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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ24051特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 14年 (ワ) 13726号 損害賠償請求事件
原告 アルゼ株式会社
訴訟代理人弁護士 松本司
同 岩坪哲
同 美勢克彦
被告 山佐株式会社
訴訟代理人弁護士 山崎優
同 三好邦幸
同 川下清
同 河村利行
同 加藤清和
同 石橋志乃
同 沢田篤志
同 伴城宏
同 池垣彰彦
同 塩田勲
同 前川直輝
補佐人弁理士 梁瀬右司 補助参加人 日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男
補佐人弁理士 紺野正幸
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/05/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 原告 被告は,原告に対し,10億円及び平成14年7月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告 主文と同旨
事案の概要
1 前提事実(当事者間に争いがない) (1) 原告は,コンピュータ・システムを利用した娯楽用・教育用電子機器の試験研究,企画,開発,製造,販売及び賃貸等を業とする株式会社である。
被告は,アミューズメント用機械の製造販売等を業とする株式会社である。
補助参加人は,遊戯機器に関する工業所有権及び著作権の取得,売買,実施権の設定並びに許諾に関する事業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
発明の名称 スロットマシン 特許番号 特許第2574912号 出願日 昭和58年4月8日 出願番号 特願平2-16440号 (特願昭58-61592号の分割) 公開年月日 平成2年9月14日 公開番号 特開平2-232084 登録日 平成8年10月24日 (3) 本件特許権の出願に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。また,本件特許権に係る特許公報(甲2)を「本件公報」という。)。
「スタート手段の操作により回転される複数のリールを備え,これらのリールが停止したときに表示窓に現われた絵柄の組み合せで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて,1ゲームごとに乱数をサンプリングし,サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちいずれかを決め,その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段と,このリクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段と,リールストップ制御手段によりリールが停止した後にリールの停止位置を読み取り,前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段と,この判定手段により前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」 (4) 上記特許請求の範囲の記載を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。) A スタート手段の操作により回転される複数のリールを備え,これらのリールが停止したときに表示窓に現われた絵柄の組み合せで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて, B@ 1ゲームごとに乱数をサンプリングし, A サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちいずれかを決め, B その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段と C このリクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段と, D リールストップ制御手段によりリールが停止した後にリールの停止位置を読み取り,前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段と, E この判定手段により前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないとき(以下,内部データでは入賞がリクエストされているにもかかわらず,外見上は入賞しないという意味で,このような状態を「内部当たり中」という。)に当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたことを特徴とする F スロットマシン (5) 被告製品について 被告は,遅くとも平成12年7月14日より,パチスロ機「タイムクロスA」(以下「被告製品」という。)の製造販売をしている。
被告製品の構成を本件特許発明構成要件の分説に即して分説すると次のとおりである(以下「被告構成a」などという。)。
a スタート手段の操作により回転される複数のリールを備え,これらのリールが停止したときに表示窓に現われた絵柄の組み合わせで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて b@ 1ゲームごとに擬似乱数をサンプリングし, A サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとの照合により,次のように,0ないし6の領域番号を決定し, 【通常ゲーム中】 【内部当たりゲーム中】 B 通常ゲーム中は,上記Aで決定された領域番号に対応したデータ(領域番号と同一の数値データ。以下「領域番号データ」という。)を,所定RAM領域(以下「クジC」という。)に格納するとともに,領域番号データが5の場合(BB内部当たり中)には1を,6の場合(RB内部当たり中)には2を(以下,上記1又は2を,「ボーナスフラグ」という。),所定RAM領域(以下「イントヒット」という。)に格納し,内部当たりゲーム中は,上記Aで決定された領域番号データの数値をクジCに格納する。この際,イントヒットには,BB内部当たり中のときはボーナスフラグ1が,RB内部当たり中のときはボーナスフラグ2が格納され, c クジCに格納された領域番号データに基づいて,次のように定められた停止テーブル群を選択し,遊技者の停止ボタン操作により,当該停止テーブル群の中から使用する一つの停止テーブルが選択され,当該停止テーブルの設定に従ってコマ数をずらしてリールを停止させる。
【通常ゲーム中】 【内部当たりゲーム中】 d リールストップ制御によりリールが停止した後に有効ライン上に停止される入賞絵柄を読み,該当する当選役の入賞得られたか否かを判定する入賞判定処理をし, e 上記dの判定処理により,BB又はRB内部当たり中にもかかわらず,該当する入賞が得られなかった場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグ(BBの場合は1,RBの場合は2)をそのままにして,上記b@以降の内部当たり中の処理を繰り返し,上記dの判定処理により,該当する入賞が得られた場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグをクリアして(0にして),上記b@以降の通常遊技状態の処理に移行する f パチスロ機 (6) 被告構成a,b@,d,fは,構成要件A,B@,D,Fをそれぞれ充足する。
