関連審決 | 訂正2002-39276 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10151審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10221審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 置き換え / 置換 / 実施 / 設定登録 / 訂正審判 / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
525号
審決取消請求事件
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原告 鐘淵化学工業株式会社 訴訟代理人弁理士 鈴江武彦 同 橋本良郎 同 河野哲 同 中村誠 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 石井あき子 同 宮坂初男 同 一色由美子 同 涌井幸一 同 宮下正之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/08/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が訂正2002-39276号事件について平成15年10月17日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「硬化性組成物」とする特許第3368058号の特許(平成6年8月1日出願,平成14年11月8日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成14年12月27日,本件特許の請求項1について,本件特許出願の願書に添付した明細書(平成14年9月5日付け手続補正書(以下「本件補正書」という。)による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲を訂正すること(以下「本件訂正」という。)につき審判を請求した。特許庁は,これを訂正2002-39276号事件として審理し,その結果,平成15年10月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月29日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲【請求項1】(本件訂正前のもの。以下「本件発明」という。) 「(A)珪素原子に結合した水酸基または加水分解基を有し,シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基を少なくとも1個有するイソプレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体,及び(B)上記重合体100重量部に対して0.1〜30重量部の炭素原子数8〜20の炭化水素基が置換したアルコキシシラン化合物,を含有してなる硬化性組成物。」 3 本件訂正に係る特許請求の範囲【請求項1】 「(A)珪素原子に結合した水酸基または加水分解基を有し,シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基を少なくとも1個有するイソブチレン系重合体 又は水添ポリブタジエン系重合体,及び(B)上記重合体100重量部に対して0.1〜30重量部の炭素原子数8〜20の炭化水素基が置換したアルコキシシラン化合物,を含有してなる硬化性組成物。」 (下線部が訂正箇所である。「イソプレン系重合体」を「イソブチレン系重合体」と訂正するものである。) 4 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正は,誤記の訂正を目的とするとは認められず,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとも,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも認められないものであるから,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)126条1項ただし書きの規定に適合せず,また,仮に,誤記の訂正を目的とするものであるとしても,実質上特許請求の範囲を変更するものであるから,同条2項の規定に適合しない,とするものである。 審決が,本件訂正は,誤記の訂正を目的とするとは認められない,と判断した理由は次のとおりである。 「「イソプレン系重合体」と「イソブチレン系重合体」はそれぞれ存在する異なる重合体であるから,本件特許明細書の特許請求の範囲の記載自体からは,「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記であると認めることはできない。 また,発明の詳細な説明には,次の記載がある。 ・記載a 「本発明において用いられる飽和炭化水素系重合体は,芳香族環以外の炭素-炭素不飽和結合を実質的に含有しない重合体を意味する概念であり,本発明に用いる反応性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体の骨格となる重合体は,次の方法によって得ることができるものである。 (1) エチレン,プロピレン,1-ブテン,イソブチレン等の炭素数が1〜6のオレフィン系化合物を主単量体として重合させる方法。 (2) ブタジエン,イソプレン等のジエン系化合物を単独重合させるか,上記オレフィン化合物とジエン系化合物とを共重合させた後,水素添加する方法。」(段落【0014】〜【0015】) ・記載b 「また,本発明に用いる飽和炭化水素系重合体には,本発明の目的が達成される範囲でブタジエン,イソプレン等のポリエン化合物のような重合後に2重結合の残る単量体単位を少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で含有させてもよい。」(段落【0021】) 記載aには,本件発明において,「イソプレンの単独重合体の水素添加物またはイソプレンと炭素数が1〜6のオレフィン系化合物の共重合体の水素添加物」(以下「例示化合物A」という)を用いる旨の記載があり,記載bには,本件発明において,「本発明の目的が達成される範囲でイソプレンを少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で共重合させた飽和炭化水素系重合体」(以下「例示化合物B」という)を用いる旨の記載がある。 ところで,「イソプレン系重合体」は,当業者が各種の意味で使用している用語であって,その範囲が確定したものではないが,例示化合物A,Bは,「イソプレン系重合体」の定義如何によっては,その範疇に属する物質としての理解が可能である。 そうすると,「イソプレン系重合体」が,発明の詳細な説明に記載されているとの解釈が成立し得るから,特許請求の範囲に記載された「イソプレン系重合体」が誤記であるとは認められない。まして,これが「イソブチレン系重合体」の誤記であるとは認められない。 なお,発明の詳細な説明には,「イソブチレン系重合体」についての各種記載があるが,そのこと自体は,「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記である理由とはならない。 また,請求人は,平成14年9月5日付け意見書を指摘し,本件特許は,(A)成分の飽和炭化水素重合体がイソブチレン系重合体または水添ポリブタジエン系重合体であるとして特許査定された旨主張しているが,誤記であるか否かは,特許明細書の記載に基づいて判断されるべきであり,意見書の記載に基づいて判断されるべきではないから,この主張は採用できない。」(審決書3頁末段及び4頁1段で,同1頁末段〜3頁1段(訂正拒絶理由の判断)を援用している。)(以下,本判決においても,審決と同様の意味で,「記載a」,「記載b」,「例示化合物A」,「例示化合物B」の語を用いる。) |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件訂正が誤記の訂正に該当しないと誤って判断し(取消事由1),また,本件訂正が明りょうでない記載の釈明にも該当しないと誤って判断し(取消事由2),さらに,本件訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものであると誤って判断したものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として,取り消されるべきである。 1 取消事由1(誤記の訂正に当たらないとした判断の誤り) 審決は本件訂正が誤記の訂正に該当しないと判断した。しかし,本件明細書の請求項1の記載は,加水分解性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体を「イソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体」と補正するに際して,本件補正書において,錯誤により「イソプレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体」と誤記したことによるものである。審決の上記判断は誤りである。 (1) 本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」を誤記したものであることは,本件明細書全体から明らかである。 (ア) 本件明細書の発明の詳細な説明においては,「イソブチレン系重合体」について詳しく記載されており,実施例で具体的に説明されているものも「イソブチレン系重合体」である。このことからすれば,請求項1において,「イソプレン系重合体」と記載されることは極めて不自然であり,当業者は,「イソプレン系重合体」は錯誤により誤記されたものと理解するのが自然である。 すなわち,本件明細書においては, 「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は,上記のごとき従来の硬化性組成物が有する問題を解消するため,鋭意検討を重ねた結果,上記飽和炭化水素系重合体に・・・を添加することにより,上記目的が達成されることを見出し,本発明に到達した。」, 「【0014】本発明において用いられる飽和炭化水素系重合体は,・・」, 「【0016】これらの重合体のうち・・・の点から,イソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体であるのが好ましい。」 