審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16ワ26092特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ653特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成4ワ6690特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ8553特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 公然知られ(29条1項1号) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 権利の濫用(権利濫用) / 技術的意義 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
20029号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 ジューキ株式会社 訴訟代理人弁護士 三木茂 同 吉田正夫 同 井口加奈子 同 椙山敬士 訴訟復代理人弁護士 今井鉄男 被告 セイコーエプソン株式会社 訴訟代理人弁護士 飯田秀郷 同 栗宇一樹 同 早稲本和徳 同 秋野卓生 同 七字賢彦 同 鈴木英之 訴訟復代理人弁護士 大友良浩 同 隈部泰正 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙物件目録2及び4記載の製品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。 2 被告は,その占有する前項の製品及びその半製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対して,34億0580万円及び内金5億円に対する平成12年10月13日から支払済みまで,内金29億0580万円に対する平成14年2月23日から支払済みまで,各年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,多色印字装置に関する特許権を有する原告が,多色印字装置を製造,販売する被告の行為は原告の上記特許権を侵害するとして,同製品の製造,販売等の差止めと損害金の支払等を求めている事案である。 1 争いのない事実等 (1) 原告は,以下のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。 特許番号 第1886103号 発明の名称 多色印字装置 出願日 昭和60年10月31日 登録日 平成6年11月22日 特許請求の範囲 別紙特許公報写しの該当欄記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 A 複数の印字ヘッドと, B 印字ヘッドの数に対応して設けられ,印字色データを一時的に格納するデータ格納手段と, C 格納された印字色データを読み出すデータ読み出し手段と, D 読み出された印字色データに基づき前記印字ヘッドをそれぞれ駆動する印字ヘッド駆動手段と, E 前記印字ヘッドを移動する移動手段とを有する多色印字装置であって, F 前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段と, G これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段と, H 印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ,その後,リターンするように前記移動手段を制御する制御手段と を備えてなる多色印字装置 (3) 被告は,業として,別紙物件目録1記載の多色印字装置(以下「被告製品1」という。),同目録2記載の多色印字装置(以下「被告製品2」という。),同目録3記載の多色印字装置(以下「被告製品3」という。)及び同目録4記載の多色印字装置(以下「被告製品4」といい,被告製品1ないし4を併せて「被告製品」と総称する。)を製造,販売し,このうち被告製品2及び被告製品4については,現在も製造,販売,販売のための展示をしている(弁論の全趣旨)。 (4) 被告製品は,いずれも本件発明の構成要件BないしEを充足する。 2 争点 (1) 被告製品の構成は,どのようなものか。 (2) 被告製品は,本件発明の構成要件(A,F,G,H)を充足するか。 (3) 本件特許に基づく権利行使は,権利の濫用に当たるか。 (4) 損害額はいくらか。 3 争点に関する当事者の主張 (1) 被告製品の構成(争点(1))について (原告の主張) 本件発明の構成要件A,F,G,Hに対応する被告製品の各構成は,別紙各「被告構成についての主張」の各「原告の主張」欄記載のとおりである。 なお,被告製品が,それぞれ,別紙各「被告構成についての主張」の各「被告の主張」欄記載のf2ないしf5の各a及びbの各構成を有すること,被告製品が加速領域及び減速領域を有すること(構成hについて)は当事者間に争いがない。 (被告の反論) 本件発明の構成要件A,F,G,Hに対応する被告製品の各構成は,別紙各「被告構成についての主張」の各「被告の主張」欄記載のとおりである。 (2) 構成要件Aの充足性(争点(2))について (原告の主張) ア 別紙各「被告構成についての主張」の各「原告の主張」欄記載のとおり,被告製品1,被告製品2及び被告製品4は,6色のノズル列を,被告製品3は4色のノズル列を,それぞれ有するから,いずれも構成要件Aを充足する。 イ 被告は,構成要件Aの「印字ヘッド」とは,「キャリッジの進行方向に垂直な方向に設けられた印字ヘッド」のみを指すと解すべきである(縦置きの印字ヘッドであること)と主張するが,このように限定する根拠はない。 (被告の反論) 構成要件Aの「印字ヘッド」とは,キャリッジの進行方向に垂直な方向に設けられていること(縦置きの印字ヘッドであること)が必要であると解すべきである。 被告製品においては,印字ヘッドは,キャリッジの進行方向に並列に配置されている(横置きの印字ヘッドである)から構成要件Aを充足しない。 (3) 構成要件Fの充足性(争点(2))について (原告の主張) ア 本件発明において「カラム」とは縦列を意味し,「カラム数」はカラム(縦列)を数えたものである。ドット式プリンタの場合には,ドット単位の数が「カラム数」に当たるから,構成要件Fの「印字色別に1印字行分のカラム数を計数する」とは,印刷基準位置(キャリッジ原点)から右端位置(最大右端ドット位置)までのドット数を計数することを意味する。また,構成要件Fにおいては,印字色データをどこから格納するかということは問題とはならない。 被告製品は,イメージバッファメモリに格納された1印字行分のビットイメージデータから,別紙各「被告構成についての主張」の各「原告の主張」欄記載のf1ないしf6の処理をすることにより,各印字色毎に印刷基準位置(キャリッジ原点)から最大右端位置(最右端のオンドットデータの位置)までのドット数を計数する手段を備えている。このことは,被告製品において,各色の最大右端ドット位置が次の計数処理によって求められることを被告が自認していることからも明らかである。 ((印字終了番地+1)-バッファ基準位置)/20H×10H-2H-500H したがって,被告製品は,構成要件Fを充足する。 イ 被告は,位置は場所の単位系であり,ドット数は量の単位系であるから,両者は異なると主張するが,これは以下のとおり誤りである。 すなわち,位置の数値的把握は,基点からの単位数の量でしか表現できない。用紙上の位置は,基準となる特定の位置から,横軸(カラム数)及び縦軸(ロウ数)で表される。水平方向の位置は,印刷基準位置(キャリッジ原点)から横軸(カラム)で表されるものであり,その単位はドット数である。 解像度は,dpiを単位として表されるが,dpiとはdot per inchであって1インチの中に何個の粒(ドット)を入れるかということにより数値化されている。例えば,1440dpiの場合には,1/1440インチの間隔でドットが1440個並んで1インチを構成することになる。 このように,一旦ドット間距離を定めた後は,1/1440インチといった数値を用いることはなく,ドットの数により位置が定められる。したがって,ドット数は位置の単位になる。 以上から,被告のいう「用紙上の位置データ」は印刷基準位置(キャリッジ原点)からのドット数で表されるものであり,それは各色について計算によって求められるものであるから,各色毎に最大右端ドット位置までのドット数を計数しているといえる。 ウ 被告は,仮に「カラム数」を「ドット数」ととらえ,また,各色の印印字色データの右端位置をドット数に換算したとしても,その右端位置(印刷終了アドレスの右端ビット)に実印字データ(オンドットデータ)が存在するとは限らないとして,被告製品は構成要件Fを充足しないと主張する。 確かに,被告製品では,右端位置をバイト単位(1バイト=8ビット=8ドット)で計算した後でビット換算することによる誤差として,最大7ドットのずれが生じる可能性がある。 本件発明は,右端位置をドット(ビット)などカラム単位で計算して求めるものであるところ,被告製品が8ビットずつまとめてバイトごとに計算するのは,ビットごとに計算するのに比べて精度を落とすという意味で改悪である。しかし,被告製品でも,被告が被告製品においてその処理を行っていることを認める甲31別紙Gにおける「最大右端ドット位置の計数処理」のアドレスFB1952「2H×8H=10Hで乗算する」で示すとおり,最終的にはドット(ビット)数に換算されている。 また,720dpi(1インチ=25.4oに720ドット)の場合には,最大限7ビット(ドット)の誤差は,最大限0.247oの誤差にすぎず,技術的には微差といってよい。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 (被告の反論) ア 被告製品は,以下のとおり,構成要件Fの「前記格納手段に格納された印字色データ」を対象にしてカラム数を計数するものではない。 (ア) 構成要件Fにおいて,1印字行分のカラム数を計数する対象は,「前記格納手段に格納された印字色データ」であるが,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば,各色の印字色データの最初の第1カラムは,各色とも同じ印刷基準位置(キャリッジ原点)からバッファメモリ(格納手段)に格納されなければならないものと解すべきである。これに対して,被告製品においては,各色の印字色データは,ホストコンピュータで既にヌルカット処理がされ,ホストコンピュータから送出された水平開始位置データに基づき演算されたイメージバッファの最小左端アドレス(水平開始位置)から格納されるのであり,各色の印字色データが,印刷基準位置(キャリッジ原点)から格納されるのではない。すなわち,被告製品においては,カラム数計数の対象となる「前記格納手段に格納された印字色データ」は,既に水平開始位置までのデータがカットされた印字色データであり,しかも,同水平位置は各色毎に異なっているのであって,印刷基準位置(キャリッジ原点)からバッファメモリに格納された印字色データには当たらない。 したがって,被告製品は,構成要件Fの「前記格納手段に格納された印字色データ」を対象にしてカラム数を計数するものではないから,構成要件Fを充足しない。 (イ) この点,原告は,「印刷基準位置(キャリッジ原点)」という概念を使用し,印刷基準位置(キャリッジ原点)から各色の印字色データの最大右端ドット位置までのカラム数を計数し,そのカラム数のうち最大のカラム数を求めることも,「前記格納手段に格納された印字色データ」を対象にしてカラム数を計数することに該当すると主張する。 確かに,原告の上記主張によれば,被告製品のように,プリンタに各色毎に異なった水平開始位置からの印字色データが格納される場合にも,本件発明のカラム数計数方法により本件発明の課題を解決することはできる。 しかし,本件明細書には,「印刷基準位置(キャリッジ原点)」という文言は記載されておらず,また,これを示唆するような概念も用いられていないのであるから,「印刷基準位置(キャリッジ原点)」という概念を使用して本件発明の技術的範囲を解釈することは,明細書の記載を無視したものであって許されない。 また,原告の上記主張は,印刷基準位置(キャリッジ原点)から水平開始位置までの,印字色データが格納されていない領域にまで計数対象を拡げて,本件発明の技術的範囲を拡大するものであり,不当である。 イ 被告製品は,以下のとおり,各色の印字色データの右端位置のカラム数を計数していない。 (ア) まず,原告は,カラム数とはカラム(縦列)を数えたものであり,ドット式プリンタの場合には,ドット単位の数となると主張する。 しかし,カラムとドットとは別の概念である。原告が根拠とする甲25には,「CPUは,図5のように文字を縦・横の点(ドット)に分解し,プリンタメカニズムの印刷ヘッドに伝え,印刷していきます。」と文字(キャラクタ)がドットに分解されることを説明しているだけであって,原告の主張の根拠たり得ない。そして,フローチャートによれば,テキスト画面のハードコピーに関するフローチャート中に「カラムエンド」と記載され,1バイトで表現される文字データ(キャラクタデータ)を単位にカラムを把握していることが示されている。これに対して,グラフィック画面のハードコピーについては,「カラム」という概念は全く使用されていない。 また,原告が根拠とする甲28には,「文字桁数またはカラム数」と表現している。甲28は,「文字桁数」は本件明細書で使用されている「カラム数」の概念と同一であることを前提として,その両者を区別する形式で,「カラム数」を,ドットの桁数という意味で使用している((4)頁左下欄16行目)のである。したがって,原告が主張する「ドット式プリンタの場合には,ドット単位の数となり,カラム数と呼称されている」とする根拠はまったく存在しない。 (イ) 仮にカラムとドットとが同一となることがあったとしても,「位置」という場所の概念と「カラム数」(ドット数)という量の概念とは質的な相違がある。すなわち,位置とは場所の単位系であり,ドット数は量の単位系であって,位置とドット数は単位系が全く異なる。数値が同じであるからといってこれを同視することは誤りである。 各色の右端位置は,印刷終了アドレスの最右端ビットを印刷した場合,用紙上の具体的な水平方向の位置がどこに相当するかという観点から演算される。その演算式は原告が提出した甲31別紙Gの「最大右端ドット位置の計数処理」記載のとおりである。