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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ2473損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  方法の発明 /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  社会通念 /  構成要件 /  方法の使用 /  のみ用いる /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 14010号 損害賠償等請求事件
原告 東海ゴム工業株式会社
原告訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎
同 山岸和彦
同 金子憲康
同補佐人弁理士 西藤征彦
被告 飛島建設株式会社
同被告訴訟代理人弁護士 石谷勉
被告 株式会社カテックス
同被告訴訟代理人弁護士 大場常夫
上記被告両名補佐人弁理士 原田信市
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/04/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して,1億3738万7115円及びうち4137万円に対しては平成13年10月1日から支払済みまで,うち9601万7115円に対しては平成8年8月30日から支払済みまで,各年5分の割合による金員を支払え。
2 被告飛島建設株式会社は,別紙工法目録記載の方法をもって地山固結工事をしてはならない。
3 被告株式会社カテックスは,別紙物件目録(1)及び(2)記載の製品を販売してはならない。
4 第1項につき仮執行宣言
事案の概要
本件は,後記の「地山固結工法」の発明の特許権を有する原告が,被告飛島建設株式会社(以下「被告飛島」という。)が行っている工法が当該特許発明技術的範囲に属し,その工法による地山固結工事の施工が当該特許権を侵害するものであるとして,同被告に対し,当該工法による地山固結工事の施工の差止め及び損害賠償を求め,被告株式会社カテックス(以下「被告カテックス」という。)が製造・販売している製品が「その方法の使用のみ用いる物」(平成14年法律第24号による改正前の特許法101条2号。以下,本判決において「特許法101条2号」というときは,「平成14年法律第24号による改正前の特許法101条2号」を指す。)に当たると主張して,同被告に対し,当該製品の製造・販売の差止め及び損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は,次の特許権(以下,「本件特許権」という。)を有している。
特許番号 第2056106号 発明の名称 地山固結工法 出願年月日 平成元年2月22日 出願公告年月日 平成7年8月30日 登録年月日 平成8年5月23日 (2) 上記(1)の特許権に係る明細書(平成6年11月7日付手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲2。以下「本件公報」という。〕を参照)に記載された特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
「地山に穿設した長孔内に,周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り,複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ,上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。」 (3) 上記発明を構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件A」のようにいう。)。
A 地山に穿設した長孔内に, B 周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し, C 上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り, D 複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ, E 上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち, F さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する G ことを特徴とする地山固結工法 (4) 被告飛島は,別紙工法目録記載の工法(以下「被告工法」という。)を,いくつかの工事現場で使用している。
(5) 被告工法は,本件特許発明構成要件A,B,D及びGを充足する。
(6) 被告カテックスは,別紙物件目録(1)記載の製品(以下「被告製品1」という。)及び同(2)記載の製品(以下「被告製品2」という。)を製造・販売している。
2 被告工法の内容 (1) 図面の簡単な説明 図1は薬液注入セットの模式図,図2は図1の1-1線拡大断面図,図3は図1のU-U線拡大断面図,図4は地山削孔に嵌合している鋼管に上記薬液注入セットを挿入した状態の模式図,図5は薬液透過性の布筒パッカーに薬液を注入し仕切壁を形成した状態の模式図,図6は図5のV-V線拡大断面図,図7は先端側の環状隙間を通じ地山に薬液を注入し先端側に固結領域を形成した状態の模式図,図8はさらに中間の環状隙間及び後端側の環状隙間を通じ地山に薬液を注入し中間及び後端側に固結領域を形成した状態の模式図である。
(2) 原告の主張する被告工法の内容の説明 @ 後記(3)記載の被告飛島の主張に係る構成のとおり(ただし,下線を付した部分を除く。また,下記のとおり付加訂正すべきである。)。
A 同被告の主張する構成のうち,エ@の「環状隙間1-1」の次,及び同Aの「環状隙間1-2,1-3」の次に,「を充満させた後」と付加すべきである。
B 同じくエAの「地山の上記要固結領域ロ,ハに浸透させ,」の次を「環状隙間1-2,1-3及び固結領域e-2,e-3に固結領域を形成する」とすべきである。
(3) 被告飛島の主張する被告工法の内容の説明 ア 薬液注入セットの組立て(以下「構成a」ということがある。) @ 鋼管Cの内壁面との間に比較的狭い一連の環状隙間1を形成する所要の径の外周面を有しかつ先端開口を閉じた合成樹脂製で中空の内装管Dに,互いに長さを異にするパッカー用薬液注入チューブa-1,a-2と,同じく長さを異にする地山用薬液注入チューブb-1〜b-3を,該内装管Dの外周面にその軸線に平行に形成した複数本の長凹溝2,3に個別に嵌入することにより,沿設装架するとともに, A 上記内装管Dに,薬液透過性の布筒パッカーc-1,c-2を,それにより,上記パッカー用薬液注入チューブa-1,a-2の開口先端部を覆うが,上記地山用薬液注入チューブb-1〜b-3の開口先端部を覆うことがない位置において嵌装し,その布筒パッカーc-1,c-2の両側薬液不透過性部4の外側端を粘着テープ5で固定することにより,薬液注入セットAを組み立てる(図1,2)。
