• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成23ワ19435特許権侵害行為差止等請求事件 判例 特許
平成23ワ4836特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22ワ26341特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22ワ42637特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成23ワ3850特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 23年 (ワ) 6868号 損害賠償請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/03/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平 成25年3月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(ワ)第6868号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成24年10月18日

判 決

東京都中央区<以下略>

原 告 電気化学工業株式会社

訴訟代理人弁護士 長 沢 幸 男

同 鈴 木 知 幸

同 黒 河 元 次

訴訟代理人弁理士 八 木 澤 史 彦

補 佐 人 弁 理 士 正 林 真 之

同 新 山 雄 一

同 備 後 元 晴

東京都千代田区<以下略>

被 告 新日鉄住金マテリアルズ株式会社

(旧商号・新日鉄マテリアルズ株式会社)

訴訟代理人弁護士 上 谷 清

同 仁 田 陸 郎

同 萩 尾 保 繁

同 山 口 健 司

同 薄 葉 健 司

同 石 神 恒 太 郎

補 佐 人 弁 理 士 田 崎 豪 治

同 高 橋 正 俊

主 文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴 訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成23年2月28日から

支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

本件は,発明の名称を「シリカ質フィラー及びその製法」とする特許第3

445707号(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許

権」という。)の特許権者である原告が,被告による別紙物件目録記載のシ

リカ製品(以下「被告製品」という。)の製造,販売及び販売のための展示

等が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許権侵害の不法

行為に基づく損害賠償の一部請求として1億円及び遅延損害金の支払を求め

た事案である。

2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の

全趣旨により認められる事実である。)

