審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ11856損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 産業上利用(29条1項柱書) / 自然法則 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 新規性 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 技術的範囲 / 同一の発明 / 発明の詳細な説明 / 共有 / 着想 / 権利の濫用(権利濫用) / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
2355号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 ジー・オー・ピー株式会社 訴訟代理人弁護士 小林幸夫 補佐人弁理士 久保司 被告 アルインコ株式会社 訴訟代理人弁護士 中務 嗣治郎 同 岩城本臣 同 森真二 同 村野譲二 同 加藤幸江 同 安保智勇 同 浅井隆彦 同 中光弘 同 中務正裕 同 中務尚子 同 村上創 同 小林章博 同 錦野裕宗 同 鈴木秋夫 同 小林幹雄 同 三浦章生 同 近藤恭子 同 藤井康弘 補佐人弁理士 藤川忠司 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/09/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の請求
1 被告は,別紙目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。 2 被告は,その占有する前項記載の製品及び半製品を廃棄し,同製品の製造に用いる設備を除去せよ。 3 被告は,原告に対し,480万円及びこれに対する平成15年2月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
原告は,アルミニウム製可搬式作業台の発明に係る特許権の共有者である。 原告は,被告が製造・販売する別紙目録記載の作業台は,上記特許権に係る明細書の特許請求の範囲の請求項2記載の発明の技術的範囲に属すると主張して,同特許権に基づき,被告に対し,上記作業台の製造・販売の差止等及び損害賠償を求めている。 1 争いのない事実 (1) 原告は,下記の特許権を訴外株式会社住軽日軽エンジニアリングと共有している(以下,この特許権を「本件特許権」といい,同特許権に係る特許公報〔甲1。本判決末尾添付〕を「本件公報」という。)。なお,原告の共有持分は3分の2である。 特許番号 第2989166号 発明の名称 アルミニウム製可搬式作業台 出願日 平成9年(1997)9月26日 審査請求日 平成10年(1998)7月28日 公開日 平成11年(1999)4月13日 登録日 平成11年(1999)10月8日 (2) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)における,特許請求の範囲請求項2の記載は,以下のとおりである(以下,この請求項2記載に係る発明を「本件特許発明」という。)。 「手掛け部材が天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に,該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取付けられていることを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。」 (3) 本件特許発明を構成要件に分説すると,下記AないしDのとおりである(以下,分説した各構成要件を,その記号に従い「構成要件A」などという。)。 A アルミニウム製可搬式作業台であること, B 当該作業台に手掛け部材が取り付けられていること, C 当該手掛け部材が,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられていること, D 当該手掛け部材が,主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられていること, (4) 被告は,別紙目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造・販売している。 (5) 被告製品の具体的構成を,本件特許発明の構成要件に即して分説すると,下記のとおりである(以下,下記の各構成を,その記号に従い「被告製品構成a」などという。)。 a アルミニウム製可搬式作業台であること, b 当該作業台に手掛け部材が取り付けられており,同部材の上端部には,連結部材を介して手摺り材が連結されていること, c 当該手掛け部材が,天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられていること, d 当該手掛け部材が,主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられていること, e 天板に手摺り材が2つ着脱自在に設けられていること, (6) 上記(3),(5)から明らかなとおり,被告製品構成aは構成要件Aと,被告製品構成dは構成要件Dと,それぞれ同一である。また,被告製品構成cは構成要件Cを充足する。 したがって,被告製品は,構成要件A,C及びDをいずれも充足する。 