イ 薬液注入セットの装填(以下「構成b」ということがある。) @ 周壁に複数の吐出孔6を設けた上記鋼管Cを,公知の適宜工法で打設することにより地山削孔Bに嵌合させ,その鋼管Cに上記薬液注入セットAを装填し, A 鋼管Cの基端開口に,上記各チューブの基端部を挿通させた閉止体7を嵌入するとともに,それにより内装管Dの基端開口を閉じ,かつ,キャップ8を嵌着し,地山削孔Bの開口端と鋼管Cの基端との間を口元コーキング9で閉鎖する(図4)。
ウ パッカー用薬液注入(以下「構成c」ということがある。) @ 薬液「シリカレジン」(以下,単に「薬液」という)を,上記パッカー用薬液注入チューブa-1,a-2を通じ布筒パッカーc-1,c-2に圧送注入し,これによって,膨張する該布筒パッカーc-1,c-2を鋼管Cの内壁面に圧接して上記一連の環状隙間1を遮断し,さらに,該布筒パッカーc-1,c-2を透過する薬液を対向している吐出孔6から地山に吐出浸透させ, A これにより,膨張した布筒パッカーc-1,c-2内の固結薬液と地山内の固結薬液 による仕切壁d-1,d-2を形成して,鋼管C内においては上記一連の環状隙間1を環状隙間1-1〜1-3に区画する エ 地山用薬液注入(以下「構成d」ということがある。) @ 薬液を,地山用薬液注入チューブb-1,環状隙間1-1,及びそこに開口している複数の吐出孔6を通じ,鋼管Cの外方に吐出し,地山の上記要固結領域イに浸透させ固結領域e-1を形成する(図7)。
A 同様に,薬液を,地山用薬液注入チューブb-2,b-3,環状隙間1-2,1-3,及びそこに開口している複数の吐出孔6を通じ,鋼管Cの外方に吐出し,地山の上記要固結領域ロ,ハに浸透させ,固結領域e-2及びe-3を形成する(図8)。
なお,薬液の地山注入は,上記のように要固結領域イ〜ハに順次各別で行う以外に,順不同で,あるいは全領域一斉に行うこともある。いずれによるかは,地山の性状や使用する薬液の種類等に基づき選択決定する。
3 争点 (1) 被告工法が本件特許発明技術的範囲に属し,被告工法を行うことが本件特許権を侵害するか,なかでも ア 被告工法が構成要件Cを充足するか,すなわち (ア) 構成要件C及びDはC,Dの順序で行われることを要するか(争点1)。
(イ) 被告工法における布筒パッカーや仕切壁は「隔壁」に当たるか(争点2)。
イ 被告工法が構成要件E及びFを充足するか,すなわち被告工法では長尺管内に固結領域を形成しているか(争点3)。
(2) 被告カテックスが製造・販売する被告製品1及び被告製品2は,本件特許発明方法の使用のみ用いる物か(争点4)。
(3) 本件特許に明白な無効事由があり,原告が本件特許権に基づく権利行使をすることが権利濫用に当たるか(争点5)。
(4) 原告の損害等(争点6)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(構成要件C及びDはC,Dの順序で行われることを要するか)について (1) 被告飛島の主張 ア 本件特許発明は,請求項1の記載から,構成要件A〜Fの各工程を順次行うこと,すなわち地山の長孔内に挿嵌固定された長尺管の内部を,長手方向に所定間隔で隔壁を設けて複数の空間に区切り,次にその長尺管内に複数の吐出管を,その各先端を上記複数の空間それぞれに開口する状態にして配置し,その後,薬液注入を行うという各工程の順次経時性を要件にしていると解される。構成要件C及びDの内容は,「長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り,複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ」るというように経時的なものである。
イ これに対し,被告工法は,「薬液注入セットの組立て」「薬液注入セットの装填」「パッカー用薬液注入」「地山用薬液注入」の各工程を経るものであることにおいて,全体として経時的ではある。しかし,被告工法は,予め鋼管C外において組み立てた「薬液注入セット」を,鋼管Cに装填するものであり,本件特許発明構成要件C及びDのように,経時的に,長尺管の内部を長手方向に所定間隔で隔壁を設けて複数の空間に区切り,次に,その長尺管内に複数の吐出管を,その各先端を上記複数の空間のそれぞれに開口する状態にして配置するということはしていない。したがって,被告工法は,構成要件C及びDの工程を採用していない。
(2) 原告の主張 被告飛島は,構成要件C及びDは,経時的なものであると主張する。しかし,構成要件C「上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り」と,構成要件D「複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ」との間には,「次に」とか「その後に」,といった,経時的に限定する文言あるいはこれをうかがわせる文言は一切存在せず,そのような解釈を行う必然性もない。むしろ,本件特許発明は,「地山に埋設された長尺管の内部が,隔壁で複数の空間に区切られ,かつ各空間内に先端開口を位置決めするようにして複数の吐出管が上記長尺管内に配設された状態」にすることにより作業の容易化を図るとともに速硬性の固結用薬液の使用を可能にすることに特徴を有するものであるから,構成要件C及びDが経時的であるか同時的であるかは全く問題とされず,双方を含むものと解すべきであり,本件明細書においても,「長尺管5内に,隔壁板6と吐出管7の組合せ体を挿嵌する」という,構成要件C及びDが同時的なものを含む一例としての実施例が開示されているから,経時性を要件とするものでないことは明らかである。被告飛島の上記主張には理由がない。
2 争点2(被告工法における布筒パッカーや仕切壁は「隔壁」に当たるか)について (1) 原告の主張 ア 前記被告工法構成cは,内装管Dの長手方向に所定間隔に設けられた膨張したパッカーc-1,c-2による隔壁により,長尺管たる鋼管Cの内部を複数の空間に区切るものであるから,構成要件C「上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り」に該当する。また,長尺管たる鋼管C内に配設された複数の地山用薬液注入チューブb-1〜b-3の先端は,膨張したパッカーによる隔壁により区切られた複数の空間に開口することになるから,構成要件D「複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ」に該当する。
イ まず,「隔壁」とは,一般に「間をへだてる壁」,「しきり」を意味する(広辞苑第3版)。そして,請求項には,この「壁」の形成方法や形成時期,形状等を限定する文言は存在しないから,長尺管の内部の間をへだて,複数の空間に区切るものであれば,すべて構成要件Cの「隔壁」たりうる。また,「地山に埋設された長尺管の内部が,隔壁で複数の空間に区切られ,かつ各空間内に先端開口を位置決めするようにして複数の吐出管が上記長尺管内に配設された状態」にすることにより作業の容易化を図るとともに,速硬性の固結用薬液の使用を可能にする,という本件特許発明の特徴からしても,地山に埋設された長尺管の内部の間をへだて複数の空間に区切るものであれば「隔壁」といえるのであって,さらに「隔壁」の形成方法や形成時期,形状等を限定する理由はない。
