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関連審決 訂正2002-39132
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 発明の詳細な説明 /  発明の要旨認定 /  加工 /  設定登録 /  請求の理由 /  訂正審判 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 653号 審決取消請求事件
原告 有限会社リタッグ
原告 リタッグインコーポレーション
両名訴訟代理人弁護士 舟橋直昭
両名訴訟代理人弁理士 神戸真
同 前田勘次
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 山田忠夫
同 長島和子
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が訂正2002−39132号事件について平成14年12月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「騒音の発生しない側溝」とする特許第2514918号の特許(平成5年3月1日出願,平成8年4月30日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。
原告らは,平成14年5月31日に,本件特許の願書に添付した明細書(以下,同願書に添附した図面と併せて「本件明細書」という。)を,特許請求の範囲及び発明の効果の記載に関して訂正すること(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「本件訂正明細書」という。)につき審判を請求(以下「本件訂正審判請求」ともいう。)した。特許庁は,これを訂正2002-39132号事件として審理した。原告らは,この審理の過程で,本件訂正明細書について平成14年10月11日付け手続補正書を提出した(これによる補正を,以下「本件補正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成14年12月2日,本件補正は,特許法131条2項の規定に違反し,審判請求の要旨を変更するものであるから認められない,とした上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月12日,その謄本を原告らに送達した。
2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲(以下,本件訂正前の発明を「本件発明」という。別紙図面A参照) 「【請求項1】接面部a5が全面にわたって曲面に成形加工された側溝蓋1と,前記側溝蓋1の接面部a5に対応する接面部b6が全面にわたって前記側溝蓋1の接面部a5の曲面に対して幾何学的に相似な曲面に成形加工された側溝2とからなり,前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達されることを特徴とする騒音の発生しない側溝。」 (2) 本件訂正に係る特許請求の範囲(下線部が訂正された箇所である。以下,本件訂正に係る発明を「本件訂正発明」という。) 「【請求項1】接面部a5が全面にわたって曲面に成形加工された側溝蓋1と,前記側溝蓋1の接面部a5に対応する接面部b6が全面にわたって前記側溝蓋1の接面部a5の曲面に対して幾何学的に相似で且つ合同を除く曲面に成形加工された側溝2とからなり,前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が側溝蓋1との底面接触することなく前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達されることを特徴とする騒音の発生しない側溝。」 3 本件補正の内容 本件補正は,本件訂正によって加入された「側溝蓋1との底面接触することなく」(本件訂正中のこの加入に係る部分を,以下「本件訂正B」という。本件訂正Bに係る事項を「本件訂正事項B」という。)を「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」とするものである。
4 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正中の「相似な」を「相似で且つ合同を除く」とする部分(以下「本件訂正A」という。)によりこの事項(以下「本件訂正事項A」という。)をその内容に含むことになった本件訂正発明は,本件訂正明細書発明の詳細な説明に記載されたところと互いに矛盾するものとなるのであり,平成5年法律第26号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条4項,5項の規定に違反し,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない,「側溝蓋1との底面接触することなく」との本件訂正事項Bを「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」とする本件補正は,本件訂正審判請求の要旨を変更するものであり,特許法131条2項の規定に違反し許されない,また,「側溝蓋1との底面接触することなく」との本件訂正事項Bは,その記載が不明りょうであるから,本件訂正Bは特許請求の範囲減縮誤記の訂正・明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない,とするものである。
