審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ワ3857損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ19162特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ10524特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ2208特許権侵害差止等請求事件 平成21ワ12412特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 方法の発明 / 製造方法 / 物を生産する方法 / 共同研究 / 実質的同一 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 化学構造 / 発明の概要 / 共有 / 実施料相当額 / 抵触 / 薬事法 / 後発医薬品 / 製造承認 / 参酌 / 実質的同一性 / 不存在 / 信義則 / 実施 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 既判力 / 請求の範囲 / 変更 / 期間の延長 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
10931号
損害賠償等請求事件
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原告 日本臓器製薬株式会社 訴訟代理人弁護士 新堂幸司 同 品川澄雄 同 吉利靖雄 同 飯塚卓也 同 野口祐子 同 小野寺 良文 補佐人弁理士 村山 佐武郎 被告 株式会社フジモト・ダイアグノスティックス 被告 藤本製薬株式会社 被告ら訴訟代理人弁護士 山本忠雄 同 安部朋美山本忠雄訴訟復代理人弁護士 中橋紅美 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/09/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスは、原告に対し、金5万0129円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスに対するその余の請求及び被告藤本製薬株式会社に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告に生じた費用及び被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスに生じた費用の各50分の1を被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスの負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスに生じたその余の費用並びに被告藤本製薬株式会社に生じた費用を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して金17億6311万9960円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスは、原告に対し、金11億9230万円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 本件は、後記特許権(本件特許権)を有する原告が、医薬品を製造している被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックス(以下「被告フジモトD」という。)と被告フジモトDから医薬品の譲渡を受けてこれを販売している被告藤本製薬株式会社(以下「被告藤本製薬」という。)に対し、被告フジモトDが同医薬品の品質規格の検定のために行ってきた確認試験の方法は本件特許権に係る発明を実施するものであり、本件特許権(ただし、出願公告後登録までは仮保護の権利)を侵害したとして、平成8年11月1日から平成11年3月31日までの被告藤本製薬による販売分につき、共同不法行為に基づく損害賠償として連帯して17億6311万9960円を支払うよう求めるとともに、被告フジモトDに対し、平成4年3月11日(出願公告日)から平成8年10月31日までの被告藤本製薬による販売分につき、不当利得の返還として実施料相当額11億9230万円の支払を求めた事案である。 2 基礎となる事実 (1) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明を「本件発明」又は「本件特許方法」という。)を有している(争いがない)。 特許番号 第1725747号 発明の名称 生理活性物質測定法 出願年月日 昭和62年9月8日(特願昭62-225959) 出願公告年月日 平成4年3月11日(特公平4-14000) 登録年月日 平成5年1月19日 特許請求の範囲 別紙特許公報該当欄記載のとおり (2) 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。 A 動物血漿、血液凝固第]U因子活性化剤、電解質、被検物質、から成る溶液を混合反応させ、 B 次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第]U因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、 C 生成したカリクレインを定量すること D を特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。 (3) 本件発明の概要は、明細書の記載(特許請求の範囲及び発明の詳細な説明)によれば、次のようなものである(甲第2号証)。 ア カリクレインは、種々の動物の血漿中及び組織内に広汎に存在する蛋白質酵素であって、カリクレイン・キニン系を構成することで知られており、カリクレイン・キニン系は、種々の酵素系に密接な関連を有し、様々な生体抑制機能にかかわっている。 血漿中に存在する血液凝固第]U因子(ハーゲマン因子、F]U)は、 カオリン等の血液凝固第]U因子活性化剤が添加されると、活性化して活性型血液凝固第]U因子(F]Ua)に変化し、この血液凝固第]U因子(F]Ua)は、 同じく血漿中に存在するプレカリクレインに作用して、これをカリクレインに変換し、さらに、このカリクレインは血漿中の高分子キニノーゲンに作用して、ブラジキニンを遊離させ、この遊離されたブラジキニンが炎症、痛み及びアラキドン酸カスケードに対する作用を引き起こす。 イ 本件発明における反応は、2段階の反応で構成されており、第1次反応は、血漿にカオリン等の血液凝固第]U因子活性化剤を添加することによって、血液凝固第]U因子(FXU)を活性型血液凝固第]U因子(FXUa)とすることにより、該血漿中のプレカリクレインをカリクレインに変化せしめてカリクレインを生成させる反応であり、第2次反応は、このようにして血漿中に生成したカリクレインの量を定量する反応である。 すなわち、動物血漿、血液凝固第]U因子活性化剤、電解質及び被検物質から成る溶液を混合反応させてカリクレイン生成反応を開始せしめた後、該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に、言い換えれば、単位時間当たりのカリクレイン生成量が一定の割合で進行している時間内に、活性型血液凝固第]U因子(FXUa)の活性のみを特異的に阻害してカリクレインの生成を停止する作用を有し、かつ、生成したカリクレインの活性には実質的に無影響である阻害剤(例えばLBTI〔リマ豆由来のトリプシンインヒビター〕)を添加し(第1次反応)、次いで、第1次反応液を、カリクレインに対する特異的基質及び緩衝液から成る第2次反応液と混合反応させる(第2次反応)という、2段階の反応により構成されている。 ウ 上記第1次反応及び第2次反応は、酵素反応であるから、これらの酵素反応における酵素量は酵素そのものを物質量として測定するものではなく、単位時間当たりに当該酵素によって生成される反応生成物の量の大きさ、すなわち、酵素活性として測定される。 このように、本件発明における被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定は、第1次反応で生成したカリクレイン活性の大きさを、第2次反応においてカリクレインとその特異的基質の反応によって生成する反応生成物(例えばp-ニトロアニリン)の量を定量することによって行われる。 (4) 被告フジモトDは、別紙物件目録1記載の抽出液(商品名「FN原液『フジモト』」。以下「被告抽出液」という。)及びこれを有効成分とする別紙物件目録2記載の製剤(商品名「ローズモルゲン注」。以下「被告製剤」といい、被告抽出液と被告製剤をまとめて「被告医薬品」という。)を製造し、被告製剤を被告藤本製薬に譲渡し、被告藤本製薬は、被告フジモトDから被告製剤を譲り受けてこれを販売してきた。そして、被告フジモトDは、薬事法に基づき、被告抽出液の各ロットを製造する都度、また、被告抽出液を有効成分とする被告製剤の各ロットを製造する都度、品質規格の検定のためにカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を行っていた(争いがない)。 (5) 原告が本訴において不法行為による損害賠償及び不当利得返還を求めている対象期間である平成4年3月11日から平成11年3月31日までの間(以下「本件請求期間」ということがある。)に被告フジモトDが被告医薬品の製造の際に用いていた測定方法がどのようなものであったかについては争いがある。原告は、別紙被告方法目録1記載の測定方法(以下「イ-1方法」という。)であったと主張し、被告らは、イ-1方法とは異なる別紙被告方法目録2記載の測定方法(以下「イ-2方法」という。)であったと主張する。 (6)ア イ-1方法を分説すると、次のとおりである。 1-@ ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液又は同抽出液を有効成分とする製剤を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第]U因子活性化剤を加えて反応させた後、 1-A リマ豆トリプシンインヒビター(LBTI)等の活性型血液凝固第]U因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ(以上、第1次反応)、 1-B 生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する(第2次反応) 1-C 前記被検物質のカリクレイン産生阻害能測定法。 イ イ-2方法を分説すると、次のとおりである。 2-@ 本品を減圧乾固させてエタノールで抽出し、乾固させ、塩化ナトリウム溶液を加えて溶かし試料溶液とする。 この試料溶液に生理食塩液で希釈したヒト正常血漿溶液を加えた後、緩衝液で調製したカオリン懸濁液を加えて混和し、氷水中に20分間静置する(以上、第1次反応)。 2-A 直ちに、この反応液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、20分間反応させた後、反応を停止させて遠心分離を行い、その上澄液の吸光度を測定して試料吸光度(AT )を求める(以上、第2次反応)。 2-B 一方、試料溶液の代わりに塩化ナトリウム溶液、カオリン懸濁液の代わりに緩衝液を用いて、前記の場合と同様に操作して、吸光度を測定して試料ブランク吸光度(ATB )を求める。 2-C 別に、カリジノゲナーゼ(別名、カリクレイン)標準品に緩衝液を加えて溶かし標準溶液とする。この標準溶液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、以下前記の第2次反応と同様に操作して、吸光度を測定して標準吸光度(AS )を求める。 2-D 一方、標準溶液の代わりに緩衝液を用いて、標準溶液の場合と同様に操作して、吸光度を測定して標準ブランク吸光度(ASB )を求める。 2-E 前記各々の吸光度につき、試料吸光度(AT )から試料ブランク吸光度(ATB )を引いた値と、標準吸光度(A S )から標準ブランク吸光度(ASB )を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値より小さいときは、本品は規格に適合とする。 2-F カリクレイン様物質産生阻害能測定法である。 (7) イ-1方法は、本件発明の構成要件をすべて充足し、本件発明の技術的範囲に属する(弁論の全趣旨)。 一方、イ-2方法と本件発明とを対比すると、イ-2方法は、構成2-Aにおいて、第1次反応後、直ちに、反応液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、20分間反応させた後、反応を停止させて遠心分離を行い、その上澄液の吸光度を測定して試料吸光度(AT )を求めるという操作(第2次反応)を行うものであり、構成要件Bの「該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第]U因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え」という操作、すなわち本件発明の阻害剤を加えることをしていない点で、構成要件Bを充足しない。したがって、イ-2方法は本件発明の技術的範囲に属さない(弁論の全趣旨)。 (8) 医薬品の品質規格の検定のための確認試験については、次のとおり定められている。 医薬品製造業者は、厚生大臣(本件発明に係る方法の実施の有無が問題となっているのは、薬事法本則(第44条を除く。)中の「厚生大臣」を「厚生労働大臣」と読み替える旨の改正を内容とする平成11年法律第160号の施行日である平成13年1月6日より前についてであるから、以下「厚生大臣」と記載する。)に対し医薬品の製造承認を申請する際には、薬事法14条1項、薬事法施行規則17条に基づき、様式第十(一)による医薬品製造承認申請書に申請に係る医薬品の「規格及び試験方法」を記載することが義務付けられており、厚生大臣から製造承認が与えられるときは、医薬品製造承認書の一部として医薬品製造承認申請書が添付される。この医薬品製造承認申請書の「規格及び試験方法」欄の記載方法については、「医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」(昭和55年5月30日薬審第718号・都道府県衛生主幹部〔局〕長あて・厚生省薬務局審査課長、同生物製剤課長通知)により、「確認試験」の項目が設定されなければならないものとされている(なお、「医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」は、平成7年6月30日薬審第682号により一部改正された。)。(甲第64号証、弁論の全趣旨) (9) 被告医薬品は、原告が製造販売する先発医薬品の後発医薬品であるところ、先発医薬品及び被告医薬品の製造承認等の経過は、次のとおりである。 ア 先発医薬品の製造承認等 原告は、昭和28年9月5日、別紙物件目録1記載の抽出液及びそれを有効成分とする別紙物件目録2記載の製剤(注射剤)につき、厚生大臣から製造承認を受け、昭和51年9月1日、健康保険法に基づく薬価基準の収載を受け、同年11月1日から、別紙物件目録1記載の抽出液の製造及び別紙物件目録2記載の製剤(注射剤。商品名「ノイロトロピン特号3cc」)の製造販売を開始した(以下、原告が製造する別紙物件目録1記載の抽出液を「原告抽出液」といい、原告が製造販売する別紙物件目録2記載の製剤(注射剤)を「原告製剤」といい、原告抽出液と原告製剤をまとめて「原告医薬品」という。)。(弁論の全趣旨) 原告は、昭和62年11月20日、厚生大臣に対し、原告医薬品の規格試験中にカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験を追加する旨の製造承認事項一部変更申請を行い、平成4年5月11日、製造承認事項一部変更承認を受けた。原告が一部変更承認を受けたカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験は、本件発明に係る方法であった。(弁論の全趣旨) なお、原告は、昭和56年6月29日、別紙物件目録1記載の抽出液を有効成分とする錠剤(ノイロトロピン錠)について製造承認申請を行い、昭和62年10月2日、製造承認を受けた。(弁論の全趣旨) イ 被告医薬品の製造承認等 被告フジモトDは、昭和62年1月10日、厚生大臣に対し、原告抽出液の後発医薬品として、被告抽出液の製造承認申請を行い、同年11月13日、同様に厚生大臣に対し、原告製剤の後発医薬品として、被告製剤の製造承認申請を行った。被告フジモトDは、平成元年4月4日、厚生省から、被告医薬品の各製造承認申請に、カリクレイン様物質産生阻害活性確認試験を追加するよう指導され、これを各製造承認申請へ追加した。被告フジモトDは、平成4年2月21日、厚生大臣から被告医薬品について各製造承認を受けた(以下、これらの製造承認を「原承認」という。)。この各製造承認についての医薬品製造承認書(甲第3、第4号証。以下、まとめて「原承認書」という。)の「規格及び試験方法」の欄に記載されていた試験方法は別紙被告方法目録3記載のとおりであった(以下、この方法を「イ-3方法」という。)。 イ-3方法方法は、試料吸光度(AT )、試料ブランク吸光度(ATB )、標準吸光度(AS )及び標準ブランク吸光度(ASB )を測定し、(A T -ATB )が(A S -A SB )より小さければ規格に適合とすることではイ-2方法と共通するが、イ-2方法と異なり、第1次反応後、反応液に阻害剤であるLBTIを加えて反応を停止させており、実質的にはイ-1方法と同じであり、本件発明の技術的範囲に属するものであった(弁論の全趣旨)。 被告製剤については、平成4年7月10日、健康保険法に基づく薬価基準への収載が官報に告示され、被告らは、同年10月1日、被告製剤の販売を開始した(実際の出荷は同月8日からであった。)。(甲第3、第4号証、乙第28号証、第29号証の1、第43号証、弁論の全趣旨) 被告フジモトDは、平成4年12月22日、厚生大臣に対し、被告医薬品のカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験をイ-2方法に変更する旨の各製造承認事項一部変更申請(以下、まとめて「一変申請」といい、一変申請のために提出された各医薬品製造承認事項一部変更承認書をまとめて「一変申請書」という。)を行い、平成11年4月13日、厚生大臣から各製造承認事項一部変更承認(以下、まとめて「一変承認」という。)を受けた。この各製造承認事項一部変更承認についての各医薬品製造承認事項一部変更承認書(乙第1、第2号証。以下、 まとめて「一変承認書」という。)添付の一変申請書の「規格及び試験方法」の欄には、イ-2方法と同じ内容の方法が記載されていた。(乙第1、第2号証、弁論の全趣旨) (10) 原告と被告フジモトDの間では、本件特許権の侵害の有無をめぐって、 これまで訴訟等が行われてきた。その経過は、次のとおりである。 ア 原告は、平成4年8月20日、本件特許権の侵害を理由として、被告フジモトDに対し、@被告抽出液の製造の差止め、被告製剤の製造販売の差止め及びこれらの宣伝広告の差止め、A被告医薬品の廃棄、B被告製剤について健康保険法に基づき収載された薬価基準申請の取下げ、C被告医薬品について薬事法に基づき取得した製造承認の申請の取下げ及びその製造承認によって得ている地位の第三者への承継、譲渡の禁止を求めて、大阪地方裁判所に訴え(以下「前訴」ということがある。)を提起した(大阪地方裁判所平成4年(ワ)第7157号)。原告は、被告フジモトDが、被告医薬品の確認試験にイ-1方法(ただし、前訴では、「被検物質」を「別紙物件目録1記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液」とだけしていたが、実質的な内容はイ-1方法と同一である。)を用いていると主張し、被告フジモトDは、これを争い、活性型血液凝固第]U因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤を用いないイ-2方法を用いていると主張した。同裁判所は、平成7年6月29日、(一)本件発明に係る方法は、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液及びこれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として現在までに知られている唯一の方法であるとはいえない、(二)LBTIのような阻害剤を用いなくとも実用に耐え得る生成カリクレイン定量の方法が存在する可能性があるから、LBTIのような阻害剤を用いない被告主張の方法が生成カリクレインを定量するための測定法とはなり得ないとまで断定することはできない、(三)原告が原告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法はLBTIを阻害剤として用いるものであると認められるものの、被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法については、証拠上不明という外はない、(四)被告が被告医薬品の製造承認申請書の「規格及び試験方法」の欄に記載したカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法と、被告が現実に業として被告医薬品について実施しているカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法とは、必ずしも同じ方法であることを要しないものと認められる、(五)被告が被告医薬品の品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法としてイ-1方法を実施しているとの事実は、全証拠によるも認められない、と判断し、請求棄却の判決を言い渡した(以下「前訴第一審判決」という。)。(甲第23号証、弁論の全趣旨) イ 原告は、大阪高等裁判所に控訴し(大阪高等裁判所平成7年(ネ)第1743号)、同裁判所は、平成8年12月20日、口頭弁論を終結し、平成9年11月18日、被告(被控訴人)フジモトDは、被告医薬品を製造するに際し、品質規格の検定のために、イ-1方法を使用していると認定し、(一)イ-1方法は、本件発明の技術的範囲に属する、(二)本件発明は、概念的には方法の発明であるが、イ-1方法が被告医薬品の製造工程に組み込まれ他の製造作業と不即不離の関係で用いられていることからすれば、実質的に物を生産する方法の発明と同視することができ、本件特許権は、本件発明を用いて製造された物の販売についても侵害としてその停止を求め得る効力を有すると判断した。