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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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関連ワード 承継 /  技術的範囲 /  ライセンス /  登録意匠 /  抵触 /  意匠権 /  出願経過 /  均等 /  信義則 /  特許発明 /  権原 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  同意 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  補助参加 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 1657号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社塚田メディカル・リサーチ
訴訟代理人弁護士 酒井正之
被告 エースクラップジャパン株式会社補助参加人 アイフロー・コーポレーション
被告及び補助参加人訴訟代理人弁護士 北原潤一
被告及び補助参加人補佐人弁理士 遠山勉
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/02/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告商品目録記載1及び2のバルーン付き薬液持続注入器を輸入,販売してはならない。
2 被告は,上記注入器を廃棄せよ。
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 当事者 ア 原告は,医療用器械・器具の研究開発を主たる業とする会社である。
イ 被告は,医療器具の販売を業とする会社であって,平成14年1月1日,ビー・ブラウンジャパン株式会社と合併した。被告は,別紙被告商品目録記載1及び2の商品(以下,同目録1記載の商品を「被告製品(1)」といい,同目録2記載の商品を「被告製品(2)」といい,これらを併せて「被告製品」という。)を輸入販売している。
補助参加人は,米国法人であって,被告製品を製造し,被告に対して輸出している。
(2) 原告が有する特許権及び意匠権 ア 原告が有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,第1項記載の発明を「本件特許発明」という。)を有している(別紙「特許公報」参照。なお,以下「本件特許明細書」「本件特許図面」という。)。
登録番号 第2568289号 発明の名称 バルーン付き薬液持続注入器 出願年月日 平成元年5月24日 登録年月日 平成8年10月3日 特許請求の範囲第1項 「長手方向軸心にそって形成された薬液流路(11)を有する管状本体(1)を設け,該管状本体の一端に逆止弁または一方コック(121)を有する薬液注入部(12)を設け,前記管状本体の他端に薬液流出部(13)を設け,該薬液流出部に隣接して前記他端の薬液流路内に薬液流出制御部(3)を設け,前記管状本体の管理を貫通して複数の穴(111)を形成し,弾性材料からなるバルーン(2)によって前記穴を包囲し,前記バルーンの周縁(21)を前記管状本体の外周に気密状に固定してなるバルーン付き薬液持続注入器。」 イ 本件特許発明の分説 本件特許発明の構成は,次のとおりである。
A 長手方向軸心にそって形成された薬液流路(11)を有する管状本体(1)を設け, B 該管状本体の一端に逆止弁または一方コック(121)を有する薬液注入部(12)を設け, C 前記管状本体の他端に薬液流出部(13)を設け, D 該薬液流出部に隣接して前記他端の薬液流路内に薬液流出制御部(3)を設け, E 前記管状本体の管理を貫通して複数の穴(111)を形成し, F 弾性材料からなるバルーン(2)によって前記穴を包囲し, G 前記バルーンの周縁(21)を前記管状本体の外周に気密状に固定してなる, H バルーン付き薬液持続注入器。
ウ 原告が有する意匠権 原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を有している。
