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関連審決 不服2004-14494
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10550審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10445審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10487審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10205審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10820審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  新規性 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  上位概念 /  下位概念 /  同一の発明 /  実施可能要件 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  援用権(援用) /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  審理範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際公開 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10438号 審決取消請求事件
原告 株式会社メディカライズ代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士 清原義博
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 河野直樹
同 長井啓子
同 唐木 以知良
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/01/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-14494号事件について平成17年3月11日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が後記発明につき特許出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたため,これを不服として審判請求をしたものの,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成15年10月20日,発明の名称を「ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品」とする特許出願(以下「本願」という。)をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2004-14494号事件として審理し,その中で原告は,平成16年8月9日付け手続補正書により特許請求の範囲等を補正をした。しかし特許庁は,平成17年3月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成17年3月28日原告に送達された。
(2) 発明の内容 平成16年8月9日付け手続補正書(甲4の13頁以下)により補正された特許請求の範囲に記載された発明は,下記のとおりである。
記 【請求項1】少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有することを特徴とする健康食品。
【請求項2】少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有することを特徴とする美肌・便秘症改善剤。
【請求項3】前記ヒアルロン酸と前記デルマタン硫酸の配合比率が,1:0.001〜200であることを特徴とする請求項2に記載の美肌・便秘症改善剤。
【請求項4】少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有することを特徴とする美肌・抜毛抑制剤。
【請求項5】前記ヒアルロン酸と前記デルマタン硫酸の配合比率が,1:0.001〜200であることを特徴とする請求項4に記載の美肌・抜毛抑制剤。
【請求項6】請求項2又は3に記載の美肌・便秘症改善剤を含有することを特徴とする健康食品。
【請求項7】請求項4又は5に記載の美肌・抜毛抑制剤を含有することを特徴とする健康食品。
【請求項8】コンドロイチン硫酸A及び/又はコンドロイチン硫酸Cを含むことを特徴とする請求項1,5又は6のいずれかに記載の健康食品。
【請求項9】ペプチドを含むことを特徴とする請求項1,5乃至7のいずれかに記載の健康食品。
(以下,上記【請求項1】の発明を「本願発明1」という。) (3) 審決の内容 ア 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要旨は,本願発明1は,下記引用例1及び2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものであった。
記 @ 特開2001-169751号公報(平成13年6月26日公開,甲2。以下「引用例1」という。) A 特開平11-308977号公報(平成11年11月9日公開,甲3。以下「引用例2」という。) イ 審決は,引用例1及び2の記載から本願出願前に周知であったと認められる周知食品を下記のように認定し,本願発明1と周知食品との一致点と相違点を下記のように摘示した。
記 <周知食品の内容> 「少なくともヒアルロン酸等のムコ多糖類を含有することを特徴とする皮膚老化防止用食品」 <一致点> 「少なくともヒアルロン酸等のムコ多糖類を含有することを特徴とする健康食品」である点。
<相違点> 本願発明1においてはムコ多糖類としてヒアルロン酸とデルマタン硫酸が特定されているのに対して,周知食品においてはムコ多糖類の種類が特定されていない点。
(4) 審決の取消事由 ア 審決にいう周知食品の内容,本願発明1と周知食品との一致点及び相違点は認める。
イ しかしながら,本願発明1は,いわゆる選択発明であり,以下に述べる理由により,引用例1及び2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので,審決は相違点についての認定判断の誤ったものであり,違法として取り消されるべきである。
(ア) 審査基準において,「ある発明が,当業者が当該刊行物の記載及び刊行物頒布時の技術常識に基づいて,物の発明のときはその物を作れ,また方法の発明のときはその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは,その発明は「引用発明」とすることができない」とされ,このような発明は選択発明になり得る。これを本件事例に当てはめると,審決が指摘する「ヒアルロン酸以外のムコ多糖類であるコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリン」は引用例1にそれぞれの製造方法や取得方法は記載されていないから,本願発明1は選択発明になり得るものである。
さらに,審査基準では「例えば,刊行物に化学物質名又は化学構造式により化学物質が示されている場合において,当業者が当該刊行物の頒布時における技術常識参酌しても,当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは,当該化学物質は「引用発明」とはならない(なお,これは,当該刊行物が当該化学物質を選択肢の一部に含むマーカッシュ形式の請求項を有する特許文献であるとした場合に,その請求項が第36条第4項実施可能要件を満たさないことを意味しない)」とある。まず,第一に先に述べたように昭和37年2月28日共立出版初版第1刷発行「化学大辞典 8」(甲6。以下「甲6刊行物」という。)には,コンドロイチン硫酸,へパリンは記載されているが,他の物質は記載されていない。この事実から明らかなように,この2物質以外は,当業者にとって周知物質でない。さらに,この周知物質のうちへパリンは医薬品であり,食品に配合できない。引用例1は,かかる観点からもその記載に誤りがあり,当業者が選択可能なムコ多糖類は,引用例1においてはコンドロイチン硫酸のみにすぎない。平成16年5月25日共立出版発行「糖鎖機能:第3の生命鎖」(甲7。以下「甲7刊行物」という。)は,当業者ではなく最先端の研究者がまとめた書籍であるが,その1012頁に,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸の2糖繰り返し単位が開示され,コンドロイチン硫酸はA,C,D,Eの4異性体,デルマタン硫酸はモノ硫酸とジ硫酸の2異性体,ケラタン硫酸はモノ硫酸とジ硫酸の2異性体,ヘパラン硫酸は8異性体が開示され,画一的な物質としては開示されていない。すなわち,引用例1の記載では,当業者ばかりか最先端の研究者の当該刊行物の頒布時における技術常識参酌しても,物質の化学構造の特定が明らかでないばかりか,当該化学物質を製造あるいは入手できることが明らかであるように記載されておらず,引用例1に開示された,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンは,審査基準に照らし本願発明1の「引用発明」とはならないというべきである。