と記載されたうえで, 「【0023】反応性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体の製造方法について,特にイソブチレン系重合体及び水添ポリブタジエン系重合体の場合を例として説明する」として,イソブチレン系重合体及び水添ポリブタジエン系重合体の製造方法が説明され(【0023】〜【0029】),実施例においては,製造例1,2及び3としてイソブチレン系重合体の製造例が示されている(【0054】〜【0066】)。実施例1及び2,比較例1及び2においても「イソブチレン系重合体」を使用した例が示されているのに対し,「イソプレン系重合体」を用いた重合体を使用した例は記載されていない。 (イ) 審決は,本件明細書の記載a及び記載bを指摘し,本件発明においては,例示化合物A,すなわち,イソプレンの単独重合体の水素添加物またはイソプレンと炭素数が1〜6のオレフィン系化合物の共重合体の水素添加物,及び,例示化合物B,すなわち,本発明の目的が達成される範囲でイソプレンを少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で共重合させた飽和炭化水素系重合体,を用いる旨の記載があることを指摘している。 しかしながら,本件明細書のこれらの記載はいずれも「イソプレン」を単量体として用いて重合体を製造する場合があり得る旨が示されているにすぎず,この個所以外には「イソプレン」の語は存在しないし,発明の詳細な説明においては「イソプレン系重合体」という表現は存在しない。 しかも,記載aにおける例示化合物Aは水素添加物である飽和炭化水素系重合体であり,記載bにおける例示化合物Bはイソプレンを極めて少量(10%以下,特に1%以下)含むだけの飽和炭化水素系重合体であるから,いずれも「イソプレン系重合体」とは通常は指称しない重合体である。そして,本件明細書においては,飽和炭化水素系重合体に関し,ブタジエンについては一貫して「水添ポリブタジエン系重合体」と記載しているのであるから,これと同様にジエン系単量体であるイソプレンを主成分とする重合体を指すことを意図するのであれば,「水添ポリイソプレン系重合体」と表現するのが通常であるのに対し,本件明細書には「水添ポリイソプレン系重合体」という記載もない。 (ウ) 審決は,「「イソプレン系重合体」は,当業者が各種の意味で使用している用語であって,その範囲が確定したものではないが,例示化合物A,Bは,「イソプレン系重合体」の定義如何によってはその範疇に属する物質としての理解が可能である。そうすると,「イソプレン系重合体」が発明の詳細な説明に記載されているとの解釈が成立し得る」(審決書2頁4段〜5段)と認定判断した。 しかし,審決のこの認定判断は,本件明細書の発明の詳細な説明にイソプレン系重合体が記載されているとの解釈が成立する可能性を述べたにすぎず,かえって,「イソプレン系重合体」が本件明細書に記載されていると認定できないことを認めているばかりでなく,「イソプレン系重合体」の用語が各種の意味で用いられ,その範囲が確定しないことを明らかにするものである。本件明細書に「イソプレン系重合体」が記載されていないことは,審決自体が認めているのである。 (2) 本件補正書と同時に提出した平成14年9月5日付け意見書(以下「本件意見書」という。)には,「本日付けの補正により本願発明が(A)成分の飽和炭化水素系重合体を出願当初の明細書段落【0016】の記載に基づきイソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体であることを明らかに致しました」と記載されている。本件意見書のこの記載によれば,本件補正書による補正は,請求項1の飽和炭化水素系重合体を「イソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体」と限定することを目的としたものであることが明らかである。 審決は,「誤記であるか否かは特許明細書の記載に基づいて判断されるべきであり,意見書の記載に基づいて判断されるべきではない」(審決書2頁末段〜3頁1段),「審査の経緯が,誤記であるか否かを判断する根拠とならない」(審決書4頁1段)と判断した。しかし,本件においては,本件明細書の記載に基づいて判断して誤記であることは上述の通り明白であるばかりでなく,それが本件意見書の記載によっても確認できるのである。審決のこの判断も誤りである。 (3) 「イソプレン系重合体」と「イソブチレン系重合体」との相違点は,「プ」が「ブチ」であるという点で相違するだけの単純なものであるにすぎない。 (4) このように,請求項1の「イソプレン系重合体」との用語が,本件明細書の発明の詳細な説明には全く現れず,請求項1にのみ突如として現れることは極めて不自然である。本件明細書の発明の詳細な説明においては,「イソブチレン系重合体」が主として説明されているのであるから,請求項1における「イソプレン系重合体」が誤記であり,正しくは「イソブチレン系重合体」であるべきことは本件明細書の記載全体から明白で,当業者がたやすく認識し得ることである。 2 取消事由2(「明りようでない記載の釈明」に該当しないとした判断の誤り) 審決は,本件訂正が明りょうでない記載の釈明にも該当しないと判断している。しかし,この判断は誤りである。 