(1) 当事者

ア 原告は,セラミックスの製造,加工及び販売等を目的とする株式会社

である。

イ 被告は,シリカ・アルミナ等を原料とする球状粒子の製造・販売,セ

ラミックス及びこれに関連する無機化学製品の製造・販売等を目的とす

る株式会社である。

(2) 原告の特許権

ア 原告は,本件特許の特許権者である。

本件特許は,原告が平成8年9月18日に特許出願(特願平8−266

647号。以下「本件出願」という。)をし,平成15年6月27日に本
件 特許権の設定登録(請求項の数5)がされたものである。

イ 本件特許の特許請求の範囲は,請求項1ないし5から成り,その請求項

1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発

明」という。)。

「【請求項1】シリカ質粉末を可燃性ガス−酸素火炎中で溶融して得られ

た球状シリカであって,粒径が30μm以上の粒子を30〜90重量%

含有してなり,該粒径30μm以上の粒子の真円度が0.83〜0.9

4,粒径30μm未満の粒子の真円度が0.73〜0.90であること

を特徴とするシリカ質フィラー。」

ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要

件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。

A シリカ質粉末を可燃性ガス−酸素火炎中で溶融して得られた球状シ

リカであって,

B 粒径が30μm以上の粒子を30〜90重量%含有してなり,

C 該粒径30μm以上の粒子の真円度が0.83〜0.94,

D 粒径30μm未満の粒子の真円度が0.73〜0.90である

E ことを特徴とするシリカ質フィラー。

(3) 被告の行為等

ア 被告は,被告製品を製造,販売し,又は販売のため展示している。

イ 被告製品は,本件発明の構成要件AないしC及びEを充足する。

3 争点

本件の争点は,@被告製品についての本件発明の技術的範囲の属否(争点

1),具体的には,構成要件Dの充足の有無,A特許法104条の3第1項

の規定による本件特許権の権利行使の制限の成否(争点2),B被告が賠償

すべき原告の損害額(争点3)である。

第3 争点に関する当事者の主張
1 争 点1(被告製品についての本件発明の技術的範囲の属否)について

(1) 原告の主張

構成要件Dの充足性

(ア) 真円度の測定対象試料の調整方法

a シリカ粒子は,原料のシリカ(珪石)を粉砕して分級し,次に,

火炎溶融によって,粉砕された角張った形状のシリカの角がとれ,

球状シリカとなるが,その溶融過程において,一部のシリカは蒸発

し,冷却時に酸素と結合してヒューム粒子(直径約0.5μm以下

の超微粒子)が必然的に発生し,ヒューム粒子はシリカ母粒子の表

面に必ず付着する(甲30,44ないし46等)。

このヒューム粒子は,シリカ母粒子の間に入り込んで,1単位当

たりの樹脂中により多くの粒子を充填することができ,また,シリ

カ母粒子の間に介在することで,あたかも大きな石を動かす時に下

に敷く丸太(コロ)のような役割を果たして流動性を向上させるこ

とができる。シリカ粒子と樹脂とが混合され,半導体封止材が生成

されるが,その混合の際に,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が

付着していることにより,ヒューム粒子が一種の分散状態になるた

め,樹脂等とより均一に混合することができ,さらには,封止材に

なった状態において,シリカ母粒子の間にヒューム粒子が理想的な

状態により近い状態で入り込むことができ,その結果,強度及び流

動性が良好な封止材を生成することができる(甲63)。このよう

にヒューム粒子がシリカ母粒子に付着していることにより,半導体

封止材の生成からICパッケージの成型の工程においては,流動性

の向上,充填率の向上等の効果が,ICパッケージに成型された後

は,高温強度特性の向上,寸法精度の向上,曲げ強度の向上,耐半

田クラック性の向上,低熱膨張率等の効果が生じる。
こ のようなヒューム粒子がシリカ母粒子の表面に付着した状態で

得られる有利な効果は,本件出願時の技術常識である(甲39ない

し43,47ないし51)。

このためユーザにおいては,メーカーから出荷されたシリカ母粒

子の表面にヒューム粒子が付着したままの状態の製品を使用してお

り,シリカ母粒子の表面からヒューム粒子をわざわざ除去すること

はしていないこと,シリカ粒子の技術開発は,ユーザに提供するた

めのものである以上,ユーザの使用状態と乖離した状態で測定する

ことに意味はないことから,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が

付着したままの状態で真円度を測定するのが,本件出願時の技術常

識である。

b ところで,大小の多数の粒子が入り交じった粒子群から成る原料

を同1条件で火炎溶融すれば,シリカ母粒子だけについてみると,

通常,粒径の小さい粒子ほど真円度が高くなることは,本件出願時

技術常識である。

しかし,本件発明は,これとは異なり,小粒径の粒子(粒径30

μm未満)の真円度の範囲(構成要件D)が,より大きな粒子(粒

径30μm以上)の真円度の範囲(構成要件C)よりも低く規定さ

れていることに特徴があり,ここでいう「粒子」は,シリカ母粒子

の表面にヒューム粒子が付着している状態の粒子を意味する。

すなわち,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着することに

より,粒子表面の凹凸が増加し,単位数量当たりの表面積(比表面

積)が大きくなるが,粒径の小さいシリカ母粒子ほど,ヒューム粒

子の付着の影響を大きく受け,理論上の比表面積と実際の比表面積

の乖離が大きくなり(甲38の段落【0014】),真円度は低下

する。
こ のように本件発明において,小粒径の粒子の真円度の範囲がよ

り大きな粒子の真円度の範囲よりも低く規定されていることは,本

件発明が,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着していること

を当然の前提としているからにほかならない。

したがって,本件発明の真円度を測定するに当たっては,シリカ

母粒子の表面に付着したヒューム粒子を除去しない状態の試料(以

下「乾式の試料」という。)を用いる必要があるというべきであ

る。このことは,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及

技術常識から導かれる当然の前提である。

c なお,本件出願の願書に添付した明細書(甲7。以下「本件明細

書」という。)には,ヒューム粒子の存在やヒューム粒子がシリカ

母粒子に付着していることについて明記されていないが,これは,

ヒューム粒子がシリカ母粒子に付着していることが当然の前提であ

るからにすぎない。

また,本件発明のように,所定の粒子径に対応する真円度を問題

にする場合,粒子径は,水で分散させてレーザー回折式粒度分布測

定装置を使用し,真円度は乾式の試料で計測するのが,本件出願時

の技術水準に照らし,一般的である。粒子径も乾式の試料で計測し

てもよいが,ヒューム粒子が,シリカ粒子の粒子径の測定結果に有

意な影響を及ぼすことはないため,粒子径については,水で分散さ

せてレーザー回折式粒度分布測定装置で測定する方法が,実用的・

合理的である。一方,真円度については,水で分散させてヒューム

粒子をシリカ母粒子から除去すると,小さい粒子径の粒子の方がよ

り大きい粒子径の粒子よりも真円度が低いという,本件発明の本質

的な特徴を計測することができない(甲63)。このため粒子径

は,水で分散させて計測するとしても,真円度は乾式の試料で計測
す る必要がある。

(イ) 被告製品の構成要件Dの充足

原告は,3回にわたり,電子顕微鏡で撮影した写真を画像解析する

方法で被告製品の粒子の真円度を測定した(以下,平成22年9月2

6日付け測定結果を「原告測定データ1」,平成23年6月23日付

け測定結果を「原告測定データ2」,同年11月15日付け測定結果

を「原告測定データ3」といい,原告測定データ1ないし3を併せて

「原告各測定データ」と総称する。)。

原告各測定データによれば,被告製品の粒径30μm未満の粒子の

真円度は,次のとおり,いずれも構成要件Dの数値範囲内にあるか

ら,被告製品は,構成要件Dを充足する。

a 原告測定データ1

(a) 測定方法及び測定結果

被告製品の乾式の試料を対象として,電子顕微鏡(キーエンス

社製「VE−8800」。以下「電子顕微鏡「VE−880

0」」という。)を用いて倍率100倍で写真撮影(画像解像度

「1280×960 ピクセル」,1ピクセルのサイズ「0.9

0μm/ピクセル」)をし,撮影した写真を画像解析装置(マウ

ン テ ッ ク 社 製 「 Mac-View Ver.4 」 。 以 下 「 画 像 解 析 装 置 「 Mac-

View Ver.4」」という。)を用いて画像解析し,真円度を測定し

た。

その測定数値(甲11の1ないし5)を基に,被告製品の粒径

30μm未満の粒子の真円度(平均真円度)を算出すると,

「0.788」であった。

【計算式】(372×0.828+571×0.762)÷(3

72+571)=0.788
( b) 小括

以上のとおり,原告測定データ1による被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.788」であ

り,構成要件Dの数値範囲内にあるから,被告製品は,構成要件

Dを充足する。

b 原告測定データ2

(a) 測定方法及び測定結果

被告製品の乾式の試料を対象として,電子顕微鏡「VE−88

00」を用いて倍率400倍で写真撮影(画像解像度「1280

×960 ピクセル」,1ピクセルのサイズ「0.2μm/ピク

セル」)をし,撮影した写真(甲28の1ないし4)を画像解析

装 置 「 Mac-View Ver.4 」 を 用 い て 画 像 解 析 し , 真 円 度 を 測 定 し

た。

その測定の結果(甲23,24の1ないし4,25の1ないし

4,26の1ないし4,27の1ないし4),被告製品の粒径3

0μm未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.810」

(甲23)であった。

(b) 小括

以上のとおり,原告測定データ2による被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.810」であ

り,構成要件Dの数値範囲内にあるから,被告製品は,構成要件

Dを充足する。

c 原告測定データ3

(a) 測定方法及び測定結果

被告製品の球状シリカ粉末を粒径30μm以上の粒子と粒径3

0μm未満の粒子とを篩で分離(乾式で,「32μmの試験篩」
を 通過した粒子と通過しなかった粒子を篩い分ける。)した上,

篩を通過した乾式の試料を対象として,電子顕微鏡(JEOL社

製「JSM−6301F型走査型電子顕微鏡」。以下「電子顕微

鏡「JSM−6301F」」という。)を用いて倍率400倍で

写真撮影(画像解像度「1280×960 ピクセル」,1ピク

セルのサイズ「0.07μm/ピクセル」)をした(甲31の

1)。

その撮影した写真(甲37の1ないし6)を基に,画像解析装

置「Mac-View Ver.4」の「簡単取込ツール」及び「連結ツール」

の各機能を用いて画像解析し,真円度を測定した(甲31の

2)。

すなわち,粒子の形状を自動計算するプログラムである「簡単

取込ツール」を利用して,まず,一つの粒子の輪郭の部分ごとの

輪郭を決定し,その後,「連結ツール」を用いて,部分ごとの輪

郭を合成して粒子全体の輪郭を生成し,この粒子全体の輪郭をト

レースして,真円度の測定対象とした(甲31の2)。このよう

に粒子の輪郭を自動認識することは,本件明細書の段落【000

7】に記載のある「日本アビオニクス(株)製」や「他社製品」

の「画像解析装置」(例えば,日本アビオニクス(株)製の「S

PICCA−U」)で行われていたものである(甲52,62,

69)。

その測定の結果(甲33の1ないし6,34の1ないし6),

被告製品の粒径30μm未満の粒子(粒径4μm以上30μm未

満)の真円度(平均真円度)は,「0.864」(甲32)であ

った。

(b) 小括
以 上のとおり,原告測定データ3による被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.864」であ