ウ 被告飛島は,「隔壁」について「薬液注入の有無に関係なくそれ自体で既に隔壁たりうるもの」に限定して解釈する(「隔壁」の形成時期又は形状を限定する)が,上記のことから,かかる解釈は誤りである。また,同被告は,構成要件Cにおける「隔壁」を「単に長尺管の内部を複数の空間に区切るにすぎないもの」と限定して解釈する(「隔壁」の形状,作用ないし効果を限定する)が,上記同様の理由から,同被告のいうところの「仕切壁」が少なくとも長尺管の内部の間をへだて複数の空間に区切るのであれば(この点は争いがない。),構成要件Cにおける「隔壁」に該当する。そして,同被告のいうところの「仕切壁」が,長尺管の内部を複数の空間に区切るのみならず,長尺管の外部の固結領域を区切ったとしても,これは本件特許発明との関係では,本件特許発明に別の要素を付け加えたにすぎず,本件特許発明の効果は維持されており,作用効果を変質させるものではないから,「付加」ないし「利用」に該当し,本件特許権を侵害することには変わりがない。したがって,被告飛島は,構成要件Cにつき誤った解釈,あるいは意図的に歪曲した解釈を前提に論難しているにすぎない。
(2) 被告飛島の主張 ア 本件特許発明は,構成要件Cの「隔壁」について,発明の詳細な説明に「隔壁板6」と記載するのみで,「隔壁」に関して格別の定義をしていない。その目的,作用ないしは機能からすると,空の長尺管内に嵌合し,その内部を複数の空間に区切ることができる部材,換言すると,薬液注入の有無に関係なくそれ自体で既に隔壁たりうるもの,例えば明細書の実施例並びに図面等の記載に徴し,吐出管7を挿通できるようにした円板体である隔壁板6又はそれの同等物をいうものと解される。
イ これに対し,被告工法は「パッカー用薬液注入」によって,布筒パッカーc-1,c-2を膨張させることにより,はじめて仕切壁d-1,d-2を形成し,鋼管C内において一連の環状隙間1を環状隙間1-1〜1-3に区画するとともに,鋼管C外において要固結領域イ〜ハを区画するものである(被告工法図5,6)。上記布筒パッカーc-1,c-2は,薬液を注入しない限り,それ自体で隔壁たり得るものではない。すなわち,そのままの状態(収縮状態)で鋼管C内の内部を複数の空間に区切ることができる部材ではない。したがって,布筒パッカーc-1,c-2は,構成要件Cの「隔壁」には当たらない。
また,被告工法において,「パッカー用薬液注入」によって形成される仕切壁d-1,d-2は,鋼管C内において一連の環状隙間1を環状隙間1-1〜1-3に区画するだけではなく,鋼管C外において要固結領域イ〜ハを区画するものであるから,単に長尺管の内部を複数の空間に区切るにすぎない構成要件Cにいう「隔壁」に当たらない。本件明細書には,「隔壁」又は「隔壁板6」が,被告工法におけるように布筒パッカーを使用し薬液注入により形成する仕切壁を包含する旨の記載あるいはそのことを示唆するような記載はされていない。したがって,被告工法は,構成要件Cにいう「隔壁」を採用していないことになり,このような観点からしても,構成要件Cの工程を採用していない。
3 争点3(被告工法が構成要件E及びFを充足するか,すなわち被告工法では長尺管内に固結領域を形成しているか)について (1) 原告の主張 ア 被告工法構成dは,上記複数の吐出管である地山用薬液注入チューブb-1〜b-3の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に固結用薬液を浸透硬化させ,上記長尺管内及び長尺管外周の地山に固結領域を形成させるものであるから,構成要件E「上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち」及び構成要件F「さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内及び長尺管外周の地山に固結領域を形成する」に該当する。
イ 被告カテックスは,被告工法において用いられるインサート管には,内部に中空部が存在するため,「固結用薬液の充満」がないとして,構成要件Eを充足しない,と主張する。しかし,構成要件Eにおいて,固結用薬液を充満させる対象となっているのは,「上記各空間」内である。本件特許発明において,「上記各空間」とは,「隔壁により区切られた長尺管内部の空間」を指すことは明らかであるが,このインサート管の内部中空部は,隔壁により区切られることがない。したがって,インサート管の内部中空部は,本件特許発明にいう固結用薬液が充満する対象部分ではない。被告工法において,隔壁により区切られた長尺管内部の空間(被告飛島のいう「環状隙間」)に固結用薬液が充満することになる以上,「上記各空間内に固結用薬液を充満させる」(構成要件E)ことになるのである。
ウ 被告工法においては,長尺管内に固結領域を形成しないから構成要件Fを充足しないという被告飛島の主張も,上記各空間内に固結用薬液を充満させ,これを硬化させて長尺管内に固結領域を形成しているから,理由がない。
(2) 被告飛島の主張 ア 本件特許発明は,構成要件Fの「長尺管内及び長尺管外周の地山に固結領域を形成する」との記載,発明の詳細な説明の「したがって,長尺管内だけでなく,長尺管の周囲の地山にも固結領域が形成され‥‥,より強固な地山の固結が行われるようになる。」(〔作用〕の項),「そのため,長尺管内だけでなく,長尺管の周囲の地山も固結され,より強固な地山の補強をなしうるようになる。」(〔発明の効果〕の項)等の記載からすると,長尺管内をも地山補強に寄与させるための固結領域にしようとしているということができ,明細書図面第5図は,長尺管内を吐出管と隔壁を埋設した薬液固結体の充実体として記載している。本件特許発明は,構成要件Eのように,薬液を長尺管の周壁孔から地山内に浸透させるのを「複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち」としているから,いったん注入作業が開始されると,各空間すなわち長尺管内全体に薬液が常に充満し,注入作業の終了にともない,長尺管内には吐出管と隔壁を埋設した薬液固結体の充実体が形成される。
これに対し,被告工法は,「地山用薬液注入」によって,薬液を地山用薬液注入チューブb-1〜b-3,環状隙間1-1〜1-3,そこに開口している複数の吐出孔6を通じ,鋼管Cの外方に吐出し,地山の上記要固結領域イ〜ハに浸透させ,固結領域e-1〜e-3を形成する(被告工法図面7,8)。この場合,当然ながら環状隙間1-1〜1-3内の薬液も固結するが,そもそも環状隙間1-1〜1-3は,鋼管Cの内壁面と内装管Dの外周面との間に形成された比較的狭い一連の環状隙間1が区分され,地山用薬液注入チューブb-1〜b-3と鋼管Cの複数の吐出孔6を接続する一種のヘッダーとして機能するためのものであって,その内部の残留薬液が固結するとしても,上記環状隙間を埋めるだけで,鋼管Cは内装管Dの有する中空をそのまま保持する。すなわち,被告工法には,もともと鋼管C内全体を充実した固結領域にして地山補強に寄与させる(それが実際に有効であるか否かは,ここでは問題にしない。)意図がなく,反対に,被告工法は,地山に所望の固結領域e-1〜e-3を形成するのに必要にして十分な薬液注入を行うが,内装管Dの内装により,上記ヘッダーとして機能する隙間を極力小さくし,鋼管C内を流動しまたは残存することになる薬液量を極力少なくするとともに,注入時間を短縮できるようにし,これによって,少なくともそれらの分のコストの節減を図っている。してみると,被告工法は,構成要件Fの工程を採用していない。
