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関連審決 審判1992-18472
審判1993-1768
訂正2000-39150
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ6178特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成15ワ19926特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  新規性 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  権利の濫用(権利濫用) /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  販売数量(販売数) /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  独占的通常実施権 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 4年 (ワ) 6690号 特許権侵害行為差止等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 武田純
同 池田直樹
同 斎藤浩
同 阪田健夫
同 斎藤 ともよ
同 河原林 昌樹
補佐人弁理士 大石征郎
被告 ナショナル自転車工業株式会社
被告 株式会社倉本産業
被告ら訴訟代理人弁護士 小坂 志磨夫
同 小池豊
被告ら補佐人弁理士 永井義久
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告株式会社倉本産業は、別紙物件目録記載の転写印刷シートを製造し、
販売してはならない。
(2) 被告ナショナル自転車工業株式会社は、別紙物件目録記載の転写印刷シートを使用したマウンテンバイクを製造し、販売してはならない。
(3) 被告らは、原告に対し、各自5400万円及びこれに対する平成4年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(5) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許権 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
特許番号 特許第1677709号 発明の名称 転写印刷シート 出願年月日 昭和59年11月30日(特願昭59-254534号) 出願公告年月日 平成2年10月25日(特公平2-48439号) 登録年月日 平成4年7月13日 (2) 手続の経緯 本件特許権に関する手続の経緯は、次のとおりである。
平成4年9月30日 無効審判請求(平成4年審判第18472号。請求人は被告株式会社倉本産業(以下「被告倉本産業」という。)であり、被請求人は原告であった。) 平成5年2月3日 訂正審判請求(平成5年審判第1768号) 平成7年3月10日 訂正審判の審決(訂正認容) 平成7年6月28日 無効審判の審決(請求不成立。以下「第1次審決」という。) 平成7年8月11日 第1次審決に対する審決取消訴訟提起(東京高裁平成7年行ケ第194号。以下「第1次審決取消訴訟」という。) 平成9年2月13日 第1次審決取消訴訟の判決(審決取消) 平成9年2月26日 上告(最高裁平成9年行ツ第120号) 平成9年9月9日 上告事件判決(上告棄却) 平成12年12月8日 訂正審判の請求(訂正2000-39150号。
以下「本件訂正審判」とい、本件訂正審判の請求に係る訂正を「本件訂正」という。) 平成13年7月18日 本件訂正審判の審決(訂正認容。原簿上、同年8月15日審決、同月27日確定) 平成13年9月5日 無効審判の審決(請求不成立。以下「本件審決」という。) 平成13年10月12日 本件審決に対する審決取消訴訟提起(東京高裁平成13年行ケ第455号。以下「本件審決取消訴訟」という。) 平成14年5月9日 本件審決取消訴訟の判決(審決取消) (3) 特許発明 ア 本件特許権に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲のとおりであり、同特許請求の範囲第1項の記載は、次のとおりである(以下、本件訂正により訂正が認められた明細書(本判決末尾添付)を「本件訂正明細書」といい、その特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。)。
「1.その上に印刷を行うための離型性を有する剥離シート(A)の離型性保有面に、配合界面活性剤の少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を用いた界面活性剤配合感圧接着剤組成物による所定のパターンの印刷層(B)を設け、ついで該印刷層(B)上に、前記と実質状同一のパターンを描くようにインクによる単色または多色の印刷層(C)を設け、さらにその印刷層(C)の上から、前記パターンよりも広い面積を覆うための、軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理が施された透明なフィルムまたはシートからなる剥離可能な保護シート(D)を貼付設置した構成を有する転写印刷シート。」 イ 本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、本件発明の構成要件は、下記の番号をもって示す。)。
