審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ4287損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ3012特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ12410損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 新規性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 権利の濫用(権利濫用) / 均等 / 均等侵害 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 権原 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 同意 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(ワ)
28217号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社ナカオ 訴訟代理人弁護士 寒河江 孝允 同 武藤元 被告 アルインコ株式会社 訴訟代理人弁護士 中務 嗣治郎 同 加藤幸江 同 中務尚子 同 三浦章生 補佐人弁理士 藤川忠司 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2004/01/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙物件目録記載の物件を製造,販売してはならない。 2 被告は,原告に対し,金1億4580万円及びこれに対する平成15年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が被告に対し,別紙物件目録記載のうち伸縮脚の固定装置(以下「被告装置」という。)についての被告の製造,販売行為が,原告の有する特許権を侵害するとして,製造等の差止めと損害賠償を求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,請求項4の発明を「本件発明1」といい,請求項1の発明を「本件発明2」という。)を有している。 ア 発明の名称 伸縮脚の固定装置 イ 出願日 平成9年10月27日 ウ 登録日 平成12年4月28日 エ 特許番号 第3061770号 オ 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの該当欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明1,2の構成要件 ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A 梯子や脚立等の主脚に対して伸縮脚が入れ子式に摺動自在に挿入され, B 該伸縮脚に,軸線方向に間隔を開けて配設された複数の第1のラック歯からなるラックが形成され, C 前記主脚に,前記ラックの第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に, D 第2のラック歯が係合する方向に回転付勢される係止部材を具備する E 伸縮脚の固定装置であって, F 前記ラック溝が貫通溝から形成され, G 前記ラック溝に前記第2のラック歯を嵌入係合することによって, H 前記ラック溝に付着する付着物を打ち抜き可能な構成としたことを I 特徴とする伸縮脚の固定装置。 イ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A’ 梯子や脚立等の主脚に対して伸縮脚が入れ子式に摺動自在に挿入され, B’ 該伸縮脚に,軸線方向に間隔を開けて配設された複数の第1のラック歯からなるラックが形成され, C’ 前記主脚に,前記ラックの第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に D’ 弾性手段によって弾性的に嵌入係合可能で第2のラック歯を有するラックシューが取付けられ, E’ さらに,前記ラックシューと前記ラックとの係合を解除する係合解除手段を具備する伸縮脚の固定装置であって, F’ 前記ラック溝の底部に貫通孔が形成され, G’ 前記ラック溝と前記貫通孔に前記第2のラック歯を嵌入係合することによって, H’ 前記ラック溝に付着する付着物を前記貫通孔を通して打ち抜き可能な構成としたことを I’ 特徴とする伸縮脚の固定装置。 (3) 被告の行為 被告は,業として,被告装置を製造販売している。 (4) 被告装置の本件発明1の構成要件充足性 被告装置は,本件発明1の構成要件A,E,Iを充足する。 (5) 被告装置の本件発明2の構成要件充足性 被告装置は,本件発明2の構成要件A’,E’,I’を充足する。 2 争点及び当事者の主張 (1) 被告装置の構成 (原告の主張) 被告装置の構成は,別紙物件目録記載のとおりである(なお,争いある部分に下線を付した。)。 (被告の認否,反論) ア 別紙物件目録のうち,品番の記載及び図面は認める。 イ 別紙物件目録の図面説明書に記載された被告装置の構成のうち,@及びD,Hは認め,AないしC及びEないしGは否認する。 上記AないしCに相当する被告装置の構成は,以下のとおりである。 A 該伸縮脚14(84)に,軸線方向に間隔を開けて複数の横長の係止孔23が形成され, B及びC 前記主脚11(83)に,前記伸縮脚14(84)の係止孔23に係合突起25(86)が係合する方向に回転付勢される係止部材18(88)を具備する。 ウ 被告装置の構成について,上記イのとおりとすべき理由は,以下のとおりである。 (ア) 被告装置の伸縮脚には,複数のラック歯からなる第1のラック,ラック歯間に形成される複数のラック溝はいずれも存在しない。 (イ) 原告が貫通溝と称する番号23の部分は,被告装置においては,単に横長の孔であり,貫通溝ではないから,番号23の部分は係止孔と表記すべきである。 (ウ) 被告装置は,回転付勢される係止部材を具備しているが,係止部材の突起(原告が第2のラック歯とする番号25(86)の部分)は単数であるから,第2のラック歯と表記すべきではなく,係合突起25(86)と表記すべきである。 (2) (主位的主張)被告装置は本件発明1の構成要件を文言上充足するか。 ア 構成要件Bの充足性 (原告の主張) (ア) 構成要件Bにおける「第1のラック歯」とは,伸縮脚の軸線方向に,間隔を開けて開いた貫通溝同士の間に形成されている平面部をいうものと解すべきである。 (イ) 被告装置においては,伸縮脚14(84)に,軸線方向に間隔を開けて配設された複数の第1のラック歯21(90)からなるラック17(85),すなわち,被告装置の図面における貫通溝(被告主張の係止孔)23同士の間の番号17の平面部,が「第1のラック歯」に該当する。 したがって,被告装置は,構成要件Bを充足する。 (被告の反論) (ア) 構成要件Bにおける「ラック歯」とは,「ラック」という語の通常の用語法からすれば,「平らな板またはまっすぐな棒などの直線状の部材に等間隔に設けられた同じ形の歯」を意味するものと解すべきであり,そうすると,「第1のラック歯」とは,「伸縮脚に等間隔に設けられた同形の歯」を意味するものと解すべきである。 (イ) 被告装置においては,伸縮脚14(84)に,横長の係止孔23が形成されているが,同形の歯ではない。したがって,被告装置は,伸縮脚に等間隔に設けられた同形の歯を有していないので,構成要件Bを充足しない。 イ 構成要件Cの充足性 (原告の主張) (ア) 構成要件Cのラック溝とは,貫通溝を間隔を開けて複数配設されることにより形成されるものであれば足りる。 (イ) 被告装置において,主脚11(83)には,ラック17(85)の第1のラック歯21(90)間に形成される複数のラック溝22(91)が存在するから,被告装置は,構成要件Cを充足する。 (被告の反論) 被告装置においては「第1のラック歯」が存在しないから,第1のラック歯間に形成されるラック溝も存在しない。したがって,被告装置は,構成要件Cを充足しない。 ウ 構成要件Dの充足性 (原告の主張) (ア) 構成要件Dの「第2のラック歯」は,複数であると記載されていない以上,1個のものを含むと解すべきである。 (イ) 被告装置において,被告が係合突起25(86)と主張する係止部材の突起は複数ではなく,1個であるが,構成要件Dの「第2のラック歯」に該当する。したがって,被告装置は,第2のラック歯に当たる係合突起25(86)が係合する方向に回転付勢される係止部材18(88)を具備しているから,構成要件Dを充足する。 (被告の反論) (ア) ラック歯とは,前記ア(被告の反論)記載のとおり,「平らな板またはまっすぐな棒などの直線状の部材に等間隔に設けられた同じ形の歯」を意味すること,特許公報の図1,3,5,7,10,13,15,19,22,24,26,28,32等においても,ラック歯が複数のもののみが示され,1個のものは念頭に置かれていないこと等に照らすならば,構成要件Dにおける「第2のラック歯」とは,主脚に等間隔に設けられた同形の歯をいい,必然的に歯は複数,すなわち2歯以上存在するものに限定される。 (イ) 被告装置において,係合突起25(86)は単数であるから,構成要件Dの第2のラック歯に該当しない。したがって,被告装置は,構成要件Dを充足しない。 エ 構成要件FないしHの充足性 (原告の主張) (ア) 本件発明1にいう「ラック溝」,「第2のラック歯」に関する主張は,前記イ,ウ(原告の主張)に記載のとおりである。 (イ) 被告装置は,ラック溝22(91)が貫通溝23から形成されているから構成要件Fを,ラック溝22(91)に前記第2のラック歯25(86)を嵌入係合しているから構成要件Gを,これによりラック溝22(91)に付着する付着物を打ち抜き可能な構成としていることから構成要件Hを,それぞれ充足する。 (被告の反論) 前記イ,ウ(被告の反論)に記載のとおり,被告装置は,構成要件FないしHの「ラック溝」及び「第2のラック歯」を備えないから,構成要件FないしHをいずれも充足しない。 (3) (予備的主張1)被告装置は,本件発明1の均等物といえるか。 (原告の主張) ア 仮に,構成要件D及びGにおける「第2のラック歯」とは,複数の歯を指すものと解されるとしても,被告装置の「第2のラック歯」(被告主張の係合突起)は,上記各構成要件における「第2のラック歯」と均等であるから,その技術的範囲に属する。 イ 均等の要件について (ア) 構成要件D及びGにおける「第2のラック歯」は複数であるのに対して,被告装置の「第2のラック歯」(被告主張の係合突起)は1個であり,その点が異なるが,異なる部分は,以下のとおり,本件発明1における本質的構成部分ではない。すなわち,本件特許の出願当初の明細書,図面(乙9),意見書(乙11),補正書(乙12),本件特許公報明細書(甲2)にも記載されている「ラック歯」の作用効果は,ラック歯の単数,複数によって左右されることはない。 (イ) 複数のラック歯を1個のラック歯に置換することは可能であり,また,被告装置の製造,販売開始の時点である平成11年10月時点において,容易であった。 (ウ) 被告装置は,本件発明1の出願前の公知技術に基づき,容易に想到できたものとはいえない。 (エ) 本件発明1の技術的範囲について,原告が,単数のラック歯からなる固定装置を意識的に除外したという事実はない。 ウ 上記によれば,被告装置の「第2のラック歯」(被告主張の係合突起)は,上記各構成要件における「第2のラック歯」と均等であるから,その技術的範囲に属する。 (被告の反論) ア 原告は,意見書(乙11)において,引用文献において開示されているピニオン(第2のラック歯に相当する。)は単数であるが,そのような技術には欠点があるので,ピニオンの歯数を増加する必要がある旨を強調している。すなわち,原告は,単数のピニオンの従来技術には欠陥があるので,これを克服するために複数にした点が従来技術と異なると説明し,同意見書を踏まえて特許査定を受けた。 したがって,原告は,第2のラック歯が単数の場合を意識的に除外しているということができ,また,第2のラック歯が複数である点は,本質的な特徴部分である。したがって,被告装置は,原告主張に係るイ(ア),(エ)の均等の要件を満たさない。 イ また,本件特許の出願当時,下記(4)記載のとおりの,公知技術(乙3ないし7)が多数存在しており,被告装置は,これらの公知技術により容易に推考することができた。したがって,被告装置は,原告主張に係るイ(ウ)の均等の要件を満たさない。 (4) 本件発明1の特許に,明白な無効理由があるか。 (被告の主張) 本件発明1の特許には,以下のとおり,明らかな無効理由が存在するから,本件請求は権利の濫用に当たるものとして許されない。 ア 進歩性の欠如 本件発明1は,以下のとおり,下記(ア)ないし(ウ)記載の各技術に基づいて,容易に発明をすることができた。 (ア) 実開平6-56495号公報(以下「乙3公報」という。) 乙3公報は,伸縮脚により高さの調節ができる脚立の考案に関するものであり,外筒5に対し内筒6が入れ子式に摺動自在に挿入される支脚4が形成され,内筒6には縦方向に間隔を開けて複数の係止孔7が形成され,外筒5に前記係止孔7に係合突起11が係合する方向にスプリング(発条12)によって回転付勢させる係止部材(ハンドル10)を具備する伸縮脚の固定装置である。係止孔7は貫通孔であるため,係止孔7に係合突起11が係合することによって,係止孔7に付着する付着物を打ち抜き可能な構成が開示されている。 (イ) 米国特許第1,733,338号公報(以下「乙4公報」という。),米国特許第5,526,898号公報(以下「乙5公報」という。) 乙4公報には,椅子1の主脚4に対し,伸縮脚21が入れ子式に摺動自在に挿入され,伸縮脚21に,軸線方向に間隔を開けて断面長方形の係止孔20が形成され,前記主脚4に前記伸縮脚21の係止孔20に断面長方形の一つの係合突起16が係合する方向にスプリング19によって回転付勢される係止部材14を具備する伸縮脚の固定装置が記載され,付着物を係止孔を通して打ち抜き可能な構成が開示されている。 また,乙5公報にも,同一構成の伸縮脚の固定装置が開示されている。 (ウ) 特公昭34-3186号公報(以下「乙6公報」という。),実開昭51-80316号公報(以下「乙7公報」という。) 乙6公報は,主脚(外側溝型枠)に対し,伸縮脚(椅子の溝型枠)が入れ子式に摺動自在に挿入される(逐次挿入する)伸縮椅子に係る発明であり,同公報には,「椅子枠に取付くる歯車が他の内方椅子枠に穿つ多数の孔に噛み込」んだ構成が開示されている。また,乙7公報は,脚長を調節できる脚場(伸縮脚)に係る考案であり,「付着物を貫通孔を通して打ち抜き可能な構成」が開示されている。 イ 補正による出願日の繰り下がりによる新規性の欠如 (ア) 本件特許における出願(平成9年4月5日)当初の明細書では,その請求項1,2において,第1のラック歯は,「前記ラック溝の底部に貫通孔が形成され」たものと記載され,上記請求項1及び2に係る願書に添付された明細書又は図面には,「貫通溝から形成されたラック溝」との構成は記載されていなかった。 ところが,平成9年10月27日に請求項3が追加された際に,本件発明1の構成要件Fの「貫通溝から形成されたラック溝」との構成が加えられた。したがって,この点については平成9年10月27日に出願日が繰り下がる。 (イ) そして,平成9年9月30日には,住友軽金属工業株式会社が,「ペガサス500L」及び「ペガサス500LL」との商品名で,本件発明1と同一の構成を有するアルミニウム合金製可搬式作業台を製造の上,社団法人仮設工業会の認定を受けている(乙13)。 したがって,遅くとも平成9年9月30日時点において,本件発明1は,既に公知となり,新規性を喪失している。 ウ 新規事項追加補正 原告は,本件特許について,請求項1ないし3について出願したところ,平成11年12月16日に拒絶理由通知を受け,平成12年3月6日に手続補正を行った。 原告は,その補正の際,第2のラック歯について,従前は,「複数の」と明記していたにもかかわらず,この文言を削除し,単数の歯の場合も含むかのごとく記載した。しかし,このような補正は,新規事項の追加に当たるので,本件特許は無効理由を有することになる。 (原告の反論) ア 進歩性欠如について 本件発明1は,シューケースの後部傾斜壁による「くさび効果」や係止部材が揺動付勢される「回転食い込み」によって,形成されたラック歯がラック溝に嵌入する噛合(係合)が,製品の自重や体重によって強くなり,大量の雪,ゴミや塗料等の付着物をラック溝から完全に除去するという課題を解決するものであるが,乙3ないし7に記載された技術は,いずれも,このような作用効果を有しない点で異なる。本件発明1は,これらの技術により,容易に発明をすることできたということはできない。 イ 新規性欠如について (ア) 本件出願当初の明細書添付の図面の図2ないし図8等の符号23は,貫通孔であり,符号22のラック溝に穿れた貫通孔を明確に示している。 (イ) 乙13の発行日は,その表紙に記載のとおり,平成10年3月31日以降である。 ウ 新規事項追加補正について 出願時の明細書において,ラック歯が複数必要である場合には,「複数」や「多数」と記載されているのに対して,第2のラック歯については,そのような記載がされていない。したがって,出願時の明細書において,第2のラック歯について,複数ばかりでなく単一のものが開示されていたとみるべきである。そうすると,出願時の明細書において,「複数の」を一部除去することは,新規事項を新たに加えたことにならない。 (5) (予備的主張2)被告装置は本件発明2の構成要件を文言上充足するか。 (原告の主張) ア 仮に,本件発明1に明白な無効理由が存在するとした場合に,原告は,予備的に以下の主張をする。 被告装置は,本件発明2の構成要件のすべてを充足するから,技術的範囲に属する。すなわち, イ 本件発明2の構成要件B’,C’,F’,G’,H’は本件発明1と同一又は実質的に同一であるから,上記(2)の原告の主張のとおり,被告装置はこれら構成要件を充足する。 