この用紙上の水平方向の位置は,1/1440インチに換算した数値である。1/1440インチを基準とする用紙上の位置データにおいては,解像度にかかわらず,同一数値は同一位置を示す。例えば,右端位置として7200という数値が与えられれば,印刷基準位置から右に5インチ先ということを意味することになり,これは解像度に影響されない。 これに対して,ドット数が表す位置は解像度によって異なることになる。例えば,1440ドットは,720dpiでは印刷基準位置(キャリッジ原点)から2インチ右の点を示し,1440dpiでは印刷基準位置(キャリッジ原点)から1インチ右の点を示すことになる。 したがって,1/1440インチを基準とする用紙上の位置データとドット数とは異なるのである。 (ウ) さらに,各色の右端位置は,プリンタ側におけるヌルカットの結果,オンドットデータを含む縦列の最大バイトアドレスを印刷終了アドレスとし,そのバイトアドレスの右端ビットの用紙上の位置として得られるものであるから,その右端ビットが常にオンドットデータのビット(データ「1」)であるとは限らず,結局,最大7ビットの範囲でオンドットデータがない可能性がある。すなわち,演算で得られる各色の右端位置は,必ずしもイメージバッファに格納されたビットイメージデータ中オンドットデータが存在する右端ではないことを意味している。 すなわち,仮に原告主張のように「カラム数」を「ドット数」ととらえ,右端位置の数値を「ドット数」に換算したとしても,その右端位置(印刷終了アドレスの右端ビット)には,オンドットデータが存在するとは限らず,印刷基準位置からオンドットデータが存在する右端までのドット数は最大7ドットの範囲で右端位置の数値をドット数に換算した数値と異なる。 (4) 構成要件Gの充足性(争点(2))について (原告の主張) ア 被告製品1,2及び4は,その構成fにおいて計数された各色のドット数を,2色ずつ比較してより大きい方を記憶し,6色のうち最大ドット数を求める手段を備えているので,「これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段」を有している。また,被告製品3も,その構成fにおいて計数された各色のカラム数を,2色ずつ比較してより大きい方を記憶し,4色のうち最大カラム数を求める手段を備えているので,構成要件Gの「これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段」を有している。 したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Gを充足する。 イ 構成要件Fの「1印字行分のカラム数を計数する」とは,前記(3)で主張したように,印刷基準位置(キャリッジ原点)から各色の最大右端ドット位置までのドット数を求めることであり,構成要件Gの「最大カラム数」とは,印刷基準位置(キャリッジ原点)から各色の最大右端ドット位置のうちの最右端位置までのドット数という意味である。 ウ なお,本件発明の構成要件Gには,オフセットに関する記載はないが,オフセットによる補正処理は,印字ヘッドが横並びになっているプリンタでは一般に予定されている。 したがって,構成要件Gにいう「最大カラム数」とは,印字ヘッドが横置きに配置されている場合には,オフセットの加算を当然の前提としているのであり,本件明細書にオフセットに関する記載がないからといって,構成要件Gがオフセット処理を含まないと解釈すべき理由にはならない。 (被告の反論) ア 前記(3)のイにおける被告の主張と同じ理由から,被告製品は構成要件Gを充足しない。 イ 構成要件Gは,「これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段」と規定しており,構成要件Fを受けているのであって,この構成要件Fで計数される「1印字行分のカラム数」は,印字色データとして格納された各印字色のデータのカラム数(ドット数)であるから,その最大値を求める最大カラム数取得手段は,構成要件Fで計数された1印字行分のデータのカラム数(ドット数)の最大値を得る手段でなければならない。 ところが,被告製品においては,全色右端位置(仮想K右端位置換算は一応除外することとして)を求めており,この全色右端位置は,「1/1440」インチを基準とする用紙上の位置データとして同単位系において,印刷基準位置(キャリッジ原点)からの単位数を示す。 したがって,被告製品は構成要件Gが規定する「最大カラム数」を求めていない。 ウ 被告製品の各構成gは,別紙各「被告構成についての主張」の各被告主張欄g記載のとおりであるが,このキャリッジ制御系の仮想K右端位置データに換算した値とは,各色ノズル列の横方向の配列に伴うオフセットによる修正を意味する。被告製品は,キャリッジの位置制御をK色のノズル列位置をもって常時把握して制御しているからである。 ある色の印字色データの右端位置が各色の印字色データの右端位置中最も右の位置にある場合でも,キャリッジ制御系の仮想K右端位置データに換算した値として見る(K色ノズル列に注目して見る)と,上記最大右端位置を仮装K右端位置データに換算した値よりも,他の色の右端位置から仮想K右端位置データに換算された値の方が大きい(したがって,当該色の右端位置は,全色右端位置にはならない)という場合がある。 例えば,K色の右端位置が7200(印刷基準位置から5インチ先),Y色の右端位置が7056(印刷基準位置から4.9インチ先),K色,Y色以外の右端位置は大きく左側に存在したと仮定する。この場合,K色の右端位置が全色中最も大きい値になる。しかし,Y色のノズル列ではK色との1440dpiによるオフセット500H(10進数で1280)をY色の右端位置データに加算するから,8336(7056+1280)という仮想K右端位置データに換算される。K色の右端位置にはオフセットが加算されないから,K色のノズル列で右端位置がY色の右端位置より右に存するにもかかわらず,Y色の右端位置を仮想K右端位置データに換算した値は,K色のそれよりも大きい値になって,Y色の仮想K右端位置データが全色右端位置データとなる。 すなわち,別紙各「被告製品の構成」の各被告主張欄f1ないしf6で得られた各色右端位置データの最大値が必ずしも全色右端位置データになるわけではない。 (5) 構成要件Hの充足性(争点(2))について (原告の主張) ア 被告製品は,インクジェットヘッドを主走査方向に構成gで求めた最大カラム数分の位置まで連続移動させ,その後リターンするようにキャリッジ走査機構を制御するキャリッジ制御部を備えているから,「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ,その後,リターンするように前記移動手段を制御する制御手段」を有している。 したがって,被告製品は構成要件Hを充足する。 イ 被告は,構成要件Hの「最大カラム数分」を,量の概念として把握し,最大カラム数で表される量という意味に解すべきであると主張する。しかし,以下の理由から,構成要件Hの「最大カラム数分」とは,最大ドット数で表される位置,すなわち,各色の印字色データの最大右端位置のうちの最右端の位置という意味であるから,被告の主張は失当である。 (ア) まず,本件発明の作用効果は,多色印字装置において,各印字色により印字される1印字行が一定でない場合でもすべての印字色の印字を行い,かつ,移動を最少限に留めてリターンし,効率的な印字を行うことにある。