運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 協議 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  技術常識 /  明瞭でない記載 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  設定登録 /  拒絶審決 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 114号 特許取消決定取消請求事件
平成 15年 (行ケ) 119号 審決取消請求事件
原告(両事件) ハビックス株式会社
訴訟代理人弁理士 廣江武典,宇野健一
被告(両事件) 特許庁長官 今井康夫
指定代理人 高梨操,鴨野研一,一色由美子,林栄二,大橋信彦,森田 ひとみ(平成14年(行ケ)第114号事件のみ)
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 両事件につき,原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
1 平成14年(行ケ)第114号「特許庁が異議2000-72938号事件について平成14年1月23日にした決定を取り消す。」との判決。
2 平成15年(行ケ)第119号「特許庁が訂正2002-39149号事件について平成15年2月25日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が特許権者である本件特許3005654号「抗菌性不織布の製造方法」(出願当初の名称「機能性不織布及びその製造方法」)は,平成6年3月24日に出願(特願平6-53748号)され,平成11年11月26日に設定登録された(その間の平成11年1月22日付けで,特許請求の範囲を後記2の(1)とする旨を含む手続補正がされた。)。本件特許について特許異議の申立て(異議2000-72938号)があり,平成13年4月16日に,特許請求の範囲を後記2の(1)から(2)に訂正する旨を含む訂正請求がされたが,平成14年1月23日に取消決定があり,その謄本は同年2月12日原告に送達された。本訴平成14年(行ケ)114号事件(以下「14-114」と表記)は,この特許取消決定の取消訴訟である。
原告は,平成14年6月27日,本件特許につき,特許請求の範囲を後記2の(1)から(3)に訂正する旨の訂正審判の請求をしたが(訂正2002-39149号),平成15年2月25日,同審判請求は成り立たないとの審決(訂正拒絶審決)があり,その謄本は同年3月7日原告に送達された。本訴平成15年(行ケ)第119号事件(以下「15-119」と表記)は,この審決の取消訴訟である。
2 特許請求の範囲の記載の変遷 (1) 設定登録時の(平成11年1月22日付け手続補正による)特許請求の範囲 パルプ繊維によって繊維ウェブを形成し,次いで,無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンを前記繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布し,その後,前記繊維ウェブを加熱することで,前記繊維ウェブの構成繊維相互間並びに構成繊維と前記無機系抗菌剤とを前記バインダー材料によって結合することを特徴とする抗菌性不織布の製造方法
(2) 平成13年4月16日付け訂正請求による特許請求の範囲 パルプ繊維によって繊維ウェブを形成し,次いで第4アンモニウム塩,クロルヘキシジン,金属,あるいはゼオライトの中から選ばれる抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンを前記繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流をコントロールしてスプレー散布することで,前記抗菌剤を不織布中の所望の位置に存在せしめ,その後,前記繊維ウェブを加熱することで,前記繊維ウェブの構成繊維相互間並びに構成繊維と前記抗菌剤とを前記バインダー材料によって結合することを特徴とする抗菌性不織布の製造方法
(3) 訂正審判請求による特許請求の範囲 パルプ繊維によって繊維ウェブを形成し,次いで,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンを前記繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布し,その後,前記繊維ウェブを加熱することで,前記繊維ウェブの構成繊維相互間並びに構成繊維と前記金属又はゼオライトの無機系抗菌剤とを前記バインダー材料によって結合することを特徴とする抗菌性不織布の製造方法
3 特許取消決定の理由の要点 (1) 訂正の適否 異議手続において平成13年9月10日付けで通知した,訂正拒絶理由通知の概要は,以下のとおりである。
「特許権者(原告)が求めている訂正の内容には,訂正前の「無機系抗菌剤」の記載を「第4アンモニウム塩,クロルヘキシジン,金属,あるいはゼオライトの中から選ばれる抗菌剤」と訂正することが含まれている。