登録番号 第928441号 意匠に係る物品 薬液持続注入器 出願年月日 平成5年1月13日 登録年月日 平成7年4月7日 登録意匠 別紙「意匠公報」(以下「本件意匠公報」という。)記載のとおり (3) 被告製品 ア 被告製品の各構成は,別紙被告製品(1)の構成及び被告製品(2)の構成記載のとおりである。
イ 被告製品の意匠は,別紙被告製品(1)の写真及び被告製品(2)の写真のとおりである。
2 本件は,被告による被告製品の輸入販売行為が,本件特許権及び本件意匠権侵害していると主張して,原告が被告に対し,本件特許権及び本件意匠権に基づいて,被告製品の輸入販売行為の差止め及び被告製品の廃棄を求める事案である。
3 本件の争点 (1) 被告製品が,本件特許発明技術的範囲に含まれるかどうか ア 被告製品は,上記構成要件Aを充足しているかどうか(「管状本体」を有しているかどうか) イ 被告製品は,上記構成要件Dを充足しているかどうか ウ 被告製品は,上記構成要件Eにいう「複数の穴」を有しているかどうか (2) 被告製品の意匠は,本件登録意匠と類似するかどうか (3) 原告の本件訴訟における請求は,原告と補助参加人間のライセンス契約に違反し,信義則に反し,許されないかどうか
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)アについて 【原告の主張】 (1) 被告製品は,マンドレルから始まりカテーテル等接続用端子キャップで終わる「長手方向軸心にそって形成された」薬液注入部,薬液流出部,チューブ,流量制御部からなる「薬液流路」を有し,この「薬液流路」を含む,薬液注入部からカテーテル等接続用端子キャップまでが「管状本体」に当たる。
(2) 仮に,マンドレルのみが「管状本体」であるとしても,そこには,「長手方向軸心にそって形成された薬液流路」が存在する。
なお,本件特許発明にいう「管状」とは,薬液流路を包摂するという程度の意味であるから,被告製品(1)のマンドレルが中実であっても,「管状」を充足する。
(3) したがって,被告製品は,構成要件Aを充足する。
【被告及び補助参加人(以下「被告ら」という。)の主張】 (1)ア 構成要件Aの「薬液流路」は,「長手方向軸心によって形成された」ものであることが必要であるところ,被告製品におけるチューブは,その形状から明らかなとおり,「長手方向軸心にそって形成された」ものではない。
イ また,本件特許図面の第1図,第6図,第7図の記載内容からしても,「管状本体」とは,同図符号1で示される中空の円筒状部材を指すものであり,第4図の(B)に記載された「管状本体」に接続されるチューブは,「可撓性管路」として管状本体とは区別される。
ウ さらに,原告は,本件特許出願の過程において,注入器に接続されたチューブの途中に流量制御装置を設けた構成を開示した引用例を含む複数の引用例を回避するために,同引用例の流量制御部は管状本体の外部に設けられている点において,本件特許発明の構成と異なる点を強調している。これは,引用例における流量制御部を有するチューブは管状本体の一部ではない旨主張しているものであるから,本件訴訟において,原告が,「管状本体はチューブを含む」と主張することは許されない。
(2) そうすると,被告製品において「管状本体」に該当する可能性のある部分は,マンドレルである。
しかしながら,管状とは,管の状態を意味し,管とは気体,液体などの輸送に用いる長い中空円筒である。他方,被告製品(1)のマンドレルは中空ではなく,中実である。そうすると,少なくとも,被告製品(1)は「管状本体」を有しているとはいえない。したがって,被告製品(1)は,構成要件AないしC及びGを充足しない。
2 争点(1)イについて 【原告の主張】 (1) 被告製品は,「薬液流出部」に当たるカテーテル等接続用端子キャップに隣接して,「薬液流路」内に,マンドレルの流出路,チューブ,流量制御部からなる「薬液流出制御部」を有しているから,被告製品は,構成要件Dを充足する。
(2) 仮に,マンドレルだけが「管状本体」であるとしても,被告製品は,チューブがマンドレルの流出路に深く挿入されており,これが「薬液流出制御部」を構成しているから,「薬液流路」内に「薬液流出制御部」が存在する。