2 争点 (1) 被告製品が本件特許発明の構成要件をすべて充足し,同発明の技術的範囲に属するものと認められるか(争点1)。 (2) 本件特許権に無効事由の存在することが明らかであり,同特許権に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されないか(争点2)。 (3) 原告の損害額(争点3)。 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(構成要件の充足性)について (原告の主張) 被告製品が構成要件A,C及びDを充足することに争いはないところ(第2,1(6)),同製品においては,手掛け部材の上端部に,連結部材を介して手摺り材が連結される(被告製品構成b)ことによって,2つの手摺り材が天板に着脱自在に設けられている(同e)。 しかしながら,上記の点は,構成要件A〜Dをすべて充足した上で付加された構成にすぎず,このような構成が付加されたからといって,構成要件の充足性が左右されるものではない。すなわち,当該作業台に手掛け部材が取り付けられている以上,被告製品は構成要件Bを充足するのであり,手掛け部材の上端部に連結部材を介してさらに手摺り材が連結されるからといって,同製品が構成要件Bを充足しなくなるというものではない。また,被告製品が構成要件A〜Dをすべて充足する以上,天板に手摺り材が2つ着脱自在に設けられた構成(被告製品構成e)が付加されたからといって,同製品が本件特許発明の技術的範囲に属しなくなるというものでもない。 上記のとおり,被告製品は本件特許発明の構成要件をすべて充足しており,その技術的範囲に属している。 (被告の主張) 被告製品は,「当該作業台に手掛け部材が取り付けられており,同部材の上端部には,連結部材を介して手摺り材が連結されていること」(被告製品構成b),及び,「天板に手摺り材が2つ着脱自在に設けられていること」(同e)の2点において,本件明細書の特許請求の範囲請求項2に記載された構成と異なっており,本件特許発明の構成要件を充足しない。 すなわち,被告製品の手摺り材は,建設現場で業務に従事する者が,作業中,作業台の天板から転落することを防止するための必須の構成要素であるところ,この手摺り材を天板に取り付けるためには,連結部材を介して,手摺り材の両側部を手掛け部材に連結しなければならない。したがって,被告製品における手掛け部材は,手掛け作用のみならず,手摺り材を天板に取り付けるための取付部材の作用をも果たすものである。その一方で,手摺り材が手掛け部材に連結されることによって,手摺り材は手掛け部材を補強する作用を果たすのであって,このように,手掛け部材と手摺り材は,相互にその作用を補完し合う関係にある。 以上のとおり,手摺り材が設けられている構成,及び,手掛け部材が手摺り材と連結部材で連結されている構成は,いずれも被告製品の極めて重要な要素であり,このような構成(被告製品構成b,e)を備えている点において,同製品は本件特許発明の構成要件を充足せず,その技術的範囲に属しない。 2 争点2(無効事由の存否)について (被告の主張) 以下に述べるとおり,本件特許権には,特許法29条1項違反及び同条2項違反の無効事由の存することが明白であるから,同特許権に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されない。 (1) 特許法29条1項違反 ア 本件特許発明は,社団法人仮設工業会が定めた「アルミニウム合金製可搬式作業台の認定基準」の内容をそのまま表したものにすぎず,そもそも発明といえるものではない。 すなわち,上記仮設工業会は,構造基準,使用基準等の設定を通じて,仮設構造物等に関わる労働災害の防止及びその工事施工の円滑化に寄与することを目的とする公益法人(業界団体)であるところ,労働安全衛生規則に従い,建設現場における安全確保のため,平成9年4月1日から,アルミニウム合金製可搬式作業台の構造を,「天板面から上に60センチメートル以上の突出した『手がかり棒等』を設けたものであること」などと定めた認定基準を施行した。この認定基準が業界誌(乙4)に発表された同年5月1日以後,アルミニウム合金製可搬式作業台に手掛かり棒を付設することは,法の要求する基準として業界の常識となっており,その当然の結果として,天板の4隅に手掛け部材を付設した作業台が広く製造されている。そのことは,原告自身が,その製造・販売するアルミニウム製可搬式作業台のカタログ(甲5,6)に「仮設工業会認定品」と明記している事実や,訴外ホリーエンジニアリング株式会社(乙9)及び同株式会社ピカコーポレーション(乙10)が,天板の4隅に手掛かり棒を付設し,これを主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けた構成を有する,本件特許発明をほぼそのまま実施したと認められる製品を製造・販売している事実に照らしても,明らかである。 上記から分かるとおり,本件特許発明は,社団法人仮設工業会の認定基準を内容とするものにすぎず,「創作」ないし「発明」と呼べるような思想的契機は存しない。したがって,「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条1項)といえるものではなく,そもそも「発明」に該当しない(同法29条1項柱書違反)。 仮に「発明」に該当するものであるとしても,出願前の平成9年5月1日に頒布された刊行物(上記乙4)に記載された発明と同一の発明であるから,新規性を有しない(同法29条1項3号違反)。 