 原告の主張 ア イ号物件の構成gによれば,門型フレームの下部に設置された近接スイッチ9a,9bは門型フレームの前後の走行限界位置に来たときに,これを検知するものであり,この走行限界位置にある洗車ブラシは被洗車輌の突出物に当接しない位置にあるので,この位置が本件特許発明の「長手方向退避位置」に当たる。したがって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件Fを充足する。 イ ロ号及びハ号物件の構成gによれば,門型フレームの下部に設置された近接スイッチ9a,9bは門型フレームの前後の走行限界位置に来たときに,これを検知するものであり,この走行限界位置にある洗車ブラシは被洗車輌の突出物に当接しない位置にあるので,この位置が本件発明の「長手方向退避位置」に当たる。したがって,ロ号及びハ号物件は,本件特許発明の構成要件Fを充足する。 (2) 被告の主張 イ号物件の近接スイッチ9a,9bは門型フレームの走行限界位置を規定するが,被洗車輌の突出物への当接の有無とは無関係である。このことは,本件明細書(本件公報5欄24行〜29行,6欄24行〜32行)で,リミットスイッチと「長手方向退避位置検出器」は区別されていることからも明らかである。したがって,イ号物件は,機械構造上の走行限界を規定するスイッチとは別に,「前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向先端側の退避位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向退避位置検出器」を有しておらず,構成要件Fを充足しない。ロ号及びハ号物件も同様である。 4 争点4(イ号物件が構成要件Gを充足するか)について (1) 原告の主張 イ号物件の構成hによれば,門型フレームの下部に設置された近接スイッチ9cは洗車ブラシが被洗車輌の左の突出物31'に当接しない被洗車輌後側の位置(長手方向中央側の位置,作動説明図のへ'点)に来たときに,これを検知するものであるから,近接スイッチ9cが本件特許発明の「長手方向限界位置検出器」に当たる。したがって,イ号物件は本件特許発明の構成要件Gを充足する。 (2) 被告の主張 イ号物件において,洗車ブラシが被洗車輌の左の突出物31'に当接しない位置に来たときに門型フレームが停止するのは,タイマーの作用によるものであり,位置検出することによるものでないから,「長手方向限界位置検出器」は存しない。よって,イ号物件は,構成要件Gを充足しない。 5 争点5(イ号物件が構成要件Hを充足するか)について (1) 原告の主張 イ号物件の構成iによれば,洗車ブラシ5,5'によって被洗車輌の前面と側面を洗滌させ,前記リレーやスイッチからの信号により門型フレーム1と洗車ブラシ5,5'を走行させて,洗車ブラシが突出物に当接しないように被洗車輌を洗滌させる制御装置40を有しており,前記リレーが接触検出器に,前記スイッチが各位置検出器に当たるから,本件特許発明の構成要件Hを充足する。 (2) 被告の主張 イ号物件のリレーは「接触検出器」に当たらないし,その他「幅方向限界位置検出器」もないから,イ号物件は,構成要件Hを充足しない。 6 争点6(本件特許権に無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか)について (1) 被告の主張 本件特許発明は,下記アの公知公用の技術と同一又はこれから当業者が容易に発明できたものであり,また,下記イないしエの刊行物記載の発明から当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条1項2号又は2項に違反したものとして無効となるべきことが明らかなものである。したがって,そのような特許権に基づく権利行使として本訴請求をすることは,権利の濫用として許されない。 ア 東友サービス洗車機 訴外株式会社東友サービスが,昭和58年8月に徳島県小松島市の小松島市運転部整備工場に納入した「ノースペース式自動洗車機」(以下「東友サービス洗車機」という。)は,本件特許発明とほとんど同じである。異なっている点は,構成要件Aの「幅方向に跨ぎ」が,東友サービス洗車機では,「幅方向に実質的に跨ぎ」である点,構成要件A等の「門型フレーム」が,東友サービス洗車機では「逆L字型フレーム」である点,構成要件Hが「前面洗滌から側面洗滌への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行」であるのが,東友サービス洗車機では「前面洗滌から側面洗滌への移行」である点にすぎない。