関連審決 | 無効2002-35348 無効2002-35361 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ワ2473損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ101特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成4ワ6690特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 産業上利用(29条1項柱書) / 物の発明 / 方法の発明 / 製造方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 権利の濫用(権利濫用) / 実施 / 加工 / 間接侵害 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 販売数量(販売数) / 実施権 / 専用実施権 / 通常実施権 / 設定登録 / 独占的通常実施権 / 発明の範囲 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
14年
(ワ)
4480号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 濤和化学株式会社 訴訟代理人弁護士 吉井参也 同 椙山敬士 同 石新智規 補佐人弁理士 歌門章二 被告 オーケー化成株式会社 訴訟代理人弁護士 湊谷秀光 補佐人弁理士 井澤洵 同 尾崎雄三 同 井澤幹 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2004/05/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙物件目録記載の物品を製造、販売してはならない。 2 被告は、その保管中の前項記載の物品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、8億2600万円及びこれに対する平成14年6月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、「着色剤」の発明に関する特許権の専用実施権(当初は独占的通常実施権)を有する原告が、被告による製品の製造販売が当該特許権ないし専用実施権を侵害するものであり、これによって損害を被ったと主張して、その製品の製造販売の差止め及び廃棄と、損害の賠償を求めた事案である。 1 前提となる事実(特に明示した部分以外は当事者間に争いがない。) (1) 特許権 ア 原告代表者aは、下記特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者である。 発明の名称 着色剤 出願日 平成5年3月17日 出願番号 特願平5-57191号 出願公告日 平成7年3月1日 出願公告番号 特公平7-18097号 登録日 平成7年11月8日 特許番号 第1987690号 登録当初の特許請求の範囲の請求項1は、別紙特許公報(特公平7-18097号)の該当欄記載のとおり(甲第1号証) イ 本件特許権についての無効審判請求事件(無効平10-35124号)において、特許権者であるaは、訂正を請求した。平成10年10月21日付の審決は、訂正を認め、無効審判請求は不成立とした。上記審決は平成10年12月14日に確定した(甲第3号証)。 上記訂正後の本件特許権(その発明を以下「本件訂正発明」という。)の特許請求の範囲の請求項1は、別紙訂正明細書(1)の該当欄記載のとおりである。 上記請求項の構成要件は、次のとおり分説される。 A 未染色または染色された繊維径5〜100μm、繊維長0.1〜2mmの有機繊維を素材としていること B 帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理していること C 着色剤であること ウ 本件特許権について被告外1名が請求した無効審判請求事件(無効2002-35348号及び無効2002-35361号)において、特許権者であるaは、訂正を請求した。平成15年7月4日付の審決は、訂正を認め、無効審判請求はいずれも不成立とした(ただし、上記審決は本件口頭弁論終結時において確定していない。)(甲第26号証、弁論の全趣旨)。 上記審決が認めた訂正後の本件特許権(その発明を以下「本件再訂正発明」という。)の特許請求の範囲の請求項1は、別紙訂正明細書(2)の該当欄記載のとおりであり、その構成要件は、次のとおり分説される(なお、構成要件A及びBは、本件訂正発明のものと同一である。)(甲第26号証)。 A 未染色または染色された繊維径5〜100μm、繊維長0.1〜2mmの有機繊維を素材としていること B 帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理していること C’ 模様現出用着色剤であること エ aは、原告に対し、平成7年1月5日、本件特許権の独占的通常実施権を許諾し、さらにその後、専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)を設定して、平成14年3月29日、その設定登録を経た。 (2) 被告は、プラスチック成形品の着色剤(商品名:ストーンカラー等)として、@ 染色された繊維径約10ないし20μm、繊維長約0.4mmのレーヨン繊維を素材とした模様現出用着色剤及び高級脂肪酸塩を含む顔料を混合した製品(以下「被告製品@」という。)、A これらを混合せずに別梱包とした製品(以下「被告製品A」という。)、B これらの模様現出用着色剤及び顔料を加工して製造したマスターバッチ及び着色ペレット(以下「被告製品B」という。)、をいずれも製造販売している。すなわち、上記の模様現出用着色剤は、本件訂正発明及び本件再訂正発明のいずれについても、その構成要件A並びにC及びC’をいずれも充足するものである。 また、上記模様現出用着色剤は、少なくとも、帯電防止剤である珪酸ナトリウム及び硫酸マグネシウム表面処理したものである。 2 争点及び当事者の主張 (1) 被告が販売している模様現出用着色剤は、顔料と混合する前に、帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩を両者併用した処理剤で表面処理したものか。 (原告の主位的主張について) 〔原告の主張〕 被告製品@ないしBの構成は、別紙物件目録記載のとおりであり、その模様現出用着色剤は、顔料と混合する前に、帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩(金属石鹸)を両者併用した処理剤で表面処理したものであって、本件訂正発明の構成要件Bを充足する。 甲第6号証(株式会社住化分析センター作成の原告宛「分析・試験報告書」)の分析において用いられた検体(以下「本件検体」という。)は、被告が東北技研工業株式会社(以下「東北技研」という。)に納入したもの(「ABSK-9-4811ストーングレー」の袋と「ABSK-9-4811ストーングレー(補色)」の袋とが同梱されたもの)を未開封のまま原告が譲り受け、そのまま検査会社である株式会社住化分析センターに持ち込んだもの(上記のうち「ABSK-9-4811ストーングレー」を検体とした。)であるから、被告が出荷してから検査に至るまでに何らかの異物が混入する余地はない。その本件検体を分析した結果、高級脂肪酸塩であるステアリン酸塩の形跡が検出された。以上の分析結果から、被告が製造販売している模様現出用着色剤は、帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩を両者併用した処理剤で表面処理したものであることは明らかである。 被告は、本件訂正発明の構成要件として、模様着色剤が帯電防止剤と滑剤で同時に処理されていることが必要であり、これらで逐次処理されているものは本件訂正発明の技術的範囲に属しないと主張するが、本件訂正発明は製造方法の発明ではなく物の発明であるし、プラスチック成形に用いるまでにあらかじめ帯電防止剤と滑剤で表面処理されていれば、作用効果上の差異も生じないのであるから、これらの表面処理は逐次のものでも本件訂正発明の技術的範囲に属するものというべきである。 なお、被告は、模様現出用着色剤の原料である株式会社金原パイル工業(以下「金原パイル」という。)製造のパイルについて株式会社東レリサーチセンターが行った分析結果(乙第9ないし第11号証)において高級脂肪酸塩が検出されなかったことをもって、被告が製造販売している模様現出用着色剤は高級脂肪酸塩によって処理されていないと主張するが、被告が分析に供したパイルは、被告が高級脂肪酸塩による処理をする前のものであるから、これから高級脂肪酸塩が検出されないのは当然であって、被告主張の裏付けとはならない。 また、本件検体の製造指図書(乙第14号証)には、「二添」欄の品目「(T-2)PYT BK-ブラック=12」の記載の下に、手書きで「001020」と書き込まれ、さらに、「計量用」欄の合計「509.920g」の記載の下に、手書きで「18」と書き込まれ、その下に線を引いてさらにその下に「528」と書き込まれている。この記載は、同じ書面において「001020」がステアリン酸マグネシウムを指す番号として用いられていることに照らせば、模様現出用着色剤にステアリン酸マグネシウム18グラムを加えて処理することを指示したものと理解するのが自然であり、原告の主張を裏付けるものである。 なお、原告が甲第6号証による分析の検体とした「ABSK-9-4811ストーングレー」を入手する以前に東北技研から譲り受けていた「ABSK-9-3111」について株式会社住化分析センターに分析してもらった結果も甲第6号証と同じであった(甲第34号証)。「ABSK-9-3111」と「ABSK-9-4811」とは同一物質と考えられるから、上記分析結果も原告の主張を裏付けるものである。 〔被告の主張〕 被告が販売している模様現出用着色剤は、顔料と混合する前に、滑剤に該当する高級脂肪酸塩で表面処理しておらず、本件訂正発明の構成要件Bを充足しない。 本件検体は、被告が東北技研に納入したものを原告が譲り受け、検査会社である株式会社住化分析センターに持ち込んだものとのことであるが、被告から出荷する際にも、模様現出用着色剤を入れた袋は輪ゴムでその口を留めてあったにすぎないことに加え、東北技研における保管状況や、原告が東北技研から譲り受ける経過についても明らかではなく、あるいは不自然な点が多く、被告が出荷してから株式会社住化分析センターに持ち込まれるまでの間に、本件検体に何らかの異物が混入した疑いが残る。なお、本件検体である「ABSK-9-4811ストーングレー」は、加飾剤(模様現出用着色剤)とドライカラー(ブラスチックに地色を着けるもの)がセットになったものであり、原告がこれと同梱されて東北技研に納入されたと主張している「ABSK-9-4811ストーングレー(補色)」は補色剤であり、被告がこれらを同梱して出荷した事実はない。 被告は、金原パイル製造のパイルに対して処理をせず、模様現出用着色剤として、そのまま用い、あるいは出荷しているものであるが、この金原パイル製造のパイル(=加飾剤=模様現出用着色剤)を分析したところ(株式会社東レリサーチセンター作成の「結果報告書」。乙第10、第11号証)、ステアリン酸塩を含む高級脂肪酸塩の形跡は検出されなかった。原告の主張の根拠とされている株式会社住化分析センターによる分析結果(甲第6号証)は、その分析結果自体も種々の疑問があり、分析結果自体からも被告製品のパイルを分析したことを疑わせるものである。 なお、本件検体の製造指図書(乙第14号証)に書き込まれた手書きの「001020」は、本件検体となったパイルの金原パイルでのロット番号であり、手書きの「18」は顔料の手揉み加工に用いる袋の重量、その下の「528」は上記袋の重量を加算した顔料の重量である。 以上のように、本件検体が高級脂肪酸塩で処理されていたことを示す証拠は存在しない。 さらに、仮に、本件検体が高級脂肪酸塩で表面処理されていたとしても、 本件訂正発明の構成要件Bは、「帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理していること」であり、「併用」とは「あわせ用いること。いっしょに使うこと。」(広辞苑第5版)の意味を持ち、二者が使用されることのみならず、時間的同時性をもって使用されることを意味するから、帯電防止剤と滑剤による表面処理が同時であることが要件となっている。したがって、これらの処理が逐次にされたものはこの要件を満たさないところ、滑剤と帯電防止剤の両者を併用した処理剤で表面処理されたことまでは立証されておらず、この点でも本件訂正発明の構成要件Bの充足は立証されていない。 (2) 被告による、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合した製品(被告製品@)及び、これを加工したマスターバッチ及び着色ペレット(被告製品B)の製造販売は、仮に模様現出用着色剤が顔料と混合される前に帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩を両者併用した処理剤で表面処理されていなくても、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害に当たるか。 (原告の予備的主張1について) 〔原告の主張〕 本件訂正発明及び再訂正発明の構成要件Aを充足する模様現出用着色剤を帯電防止剤で表面処理し、これに高級脂肪酸塩を含む物質を混合処理すれば、本件訂正発明及び再訂正発明の効果が得られる。本件訂正発明は、いずれも、帯電防止剤と滑剤による同時処理を要件とするものではない。したがって、仮に模様現出用着色剤が、顔料と混合される前に帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩を両者併用した処理剤で表面処理されていなくても、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合処理することは、模様現出用着色剤を帯電防止剤及び滑剤を両者併用して表面処理することになる。すなわち、被告によるそのような製品(被告製品@)や、これを加工したマスターバッチ及び着色ペレット(被告製品B)の製造販売は、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害に当たる。 〔被告の主張〕 上記(1)の被告の主張のとおり、本件訂正発明及び再訂正発明の構成要件Bは、「帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理していること」であり、 その文言上同時処理を要求しているのであって、逐次の処理までも含むものではない。特許権者であるa自身も、無効審判請求事件(無効2002-35348号及び無効2002-35361号)において、帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理しなければ、本件訂正発明及び再訂正発明の効果が得られないと述べている。 また、特許権者であるaは、上記無効審判請求事件において、「本件発明においては、キャリヤーなどに分散させる前に短繊維が帯電防止剤と滑剤によって表面処理されている必要がある」と主張しているところ、この「キャリヤーなど」の中には、顔料中の酸化チタン等が含まれると理解されるべきであるから、上記主張に照らせば、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、顔料とを混合しても、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害にはならないことは明らかである。 さらに、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合する使用態様は、本件特許権の出願前に刊行されていた乙第1号証の9・11に記載され、公知となっていたものであるから、このような態様がその発明の技術的範囲に含まれると解すべきではない。 したがって、被告による、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合した製品(被告製品@)や、これを加工したマスターバッチ及び着色ペレット(被告製品B)の製造販売は、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害には当たらない。 (3) 被告による、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料の製造及び別梱包での販売(被告製品A)は、仮に模様現出用着色剤が顔料と混合される前に帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩を両者併用した処理剤で表面処理されていなくても、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害又は間接侵害に当たるか。(原告の予備的主張2について) 〔原告の主張〕 上記(2)の原告の主張のとおり、本件訂正発明及び再訂正発明の構成要件Aを充足する模様現出用着色剤を帯電防止剤で表面処理し、これに高級脂肪酸塩を含む物質を混合することは、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害に当たる。そして、被告が製造して別梱包で販売する、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料は、その購入者において混合する用途のみに用いられるものであるから、被告によるそのような製品(被告製品A)の製造販売は、本件特許権ないし専用実施権の間接侵害に当たる。また、当該行為は、販売先のプラスチック成形業者に最終的な物の完成をさせることにもなるから、直接侵害に当たると捉えることもできる。 〔被告の主張〕 上記(2)の被告の主張のとおり、本件訂正発明及び再訂正発明の構成要件Aを充足する模様現出用着色剤を帯電防止剤で表面処理し、これに高級脂肪酸塩を含む物質を混合することは、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害には当たらないのであるから、被告による、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料の製造及び別梱包での販売(被告製品A)は、本件特許権ないし専用実施権の直接侵害にも間接侵害にも当たらない。 (4) 本件特許権に無効理由が存することが明らかか。(権利濫用の抗弁) 〔被告の主張〕 本件特許権には、以下のとおり無効理由があることが明らかであるから、 その権利行使は権利を濫用するもので許されない。 ア 進歩性の欠如 本件訂正発明は、本件特許出願前である昭和53年6月6日に公開された公開特許公報(特開昭53-63442号、乙第1号証の4)の記載に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものである。 イ 請求項1と2の不一致及び明細書の記載不備 本件訂正発明の特許請求の範囲は、別紙訂正明細書(1)の該当欄記載のとおりであるところ、請求項1は物の発明であり、請求項2はその製造方法の発明であるのに、請求項2の方法によって製造した場合、請求項1記載の物だけではなく、より広範な物ができてしまう。 また、明細書の発明の詳細な説明の記載には、請求項1の発明と齟齬を来している部分がある。