イ なお,原告は,上記認定基準には,@ 手掛かり棒をどこに設けるか,A どのような形状・構成とするか,が開示されていないから,同基準によって本件特許発明の新規性が失われるものではないと反論する(後記(原告の主張)(1))。 しかしながら,可搬式作業台に安全に昇降するための手掛かり棒を取り付ける場合,天板の隅角部を取り付け場所に選択することは当然の着想であるから(隅角部以外に取り付けることは,逆に不自然である。),上記@の点をもって「発明」と評価することなどあり得ない。また,上記Aの点についても,持ち運びを前提とする可搬式作業台に手掛かり棒を付設する以上,これを折り畳み可能とすることは当然の着想であり,かつ,主脚の縦部材に沿って取り付けることも公知公用の技術である(乙8の3,乙8の4)から,結局,この点も新規性の根拠とはなり得ない。 したがって,原告の上記反論には理由がない。 (2) 特許法29条2項違反 仮に本件特許発明が「発明」(特許法2条1項)に該当するとしても,下記のとおり,本件特許発明には,進歩性欠如の無効事由が存する。 ア 本件特許発明の構成要件A〜Dのうち,同Aは「アルミニウム製可搬式作業台であること」というものにすぎず,進歩性の根拠にはなり得ない。 したがって,構成要件B〜Dに関する進歩性の有無を検討すべきところ,前項(1)で述べたところから明らかなとおり,構成要件B(当該作業台に手掛け部材が取り付けられていること)は,出願前の刊行物である乙4に開示されている。 イ また,構成要件D(当該手掛け部材が,上記主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられていること)については,いずれも出願前の刊行物である乙11(実願昭58-107263号(実開昭60-15600号)のマイクロフィルム),乙8の3(公開特許公報・平9-189185号),乙8の4(公開特許公報・平6-336888)及び乙8の5(実願昭60-171695号(実開昭62-79098号)のマイクロフィルム)に開示されている。 すなわち,@ 乙11(実願昭58-107263号(実開昭60-15600号)のマイクロフィルム)には,膝あて金具1と支え金具2が,天板の4つの隅角部から延びる主脚8の縦部材に沿って,折り畳み可能に取り付けた構成が開示されているが(第2図),同公報の第3図から明らかなように,上記膝あて金具1と支え金具2は,組み立てた時に一体となって手摺りとして機能するものであるから,本件特許発明の「手掛け部材」に相当する。したがって,乙11には,手掛け部材が主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けた構成が開示されていることになる。A 乙8の3(特開平9-189185号公報)における,「折りたたみ式の捕まり棒を取り付けて」(特許請求の範囲),「手で捕まえて作業が出来る様にした安全確保の為の折りたたみ式の装置」(段落【0001】)との各記載に照らせば,同公報における「一部が湾曲した安全棒」は,上記「手掛け部材」に相当するものである。したがって,同公報の【図3】は,手掛け部材に相当する安全棒が,主脚の縦部材に相当する脚立本体に沿って折り畳み可能に取り付けた構成を開示するものというべきである。B 乙8の4(特開平6-336888号公報)の【図3】には,足当部材50を,天板40の隅角部から延びる主脚30に,立設位置から主脚を軸に180度回転するように取り付けた作業台が開示されているが,この足当部材は,天板上の作業者の安全確保及び作業性の向上という作用効果を奏するから,本件特許発明の「手掛け部材」に相当するものである。それとともに,この足当部材は,上記のように180度回転することによって,主脚に沿って折り畳み可能に構成されたものということができる。したがって,以上を総合すれば,上記【図3】には,天板40の隅角部から延びる主脚30に,手掛け部材に相当する足当部材50を,立設位置から主脚30に沿って折り畳み可能に取り付けた作業台が開示されていることになる。C 乙8の5(実願昭60-171695号(実開昭62-79098号)のマイクロフィルム)における,「支柱は,脚立本体の両側梯子脚体を連結する枢軸を中心に起伏回動自在となるように枢止され」(実用新案登録請求の範囲)との記載や,「上記支柱2は,枢軸7を中心に回動する起伏動自在となり,伏倒時に一方梯子脚体3に沿う状態が保持できるよう」,「脚立を梯子として使用する場合や格納や輸送時には,支柱2を引上げて下端をホルダー9から引抜き,次に枢軸7を中心に支柱2を回動伏倒させ」(いずれも考案の詳細な説明〔実施例〕)との各記載に照らせば,上記支柱2は,脚立本体1の梯子脚体3に折り畳み可能に取り付けられたものであることが明らかである。そして,支柱2は本件特許発明の「手掛け部材」に,脚立本体1は同「主脚」に,梯子脚体3は「主脚の縦部材」にそれぞれ相当するものであるから,同公報の第5図には,手掛け部材(支柱2)が,主脚(脚立本体1)の縦部材(梯子脚体3)に沿って折り畳み可能に取り付けられた構成が開示されているというべきである。 以上のとおり,手掛け部材が主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられた構成(構成要件D)は,公知文献である乙11,乙8の3,乙8の4及び乙8の5のすべてに開示されている。 