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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 14年 (ワ) 13022号 特許権侵害差止等請求事件
原告 千代田工業株式会社
訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 茂木鉄平
同 平野惠稔
同 藤本英二
訴訟復代理人弁護士 桶谷和人
同 酒匂景範
訴訟代理人弁理士 北村修一郎
補佐人弁理士 河宮治
被告 株式会社コムコ
訴訟代理人弁護士 稲元富保
同 田嶋春一
補佐人弁理士 瀧野秀雄
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/10/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙イ号製品目録記載の製品を製造し、販売してはならない。
2 被告は、別紙イ号製品目録記載の製品及びこれらの半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、1億3979万8752円、及びうち7623万6320円に対する平成15年1月7日から、うち6356万2432円に対する平成16年3月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項同旨 2 主文第2項同旨 3 被告は、原告に対し、4億7928万4000円、及びうち5003万4000円に対する平成13年3月24日から、うち9138万円に対する平成15年1月7日から、うち3億3787万円に対する平成16年3月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、別紙特許目録記載の特許権を有する原告が、被告の製造販売する別紙イ号製品目録記載の製品が特許発明(後記2(1)にいう本件第2発明)の技術的範囲に属し、その製造販売が同特許権を侵害するとして、特許権に基づく製造販売の差止め、廃棄、並びに補償金5003万4000円及び特許権侵害による損害賠償4億2925万円の合計4億7928万4000円とその遅延損害金を請求した事案である。
2 基礎となる事実(争いがある旨又は弁論の全趣旨により認められる旨記載した部分以外は、当事者間に争いがない。) (1) 特許権 原告は、別紙特許目録記載の特許権を有している(以下、別紙特許目録記載の特許権を「本件特許権」といい、その特許出願の願書に添付された明細書、図面をそれぞれ「本件明細書」、「本件添付図面」といい、その特許公報(甲第2号証)を「本件公報」といい、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の特許発明を「本件第1発明」、請求項2記載の発明を「本件第2発明」といい、本件第1発明と本件第2発明を包括して「本件特許発明」という。)。
(2) 構成要件 ア 本件第1発明 本件第1発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。
B′対象パイプ(P)の管端部を外周側から把持するチャック(1)と、
対象パイプ(P)の曲げ予定部に対する曲げ案内用の円弧状部(2m)を形成した曲げ型(2)と、対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するクランプ台(3)と、そのクランプ台(3)のチャック側に位置して対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するプレッシャ台(4)とを備えるパイプベンダーを用いたパイプ曲げ加工方法であって、
C′対象パイプ(P)の管端面に対して先端を接当作用させる小径の出退扞状具(36)を、前記チャック(1)の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設けておき、
D′対象パイプ(P)の管芯方向に並ぶ複数の曲げ予定部のうち、チャック側の管端近傍に位置する最終の曲げ予定部以外の曲げ予定部については、
@ 前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに A 中心軸芯周りで回動させて、曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させ、
B それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により曲げ予定部を挟圧保持した状態で、パイプ管端部把持状態の前記チャック(1)により対象パイプ(1)の管端部を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、その曲げ予定部に曲げ加工を施し、
E′これに対し、最終の曲げ予定部については、
@ 前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに中心軸芯周りで回動させて、最終の曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させた後、
A 前記チャック(1)のパイプ管端部に対する把持を解除した状態で前記チャック(1)をその中心軸芯方向で前記プレッシャ台(4)との非干渉位置まで引退移動させ、
B それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により最終の曲げ予定部を挟圧保持した状態で、作用状態に切り換えた前記出退扞状具(36)により対象パイプ(P)の管端を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、最終の曲げ予定部に曲げ加工を施すパイプ曲げ加工方法
イ 本件第2発明 本件第2発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 請求項1に係るパイプ曲げ加工方法実施に用いるパイプベンダーであって、
B 対象パイプ(P)の管端部を外周側から把持するチャック(1)と、
対象パイプ(P)の曲げ予定部に対する曲げ案内用の円弧状部(2m)を形成した曲げ型(2)と、対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するクランプ台(3)と、そのクランプ台(3)のチャック側に位置して対象パイプ(P)の曲げ予定部を前記曲げ型(2)との間で挟圧保持するプレッシャ台(4)とを備える構成において、
C 対象パイプ(P)の管端面に対して先端を接当作用させる小径の出退扞状具(36)を、前記チャック(1)の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設け、
D 対象パイプ(P)の管芯方向に並ぶ複数の曲げ予定部に対する順次曲げ加工を自動的に実施するのに、それら複数の曲げ予定部のうち、チャック側の管端近傍に位置する最終の曲げ予定部以外の曲げ予定部については、
@ 前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに A 中心軸芯周りで回動させて、曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適正位置に位置させ、
B それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により曲げ予定部を挟圧保持した状態で、パイプ管端部把持状態の前記チャック(1)により対象パイプ(1)の管端部を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、その曲げ予定部に曲げ加工を施し、
E これに対し、最終の曲げ予定部については、
@ 前記出退扞状具(36)の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック(1)をその中心軸芯方向に移動させるとともに中心軸芯周りで回動させて、最終の曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型(2)に対する適切位置に位置させた後、
A 前記チャック(1)のパイプ管端部に対する把持を解除した状態で前記チャック(1)をその中心軸芯方向で前記プレッシャ台(4)との非干渉位置まで引退移動させ、
B それに続き、前記クランプ台(3)及び前記プレッシャ台(4)により最終の曲げ予定部を挟圧保持した状態で、作用状態に切り換えた前記出退扞状具(36)により対象パイプ(P)の管端を押圧付勢しながら、前記クランプ台(3)を前記曲げ型(2)と一体的に前記プレッシャ台(4)からの離間側に回動させて、最終の曲げ予定部に曲げ加工を施すように、
F 前記チャック(1)、前記曲げ型(2)、前記クランプ台(3)、前記プレッシャ台(4)、並びに、前記出退扞状具(36)を自動操作する制御手段(17)を設けてあるパイプベンダー。
(3) 本件第2発明の作用効果 本件第2発明の構成を採用することによって、連続曲げ加工をパイプ管端部からのパイプ押圧付勢により凹み等の不都合な変形を防止した状態で良好に行えるようにし、また、チャックとそれとは別の管端押圧具との頻繁な交互切り替え使用は不要にしながらも、最終の曲げ予定部に対する曲げ加工においてチャックとプレッシャ台との接当干渉を回避できるパイプ曲げ加工方法が実行されることにより、曲げ加工の後に対象パイプにおける管端の不必要な部分を切り捨てるといった後処理作業の必要頻度を大幅に低減できて、全体としてのパイプ加工能率を向上でき、また、パイプ材の浪費も少なくして経済性の面でも有利にし得る。さらに、上記パイプ曲げ加工方法が自動的に実行されることにより、上記パイプ曲げ加工方法による能率向上と自動化による能率向上が相まって、連続曲げ加工の能率を一層高めることができる。
(4) イ号製品の製造販売 ア 被告は、本件特許発明出願公開後、本件特許権の設定登録日までに、
別紙イ号製品売上表の1記載のとおり、別紙イ号製品目録記載の製品(以下「イ号製品」という。同目録のうち「第1 図面の説明」及び同目録別紙図面については後記争点(1)のとおり争いがある。)を製造販売した。その売上の合計は3億3356万円である。
イ 被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、別紙イ号製品売上表の2記載のとおり、イ号製品を製造販売した。その売上の合計は3億8934万4800円である。
(5) イ号製品の利益率 イ号製品の利益率は、30%である。(弁論の全趣旨) (6) イ号製品の構成 イ号製品の構成は、次のとおりである。
b 対象パイプPの管端部を外周側から把持するチャック1と、対象パイプPの曲げ予定部に対する曲げ案内用の円弧状部2mを形成した曲げ型2と、パイプPの曲げ予定部を前記曲げ型2との間で挟圧保持するクランプ・ダイ3と、そのクランプ・ダイ3のチャック側に位置して対象パイプPの曲げ予定部を前記曲げ型2との間で挟圧保持するプレッシャ・ダイ4とを備える構成において c 対象パイプPの管端面に対して先端を接当作用させる小径のチャックストッパー36を、出退操作用シリンダ37によって前記チャック1の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設け、
d 対象パイプPの管芯方向に並ぶ複数の曲げ予定部に対する順次曲げ加工を自動的に実施するのに、それら複数の曲げ予定部のうち、チャック側の管端近傍に位置する最終の曲げ予定部以外の曲げ予定部については、
@ 前記チャックストッパー36の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック1をその中心軸芯方向に移動させるとともに A 中心軸芯周りで回動させて、曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型2に対する適切位置に位置させ、
B それに続き、前記クランプ・ダイ3及び前記プレッシャ・ダイ4により曲げ予定部を挟圧保持した状態で、パイプ管端部把持状態の前記チャック1により対象パイプ1の管端部を押圧付勢しながら、前記クランプ・ダイ3を前記曲げ型2と一体的に前記プレッシャ・ダイ4からの離間側に回動させて、その曲げ予定部に曲げ加工を施し、
e これに対し、最終の曲げ予定部については、
@ 前記チャックストッパー36の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック1をその中心軸芯方向に移動させるとともに、中心軸芯周りで回動させて、最終の曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型2に対する適切位置に位置させた後、
A 前記チャック1のパイプ管端部に対する把持を解除した状態で前記チャック1をその中心軸芯方向で前記プレッシャ・ダイ4との非干渉位置まで引退移動させ、
B それに続き、前記クランプ・ダイ3及び前記プレッシャ・ダイ4により最終の曲げ予定部を挟圧保持した状態で、作用状態に切り換えた前記チャックストッパー36により対象パイプPの管端を押圧付勢しながら、前記クランプ・ダイ3を前記曲げ型2と一体的に前記プレッシャ・ダイ4からの離間側に回動させて、
最終の曲げ予定部に曲げ加工を施すように、
f 前記チャック1、前記曲げ型2、前記クランプ・ダイ3、前記プレッシャ・ダイ4、並びに前記チャックストッパー36を自動操作するCNC制御装置17を設けてあるパイプベンダー。
(7) イ号製品の作用効果 イ号製品の作用効果は、前記(3)の本件第2発明の作用効果と同じである。
(8) 構成要件充足性 ア 本件第2発明の構成要件A イ号製品の構成bは本件第1発明の構成要件B′を充足し、構成dは構成要件D′を充足し、構成eは構成要件E′を充足する。
イ 本件第2発明の構成要件B イ号製品の構成bは、本件第2発明の構成要件Bを充足する。
ウ 本件第2発明の構成要件D イ号製品の構成dは、本件第2発明の構成要件Dを充足する。
エ 本件第2発明の構成要件E イ号製品の構成eは、本件第2発明の構成要件Eを充足する。
オ 本件第2発明の構成要件F イ号製品の構成fは、本件第2発明の構成要件Fを充足する。