2 争点 (1) 被告構成bA,Bが構成要件BA,Bを充足するか(争点1) (2) 被告構成cが構成要件Cを充足するか(争点2) (3) 被告構成eが構成要件Eを充足するか(争点3) (4) 原告と補助参加人との間における本件特許の再実施許諾権付通常実施権許諾契約締結の合意の有無(争点4) (5) 本件特許権が無効事由を有することが明らかといえるか(争点5)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告構成bA,Bが構成要件BA,Bを充足するか) (原告) (1) 被告構成bAと構成要件BAの対比 被告構成bAの領域番号1ないし6は,第2,1(5)cの表記載のとおり,それぞれ,一つの入賞の種類に対応しているから,領域番号1ないし6の限度で,領域番号を決定することがすなわち入賞の種類を決定することを意味する。よって,被告構成bAの「サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとの照合により,0ないし6の領域番号を決定し」の構成は,領域番号1ないし6の限度で,構成要件BAの「サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちいずれかを決め」に当たる。
これに対し,被告は,領域番号0に対応する入賞が,通常ゲームの場合と内部当たり中ゲームの場合で異なる(第2,1(5)cの表を参照)ことをもって,領域番号が特定の入賞に対応しない価値中立的なものである旨主張するが,領域番号0は,本件特許請求の範囲における「入賞の種類に応じたリクエスト信号」に含まれないというのが原告の主張であるから不都合はない。
(2) 被告構成bBと構成要件BBの対比 被告構成bBは,上記被告構成bAによって決定された入賞の種類に応じた領域番号データないしボーナスフラグを発生させ,クジCないしイントヒットに格納する構成であるから,被告構成bBの「通常ゲーム中は,上記Aで決定された領域番号データを,クジCに格納するとともに,領域番号データが5の場合(BB内部当たり中)にはボーナスフラグ1を,6の場合(RB内部当たり中)にはボーナスフラグ2を,イントヒットに格納し,内部当たりゲーム中は,上記Aで決定された領域番号データの数値をクジCに格納する。この際,イントヒットには,BB内部当たり中のときはボーナスフラグ1が,RB内部当たり中のときはボーナスフラグ2が格納されている」は,構成要件BBの「その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段」に当たる。
(3) 以上によれば,被告構成bA,Bは構成要件BA,Bを充足する。
(被告) (1) 被告構成bAと構成要件BAの対比 原告は,領域番号1ないし6の限度で,領域番号を決定することがすなわち入賞の種類を決定することを意味すると主張する。
しかし,領域番号には0も存在し,領域番号の0が一つの入賞の種類に対応していないことからも分かるように,領域番号は価値中立的な領域を示す番号に過ぎず,入賞の種類に対応するものではない。したがって,領域番号を決定することがすなわち特定の種類の入賞を決定することにはならない。
したがって,被告構成bAの「サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとの照合により,次のように,0ないし6の領域番号を決定し」は構成要件BAの「サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちいずれかを決め」に該当しない。
(2) 以上によれば,被告構成bAは,構成要件BAを充足しない。
2 争点2(被告構成cが構成要件Cを充足するか) (原告) (1) 構成要件Cを文言どおり解した場合について ア 被告構成cのうち通常ゲーム中の停止制御について 通常ゲーム中は,被告製品の構成のうち,クジCに格納された領域番号データがリクエスト信号に当たる。
そして,被告構成cにおいては,前記第2,1(5)c記載のとおり,通常ゲーム中は,クジCに格納された領域番号データに対応した入賞が得られるように設定された停止テーブル群を選択するのであるから,クジCに格納された領域番号データすなわちリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるようにリールを停止制御しているということができる。したがって,通常ゲーム中において,被告構成cは構成要件Cの「このリクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」に当たる。
イ 被告構成cのうち内部当たりゲーム中の停止制御について 内部当たり中は,被告製品の構成のうち,イントヒットに格納されたボーナスフラグがリクエスト信号に当たる。
そして,被告構成cは,前記第2,1(5)c記載のとおり,あらためて擬似乱数をサンプリングして決定された領域番号が0の場合及び2の場合の一部には,イントヒットに格納したボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られるように設定された停止テーブル群が選択されるのであるから,イントヒットに格納されたボーナスフラグすなわちリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるようにリールを停止制御しているといえる。したがって,内部当たり中ゲームにおいて,被告構成cは構成要件C「このリクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」に当たる。
なお,被告製品の内部当たり中ゲームにおいては,あらためて擬似乱数をサンプリングして決定された領域番号が1,3,4の場合及び2の場合の一部には,イントヒットに格納されたボーナスフラグに対応した当選役ではなく,領域番号に対応した当選役が得られるように停止制御するという構成を有している。しかしながら,かかる構成は付加的構成にすぎない。すなわち,上記のような付加的構成の有無にかかわらず,被告製品は,内部当たり中に,通常ゲームとの比較において,イントヒットに格納されたボーナスフラグすなわちリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られやすい処理(通常ゲームであれば外れとなる擬似乱数及び通常ゲームであればチェリー役となるはずの擬似乱数がサンプリングされた場合であっても,イントヒットに格納したボーナスフラグ(リクエスト信号)に応じた種類の入賞が得られるように停止制御し,イントヒットに格納したボーナスフラグ(リクエスト信号)に対応した種類の入賞が得られない限り,このような処理を続けるという処理)を行うことによって,被告製品は,入賞確率の低下を防止するという本件特許発明と同様の作用効果を有している。
したがって,上記付加的構成の有無にかかわらず,被告製品は,内部当たり中ゲームにおいても,イントヒットに格納したボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られるようにリールを停止制御しているということができる。
ウ 小括 以上によれば,被告構成cの「クジCに格納された領域番号データに基づいて,第2,1(5)c記載の表のように定められた停止テーブル群を選択し,遊技者の停止ボタン操作により,当該停止テーブル群の中から使用する一つの停止テーブルが選択され,当該停止テーブルの設定に従ってコマ数をずらしてリールを停止させる」構成は,構成要件Cの「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」を充足する。
(2) 構成要件Cを限定解釈すべきかについて 構成要件Cの「リールストップ制御手段」の意味は,文言どおりである。
被告は,構成要件Cの記載が不明瞭であり,かつ,構成要件Eの記載と矛盾するとして,実施例に限定すべきである旨主張する。しかし,このように装置の作用や動作により装置を定義する方法は,昭和57年12月に特許庁が公表した「マイクロコンピュータ応用技術に関する発明についての審査運用指針」で許容されている「機能を達成する仕方を示す一連の記載により表現」する典型例である。
また,構成要件Cと構成要件Eについては,当業者が本件明細書の課題の開示に基づいて矛盾なく理解できる。よって,被告の主張は理由がない。
(3) 以上のとおり,構成要件Cは文言どおり解釈されるべきであり,構成要件Cを文言どおり解釈すると,被告構成cは構成要件Cを充足する。
(被告) (1) 構成要件Cを文言どおり解した場合について ア 被告構成cのうち通常ゲーム中の停止制御について 被告製品は,通常ゲーム中は,領域番号に対応した種類の入賞が得られる可能性があり,それ以外の入賞図柄が揃わないように設定された停止テーブル群が選択される。