審決は,上記のとおり,「例示化合物A,Bは「イソプレン系重合体」の定義如何によってはその範疇に属する物質としての理解が可能である」と述べると共に,「「イソプレン系重合体」は当業者が各種の意味で使用している用語であって,その範囲が確定したものではない」と述べ,「イソプレン系重合体」の語の範囲が確定したものではないことを認めている。 そうすると,この審決の認定に従ったとしても,「イソプレン系重合体」の語の意味する範囲は明りょうではないことになるから,特許請求の範囲における「イソプレン系重合体」の語の意義を理解するためには,発明の詳細な説明の記載を検討する必要が生じる。 その結果,上述した理由に加えて,「イソプレン系重合体」と「イソブチレン系重合体」とは「プ」が「ブチ」であるという点で相違するだけの単純なものであることや,特許出願の審査の経緯からみても,請求項1の「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」であると理解するのは当業者にとって極めて当然であり,たやすくこのことを認識できるのである。 したがって,本件訂正は,明りょうでない記載の釈明としても認められるべきである。 3 取消事由3(実質上特許請求の範囲を変更するものであるとした判断の誤り) 審決は,本件訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものであると判断した。しかし,この判断は誤りである。 本件明細書においては,飽和炭化水素系重合体が記載され,その製造例や実施例として記載されているのは「イソブチレン系重合体」であって,「イソプレン」を含有する重合体ではないから,当業者は請求項1にのみ現れる「イソプレン系重合体」の記載は極めて不自然であって,「イソブチレン系重合体」として理解することが当然であり,本件訂正の前後で実質上特許請求の範囲を変更することにはならない。 また,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」の記載が誤記であって,正しくは「イソブチレン系重合体」であることは,本件明細書の記載全体から明白であり,本件明細書に接した当業者にはたやすく認識できることは,以上に述べたとおりであるから,「イソプレン系重合体」と「イソブチレン系重合体」とが異なる重合体であることによってこの認識が妨げられるものではない。 本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものでないことは明白である。 |
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被告の反論の骨子
審決の認定判断に,原告主張の誤りはない。 1 取消事由1(誤記の訂正に当たらないとした判断の誤り)について (1) 本件明細書の記載について (ア) 本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)に記載されているのは「イソプレン系重合体」であり,「イソブチレン系重合体」が記載されているのは本件明細書の発明の詳細な説明においてのみである。明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲に記載された発明以外の発明が記載されることがあるから,「イソプレン系重合体」と異なる物質である「イソブチレン系重合体」について,発明の詳細な説明に記載され,実施例で具体的に説明されていても,そのことが,特許請求の範囲に記載された「イソプレン系重合体」が誤記である理由にはならないのである。 (イ) 明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならないものの,この要件を満たす限り,実施例として記載されることは必ずしも必要ではない。本件明細書の発明の詳細な説明には,「イソプレン系重合体」に該当するといえる例示化合物A及びBが記載されているのであるから,上記要件を満たすものといえる。 (ウ) 原告は,本件明細書においては,飽和炭化水素系重合体に関し,ブタジエンについては一貫して「水添ポリブタジエン系重合体」として記載しているのであるから,これと同様に,ジエン系単量体であるイソプレンを主成分とする重合体を指すことを意図するのであれば,「水添ポリイソプレン系重合体」と表現すべきである,と主張する。 しかし,例示化合物Bは,イソプレンが水素添加されていないから,「水添ポリイソプレン系重合体」と表現するのはむしろ不適当である。また,例示化合物Aも「水添ポリイソプレン系重合体」としか表現できないわけではない。すなわち,例示化合物Aは,「イソプレンの単独重合体の水素添加物またはイソプレンと炭素数が1〜6のオレフィン系化合物の共重合体の水素添加物」であり,例示化合物Bは,「本発明の目的が達成される範囲でイソプレンを少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で共重合させた飽和炭化水素系重合体」である。共重合体や水素添加物を含めて,・・・系重合体と表現することはよくあることであるから,例示化合物A,Bを「イソプレン系重合体」に含めることに用語上の不自然さはない。 (エ) 誤記かどうかの判断は,特許明細書を読んだ第三者ないし当業者との関係で客観的に判断されるべきである。誤記の判断の基礎となるのは,特許明細書であり,意見書はこれに含まれない。