@ その上に印刷を行うための離型性を有する剥離シート(A)の離型性保有面に、
A 配合界面活性剤の少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を用いた界面活性剤配合感圧接着剤組成物による所定のパターンの印刷層(B)を設け、
B ついで該印刷層(B)上に、前記と実質状同一のパターンを描くようにインクによる単色または多色の印刷層(C)を設け、
C さらにその印刷層(C)の上から、前記パターンよりも広い面積を覆うための、軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理が施された透明なフィルムまたはシートからなる剥離可能な保護シート(D)を貼付設置した D 構成を有する転写印刷シート。
(4) 作用効果 本件発明の作用効果は次のとおりである。
被写体に、直刷りしたのと変らないような鮮明で美麗なパターンをワンタッチで転写印刷できる。
剥離シート上に接着剤組成物を印刷しているにもかかわらず、印刷をたとえばシルクスクリーン印刷で行っても、印刷面にハジキ、ワレ、収縮、ヘコミ等を生じない。
被写体に貼着後直ちに保護シートの剥離除去ができるので、転写に要する時間が極めて短かくてすみ、しかも転写操作に熟練を要しない。
接着剤組成物による印刷層とインクまたは塗料による印刷層とが実質状同一パターンであるので、接着剤組成物のはみ出しがない。
事前に転写印刷シートや被写体を水やアルコールで湿潤させておく必要がないので、水やアルコールに冒される被写体にも適用できる。
印刷によって構成された層のみが転写されるため、屋外耐候性、柔軟性、
耐熱性など被写体の要求性能に応じた設計が可能となる。
印刷のみによって得られた転写印刷シートであるため、打ち抜きや余分なスペースを必要とせず、製法の簡素化、デザインの優位性がある。
(5) 被告製品の製造販売等 ア 被告倉本産業は、別紙物件目録記載の転写印刷シート(以下「被告製品」という。)を製造販売し、被告ナショナル自転車工業株式会社(以下「被告ナショナル自転車」という。)は、被告製品を使用したマウンテンバイク及び普通自転車(以下「マウンテンバイク等」という。)を製造販売している。
イ 被告ナショナル自転車は、平成2年11月1日から同年末までに1万台、平成3年1月1日から同年末までに12万台、平成4年1月1日から同年7月2日までに少なくとも7万台の合計20万台のマウンテンバイク等を製造販売し、
マウンテンバイク等1台当たり2枚で20万台分の合計40万枚の被告製品を使用した。被告倉本産業は、この40万枚の被告製品を製造し、これを被告ナショナル自転車に販売した。
(6) 被告製品の構成 被告製品の構成を分説すると、次のとおりである(以下、被告製品の構成は、下記の記号をもって示す。)。
a ポリエステル剥離シートの一部に、
b シリコン消泡剤を添加してなる粘着剤印刷層を設け、
c この粘着剤印刷層上にこれと略同一形状の透明印刷層を設け、更にその上に相似形的にやや面積の小さい着色されたインキ印刷層を設け、その上に前記粘着剤印刷層及び透明印刷層と同一の形状の透明のオーバーコート印刷層を設け、
d このオーバーコート印刷層を覆って、順次粘着剤層、透明塩化ビニルシート層、粘着剤層及び透明塩化ビニルシート層を設けてなる e マウンテンバイク用転写シート (7) 対比 ア 本件発明の構成要件と被告製品の構成を対比すると、次のとおりである。
(ア) 構成aは、構成要件@を充足する。
(イ) 構成bは、構成要件Aを充足する。
本件発明の構造物(転写印刷シート)においては、印刷土台となる剥離シート(A)の離型面の上に感圧接着剤組成物による印刷層(B)、次いでその上にインクによる印刷層(C)があり、更にその上に軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理が施された保護シート(D)が設けられている。印刷土台である剥離シート(A)の離型面の上に粘着剤の印刷層(B)のための液膜パターンを形成しようとすると、その液膜が離型面上ではじかれてしまい、液面パターンのヒケ(収縮)、ハジキ、フクレ(膨れ)などの現象となって現れ、乾燥固化して固体膜パターンに移行していく。このはじき現象は、表面張力の小さい離型面に表面張力の大きい液膜が乗ることにより生ずる。本件発明は、このような現象を防ぐという課題を、印刷層(B)用の粘着剤(感圧接着剤)のインク液に界面活性剤を配合し、インク液の表面張力を低下させ、粘着剤の液膜パターンが離型面上でもはじかれないようにして解決した。ジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物に属する界面活性剤は、種々の系において粘着剤が離型面に着地したときの粘着剤液膜のはじきを防止する点で特に好ましい作用効果を発揮するので、本件発明においては、これら3種に属する界面活性剤のうちから選ばれたものを配合することとされた。実施に当たっては、印刷の系に適した界面活性剤をこれらの3種のうちから選んで必ず粘着剤インクに配合するとともに、必要に応じてその系に適した別の界面活性剤も配合することとなる。