イ 被告構成cのうち内部当たり中ゲーム 被告製品は,内部当たり中ゲームにおいては,必ずしもボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られる可能性のある停止テーブルが選択されるわけではない。すなわち,内部当たり中ゲームにおいては,当該ゲームで決定された領域番号が1,3,4の場合には,ボーナスフラグに対応する種類の入賞(BB又はRB)が得られる可能性がない停止テーブル群が選択され,領域番号が2の場合には,ボーナスフラグに対応する種類の入賞(BB又はRB)だけでなくチェリー役も得られる可能性がある停止テーブル群が選択される(前記第2,1(5)c記載の表)。したがって,内部当たり中ゲームにおいて,ボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られるようにリールを停止制御しているということはできない。
ウ 小括 したがって,被告構成c「クジCに格納された領域番号データに基づいて,第2,1(5)c記載の表のように定められた停止テーブル群を選択し,遊技者の停止ボタン操作により,当該停止テーブル群の中から使用する一つの停止テーブルが選択され,当該停止テーブルの設定に従ってコマ数をずらしてリールを停止させる」の構成は,構成要件Cの「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」とは構成を異にする。
(2) 構成要件Cを限定解釈すべきか ア 構成要件Cの解釈 本件特許発明構成要件Cの記載は,単にその機能を表現したものにすぎず,リールストップ制御手段の定義は不明瞭である。
また,構成要件Cは,構成要件Eと矛盾している。すなわち,リールストップ制御手段が,構成要件Cのとおり,リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するものであるならば,構成要件Eのように「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られない」という事態は生じないはずである。
そこで,構成要件Cの「リールストップ停止制御手段」は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を斟酌して解釈する必要がある。また,本件特許発明の出願は,特願昭58-61592号(乙1の12。以下「親出願」という。)の分割出願であるという事情があり,構成要件Cを解釈するに当たって,親出願の出願経緯を斟酌することが有効である。さらに,本件特許に適用された特許庁の審査基準を考慮することも有効である。審査基準を考慮しないと,審査の対象になっていない範囲にまで権利を認めることになりかねないからである。
そして,本件明細書の実施例(後記(ア)),親出願に係る明細書(後記(イ)),親出願の出願経緯において作成された書面(後記(ウ)及び(エ))には次のような記載があるから,構成要件Cの「リールストップ制御手段」は,「@ストップボタン操作時のリール位置(コードナンバーによって表す)と,リール上の絵柄が記載された『テーブル』とを対比(監視)して,Aリクエスト信号に対応するシンボルコードがストップボタン操作時のリール位置から4コマ先の範囲内にあるかどうかを判断し,Bそのシンボルコードまでのコマ数分の駆動パルスをモータに出力してその位置でリールを停止する手段」であると限定解釈すべきである。
(ア) 本件明細書の実施例 「ストップボタンが押された時点でのリールの位置から,これに後続したシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマークが何であるかをチェックし,すでにセットアップされているヒットリクエストを満足するシンボルマークの組み合わせを得るために必要なシンボルマークがその範囲内にあればそこでリールを停止させる」(甲4・9頁29行ないし32行,乙1の8・9欄44行ないし10欄1行) (イ) 親出願に係る明細書 「本発明スロットマシンでは,ゲーム毎にサンプリングされる乱数値を予め設定記憶された入賞確率テーブル中の数値と照合してその入賞を決定するようにしてある。そして,こうして決定された入賞に見合うシンボルマークの組み合せが得られるように,あるいは得られ易いように,各リールをリールストップボタンが操作されてから停止させるまでの間に監視制御するものである。」(乙1の12・2頁左下欄18行ないし同右下欄6行) (ウ) 親出願の審査過程における平成2年1月26日付意見書 「本発明では,乱数値を確率テーブルと照合して,そのゲームで発生させるべき入賞ランク(ハズレも含む)に応じたリクエスト信号を発生させ,このリクエスト信号が満足されるようにリールのストップ位置を決めるようにしています。したがって,リールの停止制御は,予定された特定の絵柄の組み合わせが得られるように行われるのではなく,リクエスト信号を満足させる絵柄の組み合せとなるように行われるものであって,リールが停止するまでは実際の絵柄の組み合せは特定されていない」(乙3・3頁17行ないし4頁7行) (エ) 親出願の審査過程における平成5年1月11日付け特許異議答弁書 「入賞ランクが決まれば,その入賞ランクに属するシンボルマークの組み合せになるように各リールが停止されるもので,リール内に複数の同一シンボルマークが存在すれば,そのどのシンボルマークの位置でも停止させてよいものである。また,入賞ランク内に複数のシンボルマークの組み合せになるように各リールを停止させればよいものであって,入賞ランクによって決まるものは,シンボルマークの組み合わせであって各リールの停止位置ではない。」(乙4・10頁3行ないし13行) イ 被告構成cと構成要件Cの対比 被告構成cでは,領域番号等とストップボタン操作のタイミングによって一つの停止テーブルが選択されると,当該停止テーブルに進めるべきコマ数が記載されているので,@ストップボタン操作時のリールの位置とテーブルとを対比することはなく,Aストップボタン操作時のリール位置とリール上の絵柄が記載されたテーブルとを対比して何コマ進めるべきかという判断をすることはない。
そうすると,被告構成cは限定解釈した構成要件C「@ストップボタン操作時のリール位置(コードナンバーによって表す)と,リール上の絵柄が記載された『テーブル』とを対比(監視)して,Aリクエスト信号に対応するシンボルコードがストップボタン操作時のリール位置から4コマ先の範囲内にあるかどうかを判断し,Bそのシンボルコードまでのコマ数分の駆動パルスをモータに出力してその位置でリールを停止する手段」と明らかに構成を異にする。なお,被告構成cの制御手段は,本件特許の出願後に明らかにされた技術であって,出願当時原告が認識していなかった技術までをも本件特許の技術的範囲に含むとすることは,第三者の利益を不当に害する。
(3) 以上のとおり,構成要件Cは限定解釈されるべきであり,限定解釈した場合には,被告構成cは構成要件Cの構成を充足しない。仮に構成要件Cを限定解釈せずに文言どおり解釈したとしても,被告構成cは,構成要件Cを充足しない。
3 争点3(被告構成eが構成要件Eを充足するか) (原告) (1) 構成要件Eの意味は,文言どおりである。
この点につき,被告は,構成要件Eの「当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する」とは,次回のゲームにおいても,当該リクエスト信号に対応する種類の入賞をリクエストすることを意味する旨主張するが,リクエスト信号を保存する手段を有している以上,次回ゲームにおいて,リクエスト信号に対応した種類の入賞をリクエストしない場合があったとしても,構成要件Eを充足することに変わりない。
(2) 被告構成eにおいては,内部当たり中にもかかわらず対応した入賞が得られなかった場合には,クジCに格納された領域番号データをAレジスタにおいて演算してボーナスフラグ1又は2に形を変えて,対応した種類の入賞が得られるまで,イントヒットに格納保存する。
なお,被告製品においては,リクエスト信号(イントヒットに格納される領域番号データ)を保存した後,あらためて乱数をサンプリングして領域番号を決定し,この領域番号が1ないし4の場合には,保存されたリクエスト信号に応じた当選役ではなく,領域番号に応じた当選役が得られるように停止制御する構成を有しているが,次回ゲームにリクエスト信号を持越す構成を有する限り,次回ゲームで必ずしも保存されたリクエスト信号に対応する入賞が実現するように構成されていなかったとしても,構成要件Eを充足することに変わりない。
