関連審決 |
無効2003-35044 無効2003-35145 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ11856損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 公然実施(29条1項2号) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 公知技術 / 技術的範囲 / 同一の発明 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 分割出願 / 実施料相当額 / 登録実用新案 / 抵触 / 権利の濫用(権利濫用) / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 実施料 / 実施権 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
14年
(ワ)
27100号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社ホクエイ 訴訟代理人弁護士 奥野泰久 補佐人弁理士 鈴江武彦 訴訟代理人兼補佐人弁理士 中村誠 同 幸長保次郎 被告 株式会社サークル鉄工 訴訟代理人弁護士 大場常夫 補佐人弁理士 原田信市 同 原田敬志 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2004/04/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙「イ号物件目録」記載の製品を製造し,販売してはならない。 2 被告は,別紙「イ号物件目録」記載の製品及びこれらの半製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,5億8650万円及びこれに対する平成14年12月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,移植機の苗選別供給装置の発明に係る特許権を有する原告が,被告に対し,被告の製造販売する移植機が,原告の特許発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属すると主張して,特許権に基づき被告製品の製造販売等の差止め及び損害賠償を求めている事案である。 被告は,これに対して,@ 被告の製造販売する移植機は原告の特許発明の技術的範囲に属しない,A 原告の特許発明には無効理由があることが明らかであって,これに基づく本訴請求は権利の濫用に当たる,と主張して原告の請求を争っている。 1 前提となる事実(特に証拠を掲げていないものは当事者間に争いがない。ただし,参考のために掲げた証拠もある。) (1) 当事者 ア 原告は,住宅設備機器製造販売及び修理,農業機械器具製造販売及び修理等を目的とする会社である。 なお,原告は,昭和60年11月1日,農業機械の製造を業とする札幌市に所在する株式会社ダイサン(以下「ダイサン」という。)との間で,原告が製造販売部門を,ダイサンが技術開発部門をそれぞれ担当することを内容とする業務提携を締結したが,ダイサンは,昭和63年9月30日に解散した(乙3,5)。 イ 被告は,農業機械器具の製造及び販売等を目的とする会社であり,別紙「イ号物件目録」記載の形式番号の製品を販売している。 (2) 原告の特許権(甲1,2) ア 原告は,下記の特許権を有している(以下「本件特許権」という。)。 特許番号 第1829768号 登 録 日 平成6年3月15日 出願番号 特願平2-213065号 出 願 日 昭和59年(1984)10月19日 公 告 日 平成5年(1993)6月15日 発明の名称 移植機の苗選別供給装置 イ 本件特許権は,特願昭59-220872号に係る出願の一部を新たな出願とする分割出願によるものである。 (3) 特許請求の範囲の記載 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲2。以下「本件公報」という。〕参照)の「特許請求の範囲」の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。 苗Pを載せて移送する苗供給コンベア18の搬送終端より下方に一対の対向した苗送りベルト26,27を張設し,一対の苗送りベルト26,27の間に苗Pを挟持して下方に移送し,苗送りベルト26,27の搬送終端下方にベルト36,37を苗供給コンベア18の搬送方向と反対に苗Pを転送せしめるよう配設し,ベルト37に連結して検出ベルト38を張設し,検出ベルト38の上方に苗Pを検出する検出器60を配設し,検出器60の検出により苗供給コンベア18から検出ベルト38までの速度を増減させるようにしたことを特徴とする移植機の苗選別供給装置。 (4) 構成要件の分説 本件特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A 苗Pを載せて移送する苗供給コンベア18の搬送終端より下方に一対の対向した苗送りベルト26,27を張設し, B 一対の苗送りベルト26,27の間に苗Pを挟持して下方に移送し, C 苗送りベルト26,27の搬送終端下方にベルト36,37を苗供給コンベア18の搬送方向と反対に苗Pを転送せしめるよう配設し, D ベルト37に連結して検出ベルト38を張設し, E 検出ベルト38の上方に苗Pを検出する検出器60を配設し, F 検出器60の検出により苗供給コンベア18から検出ベルト38までの速度を増減させるようにしたことを特徴とする G 移植機の苗選別供給装置 (5) 本件特許発明の作用効果等(甲2) (ア) 本件特許発明が解決しようとする問題点(本件公報2欄4行ないし14行) 本発明は,この枯死した苗の土部を自動的に取除いて健苗のみを移植に供する事を目的として,苗選別装置を組み込んだ移植機として提案されたものである。 そして,紙筒苗等の土部は非常にもろいもので,苗根部の土砂をできるだけくずさずに本圃の土砂中に定植させる事が収量の増加にもつながり重要な点である。すなわち,可能なかぎり少ない行程で,可能なかぎり苗に衝撃を与えないようにして苗を傷めずに,しかも可能なかぎり小さくまとめる事が肝要である。 (イ) 作用(本件公報3欄7行ないし20行) 本発明では,苗Pの選別機構の上方に苗供給部を設けて苗Pの移送経路を折り返しさせたから装置が小型化し,ベルト36,37と苗供給コンベア18をつなぐに当り,一対の対向した苗送りベルト26.27にて接続し,その一対の苗送りベルト26,27の間に苗Pを挟持して下方に移送させるようにしたから,苗Pは苗供給部から選別機構までの所定距離を挟持されて移送される。 