その上で、原判決を変更し、原告(控訴人)の請求@のうち、イ-1方法を用いた被告抽出液の製造の差止め、イ-1方法を用いた被告製剤の製造販売及び宣伝広告の差止め、A被告医薬品の廃棄、B被告製剤について健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げを求める限度で原告(控訴人)の請求を認容し、その余の請求を棄却する判決(以下「前訴控訴審判決」という。)を言い渡した。(甲第5号証、弁論の全趣旨) ウ 被告(被控訴人)フジモトDは、前訴控訴審判決を不服として最高裁判所に上告した(平成10年(オ)第604号)。最高裁判所は、平成11年7月16日、被告フジモトDがイ-1方法を使用しているとの原審の認定判断は正当として是認できるとしたが、本件発明は方法の発明であって物を生産する方法の発明ではないから、被告フジモトDが被告医薬品の製造工程において、イ-1方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を本件特許権を侵害する行為に当たるということはできないなどとして、原判決中被告(上告人)フジモトD敗訴部分を破棄し、その部分につき原告(被上告人)の控訴を棄却する旨の判決(以下「前訴上告審判決」という。)を言い渡した。 (甲第6号証、弁論の全趣旨) エ 原告は、前記本案訴訟と同時に、平成4年8月20日、被告フジモトDに対し、被告抽出液の製造、被告製剤の製造販売の差止め等を求めて、大阪地方裁判所に仮処分を申し立てた(大阪地方裁判所平成4年(ヨ)第2897号)。同裁判所は、平成7年6月29日、却下の決定をした。原告(債権者)は、大阪高等裁判所に即時抗告し(大阪高等裁判所平成7年(ラ)第438号)、同裁判所は、平成9年11月18日、原決定を変更し、1億5000万円の担保を立てることを条件に、 イ-1方法を用いた被告抽出液の製造の差止め、イ-1方法を用いた被告製剤の製造販売及び宣伝広告の差止め、被告製剤について健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げ、被告医薬品の執行官保管を命ずる仮処分決定(以下「前訴控訴審仮処分決定」という。)をした。被告(債務者)フジモトDは、平成9年11月21日、保全異議を申し立て(平成9年(ウ)第1327号)、同裁判所は、平成10年2月6日、同裁判所が平成9年11月18日にした仮処分決定を認可する旨の保全異議決定をした。債務者(被告フジモトD)は、平成9年11月21日、特別の事情による保全取消しを申し立てたが(平成9年(ウ)第1328号)、 同裁判所は、平成10年2月6日、棄却決定をした。(甲第308号証、第418号証、乙第405号証、弁論の全趣旨) 3 争点 (1) 本訴において、被告らが、被告フジモトDによる被告医薬品の製造に当たり、品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験方法としてイ-1方法を用いておらず、本件特許権を侵害していないと主張することは、前訴の蒸し返しであって、信義則に反し許されないか。 (2) 被告フジモトDは、本件請求期間において、被告医薬品の製造に当たり、 品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験方法としてのイ-1方法を実施したか((1)の信義則の主張が認められない場合の立証の有無)。 ア 被告医薬品の原承認書に記載がある確認試験方法が本件特許方法であることにより、一変承認前は本件特許方法を使用していたことが立証されたといえるか。 イ イ-2方法は、確認試験方法としてイ-1方法と同等又はそれ以上か。 ウ Aは、被告フジモトDから平成4年7月ごろ相談を受ける前、LBTIの問題点を認識していたか。 エ 被告フジモトDにおいて、平成4年8月1日に製品標準書及び標準作業手順書が作成され、同年9月19日からイ-2方法が実施されたことが認められるか。 オ 一変承認の合理性の有無 カ イ-2方法の実施を裏付ける証拠の信用性 (3) 損害額又は不当利得額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(前訴判決の信義則上の拘束力)について (1) 原告の主張 ア 前記第2の2(10)のとおり、前訴においては、被告フジモトDが確認試験に本件発明に係る方法を使用しているかどうかが争点となり、前訴控訴審判決は被告フジモトDによる本件特許権侵害の事実を認定し、原告の請求を一部認容する判決をした。被告フジモトDは、前訴控訴審判決を不服として上告し、上告理由第一点ないし第四点において、原判決の事実認定には「理由不備、採証法則違反、経験則違反の違法があ」ると主張したが、最高裁判所は、上告人(被告フジモトD)の主張を退け、原審による本件特許権侵害の事実認定を是認した。前訴上告審判決は、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、同部分につき被上告人の控訴を棄却しているが、これは、前訴第一審判決の事実認定を支持したものではなく、被告フジモトDの本件特許権侵害を認めた前訴控訴審判決の認定事実を確定した事実として是認し、単に法令適用に関してのみ、判断を異にしたものにすぎない。このことは、次の点から明らかである。すなわち、前訴上告審判決は、@上告理由第一点ないし第四点において上告人(本訴被告)フジモトDが事実認定における理由不備、採証法則違反、経験則違反を主張したのに対して、「所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ」ると判示し、A上告理由「第五点及び第六点について」一4及び三3において、「原審の適法に確定した事実関係」によれば、「上告人は、上告人医薬品を製造するに際し、 品質規格の検定のために、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験として、原判決別紙目録(三)記載の方法(本件方法)を使用している」ところ、「本件方法は本件発明の技術的範囲に属するのであるから、上告人が上告人医薬品の製造工程において本件方法を使用することは、本件特許権を侵害する行為に当たる」と判示し、B「上告理由第五点及び第六点について」四において、「被上告人の本件請求はすべて理由がないとした第一審判決は、結論において正当である」と判示し、第一審の結論(主文)のみを支持している趣旨を明示しているのである。また、前訴上告審判決は、破棄自判したものであるから、民事訴訟法326条1号の規定に照らしても、前訴控訴審判決の事実認定を前提としていることは明らかである。 被告らは、緊急に最高裁の判断を得る必要のある特殊事情があったと主張するが、前訴控訴審判決の事実認定が誤っていることにより被告フジモトDを救済する必要があったのであれば、前訴上告審判決は、上告理由を認めて大阪高裁に差し戻したはずであり、前訴上告審判決が破棄自判したことから、被告らの主張する特殊事情に基づいて被告フジモトDを救済したものでないことは明らかである。 イ 本訴において、被告フジモトDが、被告医薬品の製造に当たり、確認試験方法としてイ-1方法を用いておらず、本件特許権を侵害していないと主張することは、前訴の蒸し返しであって、信義則に反し許されない。 (ア) 最高裁判例の中には、後訴において前訴の判決理由中の判断と異なる主張をすることを信義則に基づいて制限したものとして、次のような判例がある。 @ 最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁(第一判例) A 最高裁昭和49年(オ)第163、164号同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事120号299頁(第二判例) B 最高裁平成9年(オ)第849号同10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁(第三判例) 第一判例ないし第三判例を初めとする諸判例の判示するところによれば、次の要件を満たす場合には、前訴において争われた争点(したがって、前訴の事実審の口頭弁論終結時以前の事実に関する争点)について、前訴の判決理由中の判断に反する主張を後訴においてすることは、信義則により、許されない。 @ 当該争点が、前訴において主要な争点となり、両当事者により主張立証が尽くされ、これにつき前訴判決理由中において裁判所により判断されていること A 後訴の請求又は後訴における主張が、前訴における@記載の争点についての前訴確定判決中の判断を再び争うものであり、その争点について紛争の蒸し返しになること B このような蒸し返しにより、前訴の確定判決によって紛争が決着したと考える相手方当事者の合理的期待に反し、再び同じ争点について相手方に主張立証活動を強いることとなること (イ) 本件訴訟の争点は、前訴における争点と同様、被告フジモトDによる本件発明に係る方法の実施の有無、ひいては本件特許権の侵害の有無であり、被告フジモトDによる非侵害の主張は、前記要件を次のとおり満たしている。 @ 本件発明に係る方法の実施の有無は、前訴における主要な争点として争われ、原告及び被告フジモトDの双方から主張立証が尽くされ、判決理由中において、裁判所により実質的に(自白などに基づくことなく)判断されている。 A 本件訴訟において、被告フジモトDが、本件発明に係る方法の実施の有無について、前訴の判決理由中の判断に反する主張を繰り返すことは、前訴における争点の蒸し返しにすぎない。 B このような被告フジモトDの蒸し返しは、前訴の確定判決によって、少なくとも前訴控訴審の口頭弁論終結時以前の部分について被告フジモトDが本件特許権を侵害しているという判断が確定し、被告フジモトDによる本件特許権侵害をめぐる紛争が決着したと考える原告の合理的期待に反し、再び同じ問題について原告に主張立証活動を強いることとなり、原告を不当に長く不安定な状態に置くことになる。 (ウ) 本件において、被告フジモトDが、本件特許権を侵害していないと主張することは、信義則に照らし許されないから、被告フジモトDによる本件特許権の侵害は、証拠調べを行うことなく認められなければならない。なお、前訴控訴審判決言渡し後に厚生省が被告フジモトDに対し一変申請を承認した事実は、前訴事実審の口頭弁論終結後(基準時後)に生じた新たな事実ではなく、基準時後に作成された新たな証拠にすぎないから、前訴判決の信義則上の拘束力に何らの影響も与えるものではない。また、原告が本件特許権に基づく差止請求と損害賠償請求を同一訴訟手続において行わなかったことは、非難されるべきことではない。 ウ 被告藤本製薬についても、本訴において被告フジモトDの本件特許権侵害の事実を争うことは、やはり信義則上許されない。 (ア) すなわち、第一判例が、前訴の当事者ではなかった一部の上告人にも前訴の判決理由中の判断について信義則による拘束力を及ぼしていることからすると、次の要件を満たす場合には、前訴の当事者ではなかった第三者に対しても、 信義則による拘束力を及ぼし得る。 @ 前訴と後訴の間に紛争の実質的同一性があること A 当該第三者が、前訴における主要な争点についての判断又は判決の結果につき重大な利害関係を有する者であって、前訴において当該紛争が争われている事実を知る立場にあり、このような紛争について自ら争うことが可能であったにもかかわらず、自ら争わないことにより、当該紛争をめぐる自己の利益につき、 紛争当事者の解決に委ねる趣旨であると解されてもやむを得ないこと B 後訴において当該争点の審理を行うことが、相手方に生じた紛争の決着に対する合理的期待に反し、相手方を不当に長く不安定な地位に置く結果となること (イ) 被告藤本製薬と被告フジモトDは、藤本医薬販売株式会社とともに藤本製薬グループとして実質的に一つの企業体を形成しており、資本面での関連、 代表取締役の兼務、製造と販売での関連、本店及び製造工場の近接、技術的成果の共有、営業活動での関連、信用供与面での関連があり、一体性がある。前訴と本件訴訟の争点の共通性に加え、このような被告藤本製薬と被告フジモトDの一体性を考えると、被告藤本製薬は、前記(ア)の@ないしBの要件を充足している。したがって、被告藤本製薬は、前訴の当事者ではないが、被告フジモトDと同様に信義則による拘束を受け、被告フジモトDが本件発明に係る方法を実施していた事実を争うことは許されず、被告フジモトDが本件特許権を侵害していた事実は、被告藤本製薬との関係においても、証拠調べを経ることなく認められなければならない。 (2) 被告らの主張 ア 大阪高裁は、平成9年11月18日、前訴控訴審判決及び前訴控訴審仮処分決定をし、厚生省は、これらの判決及び決定の判断を尊重し、平成10年4月1日、被告製剤を健康保険法に基づく薬価基準収載品目から削除して経過措置品目に移行し、経過措置期限は平成11年3月31日とされた。被告フジモトDが厚生省と交渉した結果、同年3月10日、経過措置期間は同年6月30日まで延長されることになったが、再延長は不可能となっていた。このような状況の下において、 被告フジモトDは、緊急に最高裁の判断を得る必要のある特殊事情があったものであり、このような特殊事情から、前訴上告審判決は、前訴第一審判決を支持したものと解される。 前訴上告審判決は、その判示の内容から、被告フジモトDがイ-2方法を実施していたか否かの実体的判断は避け、法律解釈のみで前訴控訴審判決を破棄することを判断したものとみるべきである。 イ 原告が挙げる第一判例ないし第三判例は、いずれも本件とは事案を異にし、原告が前記(1)イにおいて主張する要件は、必ずしもこれらの判例から導き出されるものであるとはいえない。本件訴訟において、被告フジモトDは、既判力の間隙を利用して同一の自己の目的を達成するまで訴訟物を変えて何度でも訴訟制度を利用しようとするものではなく、原告が訴訟を二回に分けて提起してきたのに対し、特許権侵害の事実を争っているだけであり、原告を不当に長く不安定な状態に置いているわけではない。したがって、被告フジモトDが本件特許権の非侵害を主張することは、信義則に反することはない。 ウ 第一判例の事案で信義則による拘束力が及ぶとされた第三者は、原告側の者であるのに対し、本件において、被告藤本製薬は、前訴において被告とされなかった者であり、このような第三者にまで信義則による拘束力を及ぼすのは不当である。 2 争点(2)ア(被告医薬品の原承認書の記載に基づく一変承認前の確認試験方法の立証の有無)について (1) 原告の主張 被告医薬品の原承認書には、イ-3方法が記載されていたところ、これはイ-1方法と実質的に同じであり、本件発明の技術的範囲に属するものである。薬事法56条2号は、製造承認を受けた医薬品であって、その成分又は分量(成分が不明のものにあっては、その本質又は製造方法)がその承認の内容と異なるものを販売の目的で製造してはならない旨規定しており、同法56条に規定する医薬品は、廃棄命令等の行政処分の対象とされており(同法70条1項)、同法56条違反は刑事罰の対象とされている(同法84条13号)。製薬企業が薬事法を遵守することは当然であるから、被告フジモトDが原承認を受けて被告抽出液を製造し被告製剤を製造販売していたという事実のみで、被告フジモトDが原承認書に記載されたイ-1方法により確認試験を実施していたこと、つまりは被告らが本件発明に係る方法を実施していたことの立証は十分である。被告らが、原承認の存在にもかかわらず、原承認に係るイ-1方法を一度も実施することなく、イ-2方法を被告医薬品の製造当初より実施していたと主張するならば、イ-2方法を実施していたことは、被告らが立証しなければならないが、その立証は尽くされていない。 (2) 被告らの主張 被告らは、一変承認前、被告医薬品の製造当初から、確認試験にイ-2方法を使用してきた。そのことは、後記3ないし7の各被告らの主張のとおり主張立証されている。 3 争点(2)イ(イ-2方法の確認試験方法としての同等性)について (1) 原告の主張 イ-2方法は、次のとおり、被告医薬品の確認試験方法として機能せず、 原承認に係る確認試験方法と同等又はそれ以上とはいえない。したがって、一変承認を受けずにイ-2方法を実施することはあり得ない。 ア 量的精度における同等性 後発医薬品の規格及び試験方法に含まれる確認試験については、先発医薬品の確認試験と同一性を有することが要求される。カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験は、原告抽出液については、被検物質の存在又は不存在下におけるp-ニトロアリニンの吸光度差が0.1以上という基準の下に定量的に測定する方法であるから、後発医薬品である被告医薬品の確認試験も、定量試験であることを要するが、イ-2方法は定性試験であるから、先発医薬品の確認試験と同一性を有せず、確認試験として機能しない。 イ エタノール抽出処理によるカリクレイン様物質産生阻害活性の失活 イ-2方法は、被検物質にエタノール抽出処理を行っているが、エタノール抽出処理により、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液のカリクレイン様物質産生阻害活性は失活し、測定することができないから、イ-2方法は、 被告医薬品の確認試験方法としておよそ機能し得ない(甲第30ないし第32号証、第170号証、第174、第175号証)。 ウ カリクレイン産生反応の不停止 イ-2方法では、カリクレインを産生させる第1次反応を活性型血液凝固第]U因子に対する特異的阻害剤(LBTI等)で停止しないとされている。しかし、これでは、測定点における産生カリクレインと合成基質とを反応させて産生カリクレインの量を測定する第2次反応中においてもカリクレインを産生する第1次反応が継続して進行するため、測定点におけるカリクレイン産生量を特定することができず、これを正確に定量することができないから、イ-2方法は、精度が劣り、本件特許方法に該当する原承認に係る確認試験方法と同等又はそれ以上ということはできない(甲第36号証、第183号証、第193号証、第195号証、第198ないし第200号証、第206号証、第210号証、第214号証、第229号証)。 エ 被検物質非存在下の測定群の設定の有無 別紙被告方法目録2のイ-2方法の記載、並びにその実施の根拠とされる、実施の結果を記載した書面(乙第155号証)及び実施の現場を見た専門家の報告書(乙第4ないし第6号証。乙第156ないし第158号証は、乙第4ないし第6号証と同じである。)には、被検物質非添加群(通常「コントロール」とよばれる。)の測定が記載されていない。被検物質非存在下の測定群が設定されていないと、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性の測定はできない(甲第183号証、第198号証、第206号証、第210号証、第215号証、第224ないし第226号証)。 被告らは、試料溶液の代わりに0.25M塩化ナトリウム溶液を用いて試料溶液の測定方法と同様に操作した場合の吸光度が0.4となるように血漿の希釈倍率を決定する測定が、被検物質非添加群の測定に当たると主張する。しかし、 イ-2方法において、規格への適否の判定には、被検物質非添加群の吸光度は何らの役割を果たしていないから、血漿の希釈倍率を決定している測定は、被検物質非添加群の測定に当たるとはいえない。 (2) 被告らの主張 イ-2方法は、次のとおり、確認試験方法として、原承認に係るイ-3方法と同等又はそれ以上である。したがって、一変承認を受けずにイ-2方法を実施することができる。 ア 量的精度における同等性 イ-2方法及びイ-3方法は、確認試験の方法であり、当該医薬品が目的物であるか否かを確認するためのものであって、定量法ではないから、定量法におけるのと同じ意味での測定の精度は必要ない。被告フジモトDは、被告医薬品につき、確認試験とは別に、定量法としては、SARTストレスマウス鎮痛活性測定法を実施している。 イ エタノール抽出処理によるカリクレイン様物質産生阻害活性の失活 被告製剤には、患者の体液と浸透圧を同じくするために多くの塩化ナトリウムが含まれているが、塩化ナトリウムは、反応系におけるカリクレインの生成の障害となるから、塩化ナトリウムを可能な限り除去するため、前処理が行われる。イ-2方法の前処理は、塩化ナトリウムがエタノールに極めて溶けにくい性質であることを利用して行われるものであり、被告フジモトDは、エタノール抽出処理を前処理とすることにより、カリクレイン様物質産生阻害活性を確認することができている。その過程は検乙第1、第2号証によっても明らかにされている。 ウ カリクレイン産生反応の不停止 イ-2方法は、第1次反応の後、直ちに第2次反応を行うものであり、 しかも、第2次反応中にカリクレインが産生されるとしても、その量はわずかであるから、第1次反応の後にカリクレイン産生反応を停止しなくても、イ-2方法により、カリクレイン様物質産生阻害活性を測定することができる(乙第21ないし第23号証)。 エ 被検物質非存在下の測定群の設定の有無 イ-2方法を実施するに当たっては、一変承認書添付の一変申請書に記載されたとおり、試料溶液の代わりに0.25M塩化ナトリウム溶液を用いて試料溶液の測定方法と同様に操作した場合の吸光度が0.4となるように血漿の希釈倍率を決定しており、これが、被検物質非添加群の測定に当たる(乙第160号証、 第171、第172号証)。また、被検物質非添加群を用いることは当業者にとって日常的常識の範疇に属することであり、本件特許出願に係る明細書にも被検物質非添加群の測定は記載されていないから、仮にこれが標準作業手順書等に記載されていないとしても、その測定が行われなかったとはいえない。なお、被告フジモトDは、平成10年1月28日、標準作業手順書の改訂を行うに当たり、被検物質非添加群の測定のための実験手順等の記載を新たに追加した。 4 争点(2)ウ(AによるLBTIの問題点の認識)について (1) 被告らの主張 被告藤本製薬医薬情報部部長Aは、昭和55年当時、被告フジモトDの職員と大阪大学医学部第4内科の研究生を兼務し、血中のカリクレイン産生反応の活性化について、各種阻害剤を用いて、活性化条件と活性化された酵素の性質を検討しており、活性化後に阻害剤を加えて反応させた際、阻害剤としてLBTIを加えると、理論とは逆に活性が増加する場合があることを認識し、これはLBTIのロットによるばらつきに起因する現象であると考えた。Aは、昭和55年10月20日、27日及び30日に行った実験により、LBTIの阻害剤としての働きに問題があることを認識したが、その結果等は実験記録(乙第44号証)に記録された。 そのころ、Aは、大阪大学医学部第4内科の研究室で血中カリクレイン測定法を確立し、「血中カリクレインの簡易測定法」という論文(雑誌「臨床科学」第10巻第2号所収、乙第119号証)を発表したが、LBTIに問題があることを認識していたので、その論文では、EWTI等のデータを採用し(乙第119号証145頁Table3、147頁左欄14行ないし21行)、血中カリクレインの活性化について、カオリン懸濁希釈活性化法により、0℃で反応時間20分間とすることが、多検体測定を行う場合に便利であること(同146頁右欄14行ないし21行)を記述した。 