被告製品は,このように,あらためて乱数をサンプリングして領域番号を決定するという付加的構成を有しているが,かかる構成は付加的構成にすぎない。
すなわち,通常ゲームの場合であれば,外れとなるはずの,領域番号0の場合及び通常ゲームの場合であればチェリー役となるはずの領域番号2の場合であってかつ4コマの範囲にチェリー役当選図柄が揃わない場合には,保存されたリクエスト信号(イントヒットに格納されたボーナスフラグ)に応じた入賞が得られるように停止制御されるから,入賞確率の低下を防止する効果を有することに変わりはない。
そもそも,領域番号1ないし4に対応する役はいずれも小役であり,そのような小役の当選においては,RB,BBほど当選確率が低くないので,リクエスト信号を保存しなくても,「入賞のペイアウト率が低く抑えられているため,ストップボタンの操作タイミングが不適当なために入賞を逃してしまうと,その後しばらくの間,入賞がえられない」という本件特許発明における課題は生じない。
(3) 以上によれば,被告構成eは,構成要件Eを充足する。
(被告) (1) 構成要件Eの「当該リクエスト信号を次回ゲームまで保存する」という意味は,次回ゲームにおいてもBBないしRB役が当選したのと全く同じ状態(すなわち,BBないしRBをリクエストする状態)でゲームをするということを意味していると解される。
(2) これに対し,被告製品においては,内部当たり中に,再び擬似乱数の抽選を行い,その抽選結果にによっては,BBないしRBに入賞する可能性がない停止テーブル群を選択することがある。すなわち,あらためてサンプリングされた擬似乱数の属する領域番号が1,3,4の場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグに対応する種類の入賞(BB又はRB)が得られる可能性がない停止テーブル群が選択され,領域番号が2の場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグに対応する種類の入賞(BB又はRB)だけでなくチェリー役も得られる可能性がある停止テーブル群が選択され,遊技者のストップボタンの操作,投入メダル数によっては,チェリー役がリクエストされることになる。
被告製品においては,内部当たり中は,通常ゲーム中とは異なるコンピュータプログラムに移行することにより,通常ゲーム中よりBB又はRBの入選図柄が揃う停止テーブル群が増え(領域番号0及び2の場合),BB又はRB役に入賞する確率が増えるというにとどまり,内部当たり中ゲームにおいて,BB又はRBをリクエストしている(したがって,BB又はRBに対応したリクエスト信号を保存している)わけではないのである。
なお,そもそも,原告がリクエスト信号であると主張するイントヒットに格納されたボーナスフラグは,特定の種類の入賞をリクエストする信号ないし内部当たり中ゲーム用のプログラムに移行させる信号ではなく,内部当たり中であることを示すデータであり,内部当たり中の演出(音,光,リーチ目)のために参照されるものである。内部当たり中ゲーム用のプログラムに移行させる際に参照されるのは,Aレジスタに格納された数値である。Aレジスタに格納される数値は,イントヒットに格納されたボーナスフラグの値から1を引いた値である。
したがって,被告構成e「被告構成dの判定処理により,BB又はRB内部当たり中にもかかわらず,該当する入賞が得られなかった場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグ(BBの場合は1,RBの場合は2)をそのままにして,被告構成b@以降の内部当たり中の処理を繰り返し,上記dの判定処理により,該当する入賞が得られた場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグをクリアして(0にして),上記b@以降の通常遊技状態の処理に移行する」は,構成要件Eの「この判定手段により前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたことを特徴とする」構成に当たらない。
(3) 以上によれば,被告構成eは,構成要件Eを充足しない。
4 争点4(原告と補助参加人との間での本件特許権を対象とする再実施許諾権付通常実施権許諾契約の成否) (補助参加人) 原告は,補助参加人との間で本件特許権につき再実施許諾権付通常実施権許諾契約を締結し,補助参加人は,被告との間で,本件特許権につき再実施権許諾契約を締結した。
すなわち,原告及び被告を含むパチスロ機製造業者等は,集団的契約関係を締結した。その内容は,同契約関係の参加者が,同契約関係の参加者の有する特許権を実施するについて,1台につき2000円の証紙を購入し,補助参加人は,上記証紙の代金のうち1000円を実施許諾されている特許の保有数に応じたポイント数により按分した額を当該特許権等を保有する参加者に対して支払うというものであった(いわゆるパテントプール方式)。本件特許権は,上記「同契約関係の参加者の有する特許権」であって,本件パテントプール方式の対象となる特許権であった。
本件特許権が本件パテントプール方式の対象であることは,次のような事情から明らかである。パテントプール方式による実施許諾契約がなされる場合には,契約締結当時に存在する特許権等のみならず,契約当時者が将来取得する特許権等をも実施許諾の対象にするのが通常である。また,本件においては,パチスロ機製造業者間の特許権等をめぐる紛争を継続的に回避することを目的としていわゆるパテントプール方式による実施許諾の合意をしたところ(丙11ないし16,28),パチスロ機製造業者間の特許権等をめぐる紛争を継続的に回避するという目的を達するためには,契約当時者が,将来取得する一切の特許権等を実施許諾の対象にする必要があった。このことは,原告ないし原告代表者岡田和生自身が認めているところである(丙77ないし82)。
したがって,原告は,補助参加人との間で,本件特許権を含む特許権等について,実施権許諾契約を締結したというべきである。
なお,原告と補助参加人との間で,特定の特許権を記載した契約書添付の目録(丙46,51)を作成したことはあったが,これは,実施許諾の対象となる特許権を当該目録記載の特許に限定する趣旨ではない。参加者の保有する特許権のうち,実際に参加者によって実施されているものを,実施許諾料の支払の算定のために記載したものである。このことは,原告が,平成7年7月20日に,補助参加人に対し,上記目録に記載されていなかった特許権(特公平5-74391)について,参加者が製造使用しているパチスロ機が,同特許権の技術的範囲に属する(したがって,許諾料支払額算定のためのポイントに加えるべきである)旨の書面(丙76)を提出していることからも明らかである。
(原告) 原告は,補助参加人との間で,パチスロ機の特許権等を対象とする実施権許諾契約を締結し,補助参加人は,被告との間で,当該特許権等についての再実施権許諾契約を締結していたが,本件特許は,上記実施権許諾契約の対象に含まれていない。
すなわち,原告と補助参加人が,当該実施権許諾契約について作成した契約書(丙51)には,「甲(原告)は乙(補助参加人)に対して,別紙目録記載の工業所有権等について,本契約の定めに従い通常実施権を許諾する。」と定められており,同目録には,本件特許権が記載されていない。
5 争点5(本件特許権が無効事由を有することが明らかといえるか) (1) 前提となる事実(証拠を併記) ア 昭和58年4月8日に,本件特許発明の原出願がなされた(親出願)。
同出願に係る明細書中の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(乙1の12)。
「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと,これらのリールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて,前記リールの回転駆動後に,順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサンプリング手段と,前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを比較照合する手段と,前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として出力するリクエスト発生手段と,前記リクエスト信号を評価し,前記リールのストップ位置を設定すると共に,前記リールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン」 イ 平成2年1月27日に,上記出願を親出願とする分割出願がなされた(本件特許出願)。本件特許出願の際の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲2)。