したがって,本件意見書を誤記かどうかの判断の基礎とすることはできない。 2 取消事由2(「明りようでない記載の釈明」に該当しないとした判断の誤り)について (1) 原告は,本件訂正が明りょうでない記載の釈明を目的とするとの主張を,訂正審判で行っておらず,当然ながら,明りょうでない記載の釈明に該当する理由も説明していない。 訂正審判で主張していない理由を,その審決の取消訴訟の段階で新たに主張することは,特許法131条の精神からみて認められるべきではない。 (2) 「イソブチレン系重合体」と「イソプレン系重合体」は,その意味するところが異なるから,「イソプレン系重合体」の本来の意味が「イソブチレン系重合体」であることなどはあり得ないことである。 「イソプレン系重合体」の用語の意味が不明りょうである理由は,「イソプレン」という用語にあるのではなく,「系」という用語が意味する範囲が不明であることにある。つまり,「イソプレン系重合体」が,イソプレンを単量体として製造された重合体に係わることは理解できるものの,どこまでが「系」と呼べる範囲なのかが不明りょうなのである。 そうすると,「イソプレン系重合体」における,「明りょうでない記載の釈明」は,「系」という表現の本来の意味を明らかにすることにほかならない。しかし,「イソプレン系重合体」を「イソブチレン系重合体」とすることは,明りょうな用語である「イソプレン」を全く別の用語である「イソブチレン」に置き換えているのであるから,明りょうでない記載を釈明したものではないことは明らかである。また,不明りょうな用語である「系」はそのまま存在しているから,「系」なる用語についての釈明はなされていない。 3 取消事由3(実質上特許請求の範囲を変更するものであるとした判断の誤り)について 「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」であるか否かの判断は,明細書中の特許請求の範囲の記載を基準としてなされるべきであり,「イソプレン系重合体」を「イソブチレン系重合体」という意味の異なる用語に訂正する本件訂正が,実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(誤記の訂正に当たらないとした判断の誤り)について (1) 本件明細書には,本件発明について,次のような記載がある(甲2号証)。 (ア) 本件発明は,「特に建築用,自動車用,船舶用及び道路用等のシーリング材及び密封剤としてきわめて有用な,耐汚染性,耐薬品性,耐溶剤性,耐熱性,耐候性及び耐湿気透過性等に優れた硬化性組成物に関するものである。」(【0001】【産業上の利用分野】)。本件発明の「珪素原子に結合した水酸基または加水分解基を有し,シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基(以下,「反応性珪素基」という。)を有する飽和炭化水素系重合体は・・・湿分等により室温で硬化してゴム状硬化物を生じる・・・しかしながら,この重合体の硬化物は,配合組成や硬化条件等によっては,該硬化物の表面が埃等の付着により汚染され,その外観を損なうという好ましくない状態(以下,「汚染性」という。)となる欠点を有しているため,その用途が制限されるという問題があった。」(【0002】【従来の技術】)。 本件発明の目的は,「硬化物の表面を非粘着性に改良することにより,長期に渡る埃付着性,汚染性に対して顕著な汚染防止効果を発現し,耐薬品性,耐溶剤性,耐熱性,耐候性及び耐湿気透過性等にも優れた硬化性組成物を提供することにある。」(【0003】【発明が解決しようとする課題】)。 本件発明は,「上記飽和炭化水素系重合体に長鎖炭化水素基含有シリコン化合物を添加することにより,上記目的が達成されることを見出し,・・・た。 すなわち,本発明は,(A)珪素原子に結合した水酸基または加水分解基を有し,シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基を少なくとも1個有する飽和炭化水素系重合体,及び(B)上記飽和炭化水素系重合体100重量部に対して0.1〜30重量部の長鎖炭化水素基含有シリコン化合物を含有してなる硬化性組成物により達成することができた。」(【0004】【課題を解決するための手段】) (イ) 本件明細書においては,本件発明において用いられる飽和炭化水素系重合体について,次の記載がある。 「本発明において用いられる飽和炭化水素系重合体は,芳香族環以外の炭素-炭素不飽和結合を実質的に含有しない重合体を意味する概念であり,本発明に用いる反応性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体の骨格となる重合体は,次の方法によって得ることができるものである。」(【0014】) 「(1)エチレン,プロピレン,1-ブテン,イソブチレン等の炭素数が1〜6のオレフィン系化合物を主単量体として重合させる方法。 (2)ブタジエン,イソプレン等のジエン系化合物を単独重合させるか,上記オレフィン化合物とジエン系化合物とを共重合させた後,水素添加する方法。」(【0015】,記載事項a) 「これらの重合体のうち,・・・等の点から,イソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体であるのが好ましい。」