被告フジモトDは、昭和62年に厚生大臣に対して被告医薬品の製造承認申請を行ったが、平成元年に厚生省から確認試験の項目にカリクレイン様物質産生阻害活性を設定するよう指導されたため、「血漿カリクレイン様物質産生阻害能を評価するin vitro測定法」(原告生物活性科学研究所B他、基礎と臨床第20巻第17号所収)という論文や、Aが確立した血中カリクレイン測定法とその活性化条件等を参考にして、平成元年5月29日から同年6月23日にかけての約1か月間に、被告医薬品のカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を設定するための実験を行い、イ-1方法を設定し、平成元年7月5日、イ-3方法を記載して厚生省へ回答書(乙第45号証)を提出した。イ-3方法を設定する際の実験等で使用したLBTIによっては特に問題を生じず、前記回答書に記載されたとおりの確認試験方法により、被告医薬品は、平成4年2月21日、各製造承認を受けた。平成元年7月に厚生省に回答書を提出してから、平成4年2月21日に製造承認を受けた後に被告製剤の発売準備を行うまでの約4年間、被告フジモトDは、イ-3方法を実施することがなかったため、この期間に、LBTIにロットによるばらつきがあることは十分に認識していなかった。 被告フジモトDは、平成4年2月21日の製造承認取得後、被告製剤の製造準備を開始し、その準備が完了した同年7月ごろ、他の規格試験とともにイ-1方法を実施したところ、原因不明の試料ブランクの吸光度の高まりやコントロールのばらつきなどにより、イ-3方法を実施することができなかった。そこで、被告フジモトDは、カリクレインの研究者であるAに相談した。Aは、昭和55年にLBTIについてよく似たばらつき現象を経験していたことから、被告フジモトDに対し、LBTIが原因である可能性が高いことを伝え、イ-1方法に代替する方法としてイ-2方法を提案した。被告フジモトDは、LBTIを添加した場合の吸光度の異常上昇等を確認し、LBTIに問題があることを認識した。被告フジモトDは、乙第32号証の「ローズモルゲン注の規格及び試験方法」と題する書面部分(以下「乙第32号証付属書面」という。)に記載された実験により、イ-2方法がイ-3方法と同程度に有効であることを確認し、平成4年8月1日までの間にイ-2方法を開発した。被告フジモトDは、平成4年12月22日、LBTIがカリクレイン産生反応を停止しない場合があることを変更理由として一変申請を行った。 (2) 原告の主張 被告らは、Aが、昭和55年に、LBTIによりカリクレイン産生反応が活性化するという異常反応を確認しており、被告フジモトDが、平成4年7月ごろにLBTIについてばらつき等の問題を認識してから同年8月1日までの間に、Aの助言によりイ-2方法を開発した旨主張する。しかしこれらの主張は、次のとおりその裏付けとされる証拠の信用性に欠ける。 ア Aが昭和55年にLBTIにつき異常反応を確認したことの裏付けとされる乙第44号証は、次のとおり信用性に欠ける。 乙第44号証の80頁ないし81頁の第2回実験は、(ア)日付けの年の記載が訂正されており、それに関して合理的な説明がされていないこと、(イ)第2回の実験は第1回の実験と蛍光基質の量の点で実験条件が異なること、(ウ)乙第63号証(Aの陳述書)に添付された乙第44号証のノートの78頁、79頁の部分に記載された実験ではLBTIについて追試が行われていないことから、実際には行われなかったものである。 乙第44号証の82頁ないし83頁に記載された第3回の実験結果は、 (ア)筆跡が第1回、第2回の実験と異なること、(イ)乙第44号証の77頁ないし80頁には、豆を表す「bean」という単語のつづりを誤って「been」と記載していたのに対し、82頁では正しく記載していることから、改ざんされたものであり、信用性がない。 乙第44号証は、(ア)LBTIに関する記載のみが鉛筆によって記載されていること、(イ)筆跡の違う箇所があること、(ウ)もともとは100頁のノートであるが現在は84頁しかなく、Aは頁の減少の理由を合理的に説明していないこと、(エ)Aは、頁の通し番号をいつ振ったか覚えていないと供述していること、 (オ)一度貼った紙をはがした形跡があること、(カ)加筆訂正の跡が認められること(甲第71号証)から、改ざんされたものであり、信用性がない。 イ Aは、その証言において、イ-2方法の第2次反応において増加するカリクレインの量は誤差の範囲に納まる旨、そのような知見は、「血中カリクレインの簡易測定法」という論文(雑誌「臨床科学」第10巻第2号所収、乙第119号証)から得られた旨供述するが、イ-2方法の第2次反応において増加するカリクレインの量は誤差の範囲にとどまるものではないし、上記論文にはそのような知見を導くことを可能とする記載はない。 ウ Aが昭和55年に確認し、平成4年7月ごろ被告フジモトDから相談されたとされるLBTIの問題は、カリクレイン産生反応を活性化するということであったのに、一変申請の段階で、カリクレイン産生反応を停止しないという別の現象を問題とするように変遷したことは、不自然である。 エ Aが平成6年に発表した論文である甲第74号証(「6 カリクレイン-キニン系」、大阪大学教授C編「分子高血圧学」所収)によれば、Aは、同年の時点においても、LBTIがカリクレイン産生反応の活性化に影響を与えるという認識を有していなかったことが明らかであり、昭和55年又は平成4年当時にも、 そのような認識を有していなかった。 5 争点(2)エ(製品標準書等の作成日及びイ-2方法の実施日)について (1) 被告らの主張 ア 被告フジモトDは、平成4年7月ごろ、LBTIの阻害剤としての効果に問題があることを認識したため、LBTIを使用しないイ-2方法により確認試験を行うこととし、同年8月1日、製品標準書(乙第32号証)のうちの「ローズモルゲン注の規格及び試験方法」(乙第32号証付属書面)以外の部分を作成するとともに、イ-2方法を記載した標準作業手順書(乙第310号証)を作成した。 その時点では、イ-2方法を正式に採用するかどうか決まっていなかったが、同月20日ころ、前訴の訴状の送達を受け、イ-2方法を採用することを決定し、乙第32号証付属書面を作成し、同年9月19日からイ-2方法を実施することとした。 被告フジモトDは、被告製剤の最初の製品(ロット番号1208)につき、平成4年8月5日に調合、充填及び滅菌の製造工程を行い、同月7日に異物検査及びピンホール検査を行い、同年9月19日、被告フジモトDの羽曳野研究所においてイ-2方法によりカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を行い、全試験項目の結果を得た。被告フジモトDは、同年10月1日に被告製剤を発売し、同月8日から実際の製品の出荷を始め、同ロットの合計4090本を同年12月5日までに出荷した。平成4年9月19日に行われた確認試験に関する書類の保存期間は4年であり、その確認試験を実施した被告フジモトDの羽曳野研究所は、平成10年4月16日に医薬品製造業を廃止したため、その確認試験に関する資料は、現在では残っていない。 被告フジモトDは、確認試験方法のイ-2方法への変更はバリデーションの範囲内にあると考えていたが、イ-2方法への変更以外にも製造承認事項の一部変更が好ましい事項が生じたこと及びイ-2方法を恒久的に試験方法として採用する必要があることから、一変申請を行うこととし、被告フジモトD本社研究所において、一変申請に必要な試験をすることを平成4年9月1日に指示し、同月2日、21日、24日に実験を行った(乙第33号証「プロトコール担当者承認指示書」及びそれに基づく平成4年9月2日、21日及び24日付け実験報告書、乙第34号証「カリクレイン様物質産生阻害試験方法に関する資料 LBTIのロット間による違い-一部変更の補足実験-」)。さらに、被告フジモトDは、同月から同年11月までの間に、被告医薬品の各3ロットを用いて各3回ずつの実験を行い、実験データを得て一変申請の際に厚生省に提出した。 イ なお、被告フジモトDは、製品標準書(乙第32号証、第37ないし第42号証)を毎年作成しており、別途、変更履歴をまとめたものを作成している。 また、標準作業手順書は、平成6年1月27日厚生省令第3号により改正された「医薬品の製造管理及び品質管理規則」により作成が義務付けられたものであり、 それ以前は作成が義務付けられていなかった。 (2) 原告の主張 被告らは、平成4年8月1日に製品標準書(乙第32号証)及び標準作業手順書(乙第310号証)が作成され、同年9月19日からイ-2方法が実施された旨主張するが、その裏付けとされる証拠は、次のとおり信用性に欠ける。 ア 乙第32号証、第37ないし第42号証は、被告フジモトDが毎年度作成していると主張する製品標準書であるが、(ア)改訂事項がすべてワープロで記載されていること、(イ)同じ改訂事項について、年度によって記載が異なる部分があること、(ウ)平成7年度については定期改訂日が記載されていないこと、(エ)定期改訂日として日曜日に当たる日が記載されていること、(オ)被告製剤の承認番号として誤った番号が記載されていること、(カ)確認試験の方法を原承認に係る確認試験方法からイ-2方法へ変更したことが総括表に記載されていないこと、(キ)平成6年7月21日及び平成7年6月1日の改訂理由欄には、一変承認を受けなければできない「pHの調整」が記載されていること、(ク)被告らは、被告フジモトDが別途変更履歴をまとめたものを作成していると主張しつつ、それを提出していないことから、真に存在した製品標準書であるとはいえない。 イ 乙第32号証付属書面には、(ア)LBTIの品質にばらつきがあるという結論が、2ロットにつき1回行われた実験により導かれていること、(イ)カリクレイン様物質産生阻害活性の測定について、LBTIを用いなくても用いた場合と同等の結果が得られるという結論を導くための実験が、1回しか行われていないこと、(ウ)カリジノゲナーゼ標準品の吸光度に、実験系Tと実験系Uとで0.14も差異が生じていること、(エ)乙第32号証付属書面記載の変更理由は、「LBTIのロットによってブランク吸光度(AB )の値が被告フジモトDの規格である0.04以下にならないことがある」というものであるが、これは、LBTIがロットによりカリクレイン産生反応を停止しない場合があるという、一変申請書の変更理由(以下、一変申請書の変更理由欄に記載された理由を「一変申請理由」という。)と異なること、(オ)ロット番号129F8235のLBTIによりカリクレインの生成が惹起されたといえるためには、ブランク群のみならず、カオリン懸濁液を添加した群においても、正常なLBTIを添加した場合に比べて、カリクレインの生成が促進され、吸光度が高くなければならないが、カオリン懸濁液を添加した群においては、ロット番号129F8235のLBTIの方が吸光度が低く、LBTIによってカリクレインの生成が惹起されたとはいえないことなどの問題があり、乙第32号証付属書面によって、LBTIを用いないイ-2方法への変更理由が明らかにされているとはいえず、同書面は、乙第32号証の一部として真に存在した書面であるとはいえない。 ウ 乙第33号証(「プロトコール担当者承認指示書」及びそれに基づく平成4年9月2日、21日及び24日付け実験報告書)は、(ア)指示したプロトコール(H501)が添付されておらず、実験目的や実験内容が不明であること、 (イ)プロトコール担当者承認指示書と実験報告書の間に関連性や一体性がないこと、(ウ)実験報告書に添付された測定チャートに測定結果の打出日付が記載されていないこと、(エ)実験に用いたLBTIのロット番号が記載されていないこと、 (オ)LBTIの問題点を指摘するにとどまり、イ-2方法の完成やその実施を立証するものでないことという不備があり、真に存在した書面であるとはいえない。 乙第34号証(「カリクレイン様物質産生阻害試験方法に関する資料 LBTIのロット間による違い-一部変更の補足実験-」)は、(ア)原承認及び一変承認において、試料溶液の代わりに0.25M塩化ナトリウム溶液を用いてヒト通常血漿を試験方法と同様に操作した場合の吸光度を0.4にすべき旨が定められているにもかかわらず、実験A(3頁1行ないし4行、表1)においては、LBTIのロット番号18F8080の吸光度が0.5369であり、実験が不正確であると考えられること、(イ)活性型血液凝固第]U因子活性を阻害しないと指摘されているシグマ社製ロット番号129F8235のLBTIは、トリプシン阻害活性が分析証明書で確認されており、活性型血液凝固第]U因子活性の特異的阻害性もトリプシン阻害活性と同視することができ、甲第214号証(原告生物活性科学研究所生化学部D、E作成の実験報告書(V))記載の実験において、同ロット番号のLBTIは、活性型血液凝固第]U因子活性を阻害しないという現象を生じていないこと、(ウ)乙第34号証記載の実験は、LBTIの問題点を指摘するにとどまり、イ-2方法の完成やその実施を立証するものではないことという不備があり、 真に存在した書面であるとはいえない。 エ 薬事法13条2項2号に基づき、医薬品の製造管理及び品質管理の基準は、「医薬品の製造管理及び品質管理規則」(昭和55年8月16日厚生省令第31号。その後改正を経た上、平成11年3月12日号外厚生省令第16号により全文改正され、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」とされた。)により定められており、標準作業手順書は、医薬品の製造管理及び品質管理規則3条(平成6年1月27日厚生省令第3号による改正後は4条)に規定された製品標準書の一部として平成4年当時から作成を義務付けられていたものである。 医薬品の製造は、標準作業手順書の記載を遵守して行わなければならない。しかし、乙第310号証(標準作業手順書)には、(ア)イ-2方法においては、生成カリクレインと合成基質との第2次反応を停止させるためにクエン酸溶液(1→100)0.8mlを加えるものとされているが、乙第310号証によれば、「操作10」の液(第1次反応液に緩衝液と合成基質を加えた液)は、第2次反応の停止剤であるクエン酸溶液を添加されることはなく、「操作12」において遠心分離され、その上澄みの吸光度が測定されることとなっており、この方法では、カリクレインと合成基質との反応は停止せず、測定実施中も吸光度が上昇し続け、測定対象であるパラニトロアリニンの吸光度を測定することは技術上不可能であること、(イ)イ-2方法においては、試料ブランク(ATB )は、吸光度が0.04以下を示すように生理食塩水で希釈することとされており、カリジノゲナーゼの標準ブランク(ASB )については何らの吸光度測定値も与えられていないが、 乙第310号証によれば、吸光度について、ATB のところには「(0.04以下)」という記載はなく、ASB のところに「A SB :StandardBlank・・・・・(0.04以下)」という記載があること、という誤りがある。Aは、その証言において、本件の確認試験方法は複雑なので実際に試験をする者は標準作業手順書が必要であると供述し、Fの陳述書(乙第316号証。乙第415号証は乙第316号証と同じである。)には、上司から指導を受け、被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性試験の標準作業手順書を作成し、標準作業手順書に従って試験を行ってきたこと、部下にもカリクレイン様物質産生阻害活性の試験方法を標準作業手順書に従って指導したことが記載されていることから、標準作業手順書が、実際に日々使用されつつ、その作成されたと主張される日から5年もの間、 重大な欠陥を含んだまま訂正されずに放置されていることはあり得ず、乙第310号証が標準作業手順書として存在していたということは、信用することができない。 オ 被告らは、平成4年9月19日に行った被告製剤の確認試験に関する書類の保存期間が4年であり、その確認試験を実施した被告フジモトDの羽曳野研究所は、平成10年4月16日に医薬品製造業を廃止したため、その確認試験に関する資料は、現在では残っていないと主張する。しかし、被告フジモトDは、平成4年8月20日に前訴の提起を受け、平成10年4月16日の段階では、未だ上告審が係属中であったから、その時点で、イ-2方法により実施した確認試験の資料を廃棄するとは考えられず、被告らがこの確認試験の資料を提出しないのは、実際はイ-2方法を実施していなかったからに他ならない。 6 争点(2)オ(一変承認の合理性)について (1) 原告の主張 ア 一変申請理由は、(ア)阻害剤によって第1次反応を停止しなければ、産生されたカリクレインの量を正確に測定できないこと、(イ)LBTIに不都合があればLBTI以外の阻害剤を使用すれば済み、阻害剤を用いないのは論理の飛躍であること、(ウ)LBTIはトリプシン阻害活性が品質保証されており、活性型血液凝固第]U因子はトリプシンとセリン・プロテアーゼ(蛋白分解酵素)である点で共通することから、LBTIは活性型血液凝固第]U因子についても阻害活性があるはずであるにもかかわらず、一変申請理由では、LBTIに活性型血液凝固第]U因子に対する阻害活性がないとされていること、という点で不合理である。 イ 一変承認は、品目の同一性を害しない軽微な変更についてなされる手続であり、本件のような確認試験の変更の場合は、実測値を記載した資料について書面審理が行われ、特段の疑義がなければ承認される。イ-2方法が原承認に係る確認試験方法と同等又はそれ以上かという点に関し、対審によって主張立証を尽くした上でこれを否定した前訴控訴審判決に比べ、これを肯定した一変承認は、信用性に乏しい。 ウ 一変申請の審査過程において、厚生省は、平成11年4月に一変承認がされる直前まで、原承認に係る確認試験方法とイ-2方法の同一性を明確に否定し、確認試験方法を変更する必要性を認めず、被告フジモトDに対し、イ-3方法を引き続き実施するよう指導して返送や指示などを行っていたものであり、そのため、一変申請から一変承認まで、通常であれば1年ほどであるのに対し、本件では6年5か月を要した。 (2) 被告らの主張 ア 前記3(2)のとおり、イ-2方法は、確認試験方法として、イ-3方法と同等又はそれ以上であり、LBTIなどの阻害剤を用いなくても、確認試験に必要なカリクレイン様物質産生阻害活性を測定することができる。阻害剤を用いないことは論理の飛躍ではない。LBTIは、トリプシン阻害活性における規格が保証されているところ、イ-3方法においては、LBTIは、規格保証されているトリプシン阻害活性とは別の、活性型血液凝固第]U因子の活性のみを特異的に阻害するために用いられており、LBTIが活性型血液凝固第]U因子の活性を阻害しないとしても、トリプシン阻害活性について規格保証されていることとは矛盾しない。 イ 一変承認がされたのは、厚生省が、イ-2方法を原承認に係るイ-3方法と同等又はそれ以上と認めたからである。 ウ 一変申請の審査過程において、被告フジモトDは、厚生省から、LBTI自体やLBTIを用いたイ-3方法の問題点について説明や資料の補充を求められ、返送や指示を受けたが、それらに回答し、一変申請のとおりに一変承認を得た。一変承認までに時間がかかったのは、厚生省の機構改革があったためであり、 イ-2方法に問題があったためではない。 7 争点(2)カ(イ-2方法の実施を裏付ける証拠の信用性)について (1) 被告らの主張 被告フジモトDは、被告医薬品の製造販売の当初からイ-2方法を実施しており、そのことを裏付ける証拠は、これまで述べたもののほか、次のとおりである。 乙第125号証(被告フジモトDのF、G作成の平成5年3月2日付け「イ号方法による追試実験報告書」)は、被告医薬品のカリクレイン様物質産生阻害活性試験の実際の作業担当者の報告書であり、そこにはイ-2方法が記載されている。 乙第4号証(滋賀県立大学看護短期大学部教授H作成の平成8年6月13日付け報告書)、乙第5号証(大阪薬科大学第二薬剤学室助教授I作成の平成8年6月19日付け報告書)、乙第6号証(大阪市立大学工学部生物応用化学科助教授J作成の平成8年6月21日付け報告書)は、確認試験の実施の現場を見た専門家の報告書であり、イ-2方法が行われていたことが記載されている。これらの報告書中の「分析手順書」とは、標準作業手順書(乙第310号証)を指す。 乙第7号証(滋賀県薬事指導所長作成の被告フジモトD宛の「依頼医薬品の検査結果」)には、平成10年1月28日、イ-2方法を用いて被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性が確認された旨記載されている。 乙第36号証の1(メモ、被告フジモトD作成の厚生大臣宛の平成6年11月21日付け「医薬品製造業許可更新申請書」)、乙第36号証の2(メモ)、 乙第36号証の3(厚生大臣作成の平成7年2月2日付けの「医薬品製造業許可証」)によれば、被告フジモトDが、彦根工場について、平成6年11月21日、 滋賀県医務薬務課に厚生大臣宛の医薬品製造業許可更新申請書を提出し、同年12月12日及び13日、同医務薬務課により、彦根工場の立ち入り調査が行われ、書類の確認及び現場確認が行われ、その結果、厚生大臣作成の平成7年2月2日付け医薬品製造業許可証の交付を受けたことが裏付けられる。 乙第35号証(「厚生省経済課訪問」と題する書面)は、平成10年10月20日、被告フジモトDが厚生省に対して行った説明内容を記載した文書であるが、同書面には、平成7年の被告フジモトD彦根工場の医薬品製造業の許可の更新の際、イ-2方法での確認試験による製造が認められ、平成7年2月に医薬品製造業の許可を受けた旨が記載されている。 乙第8号証(被告フジモトD作成の厚生省健康政策局長宛の平成10年12月21日付け薬価基準本収載移行願及びその理由書)及び乙第10号証(被告フジモトD作成の厚生省健康政策局長宛の平成11年2月17日付け薬価基準経過措置期間の延長願及びその理由書)には、被告フジモトDが被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験としてイ-2方法を実施していることが説明されている。 (2) 原告の主張 乙第125号証は、被告フジモトD職員の報告書であり、信用性に乏しい。 乙第4ないし第6号証は、(ア)その記載がいずれも同文であり、別の日時に別の専門家が自ら作成した報告書であるとは信じ難いこと、(イ)標準作業手順書という題名の文書を3名ともが「分析手順書」と誤認して記載したというのは不自然であること、(ウ)カリクレイン様物質産生阻害活性を失活させるエタノール処理が行われるという明白な誤りがある標準作業手順書に従い確認試験が行われていた旨記載されていることから、信用性に乏しい。 乙第7号証は、滋賀県薬事指導所長がイ-2方法の検査結果を確認したという結論だけが極めて簡略に記載されており、具体的な測定データ等が記載されていないこと、県の薬事指導所長は、厚生大臣が承認すべき試験方法の是非について判断する権限を有していないことから、証拠価値は低い。 乙第36号証の1ないし3に記載された立ち入り調査は、薬事法12条に定められた彦根工場の医薬品製造業としての業態許可の期間更新に伴うものであり、一変申請の審査とは無関係であるから、医薬品製造業許可が更新された事実は、被告フジモトDがイ-2方法を実施していたこととは無関係であり、乙第36号証の1ないし3により、被告フジモトDがイ-2方法を実施している旨を滋賀県に報告したという事実を裏付けることはできない。 乙第35号証において、被告ら訴訟代理人山本忠雄らが訪問したと記載されている厚生省の部署は、厚生省健康政策局経済課であり、一変申請に対する審査承認権限を有する医薬安全局審査管理課とは別の部署であるから、健康政策局経済課に対して何らかの説明が行われたとしても、被告フジモトDがイ-2方法の実施を厚生省に報告したという事実は、裏付けることができない。 