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関連審決 不服2004-18558
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成18行ケ10015審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10438審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  実施可能要件 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10550号 審決取消請求事件
原告旭硝子株式会社
同訴訟代理人弁理士志賀正武
同 高橋詔男
同 柳井則子
同 勝俣智夫
被告特 許庁長 官肥塚雅博
同 指定代理 人高木康晴
同 徳永英男
同 鈴木由起夫
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/08/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-18558号事件について平成18年11月21日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「固体高分子電解質型燃料電池」とする発明(甲6。
以下「本願発明」という。)につき,平成5年3月3日,特許出願をしたが,平成16年8月5日付けの拒絶査定を受け(甲14),同年9月9日,不服審判請求を行い,同年10月5日付け手続補正書(甲10)及び平成18年4月24日付け手続補正書(甲11)を提出した。
特許庁は,この審判請求を不服2004-18558号事件として審理し,平成18年11月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
2特許請求の範囲平成18年4月24日付け手続補正書(甲11)による補正後の本願発明の請求項1(請求項の数は全部で5項である。)は,以下のとおりである。
【請求項1】スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜を固体高分子電解質とする燃料電池において,上記陽イオン交換膜の表面に密着されるガス拡散電極中に,イオン交換容量が1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂でありスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体が分散し含有されることを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池(以下この発明を「本願発明1」という。)。
3審決の内容及び判断の構造別紙審決書の写しのとおりである。
(1)まず,審決は,@本願発明1は,特開平5-36418号公報(甲1。
以下「刊行物1」という。)及び特表昭62-500759号公報(甲2。
以下「刊行物2」という。)の記載及び周知技術等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。そして,本願発明1が容易に発明できたとする根拠として,後記第3の1の(1)ないし(3)のとおり,「審決の容易想到性の判断1」ないし「審決の容易想到性の判断3」の3点を別個独立のものとして挙げた。また,審決は,A本願明細書の発明の詳細な説明には,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえないので,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項(以下「旧特許法36条4項」という。)に規定する要件を充たしていないとも判断した。
(2)上記@の結論を導く前提として,審決が認定した刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
ア引用発明の内容パーフルオロカーボンスルホン酸を固体高分子電解質膜とする燃料電池において,上記固体高分子電解質膜の表面に密着される電極中に,触媒粒子を被覆する高分子電解質(ナフィオン117)が含有される固体高分子電解質型燃料電池イ一致点スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなる陽イオン交換膜を固体高分子電解質とする燃料電池において,上記陽イオン交換膜の表面に密着されるガス拡散電極中に,スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体が分散し含有される固体高分子電解質型燃料電池である点。
