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関連審決 無効2003-35474
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10285審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10661特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10257審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10487審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10542審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  業として /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10850号 審決取消請求事件
原告株式会社伊予エンジニアリング
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同 宮嶋学
同 高田泰彦
訴訟代理人弁理士安形雄三
同 五十 嵐貞喜
被告超次元空間情報技術株式会社
訴訟代理人弁護士上谷清
同 永井紀昭
同 萩尾保繁
同 山口健司
同 薄葉健司
訴訟代理人弁理士角田芳末
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/11/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35474号事件について平成17年11月15日にした審決を取り消す。
事案の概要
後記特許に関し,被告からの特許無効審判請求に基づき,特許庁が平成16年7月21日付けで無効審決(第1次審決)をしたところ,その取消訴訟が提起され,当庁から平成17年7月19日にその認容判決がなされ確定したため,特許庁は再び前記無効審判請求事件を審理し,平成17年11月15日付けで再度無効審決(第2次審決)をした。本件は,特許権者である原告が,特許庁のなした前記第2次審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1)特許庁等における手続の経緯原告は,平成7年1月13日特許出願(本件出願)をし,平成12年4月7日,発明の名称を「既存データベース機能向上支援ツール」として設定登録を受けた(特許第3053741号。甲6-1。請求項は1ないし4。以下「本件特許」という。)。
これに対し,平成15年11月18日付けで被告から特許無効審判請求がなされ,同請求は無効2003-35474号事件として特許庁に係属した。同事件の中で,原告は,平成16年4月30日付けで訂正請求をし(以下「本件訂正」という。甲6-2),平成16年6月17日付けでその補正をした(甲6-3)が,特許庁は,平成16年7月21日,上記訂正請求は認められないとした上,明細書の記載が特許法36条に規定する要件を満たしていないこと等を理由として全請求項につき本件特許を無効とする審決(第1次審決)をした。
そこで原告は,同審決の取消訴訟(東京高裁平成16年(行ケ)第386号,当庁平成17年(行ケ)第10321号)を提起したところ,当庁は,平成17年7月19日,訂正・補正を認めなかったのは誤りであり特許法36条違反もない等として,第1次審決を取り消す判決をした(甲15-2)。
そこで,特許庁において再び審理が行われ,その結果,平成17年11月15日,前記訂正請求及び手続補正を認めた上,全請求項につき本件特許を無効とする旨の審決(以下「本件審決」ということがある。)がなされ,その謄本は平成17年11月28日に原告に送達された。
(2)発明の内容前記訂正後の本件特許の特許請求の範囲は下記のとおりである(甲6-3〔訂正明細書(補正後)〕。分節符号A〜Iは本件審決で付加されたものと同じ。
以下,請求項の番号順に「本件発明1」のようにいうことがある。)。
記【請求項1】A地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形の画像情報を処理対象として,予め記憶された前記画像情報のデータベースに基づいて前記図形の任意の部分の画像を表示する機能を有するコンピュータシステムにおける既存データベース機能向上支援ツールにおいて,B利用者の文字情報を付加する対象物の領域を前記表示された図形の画像上にて指定する対象物指定手段と,C既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段と,D入力された文字情報を検索キーとして前記登録された文字情報群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報に基づき前記図形の画像上での当該対象物の位置を求める画像位置検索手段と,E前記画像位置検索手段により求めた当該対象物の位置が所定位置に配置されるように表示領域を調整して当該対象物を含む図形の画像を表示すると共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する利用者情報表示制御手段とF を備えたことを特徴とする既存データベース機能向上支援ツール。
