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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  反復(反復可能性) /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  分割出願 /  薬事法 /  後発医薬品 /  製造承認 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  同意 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 6613号 特許権侵害差止請求事件
原告 リヒターゲデオン ベジェセティ ジャール アールテー
訴訟代理人弁護士 品川澄雄
同 吉利靖雄
補佐人弁理士 岩田弘
同 中嶋正二
被告 日本医薬品工業株式会社(以下「被告日本医薬品工業」という。)
被告 株式会社陽進堂(以下「被告陽進堂」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 浦崎威
同 久保 精一郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/05/07
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告日本医薬品工業は,別紙物件目録1記載の医薬品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 被告陽進堂は,別紙物件目録2記載の医薬品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
3 被告日本医薬品工業は,その所有する別紙物件目録1記載の医薬品を,被告陽進堂は,その所有する別紙物件目録2記載の医薬品を,それぞれ廃棄せよ。
事案の概要
本件は,ファモチジンに関する特許権を有する原告が,日本薬局方ファモチジンを原薬とする別紙物件目録1及び2記載の各医薬品(以下,まとめて「被告ら医薬品」という。)の製造販売等を準備している被告らに対し,被告ら医薬品の製造販売等は原告の上記特許権を侵害すると主張して,被告ら医薬品の製造販売等の差止め等を求めている事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は,医薬品の研究開発及び製造販売を業とし,世界各国において医薬品を販売しているハンガリー国法人である。被告らは,いずれも主に医薬品の製造,販売を業とする株式会社である。
(2) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 特許第2708715号 発明の名称 形態学的に均質型のチアゾール誘導体の製造方法 出願番号 特願平6-196865号 分割の表示 特願昭62-193855号の分割 出願日 昭和62年8月4日 公開番号 特開平7-316141号 公開日 平成7年12月5日 優先権 1986年8月5日のハンガリー国特許出願番号3370/86に基づく優先権 登録日 平成9年10月17日 特許請求の範囲請求項1 「その融解吸熱最大がDSCで159℃であり,その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり,及びその融点が159〜162℃であることを特徴とする「B」型のファモチジン。」 (3) 本件発明の構成要件は,次のとおりに分説することができる(以下,それぞれ構成要件ア,構成要件イなどという。ただし,構成要件エの趣旨については,後記のとおり,争いがある。) ア その融解吸熱最大がDSCで159℃であり, イ その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり,及び ウ その融点が159〜162℃である エ ことを特徴とする「B」型のファモチジン (4) 一般名「ファモチジン」〔化学名:N-スルファモイル-3-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジン〕には,A型とB型の二つの結晶形のものが存在し,本件発明に係るファモチジンは「B型ファモチジン」と呼ばれる結晶形のものである。
(5) 本件特許に先行して,山之内製薬株式会社(以下「山之内製薬」という。)の出願・登録に係る次の特許(以下「山之内特許」といい,その明細書を「山之内特許明細書」という。)が存在した(乙5)。
発明の名称 アミジン誘導体ならびにその製造法 特許番号 第1333173号 出願日 昭和54年8月2日 登録日 昭和61年8月28日 (6) 被告日本医薬品工業は,平成14年3月14日,山之内製薬が製造販売するH2受容体拮抗剤たる「ガスター散」と同一の後発医薬品として,別紙物件目録1記載の医薬品について,薬事法14条1項に基づく厚生労働大臣の製造承認を受け,同医薬品について健康保険法に基づく薬価収載申請をし,同法の適用を受ける健康保険薬として販売を準備中であり,近く販売が開始される。
(7) 被告陽進堂は,平成14年3月15日,山之内製薬が製造販売するH2受容体拮抗剤たる「ガスター錠」と同一の後発医薬品として,別紙物件目録2記載の医薬品について薬事法14条1項に基づく厚生労働大臣の製造承認を受け,同医薬品について健康保険法に基づく薬価収載申請をし,同法の適用を受ける健康保険薬として販売を準備中であり,近く販売が開始される。
(8) ファモチジンは,現行の第十四改正日本薬局方に収載された医薬品である(以下,第十四改正日本薬局方に収載されたファモチジンを「日本薬局方ファモチジン」という。)。厚生労働大臣から製造承認を受けた被告ら医薬品に含まれる原薬ファモチジンは,現行の第十四改正日本薬局方に収載されたとおりの規格のものでなければならない。
(9) 被告らは,日本薬局方ファモチジンを株式会社ワイ・アイ・シーから購入し,被告ら医薬品の原薬として用いている。