3 争点 (1) イ号製品の図面等 (2) 本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cの充足性 (3) 出願前公知、公然実施の成否 (4) 補償金 ア 被告は本件特許発明出願公開された特許出願に係る発明であることを知っていたか イ 実施料率 ウ 補償金額 (5) 損害 ア 被告の受けた利益の額 イ 弁護士、弁理士費用 (6) 合計額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号製品の図面等) (1) 原告の主張 イ号製品は、別紙イ号製品目録及び同目録別紙図面のとおりである。
別紙イ号製品目録の別紙図面は、イ号製品の構成の理解のために参照図として添付されているものであり、被告の製造販売する複数の機種に共通のものとして抽象化された図面とされている。イ号製品のうち1機種にすぎないCNC BOOSTER BENDER KBB-50NDの図面である別紙イ号製品詳細図を、複数の機種からなるイ号製品の図面とすることは相応しくない。
(2) 被告の主張 別紙イ号製品目録のうち「第1 図面の説明」及び同目録別紙図面は否認する。
別紙イ号製品目録の「第1 図面の説明」にいう「代表的な」の意味は不明であるが、同目録の別紙図面は、被告が実際に製造販売している製品とは異なる。同目録の別紙図面は、被告の製造販売するCNC BOOSTER BENDER KBB-50NDの図面である別紙イ号製品詳細図のとおりとすべきである。
2 争点(2)(本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cの充足性) (1) 原告の主張 ア 本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cは、チャックの中心軸上に出退扞状具を作用状態(出)と引退状態(退)に切り換え操作できるように設けることを必須要件とするが、出退扞状具を出退操作する機構それ自体については何ら限定を加えていない。本件添付図面の図8(本件公報図8)のシリンダ37は、発明の詳細な説明実施例の項に、出退操作機構の一例として記載されているにすぎないから、本件特許発明に係る出退扞状具は、それによって限定されない。
イ イ号製品のシリンダの構成は、出退操作用シリンダ37のシリンダロッドの突出又は引退運動を伝達することによって、チャック中心軸上でチャックストッパー36(本件特許発明でいう「出退扞状具」に対応する。)を出退操作するものであるから、シリンダの取付位置いかんにかかわらず、イ号製品は本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cを充足している。前記第2、2(8)のとおり、イ号製品は本件第1発明及び本件第2発明のその他の構成要件も充足するから、本件第1発明及び本件第2発明のすべての構成要件を充足し、本件第2発明の技術的範囲に属する。
(2) 被告の主張 ア 本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cに関し、出退扞状具36を突出又は引退状態とするための駆動源については、本件明細書の実施例の項に、本件添付図面の図8(本件公報図8)を引用して記載されている(本件公報11欄25行ないし37行)。同図8によれば、出退扞状具36を突出又は引退状態とするためのシリンダ37のシリンダロッドの軸芯線と、対象パイプPの軸芯線とは、同一線上にあり、したがって、シリンダ37は対象パイプPを取り囲むように中空に構成されている。本件明細書において、シリンダ37の具体的構成は、発明の詳細な説明に何ら説明されておらず、同図8にのみ示されているから、
本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cの出退扞状具を突出状態と引退状態に切り換え操作するシリンダ37は、同図8に示されているとおりのものと解せざるを得ない。
イ 一方、イ号製品は、別紙イ号詳細図の図面2枚目上段に示されているように、本件特許発明のシリンダ37に相当する出退操作用シリンダ37のシリンダロッドの軸芯線と、対象パイプPの軸芯線とは、同一線上になく、平行線上にある。シリンダロッドの突出又は引退運動は、連杆を介して対象パイプPに伝達される。
イ号製品は、シリンダの取付位置が本件特許発明と異なるため、シリンダが小型化され、その取付け、取外しが極めて容易になるなど、本件特許発明にない優れた作用効果を奏する。
ウ したがって、イ号製品は、本件第1発明の構成要件C′を充足せず、本件第2発明の構成要件Aを充足しない。また、イ号製品は、本件第2発明の構成要件Cも充足しない。
3 争点(3)(出願前公知、公然実施の成否) (1) 被告の主張 ア 事実の経過 (ア) 原告は、平成3年9月ごろ、曲げ半径がパイプ径の1.5倍以下である極小曲げベンダーを製造販売することを決め、当時原告の技術部門の責任者であったP1が開発を担当し、極小曲げベンダーの設計を開始した。
(イ) 金属製パイプの曲げ加工を業とする有限会社K1は、平成4年2月ごろ、極小曲げベンダーを購入し設置する方針を決めた。有限会社K1は、極小曲げベンダーの導入をベンダー等の専門商社である株式会社K2(以下 「株式会社K2」という。)に相談し、株式会社K2は、有限会社K1に、原告を紹介した。有限会社K1は、希望する技術上の条件等について、原告の技術担当者であったP1との間で、直接交渉した。
(ウ) P1らは、有限会社K1の要請を取り入れ、既にでき上がっていた設計図に修正、書込みを行い、平成4年4月、極小曲げベンダーの図面(乙第2号証の1ないし12)を完成させた。極小曲げベンダーの機種名は、当初は「SPD-60ST」であったが、後に「CNC HYP-60ST」(「CNC」はコンピュータNC制御を表し、「60」はパイプ径を表し、「ST」は二段型を表す。以下「HYP-60ST」という。)とされた。
(エ) 株式会社K2は、極小曲げベンダーSPD-60STの平成4年3月31日付け見積書(乙第3号証。代金3000万円(消費税別))を作成し、同日ごろ、
有限会社K1に送付した。
(オ) 有限会社K1は、株式会社K2を通じて、原告の製造する極小曲げベンダーHYP-60ST(これは、HYP-60STの1号機に当たるから、以下「1号機」という。)を導入することを決め、株式会社K2に発注した。有限会社K1は、平成4年4月7日、静岡県知事に対し、中小企業近代化資金として、1号機の購入資金の貸付けを申請した。静岡県庁の担当者の指導により、納期は同年6月末日までにしなければならないとされていたので、株式会社K2の作成する注文請書の納期は同年6月末日とされた。
(カ) 株式会社K2は、1号機の平成4年4月12日付けの注文請書(乙第4号証)を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。
(キ) その後、原告による1号機の製造が納期遅れとなることが分かったので、有限会社K1は、その旨を静岡県庁の担当者に伝えたところ、1か月の延長が認められ、平成4年7月末日を納期とすることとなった。しかし、それ以上納期が遅れると、中小企業近代化資金貸付の内定が取り消されるので、有限会社K1は、原告に対し、納期を厳守するように伝えた。
(ク) 静岡県知事は、平成4年7月3日付けで、有限会社K1に対し、中小企業近代化資金貸付内定通知を行った(乙第5号証)。同通知においては、対象設備金額は3090万円、貸付内定額は1483万円とされていた。
(ケ) 原告は、1号機について、部品を株式会社K3に設計図を渡して発注し、原告の浜北工場(静岡県浜北市所在)で組立てとセットアップを行った。
平成4年6月末から7月中旬までの間に1号機が完成し、原告の浜北工場で有限会社K1の代表取締役であるP2が立ち会い、曲げテストが行われた。
その結果、極小曲げについては問題がなかったが、最終曲げ加工後の管端ストレート部が長く必要となることが分かった。P2は、管端ストレート部が長いと、その一部を不必要なロス材として捨てなければならず、そのことは到底承服できないので、この問題を解消するよう改造を要求した。そこで、原告は1号機に新たにキックバー装置を取り付け、同年7月末、有限会社K1の工場に納入し、設置した。
(コ) 株式会社K2は、1号機の平成4年8月1日付け納品書(乙第6号証)及び同日付けの代金の請求書(乙第7号証。請求金額3090万円(代金3000万円、消費税90万円))を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。
(サ) 有限会社K1は、平成4年8月1日、その工場で、株式会社K2が納入した1号機の検収を行い、同日付けの検収票(乙第8号証)を作成した。その後、中小企業近代化資金の貸付金が有限会社K1に交付された。
(シ) 有限会社K1は、平成4年8月20日、株式会社K2に対し、1号機の代金3090万円を振込みにより支払い(乙第9号証は浜松信用金庫作成の振込金受領書)、株式会社K2は、同日付けの領収書2通(乙第10号証の1(金額3000万円)、第10号証の2(金額90万円))を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。
(ス) 原告は、平成4年10月5日、1号機の構造を請求項2とし、1号機を稼働してパイプを曲げ加工する加工方法を請求項1として、本件特許発明につき特許出願を行った。
イ 納入当初におけるキックバーの装備 1号機には、有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていた。
上記主張事実を裏付ける根拠は、次のとおりである。
(ア) 乙2号証の2(HYP-60STの図面)には、キックバーがはっきり示されている。
乙第2号証の1ないし12の図面が1号機の図面でないとしても、その作成日は、いずれも本件特許発明の出願日である平成4年10月5日より前である。
(イ) 乙第15号証(P2作成の平成15年5月26日付け報告書)、第16号証(P1作成の平成15年5月19日付け報告書)、第17号証(P3作成の平成15年5月15日付け報告書)によって、1号機に有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたことが明らかにされている。
(ウ) 乙第19号証(有限会社K1に設置されている1号機の写真)、第20号証(有限会社K1に設置されている1号機によるパイプ曲げ加工方法の映像を記録したCD-ROM)には、有限会社K1に設置されている1号機にキックバーが装備されていることが示されている。
(エ) 証人P1の証言によれば、有限会社K1に設置されている1号機が本件第1発明及び第2発明の構成要件をすべて充足していることは明らかである。
P1は技術者であり、1号機を設計したから、その構造、構成をすべて知っており、1号機に関する証言は明瞭である。
(オ) 甲第5号証の1(SPD-60ST外観図)は平成3年12月17日に作図されたものであり、甲第5号証の2(SPD-60ST部分図面)は同月13日に作図されたものであるが、これらは初期構想の図面であり、設計者であるP1は、初期構想の段階において、キックバーを考えていなかったから、キックバーがこれらの図面に記載されていないのは当然である。
(カ) 甲第6号証(HYP-60ST仕様書)は、初期構想設計図の外観図をもとに作成されたもので、初期構想の段階においては、設計者であるP1もキックバーを考えていなかったから、甲第6号証の図面にはキックバーは掲載されていない。
甲第7号証(ハイパーベンダーカタログ)は、平成4年12月に印刷されたものであるが、その作成時には、既に有限会社K1に納入した1号機があったので、その写真を撮影して掲載し、また、図面にも1号機にあったキックバーのシリンダを掲載したのであって、甲第7号証の作成日である平成4年12月の時点において1号機にキックバーが追加装備されたのではない。
ウ 原告の浜北工場における公開 1号機は、原告の浜北工場において、平成4年7月中旬までに完成した。原告は、極小曲げベンダーを宣伝するため、同月中旬から下旬までの約2週間に、複数回にわたって、曲げ加工業者等を浜北工場に招待し、1号機によるパイプ曲げテストを実演し、1号機の構造とそのパイプ曲げ加工方法を公開し、1号機に装備されたキックバー及びその稼働状況も公開した。このときに1号機を知見した曲げ加工業者等は、株式会社K4のマフラー事業部生産管理課の次長であるP4、
課長であるP5など、合計約9名であった。
上記主張事実を裏付ける根拠は、次のとおりである。
(ア) P1は、乙第1号証(P1作成の平成15年2月17日付け報告書)及びその証言において、上記主張事実と同趣旨を陳述している。
(イ) 乙第14号証(P6作成の平成15年4月23日付け報告書)、第17号証(P3作成の平成15年5月15日付け報告書)には、原告が、顧客を浜北工場の1号機の見学に案内したことが記載されている。
(ウ) 乙第22号証(P7作成の平成15年11月19日付け陳述書)には、K5株式会社の専務取締役であるP7が、原告の営業担当であったP23から誘われて、浜北工場でキックバーを備えた1号機を平成4年7月末ごろ見学したこと、P7は、見学当日会った設計担当のP1からキックバーについて説明を受けたことが記載されている。
(エ) 乙第25号証(P8作成の平成15年12月16日付け陳述書)には、原告の営業担当であったP6が、平成4年7月末、有限会社K6の代表取締役P8を浜北工場に案内し、1号機によるパイプ曲げテストを実演し、ストレート部が短くて済む理由として、キックバーを組み込んでいることを説明し、キックバーを見せたことが記載されている。
エ 有限会社K1における公開 有限会社K1は、1号機がその工場に納入され、設置された後、運転操作に習熟するために1号機を稼働させ、二輪車、四輪車のマフラー業者に宣伝したところ、平成4年8月から同年10月までの間、毎日多数の見学者があり、これらの見学者の面前でパイプ曲げ加工を公開した。また、この間に、原告の関連会社であるK7株式会社の営業担当者及び株式会社K2の代表取締役であるP9が複数回にわたって有限会社K1に顧客を同行し、有限会社K1は、その面前でも1号機によるパイプ曲げ加工を行った。1号機は、操作の必要から、フレーム上にカバーなど被覆するものがなく、開放状態なので、見学者はその構造はもとより加工方法もすべて細部に至るまで知見することができた。
上記主張事実を裏付ける根拠は、次のとおりである。
(ア) 乙第11号証(P2作成の平成15年2月3日付け報告書)、第21号証(P2作成の平成15年10月31日付け陳述書)には、上記主張事実と同趣旨が記載されている。