【請求項2】G前記利用者情報登録手段は,文字情報を登録する際に,前記指定された一つの対象物に対して複数の異なる文字情報を対応付けて登録できると共に,前記指定された複数の対象物に対して同一の文字情報を対応付けて登録できるようになっている請求項1に記載の既存データベース機能向上支援ツール。
【請求項3】H前記文字情報と共に利用者のイメ-ジ情報を当該対象物の関連情報として付加できるようになっている請求項1又は2に記載の既存データベース機能向上支援ツール。
【請求項4】I前記コンピュータシステムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムである請求項1乃至3のいずれかに記載の既存データベース機能向上支援ツール。
(3)審決の内容ア本件審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件訂正は適法であるが,訂正後の本件発明1〜4は,下記引用例に記載された発明に基づいて,下記甲2〜甲5公報を参酌することにより,当業者が容易に発明をすることができたから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものである,等としたものである。
記引用例:特開平5-94129号公報(甲1)(これに記載された発明を以下「引用発明」という。)甲2公報:実願平1-100981号(実開平3-42182号公報参照)のマイクロフイルム(甲2)甲3公報:特開平4-155474号公報(甲3)甲4公報:特開平5-135152号公報(甲4)甲5公報:特開平5-303328号公報(甲5)イなお,本件審決は,本件発明1の進歩性を否定するに当たり,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
〔構成Aについて〕「地図の図形の画像情報を処理対象として,予め記憶された前記画像情報のデータベースに基づいて前記図形の任意の部分の画像を表示する機能を有するコンピュータシステム」である点で一致し,次の相違点が認められる。
(ア)本件発明1が地図の他に,「設計図,各種構造物の構造図など」の図形を対象としているのに対し,引用例では,地図の場合だけが示されている点。
(イ)本件発明1が「既存データベース機能向上支援ツール」であるのに対し,引用例には,かかる表現が用いられていない点。
〔構成Bについて〕すべて一致する。
〔構成Cについて〕「文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段」を備えている点で一致し,次の相違点が認められる。
(ウ)本件発明1では,入力するテキスト形式のファイルが,既存のデータベースから抽出したものであるのに対し,引用発明ではカーソルキーにより文字を入力する点。
〔構成Dについて〕すべて一致する。
〔構成Eについて〕すべて一致する。
〔構成Fについて〕前記構成Aについて挙げた相違点(イ)と同じ相違点がある。
(4)審決の取消事由しかしながら,本件審決は,以下に述べるとおり,進歩性の判断を誤った違法なものとして取消しを免れない。
ア 取消事由1(基本的な技術思想の相違の看過)本件審決は,発明の分節された構成要件個々の比較に終始し,本件発明1と引用発明との基本的な技術的思想の相違を看過した違法があり,取り消されるべきである。
引用発明は,地図と文字を登録する場合の方法を示してはいるが,そのデータは,文字キーで入力するものを含めてすべてシステムが内部に保有するデータである。これに対し本件発明1は,ネットワークを介して表示された画像上やCD-ROM等の光ディスクを介して表示された画像上で指定された対象物の座標情報と,地図検索システム等のコンピュータシステムが持つデータベースとは独立した外部のユーザデータベース(利用者が所有する既存データベース)にあらかじめ記憶されている文字情報とを,画像上で指定された対象物の座標情報に対応させて登録・検索する機能を有している。このことによって,本件発明1はシステム外部の既存データベースとの直接的な連携を実現し既存のデータベースの機能を向上させる作用効果を有しているのであり,外部データ(既存データベース)との直接的な連携をしていない引用発明とは基本的に相違している。
本件発明1の目的若しくは課題が,システム外部の既存データベースとの直接的な連携を実現することにあるのに対し,引用発明は目的若しくは課題を異にしている。本件発明1のように,システム外部の既存データベースとの直接的な連携を図ることにより,既存データベースの機能を一層向上させることができる。発明を分節した構成要件の個々の比較も重要ではあるが,発明が技術的思想創作であることからも,発明全体の構成及び発明が奏する技術的作用効果の比較はそれ以上に重要である。
イ取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り)本件審決には,本件発明と引用発明の一致点の認定を誤り,その結果,相違点を看過した違法があり,取り消されるべきである。
(ア)構成Bについてa「文字情報を付加する」の点につき「本件発明1の対象物に『利用者の文字情報を付加する』ことが 本件審決は,としたが,本件発明1と引用発明引用例に示されている」(13頁下第2段落)とでは文字情報の意義が異なることを看過しており誤りである。
本件発明1の構成要件Bにおける「利用者の文字情報」は,「コンピュータシステム」の外部にある「既存の各種データベースからの文字情報」のことである。これに対し,引用発明では,1つの閉ざされたシステムの中で入力された文字情報のみを利用するものであり,(外部システムの)利用者の文字情報を対象物に付加することは全く記載されておらず,示唆もされていない。