乙第8号証及び第10号証は、いずれも平成10年11月以降の書類であり、イ-2方法を平成4年から実施していたことの根拠とはならない。 被告抽出液については、製品標準書、標準作業手順書などは提出されていないから、被告抽出液についてイ-2方法を実施していたということの立証はない。 8 争点(3)(損害額又は不当利得額)について (1) 原告の主張 ア 本件発明は、薬事法上の製造承認事項である確認試験方法として実施されたものであるが、確認試験は、医薬品の品質を一定に保つための試験であり、製造工程に組み込まれているから、確認試験方法として行われた本件発明は、被告医薬品の製造工程と不即不離の関係にあるといえる。また、原告製剤と用法、用量、 効能、効果が同一である後発医薬品は被告製剤のみであり、被告藤本製薬が販売した被告製剤の販売量は、原告が販売することができたであろう原告製剤の販売量に他ならない。したがって、原告の損害額は、原告が原告製剤の販売によって得られるであろう1アンプル当たりの利益額に、被告藤本製薬の被告製剤の販売量を乗じて得ることができる。 平成8年11月1日から平成11年3月31日までに原告が原告製剤の販売によって得た利益は、1アンプル当たり56.84円を上回る。同期間に被告フジモトDが製造し被告藤本製薬を通じて販売された被告製剤は、3101万9000本を下らない。そこで、同期間に原告が受けた損害は、17億6311万9960円を下らない(56.84円×3101万9000本=17億6311万9960円)。 被告フジモトDと被告藤本製薬が密接な関連を有することから、被告フジモトDによる本件発明に係る方法を用いた確認試験の実施と被告藤本製薬による被告製剤の販売は、共同不法行為を構成し、被告らは、連帯して損害賠償義務を負う。 イ 被告製剤の製造販売について実施料相当額を算定するに当たっては、本件発明に係る方法を実施していたのは被告フジモトDであるが、同被告と被告藤本製薬が実質的に一体の企業体であることに鑑み、被告藤本製薬の販売額によるべきである。また、原告は本件発明の実施を許諾する意思はなく、許諾するとしても最大限の実施料率によること、被告フジモトDは、被告抽出液と被告製剤の両方の確認試験において本件特許権を侵害する方法を用いていることを、実施料率の算定に当たって考慮すべきである。 本件特許権の出願公告日である平成4年3月11日から平成8年10月31日までの被告藤本製薬による被告製剤の販売額は59億6150万円を下らず、実施料率は20パーセントを下らないから、同期間の実施料相当額は、11億9230万円を下らない(59億6150万円×20/100=11億9230万円)。 ウ したがって、原告は、被告らに対し、本件特許権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して17億6311万9960円及びこれに対する不法行為の後である平成11年10月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告フジモトDに対し、不当利得として実施料相当額11億9230万円及びこれに対する請求の後である平成11年10月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 被告らの主張 ア 被告らは、本件特許権又はその仮保護の権利を侵害したことはないが、 仮に一変申請前に本件発明に係る方法を実施したとしても、それによる実施料相当の不当利得の額は、次のとおりである。 (ア) 本件特許権の出願公告日である平成4年3月11日から一変申請をした平成4年12月22日までに被告フジモトDがカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を実施し、被告藤本製薬が販売した被告製剤は、ロット番号1208のもの4090アンプル、ロット番号1211のもの8760アンプルの合計1万2850アンプルである。なお、ロット番号1211のもののうち、出庫日平成5年2月10日付けの50アンプル入り包装単位1個及び10アンプル入り包装単位2個の合計70アンプルは、被告フジモトDから被告藤本製薬の研究所に研究用として譲渡されたものであり、販売されたものではないから、実施料相当額の算定に当たっては算入しない。 被告製剤の被告藤本製薬による販売額は、1アンプル当たり194円であり、被告フジモトDの被告藤本製薬に対する販売額は、これを上回らない。 そこで、被告フジモトDの販売額は、249万2900円(194円×1万2850アンプル=249万2900円)を上回らない。 (イ) 医薬品その他の化学製品の分野の実施契約についての昭和63年から平成3年までの年度別総件数累積の実施料率の最頻値及び平均値は売上額の5パーセントである。そして、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験は、最終製品について行われる17種類の規格及び確認試験の内の一つであること、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験も、本件発明に係る方法のみでは実施できず、 それ以外に前処理等が必要であることから、本件発明に係る方法の実施料率は、売上額の5パーセントの5分の1である。したがって、実施料相当額は、2万4929円(249万2900円×5/100×1/5=2万4929円)である。 イ 被告フジモトDには少なくとも9名の従業員がおり、平成4年8月から11月までの4か月間に被告フジモトDが製造し試験した製品は被告製剤の前記2ロットだけであるから、これらの期間の従業員の賃金等はすべてこの2ロットの製品の経費とされるところ、従業員1名の1か月の給料が10万円であるとしても、 360万円(10万円×9名×4か月=360万円)の経費がかかったものであり、これは、前記の実施料相当額2万4929円を上回るから、被告フジモトDに利得はない。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(前訴判決の信義則上の拘束力)について (1)ア 前記第2の2(10)のとおり、前訴では、原告は、被告フジモトDに対し、本件特許権の侵害を理由として、@被告抽出液の製造の差止め、被告製剤の製造販売の差止め及びこれらの宣伝広告の差止め、A被告医薬品の廃棄、B被告製剤について健康保険法に基づき収載された薬価基準申請の取下げ、C被告医薬品について薬事法に基づき取得した製造承認の申請の取下げ及びその製造承認によって得ている地位の第三者への承継、譲渡の禁止を求め、前訴第一審判決は原告の請求を棄却したが、前訴控訴審判決は、被告フジモトDが被告医薬品の確認試験に本件特許方法に該当するイ-1方法を使用していることを認定して、原判決を変更し、原告(控訴人)の請求@のうち、イ-1方法を用いた被告抽出液の製造の差止め、イ-1方法を用いた被告製剤の製造販売及び宣伝広告の差止め、A被告医薬品の廃棄、B被告製剤について健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げを求める限度で原告(控訴人)の請求を認容した。そして、被告フジモトDの上告に対し、前訴上告審判決は、被告フジモトDがイ-1方法を使用しているとの原審の認定判断は正当として是認できるとしたものの、本件発明は方法の発明であって物を生産する方法の発明ではないから、被告フジモトDが被告医薬品の製造工程において、イ-1方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を本件特許権を侵害する行為に当たるということはできないなどとして、原判決中上告人(被告フジモトD)敗訴部分を破棄し、同部分につき、 被上告人(原告)の控訴を棄却したものである。この点につき前訴上告審判決の判示内容を見ると、甲第6号証によれば、@被告(上告人)フジモトDは、上告理由として、「第一点 イ号方法につき薬事取締法規上具備すべき要件を充足しないと認定した誤り-薬事法規違反、理由不備、採証法則及び経験則違反」、「第二点 上告人のイ号方法実施の事実を認めなかった誤り-理由不備、採証法則、経験則違反」、「第三点 原判決が本件特許方法によらないカリクレイン様物質産生阻害活性の定量方法の存在および存在の可能性を否定した誤り-採証法則違反、理由不備、経験則違反」、「第四点 上告人医薬品は本件特許方法を用いて製造されているとの認定の誤り-採証法則違反、理由不備、経験則違反」、「第五点 本件特許権の効力として、上告人医薬品の製造、販売等の禁止、製剤の廃棄を認めたことは、特許法第100条2項に違反する」、「第六点 本件特許権の効力として、 「ローズモルゲン注」の健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げを命じたことは、健康保険法及び関連法令、特許法100条2項に違反する」との各点を主張し、上記第一点ないし第四点において、被告フジモトDが「本件特許方法」を使用しているものと認定した原審の認定判断を縷々攻撃したこと(甲第5、第6号証、 第23号証によれば、上告理由にいう「イ号方法」とは、LBTIを用いない本訴のイ-2方法を指す。)A前訴上告審判決は、上告理由第一点ないし第四点について、「所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。」と判示したことが認められる。 したがって、前訴上告審判決は、前訴控訴審判決の事実認定に関する被告フジモトDの上告理由を退け、前訴控訴審判決の事実認定を是認したものであることが明らかである。 この点につき被告らは、緊急に最高裁の判断を得る必要のある特殊事情から、前訴上告審判決が前訴第一審判決を支持したものであり、前訴上告審判決は被告フジモトDによるイ-2方法の実施の有無について実体的判断を避けて、法律解釈のみで前訴控訴審判決を破棄することを判断したものとみるべきであると主張するが、前訴上告審判決の理由は、同判決の判示するところによってその内容を把握すべきである。 イ 前記のとおり、前訴上告審判決は、その理由中において、前訴控訴審判決の事実認定に関する被告フジモトDの上告理由を退け、被告フジモトDがイ-1方法を使用しているとの前訴控訴審判決の事実認定を是認したものである。しかし、前訴上告審判決中のこのような判断は、判決理由中の判断である。民事訴訟法114条1項によれば、判決の既判力は主文に包含される訴訟物とされた法律関係の存否に関する判断だけについて生じ、その前提である法律事実に関する認定その他理由中の判断に包含されるにとどまるものは、たとえそれが法律関係の存否に関するものであっても、同条2項のような特別の規定のある場合を除いて、既判力を有するものではない。当事者がその訴訟において争点として主張、立証を尽くし、 裁判所がその争点について実質的審理を遂げている場合であっても、既判力類似の効力は認められないと解するのが相当である。そうすると、被告フジモトDが被告医薬品の確認試験に本件特許方法に該当するイ-1方法を使用しているという認定については、前訴上告審判決の既判力又はそれに類似する効力は生じないというべきである。 (2) 原告は、本訴において、被告フジモトDが被告医薬品の製造に当たり、確認試験方法としてイ-1方法を用いておらず、本件特許権を侵害していないと主張することは、前訴の蒸し返しであって、信義則に反し許されない旨主張する。 そこで検討するに、権利の行使は信義に従い誠実にこれをしなければならず(民法1条2項)、民事訴訟においても、「当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」(民事訴訟法2条)ものである。民事訴訟において、後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合に、 後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されないと解すべき場合があることは、原告が挙示する判例に照らしても肯定することができる。信義則によって後訴の請求を許されないものとし、又は後訴において前訴の主張と同じ主張をすることが許されないものとするかどうかを判断するに当たっては、前訴と後訴の内容、当事者が実際に行った訴訟活動、前訴において当事者がなし得たと認められる訴訟活動、後訴の提起又は後訴における主張をするに至った経緯、訴訟により当事者が達成しようとした目的、訴訟をめぐる当事者双方の利害状況、当事者の公平、前訴の判決によって紛争が決着したと当事者が抱く期待の合理性、裁判所の審理の重複、時間の経過などを考慮して、後訴の提起又は後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生じさせるような場合には、後訴の請求又は後訴における主張は信義則に反し許さないものと解するのが相当である。 本件についてこれをみるに、前訴と同一の医薬品の製造についての確認試験を対象とする同一の特許権に基づき、前訴で最終的に敗訴した原告が、前訴の判決が確定するや、前訴とは異なる訴訟物で本訴を提起したのに対して、被告フジモトDは、前訴に続いて応訴する立場にあるものである。そして、前記第2の2(10)の事実と甲第5、第6号証、第23号証及び弁論の全趣旨によれば、被告フジモトDは、前訴において、当初から一貫して、原告が主張するイ-1方法を使用していることを否認し、イ-2方法を使用していると主張してきたこと、前訴においては、第一審、控訴審を通じて、被告フジモトDが被告医薬品の品質規格検定のためのカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験の方法として、本件特許方法に該当する原告主張のイ号方法(本訴にいう「イ-1方法」)を実施しているか否かが主要な争点として争われてきたこと(ただし、前訴においては、被告フジモトDは、 企業秘密を理由に、原承認書の「規格及び試験方法」欄に記載された確認試験方法を開示せず、一変申請を行っている事実も明らかにしなかった。前訴上告審判決の上告理由の記載からすると、上告理由書には、被告医薬品の原承認書及び一変申請書が参考資料として添付されていたものと推認される。)が認められる。 上記事実によれば、被告フジモトDが、本訴において、被告医薬品の製造に当たり、確認試験方法として、本件特許方法に該当するイ-1方法を用いているとの原告の主張を争い、被告フジモトDが使用してきた方法はイ-2方法であると主張することは、前訴で第一審以来争われた同じ争点を持ち出すものであり、前訴控訴審判決において被告フジモトDの主張が否定され、その認定判断に対する上告理由が前訴上告審判決で排斥されて、原審の認定判断が是認されたのであるから、 前訴で排斥された主張を繰り返しているという面があることは否定できない。しかし、前訴上告審判決においては、原審の事実認定(被告フジモトDが本件特許方法に該当するイ-1方法を使用していたこと)を是認しているものの、結局、本件発明は方法の発明であって物を生産する方法の発明ではないから、被告フジモトDが被告医薬品の製造工程において、イ-1方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を本件特許権を侵害する行為に当たるということはできないなどとして原告の請求は成り立たないと判断し、 原告の請求を棄却した一審判決は結論において正当であるとして、原判決中上告人(被告フジモトD)敗訴部分を破棄し、同部分につき被上告人(原告)の控訴を棄却しているのである。このような上告審の判断からすれば、被告フジモトDが本件特許方法に該当するイ-1方法を使用していても、使用していなくても、結局前訴における原告の請求は認容されない筋合いであるから、被告フジモトDが被告医薬品の製造に当たり、確認試験方法として、原告主張のイ-1方法を使用しているか、あるいは被告フジモトD主張のイ-2方法を使用しているかという事実認定は、前訴の判決を導くために不可欠とはいえなかったものである。このような状況の下においては、原告が前訴において被告フジモトDがイ-1方法を使用して本件特許権を侵害したとの点が決着済みであると考えることについて、その期待が法的な保護に値するものとはいえないと解するのが相当である。さらに、本訴は、前訴と主要な争点は同一であるが、争点についての当事者の主張を裏付ける重要な間接事実(その評価も争点である。)として、前訴控訴審判決言渡し後の事情である一変承認の事実が存在することを無視できない(なお、本訴においては、前訴の第一、二審で提出された証拠が提出されたほか、前訴で明らかにされなかった被告医薬品についての原承認書に記載された確認試験方法の内容が開示され、そのほか、 一変申請書、一変承認書、一変申請の過程で被告フジモトDが厚生省に提出した文書等が提出されるに至っている。)。一変承認がなされたことにより、被告フジモトDは、一変承認後は、一変承認に係る確認試験方法(イ-2方法)を実施していると事実上推定されるものというべきであるから、結局、本件における主張立証活動上の焦点は、前訴とは異なり、一変承認前に被告フジモトDが原承認に係る確認試験方法から一変申請に係る確認試験方法(イ-2方法)に実際に変更して実施していたか否か、変更したとすればそれはいつかという点にあることになる。一変承認の事実を、原告が主張するように単なる証拠としてとらえるのは相当ではない。 これらの事情を総合して考慮すれば、本訴において、被告フジモトDが被告医薬品の製造に当たり、確認試験方法としてイ-1方法を用いておらず、本件特許権を侵害していないと主張することが、前訴の蒸し返しとして信義則に反し許されないとはいえない。 原告は、前訴において、前訴の事実審口頭弁論終結時までの損害につき損害賠償請求をすることも可能であったといえるが、このこと自体は原告がその判断で決めるべき訴訟追行の問題である。特許権等の知的財産権を侵害されたとする権利者が相手方に対し、まず差止めのみを求めて訴訟を提起し、認容判決がされた場合に(判決の確定を待って、あるいは待たないで)、損害賠償の訴訟を別途提起することも、早期に差止めの判決を得たいという判断の下に、知的財産権訴訟では一般に行われるところであって、被告の応訴の負担が増えるという面はあるが、原告のそのような訴訟追行の仕方自体は非難されることではない。しかし、本件の前訴のように、差止請求訴訟において、理由中では権利侵害の事実が認定されたにもかかわらず結論として請求を棄却された者が訴訟物を異にする損害賠償請求の後訴を提起したときに、前訴の判決の理由中の判断が信義則上の拘束力を持つものとは一般的にいえない。 原告は、その主張の根拠として第一ないし第三判例を挙示するが、これらの判例は本件とは事案を異にするものであり、原告の主張の根拠とはならない。 よって、原告の主張は採用することができない。 (3) 原告は、被告藤本製薬についても、(2)と同様の主張をするが、被告藤本製薬は、前訴においては被告とされず、本訴において初めて被告とされたものであるから、前記(2)で述べたところに照らし、なおさら、被告藤本製薬が本訴で本件特許権の侵害を争う旨の主張をすることが信義則に反し許されないとはいえない。 2 争点(2)ア(被告医薬品の原承認書の記載に基づく一変承認前の確認試験方法の立証の有無)について 薬事法56条2号は、製造承認を受けた医薬品であって、その成分又は分量(成分が不明のものにあっては、その本質又は製造方法)がその承認の内容と異なるものを販売の目的で製造してはならない旨規定しており、同法56条に規定する医薬品は、廃棄命令等の行政処分の対象とされており(同法70条1項)、同法56条違反は刑事罰の対象とされている(同法84条13号)。したがって、製造承認を受けている医薬品については、製造承認に係る方法により製造していることが事実上推定されるといえる。 被告医薬品の原承認書には確認試験方法としてイ-3方法が記載されており、イ-3方法は実質的にイ-1方法と同じであり、本件発明の技術的範囲に属するものであることは前示のとおりである。したがって、被告フジモトDは、一変承認を得るまでの間は、確認試験として本件特許方法(すなわちイ-1方法)を使用していたことが事実上推定されるものというべきである。 しかし、甲第39号証、第60号証、乙第68号証及び弁論の全趣旨によれば、製造承認に係る確認試験方法と同等又はそれ以上の方法であれば、製造承認に係る確認試験方法と異なる確認試験方法を採用し得ることが認められる。そして、 製造承認に係る方法により製造しているということは、事実上推定されるにとどまり、製造承認に係る確認試験方法と同等又はそれ以上の確認試験方法を使用していることが立証されれば、その事実上の推定が覆される可能性もある。本件では、以下のとおり、被告らが、原承認に係るイ-1方法と異なるイ-2方法を用いていたことの主張立証を行い、原告も、それに対する主張立証を行っているから、それらについて検討する。 3 争点(2)イ(イ-2方法の確認試験方法としての同等性)について (1) 量的精度における同等性 ア 前記第2の2(8)のとおり、医薬品製造業者が厚生大臣に対し医薬品の製造承認を申請する際には、医薬品製造承認申請書に申請に係る医薬品の「規格及び試験方法」を記載することが義務付けられているところ、甲第172号証(「医薬品製造指針(1991年版)」日本公定書協会編)によれば、規格及び試験方法は、医薬品の品質の確保にかかわるものであり、そのうちの確認試験については、 「確認試験は当該医薬品が目的物であるか否かを確認するために必要な試験で原則として、すべての有効成分について、記載することが必要である。とりわけ、含有規格を定められなかったり、定量法を記載することができなかった成分については、原則として、必ず記載することが必要である。」(同72頁29行ないし32行)、「通例、無機化合物の場合は陽イオン及び陰イオンの反応を記載し、有機化合物の場合はその反応基の反応(例:アミノ基又はフェノール性水酸基などの反応)及び、その特異反応(例:呈色反応、誘導体又は塩類の融点等)を示す必要がある。」(同72頁35行ないし37行)とされており、定量法については、「定量法は医薬品の有効成分の含量、力価などを物理的、化学的又は生物学的方法によって測定する試験法である」(同78頁38頁ないし39頁)とされていることが認められる。乙第58号証(「製薬関係通知集」1999年版、薬事審査研究会監修)によれば、「新医薬品の規格及び試験方法の設定に関するガイドラインについて」(平成6年9月1日薬審第586号 各都道府県衛生主管部(局)長あて 厚生省薬務局審査課長通知)添付の「新医薬品の規格及び試験方法の設定に関するガイドライン」には、「確認試験は、当該医薬品が目的物であるか否かをその特性に基づいて確認するための試験である。したがって、医薬品の化学構造上の特徴に基づいた特異性のある試験である必要がある。」(同ガイドライン4.(7))、「定量法は、当該医薬品の組成、有効成分の含量、力価又は含量単位を、物理的、化学的又は生物学的方法により測定する試験である。相対的な試験方法を設定する場合には、定量試験に用いる標準物質について規格を設定する。」(同ガイドライン4.(15))と規定されていることが認められる。