上記の相違点は,実質的には同一のもの又は微差にすぎない。よって,本件特許発明は,出願時である昭和58年9月9日以前に公然と実施されていたことが明らかである。そうでなくとも,本件特許発明は,この東友サービス洗車機に基づいて,容易に発明をすることができたものである。 イ 昭和57年4月10日付け「洗車給油所新聞」 上記新聞には,「デュアル-X」という名称の洗車機(以下「デュアル-X」という。)が発売された旨及びこの洗車機の構成が記載されている。 ウ 実公昭50-24052号公報 エ 特公昭57-12705号公報 (2) 原告の主張 被告の主張する公知公用の技術ないし公刊物記載の発明は,いずれも本件特許発明とは,次のような相違点を有するものであるから,これらにより,本件特許発明が公知技術と同一であったり,出願前の公知技術から容易に想到し得たものとはいえない。 ア 東友サービス洗車機について 被告の公然実施の主張は,被告代表者が平成11年10月29日に東友サービス洗車機をVTR撮影し,このVTRを基に作成された動作図を根拠とし,この動作が昭和58年8月の設置時から上記撮影時まで同一であることを前提としている。 しかしながら,同洗車機の制御盤のフレーム部分には,「昭和58年8月23日完成」,その横に「昭和61年8月23日総点検」,さらにその横に「インバータ取付」との記載がある。「インバーター」は,「電圧と周波数を変化させて,巻上げ,巻下げ,横行などの速度を調節する電源装置」であり,洗車機の場合には洗車ブラシやフレームの走行速度を調節する装置であるので,総点検をして「インバータ」を取り付けたということは,それまでの洗車の仕方を変更して不具合を直したということである。したがって,同洗車機は,設置時の作動と昭和61年8月以降の作動とが異なっているのであり,本件特許権の出願前に設置されているとしても,本件特許発明を公然実施したものとはいえない。 また,東友サービス洗車機においては,大ブラシが前面洗滌の後,左側の突出物を回避して側面洗滌に移行しなければならないという課題に対し,大ブラシの作動は横方向外側に移行するだけで,本件特許発明の特徴である,洗車機(フレーム)が被告洗車輌から離れるという動作を行っていないという点でも全く思想的に異なっており,この洗車機から本件特許発明が容易に想到できるとはいえない。 イ 昭和57年4月10日付け「洗車給油所新聞」について (ア) 上記「洗車給油所新聞」に掲載された洗車機「デュアル-X」のカタログによれば,同洗車機はトップブラシ1本とサイドブラシ2本を備えたものであって,車輌前面をトップブラシにより洗滌するものである。すなわち同洗車機において,サイドブラシが被洗車輌前面に近接しているのは被洗車輌位置を検知して,側面洗滌の初期位置を設定するためであり,被洗車輌前面を洗滌するためのものではない。これに対し,本件特許発明は,1つのブラシ(サイドブラシ)でミラーなどの突出物を避けて前面と後面とを洗滌するものである。したがって,デュアル-Xと本件特許発明とは,その技術思想が全く異なっている。 (イ) 「長手方向退避位置検出器」「幅方向退避位置検出器」「長手方向限界位置検出器」について 上記新聞には,「4. ブラシ機構」の欄に「サイドブラシ逆転し,開くと同時に,ALS検知まで本体後進」(ここでは,本判決の他の部分と反対の意味で『前進』『後進』が用いられている。以下,上記新聞の記載につき同じ。),「サイドブラシALS検知で後進停止。再前進により,ミラーを逃げてサイドブラシが閉じる。」と記載されている。しかし,後進について,上記箇所には,「サイドブラシ逆転し,開くと同時に,ALS検知まで本体後進,サイドブラシALS検知で後進停止」と記載されているのみであり,ALS検知によってミラーを避けているかどうかについては全く記載がない。したがって,上記新聞においては,構成要件Fの「長手方向退避位置検出手段」は存在しない。 次に,再前進について,上記「サイドブラシALS検知で後進停止。 再前進により,ミラーを逃げてサイドブラシが閉じる。」の部分には,「再前進により,ミラーを逃げてサイドブラシが閉じる。」と記載されているのみで,どのようにしてサイドブラシがミラーを避けているかは全く明らかとなっていない。しかも,上記新聞の説明図の一番左側の図では,サイドブラシはそのまま再前進すればミラーと当接する位置にある。