(イ) 審査基準によれば,選択発明の要件は,@刊行物に記載されていない有利な効果であって刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質なものを有し,Aこれが技術水準から当業者が予測できたものでないとき,又は同質であるが際だって優れたものを有し,Bこれが技術水準から当業者が予測できたものでないことである。審決は,「引用文献1(判決注;引用例1)に記載されたヒアルロン酸以外のムコ多糖類であるコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンの中からヒアルロン酸と併用して最も効果のあるものを選択することは,当業者であれば容易になし得る程度のことである」(審決4頁第1段落)としたが,上記(ア)のとおり物質に関する認定は誤りである。
また,引用例1記載のヒアルロン酸以外の多糖類からデルマタン硫酸の効果を想定し,この組合せを選択することは,当業者にとって容易でない。なぜなら,この組合せの効果は,ヒアルロン酸単独,あるいはヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸などのムコ多糖の組合せからは到底想定できない効果を奏している。本願明細書(甲4)の段落【0026】ないし【0029】に記載したとおり,本願発明1の効果は,当業者の技術水準から予測出来ないものである。この効果について補足すると,平成17年8月10日張宝旭作成の実験成績証明書(甲8。以下「甲8証明書」という。)からも,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせることのみによって,特有の効果を奏することが分かる。すなわち,甲8証明書の実験は,ラットを使用し,紫外線の皮膚への障害と,経口的に投与した各種のムコ多糖体がこの障害に与える影響を考察したもので,ヒアルロン酸を始めとするムコ多糖は,グルコサミノグリカンと呼ばれ,皮膚組織中に存在している事が知られているが,各々のムコ多糖が,具体的に皮膚組織に与える影響は詳しく判明していない。甲8証明書の結果は,ヒアルロン酸の経口投与で,紫外線照射による表皮への損傷を軽減できる可能性を示したが,特に,ヒアルロン酸及びデルマタン硫酸投与群(2群,3群)において,損傷が軽微にとどまり,ヒアルロン酸及びデルマタン硫酸の経口投与による表皮層への影響緩和の可能性が,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸以外のグルコサミノグリカン例えばコンドロイチン硫酸,ケパラン硫酸などとの組合せに比べ顕著であることが示唆された。なお,ムコ多糖のうちヘパリンは,医薬品であり,溶血作用があるので,試験の対象外であり,ペパラン硫酸は,入手が困難であるので,同じく試験の対象外であった。
(ウ) 被告が本件訴訟において提出した特開2004-137183号公報(乙17。以下「乙17公報」という。)に基づく特許法29条の2の適用可能性については,審決取消訴訟における審理範囲を逸脱するものであり,反論の必要性を認めない。しかしながら,念のため反論すると,乙17公報は,ムコ多糖類の観念的組合せとしてヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸を提示しているもので,その作用効果は単にヒアルロン酸の効果とその延長を意図するものであり,その主たる目的はムコ多糖類たるヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸の各々の吸収効率を高めるために大豆サポニンを各ムコ多糖と組み合わせるという技術思想で,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の組合せの選択的効果を認識しているものではなく,逆に,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の組合せの選択的効果を認識できなかった当業者の本願出願時の技術水準を示すものであり,本願発明1の進歩性の根拠となるものである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 甲6刊行物は,本願出願日の40年以上も前に出版された刊行物であるから,本願出願日当時の技術水準を正しく反映するものとはいえないし,当該刊行物に記載がないことのみをもって周知技術とはいえないと結論付けることは失当である。一方,引用例1(甲2)の【請求項5】には「2種類以上のムコ多糖類が,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンから選択される2種以上のムコ多糖類である請求項1から4のムコ多糖類含有食品」と,【従来の技術】の項には「ムコ多糖類は,生体組織中の細胞外マトリックス成分の機能を亢進し,皮膚が本来備えている機能を修復あるいは改善し,保水機能を高め皮膚のホメオスタシスを亢進し,特に加齢およびストレスによる皮膚加齢および損傷に適用する場合,顕著にその効果が認められる。近年,化粧品や食品等からムコ多糖類を摂取することによりこれらの老化現象(判決注;「減少」は誤記)を改善しようとする試みがなされている。このムコ多糖類の成分の一つとしてヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリン等が知られている」(段落【0002】)と記載されており,本願出願日前に頒布された刊行物である特開2001-252048号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)にも,ムコ多糖類を含有する肌老化防止用食品が開示され,「ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸・デルマタン硫酸・ケラタン硫酸・ヘパラン硫酸・ヘパリンの6種が最も典型的なムコ多糖である」(段落【0009】)と記載され,1977年7月5日岩波書店発行「岩波生物学辞典第2版」1179頁(乙2。以下「乙2辞典」という。)「ムコ多糖」の項,1989年10月20日東京化学同人発行「化学大辞典」633頁(乙3。以下「乙3辞典」という。)「グリコサミノグリカン」の項,1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」1385頁(乙4。以下「乙4辞典」という。)「ムコ多糖」の項のいずれにおいても,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンの6種が代表的なムコ多糖類であることが記載されている。以上より,ムコ多糖類としてヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,及びヘパリンの6種が代表的なものであることが,本願出願日前に広く知られていたといえる。
また,1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」1082頁(乙5。以下「乙5刊行物」ともいう。)「ヒアルロン酸」の項,1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」556〜557頁(乙6)「コンドロイチン硫酸」の項,1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」941頁(乙7。以下「乙7刊行物」という。)「デルマタン硫酸」の項,1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」472頁(乙8)「ケラタン硫酸」の項,1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」1261頁(乙9)「ヘパラン硫酸」の項及び1998年10月8日東京化学同人発行「生化学辞典(第3版)」1261〜1262頁(乙10)「ヘパリン」の項によれば,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンは,いずれも特定の二糖の繰り返し構造から主として成る多糖であって,由来や調整法により分子量や硫酸化の部位や程度(硫酸基を持たないヒアルロン酸は除く。)等の分子構造の点で多様なものの総称であり,不均一で分子構造の点で多様性がある物質であることは技術常識である。原告が提出した甲7刊行物の図2は,正にその不均一性,多様性を示すにすぎず,甲7刊行物は各ムコ多糖類の化学構造が明らかでないため当業者が製造あるいは入手できないという原告の主張を裏付けるものではない。むしろ,本願出願前の刊行物である特開2000-189186号公報(乙11),特開2000-273102号公報(乙12),特開2003-40901号公報(乙13。以下「乙13公報」という。),国際公開第98/03524号パンフレット(乙14),特開昭58-171403号公報(乙15)及び特表2002-508805号公報(乙16)によれば,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンといったムコ多糖類は,上記のとおり,いずれも本願出願日前に周知で,それらを製造する方法が各種知られており,容易に入手が可能であった。そのような本願出願日前の技術常識や技術水準を考慮すれば,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンは,たとえ引用例1にそれぞれの製造方法が明記されていなくとも,当業者であれば,それぞれ分子構造の点で多様性がある一群の多糖として明確に特定でき,困難なく製造あるいは入手することができたものである。