しかし,「第4アンモニウム塩」及び「クロルヘキシジン」は,無機系物質ではないから,このような訂正を含む訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものとは認められない。
また,この訂正は,明瞭でない記載釈明を目的とするものとも,誤記の訂正を目的とするものとも認められない。
以上のとおりであるから,当該訂正は,特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書きの規定に適合していないので,当該訂正は認められない。」 これに対し,特許権者(原告)からは何ら応答がされなかった。
よって,上記訂正拒絶理由のとおり,平成13年4月16日訂正請求書による訂正は,特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書きの規定に適合していないので,当該訂正は認められない。
(2) 特許異議の申立てについて (2)-1 本件発明 上記のとおり訂正が認められないから,本件請求項1に係る発明は,特許時明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの,前記「2 特許請求の範囲の記載の変遷」の(1)のものと認める。
(2)-2 取消理由通知の概要 異議手続で通知した,平成13年2月5日付け取消理由通知書における理由の概要は以下のとおりである。
「平成11年1月22日付けの手続補正書により「機能性材料」を「無機系抗菌剤」に補正した(特許請求の範囲請求項1等の記載参照)が,出願当初の明細書には「機能性材料」として「第4アンモニウム塩,クロルヘキシジン,金属,ゼオライトなどの抗菌剤」との記載があるのみで広義の「無機系抗菌剤」については記載がないし,該記載が当初明細書又は図面に記載されていた事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項であるとも認められない。したがって,平成11年1月22日付けでした手続補正は,特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項に規定する要件を満たしていない。」 (2)-3 判断 上記のとおり,本件請求項1には,依然として「無機系抗菌剤」の用語が含まれており,上記取消理由は解消していない。また,特許権者(原告)は,平成13年4月16日付けで意見書を提出しているが,上記理由に関しては,同日付けで提出した訂正請求書による訂正が認められることを前提として,当該理由は解消されるべきであると主張するのみである。
そうすると,上記取消理由を覆す理由は何ら認められない。
(2)-4 むすび 以上のとおり,本件出願の願書に添付した明細書についてした補正は,特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項に規定する要件を満たしていないから,本件請求項1に係る特許は,拒絶の査定をしなければならない特許出願についてされたものである。
よって,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により,結論のとおり決定する。
4 訂正拒絶審決の理由の要点 (1) 引用刊行物 刊行物1:特公昭43-28273号公報(15-119甲第2号証) 刊行物2:特開昭61-6356号公報(15-119甲第4号証) 刊行物3:特開昭59-137553号公報(15-119甲第5号証) 刊行物4:特開平3-40878号公報 (15-119甲第3号証) (2) 対比 刊行物1には,パルプ繊維を解揉,解繊を経てシート状に形成し,これに接着剤を噴霧させるとともに下面におかれた吸引機構を介してシートの中心部附近にまで接着剤を達せしめ,その後加熱乾燥させる不織布の製造方法が記載されている。刊行物1における「シート状に形成する」ことは,訂正発明における「ウェブを形成する」ことに相当し,刊行物1における「接着剤」は,訂正発明における「バインダー」に相当するものである。そして,刊行物1に記載された発明において,「接着剤を噴霧させるとともに下面におかれた吸引機構を介してシートの中心部附近にまで接着剤を達せしめる」工程においては,吸引機構によりシートの厚み方向に貫通する空気流が発生しているものと認められる。
訂正発明と,刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,「パルプ繊維によって繊維ウェブを形成し,バインダーを前記繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布し,その後,前記繊維ウェブを加熱する不織布の製造方法」である点において一致しているが, 訂正発明においては,バインダーとして,「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョン」を用い,抗菌性不織布を製造するのに対し,刊行物1に記載された発明においては,具体的バインダーについては記載されておらず,通常の不織布を製造することしか記載されていない点,において相違している。 (3) 相違点について判断 不織布にゼオライト微粉末を含有固定させることにより防菌性を持たせること,及び,アクリルエマルジョン等のバインダーによって当該ゼオライト微粉末を固定させることは,刊行物4によって公知であると認められる。
