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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ26626特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ14010損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 協議 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  権利の濫用(権利濫用) /  出願経過 /  均等 /  均等侵害 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  不存在 /  禁反言 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  同意 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 23648号 特許権差止請求権等不存在確認請求事件
平成 16年 (ワ) 1989号 損害賠償請求事件
原告(反訴被告) 鹿島建設株式会社 (以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 弓削田博
被告(反訴原告) 丸山工業株式会社 (以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 後藤昌弘
同 川岸弘樹
補佐人弁理士 広江武典
同 武川隆宣
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/06/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告が,原告に対し,被告の有する特許第3270968号特許権に基づき,原告が別紙原告実施工法目録記載の軟弱地盤の改良方法及び別紙原告改良施工装置目録記載の改良施工装置を使用することの差止めを求める権利を有しないことを確認する。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,被告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 本訴 主文第1項と同旨。
2 反訴 原告は,被告に対し,金2000万円及びこれに対する平成16年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
(本訴) 原告は,被告に対し,別紙原告実施工法目録記載の軟弱地盤の改良方法(以下「原告方法」という。)及び別紙原告改良施工装置目録記載の装置(以下「原告装置」という。)の使用が被告の有する後記特許権の侵害に該当せず,又は,後記特許権に明白な無効事由が存在し,これに基づく差止請求権利の濫用に当たり許されないと主張して,原告方法及び原告装置の使用につき後記特許権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求めた。
(反訴) 被告は,原告に対し,原告方法を使用する原告の行為が被告の有する後記特許権を侵害する(なお,被告は,原告装置の使用が被告の有する特許権を侵害する旨の主張はしていない。)として,不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた。
1 争いのない事実等(認定の根拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。) (1) 被告の有する特許権 被告は,以下の特許権(以下「本件特許権」という。また,その請求項1記載の発明を「本件発明1」と,請求項4記載の発明を「本件発明2」と,本件発明1と本件発明2を併せて「本件発明」という。)を有している。
発明の名称 軟弱地盤の改良工法及びその改良施工装置 出願日 平成8年6月17日 登録日 平成14年1月25日 特許番号 第3270968号 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの請求項1及び請求項4欄記載のとおり(以下同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
A ドレーン材を地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に鉛直排水壁を造成する工程と, B 真空ポンプに連結されたネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材を前記ドレーン材上端部と接触するように水平状に配置する工程と, C 地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆う工程と, D 前記真空ポンプを作動させて地盤上面に負圧の状態を造り出す工程 E とからなることを特徴とする軟弱地盤の改良工法。
イ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
F 地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設されるドレーン材と, G このドレーン材上端部と接触するように水平状に配置されるネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材と, H 前記通水材に連結される真空ポンプと, I 地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに覆う合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートとからなることを特徴とする J 軟弱地盤の改良施工装置。
(3) 原告の行為 原告は,業として,原告方法を使用し,原告装置を製造し使用している。
(4) 原告方法及び原告装置の構成 ア 原告方法の構成は,次のとおりである。
a ドレーン材を地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に鉛直排水壁を造成する工程と, b 真空ポンプに連結された袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材を前記ドレーン材上端部と接触するように水平状に配置する工程と, c 地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに塩化ビニール製シートで覆う工程と, d 前記真空ポンプを作動させて地盤上面に負圧の状態を造り出す工程 e とからなることを特徴とする軟弱地盤の改良工法 イ 原告装置の構成は,次のとおりである。