したがって,上記新聞の記載から,構成要件Eの「幅方向退避位置検出手段」構成要件Gの「長手方向限界位置検出手段」の存在を認定することはできない。 また,デュアル-Xのカタログによれば,その操作盤には,「手動操作ボタン」6個があり,4番目の操作ボタンには「サイド開ON」の文字が記載されている。これから分かるように,デュアル-Xは,手動でサイドブラシが開くようになっているもので,本件特許発明のように,あらかじめ定められた位置に位置検出器を設けておいて,手動操作によることなく自動的に突出物を回避して前面洗滌及び側面洗滌を行うものとは全く異なるのである。 (ウ) 「制御装置」について 上記新聞には,マイコンにより18の洗車コースが設定可能であるとしか記載されておらず,同新聞記載のマイクロコンピューターが構成要件Hの制御装置に該当することにはならない。 ウ 被告の主張ウ,エの実用新案公報及び特許公報について 上記イの文献はもちろん,上記ウ,エの公知文献にも,本件特許発明の構成要件D,E,F,G及びHについては,記載も示唆もされておらず,作用効果も明らかに異なっているので,これらの公知文献から,本件特許発明が容易に想到し得るものではない。 エ 本件特許出願前の技術水準について 本件特許出願前の技術水準から本件特許発明が容易に想到できたとするのは,当時の社会的要請や技術水準についての判断を誤っている。すなわち,昭和56年ころからワンマンバスが増加したことにより,左側ミラーの張り出しが大きくなり,従来の洗車機のブラシではこれを回避できなかった。従来の技術では,甲21ないし32の文献等に記載されているように,小型車用のものであったり,側面洗滌しかできなかったり,3本目のブラシで前後面を洗滌したりしており,この大きく張り出した大型車の左側のミラーを回避するようにしたものはなかったのである。この課題を解決するには,本件特許発明のように,洗車機のフレームが前後進することによって,突出物を回避するしかなく,そのようなものは本件特許発明まで存在しなかった。したがって,本件特許出願前の公知文献や公然実施されていた技術によって,本件特許発明を容易に発明できたとするのは誤りである。 7 争点7(被告の先使用による通常実施権の成否)について (1) 被告の主張 ア 被告は,本件特許が出願された昭和58年9月9日以前に善意で本件特許発明の実施である事業をしていた者であるから,特許法79条により,通常実施権を有する。 イ すなわち,被告は,昭和58年4月に,訴外立石自動車株式会社に,自動洗車機「ポートワッシャーWHG400FR(2)」(以下「WHG洗車機」という。)1台を納入した。この洗車機は,その取扱説明書・仕様書によれば,以下のような構成を有する。 @ 「この洗車機は,レール上を走行し,車両の前面・後面及び側面の全周を往復洗車する門型走行式洗車機で」 A 「3 前面往行洗車-洗車機前進・車輌キャチで停止・ブラシ左行」 B 「4 右ブラシリターン-左行停止・逆回転」 C 「5 前面復行洗車-復行洗車・右ブラシ右え格納」 D 「6 側面準備-洗車機前進・両ブラシ回転」 E 「16 洗車終了-両ブラシ回転停止・両側に格納・洗車機定位置に停止」 ウ 上記@は,本件特許発明の構成要件A・Bに該当する。 上記Aは,同構成要件Cに該当する。 上記Bは,同構成要件Dに該当する。 上記Cは,同構成要件Eに該当する。 上記Dは,同構成要件Gに該当する。 上記Eは,同構成要件Fに該当する。 上記洗車機が,構成要件H及びIに該当することは明らかである。 したがって,上記洗車機は,本件特許発明の構成要件をすべて充足するので,被告が,本件特許の出願以前に本件特許発明の実施である事業をしていたことは明らかである。 (2) 原告の主張 ア WHG洗車機においては,以下に述べるように,洗車ブラシが突出物を回避して前面及び側面を自動洗滌するという本件特許発明の基本的思想が採用されていないし,本件特許発明の構成要件D,F,Hを備えていない。したがって,同洗車機を製造販売することは,本件特許発明の実施に当たらない。 イ 同洗車機は,その取扱説明書・仕様書によれば,サイドミラーの突出量が多い場合には,ブラシがミラーに当接してしまってミラーが破損するおそれがあるので,ブラシの作動が停止する旨記載されている。したがって,同洗車機においては,前面洗滌の際の洗車ブラシの左行停止位置は突出物にブラシが当接してしまう位置であり,洗車ブラシが突出物に当接しない位置である「幅方向限界位置」ではない。よって,同洗車機に,「幅方向限界位置検出器」は存せず,同洗車機は構成要件Dを備えていない。 