刊行物4には,アクリルエマルジョンによってゼオライト微粉末を固定させる具体的方法としては,ゼオライト微粉末とアクリルエマルジョンを混合した加工液に不織布を通過させて該加工液を付着させる方法しか記載されていないが,アクリル系のエマルジョンを混合した抗菌剤の不織布への付与を,不織布製造工程のバインダー付与段階で行うこと自体は,刊行物2及び3により公知であり,しかもこの付与方法は,具体的抗菌剤の種類によらず可能であると認められるから,ゼオライト微粉末とアクリルエマルジョンを混合したものを,不織布製造工程のバインダー付与段階で付与し,抗菌性不織布とすることは,刊行物2〜4の記載に基づいて当業者が容易になし得るものである。
したがって,訂正発明は,刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定に違反するものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4) 意見書の主張に対する判断 審判請求人(原告)は,意見書において,訂正発明は,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を用いた抗菌性不織布の製造方法に関するものであるから,訂正発明と対比すべきは,無機抗菌剤であるゼオライト微粉末を用いた抗菌性不織布の製造方法を示す刊行物4であると主張し,訂正発明と刊行物4に記載された発明を対比すると,刊行物4には,訂正発明における「無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンを前記繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布すること」ことが示されていないことを主張する。
しかし,訂正発明は,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を,不織布製造工程のバインダーを付与する段階で,繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用して繊維ウェブに対して,バインダーと共に付与する方法に特徴があるとされるから,不織布製造工程の繊維ウェブに対して,同様のバインダー付与法であると解される,吸引機構を介して接着剤(バインダー)を付与する方法を開示している刊行物1に記載された不織布の製造方法と対比することに,誤りはない。
また,本件発明と刊行物4に記載された発明を対比した場合の相違点である「抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンを繊維ウェブに繊維ウェブ厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布すること」の点は,不織布製造工程のバインダーを付与する段階で,バインダーと共に抗菌抗かび剤(防菌防ばい剤)を付着させることにより抗菌性を付与した不織布,すなわち,抗菌性不織布の製造方法が刊行物2及び3に示され,そして,刊行物1には不織布製造工程の繊維ウェブに対して,吸引機構を介して接着剤(バインダー)を付与する方法が示されているから,刊行物1及び刊行物2,3の記載から,当業者が容易に導き出すことができた事項と認められる。
原告主張の特許取消決定取消事由
当初明細書の「抗菌剤」の記載は,出願時に知られた「すべての抗菌剤」を指している。そして「抗菌剤は,有機系抗菌剤と無機系抗菌剤に分類され」(A「抗菌製品と抗菌剤の作用」ペトロテックAPRIL 1988 VOL.21 NO.4(14-114甲第18号証)349頁),第4アンモニウム塩,クロルヘキシジンなどの抗菌剤は「有機系抗菌剤」の代表例を,金属,ゼオライトなどの抗菌剤は「無機系抗菌剤」の代表例を示したにすぎない。
「抗菌剤」について「金属,ゼオライトなどの抗菌剤」として示された「無機系抗菌剤」に限定した補正事項が,本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
したがって,平成11年1月22日付け手続補正は適法なものであり,これを不適法なものとした特許取消決定の判断は誤りである。
原告主張の訂正拒絶審決取消事由
1 訂正拒絶審決は,「アクリル系のエマルジョンを混合した抗菌剤の不織布への付与を,不織布製造工程のバインダー付与段階で行うこと自体は・・・公知であり,しかもこの付与方法は,具体的抗菌剤の種類によらず可能である」と認定し,また,訂正発明を「訂正発明は,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を,不織布製造工程のバインダーを付与する段階で,繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用して繊維ウェブに対して,バインダーと共に付与する方法に特徴がある」と認定した結果,訂正発明を刊行物1記載の発明と対比し,その相違部分が刊行物2〜4に記載の発明に基づいて容易に想到し得ると判断した。