f 地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設されるドレーン材と, g このドレーン材の上端部と接触するように水平状に配置される袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材と, h 前記通水材に連結される真空ポンプと, i 地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに覆う塩化ビニール製シートからなることを特徴とする j 軟弱地盤の改良施工装置 (5) 本件発明の構成要件充足性 ア 本件発明1の構成要件充足性 原告方法は,本件発明1の構成要件A,D及びEを充足する。
イ 本件発明2の構成要件充足性 原告装置は,本件発明2の構成要件F,H及びJを充足する。
(6) 本件特許の出願経過(甲7ないし11,弁論の全趣旨) 本件特許の出願経過は,以下のとおりである。
ア 公開特許公報(甲7)の記載 本件特許は,平成8年6月17日に出願され,平成12年11月28日に公開されたが,出願当初の明細書においては,本件発明に対応する特許請求の範囲の請求項は,以下のとおり記載されていた。
(ア) 請求項1 「ドレーン材を地盤中に所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に鉛直排水壁を造成する工程と,前記ドレーン材上端部と接触するように水平状に真空ポンプに連結した通水材を配置する工程と,地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆う工程と,前記真空ポンプを作動させて地盤上面に負圧の状態を造り出す工程とからなることを特徴とする軟弱地盤の改良工法。」 (イ) 請求項4 「地盤中に所定の間隔をおいて打設されるドレーン材と,このドレーン材上端部と接触するように水平状に配置される通水材と,通水材に連結される真空ポンプと,地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに覆う合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートとからなることを特徴とする軟弱地盤の改良施工装置。」 イ 拒絶理由通知書(甲8)の記載 前記アの出願に対し,特許庁審査官は,平成13年8月16日,前記ア記載の各発明につき,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由通知書を発した。
上記拒絶理由通知書の備考欄には,以下の記載がある。
「引用文献1においては,不透膜14の構成については記載されていないが,不透膜をどのような構成とするかは設計的事項に過ぎず,また合成樹脂をラミネートしたシートも,参考文献にあるように様々な技術分野においてよく用いられているものに過ぎず,合成樹脂をラミネートしたシートを引用文献1の不透膜として用いて,本願の請求項1のような構成とすることは,当業者にとって容易に想到できたことである。
(中 略) 引用文献4の複合シートを通水材として用いることは,当業者にとって容易に想到できたことである。
引用文献5には,非透水性シートの下面に透水性シートを一体に積層したシートが記載されており,これを引用文献1のサンドマットと不透膜に代えて用いることは,当業者にとって容易に想到できたことである。(以下省略)」 ウ 出願人による補正 前記イの拒絶理由通知に対し,出願人は,平成13年10月15日(提出日)付の手続補正書(甲10)を提出して,前記ア記載の各請求項1,4について,「通水材」を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と補正し,本件明細書の記載と同一の記載に補正した。
これと同時に,出願人は,特許庁審査官に対し,同日付けの意見書(甲9)を提出した。同意見書には以下の内容の記載がある。
(ア) 前記ア記載の各請求項に係る発明が,「ネットとネットの表面に取り付けられた繊維シ-トとからなる帯状の通水材を用い,この通水材を地盤上に残しておかれたドレーン材上端部と接するように配置して,該通水材を通して地盤表面へと吸い出された水及び空気を改良区域外へと排出するようにしているのに対し,引用例1記載の発明では,水及び空気の排水経路としてサンドマットを用いている点で相違している。」(4頁2〜7行)そして,両者は共に水及び空気の排水経路として機能するものであるが,「請求項1,4に係る発明の通水材は,ネットとネットの表面に取り付けた繊維シートとからなり,サンドマットとの作用効果の違いは,本意見書に添付した実験証明書(甲11)からも明らか」(4頁14〜17行)である。
(イ) また,拒絶理由通知書記載の引用例2,3,5及び6には,「地盤上に残しておかれたドレーン材上端部と接するように真空ポンプに連結されたネットとネットの表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材を配置することについて,何らの記載も示唆もない。」(5頁14〜16行) (7) 被告の対応 ア 警告書の送付 被告は,平成15年6月,訴外日本下水道事業団(以下「下水道事業団」という。)及び原告を含む特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)に対し,下水道事業団が発注し,JVが原告方法及び原告装置を使用して実施している工事の実施が,本件特許権を侵害している旨の警告書を送付し,同書面は同月19日に下水道事業団に到達した。
イ 証拠保全の実施 被告は,前記ア記載の警告後の平成15年6月30日,前記ア記載の工事について,原告方法及び原告装置がいずれも本件特許権を侵害している可能性が高く,証拠保全の必要性が高いなどとして証拠保全申立てを行い,同年7月10日,証拠保全が実施された。
ウ 金銭支払の要求 平成15年8月13日及び同年9月8日に行われた原,被告間の協議の場において,被告は,原告に対し,原告方法及び原告装置がいずれも本件特許権を侵害することを前提に,本件特許権の実施料として,最終的に600万円の支払を求めた。
2 争点 (1) 構成要件充足性の有無 ア 原告方法は,本件発明1の構成要件Bを充足するか。
イ 原告装置は,本件発明2の構成要件Gを充足するか。
(2) 均等侵害の成否 ア 原告方法と本件発明1 (ア) 原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等か。
(イ) 原告方法の「塩化ビニール製」シートは,構成要件Cの「合成樹脂をラミネートした気密」シートと均等か。
イ 原告装置と本件発明2 (ア) 原告装置の「袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Gの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等か。
(イ) 原告装置の「塩化ビニール製」シートは,構成要件Iの「合成樹脂をラミネートした気密」シートと均等か。
(3) 本件特許に進歩性欠如による無効理由のあることが明らかといえるか。