したがって、発明の詳細な説明は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分な記載とはいえず、発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しているともいえない。 ウ 不適法な訂正 平成10年10月21日付の審決によって認められた訂正は、明細書の段落【0017】中の「外部滑材」を「滑材」と訂正するものであったが、これによって内部滑材も含まれることになるのであるから、上記訂正は不適法なものである。 〔原告の主張〕 被告の主張は争う。本件特許権に無効理由は存在しない。 なお、被告が無効理由として主張するもののうちイは、平成15年7月4日付の審決によって、請求項2を削除し、明細書の発明の詳細な説明の記載も請求項1の発明と齟齬を来さないようにする訂正が認められたから、被告の権利濫用の主張を基礎付けるものとはならない。 (5) 損害 〔原告の主張〕 被告は、平成7年から、別紙物件目録記載の物品を、そのまま模様現出用着色剤の形態で、又はマスターバッチ若しくは着色ペレットの形態に加工した上で、プラスチック成形業者等に販売している。 原告は、この間、本件訂正発明の実施品である着色剤を製造販売したが、 その売上高は平均して1年当たり約3億9400万円であり、その利益率は通常売上高の約30パーセントである。 被告の販売数量は原告とほぼ同じであるから、その売上高と利益率も上記原告のものと同額と推定すべきである。 したがって、被告は、本件訂正発明の実施によって、1年間に1億1800万円、平成7年4月1日から平成14年3月31日までの7年間に8億2600万円の利益を得ている。 原告は、本件特許権の独占的通常実施権者ないし専用実施権者として、これと同額の損害を受けた(特許法102条2項)。 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 原告が、被告の製造販売する模様現出用着色剤が滑剤に該当する高級脂肪酸塩によって表面処理されていると主張する根拠の一つは、本件検体の検査結果である甲第6号証(株式会社住化分析センターの分析・試験報告書)であるところ、 被告は、本件検体は被告から出荷されたままの状態で検査に供されたことを争うので、まず、本件検体が被告から出荷された当時の状態で検査に供されたと認めることができるか検討する。 ア 本件検体の入手経緯についての原告の主張は、概ね以下のとおりであり、これに沿う証拠として、甲第19号証(原告従業員bの陳述書)、第28号証(東北技研代表取締役cの陳述書)及び調査嘱託の結果がある。 (ア) 原告は、平成11年10月ころから、東北技研から、被告製品である模様現出用着色剤及び顔料を着色ペレットに加工する依頼を受け、その加工をしていた。 (イ) 原告は、上記依頼を受け、東北技研から被告製品である模様現出用着色剤を受領した際、これが本件特許権の侵害品なのではないかとの疑いを抱き、 依頼を受けた加工用のものとは別に、東北技研から、サンプルとして、開封済みの200ないし300グラムの被告製品である模様現出用着色剤及び顔料を譲り受けた。 (ウ) 原告は、平成12年2月ころ、上記サンプルとして譲り受けた被告製品である模様現出用着色剤を原告の研究室で分析し、これが本件特許権の侵害品である疑いを深めた。 (エ) そこで、原告は、平成13年10月ころ、東北技研に、正式検査のために、被告製品である模様現出用着色剤及び顔料を被告から受け取った状態のまま譲り受けたいと申し出て、同社から未開封の被告製品を譲り受けた。そのときの被告製品の状態は、「ABSK-9-4811ストーングレー」が入ったビニール袋と「ABSK-9-4811ストーングレー(補色)」が入ったビニール袋とが別のビニール袋に同梱されていたものである(この状態を撮影した写真が甲第4号証)。このうち「ABSK-9-4811ストーングレー」が本件検体である。 (オ) 原告は、本件検体を含む上記ビニール袋を、未開封のまま株式会社住化分析センターに持ち込んだ。 (カ) なお、原告は、平成14年12月ころ、東北技研から、在庫として残っていた被告製品である模様現出用着色剤220グラム(ABSK-9-3111)及び顔料200グラムを譲り受けたことがある。 イ 上記の原告主張及び証拠から、本件検体が被告から出荷された当時の状態で検査に供されたと認めることができるかについて検討するに、上記の経過自体には一見不自然な部分はないように見える。 しかしながら、他の証拠及び上記証拠の他の部分を合わせ検討すると、 下記の疑問点が残るといわざるを得ない。 @ 上記主張では、本件検体の入手に際し、原告は、東北技研に対して、 被告製品を被告から受け取った状態のまま譲り受けたいと申し出たとされる。しかし、原告が東北技研から譲り受けたとされる被告製品は、模様現出用着色剤(ロット番号T504361、本件検体)及び顔料(ロット番号T507021)を同じ箱に梱包したものであることは原告が自認するところであり、乙第4号証の1・2、第14号証によれば、これらは平成13年2月に2回に分けて被告が東北技研に納入したものであり、模様現出用着色剤の納入時にはこれと同じロット番号の顔料が同じ箱に梱包されていたものであることが認められるところであって、東北技研の行動は原告からの希望に沿ったものではなかったことになる。 これに対して、甲第28号証(東北技研代表取締役の陳述書)には、 原告から東北技研への要望は、未開封の被告製品を譲り受けたいというものであり、東北技研は、これに応じて棚に残っていた模様現出用着色剤と顔料を原告に譲り渡したと記載されている。 このように、本件検体そのものの入手経緯について、原告の主張と東北技研代表取締役の陳述書の記載に齟齬がある。 A 甲第28号証(東北技研代表取締役の陳述書)には、納入された被告製品の保管態様として、「送付されてきたオーケー化成製品の箱を開けて棚に置き、中から小袋を取りだして、必要な分量のパイルとドライカラーを樹脂と一緒に混ぜて使用していました。」、「使用していない小袋は開封せず箱に入れたまま保管していました。」と記載されている。この記載によれば、使用を開始した小袋は棚に置き、未使用の小袋は箱に入れてあることになる。 ところが、本件検体については、「依頼があった際に未開封で残っていた黒い袋(パイル)と白い袋(ドライカラー)を棚から1つずつ取り出して、甲第4号証別紙2添付写真のとおり1つの大袋にまとめて濤和化学の関東工場宛てに送付しました。」と、箱からではなく棚から取り出したことが記載されている。 