被告製品においても、離型面に粘着剤の印刷パターンを設ける場合にはじきを生じるという課題が存在し、シリコーン系化合物(有機ケイ素系化合物)を粘着剤に添加するという手段を講じることによってはじきを防止しており、シリコーン系化合物は、構成要件Aにおいて界面活性剤が果たしているのと同じ役割を果たしている。被告製品の構成bの「シリコン消泡剤」はシリコーン系化合物であり、学術上、シリコーン系界面活性剤のグループに属する界面活性剤である。また、本件訂正明細書においても、「問題点を解決するための手段」の項に「有機ケイ素系化合物、すなわちジアルキルシロキサン構造で示される各種のシリコーンオイル、エポキシ化シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、その他各種の変性シリコーンオイルなど」と記載され、有機ケイ素系化合物に属するものとして「各種のシリコーンオイルや変性シリコーンオイル」が挙げられている。したがって、被告製品の構成bの粘着剤印刷層に添加された「シリコン消泡剤」は、本件発明の構成要件Aの「界面活性剤」に当たる。
被告は、構成bの「シリコン消泡剤」は本件訂正明細書実施例で添加されているKM85に相当するものであり、消泡剤であって界面活性剤として使っているわけではない旨主張する。しかし、被告製品に添加しているシリコン消泡剤はシリコーンオイルであり、KM85(エマルジョン型のシリコーン)とKF69(ジメチルシリコーンオイル)のうちでは、被告が界面活性剤であると主張するKF69に対応するから、シリコーン系界面活性剤であることに疑いはなく、被告の主張は矛盾している。
本件訂正明細書発明の詳細な説明の「問題点を解決するための手段」の項の「接着剤組成物の剥離シート(A)上への印刷は、各種平凹刷印刷によっても行われるが、シルクスクリーン印刷(スクリーン印刷)によることが多い。
シルクスクリーン印刷を行うときは、印刷工程での発泡を防止するためしばしば消泡剤やその他の添加剤を混和することが多く、これは印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。しかしながら、上記のように特定量の界面活性剤を配合することにより、この種のトラブルは回避される。」という記載部分(以下、この記載部分を「本件訂正明細書該当部分」という。)の「これは印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。」という部分の意味は、本件訂正明細書全体及び本件訂正明細書該当部分の前後の記載並びに技術常識からすると、「離型面にスクリーン印刷するから、印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。」という意味であり、「消泡剤その他の添加剤を混和すると、印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。」という意味ではない。本件発明は消泡剤によるトラブル防止のために界面活性剤を配合するものであるという被告の主張は、誤りである。
(ウ) 構成cは、構成要件Bを充足する。
(エ) 構成dは、構成要件Cを充足する。
(オ) 構成eは、構成要件Dを充足する。
イ したがって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。
(8) 損害 ア 主位的請求 被告らの前記(5)ア、イの行為により、原告は、本件発明の実施品である転写印刷シート40万枚を販売する機会を失った。原告の本件発明の実施品である転写印刷シートの販売価格は1枚当たり450円であり、利益率は販売価格の30パーセントであるから、原告は、被告らの行為により、5400万円の得べかりし利益を喪失した。
イ 予備的請求 原告は、本件特許権の出願公告日である平成2年10月25日ごろ、アサヒプリンティング株式会社に対し、本件特許権(又は仮保護の権利)の独占的通常実施権を許諾し、同日ごろから、同社が本件発明の実施品である転写印刷シートを製造販売していた。
被告らの前記(5)ア、イの行為により、アサヒプリンティング株式会社は、本件発明の実施品である転写印刷シート40万枚を販売する機会を失った。アサヒプリンティング株式会社の本件発明の実施品である転写印刷シートの販売価格は1枚当たり450円であり、利益率は販売価格の30パーセントであるから、同社は、被告らの行為により、5400万円の得べかりし利益を喪失した。
アサヒプリンティング株式会社は、平成5年11月27日、本件特許権(又は仮保護の権利)の侵害による上記5400万円の損害賠償請求権及びこれに対する遅延損害金請求権を原告に譲渡し、その譲渡の通知は、同月28日、被告ナショナル自転車に到達し、同月29日、被告倉本産業に到達した。