また,薬液流出部の流出路(被告製品(1)の213b,被告製品(2)の313b)は,太い広い部分から口径が狭くなるから,顕著な流出制御効果があり,この部分は,「薬液流路」内に存在する「薬液流出制御部」ということができる。
【被告らの主張】 (1) 被告製品においては,チューブが「管状本体」の一部であるということはないから,原告の主張は,前提を誤っている。
(2) 構成要件Dの文言及び本件特許の図面からすると,「薬液流出制御部」は,「管状本体」の他端の「薬液流路」内に設けられていることが必要である。
また,本件特許の出願過程において,原告は,「本発明の注入器においては,管状本体の薬液流路内に薬液流出制御部を挿入している。・・・本発明の注入器におけるように,薬液流出制御部を管状本体の薬液流路内に設けることによって,外部の使用条件(例えば,気温,湿度,患者の病状等)に影響を受けずに,安全確実に使用することができる。」と述べると共に,手続補正書により,本件特許請求の範囲を「該薬液流出部に隣接して前記他端の薬液流路内に薬液流出制御部を設け」と補正した。このような出願経過からすると,構成要件Dの「薬液流出制御部」は,「管状本体」内の「薬液流路」内のみに設けられなければならず,このような構成によって外部の使用条件(例えば,気温,湿度,患者の病状等)に影響を受けずに,安全確実に使用することができるのである。
他方,被告製品(1)は,「管状本体」を有しておらず,被告製品(2)のマンドレル内の薬液流路内には,「薬液流出制御部」といえるものはない。もし,原告主張のように,チューブがマンドレルの流出路に挿入されている部分や薬液流出部の流出路が「薬液流出制御部」を構成しているとすると,そのような構成は,本件特許出願時の公知文献(乙4の2,乙5の2の図1)に記載されている。また,チューブがマンドレルの流出路に挿入されている部分や薬液流出部の流出路の内径は,チューブと同じであるから,これらの部分が「薬液流出制御部」であるとすると,チューブも「薬液流出制御部」であるということになるが,チューブは,「管状本体」内の「薬液流路」内のみにはない。
そうすると,被告製品は,構成要件Dを充足しない。
3 争点(1)ウについて 【原告の主張】 「穴」とは,「逆止弁を有する薬液注入部」と区別されるものではなく,注入部の一部を構成するものであってもよい。したがって,被告製品においては,薬液注入部の一部である弁開孔が,構成要件Eの「穴」に当たり,被告製品の「管状本体」には,他にも穴がある(被告製品(1)は貫通孔,被告製品(2)は流出溝)から,構成要件Eを充足する。
【被告らの主張】 被告製品(1)は,「管状本体」を有していないから,構成要件Eを充足しない。
本件特許明細書中の図面からすると,「複数の穴」にいう「穴」とは,「逆止弁または一方コックを有する薬液注入部」とは区別されるものであるところ,被告製品(2)のマンドレルには,その管壁を貫通した穴と呼べるものは,1つしかない。したがって,被告製品(2)は,構成要件Eの「複数の穴」を有していない。
被告製品は,構成要件Eを充足しない以上,構成要件Fを充足しない。
4 争点(2)について 【原告の主張】 (1) 本件登録意匠の要部 本件登録意匠に係る物品は,薬液注入のバルーン製カテーテル器具で,上部から薬液を注入すると圧力で内部のバルーンが膨張し,その中に薬液が封入され,先端に装着した針から対内にバルーンの収縮力を利用して薬液が注入されることを目的とする物品である。このような薬液注入のバルーン製カテーテルにおいて,その外側に可撓性の保護ケースを備える構成のものは,本件意匠出願当時には存在せず,全くユニークなものであった。したがって,本件登録意匠の要部は,@可撓性の保護カバーがあること,Aバルーンが最大に膨らんだ状態でも,また,バルーンがしぼんだ状態でも,バルーンとカバーとの間には,空隙がほとんどないこと(カバーがしぼむこと)である。チューブ部分は,いわば汎用のアクセサリー的な部分であって,需要者の注意を惹くものではない。