乙第51号証(「医薬品製造指針(1998年版)」厚生省医薬安全局審査研究会監修)によれば、確認試験の目的等については、「確認試験は、試料中の分析対象物をその特性に基づいて確認することを目的としている。通常、試料の特性(スペクトル、クロマトグラフィーにおける挙動、化学的反応性等)を標準物質のそれと比較することにより行われる。」(同123頁17行ないし19行)とされ、定量法の目的等については、「定量法は、試料中に存在する分析対象物の量を正確に測定することを目的としており、原薬の場合には主要成分を、また、製剤の場合には有効成分又は特定成分を定量することを意味する。」(同123頁22行ないし24行)とされており、確認試験に求められる分析能パラメータとしては特異性のみが挙げられており(同124頁表)、「特異性とは、共存が予想される不純物、分解物、配合成分等の存在下で、分析対象物を正確に測定できる能力のことである」(同124頁3.(2)「特異性(Specificity)」の項1行ないし2行)とされ、確認試験における特異性とは「分析対象物を誤りなく確認できる能力」(同項5行)であるとされ、定量法に求められる分析能パラメータとしては、真度、精度(併行精度、室内再現精度)、特異性、直線性、範囲が挙げられている(同124頁表)ことが認められる。 そうすると、確認試験においては、対象物が目的物であるかどうかを判別するための特定の反応等の有無が明らかにされれば足り、測定数値が問題とされる場合も、標準物質の測定値と比較して、基準となる一定の測定値以上(又は以下)の数値を示すかどうかが問題とされるものと解され、定量法において試料中に存在する分析対象物の量を正確に測定することとは異なるものと解される。 イ 甲第192号証(医薬品インタビューホーム「ノイロトロピン特号3cc」)によれば、原告抽出液及び原告製剤について、「カリクレイン様物質産生阻害活性(力価)試験」は確認試験法として記載され(同4頁6行、6頁16行)、 「SARTストレスマウスを用いて鎮痛係数を求める生物検定法による3-3用量検定法」は定量法として記載されている(同4頁13行ないし14行、6頁18行)。甲第192号証の「生物学的試験法」(同3頁「5」、6頁「6」)の欄には、「カリクレイン様物質産生阻害活性(力価)試験において、P-NA標準溶液の示す吸光度0.1以上の阻害活性を有することを定量規定」と記載されているが、この記載は、P-NA標準溶液の示す吸光度0.1以上の吸光度を有することをもってカリクレイン様物質産生阻害活性があることを認める趣旨と解され、定量法におけるような測定値を要求するものではないと解される。したがって、原告抽出液及び原告製剤においても、カリクレイン様物質産生阻害活性に関する試験は、 前記アのような確認試験として位置付けられていることが認められる。また、甲第3、第4号証、乙第1、第2号証によれば、被告医薬品において、カリクレイン様物質産生阻害活性についての試験は、確認試験とされており、弁論の全趣旨によれば、被告医薬品について、定量法としては、SARTストレスマウス鎮痛活性測定法が定められていることが認められる。 ウ 甲第3、第4号証及び弁論の全趣旨によれば、被告医薬品の原承認書の「規格及び試験方法」欄に確認試験として記載されていたイ-3方法は、別紙被告方法目録3記載のとおりであり、被検物質の生成カリクレイン量を第2次反応により測定した吸光度ATと、被検物質の代わりに塩化ナトリウム溶液を、カオリン懸濁液の代わりにトリス塩酸緩衝液を用いた非生成資料の同様の吸光度ATB との差(AT -A TB )と、第1次反応停止液の代わりにカリジノゲナーゼ標準溶液を用いた標準資料の吸光度ASと標準溶液に代えてトリス塩酸緩衝液を用いた標準ブランク資料の吸光度ASB との差(A S -A SB )を比較し、(A T -A TB )が(AS -A SB )より小さい場合に被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性があると判定する方法であることが認められる。イ-2方法も、吸光度の測定対象資料及び判定方法は同様の方法を用いている。前記アの確認試験の意義に照らせば、このような吸光度の差の比較によって、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性の有無を明らかにすることができ、確認試験の目的を達成し得るものと認められる。 そして、前記イのとおり、カリクレイン様物質産生阻害活性についての試験は、原告医薬品、被告医薬品のいずれにおいても確認試験として位置付けられている。したがって、イ-3方法及びイ-2方法において、定量法におけるような測定がされていないことをもって、確認試験として機能しないということはできず、この点に関する原告の主張は、採用することができない。 (2) エタノール抽出処理によるカリクレイン様物質産生阻害活性の失活 ア 甲第170号証(神戸学院大学薬学部薬理学教室教授K作成の平成5年9月2日付け実験報告書)には、「今回の実験結果から、試験方法Aにより処理・測定した場合、ノイロトロピン群とコントロール群の吸光度差の大部分が、実際上の対照群とも言える生理食塩液群でも認められた。従って、ノイロトロピンを試験方法Aにより処理・測定した場合は、ノイロトロピン由来の血漿カリクレイン様物質産生抑制作用がほとんど認められず、本抑制作用を評価するための試験法としては、試験方法Aは適当ではないと判断できる。」(同3頁4行ないし8行)と記載されている。甲第174号証(原告生物活性科学研究所第一天然有機部部長L作成の平成5年12月17日付け陳述書)は、ノイロトロピン錠の医薬品製造承認申請に際し原告が昭和61年9月8日厚生省に提出した「ノイロトロピン錠指示事項回答概要(2)」(甲第175号証添付資料)に掲載したNSP(ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液)のエタノール分画実験の結果について説明したものであるが、その中には、「測定の結果、NSP中のKPI活性はエタノール易溶性のT-3画分に移行せず、エタノール難溶性画分であるT-2画分に移行し、その間にその活性(量)はNS画分に比べ顕著に低減していました(同23頁)。また、 「図3再混合による活性回収率の変動」(同23頁)に示す通りT-1、T-2及びT-3画分を再混合しても元のNS画分のKPI活性に回復しなかった(同23頁)ことから、NSPのKPI活性はエタノール抽出により失活すると結論づけました。「NSPのKPI活性はエタノール分画によって失活する」という私共の実験結果は、カリクレイン-キニン系領域の研究で著名な神戸学院大学薬学部K教授の「実験報告書」(甲第9号証)の実験結果によっても裏付けられています。」(甲第174号証2頁17行ないし3頁3行)と記載されている(なお、ここにいう「甲第9号証」とは、本件訴訟の甲第170号証を指す。)。 甲第30号証(サウスカロライナ医科大学医学部教授M作成の2000年8月4日付け鑑定書)においては、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液中に存在するカリクレイン産生阻害活性成分が含まれているはずのない生理食塩液群の吸光度差(コントロール群に対する差。以下、同じ。)と、被告製剤群の吸光度差に、有意差が認められず、イ-2方法を用いてカリクレイン様物質産生阻害活性の測定を行うことは不可能であるとし、その理由として、エタノール処理によって被験薬である被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性が失活したことが挙げられている。甲第31号証(大阪市立大学大学院理学研究科教授N作成の平成12年8月8日付け実験報告書)においては、生理食塩液、被告製剤及び原告製剤について、エタノール抽出処理を行った上でのカリクレイン産生阻害活性の測定結果が示されており、生理食塩液群と被告製剤群ばかりでなく、生理食塩液群と原告製剤群の吸光度にも有意の差が認められなかったとされており、その結果から、原告製剤及び被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性はエタノール処理によって失活し、イ-2方法ではカリクレイン様物質産生阻害活性を測定することはできないとされている。甲第32号証(前記K作成の平成12年8月9日付け実験報告書)においては、生理食塩液と被告製剤について、エタノール抽出処理を行った上でのカリクレイン様物質産生阻害活性の測定結果が示されており、生理食塩液群と被告製剤群の吸光度に有意の差が認められなかったとされており、その結果から、イ-2方法は、被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性を評価するための試験方法として適当ではないとされている。 イ(ア) 一方、乙第148号証(被告フジモトDのF、G作成の平成6年12月5日付け実験報告書〔脱塩操作の違いによるカリクレイン様物質産生阻害活性の検討〕)には、エタノール抽出により脱塩した試料溶液とマイクロ・アシライザーにより脱塩した試料溶液とにおいて同等のカリクレイン様物質産生阻害活性の存在が確認された旨記載されている。 (イ) 甲第27号証(原告技術法務部O作成の平成12年6月6日付け報告書)、乙第19号証(F作成に係る作成年月日平成10年1月28日の標準作業手順書)、第310号証によれば、イ-2方法における被検物質の減圧乾固、エタノール抽出処理の方法は、次のとおりであることが認められる。 1) 共栓付試験管(50ml)に、本品10mlをホールピペットで採取し、エバポレーターで減圧乾固する。 エバポレーターの水槽の温度は37℃、回転数は80rpmとする。覆いをかけて遮光して行う。エバポレーターには試験管は直接セットできないので、アダプターを使用する。 2) 乾固した試料をエタノール(99.5%)5mlで3回抽出する。 以下、抽出操作及び減圧乾固は覆いをかけて遮光して行う。 抽出は、乾固した試料のはいった共栓付試験管にエタノール5mlを自動ピペットで加え、超音波に10分間かける。この液を遠心分離(3500rpm、5分間)し、上澄み液を自動ピペットを用いて別の共栓付試験管(50ml)にとる。(1回目抽出液) 更に、残りの沈殿物にエタノール5mlを自動ピペットで加え、 超音波に5分間かけ、遠心分離(3500rpm、5分間)し、上澄み液を自動ピペットを用いてとり、先の抽出液と合わせる。(2回目抽出液) 更に、残りの沈殿物にエタノール5mlを自動ピペットで加え、 超音波に5分間かけ、遠心分離(3500rpm、5分間)し、上澄み液を自動ピペットを用いてとり、先の抽出液と合わせる。(3回目抽出液) 3回の抽出操作で得た全抽出液約15mlを減圧乾固する。(条件は1)と同じ) 3) 乾固したものに、0.25M塩化ナトリウム溶液1.5mlを自動ピペットで加え超音波に1分間以上かけて溶かしたものを試料溶液とする。 そして、乙第1、第2号証、第19号証、第31号証の2、第125号証、第310号証及び弁論の全趣旨によれば、イ-2方法により被告医薬品のカリクレイン様物質産生阻害活性が測定されていることが認められるから、上記の被検物質の減圧乾固、エタノール抽出処理の方法によっても、カリクレイン様物質産生阻害活性は失活しなかったものと推認される。 (ウ) 甲第170号証には、被検物質の減圧乾固、エタノール抽出処理の方法として、「ノイロトロピン各ロット10mlを減圧下にて乾固した(ヤマト、 ロータリーエバポレーター、RE-46型)。乾固物にエタノール(99.5%)10mlを加えてかき落し、超音波処理(日本精機製作所、NS超音波洗浄機)10分および振とう10分を行なった後、3000rpmで10分間遠心分離(TOMY、RL-131型)した。上清を分離、保存し、沈渣にエタノール10mlを加え、同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、合計3回分の上清(エタノールにより抽出される画分)を得た。集めた上清を減圧下にて乾固し、残渣を0.25M塩化ナトリウム溶液1.5mlで溶解し、測定用被験検体とした。また、後述した理由により、参照用の検体として、生理食塩液10mlについて、同様のエタノールによる3回の抽出操作をほどこし、測定用の検体とした。」(同1頁24行ないし32行)と記載されているが、減圧乾固の条件が不明であり、また、エタノール抽出処理の条件が、前記(イ)のイ-2方法における条件と異なっている。したがって、甲第170号証に、実験結果として、ノイロトロピン由来の血漿カリクレイン様物質産生抑制作用がほとんど認められない旨記載されていることをもって、イ-2方法における減圧乾固及びエタノール抽出処理において、カリクレイン様物質産生阻害活性が失活することの裏付けということはできない。 甲第174、第175号証にいうエタノール分画法(甲第174号証図A、甲第175号証図1)は、前記(イ)のイ-2方法における減圧乾固及びエタノール抽出処理とは異なるから、甲第174号証に、そのようなエタノール分画法による実験の結果、カリクレイン様物質産生阻害活性が失活するという結論が導かれた旨記載されていることをもって、イ-2方法における減圧乾固及びエタノール抽出処理において、カリクレイン様物質産生阻害活性が失活することの裏付けということはできない。 (エ) 甲第30号証には、被検物質の減圧乾固、エタノール抽出処理の方法として、「被検溶液10mlをとり、減圧乾固させたものをエタノール(99.5%)5mlで3回抽出し、この抽出液を減圧乾固し、これに0.25M塩化ナトリウム溶液1.5mlを加えて溶かし、試料溶液とする。この抽出操作及び減圧乾固は遮光して行う。被検溶液としては、「ローズモルゲン注」および「生理食塩液」を用いる。」(同号証別紙1「試験方法」訳文3行ないし6行)と記載されており、甲第31号証には、被検物質の減圧乾固、エタノール抽出処理の方法として、「別紙試験方法に基づき各検体10mlをロータリーエバポレーターを用いて減圧乾固した後、エタノール(99.5%)5mlで3回抽出し、この抽出液を集め減圧乾固した。得られた減圧乾固物を0.25M塩化ナトリウム溶液1.5mlに溶解して試料溶液とした。」(同2頁「2.実験方法」「(2)検体のエタノールによる前処理」)、「検体10mlをとり、減圧乾固させたものをエタノール(99.5%)5mlで3回抽出し、この抽出液を減圧乾固し、これに0.25M塩化ナトリウム溶液1.5mlを加えて溶かし、試料溶液とする。この抽出操作及び減圧乾固は遮光して行う。検体としては、「ノイロトロピン特号3cc」、「ローズモルゲン注」および「生理食塩液」を用いる。」(同別紙1、3行ないし6行)と記載されている。しかし、これらの記載によっては、減圧乾固及びエタノール抽出処理の条件が、前記(イ)のイ-2方法における条件と同一かどうか不明である。 甲第32号証には、被検物質の減圧乾固、エタノール抽出処理の方法として、「ローズモルゲン10mlを減圧下にて乾固した(ヤマト、ロータリーエバポレーター、RE-46型)。乾固物にエタノール(99.5%)5mlを加えてかき落とし、超音波処理(日本精機製作所、NS超音波洗浄機)10分および振とう10分行なった後、3000rpmで10分間遠心分離(TOMY、RL-131型)した。上清を分離、保存し、沈渣にエタノール5mlを加え、同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、合計3回分の上清(エタノールにより抽出される画分)を得た。集めた上清を減圧下にて乾固し、残渣を0.25M塩化ナトリウム溶液1.5mlで溶解し、測定用被験検体とした。また、後述した理由により、参照用の検体として、生理食塩水10mlについて、同様のエタノールによる3回の抽出操作をほどこし、測定用の検体とした。」(同1頁22行ないし30行)と記載されているが、減圧乾固の条件が不明であり、また、エタノール抽出処理の条件が、前記(イ)のイ-2方法における条件と異なっている。 したがって、甲第30ないし第32号証に、エタノール抽出処理によってカリクレイン様物質産生阻害活性が失活することが記載されていることをもって、イ-2方法においてもエタノール抽出処理によってカリクレイン様物質産生阻害活性が失活することの裏付けということはできない。 ウ 以上によれば、イ-2方法における減圧乾固及びエタノール抽出処理によってカリクレイン様物質産生阻害活性が失活するとは認められないというべきである。 (3) カリクレイン産生反応の不停止 ア 甲第183号証(大阪大学歯学部教授P作成の平成5年3月29日付け「カリクレイン産生阻害能の測定方法に関するコメント」)、第193号証(前記D、E作成の平成6年9月9日付け実験報告書(T))、第195号証(同D作成の平成6年9月10日付け陳述書(T))、第198号証(九州大学名誉教授Q作成の平成6年9月30日付け陳述書)、第199号証(前記K作成の平成6年10月5日付け「コメント」)、第200号証(前記P作成の平成6年10月7日付け「『実験報告書U』に対するコメント」)、第206号証(前記Q作成の平成7年10月9日付け陳述書)、第210号証(前記M作成の1996年5月22日付け鑑定書)、第214号証(前記D、E作成の平成8年5月21日付け実験報告書(V))、第229号証(前記M作成の1996年10月17日付け鑑定書U)には、LBTIの添加によってカリクレインの産生が抑えられること、カリクレイン様物質産生阻害能を正確に測定するためには、LBTIの使用が不可欠であることなどが記載されている。確かに、第1次反応により産生されたカリクレインの量を測定するに当たっては、阻害剤を添加して第1次反応を停止させることができるならば、第1次反応を停止させた方が、阻害剤を添加せず第1次反応が継続し得る状態のままで測定するよりも、正確な測定値を求めることができるものと考えられる。 しかし、イ-2方法は、第1次反応により産生されたカリクレインの絶対量を直接測定するものではなく、標準試料(被検物質及びカオリン懸濁液が入っておらず、代わりにカリジノゲナーゼ(腺性カリクレイン)標準溶液が用いられている。)の吸光度(AS)と標準ブランク(カリジノゲナーゼ標準溶液の代わりに緩衝液が入っている。)の吸光度(A SB )との差(A S -A SB )と、被検物質試料の吸光度(AT)とブランク試料の吸光度(A TB )の差(A T -A TB )との大小を比較すること、換言すれば、標準試料の吸光度を基準として被検物質試料の吸光度との大小を比べることにより(いずれもブランクの吸光度が差し引かれている。)、被検物質試料の吸光度が一定値以下であること、すなわち被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性が一定値以上あることを判定するものである。阻害剤を用いない場合は、阻害剤を用いた場合に比べ、第1次反応の継続時間が長くなる可能性はあっても、短くなることはない。そして、仮に第1次反応の継続時間が長くなるとすれば、カリクレイン様物質が多く産出され、吸光度が大きくなり、カリクレイン活性が大きく測定されることとなる。しかるに、仮に被検物質の吸光度が実際より大きく測定されたとしても、その吸光度(試料ブランクの吸光度を差し引いたもの)が、標準溶液の吸光度(標準ブランクの吸光度を差し引いたもの)よりも小さいと判定されれば、その被検物質の真の吸光度は、標準溶液の吸光度よりも優に小さいことは間違いないから、被検物質の吸光度が標準溶液の吸光度よりも小さいこと、言い換えれば、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性が所定の値よりも大きいことを、確実に検査することができる。このように、イ-2方法は、 被検物質を添加した溶液の吸光度が標準溶液の吸光度よりも小さい場合に、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性があると判定するものであるから、標準溶液の吸光度の値を適切に設定すれば、阻害剤を用いなくても、被検物質のカリクレイン様物質産生阻害活性が一定値以上あることを正確に判定し得るといえる。 イ 甲第36号証(前記M作成の2000年8月25日付け鑑定書)には、 活性型血液凝固第]U因子に対する特異的阻害剤であるコーントリプシンインヒビター(CTI)を用いてカリクレイン産生量を測定した実験の結果が記載されており、3回の実験すべてにおいて、CTIを用いない場合の吸光度の値がCTIを用いた場合の吸光度の値に比べて大きくなった旨記載されており、その原因として、 第2次反応の間に引き続きカリクレインが産生されることが指摘されている。 しかし、イ-2方法は、被検物質を添加した溶液の吸光度と標準溶液の吸光度(ただし、いずれもブランクの吸光度を差し引いたもの)を比較し、一定の水準以上のカリクレイン様物質産生阻害活性を有するかどうかを判定するものである。このような方法を前提とすると、すべての実験でCTIを用いない場合の吸光度の値の方が大きくなっているとしても、阻害活性を判断する上で、予めそのことを考慮に入れていれば、判定をすることは可能であると考えられる。CTIを用いない場合の吸光度の値の方が大きくなっていることをもって、このような方法によるカリクレイン様物質産生阻害活性の有無の判定ができないことの理由とすることはできないというべきである。 (4) 被検物質非存在下の測定群の設定の有無 甲第183号証、第206号証、第210号証、第215号証(前記D作成の平成8年5月20日付け陳述書(X))、第224号証(前記K作成の平成8年9月26日付け意見書)、第225号証(大阪大学蛋白質研究所教授R作成の平成8年10月1日付け回答書)、第226号証(大阪市立大学理学部生物学科微生物化学研究室S作成の平成8年10月1日付け意見書)には、カリクレイン様物質産生阻害活性の測定には、被検物質非存在下の測定群の設定や被検物質非存在下の測定値との対照が必要である旨、イ-2方法では被検物質非添加群の測定が行われていない旨などが記載されている。 しかし、乙第1、第2号証、第160号証、第171号証によれば、イ-2方法においては、試料溶液の代わりに0.25M塩化ナトリウム溶液を用いて操作し、第2次反応後の吸光度が約0.4を示すように測定ごとにヒト血漿の希釈倍率の決定を行い、その上で、カリジノゲナーゼ(腺性カリクレイン)添加群の吸光度と被検物質添加群の吸光度を比較し(カリジノゲナーゼ添加群と被検物質添加群については、いずれもブランクの吸光度が差し引かれる。)、被検物質添加群の吸光度の方が低い場合に、カリクレイン様物質産生阻害活性があると判定されること、カリジノゲナーゼ添加群の吸光度は0.3前後であることが認められる。そこで、カリクレイン様物質産生阻害活性があると判定される場合は、常に、被検物質添加群の吸光度は、カリジノゲナーゼ添加群の吸光度である0.3前後以下、すなわち、0.4以下であることになる。そうすると、試料溶液の代わりに0.25M塩化ナトリウム溶液を用いて操作し、第2次反応後の吸光度が約0.4を示すようにヒト血漿の希釈倍率の決定を行うという操作は、被検物質を添加しない場合の吸光度の設定ということができ、そこで設定された0.4という吸光度は、カリクレイン様物質産生阻害活性があると判定されるためには常に被検物質添加群の吸光度がそれより低くなければならないという意味で、被検物質添加群の吸光度と対照されているということができる。