しかし,この認定判断は,誤りである。
2 訂正発明の「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」は,有機系抗菌剤のように自着性がなく,しかも,粒子状の形態を有しているので,不織布の構成繊維と絡み合うこともないため,不織布の内部に入れて固定させることは容易ではない。訂正発明は,このような金属又はゼオライトの無機系抗菌剤をいかに不織布の内部に入れて固定させることができるか,という技術課題にかんがみなされたものである。したがって,訂正発明と対比すべきなのは,同じく無機系抗菌剤であるゼオライト微粉末を用いた抗菌性不織布の製造方法を示す刊行物4に記載の発明である。
そして,訂正発明と刊行物4記載の発明とは,訂正発明においては,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンをパルプ繊維によって形成した繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布しているのに対し,刊行物4記載の発明においては,ゼオライト微粉末をバインダー剤と混合した加工液を,「加工液の中にポリアミド6(ナイロン6)の拡布状不織布を通過させ,ついで絞りローラ搾液することによって前記加工液を不織布全体に均一に付着させ」(2頁右下欄11行〜14行)ている点で相違している。
訂正発明においては,親水性で水性エマルジョンとの親和性がすこぶる良く,しかも,繊維表面に無数の凹凸を有していて,無機系抗菌剤を固着させ易い「パルプ繊維」を採用し,繊維間が固定されず自由でフレキシブルな「繊維ウェブ」という形態で,繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用して「スプレー散布」することで,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を不織布の内部に入り込ませて固定することができる。
3 他方,刊行物2,3には,抗菌剤の不織布への付与を,不織布製造工程のバインダー付与段階で,パルプ繊維によって繊維ウェブを形成し,バインダーを前記繊維ウェブに同繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布する抗菌性不織布の製造方法が示されているが,無機系抗菌剤についての記載はない。
訂正拒絶審決は,「この付与方法は,具体的抗菌剤の種類によらず可能」であると認定している。しかし,無機系抗菌剤は粒子状であり,不織布の内部に入れて固定させることは容易ではないのであって,そのために,無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンの形態で付与すること,付与すべき加工液との親和性に富む素材を付与対象とすること,及び繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布するのである。
このことについての記載は,刊行物2,3のどこにもない。つまり,刊行物2,3は,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を不織布内部に入れて固定した抗菌性不織布の製造を想定したものではない。
金属又はゼオライトの無機系抗菌剤は自着性がなく,しかも,粒子状の形態を有しているので,不織布の構成繊維と絡み合うことがないのであるが,このような金属又はゼオライトの無機系抗菌剤についての記載も示唆もない刊行物2,3に記載の発明は,訂正発明と共通する課題を意識したものとはいえない。
したがって,刊行物4記載の発明の圧力を適宜調節することで,ゼオライト微粉末を不織布内部に強制的に入り込ませて固定する方法に代え,刊行物2,3の「加工液を繊維ウェブの形態(不織布の製造過程)で付与する」という技術手段を適用する必要はなく,刊行物4記載の発明に刊行物2,3に記載の技術手段を適用するという発想は起こり得ない。
4 刊行物1には,通常の不織布を製造することしか記載されていない。
刊行物4記載の発明は,ゼオライト微粉末を強制的に不織布内部に入り込ませて固定させる抗菌性不織布の製造方法に,刊行物1に記載の空気流を利用するという技術手段を適用する必要はなく,刊行物4記載の発明に刊行物1記載の技術手段を適用するという発想は起こり得ない。
5 被告は,「無機系抗菌剤」は粒子状形態を有しているものばかりとは限らないとの主張をする。
しかし,訂正発明は,訂正発明の記載からみて,「無機系抗菌剤」について,粉末状又は粒子状といった形態のままでの固定を想定しており,抗菌性を有する金属塩をバインダーエマルジョンに配合して水溶液(液状)として繊維ウェブに塗布することを想定するものではない。