ウ相違点本願発明1は,ガス拡散電極中に分散し含有されるスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体のイオン交換容量(IEC)が,「1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂」であるのに対して,引用発明には,そのような限定がない点。
第3取消事由に関する原告の主張審決は,@容易想到性の判断を誤り(取消事由1),A旧特許法36条4項に関する判断を誤った(取消事由2)から,取り消されるべきである。
1取消事由1(容易想到性の各判断の誤り)(1)審決は,「引用発明において,電極内の『プロトン伝導』に伴う抵抗成分をさらに低減するために,『イオン交換容量』が大きい『1.0〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂』のものを用いることは,刊行物2の記載及び周知の事項に基づいて当業者であれば容易である。」と判断したが,上記判断(以下「審決の容易想到性の判断1」という。)には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,@燃料電池の構成部材のうち,「電極中のイオン交換樹脂」の材料を工夫して,抵抗成分を低減させることは周知ではないにもかかわらずこれが周知であることを前提に本願出願時の周知技術と認定したこと,A刊行物2は高分子電解質膜の材料に関する公知例であって,「電極中のイオン交換樹脂」の種類や物性等に関する公知例ではないこと,B「電極中のイオン交換樹脂」の種類や物性等を検討することにより抵抗成分を低減させることは公知ではなく,イオン交換容量の大きいイオン交換樹脂を引用発明の電極用として採用する動機付けは存在しないこと,C本願出願前には,ダウポリマーとナフィオンをそれぞれ電極に混合した燃料電池のセル電圧の測定結果から,電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を大きくすると,性能がむしろ低下するという報告があり(甲27,28),刊行物1記載の電極に,刊行物2に記載のイオン交換容量の大きいイオン交換樹脂を適用することには阻害要因が存在することから,上記審決の判断は誤りである。
(2)審決は,「引用発明において,刊行物1の『拡散電極中に分散されるパーフルオロカーボン重合体と,固体高分子電解質膜(メンブラン)とは・・・同一物質であると否とを問わない。』との記載から,『固体高分子電解質膜』を『1.0〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂』のイオン交換容量のものとし,その際に『触媒粒子を被覆する高分子電解質』を『固体高分子電解質膜』と同一物質として,本願発明1の構成とすることは,当業者であれば容易である。」と判断したが,上記判断(以下「審決の容易想到性の判断2」という。)には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,刊行物1における「同一物質であると否とを問わない」は,刊行物1記載の固体高分子電解質膜を構成する樹脂(0.91ミリ当量/g乾燥樹脂)を前提とし,しかもそれはナフィオンのみを想定しており,固体高分子電解質膜を構成する樹脂を変更した場合に,それを電極に含まれるイオン交換樹脂にそのまま適用することを示唆する記載ではないから,上記審決の判断は誤りである。
(3)審決は,「イオン交換容量が『1.11ミリ当量/g乾燥樹脂(EW:900)』よりも高くなると,反応ガスである『水素』の溶解度が高くなることは本願出願前に既に知られていたことであるから,引用発明において,『触媒粒子を被覆する高分子電解質』として,『水素の溶解度』が高い『1.11ミリ当量/g乾燥樹脂(EW:900)以上』のイオン交換容量のものを用いることは,甲5の記載及び周知の事項に基づいて当業者であれば容易である。」と判断したが,上記判断(以下「審決の容易想到性の判断3」という。)には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,@水素の溶解度と電極特性との因果関係が明らかではなく,A水素ガスの溶解度は,水素ガスの透過性を高めることを意味するものではなく,B本願発明1の樹脂と甲5記載の樹脂とは対イオンが異なるので,甲5記載の樹脂と同様にイオン交換容量と水素の溶解度の関係が成立するとはいえないから,上記審決の判断は誤りである。