(イ) 乙第1号証(P1作成の平成15年2月17日付け報告書)には、
平成4年8月1日から同年9月末日までの間に有限会社K1を1号機の見学のために訪れた者の所属会社、氏名等が記載されており、乙第12号証(名刺)は、それらの者の名刺である。
(ウ) 乙第23号証(P10作成の平成15年12月12日付け陳述書)、第24号証(P11作成の平成15年12月12日付け陳述書)には、平成4年8月の中旬ごろ、当時K8株式会社に勤務していたP10及び当時K9工業を経営していたP11が、P9とともに有限会社K1を訪問し、キックバーについてP9及びP2から説明を受け、実際のパイプ曲げ加工を見学したことが記載されている。
オ 無効理由等 (ア) 本件特許発明は、1号機の浜北工場における公開及び有限会社K1における公開によって、公然知られ公然実施されていたから、その特許出願前に日本国内において公然知られ公然実施をされた発明であり、本件特許は、特許法29条1項1号、2号(平成11年法律第41号による改正前)の規定に違反して特許されたものであり、特許法123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由があることが明らかである。
したがって、本件特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、権利の濫用に当たり、許されない。
(イ) HYP-60STの基本構造は自由技術であり、基本構造がHYP-60STと一致するイ号製品を被告が製造販売することは、自由技術の実施にすぎず、本件特許権の侵害とならない。
(2) 原告の主張 ア 前記(1)(被告の主張)ア(事実の経過)(ア)、(エ)、(カ)、(コ)、(シ)の事実は認め、その余は否認する。
本件特許発明は、対象パイプに接当作用させる小径の出退扞状具(キックバー)を、対象パイプの管端部を把持するチャックの中心軸芯上に、作用状態と引退状態とに切り換え自在に設けることにより、パイプの連続曲げ加工におけるパイプの変形を防止しつつ加工効率及び経済性の向上を図るものであって、曲げ半径がパイプ径の1.5倍以下である極小曲げを可能にするという極小曲げパイプベンダーそのものに関する技術をその対象とするものではない。
イ 前記(1)イ(納入当初におけるキックバーの装備)の事実は否認する。
1号機には、有限会社K1への納入時には、キックバーが装備されていなかった。
その根拠は、次のとおりである。
(ア) 乙第2号証の1ないし12は、1号機の図面ではない。
(イ) 1号機について当初キックバーの装備が予定されていなかったことは、被告が主張するところであり(前記(1)ア(ケ))、乙第15ないし第17号証にも記載されている。乙第15ないし第17号証には、キックバーが発注された具体的な時期について何ら記載されておらず、キックバーの取付を完了した時期についても、「7月20日頃だったと思いますが」(乙第16号証2頁3行目)という極めてあいまいな記載しかない。
乙第16号証には、「キックバー装置取り付け後、曲げテストを行い、満足頂いてからCADにより、正式図面を作成した」(乙第16号証2頁14行ないし16行)と記載されているが、これは10年前のことを述べたものであり、また、ここに記載された図面作成経緯自体、経験則上極めて不自然であるから、信用し難い。
(ウ) 当初キックバーが装備されていないHYP-60STにキックバーを後付けして組み込むことは容易にできるから、有限会社K1に設置されている1号機に、
現在キックバーが装備されていたとしても、それがいつの時点で組み込まれたか明らかでない。
(エ) P1は、乙第16号証において、キックバーの取り付け完了時期を平成4年7月20日ごろであると記載していたが、証人尋問では、キックバーのシリンダが納入されたのが同月25、26日ごろであり、キックバーを取り付けたのが出荷の直前であったと証言している。他方、P2は、乙第15号証において、キックバーが初めて取り付けられたときの立ち会い曲げテストでは、キックバー装置の動きが余り芳しくなく、その4、5日後、最終立ち会い曲げテストを行い、その結果、搬入指示を出した旨記載している。P1の上記陳述は、報告書と証言とで食い違っており、また、その証言は乙第15号証の記載と矛盾しており、信用性がない。
(オ) 1号機にキックバーを装備することは当初想定されていなかったから、甲第5号証の1、2及び第6号証にはキックバーは示されていない。甲第7号証に示されたHYP-60STにはキックバーが装備されているが、甲第7号証の写真及び図面は、1号機ではなく、平成5年にK10工業株式会社に納入した別置式タンクユニットを有するHYP-60STのものである。
(カ) 1号機について、平成4年3月31日の見積もり当時、キックバーの装備が想定されておらず、その後同年7月にキックバーが装備されて有限会社K1に納品されたとすれば、1号機の最終的な価格は、経験則上、見積もり価格にキックバーの開発コスト及び部品代などの価格分が上乗せされた価格となるはずである。ところが、1号機の代金は、見積額3000万円(消費税別)に消費税90万円を加算した3090万円として支払が行われている。
(キ) HYP-60STに取り付けられているキックバーを作動させるシリンダとして採用されているのは、株式会社K11製造に係るHC ZFA 125A140B-100WRシリンダであり、これは、平成4年7月28日、初めて原告に納入されたものであって、
それ以前に原告が購入した実績はない(甲第15号証の1ないし3、第16号証(株式会社K11作成の納品書控え))。したがって、仮に同日納入された上記シリンダとともに1号機にキックバーが取り付けられたとしても、その取り付けが完了した時期は、同日以降ということになる。
ウ 前記(1)ウ(原告の浜北工場における公開)の事実は否認する。
原告の浜北工場においてキックバーを装備した1号機が公開されたことはない。
その根拠は、次のとおりである。
(ア) P1は、乙第1号証に、原告の浜北工場において、株式会社K4のP4、P5など約9名を招待して1号機を公開した旨記載している。しかし、その具体的な日時、回数は特定されていないし、P1は、その証人尋問において、平成4年7月当時は大阪に勤務しており、浜北工場には出張ベースで行っていたにすぎない旨、浜北工場へ時々出張したときに1号機を公開しているところに遭遇した顧客を2、3記憶している旨供述するのみであり、公開の時期及び公開に招待された顧客については明確に供述していないから、乙第1号証の記載は信用性に乏しい。
(イ) 乙第14号証、第17号証には、浜北工場における公開が、1号機の極小曲げ機能について行われたことは記載されているが、本件特許発明に係るキックバーについて行われたことは記載されていない。
(ウ) 甲第15号証の1によれば、1号機のキックバーを作動させるシリンダが株式会社K11から原告に納入されたのは平成4年7月28日であり、他方、1号機は同年8月1日に有限会社K1に納入されたから、浜北工場で1号機が公開されたとしても、キックバーが公開されていたことはあり得ない。
エ 前記(1)エ(有限会社K1における公開)の事実は否認する。
1号機が有限会社K1に納入された後、本件特許発明の特許出願までに、キックバーを装備した1号機が公開されたことはなかった。
その根拠は、次のとおりである。
(ア) 乙第11号証には、1号機が有限会社K1に設置された後、多数の見学者があったこと、原告の営業担当者が顧客を連れて曲げ加工の見学に来たことが記載されているが、その時期は記載されていない。
乙第11号証には、対象技術が不明であるものの、P2が原告に対して特許の共同出願を提案した旨記載されているから、それ以前に1号機が公開されたとは考えられない。特許法29条1項1号又は2号に該当するためには、不特定多数の第三者へ公表されることが必要であるが、有限会社K1は、原告と特許を受ける権利共有していた共同発明者であるから、第三者に当たらない。また、乙第11号証によれば、P2は、特許を受ける権利を原告に譲渡して原告の単独出願に同意したと解されるから、出願前に発明を公にしない義務を負っていたと解され、
出願前に発明を公にしたとは考えられないし、仮にそのようなことがあったとしても、それは特許を受ける権利を有する原告の意に反するものであり、公知公用に至らなかったものとみなされる(特許法30条2項)。
(イ) 乙第12号証の名刺は、乙第1号証では挙げられていないP11の名刺が紛れ込んでおり、また、東京地区の電話番号の市内局番が3桁であった平成3年以前に作成されたと考えられる古い名刺も混在しており、被告主張の時期に有限会社K1を訪れた者の名刺として特定されるものではない。
乙第1号証には、平成4年8月1日から同年9月末日までに有限会社K1を訪れた者として、K10工業株式会社の代表取締役P12、K12製作所のP13、P14が記載されている。しかし、原告の有する記録(甲第8、第9号証)には、原告の現在の代表者であるP15が、同年11月7日、K12製作所の2名を案内し、同月21日、K10工業株式会社の社長ほか3名を案内し、それぞれ有限会社K1においてHYP-60STを見学したことが記載されているから、乙第1号証の上記記載は事実と異なる。
(ウ) 仮に不特定多数の第三者が本件特許発明の出願前に有限会社K1において1号機を見学したとしても、有限会社K1は、極小曲げができることを宣伝して1号機を公開したのであるから、公開されたのは、極小曲げができることだけであるはずである。
本件特許発明に係るキックバーは、最終曲げ予定部でプレッシャ台とチャックが接当するときにのみ作用するものであり、また、そのときも外から見ることはできない。甲第11号証(P13作成の平成15年6月4日付け陳述書)、
第12号証(P12作成の平成15年6月3日付け陳述書)、第13号証(原告代表者P15作成の平成15年6月4日付け陳述書)によれば、K12製作所及びK10工業株式会社の関係者の見学の際も、本件特許発明に係るキックバーについて説明はされなかった。
オ 前記(1)オ(無効理由等)(ア)、(イ)の主張は争う。
(ア) P1は、その証人尋問において、平成4年7月当時、特許法上の公知性に関する知識がなく、当時のK13特許事務所のP16から公知性について問題があるとの指摘を受け、これを原告に報告した旨証言する。
(イ) しかし、P1は、その証人尋問において、平成4年7月以前から自らK13特許事務所に赴き、発明の内容を説明していたこと、自分で行った発明も複数あること、当時アメリカ出願や優先権主張に関する知識を有していたことを証言しており、これらの証言に照らせば、P1が同月当時、公知性に関する知識を有していなかったとは考えられない。しかも、P16は、同月当時、K13特許事務所に在籍していなかった。したがって、P1の前記(ア)の証言は、信用することができない。
4 争点(4)(補償金)ア(被告は本件特許発明出願公開された特許出願に係る発明であることを知っていたか) (1) 原告の主張 ア(ア) 本件特許発明がされた平成4年当時、P1は、原告の技術部門の責任者であり、極小曲げベンダーの開発を担当していた。P1は、キックバーの図面を作成するなど本件特許発明に極めて深くかかわり、自らK13特許事務所に赴き、本件特許発明の出願を依頼した。P1は、それ以前から、自ら特許事務所に赴いて発明の内容を説明するなどしており、アメリカ出願や優先権主張に関する知識も有しており、自ら発明、考案した特許、実用新案がそれまでに合わせて10件以上あった。
(イ) 平成6年4月26日、本件特許発明の出願を含む3件の原告の特許出願が公開され、同年5月26日、K13特許事務所から原告宛に、これら3件の公開特許公報が送付された。
P1が保管していたファイルには上記3件の特許出願の経過書類が綴られ、その中にこれらの公開特許公報が含まれており、当時、これらの公開特許公報がP1の元に届けられたことは明らかである。
(ウ) 平成6年6月7日、原告から依頼を受けてパイプベンダー関連の公報調査を行っていたK13特許事務所から原告のP1宛に、定期調査報告書が送付された。この定期調査報告書には、公開特許公報等の資料が添付されており、同年4月26日に出願公開された本件特許発明を含む上記3件の公開特許公報も資料として添付されていた。
(エ) 以上の事実からすれば、遅くとも平成6年6月当時、P1が本件特許発明出願公開を知っていたのは明らかである。P1は本件特許発明の実質的な発明者であり、原告における出願事務の責任者であったから、出願公開された本件特許発明の内容を知っていたことはいうまでもない。
イ(ア) P1は、平成7年12月に原告を退社した後、平成8年6月、被告の取締役技術部長となり、被告におけるイ号製品の開発責任者となった。被告は、
平成9年3月から「CNC BOOSTER BENDER KBB-50ND」等の商品名で、本件特許発明実施品であるイ号製品の製造販売を始めた。
(イ) P1が、平成6年6月当時、本件特許発明出願公開されたことを知っており、平成8年6月に被告の取締役技術部長になっていることからすれば、
被告は、遅くとも同月に、本件特許発明出願公開されたことを知っていたと評価することができる。
そうであるとすれば、平成9年3月以降の被告による本件特許発明実施は、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って、これを実施したものということができる。
(2) 被告の主張 ア 原告の主張ア(ア)の事実は認め、(イ)ないし(エ)の事実は否認する。
イ 原告の主張イ(ア)の事実は否認し、(イ)の主張は争う。
原告の主張は不明確な前提の上に立って憶測を述べるものにすぎない。
P1が被告の取締役に就任したことをもって、被告が本件特許発明出願公開を知っていたと評価する根拠はない。P1が特許事務所との窓口であることやP1宛に書類が発送されていることだけでは、P1が特許事務所から送られてきた書類のすべてに目を通し、本件特許発明出願公開を認識していたということはできない。
5 争点(4)イ(実施料率) (1) 原告の主張 本件特許発明実施料率は、被告の利益率が30%と高いこと、自動車部品製造業者向けの極小曲げベンダーに本件特許発明に係る技術が不可欠であること等の事情に照らせば、少なくとも売上の15%を下回ることはない。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