また,「抗菌のすべて」-ヘルスケアとメディカル・食品衛生・繊維・プラスチック・金属への展開-(繊維社,平成9年9月5日発行,15-119甲第6号証。以下「甲6文献」)の第1図(129頁右欄)の無機系抗菌剤の種類の記載からも明らかなとおり,「無機系抗菌剤」に分類される金属イオン担持無機系抗菌剤,酸化物光触媒系抗菌剤,有機抗菌剤担持抗菌剤のいずれも粒子状あるいは粉末状であることは,広く知られた化学常識である。
甲6文献の第1図(129頁右欄)の無機系抗菌剤の種類の記載によれば,金属イオン系の塩化第二水銀や硝酸銀などは,「無機系抗菌剤」の範疇に含まれるものではない。
無機系抗菌剤のいずれも粒子状あるいは粉末状であることは,その抗菌力が,金属イオン,酸化チタン,有機抗菌剤を担体に担持させることで,抗菌力が発揮されること(甲6文献130頁左欄)から明らかである。
したがって,「無機系抗菌剤」の抗菌力は,金属イオンなどの抗菌成分をゼオライトなどの粒子状あるいは粉末状の担体に担持させることで,初めて抗菌力が発揮されることから,「無機系抗菌剤」は粒子状又は粉末状ということができ,また,「無機系抗菌剤」の範疇に,担体を使用しない,例えば金属イオンのみからなるものは含まれないのである。
A「抗菌製品と抗菌剤の作用」(ペトロテック APRIL 1998(平成10) VOL.21 NO.4。15-119甲第7号証。以下「甲7文献」)の表3(64頁)及び3.2.2欄(65頁)にも,同様な趣旨が記載されている。
特許取消決定の取消訴訟(14-114)に関する当裁判所の判断
平成13年4月16日付け訂正請求を認めなかった特許取消決定の判断を争わず,平成11年1月22日付け手続補正を不適法なものとした特許取消決定の判断を争う原告の主張によれば,前記第2の2(1)に記載の特許請求の範囲に従って特許要件の有無が判断されるべきであるところ,平成14年6月27日付け訂正審判請求においては,第2の2(3)のように特許請求の範囲減縮する訂正審判の請求があり,これについての訂正拒絶審決の取消訴訟で,訂正発明の独立特許要件(進歩性)がないものとした訂正拒絶審決の判断の誤りの有無が審理され,当裁判所は,この訂正拒絶審決取消訴訟と上記特許取消決定取消訴訟とを併合の上,本判決の後記第6において当裁判所の判断を示すものである。そして,当裁判所は,訂正発明の独立特許要件を具備しないものとした訂正拒絶審決の認定判断に誤りはないと判断するものであり,そうである以上,特許請求の範囲減縮を目的の一つとする訂正審判請求の対象となり,訂正発明の上位概念(訂正後の「金属又はゼオライトの無機性抗菌剤」に対する「無機系抗菌剤」)を含む特許請求の範囲(前記第2の2(1))に基づく発明が進歩性の特許要件を具備しないものであることは明らかであり,その特許は取り消されるべきものである。
したがって,特許取消決定の取消事由をいう原告の主張は,結論に影響を及ぼさない主張であって,理由がない。
訂正拒絶審決の取消訴訟(15-119)に関する当裁判所の判断
1 原告が訂正拒絶審決の取消事由として主張するところは,すべて,訂正発明における「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」が,粒子状ないし粉末状の形態を有しているものであり,有機系抗菌剤のような自着性がないものであって,繊維に安定して固着することができない,との主張を前提とするものである。
そこで,まず,訂正発明の「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」が,繊維に付与するに際して,粒子状の形態を有するものに限られるか否かについて検討する。
2 「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」について,訂正明細書に明確な定義は存在しない。
そこで,この用語の一般的な意味についてみるに,「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」の用語自体について定義する文献は本件証拠上ないが,金属又はゼオライトを含む抗菌剤については,刊行物4と甲6文献(「抗菌のすべて」-ヘルスケアとメディカル・食品衛生・繊維・プラスチック・金属への展開-(繊維社,平成9年9月5日発行)及び甲7文献(A「抗菌製品と抗菌剤の作用」ペトロテック APRIL 1998(平成10) VOL.21 NO.4)に記載されている。
そして,「ゼオライトの無機系抗菌剤」が,刊行物4に記載されるゼオライトの抗菌剤に相当するものであって,不溶性の物質で,繊維に付与するに際して,粒子状の形態を有する点については,当事者双方とも当然の前提とするところである。
以下には,金属を含む無機系抗菌剤について検討する。
3 原告は,甲6文献の記載から「無機系抗菌剤」は粒子状ないし粉末状である旨主張する。
「無機抗菌剤」については,甲6文献の「第2章 抗菌製品等に使用する抗菌剤」の「2-4 抗菌剤とその分類」において,「2-4-1 無機系抗菌剤」と題する論文において記載されており,「2.分類」(129頁)と題して,冒頭に, (a) 「筆者は,無機系抗菌剤を,第1図のように,三つに大別している。それぞれについて説明する。」とした上で,以下に「金属イオン担持無機系抗菌剤」,「酸化物光触媒系抗菌剤」,及び,「有機抗菌剤担持無機系抗菌剤」についての説明がある。
それらのうち,金属を含む抗菌剤に関する記載であると認められる「金属イオン担持無機系抗菌剤」及び「酸化物光触媒系抗菌剤」についてみると,前者において, (b) 「無機系抗菌剤の中で,最も早期に開発されたのが,この型の試剤である。
銀イオンや銅イオンが抗菌力を有することは,古くから知られていたが,溶液状態では耐久性や利用状態に強い制約がある。そこで開発されたのが,無機物にあらかじめこうした抗菌性イオンを担持し,そこから徐放されることで長期に抗菌力を発現させる仕組みである。」(129頁左欄〜右欄) (c) 「銀イオンの担持に利用されている無機物は,その化学組成によれば,第1図のようにケイ酸塩系,リン酸塩系,その他に大別される。」(130頁左欄)と記載され,また,後者において, (d) 「現在のところはアナターゼ型の酸化チタンだけが上市されている。」(130頁右欄)と記載されている。
さらに,「4.利用法と今後の問題点」(134頁)において, (e) 「無機系抗菌剤は,粒状あるいは粉状固体なので,使い勝手が良い」(134頁左欄)と記載されている。
そして,「〔第1図〕無機系抗菌剤の分類」(129頁右欄)には,「金属イオン担持無機系抗菌剤」のうち,「珪酸塩系」として,ゼオライト,粘土鉱物,シリカゲル,シリカ/アルミナ,メタ珪酸アルミン酸マグネシウム,ガラスが,「燐酸塩系」として,燐酸ジルコニウム,燐酸カルシウム(アパタイト),「その他」として酸化チタンが挙げられている。
以上の記載において,金属を含む「無機系抗菌剤」として第1図に化学組成として記載されている物質がいずれも不溶性の固体であることは,技術常識からみて明らかであり,また粒子状あるいは粉末状であることは,上記(e)に記載されるとおりである。
そして,水性バインダーに分散されたときその形状が保持されると認められるから,金属を含む「無機系抗菌剤」は,甲6文献の上記各記載によれば,繊維に付与するに際しても粒子状あるいは粉末状であるということができる。
4 しかしながら,甲6文献の定義ないし分類について,その「1.定義」(129頁)の項に,「無機系抗菌剤に厳密な定義があるわけではない。筆者は試剤の化学組成だけでなく,試剤の構成や利用形態なども考慮に入れて判断すべきだと考えている。筆者の分類によれば,有機系抗菌剤を構成成分とし,かつ抗菌機構が何ら有機系抗菌剤と変わらない試剤も,無機系抗菌剤の範疇に入ってくる。こうした分類に異議を唱える向きのあることは十分に承知している。・・・以下で取り挙げる無機系抗菌剤は,こうした筆者の考えに基づいたものであることを,あらかじめご承知おき願いたい。」(129頁左欄)と記載され,また,「2 分類」の項においても「筆者は,無機系抗菌剤を,第1図のように,三つに大別している。」(前記(a)の記載))と記載されているとおり,無機系抗菌剤に厳密な定義があるわけではなく,そこに挙げられた定義ないし分類は特定の者(筆者)の個人的な考えに基づくものにすぎないもので,一般的に用いられているものと認めることはできない。
さらに,甲6文献は,平成9年9月5日の発行であって,訂正発明の出願日である平成6年3月24日よりも3年以上の後のものである。そして,その参考文献として挙げられた文献の半数以上が訂正発明の出願日後の文献であることからみて,甲6文献には,訂正発明の出願日以降における抗菌剤の技術内容も記載されていると認められる。
してみると,甲6文献の記載をもって,金属を含む「無機系抗菌剤」が,繊維に付与するに際して粒子状あるいは粉末状であると直ちに認めることはできない。
5 「無機系抗菌剤」について記載されている甲7文献の発行は,平成10年4月であるから,甲6文献より更に新しい文献である。そして,甲6文献を参考・引用文献とするものである(68頁右欄の(注5))。
また,甲7文献は,「抗菌生活用品(第1回) 抗菌製品と抗菌剤の作用」と題し,「抗菌製品に使用されている抗菌剤の分類上の位置付け・種類およびその抗菌性の主役となっている金属(主に銀,銅)イオンの抗菌性・作用機構,安全性,耐性菌獲得性および代表的な抗菌製品などについて解説した」(目次の記載)ものである。
そこには,「1 はじめに」として, (f) 「近年,「抗菌加工」,「防カビ加工」,「ぬめり防止加工」,「抗菌」といった表示のあるいわゆる抗菌グッズを,良く見掛けるようになった。