(4)本願発明1は,次のとおり顕著な効果を有するものであり,それを看過して,容易に想到することができたとの審決の判断には誤りがある。
ア本願発明1の「電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を高めることにより,電極の特性が向上する。」という効果は,引用発明又は周知技術にみられない異質の効果である。
しかも,本願出願前には,前記(1)のとおり,電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を大きくすると,性能がむしろ低下するとの報告が存していたので,本願発明1の上記効果すら,本願出願時に予測することは困難であった。
イ本願発明1の効果は,イオン交換容量が1.1ミリ当量/g乾燥樹脂の場合に限定されず,1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂の全範囲にわたって効果を奏し(甲23),その効果は,電流密度0.4A/cm2においてセル電圧が50mV程度上昇するという従来技術に比べ酸素濃度を5倍に高めた場合の効果に匹敵すると共に,量的にも際だって優れた効果である。
ウ本願発明1の効果は,プロトン伝導性向上によって抵抗成分(「抵抗損」を指す。以下原告の主張において同じ。)を低減したこととは異なる要因に基づくものである。刊行物2では,プロトン伝導性向上による抵抗成分の低減以外の要因を考慮しておらず,かつ,電解質膜のみのプロトン伝導性向上を考慮している。したがって,刊行物2及び周知技術から,電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を高めることによって,プロトン伝導性向上による抵抗成分の低減以外の要因に基づいて,電極特性向上の効果が得られることを予測するのは不可能である。
2取消事由2(旧特許法36条4項に関する判断の誤り)審決は,「本件明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1に係る『1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂』の全範囲についての効果が十分に開示されているとはいえず,発明の詳細な説明は,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえない。」と判断したが,上記判断には誤りがある。
(1)刊行物2(甲2)には,高分子電解質膜用ではあるが,「1.0〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂」のイオン交換容量のものが選択できることが記載されており,甲20には,スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体ではイオン交換容量の上限が「1.5〜1.7ミリ当量/g乾燥樹脂」が製造上の目安となることが記載されているので,「イオン交換容量1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂」のイオン交換樹脂は,本願出願当時,当業者にとって実現可能なものと認識されていた。
(2)本件における実施可能要件の判断においては,実験成績証明書2(甲23)を参酌すべきところ,それによると,イオン交換容量1.3ミリ当量/g乾燥樹脂の場合,イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂の場合と同等以上の効果が得られるので,いわゆる実施可能要件を充たす。
(3)本願明細書には,本願発明1におけるイオン交換容量の下限値である1.1ミリ当量/g乾燥樹脂のイオン交換樹脂を電極に用いた場合についての効果が示されている。プロトン濃度という点に鑑みれば,当該イオン交換樹脂のイオン交換容量が高いほどプロトン濃度が高まることは技術常識であるから,当業者であれば,イオン交換容量の下限値である1.1ミリ当量/g乾燥樹脂のイオン交換樹脂を電極に用いた例において従来技術よりも格段に優れた効果を得ていることが開示されていれば,1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂の全範囲にわたる効果を容易に予測できる。
したがって,本願発明1全体の効果は,本願明細書において十分に裏付けられている。
