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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成11ワ26599特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 方法の発明 /  物を生産する方法 /  インターネット /  技術的範囲 /  技術情報 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  交換 /  間接侵害 /  構成要件 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  信用回復措置(106条) /  請求の範囲 /  権利能力 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 9208号 特許権侵害等差止請求事件
原告 株式会社ハネックス・ロード
同訴訟代理人弁護士 及川昭二
同補佐人弁理士 石井良和
被告 MR2工法協会
同訴訟代理人弁護士 大星賞
同訴訟代理人弁理士 大塚明博
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/08/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,MR2AB工法の実施の申出をしてはならない。
2 被告は,別紙1物件目録添付のMR2AB工法のパンフレットを配布してはならない。
3 被告は,国土交通省に対し,本判決言渡しの日から1週間以内に,国土交通省が運営するNETISのホームページに登録しているMR2工法のうち,MR2AB工法に関する部分を削除する旨の申請をせよ。
4 被告は,本判決言渡しの日から1か月以内に,別紙2謝罪広告目録記載のとおりの謝罪文を「月刊下水道」,「建通新聞」及び「日本下水道新聞」にそれぞれ同目録記載の要領で1回掲載せよ。
5 被告は,原告に対し,金150万円及びこれに対する平成16年5月21日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は,マンホール等の道路の占有物の維持修繕工事に関する技術開発及び工事を業とする株式会社である。
イ 被告は,マンホール鉄蓋交換工法であるMR2工法に関する技術の研究,改良,開発を行い,開発された技術の普及及び啓蒙により下水道事業等の発展に関与するとともに,会員の地位向上を図ることを目的として設立された権利能力なき社団である。
(2) 原告の特許権 原告は,次のとおりの特許権を有している(以下「本件特許権」といい,この特許に係る発明を「本件発明」という。)。
ア 特許番号 第2623491号 イ 発明の名称 切削オーバーレイ工法 ウ 出願日 平成3年12月30日 エ 公開日 平成5年7月20日 オ 登録日 平成9年4月11日 カ 特許請求の範囲(請求項1) 「マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法において,(a)マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断されると共に切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程,(b)マンホール基壁上に支持蓋が仮設されると共に支持蓋周囲の空洞部に舗装材が打設される工程,(c)舗装表面がマンホール基壁上の舗装材表面も含めて切削されると共に切削面にオーバーレイが施工される工程,(d)マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断されると共に切断舗装版及び支持蓋が撤去される工程,(e)マンホール基壁上にマンホール枠の据え付け基礎が構築されると共に据え付け基礎上にマンホール枠がその上面をオーバーレイ表面の高さに合わせて設置される工程,及び(f)マンホール枠周囲の空洞部に舗装材がオーバーレイ表面の高さまで打設される工程からなる切削オーバーレイ工法。」 (3) 本件発明の構成要件は,次のとおり分説される(以下,それぞれを「構成要件(a)」などという。)。
(a) マンホール枠周囲の舗装が筒状に切断されると共に切断舗装版及びマンホール枠が撤去される工程, (b) マンホール基壁上に支持蓋が仮設されると共に支持蓋周囲の空洞部に舗装材が打設される工程, (c) 舗装表面がマンホール基壁上の舗装材表面も含めて切削されると共に切削面にオーバレイが施工される工程, (d) マンホール枠の設置予定域周囲の舗装がオーバーレイ上から筒状に切断されると共に切断舗装版及び支持蓋が撤去される工程, (e) マンホール基壁上にマンホール枠の据え付け基礎が構築されると共に据え付け基礎上にマンホール枠がその上面をオーバーレイ表面の高さに合わせて設置される工程, (f) マンホール枠周囲の空洞部に舗装材がオーバーレイ表面の高さまで打設される工程 (g) からなる切削オーバーレイ工法 (4) 被告の行為 被告は,MR2工法及びその一種であるMR2AB工法を開発し,会員に同工法の技術を開示し,被告の名称を付した商標等の使用を許諾するとともに,次のとおり,宣伝パンフレットの作成,配布,広告の掲載,技術雑誌への寄稿等を行っている。