そのために,印刷基準位置(キャリッジ原点)からキャリッジをリターンすべき用紙上の一定の位置(全色右端位置=最大ドット数位置)までをカラム数(ドット数)で表すものである。したがって,「最大カラム数分」とは,上記の最大ドット数で表される位置という意味である。 (イ) また,被告自身も,1/1440インチを基準とする用紙上の位置データは,この位置を示す単位系において,印刷基準位置(キャリッジ原点)からの単位数で示すことを自認しているように,位置とは起点からの単位数をいうのであるから,「最大カラム数分」とは,起点(本件ではキャリッジ原点)からカラムを単位としてX個分の位置をいうのである(なお,ここで起点というのは,特定の位置を定めるための基準となる位置をいうのであって,現実のキャリッジ移動がこの起点から始まらなければならないことを意味するものではない。)。 ウ また,被告は,構成要件Hの「最大カラム数分連続移動させ」を,印刷基準位置(キャリッジ原点)から,全色右端位置(各色の印字色データの最右端のオンドットデータのうちの最右端の位置)までの距離を移動する意味であると解すべきところ,被告製品においては,キャリッジは主走査方向へは,「印刷基準位置(キャリッジ原点)から全色右端位置までのカラム数」から「印刷基準位置(キャリッジ原点)から全色左端位置までのカラム数」を差し引いたカラム数しか移動しないから,被告製品は構成要件Hを充足しない旨主張する。 しかし,被告製品において上記のような構成となるのは,被告製品が最大右端位置に関する本件発明の技術思想を最小左端位置の処理についてもミラー(鏡面反射)的に利用していることから必然的に生ずる結果にすぎない。 本件発明では,構成要件F,Gの手段により求められた最大カラム数位置までキャリッジを移動させるものであるのに対し,被告製品は,この右端に関する本件発明の技術思想をそのまま全色左端位置に関しても付加採用したものである。被告製品においては,左端においてもキャリッジが用紙上のキャリッジ原点まで戻ることなくリターンするという作用効果が追加されているとしても,この付加的機能によって本件発明の作用効果を奏さなくなるものではない。被告製品は,全色右端位置に関する本件発明の作用効果をそのまま維持しつつ,同一の技術思想を全色左端位置においても重複採用したにすぎず,本件発明と技術思想は異ならない。 エ 被告は,被告製品におけるキャリッジの移動の制御は,現在位置把握制御に基づいて行われており,用紙上で何ドット,あるいはどのドットまで生成したから,キャリッジ走査を止める,あるいは移動させるといった制御にはなっていない旨主張する。 しかし,被告製品の各構成gまでの処理で求められた全色右端位置(最大ドット数位置)は,位置を示す単位としてのドット数であるところ,そのドット数はキャリッジの移動を制御するステッピングモータの単位に合わせる必要がある。そして,ステッピングモータを用いる場合,位置を示すカラム数が一定比でモータのパルスと対応することにより,目標とする位置までの移動の制御が可能となる。被告製品もステップモータを採用し,キャリッジ原点からのカラム数により,現在位置の把握と目標位置までのカラム数の計数をしている。全色最大右端位置を示す最大カラム数分の位置まで,ドット数を単位とし(120dpiのパルス数に変換することにより),移動を制御しているのである。 また,被告は,現在位置把握手段について具体的な主張立証を何らしておらず,このことは,被告製品がキャリッジ原点からのドット数によりキャリッジリターンの位置の把握をしていることを認めていることの証左である。 したがって,被告の上記主張は誤りである。 (被告の反論) 以下の理由から,被告製品は構成要件Hを充足しない。 ア 構成要件Hの「最大カラム数分」は,以下のとおり,「最大カラム数で表現される量」という量の概念で理解すべきである。 すなわち,「分」という言葉には,@わけること,A区別すること,Bわかれること,C全体を構成する要素,一部,量という意味があり,本件発明の構成要件Hの「最大カラム数分」における「分」は,上記Cの意味で用いられている。したがって,構成要件Hの「最大カラム数分」とは,量の概念として把握すべきであり,最大カラム数で表される量という意味に解すべきである。 原告は,「最大カラム数分」とは,「最大ドット数で表される位置」という意味である旨主張しているが,以下の理由から,同主張は失当である。 (ア) まず,原告の上記主張は本件明細書の特許請求の範囲の文言に反する。そして,本件明細書中には,「最大カラム数分とは,最大ドット数で表される位置という意味である。」というような定義をした記載はないばかりでなく,そのようなことを示唆する記載も全くない。 (イ) 構成要件Hにおける,印字ヘッドが「最大カラム数分連続移動」は,以下のような動作を指していると解すべきである。すなわち,カラムレジスタ26に格納され,1カラム毎に印字されると順次1ずつ減じていき,この数値が零になるとそのレジスタに対応するヘッドが開放され,また,カラムレジスタに格納されたカラム数の最大値としてレジスタ28に格納された「最大カラム数」も同様に,1カラム毎に印字されると順次1ずつ減じていき,この数値が零になるとプリンタ制御部により,印字ヘッドがリターンされ,結局「最大カラム数分」の印字色データを印字することになり,結果的に,印字ヘッドはその「最大カラム数分」連続して印字動作をしていることを指していると理解できる。 (ウ) 構成要件Hは,印字ヘッドは「連続移動させ」と規定している。 「最大カラム数分」を「量」の概念で把握するときは,印字ヘッドが第1カラムから最大カラム数分「連続移動する」ことを指すと容易に理解できる。しかし,原告主張のように「位置」の概念で把握するときは,印字ヘッドがどこの「位置」からどこの「位置」までを連続移動するかが明確にならなければ,印字装置として機能しないはずである。また,この「位置」に基づく印字ヘッドの動作を制御するには,前記のとおり,印字ヘッドの現在位置把握が不可欠であるところ,本件明細書には,印字ヘッドの「位置」に関する制御については全く開示されていない。 これに対して,被告製品においては,最大カラム数を有する印字色データの右端位置が必ずしも全色右端位置となるわけではないので,キャリッジは最大カラム数分連続するということにはならない。 仮に,原告の主張のように,印刷基準位置(キャリッジ原点)という概念の存在を認めるとしても,構成要件Hにおいては,その場合の最大カラム数分とは,印刷基準位置(キャリッジ原点)から全色右端位置までのカラムの量により把握されるのに対して,被告製品においては,キャリッジは,全色左端位置から全色右端位置まで連続移動しているのであるから,最大カラム数分移動することはない。 イ 原告は,最大カラム数を求めることにより,キャリッジが連続移動する位置を求めることができると主張するが,同主張は,「量」の概念を「位置」の概念に置き換えており失当である。 本件明細書には,一貫して「最大カラム数を求め,キャリッジをその最大カラム数分連続移動させることで課題を解決できる」と記載されており,「カラム数」という「量」によってキャリッジを制御しようというのがその技術思想の根本になっている。「量」による制御であれば,キャリッジ現在位置を把握する必要がなく,簡易な制御ができることになる。