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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21ワ1201特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成18 21405損害賠償等請求事件 判例 特許
平成21ワ18950特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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事件 平成 20年 (ワ) 18769号 特許権差止請求権不存在確認等請求事件
平成 21年 (ワ) 22773号 損害賠償等請求事件
東京都豊島区〈以下略〉
本訴原告(反訴被告)ベ クトリックス株式会社
同訴訟代理人弁護士小長井雅晴
同 駒井知会
同 補佐人弁理 士大滝均東京都文京区〈以下略〉
本訴被告(反訴原告)株 式会社フカサワ
同訴訟代理人弁護士對崎俊一
同 補佐人弁理 士大森泉
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/09/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本訴原告(反訴被告)と本訴被告(反訴原告)との間において,本訴被告反訴原告 が 特許第3999997号の特許権に基づいて 本訴原告 反 () , ,(訴被告)が別紙物件目録記載の製品を販売することを差し止める権利を有しないことを確認する。
2本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,825万1802円及びこれに対する平成20年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求を棄却する。
4本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,本訴,反訴を通じてこれを5分し,その2を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告(反訴原告)の負担とする。
- 2 -6この判決は,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1本訴(1) 主文1項同旨( ) 本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,3397万472, 52円及びうち1392万3540円に対する平成20年7月12日からうち2005万1212円に対する平成22年2月10日から,いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2反訴本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,252万9467円及びこれに対する平成20年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1( ) 本訴事件は,本訴原告(反訴被告。以下「原告」という )が,本訴被告1 。
(反訴原告。以下「被告」という )に対し,?被告が有する雄ねじ部品に 。
関する後記2(2)の特許につき,被告が原告に対して特許権侵害に基づく差止請求権(特許法100条)を有しないことの確認を求めるとともに,?被告が原告の取引先に対して原告の販売する製品が上記特許権を侵害する旨告知したことが不正競争防止法(以下「不競法」という )2条1項14号の。
不正競争に該当するとして,同法4条及び民法709条に基づき,損害賠償金3397万4752円及びうち1392万3540円に対する訴状送達の日の翌日である平成20年7月12日から,うち2005万1212円に対する請求の趣旨拡張の申立書送達の日の翌日である平成22年2月10日から,いずれもその支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
( ) 反訴事件は,被告が,原告に対し,原告が販売する製品が上記特許権の技 2術的範囲に属すると主張して,特許法65条1項後段に基づく実施料相当額の補償金88万3327円及び特許権侵害不法行為(民法709条,特許法102条2項)に基づく損害賠償金164万6140円の合計252万9467円及びこれに対する支払催告における支払期限の翌日で不法行為の後である平成20年1月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
( ,。) 2争いのない事実等 証拠等を掲記した事実を除き 当事者間に争いがない( ) 当事者1ア原告は,ねじ及びねじ付き部品の開発及び販売等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨),,, ,, イ被告は 電気製品 機械 車両等に用いる鋲螺釘を含む工業材料 工具測定具等の販売等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)( ) 被告の特許権2被告は,次の特許の特許権者である(以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権 ,本件特許に係る特許請求の範 」囲の請求項1記載の発明を「本件特許発明1 ,請求項2記載の発明を「本 」件特許発明2」といい,一括して「本件特許発明」という。本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」といい,その特許公報(甲2)を別紙として添付する。)。
ア特 許 番 号特許第3999997号イ発明の名称雄ねじ部品ウ出願日平成14年4月10日エ公開日平成15年10月24日オ登録日平成19年8月17日カ特許請求の範囲【請求項1】「軸部と,この軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し,かつ外周が多角形状とされている皿形の頭部と,この頭部に設けられた第一の駆動穴と,この第一の駆動穴の底部からさらに陥没するようにして前記頭部に設けられた第二の駆動穴とを有してなり,締め付け後に前記頭部が被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプとされており,前記第二の駆動穴に外接する円の半径は前記第一の駆動穴に内接する円の半径より小さくされており,前記第一の駆動穴の外周が前記頭部の外周の近くまでに及んでおり,両外周が互いにほぼ平行とされている雄ねじ部品 」。
【請求項2】「 。」 前記頭部の外周が六角形状とされている請求項1記載の雄ねじ部品( ) 構成要件の分説3本件特許発明構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件( )」〜「構成要件( )」という。)。
AI【請求項1】( ) 軸部と,A( ) この軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し, Bかつ外周が多角形状とされている皿形の頭部であって,( ) 締め付け後に前記頭部が被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプのC頭部と,( ) この頭部に設けられた第一の駆動穴と,D( ) この第一の駆動穴の底部からさらに陥没するようにして前記頭部に E設けられた第二の駆動穴とを有してなり,( ) 前記第二の駆動穴に外接する円の半径は前記第一の駆動穴に内接すFる円の半径より小さくされており,, ( ) 前記第一の駆動穴の外周が前記頭部の外周の近くまでに及んでおりG両外周が互いにほぼ平行とされている( ) 雄ねじ部品。
H【請求項2】。 ( )前記頭部の外周が六角形状とされている請求項1記載の雄ねじ部品I( ) 原告の行為4原告は,平成17年5月ころから平成19年9月30日まで,別紙物件目録記載の各製品(以下「原告製品」という )を,ミヤガワ金属販売株式会 。
社(以下「ミヤガワ金属販売」という )を通じて株式会社ミヤガワ(以下 。
「ミヤガワ」という )に製造させ,西村鋼業株式会社(以下「西村鋼業」 。
という )を経由して旭化成建材株式会社(以下「旭化成建材」という ) 。 。
に販売していた。
その後,本件特許発明実施品であるねじは,ミヤガワが製造し,ミヤガワ金属販売,被告,西村鋼業を経由して,旭化成建材へ販売されている。
( ) 構成要件の充足5原告製品は,本件特許発明構成要件( )〜( )をすべて充足する。 AI3争点〔本訴事件〕( ) 先使用による通常実施権1( ) 特許法104条の3第1項の権利行使の制限 2ア進歩性欠如(特許法29条2項)イ新規性欠如(特許法29条1項1号)( ) 不正競争(不競法2条1項14号)の成否及び損害額3〔反訴事件〕( ) 実施料相当額の補償金支払請求の可否及び補償金額,特許権侵害の不法行4為の成否及び損害額第3争点に関する当事者の主張1争点( )(先使用による通常実施権)について1〔原告の主張〕原告は,以下のように,本件特許出願の際,原告製品及び原告製品と同一( 。) 「」 構成 六角形の第1の駆動穴の底部に第2の駆動穴が存在するの ねじ1(甲43。甲24の右端のねじ )の販売に向けた準備をしており,これは本 。
特許発明実施の準備に当たることから,原告は本件特許権について先使用による通常実施権を有している。
( ) 原告代表者は,原告設立以前にオーエスジー株式会社(以下「オーエスジ1ー」という )に勤務していた平成8年ころ,原告製品と同一構成の「ねじ 。
1」を発明した。
原告代表者は,原告設立に当たり,オーエスジーから「ねじ1」の開発及び拡販の業務を承継したことから,オーエスジーにおける「ねじ1」の開発及び拡販行為は,原告の事業の準備とみなされる。
