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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ11856損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  優先日 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  組成した物 /  損害額 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  譲渡数量 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 16820号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社エニカ
訴訟代理人弁護士 高野長英
補佐人弁理士 中山清
被告 横浜市
訴訟代理人弁護士 會田恒司
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/10/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,金74万0625円及びこれに対する平成13年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,金660万9560円及びこれに対する平成13年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,カード台紙に係る特許権を有する原告が,別紙物件目録記載の物件(以下「被告物件」という。)を製造し,配付した被告に対し,被告の行為は上記特許権を侵害するとして,不法行為に基づく損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は次の特許権(以下「本件特許権」といい,その請求項1の発明を「本件発明1」,請求項3の発明を「本件発明2」という。また,両者を合わせて「本件発明」ということがある。)を有している。
特許番号 第2707018号 出願日 平成4年4月24日 登録日 平成9年10月17日 特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件特許公報」といい,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)の該当欄記載のとおり (2) 本件発明の構成要件は,次のとおり分説することができる。
ア 本件発明1 A プラスチックフィルム又は紙などによるカード素材(121)及び該カード素材(121)に接着された第1のプラスチックフィルム(123)で形成されるカード部材(120)と,第2のプラスチックフィルム(124)が接着されたプリンタ用紙(11)とを具備し, B 上記カード部材(120)の第1のプラスチックフィルム(123)と上記プリンタ用紙(11)の第2のプラスチックフィルム(124)とを剥離可能に密着し, C 上記カード部材(120)の周縁部の一部あるいは全周部に上記カード素材(121)及び上記第1のプラスチックフィルム(123)を貫通し上記第2のプラスチックフィルム(124)に達する切り目(15)を設けることにより当該カード部材(120)にカード(12)と保護枠(16)とを形成した D ことを特徴とするカード台紙 イ 本件発明2 A’ 請求項1又は2において, B’ プリンタ用紙(11)にカード部材(120)を貼付すると共に該カード部材(120)に隣接して住所欄を設けた C’ ことを特徴とするカード台紙。
(3) 被告は,平成13年度使用分として,被告物件を業者に発注して製造させ,これを市民の一部に配付した。
(4) 被告物件は,本件発明1の構成要件A,B及びDを充足する。
2 争点及び当事者の主張 (1) 被告物件は本件発明1の構成要件Cを充足するか。
(原告の主張) 被告物件の「下縁付加部分」は,以下のとおり,本件発明1の構成要件Cにおける「保護枠」に該当する。すなわち, ア 本件発明1の構成要件Cにおける「保護枠」は,プリンタ用紙をプリンターに装着して印字する際にカード自体が引っかかることを防止するものであれば足りるのであって,印字をする際のプリンタ用紙の送り方向との関係で限定したものではない。また,「保護枠」は,カードの周縁部の一部又は全周に設けられていればよい。