実際,本件明細書にはキャリッジの現在位置を把握している記載はない。一方,キャリッジの現在位置を把握した上で,位置により制御する技術(「最短距離印刷」と言われる。)は本件特許出願当時から多数知られている。 仮に,「カラム数」という「量」によってキャリッジの移動量を求めたことにつき,これを「キャリッジの位置」をもって制御することになるというのであれば,明細書において,そのような点が開示されなければならないはずである。 しかし,本件明細書にはキャリッジが移動する位置を求めるという技術思想は一切開示されていない。 これに対して,被告製品においては,キャリッジの移動はすべてキャリッジの現在位置把握に基づいてされており,その間の印字データ量(ドット数)を減算したりする計数処理とは全く異なる。 ウ 本件発明に係るプリンタでは,キャリッジ走査制御と印字ヘッドの駆動制御を直接関連付けている。これに対し,被告製品の構成hにおける現在位置把握制御は,主にキャリッジ制御のためのものであり,時間管理で制御するインクジェットヘッドからのインク吐出制御とは,直接的には関連付けられていない。すなわち,被告製品は,用紙上で何ドット,あるいはどのドットまで生成したから,キャリッジ走査を止める,あるいは移動させるといった制御にはなっていない。現在のキャリッジ位置情報を基に,キャリッジはそのK色ノズル列の位置情報を基に独自に加速・定速・減速の制御を行っており,これとは独立してキャリッジ上のインクジェットヘッドは,キャリッジが全色左端位置に達した時点から所定の周期でインクの吐き出し制御を行っている。 (6) 本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用となるか(争点(3))について (被告の主張) 以下のとおり,本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから,本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用となる。 ア 本件明細書には,キャリッジリターン・コード(CR・LF)の取り扱いに関する処理は全く記載されていない。すなわち,当該発明が解決しようとする問題点を解決するためにどのような手段を講じたのかをその作用とともに記載(特許法施行規則様式16の14ロ)していない。 したがって,本件特許は,昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条3項に違反するので,特許法123条1項3号の規定により,無効とされるべきである。 イ 本件発明では,全色の印字色データは印字ヘッドがキャリッジリターンしたときの行頭位置(以下,「所定の行頭位置」という)に対応するアドレスから常に格納開始されること,すなわち,全色の印字色データによる1印字行の左端位置が所定の行頭位置に固定していることをその必須の構成要素としていると考えざるを得ない。しかるに,本件発明の特許請求の範囲の記載は,格納手段に格納される全色の印字色データの左端位置が所定の行頭位置に対応するアドレスに固定していることをその必須の構成要素としていない。 したがって,本件特許は,昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条4項に違反するので,特許法123条1項3号の規定により,無効とされるべきである。 ウ 甲38(乙4の1)に記載された発明と本件発明の実質的相違はなく,甲38(乙4の1)に本件発明の構成の全部が記載されているというべきである。 したがって,本件特許は,特許法29条1項1号に該当するので,特許法123条1項1号の規定により,無効とされるべきである。 エ 甲38(乙4の1)に記載された発明と本件発明とが仮に相違するとしても,当該相違部分は当業者には自明なことであり,本件発明は,甲38(乙4の1)に基づき当業者が容易に発明することができたものである。 したがって,本件特許は,特許法29条2項に該当するので,特許法123条1項1号の規定により,無効とされるべきである。 (原告の反論) ア 被告の主張する無効理由アについて 本件発明は,キャリッジリターン・コード(CR・LF)を用いずに,キャリッジのリターン及びラインフィードを行わせるようにしたものであり,従来のキャリッジリターン方法とは根本的に異なる方法を用いるものである。すなわち,本件発明は,印字色データから1印字行分のカラム数を計数し,当該計数値に基づいてキャリッジのリターンの位置を求め,キャリッジのリターン及びラインフィードを行わせるものである。 したがって,本件発明は,キャリッジリターン・コードを必要としないものであり,被告のこの点に関する主張は失当である。 イ 被告の主張する無効理由イについて 本件発明は,キャリッジがリターンする位置が問題となるものであって,印字色データの格納方法や印字開始位置が問題となるものではない。すなわち,本件明細書の特許請求の範囲の,「1印字行分のカラム数を計数する」とは,印刷基準位置(キャリッジ原点)からカラム数を計数することを意味し,この計数値によって,印字色毎の印字ヘッドが移動すべき位置が求められるものであり,「最大カラム数取得手段」が「計数されたカラム数のうち最大カラム数」を求めて印字ヘッドがリターンすべき位置を求め,「制御手段」が印字ヘッドをこの最大カラム数分の位置まで連続移動させ,その後リターンさせるものである。この構成によって,本件発明の目的が達成されるのである。 このように,印字色データの格納方法や印字開始位置は,本件発明にとって必須の構成要素ではないので,この点に関する被告の主張は失当である。 ウ 被告の主張する無効理由ウについて 甲38に記載された発明は,カラム数計数手段が存在しないこと,最大カラム数を求める手段がないこと,キャリッジが用紙上のどこの位置でリターンするか明らかでないことから,被告のこの点に関する主張は失当である。 エ 被告の主張する無効理由エについて 甲38には,「アドレスカウンタ」は記載されていない。「アドレスカウンタ」をどこに設けるか,「アドレスカウンタ」と他の回路,手段とどのように結合されているのか,「アドレスカウンタ」はどのような作用をなすものかも何ら記載されていない。 また,乙4の2に記載された発明は,単色印字装置に関するものである。単色印字装置においては,1印字行が一定でない場合に特定色に基づく印字が行われないままキャリッジ・リターンが行われるという多色印字装置特有の問題点はそもそも存在しないから,本件発明にあるような各印字色ごとのカラム数を計数し,その中の最大カラム数を取得する手段を備える必要もない。さらに,被告が引用する乙4の5,11ないし24は,いずれも単色印字装置に関する発明ないし考案であって,複数の印字色についてのカラム計数手段も,最大カラム数取得手段も全く開示されていないし,示唆すらない。同じくカラム計数手段も最大カラム数取得手段もない甲38に記載された発明とどのような組み合わをしたとしても,本件発明を当業者が容易に想到することはできない。 よって,本件発明は,甲38に記載された発明,乙4号の2記載の発明を組み合わせることによって当業者が容易に発明できたものであるとはいえないから,被告のこの点に関する主張は失当である。 (4) 損害額(争点(4))について (原告の主張) 1(1) 被告は,業として,被告製品1を,遅くとも平成9年11月ころから現在に至るまで,少なくとも60万台製造販売した。