ウ さらに,構成要件C(手掛け部材が,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に取り付けられていること)については,手掛け部材を主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付ける(構成要件D)以上,天板の隅角部または隅角部から延びる主脚の縦部材に沿って取り付けることは当然であり,構成要件Dが公知である以上,構成要件Cも必然的に公知ということができる。 念のため指摘しておくと,甲14(実願昭50-011487号(実開昭51-95541号)のマイクロフィルム)の実用新案登録請求の範囲には,「鞘パイプ4内に中パイプ16を出入自在に嵌挿し」,あるいは「脚立1の鞘パイプ4から中パイプ16を引出して」と記載されているところ,これらの記載に照らして同公報の第3図を観察すれば,そこには,手掛け部材に相当する中パイプ16が,天板に相当する展開足場板17の4つの隅角部から延びる主脚6の縦部材に立設位置に取り付けられた構成,すなわち,手掛け部材が,天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に取り付けられた構成が開示されているものと認められる。したがって,構成要件Cが公知であることは明らかである。 エ 以上のとおり,本件特許発明の構成要件Bは乙4に,構成要件Dは乙11,乙8の3,乙8の4及び乙8の5に,構成要件Cは甲14にそれぞれ開示されており,同発明は,その出願時(平成9年9月26日)において,これら刊行物に記載された発明(同法29条1項3号)に基づいて容易に発明することができたものであるから,進歩性欠如(特許法29条2項違反)の無効事由の存することが明らかである。 (原告の主張) (1) 特許法29条1項違反の主張に対する反論 被告が引用する社団法人仮設工業会の認定基準(乙4)は,建設現場における安全確保のため,アルミニウム合金製可搬式作業台につき,「天板面から上に60センチメートル以上の突出した『手がかり棒等』を設けたものであること」と,一般的な基準を定めたものにすぎない。したがって,このような基準を満たすものであるならば,手掛かり棒のみならず手摺または手摺枠を付設してもよいのであり,認定基準に従うことが当然に手掛かり棒を付設することにはならない。 仮に手掛かり棒を付設する構成を採用したとしても,上記認定基準は,@ 手掛かり棒をどこに設けるか,A どのような形状・構成とするかについて,何ら具体的に開示していない。したがって,例えば,手掛かり棒を着脱式にしたり,スライドさせたりする構成を採用することも可能である。しかるところ,本件特許発明は,考えられる選択肢の中から,手掛かり棒を折り畳み可能に取り付けるという具体的な構成を採用したのである。 さらに,本件公報の段落【0011】に,「手掛け部材6は,作業者が作業台となる天板3に昇降する場合,天板上に載って作業を行う場合に,手掛けとなり,安全性および作業性を向上させるためのもので」と記載されていることから分かるとおり,本件特許発明における手掛け部材は,天板に昇降する場合のみならず,天板上に載って作業を行う場合の安全性確保にも資するものであるところ,天板上で作業する場合の安全性確保という作用効果を奏する点は,上記認定基準には明記されていない。したがって,本件特許発明は,同認定基準には開示されていない独自の作用効果を奏するものということができる。 以上のとおり,本件特許発明は,社団法人仮設工業会の認定基準の内容に工夫を加え,そのことによって独自の作用効果を奏するに至ったものである。したがって,そもそも同発明が特許法2条1項の「発明」に当たらないとか,新規性がない(同法29条1項)などという被告の主張には,理由がない。 (2) 特許法29条2項違反の主張に対する反論 本件特許発明は,@ アルミニウム製可搬式作業台であること(構成要件A),A 当該作業台に手掛け部材が取り付けられていること(同B),B 当該手掛け部材が,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられていること(同C),C 当該手掛け部材が,主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられていること(同D)を構成要素とするものであるが,前記社団法人仮設工業会の認定基準(乙4)の存在に照らし,構成要件Aが公知技術であることは認める。 その一方で,本件特許発明における手掛かり棒は,前記のとおり,天板に昇降する場合のみならず,天板上に載って作業を行う場合の安全性確保にも資する点で,上記認定基準における手掛かり棒等と全く同一のものではないから,構成要件B(当該作業台に手掛け部材が取り付けられていること)が公知であるとはいえない。 構成要件C及びDについては,従来技術になかった新規な構成であり,進歩性も有するものであるが,被告は,構成要件C及びDについて,乙11,乙8の3,乙8の4,乙8の5及び甲14との関係で進歩性が欠如すると主張するので,被告が引用するこれらの公知技術に対し,以下,個別に反論する。 ア 乙11(実願昭58-107263号(実開昭60-15600号)のマイクロフィルム)記載に係る考案は,本件特許発明のような可搬式作業台(構成要件A)に関するものではなく,脚立に関するものであるから,作業に十分な面積を有する天板に相当する構成が存在しない。また,乙11には,支え金具2と膝当て金具1を手摺として使用することが記載されているが,この膝当て金具1は,文字どおり作業者の膝に当てて支えとして用いるものであり,その役割や脚立最上段からの高さ(ちなみに,前記認定基準における手掛かり棒等は,天板面から60cm以上突出したものであることが要求されている。)