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決は,(1)本件訂正Aにより,本件訂正発明と本件訂正明細書発明の詳細な説明とが互いに矛盾するものとなる,と誤って認定し,(2)本件補正について,その内容を誤認したことにより,本件訂正審判請求の要旨を変更するものとして,これを却下したため,本件訂正事項Bを本件補正により補正した後の訂正請求についての判断を遺脱した。また,仮に,本件補正が認められないとしても,本件補正前の本件訂正Bを,その内容が不明りょうであるから許されない,とした判断は誤りである。これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は,違法として,取り消されるべきである。
1 本件訂正A(「相似な曲面」を「相似で且つ合同を除く曲面」とする訂正)について 審決は, 「本件発明の【作用】及び【発明の効果】の項には,本件発明が,互いに幾何学的に相似な曲面に形成された側溝蓋1の接面部と側溝2の接面部とが側溝蓋1の自重により広い面積で密着していることに特徴があり,その構成により接触面積が広くなり安定性が増すなどの作用効果が記載されている。
しかし,幾何学的に,合同を除く相似である曲面相互は,線接触するものであり,面接触することは通常あり得ないことである。曲面相互が面接触するためにはその各曲面は「合同」でなければならないことは,幾何学の常識ともいえることである。
そうすると,訂正発明と,特許明細書の発明の詳細な説明の記載とは互いに矛盾するものであり,この訂正は,平成5年法律第26号による改正前の特許法第36条第4,5項に規定する要件をみたすものではないから,その出願の際独立して特許を受けることができないものである。」(審決書3頁2段〜4段) と認定判断した。しかし,審決のこの認定判断は誤りである。
(1) 審決の「幾何学的に,合同を除く相似である曲面相互は,線接触するものであり,面接触することは通常あり得ない」との上記認定は,数学上の理論を述べる限りにおいて正しい。しかし,審決の認定するような現象は,本件訂正発明が対象とする側溝及び側溝蓋においては,実際には起こり得ないことである。
(ア) 本件明細書の【発明の詳細な説明】の【従来の技術】の欄の記載(甲第1号証【0002】),並びに,NHKの「ニュースウェーブ」(平成7年9月21日放送。甲第5号証)及びNHKの「おはよう日本列島」(平成7年10月20日放送。甲第5号証)の各番組からも明らかなように,従来のコンクリート製側溝は,平らなコンクリート面で側溝蓋を支えており,幾何学的には平面のコンクリート面と平面の側溝蓋の底面とが密着しているにもかかわらず,実際には4点(同時には3点)で接触し,がたつきが生じるとの欠点があった。このようながたつきが生じる原因は,コンクリート製品を製造するための型枠が,鉄製であるにもかかわらず,コンクリートの重みと多数回の使用により変形すること,コンクリート自体が,時間の経過により,乾燥収縮,自己収縮,熱による膨張などにより変形することから,その寸法精度には限界があるためである。
(イ) 応力理論によると,点接触あるいは線接触を,面積のない接触とすると,側溝2のコンクリート等に発生する応力(荷重を面積で除した値)は無限大となり,コンクリート等が破壊されることになる。しかし,側溝2のコンクリート等は,有限の強度(コンクリートの圧縮強度は15〜120N/mm2)を有し,弾性体(コンクリートの静弾性係数は15〜50GN/mm2)であるため,側溝蓋1の接面部の曲面と側溝2の接面部の曲面とが,相似形であることから線接触することが想定される場合でも,実際には接触部分のコンクリート等が弾性変形し,ある面積をもって接触することになるのである。このことは,側溝蓋1の接面部の曲面と側溝2の接面部の曲面との曲率がわずかに異なる相似である場合に,より顕著となる。
(2) 本件訂正発明は,上記のような側溝の実状,特にコンクリート製側溝の収縮,寸法精度,応力による弾性変形などの実状を考慮した発明である。本件訂正発明における側溝蓋1の接面部の曲面と側溝2の接面部の曲面とは,ある面積をもって線状に接触するのである。審決の上記認定は,このような実状を全く考慮していないものであり,誤りである。そもそも,もしこのような実状を考慮しないのであるならば,側溝蓋の底面(平面)と側溝の平面とが接触する従来技術においても,騒音が発生する等の不都合が生じることはなく,したがって,本件訂正発明が解決しようとした課題自体,存在し得なくなるのである。本件訂正発明も従来技術も,このような実状に即して解釈すべきであることは当然である。