ウ 被告は,被告装置の構成について,係止部材18が「回転付勢される」としているが,これを前提としても,構成要件D’は,この点を要件としていないので,被告装置の構成は,構成要件D’を充足する。 (被告の反論) ア 構成要件F’には,「ラック溝の底部に貫通孔が形成され」と記載されている。これに対して,被告装置には,ラック溝の底部に貫通孔が形成されていないから,被告装置は,構成要件F’を充足しない。なお,原告自身も,当初,被告装置の構成を,「ラック溝が貫通孔から形成され」としていたとおり,構成要件F’を充足しないことを自認していた。 イ 被告装置は,上記(2)アないしエ記載のとおり,第1のラック歯,第2のラック歯,ラック溝を備えないから,本件発明2の技術的範囲にも属しない。なお,本件発明2も,本件発明1と同様,第2のラック歯は複数であることを前提としている。 (6) (予備的主張3)被告装置は,本件発明2の均等物といえるか。 (原告の主張) 仮に,上記(3)と同様に,本件発明2において,構成要件D’及びG’における「第2のラック歯」とは,複数の歯を指すものと解されるとしても,被告装置の「第2のラック歯」(被告主張の係合突起)は,上記各構成要件における「第2のラック歯」と均等であるから,その技術的範囲に属する。 (被告の反論) 上記(3)(被告の反論)アと同様の理由により,原告は,第2のラック歯が単数のものにつき,本件発明2から意識的に除外したということができる。また,上記(3)(被告の反論)イと同様の理由により,被告装置は,公知技術により容易に推考することができたから,均等は成立しない。 (7) 損害額 (原告の主張) ア 被告は,平成11年10月1日から同14年9月30日まで,被告装置の構造を具備した作業用足場を合計54,000基(月産1,500台)製造・販売し,合計16億2000万円(平均単価3万円)の売り上げを得たところ,被告の利益率は30%を下らないから,被告の利益額は金4億8600万円を下らない。 イ 本件発明の作業用足場に対する寄与率は,30%を下らない。 ウ 原告は,上記被告利益1億4580万円に相当する得べかりし利益相当の損害を蒙ったので,これを請求する。 (被告の反論) 争う。 |
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争点に対する判断
1 主位的主張(本件発明1についての文言侵害の有無)について (1) 被告装置の構成要件Dの充足性について ア 原告は,本件発明1の構成要件Dの「第2のラック歯」は,単数のものも含むと主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。すなわち, (ア) 構成要件Dの「ラック歯」の意味について,本件明細書には格別の定義はされていない。「ラック」に関しては,本件明細書の発明の詳細な説明欄に,「ラック128は,左伸縮支柱125の内壁127の表面に多数の横長突条からなる第1のラック歯132を軸線方向に平行間隔を開けて設けることによって構成されており」と記載され(本件明細書2頁右欄6ないし9行目),図31,32にもラック128として,同形の等間隔に並んだ歯(ラック歯132)が示されている。また,「ラック」の語の一般的な意味としては,「平らな板又はまっすぐな棒の一面に等間隔に同形の歯を刻んだもの」(JIS工業用語大辞典第3版,乙1),「直線状の部材に同じ形の歯が等しい間隔で存在するもの」(機械工学事典,乙2)などと理解されている。 そうすると,構成要件Dの「ラック歯」は,ラックを構成する等間隔に並んだ同形の複数の歯を意味するものと解するのが合理的であり,これと別異に解すべき根拠は見いだせない。 (イ) 本件発明1の特許請求の範囲(構成要件C,D)には,「前記主脚に,前記ラックの第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に,第2のラック歯が係合する方向に回転付勢される係止部材」と記載されており,複数のラック溝に第2のラック歯が係合することからすれば,第2のラック歯は,当然に複数のものを想定していると理解するのが自然である。 (ウ) 原告は,平成11年12月16日付け拒絶理由通知書に対して提出した意見書(乙11)において,「引用文献2には,・・・孔に嵌入しているのはピニオンの一つの歯のみです。ピニオン及びピニオンが嵌入する孔にこれらの全部の支持荷重が掛かりますので,ラチェット爪やピニオンの歯が折れた場合には,脚の安定支持状態が損なわれるという恐れがあります。」(4頁6行ないし15行)として,ピニオン(歯車)が1つである従来技術と,本件特許との差異を強調していることからも,第2のラック歯は複数あるもののみを当然の前提としているとするのが合理的である。 (エ) 本件明細書の記載及び図面には,第2のラック歯が1つのものについての記載は一切ない。 イ 以上によれば,本件発明1の構成要件Dにおける「第2のラック歯」は,複数のものをいい,1つのものはこれに含まれないものと認めるのが相当である。 したがって,被告装置の係合突起25(86)は,「第2のラック歯」に当たらないから,構成要件Dを充足しない。 ウ 原告の主張について 原告は,@本件発明1は,「回転食い込み」の理論,すなわち,第2のラック歯をラック溝に嵌入させた状態で,伸縮脚を主脚の方向に縮めると,係止部材が回転力を受けて,ラック歯をラック溝方向に強く嵌入させ,ラック歯の基台部分をラック溝の間に強く押しつけるという理論を具現化させたものであり,Aそうすると,そのような効果を奏するものであれば,広く「第2のラック歯」と解すべきであり,B被告装置における,第7図(b),(c)の24の部分(原告の主張では「当接面」とする。),あるいは係合突起25(86)の部分も,構成要件Dの「第2のラック歯」に該当すると解すべきであると主張する。 しかし,原告の上記の論拠は,構成要件Dの「第2のラック歯」の意義について,上記アのとおり解すべきことを左右するに足りるものとはいえない。そうすると,@構成要件Dの「第2のラック歯」は,ラックを構成する等間隔に並んだ同形の複数の歯を意味するものと解すべきであるのに対して,第7図(b),(c)の24の部分は第2のラック歯(係合突起)25(86)と同形でないこと,また,A構成要件Dの「第2のラック歯」は,第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に嵌入係合するものであるのに対して, 被告装置の24の部分は,ラック溝に嵌入係合していないことから,被告装置は,構成要件Dを充足しないことになる。したがって,原告の主張は理由がない。 (2) 被告装置の構成要件Gの充足性について 上記(1)と同様の理由により,被告装置は,本件発明にいう「第2のラック歯」を備えないから,構成要件Gも充足しない。 2 予備的主張1(本件発明1についての均等侵害の有無)について 原告は,仮に本件発明1の「第2のラック歯」が複数の歯をいうものと解されるとしても,「第2のラック歯」が1個である被告装置は,本件発明1の均等物であると主張する。 しかし,前記1(1)ア(ウ)のとおり,原告は,上記意見書(乙11)において,「第2のラック歯」が1つである従来技術における問題点を指摘し,これと本件発明との差異を強調していることからすると,出願人たる原告は,本件発明1の「第2のラック歯」については,1つのものを意識的に除外しているものと認められる。 そうすると,「第2のラック歯」が1つである被告装置は,本件発明1の均等物とはいえず,この点に関する原告の主張は採用できない。 3 予備的主張2(本件発明2についての文言侵害の有無)について (1) 原告は,本件特許1に明白な無効理由が存在するとされた場合には,予備的に,本件発明2に基づいて請求をする。上記のとおり,当裁判所は,本件特許1に明白な無効理由が存在すると判示したものではないが,念のため,原告の予備的主張の当否について判断する。 (2) 本件発明2の特許請求の範囲には,「前記主脚に,前記ラックの第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に弾性手段によって弾性的に嵌入係合可能で第2のラック歯を有するラックシューが取付けられ」(構成要件C’及びD’)と記載され,同記載によれば,複数のラック溝に第2のラック歯が係合するのであるから,第2のラック歯は,当然に複数のものを想定していると理解するのが自然であること,及び前記1(1)ア(ア),(ウ),(エ)の各理由を総合すれば,構成要件D’及びG’における「第2のラック歯」は,複数の歯を意味し,1つのものは含まれないと解される。したがって,被告装置は,本件発明2の構成要件D’,G’を充足しない。 4 予備的主張3(本件発明2についての均等侵害の有無)について 本件発明2についても,前記2で認定判断したのと同様に「第2のラック歯」が1つであるものは意識的に除外されているものと解されるから,被告装置は,本件発明2と均等であるとはいえない。 |
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結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 今井弘晃 |