( ) 原告は,平成8年11月,これまでオーエスジーがねじを納入していた旭2化成住建株式会社を訪問し,今後 「ねじ1」については,原告が開発と販 ,。,,「」, 売を行う旨を説明したその後原告はねじ1につき各種試験を行い, , 量産する場合の製作依頼先を選定し 量産に当たっての仕様を検討した結果「ねじ2 (甲24の右から2番目のねじ )の仕様とし,平成11年1月 」 。
以降 「ねじ2」を発注しこれを旭化成建材に継続的に納入した。原告は, ,同年9月,ねじの仕様を「ねじ3 (甲24の右から3番目のねじ )に変 」 。
更し,平成12年7月5日,原告製品の試作品を製作するために「6角座付き4角パンチ (甲6)を発注し,同月25日に納入され,平成14年8月 」には,原告製品を図面化し(甲16 ,旭化成建材に提案した。 )〔被告の主張〕原告の主張は否認ないし争う。
オーエスジーはねじそのものの製造は行っておらず 「ねじ1」は原告代,表者が発明したものではない 「ねじ1」は,平成7年秋に,原告の元代表 。
者であったA(以下「A」という )が試作したものである。また,原告は 。
「ねじ2」を商品化するための準備を行っていたのであり 「ねじ1」につ,いての事業の準備行為はなかった。
平成12年7月,当時原告代表者であったAは「6角座付き4角パンチ」(甲6)の試作を依頼したが,原告製品や本件特許発明のような2つの駆動穴を持つねじの試作のためではなかった。
2争点( )(特許法104条の3第1項の権利行使の制限)について2( ) 進歩性欠如(特許法29条2項) 1〔原告の主張〕本件特許発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である下記の各刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は特許法29条2項に違反し,特許無効審判により無効にされるべきもので,特許法104条の3第1項により,被告は,原告に対し,本件特許権の侵害を理由として権利を行使することはできない。
記?パワーボード通信?4(甲22。公開日:平成11年1月。以下,この刊行物を「甲22刊行物」という )。
?平成12年7月5日付け六角座付四角パンチの設計図面(甲6。以下,この図面を「甲6図面」という )。
?実願昭63-7449号(実開平1-111811号)のマイクロフィルム(甲18の2。公開日:平成元年7月27日。以下,この刊行物を「甲18の2刊行物」という )。
?実願昭47-11664号(実開昭48-87452号)のマイクロフィルム(甲19の2。公開日:昭和48年10月23日。以下,この刊行物を「甲19の2刊行物」という )。
(「」。) ア本件特許発明と甲22刊行物記載の発明 以下 甲22発明 というの共通点及び相違点甲22刊行物には,逆六角錐台形状の頭部外形形状を有するねじが記載されており,このねじは,軸部を有し,六角形状の皿形の頭部を有し,皿形頭部であるためにねじが被締め付け部材にねじ込まれた時にその頭部が被締め付け部材の表面に飛び出さない「沈頭タイプ」であり,ねじを駆動する駆動穴を有するねじであることから,甲22刊行物には,本件特許発明構成要件( )〜( ),( ),( )が記載されている。
ADHI, ,,, したがって本件特許発明と甲22発明は構成要件( )〜( )( ) ADH( )を備える点で共通し,構成要件( )〜( )を備えない点で相違する。 I EGイ相違点の検討1(甲6図面)(ア) 甲6図面には,丸棒素材端を押打してねじ頭部を成形するパンチが記載されており,このパンチに対応するダイスとの間に丸棒素材を配置して押打することにより,その間に配置された丸棒素材の端部にねじ頭部が形成されることになる。
甲6図面記載のパンチは,第一駆動穴を形成する六角柱部を有し,また,その先端には,第一駆動穴の底部からさらに陥没して設けられる第二駆動穴が形成される四角柱部を有し,この四角柱部で形成される第二駆動穴に外接する円は,前記六角柱部で形成される第一駆動穴に内接する円より小さい。したがって,甲6図面記載のパンチと甲22発明のねじを製作するダイスとによって製作されるねじは 構成要件( )及び( ) ,EFを備える。
また,甲22発明の対辺長10.5?の六角形外周のねじに対し,規格上最適な8?の六角レンチ穴である第一駆動穴が形成されることになるから 製作されるねじの頭部外周と第一駆動穴の外周とは近接し第 , ,「一駆動穴の外周が前記頭部の外周の近くまで及」ぶ。そして,甲22発明の六角形状のねじ頭を製造するダイスに甲6図面記載のパンチを用いてねじを製作する場合には,通常のねじ職人ならば,パンチの六角柱部の辺と六角形のねじ頭の外周辺とが平行になるようにパンチとダイスの角度を調整して設置するのが通常であるから,甲22発明のねじを製造するダイスと甲6図面記載のパンチを用いて製作されたねじは,第一駆動穴の外周と頭部の外周が「互いにほぼ平行」となり,構成要件( )をG備える。
(イ) 甲22刊行物には構成要件( )〜( ),( ),( )が開示され,かつ,ADHI甲22発明のねじを製造するダイスと甲6図面記載のパンチを使用して製作されるねじは,構成要件( )〜( )のすべてを備える。
AIしたがって,当業者は,甲22発明に甲6図面を組み合わせることにより,逆六角錐台形状の頭部表面に六角形状の第一駆動穴とその底部に四角形状の第二駆動穴を有する本件特許発明構成要件を備えたねじを容易に発明することができたといえる。
ウ相違点の検討2(甲18の2刊行物,甲19の2刊行物)(ア) 甲18の2刊行物には,第一駆動穴及び第二駆動穴を有するねじの1種であるボルトが記載されており,第二駆動穴に外接する円の半径が第一駆動穴に内接する円の半径より小さいものであるから,甲18の2刊行物記載の発明(以下「甲18の2発明」という )は,構成要件( ) 。
E及び( )を備えている。 F甲19の2刊行物には,頭部外周が六角形状で,駆動穴も六角形状のボルトが記載されており,その頭部外周と駆動穴の外周は近接し,両外周は互いにほぼ平行であるから 甲19の2刊行物記載の発明 以下 甲 , (「19の2発明」という )は,構成要件( )を備えている。 。
Gまた,本件特許発明の効果である「一方の駆動穴損傷に対する補完」や「2つの駆動穴の同時使用」については,甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物にも同様の「二つの駆動穴の同時使用」の作用効果が記載されている 「二つの駆動穴の同時使用」が可能であれば 「その一方 。 ,の駆動穴が損傷した場合には,他方の駆動穴で駆動を補完できる」ことは当然である。
(イ) 甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物に記載された目的ないし作用効果を勘案すると,本件特許発明と甲18の2発明,甲19の2発明が達成する作用効果は共通し,解決すべき課題も共通することから,当業者は,甲22発明,甲18の2発明及び甲19の2発明に基づき,本件特許発明容易に発明することができたといえる。
〔被告の主張〕ア甲22刊行物記載のねじは,頭部に円形の圧痕があるが,これは駆動穴ではないため駆動穴を1つしか有しておらず,また,その駆動穴の外周は頭部の外周の近くまで及んでおらず,両外周は互いにほぼ平行とされていないため,本件特許発明構成要件( )〜( )を備えていない。
DG本件特許発明と甲22発明は,構成要件( )及び( )の頭部が皿形で沈 BC頭タイプとされており,かつ,外周が多角形状(六角形状)とされているという点に関しては,形式的に構成が一致するが,甲22発明のねじは,旧来のトリミングを行う方法(大きな円形の頭部を圧造により作製した後に,円形の頭部の外側部分を切り落とす方法により六角形状の頭部を作製する方法)により作製されている。そのため,本件特許発明と異なり,頭部を塑性加工することにより,頭部を円形に作製する場合よりも材料の肉の移動量を少なくし,頭部の加工に用いるヘッダ等の機械として小型の能力の小さい機械を使用することを可能とし,コスト低減及び軽量化を図るという作用効果は得られない。
イ甲6図面は内部文書であり刊行物ではない。また,甲6図面を作成したディー・アイ株式会社は守秘義務を負っており,甲6図面の記載事項は公知ではない。
しかも,甲6図面に記載されているのはパンチのみであり,どのようなダイスで,どのような素材に対して,どのような加工を行うかは記載されていないため,当該パンチによりどのようなねじが作製されるのかは全く不明であり,本件特許発明構成要件は開示されていない。
ウ本件特許発明は,第一又は第二の駆動穴の一方が損傷しても残る一方の駆動穴で雄ねじ部品を駆動できるようにすることを意図しているのに対し,甲18の2発明においては,両方の駆動穴を同時に使用してボルトを回転させることを意図しており,本件特許発明と甲18の2発明とは,発明の目的が根本的に異なっており,沈頭タイプの雄ねじを対象とする本件特許発明とボルトとレンチを対象とする甲18の2発明は技術分野も異なる。
また,本件特許発明は,?頭部が皿形で沈頭タイプとされており,かつ外周が多角形状(六角形状)とされている点,及び?第一の駆動穴の外周が頭部の外周の近くまでに及んでおり,両外周が互いにほぼ平行とされている点において,甲18の2発明と構成が相違している。そして,本件特許発明は上記構成を備えていることにより格別な作用効果を得られるのに対し,甲18の2発明はそのような効果を得られない。
エ甲19の2発明は,頭部の外周が多角形状(六角形状)となっている点は本件特許発明と共通するが,外側駆動方式及び内側駆動方式の両方を採用することを前提としているのに対し,本件特許発明は,頭部が皿形で沈頭タイプとされており,内側駆動方式のみを採用し,外側駆動方式は採用しないことを前提としている。内側駆動方式の場合と外側駆動方式の場合とでは,ねじの頭部の外周の機能が根本的に相違する。この駆動方式の相違に基づき,本件特許発明と甲19の2発明とでは,頭部の外周を多角形状(六角形状)とする目的及び作用効果を根本的に異にしており,甲19の2発明では本件特許発明の上記?の構成に基づく上記アの作用効果を得られない。