この記載自体からも、本件検体が東北技研において未使用のものであったかには多大な疑問が生じる。 以上の疑問点に加え、被告製品の納入形態として、模様現出用着色剤や顔料を入れたビニール袋の封は、輪ゴムで口を閉じたものにすぎず(検乙第3、第4号証)、容易に開披でき、かつ、開披したことがあるか否かを後に確認することは極めて困難であること、甲第28号証の作成者であり、調査嘱託の回答者である東北技研の代表取締役は、東北技研と原告との取引(本件検体の譲り渡しを含む。)の担当者ではなく、当該担当者は既に故人となっており(原告が自認している。)、調査嘱託に対する回答内容も混乱がみられることを合わせ考慮すれば、本件検体の入手経緯については重要な点で不明瞭さが残っており、本件検体が被告から出荷された当時の状態で甲第6号証の検査に供されたものと認めることはできないといわざるを得ない。 そして、乙第10、第11号証(株式会社東レリサーチセンター作成の「短繊維表面処理剤の分析」の結果報告書)によれば、被告が模様現出用着色剤としてそのまま用いていると被告が主張する金原パイル製造のパイルを分析した結果、ステアリン酸塩を含む高級脂肪酸塩の形跡は検出されなかったことが認められることにも照らせば、本件検体は、被告から出荷されてから甲第6号証の検査に供するまでの間の何れかの時点において、その袋が開披されて高級脂肪酸塩が混入したのではないかという合理的な疑いを払拭することはできない。 ウ なお、原告は、甲第34号証(株式会社住化分析センター作成の平成12年1月24日付「分析・試験報告書」)もその主張の根拠とするかのようであるが、その検体は、原告の主張によれば、上記ア(イ)記載の、東北技研から譲り受けた開封済みのサンプルであり、上記イで検討したところと同様に、被告から出荷されてから検査に供するまでのいずれかの時点で、高級脂肪酸塩が混入した疑いがあるというべきである。 エ 以上のとおりであるから、甲第6号証(及び甲第34号証)を根拠として、被告が製造販売している模様現出用着色剤が、滑剤に該当する高級脂肪酸塩で表面処理したものであると認めることはできない。本件検体ないし東北技研から原告が譲り受けたサンプルについての他の分析結果(甲第5、第20、第35、第36号証)を根拠として、原告の主張を認めることができないことも同様である。 (2) 原告が、被告の製造販売する模様現出用着色剤が滑剤に該当する高級脂肪酸塩によって表面処理されていると主張するもう一つの根拠は、被告作成に係る本件検体の製造指図書(乙第14号証)の記載であるので、この記載から、原告の主張を認めることができるか検討をする。 ア まず、本件検体の製造指図書(乙第14号証)にどのような記載がされているか検討するに、上記製造指図書は、材料欄を「原料」欄と「二添」欄の2つに分け、「原料」欄には顔料の材料を、「二添」欄には模様現出用着色剤の材料を記載し、それぞれの材料の右側には、「計量用」、「製造用」、「使用数量」の各欄を設けて各材料の重量を記載し、また、「原料」欄の下方と「二添」欄の下方にはいずれもそれぞれの材料の重量の小計を記載する欄を設け、すべての下方には全部の材料の重量の合計を記載する欄が設けられている。 「原料」欄には、他の顔料の材料と共に、「001020」「M」としてステアリン酸マグネシウムが印字されており(これがステアリン酸マグネシウムを示す番号と記号であることは被告が自認している。)、「原料」欄の「計量用」の重量小計欄には、「509.920g」と印字されている。 また、「二添」欄には、材料として、「006532T」「(T-2)PYT BK-ブラック=12」と印字されているが、これに対応する「計量用」の重量欄には、「0.000g」と印字され、「二添」欄の「計量用」の重量小計欄にも、「0.000g」と印字されており、「二添」欄に係る重量の記載は、 「使用数量」の重量欄にのみ「500.000g」と印字されている。 そして、全部の材料の「計量用」の重量合計欄には、「509.920g」と印字されている。 以上のとおりの印字の他に、上記「二添」欄の「(T-2)PYT BK-ブラック=12」の印字の下に、手書きで「001020」と書き込まれ、さらに、「計量用」の重量合計欄の「509.920g」の印字の下に、手書きで「18」と書き込まれ、その下に線を引いてさらにその下に手書きで「528」と書き込まれている。 イ 原告は、上記の手書きの「001020」が模様現出用着色剤の材料であるパイルにステアリン酸マグネシウムを加えることを示すものであり、手書きの「18」が模様現出用着色剤の材料に加えるべきステアリン酸マグネシウムの重量を示すものであると主張する。 これに対し、被告は、上記の手書きの「001020」は模様現出用着色剤の材料であるパイルの、製造元である金原パイルにおけるロット番号を示すものであり、手書きの「18」は顔料の手揉み加工に用いる袋の重量(18グラム)であると主張し、同旨の被告取締役dの報告書(乙第15号証)も存在する。 ウ そこで、まず、上記の手書きの「001020」について検討するに、 確かに、「001020」は、被告においてステアリン酸マグネシウムを示す番号であるが、被告においては、上記アのとおり、ステアリン酸マグネシウムに「M」という記号も割り当てて用いているところであり、手書きで表記する際の手数や誤りを生じさせないための便宜を考慮すれば、ステアリン酸マグネシウムを表記するためには、「M」という記号を用いるのがむしろ自然であり、あえて「M」ではなく「001020」を用いることは合理性に乏しいといわざるを得ない。 実際、乙第14号証によれば、製造指図書には、顔料の材料としてステアリン酸マグネシウムとステアリン酸カルシウム(その記号は「C」である。)が印字されているところ、これらをいずれも手書きで抹消した上、手書きで「MC」(上記両材料の混合物と推認される。)と書き込み、「計量用」の重量欄も、上記両材料の各別の重量が印字されているところを手書きで抹消し、これらを合計した重量を手書きで書き込んであることが認められるところである。 そして、金原パイルの取締役eが、同人の陳述書である乙第18号証において、同社の製品のロット番号は、出荷年月日を西暦で表した年の下2桁から表記したものである旨を述べており、上記の手書きの「001020」が同社のロット番号であったとしても何ら不自然な点がないことにも照らすと、上記の手書きの「001020」は、原告が主張するようなステアリン酸マグネシウムを示すものであると解するのは疑問があり、むしろ、被告が主張するように、被告が用いたパイルの金原パイルにおけるロット番号を示すものであると認めるのが合理的である。 