(2) 引用例1(甲2)の「2種以上のムコ多糖類が,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンから選択される2種以上のムコ多糖類である請求項1から4のムコ多糖含有食品」(【請求項5】)及び「食品にムコ多糖類の一種であるヒアルロン酸を配合する試みは,特願平3-302449において,蛋白質分解酵素で酵素分解してペプタイト状にしたヒアルロン酸により構成される食品というものが公知であるが,生体にとって有用なムコ多糖類はヒアルロン酸だけではなく,生体に必要な複数のムコ多糖類をバランスよく取ることができないという問題があった」(段落【0003】)との記載により,ヒアルロン酸に他のムコ多糖類を組み合わせることが動機付けられている。そして,本願出願日前にヒアルロン酸以外のムコ多糖類としてコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンの5種類が広く知られており,容易に製造や入手をすることが可能であったことは前記(1)のとおりである。このわずか5種類,あるいは原告主張に従えば医薬品であって食品に配合できないとされるヘパリンを除くと4種類,という限られた候補の中から最適なものを選択することは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
原告は,本願明細書の試験例2,試験例3及び甲8実験証明書により裏付けられる本願発明1の効果は,引用例1及び2の記載事項から当業者が予測できないものであると主張するが,本願発明1の構成自体は,当業者が容易に推考し得るものであり,たとえ発明が有利な効果を有していても,構成が容易に導かれるのであれば,当該効果は進歩性の判断を左右するものではない。念のため,原告主張の効果の顕著性について反論すれば,試験例2においては,マウス表皮細胞の培養にヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を添加して細胞成長率を測定しているが,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせて使用することによる効果の顕著性を客観的に評価するための比較試験(例えば,ヒアルロン酸やデルマタン硫酸をそれぞれ単独で添加した場合,他のムコ多糖類を添加した場合,あるいはムコ多糖類を添加しない場合など)が何ら行われていないので,試験例2は,本願発明1が引用例1及び2から予測し得ない際だって優れた効果あるいは異質な効果を有することを示すものであるとまで直ちにいうことはできない。
試験例3においては,本願発明1に相当するヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を投与したマウスの背部を剃毛して紫外線を照射した後の表皮断面写真(図2)が示されており,比較例として,ヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を投与せずに紫外線を照射したマウス及び紫外線を照射しなかったマウスについての表皮断面写真(図1及び図3)が示されているが,ヒアルロン酸及びデルマタン硫酸の組み合わせによる効果の顕著性を客観的に評価するための比較試験(例えば,ヒアルロン酸やデルマタン硫酸をそれぞれ単独で投与した場合,あるいは他のムコ多糖類を添加した場合など)が何ら行われていないので,試験例3は,本願発明1が引用例1及び2から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を有することを示すものであるとまで直ちにいうことはできない。甲8実験証明書においては,「U.1.被験物質及び飼料の調整法」に記載されているとおり,実験に用いたムコ多糖類含有物は,その由来・製造元・提供元からみて,いずれも純度が50%にも満たず,過半量が成分不明の多糖類及び蛋白質等から成る。
被験物質を半量以下しか含有せず,その余の過半量が成分不明の多糖類及び蛋白質等からなるムコ多糖類含有物を使用した試料を用いた実験では,当該試料中のどの成分が効果を奏したのかが明らかではない。特に,本願発明1のヒアルロン酸及びデルマタン硫酸という2成分の組み合わせによる効果を立証するための実験において,試料に当該2成分以外よりも多量に成分不明な多糖類及び蛋白質等が含まれているのでは,得られた結果がどの成分に起因するものであるのか,結果の解釈は極めて困難であって,原告が主張するようにヒアルロン酸及びデルマタン硫酸の組み合わせに顕著な効果があると結論づけることは不可能である。
したがって,甲8実験証明書に示された結果は,試料中のどの成分に基づく作用効果であるのかが明確でないので,本願発明1が引用例1及び2から予測し得ない際だって優れた効果あるいは異質な効果を有することを示すものであるとまで直ちにいうことはできない。仮に甲8実験証明書に示された結果にいくらかの作用効果が認められるとしても,それは原告提供の豚皮抽出由来,純度43.5%のヒアルロン酸含有物及び株式会社MRC化学研究所提供の豚腸壁抽出由来,純度30%のデルマタン硫酸含有物という特定のものを使用して,被験動物として昆明種黒ラットを用いた場合に認められる効果にすぎず,本願発明1の全範囲にわたって格別顕著な効果があることを示すものということはできない。
以上のとおり,原告主張の根拠である各データは,いずれも本願発明1の全範囲にわたって,引用例1及び2から予測し得ない際だって優れた効果あるいは異質な効果が生じることを示すものではない。
(3) なお,本願発明1は,他の理由によっても特許を受けることができないものである。すなわち,乙17公報の実施例3,7,8,9及び10には,ヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を含有し,肌荒れ,小じわ改善効果を有する健康食品が記載されている。乙17公報は,本願出願日前の特許出願の公開公報(平成16年5月13日公開)であって,本願発明1と同一の発明が記載されているので,乙17公報の特許出願は,本願発明1との関係において特許法29条の2の「他の特許出願」に該当し,本願は特許法29条の2の拒絶理由を有するものである。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由(相違点についての認定判断の誤り)について (1) 本願明細書(甲4)には,【発明の詳細な説明】に下記の記載がある。
記 ア【技術分野】 【0001】 本発明は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)を含有する健康食品に関する。
イ【背景技術】 【0002】 デルマタン硫酸はコンドロイチン硫酸Bとも呼ばれる分子量2〜40万のグリコサミノグリカンの一種である。一般的には,デルマタン硫酸は・・・L-イズロン酸とN-アセチルガラクトサミン-4-硫酸からなる二糖単位の繰り返しが主体となっている・・・デルマタン硫酸を経口摂取した場合,体内に吸収されると考えられている。
ウ【0004】 ヒアルロン酸は・・・O-β-D-グルクロノシル(1→3)-N-アセチル-β-D-グルコサミニル(1→4)単位の二糖繰り返し構造を持つグリコサミノグリカンの一種であり,主として,動物の関節液や眼球ガラス体液,臍帯(へそのお),真皮表層などの結合組織等に存在している。分子量は数十万〜200万以上にもなるため,経口摂取しても体内に吸収されないと考えられている。
エ【0006】 生体内においては,デルマタン硫酸はコンドロイチン硫酸A及びCと共に,ヒアルロン酸に結合している。これらグリコサミノグリカンと呼ばれるデルマタン硫酸,コンドロイチン硫酸A及びC,ヒアルロン酸は陰イオン性分子であるため,互いが結合して高分子構造をとった場合,多数の水分子を含むことができる。