第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(容易想到性判断の誤り)について(1)審決の容易想到性の判断1の誤りに対しア動機付けについて(ア)電池分野(燃料電池を含む)の基礎的な文献(甲36,乙1ないし3)によると,燃料電池において,構成部材(高分子電解質膜,電極等)ごとに材料・構造を工夫して,抵抗成分を低減させることは,本願出願前に当業者に広く知られていた。
(イ)燃料電池の電極中の高分子電解質は,触媒と導電材料とその高分子電解質との間の界面(3相界面)の面積を増加させる役割を果たすものであって,電極反応の反応種の1つであるプロトン(水素イオン:H+)を伝導する作用を奏するものである。そうすると,燃料電池の電極中の高分子電解質は,電圧損失に影響を与える構成部材であることは明らかであるから,抵抗成分を低減すべく,燃料電池の電極中の高分子電解質の材料を検討することは,当業者にとって,当然になし得るところである。
そして,高分子電解質中におけるプロトン伝導部位は「イオン交換基」であるから,電極内の高分子電解質中のプロトン伝導に伴う抵抗による電圧損失を減少するためには,高分子電解質中のプロトン伝導部位であるイオン交換基の量を増加させること,すなわち,高分子電解質のイオン交換容量をより大きいものとすることは自然な発想であり,当業者であれば容易に想到することができたといえる。
イ阻害要因の存否について原告は,甲27及び甲28の記載から,本願発明1のように電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を大きくすることには,阻害要因がある旨主張する。
しかし,ダウポリマーとナフィオンとはイオン交換容量だけが異なるわけではない。すなわち,ナフィオン(長側鎖型樹脂)の方がダウポリマー(短側鎖型樹脂)よりも側鎖が長いためイオン交換基の自由度が大きく,イオン交換基が会合したイオンクラスタの形成がより容易であり,プロトン伝導性の点では有利であるといえる。そうすると,甲27及び甲28各記載のダウポリマーとナフィオンをそれぞれ電極に混合した燃料電池のセル電圧の測定結果が,両者のイオン交換容量の相違によってもたらされると断定することはできない。
甲30は,電極中にイオン交換樹脂を添加することによる効果を調べたものであるが,それにはイオン交換樹脂のイオン交換基を一部非イオン性の基に改質してイオン交換容量を小さくすると,電極の電圧損失が大きくなることが示されており,このことは,電極中のイオン交換樹脂は,イオン交換容量を高くすると電圧損失を低減することができることを裏付けるものといえる。
したがって,電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を高くすることには阻害要因があるとの原告の主張は,理由がない。
(2)審決の容易想到性の判断2の誤りに対しア拡散電極中に分散させるパーフルオロカーボン重合体と固体高分子電解質膜とを同一物質とすることが普通のことであることは,刊行物1の実施例1,2において,両者が同一物質のものが用いられていることや,甲28において,固体高分子膜にナフィオン以外の樹脂を用いる場合には,電極に含浸する樹脂として「膜を溶液化したもの」を用いられていることから明らかである。
したがって,本件審決において,「刊行物1には,『触媒粒子を被覆する高分子電解質』を『固体高分子電解質膜・・・』と同一物質とすること・・・が開示されている」と認定した点に誤りはない。
イ刊行物1の記載によると,固体高分子電解質膜と拡散電極中に分散させる電解質樹脂を同一物質とすることを開示しているし,両者の界面性状の親和性を考慮すると,固体高分子電解質を溶解したものにより被覆する場合は特に,特段の理由がなければ両者を同一物質とするのが自然である。
よって,引用発明において,刊行物2の技術を適用して,固体高分子電解質膜のイオン交換当量を「1.0〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂」の高いイオン交換容量のものとするときに,拡散電極中に分散させる電解質樹脂もそれと同一物質の上記の高いイオン交換容量のものとすることは,当業者であれば容易に想到することができたといえる。
(3)審決の容易想到性の判断3の誤りに対し審決の容易想到性の判断3の誤りは,その存否にかかわらず,同部分のみにより独立して違法となる判断ではないので,反論の限りでない。