(4) 被告の被った損害の額は幾らか。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(構成要件充足性)について ア 本件発明1の構成要件Bの充足性 (被告の主張) (ア) 「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」の意義 構成要件Bにおける「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,シートの長さ方向に沿って水及び空気を移動させる移動経路,排水経路を構成するものであり,さらに,ネット表面に積層した繊維シートによって,砂や土砂の透過を抑制して,前記経路を確保する作用効果を有するものであれば足りる。その形状は,特許公報の【図3】で示された「ネット状」の形状に限定されない。
本件発明1の通水材において,「ネット」は,「繊維シート」との関係で,シートの長さ方向に沿って水及び空気を移動させる移動経路,排水経路を構成し,かつ砂や土砂の透過を抑制して,前記経路を確保するものであり,そのために高さ方向への通水は全く不要である。
したがって,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,ネットを用いない通水材を含むものと解すべきである。
(イ) 原告方法との対比 上記のとおり,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,本件発明における前記経路を確保するとの作用効果を有するものであれば,「ネットを用いない通水材」を含むと解すべきであるから,原告方法の構成bの「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」ものも,同様の作用効果を奏するので,構成要件Bを充足する。
(原告の反論) 以下のとおり,原告方法は,本件発明1の構成要件Bを充足しない。
(ア) 「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートからなる帯状の通水材」の意義 本件特許の出願経過からすれば,本件発明1の構成要件Bにおける「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートからなる帯状の通水材」とは,通水材一般ではなく,特許公報に【図3】として示された,「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状」の通水材に限定されたものと解すべきである。
すなわち,原告方法における凹凸を付したプラスチック成型版を不織布等で覆うような通水材は,甲29ないし33記載のとおり,本件特許出願前の周知技術であった。したがって,本件発明1は,通水材について,公知技術とは異なる「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材に特に限定したことにより特許されたというべきである。
「ネット」とは,いわゆる「網」であり,網の目が存在し,その網の目を通してネットの長さ方向のみならず高さ方向にも通水可能となっているものを指すと解すべきである。
(イ) 原告方法との対比 原告方法における構成bの「プラスチック成型板」は,凹凸の付されたプラスチックの板状のものであり,網の目は存在しないので,構成要件Bの「ネット」に当たらない。また,「プラスチック成型板」は,長さ方向にのみ通水を行うものであって,高さ方向に通水することはできないので,その作用も「ネット」と異なる。
したがって,原告方法は,本件発明1の構成要件Bを充足しない。
(ウ) 禁反言 被告の上記主張は,本件特許の出願過程における主張(補正)と明らかに矛盾し,禁反言の原則から許されない。
イ 本件発明2の構成要件Gの充足性 (被告の主張) 前記アに記載したのと同様の理由により,原告装置は,本件発明2の構成要件Gを充足する。
(原告の反論) 前記アに記載したのと同様の理由により,原告装置は,本件発明2の構成要件Gを充足しない。
(2) 争点(2)(均等侵害の成否)について ア 本件発明1と原告方法について (ア) 原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等か。
(被告の主張) 仮に原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材が,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材に当たらないとしても,以下のとおり,原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等物であり,本件発明1の技術的範囲に属する。
a 本質的部分について 本件発明1の作用効果を得るためには,芯材と不織布又は繊維シートとの間に隙間が形成されればよく,その構造,形態が「ネット」である必要はない。通水材にネットを使用することは,本件発明1の本質的部分ではない。
b 置換可能性 本件発明1における「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材を,原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材に置き換えても,芯材と繊維シートとの間,及び繊維シートの構成繊維間に隙間が形成され,この隙間を通してシートの長さ方向に水及び空気が移動する移動経路及び排水経路を確保することができ,本件発明1と同様の作用効果を奏する。
c 置換容易性 凹凸を付したプラスチック成型板を芯材とし,これを不織布等で覆ったドレーン材を用いて,長さ方向に水及び空気が移動する移動経路及び排水経路を構成する技術,並びにドレーン材の芯材となるプラスチック成型板の凹凸に孔を形成して両側面に形成された空間を連通せしめる技術が,本件特許出願前に周知であった。
したがって,本件発明1の「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材を,原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材に置き換えることは,当業者が,原告方法の使用を開始した当時において容易に想到できた。
d 公知技術からの容易推考 上記cのとおり,凹凸を付したプラスチック成型板を芯材として,これを不織布等で覆ったドレーン材は本件特許出願時において既に周知であった。
しかし,この周知のドレーン材を真空圧密工法における真空圧伝播手段(通水材)として用いること自体,本件特許出願当時の公知技術からは全く予測し得ないことであり,原告方法は,本件特許出願時に容易に推考できたものではない。
e 意識的除外等の不存在 原告は,構成要件Bにおける「通水材」を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と補正したが,これにより,「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材を用いた方法を特許請求の範囲から意識的に除外したと解すべきではない。