このため,これらの高分子化合物は,皮膚の水分を保持することができるとされており,デルマタン硫酸やコンドロイチン硫酸を経口摂取すると,体内に取り込まれ,体内のヒアルロン酸と結合し,皮膚の水分を保持する効果が上がると指摘されている。尚,ヒアルロン酸を含有する健康食品に関しては,いくつかの提案がなされているものの(特許文献1,2),ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を同時に含有する健康食品に関しては提案がない。
【特許文献1】特開2002-360292号公報 【特許文献2】特開平9-98739号公報 オ【発明が解決しようとする課題】 【0007】 ヒアルロン酸を経口摂取した場合,低分子状(分子量5万〜10万以下)のヒアルロン酸以外は体内に吸収されることはないものの,様々な分子を引き寄せて,それらの分子が小腸で吸収されるのを促進する役割を果たしていると考えられる。特に,体内においてヒアルロン酸に結合しているデルマタン硫酸やコンドロイチン硫酸A及びCの体内への吸収は加速されると考えられる。
カ【0008】 本件発明者らは,以上のような考察に基づいて,少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品を製造し,その効果を検証したところ,皮膚の水分保持,皮膚の柔軟性,肌質,健康の改善に優れた効果を有することを見出し,本件発明に至った。
キ【0009】 本件発明は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品を提供することを課題とするものである。
ク【課題を解決するための手段】 【0010】 請求項1に係る発明は,少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)を含有することを特徴とする健康食品に関する。
ケ【発明の効果】 【0011】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を同時に食べることができる。さらに,本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品に含まれるヒアルロン酸は,小腸においてデルマタン硫酸の吸収を加速し,吸収効率を高めることができる。加えて,皮膚の年齢を若返らす効果,皮膚の柔軟性を高める効果,皮膚の保湿性を高める効果,皮膚の新陳代謝を高める効果,紫外線による肌へのダメージを軽減する効果,肌のくすみを消す効果,顔のシミを減らす効果,化粧のノリを良くする効果,小じわを減らす効果,目のまわりにハリを出す効果,吹き出物を消す効果,体全体に潤いを出す効果,爪の色を良くする効果,乾燥肌を治す効果,唇の荒れを治す効果,赤ら顔を改善する効果,肩こりを改善する効果,二日酔いになる回数を減らし,二日酔いになったとしても,回復を早める効果,冷え性を治す効果,キズの治りを早める効果,爪を強くする効果,腰痛を改善する効果,物忘れをへらす効果,かすみ目を改善する効果,関節の痛みを改善する効果,性器老衰症を改善する効果,生理痛を改善する効果,踵の角質を柔らかくする効果,疲労回復効果,若返り効果,便秘を治す効果,抜毛を減らす効果がある。
コ【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品は,必須成分として,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)を含む。
サ【0017】 本件発明に用いられるヒアルロン酸とデルマタン硫酸は,合成品か,半合成品であってもよく,鳥類,魚類,哺乳類等からの天然物抽出物であってもよい。尚,合成品とは,化学合成によって製造されたものを指し,半合成品とは,化学合成品,又は天然物抽出物をさらに合成したものを指す。ヒアルロン酸とデルマタン硫酸が天然物抽出物の場合は,抽出源は特に限定されないが,人間と同じ哺乳類が好ましく,哺乳類の中でも人間との組織和合性が高いとされる豚(Sus属)由来のものがより好ましい。・・・ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の配合比率は特に限定されないが,好ましくは,重量比でヒアルロン酸1に対して,デルマタン硫酸を0.001〜200,好ましくは0.005〜100とする。この理由は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の配合比率があまりにも異なると,デルマタン硫酸が効率的に吸収されなくなると考えられるからである。さらに,人によっては,アレルギー反応が起き,肌に吹き出物ができることがあるからである。
シ【0018】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品には,必須成分であるヒアルロン酸とデルマタン硫酸以外に,コンドロイチン硫酸A,コンドロイチン硫酸C,ペプチドを添加することができる。コンドロイチン硫酸A,コンドロイチン硫酸Cを添加することで,本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品が有する皮膚の水分保持,皮膚の柔軟性,肌質,健康の改善の効果が相乗的に高められる。さらに,ペプチドを添加することで皮膚組織の若返り効果を相乗的に高めることができる。
ス【0019】 ・・・本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品に添加するコンドロイチン硫酸A及び/又はCは特に限定されないが,その抽出源は人間と同じ哺乳類が好ましく,哺乳類の中でも人間との組織和合性が高いとされる豚(Sus属)由来のものがより好ましい。
セ【0020】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品に添加するペプチドの種類は特に限定されないが,アミノ酸の結合数が50000以下のもの,好ましくは5〜5000,より好ましくは5〜500,さらに好ましくは5〜50程度がよい。この理由は,アミノ酸の結合数があまりにも多いと,体内に吸収されない恐れがあるからであり,アミノ酸の結合数が少ないほど,吸収されやすいと考えられるからである。
ペプチドの抽出源は特に限定されないが,人間と同じ哺乳類が好ましく,哺乳類の中でも人間との組織和合性が高いとされる豚由来のものがより好ましい。あるいは,化学合成によって人間の組織に親和性の高いペプチドや,特別な効果を有するペプチドを合成して含有させてもよい。
添加するペプチドの量は特に限定されないが,ヒアルロン酸の重量1に対して,0.0001〜200程度加えるのが好ましく,0.001〜100程度加えるのがより好ましく,0.01〜50程度加えるのがさらに好ましい。
ソ【0022】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品には,必須成分であるヒアルロン酸とデルマタン硫酸や,追加成分であるコンドロイチン硫酸A,コンドロイチン硫酸C,ペプチド以外に,健康食品に通常加えられる成分を添加することができる。添加できる成分の例としては,各種ビタミン類,コラーゲン,プロポリス,ローヤルゼリー,セルロース,糖類,クエン酸,植物抽出物,香料,保存料等が挙げられる。
タ【0023】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品の形態は特に限定されない。例としては,粉末,顆粒,カプセル剤,錠剤,液体等を挙げることができる。さらには,クッキー,ビスケット,ガム,キャンデー,麺類,飲料等の健康増進を目的とした食品に含有させることもできる。
チ【0024】 本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品全体に占めるヒアルロン酸,デルマタン硫酸及びその他の添加物の割合は特に限定されないが,健康食品全重量中0.0001〜90重量%程度,好ましくは0.001〜80重量%程度,より好ましくは0.01〜70重量%程度とする。尚,実際の健康食品全重量に占める割合は,食品の形態によって異なるが,含有量が0.0001重量%より少ないと,本件発明の効果が得られず,90重量%より多くても,それ以上の効果が望めないため好ましくない。
ツ【0026】 試験例1:皮膚水分量及び皮膚柔軟性評価 株式会社タニタ製の皮膚状態検査器具(商品名:ピエラ)を用いて,被験者の頬部と口辺部の皮膚水分量を測定した。皮膚水分量とは,一般的には「うるおい」とも表現される角質層における水分量のことであり,皮膚柔軟性とは,一般的には「ハリ」とも表現される肌の柔らかさ度合いのことである。