(10) 日本薬局方ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトルが示す特性吸収帯は,本件発明に係る明細書(甲2,以下「本件明細書」という。)の「B」型のファモチジンの特性吸収帯(【0019】の【表1】)と一致している。したがって,被告ら医薬品に含まれる日本薬局方ファモチジンは,構成要件イの「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり」を充足する。
2 争点 被告ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に属するか。
(1) 構成要件エの充足性(争点1) (2) その他の構成要件(ア,ウ)の充足性(争点2)
当事者の主張
1 構成要件エの充足性(争点1)について (原告の主張) (1) 構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」の意義 ア 本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「・・・を特徴とする「B」型のファモチジン」と記載されているが,この記載は,以下のとおり,本件発明に係るファモチジンの構成要件アないしウを反復記載したものにすぎず,上記3要件とは別個の構成要件を記載したものではない。
したがって,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」は,100パーセント純粋なB型ファモチジンに限定されるものではなく,A型ファモチジンが混在し,100パーセント純粋なB型ファモチジンといえなくても,構成要件アないしウを充足していれば足り,特にIRスペクトル特性が一致していれば足りると解すべきである。
イ 本件特許出願前には,ファモチジンにA型とB型の結晶多形が存在することは知られておらず,本件特許出願前の公知のファモチジンは,A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物であり,単に「ファモチジン」と総称されていた。
本件発明は,ファモチジンの結晶多形の存在を初めて見出し,多形体結晶のそれぞれを分別晶出させ得る結晶化制御技術を確立し得たことに基づき発明されたものであり,ファモチジンの結晶多形のうち請求項1で特定された三つの要件,すなわち,DSC測定値(構成要件ア),IRスペクトル特性(構成要件イ)及び融点(構成要件ウ)の各要件を併有するファモチジンを技術的範囲とするものである。
ウ そうすると,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」は,以下のとおりに理解すべきである。すなわち,公知のファモチジンは,A型の存在比率が多く,IRスペクトル特性において,B型の特性吸収帯の他にA型の特性吸収帯も検出されるものであったのに対して,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」は,IRスペクトル特性においてA型ファモチジンの特性吸収帯が検出されず,B型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出されるという点で,公知のファモチジンと区別される新規な物質である。つまり,A型ファモチジンの混在がIRスペクトル特性(構成要件イ)において検出されるほど多いものが公知のファモチジンであり,A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大(構成要件ア)では検出されるが,IRスペクトル特性(構成要件イ)においては検出されない程度に少ないものは,実質的にB型ファモチジンと同等であり,本件特許出願前には知られていなかった,本件発明に係る「B」型ファモチジンであると理解すべきである。
(2) 被告ら医薬品と構成要件エとの対比 ア 被告ら医薬品が,本件発明の「『B』型ファモチジン」に当たるか否かは,次のような過程により判断すべきである。すなわち,まず,IRスペクトルの特性吸収帯(構成要件イ)によりB型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出されるかどうかを判定し,次いで,B型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出されるものについて,融解吸熱最大温度(構成要件ア)及び融点(構成要件ウ)が一致するか否かにより判断すべきである。
イ 被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,前記第2の2(10)のとおり,IRスペクトルにおいて,B型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出され,後記2のとおり,融解吸熱最大温度(構成要件ア)及び融点(構成要件ウ)の一致も認められるから,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」に当たる。なお,被告らは,被告ら医薬品の原薬ファモチジンが山之内特許明細書の実施例2の製法に従って製造されたと主張するが,この点については知らない。
(被告らの反論) (1) 構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」の意義 山之内特許に係る公知のファモチジンは,A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物であった。本件発明は,公知のファモチジンとは異なり,「100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンである」(乙6の1,2)との主張が認められて特許査定されたものである。したがって,本件発明に係る「B」型ファモチジンは,形態学的に均質なファモチジン,すなわち,純度100%の単一のB型結晶ファモチジンを意味する。
(2) 被告ら医薬品と構成要件エとの対比 被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,山之内特許明細書の実施例2の製法に従って製造された上記公知のファモチジンであり(乙7),A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物であるから,本件発明の技術的範囲に含まれない。