(3) 審決は,上記のとおり,「本件発明の【作用】及び【発明の効果】の項には,本件発明が,・・・側溝蓋1の接面部と側溝2の接面部とが側溝蓋1の自重により広い面積で密着していることに特徴があり,その構成により接触面積が広くなり安定性が増すなどの作用効果が記載されている。」と認定している。しかし,本件訂正明細書の【発明の詳細な説明】の【作用】及び【発明の効果】の項(【0006】,【0008】,【0009】,【0010】及び【0012】)の記載は,いずれも側溝蓋1の接面部の曲面と側溝2の接面部の曲面とが,線状に一定の面積をもって密着して接触することが記載されているだけであり,本件訂正発明と何ら矛盾するものではない。
(4) 以上のとおりであるから,本件訂正事項Aをその内容に含む本件訂正発明と本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載とは互いに矛盾する,とした審決の判断は誤りである。
2 本件訂正Bについて (1) 本件補正について (ア) 審決は,「当該補正は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1についての訂正事項の一つとして記載されていた「側溝蓋1との底面接触することなく」を「側溝2に側溝蓋1との底面接触することなく」とする補正事項を含むものである」(審決書1頁末段〜2頁1段)と認定した。
しかし,審決のこの補正事項の認定は誤りである。本件補正における正しい補正事項は,「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」である。審決は,本件補正における補正事項を誤って認定した上で,「上記補正事項を含む当該補正は,特許法第131条第2項の規定に違反するものであるから,認められない。」(審決書2頁2段)と判断したものである。審決のこの判断は誤りである。
(イ) 審決は,本件補正について,「このような補正事項は,審判請求の要旨(審判請求書の「6.請求の理由」中の「<<三>>訂正の要旨」に記載された事項)を変更するものであることが明らかである。」(審決書2頁1段)と判断した。
しかし,「側溝蓋1との底面接触することなく」との本件訂正事項Bを「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」とする本件補正は,本件訂正審判請求の要旨を変更するものではない。すなわち,本件訂正Bは,もともと,特許請求の範囲の記載の「前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達される」を「前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が側溝蓋1との底面接触することなく前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達される」と訂正するものであり,この特許請求の範囲の記載自体から,本件訂正事項Bが,側溝蓋1と側溝2とが底面接触することがない,との内容のものであることは,十分に理解することができることというべきである。
本件訂正明細書発明の詳細な説明の【0009】の「例えば,側溝に棚受け部が無いことから設置時に側溝蓋との底面接触が無くなり側溝蓋の接面部と側溝の接面部で支え合うことになり,底面に土,小石等の異物を挟み込むことが無くなった。また側溝蓋と側溝の接触面積が広くなり安定性が増す。」との記載からも,本件訂正事項Bの「側溝蓋1との底面接触することなく」が「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」を意味することは明らかである。
このように,本件補正は,本件訂正Bの上記の訂正内容すなわち審判請求の要旨を変更するものではなく,これを特許法131条2項の規定に反するとすることはできない。本件補正についての審決の上記判断は誤りである。
(2) 本件訂正Bについて (ア) 審決は,本件補正を採用せず,本件補正前の本件訂正Bについて判断をし,「この訂正は,特許請求の範囲減縮誤記の訂正・明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。」(審決書4頁2段)と判断した。しかし,審決のこの判断は,上記のとおり,本件補正を認めなかった,その前提に誤りがある。
(イ) 仮に,本件補正が認められないとしても,審決の「何が側溝蓋と底面接触しないのか,訂正後の請求項1の記載では明らかでないから,この訂正は,特許請求の範囲減縮誤記の訂正・明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。」(審決書4頁2段)との判断は誤りである。
