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関連審決 無効2001-35392
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ14710特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的特徴 /  クレーム /  参酌 /  均等 /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  非公知 /  意識的除外(意識的に除外) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 9549号 特許権侵害差止等請求事件
原告 カネボウ株式会社
訴訟代理人弁護士 山口孝司
同 松岡伸晃
同 平泉真理
同 矢倉千榮
補佐人弁理士 村上智司
被告 池上通信機株式会社
訴訟代理人弁護士 福岡清
同 大橋正典
同 松田政行
同 齋藤浩貴
同 上村哲史
同 松葉栄治
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/03/04
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙物件目録第1及び第2記載の物件を製造し、販売し又はその販売の申出をしてはならない。
2 被告は、その占有に係る別紙物件目録第1及び第2記載の物件並びにこれらの半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金2億1000万円及びこれに対する平成14年10月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、「小物物品検査装置」に関する特許発明の特許権者である原告が、
被告の製造販売する錠剤検査装置は同発明の技術的範囲に属すると主張して、特許権に基づき製造販売行為の差止め等と損害賠償を請求した事案である。
2 基礎となる事実(争いがある旨記載した部分及び認定に供される証拠を記載した部分以外は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は、各種繊維工業品、各種化学工業品、洗剤、農薬、各種工業用薬品、動物用医薬品等の製品並びにその原材料及び副製品の製造、加工及び売買、各種機械器具、装置の設計、製作、修理及び売買等を業とする株式会社である。
被告は、有線、無線等の通信機器及び放送装置の製造、理化学機器及び医学用電子応用機器の製造等を業とする株式会社である。
(2) 特許権 原告は、次の特許権を有する(その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」といい、本件明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明を「本件特許発明」といい、その特許公報である特公平5-65405号公報(甲第2号証)を「本件公報」という。)。
特 許 番 号 第1856791号 発明の名称 小物物品検査装置 出願年月日 昭和60年3月14日(特願昭60-50970号) 出願公開年月日 昭和61年9月19日(特開昭61-211209号) 出願公告年月日 平成5年9月17日(特公平5-65405号) 登録年月日 平成6年7月7日 特許請求の範囲第1項 (イ) 上下面がそれぞれ凸面をなす小物物品を検査する装置であって、
(ロ) 吸気口となるスリットとこのスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールと排気口とを有する負圧室と、
(ハ) 前記各ガイドレールに個別に案内されて走行する2本の搬送用索条と、
(ニ) この2本の搬送用索条により前記スリットの前記縁部に形成した吸着搬送経路と、
(ホ) 前記排気口に接続され、前記負圧室から空気を排気する吸引手段とを有する第1および第2の2つの搬送装置を備え、
(ヘ) 前記第1の搬送装置の吸着搬送経路下流端と前記第2の搬送装置の吸着搬送経路上流端とを対向させて、前記小物物品が第1の搬送装置から第2の搬送装置に受け渡されるとき、前記2本の搬送用索条にまたがりかつ、前記凸面の一部が前記2本の搬送用索条の間に入り込んだ状態で吸着保持される前記小物物品の前記凸面と反対の面が新たに吸着保持されるように配設するとともに、
(ト) 前記第1および第2の搬送装置の吸着搬送経路のそれぞれを前記小物物品の外観または欠陥の検査部に臨ませた小物物品検査装置。
(3) 構成要件 本件特許発明構成要件に分説すると、次のとおりである。
A 上下面がそれぞれ凸面をなす小物物品を検査する装置であって、
B 吸気口となるスリットとこのスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールと排気口とを有する負圧室と、
C 前記各ガイドレールに個別に案内されて走行する2本の搬送用索条と、
D この2本の搬送用索条により前記スリットの前記縁部に形成した吸着搬送経路と、
E 前記排気口に接続され、前記負圧室から空気を排気する吸引手段とを有する F 第1および第2の2つの搬送装置を備え、
G 前記第1の搬送装置の吸着搬送経路下流端と前記第2の搬送装置の吸着搬送経路上流端とを対向させて、
H 前記小物物品が第1の搬送装置から第2の搬送装置に受け渡されるとき、前記2本の搬送用索条にまたがりかつ、前記凸面の一部が前記2本の搬送用索条の間に入り込んだ状態で吸着保持される前記小物物品の前記凸面と反対の面が新たに吸着保持されるように配設するとともに、
I 前記第1および第2の搬送装置の吸着搬送経路のそれぞれを前記小物物品の外観または欠陥の検査部に臨ませた J 小物物品検査装置。
(4) 被告の行為 ア 被告は、遅くとも平成6年から錠剤検査装置TIE-1010、TIE-2080を、平成9年からTIE-1010Kを、平成10年からTIE-5010をそれぞれ製造販売している(ただし、被告によるTIE-1010、TIE-2080の製造販売の開始時期について、原告は、平成4年からと主張しており、争いがある。)。
また、被告は、平成14年7月から錠剤検査装置TIE-7000を製造販売している。
なお、原告は、被告が平成11年からTIE-1010の廉価版であるTIE-10LBを製造販売している旨主張するが、被告は、これを否認し、TIE-10LBについては宣伝をしたものの実際に受注し販売を行ったことはない旨主張している。
イ TIE-1010、TIE-2080、TIE-1010K、TIE-5010の構成は、別紙物件目録第1記載のとおりであり、TIE-7000の構成は、同目録第2記載のとおりである(以下、同目録第1記載の物件を「イ号物件」、同目録第2記載の物件を「ロ号物件」といい、イ号物件とロ号物件を包括して「被告製品」という。)。なお、原告は、TIE-10LBの構成について同目録第1記載のとおりであると主張している。
(5) 被告製品の構成 被告製品の構成を分説すると、次のとおりである(構成の分説は、イ号物件とロ号物件に共通である。)。
a 錠剤nを検査する装置であって、
b 吸気口となる直線方向等間隔ごとに多数の吸引孔30を開口した吸引孔列と、この吸引孔列を中心としてその両側にそれぞれ設けた案内路31と、負圧源33によって負圧を導くダクト26を有する吸引室21と、
c 前記各案内路31に個別に案内されて走行する2本のタイミングベルト27と、
d 前記吸引孔列を挟んで設けられる2本のタイミングベルト27、27によって形成される搬送路と、
e 前記ダクト26に接続され、前記吸引室21から空気を排気する負圧源33とを有する f 第1及び第2の2つの搬送装置11、20を備え、(ただし、この構成fについては、後記3(1)ア記載のとおり争いがある。) g 前記第1の搬送装置11にある搬送路の下流端と、前記第2の搬送装置20にある搬送路の上流端とを対向させて、
h 前記錠剤nが、第1の搬送装置11から第2の搬送装置20に乗り移るとき、前記一対のタイミングベルト27にまたがり、かつ錠剤nの吸着面の一部が前記タイミングベルト27に入り込んだ状態で吸着保持され、また、錠剤nが第1の搬送装置11と第2の搬送装置20とで表裏反対の面が吸着保持されるように配設するとともに、(ただし、この構成hについては、後記3(1)イ記載のとおり争いがある。) i 前記第1及び第2の搬送装置11、20の搬送路のそれぞれを、錠剤nの外観又は欠陥の撮像装置12、35に臨ませた j 錠剤検査装置 3 争点 (1) 被告製品の構成 ア 構成fの具備 イ 構成hの具備 (2) 文言侵害の成否 ア 「吸引孔列」(構成b)の「スリット」(構成要件B)への該当性 イ 「案内路31」(構成b)の「ガイドレール」(構成要件B)への該当性 ウ 「タイミングベルト27」(構成c)の「搬送用索条」(構成要件C)への該当性 エ 構成a、dないしjによる構成要件A、DないしJの各充足性 (3) 作用効果(被告製品における本件特許発明の作用効果の存否) (4) 均等(「スリット」(構成要件B)を「吸引孔列」(構成b)に置換したことによる均等の成否) (5) 明らかな無効理由の存否 ア 進歩性欠如 イ 要旨変更による新規性欠如 (6) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告製品の構成) (1) 構成fの具備(争点(1)ア) ア 原告の主張 TIE-1010、TIE-2080、TIE-1010K、TIE-5010、TIE-10LB、TIE-7000は構成fを備える。
TIE-1010Kは、TIE-1010に新たな検査機能(錠剤に印字された文字を識別する機能)を付加した検査装置であり、第1及び第2の搬送装置に加えて、それ以外の搬送装置が付加されたにすぎないから、第1及び第2の搬送装置を備えている。
イ 被告の主張 原告の主張のうち、TIE-1010、TIE-5010、TIE-7000が構成fを備えることは認め、その余は否認する。
錠剤検査装置TIE-1010Kは搬送装置を4つ備えるから、構成fの「第1及び第2の2つの搬送装置」というのは、不正確な表現である。
(2) 構成hの具備(争点(1)イ) ア 原告の主張 被告製品は、「錠剤n」を2本の「タイミングベルト27」にまたがらせる形で吸引しつつ、別紙物件目録第5図、第7図に図示されるような状態で搬送しているから、構成hを備える。
イ 被告の主張 原告の主張は否認する。
2 争点(2)(文言侵害の成否) (1) 「吸引孔列」(構成b)の「スリット」(構成要件B)への該当性(争点(2)ア) ア 原告の主張 「スリット」という語の意義は、一般に「溝穴、溝、細長い穴」などであり、その形状は様々で、細長い長方形のスリットといえども、開口部が間断なく続いた無限長のもののみならず、橋渡し部を有するものも含まれる。
被告製品の「吸引孔列」(構成b)は、直径3oの円孔を1o間隔で開口して直線方向等間隔に列設したものであり、小さい吸引孔が直線方向に一連となって密に列設されており、空気を制限して通過させる装置で、細い隙間である。また、機能的にみても、「吸引孔列」は、列設する吸引孔同士の間の橋渡し部分よりも吸引孔の方が大きく(別紙物件目録第6図参照)、吸引孔の部分のみならず橋渡し部分の上部も含めて、「吸引孔列」が一体となって「錠剤n」に対して吸引負圧を生じさせ、「錠剤n」を吸着搬送する。
したがって、「吸引孔列」(構成b)は、「スリット」(構成要件B)に該当する。
イ 被告の主張 「スリット」という語の意義は、一般に「溝穴、溝、細長い穴」であり、細長い隙間、切り込みを意味する。機械分野において、「スリット」は、「孔列」とは明確に区別されている。
したがって、被告製品の「吸引孔列」(構成b)は、「スリット」(構成要件B)に該当しない。
(2) 「案内路31」(構成b)の「ガイドレール」(構成要件B)への該当性(争点(2)イ) ア 原告の主張 「スリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレール」(構成要件B)にいう「縁部」とは、縁及び縁の近傍を意味する。
被告製品の「タイミングベルト27」は、「案内部材31a」の側面によって左右にぶれないように案内されているとともに、「タイミングベルト27」の歯の底部と接する「摺動外面25b」によって上下にぶれないように案内されており、被告製品の各吸引孔列のそれぞれ両側に固設された角柱状の「案内部材31a」及び「摺動外面25b」からなる「案内路31」(構成b)は、吸引孔列の縁の近傍に存在する。また、機能的にみても、「案内路31」は、吸引孔からの負圧を「タイミングベルト27」上の錠剤に及ぼすことができる位置に存在している。
したがって、「案内路31」(構成b)は「ガイドレール」(構成要件B)に該当する。
イ 被告の主張 「スリットの両側の各縁部」(構成要件B)とは、スリットを構成しているスリット板の、当該スリットと接する部分のことをいう。
被告製品の「案内路31」(構成b)が「ガイドレール」(構成要件B)に該当するという原告の主張は、「ガイドレール」という文言の意味を逸脱してしまうし、「タイミングベルト27」間の幅が吸引孔の直径よりも狭い場合は、
吸引孔列の間の橋渡しの部分のうち「タイミングベルト27」の底部が接する部分も「ガイドレール」に当たることになり、「タイミングベルト27」間の幅が吸引孔の直径と同じ場合とその直径より狭い場合とで、吸引孔列との位置関係が異なる2種類のガイドレールが存在することになってしまう。
したがって、「案内路31」(構成b)は「ガイドレール」(構成要件B)に該当しない。
(3) 「タイミングベルト27」(構成c)の「搬送用索条」(構成要件C)への該当性(争点(2)ウ) ア 原告の主張 「搬送用索条」(構成要件C)は、形状が限定されず、略凹型のくぼみが設けられたベルトも含まれる。
被告製品の2本の「タイミングベルト27」(構成c)は、吸引孔列の両側の各縁部にある「案内部材31a」に個別に案内されて走行するものであり、
両側が一対となって錠剤の搬送の用に供されるものであるから、2本の「搬送用索条」(構成要件C)に該当する。
「タイミングベルト27」は、「案内部材31a」との間に空隙を有するとしても、本件特許発明の作用効果を奏するから、「搬送用索条」に該当する。
イ 被告の主張 本件明細書の作用効果に関する記載、本件特許に対する無効審判(無効2001-35392号)の審判事件答弁書(乙第2号証)における原告の主張からすると、本件特許発明に特有の効果は、搬送用索条とガイドレールの間の空隙をなくすことにより、小物物品の左右からの空気流を防ぎ、小物物品を効率よく吸引できるようにするという効果、及びその効果によって更に生じるセンタリングの効果にある。そうすると、ガイドレールとの間に空隙が生じるような形状のものは、
本件特許発明にいう「搬送用索条」(構成要件C)に該当しない。
被告製品の「タイミングベルト27」は、その凹部と「案内部材31a」の間に略凸形をした空間(幅約2.5o、高さ約0.2oの空間と、上辺約0.4o、下辺約0.7o、高さ約0.35oの台形の空間)が設けられており、
そこから横方向の空気流が生ずる構造になっており、ガイドレールとの間に空隙が生じるような形状のものであるから、本件特許発明にいう「搬送用索条」に該当しない。
被告製品の「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」の間に空間が設けられたのは、吸引圧が過大になって「タイミングベルト27」の振動、摩耗が生ずるのを防ぎ、また、錠剤の破片、粉末が「タイミングベルト27」とガイド板上面の間に入り込むのを防ぐためである。
(4) 構成a、dないしjによる構成要件A、DないしJの各充足性(争点(2)エ) ア 原告の主張 構成a、dないしjは、構成要件A、DないしJをそれぞれ充足する。
イ 被告の主張 原告の主張は争う。
3 争点(3)(作用効果-被告製品における本件特許発明の作用効果の存否) (1) 原告の主張 本件特許発明の作用効果は、吸気口となるスリットの両側の各縁部にそれぞれガイドレールを設け、ガイドレールに搬送用索条を案内して吸着搬送経路を形成し、相応の大きな吸引力を得て、小物物品を効率よく吸引し、搬送用索条上に安定して保持するとともに、2つの搬送装置間の小物物品の受渡しが円滑で安定かつ確実にでき、小物物品の検査が安定して正確にできるようにすることにある。
被告製品の「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」の間の空間のうち台形の空間は、「心線支持凹み」と呼ばれ、製造工程上当然に生じるものであり、また、その余の空間は設計上当然に設けられるクリアランスにすぎず、
何らかの効果を意図して積極的に形成されたものではないから、それらの空間があっても、作用効果の不存在の根拠とはならない。「タイミングベルト27」とガイド板上面との間に錠剤の破片や粉末が入り込むのは、略凹型のくぼみが設けられたタイミングベルトを採用したことによって生じた問題であり、それを防いだとしても、本件特許発明に比して格別の効果を生じるものではない。
被告製品は、「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」の間の空間が存在しない場合と同様の十分な負圧を有し、本件特許発明と同様の高い吸引効率を実現し、錠剤を搬送用索条上に安定して保持するとともに、2つの搬送装置間の錠剤の受渡しが円滑で安定かつ確実にでき、両搬送装置において錠剤の異なる面を検査することができるから、本件特許発明の作用効果を奏する。
本件明細書にいう「センタリング」とは、小物物品の中心(重心)が2本の搬送用索条の間の中心位置に近づくことをいうところ、被告製品において、錠剤は、吸着されると、2本の「タイミングベルト27」の中心位置に近づくから、被告製品は、「センタリング」の効果も奏する。
したがって、被告製品は、本件特許発明の作用効果を奏する。
(2) 被告の主張 本件特許発明に特有の作用効果は、搬送用索条とガイドレールの間の空隙をなくすことにより、小物物品の左右からの空気流を防ぎ、小物物品を効率よく吸引できるようにするという効果、及びその効果によって更に生じるセンタリングの効果の2つのみである。被告製品の「タイミングベルト27」は、ガイドレールとの間に空隙が生じるような形状のものであるから、搬送用索条とガイドレールの間の空隙をなくすことにより、小物物品の左右からの空気流を防ぎ、小物物品を効率よく吸引できるようにするという効果を奏しない。
また、本件明細書にいう「センタリング」とは、既に2本の搬送用索条にまたがりかつ、その凸面の一部が2本の搬送用索条の間に入り込んだ状態で保持されている小物物品の中心(重心)が、吸気作用によりその位置を修正されて、2本の搬送用索条の間の中央に位置させられることをいうところ、被告製品は、錠剤を中央の位置からずらせた状態で吸着させるとそのままの状態で吸着されるから、
「センタリング」を生じることはない。
したがって、被告製品は、本件特許発明の作用効果を奏しない。
4 争点(4)(均等-「スリット」(構成要件B)を「吸引孔列」(構成b)に置換したことによる均等の成否) (1) 原告の主張 「吸引孔列」(構成b)が「スリット」(構成要件B)に該当せず、文言侵害が成立しないとしても、次のとおり、最高裁判所第三小法廷平成6年(オ)第1083号同10年2月24日判決・民集52巻1号113頁の判示する均等成立の要件に照らして、「スリット」(構成要件B)を「吸引孔列」(構成b)に置換することにつき均等が成立し、被告製品は本件特許発明均等なものとしてその技術的範囲に属する。
ア 第1要件(非本質的部分) 本件特許発明の本質的部分、すなわち本件特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分は、構成要件Bのうち吸気口の両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールを有する点、及び構成要件C、G、Hにある。吸気口は、負圧の効果を生じさせる程度に連続的に貫通された形状であればよく、その具体的な形状が「スリット」であることは、本件特許発明の本質的部分ではない。
したがって、均等の第1要件を充足する。
イ 第2要件(置換可能性) 被告製品は、小物物品に対する高い吸引効率を保持しており、小物物品を第1の搬送装置の吸着搬送経路下流端から第2の搬送装置の吸着搬送経路上流端へと安定的に受け渡すことができ、両搬送装置で小物物品の上下各面を検査することができ、検査の対象となる小物物品は磁性体に限定されないから、本件特許発明同一の作用効果を奏する。
したがって、被告製品は、均等の第2要件を充足する。
ウ 第3要件(置換容易性) 「スリット」を被告製品のように「直線方向等間隔ごとに多数の吸引孔30を開口した吸引孔列」に置換することは、被告製品の製造開始時において、当業者が容易に想到することができた。
したがって、被告製品は、均等の第3要件を充足する。
エ 第4要件(非公知技術) 被告製品の構成b、c、g、hは、本件特許発明の本質的部分をなす構成要件B、C、G、Hと完全に一致しており、これらの構成要件を含む本件特許発明新規性進歩性を有するものとして特許されているから、構成b、c、g、hを備える被告製品もまた新規性進歩性を有する。
したがって、被告製品は、均等の第4要件を充足する。
オ 第5要件(意識的除外) 被告製品が本件特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情は存在しない。
したがって、被告製品は、均等の第5要件を充足する。
(2) 被告の主張 ア 第1要件(非本質的部分) 本件特許発明に特有の作用効果からすると、本件特許発明の本質的部分は、「スリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレール」(構成要件Bの)という要件及び「各ガイドレールに個別に案内されて走行する2本の搬送用索条」(構成要件C)という要件である。
「スリットの縁部」とは、「スリット板の縁」という意味にしか解釈することができず、これをスリットの外側の近傍とまで拡張して解釈することができないこと、被告製品の吸引孔列は、縁部の存在及びその範囲が明確とならない構成であることから、被告製品は、上記の本件特許発明の本質的部分の要件を充たさず、本質的部分において本件特許発明と構成を異にする。
したがって、被告製品は、均等の第1要件を充足しない。
イ 第2要件(置換可能性) 前記3(2)記載のとおり、被告製品は、本件特許発明に特有の作用効果を奏しないから、被告製品は、均等の第2要件を充足しない。
ウ 第3要件(置換容易性) 被告製品のうち、「タイミングベルト27」間の幅が吸引孔の直径よりも狭いものについては、このような構成を採ることは、被告製品の製造開始時に容易に想到することができなかったから、均等の第3要件を充足しない。
エ 第4要件(非公知技術) 本件特許発明の出願当時において、被告製品は、特開昭55-22370号公報(乙第1号証の3。以下「乙1-3公報」という。)と特開昭58-22875号公報(乙第32号証)との組合せ、乙1-3公報と米国特許第3197201号明細書(乙第6号証。以下「乙6米国明細書」という。)の組合せ、乙1-3公報と実願昭55-40126号(実開昭56-144011号)のマイクロフィルム(乙第1号証の4)の組合せから容易に推考することができた。
したがって、被告製品は、均等の第4要件を充足しない。
5 争点(5)(明らかな無効理由の存否) (1) 進歩性欠如(争点(5)ア) ア 被告の主張 (ア) 乙1-3公報には、構成要件A、F、G、I、Jと同一の構成が記載されている。2つのコンベアを対向させてその間で受渡しを行う技術は、米国特許第3915085号明細書(乙第27号証)、特公昭52-39541号公報(乙第28号証)、実公昭34-6030号公報(乙第29号証)、実願昭57-26054号(実開昭58-131219号)のマイクロフィルム(乙第30号証)などに開示されており、本件特許発明の出願時においても周知慣用の技術であった。また、乙6米国明細書に記載された発明は、すべてがローラーやカード・ガイドを必須の要件とするものではなく、具体的構成に応じて吸引力を適宜調整することは、当業者の技術常識である。
したがって、本件特許発明は、乙1-3公報に記載された発明と乙6米国明細書に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができた。
(イ) 特開昭50-111299号公報(乙第45号証。以下「乙45公報」という。)は、名称を「煙草集積装置」とする発明に係るものであり、そこには構成要件B、C、Dと同一の構成が記載されている。
したがって、本件特許発明は、乙1-3公報に記載された発明と乙45公報に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができた。
乙第45公報は、第6回口頭弁論期日に提出された。我が国に限らず、特許分類は、クレームを基に行われているため、本件特許発明構成要件B、
C、Dのように技術的特徴のない一般的な搬送方法(したがって、わざわざクレームもされない)については、特許分類によって検索することができず、構成要件B、C、Dが用いられていそうな技術分野を想定して、その中から試行錯誤によって検索する以外に方法がない。乙45公報は、原告第七準備書面の主張に反論するために「紙巻たばこの製造機械」の分類の一部を調べた際に発見されたものである。
(ウ) 本件特許発明は、実願昭53-151014号(実開昭55-67994号)のマイクロフィルム(乙第7号証の2。以下「乙7マイクロフィルム」という。)や米国特許第2835003号明細書(乙第8号証。以下「乙8米国明細書」という。)に記載された発明から容易に想到することができた。
(エ) したがって、本件特許には、進歩性欠如の無効理由が存在することが明らかである。
イ 原告の主張 (ア) 乙1-3公報記載の発明は、構成要件B、C、D、Hを備えない点で、本件特許発明と異なる。乙1-3公報記載の発明は、本件明細書記載の第3の従来例と比べると、外側ガイドの構成が異なるだけでその余は同じであるから、第3の従来例の問題は乙1-3公報記載の発明にも存在する。
乙6米国明細書記載の発明は、吸引力が弱い上、カード・ガイド又はローラーを必須の構成要素とするから、乙1-3公報記載の発明に乙6米国明細書記載の発明を組み合わせる動機付けを欠き、また、これらを組み合わせたとしても、被搬送物の受渡しを行うことができないから、本件特許発明を想到することはできない。
(イ) 乙45公報は第6回口頭弁論期日に提出されたから、時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。
(ウ) 乙7マイクロフィルム記載の発明は、缶体通路室を必須の構成要素とするので2つの装置間で受渡しを行うことができず、負圧による吸着力が弱いので「吸着搬送路」を備えず、「ガイドレール」も備えないから、乙7マイクロフィルム記載の発明に基づいて本件特許発明を想到することはできない。
(エ) 乙8米国明細書は、負圧による吸引力を利用するものではなく、スリットからのガスの噴出を利用して被搬送物の安定を図るものであり、本件特許発明とは技術思想を異にするから、乙8米国明細書記載の発明から本件特許発明を想到することはできない。
(オ) 乙7マイクロフィルム記載の発明に乙6米国明細書記載の発明及び乙1-3公報記載の発明を組み合わせても、本件特許発明を想到することはできない。
乙1-3公報記載の発明に乙7マイクロフィルム記載の発明又は乙8米国明細書記載の発明を組み合わせても、本件特許発明を想到することはできない。
(2) 要旨変更による新規性欠如(争点(5)イ) ア 被告の主張 (ア) 本件特許出願過程において、平成5年3月29日付け補正により本件明細書の特許請求の範囲構成要件Bが付け加えられたが、これは、出願当初の明細書に記載されていない事項にまで特許請求の範囲を拡大するものであって、要旨変更に該当する。
(イ) 上記平成5年3月29日付け補正により本件明細書のセンタリングに係る作用効果に関する記載が変更、追加されている(本件公報14欄6行ないし16行、17行ないし32行)が、これは、出願当初の明細書から自明でない事項を付加し、出願当初の明細書に記載された発明の構成に関する技術的事項を実質的に変更するものであり、要旨変更に該当する。
(ウ) 前記(ア)、(イ)記載の補正は、要旨変更に該当し、本件特許発明の出願は、その補正の手続補正書が提出された平成5年3月29日にしたものとみなされる(平成5年法律第26号による改正前の特許法40条)。そして、本件特許発明は、同日前の昭和61年9月19日に発行された本件特許の公開公報(特開昭61-211209号)に記載された発明と同一である。
したがって、本件特許には、新規性欠如の無効理由が存在することが明らかである。
イ 原告の主張 (ア) 構成要件Bの要件は、出願当初の明細書の実施例及び図面の第1図に記載されているから、平成5年3月29日付け補正によりこの要件が記載されたことは、要旨変更に該当しない。
(イ) 平成5年3月29日付け補正により変更、追加された本件明細書のセンタリングに係る作用効果に関する記載(本件公報14欄6行ないし16行、17行ないし32行)は、発明の構成から自明の事項であるから、この変更、追加は、要旨変更に当たらない。
6 争点(6)(損害額) (1) 原告の主張 被告は、平成11年9月24日から平成14年9月23日までの間にイ号物件を少なくとも21台販売し、1台の売上げは4000万円を下らないから、この期間におけるイ号物件の売上げは8億4000万円を下らない(4000万円×21台=8億4000万円)。
イ号物件の限界利益の利益率は、売上げの25%を下らない。
したがって、平成11年9月24日から平成14年9月23日までの間に被告がイ号物件の販売により得た利益は、2億1000万円を下らない(8億4000万円×0.25=2億1000万円)。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1(1) 争点(2)(文言侵害の成否)ウ(「タイミングベルト27」(構成c)の「搬送用索条」(構成要件C)への該当性)について検討する。
(2)ア 本件特許発明構成要件をみると、本件特許発明に係る小物物品検査装置は、「吸気口となるスリット」(構成要件B)、「スリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレール」(構成要件B)、「各ガイドレールに個別に案内されて走行する2本の搬送用索条」(構成要件C)を有する搬送装置を備えるものであるが、これらの「スリット」、「搬送用索条」の配置等については、ガイドレールがスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けられていることは示されているが、それ以上には明確に示されていない。そこで、その点を明らかにするために、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
イ(ア) 本件明細書には、従来の技術として、第1から第4までの従来例が挙げられており、このうち第1の従来例については、次のとおり記載されている。
「第1の従来例(米国特許明細書第3433375号)は、吸気用の開口と、この開口の近傍に設けられ、アイドルローラに支持されるコンベアベルトとを備え、コンベアベルト上の食パンなどの物体を開口の吸引力によりコンベアベルト上に保持する搬送装置を開示している。」(本件公報(甲第2号証)3欄7行ないし12行) (イ) さらに、第1の従来例の問題点について、次のとおり記載されている。
「第1の従来例は、吸気用の開口と、アイドルローラに支持されたコンベアベルトが別々に設けられているため、開口とコンベアベルトとの間に空隙を有し、この空隙を通して開口内に吸引される空気流を生じ、即ち、物体の前後、左右(全周)からの空気を生じ、物体の下方に生じる空気流の速度差は僅かなものとなる。その結果、物体の下方における圧力は大気圧とさほどの圧力差を生じないこととなって、物体をコンベアベルトに吸着させるのが困難となるので、開口によって物体を吸引する吸引効率が低くなり、物体をコンベアベルト上に保持する保持力が小さくなって安定な搬送が困難になる。そのため、物体と開口の間隙を極めて僅かに調整する必要があり、また必要以上に間隙を狭くすると物体と開口が接触して物体を搬送できないという不都合を生じ、また吸引手段の能力を過大なものとしてしなければならないという欠点がある。」(本件公報3欄35行ないし4欄9行) (ウ) そして、従来の技術の問題点を踏まえた上で、本件特許発明の目的について、次のとおり記載されている。
「したがって、この発明の目的は、このような従来例の問題点の解決を図り、上下面が凸面をなす小物物品をスリットにより吸引効率よく吸引して搬送に支障なく搬送用索条上に安定して保持できるとともに、二つの搬送装置間の小物物品の受渡しが小物品の大小を問わずまた損傷することもなく円滑で安定かつ確実にでき、小物物品の検査が常に安定して正確にできる小物物品検査装置を提供することである。」(本件公報5欄8行ないし16行) (エ) 本件特許発明の作用効果については、次のとおり記載されている。
「この発明によれば、つぎの効果がある。すなわち、(1) 吸引口となるスリットの両側の各縁部にそれぞれガイドレールを設け、ガイドレールに搬送用索条を案内して吸着搬送経路を形成したため、スリットと搬送用索条との間に空隙を有しないので、小物物品と搬送用索条とが接触している部分における小物物品の左右からの空気流は生じず、前後方向からの空気流のみである。その結果、小物物品の下方の空気流の速度差は第1の従来例と比較して大きなものとなり、相応の大きな吸引力を得ることができ、そのため小物物品を効率よく吸引でき搬送用索条に保持することができる。また、スリットの縁部にガイドレールを設け、このガイドレールにより搬送用索条を案内する構成としたため上下面が凸面をなす小物物品であっても、第1の従来例のようにスリットと接触して小物物品を搬送できないという不都合がなく、吸引手段を過大にする必要もない。」(本件公報13欄30行ないし14欄5行) ウ 上記のような本件明細書の記載によると、被搬送物を吸引して搬送用のベルト上に保持して搬送する装置について、従来例においては、吸気口とベルトとの間に空隙があり、この空隙を通して吸気口内に空気が吸引され、被搬送物の下方における圧力が大気圧とさほどの圧力差を生じず、吸引効率が低くなり、被搬送物をベルト上に保持する力が小さくなって、その結果、安定した搬送が困難であったことが認められる。そして、本件特許発明は、吸気口となるスリットの両側の各縁部にそれぞれガイドレールを設け、ガイドレールに搬送用索条を案内して吸着搬送経路を形成することにより、スリットと搬送用索条との間の空隙をなくし、被搬送物である小物物品と搬送用索条とが接触している部分において、小物物品の左右からの空気流を生じないようにし、空気流は小物物品の前後方向からのみ生ずることとし、それによって、小物物品の下方の圧力が大気圧と比べて低くなるようにし、
吸引効率を高め、小物物品が搬送用索条上に安定して保持されるようにしたものと認められる。
そうであるとすれば、本件特許発明構成要件における「搬送用索条」は、「スリット」と「搬送用索条」との間に空隙が存在しないように配置されたものでなければならないというべきである。
エ 次に、本件特許に対する無効審判手続での原告の主張について検討する。
(ア) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件特許につき、
平成13年9月7日付けの審判請求書(乙第1号証の1)により無効審判(無効2001-35392号)を請求したところ、原告は、同年11月30日付けの審判事件答弁書(乙第2号証)を提出したこと、被告は、平成14年1月31日付けの口頭審理陳述要領書(乙第3号証の1ないし3)を提出したこと、同年1月31日、特許庁において口頭審理が行われたこと、原告は、同年2月20日付けの上申書(乙第4号証)を提出したこと、特許庁審判官は、同年3月22日付けで、無効審判請求は成り立たない旨の審決を行い(乙第5号証)、同審決は、同年5月7日、確定したことが認められる。
(イ) 上記無効審判の審判事件答弁書(乙第2号証)における原告の主張について検討する。
a 原告は、本件特許発明について、次のとおり主張した。
「本件特許発明は、吸引口となるスリットの両側の各縁部にそれぞれガイドレールを設け、ガイドレールに搬送用索条を案内して吸着搬送経路を形成した構成を備えるが故に、スリットと搬送用索条との間に空隙を有しない構造となっており、このため小物物品と搬送用索条とが接触している部分における小物物品の左右からの空気流が生じず、前後方向からの空気流のみとなる結果、小物物品の下方の空気流の速度差が大きなものとなって、吸引手段を過大にすることなく、相応の大きな吸引力を得ることができ、小物物品を効率よく吸引して搬送用索条に保持することができるといった顕著な効果を奏する。」(乙第2号証2頁末行ないし3頁8行) b 本件特許発明と上記無効審判の「甲第5号証の1」である米国特許第3433375号明細書(本件明細書において「第1の従来例」とされた米国明細書。本件訴訟の乙第1号証の6)に記載された発明について、次のとおり主張した。
「甲第5号証に記載の搬送装置は、コンベアベルトが、サクションチャンバ吸気口の両側に設けられたアイドルローラ群によってその走行が案内されるように構成され、サクションチャンバとコンベアベルトとの間には所定の空隙が存在するため、かかる空隙からサクションチャンバの吸気口に吸引される空気流を生じ、これがために物品をベルトに吸着するための吸引力が極めて低くなるという問題がある。これに対し、本件特許発明では、各搬送装置の負圧室が吸気口となるスリットと、このスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールを備え(構成B)、2本の搬送用索条によってスリットの縁部に吸着搬送経路が形成される(構成D)構造となっており、スリット及びガイドレールが負圧室に一体的に形成されているため、甲第5号証に記載の搬送装置のように、スリットと搬送用索条との間に空隙が存在せず、被搬送物品と搬送用索条とが接触する部分における、搬送方向左右からスリットに流れ込む空気流が生じず、前後方向から流れ込む空気流のみとなる。したがって、被搬送物品の下方における空気流の速度は、被搬送物品の前、後端部分における速度と、被搬送物品の中央部分における速度との差が大きくなり、これにより大きな吸引力を得ることができるのである。」(乙第2号証13頁18行ないし14頁5行) c 原告は、前記b記載の点を、図と式を用いて、別紙「審判事件答弁書抜粋」のとおり説明し(乙第2号証14頁6行ないし16頁下から3行目)、さらに、次のとおり主張した。
「以上の説明から明らかなように、本件特許発明は、a)各搬送装置の負圧室が吸気口となるスリットと、このスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールを備え(構成B)、b)2本の搬送用索条によってスリットの縁部に吸着搬送経路を形成した(構成D)、即ち、スリットと搬送用索条との間に外部からの空気流が生じる空隙が存在しないように、スリット及びガイドレールを負圧室に対して一体的に形成した、甲第2号証乃至甲第5号証のいずれにも開示されない新規な構成を備えるものである。そして、かかる新規な構成を採用することにより、被搬送物品と搬送用索条とが接触する部分において、搬送方向左右からスリットに流れ込む空気流が生じず、前後方向から流れ込む空気流のみとなる結果、被搬送物品の前、後端部分における空気流の速度と、中央部分における空気流の速度との差が大きくなって、吸引手段を過大にすることなく、相応の大きな吸引力を得ることができ、被搬送物品を効率よく吸引して搬送用索条に保持することができるといった、甲第2号証乃至甲第5号証に記載の各発明からは到底想到し得ない顕著な効果を奏するのである。」(乙第2号証17頁1行ないし15行) (ウ) 原告は、上記無効審判における平成14年2月20日付けの上申書(乙第4号証)において、次のように主張した。
「本件特許請求の範囲第1項に記載の、『吸気口となるスリットとこのスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールと排気口とを有する負圧室と、』なる構成の意義解釈に当たっては、その用語自体、並びに本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の全体を参酌して、これを解釈すべきであります。そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明、即ち、甲第1号証の第3欄第35行乃至第41行、同第5欄8行乃至第16行、同13欄第32行乃至第38行、実施例、
並びに図面の記載を参酌すると、本件特許発明にかかる負圧室については、スリットと搬送用索条との間に外部からの空気流が生じる空隙を有しない構造となっていることが、明確に認められ、これに疑いを挟み得る余地は無いものと思料致します。してみると、本件特許請求の範囲第1項に記載の、『吸気口となるスリットとこのスリットの両側の各縁部にそれぞれ設けたガイドレールと排気口とを有する負圧室と、』なる構成は、『負圧室自体に、排気口と、吸気用のスリットとが形成され、更に、同じく負圧室自体であって、前記スリットの両側の各縁部にそれぞれガイドレールが一体に設けられて、スリットと搬送用索条との間に外部からの空気流が生じる空隙が存在しないように構成されていること』を意味するものと、明確に理解されます。このように、本件特許請求の範囲の記載については、請求人が指摘するような不明瞭な点は一切なく、本件特許発明は、その明確に理解される特徴的な構成によって、本件特許明細書に記載され、且つ被請求人が答弁書において陳述したような、甲第2号証乃至甲第5号証に記載された発明からは決して得られない顕著な効果を奏するのであります。」(乙第4号証2頁10行ないし3頁4行) (エ) 特許発明技術的範囲を解釈するに当たっては、特許権の設定登録後にされた無効審判手続において特許権者がした主張も参酌することができるものというべきである。そして、本件特許発明構成要件における「搬送用索条」は「スリット」と「搬送用索条」との間に空隙が存在しないように配置されたものでなければならないという前記ウ記載の解釈は、上記無効審判における原告の前記(イ)、(ウ)記載の主張とも合致するものであるから、無効審判における原告の主張に照らしても、上記解釈は妥当なものというべきである。
(3)ア 弁論の全趣旨によれば、被告製品においては、「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」との間に、幅約2.5o、高さ約0.2oの空間と上辺約0.4o、下辺約0.7o、高さ約0.35oの台形の空間からなる略凸形状をした空間があることが認められ、そして、「タイミングベルト27」の外側から、この略凸形状の空間を通して、「吸引孔列」の方に向けて、横方向の空気流が生ずることが認められる。
イ 本件においては、争点(2)アに関して、「吸引孔列」(構成b)が「スリット」(構成要件B)に該当するかについて争いがあり、また、争点(2)イに関して、「案内路31」(構成b)が「ガイドレール」(構成要件B)に該当するかについて争いがある。これらの争点に関し、仮に、原告主張のとおり、「吸引孔列」が「スリット」に該当し、「案内路31」が「ガイドレール」に該当するとしても、前記ア認定のとおり、「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」との間の略凸形状の空間を通して、「吸引孔列」の方に向けて横方向の空気流が生ずるから、被告製品における「タイミングベルト27」は、「吸引孔列」と「タイミングベルト27」との間に空隙が存在しないように配置されたものではない。
そうすると、被告製品の「タイミングベルト27」(構成c)は、「搬送用索条」(構成要件C)に該当するとは認められない。
(4)ア 原告は、作用効果に関連して、被告製品の「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」の間の空間のうち台形の空間は、「心線支持凹み」と呼ばれ、製造工程上当然に生じるものであり、また、その余の空間は設計上当然に設けられるクリアランスにすぎず、何らかの効果を意図して積極的に形成されたものではないから、それらの空間があっても、作用効果の不存在の根拠とはならない旨主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、被告製品の「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」の間の空間は、偶然の結果として生じたものではなく、少なくとも意図して設けられたものであり、被告製品に常に存在するものであることが認められるから、被告製品は、客観的にみて、「吸引孔列」と「タイミングベルト27」との間に空隙が存在する構成となっている。したがって、被告製品のこのような客観的な構成が本件特許発明構成要件を充足するかが検討されるべきであり、それ以上に、被告がその空間を設けることについてどのような積極的な効果を意図していたかということは、構成要件の充足性の判断とは関係がないものというべきである。
イ また、原告は、作用効果に関連して、被告製品は、「タイミングベルト27」の凹部と「案内部材31a」の間の空間が存在しない場合と同様の十分な負圧を有し、本件特許発明と同様の高い吸引効率を実現している旨主張する。
しかし、前記(2)ウ記載のとおり、本件特許発明構成要件における「搬送用索条」は、「スリット」と「搬送用索条」との間に空隙が存在しないように配置されたものでなければならないから、被告製品が錠剤に対する高い吸引効率を実現していたとしても、前記(3)ア認定のとおり、被告製品がそのような配置を採っていない以上、被告製品の「タイミングベルト27」(構成c)は、「搬送用索条」(構成要件C)に該当しないというべきである。
(5) したがって、被告製品の「タイミングベルト27」(構成c)は「搬送用索条」(構成要件C)に該当せず、構成cは構成要件Cを充足しないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告製品は本件特許発明を文言上侵害しないというべきである。
2 争点(4)(均等の成否)について 原告は、「スリット」(構成要件B)を「吸引孔列」(構成b)に置換したことによる均等を主張する。しかしながら、前記1で判断したとおり、被告製品の「タイミングベルト27」(構成c)は、「搬送用索条」(構成要件C)に該当しないのであり、被告製品と本件特許発明の構成とは、「スリット」と「吸引孔列」の異同の有無以外に、「タイミングベルト27」(構成c)と「搬送用索条」(構成要件C)の点で異なっているのである。そうすると、「スリット」を「吸引孔列」に置換したことによる均等の成否にかかわらず、被告製品は本件特許発明技術的範囲に属しないというべきである。
3 乙第45号証を証拠とすることの許否(時機に後れた攻撃防御方法か否か)について なお、争点(5)(明らかな無効理由の存否)ア(進歩性欠如)に関連して、乙45公報が時機に後れて提出された攻撃又は防御の方法に該当するか否かについて検討する。
乙45公報(発明の名称「煙草集積装置」)は、被告によって第6回口頭弁論期日に提出されたが、原告は、その提出が時機に後れたものであるとして却下を求めた(なお、同期日において口頭弁論を終結した。)ものである。しかるところ、乙45公報は、国際特許分類のサブクラスがA24C(葉巻たばこまたは紙巻たばこの製造機械)とされ、たばこに関する技術に分類されており、乙1-3公報、乙7マイクロフィルム等が分類されているサブクラスB65G(運搬または貯蔵装置)とされておらず、運搬等に関する技術に分類されていなかったことが認められる。このような事実に照らすと、一般的にいって本件特許の無効主張の証拠として乙45公報を発見することは、相当の困難があるものというべきであり、その発見が遅れたことに、故意又は重大な過失があるとすることはできない(なお、前記のとおり、乙45公報が提出された第6回口頭弁論期日に弁論を終結しており、
その提出によって訴訟の完結を遅延させることになったものでもない。)。したがって、乙45公報は、時機に後れて提出された攻撃又は防御の方法に該当するとして却下すべきものではない。
4 結論 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。
追加
物件目録第1イ号物件1(1)図面の説明第1図は、イ号物件(錠剤検査装置)の概略構成を示した正面図である。
第2図は、イ号物件に係る第2の搬送装置の正断面図である。
第3図は、イ号物件に係る第2の搬送装置の斜視図であり、第2図におけるT-T切断線で切断した斜視図である。
第4図は、イ号物件に係る第2の搬送装置のタイミングプーリ(駆動側)を示した斜視図である。
第5図は、イ号物件に係る第2の搬送装置の一つの吸引孔の中心を通る断面であって、かつタイミングベルト間の幅が吸引孔の直径と同一である場合における断面図であり、第4図における矢視U-U方向の断面図である。
第6図は、イ号物件に係る吸引孔とタイミングベルト間の幅との関係及び吸引孔の列設状態を説明するための説明図である。
(2)符号の説明1・・・・錠剤検査装置10・・・・錠剤検査部11・・・・第1の搬送装置12・・・・第1の撮像装置20・・・・第2の搬送装置21・・・・吸引室22・・・・吸引ボックス23・・・・ホルダ24・・・・フランジ部材25・・・・ガイド板25a・・・橋渡し部分25b・・・摺動外面26・・・・ダクト27・・・・タイミングベルト27a・・・凹溝28・・・・タイミングプーリ29・・・・タイミングプーリ30・・・・吸引孔31・・・・案内路31a・・・案内部材32・・・・駆動モータ33・・・・負圧源35・・・・第2の撮像装置40・・・・供給整列部50・・・・投入搬送装置n・・・・・錠剤2構成@イ号物件(錠剤検査装置1)における錠剤検査部10は、錠剤nの上面を吸引、吸着して搬送する第1の搬送装置11と、第1の搬送装置11によって搬送される錠剤nを撮像する第1の撮像装置12と、搬送路上流端が第1の搬送装置11の搬送路下流端に対して対向するように配置され、第1の搬送装置11から受け渡された錠剤nの下面を吸引、吸着して搬送する第2の搬送装置20と、第2の搬送装置20によって搬送される錠剤nを撮像する第2の撮像装置35とを備える。
A第1の搬送装置11と第2の搬送装置20とは同じく構成され、2列に列設された吸気口たる多数の吸引孔30、各吸引孔30の列のそれぞれ両側に固設された角柱状の案内部材31a及び摺動外面25bからなる案内路31、並びに排気用のダクト26を有する吸引室21と、各案内路31に個別に案内されて走行するタイミングベルト27と、吸引孔30の列を挟んで設けられる2本のタイミングベルト27、27によって形成される搬送路と、ダクト26に接続され、吸引室21から空気を排気する負圧源33とを備える。
B吸引室21は、所定の内容積を有する吸引ボックス22と、吸引ボックス22上に順次積設されたホルダ23、フランジ部材24、ガイド板25などから形成され、内部の空気が、底部に設けられたダクト26から負圧源33によって排気され、当該吸引室21内が負圧となる。
C最上部のガイド板25には、貫通孔たる吸引孔30が2列に列設され、各吸引孔30の列を挟むようにこれに沿って、それぞれ2本の案内部材31aがガイド板25上に固設されている。
D吸引孔30は、その周縁が、当該吸引孔30の列を挟んで設けられるタイミングベルト27、27間の間隙幅Wを直径とした円上若しくはその外側に位置する大きさを有し(吸引孔30の列設方向における内寸法をDとすると、D≧W)、
隣接する吸引孔30、30間に形成された橋渡し部分25aの、列設方向における長さLは、間隙幅W以下に設定されている(L≦W)。言い換えれば、吸引孔30の列設方向における内寸法Dは、橋渡し部分25aの長さL以上の寸法となっている(D≧L)。
E各案内部材31aは、タイミングベルト27の走行を案内するものであり、環状のタイミングベルト27の内周面に周方向に沿って形成された1条の凹溝27aが案内部材31aと係合する。
Fタイミングベルト27は歯付きベルトからなり、吸引室21を挟んで配置されるとともに歯付きのタイミングプーリ28とタイミングプーリ29とに掛け渡され、タイミングベルト27の歯部とタイミングプーリ28及びタイミングプーリ29の歯部とが噛合している。タイミングプーリ28は駆動モータ32によって回転駆動され、タイミングベルト27はタイミングプーリ28によって回動せしめられて、その回動往路側が案内部材31aにまたがりつつ吸引室21の外面上(即ち、ガイド板25の外面25b上)を摺動、走行し、回動復路側が吸引室21内を走行する。
G吸引室21内が負圧になると、外気が、吸引孔30の列を挟んで配置される2本のタイミングベルト27、27間を通り当該吸引孔30に吸気されて、タイミングベルト27、27間及び案内路31、31間が負圧となり、錠剤nがタイミングベルト27、27に吸着され、搬送される。即ち、この2本のタイミングベルト27、27によって搬送路が形成される。
H錠剤検査部10は、上下面が凸面をなすものを含む錠剤nを検査対象としている。
Iイ号物件たる錠剤検査装置1は、錠剤検査部10の上流側に供給整列部40及び投入搬送装置50を備える。供給整列部40は、錠剤nを2列に整列して供給する装置であり、この供給整列部40によって2列に整列された錠剤nが、投入搬送装置50を経て錠剤検査部10に投入され、当該錠剤検査部10によって検査される。
Jなお、錠剤検査部10には、1列に列設された吸引孔30の列と、その両側に設けた1対の案内路31、31と、各案内路31、31にそれぞれ係合する1対のタイミングベルト27、27とを1組として、これを1組設けたもの、あるいは、3組以上を複列に並設したものも含まれる。この場合、供給整列部40は、設けられる組数に対応し錠剤nを単列若しくは3列以上に整列して供給するように構成される。
第2ロ号物件1(1)図面の説明第7図及び第8図は、ロ号物件に係る第2の搬送装置の一つの吸引孔の中心を通る断面における断面図であり、第4図における矢視U-U方向と同方向の断面図である。
(2)符号の説明25′・・・ガイド板部27′・・・タイミングベルト27″・・・タイミングベルト31′・・・案内路2構成@ロ号物件に係る錠剤検査装置は、イ号物件のホルダ23、フランジ部材24、ガイド板25及び案内路31を一体に成して、案内路31′を有するガイド板部25′とするとともに、タイミングベルト27′、27″の形状をイ号物件のタイミングベルト27とは異なる形状に変更したものであり、その他の構成は、イ号物件と同一である。
Aロ号物件に係るタイミングベルトには2つのタイプがあり、その一つのタイミングベルト27′は、相対峙する側と反対側の肩部(上側の角部)が長手方向に沿って切り落とされた形状となっている。
B他の一つのタイミングベルト27″は、相対峙する側及び非対峙側の肩部(上側の両角部)が長手方向に沿って切り落とされた形状となっている。
(別紙)第1図第2図第3図第4図第5図第6図第7図第8図
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美