なお,MR2AB工法とは,舗装工事に伴うマンホール上部の据付工事方法であり,本件発明の構成要件(c),(e),(f)及び(g)を充足する。
ア 被告は,MR2AB工法のパンフレット(甲3)を作成して,官公庁等の道路管理者及びマンホールを道路に設置している道路占有企業者等に配布している。
イ 被告は,国土交通省が運営するデータベースであるNETIS(新技術情報提供システム。甲5)にMR2AB工法を登録申請し,同工法は同データベースに登録され,インターネットにより流布されている(甲4)。
ウ 被告の代表者Aは,「月刊下水道」の2004年3月号に,MR2AB工法を紹介する記事を寄稿し,同記事が掲載された(甲6)。
2 事案の概要 本件は,特許権者である原告が,被告に対し,@ MR2AB工法が本件発明の技術的範囲に属し,被告の行為が本件特許権を侵害するなどと主張して,本件特許権に基づき,MR2AB工法の実施の申出及びパンフレットの配布の差止め,ホームページからの削除の申請並びに謝罪広告の掲載を請求するとともに,A 本件訴訟に係る損害(弁護士費用)及び遅延損害金の支払を請求する事案である。
3 本件の争点 (1) MR2AB工法の構成 (2) MR2AB工法は本件発明の技術的範囲に属するか (3) 被告の行為が侵害行為に当たるか (4) 謝罪広告の必要性 (5) 損害の有無及び額
当事者の主張
1 争点(1)(MR2AB工法の構成)について 〔原告の主張〕 MR2AB工法の構成は,次のとおり分説することができる。
(A) 路面に切断溝を形成し,マンホールリムーバによりマンホールフレームを撤去する工程 (B) 連結装置付鉄蓋を据え付け仮復旧する工程 (C) 切削オーバーレイ工事を施工する工程 (D) 路面に切断溝を形成し,連結装置付鉄蓋とともに舗装版を撤去する工程 (E) マンホールフレームを据え付ける工程 (F) モルタル,道路復旧材で復旧する工程 (G) からなる切削オーバーレイ工法。
〔被告の主張〕 〔原告の主張〕のうち,MR2AB工法の構成(A)及び(D)中の路面に切断溝を形成する点は否認する。同工法は,路面に切断溝を形成するものではなく,切削溝を形成するものである。同(B)の構成は否認する。同(C),(E),(F)及び(G)の構成は認める。なお,同工法では「切削オーバーレイ工法」という用語は用いられず,「マンホール上部の調整,据え付け工法」という用語が用いられる。
2 争点(2)(MR2AB工法は本件発明の技術的範囲に属するか)について 〔原告の主張〕 (1) MR2AB工法の構成(A)は,路面に切断溝を形成してマンホール周囲の舗装と共にマンホールフレームを撤去した後の舗装路面に筒状の空洞が形成されるものであるから,本件発明の構成要件(a)の「筒状に切断されると共に切断舗装版が撤去される工程」に相当し,構成要件(a)を充足する。
なお,本件発明では,舗装版の切断の手段に何ら制限を加えていない。MR2AB工法における切削溝は,舗装版を筒状に撤去し,かつ舗装表面の切断線をきれいに仕上げるための先導的な切断溝であるから,これを形成した後にマンホールリムーバで舗装及びマンホール受枠を撤去することは,構成要件(a)を充足する。
(2) MR2AB工法の構成(B)にいう「連結装置付鉄蓋」は,本件発明の構成要件(b)における「支持蓋」に相当し,かつ同(B)にいう「据え付け」は連結装置付鉄蓋が同(D)で撤去されるので「仮設」に相当するから,本件発明の構成要件(b)を充足する。
(3) MR2AB工法の構成(D)は,同(A)と同様の工程であって,本件発明の構成要件(d)を充足する。
〔被告の主張〕 (1) 本件発明に係る工法では,舗装版に筒状の空洞部を形成する手段として,マンホール枠周囲の舗装を筒状に切断して,切断した舗装版及びマンホール枠を撤去する工程(構成要件(a))を経る。
しかし,MR2AB工法のマンホールフレームを撤去する工程においては,マンホールフレーム周囲の舗装面に浅い切削溝を入れ,切削溝の外周囲に沿って舗装面をマンホールリムーバのリング状の押さえ枠で押し当てて,この状態からマンホールフレームを引き上げ,この引き上げでマンホールフレームの外周端に生じる剪断力でマンホールフレーム上にある舗装版を剪断し,切断舗装版及びマンホールフレームを撤去する。
したがって,切断舗装版等を撤去する工程が異なっているから,MR2AB工法は構成要件(a)を充足しない。