b「対象物の領域を指定し」の点につき「引用例では,………,地図上に表された施設は一定の面積を有 本件審決は,しているのが当然であるから,『対象物の領域を表示された図形の画像上にて指定すと認定し,この る対象物指定手段』を有しているといえる」(13頁下第3段落)点を一致点の認定に含めたが,これは,引用発明の「施設の位置」を「対象物の領域」にすり替えたものである。
本件発明1の構成要件Bでは,対象物の領域を地図画像上で指定するのであり,そのため,作画情報と画像上の座標値の両方が,図形情報として登録される。これに対し,引用例では,対象物の指定を点(]Y座標)で行っており,面積を有する領域では行っていない。すなわち,引用例には,利用者の文字情報を付加する対象物の領域を指定することは,示されていない。
座標(点)による指定と,面積を有する領域による指定とでは,技術構成と作用効果が相違するから,かかる相違を無視して両者が一致するとした本件審決の認定は,誤りである。
(イ)構成Cについて「本件発明1の構成Cは,引用発明と『文字情報群から成るテキス 本件審決は,ト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段』を備えている点で一致」する(14頁第3段と認定し,この点を一致点の認定に含めたが,誤りである。 落)引用例には,リストから表示したいメモ情報を選択しこれを入力し,メモ情報の指定を行うことにより,対応するメモ情報の施設の位置が地図上に表示されることが記載されているのみであり,システム外部の文字情報を利用することについては全く触れられていない。引用発明は,メモ情報により検索して対応する施設を地図上に表示するものではないから,メモ情報は検索キーの役割を果たしているものではなく,メモ情報に併記してあるXY座標の位置に地図を表示しているのみである。メモ情報は,検索のマッチングには一切使用されておらず,利用者の地図表示位置の選択項目の機能しか有していない。
また,本件発明1では,各文字情報を各対象物の領域情報と対応付けて文字情報記憶部に登録するようになっているのに対し,引用発明では,上記(ア)bのとおり,対象物の指定は点(]Y座標)で行っており,面積を有する領域では行っていない。
「各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対 このように,引用例には,ことは全く記載されておらず,本件審決が,象物の検索キーとして登録する」「メモ情報は検索キーの役割を果たしていることは当業者には容易に理解できる」(14とし,相違点(ウ)のみが相違点であるとしたのは誤りである。 頁第2段落)(ウ)構成Dについて「引用例では,『リストから表示したメモ情報を選択しこれを入力 本件審決は,する』ことにより『対応するメモ情報の施設位置が地図上に表示される』(段落【0013】)ことから,本件発明1の構成Dは,引用例に示されているといえる」(14頁と認定したが,誤りである。 最終段落)本件審決の引用する引用例の上記段落【0013】の記載は,入力された文字情報を検索キーとして登録された文字情報群を検索することや,検索された文字情報に対応して登録されている対象物の領域情報に基づき図形の画像上での当該対象物の位置を求めることを,開示したものではない。
(エ)構成Eについて「本件発明1の『検索された文字情報を前記当 本件審決は,構成Eについて,該対象物と関連付けて合成して表示』することは,引用例においても,『地図表示画面を施設の位置を中心とした地図表示画面に切り替え,この画面上にメモ情報を重ね表示する方法である。』(段落【0004】)とあるように,メモ情報と施設の位置を関連づけと て重ね表示していることから,この点は相違点とはいえない。」(15頁第3段落)認定したが,誤りである。
引用例の段落【0004】に記載された事項は,車両の現在位置を中心とした表示方法と,メモ情報の施設の位置を中心とした表示方法とを説明し,両者の地図表示画面を所定条件に従って切り替え,画面上にメモ情報を重ねて表示することであり,本件発明1の構成Eのように,表示領域を調整するとともにに,検索された文字情報を対象物と関連付けて合成して表示することでもない。引用例には検索に関する事項は全く記載されておらず,検索された文字情報も示されていない。引用例に示されるものは,選択された文字情報(メモ情報)である。
よって,構成Eが引用例に記載されているとする本件審決の認定は誤りである。
ウ 取消事由3(相違点(ア)の判断の誤り)「本件発明1の『設計図,各種構造物の構造図など』は,地図と並列に 本件審決は,記載され,設計図や構造図に特有の構成は記載されておらず,当業者であれば他の図形に応用できることを単に示しているにとどまり,この点に何ら進歩性は認められない」(15と判断したが,誤りである。 頁最終段落〜16頁第1段落)本件発明1は「画像情報のデータベースに基づいて前記図形の任意の部分の画像を表示する機能」を有している。そして,引用発明は地図情報システム業界で利用される「地図」のみを対象にしているのに対し,本件発明1は,CADシステム業界や設計部門で利用される「設計図や構造図」をも対象にしたことにより,異業種間での利用を可能にしたのであるから,この点に進歩性は認められないと本件審決が判断したのは誤りである。