イ 本件特許発明は,「固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち」(構成要件E),「さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,‥‥固結領域を形成する」(構成要件F)こと,すなわち,薬液の上記空間内充満と地山浸透とが経時的であることを必須としている。このことは明細書の作用の項の記載からも明らかである。これに対し,被告工法において,地山用薬液は,鋼管の吐出孔からの吐出及び地山への浸透と環状隙間への貯留を略同時進行的に行うもので,経時的に行うものでない。したがって,被告工法は,構成要件E,Fの経時性を充足しない。
(3) 被告カテックスの主張 被告カテックスは,被告飛島が実施する工法の実施態様及び構成要件の非充足性,作用効果の相違については,以下に付加して述べるほか,被告飛島の主張を援用する。
本件特許発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載からすると,長尺管を一種のセメント製電柱にし,かつ長尺管自体をも固結領域にするというにあるから,長尺管内に,インサート管等の介在物(それが中空であるか否かを問わず)の存在を予定していない。
また,本件特許発明は,隔壁によって区切られた空間部を固結用薬液をもって充満させるものである。すなわち,空間部に固結用薬液以外のものの存在を許すことなく,固結用薬液をもってその空間部を消滅させるのである。被告工法はインサート管を使用するが,インサート管はその内部に中空部を有するものであり,この中空部にはパッカー用薬液も地山固結用薬液も浸入してくることがなく,終始中空状態を保持している。したがって,長尺管中の空間部の存在の有無によって,本件特許発明と被告工法は異なるものである。
4 争点4(被告カテックスが製造・販売する被告製品1及び被告製品2は,本件特許発明方法の使用のみ用いる物か)について (1) 原告の主張 被告カテックスは,被告製品1を業として販売している。本件特許は方法の発明についてされているところ,被告カテックスの被告製品1は本件特許発明方法の使用のみ用いる物であるから,被告カテックスの被告製品1販売行為は本件特許権侵害行為とみなされる(特許法101条2号)。
被告カテックスは,被告製品1は,建物床下配線支持用部材,塗装現場でのホースや電線の保持管として使用すること,レッグパイル工法のためにパッカー部分を設けることなく使用されることなどを主張する。しかし,被告製品1を上記の用途に使用することが,社会通念上経済的,商業的ないしは実用的になっているとは到底認められない。被告製品1は,もっぱら被告工法を実施するために設計され,作成されたものであって,それ以外の用途は経済的,商業的な実用性を欠くものである。
また,仮に被告製品1が本件特許発明実施にのみ使用する物でないとしても,被告カテックスは,被告製品2を,業として第三者に販売している。被告製品2には,被告工法以外の用途はなく,被告工法は本件特許発明技術的範囲に属するので,被告製品2は,本件特許発明実施にのみ使用する物である。
(2) 被告カテックスの主張 被告製品1は,建物床下配線支持用部材,塗装現場でのホースや電線の保持管として利用することもできる。また,本件特許発明とは異なる工法であるレッグパイル工法のために,パッカー部分を設けずに使用されることもある。したがって,被告製品1は本件特許発明実施にのみ使用する物ではない。
(3) 被告飛島の主張 被告飛島は,被告カテックスの主張を援用する。
5 争点5(本件特許に明白な無効事由があり,原告が本件特許権に基づく権利行使をすることが権利濫用に当たるか)について (1) 被告飛島の主張 特許に無効事由が存在することが明らかであるときは,その特許権に基づく差止め,損害賠償等の請求は,権利の濫用に当たり許されないところ,本件特許には,以下に述べるような明白な無効事由があるから,本件特許権に基づく本訴請求は権利の濫用に当たり許されない。
ア 特許法29条2項違反 本件特許発明は,乙7(特開昭61-186613号公報。以下「本件公知文献」という。)に記載の発明に基づいて,あるいはこれに公知技術を組み合せて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ア) 本件公知文献に記載の発明は,ボーリング機によって削孔された孔内に,注入口が形成された外管を建て込み,その外管内を所定間隔で設けたパッカー部により複数の注出室に区切り,第1内側管及び第1外側管の注出口を上記注出室に連通開口させ,その注出口からグラウトを上記注出室を介し,上記外管の注入口から地山内に浸透させるものであり,構成要件AないしGのすべてと一致する。
(イ) 本件特許発明と本件公知文献の発明とは,以下の点で相違する。
@ 本件特許発明は,構成要件Eのように,固結用薬液を長尺管内の上記各空間に充満させるとともにその長尺管の外周の地山内に浸透硬化させ,これにより,構成要件Fのように,該長尺管の内外双方に固結領域を形成するのに対し,本件公知文献の発明では,グラウトを外管の周辺地盤へ注入し,その周辺地盤にだけ固結領域を形成すること。
A 本件特許発明では,長尺管とその内部に設けた各複数の隔壁及び吐出管は,上記長尺管内に固定的に挿嵌されることを前提としているので,いずれも埋設残置状態になるのに対し,本件公知文献の発明では,外管が埋設残置状態になるだけで,本件特許発明の隔壁及び吐出管に対応するパッカー部並びに第1内側管,第1外側管を備える内管部材については,全体を外管内に移動自在に装置しているので,埋設残置することを予定していないこと。
B 本件特許発明構成要件Cの隔壁は,実施例によれば単体の隔壁板すなわち円板体であり,また,構成要件Dの複数の吐出管は,同じく実施例によれば単体の吐出管すなわちパイプ材であるのに対し,上記隔壁に対応する本件公知文献の発明の例えばパッカー部は,継手,ワッシャー及び継手,Oリングを備えてなる複合体であり,また,上記複数の吐出管に対応する本件公知文献の第1内側管と第1外側管とは,同心重合管構造をなしていること。
C 本件特許発明は,構成要件C及びDが,経時的にすなわち長尺管の内部を隔壁により複数の空間に区切った後に,その長尺管内に複数の吐出管を配設して当該吐出管の先端をそれぞれの空間に開口させるのに対し,本件公知文献の発明では,外管1内に内管部材を内装することによって,同時的,すなわちパッカー部が注出室を形成するとともに,第1内側管及び第1外側管の外壁面に形成した注出口をその注出室に開口させていること。