エ 次いで、上記の手書きの「18」について検討するに、模様現出用着色剤の材料であるパイルに加えるべきステアリン酸マグネシウムの重量を表記するのであれば、模様現出用着色剤の材料であるパイルの重量を印字してある部分の周辺に、加えるべきステアリン酸マグネシウムの重量を書き込むのが自然であるというべきところ、「18」は「計量用」の重量合計欄の下に書き込まれている。この「計量用」の重量合計欄に印字されている重量は、顔料の材料の合計重量であって、模様現出用着色剤の材料であるパイルの重量はこれに含まれてはいない。 したがって、上記の手書きの「18」が、原告が主張するような、模様現出用着色剤の材料であるパイルに加えるべきステアリン酸マグネシウムの重量を示すものであると解することはできず、被告が主張するように、顔料の手揉み加工に用いる袋の重量であると認めるのが合理的である。 オ 以上のとおりであるから、乙第14号証の記載を根拠として、被告が製造販売している模様現出用着色剤が、滑剤に該当する高級脂肪酸塩で表面処理したものであると認めることもできない。 (3) 以上検討したとおり、原告の主張とその援用する証拠によっては、被告が製造販売する模様現出用着色剤が、顔料と混合する以前に、滑剤に該当する高級脂肪酸塩で表面処理されたものであると認めることはできず、他に、上記原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、争点(1)に関する原告の主張は採用することができない。 2 争点(2)及び(3)について (1) 原告の主張の当否を検討する前提として、本件訂正発明の内容について検討する。 ア まず、本件訂正発明に関する訂正明細書の記載を検討するに、甲第2号証(本件訂正発明の訂正明細書)によれば、本件訂正発明の特許請求の範囲の請求項2は、「繊維径が5〜100μmの未染色または染色された有機繊維のトウに含水させ、このトウを繊維長0.1〜2mmに裁断した後、帯電防止剤もしくは滑剤または両者併用した処理剤で表面処理することからなる着色剤の製造方法」というものであり、訂正明細書の発明の詳細な説明の項には、以下のとおりの記述があることが認められる。 【産業上の利用分野】の項 「この発明は、合成樹脂成形品、紙、塗料などに添加する着色剤に関し、特に繊維の色調を模様として現出させる模様現出用の着色剤およびその製造方法に関する。」(段落【0001】) 【発明が解決しようとする課題】の項 「点描画風の模様現出用着色剤は、被着色材料と混合機で攪拌すると、激しく静電気を発生して混合機の槽壁に強力に付着するので、添加効率が極めて悪いという問題点がある。また、この着色剤は、乾式にて裁断された後、繊維同士が塊状に絡み合って、いわゆる糸玉と呼ばれるようになり、着色剤として効率良く機能しないものであった。このような着色剤は、特に経時的にも安定した品質が要求される塗料やプラスチック添加用の着色剤として利用することは困難である。 そこで、この発明は上記した問題点を解決し、所定の太さと長さの有機繊維を用いた模様現出用着色剤を、混合容器に付着しないものとし、しかもそれが糸玉といわれるような塊状凝集を起こさないものとして、効率よく成形体などを点描画風に着色できる着色剤とすることを課題としている。」(段落【0007】ないし【0010】) 【課題を解決するための手段】の項 「上記の課題を解決するため、この発明においては、未染色または染色された繊維径5〜100μm、繊維長0.1〜2mmの有機繊維を素材とし、帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理した前記有機繊維からなる着色剤としたのである。また、上記着色剤は、繊維径が5〜100μmの未染色または染色された有機繊維のトウに含水させ、このトウを繊維長0.1〜2mmに裁断した後、帯電防止剤もしくは滑剤または両者併用した処理剤で表面処理することによって製造できる。」「帯電防止剤と滑剤は、それぞれ単独で用いてもよく、または両者併用してもよい。なぜなら、繊維の種類によって静電気の発生率が異なり、または繊維径によって繊維同士の絡み合いの程度が異なるので、最適な状態となるように適宜処理剤を選択することが望ましいからである。特に、10d以下の細い繊維のものは、通常、帯電防止剤と滑剤を併用することが必要である。なお、この発明の着色剤に、所期の効果を阻害しない範囲で、周知の充填剤を添加したり、汎用の顔料を併用してもよいのは勿論である。」(段落【0011】、【0012】、 【0018】、【0019】) 【作用】の項 「この発明の模様現出用着色剤は、・・・被着色基材と混合機で攪拌したとき、添加された帯電防止剤によって有機繊維に静電気が発生し難いので、混合機の槽壁に付着せずまた飛散せず、添加効率が改善される。裁断された有機繊維は、滑剤を介して繊維同士が潤滑されるので、塊状に絡み合わず、いわゆる糸玉が発生しない。」(段落【0020】) 【効果】の項 「この発明は、以上説明したように、所定の繊維径と繊維長の有機繊維を素材として、帯電防止剤と滑剤を両者併用してこれを表面処理した有機繊維からなる着色剤としたので、合成樹脂、紙、塗料などの被着色用基材に混合した場合に、混合槽に付着せずに添加効率がよく、しかもそれ自体が糸玉といわれるような塊状凝集を起こさないので、被着色物の表面に細密な繊維がランダムに並んで点描画風の色調で着色できる優れた装飾性のある着色剤となり、産業上利用価値の高いものであるといえる。」(段落【0062】) イ なお、甲第14、第16号証(訂正請求書)及び甲第26号証(審決)によれば、本件再訂正発明は、前記「前提となる事実」のとおり特許請求の範囲の請求項1を訂正するほか、特許請求の範囲の請求項2を削除し、これらの訂正に整合させるために発明の詳細な説明の項を訂正したものであることが認められる。 ウ また、本件特許権の無効審判における特許権者であるaの主張について検討するに、甲第13、第15号証(無効審判におけるaの答弁書)によれば、aは、 本件訂正発明の最も重要な特徴として、「(i)有機繊維の表面処理剤として、帯電防止剤と滑剤とが必ず併用されている点、(ii)基材(合成樹脂等の被着色基材)を着色する以前の前処理段階において、有機繊維が必ず表面処理されている点、ひいては、(iii)表面処理剤自体は、基材着色段階等で使用されるものとは区別されるべきものであるといった観点に立つ点、にある。仮に、有機繊維、帯電防止剤及び滑剤と被着色基材とを一度に混合しても、決して所定の効果は発現しない。このような構成により、『本件着色剤と被着色基材とを混合機で攪拌した時、 混合機の槽壁に付着せず飛散もせずに添加効果が改善され、繊維同士が潤滑されて塊状に絡み合わず糸玉が発生せず、しかも、着色剤が被着色基材表面にランダムに分散して点描画風に着色することができる』という特有の作用効果を奏するものである。」(いずれも8頁、下線及び書証の引用は省略)と主張していることが認められ、乙第25号証(無効審判におけるaの口頭審理陳述要領書)にも、同様の記載があることが認められる。 エ 以上を前提に検討すると、本件訂正発明の特徴は、模様現出用着色剤として用いる有機繊維を被着色材料と混合攪拌する際に、静電気の発生によって混合機の槽壁へ付着することと、繊維同士の絡み合いによって糸玉が発生することを防止することを目的とし、そのために、被着色材料と混合する前の段階で、有機繊維について、帯電防止剤と滑剤とを併用した処理剤で表面処理する点にあるものと解される。 (2) 以上を前提として検討を進めるに、顔料は、本来、有機繊維と共に、被着色材料に着色するための材料であり、有機繊維を加工したり、有機繊維に何らかの処理を施すための材料ではない。したがって、仮に顔料に本件訂正発明にいう滑剤に該当する成分が含有されていたとしても、このような顔料を有機繊維と混合することにより、有機繊維に滑剤がどのように作用するかは明らかではない。 甲第2号証(本件訂正発明の訂正明細書)によれば、本件訂正発明の訂正明細書には、帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤による表面処理について、実施例1ないし7として、有機繊維に帯電防止剤水溶液と滑剤水分散液を加えて5分間攪拌混合する処理態様が例示されているものの、これ以上に、どのような表面処理をすれば本件訂正発明において滑剤を用いたことにより得られる作用効果である、繊維同士の絡み合いによって糸玉が発生することを防止する効果が得られるかについては、明確に記載されていない。 そして、被告製品@及びBについて、被告が、帯電防止剤で表面処理された有機繊維と顔料をどのように混合処理しているかについては明確な主張もなく、 何らの立証もされていない。被告製品@及びBが上記の糸玉発生防止効果を奏していることについての立証もない。 被告製品Aについても、帯電防止剤で表面処理された有機繊維と顔料を混合するのは購入者であるところ、上記と同様に、購入者における混合処理の態様についての主張立証はなく、糸玉発生防止効果を奏していることについての立証もない。 なお、原告は、被告が用いているのと同じ、帯電防止剤で表面処理された有機繊維と顔料を混合することによって、有機繊維の表面に滑剤に該当する成分である高級脂肪酸塩が付着すると主張し、これに沿う証拠として甲第32号証(株式会社住化分析センター作成の分析・試験報告書)及び甲第31号証(甲第32号証の分析資料について説明した原告従業員の報告書)がある。しかし、甲第32号証によれば、有機繊維と顔料の混合処理の方法として、「ビニール袋中で1〜2分手もみし混合した」ことが認められるところ、被告製品@ないしBについての混合処理がこれと同様であるとは限らず、しかも、上記混合処理によって高級脂肪酸塩が表面に付着したことによって、本件訂正発明の作用効果である糸玉発生防止効果が得られたことの立証もない。 以上のとおりであるから、滑剤に該当する成分を含有する顔料を、有機繊維と混合することをもって、滑剤によって有機繊維の表面処理をし、本件訂正発明にいう着色剤を製造することになるものと直ちに解することはできない。 なお、原告は、本件訂正発明の明細書中に、上記のとおり、「この発明の着色剤に、所期の効果を阻害しない範囲で、周知の充填剤を添加したり、汎用の顔料を併用してもよいのは勿論である。」と記載されていることを理由に、滑剤に該当する成分を含有する顔料を有機繊維に混合することも、滑剤による有機繊維の表面処理に当たるとも主張する。しかしながら、明細書中の上記記載は、「この発明の着色剤」、すなわち、既に帯電防止剤と滑剤を両者併用した処理剤で表面処理した有機繊維からなる着色剤に、さらに顔料を併用することもできる旨を記したものとしか解されないから、原告の上記主張は採用することができない。 (3) ところで、被告は、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合する使用態様は、本件特許の出願前に刊行されていた乙第1号証の9・11に記載され、公知となっていたと主張するので、この点についても検討する。 乙第1号証の11、第2号証の5によれば、本件特許の出願前である平成5年2月16日の米国特許公報(USP5,187,202)には、以下のとおりの記載があることが認められる(訳文は乙第2号証の6によった。)。 ア 発明の分野の項 「本発明は、ポリマー添加剤の分野に関する。より特定すれば本発明は、セルロース繊維またはフロックを含むあるいくつかの添加剤コンセントレート;熱可塑性支持体に模造石効果を与える方法;およびこのような方法にしたがって生産された模造石製品およびプレカラーに関する。」 イ 発明の詳細な説明の項 「本発明によって、熱可塑性樹脂に模造石の外見を与えるのに有効な添加剤であって、(A)約80重量%までの少なくとも1つのキャリヤー;(B)少なくとも約50重量%のセルロース短繊維またはフロック;および(C)約10重量%までの少なくとも1つの分散補助剤、を含む添加剤が提供される。1つの実施態様において、本発明の添加剤は、ドライカラーコンセントレートとして調製される。このようなコンセントレートにおいて、キャリヤー(A)は一般的には、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、カオリン、長石、あられ石、シリカ、タルク、これらの1つまたはそれ以上の混合物等である。本発明のドライカラーコンセントレートは一般的に、キャリヤー(A)として、0〜約50重量%までの無機充填剤、 より多くの場合、約15〜約30重量%を含んでいる。もう1つの実施態様において、本発明の添加剤は、ペレット化コンセントレートとして調製される。」「この組成物が、任意にその他の通常の成分、例えば充填剤、補強材料、難燃剤、UV安定剤、酸化防止剤、顔料、染料、帯電防止剤、離型剤等を含むことも、本発明の範囲内にある。」「例えばドライカラー添加剤コンセントレートは、高剪断ミキサーにおいてグラニュール粒および/または粉末の状態でこれらの成分を均質混合することによって調製することができる。」 ウ 実施例の項 実施例1 下記混合物を、約390°〜420°Fで固体ペレットとして押出す。 