り,構成要件Dの数値範囲内にあるから,被告製品は,構成要件

Dを充足する。

(ウ) 被告の測定結果について

被告が提出する被告製品の真円度の測定結果(以下,平成23年4

月5日付け測定結果を「被告測定データ1」,原告測定データ2で撮

影された写真を基にした測定結果を「被告測定データ2」,同年7月

29日付け測定結果を「被告測定データ3」といい,被告測定データ

1ないし3を併せて「被告各測定データ」と総称する。)は,いずれ

も信用性がない。

a 測定対象試料が不適切であること

本件発明の真円度を測定するに当たっては,シリカ母粒子の表面

に付着したヒューム粒子を除去しない状態の試料(乾式の試料)を

用いる必要があることは,前述のとおりである。

この点に関し,被告各測定データの測定対象試料は,被告製品の

球状シリカ粉末を分散する前に,エチルアルコールを加え,超音波

洗浄機を用いて600Wという高出力で分散させるという前処理が

行われており(乙3),この前処理により,被告製品の各粒子は,

ヒューム粒子が除去されている。

このようなヒューム粒子を除去する前処理をした状態で真円度を

測定すると,ヒューム粒子が付着した状態での測定との乖離が大き

く,本件発明の構成要件Dの充足性を判断するには不適切な測定デ

ータしか得られない。

また,被告製品のシリカ母粒子からヒューム粒子を除去する前処

理は,粒状形態そのものを変更するものであって,被告が製造販売
す る被告製品に変形変質を加えて別製品を作出する行為にほかなら

ないから,そのように別製品化した測定対象の真円度の測定値は,

もはや被告製品の測定値とはいえない。

したがって,ヒューム粒子を除去する前処理をした試料を測定対

象とする被告各測定データは,いずれも信用することができない。

b 被告測定データ3について

被告が被告測定データ3を算出するに当たって使用した「FPI

A−3000」なる測定装置は,本件出願の約8年後である平成1

6年12月に発売が開始されたものであり(甲29),本件出願時

技術常識には含まれないから,そのような装置を用いて算出した

被告測定データ3は,被告製品の構成要件Dの充足性を判断するた

めの根拠とはなり得ない。

イ まとめ

以上のとおり,被告製品は構成要件Dを充足し,また,被告製品が構

成要件AないしC及びEを充足することは争いがないから,被告製品

は,本件発明の構成要件を全て充足する。

したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する。

(2) 被告の主張

構成要件Dの非充足

(ア) 真円度の測定対象試料の調整方法について

原告は,本件発明の真円度を測定するに当たり,シリカ母粒子の表

面に付着したヒューム粒子を除去しない状態の試料,すなわち,「乾

式の試料」を用いる必要がある旨を主張する。

しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

a 本件明細書の記載事項

(a) 本件明細書(甲7)には,「平均粒径は,試料0.3gを水
に 分散させ,それをレーザー回析式粒度分布測定装置(シーラス

グラニュロメーター「モデル715」)で測定した。以下の実施

例,比較例も同様である。」(段落【0014】)との記載があ

るように,本件発明における平均粒径(粒度分布)の測定には,

「湿式処理」(試料に液体を加えて分散させる前処理)をした試

料が用いられている。

このように本件発明は,湿式処理をした試料で測定した平均粒

径(粒度分布)を前提に,粒子の集合体を粒径30μm以上の群

と粒径30μm未満の群に区分けして,当該区分けされた各粒子

群の「重量%」及び「真円度」の値を問題としているのであるか

ら,真円度の測定においても,平均粒径(粒度分布)の測定と同

じく,湿式処理をした試料を対象に測定されなければならない。

そうでなければ,同一請求項中に規定される「粒径が30μm

以上の粒子を30〜90重量%含有」との要件(構成要件B)に

おける「粒子」は,湿式処理によりヒューム粒子が除去されたシ

リカ母粒子を,「粒径30μm以上の粒子の真円度が0.83〜

0.94」及び「粒径30μm未満の粒子の真円度が0.73〜

0.90」との要件(構成要件C及びD)における「粒子」は,

ヒューム粒子が表面に付着したシリカ母粒子をいうことになり,

同じ「30μm以上(未満)」という表現を用いながら,前者と

後者とでは別の粒子群を意味することとなって不合理である。

(b) 本件明細書には,原料微粉末に関し,「更に追求した結果,

原料微粉末の粒度分布も溶融後フィラーの真円度に大きく関与

し,シリカ質原料粉末中に10μm以下の微粉が多いと,溶融時

に凝集したり,粗大粒子に付着して真円度を悪化させると同時に

平均粒径を大きくする事実が判明した。」(段落【000
5 】),「更に粒径10μm以下の粒子の量が25重量%を越え

ると溶融時に凝集または10μm以下の微粉が粗大粒子に付着し

て,粗大粒子の真円度を低下させると共に平均粒径を大きくす

る。」(段落【0006】)との記載がある。

上記記載は,ヒューム粒子がシリカ母粒子に「融着」して一つ

の粒子となる際に歪な形状になることがあり,そのような場合に

真円度が悪化する旨を述べているにすぎず,このように上記記載

中の「付着」の用語の意味は,ヒューム粒子が溶融によりシリカ

母粒子にくっつく場合,すなわち「融着」の意味であり,単にファ

ンデルワールス力によってヒューム粒子がシリカ母粒子に一時的

にくっついているにすぎない場合について述べたものではない。

(c) 以上の本件明細書の記載からすると,本件発明の真円度を測

定するに当たり,湿式処理をした試料を用いるべきであることは

明らかである。

b 本件出願時の技術常識

本件出願時において,フィラーの粒子形状を画像解析法で測定す

る場合,湿式処理をした試料を用いて測定することが技術常識であ

った。

(a) 被告製品等のシリカ質フィラーは,エポキシ樹脂等の合成樹

脂に配合し,混練することにより,最終的に,半導体チップの封

止材として用いられる(本件明細書の段落【0001】)。製品

出荷時点において,ファンデルワールス力によりシリカ母粒子に

一時的に付着しているにすぎないヒューム粒子は,当該フィラー

を合成樹脂に配合し,混練する過程において,シリカ母粒子から

引き離されて,別個の粒子として挙動することになる。

そもそもヒューム粒子が封止材にとって有用であるのは,ヒュ
ー ム粒子がシリカ母粒子とは別個の粒子として挙動するからであ

る。例えば,ヒューム粒子が粒子同士の隙間でコロの役割を果た

し(甲40の段落【0050】,甲42の段落【0004】),

また,ヒューム粒子が樹脂と一体化して流動することにより(甲

41の段落【0012】),ヒューム粒子が相対的に大きな粒子

同士の隙間に入り込むことが可能となり,高充填かつ高流動性の

封止材が得られる。

このような事情を考慮すれば,ユーザの使用状態(封止材の状

態)と同じ状態での各粒子の真円度を測定するのであれば,ヒュ

ーム粒子を除去した母粒子を測定することになる湿式処理をした

試料を用いた測定法が,実際の使用状態に即したものといえる。

(b) 粒子計測技術一般について述べた文献である「粒子径計測技

術」(乙28)には,画像解析用サンプルは,凝集体の分散・解

砕,粒子の重なり,粒子の配向などに留意して作成する必要があ

る旨,乾燥粒子ではそのままステージ上に分散させることで測定

試料とすることが可能であるが,この場合,凝集体あるいは重な

り状態の試料となり,その後の画像処理を極めて煩雑にすること

があるので,1次粒子の大きさを問題にする場合には湿式分散濾

過法が適当と思われる旨の記載(215頁,218頁)がある。

他方で,ヒューム粒子が「付着」しているシリカフィラーの粒

子形状を画像解析法で測定するに当たって,乾式の試料を用いる

とすると,膨大な手間が掛かるため,製品開発・品質管理のため

の粒子測定方法としては非現実的かつ非実用的である。

(c) 以上によれば,本件出願時において,原告が主張するような

ヒューム粒子がシリカ母粒子の表面に付着したままの状態で真円

度を測定するといった技術常識などは存在せず,むしろ,フィラ
ー の粒子形状を画像解析法で測定する場合には,湿式処理をした

試料を用いて測定することが技術常識であったことが明らかであ

る。

c 原告の出願に係る他の特許明細書の記載事項

原告の出願に係る本件明細書以外の特許明細書をみると,本件出

願の出願前においては,湿式処理をした試料で各種の測定を行うこ

とが(乙6),本件出願の出願後においては,湿式処理をした試料

を用いて画像解析法を自動的に行う装置である,フロー式粒子像分

析装置(FPIAシリーズ)を用いることが(乙31等),記載さ

れている。

d 原告提出のヒューム粒子の付着及び有用性を示すための各文献に

ついて

原告は,甲44ないし46等を挙げて,シリカ粒子の製造工程に

おいてヒューム粒子が発生し,シリカ母粒子に付着する旨主張する

が,製造工程においてヒューム粒子が発生しシリカ母粒子に「付

着」するからといって,本件発明の「真円度」をヒューム粒子が

「付着」したままの状態で測定しなければならないことになるわけ

ではない。むしろ,ユーザの使用状態(封止材)においては,「付

着」したヒューム粒子はシリカ母粒子から離れ,別個の粒子として

挙動するのであるから,ヒューム粒子を除去して個々の粒子の真円

度を測定すべきである。

また,原告は,甲47ないし51等を挙げて,シリカ母粒子にヒ

ューム粒子が付着することによって,有利な効果を奏する旨主張す

るが,甲47ないし51には,製品(シリカ質フィラー)出荷の段

階でシリカ母粒子にヒューム粒子が「付着」していることが有用性

に寄与している旨の説明は存在せず,本件発明の「真円度」を,ヒ
ュ ーム粒子がシリカ母粒子に「付着」したままの状態で測定しなけ

ればならないことの根拠となるものではない。

原告が挙げる前掲各証拠からは,ヒューム粒子を「付着」した状

態が封止材にとって有用であるとの事実は認められず,また,本件

出願時に,ヒューム粒子が有用であることが技術常識であったこと

も認められない。

e 小括

以上のとおり,@本件明細書には,少なくとも「平均粒径」につ

いては「湿式」で測定すべきことが明記されており,「真円度」の

み「乾式」で測定すべき理由は何ら見出せないし,また,仮に原告

が主張するように本件発明の本質が,粒径が小さい粒子ほど真円度

が高くなるという技術常識に反して,ヒューム粒子がシリカ母粒子

に「付着」していることによって粒径30μm未満の真円度の値を

低くした点にあるとすれば,その旨の記載や少なくともヒューム粒

子ないしサブミクロンの超微粒子の存在が本件発明の前提であるこ

とを明示する記載があって然るべきであるのに,そのような記載は

本件明細書に一切存在しないこと,A封止材の使用状態ではヒュー

ム粒子はシリカ母粒子から分離した状態であり,湿式処理をした試

料の方が現実の使用状態に近い状態であること,B乾式の試料の画

像解析は膨大な手間がかかるため,製品開発又は品質管理のための

測定法として非実用的ないし非現実的であること,C原告自身も,

本件出願の前後でした他の特許出願の明細書においては,湿式処理

をした試料で「真円度」又は「球形度」を測定していることなどを

考慮すれば,本件発明の真円度を測定するに当たり乾式の試料を用

いる必要があるとの原告の主張は,理由がない。

(イ) 原告各測定データの信用性について
原 告各測定データは,測定対象試料の調整方法として湿式処理によ

らずに,乾式の試料を用いている点で誤りがあるほか,以下の点にお

いても,信用性がないから,原告各測定データによって被告製品が構

成要件Dを充足することを裏付けることはできない。

a 原告測定データ1

原告測定データ1は,@粒径30μm未満の粒子について,撮影

された写真(甲15の1,2,16の1,2)の画像解像度(「1

280×960 ピクセル」,倍率100倍で,1ピクセルのサイ

ズ「0.90μm/ピクセル」)が不当に低すぎるため,個々の粒

子の真円度の値が真実の値よりも低い値となっている点,A真円度

が総じて高い粒径8μm未満の粒子(被告製品における粒径30μm

未満の粒子の中に占める割合約67.4重量%)を測定対象から除

外している点において,信用性がない。

b 原告測定データ2

原告測定データ2は,@粒径10μm未満の粒子について,撮影

された写真の画像解像度(「1280×960 ピクセル」,倍率

400倍で,1ピクセルのサイズ「0.2μm/ピクセル」)が不

当に低すぎるため,個々の粒子の真円度の値が真実の値よりも低い

値となっており,しかも,このような粒径10μm未満の粒子を大

量(全粒子の約93.5%)に含んだ上での真円度(平均真円度)

であるから,実際の真円度よりもかなり低い数値となっている点,

A内部がえぐれた形でトレースしたり,ところどころギザギザにト

レースするなど,実際の粒子の輪郭とは全く異なる形で粒子の周囲

長をトレースしているものがほとんどであり(乙13),粒子の周

囲長のトレースが不正確である点において,信用性がない。

c 原告測定データ3
( a) 仮に原告の主張に従えば,真円度の測定に当たっては,乾式

の試料,つまりシリカ母粒子の表面に付着したヒューム粒子を除

去しない状態の試料を用いる必要があり,そうである以上,シリ

カ母粒子の表面に付着したヒューム粒子の輪郭まで正確にトレー

スしなければならないはずである。

しかし,原告測定データ3(甲32)の基となった粒子のトレ

ース画像(甲35の1ないし6,36の1ないし6)をみても,

ヒューム粒子の輪郭まで正確にトレースしている形跡は全くな

い。そもそも1μm未満のヒューム粒子の輪郭まで正確にトレー

スするためには,原告測定データ3の基となった画像の解像度

(1ピクセルのサイズ「約0.07μm/ピクセル」)でも,解

像度が低すぎるため,原告測定データ3の測定方法は,ヒューム

粒子を除去又は無視してトレースする方法と実質的に変わるとこ

ろはない。

(b) また,原告測定データ3において採用されたトレース法(画

像解析装置「Mac-View Ver.4」における「簡単取込ツール」機能

と「連結ツール」機能を併用する方法)は,連結ツール実行の前

後でトレース跡が変化するなど,そもそもヒューム粒子どころか

シリカ母粒子の輪郭すら正確にトレースするものではない。

(c) 以上のとおり,原告測定データ3は,トレースが不正確であ

るから,信用性がない。

(ウ) 被告各測定データ

被告各測定データは,以下のとおり,被告製品が少なくとも構成要

件Dを充足しないことを示している。

a 被告測定データ1

(a) 測定方法及び測定結果
被 告製品の球状シリカ粉末を粒径30μm以上の粒子と粒径3

0μm未満の粒子とを「篩」により分離(水を用い,「32μm

の試験篩」を通過した粒子と通過しなかった粒子を篩い分け

る。)した上,それぞれの試料を走査型電子顕微鏡(日立ハイテ

クノロジーズ社製「S−3000N型」)を用いて異なる倍率

(粒径30μm以上については100倍,粒径30μm未満につ

いては500倍)で撮影(画像解像度「1280×960 ピク

セル」)し,撮影した写真を画像解析装置「Mac-View Ver.4」を

用いて画像解析(ただし,篩を通過した粒子から「Heywoo

d径」を基に粒径30μm以上の粒子を画像解析対象から除外)