(2) 被告製品の構成と本件登録意匠との対比 ア 被告製品は,バルーンを周囲に有するマンドレルと,このマンドレルの一端側に設けられたマンドレルへ薬液を供給する側のキャップ状部材と,マンドレルの他端側に設けられマンドレルから薬液を流出させる側のキャップ状部材と,薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材との間のマンドレル外周を覆うように設けられたゴム製の筒状バルーンと,薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材との間のマンドレル外周を覆って保護する半透明の可撓性樹脂からなるカバーと,マンドレルの薬液流出側の端部に連結され,途中にクランプ,フィルタ,流量制御部を有するとともに先端にカテーテル等接続用端子キャップを有するチューブを備えている。
薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材は,マンドレルの中心から対称に配置されており,その形状,大きさは,ほぼ同一である。また,上記カバーは,筒状バルーンが膨張する前においては略8角形の形状で左右に広がっている。
イ 被告製品は,本件登録意匠の要部を備えている。チューブ部分は汎用部品といってよく,視覚的にも目立つものではない。
ウ したがって,被告製品の意匠は,本件登録意匠に類似する。
【被告らの主張】 (1) 本件登録意匠の要部 ア 本件登録意匠の対象となる物品は,薬液持続注入器,特に,バルーン式カテーテル器具であり,概略,管状本体とその下部3分の2部分を覆う保護膜とからなるものである。
イ 本件登録意匠の要部は,管状本体の下部約3分の2部分に偏って略長方形の保護膜が配置され,管状本体の上部約3分の1部分が,保護膜から上方に突き出し,さらに,その突き出し方向とは反対の管状本体下端部に対応して保護膜に凹状の切り込みを有する,全体として,あたかも逆さまにした団扇のような外観である。
(2) 被告製品の構成と本件登録意匠との対比 ア 対比の対象となる被告製品 被告製品は,バルーンが装着されたマンドレルにチューブ(これにはクランプ,フィルタ,流量制御部を有すると共に,先端にカテーテル等接続用端子キャップを有する)が連結されたものであり,これらが一体となって経済的に独立した取引の対象とされるものであるから,本件意匠と被告製品の意匠を対比するに当たっては,被告製品全体の意匠を問題とすべきである。
イ 相違点 (ア) 本件登録意匠は,概略,管状本体とその下部約3分の2を覆う保護膜とからなるものである。
これに対し,被告製品の意匠は,クランプ,フィルタ,流量制御部を有すると共に,先端にカテーテル等接続用端子キャップを有するチューブが存在する。したがって,被告製品の意匠と,チューブ等を構成に含まない本件登録意匠は,類似しない。
(イ) 仮に,対比すべき対象をマンドレル部分に限定したとしても, @ 被告製品のマンドレル部分は,薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材との間のマンドレル外周全体が略8角形の半透明のカバーで覆われており,正面から見た場合に,対称的な配置によるバランスの良い安心感を与える全体的印象を有しており,本件登録意匠のような柄付きの団扇を逆さまにしたような印象とは異なる。
A 被告製品のマンドレル部分のうち半透明のカバーを除く部分は,ほぼ同一形状の一対のキャップ状部材が円柱状のマンドレルの両端に対称的に配置され,あたかも2つの車輪が車軸で結ばれたような全体的印象を有するのに対し,本件登録意匠における保護膜を除く部分は,あたかも万年筆のような若干の丸みを帯びた印象を与えるものであって,両者の美感は異なる。
B 被告製品のマンドレル部分は,カバーがマンドレルのほぼ全体を覆っており,本件登録意匠のように,マンドレルの上部約3分の1部分がカバーから上方に突出しているという特徴を有しない。また,被告製品のマンドレル部分は,本件登録意匠のように,上方に突出した印象を与えず,上下左右方向に均等なバランスの取れた印象を与える。
5 争点(3)について 【被告らの主張】 (1) 平成8年3月11日,原告と米国のブロック・メディカル・インク(以下「ブロック・メディカル」という。)との間で,ライセンス契約を締結した(以下「本件ライセンス契約」という。乙2)。
本件ライセンス契約は,平成8年9月13日,補助参加人に承継された。