また,甲19の2発明はボルトを対象としており,沈頭タイプの雄ねじを対象とする本件特許発明とは技術分野が異なる。
オ本件特許発明では外側駆動は行わないため,第一の駆動穴の外周の形状及び寸法さえ精度よく加工すればよく,頭部の外周は形状及び寸法を精度よく加工する必要がないため,上記?の構成を採り,軸方向に見た場合の第一の駆動穴の面積をできるだけ大きくし,かつ,第一の駆動穴の深さをできるだけ深く取ることを可能とし,頭部の重量を最大限に減少しできるだけ軽量化するとともに,第一の駆動穴を使用する際,該駆動穴とドライバービットとの間の接触面積を大きくし,ドライバービットから伝達され。, る駆動トルクを大きくする等の作用効果を得ることができる これに対し甲19の2刊行物の第1図のように,外周を頭部の外周の近くまでに及ばせた六角穴3を加工することは,生産技術上及びコストの面から全く不可能である。
また,甲19の2刊行物の第1図記載のボルトは,外側駆動及び内側駆動を行うため,六角頭部2の外周と六角穴3の外周との両方の形状及び寸法を精度よく加工する必要があるが,六角頭部2の外周と六角穴3との間には薄い肉しか残らないことになるため,圧造加工のみで頭部を加工するにしても素材を大きく変形させる必要があり,素材の塑性流動を所望どおりに実現することは非常に困難となるため,現実には六角頭部2の外周及び六角穴3の外周の両方の形状及び寸法を精度よく加工することは不可能である。トリミングを行うにしても,六角頭部2の外周と六角穴3との間には薄い肉しか残らないようにして,頭部の残存部分を不正変形させることなく,精度よくトリミングを行うことは非常に困難である。
仮に甲19の2刊行物の第1図のようなボルトを作製できたとしても,大きな六角穴3の存在により首元の強度が不足してしまう。また,六角穴3の外周が頭部2の外周に近いため,外側駆動の際に六角穴3の外周と頭部2の外周との間の部分が内方(六角穴3内)に陥入するように変形し,ボルトの駆動が不可能になるおそれがある。そして,このように変形した場合,六角穴3も同時に変形してしまい,内側駆動も不可能になってしまうという致命的欠陥が生じる。
一方で,甲19の2刊行物には,第1図以外に駆動穴の外周を頭部の外周の近くまでに及ばせ,両外周を互いにほぼ平行とするという記載はないし,モンキー及びL型ハンドルのいずれの工具を使用してもボルトの締め付け,締め戻し作業を可能とするという当該発明の目的上,そのような構成とする必然性も全くない。
このような事情から,甲19の2刊行物の外周を頭部の外周の近くまで, , に及ばせた六角穴3を描いた第1図は ねじの技術をよく知らない素人が六角頭のボルトに六角穴を設けるというイメージのみを持って描いてしまった現実離れした漫画的な図といわざるを得ないものである。ねじの当業, 。 者からみれば 六角穴3は深く小さいものとしなければならないのである以上のことから,真の意味で甲19の2刊行物で開示されているのは,六角頭のボルトに六角穴の駆動穴を設けるという技術的思想のみであり,駆動穴の外周を頭部の外周の近くまで及ばせ,両外周を互いにほぼ平行とするという技術的思想は,甲19の2発明には存在しない。したがって,甲19の2発明は,甲22発明及び甲18の2発明と組み合わせて本件特許発明に至る動機付けとはならない。
カ皿形の頭部の場合,頭部の厚みが外周では薄くなるため,広い多角形状の駆動穴を設けると駆動穴の底部のエッジが頭部の皿形を構成する斜面と接近し,この接近部分の肉が薄くなるため,駆動穴と頭部の強度を確保することが困難になる。また,頭部を圧造する際には,金型(ダイス)に素,() , 材を挿入し 素材に雄型 パンチ を衝突させて素材を塑性変形させるが頭部が六角柱や円柱状をなす場合は,頭部の厚みが均等なため,加工時に素材がクッションとしての機能を十分果たすのに対し,皿形の頭部の場合は,前述のように一部で肉が薄くなり,パンチのエッジとダイス皿面との距離が接近しすぎて素材がクッションとしての機能を十分に果たさないため,金型及びパンチに大きな衝撃が作用し,破壊されやすくなる。したがって,本件特許出願前の技術水準では,頭部が皿形の場合は,多角形状の駆動穴を設ける加工自体が,その駆動穴が浅くてもやってはならない加工であった。
本件特許発明は,頭部の斜面の角度,頭部の圧造加工方法等を種々工夫し,試行錯誤を繰り返すことにより,上記の加工上の困難性を克服して完成に至ったものである。このことからも,甲19の2発明は,甲22発明及び甲18の2発明と組み合わせて本件特許発明に至る動機付けとはならない。
キ以上のように,形式的ないしは表面的には構成が同一であるように見えても,ねじの技術上,本質的な相違がある等の理由により,甲22発明,甲18の2発明及び甲19の2発明に基づいて本件特許発明を想到する動機付けは存在しないから,本件特許発明は,当業者といえどもこれらの発明に基づいて容易に発明できたものではない。
( ) 新規性欠如(特許法29条1項1号)2〔原告の主張〕ア甲37図面,甲40の1図面に基づく主張本件特許出願前である平成10年3月12日に作成され同日に原告に送付されたねじ図面(甲37。以下「甲37図面」という,平成13年。)8月29日に作成され同日に有限会社ソーイに送付されたねじ図面(甲4。「」。) , 0の1以下甲40の1図面というにそれぞれ記載された発明は以下のように本件特許発明構成要件( )〜( )のすべての構成を備え,AI本件特許発明同一の発明である。したがって,本件特許発明新規性欠如を理由として特許無効審判により無効とされるべきものであり,特許法104条の3第1項により,被告は原告に対し,本件特許権の侵害を理由として権利を行使することはできない。
(ア) 甲37図面には,以下の構成の発明が記載されている。
)軸部と,a1)この軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し, b1かつ外周が六角形状とされている皿形の頭部であって,)締め付け後に前記頭部が被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプのc1頭部と,)この頭部に設けられた六角形状の第一の駆動穴と,d1)この第一の駆動穴の底部からさらに陥没するようにして前記頭部に e1設けられたエイトポイント形状の第二の駆動穴とを有してなり,)前記第二の駆動穴に外接する円の半径は前記第一の駆動穴に内接すf1る円の半径より小さくされており,,g1 )前記第一の駆動穴の外周が前記頭部の外周の近くまでに及んでおり両外周が互いにほぼ平行とされている)雄ねじ部品。
h1)前記頭部の外周が六角形状とされている雄ねじ部品。 I1(イ) 甲40の1図面には,以下の構成の発明が記載されている。
)軸部と,a2)この軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し, b2かつ外周が六角形状とされている皿形の頭部であって,)締め付け後に前記頭部が被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプの c2頭部と,)この頭部に設けられた六角形状の第一の駆動穴と,d2)この第一の駆動穴の底部からさらに陥没するようにして前記頭部に e2設けられた四角形状の第二の駆動穴とを有してなり,)前記第二の駆動穴に外接する円の半径は前記第一の駆動穴に内接すf2る円の半径より小さくされており,,g2 )前記第一の駆動穴の外周が前記頭部の外周の近くまでに及んでおり両外周が互いにほぼ平行とされている)雄ねじ部品。
h2)前記頭部の外周が六角形状とされている雄ねじ部品。 I2(ウ) 構成要件( )の頭部外周が「多角形状」であることは,六角形状であ Bることの上位概念であるから,甲37図面及び甲40の1図面に記載されたねじの頭部外周は「多角形状」である。
構成要件( )の「沈頭タイプ」については,外周が多角形状の皿形頭C部を持つねじであれば,被締め付け部材との接触面が皿状となり,被締め付け部材が柔らかな材質のものである限り,その構造上,被締め付け部材にねじ込まれた際にねじの頭部表面が被締め付け部材の表面に沈頭するものであり,甲37図面及び甲40の1図面に記載されたねじは,六角形状の皿形の頭部を有するものであるから 「沈頭タイプ」のねじ ,である。
また,構成要件( )の「第二の駆動穴」の形状については,本件特許E発明において何らの限定はなく,どのような形状のものであっても含まれる。そして,甲37図面及び甲40の1図面には,駆動穴として機能する穴が,六角形状の第一の駆動穴とは別個に,その第一の駆動穴の底部に陥没して形成されており,第一の駆動穴の底部に陥没して第二の駆動穴が設けられている。
このように,本件特許発明構成要件( )〜( )のすべての構成が,AI甲37図面,甲40の1図面に記載されている。
また,甲37図面を作成した宮川金属工業株式会社,図面の送付を受けた原告,甲40の1図面を作成した株式会社山口製作所,図面の送付を受けた有限会社ソーイは,本件特許発明発明者,出願人との関係で秘密保持義務を負うものではないから,甲37図面,甲40の1図面に記載された発明は,本件特許出願前に「公然知られた」ものであった。
イ「ねじ1 (甲43)に基づく主張 」本件特許出願前である原告設立時 平成8年10月 に存在していた ね ()「じ1 (甲43)は,以下のように本件特許発明構成要件( )〜( )のす 」AIべての構成を備え,本件特許発明同一の発明である。したがって,本件特許発明新規性欠如を理由として特許無効審判により無効とされるべきものであり,特許法104条の3第1項により,被告は原告に対し,本件特許権の侵害を理由として権利を行使することはできない。
(ア) 「ねじ1」は,以下の構成を備えている。