乙第27ないし第33号証(被告の売上台帳)により開示したとおり、極小曲げベンダーの販売台数のうち、キックバーを装備したものよりキックバーを装備しないものの方が多いから、極小曲げベンダーに本件特許発明に係る技術が不可欠であるとはいえず、本件特許発明実施料率は売上の5%を超えることはない。
6 争点(4)ウ(補償金額) (1) 原告の主張 前記第2、2(4)アのとおり、被告は、本件特許発明出願公開後、本件特許権の設定登録日までに、別紙イ号製品売上表の1記載のとおり、イ号製品を製造販売し、その売上の合計は3億3356万円である。
前記5(1)のとおり、本件特許発明実施料率は売上げの15%を下回ることはないから、補償金の額は、5003万4000円(3億3356万円×0.15=5003万4000円)である。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
7 争点(5)(損害)ア(被告の受けた利益の額) (1) 原告の主張 ア 被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、イ号製品を製造販売し、その売上の合計は12億9750万円である。
前記第2、2(5)のとおり、イ号製品の利益率は、30%を下回ることはない。
したがって、被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、イ号製品の製造販売により3億8925万円(12億9750万円×0.3=3億8925万円)の利益を得た。
イ 本件特許権の設定登録後平成16年3月23日までのイ号製品の売上の合計が前記アのように12億9750万円でないとしても、前記第2、2(4)イのとおり、その売上の合計は3億8934万4800円である。
前記第2、2(5)のとおり、イ号製品の利益率は、30%を下回ることはない。
したがって、被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、イ号製品の製造販売により、1億1680万3440円(3億8934万4800円×0.3=1億1680万3440円)の利益を得た。
ウ イ号製品は、キックバーがないことを甘受してでも選択すべきような技術的特異性はないが、本件特許発明に係るキックバーを備えることによってコスト低減の効果を発揮し、しかも、それによる価格の上昇はほとんどない。したがって、イ号製品の売上げに本件特許発明が寄与する度合いは100%である。
被告が顧客にキックバーのない極小曲げベンダーを販売したことがあるとしても、それは、上記の寄与の度合いとは関係がない。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
本件特許発明は、イ号製品の一部であるキックバーを特徴的部分とするから、被告が得た利益を算出するに当たっては、キックバーの寄与の度合いを考慮すべきである。
キックバーの部品代、調整費(コンピュータソフト代)及び組立費は、イ号製品のうちKBB-70NDについては約25万円、KBB-50NDについては約21万円であり、製品全体に占める価格割合は低く、また、キックバーは、最終曲げ部分を200mm以下にする場合にのみ稼働し、その使用率は20%以下と低いから、キックバーの寄与の度合いは、パイプベンダーの売価の25%を超えることはない。
したがって、イ号製品の売上にキックバーの寄与の度合いを乗じ、これに利益率を乗じた額をもって原告の損害額とすべきである。
8 争点(5)イ(弁護士、弁理士費用) (1) 原告の主張 原告は、本件訴訟の追行を弁護士、弁理士に委任せざるを得なかったものであり、被告による本件特許権の侵害相当因果関係にある損害としての弁護士、
弁理士費用は、4000万円を下回ることはない。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
9 争点(6)(合計額) (1) 原告の主張 ア 合計額 (ア) 補償金 前記6(1)のとおり、原告が被告に対して請求し得る補償金の額は、5003万4000円である。
(イ) 損害 a 前記7(1)アのとおり、被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、イ号製品の製造販売により、3億8925万円の利益を得た。
b 前記8(1)のとおり、被告による本件特許権の侵害相当因果関係にある損害としての弁護士、弁理士費用は4000万円である。
c したがって、損害額は4億2925万円(3億8925万円+4000万円=4億2925万円)である。
(ウ) 合計 したがって、請求額は4億7928万4000円(5003万4000円+4億2925万円=4億7928万4000円)である。
イ 遅延損害金 原告は、被告に対し、補償金5003万4000円については、本件特許権の設定登録日の翌日である平成13年3月24日から、損害のうち9138万円については、不法行為の後である平成15年1月7日(本件訴状送達の日の翌日)から、損害のうち3億3787万円については、不法行為の後である平成16年3月24日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号製品の図面等)について (1) 弁論の全趣旨によれば、イ号製品は、別紙イ号製品目録「第1 図面の説明」に代表的な機種として挙げられているように複数の機種からなることが認められ、別紙イ号製品目録の別紙図面は、これらを包括的に示し、本件第2発明の構成要件(構成要件Aにおいて、請求項1に係る本件第1発明との対比も行われる。)との対比に必要な構成を含むものとして特定するのが相当である。
(2) 弁論の全趣旨によれば、被告の主張に係る別紙イ号製品詳細図は、イ号製品の1機種であるCNC BOOSTER BENDER KBB-50NDを示すにとどまるが、他方、別紙イ号製品目録の別紙図面は、イ号製品に属する複数の機種に共通のものとして抽象化された図面であり、本件第2発明の構成要件との対比に必要なキックバーの構成を含むものであることが認められる。したがって、イ号製品の特定としては、別紙イ号製品目録の「第1 図面の説明」及び同目録の別紙図面によるのが相当であると認められる。
2 争点(2)(本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cの充足性)について (1)ア 本件第2発明の構成要件Cは、「対象パイプ(P)の管端面に対して先端を接当作用させる小径の出退扞状具(36)を、前記チャック(1)の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設け、」であり、本件第1発明の構成要件C′も同趣旨であり、いずれも出退扞状具をチャックの中心軸芯上で作用状態と引退状態とに切り換え操作(出退操作)できるように設けることは必要とされているが、出退扞状具を出退操作する機構については、何ら限定が加えられていない。
イ(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明実施例の項には、「図8に示す如くチャック1の中心軸芯部に内装の小径の出退扞状具36を送り台15上に装備の出退操作用シリンダ37によりチャック奥部の引退状態からチャック1の先方へ突出させて対象パイプPの管端面に対し接当させる作用状態へ切り換え、そして、クランプ台3の回動操作による曲げ加工時には、前述のチャック1を介する付勢に代えて、プレッシャ台4との接当干渉の無い状態で管端面に対し突出接当作用する上記の扞状具36を、送り駆動用シリンダ14による送り台推進によりパイプ挟圧部分の管芯方向でクランプ台3の離間動作側へ付勢することと、前述のプレッシャ台付勢用シリンダ27によるプレッシャ台側の付勢とにより、対象パイプPを付勢する。」(本件公報11欄25行ないし37行)と記載されており、本件添付図面の図8(本件公報図8)には、出退扞状具36を突出又は引退状態とするためのシリンダ37のシリンダロッドの軸芯線と、対象パイプの軸芯線とが同一線上にあり、
シリンダ37が対象パイプPを取り囲むように中空となっている構成が示されている。
(イ) しかし、上記(ア)の構成は、本件明細書の発明の詳細な説明実施例の項において示されていることから、本件特許発明に係る出退扞状具を出退操作する機構の一つの具体例として示されているものと認められる。本件明細書には「特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするため符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。」(本件公報15欄1行ないし3行)と記載されており、本件特許発明の構成を、本件明細書の実施例の記載や本件添付図面に示された構成に限定する根拠は認められない。
ウ したがって、本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cに係る出退扞状具を出退操作する機構は、前記イ(ア)の構成に限定されることはないというべきである。
(2)ア イ号製品の構成c(前記第2、2(6))は、「対象パイプPの管端面に対して先端を接当作用させる小径のチャックストッパー36を、出退操作用シリンダ37によって前記チャック1の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設け、」であり、本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cを充足するものと認められる。
イ 別紙イ号製品目録(前記1(2)のとおり、イ号製品の特定は、別紙イ号製品目録の別紙図面によるのが相当である。)によれば、イ号製品は、出退操作用シリンダ37のシリンダロッドの軸芯線と対象パイプPの軸芯線とが同一線上になく、平行線上にあり、出退操作用シリンダ37のシリンダロッドの突出又は引退の運動が連杆を介してチャックストッパー36に伝えられる構造であり、出退操作用シリンダ37が対象パイプPを取り囲むように中空となっておらず、これらの点で、前記(1)イ(ア)の構成とは異なる。しかし、前記(1)ウのとおり、本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cに係る出退扞状具を出退操作する機構は、前記(1)イ(ア)の構成に限定されないから、上記の点で前記(1)イ(ア)の構成と異なっても、イ号製品の構成cによる本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cの充足は否定されることはないというべきである。
ウ したがって、イ号製品の構成cは、本件第1発明の構成要件C′及び本件第2発明の構成要件Cを充足するものというべきである。前記第2、2(8)のとおり、イ号製品は本件第1発明及び本件第2発明のその他の構成要件も充足するから、本件第1発明及び本件第2発明のすべての構成要件を充足しており、本件第2発明の技術的範囲に属する。
3 争点(3)(出願前公知、公然実施の成否)について (1) 後掲各証拠によれば、1号機の製造に関する事実の経過は、次のとおり認められる(当事者間に争いのない事実も含む。)。
ア 原告は、平成3年9月ごろ、曲げ半径がパイプ径の1.5倍以下である極小曲げベンダーを製造販売することを決め、当時原告の技術部門の責任者であったP1が開発を担当し、極小曲げベンダーの設計を開始した。(当事者間に争いがない。) イ 金属製パイプの曲げ加工を業とする有限会社K1は、平成4年2月ごろ、極小曲げベンダーを購入し設置する方針を決めた。有限会社K1は、極小曲げベンダーの導入をベンダー等の専門商社である株式会社K2に相談し、株式会社K2は、有限会社K1に、原告を紹介した。有限会社K1は、希望する技術上の条件等について、原告の技術担当者であったP1との間で、直接交渉した。(乙第11号証(後記の信用することができない部分を除く。以下、同じ。)) ウ P1らは、有限会社K1の要請を取り入れ、既にでき上がっていた設計図に修正、書込みを行い、極小曲げベンダーの図面を完成させた(ただし、後記のとおり、乙第2号証の1ないし12は、1号機の図面とは認められない。)。極小曲げベンダーの機種名は、当初は「SPD-60ST」であったが、後に「CNC HYP-60ST」とされた。(乙第1号証(後記の信用することができない部分を除く。以下、同じ。)、弁論の全趣旨) エ 株式会社K2は、極小曲げベンダーSPD-60STの平成4年3月31日付け見積書(代金3000万円(消費税別))を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。(当事者間に争いがない。) オ 有限会社K1は、株式会社K2を通じて、原告の製造するHYP-60ST1号機を導入することを決め、株式会社K2に発注した。有限会社K1は、平成4年4月7日、静岡県知事に対し、中小企業近代化資金として、1号機の購入資金の貸付けを申請した。静岡県庁の担当者の指導により、納期は同年6月末日までにしなければならないとされていたので、株式会社K2の作成する注文請書の納期は同年6月末日とされた。(乙第11号証、弁論の全趣旨) カ 株式会社K2は、1号機の平成4年4月12日付けの注文請書を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。(当事者間に争いがない。) キ その後、原告による1号機の製造が納期遅れとなることが分かったので、有限会社K1は、その旨を静岡県庁の担当者に伝えたところ、1か月の延長が認められ、平成4年7月末日を納期とすることとなった。しかし、それ以上納期が遅れると、中小企業近代化資金貸付の内定が取り消されるので、有限会社K1は、
原告に対し、納期を厳守するように伝えた。(弁論の全趣旨) ク 静岡県知事は、平成4年7月3日付けで、有限会社K1に対し、中小企業近代化資金貸付内定通知を行った。同通知においては、対象設備金額は3090万円、貸付内定額は1483万円とされていた。(乙第5号証) ケ 原告は、1号機について、部品を株式会社K3に設計図を渡して発注し、原告の浜北工場で組立てとセットアップを行った。(乙第1号証、弁論の全趣旨) コ 株式会社K2は、1号機の平成4年8月1日付け納品書及び同日付けの代金の請求書(請求金額3090万円(代金3000万円、消費税90万円))を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。(当事者間に争いがない。) サ 有限会社K1は、平成4年8月1日、その工場で、株式会社K2が納入した1号機の検収を行い、同日付けの検収票を作成した。その後、中小企業近代化資金の貸付金が有限会社K1に交付された。(乙第8号証、弁論の全趣旨) シ 有限会社K1は、平成4年8月20日、株式会社K2に対し、1号機の代金3090万円を振込みにより支払い、株式会社K2は、同日付けの領収書2通(金額3000万円と90万円)を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付した。