また,苗供給コンベア18とベルト36,37とをつなぐ苗送りベルト26,27により,ベルト37に連結した検出ベルト38と苗供給コンベア18の間に充分な空間が形成され,検出ベルト38の上方に苗Pを検出する検出器60を配設できる。 (ウ) 効果(本件公報8欄4行ないし20行) 本発明によれば,苗Pの選別機構の上方に苗供給部を設けて苗Pの移送経路を折り変しさせたから装置が小型化でき,苗Pは苗供給コンベア18からベルト36,37まで一対の苗送りベルト26,27の間に挟持されて下方に移送されるから,苗供給部から選別機構までの所定距離を落下させることなく移送でき,苗Pを傷めることがない。 また,苗供給コンベア18とベルト36,37とをつなぐ苗送りベルト26,27により,ベルト37に連結した検出ベルト38と苗供給コンベア18の間に充分な空間が形成されるから,検出ベルト38の上方に苗Pを検出する検出器60を直接設けることができ,装置が複雑化しない。 そうして,苗Pは連続的に整然と移送され,欠株を除去して移植される事になり,大幅な労力の低減と確実な植え付けが出来る事になる。 (6) 無効審判請求 被告は,本件特許発明について,平成15年2月10日付けで,特許庁に対し,本件特許発明の無効審判の請求をしたが(無効2003-35044号・乙2),同年4月8日付けでこれをいったん取り下げ,再度,同月14日付けで無効審判請求(無効2003-35145号・乙7)をした。 上記無効審判請求は,本件特許発明は昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条4項及び平成6年法律第11号による改正前の特許法36条5項並びに平成11年法律第41号による改正前の特許法29条1項又は特許法29条2項の規定に違反するとして請求するものである(以下,上記の各規定(同法29条2項を除く)については,特に断らない限り,上記の各改正前の条文を指す。)。 2 争点 (1) 被告装置の具体的な構成(争点1) (2) 被告装置の構成要件充足性(争点2) (3) 本件特許権には無効理由があることが明らかであり,本件特許権に基づく原告の差止請求及び損害賠償請求は権利の濫用に当たるか(争点3) (4) 原告の損害額(争点4) |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1-被告装置の具体的な構成 (原告の主張) 被告が製造販売する苗選別供給装置(以下「被告装置」という。)の具体的な構成は,別紙「イ号物件目録」の「(構成)」に記載のとおりである。 なお,被告が主張する,別紙「被告主張装置目録」に記載の「(1) 図面の説明」,「(2) 構成の説明」のア),イ)の@ないしB,D及びウ)の各記載と図面の記載については認める。 (被告の主張) 被告装置の具体的な構成は,別紙「被告主張装置目録」に記載のとおりである。 2 争点2-被告装置の構成要件充足性 (原告の主張) (1) 原告主張の被告装置の構成によれば(以下,原告主張の欄における記号は,特に示さない限り,別紙「イ号物件目録」記載の記号を指すものとする。),被告装置は「苗供給コンベア18’の水平搬送部180’の搬送終端より下方に,苗供給コンベア18’の下方搬送部27’と,スポンジ輪26a’,苗送りベルト26b’及びスポンジ輪26c’を対向して設け」ているところ,「苗供給コンベア18’の水平搬送部180’」は,本件特許発明の構成要件Aにおける「苗供給コンベア18」に相当し,「苗供給コンベア18’の下方搬送部27’」は,本件特許発明の構成要件Aにおける「苗送りベルト27」に相当し,「スポンジ輪26a’,苗送りベルト26b’及びスポンジ輪26c’」は,構成要件Aにおける「苗送りベルト26」に相当する。 したがって,被告装置は構成要件Aを充足する。 (2) 被告装置は,「苗供給コンベア18’の下方搬送部27’と,スポンジ輪26a’,苗送りベルト26b’及びスポンジ輪26c’の間に苗P’を挟持して下方に移送し」ており,「苗供給コンベア18’の下方搬送部27’」は,本件特許発明の構成要件Bにおける「苗送りベルト27」に相当し,「スポンジ輪26a’,苗送りベルト26b’及びスポンジ輪26c’」は,「苗送りベルト26」に相当する。 したがって,被告装置は,構成要件Bを充足する。 (3) 被告装置は,「苗供給コンベア18’の下方搬送部27’と,スポンジ輪26a’,苗送りベルト26b’及びスポンジ輪26c’の搬送終端下方にベルト36’,37’を苗供給コンベア18’の水平搬送部180’の搬送方向と反対に苗P’を転送せしめるように配設し」ており,「苗供給コンベア18’の下方搬送部27’」は,「苗送りベルト27」に,「スポンジ輪26a’,苗送りベルト26b’及びスポンジ輪26c’」は全体として「苗送りベルト26」に,「苗供給コンベア18’の水平搬送部180’」は「苗供給コンベア18」にそれぞれ対応する。 したがって,被告装置は,構成要件Cを充足する。 (4) 被告装置は,「ベルト37’に連結して検出ベルト38’を張設し」ており,これは,構成要件Dを充足する。なお,被告主張の別紙被告装置図面における「苗根先部支承ベルト11,苗根幹部支承上流側ベルト12,苗根幹部支承下流側ベルト12’及び苗葉部支承ベルト13」は,本件特許発明における「苗送りベルト26,27の搬送終端下方に,苗供給コンベア18の搬送方向と反対に苗Pを転送せしめるよう配設したベルト36,37」であり,「ベルト37’に連結して検出ベルト38’」は,「ベルト37に連結して配設した検出ベルト38」に相当するから,被告主張の構成によっても,被告装置は構成要件Dを充足する。 (5) 被告装置は,「検出ベルト38’の上方に苗P’を検出する検出器60’を配設し」ており,構成要件Eを充足する。 (6) 被告装置は,「検出器60’の検出により苗供給コンベア18’の水平搬送部180’から検出ベルト38’までの速度を増減させ」ており,「苗供給コンベア18’の水平搬送部180’」は,「苗供給コンベア18」に,「検出器60’」は「検出器60」に対応する。 したがって,被告装置は,構成要件Fを充足する。 (7) 被告装置は,「移植機の苗選別供給装置」であり,構成要件Gを充足する。 (8) 以上のとおり,被告装置は,本件特許発明の構成要件をすべて具備し,本件特許発明の効果を有するものであるから,本件特許発明の技術的範囲に属する。 (9) 被告の主張に対する反論 ア 構成要件E及びFについて 被告主張に係る別紙「被告主張装置目録」の被告装置図面における苗粗密検査器19は,いわゆる光電スイッチと呼ばれているものであり,光を苗Pの紙筒部に向けて照射し,その反射光を受光器で検知することにより,苗Pの存在の有無を検出するものである。このような検出器で苗の粗密を直接検出することができないことは技術常識である。本件特許発明における技術分野において,例えば,コンベアの速度を制御するのに,1件,1件の検出値を基にその個々の検出動作に対応してON-OFF制御を行うことは通常行われず,所定の遅延回路等を介して行うことは当然の技術常識であるから(なお,その遅延回路としては,切遅延時間回路(オフレディタイマー)と入遅延時間回路(オンレディタイマー)の2種類あることが知られている。),被告が,「検出器60の検出」について,苗Pの存在を検出するたびに何らかの信号を検出器60が発するものとし,検出信号が発せられるたびごとにコンベアの速度を増減させるものであると主張しているのは失当である。被告装置は,原告の主張によっても,被告の主張によっても,構成要件E及びFの要件を具備していることは明らかである。 イ 被告は,被告装置の構成と同一の構成で,本件特許後,実用新案第2132443号として登録されたことをもって,被告装置は本件特許権の技術的範囲に属さない旨主張するが,これは特許審査実務を無視した被告独自の見解である。 すなわち,大量の出願がなされている昨今の状況下では,先行する発明として比較的上位の概念の発明があり,それに続いて極めて具体的かつ詳細な発明がなされることもあり得るのであり,このような場合,後の発明は,極めて具体的かつ詳細な構成を有する発明として,先行する発明は構成にそれほどの限定のないより上位の概念の発明として,それぞれが何ら矛盾することなく,発明として成立することもある。したがって,後の発明の実施品の存在は,先行する権利の技術的範囲に属するか否かの判断には何の影響も与えない。 上記のとおり,被告装置と同一の構成を持つ装置が実用新案として登録されたとしても,被告装置が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断には影響を及ぼさない。 (被告の主張) 以下の被告の主張は,別紙「被告主張装置目録」の記載に従って行うが,原告の主張する別紙「イ号物件目録」の記載の構成と対応すると思われる箇所を括弧内に示すこととする。 (1) 構成要件A,Bについて ア 被告装置の苗搬送コンベア1(苗供給コンベア18’)は,水平走行部7(水平搬送部180’)と下向き傾斜走行部8(下方搬送部27’)とからなる単体のもので,これら水平走行部7(水平搬送部180’)と下向き傾斜走行部8(下方搬送部27’)は,同じ速度で一体走行するのに対し,構成要件Aの苗供給コンベア18と苗送りベルト27は別体であり,機能上,異なる速度(後者が前者より速い速度)で走行するものである。 したがって,被告装置の苗搬送コンベア1(苗供給コンベア18’)の水平走行部7(水平搬送部180’)は構成要件Aの苗供給コンベア18には相当せず,被告装置の下向き傾斜走行部8(下方搬送部27’)が構成要件Aの苗送りベルト27に相当するということはできない。 イ 被告装置の短い傾斜コンベアe(苗送りベルト26b’)は,苗搬送コンベア1(苗供給コンベア18’)と同じ搬送速度であるのに対し,構成要件Aの苗送りベルト26は,その機能上,苗送りベルト27と同じく苗供給コンベア18とは異なる速い速度で走行するものである。 したがって,被告装置の短い傾斜コンベアe(苗送りベルト26b’)を構成要件Aの苗送りベルト26に相当するということはできない。また,短い傾斜コンベアe(苗送りベルト26b’)と第1分離論f(スポンジ輪26a’)及び第2分離論g(スポンジ輪26c’)との組合せ構成が構成要件Aの苗送りベルト26に相当するということもできない。 ウ したがって,被告装置は,構成要件A及びBを充足しない。 (2) 構成要件C,Dについて ア 被告装置の苗選別搬送機構b(選別装置35’)は,苗根先部支承ベルト11,(ベルト37’)苗根幹部支承上流側ベルト12(ベルト36’),苗根幹部支承下流側ベルト12’(検出ベルト38’)及び苗葉部支承ベルト13(葉受けベルト74’)を苗搬送コンベア1(苗供給コンベア18’)の下向き傾斜走行部8(下方搬送部27’)と第2分離輪g(スポンジ輪26c’)の下方に,それらの搬送方向を苗搬送コンベア1(苗供給コンベア18’),さらに正確にいうと水平走行部7(水平搬送部180’)とは反対にして設けている。これに対し,構成要件C,Dは,苗送りベルト26,27の搬送終端下方にベルト36,37を苗供給コンベア18の搬送方向と反対に苗Pを搬送するように配設するとともに,上記ベルト37に検出ベルト38を連結張設した構成である。 したがって,被告装置の下向き傾斜走行部8(下方搬送部27’)と第2分離輪g(スポンジ輪26c’)は,構成要件C,Dの苗送りベルト26,27に相当しない。 イ 被告装置の苗根先部支承ベルト11(ベルト37’),苗根幹部支承上流側ベルト12(ベルト36’),苗根幹部支承下流側ベルト12’(検出ベルト38’)及び苗葉部支承ベルト13(葉受けベルト74’)等は,苗選別搬送機構b(選別装置35’)を構成し,苗分離搬送機構a(該当符号なし)が第2分離輪g(スポンジ輪26c’)により供給する土付苗P1を,良苗P1’,不良苗P1”に選別する構成をなしているのに対し,構成要件Cのベルト36,37は,苗Pを苗供給コンベア18とは反対の方向に搬送し,構成要件Dの検出ベルト38は上記ベルト37に連結しているものであることが規定されているだけであるから,これらのベルト36,37及び検出ベルト38が,苗Pを良苗と不良苗に選別する構成をなしているとは認められない。 したがって,被告装置の苗根先部支承ベルト11,苗根幹部支承上流側ベルト12,苗根幹部支承下流側ベルト12’及び苗葉部支承ベルト13等は,構成要件C,Dを充足しない。 (3) 構成要件EないしGについて 被告装置は,苗密接搬送機構d(該当符号なし)が,苗根幹部支承下流側ベルト12’(検出ベルト38’)の送出端側上方に配設の苗粗密検出器19(検出器60’)と,土付苗P1’を密接状態で搬送する一対の定速搬送ベルト16(集積ベルト39’),16(集積ベルト39’)等とからなり,その苗粗密検出器19(検出器60’)により,土付苗P1’の粗密程度を検知し,苗分離搬送機構a及び苗選別搬送機構b(選別装置35’)の搬送速度を増減調整させる信号を発するようにした移植機の苗分離選別供給装置である。