し,それぞれの真円度を測定した。

その結果,測定対象となった被告製品の粒径30μm以上の粒

子の真円度(平均真円度)は「0.919」(乙4の3),粒径3

0μm未満の粒子の真円度(平均真円度)は「0.921」(乙5

の3)であった。

(b) 原告測定データ1の測定方法と異なる点

被告測定データ1の測定方法と原告測定データ1の測定方法の

異なる点は,被告測定データ1の測定方法では,粒径30μm以

上の粒子と粒径30μm未満の粒子とを「篩」により分離した上

で,それぞれの試料を異なる倍率(粒径30μm以上については

100倍,粒径30μm未満については500倍)で撮影し,当

該撮影した写真を画像解析して,それぞれの真円度を測定した点

にある。

このように被告測定データ1の測定方法において粒径30μm

以上の粒子と粒径30μm未満の粒子を分離して測定した理由

は,@粒径30μm未満の粒子については画像解像度が低すぎて
は 正確な真円度が測定できないため,大きな倍率(500倍)で

撮影する必要があり,一方,粒径30μm以上の粒子について

は,500倍の倍率だと,1個の粒子が大きく写りすぎるため,

1視野における個数が極端に少なくなってしまうという不都合

や,画面端で粒子の一部が欠けて写ってしまう粒子が多くなると

いった不都合が生じること,A粒径30μm以上の粒子と粒径3

0μm未満の粒子を同時に撮影すると,粒子の重なりが多くなる

ため,真円度の測定値の精確性が低下する可能性が高くなること

にある。

(c) 小括

以上のとおり,被告測定データ1による被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.921」であ

り,構成要件Dの数値範囲を超えているから,被告製品は,構成

要件Dを充足しない。

b 被告測定データ2

(a) 測定方法及び測定結果

被告が,原告測定データ2の測定に用いられた写真(甲28の

1ないし4)を解像度600dpiでA3拡大スキャンをして読

み込んだ高解像度画像を画像解析装置「Mac-View Ver.4」の「点

選択ツール」機能を用いて再トレースして真円度を測定した。

その結果,粒径30μm未満の粒子の真円度(平均真円度)は

「0.948」(乙14)であった。

(b) 小括

以上のとおり,被告測定データ2による被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.948」であり,

構成要件Dの数値範囲を超えているから,被告製品は,構成要件
D を充足しない。

c 被告測定データ3について

(a) 測定方法及び測定結果

@ フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製「FPIA−3

000」。以下「FPIA−3000」という。)(乙21)

は,上から流れてくる試料(粒子)を1個ずつ自動的に撮影

し,画像解析法を用いて「円形度」等を自動的に測定する装置

であり,粒子の撮影と撮影写真の画像解析を一つの装置内で,

自動的かつ大量の粒子について測定することができる。FPI

A−3000では,湿式処理をした試料を用いている(乙21

の3頁)。

「円形度」とは,「粒子面積と等しい円の周囲長/粒子周囲

長」をいい,「真円度=(円形度) 2 」の関係にある。フロー式

粒子像分析装置により測定された円形度から真円度を求めるこ

とができることは,原告を特許権者とする特許第411247

0号公報(出願日平成15年10月20日。乙22)の明細書

の段落【0024】の「なお,上記以外の真円度の測定方法と

しては,粒子像分析装置,例えば「モデルFPIA−100

0」(シスメックス社製)などにて定量的に自動計測された

個々の粒子の円形度から,式,真円度=(円形度) 2 により換算

して求めることもできる。」との記載が示すとおりである。F

PIA−3000は,上記「モデルFPIA−1000」の後

継機である。

A FPIA−3000の測定条件(乙23)を,装置ユニット

を「高倍率(×20)ユニット」,SOP(標準操作手順)を

デフォルトの「LPF標準」,解析を行う粒径範囲を「4〜3
0 μm」とし,FPIA−3000を用いて被告製品の円形度

を測定した。

その結果,粒径4μm以上30μm未満の粒子について,有

効解析数(N数)「2万1956個」で,平均円形度は「0.

961」(乙24)であった。

この平均円形度(円形度)を真円度(平均真円度)に換算

(真円度=(円形度) 2 )すると,「0.923」となる。

(b) 小括

以上のとおり,被告測定データ3による被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度(平均真円度)は,「0.923」であり,

構成要件Dの数値範囲を超えているから,被告製品は,構成要件

Dを充足しない。

イ まとめ

(ア) 以上のとおり,本件発明の真円度の測定対象試料は,乾式の試料

ではなく,湿式処理をした試料であるから,乾式の試料を用いた原告

各測定データは,被告製品が本件発明の構成要件Dを充足することを

裏付けることはできない。また,仮に原告が主張するように本件発明

の真円度の測定はヒューム粒子が「付着」した状態の乾式の試料を測

定することを前提とするものであるとしても,原告各測定データは,

いずれも「付着」したヒューム粒子の輪郭まで正確にトレースした上

で測定されたものではないなど,そのデータ自体に信用性がない。

したがって,原告各測定データから被告製品が構成要件Dを充足す

ることを認めることはできないから,被告製品が構成要件Dを充足す

るとの原告の主張は,その前提を欠くものとして,理由がない。

(イ) 仮に本件発明においては真円度の測定対象試料が乾式の試料又は

湿式処理をした試料のいずれかに特定されていないとしても,そのよ
う な場合には,当業者にとって従来より知られた方法の一つで測定し

た結果,構成要件を充足しなかったにもかかわらず,別の方法で測定

すれば構成要件を充足するとして特許権を侵害するとなれば,当業者

に不測の事態を生じさせることになるから,いずれの試料を用いて測

定しても,特許請求の範囲に記載された数値を充足する場合でない限

り,本件発明の技術的範囲に属することにはならないと解すべきであ

る。

しかるところ,本件においては,湿式処理をした試料を用いた測定

によって,被告製品の粒径30μm未満の粒子の真円度が構成要件

を充足することを認めるに足りる証拠はない。かえって,被告測定デ

ータ1及び3は,被告製品の粒径30μm未満の粒子の真円度が構成

要件Dで規定する数値範囲外にあることを示している。

そうすると,仮に原告各測定データが信用に足るものであるとして

も,被告製品が構成要件Dを充足するものといえないから,被告製品

は,本件発明の技術的範囲に属さない。

2 争点2(特許法104条の3第1項の規定による本件特許権の権利行使の

制限の成否)について

(1) 被告の主張

明確性要件違反

本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は,以下のとおり,特許を受

けようとする発明が明確とはいえないから,本件発明に係る本件特許に

は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に

対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。

(ア) @「真円度」の値は,画像解像度が低すぎると,実際の形状から

想定される値よりも低く算出され,逆に,画像解像度を極端に高くす

れば,シリカ粒子の表面は,ヒューム粒子が付着していないとして
も ,微小な凹凸が無数に存在することから,より解像度の低い画像で

測定した場合よりも低くなることが容易に予測され,このように画像

解析する粒子画像の解像度の特定は,「真円度」の値を客観的に定め

るために重要な前提条件の一つであるが,本件明細書には,この点の

条件を定める記載は存在しないこと,A「真円度」の値は,画像解析

装置の採用するアルゴリズムの違いによって大きく左右されるが,本

件明細書には,「本発明においては,走査型電子顕微鏡として日本電

子叶サ,JSM−T200型を用い,画像解析装置として日本アビオ

ニクス叶サを用いたが,他社製品を用いても同様の数値が得られ

る。」(段落【0007】)との記載があるように,測定に用いる画

像解析装置を特定していないこと,B「真円度」の値は,測定に用い

る試料の調整方法(湿式,乾式),粒子輪郭のトレース法,真円度を

測る粒子の個数(N数)やその選抜方法の条件によって大きな影響を

受けるが,本件明細書には,これらの条件を明確に示す記載が存在し

ないことに照らすならば,本件発明の「真円度」(構成要件C及び

D)を客観的に定めることは不可能であり,本件発明の外延は,極め

て不明確であるといえる。

(イ) したがって,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は,特許を

受けようとする発明が不明確であるといわざるを得ない。

イ まとめ

以上によれば,本件発明に係る本件特許は,特許法36条6項2号

適合せず(明確性要件違反),特許無効審判により無効とされるべきも

のであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告

に対し,本件発明に係る本件特許権を行使することができない。

(2) 原告の主張

本件明細書には,真円度の定義が計算式として記載され(段落【000
8 】),また,電子顕微鏡の型式,画像解析装置の型式が明記されており

(段落【0007】),当業者であれば,技術常識として合理的な範囲内

の解像度を理解できるから,本件明細書に解像度の明記がなくても,本件

発明が不明確であるということにはならない。

したがって,被告主張の無効理由は理由がない。

3 争点3(原告の損害額)について

(1) 原告の主張

ア 特許法102条2項に基づく損害額

被告は,平成18年3月1日から平成23年2月28日までの5年間

に , 被 告 製 品 を 少 な く と も 3 0 6 0 ト ン ( 5 1 ト ン ×6 0 か 月 ) 販 売

し , そ の 売 上 高 1 3 億 7 7 0 0 万 円 ( 4 5 万 円 ×3 0 6 0 ト ン ) の 3

0%に相当する合計4億1310万円の利益を得た。

そして,特許法102条2項により,被告が被告製品の販売により得

た上記利益の額が,原告の受けた損害の額と推定される。

イ まとめ

以上によれば,原告は,被告に対し,本件特許権侵害不法行為に基

づく損害賠償の一部請求として1億円及びこれに対する不法行為の後で

ある平成23年2月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に

よる遅延損害金の支払を求めることができる。

(2) 被告の主張

原告の主張は争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(被告製品についての本件発明の技術的範囲の属否)について