(2) また,MR2AB工法で使用される連結装置付鉄蓋は,マンホールリムーバで引き上げ,オーバレイされ連結装置付鉄蓋上にある舗装版を剪断するためにも使用されるので,かかる剪断に必要な強度を備えているが,本件発明の構成要件(b)にいう「支持蓋」は,オーバーレイされた舗装版が筒状に切断されてから撤去されるので,MR2AB工法における連結装置付鉄蓋のような構造,強度は要求されない。
したがって,MR2AB工法は構成要件(b)を充足しない。
(3) そして,本件発明に係る工法では,オーバーレイ工事後に舗装版に筒状の空洞部を形成する手段として,マンホール枠の設置予定域周囲の舗装をオーバーレイ上から筒状に切断して,切断舗装版と支持蓋を撤去する工程(構成要件(d))を経る。
しかし,MR2AB工法の連結装置付鉄蓋とともに舗装版の一部を撤去する工程においては,連結装置付鉄蓋周囲のオーバーレイされた舗装面に浅い切削溝を入れ,切削溝の外周囲に沿って舗装面をマンホールリムーバのリング状の押さえ枠で押し当てて,この状態からマンホールフレームを引き上げ,この引き上げで連結装置付鉄蓋の外周端に生じる剪断力で連結装置付鉄蓋上にある舗装版を剪断し,切断舗装版及び連結装置付鉄蓋を撤去する。
したがって,切断舗装版等を撤去する工程が異なっているから,MR2AB工法は構成要件(d)を充足しない。
3 争点(3)(被告の行為が侵害行為に当たるか)について 〔原告の主張〕 (1) 被告自らの実施 被告は,MR2AB工法について,宣伝パンフレットを官公庁等の道路管理者及びマンホールを道路に設置している道路占有企業者等に配布し,NETISに登録申請してインターネットにより流布している。
本件発明は,道路舗装工事及びマンホール工事の工程によって舗装道路を完成させるものであるから,物を生産する方法の発明に該当するところ,被告の上記行為は,いずれも発注者に対しかかる方法を使用して完成させた舗装道路をその本来の目的に供しうる状態で引き渡す旨を申し出ているものであって,当該方法により生産した物の譲渡等の申出に該当する。
(2) 被告の会員との共同行為 被告は,MR2AB工法を開発して会員を募り,会員に技術を開示するなどとともに,同工法の普及活動を行い,会員から実施料を徴収している。また,被告は,会員を代表して発注者にMR2AB工法の採用要請活動を行い,会員を推薦するほか,会員が共通して利用できるパンフレット,施工マニュアルを作成しており,会員が独自にパンフレット等を作成したり,同工法の長所を示すために独自に実験データ等の整備をする必要がない。被告は,発注者からの要望を受ける窓口であるとともに,品質管理の責任者であり,被告の認定なくMR2AB工法を実施することはできない。
このような被告と会員の関係によれば,前記(1)の被告の実施の申出行為は,被告の会員の施工行為と不可分一体の共同行為である。
なお,NETISのホームページ中の新規登録に関するQ&Aの部分でも,工法協会が推進する工法については,工法協会が代表して登録することが好ましい旨が記載されており,工法を採用する官庁自体が工法協会等の主体性,主導性を認めている。
(3) 会員の実施行為の教唆・幇助 また,そうでないとしても,被告は,少なくとも,発注者に対する宣伝,技術水準の定立,技術管理者の資格の付与等によって,実際のMR2AB工法の施工を行う会員に対して同工法の実施を幇助又は教唆しており,これにより会員との共同不法行為が成立する。
〔被告の主張〕 (1) 「物を生産する方法の発明」の「物を生産する」とは,物を新たに生産することであり,新たな物の生産を伴わない,単なる物の修理や修繕は「物を生産する方法の発明」に該当しない。既存の舗装道路の修繕は新たに舗装道路を構築するものではないところ,本件発明は,舗装表面にひび割れや破損が生じた既存の舗装道路の修繕を目的としてなされるものであって,修繕前とは異なった新たな構造の道路を構築する目的はないから,「物を生産する方法の発明」には該当しない。したがって,被告によるパンフレット配布等の行為は,「物を生産する方法の発明」に係る方法により生産した物の譲渡等の申出に該当しない。
(2) 被告がMR2AB工法の実施の申出を行っていること及び被告のパンフレット配布等の行為が会員の施工行為との共同行為となることは否認する。被告が会員から実施料を徴収したことはない。同工法の実施の申出は,被告の会員が個々に行っており,被告は官公庁等の道路管理者,道路占用企業者等に対して会員の推薦は行っているものの,被告自身が同工法の実施の申出を行うことはない。
(3) 被告が実際の施工を行う会員に対してMR2AB工法の実施を幇助又は教唆した事実を否認する。