)軸部と,a3)この軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し, b3かつ外周が六角形状とされている皿形の頭部であって,)締め付け後に前記頭部が被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプのc3頭部と,)この頭部に設けられた六角形状の第一の駆動穴と,d3)この第一の駆動穴の底部からさらに陥没するようにして前記頭部に e3設けられた菊形形状の第二の駆動穴とを有してなり,)前記第二の駆動穴に外接する円の半径は前記第一の駆動穴に内接すf3る円の半径より小さくされており,, g3 )前記第一の駆動穴の外周が前記頭部の外周の近くまでに及んでおり両外周が互いにほぼ平行とされている)雄ねじ部品。
h3)前記頭部の外周が六角形状とされている雄ねじ部品。 I3(イ) 上記ア(ウ)と同様の理由から 「ねじ1」は,本件特許発明の構成要 ,件( )〜( )のすべての構成を備えている。
AI「ねじ1」は,試作品として製作されたもので,逆六角錐台の六角外形に対し,六角座付きパンチで六角穴を形成したものである。そして,逆六角錐台の六角外形に対して,六角座付きパンチで六角穴を形成する場合には,通常のねじ業者ならば,頭部の外周と第一駆動穴の外周が平行になるように製作するのが常套であり,実際,両外周が平行な製品として提案し,試作品の作製を依頼したものであるから 「ねじ1」の両,外周は「ほぼ平行」であり構成要件( )を備えている。
Gまた,原告代表者は 「ねじ1」の現物を持参して拡販の提案を各社 ,に行ったり,ねじ製造メーカー各社に「ねじ1」を見せており,これらの会社は,原告代表者との関係で提案された「ねじ1」の形状について秘密保持義務が課されることはなかったし,本件特許発明発明者,出願人との関係でも秘密にする義務はなかったのであるから 「ねじ1」,の形状は,原告代表者が拡販又は製造のため「ねじ1」を各社に見せた段階で「公然知られた発明 (特許法29条1項1号)であった。 」〔被告の主張〕ア甲37図面,甲40の1図面に基づく主張に対し(ア) 甲37図面に記載されたねじ頭部に形成された六角形状の凹部は駆動穴ではなく,構成要件( )〜( )が開示されていない。この凹部の深さDG1.20.211.4 1は「±」であり,?から?の範囲で想定されているが,?の深さでは駆動穴として機能しようがない。
また,甲37図面の六角形状凹部は約?の寸法とされているが, 7.5この寸法に対応する規格の六角棒スパナは存在しない。この事実も JISこの凹部が駆動穴でないことを示している。
(イ) 甲40の1図面は,原告を退職したAが,ねじが長くてもバランスが取れるよう,ねじ頭部にボリュームを持たせるために大きめの「圧痕」を形成したねじを試作するために作成させた図面であり,頭部に第一及び第二の駆動穴を設けるとの発想で作成させたものではない。
(ウ) 甲37図面及び甲40の1図面は,いずれも試作ねじの図面であり,これらの図面に関与しているのは,甲37図面については原告と宮川金属工業株式会社,甲40の1図面についてはA,有限会社ソーイ,株式会社山口製作所らの試作品発注者と受注者である。このような状況下であれば,これら図面は社会通念上も商慣習上も秘密扱いにすることが当,「」 然の前提であったものといえ 特許法29条1項1号公然知られたものには該当しない。
イ「ねじ1 (甲43)に基づく主張について 」「」 。 , ねじ1 は公然知られたねじではない 商品化を検討している段階で「ねじ1」が原告が主張する関係会社に現物として示されたことはない。
仮に,原告が主張するような事情で「ねじ1」の現物が示されていたとしても,この程度の内容で特許法29条1項1号の「公然知られた」ものに該当するものではない。
3争点( )(不正競争(不競法2条1項14号)の成否及び損害額)について3〔原告の主張〕( ) 被告は ミヤガワ金属販売に対して 平成19年8月20日付けの書面 甲1 , , (3)により,原告製品が本件特許権を侵害する旨の事実を告知した。
また,被告は,ミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対して,平成19年9月18日付けの「警告書」と題する内容証明郵便(甲4)により,原告製品が本件特許権を侵害する旨の告知をした上で,原告製品の製造及び販売を直ちに停止し,その後の製造及び在庫の出荷を含めた販売全般について被告の指示に従うように警告した。
( ) 不競法2条1項14号の虚偽事実告知行為は,特許権を有する者であった2としても,他社製品の得意先に対して特許権を侵害する旨の通知を行った後に当該製品が非侵害品であることが判明したり,特許が無効とされたりした場合にも該当する。
上記1及び2の〔原告の主張〕のとおり,原告は本件特許権につき通常実施権を有し,又は本件特許は無効とされるべきものであるため,原告が原告製品を販売することは何ら本件特許権を侵害するものではないため,上記各告知はいずれも虚偽の事実を告知するものであり,また,原告が販売する原告製品の評価を著しくおとしめるもので競争関係にある原告の信用を害するものであるから,不競法2条1項14号の不正競争に該当する。
また,被告は,原告の元代表者であるAが原告から不正に持ち出した原告製品の思想,情報,技術等を取得し,これらを使用して本件特許を登録した, , ものであるから 原告がミヤガワ金属販売及びミヤガワに対し発注して製造販売させていた原告製品は本件特許権を侵害しないことを知っていたか,知らないことに過失があった。
被告は,本件特許権を取得すると直ちに原告の外注先であったミヤガワ金属販売及びミヤガワに上記書面を送付し,両社が原告との間で原告製品の取引を行うことを中止させた。
さらに,被告は,原告の元代表者Aを通じて,原告が原告製品を納入して( , いた旭化成建材 中途に西村鋼業という建設資材の販売会社が介在するため原告の直接の販売先は同社となる )に対し,取引先を原告から被告に変更
するように働きかけて,旭化成建材(及び西村鋼業)の取引先を,平成19年10月1日から被告に変更させた。
( ) 別紙損害額計算表のとおり,原告は,原告製品により平成19年5月分か 3,( ) ら同年9月分まで 合計506万6921円 月額平均101万3384円の純利益を得ていたのであるが,被告の上記虚偽事実告知行為により,同年10月1日からは原告製品の取引が中止され,利益がなくなった。
原告が被告の虚偽事実告知行為により被った損害額は,平成19年10月1日から平成22年1月31日までの28か月間で,合計2837万4752円に上る。
また,原告は,本件訴訟を提起し遂行するためには,専門家である弁護士及び弁理士に依頼するほかなく,その弁護士費用及び弁理士費用は,本件損害額の各々約10%が相当であり,弁護士費用相当の損害額は280万円,弁理士費用相当の損害額は金280万円であり,その合計額は560万円である。
よって,原告は,被告に対し,被告の虚偽事実告知行為による損害賠償として,不競法4条及び民法709条に基づき,上記損害額の合計3397万4752円,及びこのうち1392万3540円に対する訴状送達日の翌日である平成20年7月12日から支払済みまで,2005万1212円に対する請求の趣旨拡張の申立書の送達日の翌日で不法行為の後である平成22年2月10日から支払済みまで,それぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告の主張〕不競法及び不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。
( ) 被告が告知したのは,特許庁において本件特許が特許権として登録された1事実であり,原告製品が本件特許発明技術的範囲に属するという事実である。仮に無効事由が認められるとしても,告知行為の時点において特許権として登録されていることに間違いなく,原告製品が本件特許発明技術的範囲に属することは原告が自認するように明白な真実であったのであり,被告の行為は虚偽事実の告知に該当しない。
上記2の〔被告の主張〕のとおり,原告が主張する無効事由はその全部が失当であり,本件特許の有効性には何らの疑問もないため,被告の告知内容に虚偽はない。
( ) 仮に無効事由が認められ,このことを理由として被告の告知内容が虚偽事2実の告知と認定されるとしても,上記( )の事情に加え,本件は無効が明白 1な事案とはいえず,しかも,原告は本件特許につきロイヤリティを支払って, , 。 いたことから 被告には故意も過失も存在せず 損害賠償義務は成立しないまた,被告の告知は特許権者に認められた当然の権利を行使したものにすぎず,何らの違法性もない。
( ) 原告は,平成19年5月から同年9月までの5か月間の販売数量が同年130月以降平成22年1月までの28か月間継続するとして損害金額を算定しているが,わずか5か月間の販売数量実績のみに基づいて平成19年10月以降28か月間もの販売数量を認定するというのは,特段の事情が立証されない限り合理的ではない。一方,被告は平成19年10月からの28か月間に本件特許発明実施品を継続販売しており,原告が販売し得た数量は,多くとも,被告の販売数量実績を超えるものではないというべきである。この28か月間の被告の販売数量は別紙被告販売数量一覧表記載のとおりである。
しかも,以下に述べる事情によれば,仮に原告が販売を継続していたとしても,その販売数量は被告の販売実積にも到底及ばないというべきである。
ア原告は,甲22刊行物に記載された「ステンレスパワーねじ」の駆動穴が脆弱とのことで,駆動穴の形状を「8ポイントリセス (八角形)から」甲14の1の「四角穴」としたねじを販売していたが,どちらのねじもねじの「谷径」部分が比較的細く強度不足の問題があり,建設現場で使用中に折損する事態を度々起こしていた。そのため,原告はユーザーからの十分な信頼を得られておらず,問題を残したままの状態であった。