(9) 結論 よって、原告は、本件特許権に基づき、被告倉本産業に対し、被告製品の製造販売の差止め、被告ナショナル自転車に対し、被告製品を使用したマウンテンバイクの製造販売の差止めを求め、本件特許権(又は仮保護の権利)侵害不法行為に基づき、被告らに対し、損害賠償として各自5400万円及びこれに対する不法行為の後である平成4年8月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)(特許権)、(2)(手続の経緯)、(3)(特許発明)ア、イは、認める。
(2) 請求原因(4)(作用効果)については、本件訂正明細書に本件発明の作用効果として、請求原因(4)のとおりの記載があることを認めるが、このような作用効果は公知の転写シートの効果にすぎず、本件発明の構成がもたらす特有の作用効果ではない。
(3)ア 請求原因(5)(被告製品の製造販売等)アの事実のうち、平成4年7月2日まで、被告倉本産業が、被告製品を製造販売し、被告ナショナル自転車が、被告製品を使用したマウンテンバイク等を製造販売していたことは認めるが、その余は否認する。
被告ナショナル自転車は、平成4年7月3日をもって、被告製品の使用を中止し、以後、被告倉本産業と被告ナショナル自転車の間に被告製品の取引はない。
イ 請求原因(5)イ記載の被告ナショナル自転車のマウンテンバイク等の製造販売数、被告製品の使用数、被告倉本産業の被告製品の製造販売数は、いずれも否認する。
(4) 請求原因(6)(被告製品の構成)は認める。
(5)ア(ア) 請求原因(7)(対比)ア(ア)は認める。
(イ) 請求原因(7)ア(イ)は争う。
構成bの「粘着剤印刷層」に添加された「シリコン消泡剤」は、シリコーンオイルであり、構成要件Aの「界面活性剤」に当たらないから、構成bの「粘着剤印刷層」は構成要件Aの「印刷層(B)」に当たらず、構成bは構成要件Aを充足しない。さらに、本件発明においては、消泡剤を添加する技術に加えて、
界面活性剤を添加することをもって特徴とするものであるのに対し、被告製品の「粘着剤印刷層」は単にシリコン消泡剤のみを添加するにすぎないから、構成bの「粘着剤印刷層」は構成要件Aの「印刷層(B)」に当たらず、この点でも被告製品の構成bは構成要件Aを充足しない。
本件訂正明細書該当部分においては、接着剤組成物(構成bの粘着剤印刷層)の添加剤として消泡剤を添加することと界面活性剤を配合することが別異の技術として峻別されているばかりでなく、本件発明における界面活性剤の使用が、消泡剤などの使用によるトラブルの回避のため、消泡剤の使用に重ねてされることが明記されている。本件訂正明細書記載の5個の実施例のすべてにおいても、
消泡剤が添加された上、それとは別に界面活性剤が配合されており、界面活性剤を添加せずシリコン消泡剤のみを配合した例を比較例として本件発明の技術的範囲に属しないこととしている。したがって、本件発明は、特許出願前に常用されていた接着剤組成物への消泡剤の添加が、印刷面のハジキ、ヘコミの原因になるという独自の技術的見解を前提として、消泡剤とは別に界面活性剤を添加することによりその課題を克服したことを特徴としており、被告製品のように単にシリコン消泡剤を使用しているにすぎない構成は、本件発明の技術的範囲には属さない。
構成要件Aは、配合界面活性剤を構成するものの中に、「ジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物に属するものであって、
かつ界面活性剤であるもの」を必須とすることは明らかであり、有機ケイ素系化合物であるが界面活性剤でないものが含まれていたとしても、構成要件Aは充足されない。界面活性剤は、その分子内に疎水基と親水基を有し、強い表面活性をもつ化学物質であるところ、被告製品の粘着剤印刷層に添加されているシリコン消泡剤は、シリコーンオイルであり文字通り油であるから、親水性を有さず、有機ケイ素系化合物であるが、界面活性剤ではない。したがって、構成bは構成要件Aを充足しない。
(ウ) 請求原因(7)ア(ウ)は争う。
構成cの「粘着剤印刷層」は構成bの「粘着剤印刷層」を指すところ、構成bの「粘着剤印刷層」は構成要件Aの「印刷層(B)」に当たらないから、構成cの「粘着剤印刷層」も、構成要件Bの「印刷層(B)」に当たらず、構成cは構成要件Bを充足しない。
(エ) 請求原因(7)ア(エ)は認める。
(オ) 請求原因(7)ア(オ)は争う。
イ 請求原因(7)イは争う。
(6) 請求原因(8)(損害)ア(主位的請求)、イ(予備的請求)の事実は否認し、主張は争う。
(7) 請求原因(9)(結論)は争う。
3 抗弁(権利濫用) (1)ア 本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である特公昭38-10663号特許公報(乙第4号証)には、次のとおり記載されていた。