(【0016】) 「このイソブチレン系重合体は,単量体単位の全てがイソブチレン単位で形成されていてもよく,イソブチレンと共重合性を有する単量体単位をイソブチレン系重合体中の好ましくは50%(重量%,以下同様)以下,更に好ましくは30%以下,特に好ましくは10%以下の範囲で含有していてもよい。」(【0017】) 「更に,水添ポリブタジエン系重合体や他の飽和炭化水素系重合体においても,イソブチレン系重合体の場合と同様に,主成分となる単量体単位の他に他の単量体単位を含有させてもよい。」(【0020】) 「また,本発明に用いる飽和炭化水素系重合体には,本発明の目的が達成される範囲でブタジエン,イソプレン等のポリエン化合物のような重合後に2重結合の残る単量体単位を少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で含有させてもよい。」(【0021】,記載事項b) 「この飽和炭化水素系重合体(A),特にイソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体の数平均分子量は,500〜100,000程度であるのが好ましく,特に1,000〜30,000程度の液状乃至流動性を有するものが取扱い易い等の点から好ましい。・・・」(【0022】) 「反応性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体の製造方法について,特にイソブチレン系重合体及び水添ポリブタジエン系重合体の場合を例として説明する。・・・」(【0023】) (ウ) 本件明細書においては,飽和炭化水素系重合体(A)として,イソブチレンオリゴマーの製造例1ないし3が示された後に,この製造例1を利用した実施例1及び2と比較例1及び2が示され(【0054】〜【0066】),本件発明の効果として,「本発明の硬化性組成物は,(B)成分を添加することにより,長期に渡って曝露される場合に顕著な汚染防止性効果が発現される。更に,耐薬品性,耐溶剤性,耐熱性,耐候性及び耐湿気透過性等にも優れ,特に,建築用,自動車用,船舶用及び道路用等のシーリング材及び密封剤としてきわめて有用である。」(【0067】【発明の効果】)と記載されている。 (エ) 本件明細書の上記記載によれば,本件発明は,(A)反応性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体と,(B)長鎖炭化水素基含有シリコン化合物とを,含有してなる硬化性組成物であり,上記(B)成分を添加することにより,顕著な汚染防止性効果が発現されるものである,と認められる。 そして,本件発明における飽和炭化水素系重合体としては,「イソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体であるのが好ましい」とされているものの,記載事項aによれば,「イソプレン等のジエン系化合物を単独重合させるか,上記オレフィン化合物とジエン系化合物とを共重合させた後,水素添加する方法」によって得られる重合体(例示化合物A)も含まれるのであり,また,記載事項bによれば,「本発明に用いる飽和炭化水素系重合体には,・・・イソプレン等のポリエン化合物のような重合後に2重結合の残る単量体単位を少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で含有させ」たもの(例示化合物B)も含まれるものである。そして,「イソプレン系重合体」という用語は,高分子化合物の分野で厳密に定義されている用語ではなく,単にイソプレンを原料の全部又は一部として製造された重合体を意味するものと解することもできるものであるから,これらの例示化合物A及びBは,「イソプレン系重合体」と表現されるものの中に包含されるものであるということができる。審決が,「イソプレン系重合体」が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている,と認定したことに誤りはない。 (2) 原告は,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」を誤記したものであることは,本件明細書全体から明らかである,として種々主張する。しかし,原告の主張は,次に述べるとおり,採用することができない。 (ア) 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明においては,「イソブチレン系重合体」について詳しく記載されており,実施例で製造例1ないし3として具体的に説明されているのも「イソブチレン系重合体」であるから,請求項1において,「イソプレン系重合体」と記載されることは極めて不自然であり,当業者は,「イソプレン系重合体」は錯誤により誤記されたものと理解するのが自然である,と主張する。 しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記のとおり,「イソプレン系重合体」を意味する技術内容が記載されているのである。