顔料ホワイト6、顔料ブラック11、EBSワックス、レーヨン繊維、GPPS、SBコポリマー(スチレン840A)、カップリング剤1、 カップリング剤2(成分の重量%の記載は省略。以下同じ。) 実施例2 下記混合物を、約340°〜375°Fで固体ペレットとして押出す。 顔料ホワイト6、顔料ブラック11、顔料ブルー29、顔料ブラウン11、レーヨン繊維、EBSワックス、EVA 実施例3 下記混合物を、約340°〜375°Fで固体ペレットとして押出す。 顔料ホワイト6、EBSワックス、レーヨン繊維、LLDPE、LDPE 実施例4 下記混合物を、約390°〜400°Fで固体ペレットとして押出す。 顔料ブラック11、顔料ブルー29、顔料イエロー80、顔料ホワイト6、FD&CNo.5、アルミニウムトリステアレート、EBSワックス、 H-ナイロン(ポリアミド)、カップリング剤 実施例5 支持体熱可塑性ポリマー(LDPE)を、下記のように実施例3のペレット化コンセントレートとブレンドする。 LDPE、実施例3のコンセントレート エ 特許請求の範囲の項(請求項3以下略) 「請求項1 約10〜125ミルの長さおよび約1〜約25デニールの繊度を有するセルロース短繊維またはフロックと、シリコーン液、グリセロール可塑剤、エポキシ可塑剤、脂肪酸の金属塩、ワックス、およびこれらの2つまたはそれ以上の混合物から選ばれる少なくとも1つの分散補助剤、とを含む添加剤コンセントレート。 請求項2 (A)約80重量%までの少なくとも1つのキャリヤー;(B)約10〜125ミルの長さおよび約1〜約25デニールの繊度を有するセルロース短繊維またはフロック少なくとも約5重量%;および(C)シリコーン液、 グリセロール可塑剤、エポキシ可塑剤、脂肪酸の金属塩、ワックス、およびこれらの2つまたはそれ以上の混合物から選ばれる少なくとも1つの分散補助剤少なくとも約1重量%、を含む添加剤コンセントレート。」 (なお、1ミルは0.001インチであり、1インチは約25.4mmであるから、10ミルは約0.254mmであり、125ミルは約3.18mmである。また、デニールは繊度の単位であり、同一の繊度であっても繊維の比重によって繊維の直径は異なってくるが、乙第1号証の5によれば、例えば比重1.50のレーヨンでその直径を計算すると、1デニールでは約9.71μm、25デニールは約48.6μmに相当すると認められる。) 上記記述のとおり、上記発明(以下「米国発明」という。)は熱可塑性樹脂に模造石の外見を与えるための添加剤に関するものであり、合成樹脂成形品に添加して模様を現出させる模様現出用着色剤に関する本件訂正発明と技術分野を同じくするものである。そして、米国発明の一つの実施態様であるドライカラーコンセントレートにおいては、短繊維及び分散補助剤を必須の構成要素とし、請求項2で構成要素とされるキャリヤーとしては無機充填剤が用いられることとされていること、この分散補助剤として脂肪酸の金属塩を用いることができるとされていること、必須の構成要素ではないが、任意に帯電防止剤や顔料を含むこともできるとされており、実施例(ただし、いずれもドライカラーではなくペレットしての実施態様に関するものである。)においては、いずれも顔料が添加されていること(なお、このドライカラーは熱可塑性樹脂に模造石の外見を与えるための添加剤に関するものであることに照らせば、顔料を含むのが通常の形態であると推認することができる。)、ドライカラーとしての調製に関しては、高剪断ミキサーにより各成分を均質混合して調製することができることがいずれも開示されている。 ところで、原告の主張によれば、本件訂正発明において、模様現出用着色剤に対する帯電防止剤による処理と滑剤による処理は、同時処理でも逐次処理でもよいというのであるから、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤を、更に滑剤に該当する高級脂肪酸塩で処理することは、これらを同時に混合して調製することと差がないものとなるところ、このような調製は、上記のとおり、米国発明の明細書にすべて記載されているものであるから、結局、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合することは、米国発明の上記明細書に既に記載されているということになる。 したがって、原告が主張するように、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、高級脂肪酸塩を含む顔料を混合して得られた製品が本件訂正発明の実施品であるとするならば、本件訂正発明はその特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明と同一のものを含むこととなり、本件特許は無効理由を有することになるから、本件訂正発明の技術的範囲を原告主張のように解するのは相当でない(なお、乙第2号証の1によれば、本件特許権について株式会社中部パイル工業所が請求した無効審判請求事件〔無効2002-35348〕において、同社は上記米国発明に係る明細書を根拠とし、本件訂正発明は米国発明請求項1に記載された発明と同一又は上記明細書に記載された発明に基づいて容易にすることができたものであるから、無効とされるべきであると主張していることが認められるが、被告は、本件において、当該無効理由の存在を根拠とする権利濫用の主張をしていないから、上記明細書の記載に基づいて本件特許権に無効理由が存在するか否かについての判断はしない。)。 (4) 上記(2)及び(3)で検討したところによれば、仮に模様現出用着色剤が、顔料と混合される前に帯電防止剤と滑剤に該当する高級脂肪酸塩を両者併用した処理剤で表面処理されていなくても、帯電防止剤で表面処理した模様現出用着色剤と、 高級脂肪酸塩を含む顔料を混合することは、模様現出用着色剤を帯電防止剤及び滑剤を両者併用して表面処理することになるという原告の主張は採用することができないのであるから、結局、被告製品@ないしBに用いられている模様現出用着色剤が、顔料と混合される前に滑剤に該当する高級脂肪酸塩によって表面処理されていなければ、そのような被告製品@ないしBの製造販売は、本件特許権ないし専用実施権を侵害するものとはいえないこととなる(そして、被告製品@ないしBに用いられている模様現出用着色剤が、顔料と混合される前に高級脂肪酸塩によって表面処理されているとは認められないことは、前記1で判示したとおりである。)。 したがって、前記争点(2)及び(3)の原告の主張も採用することができない。 3 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 守山修生 |
裁判官 | 田中秀幸 |