被告製品1の工場出荷価格は1台当たり2万7820円を下廻らないから,売上高は少なくとも166億9200万円にのぼる(甲6)。 (2) 被告は,業として,被告製品2を,遅くとも平成10年10月ころから現在に至るまで,少なくとも40万台製造販売し,現在もなお製造販売している。被告製品2の工場出荷価格は1台当たり1万5000円を下廻らないから,売上高は少なくとも60億円にのぼる(甲7)。 (3) 被告は,業として,被告製品3を,遅くとも平成7年6月ころから現在に至るまで,少なくとも25万台製造販売した。被告製品3の工場出荷価格は,1台当たり3万9900円を下廻らないから,売上高は少なくとも99億7500万円にのぼる(甲8)。 (4) 被告は,業として,被告製品4を,遅くとも平成12年5月20日ころから現在に至るまで,少なくとも5万台製造販売し,現在もなお製造販売している。被告製品4の工場出荷価格は1台当たり2万7820円を下廻らないから,売上高は少なくとも13億9100万円にのぼる(甲14)。 2 本件発明の実施に対して受けるべき金銭に相当する額は,少なくとも被告製品の販売価格の10パーセントを下廻らない。 そこで,原告の損害額は次のとおりとなる。 (1) 被告製品1について 166億9200万円×10パーセント=16億6920万円 (2) 被告製品2について 60億円×10パーセント=6億円 (3) 被告製品3について 99億7500万円×10パーセント=9億9750万円 (4) 被告製品4について 13億9100万円×10パーセント=1億3910万円 (被告の認否) 争う。 |
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当裁判所の判断
1 構成要件Hの充足性 (1) 構成要件中Hの「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」の意義 当裁判所は,構成要件Hにおける「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」とは,「印字ヘッドを印刷基準位置(キャリッジ原点)から各印字色データのオンドットデータの右端のうち全色の最右端位置まで連続して移動させること」を意味するものと解すべきであって,原告の主張するように,「印字ヘッドを,各色印字色データの右端のうち,最大右端ドット数で表現される位置まで連続して移動させること」を意味すると解すべきでないと思料する。以下,その理由を敷衍する。 ア 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄及び図面の記載 本件明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」欄及び図面には,以下の各記載がある。すなわち, (ア) 従来技術として,「主走査方向が単一方向の単色印字装置においては,印字データを,一方で,バッファに格納し,一方で,このバッファから格納順に読み出し,この読み出した印字データに応じて印字ヘッドを駆動して印字を行なう。そして,1印字行分のデータ読み出しが終了してキャリッジリターンコードが読み出されると,印字ヘッドをリターンさせるとともにラインフィードを行なうようにしている。」(1欄21行〜2欄3行),「つぎに,このような印字ヘッド駆動方法を,主走査方向が単一方向の多色印字装置,例えば,イエロー,マゼンタ,シアンの印字色によりカラー印字を行なう装置に適用した例を説明する。」(2欄4行〜7行),「イエロー,マゼンタ,シアンの各印字色データに基づき,主走査,副走査が行なわれると,(中略)1行分の多色印字は,イエローの熱転写,1印字行分(幅D)の紙送り,マゼンタの熱転写,1印字行分の紙送り,シアンの熱転写という1サイクルにより完了する。このサイクルにおいて,ある行を着目すると,まず,イエローが印字され,ついで,マゼンタが,最後にシアンが印字されることがわかる。」(3欄9行〜20行) (イ) 発明が解決しようとする問題点として,「しかしながら,キャリッジリターンコード,ラインフィードコードが読み出されると,1印字行の長短に関係なく,キャリッジリターンコード,ラインフィードコードが読み出された時点で,キャリッジリターンおよびラインフィードが行なわれる。このため,例えば,第8図に示すように,格納されたデータ量が一定でない場合,すなわち,1印字行が一定でない場合は,図中斜線で示したイエローデータに基づく印字が行なわれないまま,キャリッジリターンが行なわれるという問題点があつた。」(3欄22行〜32行) (ウ) 問題を解決するための手段として,「この発明に係る多色印字装置は,複数の印字ヘッドと,印字ヘッドの数に対応して設けられ,印字色データを一時的に格納するデータ格納手段と,これから印字色データを読み出すデータ読み出し手段と,読み出された印字色データに基づき前記印字ヘッドをそれぞれ駆動する印字ヘッド駆動手段と,前記印字ヘッドを移動する移動手段とにより構成し,前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数をカラム計数手段により計数し,計数したカラム数のうち最大カラム数を最大カラム数取得手段により求め,求めた最大カラム数分,移動手段により印字ヘッドを主走査方向に連続移動させた後,リターンするように制御手段により制御し,各印字色により印字される1印字行が一定でない場合でも,多色印字が行なえるようにしている。」(3欄34行〜4欄5行) (エ) 発明の効果として,「この発明は,上記のような構成としたため,各印字色により印字される1印字行が一定でない場合でも,多色印字が行なえるという効果がある。」(6欄12行〜14行) (オ) 実施例として,「2は多色印字装置で,ホストコンピュータ1から印字データを受信するデータ受信部21と,この受信した印字データを色コードに応じてバッファメモリ22a〜22c(データ格納手段)のうちいずれかを選択するデータセレクタ23と,(中略)前記バッファメモリ22a〜22cにそれぞれ格納された印字色データから1印字行分のカラム数を計数するカラムレジスタ(カラム計数手段)26と,これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求めるとともにバッファメモリ22a〜22cから印字データを読み出し,さらに印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ,その後,リターンするように前記キャリッジモータ25を制御するプリンタ制御部(最大カラム取得手段,データ読み出し手段,制御手段)27と,最大カラム数を格納するレジスタ28と(中略)より構成されている。」(4欄10行〜32行),「いま,第2図に示すフレームフォーマットの印字色データがホストコンピュータ1から多色印字装置2のデータ受信部21に入力されたものとする(STEP-1)。すると,制御コードに従って,前記データ受信部21により,データセレクタ23が駆動され,このデータセレクタ23により,まず,色コード(イエロー)に従って,Yバッファメモリー22cが選択される(STEP-3〜6)。そして,この選択されたYバッファメモリ22cに,プリンタ制御部27により,イエロー印字色データがフレームエンドコードまでを1フレームとして,受信された順に格納される(STEP-7〜9)。