旧特許法36条5項1号は,特許請求の範囲について,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要求していることからすれば,本件明細書の発明の詳細な説明に「イソプレン系重合体」について記載がなければ,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」が誤記であると解する余地はあるものの,本件明細書の発明の詳細な説明に,「イソプレン系重合体」の技術内容が記載されている以上,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」が誤記であると認めることはできない。 確かに,本件明細書の発明の詳細な説明には,飽和炭化水素系重合体に関して,上記のとおり,「イソブチレン系重合体」について,その製造例が詳しく記載され,「水添ポリブタジエン系重合体」と並んで好ましい重合体として記載されている。しかし,特許出願人は,特許明細書の発明の詳細な説明に記載した発明の中から,任意のものを選択して,特許請求の範囲に記載することが可能であるから,本件明細書の発明の詳細な説明に,飽和炭化水素系重合体として,「イソブチレン系重合体」と「水添ポリブタジエン系重合体」のみならず「イソプレン系重合体」も記載されている以上,これらのうちの「イソプレン系重合体」と「水添ポリブタジエン系重合体」のみを特許を受けようとする発明として,特許請求の範囲に記載することは可能である。本件明細書の発明の詳細な説明において,「イソブチレン系重合体」についてその製造例ないし実施例が詳しく記載されているとしても,このことから直ちに特許請求の範囲に記載された「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記であるということはできない。 (イ) 原告は,本件明細書の記載aにおける例示化合物Aは水素添加物(飽和炭化水素系重合体)であり,記載bにおける例示化合物Bはイソプレンを極めて少量(10%以下,特に1%以下)含むだけの飽和炭化水素系重合体であるから,いずれもイソプレン系重合体とは通常は指称しない重合体であるとか,イソプレンを主成分とする重合体を指すことを意図するのであれば,「水添ポリブタジエン系重合体」のように,「水添ポリイソプレン系重合体」と表現するのが通常であるのに対し,本件明細書には「水添ポリイソプレン系重合体」という記載もない,とか主張する。 しかし,「イソプレン系重合体」という用語は,高分子化合物の分野で厳密に定義されている用語ではないから,単にイソプレンを原料の全部又は一部として製造された重合体を意味するものと解することもでき,重合後に不飽和結合が残っているものも(例示化合物B),重合後に水素添加処理を受けたものも(例示化合物A),いずれも「イソプレン系重合体」の意味する範囲内のものと解することができる。すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明における記載事項b(「本発明に用いる飽和炭化水素系重合体には,本発明の目的が達成される範囲でブタジエン,イソプレン等のポリエン化合物のような重合後に2重結合の残る単量体単位を少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で含有させてもよい。」)によれば,本件発明の飽和炭化水素系重合体においては,重合体中に,単量体単位として10%以下の不飽和結合(2重結合)が存在することは許容されているのであり,水素添加されていないポリイソプレン部分が重合体中に存在することは可能であるから,このような例示化合物Bを包含したものとして,「イソプレン系重合体」として特許請求の範囲に記載することは不自然ではなく,必ずしも特許請求の範囲に「水添ポリイソプレン系重合体」と記載しなければならないわけではないのである。 (ウ) 原告は,審決が,「イソプレン系重合体」が本件明細書に記載されていると認定できないことを認めているばかりでなく,「イソプレン系重合体」の用語が各種の意味で用いられ,その範囲が確定しないとしており,本件明細書に「イソプレン系重合体」が記載されていないことを認めている,と主張する。 しかし,審決は,「「イソプレン系重合体」は当業者が各種の意味で使用している用語であって,その範囲が確定したものではないが,例示化合物A,Bは,「イソプレン系重合体」の定義如何によっては,その範疇に属する物質としての理解が可能である。そうすると,「イソプレン系重合体」が発明の詳細な説明に記載されているとの解釈が成立し得るから,特許請求の範囲に記載された「イソプレン系重合体」が誤記であるとは認められない。」(審決書2頁4段〜5段)と認定判断したものである。 「イソプレン系重合体」という用語は,本件明細書に特有の用語ではなく,イソプレンを単量体の全部又は一部とする重合体との意味の用語であり,その意味する化合物群の範囲は,明細書の発明の詳細な説明を考慮した上で確定し得るものということができる(乙1〜3号証参照)。本件明細書には,本件発明に用いる飽和炭化水素系重合体の例としてイソプレンを原料とした重合体の例(例示化合物A及びB)が挙げられていることは上記のとおりである(甲2号証【0015】,【0021】)から,当業者は,請求項1に「イソプレン系重合体」として記載されているものは,イソプレンを原料の全部又は一部として製造された重合体であり,例示化合物A及びBをその代表例とするものとしてこれを理解することができるのであって,審決の上記認定判断に誤りはない(本件明細書の記載によっても,「イソプレン系重合体」として,「イソプレン」を原料の全部又は一部として製造された重合体であれば,すべてのものが含まれるのかどうか,その範囲がやや不明確であるとの懸念は残るものの,本件明細書に「イソプレン系重合体」が記載されていないとか,「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記であるとかまでいうことができないことは明らかである。)