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事件 平成 23年 (ワ) 3850号 特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2012/10/11
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年10月11日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官


平成23年(ワ)第3850号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年7月13日

判 決

原 告 積水成型工業株式会社

同訴訟代理人弁護士 小 松 陽一郎

同 森 本 純

同 藤 野 睦 子

被 告 小泉製麻株式会社

同訴訟代理人弁護士 上 谷 佳 宏

同 松 宮 慎

同訴訟代理人弁理士 古 川 安 航

同 佃 誠 玄

同補佐人弁理士 角 田 嘉 宏

主 文

1 被告は,別紙製品目録記載の製品を製造し,販売し,輸出し又は販売の申

出をしてはならない。

2 被告は,前項記載の製品及びその製造に供する金型を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,1973万6933円並びに内1374万5185

円に対する平成23年4月1日から,179万8270円に対する同年5月

1日から,141万2083円に対する同年6月1日から,168万039

8円に対する同年7月1日から,86万7811円に対する同年8月1日か

ら,20万0409円に対する同年9月1日から,3万2777円に対する

同年11月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用はこれを9分し,その4を原告の負担とし,その余は被告の負担

とする。

6 この判決は,1,3及び5項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

(1)主文1及び2項と同旨

(2)被告は,原告に対し,5400万円及びこれに対する平成23年4月1日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)訴訟費用は被告の負担とする。

(4)仮執行宣言

2 被告

(1)原告の請求をいずれも棄却する。

(2)訴訟費用は原告の負担とする。

第2 事案の概要

1 前提事実(当事者間に争いがない。)

(1)当事者

原告は,各種合成樹脂製品の製造加工並びに売買等を目的とする会社であ

る。

被告は,麻糸,麻布,麻袋その他繊維工業品の製造,加工及び販売等を目

的とする会社である。

(2)原告の有する特許権

原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本
特許発明」という。また,本件特許に係る出願明細書を「本件明細書」と

いう。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。

特許番号 3698482号

発明の名称 軟質プラスチック容器

出願日 平成8年4月1日

登録日 平成17年7月15日

特許請求の範囲

【請求項1】

「ブロー成形等の手段により軟質プラスチックを用いて成形される容器本体

に,その体積を実質的に二分割する線に沿って外側に向けて補強リブを融着

形成し,その一方の基体の上部に開閉部を設け,且つ,他方の折り込み体に,

前記補強リブの近傍位置で,該補強リブに沿って折り畳み用の薄肉の突条を

外側に向けて形成し,前記他方の折り込み体を前記基体の内側へ折り畳み可

能に構成した軟質プラスチック容器に於いて,

前記補強リブを,前記折り込み体の充填拡張時には前記突条の頂部を被覆す

るように変形し,且つ,前記基体への折り込み時には,前記突条の側面の方

に倒伏するように構成すると共に該補強リブの先端縁がその倒伏時に前記突

条の頂部よりも高く位置する長さに構成してある,軟質プラスチック容器。」

(3)構成要件の分説

本件特許発明は,以下のとおり分説することができる。

A−1 ブロー成形等の手段により軟質プラスチックを用いて成形される容

器本体に,

A−2 その体積を実質的に二分割する線に沿って外側に向けて補強リブを

融着形成し,

A−3 その一方の基体の上部に開閉部を設け,

A−4 且つ,他方の折り込み体に,前記補強リブの近傍位置で,該補強リ
ブに沿って折り畳み用の薄肉の突条を外側に向けて形成し,前記他方

の折り込み体を前記基体の内側へ折り畳み可能に構成した軟質プラス

チック容器に於いて,

B 前記補強リブを,前記折り込み体の充填拡張時には前記突条の頂部

を被覆するように変形し,

C 且つ,前記基体への折り込み時には,前記突条の側面の方に倒伏す

るように構成すると共に

D 該補強リブの先端縁がその倒伏時に前記突条の頂部よりも高く位置

する長さに構成してある,

E 軟質プラスチック容器。

(4)被告の行為

被告は,遅くとも昭和57年ころから,製品名を「バロンボックス」とす

る液体容器(以下「被告現行品」という。)を製造販売していたところ,平成

21年6月から,改良品である別紙製品目録記載の製品(以下「被告製品」

という。)の製造販売も開始した。

被告は,平成23年4月22日,被告製品の製造を中止し,同年10月3

1日までに販売も終了し,改めて,被告現行品を製造,販売するようになっ

た。

上記期間における被告製品の販売数量は,合計●●●●●●●●個であり,

このうち●●●●●●●●個は,委託製造した製品(以下「OEM供給品」

という。)であり(売上額:合計2億4157万3485円),●●●●●●

●●個は,自社製造した製品(以下「内製品」という。)であった(売上額:

合計1億7647万8154円)。

2 原告の請求

原告は,被告に対し,@ 本件特許権に基づき,被告製品の製造,販売等の差

止め及び同製品等の廃棄を求めるとともに, 不法行為に基づき,
A 損害の一部
として合計5400万円の損害賠償及びこれに対する平成23年4月1日(本

件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延

損害金の支払を求めている。

3 争点

(1)被告製品は,本件特許発明技術的範囲に属するか

構成要件A−4の充足性 (争点1−1)

構成要件Bの充足性 (争点1−2)

構成要件Cの充足性 (争点1−3)

構成要件Dの充足性 (争点1−4)

(2)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるか

ア 本件特許発明は,本件特許出願前に原告により公然実施をされた発明(以

下「原告公然実施発明」という。)と同一のものであるか (争点2−1)

イ 本件特許発明は,本件特許出願前に被告により公然実施をされた発明(以

下「被告公然実施発明」という。)及び本件特許出願前に頒布された実開昭

63−190036号公報(以下「乙1公報」という。)に記載された発明

(以下「乙1発明」という。)に基づき,当業者が容易に発明することがで

きたものであるか (争点2−2)

ウ 本件特許発明は,乙1発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明

することができたものであるか (争点2−3)

エ 本件特許には,明確性要件違反があるか (争点2−4)

オ 本件特許には,実施可能要件又はサポート要件違反があるか

(争点2−5)

(3)OEM供給品に関する損害賠償請求

ア 法102条1項に基づく算定に関する争点

(ア) 原告が販売することができた物の単位数量当たりの利益の額

(争点3−1)
(イ) 法102条1項ただし書の事情等の有無 (争点3−2)

(ウ) 本件特許発明の寄与率 (争点3−3)

イ 法102条2項に基づく算定に関する争点

(ア) OEM供給品に関し,被告が受けた利益の額 (争点3−4)

(イ) 本件特許発明の寄与率 (争点3−5)

ウ 法102条3項に基づく算定に関する争点

実施料率等 (争点3−6)

(4)内製品に関する損害賠償請求(法102条2項に基づく算定)

ア 内製品に関し,被告が受けた利益の額 (争点4−1)

イ 本件特許発明の寄与率 (争点4−2)

(5)弁護士費用に関する損害賠償請求 (争点5)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1−1(構成要件A−4の充足性)について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件A−4を充足する。

(1)構成要件A−4の「薄肉」の意義

構成要件A−4は,折り畳み用の突条を近傍位置と比べて薄く形成するこ

とにより,折り込み体を基体の内側に折り込む際,突条で折り込みがされる

ようにした構成である。

すなわち,「薄肉」とは,突条の厚みが近傍位置と比べて薄い構成をいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件A−4の充足

以下のとおり,被告製品の折り畳み溝部は,近傍位置と比べて薄く形成さ

れている。

ア 被告製品の折り畳み溝部の厚みは,平均0.48ないし0.49oである

のに対し,近傍付近の厚みは,パーティング部(補強リブ)側において平

均0.58ないし0.62o,折り畳み溝部を挟んだ反対側において平均0.
55ないし0.56oである。

イ 被告製品は,ブロー成形により作られるものであるから,折り畳み溝部

は必然的に近傍位置と比べて薄く成型されるものである。

ブロー成形は,対面する金型の間に溶融状態の中空樹脂(パリソン)を

押し出し,金型が閉じた後,空気圧により内面から風船のように膨張させ,

冷却した金型に密着させて固化させる成型方法である。

パリソンの肉厚がほぼ一定であれば,パリソンが空気圧に押され,ほぼ

同時に凹部周辺の金型に着き,その後,凹部底(球状や円弧状の場合は周

辺面より最も遠い箇所)にまでパリソンが伸びるから,底の厚みは,周辺

部の厚みよりも必然的に薄くなる。

【被告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件A−4を充足しない。

(1)構成要件A−4の「薄肉」の意義

本件明細書の段落【0007】には,
「ピンホール発生は,平坦な容器側面

よりも,この平坦側面から突起した突条(折り曲げを容易にするために形成)

の頂部がケース内壁と接触し易いので,この部分に発生し易い。特に,この

突条は,折り畳みを確実に行い易くするために薄肉に形成されているので,

僅かな強い摺接が数回繰り返される程度で容易に磨滅し,或いは損傷してし

まう。」と記載されている。

これによれば,
「薄肉」とは,平坦な容器側面のような他の部位の厚みより

も突条の厚みが薄いことをいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件A−4の非充足

被告製品の折り畳み溝部の厚みは,平均0.48±0.10oであるのに対

し,他の複数箇所の部位の厚みは平均0.37±0.10oである。

したがって,被告製品の折り畳み溝部は,他の部位よりも厚く,
「薄肉」で

はないから,構成要件A−4を充足しない。
そもそも,被告製品の折り畳み溝部は,折り曲げやすくするために薄肉に

形成されていない。被告製品は,折り畳み溝部の断面を厚肉のアーチ状とし,

これをパーティング部と協働させることにより,折り畳み線となる部位の剛

性を向上させ,折り込まれた状態における容器の形状を安定化させるととも

に,折り畳み溝部を軸として,基体の内側に折り込み体を折り畳むことを容

易にした構成のものである。

2 争点1−2(構成要件Bの充足性)について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Bを充足する。

(1)構成要件Bの「被覆する」の意義

構成要件Bは,充填拡張時において,容器本体がケース内壁と接触する状

態が発生しても,補強リブをケース内壁に先に接触させて,突条の頂部とケー

ス内壁との直接接触を避けるための構成である。

そして,
「被覆する」とは,補強リブの長さが,その付け根から突条の頂部

ないしその近傍部までの距離よりも長く設けられており,容器本体に内容物

が充填された状態では,補強リブが,突条の側に傾斜し,その先端縁が,容

器本体に対し,突条の頂部よりも高く位置する構成をいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件Bの充足

被告製品のパーティング部の付け根から折り畳み溝部頂部までの長さは,

平均3.66ないし3.68oであるのに対し,パーティング部の付け根から

先端までの長さは,平均4.03ないし4.08oである。

したがって,被告製品のパーティング部は,その付け根から折り畳み溝部

の頂部ないしその近傍部までの距離よりも長い。

また,被告製品の容器本体に内容物が充填された状態において,パーティ

ング部は,折り畳み溝部の側に傾斜して位置し,その先端縁が,容器本体に

対し,折り畳み溝部の頂部より高く位置する構成である。
【被告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Bを充足しない。

(1)構成要件Bの「被覆する」の意義

以下のとおり,本件明細書の実施例に関する断面図では,いずれも,補強

リブの先端が突条の頂部を超えて,反対側に到達している。




【図4(第1実施例)】 【図10(第2実施例)】

したがって,構成要件Bの「被覆する」とは,充填拡張時において,補強

リブがケース内壁等からの外力が加えられていない状態において,突条の頂

部を超えて,その反対側にまで到達している構成をいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件Bの非充足

被告製品のパーティング部の付け根から先端までの長さは,3.36±0.