(4)顕著な効果の有無について本願発明1のイオン交換容量を,「1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂」と数値限定したことによる効果は,引用発明が有する「電極の反応サイトが増大して電流電圧特性に優れる固体高分子電解質型燃料電池が得られる。」との効果と異質であるとはいえないし,その効果は,「数値限定の範囲内のすべての部分で満たされる。」ということもできないものであるから,この効果をもって,顕著な効果であるということはできない。
2取消理由2(旧特許法36条4項違反の判断の誤り)について請求項に記載された事項に基づいて把握される発明が当業者が容易にその発明を実施できる程度に記載されているというためには,その発明に対応した目的,構成及び効果が発明の詳細な説明に記載されていることが,発明の詳細な説明の記載から読み取れなければならない。
「セル電圧が50mV程度上昇する」という効果は,当業者にとって甲19の数値解析の手法をもってしても予測できない効果であるというのであれば,本願発明1の実施例1の他のイオン交換容量のものにおいても「セル電圧が50mV上昇する」ことは,予測することができないといえるから,実施例1以外の場合について何ら記載がない本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,本願発明1の数値限定の範囲すべてに対応して「セル電圧が50mV上昇する」ことを読み取ることはできない。
実験成績証明書は,その実験結果が出願時の技術常識であるといえる場合にこれを参酌することができる。原告は,甲19を用いて,当業者がその結果が推論できないと主張する以上,原告が後に提出した甲23の実験結果は,出願時の技術常識であったとはいえないから,同実験結果によって,旧特許法36条4項に適合していることの参酌資料とすることはできない。
第5当裁判所の判断審決は,本願発明1が容易に発明できたとする理由として,「審決の容易想到性の判断1」ないし「審決の容易想到性の判断3」の3点を,独立のものとして挙げている。当裁判所は,このうち,審決が,本願発明1について,「審決の容易想到性の判断1」を根拠として,引用発明との相違点に関する構成は,刊行物2及び周知事項から当業者が容易に発明することができたものであるとした判断に誤りはないと解するので,審決の結論に違法はないものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1取消事由1(容易想到性判断の誤り)について(1)各証拠(甲1,2,30等)の記載内容等ア刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。
(ア)【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】この発明は固体高分子電解質型燃料電池の電極に係り,特に反応サイトの大きな電極およびその製法に関する。
(イ)【0002】【従来の技術】固体高分子電解質型燃料電池はPEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)とも呼ばれ,イオン導電性を有する固体高分子膜(メンブラン)を電解質とし,この両側にアノードとカソードの各電極を配置して構成される。
(ウ)【0003】固体高分子電解質膜は,スルホン酸基を持つポリスチレン系の陽イオン交換膜をカチオン導電性膜として使用したもの,フロロカーボンスルホン酸とポリビニリデンフロライドの混合膜,あるいはフロロカーボンマトリックスにトリフロロエチレンをグラフト化したものなどが知られているが,最近ではパーフロロカーボンスルホン酸膜(米国,デュポン社製,商品名ナフィオン膜)を用いて燃料電池の長寿命化が図られている。
(エ)【0004】固体高分子電解質膜は分子中にプロトン(水素イオン)交換基を有し,飽和に含水させることにより常温で20Ω・cm以下の比抵抗を示し,プロトン導電性電解質として機能する。飽和含水量は温度によって可逆的に変化する。アノードまたはカソードの電極においては反応サイトが形成され電気化学反応がおこる。
アノードでは次式の反応がおこる。
H2↑2H+ +2e(1)カソードでは次式の反応がおこる。
1/2O2+2H-+2e↑H2O(2)つまり,アノードにおいては,系の外部より供給された水素がプロトンと電子を生成する。生成したプロトンはイオン交換膜中をカソードに向かって移動し,電子は外部回路を通ってカソードに移動する。一方,カソードにおいては,系の外部より供給された酸素と,イオン交換膜中をアノードより移動してきたプロトンと,外部回路より移動してきた電子が反応し,水を生成する。