a 「本発明は(中略)張力をかけたときには容易に伸張することができる透明或は半透明の1枚のフイルムから成立つ担体シートから成り、この担体シートには印刷インキで図がつけられ、(中略)薄い一層の感圧接着剤が前記図と合致して或は印刷した側の担体シートの印刷域の全体にわたつてつけられており、前記図と担体シートとの間の接着は担体シートの範囲でこれを局部的に伸張することにより弱めることができ、感圧接着剤は50lb/in2下の圧力の下では殆んど接着性がない転写材料を提供するものである。」(1頁右欄33行ないし2頁左欄7行) b 「本発明転写材料はかなりの圧力がかけられない限りその感圧接着剤がこれと接触状態にある他のものへくつつかないので取扱い易い。従つて接着面に半永久的に貼り付けられた保護用シートを用意する必要はない。実際には転写材料に例えばシリコン処理をした挿入用紙を間にはさむことが望ましいが、この紙は接着層に対してかたく接着することはなくそれ自身の重味ではなれるのが普通である。」(2頁左欄28行ないし34行) c 「使用したいときにこれを転写をすべき面へ当てがつて担体の裏から50lb/in2以上の圧力をかけるだけで済む。このようにすると図は支持体シートからはなれて前記面へ接着する。」(2頁左欄38行ないし41行) d 「接着剤を印刷図の上にだけつけ、且これと正しく整合をとつてつければ、接着剤が転写された図にふちを形成し汚れを吸収するような危険はない。」(2頁左欄45行ないし47行) e 「高圧に感じる接着剤を次のようにして配合する。(中略)非イオン性表面活性剤 1.2部 陰イオン性表面活性剤 0.3部(中略)これをスクリーン法によつて印刷し蒸発して乾かす。得られた層は非常に粘着性が低いものである。この接着剤は(中略)はなれ易く、接着性に優れ、且細部のまわりからきれいにきり取れる。」(3頁右欄20行ないし39行) イ 上記アaないしeの記載からすれば、特公昭38-10663号特許公報記載の転写材料は、「担体シート」、「図」及び「感圧接着剤」を、この順序で配置したものであって、このことは、同特許公報の「張力を与えると容易に延伸できる透明な又は半透明なフイルムのシートよりなる担体シートとこの担体シートにより保有された印刷インキの図(中略)と、前記担体シート上の被覆として適用された而も前記図を覆つている或は図と実質的に符合している感圧性接着剤(この接着剤は高粘着性感圧接着剤と非粘着性成分との混合物よりなり、而も約50lb/in2より小さい圧力下での低粘着性と約50lb/in2以上の圧力下での実質的な粘着性とを有する)とよりなり、(中略)感圧接着剤は、前記担体シートに約50lb/in2以上の圧力を加えて前記インキ図を、そつくりそのまま何の破損もなしに、転写表面に移動させるのに役立ち」(4頁左欄12行ないし右欄11行)という特許請求の範囲の記載からも疑いの余地がない。
さらに、上記アbに記載されている「挿入用紙」は、「感圧接着剤がこれと接触状態にある他のものへくつつ」くことを防止するためのものであり、「この紙は接着層に対してかたく接着することはな」いものであるから、本件発明の「剥離シート(A)」に相当するということができる。
そうすると、特公昭38-10663号特許公報には、「担体シート」、「図」、「感圧接着剤」及び「挿入用紙」を、この順序で配置した転写材料の構成が開示されていることになるが、この構成は、本件発明の「離型性を有する剥離シート(A)」、「界面活性剤を配合した接着剤組成物による印刷層(B)」、「インクによる印刷層(C)」及び「保護シート(D)」をこの順序で配置する構成を、反対側から表したものにほかならない。
したがって、本件発明は、その特許出願前に頒布された刊行物である特公昭38-10663号特許公報に記載されていたものであって、無効理由が存在することが明らかである。したがって、本件特許権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり、許されない。
(2)ア 本件特許の登録時の発明は、平成9年2月13日に言い渡された第1次審決取消訴訟の判決により、同審決取消訴訟の引用例1(特公昭38-10663号特許公報)と同一と認定されたため、原告は、本件訂正を請求し、構成要件@の「その上に印刷を行うための」という部分、構成要件Aの「配合界面活性剤の少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を用いた界面活性剤配合感圧」という部分、構成要件Cの(覆う)「ための、軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理が施された透明なフィルムまたはシートからなる」、「貼付設置した」という部分を加入した。
イ 上記アの構成要件@の加入がされても、本件発明が物の発明であることは変わらないし、仮に本件発明が層形成の経時的要素を含むものであるとしても、
本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である特開昭51-150414号公開特許公報(乙第9号証)に記載された発明と同一であり、又はそれに基づいて容易に発明をすることができたものである。
接着剤印刷層の添加剤として有機ケイ素系化合物(シリコーン)を用いることは本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である特公昭54-31405号特許公報(乙第2号証)に記載されており、周知の常套手段であって、上記アの構成要件Aの加入のように接着剤の添加剤として用いる界面活性剤の種類を限定しても、それによって何らの新規性進歩性も認められない。
本件発明の「保護シート(D)」に相当する特公昭38-10663号特許公報の担体シートは、転写印刷終了後に印刷層から剥離されるものであり、保護が必要な印刷層を覆うシートであるから、目的、形状が本件発明の「保護シート(D)」と同一である。また、軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理を施すことは、当業者が必要に応じて適宜採用することができるものである。したがって、上記アの構成要件Cの加入がされても、それによって新規性進歩性は認められない。