(原告の反論) a 本質的部分について 本件特許の出願過程に照らすと,本件発明1は,当初の「通水材」との構成を,「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材に限定して補正することにより,特許査定を受けたものというべきである。
したがって,本件発明1における通水材が,「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材であることが,本件発明1の本質的部分である。
b 公知技術からの容易推考について 凹凸を付したプラスチック成型板を不織布等で覆う構成,及び大気圧工法による地盤改良において,改良対象地盤上面に負圧環境をつくり出すために,改良対象地盤上面を気密シートで覆う技術はいずれも本件特許出願前の公知技術である。
したがって,原告方法は,本件特許出願時における公知技術と同一か,又は,少なくとも当業者が公知技術から容易に推考できた。
c 意識的除外等の存在 本件特許の出願過程からすれば,被告は,本件発明1の「通水材」につき,原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材を含む通水材一般ではなく,「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材に限定をしたものというべきである。
したがって,被告は,出願過程において,本件発明1の「通水材」から,通水材一般に含まれる本件実施工法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材」を意識的に除外したものである。
(イ) 原告方法の「塩化ビニール製」シートは,構成要件Cの「合成樹脂をラミネートした気密」シートと均等か。
(被告の主張) 原告方法で用いられている気密シートは,塩化ビニール製シートであるから,構成要件Cの「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートに当たらない。
しかし,以下のとおり,原告方法の構成cの「塩化ビニール製」シートは,構成要件Cの「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートと均等物であり,本件発明1の技術的範囲に属する。
a 本件発明1の本質的部分 本件発明1は,気密シートで地盤上面を覆うことにより,地盤上面に,より効率的に負圧環境をつくり出す作用効果を得るものである。したがって,気密シートは,非通気性のものであれば足り,その構造が原告方法に用いられる単層のものであろうと,構成要件Cのラミネート構造であろうと,その効果に実質的な差異はない。
したがって,構成要件Cの「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートと,単一の合成樹脂層からなる原告方法の「塩化ビニール製」シートにおける相違部分は本件発明1の本質的な部分ではない。
b 置換可能性 本件発明1における「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートを,原告方法の「塩化ビニール製」シートに置き換えても,地盤上面を覆うことで地盤上面により効率的に負圧環境をつくり出すことができるという作用効果を奏する。
c 置換容易性 前記bのとおり,本件発明1における「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートと原告方法における「塩化ビニール製」シートとは,同様の作用効果を有する。したがって,本件発明1における「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートを,原告方法の「塩化ビニール製」シートに置き換えることは,当業者が,原告方法の使用を開始した当時において容易に想到できた。
d 公知技術からの容易推考性 原告方法は,本件特許の出願時における公知技術と同一ではなく,また,当業者が本件特許の出願時に容易に推考できたものではない。
e 意識的除外等の不存在 本件発明1の構成要件Cは,本件特許出願時から何ら補正されておらず,特許出願当初のままの内容である。
したがって,本件特許の出願手続において,「塩化ビニール製」シートを意識的に除外していない。
(原告の反論) 以下のとおり,原告方法の「塩化ビニール製」シートは,構成要件Cの「合成樹脂をラミネートした気密」シートと均等とはいえない。
a 本質的部分について 本件明細書の記載及び被告の主張からすると,本件発明1の目的は,従来技術に比べて地盤上面により効率的に負圧環境をつくり出す点にあり,かかる目的実現のために,「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートを採用したことは明らかである。そして,このような気密シートを採用することにより,@地盤上面が合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆われていて,より効率的に負圧環境を実現することができる,Aピンホールが重なり難く,気密性をより高めることができ,より効率的に負圧環境を実現することができる,との作用効果を生じさせる。
したがって,原告方法の構成cとの相違部分である,本件発明1の構成要件Cの「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートは,本件発明1の本質的部分である。
b 置換可能性について 本件発明1の「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートを原告方法の「塩化ビニール製」シートに置き換えた場合,上記a記載の作用効果を奏することはできない。
c 容易想到性について 大気圧工法による地盤改良において,改良対象地盤上面に負圧環境をつくり出すために,改良対象地盤上面を気密シートで覆う技術は,本件特許の出願前の公知技術である。そして,原告方法で使用される「塩化ビニール製シート」は,大気圧工法における気密シートに該当する。
したがって,原告方法で使用される「塩化ビニール製シート」は,本件特許の出願時の公知技術と同一であり,均等の要件を欠く。
イ 原告装置について (ア) 原告装置の「袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Gの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等か。