(オ)【0006】電極10Bではポリテトラフロロエチレン4の撥水作用により細孔5の内部を反応ガスが拡散し反応サイトに到達する。反応サイトは含水状態の固体高分子電解質被膜3Bと触媒粒子2との界面であり,反応ガスは固体孔分子電解質被膜3B中を界面に向かって溶解拡散する。反応サイトにおいて前記反応式(1),(2)の反応がおこる。
(カ)【0008】【発明が解決しようとする課題】しかしながら上述のような製造方法で得られた固体高分子電解質型燃料電池においては,反応サイトは電極表面からわずか10μmの深さの範囲に存在するに過ぎず電極中の触媒粒子はその大半が有効に働かず電流電圧特性は良好なものとは言い難い状況にあった。
(キ)【0010】【課題を解決するための手段】上述の目的はこの発明によれば固体高分子電解質膜と電極とを有し,固体高分子電解質膜は含水してプロトン導電体となり,電極は,カーボン担体に貴金属の担持された触媒粒子と,前記触媒粒子表面に形成される固体高分子電解質被膜と前記触媒粒子を結着させるフッ素樹脂とからなり,前記固体高分子電解質膜の二つの主面に配置されるものであるとすること,または第一の工程と,第二の工程と,第三の工程とを有し,第一の工程は,カーボン触媒担体に貴金属の担持された触媒粒子と液状高分子電解質とを混合して触媒粒子表面を,高分子電解質で被覆し,第二の工程は,第一の工程に引続き,フッ素樹脂を混合したあと成膜,乾燥して膜状の電極を形成し,第三の工程は,前記電極を固体高分子電解質膜の主面に配置する工程である,とすることにより達成される。固体高分子電解質被膜と,固体高分子電解質膜(メンブラン)とは化学的安定性,導電性,機械的強度が良好であるかぎり,同一物質であると否とを問わない。
(ク)【0011】【作用】電極内の触媒粒子の全てを高分子電解質で被覆することにより反応サイトを増大させることができる。触媒粒子と液状高分子電解質とを混合したあと成膜して電極を形成するので触媒粒子は全て高分子電解質により被覆される。
(ケ)【0019】【発明の効果】この発明によれば固体高分子電解質膜と電極とを有し,固体高分子電解質膜は含水してプロトン導電体となり,電極は,カーボン担体に貴金属の担持された触媒粒子と,前記触媒粒子表面に形成される固体高分子電解質被膜と前記触媒粒子を結着させるフッ素樹脂とからなり,前記固体高分子電解質膜の二つの主面に配置されるものであること,または第一の工程と,第二の工程と,第三の工程とを有し,第一の工程は,カーボン触媒担体に貴金属の担持された触媒粒子と液状高分子電解質とを混合して触媒粒子表面を,高分子電解質で被覆し,第二の工程は,第一の工程に引続き,フッ素樹脂を混合したあと成膜,乾燥して膜状の電極を形成し,第三の工程は,前記電極を固体高分子電解質膜の主面に配置する工程であるので,触媒粒子の表面は全て固体高分子電解質被膜で被覆されることとなり,その結果電極の反応サイトが増大して電流電圧特性に優れる固体高分子電解質型燃料電池が得られる。
イ刊行物2(甲2)には,以下の記載がある。
(ア)「当業界の現状では,・・・DuPont製ペルフルオロスルホン酸ポリマーフィルムが,当量数が約1100〜1200のフィルムとして用いられる。当量数は1当量の塩基を中和するポリマーの重量を意味する。ポリマーフィルムのイオン伝導度はポリマーフィルムの当量数に反比例すると考えられる。当業界の現状において用いられているよりも低い当量数を有するNafionイオン交換ポリマーフィルムのポリマーも在るにはあるが(略),当量数が約950未満のポリマーフィルムの物理的安定性は,・・記載のように低い。プロトン交換固体ポリマー電解質ポリマーフィルムの当量数を減少させて,燃料電池におけるイオン移動の抵抗力損失を減少させると共に受容可能な物性を保持することが極めて望ましい。」(3頁右下欄第17行〜4頁左上欄7行)(イ)「本発明に用いるのに好適なポリマーは,プロトン化した形,すなわち-SO3Hの形でのスルホン酸プロトン交換基を含む。・・・<中略>・・・本発明のポリマーフィルムは約1000未満の当量数を有する。低温(約100℃未満の)の燃料電池では,低い当量数(約600〜約800)のポリマーフィルムが好ましいと思われる。しかしながら,高温の作動温度では,より高い当量数(約800〜約1000)のポリマーが好ましい。一般的には,当量数が低くなればなるほど,イオン伝導度が良くなるということができる。しかしながら,当量数が減少すればフィルム特性が低下するのでこれら2者の間に妥協点を設定しなければならない。例えば,当量数が約500以下のポリマーはフィルム特性が不良となりがちであり,それらは通常は本発明には用いられない。ポリマーの当量数は出来るかぎり低くして,固体ポリマー電解質装置における抵抗動力損失を軽減すべきであるが,本発明の有利な物性は好ましく維持しなければならない。」(5頁左上欄18行〜同頁右上欄17行)。