したがって、構成要件@、A及びCに上記アの加入がされても、それによって新規性進歩性は認められず、本件発明は、その特許出願前に頒布された刊行物である特公昭38-10663号特許公報に記載されていた発明と同一であって、無効理由が存在することが明らかである。したがって、本件特許権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり、許されない。
(3) 特許請求の範囲に記載された発明は、明細書の発明の詳細な説明の記載によって支持されていなければならない(昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条4項)。本件訂正明細書において、発明の詳細な説明では、消泡剤の添加による欠点を指摘し、これとは別に界面活性剤を添加することが特徴である旨一貫して記載されているが、特許請求の範囲では、単に、有機ケイ素系化合物(シリコーン)を含むいくつかの界面活性剤を配合するというにとどまり、消泡剤とは別に界面活性剤を配合する点について記載されていない。したがって、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成と整合を欠き、矛盾しているから、本件発明に無効理由が存在することは明らかであり、したがって、本件特許権に基づく権利行使は、権利の濫用に当たり、許されない。
4 抗弁に対する認否 抗弁の事実は否認し、主張は争う。
理 由1(1) 請求原因(1)(特許権)、(2)(手続の経緯)、(3)(特許発明)ア、イは、
当事者間に争いがない。
(2) 請求原因(4)(作用効果)のうち、本件訂正明細書に本件発明の作用効果として請求原因(4)のとおりの記載があることは当事者間に争いがない。
(3) 請求原因(5)(被告製品の製造販売等)アの事実のうち、平成4年7月2日まで、被告倉本産業が、被告製品を製造販売し、被告ナショナル自転車が、被告製品を使用したマウンテンバイク等を製造販売していたことは、当事者間に争いがない。
(4) 請求原因(6)(被告製品の構成)は当事者間に争いがない。
(5) 請求原因(7)(対比)ア(ア)及び(エ)は当事者間に争いがない。
2 請求原因(7)ア(イ)について 被告製品の構成bが本件発明の構成要件Aを充足するかについて検討する。
(1) 構成bは、「シリコン消泡剤を添加してなる粘着剤印刷層を設け、」であり、構成要件Aは、「配合界面活性剤の少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を用いた界面活性剤配合感圧接着剤組成物による所定のパターンの印刷層(B)を設け、」であるから、構成bの「シリコン消泡剤」が構成要件Aの「少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤」に当たるかを検討すべきこととなる。
(2)ア 「界面活性剤」とは、学術用語としては、「水に溶けて水の表面張力を低下させる作用を界面活性というが、少量で著しい界面活性を示す物質を界面活性剤または表面活性剤という。」(乙第13号証の1、2、「化学大事典」編集大木道則ほか、1989年(平成元年)10月20日第1版第1刷発行)とされているが、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載のみからは、構成bの「シリコン消泡剤」が構成要件Aの「少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤」に該当するか否か明らかではないから、特許請求の範囲に記載された構成要件の意義を解釈するために、本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載を考慮する必要がある。
イ 本件訂正明細書によれば、本件発明は、被写体に、直刷りした場合と同様の美麗で鮮明なパターンをワンタッチで転写印刷しうる転写印刷シートに関するものであり(産業上の利用分野)、本件発明の構成要件@ないしDをすべて備えることにより、請求原因(4)記載の作用効果を奏するものである。
特に本件発明の効果のうち、「剥離シート上に接着剤組成物を印刷しているにもかかわらず、印刷をたとえばシルクスクリーン印刷で行っても、印刷面にハジキ、ワレ、収縮、ヘコミ等を生じない。」という効果に関し、「問題点を解決するための手段」の項には、「接着剤組成物の剥離シート(A)上への印刷は、各種平凹刷印刷によっても行われるが、シルクスクリーン印刷(スクリーン印刷)によることが多い。シルクスクリーン印刷を行うときは、印刷工程での発泡を防止するためしばしば消泡剤やその他の添加剤を混和することが多く、これは印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。」ことを指摘しつつ、この種のトラブルを回避するために、「界面活性剤のうち、本発明の目的にとって特に好ましいジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を、配合する界面活性剤の少なくとも一部として用いる」ことや、「界面活性剤の配合量が余りに少ないと、剥離シート(A)上に印刷したとき印刷面にハジキ、ヘコミ等が生じて安定した品質が得られず」として、特定量の界面活性剤を配合することが必要であることが記載されている。