本試験に用いた皮膚状態検査器具は,性別,年齢,化粧の有無のデータをあらかじめ検査器具内のメモリーに記憶させ,その情報と,検査器具先端の触覚センサによって得た情報に基づき,皮膚水分量,皮膚柔軟性及び皮脂量のグラフと肌年齢を表示する。・・・結果の記録の際は,皮膚水分量と皮膚柔軟性のグラフの高さと肌年齢を読み取り,数値として記録した。測定は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品の摂取前,開始1ヶ月後及び2ヵ月後に行った。記録した数値は,健康食品の摂取前と開始1ヶ月後,健康食品の摂取前と2ヵ月後で比較し,肌年齢に関しては,肌年齢が実際の年齢よりも若くなった人数を「測定値が改善された人数」,実際の年齢よりも多くなった人数を「測定値が悪化した人数」,実際の年齢と同じだった人数を「測定値が変化しなかった人数」として頬部の結果を表1に,口辺部の結果を表2に示した。
テ【0028】 【表1】 ト【0029】 【表2】 ナ 表1及び表2に示される結果から分かるように,頬部においては,開始1ヵ月後の時点で,肌年齢,柔軟性,水分量のいずれもの測定値において,改善された人数が過半数以上を占めた。開始2ヶ月後の時点では,被験者の95%が肌年齢の測定値において,被験者の90%が柔軟性の測定値において,被験者の97.5%が水分量の測定値において改善した。同様に,口辺部においては,開始1ヵ月後の時点で,肌年齢,柔軟性,水分量のいずれもの測定値において,改善された人数が過半数以上を占めた。開始2ヶ月後の時点では,被験者の92.5%が肌年齢の測定値において,被験者の85%が柔軟性の測定値において,被験者の97.5%が水分量の測定値において改善した。(段落【0029】の続き) ニ【0030】 このようにヒアルロン酸とデルマタン硫酸が組み合わさった場合,肌年齢を若返らすことができ,皮膚の柔軟性を高めることができ,皮膚の水分量を高めることができる。さらに,これらのデータからは,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸が組み合わさった場合,皮膚若返り剤や,皮膚組織柔軟化剤や,皮膚保湿剤としても機能することが分かる。
ヌ【0031】 試験例2:マウス表皮細胞培養実験 生後1日前後の昆明種マウスの表皮組織を約1cm2切り取り,蛋白質分解酵素で細胞を分離させた。無菌の滴管を使って,濾過した組織液を吸い上げ,1,000rpmで10分間遠心分離した。
上清を捨て,沈殿物用MEM培養液(20%Fesを含む)を取り,1%胎盤液を用いて観察を行った。表皮細胞の成長率が98%に達してから以下の実験を行った。
(実験) 培養瓶に0.2mlの細胞液を入れ,MEM培養液を10ml加えた後,5%CO2,37℃条件下で培養を開始した。この瓶に,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質を,1.4mg/ml,0.8mg/ml,0.5mg/ml,0.25mg/ml,0.125mg/ml,0.0625mg/ml,及び0mg/mlの濃度となるよう添加し,7日間,細胞成長状況を観察した。結果を表3に示す。
ネ【0032】 【表3】(段落) ノ【0033】 表3に示された結果から明らかなように,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせると,細胞の成長率が高まる傾向にある。細胞の成長率はヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質の濃度が高いほうがよい。この結果からは,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせると,皮膚の新陳代謝を高めることができ,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせた場合,新陳代謝促進剤としても機能することが分かる。
ハ【0034】 試験例3:紫外線照射実験 昆明種マウス4匹(雄2,雌2)の背部を剃毛し,紫外線暴露表皮を形成した。毎日7時〜17時の間,30Wの紫外線を照射した。マウスを雄と雌のペア2組に分け,片方のペアにはヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質を1日,体重1kgあたり1920mg投与した。紫外線を7日間照射したあと,紫外線暴露表皮の断面写真を撮影した。結果を図1〜3に示す。
ヒ【0035】 図1はヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質を投与しなかったペアの紫外線暴露表皮の断面写真である。このペアの表皮は肥厚し,基礎物質不足により角質層の脱落が見られ,毛の新生力が失われ,皮膚は乾燥していた。図2はヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質を投与したペアの紫外線暴露表皮の断面写真である。ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質を投与したペアでは,真皮と皮下組織が増加し,新生毛嚢に基礎物質が供給され,紫外線を照射しない場合(図3)に近い状態であった。このように,本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品には,紫外線による肌へのダメージを軽減する効果がある。さらに,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせることによって,皮膚紫外線傷害低減剤としても機能することが分かる。
フ【0036】 (ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品に関するモニター調査) 男性20名,女性80名にモニター調査を行い,結果を表4にまとめた。
ヘ【0037】 【表4】 ホ【0038】 表4から分かるように,本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品は,肌のくすみを消す効果,顔のシミを減らす効果,化粧のノリを良くする効果,小じわを減らす効果,目のまわりにハリを出す効果,吹き出物を消す効果,体全体に潤いを出す効果,爪の色を良くする効果,乾燥肌を治す効果,唇の荒れを治す効果,赤ら顔を改善する効果,肩こりを改善する効果,二日酔いになる回数を減らし,二日酔いになったとしても,回復を早める効果,冷え性を治す効果,キズの治りを早める効果,爪を強くする効果,腰痛を改善する効果,物忘れを減らす効果,かすみ目を改善する効果,関節の痛みを改善する効果,性器老衰症を改善する効果,生理痛を改善する効果,踵の角質を柔らかくする効果,疲労回復効果,若返り効果,便秘を治す効果,抜毛を減らす効果がある。さらに,この結果からは,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸が組み合わさった場合,便秘症改善剤や,抜毛抑制剤としても機能することが分かる。
マ【0039】 表5は,「美容効果があるか」,「健康への効果があるか」との質問に対する回答人数を表にまとめたものである。
ミ【0040】 【表5】(段落) ム 表5から分かるように,美容効果に関しては76人が効果を認めており,本件発明のヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品が優れた効果を有することが実感として示されている。(段落【0040】の続き) (2) 以上から,本願明細書(甲4)には,@ヒアルロン酸は動物の関節液や眼球ガラス体液,臍帯(へそのお),真皮表層などの結合組織等に存在し,その分子量が数十万〜200万以上にもなるため,経口摂取しても体内に吸収されないと考えられていたこと,Aその分子量が2〜40万のコンドロイチン硫酸Bとも呼ばれるデルマタン硫酸は,コンドロイチン硫酸A及びCと共に,生体内においてヒアルロン酸に結合しており,これらを経口摂取すると,体内に取り込まれ,体内のヒアルロン酸と結合し,皮膚の水分を保持する効果が上がると指摘されていたこと,Bヒアルロン酸を含有する健康食品がいくつか提案されているものの,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を同時に含有する健康食品は提案されていなかったことを背景として,少くともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を同時に含有する健康食品は,皮膚の水分保持,皮膚の柔軟性,肌質,健康の改善に優れた効果を有することを見出し,本願発明1をなすに至ったものであること,が記載されていると認められる。