(当事者間に争いがない。) ス 原告は、平成4年10月5日、本件特許発明につき特許出願を行った。
(甲第1号証) 以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 1号機に、有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたかについて検討する。
ア(ア) 乙第2号証の1の図面にはキックバーを駆動するシリンダが示されており、乙第2号証の2の図面には、キックバーが示されている。
(イ) 甲第7号証(ハイパーベンダーカタログ)に掲載されたHYP-60STの図面には、キックバーを駆動するシリンダが示されている。
(ウ) 乙第19号証(有限会社K1に設置されている1号機の写真)、第20号証(有限会社K1に設置されている1号機によるパイプ曲げ加工方法の映像を記録したCD-ROM)には、有限会社K1に設置されている1号機に、現在、
キックバーが装備されていることが示されている。
(エ) 乙第15号証(P2作成の平成15年5月26日付け報告書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年6月末から7月初めにかけて、原告の浜北工場において、
P2の立会いの下で1号機による曲げテストを行った。
A 曲げテストにおいては、極小曲げは問題なく曲げられたが、最終曲げ加工後の管端ストレート部が長く必要となり、その部分は不必要で、ロスとして捨てなければならなかった。
B 有限会社K1で1号機を使用して曲げる材料は、ステンレスやチタンなど大変高価な材料だったので、少しの無駄も許されなかった。
C そこで、P2は、立会いのときに、
@ 曲げ加工後のストレート部を極限まで少なくすること A 有限会社K1は、搬入後直ちに静岡県の検収を受けなければならないので、搬入までに完全に検収を充たすようにすること B P2が再度立ち会うまでに条件を充たすこと など大変厳しい条件を出した。
D その後P2の立会いの下で曲げテストを行ったとき、1号機にキックバーは付いていたが、キックバーの動きはあまり芳しくなかった。P2は、キックバーがスムーズに動けば問題は解決できると思った。その立会いの時に意見を出し合い、次回の立会いを楽しみにした。
E その4、5日後、P2の立会いの下で最終の曲げテストを行い、要望に近いものができたので、搬入を要請した。
F 平成4年7月末日に搬入してもらい、翌8月1日に、原告の担当者に来てもらい、株式会社K2のP9も同席して試運転、指導などをしてもらい、検収を行った。キックバーの効果を皆で大変評価した。
(オ) 乙第16号証(P1作成の平成15年5月19日付け報告書)には、次の趣旨が記載されている。
@ キックバーは、有限会社K1から1号機の注文を受けたときは、全く考えていなかった。P2と打合せを行った時点でもキックバーについては話に出なかった。
A 1号機のセットアップが完了し、P2の立会いの下で曲げテストを行ったところ、最終曲げ後のストレート部が長くなり、このストレート部を捨てることになるため、P2から、捨て代を極限まで少なくして欲しい旨の強い要望が出された。
P1は、即座に、改造してキックバー装置を取り付けることにした。セットアップ及びテスト曲げを担当していたP3にキックバーの取付けを依頼し、再度、立会いを行うこととなった。
B 平成4年7月20日ごろ、P2の立会いの下で曲げテストを行い、
P2はその結果に満足して搬入を指示した。
したがって、有限会社K1の工場に搬入するときには、既にキックバーの取付けが完了していた。
(カ) 乙第17号証(P3作成の平成15年5月15日付け報告書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年5月ごろ、1号機が大阪工場での組立てを完了し、浜北工場に搬送され、P3は1号機のセットアップの担当を命じられ、その時点で既に納期に間に合わないことを知らされた。
A その後直ちにセットアップに取りかかり、セットアップ完了後、試運転を行い、P2の立会いの下で試運転を行った。その際に、P2より、曲げ加工後の管端のロスになる材料を少なくする方法を考えてほしい旨の要望が出された。
B 設計担当のP1から、曲げ加工後のロスとなる材料を少なくするためにキックバーを取り付けることを聞き、部品取付け及び油圧配管作業を行った。
C キックバー及びシリンダを取り付けた状態で再度P2の立会いの下でテストを行ったが、P2は満足しなかった。P2からは、納入後、県の厳格な検査があるので納入時までに検収を充たすように指示された。
有限会社K1の要望に応えるため、再度部品の交換などを行い、再度立ち会テストを行い、キックバーの効果を確認してもらい、満足を得た結果、P2から納入の指示を受け、平成4年7月末出荷した。
D 原告の担当者であったP3とP17は、出荷した翌日の平成4年8月1日、有限会社K1で検収を行い、そのとき、P2より、キックバーの効果を大変に評価されたことを覚えている。
(キ) 乙第18号証(P9作成の平成15年8月23日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年6月末から7月初めにかけて、原告の浜北工場で、P2とP9が立ち会って曲げテストを行った。極小曲げについてはそれ程問題がなかったが、最終曲げ加工後の管端ストレート部が長く必要となり、P2から、その部分をロス材として捨てなければならなくなることは到底承服できない旨申し出があり、
P9も、原告のP18取締役に、見積もり変更なしに追加改造するよう申し入れ、
原告が快く追加改造することに応じ、ほっとした。
A P2がP1に具体的な方法を相談し、キックバーによって問題を解決することが決まり、P1が直ちに設計に入って対応したとP2から聞いたことを覚えている。
B その後、再度立ち会って曲げテストを行ったときに、キックバーが付いてロス材が短くなったので安心して納入してもらうことにした。
C 平成4年7月末日、1号機を有限会社K1に搬入し、翌8月1日、
原告の担当者であるP3とP17に試運転、指導などをしてもらい、P9も1日中立ち会い、検収を行った。キックバーの効果を皆で大変評価したことを記憶している。
(ク) P1は、その証人尋問において、次の趣旨の証言をした。
@ 1号機には、キックバー(出退扞状具)は注文の項目としてはなかったが、P2の立会いの下で第1回目のテストをしたときに、P2から、最終の歩留まりをよくしないとコスト的に合わないという強い要望があり、キックバーを急遽取り付けるようになった。(証人尋問調書速記録2頁) A 1号機に、出荷時に出退扞状具を装着して出荷した。(同2頁) B 1号機を組み立てたのは平成14年の5月、6月ぐらいだったと思う。(同2頁) C 乙第16号証に記載されたようにP2から捨て代を極限まで少なくして欲しい旨の強い要望が出されたのは、第1回目の立会いテストを行った平成4年7月半ばぐらいである。(同24頁) D キックバーに使用するシリンダを発注したのは、平成4年7月半ばか半ば過ぎくらいである。(同24頁) E 立会いテスト後2、3日でキックバーの図面が完成した。(同24頁) F キックバーのシリンダが納入されたのは、4、5日先の25、6日ではないか。(同24頁) G キックバーを取り付けたのは出荷の直前だったと思う。(同24頁) H キックバーを取り付けた後の1回目のP2が立ち会った曲げテストの際、P2は基本的に満足していたが、一部、焼き入れされていないひねりの部分がかじったということがあり、そこに対策としてスラストベアリングを入れた記憶がある。(同24ないし25頁) I P2がひねりの部分に問題があると言った後、2回目の曲げテストが行われたかどうかは知らない。(同25頁) J キックバーのシリンダが入荷したのは、大体25日か26日ごろであった。(同26頁) K キックバーの取付けができたのは、納入直前だったという記憶である。(同27頁) L 浜北工場で1号機を公開したときにキックバーを見た者も見ない者もいると思う。(同27ないし28頁) M 甲第15号証の1に「HC・ZFA・125A140B-100WR」と書かれているのは、1号機のキックバーのシリンダである。(同29頁) N 平成4年7月末当時、ものの納入と伝票の納入日が必ずしも合っておらず、伝票が後から来る場合が往々にしてあった。当時、月末締めの翌月10日支払ということで、例えば月初めに納入したものでも月末にあわてて伝票を入れるということも往々にしてあったから、甲第15号証の1に「7月28日」と書いてあることにより、キックバーのシリンダがその日に入荷したことが証明されることにはならないと思う。(同29頁) イ そこで、上記各証拠の信用性等について検討する。
(ア) 乙第16号証(後記の信用することができない部分を除く。以下、
同じ。)、証人P1の証言(後記の信用することができない部分を除く。以下、同じ。)及び弁論の全趣旨によれば、乙第2号証の1ないし12の図面は、被告が、HYP-60STの2号機以後の部品メーカーであったK14鉄工所から借用したものであり、同図面に示されているのは、1号機でないことが認められる。したがって、
乙第2号証の1、2にキックバーを作動させるシリンダやキックバーが示されていたとしても、それによって、1号機に有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたことは立証されない。
(イ) 甲第7号証(ハイパーベンダーカタログ)に掲載されたHYP-60STの図面には、キックバーを作動させるシリンダが示されている。証人P1の証言及び弁論の全趣旨によれば、1号機は、油圧ユニットが内蔵されていたが、甲第7号証に図面、写真等が掲載されたHYP-60STは、油圧ホースにより連結された別置式の油圧ユニットを備えるもので、平成5年にK10工業株式会社に納入されたものであることが認められる。したがって、甲第7号証に掲載された図面にキックバーを作動させるシリンダが示されていたとしても、それによって、1号機に有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたことは立証されない。
(ウ)a 甲第15号証の1は、株式会社K11作成の原告宛の納品書控であり、日付けは平成4年7月28日付けであり、その品名寸法欄には、「HC・ZFA・125A140B-100WR」と記載されている。証人P1の証言及び弁論の全趣旨によれば、ここに記載された「HC・ZFA・125A140B-100WR」は、1号機に取り付けられたキックバーを作動させるシリンダであることが認められ、甲第16号証及び弁論の全趣旨によれば、これは、このとき初めて原告に納入されたものであって、それ以前に原告が購入した事実はないことが認められる。
甲第15号証の1の日付けが平成4年7月28日付けとされていることから、「HC・ZFA・125A140B-100WR」は、同日、原告に納入されたものと認められる。甲第15号証の1は、本件訴訟と関係なく平成4年当時作成された書証であるから、本件訴訟のために作成された陳述書や、本件訴訟と関係なく作成された書証等による客観的裏付けのない供述より信用性が高いものと認められる。
P1は、その証人尋問において、甲第15号証の1に「7月28日」と書いてあることにより、キックバーのシリンダがその日に入荷したことが証明されることにはならない旨証言する(前記ア(ク)N)。しかし、乙第15ないし第17号証(乙第17号証については、後記の信用することができない部分を除く。以下、同じ。)及びP1の証言によれば、キックバーの装着が決まったのは、
1号機についてP2立会いの下で曲げテストを行ったときかその直後であることが認められ、その時期は、平成4年7月末の納期の迫った時期であると推認される。
そうであるとすれば、「月初めに納入したものについて月末にあわてて伝票を入れる」という状況ではなかったはずであり、少なくとも甲第15号証の1については、実際の納入より後の日付けで伝票が入れられるということがあったとは認められない。
したがって、「HC・ZFA・125A140B-100WR」は、平成4年7月28日、
原告に納入され、そのシリンダを組み込んで1号機にキックバーが装着されたのは、同日以後であると推認される。
b ところで、前記(1)コのとおり、株式会社K2が、1号機の平成4年8月1日付け納品書及び同日付けの代金の請求書(請求金額3090万円)を作成し、同日ごろ、有限会社K1に送付したことは当事者間に争いがなく、前記(1)サのとおり、乙第8号証によれば、有限会社K1は、平成4年8月1日、その工場で、
株式会社K2が納入した1号機の検収を行い、同日付けの検収票を作成したことが認められ、同日までに1号機が有限会社K1に搬入されたことが認められる。
(エ) 前記(ウ)aのとおり、1号機にキックバーが装着されたのは平成4年7月28日以後であり、前記(ウ)bのとおり、有限会社K1に1号機が納入されたのは同年8月1日である。
乙第15号証には、前記ア(エ)のとおり記載されているが、キックバー装着後4、5日の間隔を開けて2度の曲げテストを行った上で平成4年7月末日に搬入したということは、上記日付けと矛盾し、乙第15号証の前記ア(エ)の記載は信用することができない。
(オ) 乙第16号証には、前記ア(オ)のとおり記載されているが、1号機にキックバーを取り付けた後、平成4年7月20日ごろ曲げテストを行ったということは、日付けの点からして、信用することができず、乙第16号証の前記ア(オ)の記載は信用することができない。
(カ) 乙第17号証には、前記ア(カ)のとおり記載されているが、平成4年7月28日の後に1号機にキックバーが装着されてから、同年8月1日に有限会社K1に1号機が納入されるまでの短期間の間に、2度の曲げテストが行われたとは考え難く、乙第17号証の前記ア(カ)の記載は信用性に乏しいというべきである。
(キ) 乙第18号証には、前記ア(キ)のとおり記載されており、その趣旨は、乙第15号証、第17号証の記載とほぼ同一である。前記のとおり、乙第15号証、第17号証は、日付けとの関係で信用性に乏しく、乙第18号証について、
それらと異なって特に信用性が高いと認められる事情はないから、乙第18号証の前記ア(キ)の記載も信用性に乏しいというべきである。
(ク) P1は、その証人尋問において、前記ア(ク)のとおり証言している。しかし、前記(ウ)aのとおり、1号機にキックバーが装着されたのは平成4年7月28日以後であるから、シリンダの納入時期を同月25、6日とする証言は信用することができない。また、前記(ウ)bのとおり、有限会社K1に1号機が納入されたのは同年8月1日であるところ、同年7月28日から同年8月1日までの短期間に、P2の立会いの下に曲げテストが行われ、その後、ひねりの部分がかじったことの対策としてスラストベアリングを入れるなどの対策が講じられたとは考え難いところである。さらに、P1が、P2の立会いの下に行われた最初の曲げテストに立ち会い、P2が指摘した問題点について対策を講じることまでしたにもかかわらず、2回目の曲げテストが行われたかどうか知らないということも、にわかに信用し難い。したがって、P1の前記ア(ク)の証言のうち、キックバーの取付けに関する部分は、信用性に乏しいというべきである。
(ケ) 甲第7号証、乙第2号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、当初キックバーが装備されていないHYP-60STにキックバーを後付けして組み込むことは、チャック奥部のねじ込み式の固定ストッパーを取り外して、キックバー(可動ストッパー、出退扞状具)及びそれを作動させるシリンダを組み付けることによって行うことができるものと認められる。
したがって、有限会社K1に設置されている1号機に、現在キックバーが装備されていたとしても、必ずしも納入の当初から装備されていたことにはならない。
(3) ところで、被告は、原告の浜北工場で、キックバーが装備された1号機が公開されたと主張するところ、1号機に有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていなかったとすれば、それ以前に原告の浜北工場において、キックバーが装備された1号機が公開されることもなかったはずであるから、原告の浜北工場における1号機の公開についても検討する。
ア(ア) 乙第1号証(P1作成の平成15年2月17日付け報告書)には、
次の趣旨が記載されている。
@ 原告の社内で曲げテストを繰り返し、問題点の検証や調整を行う傍ら、関係ユーザーを招待し、招待客の前で曲げテストを行い、新機種であるHYP-60ST1号機のお披露目を行った。
A 1号機のお披露目のとき招待した者は、株式会社K4のマフラー事業部生産管理課の次長であるP4、課長であるP5、K15株式会社(曲げ加工業者と取引のある商社)のF支店M事業部の課長であるP19、K5株式会社の専務取締役であるP7、K16株式会社の生産技術課の技師であるP20、有限会社K6の代表取締役であるP8、K17株式会社の専務取締役であるP21、工場長であるP22、株式会社K2の代表取締役社長であるP9であった。
(イ) 乙第14号証(P6作成の平成15年4月23日付け報告書)には、次の趣旨が記載されている。
平成4年7月中旬より同月下旬ごろまでの約2週間に、極小曲げベンダーを設置してくれるであろうと思われる客先を浜北工場へ案内し、テスト曲げなどを行った。そのとき浜北工場に来社した客先は前記(ア)A記載の者であった。
(ウ) 乙第17号証(P3作成の平成15年5月15日付け報告書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 1号機の納入日まで日数が少ない中で、営業担当者が顧客を1号機の見学へ案内し、その都度P3のところに来て曲げテストの依頼があり、大変に忙しい思いをしたことを記憶している。
A 1号機を納入する前10ないし15日ぐらいの間に、15、6名が見学に来たように記憶している。
(エ) 乙第22号証(K5株式会社専務取締役P7作成の平成15年11月19日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ P7が製造部長であった平成4年6月ごろ、原告の営業担当であったP23から、「原告でも極小曲げベンダーを作ったので客先に搬入する前にできあがったものを見てもらえないか。」という趣旨の誘いがあった。
K5株式会社では極小曲げベンダーを整備する計画があったので、
見せてもらうことにした。
A 平成4年7月末ごろ、P23に案内されて原告の浜北工業に行った。
B P7は、当時、他の機械メーカーの極小曲げベンダーも見ていろいろ検討していたが、原告の極小曲げベンダーにはキックバーがあり、その点は他の機械メーカーのものにはない特色であった。
C P7は、同人を案内したP23や設計を担当したP1からキックバーについての説明を聞いたり、質問をしたりした。そして、実際にベンダーを運転して、数回程度の曲げ加工をしてもらい、キックバーの動きを十分見せてもらった。
D P7を案内したP23から、「このキックバーが組み込まれている原告の極小曲げベンダーは、原告としては1号機であって、7月末には発注先に納品することになっているので、突然ご案内することになり、無理してきていただいた。」と感謝されたことを覚えている。
(オ) 乙第25号証(有限会社K6代表取締役P8作成の平成15年12月16日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年7月ごろ、原告の営業担当のP23から、「原告で、ストレート部を短くする新しい極小曲げベンダーの1号機ができ上がり、7月末に客先に納品してしまうので、原告の浜北工場にあるうちに是非見てほしい」旨案内された。
A 平成4年7月末だと思うが、P23に同行して浜北工場で極小曲げベンダーによる曲げテストの実演を見せてもらった。
B P23の説明では、ストレート部が短くてすむようになったのは、
キックバーを組み込んだためであるとして、キックバーの動きを十分に見せてもらったことを記憶している。
イ そこで、上記各証拠の信用性等について検討する。
(ア) 乙第1号証、第14号証には、原告の浜北工場において1号機が公開されたことは記載されているが、その当時1号機にキックバーが装備されていたかどうかは、記載されていない。
(イ)a 前記(2)イ(ウ)a認定のとおり、1号機のキックバーを作動させるシリンダは、平成4年7月28日、原告に納入され、前記(2)イ(ウ)b認定のとおり、1号機は、同年8月1日、有限会社K1に納入された。原告が同年7月28日から同年8月1日までの短期間に、1号機にキックバーを取り付け、更に顧客を招いてキックバーによる曲げの実演を行ったということは考え難いところである。
そして、1号機にかかわりの深かったP2、P1、P3、P9作成の各報告書(乙第15ないし第18号証)及びP1の証言のうち、1号機へのキックバーの取付けに関する部分が信用性に乏しいことは、前記(2)イ(エ)ないし(ク)のとおりであって、1号機へのキックバーの取付けの経緯は明らかでない。
他方、乙第17号証、第22号証、第25号証は、本件訴訟のために作成された陳述書である。
b そうであるとすると、乙第17号証、第22号証、第25号証の前記ア(ウ)ないし(オ)の記載は、にわかに信用することができないというべきである。
また、前記ア(ウ)の乙第17号証の記載は、見学者があったのが、
1号機にキックバーを装備する前か後か明らかでなく、仮に、キックバーを装備した後、10ないし15日ぐらいの間に見学者があったという趣旨であるとすれば、
1号機に平成4年7月28日以後にキックバーが取り付けられ、同年8月1日に1号機が有限会社K1に納入されたという認定に反することになるから、前記ア(ウ)の乙第17号証の記載は、この点からしても、信用することができない。
(4) 以上によれば、前記(2)ア(ア)ないし(ク)の証拠によっては、1号機に、
有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたことは認められず、また、前記(3)ア(ア)ないし(オ)の証拠によっては、原告の浜北工場で、キックバーが装備された1号機が公開されたことは認められない。そして、その他に、1号機に有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたこと、及び原告の浜北工場でキックバーが装備された1号機が公開されたことを認めるに足りる証拠はない。
(5) 上記(4)のとおり、1号機に有限会社K1への納入当初からキックバーが装備されていたことを認めるに足りる証拠はないが、さらに、有限会社K1へ納入後、1号機にキックバーが取り付けられ、本件特許発明の出願前に公開されたことが認められるかについて検討する。
ア(ア) 乙第1号証(P1作成の平成15年2月17日付け報告書。乙第16号証(P1作成の平成15年5月19日付け報告書)により、その記載を一部訂正している。)には、次の趣旨が記載されている。
@ 有限会社K1が、招待した関係ユーザーの前で1号機により曲げテストを行い、お披露目を行ったと聞いている。
A 平成4年8月1日から同年9月末日までの2か月間のお披露目の運転中に有限会社K1に来社した者は、K18株式会社の第二生産技術部のP51、
K19株式会社の技術係であるP24、K20の営業次長であるP25、K21株式会社の生産本部長であるP26、K10工業株式会社の代表取締役であるP12、株式会社K4のマフラー事業部の生産管理課の次長であるP4、課長であるP5、課長代理であるP27、株式会社K22の代表取締役であるP22、株式会社K23のP29、P30、株式会社K24の生産開発室課長であるP31、生産部主査であるP32、P33、P34、P35、P36、有限会社K25の代表取締役であるP37、有限会社K26の代表取締役であるP38、K8株式会社の技術開発部の工師であるP10、K12製作所のP13、P14、K27のP39、P40、P41、P42、P43、K28の技術開発チーム課長であるP44、K9工業のP11であったと聞いている。
(イ) 乙第12号証は、有限会社K1が保存していた、前記(ア)A記載の者の名刺である(ただし、乙第12号証の名刺中には、株式会社K24のP45の名刺が2枚あり、また、乙第12号証に名刺のあるP11、P46の氏名が、乙第1号証には記載されていない。)。
(ウ) 乙第11号証(P2作成の平成15年2月3日付け報告書)には、
次の趣旨が記載されている。
1号機が納入された後、極小曲げができるということを、二輪車、四輪車のマフラー業者に宣伝したところ、毎日、各社からマフラー担当者が曲げ加工現場を見学に来た。また、原告からも営業担当者が顧客を連れて見学に来た。
(エ) 乙第18号証(P9の平成15年8月23日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年8月1日に有限会社K1に1号機を納入した直後から同年10月5日までの間、及びその後も、株式会社K2と取引関係にあったパイプ曲げ加工業者を有限会社K1に案内し、1号機によるパイプ曲げテストを見学させてもらった。
A 1号機の特色は、極小曲げができるということとパイプのロス材がごく僅かであるということで、キックバーを稼働させて曲げ加工してパイプのロスが少なくなるところを実際に見せ、説明をしてもらったことを覚えている。
B P9が有限会社K1に曲げ加工の実演を見学するために案内した者は、K21株式会社の生産本部長であるP26、株式会社K29の技術開発部の工師であるP10、K27の生産技術部のP39、P40、P41、P42、P43、K20の営業次長であるP25である。
(オ) 乙第21号証(P2作成の平成15年10月31日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ P2と原告との間には、1号機の納入に当たって秘密保持に関する約束は何もなかった。
A 納入されてしばらくの間は、株式会社K2のP9が株式会社K2の何人もの顧客を有限会社K1の工場に連れてきたので、曲げテストを実演し、キックバーの優れているところを顧客に見せた。
(カ) 乙第23号証(P10作成の平成15年12月12日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 株式会社K2のP9から、株式会社K2が納品した原告製の極小曲げベンダーが有限会社K1にあるので是非見てほしいと言われ、P11と有限会社K1を訪問した。
A 有限会社K1を訪問した日は、平成4年8月の盆明けであった。
B 有限会社K1に行った日は、蒸し暑い日で、10時半ごろから12時過ぎまで、曲げ加工の運転を見学させてもらった。キックバーが作動して曲げ終わりストレートを短くできることに感心したことを覚えている。
C P9、P2から、キックバーを極小曲げベンダーに組み込んだ経緯などを聞かされたことも記憶している。
(キ) 乙第24号証(P11作成の平成15年12月12日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ K9工業を経営していた平成4年8月ごろ、機械商社である株式会社K2のP9から、K8株式会社のP10と一緒に株式会社K2が納入した新しい極小曲げベンダーを、納入先の有限会社K1で見てほしいと誘われて、P10と有限会社K1に同行した。
A 平成4年の8月前半は、毎日深夜まで仕事に追われていたが、盆明けに余裕ができて、有限会社K1に行くことが可能になった。
B 有限会社K1の工場はプレハブの建物で、P11も自営していた関係から興味があったので、場内のレイアウトなども記憶している。
C 有限会社K1の工場では、P2と若い工員、株式会社K2のP9に迎えられ、P2と若い工員が加工を実演し、キックバーの動きもよく見え、キックバーが作動してストレート部分が短くなることも実演によってよく分かったことを記憶している。
D 当日は大変蒸し暑い日で、平成4年の8月の盆明けのときだったことに間違いはない。
イ そこで、上記各証拠の信用性等について検討する。
(ア) 甲第8号証は、原告の現在の代表者であるP15が、平成4年11月6日付けで起案した原告社内の報告書であり、P15が、K12製作所の2名及びK30の1名を案内して、同月7日午前、浜北工場で極小曲げの実演を見学し、
同日午後、有限会社K1で見学をすることを予定していたことが記載されている。
甲第9号証も、同様にP15が平成4年11月19日付けで起案した原告社内の報告書であり、P15が、K10工業株式会社の社長ほか3名を案内して、同月21日午前、浜北工場でパイプベンダーの実演を見学し、同日午後、有限会社K1で見学をすることを予定していたことが記載されている。
甲第8、第9号証は、本件訴訟と関係なく平成4年当時作成された書証であるから、本件訴訟のために作成された陳述書や、本件訴訟と関係なく作成された書証等による客観的裏付けのない供述より信用性が高いものと認められる。
(イ) 甲第11号証(K12製作所代表者P13作成の平成15年6月4日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年11月ごろ、新しいパイプ曲げ技術として極小R曲げパイプベンダーが開発されたことを原告の関係者から知り、K12製作所の仕事にも使えないかと検討を始めた。それには原告の工場にある極小曲げベンダーを見学することが一番と思った。
A そこで、当時、原告の浜北工場でそのパイプベンダーを見学できると聞いたことから、原告に見学させてもらえるように頼んだ。その結果、原告の大阪府下の納入先の会社の社長、P13及びK12製作所のP47工場長の3名を、
原告のP15が大阪から同行して案内することとなった。
B 具体的な日時は覚えていないが、原告に見学を打診してすぐ後、原告の浜北工場で極小曲げベンダーの本体と曲げの実演を見学した。浜北工場では、
極小Rにパイプを曲げられることを、パイプサンプルを手にして確認したが、極小R曲げを見ただけで、最終曲げの際にパイプを押し出す、いわゆるキックバーの説明はなかった。
C 見学の当日は、原告の工場の見学以外に、原告の極小曲げベンダーの納入先である有限会社K1へ案内され、P2から原告の極小曲げベンダーのある工場内を見せてもらった。その機械の外観を見ただけで、運転はしていなかったし、機械の説明もなかった。キックバーについては説明がなかったので記憶にない。パイプの曲げサンプルをP2が見せてくれたので、K12製作所に極小R曲げの引き合いがあれば試作曲げを依頼するのでよろしくとP2に伝えたことを覚えている。P13が有限会社K1に行ったのはこの1度だけである。
(ウ) 甲第12号証(K10工業株式会社代表取締役P12作成の平成15年6月3日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年当時、P12は、原告が極小R曲げパイプベンダーを開発していると聞き、見学させてもらうことにした。当時は、曲げ半径の小さい極小曲げに関する技術、機械に大変興味があった。
A P12は、K31株式会社のP48、K10工業株式会社の専務であるP49とともに、原告のP15に同行して、原告の浜北工場に行き、機械を見学した。見学した時期についてははっきり覚えていないが、平成4年11月ごろだったと思う。
B 原告の浜北工場では極小曲げのパイプベンダーが運転されていて、
実際にパイプの極小曲げを実演してもらった。また、曲げたサンプルを手にとって品質の良さに驚いたことを覚えている。この時のパイプベンダーの曲げ実演では、
極小曲げの説明が主体で、キックバーを使用した曲げは見学していないので、キックバーについての詳細な説明はなかった。
C その日は、原告の工場を見学した後、有限会社K1へも案内してもらい、P9と名刺交換の後に極小曲げベンダーと試作した曲げパイプを見せてもらった。しかし、実際にパイプを曲げるための機械の運転はしていなかったし、キックバーのことも話さなかったと記憶している。P12が有限会社K1に行ったのはこの一度だけである。
(エ) 甲第13号証(原告代表取締役P15作成の平成15年6月4日付け陳述書)には、次の趣旨が記載されている。
@ 平成4年11月当時、P15は原告の代表取締役ではなかったが、
原告の営業担当であった。
A 平成4年11月ごろ、原告に対し、K12製作所及びK10工業株式会社から、原告の極小曲げベンダーを見学したいという打診があり、両社に浜北工場を見学してもらうことにした。
B K12製作所の代表者であるP13とP14工場長と他1名の計3名を、また別の機会に、K10工業株式会社の代表者であるP12とP49専務と他1名の計3名を、P15が大阪から同行して浜北工場に案内した。当時P15が作成した平成4年11月6日付け報告書及び同月19日付け報告書によると、浜北工場へ案内した日付けがそれぞれ同月7日と同月21日であることが分かる。これらの報告書は、原告の大阪事務所から浜北工場宛に社内連絡としてファックスされたものである。
C 平成4年11月7日にK12製作所の関係者を招いた際、原告は、
極小曲げベンダーの実演を行い、曲げたパイプのサンプルを見せた。K12製作所の関係者は、極小曲げに非常に関心をもっており、原告の方から極小曲げに関する説明をしたことを記憶している。原告の浜北工場の見学後、原告製の極小曲げベンダーの納入先である有限会社K1に案内した。有限会社K1では、試作した曲げパイプを見せてもらったが、極小曲げベンダーの運転はされなかったと記憶している。
D 平成4年11月21日にK10工業株式会社の関係者を招いた際にも、原告の浜北工場において極小曲げベンダーの実演を行い、曲げたパイプのサンプルを見せ、K10工業株式会社の関係者の極小曲げに関する質問に答えた。また、浜北工場の見学後に有限会社K1に案内している。このときも、有限会社K1で試作した曲げパイプを見せてもらった覚えはあるが、実際に極小曲げベンダーを動かすことはなかったと思う。
E P15がK12製作所の関係者及びK10工業株式会社の関係者を有限会社K1に同行したのは、それぞれ平成4年11月7日と21日の各1度だけであり、両社の関係者とも、有限会社K1を訪問したのは、この時のみである。
(オ) P15は、その原告代表者本人尋問において、甲第13号証に記載された前記(エ)とほぼ同趣旨の供述をしている。
(カ) 前記(ア)ないし(オ)によれば、K12製作所のP13、P14らが浜北工場と有限会社K1を見学に訪れたのは平成4年11月7日であり、K10工業株式会社のP12らが浜北工場と有限会社K1を見学に訪れたのは同月21日であり、その他に、これらの者が有限会社K1を訪れたことはないことが認められる。したがって、これらの者が同年8月1日から同年9月末日までの2か月間に有限会社K1を訪れたという乙第1号証の記載は、信用することができない。乙第12号証の名刺中には、これらの者の名刺も含まれており、これらの各名刺が有限会社K1に交付された日時を客観的に示す証拠はなく、これらの名刺が本件特許発明の出願前に有限会社K1に交付されたことを認めるに足りる証拠はない。
(キ) 乙第11号証には、キックバーについての記載はない。また、乙第18号証、第21号証、第23、第24号証は、本件訴訟のために作成された陳述書であり、本件特許発明の出願前に1号機にキックバーが装備されたこと並びにP10及びP11が平成4年8月に有限会社K1を訪問してその時にキックバーを見学したことを裏付ける書証等の客観的な証拠はないから、乙第18号証、第21号証、第23、第24号証の信用性は乏しいというべきである。
(ク)a さらに、乙第11号証には、次の趣旨が記載されている。
1号機を導入した後、P2が、原告に対し、「有限会社K1と原告との共同出願で特許出願をしよう」と提案したところ、当時の原告の取締役であったP18から、「原告のP50社長兼会長の意見で、特許出願は原告の単独で行うが、1号機を利用する顧客を紹介するから了承してくれ」と言われたことを覚えている。
b このような乙第11号証の記載からすると、共同出願の対象とされた技術の内容、共同出願を提案した時期は明らかでないものの、P2と原告との間で、1号機に関連する技術について共同出願の話があったことが認められ、本件特許発明について実際に特許出願されていることを合わせ考えると、少なくとも本件特許発明について、1号機が有限会社K1に納入された後しばらくの間は、公然実施に該当するようなことは行われなかったと推認される。
(6) 以上によれば、前記(5)ア(ア)ないし(キ)の証拠によっては、有限会社K1へ納入後、1号機にキックバーが取り付けられ、本件特許発明の出願前に公開されたことは認められない。そして、その他に、これを認めるに足りる証拠はない。
(7)ア P1は、その証人尋問において、次の趣旨の証言をした。
@ 1号機の納入設置が終わった後、原告の会長から本件特許発明を特許出願するように言われ、P1がK13特許事務所へ出願の依頼に行った。
A K13特許事務所の出願の担当者はP16で、P1が、1号機は既に顧客に納入しているという説明をしたところ、公知性の問題があると言われた。そこで、原告社内で、公知性の問題があって特許にならないかも知れないと相談したところ、原告の責任者から、駄目もとでもいいから出すだけは出そうという話があった。
B そのときは、公知性ということについて全く知らなかった。
イ(ア) しかし、甲第17号証によれば、平成4年7月当時、P16という人物は、K13特許事務所に在籍していなかったことが認められる。
(イ) また、P1は、その証人尋問において、次の趣旨の証言をした。
@ 本件特許発明を発明する以前に、P1が発明者となり原告が出願人となっている特許、実用新案がある。
A P1が発明した特許、実用新案については、P1がK13特許事務所に行って発明の内容を説明し、出願を依頼していた。
B 本件特許発明の出願前にアメリカ特許がP1の名前で登録されたことがあり、そのときに手続上発明者のサインが必要になるなどの問題が生じ、その後は代表者の名前を発明者の名前として出すようになった。
C 国内の特許についても、優先権主張の関係で名前が残るので、その関係もあって、発明者をだれにするかお伺いを立てて名前を書き込んでいた。
(ウ) そして、弁論の全趣旨によれば、本件特許発明を発明する以前に、
P1が発明者考案者となり原告が出願人となっていた特許は4件、実用新案は7件あったことが認められる。
(エ) 前記(イ)のP1の証言、及び前記(ウ)の認定事実に照らせば、P1は、本件特許発明の出願当時においても、特許に関する知識を相当程度有していたことが推認され、公知性などの特許要件についても知っていたものと推認される。
(オ) そうであるとすれば、前記アA、BのP1の証言は信用できないというべきである。P1は、本件特許発明の出願当時、公知性などの特許要件について知っていたと推認されることから、仮に本件特許発明に公知性の点で問題があれば、その出願の依頼を行わなかったであろうと推測され、P1が本件特許発明の出願をK13特許事務所に依頼したことからすると、本件特許発明に公知性の点で問題となるような事情が存在したとは考え難い。
(8) 前記(1)ないし(7)で検討したところによれば、本件特許発明がその特許出願前に公然知られ、又は公然実施されていたことを認めるに足りる証拠はないというべきであって、本件特許に特許法29条1項1号、2号(平成11年法律第41号による改正前)、特許法123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由が存在することが明らかであるとは認められない。
また、HYP-60STの基本構造が自由技術であると認めるに足りる証拠はなく、イ号製品の製造販売が自由技術の実施であるとは認められない。
4 前記2(2)ウのとおり、イ号製品は本件第2発明の技術的範囲に属し、前記3(8)のとおり、本件特許に無効理由が存在することは明らかであるとは認められず、イ号製品の製造販売は自由技術の実施であるとも認められないから、原告は、
被告に対し、本件特許権に基づき、イ号製品の製造販売の差止め、イ号製品及びその半製品の廃棄を請求することができるというべきである。
5 争点(4)(補償金)ア(被告は本件特許発明出願公開された特許出願に係る発明であることを知っていたか)について ア(ア) 前記3(7)イ(ウ)認定のとおり、本件特許発明を発明する以前に、P1が発明者考案者となり原告が出願人となっていた特許は4件、実用新案は7件あり、前記3(7)イ(エ)認定のとおり、P1は、本件特許発明の出願当時においても、
特許に関する知識を相当程度有していたことが推認される。
(イ) 甲第18号証の1ないし3、第19ないし第22号証によれば、次の事実が認められる。
平成6年4月26日、本件特許発明の出願を含む3件の原告の特許出願が公開され(特開平6-114449、特開平6-114450、特開平6-114451(本件特許発明出願公開))、同年5月26日、K13特許事務所から原告宛てに、「贈呈 K13特許事務所」という印が押された上記3件の公開特許公報が送付された。原告においてP1が管理していたファイルには、上記3件の特許出願の経過書類が綴られ、その中に上記3件の公開特許公報が含まれていた。
平成6年6月7日、原告から依頼を受けてパイプベンダー関連の公報調査を行っていたK13特許事務所から原告のP1宛に、定期調査報告書(調査期間:同年4月1日ないし同月30日)が送付された。この定期調査報告書には、35通の公開特許公報のほか、多数の特許公報等が資料として添付されており、上記3件の公開特許公報も、添付資料の中に含まれていた。
上記事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
(ウ) 証人P1の証言及び弁論の全趣旨によれば、P1は、本件特許発明の真の発明者であり、本件特許発明の出願をK13特許事務所に依頼し、その出願に深くかかわっていたことが認められる。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の認定によれば、P1は、本件特許発明の内容を知っており、遅くとも平成6年6月7日ごろには、本件特許発明出願公開されたことを知っていたものと認められる。
イ(ア) 乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、P1は、平成7年12月、原告を退社し、平成8年6月、被告の取締役技術部長となり、被告におけるイ号製品の開発責任者となったことが認められる。そして、前記第2、2(4)アのとおり、被告は、平成10年11月30日ごろ(別紙イ号製品売上表の1、13、14)からイ号製品を製造販売し、本件特許発明実施したものである。
(イ) P1は、前記ア(エ)認定のとおり、遅くとも平成6年6月7日ごろには、本件特許発明出願公開されたことを知っており、前記(ア)認定のとおり、平成8年6月に被告の取締役技術部長となったことからすると、被告は、同月に、本件特許発明出願公開されたことを知ったというべきである。