イこれに対し,被告が販売したねじは十分な「谷径」を備えていて強度不足の問題を起こしていないばかりか 営業活動を積極的に展開していた 原 , (告は営業活動を何ら行っていなかった。。)ウ商品の販売動向は様々な外的要因に左右されるが,本件特許発明実施品であるねじについては,平成19年6月施行の改正建築基準法の影響に,, よる建築件数の極度な落ち込みによる需要の減少 長期に及ぶ経済の停滞特に平成20年9月のリーマンショック以降の景気の落ち込みによる影響が著しく,いまだ回復傾向がみられない状況にある。上記のように営業努力を惜しまない被告ですら上記の販売実績にとどまっているのであるから,ユーザーに信頼されておらず,何らの営業努力もしない原告が販売していれば,その販売数量が被告の実績に遠く及ばないであろうことは想像するに難くない。
( ) 原告は,粗利から差し引かれる経費を人件費,取扱説明書代,通信費,家4賃と主張している。しかし,これら経費として挙げられている金額は5か月間の金額であるにすぎない。販売数量同様,純利益についても,わずか5か月間の実績で28か月分を算定するのは不合理である。
しかも,原告が主張するように人件費や家賃を経費とするのであれば,いわゆる販売管理費の全体が明らかにされるべきである。担当役員1人と担当事務員1人だけで原告が維持されている訳ではないし,事務所家賃を担当の人員数で按分することには合理性がない。
( ) 原告における,平成17年11月期の総売上額に占めるねじ売上額の割合5は52.4%,ねじの粗利益率は21.71%であり,平成18年11月期ではそれぞれ42.85%,20.94%であり,平成19年11月期ではそれぞれ37.76%,21.70%である一方,各期における販売管理費の額を総売上額に占めるねじの売上額の割合で按分すると,その数値はねじ販売の粗利益の額より多額であり,各期を通じてねじ販売部門としては経常ベースで赤字であり利益が出ていないため,原告の決算内容から利益額を算定することはできない。強いて得べかりし利益の額を算定するとすれば,業界における平均的な利益水準を採用する以外にない。
当業界における売上高に対する純利益率は4.3%程度が相場であり,本件においてもこの料率が適用されるべきである。
日本ねじ商業協同組合連合会は,東京鋲螺協同組合,神奈川県鋲螺協同組合,愛知鋲螺協同組合,大阪鋲螺卸商協同組合の4つの協同組合から成る連合会であり,全国のねじ商社から成る連合会である。この連合会では,ねじ流通商社の経営実態調査を長期にわたって行っているが,平成20年4月1日から平成21年3月31日までの1年間を調査期間として,所属会員4組合355社を対象として実施した調査結果が発表されており,これによれば回収率は76%(269社)であって,売上高に対する経常利益率は,愛知鋲螺協同組合分が総平均で4.3%とされている。
本件特許発明実施品であるねじは,旭化成建材向けの製品として販売されているものであるが,その関係で,取引条件は旭化成建材との間で決まるものであり,いわゆる大口需要者への一括販売と同じ性格の取引といえる。
上記4協同組合の中では愛知鋲螺協同組合に属する商社の取引に同性格の取引が多くあり本件に適切といえる。
( ) 仮に被告に損害賠償義務が認められるとしても,弁護士費用及び弁理士費6用は原告が自己負担すべき範囲内にあり,相当因果関係の認められる損害ではない。本件紛争は,事業者間の取引活動に関するものであり,確かに訴訟提起は弁護士及び弁理士への依頼が不可欠なものの,事業活動の延長線上の訴訟としてその費用は各事業者の自己負担が前提とされていると解するのが取引社会の通念といえる。
4争点( )(実施料相当額の補償金支払請求の可否及び補償金額,特許権侵害4の不法行為の成否及び損害額)について〔被告の主張〕( ) 本訴請求は,原告製品が本件特許発明技術的範囲に属するものであるこ1とを前提に,原告が先使用権を有しているとの主張,又は本件特許に無効事由があるとの主張を根拠としているが,上記1及び2の〔被告の主張〕のとおり,これら主張はいずれも認められないところ,原告は,原告製品を少なくとも次のとおり販売した。
ア原告製品のうち,パワーねじ60を,平成19年2月1日から同年8月16日までの間に合計2521万8800円分,同月17日(本件特許権の登録日)以降同年9月30日までの間に合計806万6800円分を販売した。
イ原告製品のうち,パワーねじ70を,平成19年4月1日から同年8月16日までの間に合計181万3760円分,同月17日以降同年9月30日までの間に合計101万5040円分を販売した。
ウ原告製品のうち,パワーねじ80を,平成19年5月1日から同年8月16日までの間に合計140万9760円分を販売した。
エ原告製品のうち,パワーねじ90を,平成19年4月1日から同年8月16日までの間に合計100万1920円分,同月17日以降同年9月30日までの間に合計100万1920円分を販売した。
( ) 本件特許発明は,平成15年10月24日に出願公開されているが,原告2は,平成17年5月以降原告製品を販売し,この販売につき被告に対して本件特許発明実施対価を支払っており,原告製品が本件特許発明技術的範囲に属することを承知していたにもかかわらず,その後の上記( )の期間の1各販売について対価の支払を中止したものであるから,この対価の支払を止めた期間の販売については特許法65条1項後段に基づく実施料相当額の補償金支払義務がある。そして,上記( )の販売実績によれば,この補償金支1払対象期間内の原告製品販売代金総額は2944万4240円となり,実施料相当額は少なくともこの総額の3%である88万3327円となるため,原告は,同額の補償金支払義務を負う。
( ) また,本件特許権は平成19年8月17日に登録されたため,同日以降の3原告製品の販売は本件特許権を侵害する。上記( )ア,イ,エのとおり,特 1許権侵害の対象となる期間内の原告製品の販売代金総額は1008万3760円であり,この販売(特許権侵害)によって原告が受けた利益は少なくとも164万6140円を下らないため,特許法102条2項に基づき,原告は被告に対し少なくとも同額の損害賠償義務を負う。
( ) したがって,被告は,原告に対し,上記補償金及び損害賠償金の合計2542万9467円及びこれに対する原告への支払催告による支払期限の翌日で不法行為の後である平成20年1月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔原告の主張〕被告の主張は否認ないし争う。
( ) 上記2のとおり,本件特許は無効とされるべきものであり,被告は,原告1, 。, に対して 本件特許権に基づく権利を行使することができない したがって本件特許の特許出願についての出願公開に基づく補償金の請求も理由がない(特許法65条6項,104条の3第1項 。)( ) 原告から被告への金員の支払は,原告の元代表者であるAが勝手に行って2いたものであり,原告の預かり知らぬことである。原告が被告に金員を支払っていたとしても,それは特願2002-291698号に関するものであり,本件特許権とは全く関係のないことである。したがって,原告が「出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って」いたことにはならない。
第4当裁判所の判断本件事案にかんがみ,争点( )アから検討する。 21争点( )ア(進歩性欠如)について 2( ) 甲22刊行物の記載1本件特許出願前に頒布された刊行物である甲22刊行物には,以下の内容が記載されている。
「」 ,, ?パワーボードの取付固定ねじである ステンレスパワーねじ は 軸部と当該軸部の後端部に設けられていて軸部より径方向に突出した頭部とを有する雄ねじであること。
?「ステンレスパワーねじ」の頭部は,その外周が六角形状とされており,頭部の頂面が側面視で平らであり,軸部側が逆六角錐台形状をしていること。
?「ステンレスパワーねじ」の頭部には,円形状の凹部が形成されており,当該円形状の凹部の底部からさらに陥没するようにして,8ポイントリセス(ねじ穴)が形成されており,この8ポイントリセスについて 「四角,ビットが容易に使えるリセスを採用「パワーねじのリセス(ねじ穴) 」,は,8ポイント穴を採用しています。他のビットでは施工できません 」。
と説明されていること。
?「ねじ頭は,パワーボードの表面より少し沈み込んだ位置まで打ち込みます」と説明されていること。
( ) 甲22刊行物記載の発明2上記( )の記載から,甲22刊行物には,少なくとも下記ア〜カの構成を1有する雄ねじに関する発明(以下「引用発明」という )が開示されている。
と認められる。
なお,被告は,甲22刊行物記載のねじは旧来のトリミングを行う方法により作製されているため本件特許発明と同様の作用効果は得られないと主張するが,甲22刊行物には「ステンレスパワーねじ」の作製方法については何らの記載もなく,他に上記事実を認めるに足りる証拠はないから,被告の主張はその前提において採用することができない。
記ア軸部と,イこの軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し,かつ外周が正六角形とされ,その頂面が側面視で平らで,軸部側が逆六角錐台形状とされた頭部であって,ウパワーボードへの締め付け後に前記頭部が被締め付け部材であるパワーボード内に沈み込むタイプの頭部と,エこの頭部に設けられた円形状の凹部と,オこの円形状の凹部の底部からさらに陥没するようにして前記頭部に設けられた8ポイントリセス(ねじ穴)とを有してなる,カ雄ねじ部品であるステンレスパワーねじ。
( ) 本件特許発明2と引用発明との対比3,「」,「」, 本件特許発明2と引用発明とを対比すると 引用発明の 軸部頭部「, 」, 頂面が側面視で平らで 軸部側が逆六角錐台形状 とされた頭部の形状は本件特許発明2の「軸部「頭部「皿形の頭部の形状」にそれぞれ相当 」,」,する。
また,引用発明の「8ポイントリセス」は四角ビットをはめて,ステンレスパワーねじを駆動回転させるために使用されるものであるから,本件特許発明2の「駆動穴」に相当する。