したがって、吸光度が約0.4を示すようにヒト血漿の希釈倍率の設定を行うという操作は、被検物質非添加群の設定ということができる。そして、イ-2方法において、被検物質非存在下の測定がされていないとはいえないし、イ-2方法によって、カリクレイン様物質産生阻害活性の有無は判定できるものというべきである。 (5) したがって、イ-2方法は、確認試験方法として原承認に係る確認試験方法(イ-3方法)と少なくとも同等であると認められる。 4 争点(2)ウ(AによるLBTIの問題点の認識)について (1) 乙第43号証、第63号証、第118ないし第120号証、証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア A(現・被告藤本製薬医薬情報部部長)は、昭和46年に被告藤本製薬に入社し、研究部に配属され、当初、豚膵臓抽出精製物製剤(主薬効成分は腺性カリクレイン)の改良方法の検討を研究テーマとしたことにより、カリクレインに関して研究するようになった。Aは、昭和52年には月刊「薬理と治療」のカリクレイン特集号(第5巻臨時2号、乙第118号証)に「カリクレインの安全性に関する研究」等を共同で発表したが、一連のカリクレイン研究を通じて、医薬品中のカリクレイン活性の測定法に関する技術の蓄積をしていった。 イ Aは、昭和55年4月から大阪大学医学部第4内科に在籍し、カリクレイン-キニン-プロスタグランジン系の病態生理学の研究等に従事するようになり、その一環としてカリクレインの研究も続け、昭和56年には、「臨床化学」(日本臨床化学研究会)10巻2号に「血中カリクレインの簡易測定法」(乙第119号証)と題する共同研究論文を発表した。また、昭和58年には「臨床科学」19巻6号に「カリクレイン活性」(乙第120号証)と題する共同研究を発表したほか、平成2年にはカリクレイン-キニン系に関する論文により学位を取得した。 ウ Aは、大阪大学で研究を続けながら、被告藤本製薬の研究部でQAU(品質保証部門)、薬理関係の責任者としての業務を兼務していた。平成元年に製造承認申請に係る被告医薬品の確認試験に関し、厚生省から「カリクレイン様物質産生阻害活性」の項目を設定するようにとの指摘があった際、被告藤本製薬の研究部課長としてグループ会社の開発上の問題等を知り得る立場にあったAは、被告フジモトDの担当者から、被告医薬品の確認試験に関して指導を依頼されたことがあった。 エ その後、Aは、大阪大学を離れ、平成4年4月に被告藤本製薬の研究体制変更により、研究本部次長となったが、同年2月に被告医薬品について製造承認になり、同年7月ころから被告フジモトDで確認試験の実施が開始されるに際して、担当者からの求めにより、これにかかわることになり、その後の一変申請にも関与するところとなった。 (2) Aは、その陳述書(乙第43号証、第67号証)及び証人尋問において、 一変申請に至る経過等につき、次のように供述している。 ア Aは、前記のとおり、昭和55年から大阪大学医学部第4内科に在籍して、血漿カリクレイン活性の測定法の研究を行い、血漿カリクレインに特異性の高い合成基質を用いて基質濃度、反応時間及び各種阻害剤の影響等を検討したが、その際にAが自ら作成した実験記録(実験ノート)が乙第44号証であり、被告藤本製薬に戻った後も同人が保管していた。 イ Aは、大阪大学在籍中に行った上記研究の際、阻害剤としてLBTIを使用した実験で、理論とは逆にカリクレイン活性が増加するという異常な反応が生じる場合があったことから、購入したLBTI試薬に問題があると考え、当時発表した前記論文(乙第119号証)にはLBTIのデータを除外したが、その当時はこの問題をそれ以上追求しなかった。 ウ 被告フジモトDが行っていた被告医薬品の製造承認申請に対し、厚生省からカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験を追加するように指摘を受けたことから、グループ会社である被告藤本製薬の薬理関係の責任者の立場にいたAは、被告フジモトDの担当者から確認試験規格を設定したいので指導して欲しいとの申出を受け、自己の研究成果である血中カリクレイン測定法とその活性化条件等の資料を提供し、問題があれば相談にのる旨述べた。 エ その後、被告フジモトDは、平成4年2月21日に本件医薬品の製造承認を獲得したが、Aは、同年7月ころ、被告フジモトD羽曳野研究所において原承認書の方法に従って確認試験を実施しようとしたところ、試料ブランク吸光度値が高かったり、コントロール吸光度値が大きく変動することがあるとの相談を受けた。これに対し、Aは、大阪大学での実験の経験から、上記の原因はLBTIにある可能性が高いと判断した。そして、Aの過去の経験から、阻害剤を用いなくても、反応条件を血漿の希釈倍率が適当な範囲内に設定すれば測定できると考えていたので、LBTIを用いないで、第1次反応を正確に20分間とする方法を用いる試験方法を提言した。 オ 被告フジモトD羽曳野研究所でのその後の検討により、Aの意見のとおり、測定を不能とする原因はLBTIにあり、阻害剤を用いないでも測定できることが確認された。当時、被告フジモトDでは、LBTIを用いない方法は、LBTIの問題が解決するまでの緊急的方法と位置づけ、別の阻害剤に変更することも考慮の対象に入れていた。しかし、そのころ、原告が提起した前訴の訴状が送達されてきて、被告フジモトDで検討した結果、阻害剤を使用すると本件特許権を侵害するものとされる可能性があることが判明し、LBTIを用いない方法を継続して採用することになった。そして、原承認書と異なる確認試験方法を継続的に実施するのであるから、一変申請をすることが望ましいとの考えに立って、被告フジモトDは一変申請をした。 (3) 前記(2)によれば、乙第44号証は、Aが大阪大学に在籍して研究していた当時の実験の結果を記録したノートであり、その記載内容、体裁等のほか、乙第43号証、第63号証、第67号証、第82号証(いずれもAの陳述書)及び証人大出の証言に照らして、乙第44号証の記載は信用できるものと判断される。しかし、原告は、乙第44号証について、後で改ざんされたものであるなどとして、その信用性を争うので、検討する。 ア 乙第44号証には、日付けの年の記載に訂正された部分がある(80頁、81頁)ことから、日付けのとおりの年月日(10月20日(75頁)、1980年10月27日(80頁、81頁)、1980年10月30日(82頁、83頁))にすべて記載されたものであるとは、直ちには認められない。しかし、基本的に実験データ等が記載されており、筆跡は同一人によるもので、記載内容はおおむね整合しており、記載された個々の数値も、そのばらつきの程度等に照らして、 実際の実験によるものと認められるから、日付けのとおりの年月日であるとは限らないものの、いずれかの時点で、Aがカリクレイン様物質産生阻害活性を測定した実験結果を記載したものであると推認される。そして、LBTIの添加によってブランクよりも蛍光強度が増加したことを示す実験結果が得られ、その旨を示すチャート(77頁及び83頁)が添付されていることが認められるから、Aは、実験により、LBTIの添加によってカリクレイン産生反応が活性化するという実験結果を得ていたものと認められる。 乙第44号証は、原本の状態に鑑みると、記載された後相当程度の期間が経過しているものと認められ、訂正された日付けの年の部分の記載(80頁、81頁)が、訂正以前は1981年であったとみられることも考慮に入れると、Aがこのような実験結果を得たのは、平成4年12月22日の一変申請の前であったと推認される。 イ 乙第44号証の75頁の下部の「LBTIは0.5mg/ml」という部分、76頁の「LBTI 500μg/ml 測定フリキレる」、「LBTIは活性が上昇しておかしい反応あり」、「再度やりなおす」という部分は、同一頁のその余の実験結果等の記載部分とは、筆記用具が異なり、鉛筆で記載され、80頁の「今回LBTIはOK.前回の反応がおかしかったのか」という部分も、鉛筆で記載されているが、いずれも、筆跡は、その余の実験結果等の記載部分と同一人によるものと認められる。そして、77頁のチャートの右端のグラフと500μgという部分はペンで記載されているところ、EWTI以外で500μg/mlにより測定された試料は、75頁ないし77頁において、LBTI(75頁、76頁)しか示されていないから、77頁のチャートの右端のグラフはLBTIのものと認められる。77頁のチャートの右端のグラフについて、LBTIのものと解しなければ、該当する試料がないという矛盾を生ずることになってしまう。そうすると、75頁の下部の「LBTIは0.5mg/ml」という部分、76頁の「LBTI 500μg/ml 測定フリキレる」、「LBTIは活性が上昇しておかしい反応あり」、「再度やりなおす」という部分は、いずれも鉛筆書きであるが、77頁のチャートなどその余のペン書きの部分の記載と整合性があるものと認められ、改ざんによる加筆ではなく、実験を行った時に記載されたものと考えられる。77頁のチャートの右端のグラフの「LBTI」という記載は、「L」の文字が書き換えられているともみられるが、前記のとおり、500μg/mlの試料がLBTIしかないことからすると、このグラフ自体は、当初からLBTIの測定値によるものと解され、もともとはSBTIの測定値に基づくグラフであったものをLBTIの測定値によるグラフに見せかけるためにグラフの「S」の頭文字を「L」と書き換えたものであるとは認められない。 乙第44号証の80頁の「今回LBTIはOK.前回の反応がおかしかったのか」という部分は、鉛筆書きであるが、実験の評価にかかわる記載であり、 76頁ないし77頁、80頁ないし81頁の各実験結果の比較と整合しているから、80頁ないし81頁記載の実験を行った際に記載したものと考えても不自然であるとはいえない。 乙第44号証の82頁の記載は、すべて鉛筆書きによるものであるが、 筆跡全体に同一性が認められ、実験結果の数値も記載されていることから、実験の行われたときに記載されたものと推認される。83頁のチャートは、82頁に記載された数字に基づくものであるから、83頁のチャートも82頁が記載されるのと同時に作成されたものと推認される。 原告は、乙第44号証が改ざんされたことの根拠として、LBTIに関する部分のみが鉛筆によって記載されていることを主張する。しかし、乙第44号証は、その記載態様等から、実験を行いながらその結果を記載していったものであると認められ、記載の途中で筆記用具を変えることが不自然であるとはいえないし、前記のとおり、鉛筆書きの部分も、その余の記載と同一人の筆跡により書かれており、記載内容も、ほぼ整合性を有していると認められるから、LBTIに関する部分が、鉛筆書きであるが故に加筆又は改ざんされたものであるとはいえない。 ウ 原告は、乙第44号証の80頁ないし81頁の第2回実験は、(ア)日付けの年の記載が訂正されており、それに関して合理的な説明がされていないこと、 (イ)第2回の実験は第1回の実験と蛍光基質の量の点で実験条件が異なること、 (ウ)乙第63号証(Aの陳述書)に添付された乙第44号証のノートの78頁、79頁の部分に記載された実験ではLBTIについて追試が行われていないことから、実際には行われなかったものであると主張する。日付けの年の記載が訂正されていることから、前記のとおり、日付けのとおりの年月日に実際に実験が行われ、 乙第44号証が記載されたとは、認められない。しかし、実験結果等の記載内容からすれば、日付けのとおりの年月日においてでなくとも、実験そのものは行われたものと認められ、第2回の実験が第1回の実験と蛍光基質の量の点で実験条件が異なること、乙第63号証(Aの陳述書)に添付された乙第44号証のノートの78頁、79頁の部分に記載された実験でLBTIについて追試が行われていないことなどの点が認められたとしても、そのことの故に第2回の実験が実際に行われていないとは認められない。 原告は、乙第44号証の82頁、83頁に記載された第3回の実験結果は、(ア)筆跡が第1回、第2回の実験と異なること、(イ)乙第44号証の77頁ないし80頁には、豆を表す「bean」という単語のつづりを誤って「been」と記載していたのに対し、82頁では正しく記載していることから、改ざんされたものであり、信用性がないと主張する。しかし、82頁の記載は、第1回、第2回の実験結果の記載と比較して、筆記用具に鉛筆を用いている点は異なるが、筆跡は同一人によるものと認められる上、前記イのとおり、82頁ないし83頁の記載は、実験の行われたときに記載されたものと認められる。確かに、乙第44号証の77頁ないし80頁には、豆を表す「bean」という単語のつづりが誤って「been」と記載されているのに対し、82頁には正しく記載していることは認められるが、実験室で実験をしながら記入していく実験ノートの性質からすれば、英単語を誤ったつづりで記入することもあり勝ちなところであるし、同一人があるところでは正しいつづりを書き、他の箇所では誤ったつづりを書くということもあり得ないわけではないと考えられ、この点をとらえて、82頁ないし83頁の記載が改ざんされたものであるとはいえない。 原告は、乙第44号証が改ざんされたものであるという主張を裏付ける証拠として甲第71号証(T作成の鑑定書)を提出するが、甲第71号証の鑑定結果は、筆記用具が異なる箇所や訂正された形跡のある箇所について加筆の可能性を指摘するにとどまるものである。これまで述べたとおり、記載内容等をも合わせて考えると、鉛筆で記載された箇所や記載が修正されている箇所についても、すべてが改ざんされたものであるとは認められない。 エ 原告は、乙第44号証は、もともとは100頁のノートであるが現在は84頁しかなく、Aは頁の減少の理由を合理的に説明していないこと、Aは、頁の通し番号をいつ振ったか覚えていないと供述していること、一度貼った紙をはがした形跡があることをも改ざんの根拠として主張する。しかし、いつ振ったか覚えていないとしても、頁に通し番号が振られており、実験結果を記載した部分は、実験結果をほぼそのまま記載したものと考えられるところから、乙第44号証は、実験ごとに日を異にしたとしても、一連に作成されたものと認められる。そして、乙第44号証は、その記載態様等から、実験を行いながらその結果を記載していったメモのような性質を有するものであったと認められ、後に外部へ提出したり、事実を厳格に証明するために作成されたものとは考えられないから、これらの原告主張の点が認められるとしても、その故に、その部分が改ざんされたものであるということはできない。 (4) 乙第67号証及び証人Aの証言によれば、Aがその証言において、イ-2方法の第2次反応において増加するカリクレインの量が誤差の範囲に納まる旨供述した趣旨は、増加するカリクレインの量が、カリクレイン様物質産生阻害活性の有無を判定する確認試験を実施し得る条件の範囲内にあるという趣旨であったものと認められる。そして、前記3(3)のとおり、阻害剤によって第1次反応を停止しないイ-2方法によっても確認試験を行い得るから、Aのこの供述は、真実に反するものとはいえない。 また、乙第67号証によれば、Aが、誤差の範囲に納まるという知見を「血中カリクレインの簡易測定法」という論文(雑誌「臨床科学」第10巻第2号所収、乙第119号証)から得られた旨供述した趣旨は、反応成分の濃度が反応速度に与える影響を考えるについて、成分濃度が上記論文に記載された実験よりどの程度希釈されたかに着目したという趣旨であったと認められるから、この点についてのAの供述も、真実に反するものとはいえない。 (5) 前記(3)アのとおり、Aは、被告フジモトDが一変申請を行った平成4年12月22日以前に、LBTIの添加によってカリクレイン産生反応が活性化するという実験結果を得ていたことが認められる。他方、乙第1、第2号証によれば、 一変申請理由には、LBTIがカリクレイン産生反応を停止しないということが記載されていたことが認められる。カリクレイン産生反応を活性化するということと、カリクレイン産生反応を停止しないということは、その文言上の表現に基づいて厳密に比べれば異なるといえる。しかし、被告医薬品の確認試験において、LBTI等の阻害剤に求められている役割は、活性型血液凝固第]U因子活性を阻害し、カリクレインの産生を阻害するということであり、仮にLBTIがカリクレインの産生を阻害せず、それ以上に、カリクレイン産生反応を促進したとしても、LBTI等の阻害剤に求められている役割との関係に限っていえば、そのような阻害剤としての役割を果たさない、すなわち、カリクレイン産生反応を停止しないということもできる。そして、LBTIに、カリクレインの産生を促進する作用があることを認識していたとしても、阻害剤としてLBTIの使用をやめるという趣旨の一変申請を行うに当たり、一変申請理由に、阻害剤としての役割を果たさないということ、すなわちカリクレイン産生反応を停止しないということを記載することは、格別不自然とはいえない。 (6) 被告らは、Aが、LBTIに問題があることを認識していたので、「血中カリクレインの簡易測定法」という論文(乙第119号証)では、EWTI等のデータを採用したと主張する。 「血中カリクレインの簡易測定法」という論文(乙第119号証)は、従前開発されていた血中カリクレイン用蛍光合成基質(Z-phe-arg-MCA)を用いた簡易血中カリクレイン測定法の検討を行ったものであり、同論文に記載された実験においては、阻害剤としてSBTI、EWTI等を用いた成績が報告されているものの、LBTIの使用は記載されていない。この点に関し、Aは、LBTIについても阻害剤として検討したが、LBTIの添加によって理論とは逆にカリクレイン活性が増加した場合があり、購入したLBTI試薬に問題があると考えて、同論文ではデータとして採用しなかった旨述べている(乙第63号証、同証人の証言)。しかし、同論文には、本件で問題とされているところの、LBTIが活性型血液凝固第XU因子の活性を阻害しないという点を指摘する記述はないから、同論文に記載された実験にLBTIが使用されていないことをもって、直ちに、同論文が書かれた昭和56年の時点においてAがLBTIの問題点を認識していたと認めることはできない。 (7) Aが平成6年に発表した甲第74号証の論文には、LBTIがカリクレイン産生反応を停止しないということは記載されていない。しかし、甲第74号証は、概説書の一部分であり、カリクレインキニン系について一般的な事項が記載されているにとどまるから、そこに、LBTIがカリクレイン産生反応を停止しないということが記載されていなかったとしても、直ちに、Aが、甲第74号証が発表された平成6年の時点においてLBTIの問題点を認識していなかったと認めることはできない。 (8) 以上によれば、Aは、いずれの時期であるかは必ずしも定かではないが、 昭和55年より後、一変申請前に、カリクレイン様物質産生阻害活性を測定する実験を行い、それにより、LBTIの添加によってカリクレイン産生反応が活性化するという実験結果を得ていたものと認められる。そして、LBTIがカリクレイン産生反応を停止せず逆に促進する性質を有するということを認識していたものと推認される。 5 争点(2)エ(製品標準書等の作成日及びイ-2方法の実施日)について (1) 乙第32号証、第37ないし第42号証について検討する。 ア 薬事法の規定に基づく「医薬品の製造管理及び品質管理規則」(昭和55年8月16日厚生省令第31号)3条には、「医薬品の製造業者は、製造所における医薬品の製造管理及び品質管理を適切に行うため、医薬品の品目ごとに、製造承認事項、製造手順その他必要な事項について記載した製品標準書を当該医薬品の製造に係る製造所ごとに作成しなければならない。」と規定されており、その施行通知である「医薬品の製造管理及び品質管理規則並びに薬局等構造設備規則の一部を改正する省令等の施行について」(昭和55年10月9日薬発第1332厚生省薬務局長通知)には、「「製造承認事項、製造手順その他必要な事項」とは、次の事項をいうものであること。(ア)医薬品の一般的名称及び販売名(イ)製造承認年月日及び製造許可年月日(ウ)成分及び分量(成分が不明なものにあってはその本質)(エ)原料、中間製品及び製品の規格及び試験方法・・・」、「なお、規格及び試験方法に関しては、次の事項も製品標準書に記載しておくこと。@)製造承認書又は公定書で定められている規格及び試験方法よりもより厳格な規格及びより精度の高い試験方法を用いる場合には、その規格及び試験方法並びにその根拠」と規定されていた(甲第39号証、第60号証、乙第68号証、弁論の全趣旨)。 イ 甲第77号証、乙第32号証、第37ないし第42号証によれば、製品標準書には、総括表(被告フジモトDの作成した製品標準書では統括表)が設けられ、工場、一般的名称及び販売名、剤型、承認年月日、承認番号、許可年月日、制定者氏名、改訂年月日、改訂箇所、改訂理由、改訂者氏名等が記載されることが認められる 乙第32号証、第37ないし第42号証によれば、被告フジモトDは、 毎年度、製品標準書を作成し、過去の年度の訂正箇所については、毎年度、訂正者の検印を得て製品標準書を作成していたものと認められる。そして、平成8年8月1日の定期改訂者が乙第39号証の製品標準書ではGであったのに乙第40ないし第42号証の製品標準書ではUとされていること、制定者名の欄に検印がある年度とない年度があること、平成7年2月の「他の試験検査設備の利用」という改訂事項の改訂年月日欄の日にちが、乙第38ないし第40号証では空欄となっているのに乙第41、第42号証では「1日」と記載されていること、平成7年については定期改訂日が記載されていないことなど、各年度によって記載に食い違いが生じており、定期改訂日として日曜日である平成11年8月1日が記載されており、乙第32号証及び第37号証では、被告製剤の製造承認番号が、本来は「04AM第0269号」(甲第4号証、乙第38ないし第42号証)であるのに、「04AM第02705」と誤って記載されていることなどの不備が認められる。このような不備があることからすると、乙第32号証、第37ないし第42号証には、製品標準書としては、不十分な点があることは否定し得ない。 しかし、乙第32号証、第37ないし第42号証は、甲第77号証(「GMP解説-改訂版-」厚生省薬務局監視指導課監修、昭和53年7月15日発行)に示された製品標準書の様式に照らしても、全体として製品標準書としての体裁をほぼ備えており、医薬品の製造管理及び品質管理規則並びにその施行通知に規定された事項も記載されている。訂正箇所、訂正理由の記載内容も、詳細とはいえないが、内容を推知し得る程度には記載されている。製品標準書の記載の仕方について、甲第77号証には、「総括表を各製品の見出しとして使用することとしたのは、取り扱い上の誤りを防止するためであり、承認事項の変更および自社規格の変更があった場合、すでに改廃された製造方法や試験方法等によって誤った製造管理、品質管理が行なわれることがないよう改訂事項、改訂年月日および改訂理由を記載することになっている。」(同27頁@)と記載され、総括表に承認事項の変更を記載することとされているのに対し、乙第68号証(「GMP解説1984年版」厚生省薬務局監視指導課監修、昭和59年3月20日発行)、甲第39号証(同書1987年版、昭和62年11月20日発行)には、総括表に承認事項の変更を記載すべき旨書かれていないことから、平成4年当時には、承認事項の変更は、必ずしも総括表に記載することとされていなかったものと認められる。 