ウ 同洗車機は,その取扱説明書・仕様書によれば,ブラシは右側突出物に当接する位置で被洗車輌前面に接触しており,「長手方向限界位置」を検出していない。よって,同洗車機は,構成要件Gを備えていない。 エ 本件特許発明において,「長手方向退避位置検出器」等の位置検出器を設けたのは,その位置を検出した後に突出物を回避して洗滌を行うためであるから,本件特許発明における「長手方向退避位置検出器」といえるためには,該位置検出器によって検出された位置に基づいてその後に洗滌を行うものでなければならない。これに対し,WHG洗車機における洗車ブラシの定位置は,左右に開いた作動の終了位置であって,ブラシがその定位置を検出した後に左右方向に走行して洗滌を行うことはない。したがって,同洗車機は,構成要件Fを備えていない。 また,その取扱説明書・仕様書の「ブラシ運動の説明」の5の図には,前面洗滌をする右側洗車ブラシが右側突出物を全く回避せずに格納位置まで移行することが示されており,この点に照らせば,同洗車機においては,長手方向先端側に突出物を回避して洗滌を行うという技術思想そのものが採用されていないことが明らかである。 オ 本件特許発明の構成要件Hに該当するというためには,「制御装置」が,前面洗滌から側面洗滌への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行に際して,各検出器からの信号により,洗車ブラシと突出物を当接させないように,フレームとブラシの位置を制御するものでなければならない。しかし,上記イのように,WHG洗車機は,サイドミラーの突出量が多い場合には,ブラシがミラーに当接してしまうのであるから,構成要件Hを備えていないことが明らかである。 以上によれば,WHG洗車機を製造販売することは,本件特許発明の実施に当たらない。 8 争点8(原告の損害)について (1) 原告の主張 被告が,平成3年以降被告製品を販売したことによって,原告は,特許法102条2項により次のとおり損害を被った。 @ イ号物件は,販売台数10台,単価500万円で利益率10%であるから,損害額合計は500万円である。 A ロ号物件は,販売台数50台,単価500万円で利益率10%であるから,損害額合計は2500万円である。 B ハ号物件は,販売台数20台,単価600万円で利益率10%であるから,損害額合計は1200万円である。 よって,原告は,被告に対し,イ号ないしハ号物件の製造販売の差止め並びに上記損害額合計4200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うことを求める。 (2) 被告の主張 原告の主張する損害額は,否認する。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(被告製品が構成要件Cを充足するか)について (1) 「接触検出器」の意義 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,本件特許発明の実施例について,次の記載がある。 「ブラシ3が車輌前面に当たって傾動するとリミットスイッチ40が作動し,制御装置50からフレーム1の走行停止指令が出され,停止する。」(本件公報6欄17行〜19行)。 この記載からすると,構成要件Cにいう「接触検出器」は,ブラシが車輌に接触したことを直接検出するものを指すと解されないでもない。しかしながら,構成要件Cには,「該洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器」とあるのみで,特許請求の範囲ほか本件明細書には接触していることを直接検出することに限定する記載は格別存在しない。したがって,間接的であっても,接触した状態を何らかの方法で検出するものは,これに含まれると解すべきである。 (2) 被告製品の検討 前記第2,2(被告製品の構成及び作動についての当事者の主張)(1)アcないしeによれば,イ号物件においては,電流メーターリレーとタイマーを用いている(この点は当事者間に争いがない。)。被告の主張によれば,洗車ブラシと被洗車輌の前面とは常に一定の距離があり,洗車ブラシが被洗車輌の前面に接触することにより電流メーターリレーがフレームを停止させているのではないという。しかしながら,上記のように,「接触検出器」は,間接的であっても,接触した状態を何らかの方法で検出するものであれば足りるというべきであり,タイマーを用いているものもこれに含まれると解される。