さらに,引用発明は,ねじ頭部がパワーボード内に沈み込むものであるから,被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプであると認められる。
したがって,本件特許発明2と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
〔一致点〕「軸部と,この軸部の後端部に設けられていて前記軸部より径方向に突出し,かつ外周が多角形状とされている皿形の頭部であって,締め付け後に前記頭部が被締め付け部材内に沈み込む沈頭タイプの頭部と,この頭部に設けられた駆動穴とを有してなる,雄ねじ部品 」である点。
「前記頭部の外周が六角形状とされている雄ねじ部品 」である点。
〔相違点〕ア相違点1本件特許発明2では,駆動穴として,第一の駆動穴と,この第一の駆動穴の底部からさらに陥没するようにして頭部に設けられた第二の駆動穴とを有しており,前記第二の駆動穴に外接する円の半径は前記第一の駆動穴に内接する円の半径より小さくされているのに対して,引用発明においては,駆動穴として8ポイントリセスを有するのみである点イ相違点2本件特許発明2では,第一の駆動穴の外周が頭部の外周の近くまでに及んでおり,両外周が互いにほぼ平行とされているのに対して,引用発明においては,8ポイントリセスを有するのみであって,当該8ポイントリセスの外周が頭部の外周とほぼ平行とされているとはいえない点( ) 相違点についての判断4そこで,上記相違点1及び2に係る構成について,当業者が容易に想到できたものであるか否かについて検討する。
ア相違点1について(ア) 甲18の2刊行物には,以下の記載がある(下線は判決において付加した。。)「考案の詳細な説明<産業上の利用分野>六角柱部を有するレンチと結合し,該レンチを回転させることにより,回転してネジが締緩する六角穴付ボルト,六角穴付止メビス等の頭部に六角穴を有するボルト,及び該ボルトに係合するレンチの改良に関するものである(明細書1頁17行目〜2頁3行目) 。」「<従来の技術>従来からボルトにレンチを結合させ,該レンチを回転させることにより,ボルトを回転させるようにした代表的なものとしては,…ボルト(A)の頭部の端面(B)にレンチを係合する六角穴(C)を該端面(B)より軸方向に沿って窪ませて設けたものであった。
<考案が解決しようとする問題点>ところが,このものは,六角穴(C)の側面(D)にレンチを係合させて回転させるものであるため,この側面(D)にレンチを回転させる際の回転トルクがかかる。このため,例えばボルト(A)の耐力が低いとき,六角穴(C)の深さが浅いとき,あるいは六角穴(C)が小さいとき等に六角穴(C)の側面(D)にレンチの規定以上の回転トルクがかかると,その側面(D)がレンチを支えきれずに破壊され,係合不能となり,その結果,ボルト(A)を回転することができなくなるということがしばしば発生した。本考案はこの様な点に鑑み提案されたものであり,その目的とするところは,レンチの回転トルクに対する耐トルク強度を高めたレンチ係合部を有するボルト及びそのレンチを提供することにある。
<問題点を解決するための手段>そこで本考案は,六角柱部を有するレンチと係合するための六角穴を頭部に設けると共に,該六角穴の下面に更なる該レンチとの係合部である第2係合部を設けたボルトを提供することにより,上記問題点を解決した(同2頁8行目〜3頁最終行) 。」「<作用>本考案においては,レンチがボルトの六角穴と,該六角穴の下面に設けた第2係合部とに嵌挿してボルトの回転方向に対して係合する。
これにより,レンチの回転トルクを六角穴の側面と,第2係合部との双方にかけることができる。従って,ボルトのレンチ係合部は,レンチの回転トルクに対する耐トルク強度を高めることができる(同。」4頁7〜16行目)「<実施例>…本考案のボルト(1)は第1図〜第3図に示すように,下部のネ()()。() ジ部 1a と上部の円筒形の頭部 1b とから成る 頭部 1bには,その上面から軸方向に沿って窪ませたレンチ係合部(10)を設けている。このレンチ係合部(10)はボルト(1)を回転させ,ネジ部(1a)を締緩するレンチ(2 (第4図図示)を嵌挿して係 ),()() 合する部分であり 上部の六角穴 11 と下部の第2係合部 12とから構成している。上部の六角穴(11)は,正六角柱状に凹設されており,レンチ(2)が嵌挿され,ボルト(1)の回転方向に対して係合される。そして,その各側面(11a)…(11a)がレンチ(2)を回転させたときの回転トルクがかかる部分となる。下部の第2係合部(12)は,六角穴(11)の下面(11b)に,該六角穴(11)と相似形をなし且つ,六角穴(11)よりも小さくした正六角柱状に凹設されている。また,六角穴(11)とは同芯となる位置に設けている そしてその各側面 12a … 12a が六角穴 1 。() ()(1)と同様に,後述するレンチ(2)の第2ボルト係合部(21)の回転トルクを受ける部分となる(同5頁11行目〜6頁11行目) 。」「このボルト(1)のレンチ係合部(10)に嵌挿させて係合させるレンチ(2)は第4図に示すようにL字形の棒状体からなり,その一端に,上述のボルト(1)のレンチ係合部(10)に嵌挿する形状を有したボルト嵌合部(20)を備えている。即ち,ボルト嵌合部(20)は,先端にレンチ係合部(10)の第2係合部(12)に嵌挿して係合する第2ボルト係合部(21)が,その対応する形状の六角柱状に形成されて,突出され,その上部に段部を介して,一体的に六角穴(11)に嵌挿して係合する六角柱部(22)が,その対応する形状に形成されている(同6頁13行目〜7頁3行目) 。」「この様にすると,ボルト(1)を,取付部材に装着して締め付ける時等,レンチ(2)を回転した時の回転トルクは,ボルト(1)のレンチ係合部(10)の六角穴(11)の側面(11a)…(11a)と第2係合部(12)の側面(12a)…(12a)との双方にかかることとなる。換言すると,レンチ(2)と,ボルト(1)との係合する部分は 従来のものに較べ レンチ 2 の第2ボルト係合部 2 ,,()(1)が,第2係合部(12)に係合する分だけ増加することとなる。
これにより,ボルト(1)のレンチ係合部(10)は,レンチ(2)の回転トルクに対して,従来よりも耐トルク強度を増大させることが, 。, できるようになり 簡単に破壊されるようなことはなくなる 従ってレンチ(2)に大きな回転トルクをかけてボルト(1)を締緩できるようになり,例えばボルト(1)の耐力が低いとき,六角穴(11)が浅いときも,従来よりも大きな回転トルクで締緩可能となる(同。」9頁16行目〜10頁13行目)「また,本考案のボルト(1)の六角穴(11)の形状,大きさを従来の六角穴と同じにしておくことにより,例えば工場の組立ラインで上述の動力ツール等により締め付ける時は,第2係合部(12)にも係合する本考案のレンチ(2)を使用し,ユーザーが緩める時等は,従来のレンチを六角穴(11)に嵌挿して使用するように,レンチ係() ,,() 合部 10 が破壊される恐れが無いとき あるいはまた ボルト 1,() を強く締め付ける必要が無いとき等は 従来のレンチを六角穴 11のみに嵌挿して使用できるという互換性を有するものである(同。」11頁4〜14行目)(イ) また,甲18の2刊行物の第2図及び第3図からすると,正六角柱状に凹設された第二係合部(12)の上端部が,当該第二係合部(12)に外接する円状に面取りされており,第二係合部(12)に外接する円の半径が六角穴(11)に内接する円の半径より小さいことが認められる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)からすると,甲18の2刊行物には,?レンチ係合部(10)を,六角穴(11)と,当該六角穴(11)の下面に凹設した(),()() 第二係合部 12 とから構成し 六角穴 11 と第二係合部 12とを同時にレンチに嵌合させて締緩を行うことで,レンチの回転トルクに対するレンチ係合部(10)の耐トルク強度を高めるという技術的思想,?第二係合部(12)に外接する円の半径を六角穴(11)に内接する円の半径より小さくした構成が開示されているということができる。
引用発明及び甲18の2刊行物記載の発明は,いずれも雄ねじに関する発明であって同一の技術分野に関するものである。そして,甲18の2刊行物<考案が解決しようとする問題点>の前記下線部分に記載されたように,規定以上の回転トルクが加わると駆動穴が破壊されてしまうという課題が,引用発明においても同様に当てはまることは,当業者であれば容易に理解できることであるから,引用発明の駆動穴(8ポイントリセス)に代えて,甲18の2刊行物に記載された,六角穴と当該六角穴の下面に凹設した第二係合部とから構成された駆動穴を採用し,上記課題を解決しようとすることにつき,当業者であれば十分な動機付けがあったということができる。
そして,上記課題を解決するに当たり,甲18の2刊行物に記載されたように,第二係合部(12)の形状として,六角穴(11)と相似形をなす正六角柱状であって,外接する円の半径が六角穴(11)に内接する円の半径より小さい形状を選択することは,同刊行物の記載に基づいて駆動穴の変更を行おうとする当業者にとって自然な発想というべきであるから,引用発明において,六角穴と第二係合部とから構成される駆動穴を採用する際に,第二係合部に外接する円の半径が六角穴に内接する円の半径より小さい構成とすることは,当業者が容易になし得たといえる。
以上のとおり,引用発明において,頭部に形成する駆動穴として,六角穴と,この六角穴の下面に凹設された第二係合部とから構成され,第二係合部に外接する円の半径が六角穴に内接する円の半径より小さい駆動穴を採用することは,甲18の2刊行物の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たということができ,六角穴及び第二係合部はそれぞれ本「」「」, 件特許発明2の 第一の駆動穴 及び 第二の駆動穴 に相当するため当業者は,相違点1に係る本件特許発明2の構成を容易に想到できたものと認められる。
