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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ10031特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ2473損害賠償等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 方法の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実施料相当額 /  権利の濫用(権利濫用) /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  間接侵害 /  構成要件 /  のみ用いる /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 608号 特許権侵害差止等請求事件
原告 三星ダイヤモンド工業株式会社
訴訟代理人弁護士 筒井豊
補佐人弁理士 倉内義朗
被告 中村留精密工業株式会社
訴訟代理人弁護士 関根秀太
同 佐々木俊夫
同 酒井剛毅
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/06/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件説明書記載の物件を製造し又は販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、5800万円及びこれに対する平成15年1月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、貼り合せガラス基板の裁断装置及びガラスの切断方法に関する特許権を有する原告が、被告によるガラス基板の裁断装置の製造販売が上記特許権を侵害すると主張し、また、被告による被告製裁断装置のメンテナンス等が、裁断装置の使用者による上記特許権の侵害行為を幇助する不法行為に該当すると主張して、
裁断装置の製造販売の差止めと損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。) (1) 原告は、各種ダイヤモンド並びに各種超硬合金工具及び硝子切の製造販売等を目的とする株式会社である。
被告は、機械及び機械部品の製造販売等を目的とする株式会社である。
原告及び被告は、いずれも、液晶パネル用ガラス基板その他のガラス基板の裁断装置の製造販売を行っている。
(2) 原告は、下記の特許権を有している(以下、この特許権を「本件A特許権」といい、その特許請求の範囲の請求項2記載の発明を「本件A発明」という。)。
発明の名称 貼り合せガラス基板の裁断方法及びその装置 出願日 平成4年7月29日 出願番号 特願平4-223345号 登録日 平成12年3月10日 特許番号 第3042192号 特許請求の範囲の請求項2は、別紙特許公報(特許第3042192号)の該当欄記載のとおり 上記請求項の構成要件は、以下のとおり分説される。
ア 2枚のガラス基板を貼り合せて形成された貼り合せガラス基板のうち、上方に向いたガラス基板の表面をスクライブするガラスカッターと、
イ 前記貼り合せガラス基板のうち、上方に向いたガラス基板の表面側から下方のガラス基板に押圧力を負荷させるためのブレイク手段と、
ウ 前記2枚のガラス基板の上下を反転させるための反転搬送手段を具備するとともに、
エ 第1スクライブテーブルと第1ブレイクテーブルと第2スクライブテーブルと第2ブレイクテーブルをこの順に具備し、これにより、2枚のガラス基板のそれぞれに対して、ガラスカッターの種類や材質を最適なものから選定したり、又ブレイク手段によって負荷させる押圧力を最適な状態に調整できることを特徴とし、
オ 貼り合せガラス基板を第1スクライブテーブル上に水平状態で置き、上方に向いた第1ガラス基板をその予め設定されたラインに沿って上方からガラスカッターでスクライブし、
カ 次にこの貼り合せガラス基板を反転させて第1ブレイクテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第2ガラス基板の上方からブレイク手段によって押圧力を負荷させることで、第1ガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクさせ、
キ 更にこの貼り合せガラス基板をその状態のまま、第2スクライブテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第2ガラス基板を予め設定されたラインに沿って上方からガラスカッターでスクライブし、
ク 次にこの貼り合せガラス基板を反転させて第2ブレイクテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第1ガラス基板の上方から前記ブレイク手段によって押圧力を負荷させることで、第2ガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクさせるよう構成した ケ 貼り合せガラス基板の裁断装置 (3) 原告は、下記の特許権を有している(以下、この特許権を「本件B特許権」といい、その発明を「本件B発明」という。)。
発明の名称 ガラスの切断方法 出願日 昭和62年5月27日 出願番号 特願昭62-130347号 出願公告日 平成5年5月27日 出願公告番号 特公平5-35689号 登録日 平成6年2月28日 特許番号 第1828096号 特許請求の範囲の請求項1は、別紙特許公報(特公平5-35689号)の該当欄記載のとおり 上記請求項の構成要件は、以下のとおり分説される。
ア 2枚のガラス板を多数箇所で接着重合してなる母材の表裏両面に、
もしくは1枚のガラス板の一面に、複数本の第1切断線を一方向にスクライブし、
続いて該第1切断線と交差する方向に複数本の第2切断線をスクライブした後、前記母材もしくはガラス板を所定圧力で押圧あるいは切断線より折り曲げ加圧し、該母材から多数個のセル、もしくは1枚のガラス板から多数枚のガラス片を取り出すようにしたガラスの切断方法において、
イ 前記第1切断線のスクライブの加圧力P1と、前記第2切断線のスクライブの加圧力P2との関係を、
P1

(5) 被告は、商社に対し、株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)向けとしてスクライバ2台及びブレーカ2台を販売し、平成12年5月16日ころにこれを同社に納入し、平成12年9月19日ころにその検収を受けた。
被告が日立製作所に納入したスクライバ及びブレーカは、同社の求めに応じ、これら4台を組み合せたものであり、反転手段及び搬送手段となる装置も合わせて納入している(被告が日立製作所に納入した上記製品を以下「ロ号物件」という。)。
(6) 被告は、商社に対し、エスティ・エルシーディー株式会社(以下「エスティ社」という。)向けとしてスクライバ2台とブレーカ4台を販売し、これを同社に納入し、平成11年7月30日にその検収を受けた(乙1の1・2)。
被告がエスティ社に納入したスクライバ及びブレーカは、いずれも単体で販売したものである。
(7) 被告は、上記エスティ社へのスクライバ及びブレーカの納入以降、エスティ社との契約に基づき、エスティ社において、納入したスクライバ及びブレーカの修理、メンテナンス等を行ってきた。
2 争点 (1) 差止めの必要性 〔原告の主張〕 被告は、顧客に対して別紙イ号物件説明書記載の物件(以下「イ号物件」という。)を製造販売している。
イ号物件の構成は本件A発明の構成要件を充足するものであり、イ号物件の作用効果も本件A発明の作用効果と同じである。したがって、イ号物件は本件A発明の技術的範囲に属する。
ところで、被告は、製造しているのはスクライバ及びブレーカの単体であり、イ号物件は製造販売していないと主張するが、顧客の求めに応じてラインを構成して販売することがあるとも主張しており、現に、後記(2)の原告の主張のとおり、本件A発明の技術的範囲に属するロ号物件を販売したことがある。
このような被告の主張及び営業活動に照らせば、将来において、被告が顧客の求めに応じてイ号物件を製造販売する可能性を否定できないことは明らかである。
したがって、本件A特許権に基づいて、被告によるイ号物件の製造販売を差し止める必要がある。
〔被告の主張〕 被告が製造しているのは、スクライバ及びブレーカの単体であって、イ号物件のような一連の裁断装置として製造しているものではない。
スクライバ及びブレーカの販売に際しては、顧客の求めに応じて何台かをまとめ、場合によっては搬送装置等も付けて販売することもあるが、これにしても必ずイ号物件のような組合せになるというものでもない。
以上のとおり、被告はイ号物件を製造販売しているものではないから、差止めの必要性はない。
(2) ロ号物件の構成 〔原告の主張〕 ロ号物件の構成及び作用は、別紙ロ号物件説明書(1)記載のとおりである。
ロ号物件の構成は本件A発明の構成要件を充足するものであり、ロ号物件の作用効果も本件A発明の作用効果と同じである。
したがって、ロ号物件は本件A発明の技術的範囲に属する。
被告は、ロ号物件の構成としてスルー機能があり、作用としてもそのような機能をも有していると主張するが、そうだとしても、基本的な構成は別紙ロ号物件説明書(1)記載のとおりであるし、これに記載した作用効果も有することは被告も認めるところであるから、ロ号物件が本件A発明の技術的範囲に属することに変わりはない。
〔被告の主張〕 ロ号物件の構成は、別紙ロ号物件説明書(2)記載のとおりである。
ロ号物件の作用は、別紙ロ号物件説明書(1)記載のものも、その一つであるが、各スクライバ、ブレーカとも、スクライブ又はブレークを行わないで次の工程に母剤を流す機能をも有している。
(3) 被告によるエスティ社に納入したスクライバ及びブレーカの修理、メンテナンス等は、エスティ社による本件A特許権侵害の幇助行為として不法行為となるか。
〔原告の主張〕 被告がエスティ社に納入した前記「前提となる事実」(6)記載のスクライバ及びブレーカは、別紙ハ号物件説明書記載のとおりに構成された(以下「ハ号物件」という。)。
このうち、前半のスクライバ2台及びブレーカ2台からなる部分(以下「ハ’号物件」という。)は、本件A発明の構成要件を充足するものであり、その作用効果も本件A発明の作用効果と同じである。したがって、ハ’号物件は本件A発明の技術的範囲に属する。
よって、エスティ社においてハ’号物件を含むハ号物件を使用することは、本件A発明を実施することを意味し、本件A特許権の侵害に当たる。
被告は、エスティ社に納入した上記スクライバ及びブレーカの修理、メンテナンス等の作業のために従業員を派遣したり、部品交換や部分的手直し等を行っている。これは、エスティ社がハ号物件を使用するために必要不可欠な支援であり、即ち、エスティ社がハ号物件のとおりに構成したことを知った上で、故意又は過失によって、エスティ社による本件A特許権の侵害行為を幇助するものであって、原告に対する共同不法行為である。
なお、被告がエスティ社に納入した前記「前提となる事実」(6)記載のスクライバ及びブレーカは、別紙ハ号物件説明書記載のとおりに構成されることを前提として注文がされたものであり、被告もこれを知っていたものである。
〔被告の主張〕 被告がエスティ社に納入したスクライバ及びブレーカは、納入したのは原告主張の構成以外の構成でも、単体でも用い得る単体機であり、反転手段や搬送手段の調達に被告は関与していない。ラインを組んだのはエスティ社であって、被告は関与していないし、実際の構成も知らない。また、エスティ社においてはライン構成を変更したことがあるから、常にハ号物件のように構成されていたわけでもない。
被告がエスティ社に従業員を派遣してスクライバ及びブレーカの修理等を行ったことはあるが、あくまでスクライバ及びブレーカ単体の修理等を行ったものであり、ライン全体に対する修理等を行ったものではない。
被告がエスティ社に従業員を派遣して行った修理等の回数は、4年間弱の期間内において10回未満と非常に少ない上、問題が生じた箇所の修理等にしか関与していなかったから、エスティ社がスクライバ及びブレーカをどのように構成していたかを把握することは極めて困難であった。
他方、被告がエスティ社向けにスクライバ及びブレーカを販売したのは、
本件A特許権の登録前であり、この販売行為自体は本件A特許権を侵害しない適法なものであるところ、適法に販売した機械について契約上の修理等は容易に拒否することができないものであるから、上記のとおり、エスティ社が本件A特許権を侵害するようにラインを構成していたかどうか被告において知り得ない状況下では、
スクライバ及びブレーカの機械単体の修理等を拒むべき義務はないというべきである。
したがって、本件の状況下では、仮に、被告がエスティ社向けに販売したスクライバ及びブレーカの修理等を行った行為が、エスティ社による本件A特許権の侵害行為を幇助するものと評価されるとしても、違法性が阻却されるかそもそも違法性が存在しないというべきであり、仮に違法性があるとしても故意過失がないものである。
(4) 本件A特許権に無効理由が存することが明らかか 〔被告の主張〕 ア 本件A発明は、本件A特許権の出願前に発行され、公知となっていた公開特許公報である特開昭59-8632号(乙2。以下「引用例A1」という。)及び特開昭57-109918号(乙3。以下「引用例A2」という。)の各公報に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものであり、本件A特許権には特許法123条1項2号29条2号の無効理由が存在することが明らかである。このような本件A特許権に基づく請求は、権利の濫用であって許されない。
即ち、引用例A1に記載された発明は、2枚のガラスが重ねられ、かつ互いに接着されて構成された積層板の切断方法に関するものであるが、本件A発明との相違点は、それぞれの作業工程に特定の作業テーブルがあるか否かの点のみであり、その余の点は同じである。この、それぞれの作業工程に特定の作業テーブルがあることの効果は、「2枚のガラス基板のそれぞれに対して、ガラスカッターの種類や材質を最適なものから選定したり、又ブレイク手段によって負荷させる押圧力を最適な状態に調整できること」(以下「最適状態選定効果」という。)である。
ところで、引用例A2に記載された発明は、ガラス基板切断装置に関するものであるが、この装置は、「押圧ローラーの押圧力は加圧調整用ボルトによって調整できるので、各スクライブ部において確実に切断することができ」ると記載されているように、2枚のガラス板の材質及び両面の切筋性状等の条件により各々の切断機構の加圧力を別個に設定し、それぞれに最適な押圧力を与えることができるものである。
したがって、最適状態選定効果のうち、「ブレイク手段によって負荷させる押圧力を最適な状態に調整できる」という点は、上記の引用例A2に記載された技術を引用例A1の工程にそのまま適用すれば得られるものである。
また、最適状態選定効果のうち、2枚のガラス基板のそれぞれに対して「ガラスカッターの種類や材質を最適なものから選定」して「最適な状態に調整できる」という点も、上記の引用例A2に記載された技術をスクライブ工程に単純に応用することにより得られるものである。
以上のように、引用例A2に記載された、複数の切断機構において異なった加圧力を設定することができるという技術を、引用例A1の各工程に応用すれば、最適状態選定効果を得ることは容易である。
したがって、本件A発明は、本件A特許権出願当時において、引用例A1記載の技術と引用例A2記載の技術から、当業者であれば容易に想到することができたものである。
イ 原告は、引用例A1に記載された発明では、2枚の板ガラスをどのような順序でスクライブし、ブレイクするかの順序については触れていないと主張するが、その特許請求の範囲や、実施例の記載において2枚の板ガラスのスクライブとブレイクの順序が記載されている。
また、原告は、引用例A1に記載された発明では、一連に配された4つのテーブル同士と反転手段と搬送手段の各要素を相互に有機的に連繋する構成とし、貼り合せガラス基板を、テーブルから次のテーブルへと、途中、反転、搬送、
反転を行いつつ、順次送って、スクライブ、ブレイク、スクライブ、ブレイクの一連の作業を施すことは想定していないと主張するが、そもそも、引用例A1は、本件A発明との相違点として主張したとおり、それぞれの作業工程に特定の作業テーブルがないのであるから、4つのテーブル同士等を有機的に連繋し、搬送を行い、
順次送って一連の作業を施すようになっていないことは、全て当然のことであり、
それぞれの作業工程に特定の作業テーブルがないことと同じことをいうにすぎない。
原告は、引用例A2に記載された発明と本件A発明では根本的に技術思想が異なっていると主張するが、被告が主張する無効理由は、引用例A2記載の発明と本件A発明をその全体において比較するものではないから、反論となるものではない。
また、原告は、引用例A2に記載された技術を、ブレイクとは全く異質の技術であるスクライブに応用できるとすることには根拠がないと主張するが、引用例A2に記載された技術は、最適な押圧力を選定し設定することを可能にするために2個以上の切断機構を設けるというものであり、その技術思想は工程ごとに装置を設けて最適な状態を選定するというものであるから、これをスクライブ工程に応用することができるのは明らかである。
なお、本件A特許権の出願前に発行され、公知となっていた公開特許公報である特開昭47-22912号(乙10。以下「引用例A3」という。)に記載された発明は、一方向に多数本のスクライブをするステージと、当該方向に直行する方向に多数本のスクライブをするステージを備えたガラス切断装置に関するものであるが、当該装置は、それぞれのステージごとにカッターの種類やスクライブの押圧力を変えることができる機能を備えているところ、当業者が引用例A2と合わせて引用例A3をも参照すれば、引用例A1の各工程につき個別にスクライブテーブル、ブレイクテーブルを設け、各工程に適切な条件を設定して最適状態選定効果を得ることに思い至ることは一層容易である。
〔原告の主張〕 本件A発明は、貼り合せガラス基板の2枚のガラス基板に、種類や厚みの相違があったり、表面仕上げの有無や仕上げ状態の相違があったり、熱履歴の相違があっても、第1スクライブテーブルに載置すれば、最終の第2ブレイクテーブルまで滞りなく送られ、単位貼り合せガラスに自動的に裁断されるようにしたことに特徴があり、そのために、第1スクライブテーブルと第1ブレイクテーブルと第2スクライブテーブルと第2ブレイクテーブルをこの順に具備するとともに、第1スクライブテーブルと第1ブレイクテーブルとの間及び第2スクライブテーブル及び第2ブレイクテーブルとの間では、それぞれ貼り合せガラス基板を反転させ、第1ブレイクテーブルと第2スクライブテーブルとの間では貼り合せガラス基板をそのまま搬送するというように、一連に配された上記4つのテーブル同士と2つの反転工程と1つの搬送工程の各要素を相互に有機的に連繋した構成としている。
これに対し、引用例A1に記載された発明では、2枚の板ガラスをどのような順序でスクライブし、ブレイクするかの順序については、何ら触れていない。
したがって、本件A発明のように、一連に配された4つのテーブル同士と反転手段と搬送手段の各要素を相互に有機的に連繋する構成とし、貼り合せガラス基板を、
テーブルから次のテーブルへと、途中、反転、搬送、反転を行いつつ、順次送って、スクライブ、ブレイク、スクライブ、ブレイクの一連の作業を施すことにより自動的に単位貼り合せガラスに裁断するというようなことは想定していないし、開示も示唆もない。
また、引用例A2に記載された発明は、ガラス基板を反転させずに上下両方のガラス板をそれぞれ既設のスクライブ部(切筋)で自動的にかつ確実に切断するというものであって、本件A発明のように、一連に配された4つのテーブル同士と反転手段と搬送手段の各要素を相互に有機的に連繋する構成として、第1のスクライブから始めるものとは、根本的に技術思想が異なっている。また、引用例A2に記載された技術は、ガラス基板をブレイクすることに関するものでしかないから、この技術を、ブレイクとは全く異質の技術であるスクライブに応用できるとすることは、何の根拠もない。
以上のように、本件A発明は、引用例A1記載の技術と引用例A2記載の技術から、当業者であれば容易に発明することができたというものではなく、被告主張の無効理由は存在しない。
(5) 被告によるエスティ社向けのスクライバ2台の販売は本件B特許権の間接侵害となるか 〔原告の主張〕 被告がエスティ社に納入した前記「前提となる事実」(6)記載のスクライバ2台は、クロススクライブ用に設計され、別紙ハ号方法説明書記載の方法(以下「ハ号方法」という。)の実施にのみ使用する装置であり、現にエスティ社は、上記スクライバ2台によって、ハ号方法を実施している。
ハ号方法の構成は本件B発明の構成要件を充足するものであり、ハ号方法の作用効果も本件B発明の作用効果と同じである。したがって、ハ号方法は本件B発明の技術的範囲に属する。
そして、上記スクライバ2台は、上記のとおりハ号方法の実施にのみ使用するものであるから、即ち本件B発明の実施にのみ使用するものといえる。
したがって、被告がエスティ社向けに上記スクライバ2台を販売した行為は、本件B特許権の間接侵害に当たる。
なお、被告がエスティ社向けに販売したスクライバについて、P1とP 2が調整可能であることは事実であるが、エスティ社において、P1

P 2に設定することが当業者の技術常識からあり得ないことから明らかである。
〔被告の主張〕 被告の製品であるスクライバには、クロススクライブにも用いることができるスクライバであるが、クロススクライブ用に設計されたスクライバはない。加圧力は自由に設定することができるものであるから、B特許の実施のためにのみ用いるものではないし、実際にP1

エスティ社においても、切断線ごとに加圧力を設定し、その結果、P1=P 2やP 1>P 2となる交点もあるように加圧力を設定してスクライバを使用している。
なお、一般論として、P1=P2やP1>P2と設定するよりも、P1技術常識であることは争わないが、実際の貼り合せ基板切断の場面では、シール材の位置、ガラス基板や裁断装置テーブルの微妙なうねりなど、スクライブの圧力以上に切断の良否を大きく左右する要因がいくつもあるから、P1

したがって、被告の製品であるスクライバは、ハ号方法の実施にのみ使用するものではない。
(6) 本件B特許権に無効理由が存することが明らかか 〔被告の主張〕 本件B発明は、本件B特許権の出願前に発行され、公知となっていた公開特許公報である特開昭55-15173号(乙5。以下「引用例B1」という。)に記載された発明及び本件B特許権の出願前である昭和53年12月10日に刊行され、公知となっていた刊行物である『ガラス施工法(上巻)』(第5版)(乙6。以下「引用例B2」という。)に記載された技術に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものであり、本件B特許権には特許法123条1項2号29条2号の無効理由が存在することが明らかである。このような本件B特許権に基づく請求は、権利の濫用であって許されない。
即ち、引用例B1に記載された発明は、光学表示セルの製造方法に関するものであるが、本件B発明との相違点は、@引用例B1に記載された発明は2枚のガラス板が接着重合した母材が対象物になっているのに対し、本件B発明ではこれに加え1枚のガラス板も対象物になっている点、A引用例B1に記載された発明では母材に付けられる切断線が一方のガラス板の外側面と他方のガラス板のない側面に形成されるのに対し、本件B発明では母材の表裏両面(いずれも外側面)に形成される点、B引用例B1に記載された発明においては切断線の深さの差が問題にされているのに対し、本件B発明では切断線をスクライブする加圧力の差が問題にされている点、C引用例B1に記載された発明においては第1電極基板素材であるガラス板の切断線の深さと第2電極基板素材であるガラス板の切断線の深さに差が設けられるのに対し、本件B発明においては同一のガラス面内の一方向の第1切断線とこれと交差する他方向の第2切断線との間に、切断線を形成するスクライブ加圧力に差が設けられている点、D引用例B1に記載された発明では重合される電極基板素材である2枚のガラス板のいずれに先に切断線が入れられるか、いずれのガラス板の切断線を深く形成するかについて何ら指定がないのに対して、本件B発明では同一ガラス面内で先に形成される第1切断線のスクライブ加圧力よりも後から形成され第1切断線と交差する第2切断線のスクライブ加圧力の方が大きく設定される点、の5点である。
これらの相違点のうち、Bについては、引用例B2に、ガラスカッターに加える力即ち加圧力と、切りすじに生じる縦方向に伸びた割れ目(にゅう)即ち切断線との深さとの関係が図示されており、これによれば、加圧力が増加すれば切断線の深さも増えるので、切断線の深さをスクライブ加圧力に置き換えることは引用例B2に記載された技術に基づき当業者であれば容易にできることである。
次に、@、C、Dについては、引用例B1に記載された発明において切断線の深さが異なるように形成されたのは、最初に分断される一方のガラス板の切断線を深くして比較的弱い力で分断されるようにし、次に分断される他方のガラス板の切断線を比較的浅くして比較的強い力で分断されるようにして、最初の分断の時に一方のガラス板とともに他方のガラス板も同時に分断されるのを防ぐためであるが、この技術が、2枚のガラス板を接着重合した母材における異なるガラス板に付けられた切断線の間のみならず、一枚のガラス板の同一表面における一方向と他方向の切断線に適用できることは明らかであり、したがって、母材の2枚のガラス板のそれぞれの同一面内、又は1枚のガラス板の同一面内にクロススクライブされる一方向の切断線と他方向の切断線において、その深さを変化させて切断線を形成し、弱い力で分断できる切断線から分断し、当該方向の全ての切断線に沿って分断してから他方向の分断線に沿って分断するという分断方法を、母材の表裏両面又は一枚のガラス板の一面に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記のように同一のガラス面内において、引用例B1に記載された発明にみられるような、縦方向と横方向の交差する切断線を、縦と横とでスクライブ加圧力を変えて異なった深さに形成する場合、作業性や効率の観点から、まず一方の切断線を同一加圧力でスクライブした後、他方向の切断線を前とは異なる加圧力でスクライブするという作業工程が合理的であるから、当業者であれば上記の工程を採用することが明らかである。
さらに、上記の工程を採用した場合、最初の方向に複数本の切断線をスクライブする際には、各切断線は、他の切断線と交差しないが、続いて他の方向の切断線をスクライブする際には、先に形成した切断線と交差することとなるところ、
最初の方向のスクライブ加圧力P1と、後の方向のスクライブ加圧力P 2の設定は、
通常の場合はP1

最後に、Aについては、切断時に加えられる押圧力の方向の違いをもたらすものにすぎず、母材の製作工程を計画する際に、どちらの方法を用いるかを選択するという設計上の問題にすぎないのであって、何ら本質的なものではない。したがって、母材の表裏両面に切断線を付ける方法は、当時の知見に基づき、当業者であれば容易に採用することができたものである。
したがって、本件B発明は、本件B特許権出願当時において、引用例B1記載の発明と引用例B2記載の技術から、当業者であれば容易に想到することができたものである。
なお、原告は、引用例B1に記載された発明は、電極基板素材を、切込線に沿って簡単かつ確実に分断できるようにすることを課題とするものであると主張するが、その明細書の記載に照らせば、共割れ問題の解決を図ったものであることは明らかであり、その余の原告の主張は、いずれも全く反論とならないものである。
〔原告の主張〕 本件B発明は、共割れ問題と交点飛び問題を同時に解決することを課題とするのに対し、引用例B1に記載された発明は、電極基板素材を、切込線に沿って簡単かつ確実に分断できるようにすることを課題とするものであって、両者は構成において全く異なり、作用効果も異なるものである。
引用例B2では、ガラスカッターに加える加圧力とガラス板に形成される切りすじにおける縦の割れ目(にゅう)の深さとの関係、及び、切りすじにおけるガラス性状が開示されているにすぎず、クロススクライブの技術や、交差する2種類の切断線をガラス板状に形成する際にどのような現象が発生するか、また、ガラスカッターに加える加圧力が2種類の切断線の交点においてどのような影響を及ぼすかなどについては、開示されていない。
被告の主張にいう本件B発明と引用例B1に記載された発明の相違点B(以下単に相違点@、Aのように記載する。)についていえば、本件B発明は、共割れ問題だけではなく、交点飛び問題を同時に解決するものであるから、単にP1とP 2を異ならせるのではなく、P 1

置き換えられるようなものではない。
相違点@、C、Dについていえば、被告の、引用例B1に記載された技術を、2枚のガラス板を接着重合した母材における異なるガラス板に付けられた切断線の間のみならず、一枚のガラス板の同一表面における一方向と他方向の切断線に適用できることは明らかであるとの主張は、引用例B1の記載に基づかないものであり、また、母材の2枚のガラス板のそれぞれの同一面内、又は1枚のガラス板の同一面内にクロススクライブされる一方向の切断線と他方向の切断線において、その深さを変化させて切断線を形成し、弱い力で分断できる切断線から分断し、当該方向の全ての切断線に沿って分断してから他方向の分断線に沿って分断するという分断方法を、母材の表裏両面又は一枚のガラス板の一面に適用することは、当業者が容易に想到し得ることであるという主張は、本件B発明が課題とする交点飛びの問題を全く無視するものである。
また、同一のガラス面内において、交差する切断線を、縦と横とでスクライブ加圧力を変えて異なった深さに形成する場合、作業性や効率の観点から、まず一方の切断線を同一加圧力でスクライブした後、他方向の切断線を前とは異なる加圧力でスクライブするという作業工程が合理的であるから、当業者であれば上記の工程を採用することが明らかであるとの被告の主張も、何の根拠もないものであり、本件B発明が課題とする交点飛びの問題を全く無視するものでもある。
さらに、P1とP 2の設定は、通常の場合はP 1

証拠に基づかない主張であり、加圧力を増せば深い切断線ができるという関係からは、第2切断線の加圧力を第1切断線の加圧力よりも大きくすることにより交点飛び問題を解決するという技術思想が導き出されることはないものである。
相違点Aについていえば、引用例B1記載の発明において、ガラス板の表裏両面に切断線を形成した場合には、引用例B1記載の発明が行おうとする分断はできない。また、引用例B1には、ガラス板の表裏両面に切断線を形成することについての記載も示唆もない。
以上のように、本件B発明は、引用例B1記載の発明と引用例B2記載の技術から、当業者であれば容易に発明することができたというものではなく、被告主張の無効理由は存在しない。
(7) 損害 〔原告の主張〕 ア 被告によるロ号物件の販売は、本件A特許権を侵害するものであり、これにより原告が被った損害は、これにより被告が得た利益に等しい。
ロ号物件の販売代金 1億8000万円 被告の利益率 20パーセント 被告が得た利益 1億8000万円×20パーセント=3600万円 イ 被告によるエスティ社に納入したスクライバ及びブレーカの修理、メンテナンス等は、前記原告の主張のとおり被告に対する不法行為であり、これにより原告が被った損害は、ハ’号物件の使用によって原告が被った損害、即ちハ’号物件の使用に対する実施料相当額に等しい。
ハ’号物件を構成するスクライバの販売代金 2300万円×2台=4600万円 ハ’号物件を構成するブレーカの販売代金 2100万円×2台=4200万円 実施料率 5パーセント 実施料相当額 (4600万円+4200万円)×5パーセント=440万円 ウ 被告によるエスティ社向けのスクライバ2台の販売は、本件B特許権を間接侵害するものであり、これにより原告が被った損害は、これがなければ原告が得られた利益に等しい。
上記スクライバの販売代金 2300万円×2台=4600万円 原告の利益率 20パーセント 原告が得られた利益 4600万円×20パーセント=920万円 〔被告の主張〕 否認ないし争う。

当裁判所の判断
1 争点(4)(本件A特許権に無効理由が存することが明らかか)について (1) 本件A特許権に係る明細書(甲2)によれば、本件A発明は本件A特許権の請求項2に係るものであり、請求項1の発明はこれを方法の発明としたものであるところ、その発明の詳細な説明には、次のような記載があることが認められる。
ア 産業上の利用分野、従来の技術、発明が解決しようとする課題の項 本発明は、二枚のガラス基板を貼り合せて形成された貼り合せガラス基板から単位貼り合せガラスに機械的に裁断する裁断方法及びその装置に関する。
従来は、まず、貼り合せガラス基板をスクライブテーブル上に水平状態で置き、第1ガラス基板を上方からガラスカッターでスクライブし、次に、この貼り合せガラス基板を反転させてスクライブテーブル上に水平状態で置き、第2ガラス基板を上方からガラスカッターでスクライブし、この後、第2ガラス基板を上方に向けた状態のまま、この貼り合せガラス基板をブレイクテーブル上に水平状態で置き、上方に向いた第2ガラス基板の上方からブレイク手段によって第1ガラス基板のスクライブラインに沿って押圧力を負荷させて第1ガラス基板をブレイクさせ、次に、この貼り合せ基板を反転させてブレイクテーブル上に水平状態で置き、
上方に向いた第1ガラス基板の上方からブレイク手段によって第2ガラス基板のスクライブラインに沿って押圧力を負荷させて第2ガラス基板をブレイクさせていた。
ところが、この際、第1ガラス基板をブレイクさせる工程で、上方に向いた第2ガラス基板も同時にブレイクし、工程途中で貼り合せガラス基板の一部が完全に単位貼り合せガラスに裁断されるおそれがある。こうなると、その後に貼り合せ基板を反転させ、ブレイクテーブル上に置くまでの途中で完全に単位貼り合せガラスに裁断されたものが脱落したり、再度ブレイク手段によって押圧力が負荷されることで、単位貼り合せガラスの側端に欠け等の損傷が残ることがある。
本発明は、このような従来の問題点の解決を図り、工程途中で貼り合せガラス基板の一部が完全に単位貼り合せガラスに裁断されて、これが最後の工程に搬送する途中で脱落したり、裁断された単位貼り合せガラスの側端に欠け等の損傷が残るおそれを少なくすることを目的とする。
イ 課題を解決するための手段の項 上記の目的を達成するため、本発明は、第1スクライブテーブルと第1ブレイクテーブルと第2スクライブテーブルと第2ブレイクテーブルをこの順に具備し、これにより二枚のガラス基板のそれぞれに対して、ガラスカッターの種類や材質を最適なものから選定したり、ブレイク手段によって負荷させる押圧力を最適な状態に調整できることを特徴とし、貼り合せガラス基板を第1スクライブテーブル上に水平状態で置き、第1ガラス基板を上方からガラスカッターでスクライブし、次に、この貼り合せガラス基板を反転させ、第1ブレイクテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第2ガラス基板の上方からブレイク手段によって押圧力を負荷させることで第1ガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクさせ、さらにこの貼り合せガラス基板をその状態のまま、第2スクライブテーブル上に搬送して水平状態で置き、第2ガラス基板を上方からガラスカッターでスクライブし、次に、この貼り合せガラス基板を反転させ、第2ブレイクテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第1ガラス基板の上方からブレイク手段によって押圧力を負荷させることで第2ガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクさせる貼り合せガラス基板の裁断方法及び裁断装置を要旨とする。
ウ 作用、発明の効果の項 本発明では、二枚のガラス基板を貼り合せて形成された貼り合せガラス基板から単位貼り合せガラスに機械的に裁断するに際し、最初にスクライブするガラス基板をブレイクさせる工程では他方のガラス基板はまだスクライブされていないから、他方のガラス基板はこれをブレイクさせる工程の前にブレイクされることがなく、工程途中で貼り合せガラス基板の一部が完全に単位貼り合せガラスに裁断されて、これが最後の工程に搬送する途中で脱落したり、裁断された単位貼り合せガラスの側端に欠け等の損傷が残ることが少なくなる。
また、貼り合せガラス基板は二枚のガラス基板が完全にブレイクした後、そのままの状態で残るから、後処理や後工程への搬送が簡単に行える。
さらに、第1ガラス基板のスクライブと第2ガラス基板のスクライブをそれぞれ別のスクライブテーブルで行い、またこれらのブレイクをそれぞれ別のブレイクテーブルで行うから、貼り合せガラス基板の2枚のガラス基板に、種類や厚みの相違があったり、表面仕上げの有無やこの仕上げ状態の相違があったり、熱履歴の相違があっても、これら二枚のガラス基板のそれぞれに対して、ガラスカッターの種類や材質を最適なものから選定したり、ブレイク手段によって負荷させる押圧力を最適な状態に調整することができ、好適である。
(2) これに対し、引用例A1(特開昭59-8632号。乙2)に記載された発明は、特許請求の範囲第1項が、「互いに重ねて固着された2枚の板ガラスに切筋を入れ、前記切筋を形成した板ガラスを下側とし、かつその切筋の両側部を支承台で支承し、前記切筋の部分を上側の板ガラス上から加圧して、下側の板ガラスを切筋に沿って割ることを特徴とする板ガラスの切断方法」、第2項が、「一方の板ガラスに切筋を入れ、その板ガラスを下側として、それを切筋から割り、次に他方の板ガラスに切筋を入れる特許請求の範囲の記載1の板ガラスの切断方法」というものであり、その明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載があることが認められる。
ア 本発明は互いに固着された2枚の板ガラスの切断方法に関し、2枚の板ガラスを無理なく切断することを可能にするものである。
本発明は、互いに重ねて固着された2枚の板ガラスに切筋を入れ、前記切筋を形成した板ガラスを下側とし、かつその切筋の両側部を支承台で支承し、前記切筋の部分を上側の板ガラス上から軽く押すなどすることを要旨とする。
イ 第1実施例の説明 1は積層板で、これは2枚のガラス板A、Bが重ねられ、互いに接着されて構成されたものである。
まず上側になったガラス板Aにカッター2で切筋3Aを入れる。切筋3Aを入れた積層板1を反転して、切筋3Aを有するガラス板が下側になるようにし、かつ切筋3Aの両側部を支承台4,4で支承する。支承台4上に載置された積層板1を、その切筋3Aの部分を板ガラスB側から、軽く押すようにするか、たたくようにして、板ガラスAを切筋3Aの部分で割る。次には、板ガラスBの所要の位置にカッター2で切筋3Bを入れる。切筋3Bを形成した積層板1を再度反転し、板ガラスB側を下にして支承台4上に積層板1を置き、切筋3Bの部分を板ガラスA側から押すか、たたくようにして板ガラスBを切筋3Bの部分で割ることで、積層板1を切断する。カッター2で切筋3を入れるときは、積層板1は、その全面を支承し得るテーブルその他適当な位置に置く。
引用例A1の上記記載中、「板ガラス」は本件A発明における「ガラス基板」に、「互いに重ねて固着された2枚の板ガラス」及び「積層板」は「貼り合せガラス基板」に、「切筋」は「スクライブライン」に、「切筋を入れる」は「スクライブする」に、切筋を入れるときに積層板を置く「テーブル」は「スクライブテーブル」に、「支承台」は「ブレイクテーブル」に、「加圧して切筋から割る」は「押圧力を負荷させることでスクライブラインに沿ってブレイクさせる」に、それぞれ相当するものと認められる。
したがって、引用例A1に上記のように記載されている特許請求の範囲第2項の板ガラスの切断方法を実施するための装置としては、本件A発明の構成要件に即していえば、
ア 2枚のガラス基板を貼り合せて形成された貼り合せガラス基板のうち、
上方に向いたガラス基板の表面をスクライブするガラスカッターと、
イ 前記貼り合せガラス基板のうち、上方に向いたガラス基板の表面側から下方のガラス基板に押圧力を負荷させるためのブレイク手段と、
ウ 前記2枚のガラス基板の上下を反転させるための反転搬送手段を具備するとともに、
エ スクライブテーブルとブレイクテーブルを具備し、
オ 貼り合せガラス基板をスクライブテーブル上に水平状態で置き、上方に向いた第1ガラス基板をその予め設定されたラインに沿って上方からガラスカッターでスクライブし、
カ 次にこの貼り合せガラス基板を反転させてブレイクテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第2ガラス基板の上方からブレイク手段によって押圧力を負荷させることで、第1ガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクさせ、
キ 更にこの貼り合せガラス基板をその状態のまま、スクライブテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第2ガラス基板を予め設定されたラインに沿って上方からガラスカッターでスクライブし、
ク 次にこの貼り合せガラス基板を反転させてブレイクテーブル上に搬送して水平状態で置き、上方に向いた第1ガラス基板の上方から前記ブレイク手段によって押圧力を負荷させることで、第2ガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクさせるよう構成した ケ 貼り合せガラス基板の裁断装置 が示唆されるものと認められる。
(3) 本件A発明と上記引用例A1の記載から示唆される裁断装置の構成を対比すれば、両者は、本件A発明では、「第1スクライブテーブルと第1ブレイクテーブルと第2スクライブテーブルと第2ブレイクテーブルをこの順に具備し、これにより、2枚のガラス基板のそれぞれに対して、ガラスカッターの種類や材質を最適なものから選定したり、又ブレイク手段によって負荷させる押圧力を最適な状態に調整できる」ようにしているのに対し、上記引用例A1の記載から示唆される裁断装置では、各スクライブ及び各ブレイク工程をそれぞれ別個のスクライブテーブル及びブレイクテーブルで行うことが明示されていない点で相違し、その余の点で一致する。
この点、原告は、引用例A1に記載された発明では、2枚の板ガラスをどのような順序でスクライブし、ブレイクするかの順序については、何ら触れていないと主張するが、上記(2)のとおり、引用例A1には、スクライブとブレイクの順序が明示されているのであるから、この点についての原告の主張は採用することができない。
(4) そこで、進んで、上記相違点について検討する。
引用例A2(特開昭57-109918号。乙3)は、ガラス基板切断装置の発明に関するものであるが、その明細書には、この発明は、「2枚のガラス板を接着しかつ2枚のガラス板の所定位置の表面にスクライブしたガラス基板を自動的に各ガラス板のスクライブ部において切断することを目的とするものである」こと、その実施例として、2個の切断機構を備え、ガラス基板の2箇所にスクライブした後、第1の切断機構において押圧ローラによってガラス基板を押圧することでガラス基板を第1のスクライブ部において切断し、その後に第2の切断機構において押圧ローラによってガラス基板を押圧することでガラス基板を第2のスクライブ部において切断するガラス基板切断装置の構成が記載され、さらに、各押圧ローラの押圧力は可圧調整用ボルトによって調整できるので、各スクライブ部において確実に切断することができること、発明の効果として、「2枚のガラス板を接着しかつ2枚のガラス板の所定位置の表面にスクライブしたガラス基板を自動的にかつ確実に切断することができ」ることが記載されていることが認められる。
また、引用例A3(特開昭47-22912号。乙10)は、ガラス切断方法及び装置の発明に関するものであるが、その明細書には、特許請求の範囲の請求項3として、「板ガラスを予定寸法の長方形断片に切断するための機械において、前記長方形断片に切断されるべき板ガラスを支持するための支持装置と、前記支持装置上の板ガラスが前記支持装置と共にある与えられた通路に沿って運動するように、前記支持装置を前記通路に沿って搬送するために前記支持装置と作動的に連結された搬送装置と、前記板ガラスが前記支持装置と共に前記通路に沿って運動する際前記板ガラスをこのガラス中で相互に平行したほぼ真直ぐな線に沿って切断するために前記通路に沿って配置された1対のガラス切断装置とを包含し、前記搬送装置、支持装置、及び切断装置の対がすべて相互に協働して前記支持装置と前記切断装置の一方との間に、前記支持装置と前記切断装置の他方との間の相対方位に対して垂直な相対方位を与え、この結果前記切断装置の一方によって前記ガラス中に切込まれた直線が前記切断装置の他方によって前記ガラス中に切込まれた直線に対して直交するようになっているガラス切断機械」が記載され、また、その実施例の説明として、各ガラスカッターは止めねじ等により調整可能に固定されていること、カッターの種類も選択可能なことが記載されていることが認められる。
上記のとおり、引用例A2には、ブレイクを2箇所で分けて行う構成が、
引用例A3には、スクライブを2箇所で分けて行う構成が記載され、さらに、引用例A2及びA3には、いずれも、スクライブやブレイクを2箇所で分けて行う際に、ガラスカッターの種類や材質を選択したり、ブレイク手段によって負荷させる押圧力を調整することができる構成が記載され、加えて、板ガラスの切断を自動化する発想とそのための装置も記載されている。
そして、ガラスカッターの種類や材質を選択したり、ブレイク手段における押圧力を調整することができる場合に、最適なものから選定したり、最適な状態に調整できるよう構成することは、当業者であれば当然なすべき事項であるというべきである。
したがって、上記引用例A1の記載から示唆される裁断装置の構成に、上記引用例A2及びA3に記載された構成を組み合わせれば、上記の本件A発明との相違点は解消されるということができる。
なお、原告は、引用例A2に記載された発明は、本件A発明とは根本的に技術思想が異なっていると主張するが、本件A発明と引用例A2に記載された発明は、いずれも貼り合せガラス基板の切断方法ないし装置に関するものであり、技術分野は全く同一であるから、当業者において、引用例A2に記載された技術を引用例A1の記載から示唆される裁断装置に組み合わせて適用することを妨げる事情は存在しないというべきであり、この点についての原告の主張は採用することができない。
また、原告は、本件A発明は、第1スクライブテーブルに載置すれば、最終の第2ブレイクテーブルまで滞りなく送られ、単位貼り合せガラスに自動的に裁断されるようにしたことに特徴があり、そのために、一連に配された上記4つのテーブル同士と2つの反転工程と1つの搬送工程の各要素を相互に有機的に連繋した構成としているところ、引用例A1に記載された発明ではそのようなことは想定していないし、開示も示唆もないと主張する。しかしながら、原告の主張を前提としても、上記のとおり、引用例A2及びA3には、板ガラスの切断を自動化する発想とそのための装置が記載されており、これを上記引用例A1の記載から示唆される裁断装置の構成に適用することは、当業者であれば容易にし得ることは明らかであり、特段の意味を有する相違点とはならない。
(5) 以上のとおり、本件A発明は、その特許出願前に頒布された引用例A1ないし3に記載された技術を組み合わせることによって、当業者であれば容易に想到することができたものであるというべきである。
したがって、本件A特許権には特許法123条1項2号29条2項の無効理由が存在することが明らかである。
そして、このような無効理由を有することが明らかである特許権に基づく差止め等の請求は、特段の事情が存在しない限り権利の濫用として許されないというべきであるところ、本件においてはそのような特段の事情が存在するとは認められない。
よって、本件A特許権に基づく原告の本件請求は、権利の濫用というべきであり、許されないという被告の主張は、理由がある。
2 争点(5)(被告によるエスティ社向けのスクライバ2台の販売は本件B特許権の間接侵害となるか)について 原告は、被告がエスティ社向けに販売したスクライバについて、P1とP2が調整可能であることは認めつつ、エスティ社においては、現実にはP1

P 2に設定すると、第2切断線の不良率が非常に高くなるから、そのような設定は当業者の技術常識からあり得ない、と主張する。
そこで検討するに、上記@の主張を裏付ける証拠となり得るものとしては、
原告従業員であるaの報告書(甲15)が存在するが、その記載は、原告の従業員である技術者がエスティ社に納入した1号ライン装置のメンテナンス作業に出向いた際に、被告製の「単体機を組み合わせた2号ライン装置の配置状況及び稼働状況を目撃することが何回もあったと聞いております。従って、A特許発明の内容の装置が稼働している状況とB特許発明のスクライブ方法を用いた状況でライン装置が稼働していたことも確認されております。」というものにとどまる。この記載は、原告従業員が確認したという時期や回数といった具体性に欠けるばかりか、原告が納入した1号ライン装置のメンテナンスに出向いた原告従業員において、別ラインで稼働する被告製スクライバの圧力計を十分に確認することができたのかという点で疑問なしとしない。そして、上記の他に、上記@の主張を認めるに足りる証拠はない。また仮に、上記@の主張が事実であるとしても、原告従業員は上記報告書の記載のとおり、原告が納入したライン装置のメンテナンスのためにエスティ社に赴いたもので、被告が納入したスクライバを常時監視することができたものとは認められないから、この@の主張のみによっては、結局、エスティ社において常にP1 また、上記Aの主張について検討するに、一般論として、P1=P 2やP 1>P2と設定するよりも、P 1

技術常識であることは被告も認めるところであるが、本件B特許の出願前においては、P1=P 2と設定してスクライブを行っていたことは本件B特許の特許公報(甲4)に記載されているところであるから、エスティ社においてそのような設定をしたとしても、直ちに不合理であるとはいえない。しかも、本件B発明を適法に実施するためには原告の許諾が必要となり、そのためには、通常は、原告に実施料を支払うか、原告の製品を用いるなどしなければならないから、エスティ社においてこれを避けるために、あえてP1

P 2となる交点も生じるように使用されているという被告の主張と、これを裏付ける被告従業員bの陳述書(乙13)の記載内容も、合理性を欠くものとはいえない。したがって、上記Aの主張によっては、エスティ社において常にP1

そして、他に、被告がエスティ社向けに販売したスクライバが、常にP1 したがって、被告がエスティ社向けに販売したスクライバが、P1

実施にのみ使用するものであると認めることもできない。
よって、被告によるエスティ社向けのスクライバ2台の販売が本件B特許権の間接侵害に当たるという原告の主張は採用することができない。
3 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないことが明らかである。
よって、主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生