本件訂正事項Bの「側溝蓋1との底面接触することなく」が,「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」を意味することは,上記(1)のとおり,本件訂正明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明の【0009】等から明らかであり,本件訂正事項Bは不明りょうではない。本件訂正Bは,特許請求の範囲減縮あるいは明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,審決の上記判断は誤りである。
被告の反論の要旨
審決に,原告ら主張の誤りはない。
1 本件訂正A(「相似な曲面」を「相似で且つ合同を除く曲面」とする訂正)について 本件訂正明細書の特許請求の範囲においては,「合同を除く相似である曲面相互」という文言の前に,あえて「幾何学的に」という限定を付している。このような限定を付している以上,その曲面形状を厳密に解すべきであることは当然であり,審決の「幾何学的に,合同を除く相似である曲面相互は線接触するものであり,面接触することは通常あり得ない」(3頁3段)とした認定には何らの誤りもない。
本件発明の「幾何学的に相似」の意味を数学的用語としてとらえるべきであることは,本件特許に係る第1回目の無効審決に対し提起された取消訴訟(平成12年(行ケ)第184号)につき,東京高等裁判所が平成13年4月12日にした判決においても,既に示されているところである。
原告らは,コンクリート製の側溝及び側溝蓋の寸法誤差,収縮等について主張する。しかし,本件訂正明細書の【0007】の記載によれば,本件訂正発明の側溝は,コンクリート製に限らず,高精度で成形することができる鉄・合成樹脂製のものも含むものである。また,コンクリート製品であっても,あらかじめ収縮を考慮し,また,繰り返し使用しても変形しない型枠を使用することにより,寸法精度の高い製品を得ることは可能である。
側溝のコンクリート蓋1の接面部の局面と側溝2の接面部の曲面との曲率がわずかに異なる相似である場合でも,相似である限り,わずかでも曲率が異なれば幾何学的には面接触することはあり得ないのである。
以上のとおりであるから,本件訂正発明においては,側溝蓋1の接面部の曲面と側溝2の接面部の曲面とが,線状に一定の面積をもって密着して接触することはない,と解すべきである。
2 本件訂正Bについて (1) 本件補正について (ア) 審決が本件訂正事項Bの「側溝蓋1との底面接触することなく」を「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」とする本件補正を,審決書2頁1行において,「側溝2に側溝蓋1との底面接触することなく」とする補正と認定したかのように記載したのは,単なる誤記である。
(イ) 本件訂正事項Bの「側溝蓋1との底面接触することなく」という記載は,「側溝蓋1」が「底面接触」しない対象物が不明であり,これが加えられることにより,請求項1の記載は,全体として意味不明なものとなった。これに対し,本件補正後の「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」との記載を含めた請求項1の記載の意味は,明りょうである。
本件補正は,意味不明であった本件訂正事項Bを,明りょうなものとする補正であるから,これが本件訂正審判請求の要旨を変更するものであって,特許法131条2項の規定に違反するものであることは,明らかである。
(2) 本件訂正Bについて (ア) 本件補正を認めなかったことが誤りではないことは,上記(1)のとおりである。
(イ) 本件訂正Bについて,審決が「何が側溝蓋と底面接触しないのか,訂正後の請求項1の記載では明らかでない」(審決書4頁2段)とした判断に誤りがないことは上記のとおりである。
当裁判所の判断
1 本件訂正Aについて (1) 審決は,本件明細書の特許請求の範囲の「幾何学的に相似な曲面」を「幾何学的に相似で且つ合同を除く曲面」とする本件訂正Aにより,本件訂正発明の側溝蓋1の接面部の曲面と側溝2の接面部の曲面とが線接触することになり,接面部の曲面相互が密着して面接触するとの本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載と矛盾する結果となる,と判断した。審決のこの判断の根拠は,「幾何学的に,合同を除く相似である曲面相互は,線接触するものであり,面接触することは通常あり得ないことである。」(審決書3頁3段)という点にある。
本件訂正発明においては,側溝蓋1と側溝2との接面部同士が線接触することになるとする審決の上記認定は,同発明において両接面部の曲面が相似であるとされていることからすれば,幾何学上の議論としては正しい。しかし,両者が幾何学上の線接触(面積を有しない接触)をすることは,側溝蓋1自体に重量があることからすれば,実際にはあり得ないことが明らかである(両者が面積を有しない線接触をすると,側溝2のコンクリート等に発生する応力(荷重を面積で除した値)が無限大となり,側溝2のコンクリート等が破壊される結果となる。)。