エ 取消事由4(相違点(イ)の判断の誤り)本件審決は,本件発明1にいう「既存データベース」の意義について,「『利用者が作成した情報を格納したもの』とみることができ,このように解しても他のとした上,引用例においても,リ 記載と矛盾することはない」(16頁下第2段落)ストに表示されるユーザ独自のデータベースが「既存データベース」に対応するから,引用発明も「既存データベース機能向上支援ツール」であるということができ,相違点(イ)は格別なものでない,と判断したが誤りである。
本件発明1における「既存データベース」は,本件明細書(甲6-3)の段落【0006】にいう「独自のユーザデータベース」,すなわち,地図情報システムの外部において,利用者自身のシステム内に設置若しくは格納されているデータベースを意味する。これに対し,引用発明のメモ情報(リストに表示されるユーザ独自のデータベース)は,地図情報システムの内部にある。このように,本件発明1と引用発明は,利用するデータベースが地図情報システムの内部にあるか,外部にあるかで大きく相違している。
本件発明の目的若しくは課題は,地図情報システムの外部の「既存データベース」との直接的な連携を図り,「既存データベース」のデータを利用,活用することにより機能向上を図ることにあるから,上記差異は技術的に大きなものである。引用発明は,そもそも,かかる目的若しくは課題に直面していない。
また,「既存」とは「すでに存在すること」であるから,以前より存在していたものを指す。引用発明のように利用時にデータを入力して作成されるリストは,以前より存在するものとはいえないので,この意味からも,これが本件発明1にいう既存データベースに該当するということはできない。地図情報システムで利用するデータベースが地図情報システムの内部にあるか,外部にあるかで本件発明の技術的意義は全く異なるので,両者のデータベースを同一ないしは等価としている本件審決の判断は誤りである。
オ 取消事由5(相違点(ウ)の判断の誤り)「……既存のデータベースがユーザ独自のデータ 相違点(ウ)につき,本件審決は,ベースとして引用例に示されている。そして,入力するテキスト形式のファイルが,既存のデータベースから抽出したもの,言い換えれば文字情報が既存データベースに格納されていた情報であることは,引用例の文字情報も,『メモ情報』と記載されているように利用者のデータベースとして登録することができるものであるから,当該相違点は当業者がと判断したが,誤りである。 適宜実施し得るものにすぎない」(17頁第5段落)引用例では,メモ情報は,利用時に入力部7から入力されて記憶回路4に記憶されるが,システム内部にある点及び利用時に入力する点で,記憶回路4は本件発明1における「既存データベース」若しくは「既存のデータベース」に相当するものではない。
本件発明1はシステム外部の既存データベースの機能向上を支援することを目的とし,本件発明1の構成によりその目的を達成しているが,引用発明はかかる目的とは無縁のものであり,本件発明1の必要性も認識していない。したがって,「入力するテキスト形式のファイルが,既存のデータベースから抽出したもの」であることを,「文字情報が既存データベースに格納されていた情報であること」に一方的に置き換え,「文字情報が既存データベースに格納されていた情報であること」と「メモ情報を利用者のデータベースとして登録すること」とが等価であると判断している本件審決は誤りである。
このように,本件発明1は,システム外部の既存のデータベースから文字情報群を抽出して入力するという,引用例が開示していない構成を有し,既存データベースの機能向上を支援しており,利用時にカーソルキーにより文字を入力する引用発明とは構成及び作用効果が相違している。したがて,相違点(ウ)は当業者が適宜実施し得るものにすぎないとした本件審決の判断は誤りである。
カ 取消事由6(本件発明2についての判断の誤り)「複数のデータ識別名が一つの図形領域と対応付けて登録すること,及 本件審決は,と認びその逆の態様も甲第4号証に開示されていることが認められる」(19頁第2段落)定し,本件発明2において付加された構成は甲4公報の記載に基づき容易に想到できるとしたが,甲4公報には,複数のデータ識別名を一つの図形領域に対応付けて登録すること又はその逆の態様は,開示されていないから,上記判断は誤りである。
キ 取消事由7(本件発明3についての判断の誤り)本件発明3は,本件発明1又は2の構成に加え,「前記文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物の関連情報として付加できるようになっている」点を構成要件としたものであり,本件審決が本件発明1及び2の判断を誤っている以上,本件発明3について進歩性が認められないとする判断も,失当である。
また,引用例には,メモ情報と関連付けて記号を付加できることが示されているが,イメージ情報に関しての記述も示唆もない。記号とイメージ情報とは意味も相違し,表示の方法においても相違する。よって,本件発明3は,引用発明に基づいて,甲4公報に記載された発明を参酌することにより当業者が容易に想到し得るものである,とした本件審決の判断は誤りである。
ク 取消事由8(本件発明4についての判断の誤り)本件発明4は,本件発明1〜3のいずれかに加え,「前記電子地図情報システムが,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」を構成要件とするものであり,本件発明1〜3の判断を誤っている以上,本件発明4に何ら進歩性は認められないとする判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否請求の原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論原告が,本件審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,いずれも失当である。