16oであるのに対し,パーティング部の付け根から折り畳み溝部の頂部ま

での距離は,3.51±0.14oである。

被告製品のパーティング部を折り畳み溝部の頂部に押し付けると,パー

ティング部は,基部を支点として直線形状を保ちつつ傾くのではなく,稲穂

のようにたわみつつ傾くから,パーティング部の付け根から先端までの長さ

はさらに短くなる。

このように被告製品のパーティング部は,パーティング部の付け根から折

り畳み溝部の頂部ないしその近傍部までの距離よりも短いから,折り畳み溝
部の頂部はパーティング部に覆われることなく,上方に向かって露出してい

る。

したがって,被告製品のパーティング部の先端は,折り畳み溝部の頂部を

超えてその反対側にまで到達しないから,構成要件Bを充足しない。

3 争点1−3(構成要件Cの充足性)について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Cを充足する。

(1)構成要件Cの「倒伏する」の意義

これは,折り込まれた容器本体が多数重ねられてケースに収容され,搬送

される状態において,ケース内壁との関係で補強リブが突条の側に傾斜して

位置することをいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件Cの充足

被告製品は,以下のとおり,多数重ねられて段ボールに収納され搬送され

る。




この際,被告製品のパーティング部は,以下のとおり,段ボール箱と接す

る各面において,補強リブが突条の側に傾斜して位置している。
ケース内壁




段ボールケース



【被告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Cを充足しない。

(1)構成要件Cの「倒伏する」の意義

以下のとおり,本件明細書に記載された図9(第2実施例)及び図12(従

来技術)は,外力が加えられていない状態における容器の断面形状が完全に

一致している。




【図9(第2実施例)】 【図12(従来技術)】

これに対し,本件明細書には,容器がケースの内壁に押し付けられ,補強

リブが外力により変形した状態について,以下の図が記載されている。
【図5(第1実施例)】 【図13(従来技術)】

これらの記載によれば,構成要件Cの「倒伏する」とは,
「補強リブにケー

ス内部からの外力が加わることで,外力が加わっていない自然状態から,突

条の側面へ傾くように変形し,その結果,補強リブの側面が突条の頂部に接

することで補強リブが突条によって支持される構成」をいう。

また,本件明細書の段落【0007】では,
「ピンホール発生は,平坦な容

器側面よりも,この平坦側面から突起した突条(折り曲げを容易にするため

に形成)の頂部がケース内壁と接触しやすいので,この部分に発生し易い。」

と記載されている。

この記載によれば,接触が問題となるケース内壁は,
「平坦な容器側面」が

接触しうるケース内壁ではなく,突条の頂部」
「 のみが接触しうるケース内壁,

すなわち折り込み時に突条が突出する方向に位置するケース内壁のみである。

そうすると,構成要件Cの「倒伏する」とは,折り込み時にケース内壁と

突条とが対向する部位において,補強リブが突条の側に傾斜して位置するこ

とをいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件Cの非充足

前記2【被告の主張】のとおり,被告製品のパーティング部は,折り畳み

溝部の頂部に接して,これを支持することはない。

また,以下のとおり,被告製品のパーティング部は,折り込み時に折り畳

み溝部とケース内壁とが対向する部位において,ケース内壁からの外力が加
わることにより,折り畳み溝部とは反対側に傾くように変形する。パーティ

ング部の側面が折り畳み溝部の頂部に接触することはない。




4 争点1−4(構成要件Dの充足性)について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Dを充足する。

(1)構成要件Dの意義

構成要件Dの意義は文言どおり解釈すべきであり,被告が主張するように,

補強リブの先端縁が突条の頂部と接触する必要はない。

(2)被告製品の構成及び構成要件Dの充足

前記2【原告の主張】のとおり,被告製品のパーティング部の長さは,パー

ティングの付け根から折り畳み溝部の頂部ないしその近傍までの距離よりも

長い。

したがって,倒伏時には,パーティング部の先端縁が,折り畳み溝部の頂

部よりも突出して位置している。

【被告の主張】

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Dを充足しない。

(1)構成要件Dの意義

本件明細書では,以下のとおり,第1実施例及び第2実施例のいずれにお

いても,折り込み時に,補強リブが突条の側面の側に倒伏することで,補強
リブの先端縁が突条の頂部とケース内壁とにより挟持されている。




【図5(第1実施例)】 【図11(第2実施例)】

したがって,構成要件Dの「補強リブの先端縁がその倒伏時に前記突条の

頂部よりも高く位置する」という構成は,折り込み時において,ケース内壁

から加えられた外力により補強リブが変形し,突条の頂部とケース内部とに

より補強リブの先端部が挟持される構成をいう。

(2)被告製品の構成及び構成要件Dの非充足

折り込み時にパーティング部が構成する周の一部において,パーティング

部の先端縁が,折り畳み溝部の頂部よりも突出して位置することは認める。

しかしながら,前記2【被告の主張】のとおり,被告製品のパーティング

部の長さは,パーティングの付け根部から折り畳み溝部の頂部ないしその近

傍までの距離よりも短い。

また,前記3【被告の主張】のとおり,被告製品は,折り畳み時にケース

内壁からの外力が加わることで,折り畳み溝部と反対側に傾くように変形す

るものであり,パーティング部の側面が折り畳み溝部の頂部と接触すること

はなく,挟持されているとはいえない。

よって,被告製品の折り込み体が基体の内側に折り込まれる状態において,

パーティング部の先端縁は,折り畳み溝部の頂部よりも「高く位置」しない。

5 争点2−1(本件特許発明は,原告公然実施発明と同一のものであるか)に

ついて
【被告の主張】

原告は,遅くとも平成8年4月1日午後6時までに,本件特許発明実施

である「ロンテナー 20リットル入り」
(以下「原告製品」という。)を販売し

た(原告公然実施発明は,上記原告製品の構成を内容とする発明である。。


本件特許出願は,特許法19条により平成8年4月1日午後12時に出願さ

れたものとみなされる。

したがって,本件特許発明は,原告公然実施発明と同一のものである。

【原告の主張】

原告が原告製品の製造を開始したのは平成8年4月16日であり,それ以前

に販売はしていない。

本件特許出願は,遅くとも平成8年4月1日午後6時までに出願されたもの

である。

したがって,被告の主張する時点において,原告公然実施発明は存在しない。

6 争点2−2(本件特許発明は,被告公然実施発明及び乙1発明に基づき,当

業者が容易に発明することができたものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,被告公然実施発明及び乙1発明に基づき,

当業者が容易に発明することができたものである。

(1)被告公然実施発明

被告は,本件特許出願前に以下の構成を有する製品(製品名「バロンボッ

クス」,品番「5A」。被告公然実施発明は,同製品の構成を内容とする発明

である。)を製造販売していた。

「ブロー成形の手段により軟質プラスチックを用いて成形される容器本体に,

その体積を実質的に二分割する線に沿って外側に向けてパーティング部を

融着形成し,

その一方の基体の上部に開閉部を設け,
且つ,他方の折り込み体に,前記パーティング部の近傍位置で,該パーティ

ング部に沿って折り畳み用の薄肉の折り畳み溝部を外側に向けて形成し,

前記他方の折り込み体を前記基体の内側へ折り畳み可能に構成した軟質

プラスチック容器に於いて,

前記パーティング部は,前記折り込み体の充填拡張時において,折り畳み

溝部の存する側に傾斜して位置し,その先端縁は,容器本体に対し,折り

畳み溝部の頂部より高く位置し,

且つ,前記基体への折り込み時には,パーティング部は,折り畳み溝部の

存する側に傾斜して位置すると共に

該パーティング部の先端縁が,前記基体への折り込み時において,折り畳

み溝部の頂部よりも突出して位置する

軟質プラスチック容器。」

(2)乙1発明

乙1公報には,以下の発明(乙1発明)が記載されている。

「ブロー成形の手段により軟質プラスチックを用いて成形される容器本体に,

その体積を実質的に二分割する線に沿って外側に向けてパーティングライ

ンを融着形成し,

折畳み外層の上部に開閉部を設け,

且つ,折畳み内層に,前記パーティングラインの近傍位置で,該パーティ

ングラインに沿って折り畳み用の薄肉の折り溝を外側に向けて形成し,前

記折畳み内層を前記折畳み外層の内側へ折り畳み可能に構成した軟質プ

ラスチック容器に於いて,

前記パーティングラインの長さは,パーティングラインの付け根部から折

り溝の頂部ないしその近傍までの距離よりも長く設けられている

軟質プラスチック容器。」

(3)被告公然実施発明と本件特許発明との対比
本件特許発明は,補強リブの長さが,その付け根から突条の頂部ないしそ

の近傍部までの距離よりも長いのに対し,被告公然実施発明は,そのような

構成を有しない点で相違するものの,その余の構成は共通である。

(4)容易想到性

以下の事情からすれば,被告公然実施発明の前記(3)の相違点について,

乙1発明を適用し,本件特許発明に想到することは,当業者にとって容易で

あったといえる。

ア 乙1発明の「前記パーティングラインの長さは,パーティングラインの

付け根部から折り溝の頂部ないしその近傍までの距離よりも長く設けられ

ている」という構成は,本件特許発明の前記(3)の相違点に関する構成と

共通である。

イ 乙1発明が解決しようとする課題は,折り溝部にピンホールに代表され

る擦傷,亀裂等が発生することを防止することにあり,この課題は,本件

特許出願時に周知の技術的課題であった。

ウ 被告公然実施発明と乙1発明は,材料,需要者及び使用目的の点で共通

であり,技術分野も全く同一である。

【原告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,被告公然実施発明及び乙1発明に基づき,

当業者が容易に発明することができたものではない。

(1)被告公然実施発明

ア 被告は,製品そのものではなく,金型図面(乙6)及び製品カタログ(乙

9)により被告公然実施発明の対象である製品の構成を特定しているとこ

ろ,上記図面及び製品カタログに記載された製品が実際に製造販売された

ことは否認する。

そもそもプラスチック型成形では,成形時において,金型に溶融樹脂が

充填された後,冷却・固化する過程で寸法の収縮及び熱履歴による歪みが
発生するから,実際の製品は図面どおりの構成を備えるものではない。

イ 被告公然実施発明のうち「充填拡張時にパーティング部が折り畳み溝部

の存する側に傾斜して位置する」構成及び「折り込み時にパーティング部

が折り畳み溝部の存する側に傾斜して位置する」構成は,いずれも否認す

る。

(ア) そもそも,被告公然実施発明のパーティング部は,剛性が強く,内容

物充填時において,付け根部の近傍の基体平面を基底として垂直に立ち

上がっており,折り畳み溝部の存する側に傾斜して位置する構成ではな

い。

また,本件特許発明は,充填拡張時に補強リブが突条を被覆して又は

折り込み時に突条の方に倒伏して突条を保護するという構成のもので

ある。被告公然実施発明のパーティング部の付け根から先端までの長さ

は3oであるのに対し,その付け根部からパーティング部が存する側の

折り畳み溝部の端部までの距離は3.5oであるから,被告公然実施

明のパーティング部は,折り畳み溝部に届くことすらない。

したがって,被告公然実施発明は,本件特許発明の作用効果を奏する

ものではなく,技術的思想が全く異なる。

(イ) 被告公然実施発明のパーティング部は,折り込み時においても,付け

根部の近傍の基体平面を基底として垂直に立ち上がっており,折り畳み

溝部の存する側に傾斜して位置する構成ではない。

(2)乙1発明

乙1発明の構成のうち「パーティングラインの長さは,パーティングライ

ンの付け根部から折り溝の頂部ないしその近傍までの距離よりも長く設けら

れていること」は,否認する。

そもそも,乙1発明は,パーティングラインの長さとパーティングライン

の付け根部から折り溝の頂部までの距離の比較を問題とする考案ではなく,
本件特許発明とは技術的思想が全く異なる。

(3)被告公然実施発明と本件特許発明の対比

被告公然実施発明は,以下の構成を有しない点で本件特許発明と相違する。

ア 補強リブの長さが付け根部から突条の頂部ないしその近傍までの距離よ

りも長く設けられていない。

イ 補強リブが充填拡張時に突条の側に傾斜して位置していない。

ウ 補強リブが,基体への折り込み時に突条の側面の方に倒伏しない。

(4)容易想到性

前記(3)の各相違点は,補強リブが充填拡張時に突条の頂部を「被覆し」,

折り込み時に突条の側面の方に「倒伏」するために不可欠な構成であり,本

特許発明が有する課題解決のための特徴的な構成である。

これらの構成を備えていない被告公然実施発明は,本件特許発明と技術的

思想が全く異なる。

また,これらの相違点の構成を開示する公知文献等もないし,被告公然実

施発明には,上記相違点の構成に到達したはずであるという示唆等も全くな

い。

したがって,当業者が被告公然実施発明の前記(3)の構成に乙1発明を適

用することについて容易に想到することができたものではなく,本件特許発

明を容易に発明できたとはいえない。

7 争点2−3(本件特許発明は,乙1発明及び周知技術に基づき,当業者が容

易に発明することができたものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,乙1発明及び周知技術に基づき,当業者が