(1) 構成要件Dの充足の有無

原告は,@本件発明は,小粒径の粒子(粒径30μm未満)の真円度の

範囲(構成要件D)が,より大きな粒子(粒径30μm以上)の真円度の
範 囲(構成要件C)よりも低く規定されていることに特徴があり,ここで

いう「粒子」は,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着している状態

の粒子を意味するから,本件発明の真円度を測定するに当たっては,シリ

カ母粒子の表面に付着したヒューム粒子を除去しない状態の試料(乾式の

試料)を用いる必要がある,A被告製品の乾式の試料を対象とした原告各

測定データによれば,被告製品の粒径30μm未満の粒子の真円度は,い

ずれも構成要件Dの数値範囲内(「0.73〜0.90」)にあるから,

被告製品は,構成要件Dを充足する旨主張するので,以下において判断す

る。

ア 特許請求の範囲の記載

本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は,「シリカ質粉末を可燃性

ガス−酸素火炎中で溶融して得られた球状シリカであって,粒径が30

μm以上の粒子を30〜90重量%含有してなり,該粒径30μm以上

の粒子の真円度が0.83〜0.94,粒径30μm未満の粒子の真円

度が0.73〜0.90であることを特徴とするシリカ質フィラー。」

というものであり,請求項1には,真円度の測定方法,その測定対象試

料(粒子)の状態及び調整方法を規定する記載は存在しない。

イ 本件明細書の記載事項

(ア) 本件明細書(甲7)の「発明の詳細な説明」には,次のような記

載がある(この記載中に引用する表1ないし3については,別紙本件

明細書の表参照)。

a 「【発明が属する技術分野】本発明は,合成樹脂材料に配合して

半導体チップを封止する低熱膨張性,電気絶縁性のシリカ質フィラ

ーに関し,より詳しくは各種合成樹脂と配合した際に高充填,高流

動性が得られ,樹脂組成物の強度が低下しないシリカ質フィラーに

関する。」(段落【0001】)
b 「 【従来の技術】近時,半導体産業においては,半導体の高集積

化が進むにつれ,半導体チップの封止材の高性能化が要求されてい

る。高性能化の要請に対しては各種の合成樹脂が開発される一方,

フィラーとしても各種の素材が開発されている。例えば,表面実装

型パッケージはリフロー時にパッケージごと高温にさらされるた

め,吸湿水分が急激に気化し,薄型バッケージにおいてバッケージ

クラックが発生する。このため,溶融シリカフィラーを高充填し吸

湿性のあるエポキシ樹脂の量を減らすことが有効な対策として浮上

した。しかし,従来からあった破砕タイプのフィラーでは充填率を

上げると増粘して成形性に支障をきたすため,フィラー高充填の条

件下でも流動性に優れる球状シリカ質フィラーが使用されるように

なった。従来,フィラーは真球に近いほど充填性,流動性,耐金型

磨耗性が向上すると考えられ,真円度の高いフィラーが追求されて

きた。」(段落【0002】)

c 「【発明が解決しようとする課題】フィラーの充填率を高める

と,封止材の流動性が低下し,成形性等が悪化するという問題があ

り,フィラーはそれ自体が低熱膨張性,電気絶縁性を求められるこ

とは勿論,その上に各種合成樹脂に大量に配合して封止材としての

性能を維持できる充填性,流動性,強度維持性能及び耐金型磨耗性

等が求められている。本発明者らは高充填性,高流動性のシリカ質

フィラーを得るべく鋭意研究し,シリカの粒度分布及び真円度との

関係を追求し,大量に充填して高流動性,高強度を維持することが

できるフィラー,その製法及びこのフィラーを充填した半導体チッ

プ封止用樹脂組成物を提供するものである。」(段落【000

3】)

d 「【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するこ
と を目的とし,その構成は粒径30μm以上の粒子を30〜90重

量%含有してなり,該粒径30μm以上の粒子の真円度が0.83〜

0.94であり,更に好ましくは粒径30μm未満の粒子の真円度が

0.73〜0.90であることを特徴とし…」(段落【000

4】),「本発明者らは真円に近い球状シリカを追求したが,その

過程において,真円度が高過ぎると高配合した場合に曲げ強さが低

下する事実を見出した。すなわち,やや大型の粒子である粒径30

μm以上の粒子の真円度が0.83〜0.94である場合に,全体の

流動性を損なうことなく高い曲げ強さを維持できる。更に追求した

結果,原料微粉末の粒度分布も溶融後フィラーの真円度に大きく関

与し,シリカ質原料粉末中に10μm以下の微粉が多いと,溶融時

に凝集したり,粗大粒子に付着して真円度を悪化させると同時に平

均粒径を大きくする事実が判明した。…本発明は,好ましい粒度分

布及び最適の真円度を有し,半導体チップ封止用の各種樹脂に対す

る高充填率を有するシリカ質フィラー及びその製法を提供し,更

に,このフィラーを高充填して得られる高い曲げ強さを有する封止

用樹脂組成物を提供するものである。」(段落【0005】)

e (a ) 「【発明の実施の形態】本発明の原料となるシリカ質原料

は,比較的良質で高純度のSiO 2 か らなる珪石,水晶,珪砂等を

振動ミル等の手段で粉砕し,或いはその後分級する。或いは高純

度のSiO 2 を 含む仕分け後の粉末を用いてもよい。要するに高純

度で,平均粒径20〜70μmで,粒径10μm以下の微粉末の

含有量が25重量%以下であればよい。…溶融処理により得られ

たシリカ質フィラーの粒度は,粒径30μm以上の粒子の含有量

が30〜90重量%,好ましくは33〜70重量%である。30

重量%未満だと充分な流動性が得られず,半導体封止用樹脂組成
物 を製造した際に曲げ強さが低下する。また,90重量%を越え

ると充分な流動性が得られない。」(段落【0006】)

(b) 「真円度は,走査型電子顕微鏡及び画像解析装置を用いて測

定する。本発明においては,走査型電子顕微鏡として日本電子

(株)製,JSM−T200型を用い,画像解析装置として日本

アビオニクス(株)製を用いたが,他社製品を用いても同様の数

値が得られる。」(段落【0007】)

(c) 「先ず,顕微鏡写真から対象物の実面積(A)と対象物の周

囲長(PM)を測定する。また,周囲長が(PM)の真円の面積

を(B)とすると真円度はA/Bとして表す。対象物の周囲長

(PM)を実測し,同一の周囲長の真円を想定すると,

PM=2πr ………… (1)

B=πr 2 … ……… (2)であるから,

(1)式より,r=PM/2π ………… (3)

(2)式に(3)式を代入して B=π×(PM/2π) 2 し たが

って,

B=(PM) 2 / 4π ………… (4)となり,

真円度=A/B=A×4π/(PM) 2 … ……… (5)

となり,(5)式に実測値A及びPMを代入して算出できる。」

(段落【0008】)

(d) 「粒径30μm以上のシリカ質フィラー粒子の真円度は0.8

3〜0.94,好ましくは0.84〜0.93である。シリカ質フィ

ラー粒子の真円度が0.83未満だと流動性が不十分であり,半導

体チップ用の樹脂に高充填した場合に成形不良となり曲げ強さが

低下する。また,真円度が0.94を越えると半導体チップ用の樹

脂に高充填した場合に曲げ強さが低下する。更に,粒径30μm
未 満のシリカ質フィラー粒子については,真円度が0.73〜0.

90,特に好ましくは0.75〜0.85である。粒径30μm未

満のシリカ質フィラー粒子の真円度を0.73〜0.90とするこ

とによって流動性,樹脂に高充填した場合の曲げ強さが更に向上

する。」(段落【0009】)

f(a) 「【実施例】 実施例1〜3及び比較例1〜4 天 然珪石を

粉砕し,或いはその後分級することにより表1に示す特性のシリ

カ質粉末原料を得た。シリカ質粉末原料の真円度は0.6〜0.7

5であった。この珪石粉末を原料として,キャリアガスによりプ

ロパンガス−酸素の火炎中に,投入して溶融・球状化させた。こ

の際,シリカ質粉末原料投入量(kg/hr.)/プロパンガス

量(Nm 3 / hr.)は2.5,原料の吐出速度は25〜35m/

秒であった。溶融品を捕集し,その平均粒径,粒径30μm以上

の粒子の重量%及び粒径30μm以上の粒子の真円度を測定し,

その結果を表1に記載した。なお,平均粒径は,試料0.3gを

水に分散させ,それをレーザー回析式粒度分布測定装置(シーラ

スグラニュロメーター「モデル715」)で測定した。以下の実

施例,比較例も同様である。」(段落【0014】)

(b) 「実施例4〜6及び比較例5〜6 実 施例2の原料粉末を用

いて表2に示した原料投入量(kg)/プロパンガス量(Nm 3 )

比で原料粉末を酸素キャリヤーガスと共に,プロパンガス−酸素

の火炎中に投入して溶融・球状化させた。得られたフィラーの平

均粒径,粒径30μm以上の粒子の重量%及び粒径30μm以上

の粒子の真円度を表2に記載した。」(段落【0015】)