(被告の主張) 仮に原告装置の「袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材が,構成要件Gの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材に当たらないとしても,前記ア(ア)に記載したのと同様の理由により,原告装置の「袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Gの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等物であり,本件発明2の技術的範囲に属する。
(原告の反論) 前記ア(ア)に記載したの同様の理由により,原告装置の「袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Gの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等とはいえない。
(イ) 原告装置の「塩化ビニール製」シートは,構成要件Iの「合成樹脂をラミネートした気密」シートと均等か。
(被告の主張) 原告装置で用いられている気密シートは,塩化ビニール製気密シートであるから,構成要件Iの「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートに当たらない。
しかし,原告装置についても,前記ア(イ)で述べたことが同様に当てはまるから,原告装置の構成iの「塩化ビニール製」シートは,構成要件Iの「合成樹脂フィルムをラミネートした気密」シートと均等物であり,本件発明2の技術的範囲に属する。
(原告の反論) 前記ア(イ)に記載したの同様の理由により,原告方法の「塩化ビニール製」シートは,構成要件Iの「合成樹脂をラミネートした気密」シートと均等とはいえない。
(3) 争点(3)(本件特許に進歩性欠如による無効理由があることが明らかといえるか)について (原告の主張) 本件特許には,以下の甲16(特開平4-254610号公開特許公報)に基づく進歩性欠如による無効理由の存在することが明らかであり,本件特許権に基づく権利行使は,権利の濫用として許されない。
すなわち,本件発明は,甲16記載の発明を基に甲17ないし25に記載された各発明を組み合わせて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項に該当する。
ア 本件発明と甲16記載の発明の対比 甲16記載の発明と本件発明の構成は,以下の点を除き一致する。
(ア) 相違点1 ドレーン材上端部に水平状に配置する通水材につき,本件発明においては,「ネットとネット表面に取り付けられた繊維シートとからなる帯状の通水材をドレーン材上端部に接触するように」配置されるのに対し,甲16に記載された発明においては,「各ドレーン材の開口上端に連結」されるほか,通水材として排水管が用いられている点が相違する。
(イ) 相違点2 本件発明が「ドレーン材上端部及び通水材とともに合成樹脂をラミネートした気密シート」で改良の対象となる地盤上を覆うのに対し,甲16記載の発明は,このような構成を採っていない点が相違する。
イ 各相違点に関する検討 (ア) 相違点1について 軟弱地盤中の水分を除去して行う地盤改良工法において,鉛直排水壁を構成するドレーン材の上端部と水平状に配置した通水材とを接触させることにより,軟弱地盤中の水分の排水経路を構成することは,甲17(特開平7-82731号公開特許公報),甲18(特開平5-187012号公開特許公報)及び甲19(軟弱地盤の改良G)に開示されており,当業者に周知の事項である。
また,水平状に配置する通水材の構成として,「ネットとネット表面に取り付けられた繊維シートとからなる帯状の通水材」を使用することは,当業者が甲17ないし19に基づき容易に想到し得る事項である。
(イ) 相違点2について 大気圧工法において地盤改良対象を気密シートで覆う点は,甲20(土木・建築技術者のための最新軟弱地盤ハンドブック),甲21(特許出願公告昭46-7348号特許公報)及び甲22(特開平7-90835号公開特許公報)等に記載されており,当業者にとって周知である。
また,気密シートを「合成樹脂フィルムでラミネート」すること,すなわち大気圧工法において地盤改良対象の地表面を気密的に密閉することは,従来当業者にとって通常に認識されていた事項である。
さらに,部材の気密性を向上するために合成樹脂フィルムでラミネートする点については,甲23(特開平5-179717号公開特許公報),甲24(特開平5-246444号公開特許公報)及び甲25(実開平6-51360号公開実用新案公報)等の周知技術が存在する。
したがって,本件発明において気密シートの気密性を高めるために,合成樹脂フィルムでラミネートすることは,当業者であれば,地盤改良対象の地表面を気密的に密閉するという必要性に基づき通常なし得る設計事項にすぎない。
(被告の反論) 本件発明は,以下のとおり,甲16記載の発明を基に甲17ないし25に記載された各発明を組み合わせて当業者が容易に発明することができたもとはいえない。
ア 原告主張の各相違点に関する検討 (ア) 相違点1について 甲17ないし19には,鉛直ドレーンの上端部に水平ドレーンを接続するように配置する点に関する記載がある。
しかし,以下のとおり,甲17ないし19記載の工法は,いずれも従来の技術常識の域を出ないものであるから,甲17ないし19記載の技術を甲16記載の発明に適用することにより,本件発明をすることが容易であったと解することはできない。
a 甲17 甲17記載の工法は,海底の軟弱地盤上に帯状の水平排水部材を配置し,その後,地盤中に鉛直排水部材を所定間隔に打設し,各鉛直排水部材の上端を接合用部材によって接合することで,海底に敷設した水平排水部材のめくれを防止するようにした工法であり,地盤上面に施された盛土載荷重により,地盤中から鉛直排水部材を通して吸い出された間隙水は,水平排水材を通じてヤード外へ排水されるようになっている。
しかし,甲17記載の工法は,水底の軟弱地盤の改良工法であり,そのような地盤を完全にコントロールすること自体不可能である。また,甲17記載の工法は,改良効果を得るために地盤上面に盛土を施す必要があり,人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールできるようにしたものではない。甲17記載の工法は,真空圧を負荷しておらず,本件発明のように,真空圧密による改良工法ではない。さらに,甲17記載の工法では,気密シートを用いていない。このため,甲17記載の工法における水平排水部材は,鉛直排水部材上端に接続されてはいるものの,それは,間隙水の排水経路を構成するものにすぎず,本件発明における通水材のように,地盤上面を負圧状態とするときは,「帯状の真空圧の負荷経路」として働き,負圧状態による圧力差によって地盤中の空気と間隙水を排水するときは,「帯状の排水経路」として作用するものではない。
したがって,甲17記載の技術を甲16に記載の排水管に換えて適用しても,本件発明と同じ作用効果を奏しない。