2 その他の構成要件の充足性(争点2)について (原告の主張) (1) 構成要件アの充足性について ア 本件発明に係るB型ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトルと日本薬局方ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトルとは,特性吸収帯(波数)及び吸収強度が一致しているから,両者は同一物質である。そして,本件発明に係るB型ファモチジンについて,DSC(示差走査熱量測定法)による測定をした結果は,融解吸熱最大が加熱速度1℃/分において159.5℃であった。
イ したがって,被告ら医薬品中の日本薬局方ファモチジンは,構成要件アの「その融解吸熱最大がDSCで159℃であり」を充足する。
(2) 構成要件ウの充足性について ア 第十四改正日本薬局方には,日本薬局方ファモチジンの融点は,「融点:約164℃(分解)」の性状を示すと記載されている。この融点は,構成要件ウの「融点159〜162℃」と僅かに相違する。
しかし,日本薬局方の融点は,融け終わりの温度を融点として記載しており,また,「約」及び「(分解)」の記載は,融点が不明確であることを意味している。そして,この融点は,単に日本薬局方ファモチジンについての参考情報であり,日本薬局方ファモチジンであることを確認するための判定基準ではない。しかも,本件発明の発明者は,本件発明に係るB型ファモチジン(すなわち,日本薬局方ファモチジン)の融点がかなり変わりやすいことを明らかにし,その理由として融解前に分解が始まることを挙げて,加熱速度の遅速により融点が変動する旨を説明している。
イ したがって,被告ら医薬品中の日本薬局方ファモチジンの「融点:約164℃(分解)」と構成要件ウの「融点159〜162℃」との相違は,融点が異なることを示すものではない。被告ら医薬品中の日本薬局方ファモチジンは構成要件ウを充足する。
(被告らの反論) (1) 構成要件アについて ア ファモチジンは,本件特許出願前から公知の物質である。公知のファモチジンは,A型ファモチジンとB型のファモチジンの混合物であり,これをDSCにより分析すれば,両型に由来する159℃と167℃を融解吸熱最大とする二つの融解吸熱ピークが出現する。したがって,公知のファモチジンと本件発明に係る「B」型ファモチジンとを峻別するためには,構成要件アは,「DSCで159℃を融解吸熱最大とする一つの融解吸熱ピークが出現することを特徴とする」と厳格に解釈される必要がある。
イ 被告ら医薬品の原薬ファモチジンをDSCにより分析したところ,本件発明に係る「B」型ファモチジンと異なる融解吸熱パターンを示した(乙8)。したがって,被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,構成要件アを充足しない。
(2) 構成要件ウについて 被告ら医薬品の原薬ファモチジンの融点は,164.5℃である(乙7)から,構成要件ウの「その融点が159〜162℃である」を充足しない。
当裁判所の判断
1 構成要件エの充足性(争点1)について (1) 事実認定 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 本件発明は,従来公知のファモチジンにA型とB型の結晶多形が存在することを見出したことに基づいてされたB型のファモチジンに関する発明である(甲2の【0001】〜【0002】)。
イ 本件明細書には,次の記載がある(甲2)。
(ア) 「本発明は形態学的に均一なファモチジン(Famotidine)の製造方法に関する。」(2欄6〜7行) (イ) 「しかしながら,文献にはファモチジンが多形型をもつかどうかについては示唆がない。ファモチジンの従来公知の製造方法の我々の再現試験の間に,これらの試験をDSC(中略)により分析した際にファモチジンが二つの型即ち「A」及び「B」型を有することがわかった。」(2欄14行〜3欄5行) (ウ) 「本発明の方法により製造されたファモチジンの「B」型は159℃の値を有する融解吸熱最大(DSC-曲線上)を有し,そのIR-スペクトルの典型的な吸収帯は3506,3103,及び777cm-1にある。本発明の方法の最大の利点は,本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンを製造するための容易な,良く制御された技術を与え,及び正確にファモチジン多形を相互に並びに明らかにされていない組成の多形混合物から区別することである。多形混合物の代わりに均質多形体を説明することの重要性を示すために,純粋な「A」型および「B」型のファモチジンの測定されたデータからの表を示す。」(6欄4〜16行) ウ 特許庁審査官は,平成8年3月26日,本件特許出願に対し,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由通知を発した。これに対し,本件特許出願人である原告は,同年9月26日,意見書を提出し,本件特許出願は特許査定に至ったが,同意見書には,次の記載がある(乙6の1)。
(ア) 「B型ファモチジンの方がA型より強い生物吸収力を有し,従いましてB型の方が有利な効能を発揮し得ることとなります。このことは,本願発明により純品なB型ファモチジンを得ることではじめて見出されたことであります。」(1頁下から4〜1行) (イ) 「従いまして,B型ファモチジンはA型に比べ,薬理学的な観点において有利な物理的又は物理化学的な性質を有することがご理解頂けたものと思われます。よって,純品たるB型ファモチジンは,A型とB型のファモチジンの混合物である引例1〜3記載のファモチジンとは相違し,且つそれより有利な効果を奏する化合物であります。」(2頁5〜9行) (ウ) 「よって,B型ファモチジンを純品で得ることは,薬理効能が優れている化合物が得られるという点で有利であるのみならず,薬剤の製造バッチ間差も回避できるという点で有利な効果をも奏します。このようなことは,ファモチジンの混合物についてしか述べていない引例1〜3記載の発明から当業者が容易に想到し得るものではありません。」(2頁14〜18行) (2) 判断 ア 構成要件エの「『B』型のファモチジン」の意義 (ア) 前記(1)認定のとおり,本件発明は,従来公知のファモチジンについて,A型とB型の結晶多形が存在することを見出したことに基づくB型のファモチジンに関する発明である。