4 争点(4)(謝罪広告の必要性)について 〔原告の主張〕 被告は,原告がMR2工法協会の会員を通じて同工法が本件特許権を侵害することを通知していたにもかかわらず,MR2AB工法をNETISに登録してインターネットを通じて広告した。また,被告は,業界専門誌への広告の出稿,記事の投稿などを行ったため,「月刊下水道」2004年3月号(甲6。17頁)では,人孔(マンホール)上部改築・補修技術の対比表に本件発明に係る工法とMR2AB工法が同列で掲載されるなど,本件発明に係る工法がMR2AB工法に比してあたかも効果がないかのような印象を読者及び発注者に与えた。
また,原告が財団法人道路保全技術センターに本件発明に係る工法の審査を依頼し,技術審査証明書の交付を受けるなどして同工法の普及に努め,道路管理者が同工法の利点に理解を示し始めたところ,被告がMR2AB工法の宣伝広告活動を含めた営業活動を開始したため,本件特許権の価値を低下させ,原告が長年にわたって築き上げた本件特許権についての信用を低下させた。
この信用の低下を回復するためには,別紙2のとおりの謝罪広告が必要である。
〔被告の主張〕 謝罪広告の必要性については争う。
5 争点(5)(損害の有無及び額)について 〔原告の主張〕 原告は,被告の広告宣伝行為を是正するためやむなく本件訴訟に至ったものであるから,本訴を提起するために必要な弁護士費用は,被告の不法行為に基づく原告の損害であり,その額は150万円を下らない。
〔被告の主張〕 原告の弁護士費用については不知ないし否認する。
当裁判所の判断
1 争点(3)(被告の行為は侵害行為に当たるか)について (1) 被告自らの実施について 原告は,本件発明が物を生産する方法の発明であることを前提として,被告のパンフレットの配布やNETISへの登録申請行為が当該方法により生産した物の譲渡等の申出に該当する旨主張する。
本件発明が物を生産する方法の発明に該当するか否かは,まず,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(最高裁平成10年(オ)第604号同11年7月16日第二小法廷判決・民集53巻6号957頁参照)。本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の1(2)カ認定のとおりであり,本件発明は,マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法における複数の工程からなる工法であって,物の生産を伴うとはいえないことが明らかであるから,方法の発明であって,物を生産する方法の発明には該当しない。
そして,本件特許権の特許権者は,業として本件発明の実施をする権利を専有し(特許法68条),許諾なくこれを実施することは特許権侵害に当たるが,本件発明は方法の発明であるから,その実施とは本件発明に係る方法の使用をする行為をいうものであり(同法2条3項2号),したがって,本件特許権の侵害に当たるのは,本件発明に係る方法の使用をする行為及び特許法101条3号,4号に該当する行為に限られる。
仮に,MR2AB工法が本件発明の技術的範囲に属するとしても,被告がMR2AB工法を使用したことも特許法101条3号,4号に該当する行為をしたことも認めるに足りる証拠はなく,MR2AB工法のパンフレットの配布やNETISへの登録申請行為をもって本件発明の実施に当たるとはいえないことは明らかである。
よって,被告が自ら本件発明を実施して本件特許権を侵害した旨の原告の主張は,理由がない。
(2) 被告の会員との共同行為について 原告は,被告のパンフレットの配布やNETISへの登録申請行為が会員の施工行為と不可分一体の共同行為である旨主張する。
弁論の全趣旨によれば,被告の事業は,工法の開発,改良等や技術資料,マニュアル等の作成,研修の実施,普及・啓蒙活動であることが認められ,実際のMR2AB工法を施工する主体は,あくまで被告の会員であって,被告が自らMR2AB工法を施工する主体であるということは困難である。なお,証拠(甲5)によれば,NETISに関するホームページ中の「NETISに関するQ&A」に関する「新規登録に関する質問」の部分でも,「協会や研究会等で開発された技術を個別企業で登録すると,同一技術を複数社で登録する可能性があり,閲覧者の混乱を招きますので協会名での登録をお願いします。」との記載がされていることが認められるが,これはあくまで閲覧者の便宜のためのものにすぎず,被告が実施の主体となることを前提としているものとまで解することはできない。
このように,MR2AB工法を使用して実際の施工を行う主体は被告の会員であり,被告の業務は工法の開発,改良等や技術資料,マニュアル等の作成,研修の実施,普及・啓蒙活動という,会員を補助する役割にとどまっているものであるから,被告のパンフレットの配布やNETISへの登録申請行為をもって会員の施工行為と不可分一体であるということはできない。なお,仮に被告が会員と特許権侵害を共同で行っているとしても,差し止めるべき対象は,本件発明に係る方法を使用する行為をする者の当該使用行為であって,被告のMR2AB工法の実施の申出やパンフレットの配布等の行為を差し止めるべき法律上の根拠はない。