その火付け役となったのは,SEKマーク(衛生加工マーク)[繊維製品衛生加工協議会]入りの各繊維製品である。それらに使用される抗菌剤は,当初アンモニウム塩系や有機シリコン第4級アンモニウム塩系などといった有機系抗菌剤が主流であったが,現在では無機系の抗菌剤も多くなっている。そして,この無機系抗菌剤は,繊維製品のほかにも,プラスチック製品をはじめとして,紙製品,塗料,建材,セラミック製品など今のいわゆる抗菌ブームを作り出すほどに幅広く使用されている。」(63頁左欄)と記載され,そして「3 抗菌剤の分類」と題して, (g) 「抗菌剤は,有機系抗菌剤と無機系抗菌剤に分類される。」(63頁左欄〜右欄) とした上で,以下に「有機系抗菌剤」及び「無機系抗菌剤」についての説明がある。その前者において, (h) 「これら有機系抗菌剤のうち殺菌・消毒ではなく細菌やカビなどの増殖抑制(静菌効果)の目的で使用されてきたのは,主にプラスチック用防黴剤のTBZやバイナジンなど,そして抗菌繊維製品に使用される抗菌防臭用の第4級アンモニウム塩などである。」(64頁右欄) と記載されている。また,後者の冒頭において, (i) 「無機系抗菌剤のうちの代表的薬剤について説明する。これは,殺菌剤・消毒薬としてそのまま使用されるいわゆる無機系殺菌剤(消毒薬)と,最近の「抗菌」ブームで抗菌製品に練り込まれたり塗布されて使用されることの多い抗菌製品用抗菌剤とに大別できる。」(64頁右欄〜65頁左欄) とした上で,以下に「無機系殺菌剤」及び「無機系抗菌製品用殺菌剤」についての説明がある。その,前者において, (j) 「過酸化水素は・・・その3%溶液はオキシドールとして有名である。」(65頁左欄)と記載され,後者において, (k) 「無機系殺菌剤と区別するため,また,抗菌製品に使用されることから,抗菌製品用抗菌剤ということにした。さらに,これには金属イオン担持型と酸化物光触媒型及び有機抗菌剤担持型がある。」(65頁左欄)として,以下に,甲6文献の「無機系抗菌剤」についての説明とほぼ同内容の説明がある。
そして,「表3 無機系抗菌剤の分類」(64頁)には,「無機系抗菌剤」は「無機系殺菌剤」と「無機系抗菌製品用抗菌剤」に分類されて,それぞれの代表的薬剤が記載されている。
「無機系殺菌剤」の代表的薬剤としては,例えば「水銀化合物:塩化第二水銀・・・」,「銀化合物:硝酸銀」,・・・「過酸化物:過酸化水素」等が挙げられている。また,「無機系抗菌製品用抗菌剤」には「ゼオライト系」,「シリカゲル系」,「ケイ酸ガラス系」などが挙げられている。
以上の記載によれば,「抗菌剤」は「有機系抗菌剤」と「無機系抗菌剤」とに大別され,これらは,いずれも繊維製品に使用されるものであること(上記(f),(h))が認められる。また,「無機系抗菌剤」は更に,「無機系殺菌剤」と「抗菌製品用抗菌剤」とに分類され,「その無機系殺菌剤」には「3%溶液」(上記(j))と記載されているとおり,液状のものや,「硝酸銀」のような水溶性の抗菌剤が含まれることが認められる。水溶性の金属塩は,水性媒体(例えば水性バインダー)に分散されると,溶解し,液状となるものと認められる。なお,金属を含む「抗菌製品用抗菌剤」は,その説明及び「表3」の記載からみて,甲6文献の金属を含む「無機系殺菌剤」に相当するものと認められるから,不溶性で粒子状あるいは粉末状のものであるということができる。
してみると,甲7文献の記載によれば,金属を含む「無機系抗菌剤」には,繊維に付与するに際して液状であるものも包含されるということができる。
6 そして,甲7文献に記載されている「抗菌剤」は,甲7文献の目次における要約,「はじめに」,及び有機系抗菌剤が繊維製品に用いられる旨の記載等からみて,繊維製品も含め抗菌製品に使用される抗菌剤全般について記載されているものであると認められる。
したがって,この「抗菌剤」に包含される「無機系殺菌剤」も,抗菌製品に使用されるものであるということができる。
なお,甲7文献に「抗菌製品用抗菌剤」が「抗菌製品に練り込まれたり塗布されて使用されることの多い」(前記(i)),「無機系抗菌剤と区別するため,また,抗菌製品に使用されることから,抗菌製品用抗菌剤という」(前記(k))と記載されていることをもって,甲7文献における「抗菌剤」あるいは「無機系抗菌剤」のうち,「抗菌製品用抗菌剤」のみが抗菌製品に用いられる抗菌剤というべきではない。これらの記載は,他の「有機系抗菌剤」,「無機系殺菌剤」が抗菌製品の用途以外にも使用されるものであるのに対し,「抗菌製品用抗菌剤」は専ら抗菌製品に使用されることをいうにすぎないと認められるからである。
そして,「抗菌製品」に,繊維製品が包含されることは,前記(f),(h)に記載されるとおりである。
7 甲7文献は,前記のとおり,甲6文献より更に新しい文献であるから,甲6文献の記載と同様,その記載が訂正発明の出願時においても技術常識であったか否かが問題となる。しかし,甲7文献に記載された,抗菌剤として「無機系殺菌剤」も使用することができるということは,以下のとおり,訂正発明の出願時の技術常識であるということができる。
甲7文献の「抗菌製品用抗菌剤」に属すると認められる金属イオン担持型「抗菌製品用抗菌剤」が訂正発明の出願時に既に知られていたことについては,自明のことである。
そして,銀イオンを含む液状の抗菌剤は,訂正発明の特許出願時に知られていた金属イオン担持型「抗菌製品用抗菌剤」開発以前から,すなわち,訂正発明の出願前から,抗菌剤として抗菌製品に用いられていたものであると認められる。すなわち,甲6文献に「銀イオンや銅イオンが抗菌力を有することは,古くから知られていたが,溶液状態では耐久性や利用状態に強い制約がある。そこで開発されたのが,無機物にあらかじめこうした抗菌性イオンを担持し,そこから徐放されることで長期に抗菌力を発現させる仕組みである」(前記(b))と記載されているとおり,甲6文献の金属イオンを担持した「無機系抗菌剤」,すなわち甲7文献の金属イオン担持型「抗菌製品用抗菌剤」は,古くから用いられていた液状の銀イオンを含む抗菌剤を改良したものであると記載されているのである。