(c) 「実施例7〜15及び比較例7〜10 別 途用意した各種球

状シリカを配合し,よく混合し,表3に示す粒径30μm以上の
粒 子の重量%,粒径30μm以上の粒子の真円度及び粒径30μ

m未満の粒子の真円度の,シリカ質フィラーを調製した。このフ

ィラーを下記処方の材料と配合し,ミキサーによりドライブレン

ドした。

表3の各シリカ質フィラー 92 重量部

4−4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−

3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル 4.4重量部

フェノールノボラック樹脂(軟化点85℃) 2.3重量部

トリフェニルホスフィン(硬化促進剤) 0.2重量部

エステルワックス(離型剤) 0.6重量部

カーボンブラック(着色剤) 0.1重量部

γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン

(シ ラン カッ プ リン グ 剤 ) 0. 4重 量部 」 ( 段 落

【0016】),「このブレンド品をロール表面温度100℃の

ミキシングロールを用いて5分間加熱混練した後,冷却・粉砕し

て異なる種類のエポキシ樹脂組成物を得た。この組成物を用いて

スパイラルフロー及び成形品の曲げ強さを測定し,その結果を表

3に記載した。なお,スパイラルフローは,スパイラルフロー金

型 を 用 い て E M M I 1 − 6 6 ( Epoxy Molding Material

Institute ; Society of Plastic Industry ) に 準 拠 し て 測 定 し

た。成形温度は175℃である。また,曲げ強さは,ASTM

(D790−58T)に準拠した試験片を低圧トランスファー成

形機を用いて175℃×120秒の条件で成形し,175℃で1

2時間硬化させた。この試験片を用いて常温でASTM(D79

0−58T)に準拠した方法で曲げ試験を行い,曲げ強さを測定

した。」(段落【0017】)
g 「 【発明の効果】半導体チップの封止用に使用される粒径30μ

m以上の粒子の含有量を特定し,粒径30μm以上の粒子の真円度

を適正に調整する本発明により,曲げ強さを低下させることなくフ

ィラーを高充填した樹脂組成物を得ることに成功した。」(段落

【0021】)

(イ ) 本 件 発 明 の 特 許 請 求 の範 囲 ( 請 求 項 1 ) の文 言 と 本 件 明 細 書 の

発明の詳細な説明」の前記(ア)の記載事項を総合すれば,本件明細

書には,@半導体チップの封止材の高性能化の要請に対して,溶融シ

リカフィラーを高充填し吸湿性のあるエポキシ樹脂の量を減らすこと

が有効な対策として浮上し,フィラー高充填の条件下でも流動性に優

れる球状シリカ質フィラーが使用されるようになったところ,従来,

フィラーは真球に近いほど充填性,流動性,耐金型磨耗性が向上する

と考えられ,真円度の高いフィラーが追求されてきたが,フィラーの

充填率を高めると,封止材の流動性が低下し,成形性等が悪化すると

いう問題があり,また,真円度が高すぎるとフィラーを高配合した場

合に曲げ強さが低下するという問題があったこと,A本件発明は,好

ましい粒度分布及び最適の真円度を有し,半導体チップ封止用の各種

樹脂に対する高充填率を有するシリカ質フィラーを提供し,更に,こ

のフィラーを高充填して得られる高い曲げ強さを有する封止用樹脂組

成物を提供することを目的とし,その課題を解決するための手段とし

て,粒径30μm以上の粒子を30〜90重量%含有してなること

構成要件B),該粒径30μm以上の粒子の真円度が0.83〜0.

94であること(構成要件C),粒径30μm未満の粒子の真円度が

0.73〜0.90であること(構成要件D)の各構成を採用した点に

特徴があること,B本件発明は,半導体チップの封止用に使用される

粒径30μm以上の粒子の含有量を特定し,粒径30μm以上の粒子
の 真円度を適正に調整することにより,曲げ強さを低下させることな

くフィラーを高充填した樹脂組成物を得ることに成功し,さらに,粒

径30μm未満のシリカ質フィラー粒子の真円度を0.73〜0.90

とすることによって流動性,樹脂に高充填した場合の曲げ強さが更に

向上することが開示されていることが認められる。

次に,本件明細書には,「真円度」の測定方法に関し,「真円度

は,走査型電子顕微鏡及び画像解析装置を用いて測定する。本発明に

おいては,走査型電子顕微鏡として日本電子(株)製,JSM−T2

00型を用い,画像解析装置として日本アビオニクス(株)製を用い

たが,他社製品を用いても同様の数値が得られる。」(段落【000

7】。前記(ア)e(b))との記載がある。

他方で,本件明細書には,「真円度」の測定対象試料(粒子)の状

態及び調整方法に関する記載はない。また,本件明細書には,本件発

明の「粒径が30μm以上の粒子」又は「粒径が30μm未満の粒

子」についてシリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着している状態

の粒子を意味することを明示した記載は存在せず,そもそもヒューム

粒子に関する記載がない。

一方で,「平均粒径」の測定対象試料の調整方法に関しては,本件

明細書に「平均粒径は,試料0.3gを水に分散させ,それをレーザ

ー回析式粒度分布測定装置(シーラスグラニュロメーター「モデル7

15」)で測定した。以下の実施例,比較例も同様である。」(段落

【0014】。前記(ア)f(a))との記載がある。

ウ 真円度の測定対象試料の調整方法

(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載(前記ア)を基礎

に,本件明細書の記載事項(前記イ)を考慮して検討するに,特許請

求の範囲及び本件明細書には,「該粒径30μm以上の粒子の真円度
が 0.83〜0.94」(構成要件C)及び「粒径30μm未満の粒子

の真円度が0.73〜0.90」(構成要件D)にいう各「粒子」の

状態及びその真円度の測定に当たっての調整方法を限定する趣旨の記

載は存在しないから,真円度の測定がされる上記「粒子」は,本件出

願時に通常行われていた試料の調整方法によって調整されたものであ

れば,その調整方法は特に限定されるものではないと解すべきであ

る。

そして,本件出願前に頒布された刊行物である乙28(粉体工学会

編「粒子径計測技術」日刊工業新聞社,1994年11月30日発

行)には,「画像解析法」に関し,「画像解析用サンプルは,@凝集

体の分散・解砕,A粒子の重なり,B粒子の配向,などに留意して作

成する必要がある。@,Aの問題では,1次粒子まで完全に分散する

ことが画像処理上極めて有利であるが,分散の程度は対象とする粉体

の性質,粉体操作との関係に依存する。…@の問題の解決には,…液

相中に粒子を分散し,懸濁液を濾過したものを試料として用いる方法

がある。」(215頁),「画像計測による粒子径分布測定手順を…

に示す。まず,試料調整を行う。…乾燥粒子ではそのままステージ上

に分散させることで測定試料とすることが可能であるが,この場合,

凝集体あるいは重なり状態の試料となり,その後の画像処理を煩雑に

することがある。1次粒子の大きさを問題にする場合には上記の湿式

分散濾過法が適当と思われる。」(218頁)との記載がある。

上記記載と弁論の全趣旨によれば,本件出願時,画像解析法に用い

る画像解析用試料の調整方法としては,乾燥した粉体(乾燥粒子)を

そのまま試料とする場合(乾式の試料)や,液相中に粒子を分散する

などの前処理をしたものを試料とする場合(湿式処理をした試料)が

あり,いずれの調整方法も,通常行われていたものと認められる。
し たがって,本件発明の真円度を測定するに当たっては,乾式の試

料又は湿式処理をした試料のいずれを用いても差し支えないというべ

きである。

(イ) この点に関し,原告は,@シリカ原料の火炎溶融過程において,

必然的に発生するヒューム粒子(直径約0.5μm以下の超微粒子)

がシリカ母粒子の表面に必ず付着し,このようにヒューム粒子がシリ

カ母粒子の表面に付着していることにより,流動性の向上,充填率の

向上,高温強度特性の向上,寸法精度の向上,曲げ強度の向上等の有

利な効果が生じているため,ユーザにおいては,メーカーから出荷さ

れたシリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着したままの状態の製品

を使用しており,ユーザの使用状態と乖離した状態で測定することに

意味はない以上,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着したまま

の状態で真円度を測定するのが,本件出願時の技術常識である,A大

小の多数の粒子が入り交じった粒子群から成る原料を同1条件で火炎

溶融すれば,シリカ母粒子だけについてみると,通常,粒径の小さい

粒子ほど真円度が高くなることは,本件出願時の技術常識であるのに

対し,本件発明は,これとは異なり,小粒径の粒子(粒径30μm未

満)の真円度の範囲(構成要件D)が,より大きな粒子(粒径30μ

m以上)の真円度の範囲(構成要件C)よりも低く規定されているこ

とに特徴があり,これは,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着

することにより,粒子表面の凹凸が増加し,単位数量当たりの表面積

(比表面積)が大きくなるが,粒径の小さいシリカ母粒子ほど,ヒュ

ーム粒子の付着の影響を大きく受け,理論上の比表面積と実際の比表

面積の乖離が大きくなり,真円度が低下することに着目したものであ

り,本件発明において小粒径の粒子の真円度の範囲がより大きな粒子

の真円度の範囲よりも低く規定されていることは,本件発明が,シリ
カ 母粒子の表面にヒューム粒子が付着していることを当然の前提とし

ているなどとして,本件発明の真円度を測定するに当たっては,シリ

カ母粒子の表面に付着したヒューム粒子を除去しない状態の試料(乾

式の試料)を用いる必要がある旨主張する。

しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

a 上記@について

原告が主張するようにシリカ原料の火炎溶融過程において発生し

たヒューム粒子がシリカ母粒子の表面に付着していることにより有

利な効果が得られ,ユーザにおいて,シリカ母粒子の表面にヒュー

ム粒子が付着したままの状態の製品を使用しているとしても,その

ことと真円度を測定するに当たっての測定対象試料の状態又は調整

方法とは,別個の問題であるというべきである。

また,原告の従業員作成の陳述書(甲30,62,63等)中に

は,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着したままの状態で真

円度を測定するのが,本件出願時の技術常識であるとの原告の上記

@の主張に沿う記載部分があるが,上記陳述書以外に,本件出願時

において,シリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着したままの状

態で真円度を測定する必要性があることを明示し,又はこれを示唆

する客観的な証拠の提出はないことに照らすならば,上記陳述書の

記載部分を直ちに措信することはできない。

したがって,原告の上記@の主張は,採用することができない。

b 上記Aについて

前記ア及びイ(イ)のとおり,本件発明の特許請求の範囲(請求項

1)及び本件明細書には,「真円度」の測定対象試料(粒子)の状

態及び調整方法に関する記載はない。

また,本件明細書には,そもそもヒューム粒子に関する記載がな
い 上(前記イ(イ)),「大小の多数の粒子が入り交じった粒子群か

ら成る原料を同1条件で火炎溶融すれば,シリカ母粒子だけについ

てみると,通常,粒径の小さい粒子ほど真円度が高くなることが,

本件出願時の技術常識であるのに対し,本件発明は,これとは異な

り,粒径の小さいシリカ母粒子ほど,ヒューム粒子の付着の影響を

大きく受け,理論上の比表面積と実際の比表面積の乖離が大きくな

り,真円度が低下することに着目して,小粒径の粒子(粒径30μ

m未満)の真円度の範囲(構成要件D)が,より大きな粒子(粒径

30μm以上)の真円度の範囲(構成要件C)よりも低く規定した

ことに特徴がある」との原告の上記Aの主張を裏付ける記載もない

(本件明細書に開示された本件発明の特徴,効果等は,前記イ(イ)