本件訂正発明は,その特許請求の範囲から明らかなように,側溝蓋1と側溝2とから成るものであり,「側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が・・・前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達される・・・側溝」(本件訂正明細書の請求項1後段部分)であって,側溝蓋1の接面部a5の曲面が,側溝2の接面部b6と密着し,側溝蓋の重量及び側溝蓋にかかる垂直荷重が接面部a5,b6を介して分散して側溝2に伝達されるものである。したがって,本件訂正発明においては,幾何学的に相似な曲面の接面部を備えた側溝蓋1と側溝2とを正確に寸法誤差なく成形加工したとしても,それ自体重量があり,また,車両の走行等による垂直荷重を受ける側溝蓋1を側溝2の上に置いたときに,側溝2がどのような材料により成形されているとしても,それが有限の圧縮強度と大なり小なりの弾性を有しているものであることからすれば,側溝蓋1と側溝2との接面部の曲面が相互に弾性変形して接触すること,すなわち,接触面積がない線接触ではなく,接触面積がある線状接触となることは,明らかである(なお,本件訂正発明の側溝に使用され得る材料として,コンクリート,鋳鉄,合成樹脂あるいはセラミックスが例示されている(甲第9号証【0007】)。これらは,いずれも有限の圧縮強度と大なり小なりの弾性を有しているものであることは明らかである(甲第6号証によれば,コンクリートの圧縮強度は,15N/mm2から120N/mm2程度まで,静弾性係数は,15GN/mm2から50GN/mm2程度までである。))。
以上からすれば,本件訂正発明において,その側溝蓋1と側溝2の互いに相似な曲面の接面部同士を,幾何学的に正確に相似な曲面の接面部を正確に寸法誤差なく成形加工したとしても,その接面部の接触は,接触面積がない線接触ではなく,接触面積がある線状接触となることは,本件訂正明細書の特許請求の範囲を全体として合理的に解釈すれば十分に理解することができることであり,特許請求の範囲の本件訂正Aに係る部分のみをとらえて,本件訂正発明における側溝蓋1と側溝2とが面積のない線接触をするとした審決の上記認定は,特許請求の範囲の全体を合理的に解釈することをせずに,面積のない線接触により側溝蓋1の垂直加重を側溝2に分散するという実際にはあり得ない発明である,と本件訂正発明を解釈するものであり,本件訂正発明の要旨認定として誤りである,というべきである。
(2) 審決は,本件訂正明細書発明の詳細な説明の次の記載から,「本件発明が、互いに幾何学的に相似な曲面に形成された側溝蓋1の接面部と側溝2の接面部とが側溝蓋1の自重により広い面積で密着していることに特徴があり、その構成により接触面積が広くなり安定性が増すなどの作用効果が記載されている。」(審決書3頁2段)と認定し,その上で,本件訂正発明は,本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載と矛盾する,と判断した。
「【0005】 【課題を解決するための手段】図1はこの発明の原理を説明する図である。まず図1の正面図で示すように、接面部を曲面に成形加工した側溝蓋1を、幾何学的に相似な曲面に成形加工した接面部を持つ側溝2に、密着するように設置する。 【0006】 【作用】この様にして幾何学的に相似した曲面を持った側溝蓋1と側溝2を設置すると、両者は側溝蓋1の自重により密着する。 …… 【0008】 【発明の効果】この発明は側溝蓋の接面部と側溝の接面部が曲面で密着することに特徴が有る。これにより車両等の通過騒音を解消することが可能になり、
側溝蓋、及び側溝の破損の発生をも防ぐ。 【0009】……また側溝蓋と側溝の接触面積が広くなり安定性が増す。 【0010】また、側溝蓋に垂直加重がかかった場合、接触面が曲面であるために、力線が分散され、側溝蓋にかかる負担が軽減され耐用年数が延びる。 …… 【0012】以上のようにこの発明は側溝蓋の接面部、側溝の接面部を曲面に成形加工することにより側溝蓋、側溝の密着を計るものであり、少ないコストで大きな効果を生むものである。……」 しかし,本件訂正明細書の【0006】,【0008】,【0010】の上記記載は,側溝蓋1と側溝2とが側溝蓋の自重によりその接面部で密着し,側溝蓋からの垂直荷重が分散されることを記載しているにすぎないものであるから,本件訂正発明において,上記のとおり,側溝蓋1と側溝2との接面部同士が面積をもった線状接触をすると考えられるものであることと,何ら矛盾するものではない。
本件訂正明細書の【0009】も,「側溝に棚受け部が無いことから設置時に側溝蓋との底面接触が無くなり側溝蓋の接面部と側溝の接面部で支え合うことになり,底面に土,小石等の異物を挟み込むことが無くなった。また側溝蓋と側溝の接触面積が広くなり安定性が増す。」(甲第9号証)と記載されており,従来のもの,すなわち,底面が平面状の側溝蓋と平面状の側溝との組合せでは,「その構造上の特性から土や小石が溜まりやすく・・・。発生する騒音・・・」(甲第9号証【0002】)との問題があり,このような従来の側溝は,4点接触(同時には3点接触)により騒音が生じやすかった(甲第5号証)のに対し,上記のような線状接触により接触面積が広くなったことを記載しているものと解することができる。