ウ「固体高分子電解質(Nafion)に接合する酸素極へのイオン交換樹脂の添加とその電極特性」と題する論文(甲30)には,次の記載がある。
(ア)「3.3スルフォン酸基をスルフォンアミド基に改質した場合の酸素極の分極特性上述のような酸素極へのイオン交換樹脂の添加効果が真にイオン交換基(-SO3H)のイオン伝導性によるものであることを確認するために・・・酸素極の分極特性を求めた。・・・したがって前述のイオン交換樹脂の添加効果はイオン交換基によるものであることは明らかである。」(814頁左欄下から6行〜右欄下から5行)。
(イ)「4.1反応サイトの三次元化パーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂膜であるNAFION-117膜に一体に接合された酸素極に適切な量のイオン交換樹脂を添加することによってその分極特性が著しく改善されることがわかった。この改善の理由はFig.8に示すようなモデルによって説明できそうである。すなわち酸素極にイオン交換樹脂が添加されていない場合(A)には,電極反応サイトは電極触媒粒子とNAFION膜との二次元的な界面に局限されるのに対し,酸素極にイオン交換樹脂が添加された場合(B)には,NAFION膜だけでなく,酸素極に混入されたイオン交換樹脂粒子も固体電解質として機能するので電極触媒粒子と固体電解質との接点がより多くなり,反応サイトが三次元的な広がりをもつことになると考えられる。」(815頁右欄4行〜816頁左欄9行)エ「電池ハンドブック」(乙1)には,「燃料電池の電解質は,燃料イオンあるいは酸化剤イオンによる導電体で,そのイオン導電率はできるだ高いことが望ましいことは当然である。」との記載及び「燃料電池/電気自動車」(乙2)には,「『内部抵抗』電圧低下をもたらす最も明瞭な要因は,電解質,電極の電気抵抗である。イオンの移動に電圧勾配が必要であることから抵抗過電圧は避けられない。」との記載がある。
(2)容易想到性の判断以上認定した各刊行物の記載を総合すれば,引用発明において,電極内の「プロトン伝導」に伴う抵抗成分をさらに低減するために,「イオン交換容量」が大きい「1.0〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂」のものを用いることは,当業者であれば,刊行物2の記載及び周知の事項に基づいて容易に想到することができたものと解される。すなわち,アまず,本願出願前には,@燃料電池においてイオン移動の抵抗力損失(原告のいう「抵抗損」と同じ概念である。)を減少させるという課題があること,A燃料電池を構成する固体高分子電解質膜のイオン交換容量を大きくすることによりイオン移動の抵抗力損失を低減できること,B固体高分子電解質膜には電極間にイオンを移動させる機能があるところ,電極にイオン交換樹脂を添加すると,イオン交換樹脂と接している触媒粒子に反応サイトが形成され,反応サイトにおいては,酸素とプロトンと電子が反応して水を生成する電気化学反応が生じていること,C電極を構成する固体高分子電解質被膜と,固体高分子電解質膜とは化学的安定性,導電性,機械的強度が良好であるかぎり,同一物質であっても格別支障はないことは,いずれも公知であったと認められる。そして,上記Bによると,反応サイトにおいて電気化学反応が生じていることから,電極中のイオン交換樹脂にも固体高分子電解質膜を移動してきたイオンを反応サイトまで移動させる機能があること,すなわち固体高分子電解質膜と同様の機能があるということができる。
そうすると,燃料電池において,イオン移動の抵抗力損失を低減させるとの課題を解決するために,電極についても,固体高分子電解質膜と同じようにイオン交換容量の高いイオン交換樹脂を添加することを想到するのは容易であったというべきである。