容易に発明することができたものである。

(1)乙1発明

前記6【被告の主張】(2)と同じ。
(2)周知技術

ブロー成形の手段により成形される折り畳み可能なポリエチレン製の液体

容器において,補強リブの肉厚が,容器平面を基準とする中心線に対し,突

条の側が薄く又は肉厚を持たないように左右非対称に構成することは,本件

特許出願時において周知の構成であった。

この構成によれば,当然に,
「補強リブが,折り込み体の充填拡張時におい

て,突条の存する側に傾斜して位置し,「且つ,前記基体への折り込み時に


は補強リブは,突条の存する側に傾斜して位置する」ことになる。

(3)乙1発明と本件特許発明の対比

乙1発明は,
「補強リブが,折り込み体の充填拡張時において,突条の存す

る側に傾斜して位置し,「且つ,前記基体への折り込み時には補強リブは,


突条の存する側に傾斜して位置する」構成を有するか否かが明確ではない。

その余の構成は共通である。

(4)容易想到性

前記周知技術は,前記(3)の相違点の構成を開示するものであり,乙1発

明も前記周知技術も,ブロー成形の手段により成形される折り畳み可能なポ

リエチレン製の液体容器という同一の技術分野に属するものであって,乙1

発明に前記周知技術の構成を適用することに特段の阻害要因もない。

したがって,乙1発明について,前記(3)の相違点の構成に前記周知技術

の構成を適用することは,当業者において容易に想到することができた。

【原告の主張】

以下のとおり,本件特許発明は,乙1発明及び周知技術に基づき,当業者が

容易に発明することができたものではない。

(1)乙1発明

前記6【原告の主張】(2)と同じ。

(2)周知技術
否認する。

被告は,その製造する製品の金型図面(乙6)に上記構成が開示されてい

ることを根拠として,これが周知技術に当たる旨主張しているが,それだけ

で当業者に周知であったとはいえず,上記構成が被告の製造する製品に具現

されているともいえない。

(3)乙1発明と本件特許発明との対比

被告が主張する前記相違点に加え,乙1発明は,補強リブの長さが,その

付け根から突条の頂部ないしその近傍までの距離よりも長く設けられていな

い点で,本件特許発明と相違する。

(4)容易想到性

そもそも,前記(3)の相違点の構成を開示した公知文献等は存在しない。

仮に,前記【被告の主張】(1)ないし(3)を前提としても,乙1公報には,

本件特許発明の特徴点である前記(3)の構成を周知技術置き換えたはずで

あるという示唆等も全くない。

したがって,本件特許発明は,乙1発明及び周知技術に基づき,当業者が

容易に発明することができたものではない。

8 争点2−4(本件特許には,明確性要件違反があるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許には,明確性要件違反がある。

(1)構成要件Bの不明確性

構成要件Bのうち「変形」の意義が不明確である。

ア 本件明細書には,以下の記載がある。

「【0019】▲1▼容器本体1に内容物を充填した状態においては,図

4に示す如く,補強リブ3が突条4の頂部4aを被覆することになり,こ

の状態で収容ケース内壁C1と接触する状態が発生しても,前記補強リブ

3が収容ケース内壁C1に先に接触することになって,突条4の頂部4a
とケース内壁C1との直接接触を避けることが出来る。その結果,両者の

相対移動(撤送時の揺れ等が原因)による摺接が生じても補強リブ3が磨

滅しない限り突条4の頂部4aが摩損することがなく,この薄肉の頂部4

aにピンホールが開くのを確実に防止できるのである。」

上記記載によれば,充填拡張時において,補強リブは,ケース内壁と接

触しない状態においても突条の頂部を被覆することになるから,少なくと

構成要件Bのうち「変形」とは,ケース内壁からの外力を受けて補強リ

ブの形状が変わることを意味するものではない。

イ 一方,本件明細書には,以下の記載がある。

「【0030】そして,前記補強リブ3は,その肉厚が,前記基体1Aの

平面Pを基準とする中心線Yに対して前記突条4の側が薄肉となるよう

に左右非対称に構成されて,図10に示す如く,内容物充填時のように,

基体1Aの平面Pの方向に引っ張り作用を受けたり,図11に示す如く,

これに直交する方向に曲げ作用を受けたとき(折り畳み状態)に,この補

強リブ3の左右非対称の中心線に対する張力差による傾きを利用し,以て,

突条4の頂部4a及び側面4bを被覆できるように構成されている。この

ように,補強リブ3の左右非対称の構造は,上記第1実施例の補強リブ3

が角度αをもって形成されるのと同じ作用を奏するものである。」

上記記載によれば,第2実施例の構成における「変形」とは,「図10

に示す如く,内容物充填時のように,基体1Aの平面Pの方向に引っ張り

作用を受けたり,図11に示す如く,これに直交する方向に曲げ作用を受

けたとき(折り畳み状態)」に,「補強リブ3の左右非対称の中心線に対す

る張力差」を原因として,補強リブが傾くように形状を変化させることを

いうものと理解できる。

しかしながら,第1実施例における「変形」の意義は,本件明細書の上

記記載によっても全く明らかではない。
(2)構成要件Dの不明確性

構成要件Dのうち「高く位置する」の意義が不明確である。

現実の使用状態において,折り畳まれた容器がどのようにケースに収納さ

れるかを特定し,複数存在するケース内壁のうち,いずれの内壁から突条を

保護するのかを特定しない限り,補強リブが高く位置するか否かについて判

別することはできない。

本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載には,この点に関する記載が全

くないから,上記特定をすることができない。

【原告の主張】

以下のとおり,本件特許に明確性要件違反はない。

(1)構成要件Bの明確性

本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載によれば,「変形」とは,「充填

拡張時に,補強リブが,突条の頂部を覆うように突条の存する側に傾斜して

位置する」意味であることは明らかである。

(2)構成要件Dの明確性

本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載によれば,
「高く位置する」とは,

折り込み時に補強リブが突条の側面の方に倒伏した状態において,補強リブ

の先端縁が突条の頂部よりも突出して位置する意味であることは明らかであ

る。

9 争点2−5(本件特許には,実施可能要件又はサポート要件違反があるか)

について

【被告の主張】

前記8【被告の主張】のとおり,本件特許発明構成要件Bの「変形」及び

構成要件Dの「高く位置する」の意義は,いずれも不明確である。

したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をするこ

とができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであり,本件特許発明
は,実質的にみて,上記発明の詳細な説明に記載されたものでもない。

よって,本件特許には,実施可能要件又はサポート要件違反がある。

【原告の主張】

前記8【原告の主張】のとおり,本件特許発明構成要件Bの「変形」及び

構成要件Dの「高く位置する」の意義は,いずれも明確なものであり,本件特

許に実施可能要件又はサポート要件違反はない。

10 争点3−1(原告が販売することができた物の単位数量当たりの利益の額)

について

【原告の主張】

原告が製造販売する本件特許発明実施品である原告製品の単位数量当たり

の利益の額は,●●●●●円である。

【被告の主張】

否認する。

11 争点3−2(法102条1項ただし書の事情等の有無)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件では,法102条1項ただし書の事情等がある。