イ これに対して,被告物件は,乗車券部材(20)・割引証部材(20a)の一端に乗車券用紙(22)・割引証用紙(22a)及び第1のプラスチックフィルム(24)を貫通し,第2のプラスチックフィルム(17)に達する切り目(3)を設けることにより,当該乗車券部材(20)・割引証部材(20a)に乗車券(2)・割引証(2a)と下縁付加部分(4)とを形成したものである。そして,被告物件の「下縁付加部分」(4)は,乗車券(2)・割引証(2a)の周縁部の一部に設けられているから,本件発明の「保護枠」に当たる。
ウ したがって,被告物件は,本件発明1の構成要件Cを充足する。
(被告の反論) 被告物件の「下縁付加部分」は,以下のとおり,本件発明1の構成要件Cにおける「保護枠」に該当しない。すなわち, ア 本件発明1の構成要件Cにおける「保護枠」は,プリンタ用紙をプリンターに装着して印字する際に,カード自体が引っかかることを防止し,もし引っかかるような場合でもカード自体が傷つけられることを回避する枠であるから,そのような作用効果が生じ得る位置に存在したものに限定される。
ところで,プリンタ用紙をプリンターに装着して印字する際にカードが引っかかる位置は,プリンタ用紙の進行方向に対して前方部分であり,後方部分が引っかかることは物理的にあり得ない。したがって,保護枠として作用し,その効果を生じるのはプリンタ用紙の進行方向に対して前方部分にある場合に限られる。
したがって,構成要件Cにおける「保護枠」は,前方部分を含むカード周縁にある枠に限られる。
イ これに対して,被告物件の「下縁付加部分」は,これを下に曲げることにより,切り目から乗車券部分・割引証部分を台紙より剥離しやすくする目的で設けられたものである。被告物件をプリンターに装着して印字する場合,必ず文字の上方向をプリンタ用紙の進行方向として印字するから,「下縁付加部分」は,印刷された文字の上下方向との関係では下方に位置し,プリンタ用紙の進行方向後方に位置する。
ウ したがって,被告物件の「下縁付加部分」は,進行方向に対して後方にあるから,本件発明1の構成要件Cの「保護枠」には当たらない。
(2) 本件特許には無効理由があることが明らかであり,本件特許権に基づく原告の本件損害賠償請求は権利の濫用となるか。
(被告の主張) ア 本件発明1に係る特許の明らかな無効理由 本件発明1は,以下に述べるとおり,その特許出願前(及び優先日前,以下同じ。)に頒布された実開平2-76771号公報(乙5,以下「刊行物1」という。),米国特許第4,890,862号公報(乙6,以下「刊行物2」という。)及び実開昭63-156782号公報(乙7,以下「刊行物3」という。)に記載された発明及び各考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができたのであるから,特許法(以下「法」という。)29条2項に該当する無効理由が存在することが明らかである。
イ 刊行物1と本件発明1との対比 (ア) 刊行物1には,以下の記載がある。
「第2図に基づいて接着構造を説明すると,ラベル用紙2の裏面にはポリエチレン,ポリエステル等の合成樹脂製の透明フィルム8が,透明な粘着剤9によって剥離不能に接着されており,前記透明フィルム8には,同じくポリエチレン,ポリエステル等の合成樹脂製の透明フィルム10が,不完全な溶着等の手段により剥離可能に擬似的に接着されているものである。そして,前記透明フィルム10の裏面には,剥離紙11が粘着剤12によって剥離可能に接着されている。」(7頁下から7行目〜8頁3行目) (イ) 一致点 刊行物1記載の考案と本件発明1とは,以下の点で一致する。
@ 刊行物1の考案の「カード素材の裏面にはポリエチレン,ポリエステル等の合成樹脂製の透明フィルム8が透明な粘着剤9によって剥離不能に接着されていること」は,本件発明1の「カード素材及び該カード素材に接着された第1のプラスチックフィルムで形成されるカード部材」と一致する。
A 刊行物1の考案の「前記透明フィルム8には,同じくポリエチレン,ポリエステル等の合成樹脂製の透明フィルム10が,不完全な溶着等の手段により剥離可能に擬似的に接着されていること」は,本件発明1の「カード部材の第1のプラスチックフィルムとプリンタ用紙の第2のプラスチックフィルムとを剥離可能に密着し」と一致する。
B 刊行物1の考案の「前記透明フィルム10の裏面には剥離紙11が粘着剤12によって剥離可能に接着されていること」は,本件発明1の「第2のプラスチックフィルムが接着されたプリンタ用紙を具備し」と一致する。
C 刊行物1の考案の「各切り用ミシン目6a・6bはラベル基材5とこれに剥離不能に接着された透明フィルム8にのみ及ぶよう設けられている」(8頁の4行目〜6行目)は,本件発明1の「カード部材の周縁部の一部にカード素材及び第1のプラスチックフィルムを貫通し第2のプラスチックフィルムに達する切り目を設ける」と一致する。