(ウ) 両者の比較検討 上記@について,固結用薬液を長尺管内に充満させるとともに外周の地山内に浸透硬化させ,該長尺管の内外双方に固結領域を形成することは,乙10の2(無効審判請求書)添付の文献(斎藤重治著「トンネルにおけるパイプルーフ工法・地盤」(理工図書株式会社・昭和57年発行),土木学会トンネル工学委員会編集「トンネル標準示方書(山岳編)・同解説」(昭和61年改訂版・社団法人土木学会発行)等から明らなように,本件特許発明の出願前に公知の技術である。
上記Aについて,長尺管の内部に各複数の隔壁および吐出管を固定設置し,かつそれらをいずれも埋設残置状態にすることは,特公昭63-63688号公報(乙10の2添付)及び実開昭58-194299号のマイクロフィルム(乙8)に記載されており,本件特許発明の出願前に公知の技術である。
上記Bについて,隔壁を単体の隔壁板すなわち円板体とし,複数の吐出管を単体の吐出管すなわちパイプ材とすることは,上記特公昭63-63688号公報に記載されており,本件特許発明の出願前に公知の技術である。
上記Cについて,隔壁により区切った空間に吐出管の先端を開口させることは,上記特公昭63-63688号公報及び上記実開昭58-194299号のマイクロフィルムに記載されており,本件特許発明の出願前に公知の技術である。また,隔壁が形成する空間に吐出管の先端が開口する構造でさえあれば,本件特許発明における所期の注入を行うことができることが明らかで,その構造を形成する順序,すなわち隔壁により空間を区切る工程とその空間に吐出管の先端を開口させる工程を経時的に行うことに,格別の意味があるとはいえない。
以上いずれの点においても,本件特許発明は,その出願時の公知技術に基づき当業者が容易に想到できたものであり,本件特許には,特許法29条2項違反(同法123条1項2号)の無効事由が存する。
イ 特許法36条4項違反 本件特許発明は,構成要件AないしGを順次経時的に行うことを要件としているものである(前記第3,1(1))。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,6個の隔壁板と6本の吐出管とを組み合わせ一体化した組み付け構造体を,地山に埋設した長尺管内に挿嵌した後,薬液注入を行うことにした実施例が記載されているだけで,上記A〜Fの工程,特に,長尺管の内部を隔壁により複数の空間に区切った後,その長尺管内に複数の吐出管を配設し,その各先端を上記複数の空間に開口させることにした実施例は記載されていない。そして,実施例では,隔壁板として厚み300oの円板体6個と,長さが5mずつ異なる最長28m,最短3mの6本の吐出管とを一体化してなる組み付け構造体を,内径100o,全長略30mの長尺管内に挿嵌するとしているが,このように全長略30mにもなる長尺管の内部に,上記構成の組付け構造体を挿嵌することは,何か格別の手段方法でも提案されていない限り不可能であることは,当業者であれば容易に理解できる。このことは,特許請求の範囲が,発明の詳細な説明実施例として記載したものではない発明を記載し,また,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分されていないことを意味する。してみると,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないことになり,平成2年法律第30号による改正前の特許法36条4項に規定する要件を満足していないことになる。
ウ 特許法29条1項違反 上記イに記載したように,上記実施例にあるような細長い長尺管であって,しかも地山に穿設した長孔内に挿嵌固定されている長尺管の内部に,上記隔壁を所定間隔で配置して複数の空間を区切ること,その後に,その長尺管内に複数の吐出管を,その各先端を上記複数の空間に開口させた状態で配設することなどは,事実上,いずれも不可能なことに属する。このことは,現に同種の地山固結工法が各種普及しているにもかかわらず,本件特許発明と同一の工法が採用実施されている事実がないこと,原告においても,その実施に必要な器材を製造販売している事実がないことなどからも窺知できる。そうすると,本件特許発明にかかる地山固結工法は,実際にそれを実施利用することはできないもので,本件特許発明は,産業上の利用性がなく,平成11年法律第41号による改正前の特許法29条1項柱書の要件を備えないものである。
(2) 原告の主張 ア 被告飛島の主張アに対し 被告飛島は,本件公知文献に,乙10の2(無効審判請求書)添付の各文献記載の公知技術を組み合せれば,本件特許発明に当業者が想到するのは容易である旨主張する。
(ア) 本件公知文献には,ソレタンシュ工法が記載されており,このソレタンシュ工法は,地盤(主として地面)を対象とし,地盤に対して下方に孔を開け,そこに塩ビ製外管を建て込み,この塩ビ製外管内にパッカーを備えた内管部材を移動自在に奥まで挿入し,そこで,内管部材からグラウトを吐出させ,これを塩ビ外管の注入孔から地盤に浸透させ,ついで,内管部材を所定長さだけ引き上げてグラウト吐出と浸透を行い,これを繰り返すことにより,地盤を安定化するものである(乙7,1頁左欄【産業上の利用分野】の欄)。そして,上記地盤の安定化は,地盤に浸透したグラウトの作用によるものであり,地盤に建て込まれた塩ビ製外管内は,グラウトが残存せず,空洞のまま,単なる使用済み材として地盤に残される。すなわち,ソレタンシュ工法に用いる上記グラウト注入装置では,施工後,内管部材が引き抜かれて塩ビ製外管内に残されることがなく,上記施工後,塩ビ製外管は空洞のまま残置される。
これに対し,前記「トンネルにおけるパイプルーフ工法・地盤」及び「トンネル標準示方書(山岳編)・同解説」の技術が属するパイプルーフ工法は,パイプ自体を吐出管として利用し,パイプ周囲の地山にセメントミルクの浸透固結領域を形成するとともに,パイプ内にセメントモルタルの固結領域を形成するものである。したがって,上記各文献にパイプ内にセメントモルタルを充填することが記載されているとしても,当業者が,ソレタンシュ工法で空のまま残置された塩ビ製外管内をセメントモルタルで充填するようなことに想到するはずがない。
(イ) また,特公昭63-63688号公報は,トンネル切羽等の岩盤の固結工法であって,ソレタンシュ工法が対象とするような地盤(地面)の安定化法に関するものでなく,岩盤に設けた削孔内に挿入した,シール材を備えた中空パイプから薬液を吐出させ,岩盤に浸透させ硬化させることにより孔周囲の岩盤を固結する工法が記載されている。これに対し,本件公知文献では,グラウト注入に用いる内管部材は,グラウト注入後引き抜かれるものであり,これが当業者の技術常識であるから,審判甲4号証に,削孔内にシール材を備えた中空パイプが残されているからといって,これを本件公知文献の技術に適用することを当業者が容易に想到するものではない。しかも,特公昭63-63688号公報では,シール材を備えた中空パイプは,岩盤に設けた削孔内に残されるのであり,削孔に挿入された長尺管の内部に残されるのでないから,この点でも本件公知文献の内管部材を塩ビ製外管内に残すことに当業者が容易に想到するものではない。