また,被告主張のように,洗車ブラシと被洗車輌の前面との間に多少の距離があるとしても,ブラシが被洗車輌の前面を洗滌できないほどの距離とは考えられないから,このことは上記認定の妨げとならない。 ロ号及びハ号物件は,被告の主張によれば,光電センサーとタイマーの両者の作用により,所定時間経過することにより門型フレームを停止させるものである。ロ号及びハ号物件も,タイマーを用いることでは,イ号物件と同様であるから,上記と同様に解することができる。 そうすると,被告製品の構成に関する被告の主張を前提としても,被告製品はいずれも構成要件Cを充足する。 2 争点2(被告製品が構成要件Dを充足するか)について (1) 「位置検出器」の意義 本件特許発明において,構成要件DないしGにそれぞれ「位置検出器」が掲げられている。これら「位置検出器」は,いずれも,到来位置を検出するものであり,同等の機能を有するものと解される。本件明細書では,実施例として,「長手方向退避位置検出器」(構成要件F)にはタイマーを用い,他の「位置検出器」には,リミットスイッチを用いたものが例示されている。この明細書の記載からすると,これら「位置検出器」は,タイマーを用いたものでも,リミットスイッチを用いたものでも,同等の機能を有するものはこれに含まれると解される。 (2) 被告製品の検討 被告の主張によれば,イ号物件においては,被洗車輌の前面洗滌の往復移動にはタイマーを用いている。上記のように,タイマーも所定位置を検出するためのものであって,そのために時間設定されているものであるから,「幅方向限界位置検出器」に当たるということができる。 ロ号及びハ号物件においては,右側をリミットスイッチ8が,左側をタイマーT3が所定位置を検出している。リミットスイッチはもちろん,タイマーについても,イ号物件と同様であるから,上記と同様に解しうる。 よって,被告製品の構成に関する被告の主張を前提としても,被告製品はいずれも構成要件Dを充足する。 3 争点3(被告製品が構成要件Fを充足するか)について (1) 「長手方向先端側の退避位置」について 本件公報の「発明の詳細な説明」欄には,本件特許発明の実施例について,次の記載がある。 「ブラシ3が中間位置までくるとリミットスイッチ21,21が作動し,制御装置50から‥‥フレーム1の後退指令が出力される。このフレーム1の後退は制御装置50内で所定時間計数し,その間後退を続ける。この時間はミラーYの前方張り出し長さに対応した時間とする。この時間計数により長手方向先端側の退避位置に門型フレームが到来したことを検出することができる。」(本件公報6欄24行〜32行)。この「長手方向先端側の退避位置」は,上記記載からも,ミラーなどの突出物にブラシが当接して破損することのないように設定されているものであるから,当接することのない,ある程度離れた距離であれば十分と解される。 (2) 被告製品の検討 前記第2,2(被告製品の構成及び作動についての当事者の主張)(1)アg及びウg(いずれも当事者間に争いがない。)によれば,イ号物件においては,近接スイッチにより,フレームが突出物からある程度離れた位置になるように設定させ,ブラシが突出物に当接しない移動位置をとるようにしているから,「長手方向先端側の退避位置」に来たことの検出器を備えているということができる。 被告は,「長手方向退避位置検出器」は,突出物との関係で予め定められた位置であることを要するとし,イ号物件の近接スイッチは門型フレームの走行限界位置(フレームがこれ以上後退できない位置)を規定するのみで,被洗車輌の突出物への当接の有無とは無関係だから,「長手方向先端側の退避位置」に当たらないと主張する。 なるほどたしかに,被告が主張するように,本件明細書の実施例の記載(本件公報5欄24行〜29行,6欄24行〜32行)においては,先端側の限界位置と別に「長手方向先端側の退避位置」が存在している。しかしこれはあくまで実施例であって,実施例のものが先端側の限界位置とは別に「長手方向先端側の退避位置」を設けたのは,実施例としてよりよい態様の発明を開示したものということができる。そこで,この実施例との対応で考えれば,先端側の限界位置に対応するものは,イ号物件では,「走行限界位置」である。ところで,特許請求の範囲には,先端側の限界位置については記載されておらず,「長手方向先端側の退避位置」のみが要件とされているのであり,イ号物件においては,突出物を回避するための位置として,「走行限界位置」を利用している(被洗車輌を所定の位置に停止させれば,この2つを兼ねることが可能である。)