これに対し,構成要件EないしGは,移植機の苗選別供給装置が,検出ベルト38の上方に配設した検出器60で苗Pを検出することにより,苗供給コンベア18から検出ベルト38までの速度を増減できるように構成するものである。 したがって,被告装置の苗粗密検出器19(検出器60’)が,文字どおり,土付苗P1’の粗密程度を検知し,苗分離搬送機構a及び苗選別搬送機構b(選別装置35’)の搬送速度を増減調整させるのとは技術内容を異にするから,被告装置は,構成要件EないしFを充足しない。 (4) 被告装置は,登録実用新案第2132443号(実公平7-48007号公報-乙1)の考案要旨と共通するものであり,同明細書の【考案の詳細な説明】及び図面の図5には,本件特許発明と同一の装置が従来技術として記載されている。上記登録実用新案は,本件特許発明の出願日の後,かつ,公開日の後である平成4年11月26日の実用新案登録出願に係るもので,平成7年11月8日に公告され,平成8年8月12日に設定登録されたものである。そうすると,同登録実用新案は,本件特許発明とは別個の新規,かつ,進歩性があると判断の下に登録されたものというべきである。したがって,同登録実用新案と共通の構成を有する被告装置が,本件特許発明の構成要件を充足しないことは明らかである。 3 争点3-本件特許権の無効理由の存在 (被告の主張) 本件特許発明は,次のとおり,@明細書に記載不備があり(特許法36条4項及び5項違反),A特許出願前公知,あるいは,公然実施された発明であり(特許法法29条1項違反),B進歩性を欠如(同法29条2項違反)している。 したがって,本件特許発明には,上記の無効理由が存することが明らかであって,本件特許発明に係る本件特許権に基づく本件請求は権利濫用に当たる。 ア 明細書の記載不備1(36条5項違反) (ア) 本件特許発明は,「苗供給部」と「選別機構」とを上下に所要の間隔を空けて配置し,かつ,これらの「苗供給部」と「選別機構」との間に,苗Pを挟持して移送させる一対の苗送りベルト26,27を配置した構成を,必須の構成要件としていなければならないはずであるが,特許請求の範囲に,これら「苗供給部」及び「選別機構」が明記されていない。特に「選別機構」,すなわち,互いに平行に架設されたベルト36,37と葉受けベルト74及び葉押さえベルト73により形成され,ベルト37及び葉受けベルト74(並びに葉押さえベルト73)がベルト36より搬送方向に長く,ベルト36の搬送終端に欠落部を形成してなる構成が記載されていない。 (イ) 本件特許発明の苗送りベルト26は,苗供給コンベア18の搬送終端に達した苗Pを後続のものから順次分離し,かつ,その分離されて所要の間隔を保つ苗P‥‥‥を苗送りベルト27との間に挟持して,下方,すなわち,ベルト36,37に向けて移送するためのものであるから,苗送りベルト26は,上端を苗供給コンベア18の搬送終端面に対向させていること,苗送りベルト27と同一周速で回転し,かつ,その周速は苗供給コンベア18よりやや速いことを必須の条件とするものと認められる。しかし,本件特許発明の特許請求の範囲においては,一対の対向した苗送りベルト26,27を苗供給コンベア18の搬送終端より下方に張設すると規定するだけで(構成要件A参照),苗送りベルト26を苗供給コンベア18の搬送終端に対向することや,両苗送りベルト26,27の周速を苗供給コンベア18よりやや速くすることについては何ら規定していない。したがって,本件特許発明の特許請求の範囲において,苗供給コンベア18の搬送終端に達した苗Pを捕捉して後続のものから分離することや,その分離された苗Pを所要の間隔を保ちながら挟持して下方のベルト36,37に移送することが記載されているとみることは不可能である。 (ウ) 本件特許発明において,検出器60は,苗供給コンベア18から検出ベルト38までの搬送速度を増減し,個々の苗Pを,その間隔を詰めて集積紐ベルト39に移送させるものであり,集積紐ベルト39を検出ベルト38に連結して張設することを必須の条件としなければならないところ,特許請求の範囲には集積紐ベルト39について記載がない。 (エ) 以上のとおり,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載することを要請している特許法36条5項の規定に違反していることが明らかである。 イ 明細書記載不備2(36条4項違反) (ア) 特許請求の範囲において,「選別機構」が規定されていないから,「苗Pの選別機構の上方に‥‥‥苗Pを傷めることがない。」との効果は期待できない。 (イ) また,「苗Pを載せて移送する苗供給コンベア18の搬送終端より下方に一対の対向した苗送りベルト26,27を張設し,」と限定しているため,苗送りベルト26の上端を,苗供給コンベア18の搬送終端に対向させないことになり,苗供給コンベア18が搬送する苗Pを捕捉できず,また,苗送りベルト27とで挟持することもできないから,下方に移送できない。 (ウ) したがって,本件明細書の詳細な説明における効果の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的,構成及び効果を記載することを要請している特許法36条4項の規定に違反するものである。 ウ 公知,公用等(29条1項違反) (ア) 本件特許発明の出願日である昭和59年10月19日以前の同年8月30日及び同月31日,ホクシン農機株式会社(以下「ホクシン農機」という。)が,北海道網走市において開催した第1回ホクシン農機具祭り-秋の大奉仕即売会-(以下「ホクシン農機具祭り」という。)に,ダイサンが,ダイサンビート移植機「DBT-20S」,「DBT-40S」という製品名の苗移植機を出品実演して販売を開始した。 被告は,同業者であるダイサンを相手方(債務者)として農業機械製造禁止等仮処分を以前に申し立てたことがあり,当時,ダイサンが製造販売するビート移植機には特に注目していたことから,ホクシン農機具祭りでダイサンのビート移植機が出品されたという報告を受け,直ちにそれに関する情報を収集し,同年9月1日には,ホクシン農機具祭りで配布された農機具祭配布カタログを入手した。 そのカタログからは,@苗供給コンベアと選別集積部は上下2段で構成され,上段の苗供給コンベアは,移植機中心から外側に向かって苗が搬送されること,A下段の苗選別集積部はひもベルトで構成されていること,Bセンサーによりそれらの速度を可変している等の苗選別装置の構造が判明した。 (イ) また,農機具類を取り扱う者に広く頒布されている刊行物の農機新聞(昭和59年9月25日付け)には,「ダイサン ビート移植機『大作さん』 センサー付きで発売 従来の苗選別が不要」との見出しで,ダイサンが,ビート移植機の新製品を発表し,次期シーズンに向け準備を開始したことを報じた。同新聞記事には,「センサー付きという点では,健苗の葉を挟み,欠株苗は落下させる欠株除去機構と,欠株となった分を早送りする装置と欠株を検知するセンサーとの組合せによる苗そろえ機構による完全無人の自動苗選別装置」,「2畦型は『DBT-20S』,4畦型は『DBT-40S』,共に,苗の流れを折り返しさせたコンパクトな配置」などと記載され,当該装置について2種類の写真が掲載されていた。 なお,上記新聞記事の内容は,上記(ア)に述べた農機具祭配布カタログの内容と同一であった。 (ウ) 上記のとおり,本件特許発明は,その出願日である昭和59年10月19日より前に,当業者において周知となっていたものであり,特許法29条1項又は少なくとも同条2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,同法123条1項に基づき無効となるべきものである。 エ 進歩性欠如等(29条2項違反) (ア) 構成要件A,Bは,特開昭57-202212号公報(甲4)及び実公昭54-5726号公報(甲5)記載の周知慣用の技術手段との関係で進歩性がない。 (イ) 構成要件C,Dは,実願昭57-134316号(実開59-38706号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲6)及び特開昭57-152827号(甲7)記載の周知慣用の技術手段との関係で進歩性がない。 (ウ) 構成要件EないしGは,特開昭59-34808号公報(乙6)記載の移植機の苗選別装置と軌を同一にするものである。 (エ) 以上によれば,本件特許発明は,当業者が容易に発明することができたもので,29条2項により特許を受けることができないものである。 (原告の主張) ア 明細書の記載不備1について (ア) 被告の主張は,実施例の内容がそのまま「発明」であり,その実施例の構成は,発明の構成に欠くことができない事項としてすべて特許請求の範囲に記載されなければ特許法36条4項違反になると主張しているもので,理由がないことが明らかである。 (イ) また,被告は,「苗選別機構」が明記されているとはいえないとしているが,そもそも,実願昭57-134316号(実開59-38706号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲6)及び特開昭57-152827号公報(甲7)によれば,本件特許発明の実施例と同様の苗選別機構が開示されており,苗選別機構自体の具体的な構成は従前から知られていたものであるから,特許請求の範囲において,特段,言及することなく,「検出ベルト」とのみ記載したもので,被告の主張には理由がない。 (ウ) 構成要件Eにおける「苗Pを検出する検出器60」とは,検出器60により苗Pの存在の有無を検出しているのであり,構成要件Fにおける「検出器60の検出により苗供給コンベア18から検出ベルト38までの速度を増減させる」とは,そのような苗Pの存在の有無を検出する検出器60の検出動作により苗供給コンベア18から検出ベルト38までの速度を増減させるとの意味として記載されている。また,本件明細書の記載には,「検出ベルト38の搬送終端上方には検出器60を配設し,検出器60の苗Pの検出時に電磁クラッチを切断し,非検出時に接続するようにし,苗Pの検出時にはフリーホイールを介して動力が伝達され,苗Pの非検出時には電磁クラッチを介して伝達されるようにする。検出器60の苗Pの検出時と非検出時の各ベルトの周速は集積紐ベルト39に対して,検出時に苗供給コンベア18がやや遅く,検出ベルト38をやや速くし,非検出時に苗供給コンベア18が速く,検出ベルト38は2〜4倍に速くする。」(本件公報3頁5欄36行〜6欄2行)及び「続いて検出ベルト38の搬送終端に達した苗Pは,検出器60の苗Pの検出の有無により電磁クラッチが入り切りされて苗供給コンベア18から検出ベルト38までの搬送速度が増減して,個々の苗Pの間隔を詰めて集積紐ベルト39に移送される。」(同4頁7欄19〜24行)と明確に記載されており,本件特許発明の実施例の記載として,検出器60の苗Pの検出と非検出に基づいて,電磁クラッチ等を介して,苗供給コンベア18から検出ベルト38の速度を具体的に制御することが開示されているから,発明の構成に欠くことができない事項については記載されている。 イ 明細書の記載不備2について 本件明細書においては,本件特許発明の構成について,目的,効果と共に,第1図から第4図にわたる図面を参照しつつ,具体化した実施例に関する内容についての説明も行いながら,発明の詳細な説明に明瞭に記載されている。実務慣行として,「容易にその実施をすることができる程度」とは,「出願時の技術常識からみて,出願に係る発明が正確に理解でき,かつ再現(追試)できる程度」をいうものとされているが,本件特許発明は「移植機の苗選別供給装置」に関する発明であって,本件明細書において,当業者が「容易にその実施をすることができる程度」は記載されていることは明らかである。 ウ 29条1項及び同条2項違反について (ア) 公知,公用等について a 被告は,ダイサンが,昭和59年8月30日及び同月31日のホクシン農機具祭りで,ビート移植機の「DBT-20S」,「DBT-40S」の出品実演していた旨主張するが,被告の提出する証拠によっても,これらは明らかとはいえない。すなわち,被告の主張は,ホクシン農機具祭りでその出品実演を見た者の話に基づくものではなく,他人から聞いた話等をもとに主張しているに過ぎず,ホクシン農機具祭りで配布されたという農機具祭配布カタログも,直接ホクシン農機具祭りで入手されたものでなく,何人かの人を介して入手されたものであって,ホクシン農機具祭り当日に配布されたカタログかどうかも不明である。さらに,ホクシン農機具祭りの案内を記した葉書からも,「DBT-20S」,「DBT-40S」が出品実演が行われたことは明らかでない。むしろ,当時の関係者によると,ダイサンが新型「DBT-20S」,「DBT-40S」の最終試験機の設計を完了したのは,早くても昭和59年8月20日過ぎであったこと,その後に部品製作の外注を行ったこと,外注により製作された部品の塗装を再度外注(塗装)していたこと(当時,ダイサンには焼付塗装設備がなかった),各部品の製作及び塗装完成後組立を行ったこと等を考慮すると,新型ビート移植機の製作をすべて完了して,同月30日及び同月31日に開催されたホクシン農機具祭りで出品実演することは困難である。 