(1)原告の実施余力の不存在

原告は,平成21年半ばころから深刻な生産能力不足に陥っており,本件

特許発明実施する余力はなかった。

(2)代替品の存在

市場占有率は,原告が30.4%,被告が28.6%,藤森工業株式会社が

39.3%,コダマ樹脂工業株式会社が1.8%であるから,仮に被告製品が

販売されなかった場合にも,その全部を原告が販売することはできなかった

ものである。

被告製品が販売されなかった場合に,その代替品として原告が販売できた

割合は,42.5%にすぎない。
〔計算式〕 30.4÷(39.3+30.4+1.8)≒42.5

【原告の主張】

以下のとおり,本件で,法102条1項ただし書の事情等はない。

(1)原告の実施余力の存在

原告は,平成21年10月ころ,製品の需要が一時的に急増した際,生産

設備が本来の生産能力にまで到達していなかったこともあって,ごく一時的

に,その対応に追われていたことがあった。

上記需要の急増は,一時期に限られ,それ以降は安定的な需要量に落ち着

いたため,生産余力をもって需要に対応することができていた。

(2)代替品の不存在

前記【被告の主張】(2)の市場占有率は認める。

しかしながら,被告は,本件特許発明の特徴的部分を購買動機の中心に据

えた宣伝をしていたから,本件では市場占有率を考慮すべきでない。

12 争点3−3,3−5及び4−2(本件特許発明の寄与率)について

【被告の主張】

以下の事情からすれば,本件特許発明の寄与率は,0.1%を上回るものでは

ない。

(1)被告製品のカタログの記載

被告製品のカタログでは,被告製品の販売よりも3年以上前から, 耐薬
@

品性に優れること,A 耐ピンホール性に優れること,B 落下強度に優れる

こと,C 耐熱性に優れること,D 製造時に全数リークテストを実施してい

ること, 6ないし9種類の豊富なアタッチメントが顧客の用途に応じてき
E

め細かく用意されていること,F 食品分野(醤油,食酢,食用油,食品添加

物,乳酸,液糖等),化学分野(洗剤,次亜塩素酸ソーダ,バッテリー液,ホ

ルマリン,界面活性剤等),飲料分野(清酒,焼酎,コーヒー等),その他の

様々な用途に対して最適な製品を選択できることが一貫して強調されている。
本件特許発明は,このうちA(耐ピンホール性に優れること)のみに関す

るものであり,需要者の購入動機に対する寄与は少ない。しかも,被告製品

においては,本件特許発明の使用に関係なく(後記(3),(4)のとおり,耐

ピンホール性については,本件特許発明に固有のものではない。 ,上記の点


が宣伝されていたことになる。

(2)被告製品の販売数の推移

以下の図のとおり,被告現行品と被告製品を合わせた合計販売数は,平成

12年度から平成22年度まで一貫して,ほぼ同じペースで増加を続けてい

る。




また,以下の図のとおり,被告現行品と被告製品を併せた合計販売数は,

被告現行品から被告製品への設計変更又は被告製品から現行品への設計変更

により何ら影響を受けていない。
(3)被告製品においてピンホール発生が抑制されるメカニズム

被告製品は, パーティング部と折り畳み溝部との距離を短くすることに
@

よって折れ難くすること及びA 折り畳んだ状態でパーティング部および折

り畳み溝部がなす開口を下向きに伏せた際に,パーティング部が床面に接触

することで折り畳み溝部が床面に接触する圧力を軽減するように構成するこ

とで,ピンホール発生が従来の製品に比べて抑制されるようにしたものであ

る。

こうした効果は,本件特許発明の作用効果とは異なるものである。

したがって,被告製品は,本件特許発明の作用効果を生じるものではなく,

仮に本件発明の作用効果を生じるとしても極めて限定的である。

(4)本件特許発明有用性

本件特許発明が解決しようとする課題は,突条の頂部ないし側面にピン

ホールが発生することを防ぐことにある。

しかしながら,前記7【被告の主張】のとおり,この課題は,本件特許出

願時において周知のものであり,この課題を解決するための代替手段も存在

しており,本件特許出願時において相当程度解決されていた。
【原告の主張】

以下の事情からすれば,本件特許発明の寄与率は100%である。

(1)被告による宣伝広告の内容

被告は,本件特許発明の構成を具備していることを積極的にセールスポイ

ントとする宣伝を行って被告製品を販売していた。

(2)被告製品の販売数の推移

被告の主張によれば,被告は,平成21年12月から,第三者に委託をし

てOEM供給品を生産しており,まさに本件特許発明侵害品である被告製

品の販売によって,合計販売数を増加させたものである。

(3)被告製品においてピンホール発生が抑制されるメカニズム

この点に関する前記【被告の主張】は,被告製品が本件特許発明の技術的

範囲には属しない旨の主張を繰り返すものにすぎない。

(4)本件特許発明有用性

この点に関する前記【被告の主張】も,本件特許発明進歩性を欠く旨の

主張を繰り返すものにすぎない。

軟質プラスチック製の容器において,突条におけるピンホールの発生は充

填物の漏れを発生させるため,容器として致命的な欠陥となる。

したがって,突条のピンホールの発生及び充填物の漏れの防止は,製品価

値の本質であり,その課題解決がされていることは,需要者において最も重

要な購入動機となる。

従来技術では上記課題を十分に解決できておらず,突条のピンホール発生

クレームの最大原因となっていた。本件特許発明は,ピンホールの発生を

大幅に低減することを可能とした画期的な発明であり,その発明の価値は非

常に高い。

(5)原告による宣伝広告の内容

原告は,本件特許発明の構成により,原告製品の突条におけるピンホール
の発生・充填物の漏れの防止を実現することができることを積極的に宣伝広

告して,他社製品と差別化を図ってきた。

13 争点3−4(OEM供給品に関し,被告が受けた利益の額)について

【原告の主張】

後記15【原告の主張】のとおり,内製品に関する被告の限界利益率は,5

7.19%を下回らず,OEM供給品についても同程度の利益を受けたものと推

定することができる。

そうすると,被告は,OEM供給品について,売上額2億4157万348

5円に対し,少なくとも1億3815万5876円の利益を受けたものである。

〔計算式〕 241,573,485×0.5719≒138,155,876

【被告の主張】

以下のとおり,被告は,OEM供給品について合計1914万5807円の

損失を受けており,利益を受けていない。

(1)売上額

前記第2の1(4)のとおり,被告製品のうちOEM供給品の販売数は合計

●●●●●●●●個であり,売上額は合計2億4157万3485円である。

(2)経費額

以下のとおり,OEM供給品に係る経費額は合計2億6071万9292

円である。

ア 仕入代金 合計2億2959万1440円

イ 運送料 2095万4992円

ウ 倉庫保管料 1017万2860円

(3)限界利益

前記(1)の売上額から前記(2)の経費額を控除すると,合計1914万5

807円の損失である。

〔計算式〕 241,573,485−260,719,292=−19,145,807
14 争点3−6(実施料率等)について

【原告の主張】

以下の事情からすれば,本件特許発明実施料率は,8%が相当である。

(1)本件特許発明有用性

前記12【原告の主張】(4)と同様である。

(2)被告による宣伝

被告は,被告製品が本件特許発明の構成を具備していることをセールスポ

イントとして宣伝を行っており,これにより高い限界利益率を上げている。

(3)被告との交渉経緯

原告は,本件訴え提起前に,被告と繰り返し交渉をしたものの,被告が侵

害の成立を強硬に否定したため,本件訴えを提起せざるを得なかった。

(4)一般的な実施料率との関係等

平成4年度ないし平成10年度における「プラスチック製品」に関する実

施料率の平均は3.9%である。これは,一般的なプラスチック製品について

正常なライセンス契約に基づく実施であることを前提としたものであり,個

別具体的な事情を捨象したものである。

前述した事情によると,正常なライセンス契約の場合に想定される実施料

率よりも大幅に高い実施料率が認定されるべきである。

【被告の主張】

実施料率は,本件特許発明と同一の技術分類に属する特許権の一般的な実施

料率を踏まえた上,本件特許発明の技術的価値の高低,原告と被告の従前の関

係が友好的なものであったか又は敵対的なものであったか及び原告における実

施余力の存否等の事情を総合的に考慮して定められるべきである。

以下の事情からすれば,実施料率は同一の技術分類に属する特許権の一般的

実施料率のうち最も低い0 5%とするのが相当である。

なお,法102条3項の「特許発明実施に対し受けるべき金銭の額」は,
売上額に寄与率及び実施料率を乗じた金額とすべきである。

(1)一般的な実施料

本件特許の国際特許分類は,「物品または材料の保管または輸送用の容器」

及び「プラスチックの成形または接合;可塑状態の物質の成形一般;成形品

の後処理」である。

前者の実施料は,平均で3.7%,最小値0.5%,最大値6.5%であり,

後者の実施料は,平均で3.4%,最小値0.5%,最大値9.5%である。

(2)本件特許発明有用性

前記12【被告の主張】(4)のとおり,本件特許発明の技術的価値(有用

性)は極めて低い。

(3)原告と被告の従前の関係

原告と被告は,これまで敵対的な関係にはなく,むしろ友好的な関係にあっ

たから,実施料率を算定するに当たっても,この点が考慮されるべきである。

(4)原告の実施余力の不存在

前記11【被告の主張】(1)のとおり,原告には実施余力がなかった。

15 争点4−1(内製品に関し,被告が受けた利益の額)について

【原告の主張】

以下のとおり,被告が,内製品の製造販売により受けた利益の額は,合計1

億0091万9172円である。

(1)売上額

前記第2の1(4)のとおり,被告製品のうち内製品の販売数は合計●●●

●●●●●個であり,売上額は,合計1億7647万8154円である。

(2)経費額

後記【被告の主張】(2)の経費のうち,(ア)ないし(エ)及び(サ)のみ経費

として控除すべきである。

その余の費用のうち(オ),(キ),(コ),(シ),(ス)及び(セ)は,いずれも
変動経費ではない。

(カ),(ク)及び(ケ)の各費用も,その全体が侵害品を製造するための経費

として算入することができる理由が不明であるから,いずれも変動経費とし

て控除すべきではない。

そうすると,控除すべき経費額は合計7555万8982円である。

(3)限界利益

被告製品のうち内製品に係る限界利益は,前記(1)の売上額(1億764

7万8154円)から前記(2)の経費(7555万8982円)を控除した

1億0091万9172円(利益率57.19%)である。

【被告の主張】

以下のとおり,被告が,内製品の製造販売により受けた利益の額は,合計8

815万9236円にすぎない。

(1)売上額

前記【原告の主張】(1)のとおりである。

(2)経費額

被告製品を対象とする事業部全体の売上額は合計27億6798万681

7円であり,このうち内製品の占める割合は0.063756862である。

〔計算式〕 ÷ 7≒

したがって,内製品の製造販売に要した金額が不明の経費については,事

業部全体の経費に0.063756862を乗じた金額とするのが相当であ

る。

これを前提として各費目について計算すると,以下のとおり,合計883

1万8918円(判決注 8831万8915円の違算と思われる。である。
: )

ア 荷造費 16万6147円

〔計算式〕 ×

イ 運送費 1515万3700円
ウ 荷造費 604万9759円

エ 原料費 5365万4630円

オ 賃借料 23万1539円

〔計算式〕 × =

カ 支払電力料 4万8773円

〔計算式〕 × =

キ 賃借料 274万7169円

〔計算式〕 × =

ク 支払電力料 743万3162円

〔計算式〕 × =

ケ ガス水道料 16万9178円

〔計算式〕 × =

コ 広告費 17万3125円

サ 消耗品費 53万4746円

〔計算式〕 × =

シ 火災保険料 2万7447円

〔計算式〕 × =

ス 販売手数料 4万9935円

〔計算式〕 × =

セ 消耗品費 187万9605円

〔計算式〕 × =

(3)限界利益

被告製品のうち内製品に係る限界利益は,前記(1)の売上額(1億764

7万8154円)から前記(2)の経費(8831万8918円)を控除した

8815万9236円(利益率49.95%)である。

16 争点5(弁護士費用に関する損害賠償請求等)について
【原告の主張】

弁護士費用は,OEM供給品と内製品に関する損害額を合計した額の1割が

相当であり,具体的には以下のとおりである。

(1)OEM供給品について,法102条1項に基づき損害を算定した場合

OEM供給品について,法102条1項に基づき損害を算定すると,87

98万0887円である。

〔計算式〕 ●●●●●●●●●×●●●●●=

前記15【原告の主張】のとおり,内製品に関する損害額は,1億009

1万9172円である。

したがって,弁護士費用は,これらを合計した額の約1割である1800

万円が相当である。

(2)OEM供給品について,同条2項に基づき損害を算定した場合

OEM供給品について,法102条2項に基づき損害を算定した場合,損

害合計額は,被告製品の売上額合計4億1875万1847円に利益率57.