と考えられる。 したがって,イ号物件は,「長手方向先端側の退避位置」に来たことの検出器を備えているということができる。ロ号及びハ号物件も同様である。 よって,被告製品は,いずれも構成要件Fを充足する。 4 争点4(イ号物件が構成要件Gを充足するか)について 前記第2,2(被告製品の構成及び作動についての当事者の主張)(1)アh(当事者間に争いがない。)によれば,イ号物件は,右側ブラシが近接スイッチ9cにより,左側ブラシがタイマーT3により位置規制されている。上記のように,タイマーによるものも位置検出器に当たると解されるから,イ号物件は,構成要件Gを充足する。 5 争点5(イ号物件が構成要件Hを充足するか)について 上記認定事実及びイ号物件の作動図(イ第5図。この点は当事者間に争いがない。)によれば,イ号物件においては,本件特許発明とブラシの移動経路は異なるものの,前面洗滌から側面洗滌への移行に際して,上記各検出器からの信号を検知して,門型フレーム及びブラシを,被洗車輌の前面から側面に移行させて被洗車輌の洗滌を行わせているから,構成要件Hにいう「制御装置」を備えているということができる。よって,イ号物件は構成要件Hを充足する。 以上によれば,被告製品は,いずれも本件特許発明の技術的範囲に属するというべきである。 6 争点6(本件特許権に無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか)について 特許に無効事由が存在することが明らかであるときは,その特許権に基づく差止め,損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。そこで,本件特許に無効事由が存在するかどうかを検討する。 (1) 東友サービス洗車機について ア 証拠(甲4,甲17,乙2,乙6。書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 訴外株式会社東友サービスは,昭和58年8月に徳島県小松島市の小松島市運転部整備工場に自動洗車機を納入した。同自動洗車機の制御盤のフレームには,「昭和58年8月23日完成」,その横に「昭和61年8月23日総点検」,さらにその横に「インバータ取付」と記載されている。この洗車機は,次のような構成を有する。 @ フレームに垂下され,該フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシを備えており,これは構成要件Bを充足する。 A 同洗車機の取扱説明書(甲17の1)の「◎ 洗車の装置と動きの方法と説明」には,起動後,「大ブラシ回転しながら左へ移動して車輌の前面右側で移動が止まり,小ブラシ左端へ到着と同時に本機走行,車輌前面ウインドに大ブラシがタッチすると本機は停止,大ブラシで前面洗い」「車輌後部ブラシ通過すると本機は停止,後部洗いに入る。‥‥本機はターンして大ブラシ車輌タッチまで走行」とあり,洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器を備えていることが認められる。したがって,構成要件Cを充足する。 B 上記説明書の同じ箇所には,車輌の前面洗い後,大ブラシが,「車輌の右端コーナーで回転一時停止,右定位置へ格納と同時に小ブラシ回転開始‥‥本機走行」とあり,洗車ブラシがミラーなどの突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器を備えていることが認められる。したがって,構成要件Eを充足する。 C 同洗車機の取扱説明書(甲17の1)には,「本機はコンピューター内蔵した新型機です。」とあり,同洗車機が,全面洗滌を選択した場合,前面,側面,後面と,フレームとブラシを移動させて,ミラーなどの突出物を避けながら被洗車輌の全面を洗うようにコンピューターにより制御していることが認められる。 したがって,構成要件Hを充足する。 D 同洗車機が構成要件Iを充足することは明らかである。 イ これに対し,東友サービス洗車機には,構成要件Dにいう「幅方向限界位置検出器」に当たるもの,構成要件Fにいう「長手方向退避位置検出器」に当たるもの,及び構成要件Gにいう「長手方向限界位置検出器」に当たるものの存在が明らかでない。また,構成要件Aでは「門型フレーム」であるのに対し,東友サービス洗車機では,逆L字型フレームとなっているものと認められる。 