b 昭和59年9月25日付けの農機新聞の掲載記事及び掲載写真によっても,本件特許発明と同一の発明が,当該新聞記事に開示されているとみることはできない。少なくとも,本件特許発明の「苗Pを載せて移送する苗供給コンベア18の搬送終端より下方に一対の対向した苗送りベルト26,27を張設し,一対の苗送りベルト26,27の間に苗Pを挟持して下方に移送し,」との構成要件A,Bについては何ら開示されていない。 (イ) また,発明は全体としてとらえるべきで,その特許請求の範囲に記載されたすべての構成要件を備え,すべての構成要件が有機的に組み合わされたものとして認定されるべきものであるから,発明を構成する各構成の一部が公知の技術に係るものであるとか,周知慣用の技術手段であったとしても,それら一部の構成を除外等を行い断片的にとらえるべきではない。無効を主張する以上,本件特許発明の認定,公知技術なり周知慣用の技術手段なりの引用例の認定のもとに,本件特許発明と引用例との対比,一致点の認定,相違点の認定,相違点の判断を明確に示して,その無効の論理付けを明確に行うべきである。 したがって,構成要件A,Bあるいは同C,Dについて,周知慣用の技術手段が存在するからといって,直ちに無効理由となるものではない。 (ウ) 以上のとおり,本件特許発明が特許法29条1項,2項の規定に該当し,特許を受けることができないとする被告の主張は,失当である。 4 争点4-原告の損害額について (原告の主張) 被告が,本件特許権の出願公告後の平成6年1月から現在までの間に,被告装置を販売した金額は,少なくとも58億6500万円を下らない。 業界における同種製品の利益率から判断して,被告装置の販売における利益率は販売価格の10%を下ることはない。したがって,被告が,前記期間に被告装置を製造販売したことによって得た利益は,少なくとも5億8650万円である。 また,被告は,本来,本件特許権について,実施権の許諾を受けなければ被告装置を製造販売できなかったはずであり,その実施料率は販売価格の10%が相当である。このうち,平成6年1月から平成11年12月末日までの利益分は,法律上の原因なく,実施料相当額を利得した被告の不当利得であり,原告は同等額を失った。さらに,平成12年1月1日から現在までの被告利益分は,原告の損害に相当するから,原告はこれと同等額の損害賠償請求権を有する。 以上より,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権に基づき,5億8650万円及びこれに対する平成14年12月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張) 原告の主張は否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点1(被告装置の具体的構成)について 前記のとおり(第3の1),被告装置の具体的構成については,当事者間に一部争いがあるが,まず,原告が被告装置の内容として主張する別紙「イ号物件目録」の記載に基づき,被告装置が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうかを検討することとする。 2 争点2(被告装置の構成要件充足性)について (1) 構成要件Aについて ア 本件特許発明において,「苗供給コンベア18の搬送終端より下方に一対の対向した苗送りベルト26,27を張設し」とされており,苗送りベルト27は,苗供給コンベア18とは別体として張設されている。 一方,被告装置は,水平搬送部180’と下方搬送部27’は,別体のベルトではなく,苗供給コンベア18’の水平搬送部180’が,プーリ14’を介して下方に方向を変えたものが,下方搬送部27’であって,水平搬送部180’と下方搬送部27’は一連のベルトである。 イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載のうち,本件特許発明の【実施例】の説明として,苗送りベルト27を含む部分の構成について,「苗供給コンベア18の搬送終端面に対向して下方に長い苗送りベルト26を‥‥‥張設し,苗供給コンベア18の搬送終端下方より,苗送りベルト26に対向して短い苗送りベルト27を‥‥‥張設し,苗送りベルト26と苗送りベルト27とは互いの対接面が下方に向う如く同一周速にて回転し,その周速は苗供給コンベア18よりやや速くする。」(甲2・本件公報2頁4欄6行から14行)とされており,当該部分の作動については,「作業者は,苗載台7から苗供給コンベア18上に苗Pを倒置して連続的に並べる。このとき,苗Pは互いに糊着されていても良いし個々に離れていても良い。」(同3頁6欄26ないし29行)とし,「‥‥‥苗供給コンベア18が回行して並べられた苗Pを移送する。苗供給コンベア18の搬送終端に達した苗Pは,苗押さえスポンジ輪24を通過する毎に,まだ苗押さえスポンジ輪24を通過していない苗Pより長い苗送りベルト26により分離され,適当な間隔を保って一対の苗送りベルト26,27の間に挟持されて下方に移送される。」(同3頁6欄33行から39行)としている。 そうすると,本件特許発明においては,苗供給コンベア18の周速よりも,苗送りベルト26及び同27の周速をやや速くし,苗送りベルト26及び同27により,苗供給コンベア18上に連続的に並べられていた苗P(上記のとおり,必ずしも列苗に限定していない。)を適当な間隔を保って下方に移送するものである。 他方,被告装置は,別紙「イ号物件目録」によれば,水平搬送部180’と下方搬送部27’は一体のベルトであることは明らかであり,そうであれば,水平搬送部180’と下方搬送部27’は常に同一周速となるのであって,下方搬送部27’において周速を変化させることにより,適当な間隔を保って下方に移送するという構造ではない。 また,下方搬送部27’は,水平搬送部180’と一体となっていることから,下方搬送部27’と苗送りベルト26b’とが一対のベルトを構成しない。 したがって,構成要件Aの「一対の対向した苗送りベルト26,27」,あるいは,構成要件Bの「一対の苗送りベルト26,27」に相当する構成は被告装置には認められない。 ウ 以上のとおり,被告装置の苗送りベルト27’は,構造的にみても,構成要件Aの「苗供給コンベア18の搬送終端より下方に一対の対向した苗送りベルト」のうちの一方とみることできず,その作用も,苗送りベルト27とは異なるため,被告装置は,構成要件Aを充足しない。 (2) 上記によれば,原告の主張する被告装置の構成を前提としても,その余の構成要件の充足の有無について判断するまでもなく,本件特許発明の技術的範囲に属しない。したがって,原告の本訴請求は理由がない。 3 争点3(本件特許発明に無効事由があり,本訴請求が権利濫用に当たるか)について 上記に判示したところからすれば,原告の本訴請求は既に理由がないというべきである。もっとも,本件においては,その事案の内容にかんがみ,念のため本件特許発明に明らかな無効理由があるかどうかについても,検討することとする。 (1) 乙3,乙7,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア ダイサンは,昭和57年から,ダイサンビート移植機の製品番号「DBT-20」,「DBT-40」という製品を製造,販売して,同製品に対応する構成を特許として出願していた(特願昭56-197175号(特開昭58-98008号))。 「DBT-20」及び「DBT-40」のカタログには,次の特徴が記載されている。 @ 植付けは,ゴム円盤でポットの上部をはさんで植付けますので,やわらかいポットでも垂直に植付けできます。 A 鎮圧ローラーで鎮圧した後,植付けしますので,植付け深さが一定になります。 B ポットはコンベアーにはさまれ,ゴム円盤にはさまれて移動しますので,葉や紙筒の損傷がありません。 (甲9ないし12,乙3〔陳述書・3頁〕) イ 昭和59年8月30日,31日にホクシン農機具祭りが開催され,ダイサンは,「新型ビート移植機選拾機付」をこれに出品,実演した。 このとき,上記移植機を説明するものとして,ホクシン農機具祭りの参加者にはカタログが配布された。同カタログは,イラスト文字による表題の下に写真と手書きの文字による説明を付した原稿を複写機又は複写印刷機により複製ないし印刷したものである(以下,これを「農機具祭配布カタログ」という。)。農機具祭配布カタログには,次の記載がある。 (ア) カタログの標題には,「新型ダイサンビート移植機センサー付き」と表記され,「DBT-20S(2畦型)」,「DBT-40S(4畦型)」と題された2種類の写真が掲載され,「センサー付きで従来の苗選別が不要 苗の流れを折り返しさせたコンパクトな配置」との記載がある。 (イ) 農機具祭配布カタログには,移植機の特徴として次のように紹介されている。 「1 センサー付きで従来の苗選別が不要。分離した苗を健苗の葉をはさみ,欠株苗は落下させる欠株除去機構と,欠株になった分を早送りする装置と欠株を検知するセンサーとの組合せによる苗そろえ機構による完全無人の自動選別装置がつきました。ですから,作業者はコンベアに苗を並べるだけの作業となります。 2 苗の流れを折り返しさせたコンパクトな配置。2畦型では左右対称配置とし,各々のコンベアが左右に別れて流れるので,1人作業ができます。4畦型でも畦間毎に同一植付部が付き幅が従来機に比べてぐーんと狭くなりました。 ‥‥‥」 (乙3の添付資料(1),(2),(3)) ウ 昭和59年7月31日から同年10月までの被告専務取締役Aの業務日誌には次の記載がある(乙3添付資料(1))。 (ア) 8月31日 「ダイサンが選別機付移植機を発表した。‥‥‥B課長と連絡取れた。 17:00頃。‥‥‥私の方から,機種やカタログ等資料入手すること。正確な情報を入れてくれ。9/1に入れることを約す。」 (イ) 9月1日 「B課長より連絡あり。 @ 4畦はコンベヤ折返し同じものを並列に並べた。BTP型式。 A 2畦については両側に分かれていく方式。平ベルトは傾斜しているので中心(両畦の)は高くなっている。 B いずれも2段重ねになっていて苗供給の下段に選別集積部あり。 C センサーがついていてコンベヤの速度は可変する。 D 名称は選拾装置としている。 E ダイサン58,59年式に選拾装置はそのまま取り付かない。フレームが違うため。 F カタログを入手するもコピーであり不鮮明。 ‥‥‥(略) G ひもベルト(バンコード)を使用している。」 (ウ) 9月3日 「A.M.8:00 B課長よりtel 1 農家3軒にあたって聞取調査した 2 苗分離は従来の方法であり,上段から下段へ移送している。 3 葉挟持ベルトがどうなっているか調べて今日帰る。」 9月6日 「ダイサン対策 Cさんより抵触の内容について聞く 専務,常務,D,E,F,G,B (引用者注:別紙「手書きの図」あり) 基本的は同じであると考えるが,検出部の検出によって1ピッチ送る(必ず検出してから送ることになっている か?)」 エ 昭和59年9月25日付け「農機新聞」(以下,単に「農機新聞」という。)には,「ビート移植機『大作さん』センサー付で発売 従来の苗選別が不要」との見出しの下,「‥‥‥新製品は,トラクター連装式,馬力センサー付で従来の苗選別が不要。1人作業ができる(2畦)この2畦型と4畦型共に同時発表となっている。センサー付という点では,分離した苗を健苗の葉をはさみ,欠株苗は落下させる欠株除去機構と,欠株になった分を早送りする装置と欠株を検知するセンサーとの組合せによる苗そろえ機構による完全無人の自動苗選別装置で,作業者はコンベアに苗を並べるだけの作業という。2畦型は『DBT-20S』,4畦型は『DBT-40S』共に,苗の流れを折り返しさせたコンパクトな配置,ゴムタイヤ付鎮圧輪であることが大きな特徴としてあげられる。2畦型では,左右対称配置とし,各々のコンベアが左右に別れて流れるので,1人作業ができること,4畦でも,畦間毎に同一植付部が付き幅が従来機に比べてかなり広くなったものである。植付方法は,従来から好評を得ているゴム円盤方式にタテベルトと鎮圧輪,オープナーを用いており,確実な植付けができる。なお,同機の重量は,『DBT-20S』が500キロ,『DBT-40S』が650キロ。」との記事と「苗選別不要のオートセンサー付『DBT-20S』,『DBT-40S』」と題された移植機の写真2枚が掲載されていた。(乙3の添付資料(4)) オ ダイサンのビート移植機「DBT-20S」,「DBT-40S」のカタログには,次の記載がある(乙3の添付資料(8))。 (ア) カタログ表の標題には,「自動苗選別装置付」と表記され,「遂に登場,一人作業もOK(2畦型) コンパクトな2畦型と4畦型そろって,新発売!!」と記載されているほか,「うれしい3つのポイント 1 センサー付で苗選別が不要 2 よりコンパクトな配置 3 ゴムタイヤ付鎮圧輪」と記されている。 (イ) また,カタログ裏側には,各部の構成を拡大した写真が貼付され,「完全無人の自動苗選別装置(センサー)が付きましたので,作業者は苗を並べるだけ。」