に照らし,本件特許発明の手掛かり棒に相当するものではない。さらに,この支え金具2と膝当て金具1は,昇降時の安全確保のため常設されている手掛かり棒と異なり,天板上での作業時に限って組み立てるものである上に,そもそも,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に,該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられている(構成要件C及びD)ものではない。 以上のとおり,乙11は,本件特許発明の構成要件A〜Dのいずれについても,これらの構成を具体的に開示ないし示唆するものではない。 イ 乙8の3(特開平9-189185号公報)記載に係る発明も,乙11の考案と同様,脚立に関するものであるから(構成要件A),作業に十分な面積を有する天板に相当する構成が存在しない。また,乙8の3における安全棒は1本であり,本件特許発明の手掛かり棒のように4本付設されていないから,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に取り付けられた(構成要件C)ものではない。加えて,本件特許発明の手掛かり棒が,折り畳んだ状態でも主脚の縦部材に沿っているのに対し,上記安全棒は,公開特許公報(乙8の3)の【図3】が示すとおり,折り畳んだ状態では,棒が屈曲している分だけ同部材から離れているから,主脚の縦部材に沿って取り付けられている(構成要件D)とはいえない。 以上のとおり,乙8の3は,本件特許発明の構成要件A〜Dのいずれについても,これらの構成を具体的に開示ないし示唆するものではない。 ウ 乙8の4(特開平6-336888号公報)記載に係る発明は,四脚ハシゴの安全装置に関するものであり(構成要件A),作業に十分な面積を有する天板に相当する構成が存在しない。また,同発明における足当部材50は,板状に形成した部材を足に当てて足の位置を固定し,作業時における作業者のバランスを安定させるためのものであって,本件特許発明の手掛かり棒のように,天板上に載って作業を行う場合のみならず,天板に昇降する場合にも手を掛けることができ,もって作業時及び昇降時の両方における安全性向上に資するものではない(したがって,天板面から60cm以上突出したものでもない。)。よって,上記足当部材は,「手掛け部材」(構成要件B)に相当するものではない。 以上のとおり,乙8の4においては,手掛け部材が,天板の隅角部または隅角部から延びる主脚の縦部材に,該主脚の縦部材に沿って部材を折り畳み可能に取り付けられた構成(構成要件B〜D)を見出すことはできない。 エ 乙8の5(実願昭60-171695号(実開昭62-79098号)のマイクロフィルム)記載に係る考案は,脚立本体の側部に最上部踏桟よりも上方に起立する支柱を取り付けた脚立に関するものであり,第1図を一見すれば明らかなとおり,脚立本体の側部に支柱を1本取り付けたものにすぎない。 よって,本件特許発明の進歩性を否定する根拠となるものではない。 オ 甲14(実願昭50-011487(実開昭51-95541号)のマイクロフィルム)の第3図には,中パイプ16が,天板(展開足場板17)の4つの隅角部から延びる主脚6の縦部材の延長として立設された状態が図示されているものと認められるが,同公報には,上記中パイプが本件特許発明における「手掛け部材」として用いられることを開示する記載もなければ,示唆する記載もない。また,上記中パイプが,どのようにして,天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材の延長として立設された状態になるのかは,同公報の記載からは一切不明であるとともに,この中パイプが,上記第3図の状態からどのように鞘パイプに収納されるのかも,一切不明である。 したがって,甲14に,手掛け部材が,天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に,該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられている構成(構成要件B〜D)が,開示されているということはできない。 カ 以上のとおりであるから,被告が引用する公知技術(乙11,乙8の3,乙8の4,乙8の5及び甲14)を組み合わせても,本件特許発明と同一の構成に想到することは,当業者にとって容易になし得たことではない。 よって,これら公知技術との関係で,本件特許発明が進歩性を欠如する旨の被告の前記主張は,理由がない。 3 争点3(原告の損害額)について (原告の主張) 被告は,遅くとも平成14年12月から被告製品を製造・販売しているところ,同月から本訴提起(平成15年2月5日)までの約2か月間に,同製品を平均単価4万円で,少なくとも600台販売した。そして,原告の利益率から推測して,被告の利益率は30%と考えられるから,被告は,下記の計算式のとおり,720万円の利益を得たものと認められる。 4(万円/台)×600台×30%=720(万円) 原告は,本件特許権の持分3分の2の共有権者であるから,上記720万円の3分の2に当たる480万円を原告の損害として主張し,特許法102条2項に基づいて被告に請求する。 (被告の主張) 原告の上記主張は,争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(構成要件の充足性)に対する判断 (1) 被告製品構成b及びeについて 被告製品が構成要件A,C及びDを充足することについては,当事者間に争いがない(第2,1(6))。 また,被告製品は,アルミニウム製可搬式作業台に手掛け部材が取り付けられた上,同部材の上端部に,連結部材を介してさらに手摺り材が連結されている(被告製品構成b)ものであるが,手掛け部材の上端部に手摺り材を連結した点は,作業台に手掛け部材が取り付けられた上で,さらに作業効率や安全性を高めるために付加された構成であるから,このような構成が付加されたからといって,その前提となる手掛け部材を取り付けた構成の技術的意義が失われるものではない。 すなわち,被告製品は,手掛け部材が奏する作用効果を奏した上で,さらに手摺り材を設けたことによる作用効果を奏するものにすぎない。そうすると,手摺り材が連結されている点は,構成要件Bの充足性に影響するものではなく,当該作業台に手掛け部材が取り付けられている以上,同製品は構成要件Bを充足するというべきである。 さらに,被告製品においては,手掛け部材に手摺り材が連結されることに伴い,2つの手摺り材が天板に着脱自在に設けられている(被告製品構成e)。しかしながら,上述したとおり,手摺り材を付加した構成それ自体が,構成要件の充足性を左右するものではないから,手摺り材を手掛け部材に連結した結果,2つの手摺り材が天板に着脱自在に設けられるに至ったとしても,この点も,本件特許発明の構成要件をすべて充足した上で付加された構成にすぎず,構成要件の充足性を左右するものではない。 以上のとおり,被告製品は本件特許発明の構成要件A〜Dをすべて充足し,本件特許発明の技術的範囲に属するものである。 (2) 被告の主張について この点に関し,被告は,被告製品における手掛け部材と手摺り材は,相互にその作用を補完し合う関係にあり,手摺り材が手掛け部材と連結部材で連結されている構成(被告製品構成b,e)は,被告製品の極めて重要な要素であるから,このような構成を備えている点において,同製品は本件特許発明の構成要件を充足しないと主張する。 しかしながら,このような構成が付加されているからといって,本件特許発明の構成要件の充足性の判断が左右されるものでないことは上述のとおりである。本件明細書を精査しても,被告が主張するように,被告製品構成b,eが付加されることによって,このような構成を備えた製品が本件特許発明の技術的範囲に属しなくなるものと解すべき具体的な根拠は見出せない。 よって,被告の上記主張を採用することはできない。 2 争点2(無効事由の存否)に対する判断 (1) 乙4号証について ア 本件特許発明の出願前の平成9年5月1日に頒布された刊行物(特許法29条1項3号)である乙4号証は,社団法人仮設工業会(平成14年3月現在,仮設機材メーカー,リースレンタル会社,建設会社等合計370社以上の会員から構成されている公益法人であり,建築工事用の仮設機材等に関する安全確保のため,その構造基準・使用基準を定めたり,これらの機材が厚生労働省の規格に適合しているか検査を実施したりしている。)発行に係る「仮設機材 マンスリー」と題する情報誌の第152号である。 そこには,「アルミニウム合金製可搬式作業台の認定基準の制定について」と題する記事が掲載されており,その冒頭には,平成9年3月27日に開催された上記仮設工業会理事会の承認を経て,同会のアルミニウム合金製可搬式作業台の認定基準が定められ,同年4月1日から施行されることになった旨が記載されている。そして,「1、認定基準制定の理由」と題する項には,建築現場で従来用いられてきた「脚立足場」や「うま足場」には,しっかりした作業床の確保という点で問題があり,近年は脚輪付きの「移動式室内足場」を使用する例も増えてきたが,さらに作業性及び安全性を高める見地から,新たに開発された「アルミニウム合金製可搬式作業台」に関する認定基準を制定した旨が記載されている。また,「2、可搬式作業台の必要性能等について」と題する項には,@ 可搬式作業台に必要とされる性能とその性能を試験する方法(「(1) 可搬式作業台に必要な性能等と性能試験の方法について」),及び,A 基準を満たすために必要な可搬式作業台の構造等(「(2) 構造等について」)が記載されており,上記Aにおいては,可搬式作業台の使用時の最大の高さを2m未満と定めた旨の記載に続き,「また,使用高さが1.5mを超えるものについては,安全に昇降できる『手がかり棒』等の備え付けを必要としたこと。(根拠:労働安全衛生規則第526条の規定により高さが1.5mを超える箇所での作業に,安全に昇降するための設備が必要とされている。)」と記載されている。 上記から明らかなとおり,これらの各記載は「アルミニウム合金製可搬式作業台」に関するものであり,かつ,使用時の高さが1.5mを超える作業台については,安全に昇降するための「手がかり棒」を備え付けることが明記されているから,乙4には,本件特許発明の構成要件のうち,「アルミニウム製可搬式作業台であること」(構成要件A)及び「当該作業台に手掛け部材が取り付けられていること」(同B)の各構成が開示されていることが,明らかというべきである。 イ ところで,原告は,構成要件Aが乙4に開示されていることを認める一方で,本件特許発明の「手掛け部材」は,天板に昇降する場合のみならず,天板上に載って作業を行う場合の安全性確保にも資するものであるから,上記認定基準における手掛かり棒等と全く同一のものではなく,したがって,構成要件Bが開示されているとはいえないと主張する(第3,2(原告の主張)(2))。 