(ウ) 相違点及び容易想到性 刊行物1記載の考案は「ラベル」に関するものであるのに対し,本件発明1は「カード」に関するものである点が相違する。
しかし,刊行物1記載の考案も本件発明も技術分野は同一である点に照らすならば,刊行物1記載の考案の「ラベル用紙」を本件発明1の「カード部材」に置き換えることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
ウ 刊行物2と本件発明1の対比 (ア) 刊行物2には,以下の記載がある。すなわち,「エッジ22,24,26,28の内側通常1/4インチまたはそれくらいの位置に,周囲カット30がある。絵入りの実施形態では,周囲カット30もまた長方形であり,(角32がわずかに丸くなっているかもしれないが),スリット34および薄く弱いタイ36から構成される。タイ36は,このように,カード12の内部のセクション38と,エッジ22,24,26,28と周囲カット30によって構成される外部のフレーム40の間に伸びる脆弱接続部を形成している。すなわち,タイ36を切断することによって,内部のセクション38は取り外される。内部のセクション38の表面は,従来の方法においてコンピュータ・プリンタまたは同種のものから可変情報を受け取るように適応している。」(3欄5行目〜18行目,訳文4頁16行〜24行)。また,第1図(FIG1)及び第2図(FIG2)が示されている。
(イ) 一致点 刊行物2記載の発明と本件発明1とは,以下の点で一致する。
@ 刊行物2記載の発明は,キャリー・ウエブをプリンターに装着してデータ・カード上に可変情報を印字することに関するものであり,キャリー・ウエブ上にはカードが配設されているから,刊行物2記載の発明における「キャリー・ウエブ」は,本件発明1における「カード台紙」と一致する。
A 刊行物2記載の発明には,カード部材の全周部に周囲カット30を設けることによりカード部材とその全周部のフレームが形成されているから,キャリー・ウエブをプリンターに装着して印字する際,カード部材が引っかかるような場合に,フレームが保護枠として機能している。刊行物2記載の発明の「カード部材の全周部に周囲カット30を設ける」は,本件発明の1の「カード部材にカードと保護枠とを形成(する)」と一致する。
(ウ) 相違点及び容易想到性 刊行物2記載の発明においてフレームを形成するのは,ミシン目構造からなる周囲カット30であるのに対し,本件発明1において保護枠を形成するのは切り目15である点において相違する。
ところで,カードの周縁部に切り目(切り込み)を設けてカードを切り離し可能とすることは刊行物3に明記されている。すなわち,刊行物3の実用新案登録請求の範囲の(2)には「カード基材の周縁部に設けられたミシン目によりカード基材がベースシートから切り離し可能となっている」と記載されており,しかも,同(3)にはミシン目の代りに「切り込みを設け」と記載されているように,切り離し可能とする場合に切り込み(切り目)を設ける構成とするかミシン目を設ける構成とするかは,当業者においてその必要に応じて適宣選択すべき設計事項である。したがって,「ミシン目構造」とするか「切り目」とするかの相違点は,本件発明1が進歩性を有するかどうかを判断するに当たり,何等の影響も与えるものではない。
エ 小括 以上のとおり,本件発明1は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明及び各考案に基づいて,当業者が容易に発明できたものであって,本件発明1に係る特許には法29条2項に該当する無効理由のあることが明らかである。
なお,本件特許については,訴外小林記録紙株式会社(以下「小林記録紙」という。)から特許庁に対し無効審判請求(無効第2001-35439の審判事件)がされ,特許庁審判官により,本件発明が,刊行物1ないし刊行物3及び実開平2-126878号公報(乙14)に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当するという理由で,無効理由通知書(乙13)が発せられている。
オ 本件発明2に係る特許の無効理由 (ア) 刊行物3記載の考案は,「カード郵送用シート」に関するものであり,第4図及び「第4図に示すように長尺のシート(9)上にミシン目等を介し複数のカード郵送用シート(10)を連設して設けることにより,コンピュータの端末プリンタ等により複数の宛名欄(2)〜(2)とカード基材(3)〜(3)への記録操作を同時にかつ連続して行えるようになるため,郵送前の手間を著しく簡略化することが可能となる。」(9頁下から5行目〜10頁2行目)との記載から,刊行物3には,本件発明2の「プリンタ用紙に,カード部材を貼付すると共に該カード部材に隣接して住所欄を設ける」との構成が明示されている。