(ウ) 実開昭58-194299号のマイクロフィルム(乙8)のロックボルトも,ロックボルト自身の強度及び岩盤に浸透するグラウトの双方の補強効果によって岩盤の補強を行うものであるところ,本件公知文献では,地盤の安定化は,塩ビ製外管から地盤に浸透固化したグラウトにより行われるものであり,グラウト注入に用いる内管部材は,施工後引き抜かれるものであることから,乙8のロックボルトの残置を本件公知文献の技術に適用し内管部材を残置させるということに当業者が想到するはずはない。しかも,乙8では,特公昭63-63688号公報と同様,パッカーを備えたロックボルトは,削孔内に残されるのであり,長尺管内に残されるものではない。したがって,この点からも,本件公知文献の内管部材を長尺管相当の塩ビ製外管内に残すことを当業者は想起することはない。
イ 被告飛島の主張イに対して 被告飛島は,実施例における隔壁板として,固形のゴム体を念頭に置いているようである。しかし,本件明細書に,隔壁板をそのようなゴム体に限定する文言もなければ,かかる限定を行う必要もない。隔壁板が,ある程度腰のあるスポンジ体等であれば,容易に上記組付け構造体を挿嵌できると同時に,長尺管の内周面との間に隙間を生じることもなく,本件特許発明の目的を達成できる。そして,そのように挿嵌不能あるいは隔壁たりえない物は,そもそも本件特許発明における隔壁ではない。したがって,被告飛島の上記主張は失当である。
ウ 被告飛島の主張ウに対して 上記イに述べたところから,発明未完成との主張は失当である。
6 争点6(原告の損害)について (1) 原告の主張 被告飛島は,被告工法を,平成11年12月18日から平成13年10月1日にかけて,「静岡県引佐郡三ケ日町摩詞耶地区平成11年度農道整備(広域)三ケ日地区1工事」(以下「摩詞耶トンネル工事」という。)での地山固結工事において使用した。また,同被告は,同工法を,平成7年3月10日から平成8年8月30日にかけて,「平成6年度県単克雪対策事業小島信濃木崎(停)線木崎トンネル木崎工区」(以下「木崎トンネル工事」という。)での地山固結工事において使用した。
摩詞耶トンネル工事の工事請負代金は8億2740万円である。原告が同工事における本件特許発明実施に対し,損害として受けるべき金銭は上記代金の5%相当額であり,4137万円が相当である。
木崎トンネル工事の工事請負代金は19億2034万2300円である。
原告が同工事における本件特許発明実施に対し損害として受けるべき金銭は,同様に上記代金の5%相当額であり,9601万7115円が相当である。
したがって,原告は,被告らによる共同不法行為により,上記合計1億3738万7115円及び上記各損害に対する各工事完成の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告らの主張 原告の主張は,すべて争う。
当裁判所の判断
1 争点1及び2(構成要件C及びDはC,Dの順序で行われることを要するものか,並びに,被告工法における布筒パッカーや仕切壁は「隔壁」に当たるか)について (1) 本件明細書の記載 ア 本件特許発明方法の発明であり,特許請求の範囲請求項1の記載は,前記第2,1(2)のとおりである。この記載は,構成要件EとFが「上記各空間内に充満させたのち」という表現で結ばれているなど,全体として,一定の時間的順序に従って方法が実施されることを予定していることが読み取れる。
イ また,このことは,本件明細書における,次のような実施例の記載からも明らかである。
「上記長尺管5等を用いての地山の固結は,つぎのようにして行われる。すなわち,まず,第3図に示すように,長尺管5の中に,同軸的にドリル駆動軸10を入れ,その先端にドリル刃11を取り付ける‥‥ついで,上記駆動装置を作動させることにより,上記ドリル刃11を回転させて地山2に長孔12を開けながらその長孔12内に,孔が開いた分だけ長尺管5を押し込み,これを続けて地山2に長尺管5を埋設する。つぎに,長尺管5からドリル刃11およびドリル駆動軸10を取り出し,今度は,第4図に示すように,長尺管5内に,隔壁板6と吐出管7の組み合わせ体を挿嵌する。‥‥つぎに,それぞれの吐出管7の後端部に,ウレタン樹脂圧入ポンプのホース(図示せず)を連結し,上記ポンプから各吐出管7内に,ウレタン樹脂からなる速硬性の固結薬液を圧入し,これを各吐出管7の先端の注出孔から吐出させる。その結果,上記固結薬液は,隔壁板6および長尺管5の周面で囲われる各空間部内に,略同時に充満し,そののち,充満時の圧力および薬液の化学反応によつて長尺管5の先端開口および各注出孔8から長孔12内に吐出される。そして,さらに,上記圧力により,地山2内に浸透してそこで硬化し,第5図に示すように,長尺管5の内部にウレタン樹脂の硬化部13を形成するとともに,地山2における長尺管5の周囲の部分を固結領域14に形成する」(本件公報5欄7行ないし32行) ウ 他方,同請求項2の記載は,「地山に穿設した長孔内に,長手方向に所定間隔に設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ,それぞれ先端が上記複数の空間に開口していて全体が長手方向に延びている複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になっている周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し,上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ,上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。」というものである。この請求項2の発明は,長孔内に,あらかじめ長手方向に所定間隔で設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ,複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になつている周壁孔開き長尺管を,挿嵌固定するものである。本件特許発明では,地山に穿設した長孔内に,まず長尺管を挿嵌固定し,しかる後に長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り,複数の吐出管を上記長尺管内に配設する点が,請求項2の発明と相違する(本件明細書にも,「第6図は他の実施例に用いる長尺管を示している。すなわち,この長尺管5には,予め,第2図に示す組み付け構造体が挿嵌されている。」とある(本件公報5欄36行ないし38行)。)。このように,本件特許発明と請求項2の発明とが上記のような相違点の存在を理由に別個の発明とされていることに照らしても,本件特許発明は,全体として,一定の時間的順序に従って方法が実施されることを予定しているものである。