(2) 本件ライセンス契約に定める対象特許と本件特許権及び本件意匠権とは異なる権利であるが,本件特許権に関しては,本件ライセンス契約が補助参加人に承継された以前に特許査定が下りていた。また,本件意匠権に関しても,本件ライセンス契約締結の1年近く前に登録されていた。仮に,原告において,被告製品がこれらの権利に抵触する可能性があると考えていたのであれば,原告としては,本件ライセンス契約の締結又は補助参加人への承継についての同意の際に,これらの権利をライセンスの対象に含めることを容易に提案できたはずである。それにもかかわらず,本件ライセンス契約において,本件特許権及び本件意匠権は,対象に含められなかったから,これは,原告が,被告製品がこれらの権利に抵触しないことを暗黙のうちに認めていたか,あるいは,補助参加人による被告製品の販売について,これらの権利を行使しないことを暗黙のうちに認めていたからにほかならない。
(3) 以上からすると,原告の本件訴訟における請求は,本件ライセンス契約に違反し,信義則に反し,許されないというべきである。
【原告の主張】 本件ライセンス契約中には,本件特許権及び本件意匠権に関する定めはない。したがって,原告の本件訴訟における請求は,本件ライセンス契約に違反し,信義則に反し,許されないということはない。
当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 争いのない事実並びに証拠(甲2,4,5,乙1,7ないし10,検甲1,検乙1,2の各1,2)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 本件特許請求の範囲第1項には,「長手方向軸心にそって形成された薬液流路(11)を有する管状本体(1)を設け,該管状本体の一端に逆止弁または一方コック(121)を有する薬液注入部(12)を設け,前記管状本体の他端に薬液流出部(13)を設け,該薬液流出部に隣接して前記他端の薬液流路内に薬液流出制御部(3)を設け」と記載されている。
イ 特許庁審査官は,平成8年3月5日,原告による本件特許出願に関し,拒絶理由通知を行った。その内容は,「引用例1には薬液流路を有する管状本体の一端に逆止弁を有する薬液流入部,他端に流量調節弁(本願発明の流量制御部に相当)を有する薬液注出部を設け,管状本体の中間に薬液流路を遮断する部材を設け,薬液注入側に流入穴,注出側に流出穴を貫通して形成し,該穴を包囲するバルーンの周縁を管状本体の外周に気密状に固定した薬液持続注入具が記載されている。本願発明では管状本体の中間に薬液流路を遮断する部材が存在しない点で上記引用例との相違が見られるが,引用例1においては薬液の注入にあたって遮断具の注入側に薬液が残存する恐れがあること,注入側および注出側はバルーンを介して連通しており,薬液をバルーン内に充填するにあたってかかる遮断具は省略可能であることは明らかであるから,これを無くすことは当業者の容易気付く範囲のことと認められる。また,流量制御部として細管が埋設された合成樹脂を使用することは引用例2〜5により周知であるから,上記引用例の流量調節を係る手段に置き代えた点にしても格別の創意は認められない。」というものであった。なお,引用例2の流量制御部は,チューブの途中に設けられていた。
これに対して,原告は,特許庁審査官に対し,平成8年6月3日付け意見書を提出した。その中で原告は,「本発明の注入器においては,管状本体1の薬液流路11内に薬液流出制御部3を挿入している。一方,第1引例(特開昭62-11465号)の注入器では,管状本体1の先端外部に薬液注出部13を取り付け,その注出部内に流量調節弁131を設けている。第2〜第5引例は,流量制御部として細管が埋設された合成樹脂を使用する例を示すとはいっても,これらはいずれも注入器の外部に単体ユニットとして設けられているものである。これらの流量制御部としての単体ユニットを第1引例の注入器に適用したとしても,やはりこれらのユニットは管状本体1の外部に設けられることは変りがない。本発明の注入器におけるように,薬液流出制御部3を管状本体1の薬液流路11内に設けることによって,外部の使用条件(例えば,気温,湿度,患者の病状等)による影響を受けずに,安全・確実に使用することができるのである。」と主張した。
上記意見書提出と共に,原告は,同日付け手続補正書を提出し,その中で,本件特許に係る当初明細書における特許請求の範囲中「該薬液流出部に隣接して前記他端に薬液流出制御部(3)を設け」と記載されていたものを,「該液薬流出部に隣接して前記他端の薬液流路内に薬液流出制御部(3)を設け」と補正した。
ウ 本件特許図面第1,第6,第7に記載された管状本体は,いずれも中空の円筒状部材である。
エ 「管」とは「くだ。気体・液体などの輸送に用いる長い中空円筒」を意味する(広辞苑第5版588頁)。
「管状」とは,「管」の状態を指す。
オ 被告製品(1)におけるマンドレルは,中実である。他方,被告製品(2)におけるマンドレルは,中空である。
カ 被告製品においてチューブの途中にある流量制御部の構造は,別紙流量制御部図面のとおりであり,被告製品の薬液流路の径は,この部分が最も細い。
また,被告製品においては,マンドレルの薬液流路内には,薬液流出部(被告製品(1)は213,被告製品(2)は313)があり,そこは,被告製品(1)では貫通孔213aと流出路213b,被告製品(2)では流出溝313aと流出路313bからなり,流出路にはチューブの先端が挿入されている。
(2) 原告は,被告製品における「管状本体」とは,薬液注入部からカテーテル等接続用端子キャップまでを指すと主張する。
しかしながら,上記認定した事実からすると,@本件特許図面第1,第6,第7に記載された「管状本体」はいずれも中空の円筒状部材であること,A原告は,本件特許の出願過程において,チューブの途中に流量制御部が設けられたものを含む複数の引用例と本件特許発明の違いとして,「本件発明の注入器におけるように,薬液流出制御部3を管状本体1の薬液流路11内に設けることによって,外部の使用条件(例えば,気温,湿度,患者の病状等)による影響を受けずに,安全・確実に使用することができるのである。」との主張をし,その旨の特許請求の範囲の補正をしているところ,この主張は,チューブは「管状本体」に含まれないことを前提とした主張であると解されること,以上の事実が認められ,これらの事実からすると,被告製品におけるチューブが本件特許発明における「管状本体」の一部に該当するものと認めることはできない。したがって,被告製品において,薬液注入部からカテーテル等接続用端子キャップまでが本件特許発明にいう「管状本体」に当たるとの原告の主張は理由がない。
もっとも,被告製品(2)におけるマンドレル部分は,その形状及び機能からして,本件特許発明における「管状本体」に該当するものと認められる。しかし,上記認定したとおり,被告製品(1)のマンドレルは,中実であるところ,上記認定した「管状」の一般的な用語の意味や本件特許明細書中には,「管状」について,このような一般的な意味とは異なる意味であることを示す記載がされているとは認められないことに照らすと,被告製品(1)のマンドレルが「管状本体」に該当するとは認められない。そうすると,被告製品(1)は,本件特許発明における構成要件Aを充足するとはいえない。
(3) 上記認定した事実からすると,本件特許発明における「薬液流出制御部」は,「薬液流出部に隣接して設けられている」ことを要するから,「薬液流出部」とは別個に設けられていなければならないものと解される。また,上記認定した事実,殊に,原告は,本件特許の出願過程において,「本件発明の注入器におけるように,薬液流出制御部3を管状本体1の薬液流路11内に設けることによって,外部の使用条件(例えば,気温,湿度,患者の病状等)による影響を受けずに,安全・確実に使用することができるのである。」との主張をし,その旨の特許請求の範囲の補正をしていることからすると,「薬液流出制御部」は,「管状本体」内の「他端の薬液流路内」にのみ設けられているものと解される。さらに,本件特許明細書の「前記薬液流出制御部は,細孔を有する樹脂製チューブ,金属管,セラミックス管等の細管を合成樹脂中に埋設した構造かまたは多孔質または浸透拡散性のある材料を充填した構造になっている。前記チューブは,合成樹脂中に直線状,蛇行状または螺旋状に埋設されることが好ましい。前記薬液流出制御部は,細孔を有する樹脂製チューブ,金属管,セラミックス管等の細管内に細線を出入自在に挿入し,これらを合成樹脂中に埋設した構造にするか,または細孔を有する樹脂製チューブ,金属管,セラミックス管等の細管を小径チューブの中間部まで挿入し,これらを合成樹脂中に埋設した構造でもよい。」(本件特許明細書5欄26行ないし37行),「チューブ31の細孔の長さまたは多孔質または浸透拡散性のある材料33は細孔容積は,薬液の流出時間を決定する重要な因子になる。」(本件特許明細書6欄42行ないし44行)といった記載からすると,「薬液流出制御部」は,薬液の流出時間を決定する機能を有する部分で,細管を合成樹脂中に埋設した構造又は多孔質若しくは浸透拡散性のある材料を充填した構造になっており,細管と小径チューブを組み合わせた構造のものも考えられることが認められる。