(イ) したがって,本件発明2は,その特許出願前に頒布された刊行物1ないし刊行物3に記載された発明及び各考案から当業者が容易に発明をすることができたものであり,法29条2項に該当する。
(原告の反論) ア 刊行物1記載の考案について 刊行物1記載の考案は,秘密情報を隠蔽する隠蔽ラベルに関するものであるのに対し,本件発明1は,プリンターで印字するに際しての技術であるから,刊行物1記載の考案と本件発明1とは技術分野が異なる。
また,刊行物1の隠蔽ラベルは,断面構造がラベル基材5に透明フィルム8を,剥離紙11に透明フィルム10を,それぞれ剥離不可に接着し,各透明フイルム8,10どうしを剥離可能に擬似的に接着した点で本件発明1と一致する部分がある。しかし,ラベル基板5を剥がすために設けた「切り用ミシン目6a,6b」と,本件発明1の「切り目15」とは構造が異なり,容易想到とはいえない。
イ 刊行物2記載の発明について (ア) 刊行物2に記載された帳票は,内部セクション38を取り外してカードを形成したとき,当該カードの裏面に接着剤が残らないようにすることを目的としたものであるのに対し,本件発明1は,プリンターによる印字の際に,カード部材がプリンターに引っかからないようにしたものであるから,両者は,発明の目的が異なる。
(イ) 刊行物2記載の発明における周囲カット30は,ミシン目構造であって,スリット34とタイ36が連続して形成されているものであり,タイ36を切断しないと内部セクション38はカード12から分離できないようにされている。これに対して,本件発明1における切り目15は,カード素材121及び第1のプラスチックフィルム123を貫通し,第2のプラスチックフイルム124に達するものであって,当該切り目15は,全部がスリットで形成されている。このため,刊行物2記載の発明では,タイ36のようなカード12と保護枠16を連結する連結部分を有しているのに対して,本件発明では,カード12と保護枠16とは,切り目15を設けたときに完全に分離された部材としてプリンタ用紙11に密着されて,連結部分は存在しない。
刊行物2記載の発明では,タブ48をつかみそれを引き上げると,タイ36の一部が内部セクション38または外部フレーム40のミシン目に沿う部分を厚み方向にむしりとったりすることがあり,このため,内部セクション38の周縁部は,一部が厚み方向に裂けて欠如したり,あるいは外部フレーム40からむしり取られた残滓が付着するなど,カードとしては体裁の悪いものしか形成できない。これに対し,本件発明1では,切り目15の部分をわずかに曲げただけでカード12の隅部が浮き上がり,カード12をプリンタ用紙11から簡単に剥がすことができ,カード12をプリンタ用紙11から剥がしたときは,カード周縁にミシン目の残滓などが付着されておらず,体裁の良いカードが得られるという効果も有する。
以上のとおり,刊行物2の周囲カット30と本件発明1の切り目15とは,作用効果において全く異なり,前者に後者を置き換えることが容易想到とはいえない。
ウ 刊行物3記載の考案について 刊行物3記載の考案におけるカード基材3は,周縁部の隅部に連設部5を設けられているので,カード基材3はベースシート1と分離されていない。これに対して,本件発明1の「切り目15」は,全部がスリットで形成され,カード12と保護枠16とは,切り目15によって完全に分離された部材としてプリンタ用紙11に密着されている。
刊行物3記載の考案では,カード基材3がベースシート1に連設部5を介して設けられていると,カード基材3をベースシート1から取り出したときに,カード周縁部に連設部5の残滓などが付着して体裁のよいカードが得られないのに対して,本件発明1では,カード12をプリンタ用紙11から剥がしたときは,カード周縁にミシン目の残滓などが付着されておらず,体裁の良いカードが得られる点で異なる。
エ 小括 以上のとおり,本件発明1は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明又は各考案から容易に発明することができたものとはいえないから,法29条2項に該当しない。
また,本件発明2についても,刊行物1ないし3記載の発明又は各考案から容易に想到するものといえない点は,本件発明1と同じである。
(3) 損害額はいくらか。
(原告の主張) ア 原告は被告に対し,法102条1項に基づき,以下のとおり,侵害行為がなければ原告が得ることができた利益の額を損害額として損害賠償請求することができる。
(ア) 原告の製造能力 被告は,平成12年度使用分の台紙付き乗車券及び台紙付き割引証(以下,これらを「平成12年度乗車券等」という。)について,訴外共同印刷株式会社(以下「共同印刷」という。)に発注した。なお,共同印刷は,原告に製造させ,原告は,本件発明の実施品である平成12年度乗車券等を納品した。原告は,平成12年度乗車券等について,共同印刷から注文を受けて,納品した実績があるので,原告にはそれらを被告に対して直接納入する能力がある。
(イ) 原告実施品の1枚当たりの利益の額 原告の共同印刷に対する納入総枚数は12万4100枚であり,納入総金額は819万8240円であった(甲11)。
ところで,被告が被告物件を製造,配付したことによる原告の損害額は,被告が共同印刷に支払った金額を基準にして算出すべきである。 なお,被告物件1枚当たりの原告の利益額を算定するに当たっては,印刷物の価格が,同一製品であっても製造枚数によって異なるから,共同印刷が被告に納入した平成12年度乗車券等の納入総額から納入総枚数の製造原価(材料費,労務費)を控除し,これを納入総枚数で除して算出することとした(甲6)。
平成12年度乗車券等の1枚当りの利益額 納入総額 819万8240円 材料費 113万8128円 労務費 45万0552円 利益額 660万9560円 1枚当りの利益額 53.26円 以上のとおり,平成12年度乗車券等について原告が受けることができた利益額は1枚当たり53.26円である。したがって,被告物件(平成13年度使用分の台紙付き乗車券及び割引証)についての,1枚当りの原告利益額も同額53.26円と推認されるべきである。
(ウ) 被告の配付数量 被告が製造させた平成13年度使用分の台紙付き乗車券及び割引証(被告物件)の数量は,前年と同じ枚数と推認すべきである。
(エ) 原告の損害額の合計 以上のとおり,原告が得られる利益総額は,1枚当りの利益額53.26円に発注総枚数12万4100枚を乗じた660万9560円となる。
したがって,原告は被告に対し,法102条1項に基づき,侵害行為がなければ原告が得ることができた利益の額660万9560円を損害額として損害賠償請求することができる。
(被告の反論) ア 原告は,これまで被告から福祉特別乗車券等を受注した共同印刷から一部について注文を受けたことがあるにすぎない。すなわち,原告は,共同印刷から,台紙付き福祉特別乗車券及び台紙付き障害者一般乗合自動車等運賃割引証の完成品の注文を受けたり,納品したことはないので,原告は本件発明を実施していなかった。
したがって,仮に被告が本件発明を実施したからといって,原告には,そもそも損害は生じないのであるから法102条1項の適用はない。
イ 原告の損害に関する主張は,次の点で誤りがある。
(ア) 原告は,共同印刷が被告に納入した平成12年度乗車券等の納入総額を損害額の算定の基礎として主張する。しかし,法102条1項は,侵害行為を組成した物譲渡数量を基に損害額を算出すべであると規定しているのであるから,平成12年度乗車券等の売上高を損害額算定の基礎とするのは誤りである。
(イ) 原告は,平成13年度使用分の台紙付き乗車券等を直接被告に納入する余地はなかったから,被告が共同印刷に支払った取引総額を算定の基礎とすることは誤りである。
当裁判所の判断
1 争点(1)(本件発明1の構成要件Cの充足性)について (1) 本件発明1の構成要件Cにおける「保護枠」の意義 当裁判所は,本件発明1の構成要件Cにおける「保護枠」は,カードの周縁部の一部又は全周に設けられていれば足り,また,プリンタ用紙をプリンターに装着して印字する際にカード自体が引っかかることを回避するものであれば足りると解すべきであって,印字をする際のプリンタ用紙の送り方向との関係で限定したものではないと解する。その理由は,以下のとおりである。
ア 本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,保護枠を設ける位置を限定する記載はないこと,本件明細書の発明の詳細な説明の【0016】には「図3は,保護枠の具体例を示しており,・・・Cは保護枠16がカードの上方にのみ設けられている。」との記載があり,本件特許公報の図3(C)には保護枠がカードの一方(上方)にのみ設けられている例が示されていること,【0018】には「【発明の効果】本発明は,カード部材がカード周縁部の一部あるいは全周に保護枠を設けたものであり,しかもカード部材は裏面部がプリンタ用紙に対して全面が接着されているので,プリンタ用紙をプリンターに装着して印字をした場合に,カード部材がプリンターに引っかかることがなく確実に印字が行えるか,あるいは,もし引っかかるような場合でも保護枠の存在によってカード自体が傷つけられることが回避される。」との記載があり,本件発明の保護枠をカード周縁部の一部に設ける場合が示されていることからすれば,本件発明1の構成要件Cの「保護枠」は,カード周縁部の一部に設けられたものでも足りると解するのが相当である。
イ また,前記アのとおり,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,保護枠を設ける位置について,送り方向との関係で限定する記載はないこと,本件明細書の発明の詳細な説明のうち,【0005】には「【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は,カードを貼付した台紙をプリンターに装着した際,カードの周縁がプリンターに引っかかったりしないカード台紙を提供することである。」(0005)と記載され,【実施例】の【0015】には「プリンターによる印字の際に,カード12は保護枠16の内側に収容されており,・・・カード12がプリンターに引っかかったりすることがない。」と記載され,上記アのとおり,本件明細書の【0018】には「本発明は,カード部材がカード周縁部の一部あるいは全周に保護枠を設けたものであり」と記載されている。
以上の記載からすれば,本件発明における保護枠は,プリンタ用紙をプリンターに装着して印字する際に,カード自体が引っかかることを防止し,引っかかるような場合,カード自体が傷つけられることを回避する枠であれば足りると解すべきであって,印字をする際のプリンタ用紙の送り方向との関係で限定したものではないと解すべきである。
(2) 被告物件との対比 ア 被告物件の「下縁付加部分」は,乗車券・割引証の下方に設けられているが,被告物件は,乗車券・割引証に利用者の氏名等の個人情報を印字する際に,下縁付加部分がプリンタ用紙の進行方向の前方となるようにして印字することが可能であり,その場合には,下縁付加部分は,カード自体が引っかかることを防止し,もし引っかかるような場合でもカード自体が傷つけられることを回避できるものである。そうとすると,被告物件の「下縁付加部分」は,本件発明1の構成要件Cの「保護枠」に該当する。
イ また,別紙物件目録によれば,被告物件において,乗車券部材(20)・割引証部材(20a)は乗車券(2)・割引証(2a)及び下縁付加部分(4)を含み,乗車券(2)・割引証(2a)と下縁付加部分(4)とは切り目(3)を介して台紙(1)に密着されていること,乗車券(2)・割引証(2a)と下縁付加部分(4)を分離する切り目(3)は,同目録の図5(A)に示すように,乗車券用紙(22)・割引証用紙(22a)及び第1のプラスチックフィルム(24)を貫通して第2のプラスチックフィルム(17)まで達していること,切り目(3)は,印刷された文字の上下方向を基準として乗車券部材(20)・割引証部材(20a)の周縁部の下縁部に設けられていることが,それぞれ認められる。
ウ 以上のとおり,被告物件においては,印刷された文字の上下方向を基準として,乗車券部材(20)・割引証部材(20a)の周縁部の下縁部に乗車券用紙(22)・割引証用紙(22a)及び第1のプラスチックフィルム(24)を貫通して第2のプラスチックフィルム(17)まで達する切れ目(3)を設けることにより,当該乗車券部材(20)・割引証部材(20a)に乗車券(2)・割引証(2a)と下縁付加部分(4)とを形成している。したがって,被告物件は,本件発明1の構成要件Cの「上記カード部材(120)の周縁部の一部あるいは全周部に上記カード素材(121)及び上記第1のプラスチックフィルム(123)を貫通し上記第2のプラスチックフィルム(124)に達する切り目(15)を設けることにより当該カード部材(120)にカード(12)と保護枠(16)とを形成した」を充足する。
したがって,被告物件は,本件発明1の構成要件Cを充足する。
(3) 以上によれば,被告物件は,本件発明1の技術的範囲に属するから,被告が被告物件を製造させ,これを配付した行為は,本件特許権の侵害となる。なお,被告物件は,同様の理由により,本件発明2の構成要件A’及びC’を充足し,また,別紙物件目録によれば,構成要件B’を充足することは明らかであるから,本件発明2の技術的範囲に属する。
2 争点(2)(権利濫用)について (1) 本件発明1は,カード周縁部の一部又は全周に保護枠を形成することにより,カード部材がプリンターに引っかかるような場合でも保護枠の存在によってカード自体が傷つけられることを回避するというものである。
これに対し,刊行物1ないし刊行物3には,以下に述べるように,「カード周縁部の一部又は全周に保護枠を形成して,カード部材がプリンターに引っかかるような場合でも保護枠の存在によってカード自体が傷つけられることを回避する」点が記載されていないし,これを示唆する記載もない。
したがって,本件発明1は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明及び各考案から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
以下,順に,その理由を詳述する。
(2) 本件発明1と刊行物1記載の考案との対比 刊行物1記載の考案は,カードに表示された隠蔽情報を隠蔽するための隠蔽「ラベル」に関するものであるのに対し,本件発明は,「カード」に関するものである点において相違する。刊行物1には「隠蔽ラベル」表面にプリンターにより印字することを前提として,「隠蔽ラベル」表面に印字する際に「隠蔽ラベル」がプリンターに引っかかったり傷つけられたりすることに関連する記載はない(乙5)。また,「隠蔽ラベル」表面に印字する際に「隠蔽ラベル」がプリンターに引っかかったり傷つけられたりすることが,本件発明に係る特許出願当時において当業者にとって自明または周知のものであったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,刊行物1記載の考案には「隠蔽ラベル」に印字する際にプリンターに引っかかったり傷つけられたりすることを回避するという技術的課題が存在せず,刊行物1には「隠蔽ラベル」周縁に保護枠を設けることを示唆する記載もない。本件発明1は,刊行物1記載の考案から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3) 本件発明1と刊行物2記載の発明との対比 刊行物2記載の発明は,@除去可能なデータカード12を貼付したキャリー・ウエブ10を含む帳票に関するものであり,データ・カード(即ち,除去可能なセクション38)をキャリー・ウエブ10から取り除いたときに,接着剤の残留を残さないような帳票を提供することを目的とするものであること,A同発明において,カード12は,フレーム40とその内側の周囲カット30により除去可能セクション38とに区分されていること,B上記目的を達成するため,フレーム40は,裏面に接着剤を塗布してキャリー・ウエブ10と接着されているとともに,スリット34と薄く弱いタイ36とから構成される周囲カット30部分を介して,キャリー・ウエブ10とは接着していない内側の除去可能セクション38と脆弱接続部を形成していること,Cフレーム40は,タイ36を切断することによって内側の除去可能セクション38(データカード)をキャリー・ウエブ10から取り外し可能にするよう,貼付一体化するために設けられるもの(の一部分)であることが明らかである。刊行物2には,フレーム40の存在によって,カード12自体がプリンターに引っかかったり傷つけられたりすることを回避する作用効果を奏する旨の記載やこれを示唆する記載はない(乙6)。
これに対し,本件発明1は,カード部材がプリンターに引っかかるような場合でも,保護枠の存在によってカード自体が傷つけられることを回避するための技術であり,保護枠とカードとは切り目(15)により分断されているから,本件発明1における保護枠は,プリンタ用紙とカードとを貼付一体化する機能を全く有していない。
以上のとおり,刊行物2記載の発明と本件発明1とは,目的及び作用効果において相違する。また,本件発明1は,刊行物2記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(4) 本件発明1と刊行物3記載の考案との対比 刊行物3記載の考案は,カード郵送用シートに関するものであるが,刊行物3には,カード周縁に本件発明1の保護枠に相当する枠を設けることを示唆する記載はない(乙7)。本件発明1は,刊行物3記載の考案から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(5) 小括 以上によれば,本件発明1は,刊行物1ないし刊行物3に記載された発明及び各考案に基づいて当業者が容易に発明することができたとは認められないので,本件特許に無効理由が存在することが明らかであるとはいえない。原告の本件特許権に基づく損害賠償請求は権利の濫用には当たらない。
なお,本件特許については,小林記録紙から特許庁に対し無効審判請求(無効第2001-35439の審判事件)がされ,特許庁審判官により,本件発明が,刊行物1ないし刊行物3及び実開平2-126878号公報(乙14)に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,法29条2項に該当するという理由で,無効理由通知書(乙13)が発せられているが,実開平2-126878号公報記載の考案をもっても,前記の判断に消長を来すものではない。
3 争点(3)(損害額)について (1) そこで,損害額について検討する。
まず,本件において,原告は,法102条1項に基づく損害額を請求するので,同項を適用することができるか否かについて判断する。
102条1項が設けられた趣旨は,以下のとおりである。すなわち,同項は,特許権者が,特許権を侵害されたことによって被った逸失利益の賠償を求めるに際しては,侵害品が販売されたことと特許権者の実施品の販売が減少したこととの相当因果関係の存在を立証する必要があったが,その立証の困難性を緩和する目的で規定されたものである。同項は,特許権がその性質上,排他的独占性を有するため,市場において,侵害品と特許権者の実施品とが補完関係に立つ場合が多いという実態に照らして,特許権者はその実施品を侵害品の販売に応じた数量分販売することができなかったとの前提に立って,侵害品の販売数量分の逸失利益を認めることができるとしたものである。
そうとすると,侵害品と特許実施品との間に,およそ相互補完関係(仮に,需要者が侵害品を購入しなかった場合に,特許権者の実施品を購入するであろうという関係)が存在しないことが明らかな場合には,そもそも法102条1項を適用する余地はないというべきである。そこで,本件において,そのような相互補完関係が成り立たない場合であるか否かを検討する。
(2) 証拠(乙18)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 被告は,本件発明を利用して製造された台紙付き福祉特別乗車券及び台紙付き障害者一般乗合自動車等運賃割引証(以下,これらを「福祉特別乗車券等」という。)を横浜市民に配付していたが,被告物件は福祉特別乗車券等のうちの平成13年度分のものであって,福祉特別乗車券等は,被告の運営する公共輸送機関の乗車券又は割引証であり,被告が横浜市の市民に対する福祉サービスの一環として一定の条件を満たす者に対して無料で配付したものである。
イ 被告は,福祉特別乗車券等の製造について,製造業者に発注していた。
平成11年度及び12年度は,随意契約により共同印刷が発注先となったが,平成13年度は,指名競争入札が行われ,小林記録紙が発注先となった。原告は,指名業者ではなく,同競争入札への参加資格はなかった。原告は,従前,本件発明の実施品(半製品を含む。以下,同様とする。)を製造しており,平成11年度及び12年度は,被告から福祉特別乗車券等の発注を受けた共同印刷から注文を受けて,本件発明の実施品を納品していた。
以上認定した事実を基礎とすると,本件においては,法102条1項を適用することができる関係があるというべきである。その理由は以下のとおりである。
すなわち,確かに,原告は,被告の指名業者ではないので,仮に被告が侵害品を第三者(訴外小林記録紙)をして製造させなかったからといって,原告が被告から直接,発注を受けて製造するという関係にあるわけではない。しかし,原告は,従前から,本件発明の実施品を製造し,被告から平成11年度及び平成12年度の福祉特別乗車券等の発注を受けた共同印刷に対して,本件発明の実施品を納品していた実績があることに照らすと,被告が本件特許権の侵害品を製造させ,納品させた行為と,原告が,自己の実施品を製造,販売することとの間には,相互補完関係が存在するというべきであるから,本件において,損害の算定に当たって,法102条1項の適用を排除することは相当とはいえない。
(3) 次に,損害額を算定する。
証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告から平成12年度の福祉特別乗車券等の発注を受けた共同印刷に対して,福祉特別乗車券等を合計12万3400枚,合計309万2804円販売したことが認められる。
そして,甲第6,7号証に照らせば,原告は,上記合計売上高の少なくとも3割に相当する利益を得ていたというべきである。
したがって,原告が福祉特別乗車券等を1枚販売することにより少なくとも7.5円(309万2804円÷12万3400枚×0.3)の利益を得ることができたと解するのが相当である。
弁論の全趣旨によれば,被告は,小林記録紙に対し,被告物件を合計9万8750枚(台紙付き乗車券が7万3750枚,台紙付き割引証が2万5000枚)製造させたことが認められる。
したがって,法102条1項に基づき原告の損害額を算定すると,74万0625円(7.5円×9万8750枚)となる。
4 結論 よって,原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信
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