しかしながら,まず,フレームの形状については,自動洗車機において,門型フレームと逆L字型フレームとは,いずれも周知技術であると認められ(乙10等),後者から前者に想到するのは容易というべきであるから,この差はほとんど問題となるものではない。 ウ 次に,東友サービス洗車機においては,構成要件D,F及びGに規定される各検出器の存在は,必ずしも明らかでない。 (ア) まず構成要件D及びFに関しては,同洗車機は,主に大型自動車をその洗車の対象としていると考えられるところ,この種自動車においては,取扱説明書(甲17の1)の3枚目の図面にあるように,車輌の左側にミラーなどの突出物が大きく外側に張り出している。上記取扱説明書によれば,同洗車機は,車輌の前面は大ブラシの往復洗滌で洗い,車輌の左側は小ブラシで洗うようになっており,小ブラシは,車輌の左端の位置に移動して,フレームが3秒間走行して,ミラーなどの突出物に当接しない位置に達してから,側面洗いのため,車輌の側面に接近するようになっていると認められる。そして,大ブラシは,車輌の前面を洗滌した後,右側の定位置に格納されて(右側のミラーなどの突出物は,突出の度合いが小さいので,格別にこれを避ける動作は必要がない。),上記のようにフレームが走行するようになっていると認められるから,このような構成においては,構成要件D及びFの構成は必要がない。 (イ) 構成要件Gに関しては,大小のブラシとフレームが同時に移動し,斜め方向に車輌側面に接近することによって,側面洗滌に移ることが可能と考えられるから,特にこの検出器を設ける必要がない。 エ このように,東友サービス洗車機と本件特許発明との間には,何点かの差異が認められるものの,その差異は大きなものではない。 @ すなわち,東友サービス洗車機においても,「大ブラシで全面洗い」を行うには少なくとも左側突出物の手前で位置検出を行う必要があることから,右側突出物についても,それが車輌前面に突出していれば,その手前で位置検出を行う必要が当然生じる。そうすると,そのような突出物を有する車輌の洗滌に対応するように,東友サービス洗車機に構成要件Dの構成を付加することは容易である。 A また,東友サービス洗車機においても,被告製品にいうところの「走行限界位置」を検出しているはずであるから,上記のような突出物を有する車輌の洗滌に対応させることを考えれば,この「走行限界位置」を,「長手方向先端側の退避位置」として,構成要件Fのような構成にすることは容易に推考できる。 B さらに,東友サービス洗車機において,構成要件Gのような構成が必ずしも必要ないとしたのは,フレームとブラシとを同時速度制御して,斜めにブラシを移動させて車輌側面に接近させるようにすることもできるからである。しかし,ブラシの移動経路を制御する場合,同時速度制御をして,斜め移動を行うより,フレームとブラシとを個々に移動させることの方が,簡単で確実な移動経路であることは明らかである。そうすると,この場合,フレーム移動からブラシ移動に切り替えるための位置として,「長手方向限界位置」を設定し,これを検出して移動制御すること,すなわち構成要件Gのような構成にすることが容易に推考される。 したがって,当業者が,同洗車機に基づいて,本件特許発明に想到することは容易であるといわなければならない。 オ ところで,東友サービス洗車機の現在の構成が設置当時(昭和58年8月23日ころ)のままのものかという点には争いがあるが,前記取扱説明書(甲17の1)については設置当時のものと認められ(この点は,原告も格別これを争っていない。),上記の同洗車機の構成の認定は,この取扱説明書に基づくものであるから,本件特許権の出願時である昭和58年9月9日以前に,このような構成の洗車機が存在したことは証拠により優に認定できる事実といわなければならない。 したがって,本件特許発明は,その出願前に実施されていた技術に基づいて容易に発明することができたもので,特許法29条2項により特許を受けることができないものであるというべきである。 (2) 昭和57年4月10日付け「洗車給油所新聞」について ア 同新聞に開示された洗車機の構成について 証拠(乙4,乙16)及び弁論の全趣旨によれば,昭和57年4月10日付け「洗車給油所新聞」には,「デュアル-X」という名称の洗車機が発売された旨及びこの洗車機は次のような構成を有する旨が記載されている。 @ 被洗車輌を幅方向に跨ぎ,該車輌の長手方向に沿って走行可能な門型フレームを有しており,これは構成要件Aを充足する。 