上記認定のとおり,被告製品は,チューブの途中に別紙流量制御部図面記載のような細管によって構成されている流量制御部があり,この部分が,被告製品の薬液流路においては,最も細くなっているから,被告製品は,上記流量制御部において薬液の流出時間を決定しているものと認められる。そして,既に述べたところからすると,これが「管状本体」内の「薬液流路内」にないことは明らかである。
上記認定のとおり,被告製品のマンドレルの薬液流路内には,薬液流出部(被告製品(1)は213,被告製品(2)は313)があり,そこは,被告製品(1)では貫通孔213aと流出路213b,被告製品(2)では流出溝313aと流出路313bからなるところ,被告製品は,上記流量制御部において薬液の流出時間を決定しているものと認められるから,上記流出路において薬液の流出時間を決定しているということはできない。また,上記流出路は,「薬液流出部」に当たるから,それが同時に「薬液流出制御部」に当たるということはない。
上記認定のとおり,上記流出路には,チューブの先端が挿入されているが,被告製品は,上記流量制御部において薬液の流出時間を決定しているものと認められるから,上記チューブの先端が流出路に挿入されている部分において薬液の流出時間を決定しているということはできない(その意味で,上記本件特許明細書記載の細管と小径チューブを組み合わせた構造のものとは異なる。)。
原告は,ある程度の細さと長さのチューブが流出制御機能を有する点は,例えば,甲8の6枚目に記載された製品においても,チューブについて「流量制御チューブ」と記載されていることに示されている旨主張する。しかしながら,被告製品において,チューブは,そもそも「管状本体」内の「薬液流路内」にのみあるものではないから,「薬液流出制御部」とはなりえないものであるし,被告製品は,上記流量制御部において薬液の流出時間を決定しているものと認められるから,チューブが薬液の流出時間を決定しているとも認められない。
そうすると,被告製品(1)には,「管状本体」がないから,そもそも構成要件Dを充足するとはいえないし,仮に,マンドレルが「管状本体」に当たるとしても,構成要件Dを充足するとはいえない。また,被告製品(2)も,構成要件Dを充足するとはいえない。 (4) 以上によると,原告の本件特許権に基づく請求は理由がない。
2 争点(2)について (1) 争いのない事実並びに証拠(甲2,乙11,検甲1,検乙1,2の各1,2)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 本件登録意匠は,薬液持続注入器に関する意匠であり,概略,管状本体とその下部約3分の2を覆う保護膜とからなるものである。
本件登録意匠は,柄付きの団扇を逆さまにしたような形状を有しており,管状本体の保護膜から上方へ管状本体の上部3分の1部分が突き出ており,管状本体の下部3分の2部分に略長方形の保護膜が配置されており,管状本体下端部に対応して保護膜に凹状の切り込みを有する。
イ 被告製品は,バルーンを周囲に有するマンドレルと,このマンドレルの一端側に設けられたマンドレルへ薬液を供給する側のキャップ状部材と,マンドレルの他端側に設けられた,マンドレルから薬液を流出させる側のキャップ状部材と,薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材との間のマンドレル外周を覆うように設けられたゴム製の筒状バルーンと,薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材との間のマンドレル外周を覆って保護する半透明の可撓性樹脂からなるカバーと,マンドレルの薬液流出側の端部に連結され,途中にクランプ,フィルタ,流量制御部を有するとともに先端にカテーテル等接続用端子キャップを有するチューブを備えている。
薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材は,マンドレルの中心から対称に配置されており,その形状,大きさはほぼ同一である。また,この高さ(薬液供給側キャップ状部材と薬液流出側キャップ状部材それぞれについての,マンドレルの軸方向の高さ)は,上記カバーで覆われた部分の約5分の1程度である。さらに,上記カバーは,筒状バルーンが膨張する前においては略8角形の形状で左右に広がっている。
ウ 本件意匠の出願前に公開された本件特許図面の第8図及び平成3年7月23日公開の公開特許公報(乙11)第1図には,バルーンで覆われた円筒状のマンドレルに保護カバーを取り付けた構成が記載されているから,薬液持続注入器において,その外側に保護カバーを備えた構成は,本件意匠の出願時に公知であった。
(2) 被告製品は,チューブ等を含めた上記認定に係る製品全体であるから,本件登録意匠と対比すべきものは,この製品全体であって,被告製品のマンドレル部分のみではないが,まず,マンドレル部分について対比すると,次のようにいうことができる。
ア 原告は,本件登録意匠の要部は,@可撓性の保護カバーがあること,Aバルーンが最大に膨らんだ状態でも,また,バルーンがしぼんだ状態でも,バルーンとカバーとの間には,空隙がほとんどないこと(カバーがしぼむこと)であると主張する。
しかしながら,可撓性という物品の材質自体は意匠を構成するものとはいえない(意匠法2条1項参照)から,本件登録意匠の要部となるものではない。
また,本件意匠公報からは,バルーンがしぼんだ状態において,バルーンとカバーとの間には,空隙がほとんどないことが見て取れるが,バルーンが最大に膨らんだ状態については,本件意匠公報からは明らかでないから,この点が本件登録意匠の要部になることはない。
上記認定した公知意匠の内容及び本件登録意匠の構成態様からすると,本件登録意匠の要部は,正面からみた場合の管状本体の下部約3分の2部分に略長方形の保護膜が配置され,管状本体の上部約3分の1部分が,保護膜から上方に突き出し,さらに,その反対の管状本体下端部に対応して保護膜に凹状の切り込みを有する,全体として,あたかも団扇を逆さまにしたような形状にあると認められる。
イ 上記認定した事実からすると,本件登録意匠の要部と被告製品におけるマンドレル部分の意匠との間には,以下の相違点がある。
(ア) 本件登録意匠が,上記のとおり逆さまにした団扇のような形状であるのに対し,被告意匠におけるマンドレル部分は,正面から見た場合には,上下左右がほぼ対称的な形状となっている。
(イ) 本件登録意匠は,マンドレルの上部約3分の1部分がカバーから上方に突出しているのに対し,被告製品のマンドレル部分は,カバーがマンドレルのほぼ全体を覆っている。 (ウ) 本件登録意匠は,管状本体下端部に対応して保護膜に凹状の切り込みを有するのに対し,被告製品のマンドレル部分は,このような切り込みはない。
(エ) 本件登録意匠は,保護膜が略長方形であるのに対し,被告製品のカバーは,膨張する前においては略8角形の形状である。
(3) 以上のとおり,本件登録意匠の要部と被告製品のマンドレル部分の意匠には,大きな違いがあるうえ,被告製品には,本件登録意匠にはないチューブ等が含まれているから,両者は類似しているとは認められない。
したがって,原告の本件意匠権に基づく請求は理由がない。
3 結論 以上の次第で,原告の被告に対する本件各請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)被告商品目録1バルーン式ディスポーザブル注入ポンプ商品名商品番号イージーポンプ04434366044343680443437004434372ホームポンプ500106850010585001067500101350010692バルーン式ディスポーザブル注入ポンプ商品名商品番号イージーポンプ044343780443437604434374ホームポンプ50010185001092500129750010915001093被告製品(1)の構成第1図第2図被告製品(2)の構成第1図第2図被告製品(1)の写真被告製品(2)の構成流量制御部図面
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 上田洋幸
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