19%を乗じた2億3908万3732である。

〔計算式〕 × ≒

したがって,弁護士費用は,これらを合計した額の約1割である2300

万円が相当である。

(3)OEM供給品について,同条3項に基づき損害を算定した場合

OEM供給品について,法102条3項に基づき損害を算定すると,19

32万5879円である。

〔計算式〕 × ≒

前記(1)のとおり,内製品に関する損害額は,1億0091万9172円

である。

したがって,弁護士費用は,これらを合計した額の約1割である1200

万円が相当である。
【被告の主張】

否認又は争う。

第4 当裁判所の判断

被告製品は,本件特許発明の各構成要件をいずれも充足し,その技術的範囲

に属するものである。また,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべ

きものであるとは認めることができない。

したがって,本件訴えのうち被告製品の製造,販売等の差止め及び同製品等

の廃棄を求める部分には理由があり,損害賠償請求については主文の限度で理

由があり,その余の部分には理由がない。

以下,詳述する。

1 争点1−1(構成要件A−4の充足性)について

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件A−4を充足する。

(1)構成要件A−4の「薄肉」の意義

ア 【特許請求の範囲】の記載

前提事実(3)のとおり,構成要件A−4は,「且つ,他方の折り込み体

に,前記補強リブの近傍位置で,該補強リブに沿って折り畳み用の薄肉の

突条を外側に向けて形成し,前記他方の折り込み体を前記基体の内側へ折

り畳み可能に構成した軟質プラスチック容器に於いて,」というものであ

る。

この構成要件の文言によれば,@「薄肉」は,
「突条」にかかる形容詞で

あり,その構成を特定するものであること,A「突条」は,「折り畳み用」

のものであり,「補強リブの近傍位置で,該補強リブに沿って」「外側に向

けて形成」されるものであることが認められる。

「薄肉」の文言からすれば,
「突条」の厚みは,少なくとも他のいずれか

の部位と対比して「薄い」ものをいうと解されるものの,対比の対象は必

ずしも一義的に明らかではない。
し たがって,「薄肉」の意義を検討するに当たっては,本件明細書の記

載も斟酌して検討する必要がある。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載

(ア) 本件明細書には,以下の記載がある。

「【従来の技術】(略)

【0005】

▲2▼ また,突条は,上記折り込み体の折り込みに際して,特定の箇

所,即ち補強リブの近傍において容易に行い得るようにするために,

局所的に強度を弱めるように薄肉に形成されている。」

「【発明が解決しようとする課題】(略)

【0007】

このピンホール発生は,平坦な容器側面よりも,この平坦側面から突

起した突条(折り曲げを容易にするために形成)の頂部がケース内壁

と接触し易いので,この部分に発生し易い。 特に,この突条は,折り

畳みを確実に行い易くするために薄肉に形成されているので,僅かな

強い摺接が数回繰り返される程度で容易に磨滅し,或いは損傷してし

まう。」

「【0032】

【発明の効果】

本発明にかかる軟質プラスチック容器によれば,次の如き優れた効果

を奏するものである。

▲1▼ 軟質プラスチックによる折り畳み自在の便利な容器でありな

がら,その折り畳みに必要とする補強リブを,やはりその折り畳みに

必要である薄肉の突条の頂部乃至側面を積極的に被覆するよう構成す

ることによって,容器本体,特に補強リブ近傍に波みうち(皺)が発

生する事態(成形に起因する局所的厚みムラ,歪み及び折り畳み状態
での積み重ね荷重等による)が生じても,突条の頂部乃至側面が収納

ケースの内壁或いは他物に直接摺接或いは衝突するのを回避でき,以

て,突条の頂部乃至側面にピンホールが開けられるのを防止し,ピン

ホールによる漏れを未然に防止できるのである。」

(イ) 前記(ア)によれば,本件特許発明における「突条」の構成は,従来の

技術における構成と何ら異なるものではなく,折り込み体の折り込みに


際して,特定の箇所,即ち補強リブの近傍において容易に行い得るよう

にするために,局所的に強度を弱めるように薄肉に形成されている。 も


のであることが認められる。

そうすると,
「薄肉」とは,@「折り込み体を基体に織り込むことを可

能とする程度の厚み」であること,A「局所的に強度を弱めるように」

構成されているものであるから,近接する部位よりも薄く形成されるこ

とをいうものと解される。

なお,被告は,前記(ア)の段落【0007】の記載からすれば,
「薄肉」

とは,平坦な容器側面のような他の部位の厚みよりも突条の厚みが薄い

ことをいう旨主張する。

しかしながら,上記記載のうち前段は,平坦な容器側面よりも突条の

頂部がケース内壁に接触しやすいため,その部分にピンホールが発生し

やすいことを記載しているにすぎず,平坦な容器側面よりも突条が「薄

肉」(厚みが薄い)であるため,ピンホールが発生しやすいとまで記載

しているわけではない。後段も「折り畳みを確実に行いやすくするため

に薄肉に形成されている」と記載されているのみで,平坦な容器側面の

厚みとは何ら対比をしていない。

そもそも「薄肉」の技術的意義は,
「折り畳みを確実に行いやすくする」

ことにあるところ,平坦な容器側面など他の部位で折り畳みがされるこ

とは全く予定されていないのであって,そのような折り込みと関係しな
い 他の部位と対比して強度を弱めるように薄く形成することは全く無

意味である。

上記被告の主張は,採用できない。

ウ 小括

前記ア及びイによれば,構成要件A−4の「薄肉」とは,@「折り込み

体を基体に織り込むことを可能とする程度の厚み」であり,A「近接する

部位よりも薄い」ものをいうと解される。

(2)被告製品の構成及び構成要件A−4の充足性について

被告製品の構成が「薄肉」を除いた構成要件A−4の文言を充足すること

は,当事者間で争いがない。

そして,構成要件A−4の「突条」に当たる被告製品の折り畳み溝部の厚

みは,平均0.48ないし0.49oであるのに対し,折り畳み溝部の近傍付

近では,パーティング部(補強リブ)側の厚みが平均0.58ないし0.62

o,折り畳み溝部を挟んだ反対側の厚みが平均0.55ないし0.56oであ

ることが認められる(甲11)。

これに対し,被告は,被告製品の折り畳み溝部の厚みと溝部に近傍する部

位を含む他の部位の厚みを測定した報告書(乙2,7)を提出しているが,

上記報告書における測定点は明確とはいえない。また,原告は,ブロー成形

という被告製品の製造方法自体からして,折り畳み溝部の厚みが測定点に近

傍する部位の厚みより厚くなることはない旨主張しているところ,被告は,

この点に関する反論もしていない。

これらのことからすれば,上記被告提出の書証を採用することはできない。

そうすると,被告製品の折り畳み溝部の厚みは,その近傍する部位よりも

薄いことが認められるから,構成要件A−4のうち「薄肉」の文言を充足す

る。

よって,被告製品は,構成要件A−4を充足する。
2 争点1−2(構成要件Bの充足性)について

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Bを充足する。

(1)構成要件Bの「被覆する」の意義

ア 【特許請求の範囲】の記載に基づく解釈

前提事実(3)のとおり,構成要件Bは,
「前記補強リブを,前記折り込み

体の充填拡張時には前記突条の頂部を被覆するように変形し, というもの


である。

これは,充填拡張時における補強リブの構成を特定したものであるとこ

ろ,「被覆」とは,一般に,「おおいかぶせること」を意味するから,少な

くとも充填拡張時において,補強リブが突条の側に傾斜している必要があ

ると解される。

他方で,上記構成要件が機能的に表現されていることもあり,補強リブ

の長さ及び高さの程度については必ずしも一義的に明確ではない。

したがって,この点についても,本件明細書の記載を斟酌して検討する

必要がある。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載

(ア) 本件明細書には以下の記載がある。

「【0006】

【発明が解決しようとする課題】

この種の軟質プラスチック容器は,折り畳んで多数を重ね合わせ,段

ボール等へ入れて搬送したり,また,個々をケース(段ボール等)に

収容して内容物を充填して搬送したりする時に,ケース内壁と擦れた

り,取り扱いに際して他物と衝突したりしたときに,その箇所に孔(ピ

ンホール)が開いてしまうことが多々発生した。

【0007】

このピンホール発生は,平坦な容器側面よりも,この平坦側面から突
起した突条(折り曲げを容易にするために形成)の頂部がケース内壁

と接触し易いので,この部分に発生し易い。 特に,この突条は,折り

畳みを確実に行い易くするために薄肉に形成されているので,僅かな

強い摺接が数回繰り返される程度で容易に磨滅し,或いは損傷してし

まう。

ただ,図12に示すように,容器本体1に内容物を充填しているとき

には,上述した補強リブ3が突条4と平行して突出しているので,こ

の補強リブ3が先にケース内壁C1に接当することで,前記突条4の

頂部4aの接触を回避できるが,搬送に際してのケースCの積み重ね

等の外圧によって強い接触が生じると,図13に示す如く,補強リブ

3の先端がへたり,突条4が直接にケース内壁C1に接当する事態が

発生し,ピンホールが発生し易くなる。」

「【0009】

こうした現象は,上述した容器本体1に内容物を充填した場合でも発

生することがある。 例えば,容器本体に満杯状態に充填しない時に上

部に空間が形成される場合や,使用によって上部に空間が形成される

場合に,軟質プラスチック容器であるが故に,上記補強リブ3を含む

局所に皺が寄ったり,歪に変形したりする状態が生じ,その結果,前

述の折り畳み状態の場合と同じような突条4の頂部4aがケース内壁

C1等と接触し,ピンホールが発生するのである。

【0010】

本発明は,かかる従来技術の問題点に鑑み,内容物の充填時は勿論の

こと,折り畳み搬送時においても,軟質プラスチック容器の折り曲げ

用の突条の頂部にピンホールが出来ないようにして,充填物の漏れの

ない搬送,取り扱いが行い得るようにすることを目的とする。」

「【発明の実施の形態】(略)
【0019】

▲1▼ 容器本体1に内容物を充填した状態においては,図4に示す如

く,補強リブ3が突条4の頂部4aを被覆することになり,この状態

で収容ケース内壁C1と接触する状態が発生しても,前記補強リブ3

が収容ケース内壁C1に先に接触することになって,突条4の頂部4

aとケース内壁C1との直接接触を避けることが出来る。 その結果,

両者の相対移動(搬送時の揺れ等が原因)による摺接が生じても補強

リブ3が磨滅しない限り突条4の頂部4aが摩損することがなく,こ

の薄肉の頂部4aにピンホールが開くのを確実に防止できるのであ

る。」

【図4】本発明にかかる第1実施例の軟質プラスチック容器の図1の

A−A拡大断面図である。




【図12】従来技術を示す軟質プラスチック容器の要部の拡大断面図

である。
(イ) 前記(ア)によれば,構成要件Bは,個々の容器をケース(段ボール箱

等)に収容して内容物を充填して搬送したりする時に,ケース内壁と擦

れたり,取扱いに際して他物と衝突したりしたときに,その箇所に孔(ピ

ンホール)が開いてしまうことを解決するための構成であることが認め

られる。

その具体的な解決原理は,ケース内壁と接触する状態が発生したとき

に,補強リブがケース内壁と先に接触し,突条の頂部とケース内壁とが

直接接触するのを避けることにある。

そうすると,構成要件Bの「被覆する」とは,充填拡張時において,

@ 補強リブが突条の側に傾斜する構成のものであること並びにA 補

強リブの長さ及び高さは,ケース内壁と接触する状態が発生したときに,

補強リブがケース内壁と先に接触するものであり,突条の頂部とケース

内壁とが直接接触するのを避けることをいうものと解される。

(ウ) 被告は,本件明細書に記載された実施例では補強リブの先端が突条の

頂部を超えてその反対側に到達しているから,構成要件Bは,
「補強リブ

がケース内壁等からの外力が加えられていない状態で,先端が突条の頂

部を超えてその反対側に到達していること」をいう旨主張する。

しかしながら,本件の【特許請求の範囲】について,実施例に記載さ

れた構成に限定する理由は見当たらず,上記被告の主張はそもそも失当

である。

また,前記(イ)で検討したところから明らかなとおり,構成要件Bは,
充填拡張時において,ケース内壁と接触する状態が発生したとき,すな

わち補強リブがケース内壁等からの外力を加えられた状態において,技

術的意義を有する構成である。

したがって,ケース内壁等からの外力が加えられていない状態におけ

る構成を特定する意味はなく,上記被告の主張は,構成要件Bの技術的

意義を無視するものであることからしても,採用することはできない。

ウ 小括

前記ア及びイによれば,構成要件Bの「被覆する」とは,充填拡張時に

おいて,@ 補強リブが突条の側に傾斜する構成のものであること並びに

A 補強リブの長さ及び高さは,ケース内壁と接触する状態が発生したと

きに,補強リブがケース内壁と先に接触するものであり,突条の頂部と

ケース内壁とが直接接触するのを避けることをいうものと解される。

(2)被告製品の構成及び構成要件Bの充足性について

被告製品の構成が「容器本体に内容物が充填された状態において,補強リ

ブが,突条の存する側に傾斜し,その先端縁が,容器本体に対し,突条の頂

部より高く位置する。」ものであることは当事者間に争いがない。

また,被告製品のパーティング部付け根から折り畳み溝部頂部までの長さ

は,平均3.66ないし3.68oであるのに対し,パーティング部の付け根

から先端までの長さは,平均4.03ないし4.08oであり,いずれの測定

点においても,後者が前者よりも長いことが認められる(甲11)。

これに対し,被告は,パーティング部の長さについて平均3.36oであり,

パーティング部の付け根から折り畳み溝部の頂部までの距離について平均3.