(エ) 被告は,甲18の2刊行物は,第一と第二の駆動穴を同時に使用することが前提とされたもので,一方の駆動穴が損傷しても他方の駆動穴で駆動できるという技術的思想を内容とする本件特許発明とは異なっている旨主張する しかし 本件特許の各請求項には第一の駆動穴第 。, ,「」,「二の駆動穴」がそれぞれ単独で使用される駆動穴であると限定する記載はなく,また,本件明細書には 【発明の効果】として「より強い回転 ,駆動力を必要とするときは、第一および第二の駆動穴を同時に使用することによって より強い回転駆動力で駆動することができる段落 0 , 」(【040 )と記載されていることからすると,本件特許発明は,第一及 】び第二の駆動穴をそれぞれ単独で使用することばかりでなく,これらを同時に使用する技術的思想を包含していると解するのが相当であり,また,上記(ア)で認定したように,甲18の2刊行物は,六角穴(11)を単独で使用することも開示しているため,被告の上記主張を採用することはできない。
イ相違点2について(ア) 甲19の2刊行物には,考案の詳細な説明として 「本考案はボルト,1の六角頭部2又は円形頭部2’に六角孔3を穿設し螺材部4の先端部に六角孔5を穿設して成る六角孔つきボルトに係るものである 」との。
記載があり(明細書1頁9〜12行目 ,第1図からは,六角孔3の外 )周と六角頭部2の外周が一定の間隔をもって互いにほぼ平行になるように六角孔3が穿設された六角頭部2が認められる。
,, , したがって 甲19の2刊行物には 六角形状の頭部の外周に対してその外周がほぼ平行となるように六角孔を穿設したボルトが開示されているということができる。
(イ) 引用発明及び甲19の2刊行物記載の発明は,いずれも雄ねじに関する発明であって同一の技術分野に関するものであり,かつ,六角形という同一形状の頭部外周を有するものであるから,甲19の2刊行物記載の発明における頭部外周と六角孔の外周の位置関係を,引用発明における頭部外周と駆動穴の外周の位置関係として採用することに,動機付けがあるといえる。
また,雄ねじ部品において頭部に駆動穴を形成する場合に,頭部の外周と駆動穴の外周との肉厚が薄すぎると,頭部の耐トルク強度が低下してしまうことは明らかである一方,締緩動作のしやすさや駆動穴自体の耐トルク強度という観点等からは,駆動穴のサイズはできるだけ大きい方が良いことも明らかであるから,駆動穴の設計に際しては,頭部外周と駆動穴の外周との間隔を頭部の強度を最低限確保できる長さ以上としつつも,駆動穴自体のサイズはできるだけ大きくするような設計を指向するのが当業者にとって自然な発想であると考えられる。そして,甲19の2刊行物記載の発明のように,頭部外周と駆動穴の外周がほぼ平行となるような位置関係は,頭部外周と駆動穴の外周との間隔が全周にわたってほぼ同一の値となる位置関係であるから,当該位置関係が駆動穴のサイズを最も大きくすることができるということは,通常の数学的知。, 見を有する当業者において容易に理解できる事項である この点からも上記アのように,引用発明の駆動穴として六角穴と第二結合部とから構成される駆動穴を採用する場合に,頭部の外周と六角穴の外周とが平行になるよう設計する十分な動機付けがあったということができ,通常の創作能力により容易になし得たといえる。
(ウ) また,構成要件( )は 「前記第一の駆動穴の外周が前記頭部の外周G ,の近くまでに及んでおり」と定めるのみであり,本件明細書においても「雄ねじ部品の頭部の重量を最大限に減少し,雄ねじ部品をできるだけ軽量化することができる。さらに,第一の駆動穴を使用する際,該駆動穴とドライバービットとの間の接触面積を大きくし,ドライバービットから伝達される駆動トルクを大きくすることができる( 発明の詳細。」【な説明】の段落【0021 )との記載があるのみであって,第一の駆 】動穴の外周とねじ頭部の外周との間隔について具体的な数値等は規定されていないことからすると,上記アのように,引用発明の駆動穴として六角穴と第二結合部とから構成される駆動穴を採用する場合に,第一駆動穴である六角穴の外周をねじ頭部の外周のどの程度近くまで及ぼすのか,すなわち,ねじ頭部の外周に対して第一駆動穴の外周をどの程度の大きさに設定するかは,当業者において適宜決定し得るものと解すべきであり,甲19の2刊行物の第1図に記載された程度に六角穴の外周が六角形状の頭部の外周に近接していれば 「第一の駆動穴の外周が前記 ,頭部の外周の近くまでに及んで」いると認められる。
,, , (エ) 以上のとおり 引用発明において ねじ頭部に形成する駆動穴として第一の駆動穴の外周が頭部の外周の近くまでに及んでおり,両外周が互いにほぼ平行とされる構成を採用することは,甲19の2刊行物の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たといえ,当業者は,相違点2に係る本件特許発明2の構成を容易に想到できたものと認められる。
(オ) 被告は,様々な事情を指摘し甲19の2刊行物記載の第1図はねじ技術をよく知らない素人がイメージのみで描いた現実離れした漫画的な図といわざるを得ず,同図から技術的思想を読み取ることはできない旨主張するが,何ら客観的な裏付けのない主張であって採用することはできない。また,被告は,本件特許出願前の技術水準では,頭部が皿形の場合は多角形状の駆動穴を設ける加工はしてはいけないものであったと主張するが,この点についても何ら客観的な裏付けはなく,採用することはできない。
( ) 以上のとおり,本件特許発明2は,当業者が引用発明,甲18の2刊行物5及び甲19の2刊行物の記載に基づき容易に発明することができたものであり,そうである以上,その上位概念の発明である本件特許発明1も想到容易であることが明らかである。よって,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,被告は,本件特許権を原告に対して行使することができず,原告に対し,本件特許権に基づいて原告製品の販売の差止めを求めることはできない。
2争点( )(不正競争の成否及び損害額)3( ) 証拠(甲3,4)によれば以下の事実が認められる。 1ア被告は,ミヤガワ金属販売に対して,ミヤガワ金属販売が原告に販売しているパワーねじ(原告製品)が被告の本件特許権を侵害していることが明白であり,同製品の製造,販売の中止,在庫品の廃棄及び損害賠償を請求する可能性がある旨を記載した,平成19年8月20日付けの書面(甲3)を送付した。
イ被告は,ミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対し,ミヤガワが製造し,ミヤガワ金属販売が販売しているパワーねじ(原告製品)が本件特許発明の, ,, 技術的範囲に属するもので 本件特許権を侵害するものであり その製造販売を直ちに停止するよう警告する旨を記載した平成19年9月18日付けの警告書(甲4)を送付した。
( ) 前記1に説示したとおり,本件特許には無効事由があり,特許法104条2の3第1項により被告は本件特許権を行使することができないのであるから,上記( )ア,イの各書面に記載した原告製品が本件特許権を侵害すると1の事実は,虚偽の事実である。そして,前記第2,2( ),( )の事実によれ 14ば,原告は,被告にとって 「競業関係にある他人」に当たると認められる ,から,被告が,原告製品が本件特許権を侵害する旨記載した上記各書面を原告の取引先であるミヤガワ及びミヤガワ金属販売に送付すること(以下「本件告知行為」という )は,競争関係にある他人である原告の営業上の信用 。
を害する虚偽の事実を告知する不正競争(不競法2条1項14号)に該当する。
( ) 原告は被告による本件告知行為によって営業上の利益を侵害されたとして3損害賠償を求めているから,被告の過失について検討する。
特許権者が,競争関係にある者が製造する物品について,その取引先に対し特許権の侵害を主張して警告することは,これにより当該警告を受けた取引先が特許権者による差止請求,損害賠償請求等の権利行使を懸念し,当該物品の取引を差し控えるなどして上記製造者の営業上の利益を損う事態に至るであろうことが容易に予測できるのであるから,特許権者は,そのような, 「」 警告をするに当たっては 当該警告が不競法2条1項14号の 虚偽の事実の告知とならないよう,当該特許に無効事由がないか,当該物品が真に侵害品に該当するか否かについて検討すべき高度の注意義務を負うものと解すべきである。
そこで,このような見地に立って本件について検討すると,上記1で説示したように,本件特許発明は,当業者が引用発明,甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物の記載に基づき容易に発明することができたものであって進歩性を欠くものであるが,?引用発明が記載された甲22刊行物は,本件特許出願の3年以上前の平成11年1月に旭化成建材がパワーボードの施工をする業者向けに発行した技術情報パンフレットであり,相当の部数が当業者に配布されたことが推認できること,?副引用例である甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物は本件特許権の出願審査の過程でされた平成19年4月24日付け拒絶理由通知において引用文献として指摘されていたこと(乙5 ,?それにもかかわらず,被告が甲3及び甲4の書面を送付するに当た )り,本件特許の無効事由の有無につき検討したのか否か,したとすればどのような検討を行ったのかについて,被告は何ら主張立証をしていないこと等に照らすと,被告が本件告知行為を行うに当たって上記注意義務を尽くしたと認めることはできず,被告には過失があるというべきである。