また,その液状の銀イオンを含む抗菌剤は,甲7文献の抗菌剤の分類「表2」及び「表3」の記載からみて,「無機系殺菌剤」の「代表的薬剤」として挙げられるものである。
してみると,金属を含む無機系抗菌剤として,「無機系殺菌剤」も使用することができることは,訂正発明の出願時においても技術常識であったと認めることができる。
8 このように,金属を含む無機系抗菌剤は,甲7文献の記載(特に抗菌製品に使用される抗菌剤の代表的薬剤を記載するものであると認められるその「表2」及び「表3」の記載)において,他に類する抗菌剤が存在しないことからみて,訂正発明の「金属の無機系抗菌剤」に相当すると認められ,訂正発明の「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」には,水溶性の銀化合物も包含されるということができるから,「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」が水性バインダーに分散して繊維に付与される際して,粒子状あるいは粉末状の形態を有しているもののみであるということはできない。
したがって,「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」を繊維に付与する際に際して,粒子状あるいは粉末状の形態を有しているものであるとする原告の主張は,前提を欠く。
9 訂正明細書(15-119甲第8号証)には「本発明は,例えばテーブルクロスやワイピングクロスなどに使用される抗菌性不織布の製造方法に関する。詳細には,抗菌剤が安定した状態に保持されている抗菌性不織布の製造方法に関する。」(【0001】),「本発明は,抗菌剤が安定した状態に保持されている抗菌性不織布の製造方法を提供することを目的とするものである。」(【0004】)と記載され,従来技術として「2枚の不織布2,2間に機能性粉末3を挟んでニードルパンチを施すことにより不織布2,2間の構成繊維を絡合させて機能性粉末3を保持してなるもの」(【0002】)があり,それが「安定した状態に機能性材料を保持することができないという不具合があった」(【0003】)ものであると記載されているのである。そして,訂正発明の構成である「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を分散させたバインダー材料の水性エマルジョンを」,「繊維ウェブの厚み方向に貫通する空気流を利用してスプレー散布し」て「構成繊維と・・・金属又はゼオライトの無機系抗菌剤とを・・・前記バインダー材料によって結合すること」により,液状であれ,粒子状あるいは粉末状であれ,金属又はゼオライトの無機系抗菌剤を,従来技術のように単に物理的に不織布間に保持するものに比較して,繊維に安定して保持することができるものである。
このように,訂正明細書の記載からみても,「金属又はゼオライトの無機系抗菌剤」が粒子状あるいは粉末状といった形態のままで固定する場合以外のものを把握することができない,ということはできない。
10 原告は,無機系抗菌剤の抗菌力は,金属イオン,酸化チタン,有機抗菌剤を担体に担持させることで発揮されるものであるから,無機系抗菌剤の抗菌機構からみて,無機系抗菌剤は粒子状あるいは粉末状である旨主張する。
しかし,甲6文献には,摘示事項(b)の「無機物にあらかじめこうした抗菌性イオンを担持し,そこから徐放されることで長期に抗菌力を発現させる仕組みである。」と記載された後に,「ところがその後,銀イオンを無機物に担持する別の理由が明らかにされた。すなわち,ある種の無機物に担持した銀イオンは,ほとんど溶出せず,抗菌力の発現は銀イオンではなく,銀イオンの担持によって発生する活性酸素によるという説である。このように,銀イオン担持無機系抗菌剤の抗菌機構には,現在のところ二つの説が存在する。」(130頁左欄)と記載され,抗菌機構は,原告が主張するもののほか,抗菌性イオンを担持しそこから徐放される抗菌イオンによる機構もあると記載されているのである。
したがって,無機系抗菌剤の抗菌力は,金属イオン,酸化チタン,有機抗菌剤を担体に担持させることで発揮されるものばかりとはいえないのであるから,抗菌機構からみて無機系抗菌剤は粒子状あるいは粉末状であるもののみを意味する,ということはできない。
11 原告の前記前提とする主張が理由のないものである以上,訂正拒絶審決が訂正発明と刊行物1に記載された発明とを対比して認定した一致点,相違点に誤りはなく,その相違点を刊行物2〜4の記載に基づいて当業者が容易になし得るものであるとした判断にも,原告主張の誤りはない。
結論
以上のとおり,原告主張の特許取消決定取消事由及び訂正拒絶審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求はいずれも棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実