51oである旨記載した測定結果報告書(乙2)を提出している。しかしな

がら,同報告書は,パーティング部の付け根からパーティング部が折り畳み

溝部の頂部と接触しうる部位までの長さしか測定しておらず,パーティング

部の付け根から先端までの長さを測定していないから,構成要件Bの充足性
を検討するに当たっては意味がなく,採用することはできない。

これらのことからすると,被告製品の補強リブの長さは,その付け根から

突条の頂部ないしその近傍までの距離よりも長いことが認められる。

よって,被告製品は,構成要件Bを充足する。

3 争点1−3(構成要件Cの充足性)について

以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Cを充足する。

(1)構成要件Cの「倒伏する」の意義

ア 【特許請求の範囲】の記載に基づく解釈

前提事実(3)のとおり,構成要件Cは,
「且つ,前記基体への折り込み時

には,前記突条の側面の方に倒伏するように構成すると共に」というもの

である。

これは,基体への折り込み時における補強リブの構成について特定した

ものであるところ,
「倒伏」とは,一般に「稲・麦・樹木などが台風や肥料

のやりすぎで倒れること」をいうが,少なくとも補強リブが突条の側面の

方に倒れる,すなわち傾斜する構成のものであると認めることができるも

のの,さらに,補強リブが突条の側面と接触する必要があるとまでは,直

ちに読み取ることができない。

したがって,この点についても本件明細書の記載を斟酌して検討するこ

ととする。

イ 本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載

(ア) 前記2のとおり,本件特許発明は,
「内容物の充填時は勿論のこと,折

り畳み搬送時においても,軟質プラスチック容器の折り曲げ用の突条の

頂部にピンホールが出来ないようにして,充填物の漏れのない搬送,取

り扱いが行い得るようにすることを目的とする。(段落【0006】及


び【0010】)ものであり,本件明細書の記載からすれば,構成要件

がこのような本件特許発明の解決しようとする課題を解決するために採
用されたことは明らかである。

さらに,本件明細書には,以下の記載がある。

「【0008】

また,容器本体1を折り畳んで複数個重ね合わせてケースCに収納して

搬送する場合には,容器本体1の各所の成形厚み,特に補強リブ3を形

成する合わせ部近辺(パーティングライン付近)の厚みが不均一(板状

フィルムを素材とするブロー成形等の手段を用いるのだが,現状では技

術的に容器全体の厚みが同じように成形でき難い)となったり,複数個

の重ね合わせの位置ズレ,重ね合わせによる荷重等によって,前記補強

リブ3を外側(波形)に折り曲げる状態が発生し,この際,図13に示

す如く,前記突条4の頂部4a及び側面4bが補強リブ3よりも外側に

露出して,ケース内壁C1に直接に摺接する事態が発生し,これによっ

てピンホールが出来てしまう問題がある。」

「【発明の実施の形態】(略)

【0020】

▲2▼ また,容器本体1が折り畳まれ,多数が重ねられてケースに収

容され,搬送される状態において,上述した成形厚みのムラ,局部的な

残留応力の存在,積み重ね時のズレ等が原因で折り畳み線となる補強リ

ブ3及び突条4の近辺に波みうち現象(皺)生じても,図5に示す如く,

上記補強リブ3が突条4の側面4bの方に倒伏する構成であることと,

補強リブ3が前記突条4の高さよりも高い長さLを有するこ ととに

よって,前記突条4が従来のように補強リブ3から離れて露出する状態

になることがなく,この補強リブ3がケース内壁C1と摺接することに

なり,前記突条4の頂部4a及び側面4bは保護され,その結果,薄肉

である突条4の頂部4aが直接にケース内壁C1と接触し,摩損を生じ

てピンホールを形成するという事態を回避できるのである。」
【 図5】本発明にかかる第1実施例の軟質プラスチック容器の図2の

BーB拡大断面図である。




【図13】従来技術を示す軟質プラスチック容器の一作用状態を示す要

部の拡大断面図である。




(イ) 前記(ア)によれば,補強リブを「倒伏する」ことの技術的意義は,特

に,容器本体が折り畳まれ,多数が重ねられてケースに収容され,搬送

される状態において,ケース内壁との擦れによるピンホールの発生を防

ぐことにある。

そうすると,構成要件Cの充足が問題となるのは,折り畳まれ,多数
が 重ねられてケースに収容された場合における全ての容器についてで

ある。

したがって,構成要件Cは,折り畳まれた容器本体が多数重ねられて

ケースに収容され,搬送される状態において,そのように収容された全

ての容器本体とケース内壁とが接する面において,補強リブが突条の側

面の方に倒伏するように構成されたものと解される。

(ウ) 被告は,前記【図5(第1実施例)】の記載によれば,「倒伏する」と

は,補強リブにケース内部からの外力が加わることで,外力が加わって

いない自然状態から,突条の側面へ傾くように変形し,その結果,補強

リブの側面が突条の頂部に接することで補強リブが突条によって支持さ

れる構成をいう旨主張する。

しかしながら,本件で【特許請求の範囲】を実施例に記載された構成

に限定する理由は見当たらず,上記被告の主張はそもそも失当である。

また,被告は,本件明細書の「ピンホール発生は,平坦な容器側面よ

りも,この平坦側面から突起した突条(折り曲げを容易にするために形

成)の頂部がケース内壁と接触しやすいので,この部分に発生し易い。」

旨の記載(前記段落【0007】)からすれば,構成要件Cは,折り込

み時においてケース内壁と突条とが対向する面のみに関する構成であ

るとも主張する。

しかしながら,上記明細書の記載は,単に,突条の頂部は平坦な容器

側面よりもケース内壁と接触しやすいため,ピンホールが発生しやすい

ということを記載したものにすぎず,上記被告の主張するような意味に

は解釈することができない。また,上記被告の主張を前提とすると,容

器が段ボール箱に多数重ねられて収容された状態において,ケース内壁

との接触を防止することができるのは,一番下に重ねられた容器しかな

いことになるが,構成要件Cにおける上記構成をそのように限定する理
由は見当たらない。

したがって,上記被告の主張は採用することができない。

ウ 小括

前記ア及びイによれば,構成要件Cの「倒伏する」とは,折り畳まれた

容器本体が多数重ねられてケースに収容され,搬送される状態において,

そのように収容された全ての容器本体とケース内壁とが接する面におい

て,補強リブが突条の側面の方に傾斜することをいうと解される。

(2)被告製品の構成及び構成要件Cの充足性について

ア 証拠(甲5)によれば,被告製品は,折り畳まれた容器本体が多数重ね

られてケースに収容され,搬送される状態において,そのように収容され

た全ての容器本体とケース内壁とが接する面において,補強リブが突条の

側面の方に傾斜する構成のものであることが認められる。

前記2のとおり,被告製品のパーティング部が折り畳み溝部の側に傾斜

して位置していることからしても,段ボールが押圧されれば,構造上,折

り畳み溝部の側に倒れることは明らかである。

よって,被告製品は,構成要件Cを充足するものと認めることができる。

イ なお,被告は,被告製品のパーティング部について,折り込み時に折り

畳み溝部とケース内壁とが対向する部位において,ケース内壁からの外力

が加わることにより,折り畳み溝部と反対側に傾くように変形すると主張

する(第3の3【被告の主張】(2))。

しかし,被告製品が,被告の主張するような角度でケース内壁に接する

ことを認める証拠はなく(むしろ,甲5によると,被告製品がケースに収

納された状況は,被告が第3の3(2)で主張する状態より,左側に傾いて

いるため,被告製品のパーティング部は,折り畳み溝部の方向に倒れるこ

とが認められる。,被告の主張を採用することはできない。


4 争点1−4(構成要件Dの充足性)について
以下のとおり,被告製品は,本件特許発明構成要件Dを充足する。

(1)構成要件Dの意義について

前提事実(3)のとおり,構成要件Dは,
「該補強リブの先端縁がその倒伏時

に前記突条の頂部よりも高く位置する長さに構成してある」というものであ

る。

本件明細書の段落【0020】(前記3(1))によれば,上記構成は,「突

条4が従来のように補強リブ3から離れて露出する状態になることがなく,

この補強リブ3がケース内壁C1と摺接することになり,前記突条4の頂部

4a及び側面4bは保護され,その結果,薄肉である突条4の頂部4aが直

接にケース内壁C1と接触し,摩損を生じてピンホールを形成するという事

態を回避できる」ものである。

被告は,本件明細書に記載された実施例によれば,構成要件Dについて,

折り込み時において,ケース内壁から加えられた外力により補強リブが変形

し,突条の頂部とケース内部とにより補強リブの先端部が挟持される構成を

いう旨主張する。

しかしながら,本件で【特許請求の範囲】を実施例に記載された構成に限

定する理由は見当たらず,上記被告の主張はそもそも失当である。

また,構成要件Dによる上記作用効果を奏するのに,被告の主張するよう

な構成を備える必要があるとも認めることができない。

(2)被告製品の構成及び構成要件Dの充足性

前記2のとおり,被告製品の補強リブの長さは,その付け根から突条の頂

部ないしその近傍までの距離よりも長いことが認められる。

また,前記3のとおり,被告製品は,折り畳まれた容器本体が多数重ねら

れてケースに収容され,搬送される状態において,そのように収容された全

ての容器本体とケース内壁とが接する面において,補強リブが突条の側面の

方に傾斜する構成のものであることが認められる。
加えて,甲5によれば,被告製品は,折り込まれて多数重ねられて段ボー

ル箱に収容された状態において,パーティング部の先端縁が,折り畳み溝部

の頂部よりも段ボール側に突出して位置することが認められる。

これらのことからすれば,被告製品のパーティング部の先端縁は,構造上,

その倒伏時に折り畳み溝部の先端縁よりも高く位置する長さであることが認

められる。

よって,被告製品は構成要件Dを充足する。

5 争点2−1(本件特許発明は,原告公然実施発明と同一のものであるか)に

ついて

原告従業員が,公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2011年度グッ

ドデザイン賞」に応募するに当たり,原告製品の発売日を平成8年4月1日と

したことは当事者間で争いがない。

しかし,上記応募を担当した従業員であるP1は,陳述書(甲17)におい

て,特許法に関する知識を欠いていたため,特許の出願日を誤って発売日とし

て記載したと述べている。

かえって,甲14,15及び18によれば,原告が原告製品の金型を完成し

たのは,平成8年4月8日以降であることが認められる。

他に,原告が平成8年4月1日以前に原告製品を販売したことを認めるに足

りる適格な証拠はなく,上記従業員の陳述の信用性を否定することはできない。

よって,この点に関する被告の主張には理由がない。

6 争点2−2(本件特許発明は,被告公然実施発明及び乙1発明に基づき,当

業者が容易に発明することができたものであるか)について

以下のとおり,本件特許発明は,被告公然実施発明及び乙1発明に基づき,

当業者が容易に発明することができたものであるとは認められない。

(1)乙1公報に記載された発明(乙1発明)