(2) 争点1について 構成要件C及びDの記載は,構成要件Cが「上記長尺管の内部を長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切り,」というもので,同Dが,「複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させ,」というものである。この記載からは,両者が同時に行われる場合を排除する趣旨とは解されない。また,上記(1)イの実施例は本件特許発明に関するものであることが明らかであるところ,この実施例には,構成要件CとDを同時に行うことが記載されており,このことからも,本件特許発明構成要件CとDを同時に行うことを予定しているということができる。
(3) 「隔壁」の意義 「隔壁」とは,一般的な日本語の意味としては,「間をへだてる壁」,「しきり」(広辞苑第5版)を意味するところ,本件明細書中においては,その意義は抽象的であって,その内容を実施例以上に明らかにする記載は存しない。
本件特許発明における隔壁の機能について,本件明細書には,「また,上記長尺管は内部が隔壁で区切られ各空間に分かれているため,固結用薬液の圧入により各空間内の圧力上昇が急激に生じ,それによって固結用薬液は上記空間に充満したのち,長尺管の周壁に設けられた周壁孔から外部に吐出され,地山に浸透してそこで硬化する。したがって,長尺管内だけでなく,長尺管の周囲の地山にも固結領域が形成され長尺管と長尺管の間の地山の部分の補強がなされるようになり,」(本件公報4欄22行ないし29行)という記載がある。
このような記載からは,本件特許発明における隔壁の機能は,長尺管の内部に挿入された,薬液を吐出する複数の吐出管(実施例では6本)の長さが異なるように設定されている(実施例では,各5mずつ異なる。)ため,隔壁で区切られた各空間ごとに,固結用薬液の同空間への充満,さらに少なくとも各空間ごとに設けられた,長尺管の周壁孔から外部への吐出がされ,地山に浸透してそこで硬化する,というもので,長尺管の外周の地山のところどころに固結領域を形成するのを効率的に行うためのものと解される。
(4) 被告工法の検討 被告工法は,原告の主張によれば,前記第2,2(2)に記載した内容のものであり,構成aないしdをその順序で行うものである。その構成bまでの段階では,鋼管内を複数の空間に区切る機能の部材は存在しないので,隔壁に当たるものは存在しない。構成cの段階になって,薬液(これは地山用とパッカー用とで異なるものとは認められない。)を,パッカー用薬液注入チューブを通じて布筒パッカーに圧送注入し,これによって,膨張する該布筒パッカーを鋼管の内壁面に圧接して環状隙間を遮断するときに,初めて鋼管内を複数の空間に区切る機能の部材が現われる(この点に争いはない。)。この膨張した布筒パッカーの機能は,長尺管の外周の地山のところどころに固結領域を形成するのを効率的に行うためのものと認められ,本件特許発明における隔壁とほぼ同等の機能と認められる。
既に述べたように,本件特許発明は,方法の発明であり,全体として,一定の時間的順序に従って方法が実施されることを予定している。したがって,固結用薬液の吐出が始まるまでには「隔壁」が存在することが必要というべきである。被告工法のように,吐出管の開口から固結用薬液の吐出が始まる段階においてもなお「隔壁」が存在せず,吐出が始まって多少の時間(短い時間と認められる。)が経過した後に,鋼管内を複数の空間に区切る機能の部材が現われるなどということは,本件明細書にこれを示唆するような記載は一切存在しないものであって,本件明細書に開示された技術ではなく,そもそも本件特許発明の想定していないところといわなければならない。そうすると,被告工法には構成要件Cの「隔壁」が存在せず,同構成要件を充足しないものといわざるを得ない。
2 争点3(被告工法が構成要件E及びFを充足するか,すなわち被告工法では長尺管内に固結領域を形成しているか)について (1) 本件明細書の記載 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,以下のような記載がある。
「〔従来の技術〕従来から,軟弱な,または破砕された地山等の地層帯で行うトンネル穿設工事においては,穿設の第1段階では,パイプルーフ工法を用いて,地山を強化することが行われている。このパイプルーフ工法は,‥‥まず,長尺管1内に,同軸的にドリル駆動軸を入れてその先端にドリル刃を取り付け,‥‥セメントミルク吐出管(図示せず)を長尺管1内に同軸的に入れる。そして,そのセメントミルク吐出管の先端からセメントミルクを吐出し,長尺管1内を先端から所定の距離だけ,セメントミルクで充満させ,ついで硬化させる。つぎに,上記セメントミルク吐出管を引つ張つて少し後退させ,上記セメントミルク硬化物が詰まった部分より少し手前の部分を同様にしてセメントミルク硬化物で埋める。このようにして,順次セメントミルクを吐出硬化させ,長尺管1の内部を硬化セメントで埋めて長尺管1を一種のセメント製電柱状に形成し,それを複数本地山2中に並べることにより,地山2を強化するという方法である。〔発明が解決しようとする問題点〕しかしながら,上記工法では,セメントミルク吐出管を手前に引きながら,セメントミルクを吐出硬化させなければならないため,作業が煩雑である。また,最近では,硬化が早く,高強度を有することからウレタン樹脂等の薬液用いた工法も行われているが,上記工法にこのような薬液を用いると,硬化が早いため途中で吐出管が抜けなくなるというような事態を招く。したがって,上記のような速硬性の薬液を用いることはできず,高強度の補強は不可能である。また,長尺管と長尺管の間の地山の補強は不可能であり,これも地山が砂質からなるときには大きな問題になつている。この発明は,このような事情に鑑みなされたもので,作業が容易で,かつ速硬性の固結用薬液を使用することのできる地山固結工法の提供をその目的とする。」(本件公報2欄8行〜3欄41行) 上記の記載からは,従来技術として「長尺管1の内部を硬化セメントで埋めて長尺管1を一種のセメント製電柱状に形成し,それを複数本地山2中に並べる」という工法が存在し,本件特許発明がそれを前提にしていることがうかがわれる。そして,本件明細書中には,この前提となっている従来の技術に変更を加える趣旨の記載は存しないから,本件特許発明は,この部分が従来と同様に踏襲されることを前提として,それ以外の部分に改良を加えているものと解される。そうすると,構成要件Eの「上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち,」は,長尺管の内部が残すところなく薬液で満たされることを要する趣旨と解するのが相当である。
(2) 被告工法の検討 被告工法においては,薬液の吐出が終了した後も,インサート管の内部には中空部が存し,この部分には薬液が充満しないことは原告も争わないところである。したがって,被告工法は構成要件Eを充足しないものというべきである。
なお,原告は,構成要件Eにおいて,固結用薬液を充満させる対象となっているのは,「上記各空間」すなわち「隔壁により区切られた長尺管内部の空間」であるが,このインサート管の内部中空部は,隔壁により区切られることがないから,本件特許発明にいう固結用薬液が充満する対象部分ではない,と主張する。しかしながら,「上記各空間」とは,上記に述べたところから長尺管の内部全体を指すと解すべきであり,原告の主張は採用できない。