認定のとおりである。)。かえって,本件明細書には,「別途用意

した各種球状シリカ」を配合し,よく混合し,「粒径30μm以上

の粒子の重量%,粒径30μm以上の粒子の真円度及び粒径30μ

m未満の粒子の真円度の,シリカ質フィラーを調製した。」(段落

【0016】。前記イ(ア)f(c))との記載があることに照らすな

らば,本件発明を構成する「球状シリカ」は,「大小の多数の粒子

が入り交じった粒子群から成る原料を同1条件で火炎溶融」して得

られたものに限られず,異なる条件の火炎溶融により得られた「各

種球状シリカ」が含まれるというべきであるから,原告の上記Aの

主張の前提とする技術常識は必ずしも原告のいう本件発明の特徴を

基礎付けることにはならない。

したがって,本件発明において小粒径の粒子の真円度の範囲がよ

り大きな粒子の真円度の範囲よりも低く規定されていることは,本

件発明がシリカ母粒子の表面にヒューム粒子が付着していることを

当然の前提としているとの原告の上記Aの主張は,採用することが
で きない。

c 小括

以上のとおり,本件発明の真円度を測定するに当たりシリカ母粒

子の表面に付着したヒューム粒子を除去しない状態の試料(乾式の

試料)を用いる必要があるとの原告の主張は,その根拠とする上記

@及びAの主張を採用することができないから,理由がない。

(ウ) 一方,被告は,本件明細書の記載,本件出願時の技術常識及び原

告の出願に係る他の特許明細書の記載事項などによれば,本件発明の

真円度の測定に当たっては,湿式処理をした試料を用いるべきである

旨主張する。

しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。

a 本件明細書の記載に関し

被告は,本件明細書には,本件発明における平均粒径(粒度分

布)の測定に湿式処理をした試料が用いられていることが記載され

ており(段落【0014】),このように本件発明は,湿式処理を

した試料で測定した平均粒径(粒度分布)を前提に,粒子の集合体

を粒径30μm以上の群と粒径30μm未満の群に区分けして,当

該区分けされた各粒子群の「重量%」及び「真円度」の値を問題と

しているのであるから,真円度の測定においても,平均粒径(粒度

分布)の測定と同じく,湿式処理をした試料を対象に測定されなけ

ればならない旨主張する。

確かに,「平均粒径」の測定対象試料の調整方法に関しては,本

件明細書に「平均粒径は,試料0.3gを水に分散させ,それをレ

ーザー回析式粒度分布測定装置(シーラスグラニュロメーター「モ

デル715」)で測定した。以下の実施例,比較例も同様であ

る。」(段落【0014】。前記イ(ア)f(a))との記載がある。
し かし,他方で,本件明細書には,「平均粒径」の測定対象試料

(粒子)を湿式処理をした試料に限定する旨の記載はなく,「平均

粒径」の測定に当たり湿式処理をした試料以外の試料を用いること

を除外しているものとはいえない。

また,前記イ(イ)のとおり,本件明細書には,「真円度」の測定

対象試料(粒子)の状態及び調整方法に関する記載はない。

したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

b 本件出願時の技術常識に関し

被告は,乙28には,「1次粒子の大きさを問題にする場合には

湿式分散濾過法が適当と思われる。」との記載があること,ヒュー

ム粒子が「付着」しているシリカフィラーの粒子形状を画像解析法

で測定するに当たり,乾式の試料を用いるとすると,膨大な手間が

掛かるため,製品開発・品質管理のための粒子測定方法としては非

現実的かつ非実用的であることからすると,フィラーの粒子形状を

画像解析法で測定する場合,湿式処理をした試料を用いて測定する

ことが,本件出願時の技術常識であった旨主張する。

しかしながら,乙28には,「乾燥粒子ではそのままステージ上

に分散させることで測定試料とすることが可能である」(前記ウ

(ア))との記載もあるように,乙28において乾式の試料を用いる

ことを全面的に否定しているものとはいえないし,また,乾式の試

料を用いたからといって必ず膨大な手間が掛かるとは限らない。

したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

c 原告の出願に係る他の特許明細書の記載事項に関し

被告は,本件発明の真円度の測定に当たり湿式処理をした試料を

用いるべきことの根拠として,原告の出願に係る本件明細書以外の

特許明細書をみると,本件出願の出願前においては,湿式処理をし
た 試料で各種の測定を行うことが(乙6),本件出願の出願後にお

いては,湿式処理をした試料を用いて画像解析法を自動的に行う装

置である,フロー式粒子像分析装置(FPIAシリーズ)を用いる

ことが(乙31等),記載されていることを挙げる。

しかしながら,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件

明細書のいずれにも,「真円度」の測定対象試料(粒子)の状態及

び調整方法に関する記載はないこと(前記ア及びイ(イ))に照らす

ならば,原告の出願に係る本件明細書以外の特許明細書に湿式処理

をした試料を用いた記載があるからといって,本件発明の真円度の

測定対象試料(粒子)を湿式処理をした試料に限定すべきことの根

拠となるものではない。

d 小括

以上のとおり,本件発明の真円度を測定するに当たり湿式処理を

した試料を用いるべきであるとの被告の主張は,理由がない。

エ 被告製品の構成要件Dの充足性

(ア) 原告は,被告製品の乾式の試料を対象とした原告各測定データに

よれば,被告製品の粒径30μm未満の粒子の真円度は,いずれも構

成要件Dの数値範囲内にあるから,被告製品は,構成要件Dを充足す

る旨主張する。

これに対し被告は,原告各測定データは,いずれも信用性がない旨

主張する。

a 原告測定データ1について

原告測定データ1は,被告製品の乾式の試料を対象として,電子

顕微鏡「VE−8800」を用いて倍率100倍で写真撮影(画像

解像度「1280×960 ピクセル」,1ピクセルのサイズ

「0.90μm/ピクセル」)をし,撮影した写真を画像解析装置
「 Mac-View Ver.4」を用いて画像解析し(甲12,15の1,2,

16の1,2),真円度を測定し,その測定数値(甲11の1ない

し5)を基に,被告製品の粒径30μm未満の粒子の真円度(平均

真円度)を「0.788」と算出したものである。

そこで検討するに,原告が行った被告製品の粒度分布の測定結果

(甲10)によると,粒径8μmの粒子が全体に占める割合は3

8.4重量%であるが,一方で,原告測定データに係る個々の粒子

のデータをみると,「視野@」における最小粒子の粒径(Heyw

ood径)は「8.918μm」(甲11の3のbP91),「視野

A」における最小粒子の粒径(Heywood径)は「7.499

μm」(甲11の5のbQ81)であり,粒径8μm未満の粒子が

ほぼ測定対象から除外されている。

一方で,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,構成要件

Dの「粒径30μm未満の粒子の真円度が0.73〜0.90」に

いう「粒径30μm未満」の下限値を規定した記載はなく,また,

本件明細書中にも,「粒径30μm未満」の下限値について述べた

記載はないことからすると,粒径8μm未満の粒子を「粒径30μ

m未満の粒子」から除外すべき理由はない。もっとも,本件出願前

頒布された刊行物である甲67(北海道大学大学院環境科学研究

科邦文紀要第6号1993「画像解析装置による浮遊粉塵の粒子粒

径別粒子数の自動計測」平成5年3月)の「結果」の項には,「画

像解析装置による計測では「方法」に述べたように,5μmが測定

限界であるため,5μm以上の粒子径を持つ粒子が対象となっ

た。」(48頁)との記載があるが,上記記載に照らしても,少な

くとも粒径8μmが「粒径30μm未満」の下限値であるとするこ

とはできない。
し たがって,原告測定データ1は,粒径8μm未満の粒子を真円

度の測定対象からほぼ除外している点で測定対象が不適切であると

いえるから,原告測定データ1から被告製品が構成要件Dを充足す

ることを認めることはできない。

b 原告測定データ2について

原告測定データ2は,被告製品の乾式の試料を対象として,電子

顕微鏡「VE−8800」を用いて倍率400倍で写真撮影(画像

解像度「1280×960 ピクセル」,1ピクセルのサイズ

「0.2μm/ピクセル」)をし,撮影した写真(甲28の1ない

し4)を画像解析装置「Mac-View Ver.4」を用いて画像解析し,真

円度を測定し,その測定の結果(甲24の1ないし4,25の1な

いし4),被告製品の粒径30μm未満の粒子の真円度(平均真円

度)を「0.810」(甲23)と算出したものである。

そこで検討するに,原告測定データ2は,電子顕微鏡「VE−8

800」の撮影写真(甲28の1ないし4)の個々の粒子の輪郭を

トレースし,そのトレース結果(甲26の1ないし4,27の1な

いし4)を基に画像解析したものであるところ,上記トレース結果

を上記撮影写真等と対比して分析した被告作成の乙13によれば,

上記トレース結果においては,粒子の内部にえぐれるようにトレー

スされているもの(視野@のbQ6,34,視野BのbR58,視