b 甲18 甲18記載の工法は,地盤中に打設したドレーン材上端に排水材を敷き詰めて接続するとともに,該排水材上に盛土を施すことにより初めて地盤改良がなされるようになっているから,人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤をコントロールできるようにしたものではない。また,甲18記載の工法における排水材については,地盤上面を負圧状態とするときは,「帯状の負荷経路」として働き,負圧状態による圧力差によって地盤中の空気と間隙水を排水するときは,「帯状の排水経路」として作用するものではなく,本件発明の通水材とは,作用効果の点で相違している。
したがって,甲18記載の技術と甲16とを組み合わせて,本件発明をすることはできない。
c 甲19 甲19に記載の工法は,PD材上端に接続した水平ドレーン材上面に盛土を施す地盤改良工法であることから,人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤をコントロールできるようにしたものではない。また,甲19記載の工法における水平ドレーン材については,地盤上面を負圧状態とするときは,「帯状の負荷経路」として働き,負圧状態による圧力差によって地盤中の空気と間隙水を排水するときは,「帯状の排水経路」として作用するものではなく,本件発明の通水材とは,作用効果の点で相違している。
したがって,甲18記載の技術と甲16とを組み合わせて,本件発明をすることはできない。
(イ) 相違点2について 以下のとおり,甲20ないし22には,真空圧の「帯状の負荷経路」,又は間隙水の「帯状の排水経路」を確保することについての記載も,これらの経路を確保するため,本件発明が採用した手段,すなわち,ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる通水材を用い,通水材を気密シートで覆うことについて,何らの記載も示唆もない。
したがって,甲20ないし22記載の技術は,これらを甲16記載の発明に適用する動機付けとはならないので,両者を組み合わせて本件発明をすることが容易であったと解することはできない。また,甲23ないし25記載の技術と甲16記載の発明とを組み合わせて,本件発明をすることも容易であったとはいえない。
a 甲20 甲20記載の改良工法は,ペーパードレーンを打ち込んだ地盤上面を砂の層(サンドマット)で覆うことで真空度を高め,さらに,このサンドマットを気密シートで覆って真空引きすることで地盤改良がされるようになっており,現場又は現場近くにある土や砂,木材などの土木資材を用い,これを土木工法に組み込んだものであり,従来の技術常識の範囲に含まれるものである。
また,甲20記載の改良工法におけるサンドマットは,サンドマットを構成する砂の粒と粒の隙間が,真空圧の負荷経路として,また排水経路として機能するようになっているため,真空度の高まりに伴い,また,当該サンドマットに圧力等が加わることで,その経路は容易に消失してしまい,負荷経路,排水経路が確実に保持されないという不具合があり,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールできるようにしたものではない。
したがって,甲20の記載からは,人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールするという発想は起こり得ず,甲20は,甲20記載の技術を甲16記載の発明に適用する動機付けの根拠とはならない。
b 甲21 甲21記載の改良工法は,地盤中に砂杭を造成し,各砂杭頂部に砂層(サンドマット)を施し,このサンドマット上面を気密シートで覆い,真空圧を負荷するという工法であり,現場又は現場近くにある土や砂,木材などの土木資材を用い,これを土木工法に組み込んだ従来の技術常識の範囲に含まれるものである。また,甲21記載の改良工法も,甲20記載の工法と同様に,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールできるようにしたものではない。
したがって,甲21の記載からは,人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールするという発想は起こり得ず,甲21は,甲21記載の技術を甲16記載の発明に適用する動機付けの根拠とはならない。
c 甲22 甲22記載の改良工法は,地盤中にドレーン材を打設し,地盤表面を気密シートで覆うとともに,前記ドレーン材上端を気密シートから突き出して,気密シート外に配置した真空ポンプにつながる吸引親管に接続するようにしたものである。この工法では,ドレーン材,気密シート,真空ポンプ及び吸引親管といった人工的かつ規格化された部材のみを用いてはいるものの,当該工法では,気密シートのドレーン材上端が突き出る部分からの真空圧のリークを完全ならしめること自体,不可能であり,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールすることはできない。
したがって,甲22の記載からは,人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールするという発想は起こり得ず,甲22は,甲22記載の技術を甲16記載の発明に適用する動機付けの根拠とはならない。
d 甲23ないし25 甲23ないし25記載のとおり,合成樹脂フィルムでラミネートする技術自体は,公知技術である。
しかし,甲23ないし25には,鉛直ドレーン材,通水材,気密シート及び真空ポンプといった人工的かつ規格化された部材のみを用いて,軟弱地盤という難解で強大な自然を自在にコントロールするという記載も,何らの示唆もない。
したがって,甲23ないし25記載の技術を甲16記載の発明に適用しようとする発想は起こり得ない。
(4) 争点(4)(被告の被った損害の額)について (被告の主張) 原告は,原告方法を使用した滋賀県彦根市における琵琶湖東北部浄化センター施工基盤造成のための地盤改良工事を少なくとも1億円で受注した。 そして,原告が,原告方法の使用により得た利益は,前記受注金額の少なくとも20パーセントを下らない。
(原告の反論) 争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)ア,イ(本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件Gの充足性)について (1) 本件発明にいう「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」の意義 ア 本件明細書及び図面の記載 本件明細書及び図面(甲1)には以下の記載がある。