しかしながら,乙4は,前記のとおり,安全なアルミニウム合金製可搬式作業台であると認定するための一応の基準を示したものにすぎず,特定の可搬式作業台の具体的構成や作用効果を逐一記載したものではないから,そこに「手がかり棒」が安全に昇降するための部材である旨の記載しかないからといって,直ちに,この「手がかり棒」が天板上での作業の安全性確保と関係ないものということはできない。また,そもそも,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載に照らし,天板に昇降する場合のみならず,天板上に載って作業を行う場合の安全性確保にも資するかどうかによって,「手掛け部材」に該当するかどうかが左右されるとは認められないから,原告の上記主張は,構成要件該当性に直接関係しない作用効果の有無を問題にするものにすぎず,その限りにおいて失当というほかない。したがって,同主張を採用することはできない。 (2) 乙8の3号証について ア 本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である乙8の3号証は,脚立の最上段の安全棒の発明に係る公開特許公報(特開平9-189185号)である。 乙8の3の特許請求の範囲には,「脚立の最上段に上がったときに身体のバランスをとりやすい様に,折りたたみ式の捕まり棒を取り付けて安全に作業が出来る様にした装置である。」と記載されており,発明の詳細な説明及び図面には,一部が湾曲した安全棒を固定用金具を用いて脚立本体の脚に取り付け,脚立を閉じた状態においては,安全棒を脚に沿って下向きに固定し,脚立を開いて使用する状態においては,安全棒を固定用金具を軸にほぼ180度回転させ,上向きに固定するように構成した脚立が開示されているものと認められる(段落【0005】,【0006】,【図1】〜【図3】)。 そうすると,乙8の3には,本件特許発明の「手掛け部材」に相当する「捕まり棒」(安全棒)が,脚立の脚に沿って折り畳み可能に取り付けられた構成が開示されており,したがって,本件特許発明の構成要件D(当該手掛け部材が,主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられていること)が開示されているというべきである。 イ 原告は,@ 乙8の3記載に係る発明は,脚立に関するものであるから,作業に十分な面積を有する天板に相当する構成を有しない(構成要件A),A 乙8の3における安全棒は1本であり,本件特許発明における手掛かり棒のように4本付設されていないから,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に取り付けられた(構成要件C)ものではない,B 本件特許発明における手掛かり棒が,折り畳んだ状態でも主脚の縦部材に沿っている(構成要件D)のに対し,乙8の3の安全棒は,公開特許公報の図3が示すとおり,折り畳んだ状態では,主脚の縦部材に沿うことなく,屈曲する分だけ同部材から離れている,などと主張する(第3,2(原告の主張)(2)イ)。 しかしながら,上記@の点は構成要件Aに,上記Aの点は構成要件Cにそれぞれ関するものであり,いずれも,構成要件Dの開示の有無とは直接の関係はない。また,上記Bの点に関する原告の主張も,乙8の3の実施例に示された安全棒が僅かに湾曲していることに伴う些細な相違点を指摘するものにすぎず(ちなみに,上記「捕まり棒」の形状には,特許請求の範囲の記載上何らの限定もない。),手掛け部材に相当する部材が,折り畳み可能に取り付けられたものかどうか(すなわち構成要件Dの充足性)を検討するにあたって,意味のある議論とは考えられない。 以上のとおりであるから,原告主張に係る点は,いずれも,乙8の3に構成要件Dの構成が開示されているとの前記認定を妨げるものではない。原告の上記主張は,採用することができない。 (3) 乙8の4号証について ア 本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である乙8の4号証(なお,甲13号証も同一の書証である。)は,四脚ハシゴの安全装置の発明に係る公開特許公報(特開平6-336888号)である。 乙8の4における特許請求の範囲の記載は,「足を掛ける階段となる複数の横棒と,この横棒の両側に固定する各一対の脚杆と,この各一対の脚杆の中間に位置し水平状に成る足載置部材と,この水平状の足載置部材と直交する側に移動し位置する足当部材とから構成され,前記横棒は順次一定間隔を有して各脚杆の長手方向に沿い固定され,かつこの各脚杆は中間の位置において四脚状に曲折可能に支軸により枢着すると共に,足を支える足当部材を板状に形成し,かつ移動可能にしこの足当部材を足に当てることにより,足の位置を固定し身体を安定させ保護することを特徴とする四脚ハシゴの安全装置。」というものである。この記載と,発明の詳細な説明及び図面(とりわけ,段落【0009】以下並びに【図1】及び【図3】)を併せ読めば,乙8の4には,脚立に近い四脚のハシゴにおいて,水平状の足載置部材を「天板」に相当するものとして構成した上,足に当てて身体を安定させるための足当部材を,足載置部材の1つの隅角部から延びる上記脚杆(「主脚」に相当する。)に沿ってスライドさせることにより移動可能に構成したもの(上記【図1】),あるいは,上記脚杆を軸に180度回転させることにより移動可能に構成したもの(同【図3】)が開示されているものと認められる。 ところで,上記足当部材は,直接に接触する作業者の部位が足(下肢)である点で,本件特許発明の「手掛け部材」とは異なるものであるが,脚立や可搬式作業台といった仮設の作業台を用いて作業する際に,作業者の身体に接してこれを安定させ,安全性を確保するための部材である点で,上記「手掛け部材」と同様の作用効果を奏するものということができる。