このとき,カラムレジスタ26により,カラムの計数が行なわれる(STEP-10)。」(4欄35行〜5欄5行),「イエロー印字データをバッファメモリに格納するときと同様にして,マゼンタ,シアン印字データに基づいて,それぞれ印字されるカラム数がカラムレジスタ26により計数される(STEP-14,18)。そして,プリンタ制御部27は,デ一タENDコードにより,3フレームで構成される1データブロックの受信終了を判断すると(STEP-4),前記カラムレジスタにより計数されたカラム数のうち最大のカラム数(=m)を求め(STEP-19),同時に,印字を開始する。」(5欄11行〜21行),「1カラムの印字が終了すると,終了ごとに,前記レジスタ28のセットカラム数から1を減じていき(STEP-27),またカラムレジスタ26から同様に1を減じていく(STEP―27)。そして,カラムレジスタ26が零になると(STEP-34),零になったレジスタに対応するヘッドを開放し(STEP-28-33),また,レジスタ28が零なると(STEP-34),プリンタ制御部により,キャリッジがリターンされるとともにフィードモータ29よりラインフィードが行なわれる。」(5欄27行〜6欄9行) (カ) 本件特許公報の第8図には,イエローデータ,マゼンタデータ及びシアンデータのデータ量を示す3つの長さの異なる細長い枠が縦に3本並べて記載されており,この各枠の左端の位置はすべて同じであるが,右端の位置はすべて異なり,イエローデータを示す枠の右端位置が一番右側にある。シアンデータを示す枠の右端部分には,キャリッジリターンコード及びラインフィードコードを示す枠が表示されており,イエローデータを示す枠内には,シアンデータを示す枠の右端位置と同一の位置に縦の実線が引かれ,この実線の右側部分には斜線が引かれている。 イ 本件発明の技術内容 前記アで認定した事実によれば,本件発明は,従来の多色印字装置では,各印字色により印字される1印字行の長さが一定でない場合に色が欠けるという問題点があったことから,この問題点を解決課題として,多色印字装置において,「1印字行の長さが一定でない場合であっても,色が欠けることなく多色印字を行えるようにする」(本件発明の効果)ことを目的として,「前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数をカラム計数手段により計数し,計数したカラム数のうち最大カラム数を最大カラム数取得手段により求め,求めた最大カラム数分,移動手段により印字ヘッドを主走査方向に連続移動させた後,リターンするように制御手段により制御する」(構成要件FないしH)ことにより,上記の効果を奏するようにしたものである。 そして,本件明細書において,以下のとおりの実施例が示されている。 すなわち,ホストコンピュータから各色の印字色データ(右側のデータがヌルカット処理され,最も右にあるオンドットデータの右側のヌルデータは含まれていない。)が多色印字装置に送られ,同データが各色に対応するデータ格納手段(バッファメモリ)にフレームエンドコードまでを1フレームとして格納される。この格納の際に,上記印字色データのカラム数が計数されるが,このカラム数の計数方法は次のとおりである。すなわち,まず,1カラム単位で,当該印字色データがフレームエンドか否かが判断され,同データがフレームエンドではないと判断されるとバッファメモリに格納される。カラムレジスタは,この格納の際にカラム数として1を加算する(印字色データを受信する前のカラム数は0)。このような処理を,フレームエンドのデータが受信されるまで繰り返し,各色のカラムレジスタは,計数したカラム数を記憶する。その後,プリンタ制御部がデータENDコードにより,1データブロックの受信終了を判断すると,各色のカラムレジスタにより計数されたカラム数のうち最大のカラム数を求め,同最大カラム数をレジスタに格納する。各印字色データは1カラムごとに読み出され,これに基づき,1カラムごとに印字され,1カラムの印字が終了するごとに,各色のカラムレジスタ内のカラム数から1を減じていき,同時に,レジスタ内の最大カラム数からも1を減じていく。 そして,各色のカラムレジスタ内のカラム数が0になると,そのカラムレジスタに対応する印字ヘッドが解放され,上記印字色の印字はされなくなる。レジスタ内のカラム数が0になると,キャリッジがリターンされる。 ウ 小括 (ア) 以上を総合すると,構成要件Hにおける「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」とは,文言の通常の意味どおり,印字ヘッドを印刷基準位置(キャリッジ原点)から右(主走査方向)に最大カラム数と同一のカラム数だけ連続して移動させる(例えば,最大カラム数が10カラムであれば,印字ヘッドを印刷基準位置(キャリッジ原点)から右に連続して10カラム移動させる)ことを意味するものと解するのが相当である。本件発明に係る多色印字装置において,色が欠けることなく多色印字を行うことができるとの効果を奏するのは,印字ヘッドが印刷基準位置(キャリッジ原点)から右(主走査方向)に最大カラム数分移動した位置が,主走査方向の印字データの存在する最右端位置を示しているからである。したがって,構成要件Hの「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」とは,印字ヘッドを印刷基準位置(キャリッジ原点)から各印字色データのオンドットデータの右端のうち全色の最右端位置まで連続して移動させることを意味するものと解すべきである。 (イ) この点につき,原告は,「最大カラム数分」とは,各色印字色データの右端のうち,最大右端ドット数で表現されたところの「位置」を意味し,「最大カラム数分連続移動」するとは,上記の位置まで移動することを意味すると主張する。 しかし,前示のとおり,「最大カラム数分」という用語の通常有する意味からすれば,原告の主張するような上記解釈は,「最大カラム数分連続移動する」という文言から大きく乖離することになり,また,本件明細書中にも,上記のように解釈すべきことを示唆するに足りる記載は全くない(むしろ,前記(1)イで認定したとおり,本件明細書の実施例においては,印字の際に最大カラム数から1カラムずつ減数し,レジスタの最大カラム数が0となるまで印字するとされているから,印字ヘッドは最大カラム数と同一のカラム数だけ移動するという構成となっており,「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」に関する前記解釈に符合するものとなっている。)。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (2) 被告製品の構成及び対比 被告製品において,キャリッジ(印字ヘッド)は,各色の印字色データのオンドットデータの左端のうち全色の最左端位置から全色の最右端位置まで移動する(争いがない。なお,ここでは被告主張に係るキャリッジの「加速距離分」,「減速距離分」を除外して考える。)のであり,印刷基準位置(キャリッジ原点)から主走査方向に移動するのではないから,被告製品は,キャリッジを主走査方向に「最大カラム数分連続移動」すると解する余地はない。 