イそして,イオン交換容量・IEC(乾燥樹脂1g中にある固定イオンのミリ当量)と当量重量・EW=Equivalent Weight(スルホン酸基1当量当たりのポリマーの重量)の両者は,「IEC=1/EW×103」の関係式が成り立つこと(乙4,弁論の全趣旨),前記認定の各刊行物の記載から,高温作動の燃料電池では,従来から用いられているペルフルオロスルホン酸ポリマー(スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体)の当量数(EW)約1100〜1200(IEC:約0.83〜0.91ミリ当量/g乾燥樹脂)よりも低い,約800〜約1000(IEC:約1.0〜1.25ミリ当量/g乾燥樹脂)の当量数(EW)のスルホン酸基を有するポリマーが好ましく,低温作動の燃料電池では,約600〜約800(IEC:約1.25〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂)の当量重量(EW)のスルホン酸基を有するポリマーが好ましいこと,すなわち,燃料電池の固体高分子電解質膜に用いる「スルホン酸基を有するポリマー」は,燃料電池の作動温度に応じて「1.0〜1.67ミリ当量/g乾燥樹脂」のイオン交換容量のものを選択することが好ましいことが知られていたと認められる。
ウ以上のとおり,電極に添加するイオン交換樹脂についても,固体高分子電解質膜と同様に,そのイオン交換容量を燃料電池の作動温度に応じて「1.1〜1.6ミリ当量/g乾燥樹脂」とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと解される。
よって,審決の容易想到性1の判断に誤りはない。
(3)原告の主張に対してア原告は,電極中のイオン交換樹脂のイオン交換容量を大きくすると,性能がむしろ低下する旨の記載(甲27,28)があることから,電極にイオン交換容量の高い樹脂を用いることについては阻害要因があると主張する。
しかし,ダウポリマーとナフィオンとの違いは,イオン交換容量の相違のみではなく,高分子の側鎖部分の構造も相違すること,前記(1)ウで認定した甲30の記載によると,イオン交換樹脂の添加量を増やすと,酸素極(カソード)の分極特性が向上する傾向があるところ,この電極の分極特性の向上効果は,イオン交換基のイオン伝導性によるとの報告がされていること,甲26には,フレミオン溶液(当量数900,イオン交換容量1.1ミリ当量/g乾燥樹脂)を用いて電極を作製した場合の特性は,ナフィオン溶液(当量数1100,イオン交換容量0.91ミリ当量/g乾燥樹脂)よりも高いものとなったとの甲27,28とは異なる実験報告があることに照らすならば,甲27,甲28の実験結果から,ただちに電極に用いられるイオン交換樹脂においてはイオン交換容量が大きいものは好ましくないと断定することはできない。したがって,甲27,28の実験結果をもって阻害要因があるとはいえない。
イ原告は,本願発明1は量的にも質的にも顕著な効果を奏するので,容易想到性は否定される旨主張する。
しかし,引用発明は,電極内の触媒粒子のすべてを高分子電解質で被覆することにより反応サイトを増大させて,電流電圧特性の向上が図られている一方,本願発明1の効果は「ガス拡散電極中に,パーフルオロスルホン酸ポリマーを分散,含有させることにより,エネルギー損失が小さい高性能の固体高分子電解型燃料電池が得られる。」というものであり,引用発明と本願発明1は,質的には何ら変わるところはない。
また,原告は,本願発明1の,電流密度0.4A/cm2においてセル電圧が50mV程度上昇するという効果は,酸素濃度を5倍に高めた場合に匹敵する効果であると主張し、それが顕著な効果であることの立証として甲33を提出し,電流密度0.4A/cm2のセル電圧差が60mVであり本願発明1の効果はこれに匹敵すると主張するが,その効果の程度が,燃料電池の技術分野において,どのような意義を有するのか不明であり,このことをもって,直ちに量的に顕著な効果であると認めることはできない。
ウ原告は,本願発明1が予測不可能な顕著な効果を奏することの立証として甲34を提出するが,甲34は,本願明細書に記載された実験データが,本件出願後に発表された理論によっては説明ができないことを述べるにすぎず,本件出願当時の当業者にとって,本願発明1の効果が予測不可能であることを示す根拠とはならない。
よって,上記原告の主張は失当である。
2結論以上に検討したところによれば,「審決の容易想到性の判断1」の誤りをいう原告の主張は理由がない。したがって,「同判断2」,「同判断3」の誤りや「旧特許法36条4項に違反するとした審決の判断」の誤りの有無について判断するまでもなく,審決に違法があるとする原告の主張は理由がないことになる。原告はその他縷々主張するが,審決の結論に影響を及ぼすその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 三村量一
裁判官 上田洋幸
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