,「ゴムタイヤ付鎮圧輪で泥の付着やスリップの心配がありません。」,「2畦型では左右対称配置とし,各々のコンベアが左右に分かれて流れるので,一人作業ができます。」(DBT-20S),「4畦型でも畦間毎に同一植付部が付き,幅が従来機に比べてぐーんと狭くなりました。」(DBT-40S)と記されている。 さらに,同カタログに記載された仕様表には,「DBT-20S」の重量は「500s」,「DBT-40S」の重量は「650s」と記載されている。 (2)ア 上記の(1)のアないしオの事実を総合すれば,ダイサンは,昭和57年ころに製造,販売していた「DBT-20」,「DBT-40」の新型ビート移植機として,昭和59年8月30日及び31日,ホクシン農機具祭りに「DBT-20S」,「DBT-40S」を出品し,このビート移植機が,農機新聞に掲載されたものと認められる。 イ 原告は,上記に掲げた証拠はいずれも直接証拠でなく,信用できないとし,ホクシン農機具祭りに出品されたのは,「DBT-20」,「DBT-40」の可能性もあるなどと主張するが,次のとおり,原告の主張は採用できない。 (ア) 一般的に,業務日誌は,日々の業務を毎日記載することを予定しているものであり,実際に日々連続して記載されている業務日誌については,特段の事情がない限り,その性質上信用できるということができるところ,Aの業務日誌のうち,8月31日から9月6日にかけての上記摘示部分には,ダイサンから新型ビート移植機が出品されたとの報告を受け,その調査を行ったとの一連の流れが記載されており,その内容に不自然な点や不合理な点は認められず,十分信用に値するものである。 そして,Aの業務日誌の9月1日の記載には,「カタログを入手するもコピーであり不鮮明。」と記されており,その時点において,移植機のカタログが配布されていたことが認められること,同日誌に書かれた手書きの図面の構成によれば,「DBT-20S」及び「DBT-40S」の構成を簡略化して記載されたものと認められること,農機具祭配布カタログの記載内容と農機新聞の記事内容は,上記の認定のとおりほぼ同一の文章であり,農機新聞は,カタログの頒布よりも後に発刊されているものであることなどを総合すると,農機新聞の記事は,農機具祭配布カタログの記載内容を見て掲載されたものと推認される。 (イ) そして,農機具祭配布カタログに掲載された移植機の写真2枚と農機新聞に掲載された移植機の写真2枚に掲載された製品の形状や重量等に照らしてみると,これらはすべて同一の製品を掲載したものであるものと認められ,これは,「DBT-20S」及び「DBT-40S」の製品カタログとして正式に頒布されているもの(上記(1)オ)と同一のものと認められる。 (ウ) 上記の諸事情を総合すれば,ホクシン農機具祭りに出品されたのが「DBT-20S」,「DBT-40S」であることは,明らかというべきである。 (3) 「DBT-20S」及び「DBT-40S」の構成と本件特許発明との対比 ア 前記第2の1の(5)に記載のとおり,本件特許発明は,「この枯死した苗の土部を自動的に取り除いて健苗のみを移植に供する事を目的と」する発明であり,「‥‥‥可能なかぎり苗に衝撃を与えないようにして苗を傷めずに,しかも可能なかぎり小さくまとめる事が肝要である」としており,健苗のみを選別して移植する点については,構成要件DないしFにその構成が記載され,可能なかぎり小さくまとめる点については,構成要件AないしCに構成が記載されている。 イ そして,上記の農機具祭配布カタログ(乙3添付資料(3)),業務日誌(乙3添付資料(1)),農機新聞(乙3添付資料(4)),「DBT-20S」及び「DBT-40S」のカタログ(乙3添付資料(8)),「DBT-20S」の写真(乙9)等によれば,「DBT-20S」及び「DBT-40S」の構成は次のとおりと認められる。 (ア) 上方の苗台下端の機械中央付近から右方向斜め下に向かって配置されている苗供給コンベアの搬送終端下方に,長い苗送りベルトと短い苗送りベルトが張設され, (イ) 長い苗送りベルトと短い苗送りベルトとの間に苗が挟持されて下方に移送され, (ウ) 長い苗送りベルトと短い苗送りベルトの搬送終端下方には,上記(ア)の苗供給コンベアの搬送方向と反対に苗を搬送するベルトと苗の根部を支持するベルトが配設されており, (エ) 良苗は葉部を挟持する上下のベルトに挟持されて搬送されるが,葉部がない欠株苗は葉部がないため空隙に落ちるという欠株除去機構を有し, (オ) 欠株苗を検出するため,搬送された苗が集積するベルトの上方に,苗を検出するセンサーが設けられ, (カ) 欠株になった分を早送りする装置が設けられた苗選別供給装置付きの移植機である。 ウ したがって,「DBT-20S」及び「DBT-40S」は,@健苗と欠株苗は葉の有無で選別すること,A欠株部を検知するセンサーが備わっていることから,「枯死した苗の土部を自動的に取り除いて健苗のみを移植に供する事を目的と」しており,B苗の流れを折り返しさせていること,C苗供給コンベアと選別集積ベルトが上下2段構造になっていることから,「‥‥‥可能なかぎり苗に衝撃を与えないようにして苗を傷めずに,しかも可能なかぎり小さくまとめられて」いるもので,上記イに記載された構成(ア)ないし(ウ)は,本件特許発明の構成要件AないしC充足し,上記構成(エ)ないし(カ)は,構成要件DないしGを充足するものということができる。 (4) 小括 以上を総合すれば,ダイサンの「DBT-20S」及び「DBT-40S」は,昭和59年8月30日及び31日に開催されたホクシン農機具祭りに実施品として出品されていたことが明らかであるから,本件特許発明は,本件特許発明の出願時である同年10月19日以前に,公然実施された発明(特許法29条1項2号)として,特許を受けることができないものであったというべきである。 |
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結論
以上によれば,被告装置は,本件特許発明の技術的範囲に属さないことが明らかであるし,また,本件特許権は,特許法29条1項2号に違反して特許されたものであり,無効理由の存することが明らかというべきであるから,本件特許権に基づく請求は権利の濫用に当たり許されない。 したがって,その余の争点について検討するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がない。 よって,主文のとおり,判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 松岡千帆 |
裁判官 | 大須賀寛之 |