そして,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には「本発明は形態学的に均一なファモチジンの製造方法に関する。」,「本発明の方法の最大の利点は,本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンを製造するための容易な,良く制御された技術を与え,及び正確にファモチジン多形を相互に並びに明らかにされていない組成の多形混合物から区別することである。」と記載され,「A型ファモチジン」と「B型ファモチジン」の混合物(多形混合物)と,純粋な「A型ファモチジン」又は「B型ファモチジン」(均質多形体)とを明確に区別していること,拒絶理由通知に対する意見書において,引用例のファモチジンがA型及びB型の混合物であるのに対し,本件発明に係るB型ファモチジンは「純品なB型ファモチジン」であると述べて特許査定に至っていること等の事実経緯に照らすならば,構成要件エの「『B型』のファモチジン」は,形態学的に均一なB型のファモチジン,すなわち100%の形態学的純度を有するB型のファモチジンを指し,形態学的な混合物を含まないものと解するのが相当である。
(イ) これに対して,原告は,A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大(構成要件ア)では検出されるが,IRスペクトル特性(構成要件イ)においては検出されない程度に少ないものは,実質的にB型ファモチジンと同等のものとして本件発明に係る「B」型ファモチジンであると理解すべきであり,本件発明に係る「B」型ファモチジンは,100パーセント純粋なB型ファモチジンに限定されるものではなく,A型ファモチジンが混在し,100パーセント純粋なB型ファモチジンといえなくても,請求項1に規定されている3要件,殊にIRスペクトル特性が一致する限り,本件発明に係る「B」型ファモチジンに当たるというべきであると主張する。
しかし,以下の理由から,原告の主張は採用できない。
まず,本件明細書には,原告の上記主張を示唆し又は裏付ける記載は一切存在せず,かえって,前記(1)認定のとおり,本件明細書及び前記意見書の各記載を見れば,本件発明に係る「B」型ファモチジンは形態学的に均一なB型ファモチジンをいうものと理解するのが自然である。
また,本件明細書の特許請求の範囲請求項1の記載によれば,「その融解吸熱最大がDSCで159℃であり」(構成要件ア),「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり」(構成要件イ),「その融点が159〜162℃であること」(構成要件ウ)の3要件が本件発明に係る「B」型ファモチジンを特定する特徴的な物性とされている。本件明細書には公知のファモチジンから区別するための純粋なA型ファモチジン及びB型ファモチジンのDSC測定値,IRスペクトル特性,融点等についての測定データの値が示されているが,構成要件アないしウは,純粋なB型ファモチジンの測定データの値を用いて物性が記載されている。したがって,上記3要件は,A型ファモチジンと区別する,純粋なB型ファモチジンを特定するための要件を記載したものと解すべきである。
そうすると,本件発明に係る「B」型ファモチジンについて,原告の主張するように,A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大(構成要件ア)では検出されるが,IRスペクトル特性(構成要件イ)においては検出されない程度に少ないものは,本件発明に係る「B」型ファモチジンであると理解することは,上記のとおりA型ファモチジンと区別する趣旨で記載された構成要件アを無視するに等しいこととなる。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
イ 対比 (ア) 証拠(乙8,9,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
a 被告陽進堂において,被告ら医薬品の原薬ファモチジン(株式会社ワイ・アイ・シーが製造したもので,製造記号CB-21のもの)をDSC測定により分析した結果,DSCチャートにおいて,2点の融解吸熱ピークが検出され,同ピークの一つは,「B」型ファモチジンの存在を示す融解吸熱ピークである159.70℃であり,他は,A型ファモチジンの存在を示す融解吸熱ピークである162.05℃であった。
b 被告日本医薬品工業において,上記原薬ファモチジン(製造記号CB-21)の粉末X線回折測定をした結果,B型結晶に基づく回折線が確認されるとともに,A型結晶に特有な回折線である回折角が確認された。
c 株式会社ワイ・アイ・シーにおいて,富山大学理学部助教授A立会のもとに行われた被告ら医薬品の原薬ファモチジン(ロットCT-16)のDSC測定の結果,同ファモチジンは,A型とB型の混合型ファモチジンであると認められた。
(イ) 上記認定の事実によれば,被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,純粋なB型のファモチジンではなく,A型とB型の混合したファモチジンであると認められるから,構成要件エを充足しない。
(3) 小括 以上のとおり,被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,構成要件エを充足しないから,被告ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に属しない。
2 結論 以上の次第で,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信