乙第32号証付属書面は、「ローズモルゲン注の規格及び試験方法」と題する書面であり、「確認試験(5)の試験方法について、下記のとおり変更する。変更年月日は平成4年9月19日からとする。」と記載され、品質管理責任者として「G」の署名押印があり、「T.変更事項」として、LBTIを加えて第1次反応を停止させる旨の変更前の記載が、LBTIを加えずに直ちに第2次反応に移行する旨の変更後の記載と対比して記載され、「U.変更理由」として、LBTI(リママメトリプシンンヒビター)の市販品はロットによって品質が安定しておらず、 カリクレイン様物質産生阻害活性の阻害剤として市販品の中で使用できるものと使用できないものが存在すること、LBTIを入れて反応を進めた実験とLBTIを入れないで第1次反応からすぐに第2次反応に反応を進めた実験とでデータがほぼ同じであることが、実験の測定データとともに記載されている。そして、「U.変更理由」の結論として、LBTIの品質が一定でないこと及びLBTIを使用しなくてもカリクレイン様物質産生阻害活性を測定できることから、試験方法をLBTIを使用しない方法に変更した旨記載されている。乙第32号証付属書面は、乙第32号証中の統括表、最終製品試験記録〔1〕、最終製品試験記録〔2〕とともに提出されており、その提出の態様、文書の体裁及び記載内容から、乙第32号証と一体のものであると認められ、原承認に係るイ-3方法と異なるイ-2方法の内容及びイ-2方法に変更した根拠が記載されているものと認められる。 そうすると、製品標準書の統括表に確認試験方法の変更が記載されていなくても、製品標準書全体としては、前記施行通知の定める「規格及び試験方法並びにその根拠」が記載されているものと認められる。前記のような不備はあるものの、乙第32号証は、乙第32号証付属書面と一体をなし、真に存在した製品標準書であると認められる。また、乙第37ないし第42号証も、真に存在した製品標準書であると認められる。 乙第38ないし第42号証の平成6年7月21日の改訂箇所欄には「中間製品試験規格」、改訂理由欄には「製造工程中にpHの上昇が認められるため規格変更」と記載され、平成7年6月1日の改訂箇所欄には、「中間製品試験規格」、改訂理由欄には「調合工程のpH規格を製品規格に合わせる」と記載されているが、これらの記載及び弁論の全趣旨によれば、これらの改訂は、製造工程中のpH値の規格を厳格にし、製品規格に合わせた趣旨であると認められるから、一変承認を受けなければできない製品のpHの調整が記載されているという原告の主張は、採用することができない。また、被告らは、被告フジモトDが別途変更履歴をまとめたものを作成していると主張しつつ、それを提出していないが、乙第32号証、第37ないし第42号証は、これまで述べたとおり、その記載態様や記載事項により、真に存在した製品標準書であると認められ、被告らが、変更履歴をまとめたものを提出しないからといって、この認定が覆されるものではない。 (2) 前記(1)イのとおり、乙第32号証付属書面は、乙第32号証と一体であり、確認試験方法がイ-3方法からイ-2方法へ変更された事実及び根拠を明らかにする趣旨で製品標準書の一部とされているものである。そうすると、確認試験方法の変更の事実及び根拠を明らかにする実験結果が示されていれば、その趣旨を達成することができ、必ずしも一変承認に必要な回数の実験を記載する必要はないものと解される。したがって、LBTIの品質にばらつきがあるということを裏付ける実験と、カリクレイン様物質産生阻害活性の測定についてLBTIを用いなくても同等の結果が得られるということを裏付ける実験が各1回しか行われていないことを不備とする原告の主張は、採用することができない。 また、カリジノゲナーゼ標準品の吸光度に実験系Tと実験系Uで0.14の差が生じていることは、完璧な実験結果を求める観点からは好ましくないかもしれないが、これによって確認試験の実施が不可能となるわけではないから、この点をもって、乙第32号証付属書面記載の実験結果が信用できないとはいえない。 乙第32号証付属書面記載の変更理由は、LBTIのロットによって、カリクレイン活性が増加され、ブランク吸光度の値が0.04以下にならない場合があるという趣旨と解することができ、これは、前記4(5)のとおり、阻害剤としてのLBTIの役割という面からいえば、LBTIがロットによりカリクレイン活性を停止しない場合があったと表現することもできると解されるから、乙第32号証付属書面記載の変更理由と一変申請理由が異なるとしても、それによって乙第32号証付属書面が真に存在したものではないとはいえない。 乙第32号証付属書面の実験においては、ブランク群(AB )の吸光度は、ロット番号18F8080については0.0368、ロット番号129F8235については0.1209であり、後者が前者の3倍以上であるのに対し、カオリン懸濁液を添加した群(A)の吸光度は、ロット番号18F8080については0.4087、ロット番号129F8235については0.3885であり、ロット番号129F8235の吸光度の方が低いものの、その差はわずかにとどまる。 そして、カリクレインの生成に寄与する可能性のある物質としては、ブランク群ではLBTIのみが考えられるのに対し、カオリン懸濁液を添加した群では、LBTIとともにカオリンが考えられ、ブランク群の方が、LBTIの働きを直接に反映しているとみられる。そうすると、ブランク群の吸光度の著しい差から、LBTIによりカリレインの生成が惹起されたという結論を導いても、不合理とはいえない。 したがって、乙第32号証付属書面が真に存在した書面であるとはいえないとする原告の主張は、採用することができない。 (3)ア 乙第33号証は、「プロトコール担当者承認指示書」と題する書面であり、「試験責任者氏名V H4年9月1日、信頼性保証ユニット氏名A H4年9月1日」、「プロトコールH-501 承認日 H4.9.1の担当者を上記の通り指示する。」、「運営管理者氏名W H4年9月1日」と記載された表紙に、 平成4年9月2日、21日及び24日付けの、実験データを記載した実験報告書がつづられたものである。 乙第33号証には、プロトコールNo.H501は添付されていないが、乙第33号証に記載された実験結果によれば、同プロトコールによって指示された実験は、確認試験においてLBTIが活性型血液凝固第]U因子活性を阻害しカリクレインの産生を停止する作用があるかどうかを確かめるものであったと認められ、プロトコールNo.H501が添付されていないことをもって、乙第33号証が真に存在する書面でなかったとはいえない。 原告は、乙第33号証につき、プロトコール担当者承認指示書と実験報告書の間に関連性や一体性がないことなどを主張するが、その趣旨は、乙第33号証の1枚目の「プロトコール担当者承認指示書」とその余の実験報告書との間に契印がないこと等を指摘する趣旨と解される。しかし、契印等がなくても、一つのまとまった文書として保存されていれば、一体性が認められるものと解され、乙第33号証は、その体裁から、「プロトコール担当者承認指示書」とその余の実験報告書が一つのまとまった文書として保存されていたものと認められるから、契印等がないことをもって、プロトコール担当者承認指示書と実験報告書の間に関連性や一体性がないとはいえない。 乙第33号証の測定チャートは、実験日を記載した紙面に糊付けされて実験者の契印が押されているから、測定チャートに実験日が記載されていなくても、不備があるとは認められない。 乙第33号証には、実験に用いたLBTIのロット番号が記載されておらず、その点では実験報告書として十分といえない余地もあるが、実験を行うに当たり、わざわざ規格品以外のLBTIを用いたことをうかがわせる根拠はなく、規格品のLBTIを用いたものと推認され、ロット番号が書かれていないことをもって、乙第33号証が真に存在する書面でなかったとはいえない。 イ 乙第34号証は、「カリクレイン様物質産生阻害試験方法に関する資料 LBTIのロット間による違い-一部変更の補足実験-」と題し、「会社名称:株式会社フジモト・ダイアグノスティックス」、「試験責任者:A」、「試験担当者:V」、「試験実施期間 自平成4年9月24日至平成4年9月24日」と記載された表紙に、実験の経過、結果等を記載した書面がつづられたものである。 原承認及び一変承認においては、試料溶液の代わりに0.25M塩化ナトリウム溶液を用いてヒト正常血漿を試験方法と同様に操作した場合の吸光度を0.4にすべき旨が定められているにもかかわらず、乙第34号証の実験A(乙第34号証3頁1行ないし4行、表1)においては、ロット番号18F8080のLBTIの吸光度が0.5369であり、その点では、実験が必ずしも正確に行われなかったといえる。しかし、この吸光度の数値は、実際に行った実験結果を記載したものと推認され、このような数値が記載されていることの故に、乙第34号証が真に存在する書面でなかったとはいえない。 また、弁論の全趣旨によれば、LBTIの分析証明書で確認されているトリプシン阻害活性は、活性型血液凝固第]U因子活性の特異的阻害性とは必ずしも同視することができないことが認められる上、乙第34号証の実験において、甲第214号証の実験と異なった結果が出たとしても、その故に乙第34号証が真に存在する書面でなかったとはいえない。 ウ そうすると、乙第33、第34号証は、真に存在した書面であると認められる。そして、被告医薬品の確認試験の方法をイ-3方法からイ-2方法へ変更することが必要とされた理由は、阻害剤であるLBTIがカリクレイン産生を阻害しない場合があるという点にあったのであるから、LBTIがカリクレイン産生を阻害しないかどうかという点を明らかにすることが重要であるといえる。乙第33、第34号証は、その点を確認しているから、イ-2方法への変更の必要性を裏付けた文書であるということはできる。しかし、一変申請のためには、医薬品3ロットにつき各3回の実験を行った結果を添付しなければならないところ、乙第33、第34号証には、そのような実験は記載されていないから、これらの書証のみに基づいて一変申請が行われたと認めることはできない。 (4) 甲第62号証(「英和和英GMP関連用語集」日本製薬工業協会GMP委員会編、平成4年3月発行。甲第34、第35号証、第39号証、第61号証、乙第3号証によれば、GMPとは、「医薬品の製造及び品質管理に関する基準」のことであり、Good Manufacturing Practiceの略称である。)には、「Standard operating procedure(SOP) 標準操作手順書」という記載があり、甲第63号証(「GMPセルフインスペクション-マニュアル-」大阪医薬品協会GMP委員会編、平成4年10月発行)には、「SOP(Standard Operating Procedure) 標準作業手順書」という記載があり、甲第61号証(「医薬品の製造及び品質管理に関する基準(GMP)について」、医薬品研究所収、昭和51年発行)には、「人為的なミスの発生を最少限にとどめ、製品の汚染及び品質低下を防止して品質を確保するためには、最底限次のような点が守られなければならない。すなわち@標準化した作業条件及び手順を文書として作成し、そのとおりに全ての作業を行い、実施結果の記録を整備する。」(同97頁左欄下から2行ないし右欄上から4行)と記載されていることが認められ、これらによれば、平成4年当時、規則によって作成を義務付けられていたものであるかどうかという点はともかく、標準作業手順書が、医薬品製造業者によって作成される場合があったものと認められる。 乙第310号証(標準作業手順書)には、(ア)「操作10」の液にクエン酸溶液を添加するという操作が記載されていない点、及び(イ)「ATB 」のところに吸光度「0.04以下」と記載されるべきところ、「ASB 」のところに吸光度「0.04以下」と記載されている点に不備がある。そして、Aは、その証言において、本件の確認試験を行うために標準作業手順書を使っていたと理解される旨供述し、乙第316号証(Fの陳述書)には、被告フジモトD品質管理責任者・係長Fが、上司から指導を受け、被告製剤のカリクレイン様物質産生阻害活性試験の標準作業手順書を作成し、標準作業手順書に従って試験を行ってきたこと、部下にもカリクレイン様物質産生阻害活性の試験方法を標準作業手順書に従って指導した旨の記載がある。しかし、前記(ア)のクエン酸を添加する操作は、第2次反応を停止するためのものであり、その操作が必要とされる理由は明確であること、乙第310号証には、「11) 9)の液を30°水浴中で正確に20分間静置した後、直ちにクエン酸溶液(1→100)0.8mlを加えて反応を止める。」(この「9)の液」とは、試料溶液にヒト正常血漿希釈液を加え(Test)更にカオリン懸濁液を加えたもの、0.25M塩化ナトリウム溶液にヒト正常血漿希釈液を加え(Control)更にカオリン懸濁液を加えたもの、0.25M塩化ナトリウム溶液にヒト正常血漿希釈液を加え(Test Blank)更に0.05Mトリス塩酸緩衝液を加えたものである。)と、クエン酸溶液を添加する操作が記載され、実際にそのような操作が行われたはずであること、確認試験を行うのが専門技術者であることを考えると、標準作業手順書に記載が欠落していても、実際に確認試験を実施する際には、 「操作10」の液にクエン酸溶液を添加する操作が行われたものと推認される。また、最終的な判定は、(AT -ATB )と(AS -ASB )の比較によって行われるので、吸光度について前記(イ)のような誤りが記載されていたとしても、直ちに測定が不能となるわけではないから、このような記載の誤りがあっても、イ-2方法が実施されていたと推認することの妨げとはならない。Aは、その証言において、本件の確認試験は、実験のやり方は難しくないが、複雑なので、実際に試験を行う者は、それまで試験を行ってきた者に教わり、実際に試験を行って確認をする旨供述しており、標準作業手順書の細かな記載よりは、実際に確認試験を遂行することができるかどうかという点が重視されていたものと解されるから、前記(ア)、(イ)の記載不備の内容に照らすならば、これらの不備があったとしても、イ-2方法が実施されたことを認めるにつき妨げはないと解される。乙第310号証は、前記(ア)、(イ)以外の部分においては、イ-2方法による確認試験の方法が詳細に記載されており、それらの記載に照らせば、前記(ア)、(イ)の記載不備は、比較的軽微なものであるともいうことができ、これらの不備があることをもって、乙第310号証が真に存在した標準作業手順書ではないとはいえず、むしろ、記載態様や記載事項に照らして、乙第310号証が標準作業手順書として存在したことが認められるといえる。 なお、乙第19号証及び弁論の全趣旨によれば、平成10年1月28日付けで、標準作業手順書の改訂が行われ、乙第310号証の「10)の液」に該当する液にもクエン酸溶液を加え、ATB の吸光度について0.04とする旨の訂正を加えた標準作業手順書が作成されたことが認められる。 (5) 被告らは、平成4年9月19日に行った被告製剤の確認試験に関する書類の保存期間が4年であり、その確認試験を実施した被告フジモトDの羽曳野研究所は、平成10年4月16日に医薬品製造業を廃止したため、その確認試験に関する資料は、現在では残っていないと主張する。しかし、被告フジモトDは、平成4年8月20日に前訴の提起を受け、前訴においては、イ-2方法を実施していたかどうかが争点となっており、平成10年4月16日の段階では、未だ上告審が係属中であったから、その時点で、イ-2方法により実施した確認試験の資料を廃棄することは、通常考えられないところである。また、乙第30号証の2及び第155号証によれば、平成4年12月10日にカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を行ったロット番号1211の被告製剤や、平成6年2月4日、同年3月9日、平成7年9月26日にカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を行った被告製剤については、試験結果を示す書面が残されていることが認められ、平成10年4月16日以前の資料がすべて廃棄されたわけではないことがうかがわれる。そうすると、平成4年9月19日に行った被告製剤の確認試験に関する資料が存在しないということは、にわかに信用することができない(ただし、この点に関する被告らの主張が信用することができなくても、直ちに、その他の被告らの主張がすべて信用できないとされるわけではない。)。 (6) 以上によれば、乙第32号証、第37ないし第42号証は、製品標準書として作成されたものであり、乙第33、第34号証は、イ-2方法への変更を裏付ける実験結果を記載した書面であり、乙第310号証は、若干の不備はあるものの、標準作業手順書として作成されたものであると認められる。前記4(8)のとおり、Aが、LBTIについて問題があることを、一変申請前に認識していたと認められるから、平成4年7月に被告フジモトDがLBTIの問題点を見出したとすれば、その後にAがイ-2方法を提案した可能性も、否定することはできないと解される。しかし、平成4年7月にLBTIの問題点を見出し、同年8月1日までにイ-2方法による確認試験の有効性を確かめ、同日、乙第32号証及び乙第310号証を作成したということについては、同年7月から8月1日までの1か月足らずの短期間に、イ-2方法の有効性を確かめる実験等がなされたとは考えにくい上、そのような実験を行ったことの証拠が十分に提出されていないことから、にわかに信用し難い(乙第32号証付属書面に記載された実験結果は、確認試験方法の変更の内容及び根拠を示すには足りるものと解されるが、イ-2方法を実際に確認試験の方法として実施することの可否を確かめる実験の記載としては不十分なものといわざるを得ない。)。そうすると、乙第32号証、第37ないし第42号証には、制定年月日、施行年月日として、乙第310号証には、発効年月日、作製年月日、承認年月日として、いずれも平成4年8月1日の日付けが記載されているが、これらの日付部分は信用することができず、同日の時点でこれらの書面が作成されていたと認めることはできない。そして、乙第32号証付属書面には、確認試験の変更年月日を平成4年9月19日とする旨記載されているが、この日付けのとおり同日から確認試験の方法がイ-2方法に変更されたということも、にわかに信用し難い。 なお、被告らは、乙第33、第34号証の実験が、一変申請のためのものであると主張するが、一変申請のためには、被告製剤3ロットにつき各3回の実験が必要であるから、これらの実験は、一変申請のためのものとしては不十分であり、イ-2方法を確認試験の方法として確立する過程での実験であったとも考えられる。 6 争点(2)オ(一変承認の合理性)について (1) 前記3(3)のとおり、LBTIなどの阻害剤を用いなくても、確認試験に必要なカリクレイン様物質産生阻害活性を測定することができ、乙第20号証によれば、阻害剤を用いないことは、操作段階を減らし、実施を容易にするという利点もあるものと認められる。そして、このようなところからすると、阻害剤を用いないことは論理の飛躍であるとはいえない。また、弁論の全趣旨によれば、LBTIはトリプシン阻害活性が品質保証されており、トリプシンも活性型血液凝固第]U因子もセリン・プロテアーゼ(蛋白分解酵素)であることが認められるが、トリプシン阻害活性が品質保証されていることにより、直ちに活性型血液凝固第]U因子の阻害活性も同程度に有していると認めるに足りる証拠はない。 (2) 一変承認は、専門機関である厚生大臣によって行われる処分であるから、 対審構造をとっていないとしても、一概に信用性に欠けるということはできない。 (3)ア 甲第80ないし第82号証、第85ないし第90号証、第91号証の1ないし4、第92ないし第97号証、第98号証の1ないし4、乙第1、第2号証、第8ないし第13号証、第43号証、第47ないし第50号証、第52号証、 第72、第73号証、第74号証の1ないし5、第75号証の1、2、第76ないし第78号証、第79号証の1ないし5、第80号証の1、2、第81、第82号証及び弁論の全趣旨によれば、一変承認の経過については、別紙経過表のとおりであることが認められる。 別紙経過表記載の認定事実によれば、被告フジモトDは、一変申請後、 一変承認が行われるまで、厚生省等の担当官から、返送や指示を受けたが、これらの返送や指示は、主として、LBTIの問題点やイ-1方法とイ-2方法の同一性を明確にするために、説明や資料の補充を求めたものであり、LBTIを使用しないイ-2方法自体について、その有効性を問題とするようなものではなかった。また、これに対する被告フジモトDの回答は、必要な説明や資料を補足するものであり、LBTIがロットによりカリクレイン様物質産生阻害活性を有しない場合があるという趣旨は一貫していたといえる。 イ 乙第51号証及び弁論の全趣旨によれば、一変申請の内容について重大な問題点がある場合は、返戻の措置が採られるものと認められ、返送の措置が採られるのは、それ以外の検討又は訂正を要する場合であると認められる。そして、別紙経過表記載のとおり、本件においては、一変申請に対して2回の返送が行われたが、いずれに対しても被告フジモトDから回答が行われ、最終的に一変申請のとおり一変承認が行われたものであって、別紙経過表記載の経緯に照らすと、一変申請から一変承認まで時間がかかったことをもって、直ちにイ-2方法の同等性に問題があったことの根拠とすることはできない。 ウ なお、本訴において、当裁判所は、原告の申立てに基づき、文書提出命令により、被告フジモトDに対し、一変申請に関する他の文書とともに、「FN原液『フジモト』」の一変申請に関する平成11年2月18日付け差換え理由書及び差換え書類一式、「ローズモルゲン注」の一変申請に関する平成11年2月19日付け差換え理由書及び差換え書類一式の提出を命じた。これに対し、被告フジモトDは、「FN原液『フジモト』」の一変申請に関する平成11年2月18日付け差換え理由書(甲第91号証の1)と、差換え書類一式のうち「FN原液「フジモト」の規格及び試験方法設定に関する資料〔確認試験(5)〕-各種濃度における同時再現性及び5ロットでの変更前後の比較-」(甲第91号証の2)、「カリクレイン様物質産生阻害能試験におけるLBTI添加の影響」(甲第91号証の3)、 「カリクレイン様物質産生阻害活性-第一反応液濃度の違いによる第二反応中のFXU活性化への影響-」(甲第91号証の4)の3点の資料を提出し、差換え書類一式のうちその余の部分を提出しなかった。また、被告フジモトDは、「ローズモルゲン注」の一変申請に関する平成11年2月19日付け差換え理由書(甲第98号証の1)と、差換え書類一式のうち「ローズモルゲン注の規格及び試験方法設定に関する資料〔確認試験(5)〕-各種濃度における同時再現性及び5ロットでの変更前後の比較-」(甲第98号証の2)、「カリクレイン様物質産生阻害能試験におけるLBTI添加の影響」(甲第98号証の3)、「カリクレイン様物質産生阻害活性-第一反応液濃度の違いによる第二反応中のFXU活性化への影響-」(甲第98号証の4)の3点の資料を提出し、差換え書類一式のうちその余の部分を提出しなかった。 