野CのbU8等),トレース線がギザギザになっているもの(視野

AのbS89,視野BのbR82,視野CのbP03等),複数の

粒子が重なり合っているままにトレースしているもの(視野@の

26,視野AのbS89,視野AのbS97,視野BのbR53,

視野CのbP03等),二つの粒子を一つの歪な形の粒子としてト

レースしているもの(視野AのbP80等)などがあることが認め
ら れる。

したがって,原告測定データ2は,画像解析の基となった電子顕

微鏡の撮影写真のトレースが不正確である点で測定データの信頼性

に問題があるといえるから,原告測定データ2から被告製品が構成

要件Dを充足することを認めることはできない。

c 原告測定データ3について

(a) 原告測定データ3は,被告製品の球状シリカ粉末を粒径30

μm以上の粒子と粒径30μm未満の粒子とを篩で分離(乾式

で,「32μmの試験篩」を通過した粒子と通過しなかった粒子

を篩い分ける。)した上,篩を通過した乾式の試料を対象とし

て,電子顕微鏡「JSM−6301F」を用いて倍率400倍で

写真撮影(画像解像度「1280×960 ピクセル」,1ピク

セルのサイズ「0.07μm/ピクセル」)をし,その撮影した

写 真 ( 甲 3 7 の 1 な い し 6 ) を 基 に , 画 像 解 析 装 置 「 Mac-View

Ver.4」の「簡単取込ツール」及び「連結ツール」の各機能(粒子

の輪郭を自動認識する機能)を用いて画像解析し,真円度を測定

し(甲31の1,2,35の1ないし6,36の1ないし6),

その測定の結果(甲33の1ないし6,34の1ないし6),被

告製品の粒径30μm未満の粒子(粒径4μm以上30μm未

満)の真円度(平均真円度)を「0.864」(甲32)と算出

したものである。

このように原告測定データ3は,@被告製品の粒径30μm未

満の粒子の下限値を粒径4μmとし,A画像解析装置「Mac-View

Ver.4」による画像解析に当たり「簡単取込ツール」及び「連結ツ

ール」の各機能(粒子の輪郭を自動認識する機能)を用いている

が,これらの点については,本件明細書に記載はない。
そこで検討するに,上記@の点については,甲67における

「画像解析装置による計測では「方法」に述べたように,5μm

が測定限界であるため,5μm以上の粒子径を持つ粒子が対象と

なった。」との記載(前記a)及び弁論の全趣旨によれば,本件

出願当時,画像解析装置による粒子の計測の測定限界は5μm程

度であったことがうかがわれることに照らすならば,これを下回

る粒径4μmを真円度の測定の下限値とした原告測定データ3は

特段不合理であるとはいえない。

次に,上記Aの点については,本件出願当時,画像解析装置が

有する自動認識機能を用いて粒子の輪郭を計測する方法が実用化

されていたこと(甲62,69ないし72,75)に照らすなら

ば , 原 告 測 定 デ ー タ 3 に お い て , 画 像 解 析 装 置 「 Mac-View

Ver.4」の「簡単取込ツール」及び「連結ツール」の各機能(粒子

の輪郭を自動認識する機能)を用いて粒子の輪郭をトレースして

いること自体が不適切であるとまではいえないし,また,そのト

レース画像(甲35の1ないし6,36の1ないし6)について

特段不適切な箇所は見当たらない。

これに反する被告の主張は,採用することができない。

(b) 以上によれば,原告測定データ3は,信頼することができる

ものといえる。

そして,原告測定データ3によれば,被告製品の粒径30μm

未満の粒子の真円度は,構成要件Dの数値範囲内にある。

(イ) 他方で,被告は,被告製品の湿式処理をした試料を対象に測定し

た被告測定データ1及び3によれば,被告製品の粒径30μm未満の

粒子の真円度は,構成要件Dの数値範囲外にある旨主張する。

このうち,被告測定データ3は,フロー式粒子像分析装置(上から
流 れてくる試料(粒子)を1個ずつ自動的に撮影し,画像解析法を用

いて「円形度」等を自動的に測定する装置)である「FPIA−30

00」を使用して画像解析を行い,真円度を算出したものであるとこ

ろ(乙24,25),本件証拠上,本件出願当時,このようなフロー

式粒子像分析装置が真円度の測定に利用されていたことを認めるに足

りないことに照らすならば,被告測定データ3に係る真円度の測定方

法は本件明細書に開示された本件出願当時における真円度の測定方法

を再現するものとはいえないので,以下においては,被告測定データ

1について検討することとする。

a 被告測定データ1は,被告製品の球状シリカ粉末を粒径30μm

以上の粒子と粒径30μm未満の粒子とを「篩」により分離(水を

用い,「32μmの試験篩」を通過した粒子と通過しなかった粒子

を篩い分ける。)した上,通過した粒径32μm未満の球状シリカ

粉末について,ビーカーに0.10gを量り取り,エチルアルコー

ル50mlを加え,超音波(600W)で1分間分散させ,これに

よって得た分散液をスターラーで攪拌しながら,マイクロピペット

を用いて,試料台に貼り付けたカーボンテープに滴下し(湿式処

理),さらに分散液を乾燥させ,真空中でAu−Pdを蒸着する処

理をした後,上記処理をした試料を走査型電子顕微鏡(日立ハイテ

クノロジーズ社製「S−3000N型」)を用いて倍率500倍で

撮影(画像解像度「1280×960 ピクセル」,「0.2μm

/ ピ ク セ ル 」 ) し , 撮 影 し た 写 真 を 画 像 解 析 装 置 「 Mac-View

Ver.4」を用いて画像解析(ただし,粒径30μm以上の粒子を画像

解析対象から除外)し,真円度を測定し(乙3,5の1ないし

3),その測定の結果,被告製品の粒径30μm未満の粒子(粒径

4μm以上30μm未満)の真円度(平均真円度)を「0.921」
( 乙5の3)と算出したものである。

b(a) そこで検討するに,被告測定データ1に係る測定方法に特段

不適切な点は見当たらないから,被告測定データ1は,信頼する

ことができるものといえる。

この点に関し,原告は,被告製品のシリカ母粒子からヒューム

粒子を除去する前処理は,粒状形態そのものを変更するものであ

って,被告が製造販売する被告製品に変形変質を加えて別製品を

作出する行為にほかならないから,そのように別製品化した測定

対象の真円度の測定値は,もはや被告製品の測定値とはいえない

旨主張する。

しかしながら,原告の上記主張は,独自の見解であり,失当で

ある。

(b) そして,被告測定データ1によれば,被告製品の粒径30μ

m未満の粒子の真円度は,構成要件Dの数値範囲外にある。

(ウ) 本件発明の真円度を測定するに当たっては,乾式の試料又は湿式

処理をした試料のいずれを用いても差し支えないことは,前記ウで認

定したとおりである。

ところで,本件発明の真円度の測定に当たり乾式の試料を測定対象

とするか,又は湿式処理をした試料を測定対象とするかによって真円

度の数値に有意の差が生じる場合,当業者がいずれか一方の試料を測

定対象として測定した結果,構成要件所定の真円度の数値範囲外であ

ったにもかかわらず,他方の試料を測定対象とすれば上記数値範囲内

にあるとして構成要件を充足し,特許権侵害を構成するとすれば,当

業者に不測の不利益を負担させる事態となるが,このような事態は,

特許権者において,特定の測定対象試料を用いるべきことを特許請求

の範囲又は明細書において明らかにしなかったことにより招来したも
の である以上,上記不利益を当業者に負担させることは妥当でないと

いうべきであるから,乾式の試料及び湿式処理をした試料のいずれを

用いて測定しても,本件発明の構成要件Dが規定する粒径30μm未

満の粒子の真円度の数値範囲(「0.73〜0.90」)を充足する

場合でない限り,構成要件Dの充足を認めるべきではないと解するの

が相当である。

しかるところ,前記(ア)のとおり,原告測定データ3は,被告製品

の乾式の試料を対象として粒径30μm未満の粒子の真円度を測定し

た場合に,被告製品が構成要件Dの数値範囲内にあることを示してい

る。

しかし,他方で,本件においては,被告製品の湿式処理をした試料

を対象として粒径30μm未満の粒子の真円度を測定した場合に,被

告製品が構成要件Dの数値範囲内にあることを認めるに足りる証拠は

なく,かえって,前記(イ)のとおり,湿式処理をした試料を対象にし

た被告測定データ1によれば,被告製品は構成要件Dに規定する数値

の範囲外にあるというべきである。

したがって,被告製品は,構成要件Dを充足するものと認めること

はできない。

(2) まとめ

以上のとおり,被告製品は,構成要件Dを充足しないから,本件発明の

技術的範囲に属するものと認めることはできない。

2 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理

由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第46部
裁 判長裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 高 橋 彩




裁判官 上 田 真 史
( 別紙) 物件目録

製品名「HS−107」のシリカ製品
( 別紙) 本件明細書の表

【表1】(段落【0018】)




【 表2】(段落【0019】)
【 表3】(段落【0020】)

  • この表をプリントする