この点で,原告は,被告製品において,キャリッジが各色の印字色データの左端のうち全色最左端位置から移動することについて,被告製品は,本件発明の作用,効果を享受しつつ,全色最左端位置に関する新たな構成を加えたものであるから,本件発明と技術的思想が異なる訳ではなく,したがって,この点は構成要件Hの充足性に影響しない旨主張する。 しかし,被告製品は,キャリッジが各色の印字色データの,左端の「最左端位置」から,右端の「最右端位置」まで移動するのであるから,本件発明の作用効果の達成するために設けられた構成要件Hを用いた上で,他の構成を付加したと評価することはできない。 この点に関する原告の主張は採用できない。 以上のとおり,被告製品は構成要件Hを充足しない。 2 構成要件Fの充足性 (1) 構成要件Fの「前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段」の意義 ア 前示の本件発明の目的を達成させるための構造として,本件明細書の特許請求の範囲には,「前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段と(F),これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段と(G),印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ,その後,リターンするように前記移動手段を制御する制御手段と(H)を備えてなる」と記載されている。 このうち,まず,構成要件Fの「カラム数を計数する」の意味について検討するに,「計数する」という語は,@数える,A計算するという意味を有するが,これを明細書の記載を参照して解釈すれば,前記1(1)イで認定したように,本件発明の実施例では,「計数する」を「一つずつ数えていく」という意味で使用していること,本件明細書において,「計算によって求める」との技術的意義を示唆する記載は全く存在しないことから,「カラム数を計数する」とは,「カラム数を数える」という意味であると解するのが相当である。 このように,構成要件Fの「カラム数を計数する」とは,「カラム数を数える」という意味であり,「カラム数を計算する」という意味ではない以上,格納手段に格納されていない印字色データについては,そのカラム数を数えることは不可能であるから,カラム数を計数する対象は,格納手段に格納された印字色データとならざるを得ない。そうすると,構成要件Fでは,格納手段に格納された各色の印字色データのカラム数を数えることになり(したがって,「1印字行分」とは,格納手段に格納された印字色データと同義となる。),構成要件Gの「最大カラム数」とは,格納手段に格納された各色の印字色データのカラム数のうちの最大のカラム数ということになり,構成要件Hでは,キャリッジがそのような最大カラム数分移動してリターンするというものとなる。 本件発明の内容についての以上の理解を前提にすると,仮に,格納手段に格納された印字色データの左側がホストコンピュータ内で既にヌルカット処理されていた場合は,構成要件Hにおいて,キャリッジを,構成要件Gで求められた最大カラム数分移動させて,リターンさせたとしても,一部又はすべての印字色データが印字されない印字色が生じ,色が欠けることなく多色印字を行えるようにするという本件発明の唯一の目的を達成することはできないことになる(上記の場合は,各色の印字色データの最大カラム数を求めること自体が意味のない動作となる。)。 このように,発明の唯一の目的を達成することができないように本件発明の内容を理解することは不合理であるから,本件発明の構成要件Fの「前記格納手段に格納された印字色データ」とは,左側のデータがヌルカット処理されていないものであること,換言すれば,格納手段には,左側のデータはヌルデータであってもすべて格納されることが必要であると解すべきである。 イ これに対して,原告は,構成要件Fの「1印字行分のカラム数を計数する」を,印刷基準位置(キャリッジ原点)から各色の印字色データの右端位置(最右端のオンドットデータの位置)までのカラム数を計数するという意味であると主張する。すわなち,被告製品は,水平開始位置データ(データ格納開始番地)に水平方向の幅データを加算することにより,印刷基準位置(キャリッジ原点)から右端位置までのカラム数を計数しているところ,このような方法により右端位置を求めることも,構成要件Fの技術的範囲に含まれる旨主張する。原告の同解釈(構成要件Gの「最大カラム数」は上記カラム数のうちの最大のカラム数となる。)によれば,格納手段に格納される印字色データの左側のデータが既にヌルカット処理をされている場合であっても,格納された各印字色データの最大カラム数を求め,このカラム数分キャリッジを移動させることにより本件発明の目的は達成される。 しかし,原告の上記主張は,「計数する」を「計算する」という意味で解することを前提としている(それだからこそ,印字色データの左側のデータが存在しなくとも,印刷基準位置(キャリッジ原点)から同データの右端の位置までのカラム数を把握することができる。)が,前記アで判示したように,「カラム数を計数する」とは,「カラム数を数える」という意味に解すべき(このように解すると,印字色データの左側が欠けている場合は,その部分については数える対象がないので,その部分を合わせて,印刷基準位置(キャリッジ原点)から右端の位置までのカラム数を数えることはできない。)であるから,原告の上記主張は理由がない。 (2) 被告製品の構成及び対比 本件全証拠によっても,被告製品において,そもそも,印字色データのカラム数が数えられていると認めることはできない(なお,前記のとおり,水平開始位置データ(データ格納開始番地)に水平方向の幅データを加算することにより,印刷基準位置(キャリッジ原点)から右端位置までのカラム数を求めることは,カラム数を数えることに当たると解することはできない。)。 のみならず,被告製品においては,ホストコンピュータから被告製品に送られてくる印字色データの左側のデータが既にヌルカット処理され,これがイメージバッファメモリに格納される(争いがない。)。前示のとおり,左側のデータがヌルカット処理された印字色データは,構成要件Fの「前記格納手段に格納された印字色データ」に当たらない。 したがって,被告製品は,構成要件Fを充足しない。 3 結論 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 |
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物件目録1「カラリオ」シリーズのカラープリンタ機種名PM-750C外形寸法429(W)×234(D)×162(H)mm物件目録2「カラリオ」シリーズのカラープリンタ機種名PM-670C外形寸法429(W)×250(D)×165(H)mm物件目録3マッハジェットカラープリンタ機種名MJ-800C外形寸法433(W)×582(D)×297(H)mm物件目録4「カラリオ」シリーズのカラープリンタ機種名PM-820C外形寸法471(W)×290(D)×175(H)mm被告構成についての主張被告製品1被告構成についての主張被告製品2被告構成についての主張被告製品3被告構成についての主張被告製品4 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 佐野信 |