そして,本願発明1の健康食品は,特許請求の範囲【請求項1】記載のとおり,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の含有量,配合比率を特定するものではなく,少くとも両成分を含有していれば,他の成分として何がどれ程の量含まれているかにかかわらず得られる効果として,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を同時に食べることができ,本願発明1に含まれるヒアルロン酸は,小腸においてデルマタン硫酸の吸収を加速し,吸収効率を高めることができ,上記(1)ケ記載の本願発明1の効果を奏することが記載されていること,ただし,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の配合比率は,好ましくは,重量比でヒアルロン酸1に対して,デルマタン硫酸を0.001〜200であり,両者の配合比率があまりにも異なると,デルマタン硫酸が効率的に吸収されなくなると考えられること,人によっては,アレルギー反応が起き,肌に吹き出物ができることがあること,また,健康食品全体に占めるヒアルロン酸,デルマタン硫酸及びその他の添加物の割合は特に限定されないが,健康食品全重量中0.0001〜90重量%程度であり,食品の形態によって異なるが,含有量が0.0001重量%より少ないと,本件発明の効果が得られず,90重量%より多くても,それ以上の効果が望めないため好ましくないこと,が記載されていると認められる。
(3) 他方,引用例1(甲2)には,下記の記載がある。
記 ア【特許請求の範囲】 【請求項1】アミノグリカン構造,ペプチドグリカン構造,プロテオグリカン構造から選択される2種以上のムコ多糖類を含有するムコ多糖含有食品 イ【請求項5】2種以上のムコ多糖類が,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンから選択される2種以上のムコ多糖類である請求項1から4のムコ多糖含有食品 ウ【0001】 【産業上の利用分野】生体にとって有用な細胞外マトリックスの主要構成因子であるムコ多糖含有食品及びその製造方法に関する。
エ【0002】 【従来の技術】人を含む高等動物の皮膚は,表皮,真皮,皮下組織の3つの部分から成り立っている。それらの中で,皮膚の基本的な働きを支えているのが表皮と真皮の2層であると言われている。ヒトの老化に伴うシワ・たるみといった老化現象は,真皮の変化が表皮に影響を与えることによって起こると言われている。より具体的には,真皮層の皮膚結合組織である,コラーゲン,エラスチン,およびヒアルロン酸などのムコ多糖類の減少や変性が大きく関わっているといわれる。ムコ多糖類は,生体組織中の細胞外マトリックス成分の機能を亢進し,皮膚が本来備えている機能を修復あるいは改善し,保水機能を高め皮膚のホメオスタシスを亢進し,特に加齢およびストレスによる皮膚加齢および損傷に適用する場合,顕著にその効果が認められる。近年,化粧品や食品等からムコ多糖類を摂取することによりこれらの老化現象(判決注;「減少」は誤記)を改善しようとする試みがなされている。このムコ多糖類の成分の一つとしてヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリン等が知られている。
ヒアルロン酸は,その性質を利用して化粧品や食品に配合され,皮膚の老化防止にも役立っている。
オ【0003】 【発明が解決しようとする課題】食品にムコ多糖類の一種であるヒアルロン酸を配合する試みは,特願平3-302449において,蛋白質分解酵素で酵素分解してペプタイト状にしたヒアルロン酸により構成される食品というものが公知であるが,生体にとって有用なムコ多糖類はヒアルロン酸だけではなく,生体に必要な複数のムコ多糖類をバランスよく取る事ができないという問題があった。また,特願平3-302449において蛋白質分解酵素で酵素分解してペプタイト状にしたヒアルロン酸により構成される食品が公知であるが,・・・このような方法ではヒアルロン酸の生体内吸収を十分に高めることはできないという問題があった。
カ【0005】 【発明の実施の形態】本発明の食品に含有されるムコ多糖類とは,主にヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリン等から選択される2種以上のムコ多糖類であればよいが生体成分としてヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンの構成比率が高いため食品としての必要性も高くこれらのムコ多糖類の2種以上の組み合わせが好ましい。
キ【0007】本発明の食品に使用されるムコ多糖類の一部にはヒアルロン酸は含まれるが,アミノグリカン構造,ペプチドグリカン構造,プロテオグリカン構造から選択される多糖類から構成されるため特願平3-302449で既定されるようなペプチド状ヒアルロン酸は含有されないことはいうまでもない。本発明で使用できるムコ多糖類含有天然物とは,ムコ多糖類の含有量の多い天然物であればよくその具体例としては,家畜や家禽の皮膚,より好ましくは間接組織,眼及びその周囲組織,脊髄,鶏冠等がある。
ク【0016】このようにして得られた本発明の食品は,有効成分としてヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等の有効成分を含有するものであり,特にヒアルロン酸に富みその含有組成は,ヒアルロン酸1〜10%重量,コンドロイチン硫酸0.1〜5%重量等を含有するものである。
ケ【0020】・・・ 【作用】本発明は,単体のムコ多糖類が腸管吸収が良好でないことからアミノグリカン構造,ペプチドグリカン構造,プロテオグリカン構造から選択されるアミノ酸結合型ムコ多糖類を食品に含有させることによりムコ多糖の体内への吸収を高めるものである。・・・生体組織中の細胞外マトリックス成分の機能を亢進し,皮膚が本来備えている機能を修復あるいは改善し,保水機能を高め皮膚のホメオスタシスを亢進し,特に加齢およびストレスによる皮膚加齢および損傷を抑制することができる。
コ【0021】 【実施例1】・・・このようにして得られた本発明の食品は,アミノグリカン構造,ペプチドグリカン構造,プロテオグリカン構造を持つムコ多糖類を含有することが通常の多糖類の構造分析から確認された。また,このムコ多糖類のうちアミノグリカン構造とペプチドグリカン構造を持つムコ多糖類が全体のムコ多糖類の50%重量以上であることが確認された。また,このムコ多糖類を通常の方法により同定したところ成分としてヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸等の2種以上のムコ多糖類を含有することが確認され,その食品全重量中の含有組成は,ヒアルロン酸2.8%重量,コンドロイチン硫酸0.7%重量を含有するものであった。
(4)ア 以上から,引用例1には,@ヒトの老化に伴うシワ・たるみといった老化現象が,真皮層の皮膚結合組織である,コラーゲン,エラスチン及びヒアルロン酸などのムコ多糖類の減少や変性が大きく関わっているといわれていること,Aムコ多糖類は,生体組織中の細胞外マトリックス成分の機能を亢進し,皮膚が本来備えている機能を修復あるいは改善し,保水機能を高め皮膚のホメオスタシスを亢進し,特に加齢およびストレスによる皮膚加齢および損傷に適用する場合,顕著にその効果が認められること,B食品等からムコ多糖類を摂取することにより老化現象を改善しようとする試みがなされていること,Cこのムコ多糖類の成分の一つとしてヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリン等が知られていること,ヒアルロン酸は食品に配合され,皮膚の老化防止にも役立っていること,食品にヒアルロン酸を配合する試みは,特願平3-302449号によって公知であるが,生体にとって有用なムコ多糖類はヒアルロン酸だけではなく,生体に必要な複数のムコ多糖類をバランスよく摂る事ができないという問題があったこと,D同方法では,ヒアルロン酸の生体内吸収を十分に高めることはできないという問題があったことを背景として,アミノグリカン構造,ペプチドグリカン構造,プロテオグリカン構造から選択されるアミノ酸結合型ムコ多糖類を食品に含有させることにより,ムコ多糖類の腸管吸収を高めた食品として,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンから選択される2種以上のムコ多糖類を含有する食品の発明(以下「引用例1発明」という。)をなしたことが記載されていると認められる。
イ 一方,引用例1の記載に基いて審決が認定した周知食品は,「少くともヒアルロン酸等のムコ多糖類を含有することを特徴とする皮膚老化防止用食品」である(審決3頁第3段落)ところ,この認定の根拠が,引用例1の【請求項1】,【請求項5】,段落【0002】及び【0003】であることからみて,この周知食品における「ヒアルロン酸等のムコ多糖類」は,引用例1発明における「ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンから選択される」ムコ多糖類にほかならず,また,周知食品に係る「皮膚老化防止用」は,引用例1発明の上記(1)ケ記載の作用と同様であるから,審決が認定した周知食品とは,引用例1発明にほかならない。
(5) ところで,本願発明1と周知食品とは,「本願発明1においてはムコ多糖類としてヒアルロン酸とデルマタン硫酸が特定されているのに対して,周知食品においてはムコ多糖類の種類が特定されていない点」で相違することは当事者間に争いがないが,相違点の判断について,原告は,本願発明1の進歩性を否定した審決の認定判断は誤りであると主張するので検討する。