「スタート手段の操作により回転される複数のリールを備え,これらのリールが停止したときに表示窓に現われた絵柄の組み合せで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて,1ゲームごとに乱数をサンプリングし,サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちのいずれかを決め,その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段と,このリクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段と,リールストップ制御手段によりリールが停止した後にリールの停止位置を読み取り,前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段と,この判定手段により前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」 ウ 平成9年4月28日に,本件特許出願に対して特許異議が申し立てられた(甲1。以下「本件特許異議申立」という。)。
エ 平成10年1月30日,原告は,本件特許出願に係る明細書の訂正請求を申し立てた(乙1の4。以下「本件訂正請求」という。)。同訂正請求の内容は,次の(ア)ないし(エ)のとおりであった(以下「本件訂正事項(ア)」などという。)。
(ア) 「得られるがペイアウト率を一定に保つために,リクエストカウンタが利用される。すなわち,前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが「+1」され,RAM上にストアされる。そしてヒットした際にそのリクエストカウンタは「-1」の減算処理が行われる。また,ヒットしない場合にはそのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが「0」になるまでヒットリクエストが発生し,このためペイアウト率は一定に保たれる。これは,第11図に示したフローチャートにより処理される。」(明細書17頁20行ないし18頁11行。本件公報8欄29行ないし39行)を明瞭でない記載釈明を目的として「得られる」と訂正する。
(イ) 「この場合は,ヒットリクエスト通りの入賞が得られなくなってしまうが,発生されたヒットリクエストは,次回のゲームに持ち越されて利用されることになるから,ペイアウト率に変化はない。」(明細書27頁10行ないし14行,本件公報11欄47行ないし50行)を,明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
(ウ) 「また,ヒットリクエスト発生時に第2リールの停止処理を行った結果,ヒットリクエスト通りの入賞が得られないことが分かると,第1リールのときと同じように,ハズレ処理に以降(移行の誤記)するとともに,そのヒットフラグが保持されるようになる。」(明細書31頁1行ないし6行,本件公報13欄9行ないし14行)を明瞭でない記載釈明を目的として削除する。
(エ) 「持ち越され」(明細書34頁14行,本件公報14欄23行)を,明瞭でない記載釈明を目的として,「持ち越される。すなわち,第25図のフローチャートにおいて,入賞か?の判定でNOの場合は,YESの場合と異なり,ヒットリクエストの減算は行わない。このように,入賞か?の判定でNOの場合はヒットリクエストの減算は行わないという処理により,リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段を構築している。尚,持ち越しとは,その文言の意味通り,残して次に送ることをいい,保存とは,同じくその文言の通り,そのままの状態を保って失わないことをいい,いずれもヒットリクエストが次回のゲームに用いられる点で同じ意味である。こうして,」と訂正する。
オ 特許庁は,同年7月30日,本件訂正請求について,拒絶理由通知をした。同拒絶理由通知には次のような記載がある(乙1の6・3頁6行ないし4頁18行)。
「本件発明‥‥‥は,『リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えた』という構成要件を含むものである。しかし,上記構成要件の技術的な裏付け(根拠)となる明細書の記載は,まさに,上記訂正1,2,3(本件訂正事項(ア),(イ),(ウ)を指す。以下同じ。)における訂正該当箇所‥‥‥のみであるから,上記訂正1,2,3により,本件発明の構成要件と関連する記載を削除することは,本件発明の上記構成要件にかかる構成を不明確にすることになる。ところで,訂正請求人(特許権者)は,‥‥‥訂正4(本件訂正事項(エ)を指す。以下同じ。)により,第25図のフローチャートについての説明を補充することにより,上記構成要件の技術的な裏付け(根拠)としようとしているが,第25図のフローチャートからは,『入賞か?の判定でNOの場合は,YESの場合と異なり,ヒットリクエストの減算は行わない。』こと以外何ら把握することができず,即ち,上記構成要件に関する事項である『リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する』ことが記載されているとはとうてい認めることができないから,この訂正4によっても上記訂正1,2,3により不明確にされた本件発明の上記構成要件に係る構成は依然として不明確のままである。したがって,上記訂正1〜4の内容は,明瞭でない記載釈明に該当するものと認められない。」 カ 同年10月16日に,原告は,次の(ア)のような記載のある特許異議意見書を提出するとともに,本件訂正事項(エ)の内容を次の(イ)のとおり補正した(乙1の7・3頁,乙1の5。以下,補正後の本件訂正事項(エ)を「補正後の訂正事項(エ)」という。)。
(ア) 「ここで,ゲーム開始時に得られていたヒットリクエストとは,上述のとおり,特許公報第4頁左欄第39行〜右欄第4行‥‥‥及び同第6頁左欄第8行〜第12行‥‥‥より,スタートレバー操作後の所定タイミング時点の乱数サンプリングと入賞確率テーブルの照合とによりその発生が判断され,第14図RAM5の該当エリアにセットされたフラグのことであります。従って,4コマずれの範囲内で該当シンボルがなく入賞が得られない場合,ヒットリクエストの減算はしないのでありますから,RAM5のフラグはセットされたままとなり,このことは,次回のゲームにフラグが持ち越されることに他ならないのであります。ゲームのたびに自動的にフラグが消えてしまうのなら入賞が得られた場合にヒットリクエストをわざわざ減算する必要はなく,ヒットリクエストの減算を行わない点はまさしくリクエストリクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段を構築するものであります。」 (イ) 「入賞か?の判定でNOの場合はヒットリクエストの減算は行わないという処理により,リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段を構築している。」の部分を「入賞か?の判定でNOの場合はヒットリクエストの減算は行わないという処理により,第14図RAM5の該当エリアにセットしたフラグをそのままとすることにより,リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段を構築している。」と補正する。
キ 特許庁は,平成11年12月28日,本件訂正請求を認めるとともに,本件特許異議申立に対し,本件特許を維持する旨の決定をした(以下「本件訂正」という。)。同決定には,次のような記載がある(乙1の2・3頁4行ないし12行)。