A この門型フレームに垂下され,該門型フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシを有しており,これは構成要件Bを充足する。 B 同新聞の左側にある「4. ブラシ機構」の説明図の右から3番目の図(洗車開始後3番目の動作を表す。)には,「サイドブラシ車体検知」とあり,被洗車輌の前方にある2本のブラシが被洗車輌の前面を検知するようになっており,これは構成要件Cを充足する。 C B記載の箇所の一番左側の図(洗車開始後5番目の動作を表す。)の説明には,「サイドブラシALS検知で後進停止」とあり,サイドブラシがALS検知で後進(被洗車輌の後方に向かって進行することを指している。)が停止することを指しており,これにより該洗車ブラシの開きが停止する点は,洗車ブラシが限界位置まで達したことを表すので,「予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器」を備えている。これは構成要件Eを充足する。 D C記載の図の説明には,前記Cに掲げた記載の後,「再前進により,ミラーを逃げてサイドブラシが閉じる。」とあり,各位置検出器からの信号により,サイドブラシがミラーなどの突出物を避けて閉じることを指しており,これは構成要件Hを充足する。 E 同洗車機が構成要件Iを充足することは明らかである。 イ もっとも,上記新聞には,構成要件D,F及びGに当たる構成の存在は明らかでない。 しかしながら,同新聞記載の洗車機はマイコン制御とあるので,構成要件D,F及びGに当たる構成が存在しなくとも,一定のプログラムに従って,ブラシが被洗車輌の前面に当接した後,ミラーなどの突出物を避けるように被洗車輌の前方に退避して,幅方向端側の退避位置まで退避し,そこからブラシとフレームが同時に移動し,斜め方向に車輌側面に接近することによって,側面洗滌に移ることが可能と考えられるから,特にこれら構成要件に規定された検出器を設ける必要がない。 ウ また,同新聞記載の洗車機は,被洗車輌の前後面は,水平方向に設置されたトップブラシで洗滌するようになっているが,この点は,本件特許発明と異なる点である。 この点につき,実公昭50-24052号公報(乙10)は,サイドブラシにより被洗車輌の前後面も洗滌するようにした洗車機を開示したものであり,特公昭57-12705号公報(乙11)は,感知手段としてリミットスイッチを使用したワックスがけ機を開示したものであるが,同様に,サイドブラシにより被洗車輌の前後面も洗滌(ワックスがけ)するようになっている。これら公知文献により,サイドブラシにより被洗車輌の前後面も洗滌することは,本件特許の出願前に公知の技術であったと認められるから,上記の同新聞記載の洗車機がトップブラシを用いる点は,大きな差異ということはできない。 エ このように,同新聞記載の洗車機と本件特許発明との間には,何点かの差異が認められるものの,その差異は大きなものではない。この点,前記東友サービス洗車機について検討したのと同様である。このことと,本件特許発明が,それを実現する手段について具体的に開示するものでなく,格別に創意工夫されたものでないこととを併せ考えると,当業者が,同新聞記載の洗車機に基づいて,本件特許発明に想到することは容易であるといわなければならない。そうすると,本件特許発明は,その出願前に頒布された刊行物に記載された技術に基づいて容易に発明することができたもので,特許法29条2項により特許を受けることができないものというべきである。 7 結論 上記判示のとおり,本件特許は,特許法29条2項により特許を受けることができないものについてなされたものであり,無効であることが明らかというべきである。そうすると,本件特許権に基づく請求は,権利の濫用に当たり許されないというべきであるから,その余の点について検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
物件目録1「GD-FR3400」,「GD-FR3800」という名称の洗車機その構成の概要は,第2,2(1)アのとおり(ただし,争いのある部分がある。)2「GD-FR3400」,「GD-FR3800」という名称の洗車機上記1と型番は同じであるが,その構成の概要は,第2,2(1)ウのとおり(ただし,争いのある部分がある。)3「GD-FRT3800」という名称の洗車機(別紙)イ図ロ図ハ図 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 村越啓悦 |
裁判官 | 青木孝之 |