そうすると,乙8の4には,手掛け部材と同様の作用効果を奏する足当部材を,天板に相当する足載置部材の1つの隅角部から延びる脚杆に沿って,折り畳み可能(移動可能)に取り付けた構成が開示されていることになり,手掛け部材が4本備わっている点を除いては,本件特許発明の構成要件Cの構成要素がすべて開示されているというべきである。 イ 原告は,@ 乙8の4記載に係る発明は,四脚ハシゴに関するものであるから,作業に十分な面積を有する天板に相当する構成を有しない(構成要件A),A 同発明における足当部材50は,板状に形成した部材を足に当てて足の位置を固定し,作業時における作業者のバランスを安定させるためのものであって,本件特許発明の手掛かり棒のように,天板上に載って作業を行う場合のみならず,天板に昇降する場合にも手を掛けることができ,もって作業時及び昇降時の両方における安全性向上に資するものではないから,「手掛け部材」(構成要件B)に相当しない,などと主張する。(第3,2(原告の主張)(2)ウ)。 しかしながら,上記@の点は,構成要件Aに関するものであり,構成要件C(及びその一部)の開示の有無と直接の関係はない。上記Aの点についても,「手掛け部材」を原告が主張するように限定的に解すべき根拠のないことは,前判示((1)イ)のとおりである。また,そもそも,乙8の4に開示されていると認定されるのは,手掛け部材と同様の作用効果を奏する足当部材が,天板に相当する足載置部材の1つの隅角部から延びる脚杆に沿って,折り畳み可能(移動可能)に取り付けられた構成にすぎないのであり(上記ア),したがって,仮に原告が主張するように上記足当部材が手掛け部材に相当しないとしても,そのことが,上記のように認定することと矛盾するものではない。 以上のとおりであるから,原告の上記主張は,いずれも,乙8の4に,手掛け部材が4本備わっている点を除き,本件特許発明の構成要件Cの構成要素のすべてが開示されていると認定することを妨げるものではない。原告の主張は,採用することができない。 (4) 無効事由の存在(進歩性欠如) 上記(1)〜(3)によれば,本件特許発明の構成要件のうち,@ 乙4には,構成要件A(アルミニウム製可搬式作業台であること)及び構成要件B(当該作業台に手掛け部材が取り付けられていること)が,A 乙8の3には,構成要件D(当該手掛け部材が,主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取り付けられていること)が,そして,B 乙8の4には,手掛け部材が4本備わっている点を除く,構成要件Cのすべての構成要素(手掛け部材と同様の作用効果を奏する部材が,天板の隅角部から延びる主脚の縦部材に取り付けられていること)が,それぞれ開示されているものと認められる。 そうすると,これらの公知技術を通じて唯一開示されていないのは,構成要件Cの構成要素のうち,手掛け部材が1本ではなく4本備わっている点ということになるが,手掛け部材の本数を増やせばそれだけ安全性が増すのは自明である上に,同部材の設置場所として,天板の隅角部ないし隅角部から延びる主脚の縦部材を選択するのは自然なことであるから,天板の4つの隅角部または4つの隅角部から延びる主脚の縦部材のすべてに手掛け部材を設けることは,当業者にとって,容易に想到可能というべきである(そのことは,本件公報段落【0012】に,「手掛け部材6は,図1に示すように,天板3の4つの隅角部または天板3の4つの隅角部から延びる主脚4の縦部材に全て設けるのが望ましいが,作業台の使用状況に応じて,設置本数を変えることもできる。」と記載されていることや,出願前の公知文献である乙11(実願昭58-107263号(実開昭60-15600号)のマイクロフィルム)に,4本の主脚のそれぞれに,棒状に延びる支え金具及び膝当て金具を固定した構成の脚立が開示されていることに照らしても,明らかというべきである。)。 そして,証拠(前記乙4及び甲14。実願昭50-011487号(実開昭51-95541号)のマイクロフィルム)によれば,本件で問題となっている可搬式作業台は,建築現場で従前用いられていた脚立式の足場の問題点(安全性や作業性が不十分であること)を改善するために開発された,いわば脚立の延長線上にある技術であること,技術的な観点からすれば,脚立と作業台の相違は,天板に相当する最上段の面積の相対的な大小による相違にすぎないことが認められるから,当業者にとって,脚立に関する発明を開示する乙8の3及び乙8の4と,アルミニウム合金製可搬式作業台の認定基準を示す乙4とを組み合わせることに何らの妨げもなく,むしろ,当然のことということができる。 以上を総合すれば,本件特許発明は,その出願時において,当業者が公知文献である乙4,乙8の3及び乙8の4を組み合わせることにより,容易に発明できたものであり,進歩性欠如の無効事由(特許法29条2項違反)の存することが明らかというべきである。 3 結論 前項2で判示したとおり,本件特許権には無効事由の存することが明らかであるから,同特許権に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして,許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。 したがって,原告の請求は,いずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 青木孝之 |
裁判官 | 吉川泉 |