ア 乙1公報には,以下の記載がある。
「2.実用新案登録請求の範囲

ブロー成形,真空成形,圧空成形等の成型法により成形され,パーティ

ングラインより折り畳み可能な軟質プラスチック容器において,折り畳

み用の折り溝の中心とパーティングラインとの間隔を,成型品の厚みの

薄い点において短く,厚い点において長くし,折り溝の深さを成型品の

厚みの薄い点において浅く,厚い点において深くすることを特徴とする

折り畳み軟質プラスチック容器」

「(c)考案が解決しようとする問題点

前記のような複合容器の内袋たる軟質プラスチック容器としては,ブ

ロー成形,真空成形,圧空成形等の方法により成型された成型品が用い

られ,例えば第1図(a)に示すように,内袋(1)のパーティングライン

(2)に沿い略平行な折り溝(3)が設けられ折り畳みは第1図(b)に示

すように,折り溝(3)より畳んで内袋(1)の折畳み内層(12)を折畳み

外装(11)に重合挿入して行われる。

然しながら,これら内袋は,その成型法の特徴として,平板状態より圧

空又は真空により加工されるものであるから,その厚みは均一でなく,

その場所によって常に厚薄の差違を生ずるものである。従って,内袋の

パーティングラインの場所によって,折畳み状態で運搬等をする時,又

は内容物を収納して使用する時に折り溝部に擦傷,亀裂等が発生し事故

等を起こす欠点があった。

本考案は,従来容器の上記のような問題点を解決し,内袋に改良を加え

て,その強度,耐久性を向上し,事故等を未然に防止する容器を考案す

ることを目的とし研究の結果これを完成したものである。」

「本考案の考案者等は,内袋の強度,耐久性を向上するために,厚みの異

なる各ゾーンにおけるパーティングライン(2)と折り溝(3)との間隔

及び折り溝(3)の深さに設計調整を加えることによって,内袋の強度の
均一化,耐久性の向上を達成したものである。」

イ 前記アによれば,乙1発明の解決しようとする課題は,軟質プラスチッ

ク容器の内袋の厚みが異なり,内袋の強度が不均一となるため,折り溝部

に擦傷,亀裂等が生じるということにあり,その解決の手段は,内袋の厚

みに応じて,パーティングラインと折り溝との間隔及び折り溝の深さに設

計調整を加え,内袋の強度の均一化及び耐久性の向上を図るというもので

ある。

したがって,乙1発明は,パーティングラインの長さとパーティングラ

インの付け根部から折り溝の頂部ないしその近傍までの距離については,

何ら規定するものではない。

前記3及び4のとおり,本件特許発明は,「突条4が従来のように補強

リブ3から離れて露出する状態になることがなく,この補強リブ3がケー

ス内壁C1と摺接することになり,前記突条4の頂部4a及び側面4bは

保護され,その結果,薄肉である突条4の頂部4aが直接にケース内壁C

1と接触し,摩損を生じてピンホールを形成するという事態を回避でき

る」(本件明細書の段落【0020】)ものである。

このような,補強リブ(パーティングライン)により突条(折り溝)が

ケース内壁と接触すること自体を回避するという技術思想についても,乙

1公報からは読み取ることができない。

被告は,乙1公報に記載された図面(実施例の斜視図等)によれば,パー

ティング部の長さが18oであるのに対し,パーティング部の付け根から

折り溝頂部までの距離は19oであるから,乙1発明には「パーティング

ラインの長さは,パーティングラインの付け根部から折り溝の頂部ないし

その近傍までの距離よりも長く設けられている」構成が開示されている旨

主張する。

しかしながら,上記図面の構成が乙1発明の唯一の構成態様であるなど
という記載や示唆は見当たらないし,上記図面の寸法に技術的意義がある

ことを示す記載も全くないから,被告が主張する上記構成を看取すること

ができるとはいえない。

(2)容易想到性

被告は,本件特許発明と被告公然実施発明との相違点(前者は,補強リブ

の長さが,その付け根から突条の頂部ないしその近傍部までの距離よりも長

いのに対し,後者は,そのような構成を有しない。)について,乙1発明を適

用することによって,容易に本件特許発明を発明することができると主張す

る。

被告の上記主張は,本件特許発明と被告公然実施発明の相違点である本件

特許発明構成要件Dを乙1発明が備えていることを前提とするものである。

しかし,前記(1)のとおり,乙1発明は,パーティングライン(補強リブ)

の長さが,パーティングラインの付け根部から折り溝(突条)の頂部ないし

その近傍までの距離よりも長く設けられている構成を開示するものとはいえ

ず,上記前提を認めることができないから,その余の点について検討するま

でもなく,この点に関する被告の主張には理由がない。

7 争点2−3(本件特許発明は,乙1発明及び周知技術に基づき,当業者が容

易に発明することができたものであるか)について

被告は,本件特許発明と乙1発明の相違点について,乙1発明に周知技術

構成を適用することによって,容易に本件特許発明を発明することができると

主張する。

しかし,この点に関する被告の主張は,乙1発明が本件特許発明構成要件

Dを備えていることを前提とするものである。

しかしながら,前記6のとおり,乙1発明は構成要件Dを備えておらず,上

記前提を認めることができないから,その余の点について検討するまでもなく,

この点に関する被告の主張にも理由がない。
8 争点2−4(本件特許には,明確性要件違反があるか)について

以下のとおり,本件特許に明確性要件違反があるとは認められない。

(1)構成要件

被告は,構成要件Bのうち「変形」の意義が不明確である旨主張する。

前提事実(3)のとおり,構成要件Bは,
「前記補強リブを,前記折り込み体

の充填拡張時には前記突条の頂部を被覆するように変形し」というものであ

る。

この文言からすると,「変形」とは,「前記突条の頂部を被覆しない状態か

ら,折り込み体を充填拡張した時には,被覆する状態に形が変わること」を

いうものと解される。

そして,
「前記補強リブを,前記折り込み体の充填拡張時には前記突条の頂

部を被覆する」構成については前記2のとおりであって,
「前記突条の頂部を

被覆しない状態」は,広く当該構成以外の状態をいうものであり,具体的に

は,本件明細書に記載された以下の従来技術の構成などを指すものであるこ

とは,本件明細書から十分に読み取ることができる。

【図12】従来技術を示す軟質プラスチック容器の要部の拡大断面図である。




したがって,上記被告の主張には理由がない。

(2)構成要件

被告は,複数存在するケース内壁のうち,いずれの内壁から突条を保護す

るのかが不特定であるから,構成要件Dの「高く位置する」の意義が不明確

である旨主張する。
しかしながら,前記3のとおり,構成要件Cは,折り畳まれた容器本体が

多数重ねられてケースに収容され,搬送される状態において,そのように収

容された全ての容器本体とケース内壁とが接する面において,補強リブが突

条の側面の方に倒伏するように構成されたものと解されるところ,構成要件

Dがこれと同じ面における構成を規定したものであることは,文言自体から

明らかである。

よって,前記被告の主張にも理由はない。

9 争点2−5(本件特許には,実施可能要件又はサポート要件違反があるか)

について

被告は,本件特許発明構成要件Bの「変形」及び構成要件Dの「高く位置

する」の意義は,いずれも不明確であり,明確性要件違反があるから,実施

能要件又はサポート要件にも違反する旨主張する。

しかしながら,前記8のとおり,本件特許に明確性要件違反があるとは認め

られないから,上記被告の主張は前提を欠いており,理由がない。

10 争点3−1(原告が販売することができた物の単位数量当たりの利益の額)

について

甲19及び20によれば,本件特許発明実施品である原告製品の単位数量

当たりの利益の額は●●●●●円であると認められ,これに反する証拠はない。

11 争点3−2(法102条1項ただし書の事情等の有無)について

(1)原告の実施余力について

原告が,平成21年10月ころ,生産余力が逼迫したため,平成22年3

月ころから,被告との間で,原告製品のOEM供給の可否に関する協議をし

たことについては,当事者間に争いがない。

他方,原告が被告に対しOEM供給を委託したことはなかったことについ

ても当事者間に争いがない上,原告の在庫数量が不足する自体になったとま

で認めるに足りる証拠もない。
かえって,甲28によれば,平成21年4月から平成23年10月までの

間における原告製品の販売数量は1か月当たり概ね●●●個から●●●個の

間で推移しており,平成21年10月に最高の約●●●個を販売したこと,

原告は,同年8月から急激に販売数量が増加したため,そのままの割合で増

加した場合,当初予定していた生産体制では生産対応が困難な場合が生じる

と考えて,被告に対するOEM供給の可否を検討したものの,その後販売数

量は減少し,●●●個から●●●個で推移したことが認められる。

前提事実(4)のとおり,被告製品の販売期間である約2年4か月間におけ

る被告製品の販売数量は合計●●●●●●●●個であり,1か月では約●●

●個である。

そうすると,上記原告製品の販売状況からすれば,原告が上記被告製品の

販売数量を製造販売することは十分に可能であったものと考えられる。

これらのことからすれば,被告製品の販売数量について,原告の実施の能

力を超えた販売数量であったとは認めるに足りない。

よって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。

(2)法102条1項ただし書の事情

原告製品又は被告製品と同様の軟質プラスチック容器に関する市場占有率

は,原告が30.4%,被告が28.6%であることについて,当事者間に争

いがない。

しかしながら,前記(1)のとおり,被告製品の販売数量は,原告の実施

能力の範囲内であったことなどが認められる上,後記のとおり,本件特許発

明について代替技術が存在することを認めるに足りる主張立証もない。

そうすると,被告製品は,本件特許発明実施品である原告製品を代替し

たものと解するのが相当である。

よって,この点に関する被告の主張も採用することはできない。

12 争点3−3,3−5及び4−2(本件特許発明の寄与率)について
以下の事情からすれば,本件特許発明の寄与率は,10%とするのが相当で

ある。

(1)本件特許発明有用性

ア 本件特許発明技術的意義

(ア) 本件明細書には,乙1発明を含む従来技術等について,以下の記載が

ある。

「【0004】

上述の軟質プラスチック容器の構造は,主として,次の構造が特徴と

なっている。

▲1▼ 折り畳み自在の構造として,折り込み体を基体(開閉部がある)

の内側に折り込む時,及び内容物の充填に際して,その基体から他方の

折り込み体が充填圧力(内容物の重量)によって拡張できるように,折

り畳み部に沿って補強リブが形成されている。 この補強リブは,折り

込み体の基体への折り込みに際しても,基体の容器外形を保形して,折

り込みがスムースに行い得る役割をも果たす。」

「【0006】

【発明が解決しようとする課題】

この種の軟質プラスチック容器は,折り畳んで多数を重ね合わせ,段ボー

ル等へ入れて搬送したり,また,個々をケース(段ボール等)に収容し

て内容物を充填して搬送したりする時に,ケース内壁と擦れたり,取り

扱いに際して他物と衝突したりしたときに,その箇所に孔(ピンホール)