(3) 会員の実施行為の教唆・幇助について また,原告は,被告の発注者に対する宣伝,技術水準の定立,技術管理者の資格の付与行為は会員の施工行為を教唆又は幇助するもので,会員との共同不法行為である旨を主張する。
しかしながら,特許法100条は,特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが,同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは,自ら特許発明実施(特許法2条3項)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい,それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。けだし,@ 我が国の民法上不法行為に基づく差止めは原則として認められておらず,特許権侵害についての差止めは,特許権の排他的効力から特許法が規定したものであること,A 教唆又は幇助による不法行為責任は,自ら権利侵害をするものではないにもかかわらず,被害者保護の観点から特にこれを共同不法行為として損害賠償責任(民法719条2項)を負わせることにしたものであり,特許権の排他的効力から発生する差止請求権とは制度の目的を異にするものであること,B 教唆又は幇助の行為態様には様々なものがあり得るのであって,特許権侵害の教唆行為又は幇助行為の差止めを認めると差止請求の相手方が無制限に広がり,又は差止めの範囲が広範になりすぎるおそれがあって,自由な経済活動を阻害する結果となりかねないこと,C特許法101条所定の間接侵害の規定は,特許権侵害の幇助行為の一部の類型について侵害行為とみなして差止めを認めるものであるところ,幇助行為一般について差止めが認められると解するときは同条を創設した趣旨を没却するものとなるからである。
そうすると,被告の前記行為が本件発明の実施及び特許法101条所定の行為に該当しない以上,仮に被告の行為が会員の施工行為を教唆又は幇助するものであったとしても,被告の上記行為の差止めを求めることは許されないというべきである。
(4) 以上の次第で,原告の請求1ないし3は,いずれも理由がない。
2 争点(4)(謝罪広告の必要性)について 被告の行為が特許権侵害に当たらないことは,前記1のとおりであるから,特許法106条に基づく信用回復措置の請求は理由がない。
なお,証拠(甲6,弁論の全趣旨)によれば,原告が指摘する「月刊下水道」2004年3月号17頁には,本件発明に係る工法とMR2AB工法等が一覧表にして掲載されたことが認められるが,同表は客観的に両工法を比較したにすぎず,これをもって,本件発明に係る工法がMR2AB工法に比してあたかも効果がないかのような印象を読者及び発注者に与えたことを認めるに足りない。また,被告のMR2AB工法の宣伝広告活動が本件特許権の価値を低下させ,本件特許権についての信用を低下させたことを認めるに足りる証拠はない。
よって,いずれにせよ,謝罪広告請求(原告の請求4)も理由がない。
3 争点(5)(損害賠償請求)について 以上のとおり,原告の本件特許権に基づく差止請求及び謝罪広告請求に理由がない以上,本件訴訟を提起するに必要な弁護士費用をもって損害ということはできないから,損害賠償請求(原告の請求5)も理由がない。
4 結論 以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用は原告の負担とすることとして,主文のとおり判決する。
追加
(別紙1)物件目録MR2AB工法パンフレット標題MR2AB工法発行者MR2工法協会東京都千代田区(以下略)内容MR2工法の工程及びメリット(詳細は次頁のとおり)(別紙)道路舗装工事に伴うマンホール上部の調整・据え付け工法(別紙2)謝罪広告目録謝罪広告株式会社ハネックス・ロードB殿当協会が普及を図る舗装工事に伴うマンホール上部の調整・据付工法であるMR2AB工法のパンフレットの関係者への配布及び,同工法をNETISへ登録してインターネットを通じて流布した行為は,貴社の後付工法の特許権を侵害するものであることを認め,ここに謝罪いたします。
平成年月日東京都千代田区(以下略)MR2工法協会A掲載要領1@掲載紙「月刊下水道」株式会社環境新聞発行A掲載場所表紙裏B大きさ1頁(B5)C謝罪文前記のとおり掲載要領2@掲載紙「建通新聞」株式会社建通新聞社東京支社発行A掲載場所1面広告欄B大きさ3段1/2(約12センチメートル×10.4センチメートル)C謝罪文前記のとおり掲載要領3@掲載紙「日本下水道新聞」株式会社日本水道新聞社発行A掲載場所普通面記事下B大きさ3段1/3(約9.8センチメートル×12.2センチメートル)C謝罪文前記のとおり
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 東海林保
裁判官 田邉実