3 争点5(本件特許権に無効事由があり,原告が同特許権に基づく権利行使をすることが権利濫用に当たるか) 以上検討したところによれば,原告の本訴請求は既に理由がないが,所論に鑑み,争点5につき検討することとする。
特許に無効事由が存在することが明らかであるときは,その特許権に基づく差止め,損害賠償等の請求は,権利の濫用に当たり許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。そこで本件特許に無効事由が存在するかどうかを検討する。
(1) 本件公知文献の存在 本件公知文献(特開昭61-186613号公報。乙7)の発明は,発明の名称を「グラウト注入装置」とし,特許請求の範囲を「長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管と,この外管内をその軸心方向に移動自在とされた内管部材とを備えた注入装置において,前記内管部材は,複数の独立した流路を有する内管と,長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し,前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に,前記内管の各流路が1対1で独立的に連通していることを特徴とするグラウト注入装置」とするものである。ここには,ボーリング機によって削孔された孔内に,注入口が形成された外管を建て込み,その外管内を所定間隔で設けたパッカー部により複数の注出室に区切り,第1内側管及び第1外側管の注出口を上記注出室に連通開口させ,その注出口からグラウトを上記注出室を介し,上記外管の注入口から地山内に浸透させる技術が開示されている。
(2) 本件特許発明との比較 ア 共通点 本件公知文献の発明は,@外管(その材質については後に検討する。)を地盤(この点についても後述する。)に穿設した削孔内に挿嵌固定する点,A複数のパッカー部と複数の内管からなる内管部材が,外管内に挿嵌され,外管が長手方向に複数の注出室に区切られる点,B各内管には,その周壁に注出口が形成され,各注出室に対応している点,Cグラウトを各内管から同時に注入すると,グラウトは内管部材の注出口から外管の周壁孔である注入口を経て,地盤に浸透硬化して固結領域を形成する点,の各点において本件特許発明と共通である。
イ 相違点 他方,@本件公知文献の発明では,工事の対象が「地盤」であるのに対し,本件特許発明では「地山」である点,A本件公知文献の発明では,長尺管内の各空間に開口しているのが吐出管の周壁に形成された注出口であるのに対し,本件特許発明では吐出管の先端である点,B本件公知文献の発明では,固結領域が形成されるのが長尺管に相当する外管外のみであるのに対し,本件特許発明では長尺管内及び長尺管外である点,である。
ウ 検討 (ア) まず上記イ@の相違点から検討する。本件公知文献の発明は「地盤」を対象としているものであるが,「地盤」は,第一次的には,水平な地面を一応想定しているものとしても,水平でない「地山」を除外しているものとまでは解されず,この点は大きな差異ということはできない。しかも,本件特許発明の特許出願時に公知の文献である乙18(「土木施工」1978年5月号),乙19(同誌同年6月号)には,トンネル工事の地山に,本件公知文献の発明を用いた工法の属するソレタンシュ工法を適用することが記載されているのであるから,なおさらである。
加えて,本件特許発明の特許出願時の公知技術として,乙10の2(無効審判請求書)添付の各文献(「トンネルにおけるパイプルーフ工法・地盤」,「トンネル標準示方書(山岳編)・同解説」,特公昭63-63688号公報及び実開昭58-194299号のマイクロフィルム(乙8と同一)が存在する。これらには,水平な地盤に限らない「地山」に削孔を穿設し,パイプを挿嵌固定してそのパイプからモルタル等の固結用薬液を注入して地山をトンネル地盤を強化する技術が開示されている。上記に照らせば,本件公知文献の発明を用いた工法(ソレタンシュ工法)を地山に用いることは,本件特許発明の特許出願前に公知の技術であったと認められる。
(イ) 次に上記イAの相違点について検討する。本件公知文献の発明においては,各注出室に対応して内管の注出口が開口していることが重要であって,この点は本件特許発明と同様というべきである。その開口の設け方については,本件公知文献にも「なお,内管部材の流路は同芯であることに限定されない。」(4頁左欄17,18行)と記載されているように,例えば上記実開昭58-194299号のマイクロフィルムにおける膨出用パイプ17や二次凝結材用パイプ18と同様,各内管の各先端から吐出されるようにすることは,当業者であれば,容易に想到し得るものというべきである。
(ウ) さらに,上記イBの相違点について検討する。本件公知文献の発明は,固結領域を外管外に形成するが,もともと外管内には形成しないものである。
加えて,同技術の外管は,塩ビ製のパイプであり,薬液注入後は内管を引き抜いてしまい,空の塩ビ製パイプだけが残るもので,このことからも,同技術は,外管に固結用薬液を充填して地盤を補強することは想定していないものとも,一見考えられる。
しかしながら,乙17(ソレタンシュ工法を技術導入しているライト工業株式会社〔甲14〕技術本部グラウト部部長藤沢伸行氏の回答書)には,ソレタンシュ工法では,「補強のことを考慮し,ダムの基礎処理,トンネル地山補強工事や‥‥では必ずセメントベントナイト液等の中詰め材にて注入外管(マンシェットチューブ)内を中詰めしております。」と記載されており,このことからすれば,本件公知文献の発明を用いた工法(ソレタンシュ工法)においても,外管に固結用薬液を充填して地盤を補強することが本件特許発明の特許出願前に既に公然実施されていたか,そうでないとしてもそのような方法は当業者であれば,容易に想到し得たものと認められる。
以上によれば,本件公知文献の発明と本件特許発明との間の上記の(ア)ないし(ウ)の相違点はいずれも大きなものではなく,これらの相違点の存在を前提としても,当業者であれば,本件公知文献の発明を公知技術と組み合わせることによって容易に本件特許発明に想到し得たものというべきである。したがって,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当するから,無効であることが明らかというべきである。
4 結論 以上によれば,被告工法は,本件特許発明技術的範囲に属さない。また,本件特許に無効事由が存在することは明白であり,本件特許権に基づく権利行使は権利濫用に当たるというべきである。
したがって,その余の争点について検討するまでもなく,原告の請求は,被告工法に関する請求はもちろんのこと,被告製品1及び被告製品2に関する請求もまた,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 青木孝之
裁判官 村越啓悦