本件訂正明細書発明の詳細な説明の「問題点を解決するための手段」の項には本件訂正明細書該当部分の記載があるが、その「シルクスクリーン印刷を行うときは、印刷工程での発泡を防止するためしばしば消泡剤やその他の添加剤を混和することが多く、これは印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。しかしながら、上記のように特定量の界面活性剤を配合することにより、この種のトラブルは回避される。」という部分の意味は、その記載の文言からすると、「消泡剤やその他の添加剤を混和することが印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすく、特定量の界面活性剤を配合することにより、そのような印刷面のハジキ、ヘコミなどのトラブルを防ぐことができる。」ということであると解される。すなわち、消泡剤は、その混和が印刷面のハジキ、ヘコミの原因となり得るものとして記載され、他方、界面活性剤は、その添加によってハジキ、ヘコミを防止するものとして記載されており、両者は、並列する別個の概念として用いられている。原告は、本件訂正明細書該当部分の「これは印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。」という部分の意味は、本件訂正明細書全体及び本件訂正明細書該当部分の前後の記載並びに技術常識からすると、「離型面にスクリーン印刷するから、印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい。」という意味であると主張するが、本件訂正明細書の記載からはそのように解することはできない。
また、本件訂正明細書実施例の記載をみると、実施例4には、「消泡剤としてノプコ8034(サンノプコ株式会社製)を0.2部、(中略)界面活性剤としてフッ素系界面活性剤の1%水溶液を10部混合し、界面活性剤配合接着剤組成物を得た。」と記載され、実施例5には、「消泡剤としてノプコ8034(サンノプコ株式会社製)を0.2部、(中略)界面活性剤としてジアルキルスルホコハク酸塩系界面活性剤を1部混合して接着剤組成物を得」と記載されており、比較例2には、「接着剤組成物の調製に際し界面活性剤の配合を省略したほかは、実施例4と同様にして実験を行ったが」と記載されており、これらの記載は、消泡剤と界面活性剤を併存する別個のものとして区別しており、言い換えれば、並列する別個の概念として用いている。一方、実施例1では、「エマルジョン型のシリコーンである信越シリコーン株式会社製のKM85を0.5部、(中略)ジメチルシリコーンオイルである信越シリコーン株式会社製のKF69を0.2部混合し、2種のシリコーンを含む界面活性作用、消泡作用、レベリング作用を併せ有する界面活性剤配合接着組成物を得た」とされ、実施例2では、上記KM85と界面活性剤としてのジアルキルスルホコハク酸塩系界面活性剤(第一工業製薬株式会社製ネオコールSWC)を混合することが、実施例3では、上記KM85と界面活性剤としてのポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロックポリマー(第一工業製薬株式会社製エパン420)を混合することが、それぞれ記載されており、本件訂正明細書上は、消泡剤と界面活性剤とを併存させて使用することが明瞭ではないが、出願当初明細書及び公開特許公報では、実施例1ないし3のいずれについても「消泡剤として信越シリコーン株式会社製KM85」を用いることが明記され、これと「界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤(信越シリコーン株式会社製KF69)」(実施例1)等を混合することが記載されていたものであり(甲第60号証、乙第6号証)、上記の「消泡剤として」という記載は出願公告前の補正により削除されているが、補正の前後を通じてこの部分の技術的意義変更されたとは解されない。
このような発明の詳細な説明の記載からすると、本件訂正明細書においては、その全体を通じて、消泡剤と界面活性剤が、並列する別個の概念として用いられているものと認められる。