ア 組合せの容易相当性について (ア) 甲6刊行物には,「通常のコンドロイチン硫酸(コンドロイチン硫酸A)のほかにBおよびCが知られ,Bのウロン酸成分はL-イズロン酸であるとされている」(761頁左欄21行目〜23行目),「肺から分離される抗血液凝固因子β-ヘパリンはコンドロイチン硫酸Bと同一物と考えられ」ていることが記載されている(同欄下3行目〜1行目)。そして,コンドロイチン硫酸Bがデルマタン硫酸であることは,前記(1)イのとおり,本願明細書(甲4)にも明記されているところであるから,甲6刊行物にデルマタン硫酸の記載がないこということは当たらず,この記載がないことを根拠としてデルマタン硫酸自体が周知の物質ではなかったということは失当である。むしろ,デルマタン硫酸の周知性については,前記(1)イ,エのとおり,本願明細書においても,従来技術の説明として記載されており,また,被告が技術常識を立証するために提出した乙2辞典,乙3辞典及び乙4辞典には,それぞれ「現在のところ,ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸・デルマタン硫酸・ケラタン硫酸・ヘパラン硫酸・ヘパリンの6種が最も典型的なムコ多糖である・・・ムコ多糖は動物細胞,特に結合組織系の細胞によってつくられるプロテオグリカンの側鎖成分」(乙2),「(ムコ多糖)・・・おもなものはヒアルロン酸,コンドロイチン(硫酸),デルマタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリン,ケラタン硫酸である・・・脊椎動物の軟骨をはじめとする結合組織に広く分布する」(乙3),「ヒトにおいては非硫酸化ムコ多糖としては,ヒアルロン酸,コンドロイチンがあり,硫酸化ムコ多糖としては,コンドロイチン4-硫酸および6-硫酸,デルマタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンおよびケラタン硫酸TおよびUがある」(乙4)と記載されていることからみれば,ヒアルロン酸を始め,デルマタン硫酸,コンドロイチン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンの6種は,ムコ多糖類として代表的なものとして,本願出願日前に広く知られていたということができる。そして,引用例1には,前記(3)のとおり,ムコ多糖類の腸管吸収を高めた食品として,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンから選択される2種以上のムコ多糖類を含有する食品が記載されているところ,その背景として,前記(3)オのとおり,ムコ多糖類の一種であるヒアルロン酸を配合した食品が特願平3-302449号公報に記載されていること,生体にとって有用なムコ多糖類はヒアルロン酸だけではないこと,当該特願平3-302449号公報に記載された方法では,生体に必要な複数のムコ多糖類をバランスよく摂ることができないという問題があったこと,同方法では,ヒアルロン酸の生体内吸収を十分に高めることはできないという問題があったこと,も記載されているから,引用例1は,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンの5つから選択されるムコ多糖類の1種以上をヒアルロン酸と共に含有する食品を示唆するものであるということができる。
(イ) 一方,本願発明1は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の含有量,配合比率を特定するものではないから,本願発明1の構成の容易想到性については,単なる成分の組合せの問題として,ヒアルロン酸にデルマタン硫酸を組み合せることの容易想到性を検討すれば足りるものであるということができるので,以下においてヒアルロン酸と組み合せるムコ多糖類の組合せについて検討する。
ムコ多糖類の選択肢は,ヒアルロン酸以外のコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンの5つであるから,その組合せの数は,全部で31通り(∵5C1+5C2+5C3+5C4+5C5=31通り)であり,このうち,デルマタン硫酸が含まれる組合せは,全部で16通り(∵1+4C1+4C2+4C3+4C4=16通り),原告主張のとおりヘパリンを食品成分に使用しないことが技術常識であれば,選択肢が四つに減るので,全組合わせは15通り(∵4C1+4C2+4C3+4C4=15通り)となり,このうち,デルマタン硫酸が含まれる組合せは,8通り(∵1+3C1+3C2+3C3=8通り)と算出され,上記いずれにしても,組合せの数の半数以上がデルマタン硫酸を含有する組合せである。結局,本願発明1の組合せであるヒアルロン酸とデルマタン硫酸の組合せを得ることができるか否かは,31通りの全組合せの中から,その半数以上に相当するデルマタン硫酸を含む16通りの組合せを選択するか否か,又は15通りの全組合せの中から,その半数以上の8通りの組合せを選択するか否か,の違いでしかないから,引用例1が示唆するところに従って,限られた数の組合せの中から,ヒアルロン酸と組合せて使用する効果を確認しつつ,適するものを特定し,結果的にデルマタン硫酸を含有する組合せを特定するに至ることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとっては容易であるというべきである。なお,原告は,本願出願後の刊行物である甲7刊行物を援用しつつ,引用例1に記載されたデルマタン硫酸等のムコ多糖類に関し,引用例1にはこれらが製造あるいは入手できることが明記されていないから,引用例1からデルマタン硫酸を含む発明を認定することはできないと主張するが,本願発明1は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の由来を特定するものでないことが明らかであり,また,本願明細書においては,ヒアルロン酸,デルマタン硫酸については従来技術として言及されるところはあっても,本願発明1に係るヒアルロン酸,デルマタン硫酸の製造方法や入手方法については特段の記載もなく,前記(ア)のとおり,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸は,本願出願前に広く知られていたということができるものであるから,引用例1発明に係る各種ムコ多糖類の製造・入手可能性が問題になるということはなく,上記判断を左右するものではあり得ない。
(ウ) 以上のとおりであるから,ムコ多糖類としてヒアルロン酸にデルマタン硫酸を組合せることは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。
(エ) 原告は,@甲6刊行物には,コンドロイチン硫酸,へパリンは記載されているが,他の物質は記載されてなく,この2物質以外は,当業者にとって周知物質でない,Aこの周知物質のうちへパリンは医薬品であり,食品に配合できないから,引用例1は,かかる観点からもその記載に誤りがあり,当業者が選択可能なムコ多糖類は,引用例1においてはコンドロイチン硫酸のみにすぎない,B甲7刊行物に,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸の2糖繰り返し単位が開示されているが,画一的な物質としては開示されていない,C「ヒアルロン酸以外のムコ多糖類であるコンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリン」は引用例1にそれぞれの製造方法や取得方法は記載されていない,D引用例1の記載では,当業者ばかりか最先端の研究者の当該刊行物の頒布時における技術常識参酌しても,物質の化学構造の特定が明らかでないばかりか,当該化学物質を製造あるいは入手できることが明らかであるように記載されておらず,引用例1に開示された,コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸,ヘパリンは,審査基準に照らし本件発明の「引用発明」とはならない,と主張するが,いずれも上記に説示したところに照らし,理由がない。
イ 本願発明1の効果について (ア) 上記ア(イ)のとおり本願発明1は,成分の組合せとしては,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む16通り又は8通りの組合せの態様を包含するものであり,それぞれの態様における配合比率は任意であるから,このような発明が,常に格別顕著な効果を奏するものであることを裏付けるためには,本願発明1に包含される任意の組合せの任意の配合比率の態様が,引用例1に示唆された31通り又は15通りの全組合せのうちの,本願発明1に相当しない15通り又は7通りの組合せの任意の配合比の態様と比較しても,また,引用例1に明示されたムコ多糖類の各々を単独に含有する態様と比較しても,常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要がある。以下,試験例等について,このような観点から検討する。