したがって、被告は、本件特許発明出願公開されたことを知って、平成10年11月30日ごろから、別紙イ号製品売上表の1記載のとおり、イ号製品を製造販売し、本件特許発明実施していたものと認められる。
6 争点(4)イ(実施料率)について 弁論の全趣旨によれば、被告は、キックバーを備えたイ号製品のほかに、キックバーを備えない極小曲げベンダーを販売していることが認められるが、他方、
甲第23ないし第25号証及び弁論の全趣旨によれば、本件第2発明は、パイプ加工業者が極小曲げパイプの製造コストを低減させる上で有用であることが認められる。そして、これらの認定事実に、本件第2発明の内容などを考慮すると、本件第2発明の実施料率は、売上の10%と認めるのが相当である。
7 争点(4)ウ(補償金額)について 前記第2、2(4)アのとおり、被告は、本件特許発明出願公開後、本件特許権の設定登録日までに、別紙イ号製品売上表の1記載のとおり、イ号製品を製造販売し、その売上の合計は3億3356万円である。
前記5のとおり、本件特許発明実施料率は売上げの10%であると認められるから、補償金の額は、3335万6000円(3億3356万円×0.1=3335万6000円)であると認められる。
8 争点(5)ア(被告の受けた利益の額)について (1) 本件特許権の設定登録後平成16年3月23日までのイ号製品の売上の合計は、前記第2、2(4)イのとおり、3億8934万4800円である。
前記第2、2(5)のとおり、イ号製品の利益率は、30%である。
したがって、被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、イ号製品の製造販売により、1億1680万3440円(3億8934万4800円×0.3=1億1680万3440円)の利益を得た。特許法102条2項によれば、この利益の金額が、原告の受けた損害の額と推定されるべきこととなる。
(2)ア しかし、本件明細書からすれば、本件第2発明は、出退扞状具が効果を奏する本件第1発明に係るパイプ曲げ加工方法に用いるパイプベンダーの発明(構成要件A)であり、その末尾が「パイプベンダー」とされているものの、その余の構成要件は、ほぼすべてが、出退扞状具に関連する動き又は構成に係るものであって、その進歩性は、出退扞状具(キックバー)という、パイプベンダー本体とは明確に区別し得る一まとまりの部品を備えていることにあり、その実質は、出退扞状具の発明ともいい得るものである。そして、弁論の全趣旨によれば、出退扞状具付きパイプベンダーにおいて、パイプを曲げるという本来的機能は、パイプベンダー本体が担うところであって、出退扞状具が作動し、その機能を発揮するのは、最終曲げ部が管端部近くにある場合だけであり、出退扞状具がなくてもパイプベンダーとして販売することもできることが認められる。このような場合においては、製品全体(出退扞状具付きパイプベンダー)に対して出退扞状具が寄与していない度合いが、特許法102条2項による損害の推定に対する覆滅事由となり得るものというべきである。なぜなら、本件第2発明に係る特許請求の範囲が出退I状具の発明とされていた場合には、同項により損害を推定するに当たっては、被告がイ号製品の販売によって得た利益に出退扞状具(キックバー)の寄与度を考慮してこれを定めることになるところ、本件第2発明について、特許請求の範囲が、出退扞状具の発明として記載されていた場合でも、出退扞状具が搭載されたパイプベンダーの発明として記載されていた場合でも、本件第2発明の実質に鑑みれば、イ号製品の販売によって原告が受けた損害は、本来は同一のはずだからである。
イ キックバーのイ号製品に対する寄与度について、原告は100%と主張し、被告は25%を超えることはないと主張するので、判断する。
弁論の全趣旨によれば、イ号製品のキックバーは、最終曲げ部分を200mm以下にする場合にのみ稼働し、その使用率は20%を超えない程度であるものと認められる。しかし、キックバーのないイ号製品を使用する場合には、キックバーが稼働したであろう使用率に対応する割合について、パイプ材の端まで曲げられないことにより顧客に損失が発生することになる。しかも、証拠(乙第15号証、
第21号証)によれば、平成4年ごろには、本件第2発明の実施品である1号機の買主である有限会社K1の扱っている製品では、パイプ10mmが100円であるところ、パイプベンダーは長期間にわたり使用されるものであるから、その間の材料費の節約額は相当な金額に上ることが認められ、上記事実によれば、イ号製品の買主にとっても、キックバーの存在は相当強い購買動機となっていることが認められる。
また、被告の主張するところによっても、キックバーの部品代、調整費及び組立費は、20ないし30万円前後であって、イ号製品の原価全体に占める価格割合は低いから、キックバーを付けたことによる価格の上昇は僅かであるものと認められる。したがって、キックバーは、被告がイ号製品の販売によって得た利益について、大きな貢献ないし寄与をしていたものと認められる。
他方、前記ア認定のとおり、キックバーがなくてもパイプベンダーは使用することができ、本件第2発明の実施品である1号機を購入した有限会社K1は、
当初キックバーのないパイプベンダーを代金3000万円で購入する契約を締結していたこと、弁論の全趣旨によれば、被告は、キックバーのないパイプベンダーも販売したことがあることが認められる。そうだとすると、イ号製品からキックバーを除いても、被告は、一定割合価格を引き下げる等の手段を講じれば、なおこれを販売できた場合もあったものと認められる。
以上の事実を総合して、イ号製品に対するキックバーの寄与度は、イ号製品(出退扞状具付きパイプベンダー)全体の80%(寄与していない度合いは20%)と認める。
ウ したがって、原告の受けた損害の額は、イ号製品の製造販売により被告が得た利益から、イ号製品についてキックバーが寄与していない度合い(20%)を控除した残割合(80%)を乗じた金額、すなわち、9344万2752円(1億1680万3440円×0.8=9344万2752円)と認められる。
9 争点(5)イ(弁護士、弁理士費用)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の追行を弁護士、弁理士に委任せざるを得なかったものと認められる。前記8(2)ウ(1)認定の損害額、事案の性質、
審理の経過等諸般の事情に鑑みると、本件において被告による本件特許権の侵害相当因果関係にある損害としての弁護士、弁理士費用は、1300万円と認めるのが相当である。
10 争点(6)(合計額)について (1) 前記7認定の補償金額3335万6000円、前記8(2)ウ認定の損害額9344万2752円及び前記9認定の弁護士、弁理士費用1300万円の合計は、1億3979万8752円である。
(2)ア 補償金3335万6000円の支払義務は、法律の規定から生ずる債務であり、期限の定めのない債務であるから、請求の時から遅滞に陥るというべきであり、遅延損害金の起算日は、本件訴状送達の日であることが記録上明らかな平成15年1月6日の翌日である同月7日であると認められる。
イ(ア) 前記第2、2(4)イのとおり、被告は、本件特許権の設定登録後、平成16年3月23日までに、別紙イ号製品売上表の2記載のとおりイ号製品を製造販売した。
(イ) 原告は、損害賠償のうち9138万円に対しては本件訴状送達の日の翌日である平成15年1月7日から遅延損害金を請求し、3億3787万円に対しては平成16年3月24日から遅延損害金を請求しているから、遅延損害金の起算日を定めるために、平成15年1月7日までの本件特許権の侵害による損害額について検討する。
別紙イ号製品売上表の2記載の売上のうち、平成15年1月7日までに販売されたものは、1(製番K-02415、1589万8000円)、5(製番K-8Z10、1850万円)、7(製番K-9811、2500万円)、11(製番K-9515、2430万円)、12(製番K-9713、2300万円)、13(製番K-9904、3400万円)、14(製番K-9911、3797万円)であり、その売上の合計は1億7866万8000円であり、前記第2、2(5)のとおり、イ号製品の利益率は30%であるから、それらについて被告が受けた利益の額は5360万0400円(1億7866万8000円×0.3=5360万0400円)、そのうち特許法102条2項による損害の推定が覆されていない額はその80%である4288万0320円(5360万0400円×0.8=4288万0320円)であって、この金額が、平成15年1月7日までの本件特許権の侵害による損害額であると認められる。したがって、この4288万0320円については、平成15年1月7日が遅延損害金の起算日であると認められる。
そうであるとすると、平成15年1月7日を遅延損害金の起算日とする金額は、前記アの補償金3335万6000円と合わせ、7623万6320円(3335万6000円+4288万0320円=7623万6320円)であると認められる。
(ウ) 前記8(2)ウ認定の損害9344万2752円のうち、平成15年1月7日より後の本件特許権の侵害による損害5056万2432円及び弁護士、弁理士費用1300万円の合計6356万2432円について、遅延損害金の起算日は、不法行為の後である平成16年3月24日であると認められる。
(3) 以上によれば、原告の金銭請求は、1億3979万8752円、及びうち7623万6320円に対する平成15年1月7日から、うち6356万2432円に対する平成16年3月24日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。
11 結論 よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由がある。
追加
(別紙)イ号製品目録別紙図面及び下記構成の説明に記載するパイプベンダー記第1図面の説明第1図パイプベンダー全体の概略を示す平面図第2図パイプベンダー全体の概略を示す側面図第3図曲げ型とクランプ・ダイ及びプレッシャ・ダイとの関係を示す要部の拡大側面図第4図チャックとチャックストッパーとの関係を示す拡大平面図第5図(イ)、(ロ)曲げ予定部でのパイプの曲げ加工動作を示す拡大平面図第6図(イ)ないし(ハ)パイプ管端の最終曲げ予定部でのパイプの曲げ加工動作を示す拡大平面図ただし、図面は、曲げ半径の異なる2種類の曲げ型を上下2段に配置した型交換段数2段のパイプベンダーを記載したが、これ以外に曲げ型が上下3段に配置された型交換段数3段のものもある。
代表的なものを機種(型交換段数)別に列記すると、次のとおりである。
CNCBOOSTERBENDER(KBBシリーズ)・KBB-30ND型(曲げ能力径30mm、ND=型交換段数2段)、同50ND型、同70ND型、同80ND型、同100ND型、120ND型、同30NDL型、同50NDL型、同70NDL型、同80NDL型、同100NDL型、同120NDL型・KBB-30NT型(曲げ能力径30mm、NT=型交換段数3段)、同50NT型、同70NT型、同80NT型、同100NT型、120NT型、同30NTL型、同50NTL型、同70NTL型、同80NTL型、同100NTL型、同120NTL型第2符号の説明1…チャック2…曲げ型2m…円弧状部3…クランプ・ダイ4…プレッシャ・ダイ17…CNC制御装置36…チャックストッパー37…出退操作用シリンダP…対象パイプ第3構成の説明b対象パイプPの管端部を外周側から把持するチャック1と、対象パイプPの曲げ予定部に対する曲げ案内用の円弧状部2mを形成した曲げ型2と、パイプPの曲げ予定部を前記曲げ型2との間で挟圧保持するクランプ・ダイ3と、そのクランプ・ダイ3のチャック側に位置して対象パイプPの曲げ予定部を前記曲げ型2との間で挟圧保持するプレッシャ・ダイ4とを備える構成において(第1図ないし第6図参照)c対象パイプPの管端面に対して先端を接当作用させる小径のチャックストッパー36を、出退操作用シリンダ37によって前記チャック1の中心軸芯上でチャック先端よりも突出する作用状態とチャック奥部に引退する引退状態とに切り換え操作自在に設け、(第4図参照)d対象パイプPの管芯方向に並ぶ複数の曲げ予定部に対する順次曲げ加工を自動的に実施するのに、それら複数の曲げ予定部のうち、チャック側の管端近傍に位置する最終の曲げ予定部以外の曲げ予定部については、
@前記チャックストッパー36の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック1をその中心軸芯方向に移動させるとともに(第5図(イ)参照)A中心軸芯周りで回動させて、曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型2に対する適切位置に位置させ、(第5図(イ)参照)Bそれに続き、前記クランプ・ダイ3及び前記プレッシャ・ダイ4により曲げ予定部を挟圧保持した状態で、パイプ管端部把持状態の前記チャック1により対象パイプ1の管端部を押圧付勢しながら、前記クランプ・ダイ3を前記曲げ型2と一体的に前記プレッシャ・ダイ4からの離間側に回動させて、その曲げ予定部に曲げ加工を施し、(第5図(ロ)参照)eこれに対し、最終の曲げ予定部については、
@前記チャックストッパー36の引退状態でパイプ管端部を把持させた前記チャック1をその中心軸芯方向に移動させるとともに(第6図(イ)参照)、中心軸芯周りで回動させて、最終の曲げ予定部を所要の回動姿勢で前記曲げ型2に対する適切位置に位置させた後、(第6図(イ)参照)A前記チャック1のパイプ管端部に対する把持を解除した状態で前記チャック1をその中心軸芯方向で前記プレッシャ・ダイ4との非干渉位置まで引退移動させ、(第6図(ロ)参照)Bそれに続き、前記クランプ・ダイ3及び前記プレッシャ・ダイ4により最終の曲げ予定部を挟圧保持した状態で、作用状態に切り換えた前記チャックストッパー36により対象パイプPの管端を押圧付勢しながら、前記クランプ・ダイ3を前記曲げ型2と一体的に前記プレッシャ・ダイ4からの離間側に回動させて、最終の曲げ予定部に曲げ加工を施すように、(第6図(ハ)参照)f前記チャック1、前記曲げ型2、前記クランプ・ダイ3、前記プレッシャ・ダイ4、並びに前記チャックストッパー36を自動操作するCNC制御装置17を設けてあるパイプベンダー。
(別紙)第1・2図第3・4図第5・6図イ号製品詳細図特許目録イ号製品売上表
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生