ウ 乙第10号証の1ないし3(「シリコーンとその応用」編集・発行東芝シリコーン株式会社、昭和58年7月20日第1版発行)、第11号証の1ないし3(「印刷インキ工学」編集及代表執筆者塩冶孜、昭和44年4月第1刷発行)、第12号証の1ないし3(「色材工学ハンドブック」編集者社団法人色材協会、1989年(平成元年)11月25日初版第1刷発行)及び弁論の全趣旨によれば、シリコーン系化合物は、表面張力を下げる効果を有することから消泡剤として用いられることが認められる。しかし、文献には、「シリコーンオイルは非常に微量で効果をあげることが可能であるが,塗料との親和性が劣るため,加えすぎるとシリコーン特有の“はじき”,クレタリング,へこみなどを生じたり,重ね塗りができなくなったり,密着性を悪くしたりする場合もある。」(甲第11号証、「けい素樹脂」編著者中島功、有我欣司、昭和57年2月1日初版7刷発行、同書66頁ないし67頁)、「シリコーンはリコート性,自己ミストによるクレターなどの副作用があるので,添加剤として使用するさいは,シリコーンの銘柄や添加量を事前に十分に検討しておく必要がある。」(乙第22号証の1、2、「クレター(ハジキ)の成因とその対策その1、クレタリングに関与する諸因子の検討」著者永田工、塗装技術1969年(昭和44年)11月号所収、同書47頁)、「一般的にシリコーンオイルは,塗料との親和性が劣るため,加えすぎるとシリコーン特有の“はじき”,クレタリング,へこみ等を生じたり,重ね塗り不可能であったり,密着性を悪くしたりする場合がある。」(乙第28号証の1、2、「添加剤としてのシリコーン」著者藤野藤次、塗装と塗料1968年(昭和43年)暑中特別号所収、昭和43年6月29日発行、同書160頁)と記載されており、シリコーン系化合物は、添加量などによっては、はじき、へこみなどの不都合の原因となり得ることが認められ、これは、本件訂正明細書該当部分でいう「消泡剤やその他の添加剤を混和することが印刷面のハジキ、ヘコミの原因となりやすい」ということの一例に当たるものと推認される。
エ もっとも、甲第10号証(「界面と界面活性物質」著者鈴木洋、平成4年2月28日第4刷発行)、第12号証(「油脂化学便覧」編者社団法人日本油化学協会、平成2年2月28日改訂3版発行)及び弁論の全趣旨によれば、シリコーン系化合物は界面活性剤として用いられることが認められ、そうすると、被告製品にシリコーン系化合物が添加されている場合、それが界面活性剤として添加されていると考える余地のあることは否定し得ない。
しかし、本件訂正明細書実施例2には、「エマルジョン型のシリコーンである信越シリコーン株式会社製KM85を0.5部、(中略)界面活性剤としてのジアルキルスルホコハク酸塩系界面活性剤(第一工業製薬株式会社製ネオコールSWC)を1部混合して接着剤組成物を得」と記載され、実施例3には、「エマルジョン型のシリコーンである信越シリコーン株式会社製KM85を0.5部、(中略)界面活性剤としてのポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロックポリマー(第一工業製薬株式会社製エパン420)を1部混合して接着剤組成物を得」と記載され、比較例1には「接着剤組成物の調製に際し界面活性剤の配合を省略したほかは、実施例1と同様にして実験を行った」と記載されており、本件訂正明細書においては、上記の「エマルジョン型のシリコーンである信越シリコーン株式会社製KM85」のように、シリコーン系化合物の添加剤であっても、界面活性剤と区別されている場合もあり、シリコーン系化合物がすべて界面活性剤として扱われているわけではない。前記イのとおり、本件訂正明細書において、消泡剤と界面活性剤が並列する別個の概念として用いられており、前記ウのとおり、シリコーン系化合物は消泡剤としても用いられ、上記のとおり、本件訂正明細書において、
シリコーン系化合物の添加剤が界面活性剤と区別されている場合があることからすれば、被告製品にシリコーン系化合物が添加されているとしても、常にそれが界面活性剤であることになるわけではなく、消泡剤として添加されている場合と界面活性剤として添加されている場合があるものと認められ、構成要件の充足性を判断するに当たっては、それが消泡剤として添加されているのか、界面活性剤として添加されているのかについて検討を経る必要があるものというべきである。なお、上記において実施例2、実施例3及び比較例1の記載を検討したのは、本件訂正明細書においてシリコーン系化合物が常に界面活性剤として扱われているのではないということを明らかにするために実施例等の記載を参酌したものであり、実施例によって本件発明の技術的範囲を限定するものではない。
(3) 以上をもとに構成要件の充足性を検討する。
構成bの「シリコン消泡剤」は、シリコーン系化合物が消泡剤として添加されていることがその文言から明らかであって、それと別個に界面活性剤として添加されているものがあるわけではない。他方、構成要件Aの「少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤」とは、その文言からして、界面活性剤として添加されたものでなければならない。前記(2)イないしエのとおり、本件訂正明細書において、消泡剤と界面活性剤が並列する別個の概念として用いられており、シリコーン系化合物について、消泡剤として添加されている場合と界面活性剤として添加されている場合があることからすると、消泡剤であることが明らかな構成bは、
界面活性剤であることが明らかな構成要件Aを充足しないものというべきである。
そうであるとすれば、被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。
3 よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸
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