(イ) 本願明細書(甲4)に記載された試験例2 前記(1)のヌないしノのとおり,本願明細書に記載された試験例2においては,マウス表皮細胞の培養にヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を添加して細胞成長率を測定しており,その結果について「表3に示された結果から明らかなように,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を組み合わせると,細胞の成長率が高まる傾向にある。細胞の成長率はヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質の濃度が高い方がよい」(段落【0033】)とされている。試験例2によれば,特定量のヒアルロン酸とデルマタン硫酸とを組み合わせて投与した場合と全く投与しない場合との比較が可能であるということはできる。しかし,試験例2には,ヒアルロン酸やデルマタン硫酸をそれぞれ単独で添加した場合,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸以外の,コンドロイチン硫酸,ケラタン硫酸,ヘパラン硫酸及びヘパリンの4種から選択されるムコ多糖類を添加した場合,前記4種から選択されるムコ多糖類をヒアルロン酸と組み合わせて添加した場合,前記4種から選択されるムコ多糖類の1つないし4つをヒアルロン酸及びデルマタン硫酸とともに添加した場合については,その配合比率を変化させた比較試験例はおろか,何らの記載もない。
したがって,このような試験例2の記載のみをもって,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む組合せである本願発明1が,その配合比によらず,常に引用例1及2の記載事項から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を奏するものであるということはできない。
(ウ) 本願明細書(甲4)に記載された試験例3 前記(1)のハないしヒのとおり,本願明細書に記載された試験例3においては,本願発明1に相当するヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を投与したマウスの背部を剃毛して紫外線を照射した後の表皮断面写真(図2)が示され,比較例として,ヒアルロン酸及びデルマタン硫酸を投与せずに紫外線を照射したマウス及び紫外線を照射しなかったマウスについての表皮断面写真(図1及び3)が示され,その結果について「ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する物質を投与したペアでは,真皮と皮下組織が増加し,新生毛嚢に基礎物質が供給され,紫外線を照射しない場合(図3)に近い状態であった」(段落【0035】)とされている。試験例3によれば,特定量のヒアルロン酸とデルマタン硫酸とを組み合わせて投与した場合と全く投与しない場合との比較が可能であるということはできる。しかし,試験例3においても,試験例2についての前記(イ)と同様,必要な比較試験が実施された点は見当たらない。
したがって,このような試験例3の記載のみをもって,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む組合せである本願発明1が,その配合比によらず,常に引用例1及び2の記載事項から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を奏するものであるということはできない。
また,このような試験例2及び試験例3をもってしても,前記のとおり,その格別顕著な効果を主張するための根拠となるべき比較試験が記載されていないことに変わりはないから,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む組合せである本願発明1が,その配合比によらず,常に引用例1及び刊行物2の記載事項から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を有するものであるということができないことにも変わりはない。
(エ) 甲8実験証明書 甲8実験証明書においては,本願発明1の一態様である,ヒアルロン酸+コンドロイチン硫酸+デルマタン硫酸投与群ラット(2群)及びヒアルロン酸+デルマタン硫酸投与群(3群)と,比較例として,ヒアルロン酸+コンドロイチン硫酸投与群ラット(4群),ヒアルロン酸+ケラタン硫酸投与群ラット(5群),ヒアルロン酸投与群ラット(6群),及びムコ多糖類無投与群ラット(7群)を例に挙げて,紫外線照射後の皮膚表皮層及び真皮層の損傷の程度を表す細胞組織写真,及び対象として紫外線無照射群ラット(1群)の細胞組織写真を示し,その結果について「2群-7群においては,損傷を確認したが,2群-3群において,比較的軽微な損傷に止まっていると観察された」(6枚目6行目〜7行目)と記載されている。しかし,本願発明1の健康食品は,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の含有量,配合比率について何ら特定するものではなく,少くとも両成分を含有していれば,他の成分として何がどれ程の量含まれているかを問わないものであるから,そのような発明の効果の格別顕著性を証明するためには,例えば,甲8実験証明書に示された2群の組合せについて,その有効成分の含有量ないし比率をどのように変化させても格別顕著な効果を奏することに変わりがないことを示すとか,あるいは,比較例である同5群の組合せにおいて,デルマタン硫酸をわずかでも添加すると格別顕著な効果を奏することになることを示す必要があるというべきところ,甲8実験証明書には,本願発明1の効果の格別顕著性が両成分の含有量の多少に依存しないことを示すデータは見当たらない。
したがって,本願明細書に記載された試験例2及び試験例3に加え,甲8実験証明書をもってしても,本願発明1の効果の格別顕著性がヒアルロン酸とデルマタン硫酸の含有量,配合比率の多少によらないことを示す根拠を見いだせず,本願発明1が,任意の含有量において,格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。かえって,前記(1)のとおり,本願明細書には,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の配合比率は,好ましくは,重量比でヒアルロン酸1に対して,デルマタン硫酸を0.001〜200であり,両成分の配合比率があまりにも異なると,デルマタン硫酸が効率的に吸収されなくなると考えられること,また,健康食品全体に占めるヒアルロン酸,デルマタン硫酸及びその他の添加物の割合は,健康食品全重量中0.0001〜90重量%程度であり,食品の形態によって異なるが,含有量が0.0001重量%より少ないと,本件発明の効果が得られないとも記載されていることからすれば,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸の含有量,配合比率について何ら特定せず,他の成分として何がどれ程の量含まれているかをも問わない本願発明1は,そもそも所望の効果が得られない態様をも含んでいるものであるといえ,このような明細書の記載から,本願発明1が,任意の含有量において,格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできないというほかない。
(6) 原告は,特許庁の審査基準を引用し,本願発明1はいわゆる選択発明になり得るものであると主張する。特許庁の審査基準によれば,選択発明とは,物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で,刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から,その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって,前者の発明により新規性が否定されない発明をいい,刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質な効果,又は同質であるが際だって優れた効果を有し,これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは進歩性を有するとされる。しかし,本願発明1は格別顕著な効果を奏するものであるということはできないことは上記(5)のとおりであり,原告の引用する特許庁の審査基準によっても,本願発明1がいわゆる選択発明として進歩性を有するということはできない。
(7) 以上検討したところによれば,相違点について進歩性を否定した審決の認定判断に原告主張の誤りがあるということはできない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