「当該補正は,『リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段』について,特許明細書(特許掲載公報3頁6欄4〜6行,6頁11欄8〜12行7頁13欄46行〜14欄10行)又は図面(第5,11,14,22,25図)に記載された事項の範囲内で説明を加えるもので,明りょうでない記載の釈明に相当するから,訂正請求書の要旨を変更するものではなく,特許法第120条の4第3項で準用する特許法第131条第2項の規定に適合するので,採用する。」 (2) 当事者の主張 ア 訂正要件違反(123条1項8号,126条2項,120条の4第2項ただし書違反) (被告) 本件訂正は,特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項及び同法120条の4第2項ただし書に違反してなされたものである。
すなわち,本件訂正前の図面(第25図及び第5図)は,リクエスト信号を次回ゲームまで保存する具体的手段を記載したものであるが,リクエスト信号を保存する対象は記載されていない。そこで,第25図及び第5図と同様,入賞の有無に応じてヒットリクエストを減算するという処理について記載された第11図をみると,第11図は,リクエストカウンタを対象に減算処理を行うものであるから,第25図もリクエストカウンタを対象にしたものであると解される。リクエスト信号を次回ゲームまで保存する具体的手段として,リクエストカウンタを用いる方法(入賞の場合にはヒットリクエストを減算し,入賞でない場合にはヒットリクエストを減算しない方法)が開示されており,RAM5にセットされたフラグは減算処理の対象とはされていない(当該ゲームにおける停止制御を行うための信号である。)。これに対し,本件訂正後の明細書には,リクエスト信号を次回ゲームまで保存する具体的手段として,入賞が得られない場合にはフラグをそのままにする方法が開示されている(補正後の訂正事項(エ))。
よって,補正後の本件訂正事項(エ)は,特許請求の範囲に記載された「リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」を異なる構成に変更するものであるから,特許の設定登録時の明細書に記載した事項の範囲内の訂正とはいえない。
(原告) 特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項の新規事項の加入禁止要件は,設定登録時の明細書(乙1の8)及び図面に記載された事項又は該事項から直接的に導き出せる事項の範囲内の訂正である限り,適法である。
そして,補正後の訂正事項(エ)は,設定登録時の明細書及び図面に記載された事項の範囲内で本件特許発明における保存手段の実施態様を明らかにしたものにすぎず,新規事項の追加に当たらない。
すなわち,設定登録時の明細書及び図面には,次のような記載がある。
(ア) 「RAM5には,大ヒットエリア5a,中ヒットエリア5b,小ヒットエリア5c,ヒットなしのエリア5dが用意されており,ヒットリクエストに応じてこれらのいずれかのエリアにフラグがセットされる。」(本件公報11欄8行ないし12行) (イ) 第14図のRAM5の概念図(中ヒットリクエストが数値『1』として該当エリアにフラグがセットされることを示す記載) (ウ) 「‥‥‥第3リールがストップすると,第25図に示したフローチャートによる処理が実行される。すなわち,第3リールの停止により,窓に現われている全てのリールのシンボルマークが確定し,これで第14図に示した各RAMエリアが全てのリールのシンボルマークが確定し,これで第14図に示した各RAMエリアが全てのデータをもつことになる。そして,この時点で,‥‥‥入賞の場合にはそのゲーム開始時に得られていたヒットリクエストを減算」(本件公報13欄46行ないし14欄3行) (エ) 「ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合には,そのヒットリクエストが次回のゲームに持ち越され,再びこのヒットリクエストを用いてリールの停止制御が実行される」(本件公報14欄21ないし24行) (オ) 第25図(全リール停止後の入賞判定において,入賞か?の判断処理でYESの場合にはヒットリクエストを減算し,NOの場合には記憶領域に格納されているヒットリクエストを減算せず,すなわち保存したままゲームを終了することを示すものが記載されている。) 被告は,設定登録時の明細書には,リクエストカウンタを使った保存手段が記載されていただけで,RAM5を使った保存手段は記載されていなかった旨主張するが,RAM5を使った保存手段は,上記(ア)に記載されていた。また,第25図は減算処理を施す対象を特に限定していないものであって,第11図と一対一で対応するわけではない。むしろ,リクエスト信号に応じて「1」を一時記憶領域に加算し,リクエスト信号に応じた入賞が得られた場合には「-1」の減算処理をし,当該数字が「0」にならない限り当該リクエストが次回ゲームに持ち越される保存手段が記載されている以上,一時記憶領域が,リクエストカウンタであるかRAM5であるかは重要な問題ではない。
よって,本件訂正は,適法であり,本件特許に123条1項8号の無効理由は存在しない。 イ 分割要件違反を前提とする進歩性欠如 (被告) 分割出願が認められるためには,@原特許出願願書の明細書又は図面中に二つ以上の発明が包含されていること,A分割出願の特許発明の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項の全てが,原特許出願願書の明細書又は図面中に,当業者においてこれを正確に理解し,かつ,容易に実施することができる程度に記載されていることが必要である。
本件特許出願は,元の特許出願の当初明細書中に全く記載されていない事項を特許請求の範囲とした分割出願であり,上記分割の要件のAを具備しない違法がある。
すなわち,昭和58年の出願の際には,ヒットリクエストが発生した際に,その数値に-1の減算処理を行うことによってリクエストカウンタを0にし,それ以降は,当該ヒットリクエストが発生しても無効化するという方法によりヒットリクエストのペイアウト率を一定に保つ構成が開示されていた(乙1の12。特開昭59-186580号公報・5頁左下欄17行ないし右下欄6行,第11図,第5図,第25図)ものの,フラグをそのままにすることによって,リクエスト信号を保存する構成の記載はなかった。当初明細書には,「ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合には,そのヒットリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい。」(同公報9頁右下欄18行ないし10頁左上欄1行)旨の記載があるが,これ以上の説明はない。
したがって,本件出願は,分割要件を欠く出願であったから,出願日の遡及(特許法44条2項)はなく,現実の出願日である平成2年1月27日に出願されたものとして取り扱われるべきである。
そうすると,本件特許発明は,出願前の刊行物である特開昭59-186580号公報(乙1の12)に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到することができた発明であるから,特許法29条2項,123条1項2号により無効とされるべきことは明らかである。したがって,本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用である。
すなわち,特開昭59-186580号公報(乙1の12)には,次のような発明が記載されている。