(ア) 課題を解決するための手段 a 「【0009】・・・請求項1記載の発明は,ドレーン材を地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に鉛直排水壁を造成する工程と,真空ポンプに連結されたネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材を前記ドレーン材上端部と接触するように水平状に配置する工程と,地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆う工程と,前記真空ポンプを作動させて地盤上面に負圧の状態を造り出す工程とからなることを特徴とする軟弱地盤の改良工法をその要旨とした。」 b 「【0012】請求項4記載の発明は,地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設されるドレーン材と,このドレーン材上端部と接触するように水平状に配置されるネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材と,前記通水材に連結する真空ポンプと,地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに覆う合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートとからなることを特徴とする軟弱地盤の改良施工装置をその要旨とした。」 (イ) 発明の実施の形態(作用) a 「【0016】・・・請求項1記載の軟弱地盤の改良工法にあっては,地盤上面が,ドレーン材上端部及びネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆われるとともに,通水材に連結された真空ポンプが作動して真空引きされることから,地盤上面は負圧の状態となり,地盤中における間隙水圧との間には差が生じるようになる」。
b 「【0017】そしてこの圧力差によって,ドレーン材を地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に造成された鉛直排水壁を通して地盤中の水と空気が地盤表面へと吸い出されるようになっている。
地盤表面の水と空気は,ドレーン材上端部と接触するように水平状に配された通水材を構成するネットとネット表面に取り付けた繊維シートとの隙間,及び繊維シート内の繊維間隙を通って(排水タンクへと)排出されるようになっている。」 c 「【0022】請求項4記載の軟弱地盤の改良施工装置にあっては,地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいてドレーン材を打設し,このドレーン材上端部と接触するように水平状にネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材を配し,この通水材に真空ポンプを連結する。更に地盤上を上記ドレーン材上端部及び通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆い,この状態で真空ポンプを作動させると,地盤上面は負圧状態となり,地盤中における間隙水圧との間には差が生じるようになる。」 d 「【0023】そしてこの圧力差によって,地盤中に造成された鉛直排水壁を通して地盤中の水と空気が地盤表面へと吸い出され,地盤表面の水と空気は,ドレーン材上端部と接触するように水平状に配された通水材を構成するネットとネット表面に取り付けられた繊維シートとの隙間,及び繊維シート内の繊維間隙を通して(排水タンクへと)排出されるようになっている。」 (ウ) 実施例の説明 a 請求項1〜3記載の軟弱地盤の改良工法について 「【0030】次に,真空ポンプに連結した通水材を配置する。図2に示すように,ドレーン材上端部11aは地盤Aの上面に突出している。この突出部分に帯状の通水材13を接触するように平行状に配置するのである。通水材13は,水及び空気が該通水材13の長手方向へと移動できる通路としての機能を持つものであり,図3に示すように,プラスチックネット14とその表面に積層して取り付けた繊維シート15とからなる帯状物である。・・・」 b 請求項4〜8の軟弱地盤の改良施工装置について 「【0044】・・・この改良施工装置は,図4に示すように,地盤A中に上端部11aを残して打設されるドレーン材11と,ドレーン材上端部11aと接触するように配置されるプラスチックネット14とプラスチックネット14の表面に積層して取り付けた繊維シート15とからなる帯状の通水材13と,通水材13に連結する真空ポンプ16と,地盤上を覆う気密シート18とからなる。」 「【0046】通水材13は,前記ドレーン材上端部11aと接触するように水平状に配置され,ドレーン材11よりなる排水壁を通して地盤A上面へと吸い上げられた水及び空気を水平方向に移動させて軟弱地盤外(あるいは改良区域外)へ排出するための移動経路となるべきものであり,図3に示すようにプラスチックネット14とその表面に積層した繊維シート15とからなる帯状物である。」 (エ) 発明の効果 a 「【0056】・・・請求項1記載の軟弱地盤の改良工法にあっては,地盤上面が,ドレーン材上端部及びネットとその表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆われるとともに,通水材に連結された真空ポンプを作動させることで真空引きされることから,地盤上面は負圧状態となり,地盤中における間隙水圧との間には差が生じ,この圧力差によって,ドレーン材を地盤中に所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に造成された鉛直排水壁を通して地盤中の水と空気が地盤表面へと吸い出されるようになっている。」 b 「【0061】請求項4記載の軟弱地盤の改良施工装置にあっては,地盤上面が,ドレーン材上端部及びネットとその表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材とともに合成樹脂フィルムをラミネートした気密シートで覆われるとともに,通水材に連結された真空ポンプで真空引きされることから,地盤上面は負圧状態となり,地盤中における間隙水圧との間には差が生じ,この圧力差によって,ドレーン材を地盤中に所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に造成された鉛直排水壁を通して地盤中の水と空気が地盤表面へと吸い出されるようになっている。」 c 「【0064】また,この軟弱地盤の改良施工装置にあっては,地盤表面に吸い出された水と空気が,通水材を構成するネットとネット表面に取り付けた繊維シートとの隙間,及び繊維シート内の繊維間隙を通して(排水タンクへと)排出されるようになっているので,目詰まりが生じ難く,負圧による地盤表面への水と空気の排出,並びに地盤表面へ排出された水と空気の(排水タンクへの)排出を安定的に,しかも効率よく行うことができる。」 (オ) 図面の記載 特許公報の図3において,通水材の構造につき,縦糸と横糸とが交互に上下となり重なり合っているように記載されている。
イ 解釈 本件発明に係る各請求項においては,通水材の構成につき「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の」通水材と記載され,また,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄においても,前記アのとおり,本件発明に用いられる通水材について,ネットを使用した構成のみが開示され,ネット以外のものを使用する構成は,何ら記載も示唆もされていない。また,前記第2,1,(6)の本件特許の出願経過によれば,当初明細書の「特許請求の範囲」欄の請求項1,2においては,通水材の構成を限定する記載がなかったが,本件特許の出願人である被告は,拒絶理由通知を受けた後に,各請求項の「通水材」を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」とする補正を行っている。そして,「ネット」とは,一般に糸などを結合して形成されたものをいい,前記ア(オ)記載のとおり,特許公報においても,これに沿う構造のものを示す図が【図3】として図示されており,本件明細書において,「ネット」の構造を一般的な意義と異なるものと解すべき記載も示唆もない。
上記の各事実に照らすと,本件発明における「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の」のものに限定されると解すべきであり,他の意義に解釈する余地はない。
この点につき,被告は,本件発明の「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」はネットを用いる構成に限定されない旨るる主張するが,以上に判示したところに照らし,採用することができない。
ウ 原告方法及び原告装置との対比 原告方法及び原告装置の通水材において用いられているプラスチック成型板は,いずれもプラスチック板に凹凸を付した物であり,糸などを結合して形成された構造の「ネット」には当たらない。
したがって,原告方法は,本件発明1の構成要件Bを,また,原告装置は,本件発明2の構成要件Gをそれぞれ充足しない。
(2) 小括 よって,被告の文言侵害に関する主張は理由がない。 2 争点(2)(均等侵害の成否)について (1) 本件発明1の構成要件Bについて 被告は,仮に原告方法が本件発明1の構成要件Bを文言上充足しないとしても,原告方法の「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Bの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等であるから,原告方法は,本件発明1の技術的範囲に属する旨主張するので,以下判断する。
意識的除外等の特段の事情の有無 前記第2,1,(6)の本件特許の出願経過に係る事実及び証拠(甲29ないし33)によれば,本件特許の出願人である被告は,出願時の当初明細書の「特許請求の範囲」欄の請求項1において,「通水材」の構成につき何らの限定を加えていなかったこと,その後,被告は,特許庁審査官の拒絶理由通知に対し,「通水材」の構成を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と補正したこと,手続補正書と同時に提出した意見書において,補正に係る「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,「水及び空気の排出経路としてサンドマット」を用いる引用例とは構成及び作用効果が異なる旨説明していること,本件特許の出願当時,本件発明1の「通水材」に対応する土木用の部材として,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する排水材料が当業者に周知であったこと等の事実が認められる。
これらの事実に照らすならば,被告は,本件特許の出願過程において,本件発明1に用いる通水材の構成を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」に限定したものと認められ,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料等これと異なる構成を有する通水材を本件発明1の「通水材」から意識的に除外したものと認めるのが相当である。
イ 小括 そうすると,原告方法における「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材」(構成b)は本件発明1から意識的に除外されたものというべきであるから,原告方法は本件発明1の構成と均等なものであるとは認められない。
(2) 本件発明2の構成要件Gについて 被告は,原告方法と同様に,原告装置の「袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件Gの「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等であるから,原告装置は,本件発明の構成要件Gを充足する旨主張する。
しかし,前記(1)で判断したのと同様の理由により,被告の主張には理由がない。
(3) 均等についての結論 以上のとおり,均等侵害に関する被告の主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
3 まとめ よって,原告方法及び原告装置の使用は,いずれも本件特許権の侵害行為には当たらないから,被告の反訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,原告の請求は理由がある。
結論
以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容し,被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
原告実施工法目録aドレーン材を地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設することにより,地盤中に鉛直排水壁を造成する工程と,b真空ポンプに連結された袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材を前記ドレーン材上端部と接触するように水平状に配置する工程と,c地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに塩化ビニール製シートで覆う工程と,d前記真空ポンプを作動させて地盤上面に負圧の状態を造り出す工程eとからなることを特徴とする軟弱地盤の改良工法原告改良施工装置目録f地盤中に上端部を残して所定の間隔をおいて打設されるドレーン材と,gこのドレーン材の上端部と接触するように水平状に配置される袋状の繊維シートに挿入した凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材と,h前記通水材に連結される真空ポンプと,i地盤上を前記ドレーン材上端部及び通水材とともに覆う塩化ビニール製シートからなることを特徴とするj軟弱地盤の改良施工装置
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 神谷厚毅