ところで、甲第91号証の1(差換え理由書)によれば、FN原液「フジモト」の差換え書類一式のうち、本件で問題となっている確認試験(5)に関する資料は、被告フジモトDが提出した3点の資料であると認められ(甲第91号証の1に、資料名として「カリクレイン様物質産生阻害活性能試験におけるLBTI添加の影響」と記載されているのは、「カリクレイン様物質産生阻害能試験におけるLBTI添加の影響」(甲第91号証の3)の誤記であり、資料名として「カリクレイン様物質産生阻害活性試験-第一反応液濃度の違いによる第二反応中のFXU活性化への影響-」と記載されているのは、「カリクレイン様物質産生阻害活性-第一反応液濃度の違いによる第二反応中のFXU活性化への影響-」(甲第91号証の4)の誤記であると認められる。)、差換え書類一式のうちその余の部分は、確認試験(5)の資料ではないと推認される。そうすると、被告フジモトDが提出しなかった差換え書類一式のその余の部分は、本件で問題となっている確認試験(5)の資料ではないから、その不提出の故をもって民事訴訟法224条1項により当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めるのは、相当ではない。甲第98号証の1(差換え理由書)によれば、同様に、「ローズモルゲン注」の差換え書類一式のうち、本件で問題となっている確認試験(5)に関する資料は、被告フジモトDが提出した3点の資料であると認められ(甲第98号証の1に、資料名として「カリクレイン様物質産生阻害活性能試験におけるLBTI添加の影響」と記載されているのは、「カリクレイン様物質産生阻害能試験におけるLBTI添加の影響」(甲第98号証の3)の誤記であり、資料名として「カリクレイン様物質産生阻害活性試験-第一反応液濃度の違いによる第二反応中のFXU活性化への影響-」と記載されているのは、「カリクレイン様物質産生阻害活性-第一反応液濃度の違いによる第二反応中のFXU活性化への影響-」(甲第98号証の4)の誤記であると認められる。)、差換え書類一式のうちその余の部分は、確認試験(5)の資料ではないと推認される。そうすると、被告フジモトDが提出しなかった差換え書類一式のその余の部分は、本件で問題となっている確認試験(5)の資料ではないから、その不提出の故をもって民事訴訟法224条1項により当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めるのは、相当ではない。 (4) 以上によれば、一変承認には合理性があるものと認められる。 7 争点(2)カ(イ-2方法の実施を裏付ける証拠の信用性)について (1) 乙第125号証には、目的、試料、実験方法、試料の調整、測定方法、試験結果、判定が書かれ、このうち試料の調整、測定方法としてイ-2方法が記載されている。乙第125号証は、被告フジモトD職員の作成に係る書面であるが、試料の調整、測定方法のみならず、試料のロット番号や使用機器、使用試薬も具体的に記載されており、試験結果の測定値も、数字のばらつきの程度等に照らして、実際に行われた試験結果の数値を記載したものと考えられることから、平成5年3月当時、イ-2方法が実施されていたことを裏付ける証拠の一つとなり得ると解される。 (2) 乙第4ないし第6号証は、被告フジモトDにおいてイ-2方法が実施されていたとする報告書であるが、標準作業手順書が「分析手順書」と記載されておりその理由が明確にされていない点、標準作業手順書である乙第310号証に前記5(4)のような不備があるにもかかわらず、乙第4号証には、その記載に従って測定が行われた旨記載されている点で、信用性に全く問題がないわけではない。しかし、乙第4ないし第6号証は、いずれも専門家の報告書であり、分析手順書の記載が細かな点まで正しかったかどうかはともかく、少なくとも、実際の測定が乙第4ないし第6号証に記載されたイ-2方法と同一の手順により行われたこと、及びLBTIが測定の実施時に使用されなかったことを確認した上で署名押印がされたものと推認され、これらの報告書が記載された時点においてイ-2方法が実施されていたことの証拠の一つとはなり得るものと解される。 (3) 乙第7号証によれば、滋賀県薬事指導所長が、平成10年1月28日、イ-2方法によりカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を行い、その阻害活性を認めたことが認められる。乙第7号証は、その体裁からして、検査結果のみが記載されるべきものでり、測定データ等が記載されるべきものではないから、測定データ等が記載されていないからといって、直ちに信用できないとはいえないし、乙第7号証は、一変申請に係る方法による確認試験の検査結果を通知したものにすぎず、一変申請を承認するかどうかを記載したものではないから、一変承認の権限との抵触も、乙第7号証の信用性に関しては問題にならないと解される。 (4) 乙第36号証の1ないし3は、平成7年2月2日付けの被告フジモトD彦根工場の医薬品製造業の許可の更新に関する書面であるが、これらの書面及び弁論の全趣旨によれば、同許可(薬事法12条1項)は、製造設備や製造管理又は品質管理等の点で基準に適合するかどうかという観点から許否が決せられ(同法13条2項)、これらの基準を満たす限りにおいては、個々の確認試験の方法が製造承認に係る方法と同じか又は同等若しくはそれ以上かという点は、許否の決定に当たって重点が置かれないものと認められる。したがって、これらの書証により、確認試験にイ-2方法が実施されたことが裏付けられるとはいえない。 (5) 乙第35号証には、被告フジモトD彦根工場の医薬品製造業の許可の更新の際、イ-2方法での確認試験による製造が認められ、平成7年2月に医薬品製造業の許可を受けた旨が記載されているが、前記(4)のとおり、医薬品製造業の許可に当たっては、確認試験の方法が製造承認に係る方法と同じか又は同等若しくはそれ以上かという点には重点が置かれていないから、この乙第35号証の記載をもって、イ-2方法が実施されていたことを裏付けるものとすることはできない。 (6) 乙第8号証には、「ローズモルゲン注は現在も特許方法には抵触しない方法を用いた確認試験を実施して製造を継続し」(乙第8号証理由書2枚目9行ないし10行)と記載され、乙第10号証には、「高裁決定は、弊社が特許侵害にあたる試験法を頭初から利用していない事実を、現場検証(証拠保全)を行えば、明確になったところでしたが、防御方法上の弊社の錯誤により発生した誤認(冤罪)であり」(乙第10号証理由書1頁「T.経過について」5行ないし7行)、「弊社では、先発品の試験法特許の存在を知り得た後、直ちに一変申請を行うなど、認可上の対応と共に、当該試験法はバリデーション範囲で変更可能であり、初めから特許方法を使用せず今日に至っております」(同理由書2頁「U.承認経過について」11行ないし13行)と記載されている(なお、「バリデーション」について、甲第26号証(X著「医薬品開発・製造におけるバリデーションの実際」薬業時報社発行)には、「厚生省GMP(省令)の中では『バリデーション』は次のように定義されている。『製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理および品質管理の方法・・・が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすることをいう。』」と記載されている。)。これらの書面は、厚生省健康政策局長宛のものであり、健康政策局は医薬品の製造承認を所管する部署でないとはいえ、 厚生省の一部局であるから、これに対して提出する書面に、特許方法に抵触しない方法を用いていると記載していることからすると、これらの書面は、その提出時期である平成10年及び平成11年当時において、被告フジモトDがイ-2方法を実施していたことを裏付ける一資料であるとはいえる。 8 侵害論のまとめ (1) 前記3のとおり、イ-2方法は、確認試験方法として原承認に係るイ-3方法と少なくとも同等であり、一変承認前においても、イ-3方法に代えて使用することができるものであった。前記4のとおり、Aは、時期がいずれかは定かではないが、昭和55年より後、一変申請前、LBTIの問題点を認識していた。前記5のとおり、被告フジモトDは、製品標準書として乙第32号証、第37ないし第42号証を有しており、標準作業書として乙第310号証を有していたことは認められるが、これらの書面が平成4年8月1日に作成されたこと、同年9月19日からイ-2方法が実施されたということは、認めることができない。そして、前記第2の2(10)の事実と、これまでに述べた認定事実によれば、被告フジモトDは、平成4年8月20日ころ、前訴の訴状の送達を受け、原承認書に記載したイ-3方法を使用すると本件特許権を侵害することになることを知ったこと、その後、イ-3方法を用いずに確認試験を行う方法を真剣に検討したこと、同被告は、平成4年7月ごろ、又は前訴の訴状の送達を受けた後、Aに相談し、Aが、以前に行った実験でLBTIに問題点があった旨を述べ、LBTIを使用しない確認試験方法の検討がされたこと、イ-2方法をもってイ-3方法に代えることができるかという点については、乙第32号証付属書面、乙第33、第34号証記載の実験を始め、何回かの実験が行われたことが、推認される。実験を裏付ける資料は、乙第32号証付属書面、乙第33、第34号証以外には提出されていないが、一変申請を行うためには、医薬品3ロットにつき、各3回以上の実験が必要であるから、一変申請を行った平成4年12月22日までには、これらの実験を終え、イ-2方法をもってイ-3方法に代え得ることについて、実験データ等の相当程度の裏付けを得ていたものと推認される。そして、前訴の係属中であったから、イ-2方法をもってイ-3方法に代え得ることについて相当程度の裏付けを得た後は、イ-2方法を実施していたものと推認される。 そうすると、イ-3方法による原承認を受けていたことにより、被告医薬品の製造販売開始後は、原承認方法のとおりのイ-3方法による確認試験を実施していたことが事実上推定され、イ-3方法(そして、これは実質的にはイ-1方法と同じであり、本件発明の技術的範囲に属する。)の実施が認定されるが、前訴を提起された後であり、かつイ-2方法の代替性について相当程度の裏付けを得たものと推認される一変申請後(平成4年12月22日の後)については、この事実上の推定が覆され、原承認とは異なるイ-2方法を実施していたものと認められる。 なお、被告抽出液については、製品標準書、標準作業手順書などは提出されていないが、被告抽出液についても一変申請がされているから、被告製剤と同様に、製造開始後はイ-3方法が実施されていたが、一変申請後は、原承認とは異なるイ-2方法が実施されていたものと推認される。乙第310号証には不備な点があるが、 前記5(4)のとおり、その点を考慮しても、イ-2方法が実施されていたことは認めることができる。 したがって、被告フジモトDは、本件特許の出願公告後、一変申請の行われた平成4年12月22日まで、イ-3方法を実施し、仮保護の権利を侵害していたものと認められる。 (2) 本件において、被告らが本件特許権又は仮保護の権利を侵害したことについての主張立証責任は、原告にあり、原告は、被告らが本件特許の出願公告から登録までは仮保護の権利、登録から現在まで本件特許権を侵害しているとして主張立証を行っている。これについて、当裁判所が、一変申請の行われた平成4年12月22日まで仮保護の権利の侵害があったと認定することは、弁論主義に反するものではない。また、被告らは、特許権(出願公告後登録までは仮保護の権利)の侵害が当初からなかったとして主張立証を行い、当事者間において、前記第3の1ないし7の原告の主張及び被告らの主張のとおり、イ-2方法のイ-1方法(イ-3方法)に対する代替性の有無やイ-2方法を採用するに至った経緯等について主張立証が行われている。したがって、それらの主張立証に基づいて、平成4年12月22日まで仮保護の権利の侵害があったと認定することは、当事者に何ら不意打ちを与えるものではなく、実質的にみても弁論主義に反することはない。 9 争点(3)(損害額又は不当利得額)について (1) 本件発明は、方法の発明であり、その侵害行為は、方法を使用することであって、その方法を用いて確認試験を実施した物を製造又は販売することは、本件特許権の侵害行為とはならない。しかし、被告医薬品は、各ロットにつきカリクレイン様物質産生阻害活性確認試験を経た上で販売されることに鑑みると、本件発明に係る方法を実施して本件特許権又は仮保護の権利を侵害した場合の実施料相当額を算定するに当たって、確認試験を実施した被告製剤の販売額を参酌することは、 相当であると認められる。そして、甲第11、第12号証、第13号証の1、2の各1ないし5、第14ないし第17号証、乙第29ないし第31号証の各1及び弁論の全趣旨によれば、被告フジモトDは、被告製剤のみを製造販売しており、これをすべて被告藤本製薬に販売納入していること、被告らは藤本製薬グループを構成し、役員人事や工場設備等において密接な関係を有していることが認められ、被告製剤について、被告フジモトDが製造部門を担当し、被告藤本製薬が販売部門を担当しているともいうことができる。このような事情に鑑みると、本件発明に係る方法を実施して本件特許権又は仮保護の権利を侵害したのが被告フジモトDであるとしても、実施料相当額の算定に当たって、被告藤本製薬の1アンプル当たりの販売額を参酌することは相当であると認められる。 (2) 乙第29、第30号証の各1及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の出願公告(平成4年3月11日)後、平成4年12月22日までに被告フジモトDが本件特許方法に該当するイ-3方法により確認試験を行った被告製剤は、ロット番号1208のものとロット番号1211のものであったことが認められる。 弁論の全趣旨によれば、ロット番号1208及び1211の被告製剤についての被告藤本製薬の販売額は、1アンプル当たり194円であったことが認められる。 (3) 乙第29号証の1によれば、ロット番号1208の被告製剤の出荷日、出荷数量は次のとおりであり、出荷数量は合計4090アンプルであったことが認められる。 出荷日 出荷数量 平成4年10月 8日 10アンプル入り包装単位×15個= 150アンプル 50アンプル入り包装単位×16個= 800アンプル 同年12月17日 10アンプル入り包装単位×40個= 400アンプル 50アンプル入り包装単位×40個=2000アンプル 同月25日 10アンプル入り包装単位× 4個= 40アンプル 50アンプル入り包装単位×14個= 700アンプル 合計4090アンプル 乙第30号証の1によれば、ロット番号1211の被告製剤の出荷日、出荷数量は次のとおりであり、出荷数量は合計8830アンプルであったことが認められる。 出荷日 出荷数量 平成4年12月25日 10アンプル入り包装単位×100個=1000アンプル 50アンプル入り包装単位×100個=5000アンプル 平成5年 2月 3日 50アンプル入り包装単位× 40個=2000アンプル 同月10日 50アンプル入り包装単位× 15個= 750アンプル 10アンプル入り包装単位× 1個= 10アンプル 50アンプル入り包装単位× 1個= 50アンプル 10アンプル入り包装単位× 2個= 20アンプル 合計8830アンプル 被告らは、ロット番号1211の被告製剤の出荷日平成5年2月10日付けの50アンプル入り包装単位1個及び10アンプル入り包装単位2個の合計70アンプルは、被告フジモトDから被告藤本製薬の研究所に研究用として譲渡されたものであり、販売されたものではないから、実施料相当額の算定に当たっては算入しないと主張する。しかし、これらについてもイ-1方法による確認試験が実施されており、どのような研究のために譲渡されたのか明らかでなく、特許法69条1項により本件特許権の効力が及ばないともいえないから、実施料相当額算定のための数量の計算に当たっては、これらも算入すべきである。 そうすると、イ-3方法を実施して確認試験を行った被告製剤の数量は、 合計1万2920アンプル(4090アンプル+8830アンプル=1万2920アンプル)であると認められる。 (4) 乙第69号証によれば、医薬品その他の化学製品の分野の実施契約についての昭和63年から平成3年までの年度別総件数累積の実施料率は、イニシャル・ペイメント有りについての最頻値は5パーセント、平均値は5.93パーセントであり、イニシャル・ペイメント無しについての最頻値は5パーセント、平均値は5.01パーセントであることが認められる。甲第4号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製剤は、被告抽出液を成分とすることが認められ、被告製剤が最終製品として出荷されるまでに、被告抽出液及び被告製剤の双方の製造工程において、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験が行われたものと認められる。乙第29号証の2、3によれば、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験は、被告製剤の最終製品について行われる規格及び試験方法17種のうちの1種であることが認められる。カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験は、その内容及び効果に鑑みると、被告抽出液についても、複数種の規格及び試験方法のうちの1種であると推認される。これらの事情を考慮すると、本件発明の実施についての実施料相当額は、被告製剤についての実施と被告抽出液についての実施に対するものを合わせ、被告藤本製薬による被告製剤の販売額の2パーセントとするのが相当である。 (5) そうすると、ロット番号1208及び1211の被告製剤についての実施料相当額は、5万0129円である(194円×1万2920アンプル×2/100=5万0129円)。 被告らは、被告フジモトDについて、人件費等の経費がかかっていることから、利得はないと主張する。しかし、被告フジモトDは、仮保護の権利を侵害することにより、本来支払うべき実施料を支払わないという利得を得たものであるから、人件費等がかかったとしても、利得を否定することはできない。原告は、被告フジモトDに対し、仮保護の権利の侵害を原因として、不当利得返還請求権に基づき、実施料相当額である5万0129円の返還を請求することができる。 10 結論 以上によれば、原告の本訴請求は、被告フジモトDに対して、不当利得として、実施料相当額である5万0129円の返還を求め、それに対する請求の後である平成11年10月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文(なお、本訴において被告らの訴訟活動が訴訟を遅滞させた面があることを考慮して、訴訟費用の負担割合を定めた。)、仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)物件目録1ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液(別紙)物件目録2ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を有効成分とする製剤(別紙)被告方法目録1(イ-1方法)別紙物件目録1記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液又は別紙被告物件目録2記載のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液を有効成分とする製剤を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第]U因子活性化剤を加えて反応させた後、リマ豆トリプシンインヒビター(LBTI)等の活性型血液凝固第]U因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ、生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する前記被検物質のカリクレイン産生阻害能測定法。 (別紙)被告方法目録2(イ-2方法)A本品を減圧乾固させてエタノールで抽出し、乾固させ、塩化ナトリウム溶液を加えて溶かし試料溶液とする。 この試料溶液に生理食塩液で希釈したヒト正常血漿溶液を加えた後、緩衝液で調製したカオリン懸濁液を加えて混和し、氷水中に20分間静置する(以上、第1次反応)。直ちに、この反応液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、20分間反応させた後、反応を停止させて遠心分離を行い、 その上澄液の吸光度を測定して試料吸光度(AT)を求める(以上、第2次反応)。 B一方、試料溶液の代わりに塩化ナトリウム溶液、カオリン懸濁液の代わりに緩衝液を用いて、前記の場合と同様に操作して、吸光度を測定して試料ブランク吸光度(ATB)を求める。 C別に、カリジノゲナーゼ(別名、カリクレイン)標準品に緩衝液を加えて溶かし標準溶液とする。この標準溶液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、以下前記の第2次反応と同様に操作して、吸光度を測定して標準吸光度(AS)を求める。 D一方、標準溶液の代わりに緩衝液を用いて、標準溶液の場合と同様に操作して、吸光度を測定して標準ブランク吸光度(ASB)を求める。 E前記各々の吸光度につき、試料吸光度(AT)から試料ブランク吸光度(ATB)を引いた値と、標準吸光度(AS)から標準ブランク吸光度(ASB)を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値より小さいときは、本品は規格に適合とする。 (別紙)被告方法目録3(イ-3方法)試料溶液0.2mlに生理食塩液で希釈したヒト正常血漿0.05mlを加え5分間静置する。この液にカオリン懸濁液0.25mlを加えて混和し、氷水中に20分間静置する。この液0.2mlにLBTI溶液0.1mlを加え反応を停止させ、これを第T反応停止液とする。 0.1Mトリス塩酸緩衝液0.2mlに合成基質溶液0.1mlを加えて混和した後、30°水浴中で保温する。この液に第T反応停止液0.1mlを添加し、20分間反応させた後、クエン酸溶液(1→100)0.8mlを加えて第U反応を停止する。この液を遠心分離(2200×g,15分間)した後、その上澄を吸光度測定法により波長405nmにおける吸光度(AT)を測定する。なお試料ブランク(ATB)として試料溶液のかわりに0.25M塩化ナトリウム溶液を、カオリン懸濁液のかわりに0.05Mトリス塩酸緩衝液を用いて同様に操作する。 また標準溶液のカリジノゲナーゼ活性の測定は第U反応において第T反応停止液のかわりに標準溶液を添加し同様に操作し吸光度(AS)を測定する。なお標準ブランク(ASB)として標準溶液のかわりに0.05Mトリス塩酸緩衝液を用いて同様に操作する。 このとき(AT-ATB)は(AS-ASB)より小さい。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 田中秀幸 |