(3) 以上からすれば,上記(1)に認定したとおりのものである本件訂正発明を,本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載と互いに矛盾するものとすることができないことは,明らかである。審決の本件訂正Aに関する前記判断は誤りである。
被告は,本件発明の「幾何学的に相似」の意味を数学的用語としてとらえるべきであることは,本件特許に係る第1回目の無効審決に対して提起された取消訴訟(平成12年(行ケ)第184号)につき東京高等裁判所が平成13年4月12日にした判決においても既に示されている,と主張する。しかし,上記判決は,本件発明の特許請求の範囲の「幾何学的に相似な曲面」との構成には「幾何学的に合同な曲面」も含まれることを判示したものであり(当裁判所に顕著な事実である。),本件訂正発明における,側溝蓋1と側溝2の接面部の曲面同士が一定の面積をもって線状に接触するかどうか,すなわち,互いに相似に成形加工された接面部の曲面同士が,垂直荷重を加えられて接触するときに,どのような状態で接触することになるかどうかについて判断したものではないことが明らかである。被告の主張は失当である。
2 本件訂正Bについて (1) 本件訂正Bは,本件明細書の特許請求の範囲の「前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達される」を「前記側溝蓋1と側溝2との密着性を高め,前記側溝蓋1にかかる垂直荷重が側溝蓋1との底面接触することなく前記側溝蓋1及び側溝2の接面部a5,b6を介して分散されて側溝2に伝達される」と訂正するものである。
本件訂正発明は,側溝蓋1と側溝2との各接面部が互いに相似な曲面に成形加工され,この接面部の曲面同士が密着し,側溝蓋1にかかる垂直荷重が上記接面部を介して分散されて側溝2に伝達されることを特徴とする騒音の発生しない側溝である(甲第9号証【請求項1】参照)。そして,従来の側溝においては,側溝の平らな面で側溝蓋の平らな底面を支えていたため,騒音が発生しやすかったところを改良したのが本件訂正発明であり,本件訂正発明においては,側溝2の曲面から成る接面部b6に接面するのは,側溝蓋1の曲面から成る接面部a5のみであり,側溝蓋1の「底面」が側溝2の接面部b6に接するべきではないことは,本件訂正明細書の特許請求の範囲及び本件訂正明細書の図1ないし図3等から明らかである。そうすると,「側溝蓋1との底面接触することなく」との本件訂正事項Bは,側溝蓋が底面接触することがない対象が明示的に記載されておらず,日本語として不正確であるものの,本件訂正明細書において,側溝蓋1の底面が接触し得る対象となるものは,側溝2しかないのであるから,その意味するところが,側溝蓋1の底面が側溝2に接触しないことであることは,十分に理解することができるのである。
審決は,「何が側溝蓋と底面接触しないのか,訂正後の請求項1の記載では明らかでない」(審決書4頁2段)と判断した。しかし,本件訂正発明は,上記のとおり,側溝蓋1と側溝2のみから構成されるものである上,本件訂正発明の上記特許請求の範囲の記載からして,側溝蓋の底面と接触する可能性があるもので,これと接触すべきではないものは側溝2のみであることからすれば,本件訂正Bの「側溝蓋1との底面接触することなく」とは,側溝蓋1の底面と,これと唯一接触する可能性がある側溝2とが接触することなくとの意味である,と一義的に理解することができる。
審決が,本件訂正Bについて,「何が側溝蓋と底面接触しないのか,訂正後の請求項1の記載では明らかでないから,この訂正は,特許請求の範囲減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものではない」(審決書4頁2段)と判断したのは,誤りである。
(2) 本件補正は,本件訂正事項Bを「側溝蓋1との底面接触することなく」から「側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく」へとするものである(審決が,審決書2頁1行において,本件補正による補正事項を「側溝2に側溝蓋1との底面接触することなく」と記載したのは,誤りであることが明らかであるので,これを,被告が主張するとおり単なる誤記であるものと認めて,判断する。)。本件訂正事項Bの「側溝蓋1との底面接触することなく」が,側溝蓋が底面接触することがない対象となるものが記載されておらず,日本語として不正確であるものの,上記(1)のとおり,側溝2に側溝蓋1の底面が接触することなく,と理解することができるものである以上,本件補正が,本件訂正審判請求の要旨の変更には当たらないものであることは明らかである。
審決が,これを本件訂正審判請求の要旨の変更と認定したことも誤りである。
結論
以上に検討したところによれば,原告ら主張の取消事由は理由がある。そこで,原告の請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