また,被告は,本件告知行為は特許権者に認められた当然の権利を行使したものにすぎず違法性がないとも主張する。しかしながら,?被告は,本件特許権が平成19年8月17日に登録された直後である,同月20日及び同年9月18日付けで原告の取引先であったミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対して原告製品が本件特許権を侵害する旨の書面(甲3,4)を送付しているが,その直後である平成19年10月から,ミヤガワが製造する本件特許発明実施品であるねじをミヤガワ金属販売から仕入れ,これを西村鋼業を経由して旭化成建材に販売しており,本件告知行為の前に原告が行っていた取引と同じ形態の取引を原告と入れ替わる形で継続し,原告は同年9月30日限りで原告製品の販売を停止したこと(前記第2,2( )),?被告は本件4告知行為をしたミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対しては特許権侵害訴訟を提起しておらず,原告に対しても原告の本訴提起の約1年後にようやく本件反訴を提起したにすぎないこと等からすると,被告は,競争関係にある原告の取引先に対し,原告が特許権を侵害しているとの事実を告知することにより原告との取引を中止させ,市場での競争において優位に立つことを目的として本件告知行為を行ったものと推認することができる。加えて,上記のとおり,被告は,本件告知行為が原告の営業上の信用に及ぼす影響の重大性を容易に予測できたにもかかわらず,十分な検討を行うことなく本件告知行為に及んでいることをも併せて考慮すると,本件告知行為を違法性のない正当行為と認めることはできない。
したがって,被告は,本件告知行為によって原告が被った損害を賠償する責任を負うというべきである。
( ) 逸失利益4ア上記( )で説示したように,原告は,被告の本件告知行為により,平成 319年9月30日限りで原告製品の販売を停止したことから,本件告知行為がなかった場合に原告製品の販売により得られたであろう利益が,本件告知行為により原告が被った損害となる。
原告は,平成19年5月から同年9月までの5か月間の販売数量が同年10月以降平成22年1月までの28か月間継続することを前提に,本件告知行為によって被った損害額を算定すべきであると主張する。しかしながら,わずか5か月間の販売数量実績では,年間を通じた季節等による販売数量の動向が反映されておらず,また,各年ごとにおける販売数量の増減も反映されないため,これに基づいてその後の2年以上の販売数量を算定することは妥当を欠くというべきであり,原告の主張を採用することはできない。
イ上記( )に説示したとおり,被告は,原告からその販売ルートを引き継3ぐ形で本件特許発明実施品であるねじを販売しているから,被告による本件告知行為がなければ,原告は,被告が販売した数量と同数の原告製品を販売し利益を上げることができたと推認することができる。そして,被告の平成19年10月から平成22年1月までの28か月間における本件特許発明実施品の販売数量は,別紙被告販売数量一覧表記載のとおりであり,被告は,上記28か月の間に,原告製品のパワーねじ60に対応するものを4468箱,パワーねじ70に対応するものを710箱,パワーねじ80に対応するものを27箱,パワーねじ90に対応するものを77箱,それぞれ販売したことが認められる (乙10の1〜28) 。
そして,平成19年9月時点における原告製品1箱当たりの販売価格及び仕入価格は,以下のように認められる (甲47の1〜5,48の1〜 。
6,51の2,54の1〜4,55の1〜4)?パワーねじ60販売価格:1万3400円仕入価格:1万1600円?パワーねじ70販売価格:1万6640円仕入価格:1万4640円?パワーねじ80販売価格:1万5840円仕入価格:1万3440円?パワーねじ90販売価格:1万6160円仕入価格:1万4208円上記認定の販売数量に基づき,上記28か月間における原告製品の販売による売上総利益(粗利益)を算定すると,以下の金額となり,その合計金額は967万7504円となる。
?パワーねじ60(1万3400円-1万1600円)×4468箱=804万2400円?パワーねじ70(1万6640円-1万4640円)×710箱=142万0000円?パワーねじ80(1万5840円-1万3440円)×27箱=6万4800円?パワーねじ90(1万6160円-1万4208円)×77箱=15万0304円ウ本件告知行為がなかった場合に原告が原告製品の販売により得られたであろう利益の額は,上記売上総利益の額から原告製品の販売に要する費用を控除した金額である。原告は,別紙損害額計算表のとおり,人件費,取扱説明書代,通信費,地代家賃が控除すべき費用に当たると主張する。
人件費については,原告において原告製品の販売業務に専従する従業員がいるものとは認められないため(甲70 ,原告製品の販売により直接 )必要となる性質の費用とはいえないものの,原告が認める限度(月額平均2万2410円)において売上総利益から控除すべき費用と認めるのが相当である。
また,原告は,原告製品の納入に当たり,各製品ごとの取扱説明書(甲63の1〜4)を作成し1箱に1枚添付していることから(甲70 ,取)扱説明書の作成費用は原告製品の販売のために直接必要な費用であるといえる。取扱説明書作成費用の1枚当たりの単価は,パワーねじ60で5.7円,パワーねじ70及び90で13.05円,パワーねじ80で18円(, ,, ,, であると認められるから 甲64の1 2 甲65の1 2 甲66の12,甲67,70,71 ,上記イで認定した販売数量から算定すると, )以下のとおり,取扱説明書の作成費用の総額は3万6222円となる。
?パワーねじ605.7円×4468箱=2万5467円?パワーねじ7013.05円×710箱=9265円?パワーねじ8018円×27箱=486円?パワーねじ9013.05円×77箱=1004円通信費及び地代家賃については,原告製品の販売のために要した分を他の業務の用に要した分と明確に区別することは困難であるが,少なくとも原告が認める限度(通信費:月額4000円,地代家賃:月額5万円)においては,売上総利益から控除すべき費用と認めるのが相当である。
原告による原告製品の販売は販売ルートが確定しているため(第2,2( ) ,特に営業活動や広告宣伝活動をする必要はなく,また,製造する4 )ミヤガワから原告を経由することなく直接搬送されるため原告において運送費の負担もないという特殊な形態のものであるから(甲49,70 ,)本件全証拠を検討しても,原告が主張する以上に,原告が原告製品を販売するに当たって直接要する具体的な費用と評価すべきものは認められず,被告においても控除すべき具体的な費用及びその額を主張しておらず,これを認めるに足りる証拠もない。
したがって,売上総利益の額から控除すべき費用は,人件費62万7480円(=2万2410円×28か月 ,取扱説明書の作成費用3万62 )22円,通信費11万2000円(=4000円×28か月 ,地代家賃)140万円(=5万円×28か月)の合計217万5702円となり,これを上記イで認定した売上総利益の額967万7504円から控除した750万1802円を,本件告知行為によって原告が被った損害の額と認めるのが相当である。
, , エ被告は 原告が経費として挙げる金額はわずか5か月間の金額にすぎずこれにより28か月分の経費を算定することは不合理であると主張するが,原告が主張する費用のうち,人件費,通信費及び地代家賃は経常的に支出される経費であり,その金額の変動も比較的小さなものであるから,これに基づき28か月分の経費を算定することが不合理であるということ。 。 はできない 取扱説明書作成費用は販売数量に応じて算出したものであるまた,被告は,原告の決算内容(甲72の1〜3)からは利益額を算定することができないとして,全国のねじ商社からなる連合会である日本ねじ商業協同組合連合会が,所属会員に実施した経営実態調査の結果得られた売上高に対する経常利益率(乙11)により,本件告知行為がなかった場合に原告が得られた利益の額を算定すべきと主張する。
しかしながら,原告による原告製品の販売は上記のように特殊な形態のものであるから,原告の事業全体における販売管理費の額を総売上額に占めるねじの売上額の割合で単純に按分したとしても,原告製品の販売における販売管理費を的確に算定することはできないから,この値がねじ販売の粗利益の額より多額であるからといって直ちに利益が出ていないということはできず,原告の確定申告書(甲72の1〜3)記載の内容から原告の利益の額を算定することができないという被告の主張は前提において誤っており,採用することができない。
( ) 弁護士・弁理士費用5原告は,弁護士及び弁理士を選任して本件訴訟を追行していることろ,本,, , 件事案の性質や難易度 上記( )の認容額 その他諸般の事情を斟酌すると4その費用のうち75万円を被告による本件告知行為と相当因果関係のある損害と認める。
( )以上より,本件告知行為により原告が被った損害額は,合計825万16802円となる。
3争点( )(実施料相当額の補償金支払請求の可否及び補償金額,特許権侵害4の不法行為の成否及び損害額)について上記1で説示したとおり,本件特許には進歩性欠如の無効事由があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,被告は本件特許権を原告に対して行使することはできず,反訴にかかる実施料相当額の補償金の支払請求及び特許権侵害不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない(特許法104条の3第1項,65条6項 。)4結論, ,, 以上によれば その余の点について判断するまでもなく 原告の本訴請求は主文1項及び2項の限度で理由があるからこの限度で認容するが,その余は理由がないから棄却することとし,被告の反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 坂本康博
裁判官 寺田利彦