。 (3) 原告は,本件意見書の記載によれば,本件補正書による補正は,請求項1の飽和炭化水素系重合体を「イソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体」と限定することを目的としたものであることが明らかである,と主張する。 しかし,本件明細書の請求項1に記載された「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記であるかどうかは,本件明細書自体から明らかでなければならない。すなわち,本件特許の内容は,本件明細書の特許請求の範囲と発明の詳細な説明に記載されたところにより決定されるのであり,本件明細書が特許公報の形式で第三者に対し公示されることにより,第三者が本件特許の内容を知り得るのであるから,本件明細書に誤記があるかどうかは,本件明細書自体から当業者にとって明らかでなければならないのである。本件補正書によって補正された本件明細書と本件意見書との間に,その内容に齟齬があるとしても,本件明細書は,特許公報の形式で第三者に本件特許の内容を公示するものであるのに対し,本件意見書は一般に公示されるものではないのであるから,本件明細書自体から誤記が明らかでない限り,本件意見書によって本件明細書の記載を誤記であると認めることはできない。 原告は,本件においては,本件明細書の記載に基づいて判断して誤記であることは明白であるばかりでなく,それが本件意見書の記載によっても確認できる,とも主張する。しかし,本件明細書の記載に基づいて判断しても,「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記であることが明らかでないことは上記のとおりであるから,原告の主張はこの点でも理由がないことは明らかである。 (4) 原告は,「イソプレン系重合体」と「イソブチレン系重合体」との相違点は,「プ」が「ブチ」であるという点で相違するだけの単純なものである,と主張する。 しかし,有機高分子材料を扱う当業者にとって,「イソブチレン」と「イソプレン」が異なる化学物質であり,それらを原料の一部又は全部とする高分子材料が異なる高分子であることは,技術常識である。有機高分子分野を含む有機化学分野においては一文字違うだけで別の化学物質を意味するものなど無数にあり(メタンとエタン,ヘキサンとヘキセン,ヘキシン),当業者であれば,「イソプレン系重合体」と「イソブチレン系重合体」とが異なるものであることは明らかである。原告の主張は失当である。 2 取消事由2(「明りようでない記載の釈明」に該当しないとした判断の誤り)について 原告は,「イソプレン系重合体」という用語について,審決がその用語としての範囲が確定したものではないと認定したのであるから,明りょうではない記載であり,それを本件訂正で「イソブチレン系重合体」とすることは明りょうでない記載の釈明として認められるべきである,と主張している。 しかしながら,「明りようでない記載の釈明」とは,その記載の不明りょうさを正して,その記載本来の意味内容を明らかにすることであるのに対し,「イソプレン系重合体」を「イソブチレン系重合体」と訂正することは,「イソプレン系重合体」をこれと全く別の意味の用語である「イソブチレン系重合体」と訂正することであるから,「イソプレン系重合体」の本来の意味内容を明らかにするものということは到底できず,明りょうでない記載の釈明に該当するといえないことは明らかである。 したがって,請求項1の「イソプレン系重合体」との記載が明りょうでない記載に該当するかどうかを検討するまでもなく,原告の主張は理由がないことが明らかである。 3 取消事由3(実質上特許請求の範囲を変更するものであるとした判断の誤り)について 原告は,当業者は請求項1にのみ現れる「イソプレン系重合体」の記載は極めて不自然であって,「イソブチレン系重合体」として理解することが当然であるから,本件訂正の前後で実質上特許請求の範囲を変更することにはならない,また,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」の記載が誤記であって,正しくは「イソブチレン系重合体」であることは,本件明細書の記載全体から明白である,と主張する。 しかしながら,当業者が請求項1の「イソプレン系重合体」の記載を「イソブチレン系重合体」として理解することはないこと,及び,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」の記載が誤記であって,正しくは「イソブチレン系重合体」であることが,本件明細書の記載全体から明白であるとはいえないことは,取消事由1について述べたとおりである。原告の主張は,その前提において採用することができない。 |
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結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |