審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ101特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成8ワ1635特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ26599特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 実施料相当額 / 出願経過 / 参酌 / 特許発明 / 実施 / 権原 / 間接侵害 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 実施料 / 実施権 / 専用実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(ワ)
7153号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社テクノリウム 訴訟代理人弁護士 松田政行 同 早稲田 祐美子 同 齋藤浩貴 同 谷田哲哉 同 山元裕子 同 松葉栄治 同 早川篤志 同 糸井千晴 同 吉羽 真一郎 被告 富士電機イー・アイ・シー株式会社 訴訟代理人弁護士 中村稔 同 熊倉禎男 同 辻居幸一 同 渡辺光 補佐人弁理士 合田潔 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙物件目録記載の放電管用インバーター回路を輸入し,製造し,販売し,販売の申し出をしてはならない。 2 被告は,その占有する上記放電管用インバーター回路を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,金3450万円及び内金750万円に対する平成13年4月6日から,内金2700万円に対する平成14年1月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が被告に対し,別紙物件目録記載の放電管用インバーター回路(以下「被告製品」という。)を輸入するなどの被告の行為が原告の有する特許権を侵害するとして,輸入等の差止め等と損害賠償の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する専用実施権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)につき専用実施権を有している。 (ア) 発明の名称 放電管用インバーター回路 (イ) 出願日 平成5年8月30日 (ウ) 登録日 平成10年1月9日 (エ) 特許番号 第2733817号 (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの請求項1欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A 連続した一本の棒状コアと, B 一次巻線と,二次巻線とを有し, C1 該一次巻線と二次巻線は該棒状コアのまわりに,該コアに沿って隣接して並置された関係に巻回され, C2 その結果,該二次巻線は該一次巻線と磁気的に密結合した該一次巻線近傍の密結合部分と該一次巻線と磁気的に疎結合した該一次巻線から離れた疎結合部分とを有する, D 漏洩磁束型の昇圧トランスの E1 疎結合部分より生じる誘導性出力と E2 二次側回路に生じる寄生容量と E3 の間で構成する共振回路の一部としたことを特徴とする F 放電管用インバーター回路。 (3) 被告の行為 被告は,業として,被告製品を輸入し,販売している。 2 争点及び当事者の主張 (1) 被告製品の構成 (原告の主張) 被告製品の構成は,別紙物件目録記載のとおりである(なお,争いのある部分に下線を付した。被告の認否欄の記載についても同じである。)。 (被告の認否) ア 別紙物件目録の「被告製品の構成」の説明文3,5は,以下のとおりであり,同説明中6,10のすべて及び7の下線部分は否認する。 3 C25,C26,C16,C9はデカップリングコンデンサであり,直流と交流を分離するためのものであり,バンドパスフィルター回路における下限の周波数帯域を決定する。 5 T1は昇圧トランス(周波数65kHzで結合係数約0.962)であり,PW1はその一次巻線であり,SW1はその二次巻線である。 イ 別紙物件目録第1図は,別紙被告主張第1図のとおりである。被告主張第1図は,被告製品の部分だけを図示したものである(なお,被告が構成の説明を認める範囲では,別紙物件目録の第1図と,被告主張第1図とでは,被告製品の回路構成の記載,記号等は同一である)。 別紙物件目録のその余の記載は認める。 (2) 本件発明の構成要件と被告製品の構成との対比 ア 構成要件Aの充足性 (原告の主張) 構成要件Aの「連続した一本の」とは,EI型のコアやEE型のコアのように一次巻線と二次巻線とのコアの間が分かれていないという意味と解すべきである。 これに対して,被告製品は,連続した一本の棒状の形態を有する中心コア2を有するから,構成要件Aを充足する。 確かに,被告製品においては,中心コア2にロ字状の外部コア3を接合させているが,この外部コア3を接合することによっても昇圧トランスT1の磁束は閉塞磁束性とはならず,依然として極端な漏洩磁束性を有したままであり,被告製品の外部コア3は単なる付加物にすぎないのであるから,被告製品は構成要件Aを充足する。 (被告の反論) 被告製品は,以下のとおり,本件発明の構成要件Aを充足しない。 (ア) 解釈 構成要件Aにいう「連続した一本の棒状コア」とは,文言どおり,一本の細長い棒状のコアを指すと解すべきである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,以下のとおりの記載がある。 a 「また,従来の放電管用インバーター回路ではコアにEI型或いはEE型の形状を採用しているが,該コア形状ではコアの体積がそのインバーター回路全体に占める割合が大きく,その回路の小型化の障害となっている。しかし,閉塞磁束型のトランス構造を採用する限り,昇圧トランスの小型化には限界がある。 そこで,コア形状と磁気回路を見直すことによって昇圧トランスの小型化を実現する必要がある。」(本件明細書4欄17〜24行) b 「漏洩磁束型トランスはトランス自体に電流制限効果があり,その出力は誘導性となるためにチョークコイルと同様の効果があるが,これをさらに進めてコア材を棒状とし,昇圧トランスの形状を棒状の漏洩磁束型トランスとすることにより極端な漏洩磁束効果を持たせると,・・・」(本件明細書4欄45行〜末行)「図4及び図5は昇圧トランス1を極端な漏洩磁束型とした場合の外形を示しており,昇圧トランス1は円柱状の形状としてある。その他,角柱状などに形成することもできる。」(本件明細書5欄50行〜6欄3行)「この場合,放電開始電圧1000V,定常放電電圧300V,電力2Wの冷陰極管用インバーター回路を設計においては,昇圧トランス1の形状は直径4.8mm,長さ35mmとなり,従来のEE型或いはEI型のコアの昇圧トランスを用いた同仕様のインバーター回路に比べて非常に小型なものとなる。」(本件明細書6欄18行〜23行) c 「また,昇圧トランスの組立は,巻線後ボビンに丸棒状コア11を挿入するだけなので量産上も有利な形状となる。」(本件明細書6欄23行〜25行) 上記aないしcの記載から明らかなとおり,「連続した一本の棒状コア」は,「漏洩磁束型の昇圧トランス」(構成要件D)を形成するために必須であって,昇圧トランスの小型化,量産化にとっても有用なものであり,棒状のコアに他の形状の外部コアを組みあわせたものを含まないと解すべきである。 (イ) 対比 被告製品のコアは,棒状の中心コア2とロ字状の外部コア3からなるものであり,棒状のコアのみからなるものではなく,構成要件Aを充足しない。 原告は,被告製品のロ字状の外部コア3は単なる付加物にすぎないと主張する。しかし,乙6号証の実測結果によれば,被告製品において,ロ字状の外部コア3を取りはずした場合の中心コア2の結合係数は,周波数(65kHz)で,0.437であるのに対して,外部コア3を取り付けた場合の結合係数は,0.962であって,外部コア3により2倍以上結合係数を上昇させているのであり,このことからも外部コア3が単なる付加物でないことは明らかである。 イ 構成要件C2の充足性 (原告の主張) 被告製品においては,二次巻線は一次巻線と磁気的に密結合した一次巻線近傍の密結合部分と,一次巻線と磁気的に疎結合した一次巻線から離れた疎結合部分とを有するから,構成要件C2を充足する。 なお,被告製品の二次巻線における密結合部分は,中心コアに沿った一次巻線の近傍にある二次巻線であり,疎結合部分は中心コアに沿って一次巻線から離れた部分にある二次巻線である。 (被告の反論) 被告製品の昇圧トランスの二次巻線においては,「密結合部分」と「疎結合部分」という区別はなく,被告製品は構成要件C2を充足しない。 ウ 構成要件Dの充足性 (原告の主張) 被告製品のトランスは,漏洩磁束型の昇圧トランスであるから,構成要件Dを充足する。 確かに,本件発明の漏洩磁束型の昇圧トランスは,極端な漏洩磁束型であるが,漏洩磁束型のトランスが,一次巻線と二次巻線の結合係数は0.5に満たないものに限定されると解すべき根拠はない。 (被告の反論) 構成要件Dは,極端な漏洩磁束型の昇圧トランスを意味し,漏洩する磁束が漏洩しない磁束よりも大きく,一次巻線と二次巻線の結合係数は0.5に満たないものに限られると解すべきである。 これに対し,被告製品は,一次巻線と二次巻線の結合係数は0.962という高い値であり,被告製品のトランスは,結合係数の高い閉塞磁束型である。したがって,構成要件Dを充足しない。 エ 構成要件E1ないしE3の充足性 (原告の主張) 被告製品を液晶パネル(別紙物件目録第1図のLCD PANEL。以下記号は別紙物件目録第1図記載のものを指す。)に接合し,液晶ノート型パーソナルコンピュータの通常使用の明るさまでこの液晶パネルバックライトに内蔵されている冷陰極管(DT1)を点灯させると,被告製品は漏洩磁束型の昇圧トランス(T1)となり,当該漏洩磁束型昇圧トランス(T1)の疎結合部分より生じる誘導性出力(Le1)と二次側回路に生じる寄生容量(Cw1,CS1)との間で構成する共振回路の一部となる。したがって,本件発明の構成要件E1ないE3を充足する。 (被告の反論) (ア) 構成要件E1について 構成要件E1にいう「疎結合部分より生じる誘導性出力」とは,要件C2に規定された「二次巻線の疎結合部分」より生じる誘導性出力(正確にいえば,これは「出力」ではなく,「負荷」である。)であり,「二次巻線の密結合部分」より生じる誘導性出力又は昇圧トランスの全体もしくは二次巻線の全体より生じる誘導性出力ではない。 そして,原告の主張によっても,本件発明の構成要件E1にいう「疎結合部分より生じる誘導性出力」との対比において,被告製品の二次巻線のどの部分から漏洩する磁束を対象としているかも明らかではないから,被告製品はE1の構成要件を充足しない。 (イ) 構成要件E2について 構成要件E2にいう「二次側回路に生じる寄生容量」とは,二次巻線間に発生する巻線間寄生容量と放電管の周辺に生じる寄生容量を指す。本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかなとおり,本件発明においては,従来有害とされていた寄生容量を逆に活用し,構成要件E1の「疎結合部分より生じる誘導性出力」とで構成要件E3の「直列共振回路」を動作させるものである。 これに対して,被告製品においては,「二次側回路に生じる寄生容量」を利用していない。すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明においては,「昇圧トランス21の二次側寄生容量23,蛍光管24の周辺に生じる寄生容量25は通常数PF程度の値を有する。」(本件明細書3欄28行〜31行)と記載されているとおり,二次側回路に生じる寄生容量はわずかなものであり,かつ,変動しやすいので,被告製品においては,15pFという高い容量を有するコンデンサC12を備えることにより寄生容量の影響を極力排除しており,コンデンサC12の存在からみても,被告製品において「二次側回路に生じる寄生容量」を利用していないことは明らかである。 (ウ) 構成要件E3について 構成要件E3にいう「共振回路」とは,「直列共振回路」(本件明細書5欄15行など。)であり,この回路は,直列共振周波数で動作させ,「放電管に高い放電電圧を給電する」ことにより「電流波形が正弦波に近くな」るものである(本件明細書4欄41ないし44行,5欄12ないし21行,同30ないし36行,同43ないし47行,6欄13ないし17行,同34ないし40行)。そして,「直列共振回路」とは,共振周波数により,回路を流れる電流及びコンデンサの両端電圧を最大化する回路である(乙2)。本件明細書の発明の詳細な説明によれば,本件発明において「直列共振回路」を形成するのは,極端な漏洩磁束型の昇圧トランスの昇圧作用の不十分さを補強して,高い放電電圧を放電管に給電するためであり,この「直列共振回路」を動作させるために二次側回路に生じる寄生容量が必須の構成要素とされている。 これに対して,被告製品においては,電圧,電流を最大化する直列共振回路は存在しない。被告製品の昇圧トランスは,結合係数が高いので,このような回路により電圧を上げる必要はない。 (2) 間接侵害 (原告の主張) 被告製品を液晶パネルに接合して通常のノート型パーソナルコンピュータの使用に耐える明るさに当該液晶パネルのバックライトを点灯させた場合,本件発明の構成要件すべてを充足する。 被告製品は,液晶ノート型パーソナルコンピュータ専用の放電管用インバーター回路であるから必ず液晶パネルに接続してバックライトを点灯させるものである。 (被告の主張) 否認する。 (3) 損害額 (原告の主張) ア 輸入数量 平成13年1月20日から平成13年4月5日までに被告が輸入し譲渡した被告製品は,合計75,000台は下らない。 さらに,被告は,平成13年4月6日から平成13年12月31日まで被告製品を輸入しており,追加された輸入数は,合計270,000台は下らない。 イ 実施料相当額 原告は,本件特許発明の輸入実施許諾料として1台につき100円としている。 したがって,平成13年4月5日までの原告の実施料相当の損害額は,75,000台×100円=7,500,000円を下らない。 さらに,平成13年4月6日から平成13年12月31日までの原告の実施料相当の損害金は,270,000台×100円=27,000,000円を下らない。 ウ したがって,原告は被告に対し,合計34,500,000円の損害賠償及びこれらに対する遅延損害金を請求する。 (被告の反論) 争う。 |
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争点に対する判断
1 被告製品の構成要件Aの充足性について (1) 構成要件Aの解釈 本件発明の構成要件Aにおける「連続した一本の棒状コア」とは,連続した一本の棒状コアのみからなるものを意味し,棒状のコアの周辺等に磁路を形成するコアを設けたものを含まないと解すべきである。 その理由は,以下のとおりである。 ア 本件明細書の記載 本件明細書の「特許請求の範囲」欄には,「連続した一本の棒状コア(略)を有し」と記載され,「昇圧トランス」に「一本の棒状コア」を組みあわせの構成の一つとして含んでいれば足りるのか,「棒状コア」のみを構成とするものでなければならないかは,その記載からは直ちに明かであるとはいえない。そこで,本件明細書のその他の部分の記載を参照する。 (ア) 発明が解決しようとする課題の欄に,「また,従来の放電管用インバーター回路ではコアにEI型或いはEE型の形状を採用しているが,該コア形状ではコアの体積がそのインバーター回路全体に占める割合が大きく,その回路の小型化の障害となっている。しかし,閉塞磁束型のトランス構造を採用する限り,昇圧トランスの小型化には限界がある。そこで,コア形状と磁気回路を見直すことによって昇圧トランスの小型化を実現する必要がある。」と記載されている(本件明細書4欄17ないし24行)。 (イ) 作用の欄には,「漏洩磁束型トランスはトランス自体に電流制限効果があり,その出力は誘導性となるためにチョークコイルと同様の効果があるが,これをさらに進めてコア材を棒状とし,昇圧トランスの形状を棒状の漏洩磁束型トランスとすることにより極端な漏洩磁束効果を持たせると,一次巻線近傍の二次巻線は漏洩磁束トランスとしての効果を有し」と記載されている(本件明細書4欄45行ないし5欄1行目)。 (ウ) (なお,実施例の欄には,「昇圧トランス1を極端な漏洩磁束型とした場合の外形を示しており,昇圧トランス1は円柱状の形状としてある。その他,角柱状などに形成することもできる。丸棒状コア11の一方の終端に昇圧トランス1のベース巻線12を巻き,隣接して一次巻線であるコレクター巻線13を巻く。さらに,その隣に巻く二次巻線14は,一次巻線の近傍15より巻き始め」と(本件明細書5欄50行ないし6欄6行),「昇圧トランス1の形状は直径4.8mm,長さ35mmとなり,従来のEE型或いはEI型のコアの昇圧トランスを用いた同仕様のインバーター回路に比べて非常に小型なものとなる。また,昇圧トランスの組立は,巻線後ボビンに丸棒状コア11を挿入するだけなので量産上も有利な形状となる。」と(本件明細書6欄20ないし25行目),それぞれ記載されている。) (エ) 以上の記載に照らすならば,本件発明における「昇圧トランス」は,「連続した一本の棒状コア」に巻線を施し,磁路の両端を解放したものであって,その中心コアの周囲に磁路を形成するコア部を備えたものを含まないものを指し,このような構成によって,昇圧トランスは,極端な漏洩磁束型になり,非常に小型化することができたと解するのが素直である。そうすると,「連続した一本の棒状コア」とは,連続した一本の棒状コアのみからなるものを意味し,棒状のコアの周辺等に磁路を形成するコアを設けたものを含まないと解すべきである。 イ 出願経過 また,本件発明の出願経過を参酌すると以下のとおりである。すなわち,証拠(乙3ないし5,10ないし15)によれば,本件特許権出願の経緯につき,以下の事実が認められる(なお,以下の記載のうち,出願及び補正の経緯については争いがない。)。 (ア) 出願当初明細書における「特許請求の範囲」は,「放電管用インバーター回路の二次側回路を高周波の給電回路とし,二次側回路に生ずる寄生容量を誘導性バラスト或は漏洩磁束型トランスの誘導性出力との間で構成する共振回路の一部としたことを特徴とする放電管用インバーター回路。」と記載され,「連続した一本の棒状コア」部分は記載されていなかった。 (イ) 平成8年6月4日,拒絶理由通知が発せられ,同通知により,審査官から,二次側回路の寄生容量や,トランスのリーケージインダクタンスを共振回路の一部とする共振形インバータは周知であり,このような周知の共振形インバータを放電管の点灯に使用することは,広く行なわれている旨を指摘された。 (ウ) これに対して,出願人(原告代表者)は,特許請求の範囲(請求項1)を「放電管用インバーター回路の二次側回路を高周波の給電回路とし,昇圧トランスを棒状の漏洩磁束型とし,二次側回路に生ずる寄生容量を漏洩磁束型トランスの誘導性出力との間で構成する共振回路の一部としたことを特徴とする放電管用インバーター回路。」とし,「トランスを棒状の漏洩磁束型とし」との記載を加える補正を行った。さらに,出願人は,上記手続補正と同時に提出した意見書において,「漏洩磁束型トランスはトランス自体に電流制限効果があり,その出力は誘導性となるためにチョークコイルと同様の効果があるが,これをさらに進めてコア材を棒状とし,昇圧トランスの形状を棒状の漏洩磁束型トランスとすることにより極端な漏洩磁束効果を持たせると,一次巻線近傍の二次巻線は漏洩磁束トランスとしての効果を有し,同時に一次巻線から遠端の二次巻線はチョークコイルとしての効果を有する」旨を述べた。 (エ) 平成9年7月15日,拒絶理由通知が発せられ,同通知により,審査官から,漏洩磁束型のトランスを用いて,寄生容量を考慮した公知技術(米国特許第4698741号,乙15)の存在を指摘された。上記米国特許第4698741号は,気体放電装置用の高効率高圧電源に関する発明であり,その特許明細書には,「コア材料は,通常,何年もテレビのフライバック回路に使用されている種類のフェライトである。」「このコアは好ましくは,合計で約0.1インチから0.2インチの1つまたは複数の空気ギャップを組み込み,それにより負荷が大きくなる(抵抗が小さくなる)際に端子出力電圧を低下させる働きをする漏れインダクタンスを形成する。」との各記載がある。 (オ) これに対し,出願人は,同年9月2日,明細書の特許請求の範囲(請求項1)を,「第2 事案の概要,1 前提となる事実」(1)(オ)のとおりに補正した。 (カ) 出願経過及び公知技術に照らすならば,本件発明の構成要件Aの「連続した一本の棒状コア」は,中心コアの周辺に磁路を形成するコアを設けたものを排除することは明らかである。 ウ 小括 以上のとおり,@明細書のその他の記載に照らすと,昇圧トランスは,一本の棒状のコア(中心コア)に巻線を施し,中心コアの磁路の両端を開放したトランスであって,中心コアの周囲に磁路を形成するコアを備えないことにより,昇圧トランスを極端な漏洩磁束型とするとともに,トランスを小型化することを可能にしたものを指すと解するのが相当であること,A出願経過及び公知技術に照らすと,本件発明の構成要件Aの「連続した一本の棒状コア」の意義について,中心コアの周辺に磁路を形成するコアを設けたものを排除すると解すべきことが明らかである。 そうすると,構成要件Aにいう「連続した一本の棒状コア」とは,昇圧トランスが連続した一本の棒状コアのみで構成されているものを意味すると解すべきである。 (2) 被告製品との対比 ア 対比についての判断 被告製品におけるトランスは,一本の棒状の形態を有する中心コア2の周囲に,ロ字状の外部コア3が存在し,この外部コア3は,中心コア2に接合されている(争いがない)。 そうすると,被告製品においては,昇圧トランスが連続した一本の棒状コアのみで構成されたものではなく,棒状の中心コア2の周囲に外部コア3を有するものであるから,構成要件Aを充足しない。 イ 原告の主張について 原告は,被告製品における外部コア3は,中心コア2に対して付加的なものにすぎないから,被告製品の中心コアは,構成要件Aの「連続した一本の棒状コア」に当たると主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。 すなわち,証拠(乙6,16,17)によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被告製品における一次巻線と二次巻線の結合係数(2つの巻線の磁気的結合の度合を示す係数)は,0.962であるのに対し,外部コアを取り除いた中心コアのみの結合係数は,0.437である(測定周波数65kHz)。また,被告製品における結合係数を様々な周波数で測定したところ,周波数10kHzないし70kHzで,被告製品のコア全体の結合係数は,0.900ないし0.976であるのに対し,外部コアを取り除いた中心コアのみの結合係数は,0.452ないし0.437である。 (イ) 被告製品における外部コアの透磁率は空気の3000倍以上であり,棒状の中心コアの周囲に外部コアを設けた場合,大部分の磁束は,空気中を通らず,コア材で作る磁気回路を流れてループ回路を形成するため,結果的に巻線間の磁気的結合係数が大きくなる。 そうすると,被告製品における外部コア3は,中心コア2のまわりに巻回された巻線に発生した磁束について,中心コア2の周辺に磁路を形成する役割を果たしており,この外部コア3が存在することにより,コアが棒状の中心コアのみで構成されたトランスとは,異なる磁路が形成され,結果として磁束の漏洩の程度に影響を与えていると認められる。 したがって,被告製品における外部コア3が,中心コア2に対して,単なる付加的なものであるということはできない。 |
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結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 今井弘晃 |
裁判官 | 大寄麻代 |