が開いてしまうことが多々発生した。」

「【0010】

本発明は,かかる従来技術の問題点に鑑み,内容物の充填時は勿論のこ

と,折り畳み搬送時においても,軟質プラスチック容器の折り曲げ用の

突条の頂部にピンホールが出来ないようにして,充填物の漏れのない搬
送,取り扱いが行い得るようにすることを目的とする。」

(イ) 前記(ア)によれば,補強リブの本来的な用途は, 折り込み体を基体
@

(開閉部がある)の内側に折り込む時,及び内容物の充填に際して,そ

の基体から他方の折り込み体が充填圧力(内容物の重量)によって拡張

できるようにすること及びA 折り込み体の基体への折り込みに際して

も,基体の容器外形を保形して,折り込みがスムースに行い得るように

することにある。

そして,前述したところによれば,本件特許発明の本質的特徴は,こ

のような用途を要する補強リブにより突条を保護し,ピンホールの発生

を防止したところにあることが認められる。

イ 代替技術の存否

被告は,このような本件特許発明の代替技術として,乙1発明及び特開

平8−48364公報(以下「乙10公報」という。)に記載された発明

(以下「乙10発明」という。)がある旨主張するが,以下の理由から,

この主張を採用することはできない。

(ア) 前記6のとおり,乙1発明は,本件特許発明とは課題及びそれを解決

する具体的構成,すなわち技術的思想を異にするものであって,代替技

術であるなどとは認めることができない(むしろ,本件特許発明の前提

とする「従来技術」である。。


(イ) 乙10発明について検討すると,乙10公報には,以下の記載がある。

「【特許請求の範囲

【請求項1】対角方向に対向する二つの稜線と,該稜線の端部のある側

壁面の中央を通る対角線上に形成した接合線とにより,下半部容器を上

半部容器に折り畳んだ立方状体を形成するプラスチック容器において,

接合線に平行で且つ前記二つの稜線の端部より約2〜4p内側より,側

壁面の部分にのみ折り畳み線を設けることを特徴とするプラスチック
容器。」

「【0002】

【 従来の技術】(略)この上半部容器8の内に下半部容器7を折り畳み

やすくするために,稜線1,2及び接合線5,6に沿って全周にわたり

折り畳み線12が設けられているが,この折り畳み線12は均一の厚さ

加工しにくく,また折り畳み線12に横圧が加わった場合折り畳み線

が異常な形状となり,これが他物質と接触し擦れたりすると稀に穴があ

き内容物が漏洩する等の問題が生じた。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題点を解決するため

に種々検討した結果折り畳み線の一部を省略しても十分に折り畳みが

可能であると共に折り畳み線12からの液もれ等のトラブルを解決す

ることができ,本発明を完成したもので,本発明の目的は折り畳みの容

易性を欠くことなく液もれ等のトラブルのないプラスチック容器を提

供することである。

【0004】

【課題を解決するための手段】対角方向の対向する二つの稜線と該稜線

の端部のある側壁面の中央を通る対角線上に形成した接合線とにより

下半部容器を上半部容器に折り畳んだ立方体状のプラスチック容器に

おいて,接合線に平行で且つ前記二つの稜線の端部より2〜4p内側の

部分にのみ折り畳み線を設けることを特徴とすることを特徴とする立

方体状容器である。即ち,キュービティナーにおいて下半部容器を折り

畳みやすくするために設ける折り畳み線を従来のような全周にわたっ

て設けることなく側壁面の限られた部分即ち稜線の端部よりap内側

の位置にのみ設けることによっても折り畳み作業性に何らの支障を生

じることなく,また,横圧による異常形状を発生することなく,したがっ
て 折り畳み線の破損による液もれ等のトラブルを解消することができ

たのであって,apとしては2〜4p程度であり,特に好ましい寸法と

しては約3p程度である。」

【図2】従来のプラスチック容器の使用前の折り畳んだ状態の斜視図




上記乙10公報の記載によれば,乙10発明は,折り畳み線により折

り畳むことが可能なプラスチック容器において,折り畳み線を従来のよ

うな全周にわたって設けることなく側壁面の限られた部分に設けるこ

とにしたものである。

もっとも,折り畳み線の形状は明らかではないし,乙1発明や本件特

許発明が前提とする補強リブに相当する部材を有するかどうかも明ら

かではない。

そうすると,乙10発明は,本件特許発明と同様の課題を解決するた

めの発明であるとはいえるものの,その実施状況や効果について認める

に足りる証拠もないから,本件特許発明を代替するものといえるかは不

明である。

ウ 本件特許発明の作用効果

証拠によれば,原告が原告製品の製造販売を開始した平成8年より前の

平成7年度におけるクレーム総数●●●件のうち折り溝部からの漏れは●
●件であったこと(甲26),これに対し,平成11年度における折り溝部

からの漏れに関するクレームは●件であり,クレーム総数に占める割合は

●●●●%であったこと(甲27の2)が認められる。

これらのことからすれば,本件特許発明は,ピンホールの発生を防止す

るという課題解決において,相応の効果を奏するものであることが認めら

れる。

もっとも,原告製品及び被告製品の1年当たりの販売数量と対比すると,

上記クレーム件数は,総数としてみても極めて数が少ないものである。

(2)原告による宣伝広告

証拠(甲23の1ないし25の2)によれば,原告は,原告製品の販売広

告において,折り畳み自在であること,軽量であること,その他容器の信頼

性を高める工夫がされていることなどとともに,本件特許発明によるピン

ホールリスクの低減効果についても相当の割合を割いていることが認められ

る。

また,軟質プラスチック折り畳み容器自体は,比較的単純な構造のもので

あり,原告も約42年間にわたり製造販売を継続してきたこと(甲28)な

どからすれば,相当に成熟した技術分野であること,そうした状況において

他の競合製品と差別化するために,本件特許発明が相応の価値を有すること

は認められる。

他方において,上記原告の宣伝広告の内容から明らかなとおり,原告製品

又は被告製品の購入に当たっては,ピンホールリスク以外の様々な要因につ

いても考慮されることが認められるし,原告の宣伝広告においても,本件特

許発明によるピンホールリスクの低減効果については「細部機能改良」の項

に記載されていること及び前記(1)ウで検討したところからすれば,本件特

許発明の販売における寄与について,過大に評価することはできないものと

いうべきである。
(3)被告による宣伝広告

証拠(甲3)によれば,被告が,
「20リットル改良品(20A)のご提案

について」と題する書面を顧客らに送付したこと,同書面は,被告現行品か

ら本件特許発明に関する構成を備えた被告製品に改良したことを報告し,購

入を促す内容のものであることが認められる。

このことからすれば,被告製品についても本件特許発明実施による販売

への寄与があったものと推認される。

前記(3)のとおり,原告製品又は被告製品の購入に当たっては,ピンホー

ルリスク以外の様々な要因についても考慮されるものであるとしても,被告

製品における本件特許発明の販売における寄与率についても,原告製品にお

ける寄与率と同等のものと解するのが相当である。

(4)被告製品の販売数の推移

乙31,48によると,被告が「バロンボックス」という製品名で製造販

売していた液体容器について,被告現行品から被告製品に切り替え,その後,

改めて,被告現行品に切り替えたところ,平成20年6月から平成24年2

月までの販売数には,大きな変化はなく,全体として漸増し,その傾向は,

被告製品の販売中止後も変わりないことが窺える。

13 争点4−1(内製品に関し,被告が受けた利益の額)について

(1)売上額

前記第2の1(4)のとおり,内製品の売上額は,合計1億7647万81

54円である。

(2)経費額

ア 争いのない経費

被告が主張する経費のうち以下の費目については争いがない

(ア)荷造費 16万6147円

(イ)運送費 1515万3700円
(ウ)荷造費 604万9759円

(エ)原料費 5365万4630円

(サ)消耗品費 53万4746円

イ ア以外に控除すべき経費

以下の経費については,被告製品の製造に用いられたものであり,かつ,

変動経費に当たるものと,認めることができる(乙20ないし24,35)。

(カ)支払電力料 4万8773円

(ク)支払電力料 743万3162円

(ケ)ガス水道料 16万9178円

(セ)消耗品費 187万9605円

ウ 控除すべきでない経費

以下の費目については,いわゆる固定経費であり,変動経費であるとは

認められないから,経費として控除することはできない。

(オ)賃借料 23万1539円

(キ)賃借料 274万7169円

(コ)広告費 17万3125円

(シ)火災保険料 2万7447円

(ス)販売手数料 4万9935円

エ 控除すべき経費の合計

8508万9700円

(3)限界利益

前記(1)の売上額1億7647万8154円から,前記(2)の変動経費合

計8508万9700円を控除した残額9138万8454円について,内

製品に関し,被告が受けた利益と認めることができる。

14 請求に対する判断

(1)OEM供給品に関する損害賠償
前記第2の1(4)のとおり,OEM供給品の販売数は●●●●●●●●個

であり,前記10のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,●●

●●●円であることが認められる。

また,前記12のとおり,本件特許発明の寄与率は10%が相当である。

そうすると,OEM供給品に関する損害賠償請求は,879万8088円

の限度で理由がある。

〔計算式〕 ●●●●●●●●●×●●●●× ≒

(2)内製品に関する損害賠償請求

前記13のとおり,内製品について被告が受けた利益は,9138万84

54円であることが認められる。

また,前記12のとおり,本件特許発明の寄与率は10%が相当である。

そうすると,内製品に関する損害賠償請求は913万8845円の限度で

理由がある。

なお,OEM供給品の販売による損害額の算定は,内製品と異なり,法1

02条1項に基づく算定が採用されているが,被告は,異なる条件の下,内

製品とOEM供給品を製造販売しているため,両者で異なる損害額の算定方

法を選択することは許されると考える。

(3)弁護士費用に関する損害賠償請求

前記(1)及び(2)の損害額を合計した1793万6933円の約1割に相

当する180万円の限度で弁護士費用に関する損害賠償請求にも理由がある。

(4)遅延損害金の起算日

証拠(乙24,42)によれば,OEM供給品の売上額は,概ね平成23

年3月31日までが合計1億7742万3835円(全体に占める割合約7

3.4%),同年4月分が1712万7600円(同7.1%),同年5月分が

1217万9550円(同5.0%) 同年6月分が1554万1850円
, (同

6.4%),同年7月分が1452万1520円(同6.0%),同年8月分が
484万1730円(同2.0%)であったことが認められる(上記各割合は,

乙24に記載された各月の売上額を前提として計算したものである。。


そこで,OEM供給品に関する損害賠償額879万8088円に弁護士費

用のうち90万円を加えた969万8088円に上記売上額の割合を割り付

けると,概ね平成23年3月31日までの分が712万0923円,同年4

月分が68万7418円,同年5月分が48万8827円,同年6月分が6

2万3774円,同年7月分が58万2823円,同年8月分が19万43

23円であることが認められる

また,証拠(乙34)によれば,内製品の売上額は,平成23年3月31

日までが1億1645万1404円(全体に占める割合約66.0%),同年

4月分が1952万8250円(11.0%),同年5月分が1623万04

00円(9.2%),同年6月分が1857万4950円(10.5%),同年

7月分が500万9950円(2.8%)同年8月分が10万7000円
, (0.

1%),同年10月分が57万6200円(0.3%)であることが認められ

る。

そこで,内製品に関する損害賠償額913万8845円に弁護士費用のう

ち90万円を足した1003万8845円に上記売上額の割合を割り付ける

と,平成23年3月分までが662万4262円,同年4月分が111万0

852円,同年5月分が92万3256円,同年6月分が105万6624

円,同年7月分が28万4988円,同年8月分が6086円,同年10月

分が3万2777円であることが認められる。

したがって,上記各損害額について,翌月1日からの遅延損害金を求める

限度で原告の請求には理由がある。

(5)差止請求

前記第2の1(4)のとおり,被告は,平成23年4月22日,被告製品の

製造を中止し,同年10月31日までに販売も終了したことが認められる。
他方において,被告は,被告現行品の改良品として,被告製品を製造販売

していたものであり,被告製品の製造販売を中止した後は,被告現行品を製

造販売していること,前記のとおり,本件特許権の侵害について争っている

ことからすれば,今後も,被告製品を製造販売するおそれがあるものといわ

ざるを得ない。

そうすると,本件訴えのうち差止請求に関する部分にも理由がある。

15 結論

よって,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部



裁判長裁判官 山 田 陽 三




裁判官 松 川 充 康




裁判官 西 田 昌 吾
(別紙)

製品目録

製品名を「バロンボックス」とする液体容器のうち,被告が平成23年6月から

製造販売した「改良品」