「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールを備え,これらのリールが停止したときに表示窓に現われたシンボルマークの組み合わせで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて,1ゲームごとに乱数をサンプリングし,サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちのいずれかを決め,その入賞の種類に応じたヒットリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段と,このヒットリクエスト信号に基づいてヒットリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段と,リールストップ制御手段によりリールが停止した後にリールの停止位置を読み取り,前記ヒットリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する入賞判定手段と,前記ヒットリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該ヒットリクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたスロットマシン」 上記発明と本件特許発明とは,リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回ゲームまで保存する手段が,入賞が得られたか否かの判定手段に基づいて制御されるか否かの点で相違があるに過ぎないが,入賞が得られたか否かの判定手段に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回ゲームまで保存する手段を構築することは,当業者が容易に想到できることである。
(原告) 被告は,本件特許出願は,元の特許出願の当初明細書中に全く記載されていない,「RAM5のフラグをそのままにすることによってリクエスト信号を保存する手段」を特許請求の範囲とした分割出願である旨主張する。
しかし,当初明細書には,次の(ア)及び(イ)の記載があり,「フラグをそのままにすることによってリクエスト信号を保存する手段」が記載されていたというべきである。
(ア) 「ヒットリクエストに対応したシンボルが4コマずれの範囲内に存在しないこと等に起因しヒットリクエストを満足できないことがあり,その場合には設定された入賞確率の低下を生ずる。」(特開昭59-186580号公報9頁右下欄11ないし18行)ことを改題として,「ヒットリクエストが発生されながらもゲーム開始時に得られていたヒットリクエストを次回のゲームまで保存する」(同公報同頁同欄18行ないし10頁左上欄1行)ことを解決手段とし,「入賞確率を適正化する」(同公報9頁右下欄16行ないし18行)効果を有することが記載されている。
(イ) ヒットリクエストが大ヒット,中ヒット,小ヒット,ヒットリクエストなしの4種類発生し(同公報4頁右下欄1ないし5行),このヒットリクエストがセットアップされ(同公報7頁左上欄12ないし17行),第2リール停止後の第3リールのコードナンバーに応じた入賞の可能性,ないし第3リール停止後の入賞の結果を数値「1」というフラグとしてRAM領域に格納する(同公報第21図のヒットフラグ,第14図のRAM5)。
また,分割出願の特許請求の範囲には,当初明細書に記載されている事項のほか,当業者にとって自明な事項を記載することも許されるところ,本件特許の特許請求の範囲に記載された「ヒットリクエストを保存する手段」がマイコン上のRAM領域であることは,当業者はもちろんマイクロコンピュータの基礎知識を有するものであれば直ちに理解できる事項であるから,分割出願である本件特許出願の特許請求の範囲に「RAM5のフラグをそのままにすることによってリクエスト信号を保存する手段」を記載することは何ら分割要件に違反するものではない。
ウ 小括 (被告) 以上のとおり,本件特許権は無効事由を有することが明らかであり,本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たり許されない。本件特許権については,平成15年11月17日付で,本件特許権を無効とする旨の特許庁の審決(無効2002-35391,無効2002-35443)が成されている(乙7)。
当裁判所の判断
1 争点1(被告構成bA,Bが構成要件BA,Bを充足するか)について (1) 被告構成bAと構成要件BAの対比 被告構成bAは,サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとを照合することにより,領域番号を決定するというものである。
擬似乱数と参照される領域確率テーブルは,あらかじめ定められているものであるから(弁論の全趣旨),擬似乱数が定まれば領域番号は一義的に定まる。
そうすると,「サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとを照合することにより,領域番号を決定する」という構成は,「サンプリングされた乱数に対応して領域番号を決定する」構成ということができる。
また,領域番号が定まれば領域番号データが一義的に定まり(被告構成bB),領域番号データに応じて停止テーブル群が定まり,停止テーブル群にはリクエストする入賞が定められているから(被告構成c)通常ゲームにおいても,内部当たり中ゲームにおいても,領域番号が定まれば複数種類の入賞のうちいずれかが定まるということができる(通常ゲームにおいて領域番号が,1のときはリプレイ役,2のときはチェリー役,3のときはスイカ役,4のときはベル役,5のときはBB役,6のときはRB役,0のときは外れと定まり,内部当たり中ゲームにおいて領域番号が1のときはリプレイ役,2のときはチェリー役,3のときはスイカ役,4のときはベル役,0のときはBB役又はRBと定まる。)。
この点,内部当たり中ゲームにおいては,領域番号が0の場合には,BBとRBのいずれであるか決定しないかのようにも思われるが,当該ゲームがBB内部当たり中ゲームであるのか,RB内部当たり中ゲームであるのかによって,BBとRBのいずれであるかが決定され,各内部当たり中ゲームにおいて,領域番号が決定される段階では,いずれの内部当たり中ゲームであるかが定まっているのであるから,内部当たり中ゲームにおいても,領域番号が定まれば複数種類の入賞のうちいずれかが定まるというべきである。さらに,領域番号が0の場合には,内部当たり中ゲームと通常ゲームとで対応する入賞の種類が異なるが,各ゲームの領域番号が決定される段階では,当該ゲームが通常ゲームであるか内部当たり中ゲームであるかが定まっているのであるから,領域番号が0の場合であっても,「領域番号」が定まれば「複数種類の入賞のうちいずれかが定まる」というべきである。
したがって,「サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとを照合することにより,領域番号を決定する」という構成は,「サンプリングされた乱数に対応して領域番号を決定している」構成ということができ,「領域番号」が定まれば「複数種類の入賞のうちいずれかが定まる」ということができるから,被告構成bA「サンプリングされた擬似乱数と領域確率テーブルとの照合により,0ないし6の領域番号を決定し」は,構成要件BA「サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちいずれかを決め」に該当する。
(2) 被告構成bBと構成要件BBの対比 ア 通常ゲーム中の構成について 被告構成bBは,通常ゲームにおいては,被告構成bAで決定された領域番号データをクジCに格納する構成を有する。そして,クジCに格納された領域番号データに応じて,当該領域番号に対応する種類の入賞が得られる可能性があり,それ以外の入賞図柄が揃わないように設定された停止テーブルが選択されるのであるから,クジCに特定の領域番号データを格納することは,当該領域番号に対応する入賞が得られるようにリクエストする構成ということができる。したがって,被告構成bBの「通常ゲーム中は,被告構成bAで決定された領域番号データをクジCに格納する」という構成部分は,構成要件BBの「その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段」ということができる。
イ 内部当たり中ゲームの構成について 内部当たり中ゲームにおいては,原告の主張するように,イントヒットにボーナスフラグ1ないし2が格納されている状態をもって,当該ボーナスフラグに対応する種類の入賞をリクエストしているということはできない。すなわち,内部当たり中ゲームにおいては,あらためてサンプリングされた乱数に応じて決定された領域番号が1,3,4の場合には,ボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られる可能性のない停止テーブルが選択され,領域番号が2の場合には,遊技者の投入メダル枚数やストップボタン操作のタイミングによっては,ボーナスフラグに対応した種類の入賞ではなく,チェリー役の入賞が得られる可能性があり,それ以外の入賞図柄が揃わないように設定された停止テーブル群が選択されるのであるから,イントヒットに特定のボーナスフラグを格納することが,当該ボーナスフラグに対応する入賞が得られるようにリクエストする構成ということはできない。
この点について,原告は,ボーナスフラグを保存する状態においては,当該ボーナスフラグに対応した入賞を得られやすいプログラムで処理していることをもってボーナスフラグに対応した種類の入賞をリクエストしているというべきであると主張する。
しかし,本件明細書の特許請求の特許請求の範囲には「リクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」と記載されている。また,本件明細書には次の(ア)ないし(エ)の記載がある。
(ア) 本件明細書の特許請求の範囲 「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」 (イ) 本件明細書の詳細な説明における「発明の目的」の項(本件公報4欄16行ないし21行) 「サンプリングされた乱数によって入賞が予定されながら,リールが停止したときに予定いた(ママ)入賞が得られなかった場合でも,ペイアウト率に変動をきたさないようにしたスロットマシンを提供することを目的とする。」 (ウ) 本件明細書の詳細な説明における「作用」の項(本件公報4欄39行ないし42行) 「リクエスト信号を満足する入賞が得られない場合には,前記リクエスト信号は次回のゲーム以降に持ち越されるから,そのリクエスト信号を有効に生かすことができる」 (エ) 本件明細書の詳細な説明における「実施例」の項(本件公報14欄21行ないし25行) 「ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合には,そのヒットリクエストが次回のゲームに持ち越され,再びこのヒットリクエストを用いてリールの停止制御が実行されるから,ペイアウト率が変わることはない。」 以上によれば,本件特許発明は,入賞を得られなかったリクエスト信号を次回ゲームの停止制御においても使用することによって,恒にリクエスト信号に従って停止制御する場合と比較して,ペイアウト率に変動をきたさないようにする発明であると解されるから,通常ゲームと比較して,イントヒットに格納されたボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られやすいプログラムで処理するというだけでは,入賞を得られなかったリクエスト信号を次回ゲームの停止制御においても使用しているということはできず,このような構成をもって,ボーナスフラグに対応した種類の入賞をリクエストしているということはできない。
なお,RB又はBB内部当たり中用の停止テーブル群の選択を指示する信号が,イントヒットに格納されたボーナスフラグであるか,Aレジスタで演算されたデータであるか争いがあるが,イントヒットに格納されたボーナスフラグとAレジスタで演算されたデータは,1対1で対応するデータであって,この点がいずれであっても,上記結論に変わりはない。
ウ 小括 したがって,被告構成bB「通常ゲーム中は,上記bAで決定された領域番号データを,クジCに格納し」の構成部分は,構成要件Cの「その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段」に該当するということができるが,被告構成bBの「内部当たりゲーム中は,被告構成bAで決定された領域番号データの数値をクジCに格納する。この際,イントヒットには,BB内部当たり中のときはボーナスフラグ1が,RB内部当たり中のときはボーナスフラグ2を格納し」の構成部分が,構成要件BBの「その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段」に該当するという原告の主張は採用できない。
(3) 以上によれば,被告構成bAは,構成要件BAを充足するが,被告構成bBは構成要件BBを充足しない。
2 争点2(被告構成cが構成要件Cを充足するか) (1) 被告構成cにおいては,停止テーブル群にいかなる種類の入賞が得られるように停止制御するかが定められているから,当該ゲームにおいていかなる種類の入賞が得られるようにリールを停止制御しているかは,すなわち,いかなる停止テーブル群を選択しているかによることになる。
そこで,被告構成cにおいて,どのように停止テーブル群が選択されているかについて検討する。
(2) 通常ゲーム中の停止制御について 通常ゲームにおいては,原告がリクエスト信号であると主張するクジCに格納された領域番号データに応じて,当該領域番号に対応する種類の入賞が得られる可能性があり,それ以外の入賞図柄が揃わないように設定された停止テーブル群が選択される。したがって,クジCに格納された領域番号に対応した種類の入賞が得られるように停止制御されることになるから,上記構成をもって「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」ということができる。
(3) 内部当たり中ゲームの停止制御について 内部当たり中ゲームにおいては,原告がリクエスト信号であると主張するイントヒットに格納されたボーナスフラグ1ないし2に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御しているということはできない。
すなわち,内部当たり中ゲームにおいては,あらためてサンプリングされた乱数に応じて領域番号を決定し,クジCに格納する。このようにしてクジCに格納された領域番号データが1,3,4の場合には,このクジCに格納された領域番号データに応じて,ボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られる可能性のない停止テーブル群が選択され,領域番号データが2の場合には,チェリー役の入賞が得られる可能性があり,それ以外の入賞図柄が揃わないように設定された停止テーブルを含む停止テーブル群が選択されるのであるから,ボーナスフラグに対応した種類の入賞(BBないしRB)が得られるように停止制御しているとは言い難い。
したがって,被告構成cの「クジCに格納された領域番号データに基づいて,第2,1(5)c記載の表に定められた停止テーブル群を選択し,遊技者の停止ボタン操作により,当該停止テーブル群の中から使用する一つの停止テーブルが選択され,当該停止テーブルの設定に従ってコマ数をずらしてリールを停止させる」構成は,構成要件Cの「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」と構成を異にする。
この点について,原告は,内部当たり中ゲームにおいては,通常ゲームと比較して,イントヒットに格納されたボーナスフラグに対応した種類の入賞が得られやすいプログラムで処理していることをもって,構成要件Cの「リクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段」を有するというべきであると主張するが,かかる主張が採用できないことは,前記1(2)イ記載のとおりである。
(4) 小括 以上によれば,被告構成cは,構成要件Cを充足しない。
3 争点3(被告構成eが構成要件Eを充足するか) (1) 被告構成eは,該当する入賞が得られない場合に,イントヒットに格納されたボーナスフラグを次回ゲームまで保存する手段という構成である。
しかし,前記1(2)記載のとおり,被告製品のボーナスフラグがこれに対応する種類の入賞をリクエストするリクエスト信号ということはできない以上,被告構成e「BB又はRB内部当たり中にもかかわらず,該当する入賞が得られなかった場合には,イントヒットに格納されたボーナスフラグをそのままにし」の構成が,構成要件Eの「前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回ゲームまで保存する手段」と同一の構成ということはできない。
(2) よって,被告構成eは,構成要件Eを充足しない。
結論
以上によれば,被告製品は,本件特許発明構成要件BB,C,Eをいずれも充足しないから,本件特許発明技術的範囲に属するものではない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
よって主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 吉川泉
裁判官 青木孝之