(1)取消事由1に対し原告は,本件発明1はシステム外部の既存データベースとの直接的な連携を実現し既存のデータベースの機能を向上させる作用効果を有しているのであり,外部データ(既存データベース)との直接的な連携をしていない引用発明とは基本的に相違している,と主張する。
しかし,本件出願当初の明細書(乙1)の記載によれば,「既存のデータベース」とは,顧客管理ソフトなどのソフトウェアを用いて利用者が作成するデータベース以外のものは全く想定しておらず,当該データベースとの「連携」についても全く記載がない。そもそも,本件出願当初の発明の名称は「文字情報と画像の合成方法及びその装置」であり,出願過程での平成11年11月9日付け補正(乙2)により,発明の名称を「既存データベース機能向上支援ツール」に変更したものであるが,明細書の内容的な補正をしないまま「既存データベース機能向上支援ツール」という言葉を用いることによって,「既存データベース」の意義が拡張されたり,それとの「連携」によって既存のデータベースの機能向上を図ることが本件発明の本質に追加されたりするものではない。よって,取消事由1の主張は失当である。
(2)取消事由2に対しア 構成Bにつき原告は,構成Bの「利用者の文字情報」を「対象物の領域」に登録するという構成を,引用発明が備えていないと主張する。
しかし,引用発明では,施設(本件発明の対象物に相当)の領域ではなく,施設の位置(本件引用発明における施設の位置を示す座標)を指定して,それに対応して文字情報を入力しているところ,一般に施設は地図上で所定の面積を備えているものであるから,その座標は施設の位置の代表点の座標であり,施設の領域を指定することと変わりがない。したがって,本件発明1の構成Bは,実質的に引用発明にも開示されているのであるから,本件審決の認定に誤りはない。
イ 構成Cにつき原告は,構成Cについて,引用例には,「各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する」ことは全く記載されていないと主張する。
しかし,引用例にも,ユーザによって施設の情報が登録できること,及び文字等からなるメモ情報(施設の名称など)を施設の位置に対応させて装置内のメモリ(記憶装置)に登録することが開示されており,このメモ情報が検索キーとなって施設の位置を検索し,施設を地図上に表示させることができるのは当然である。
よって,引用発明のメモ情報を本件発明1の文字情報(検索キー)と同視して,本件発明の構成Cが引用例に記載されているとした本件審決の認定に誤りはない。
ウ 構成Dにつき原告は,引用例には検索キーはおろか,検索や対象物の領域情報に関しては何ら記載されておらず,その示唆もないと主張する。
しかし,引用例には,入力された文字情報(メモ情報)を検索キーとして登録し,その登録された文字情報(メモ情報)を用いて検索し,対応する施設の位置を地図上に表示する方法が開示されている。なお,引用発明では,メモ情報をタッチパネルに表示してから,それを指定する方法で施設の位置を検索しているのであるが,表示させたメモ情報にタッチして検索する代わりに,登録されているメモ情報をキーボードから入力して検索することは,メモ情報(検索キー)の入力装置として,キーボードを使用するか,タッチパネルを使用するかという当業者が適宜選択的に実施可能な常とう手段同士の間の選択にすぎない。つまり,キーボード又はタッチパネルから入力して検索することは,いずれも,対象物の位置を検索する手段となり得るものであり,対象物指定手段という上位概念としての本件発明1の構成Dに該当する。
したがって,本件発明1の構成Dが,引用例に記載されているとした本件審決の認定に誤りはない。
エ 構成Eにつき原告は,引用例には,本件発明1の「検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する」ことは記載されていないと主張する。
しかしながら,引用例(甲1)の段落【0004】には,「地図表示画面を施設の位置を中心とした地図表示画面に切り替え,この画面上にメモ情報を重ね表示する方法」との記載があり,地図表示画面に,例えば施設の名前等を含むメモ情報を重ねて表示することが開示されている。したがって,本件発明1の構成Eが,引用例に記載されているとした本件審決の認定に誤りはない。
(3)取消事由3に対し本件発明1の構成Aにおける「地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形の画像情報を処理対象として」という記載によれば,本件発明1は地図を含むのであるから,引用発明との比較においては,両者は地図を対象としている点で一致していると認定するのは当然である。よって,取消事由3の主張は失当である。
(4)取消事由4に対し原告は,本件発明1における「既存のデータベース」と引用発明における「メモ情報」との差異は,技術的に大きなものであり,そもそも引用発明は,本件発明1の目的若しくは課題に直面していない旨の主張をする。しかし,上記(1)のとおり,本件発明1にいう「既存データベース」が,利用者が作成したデータベースを含まないとはいえないから,引用例に記載されている,利用者が作成したメモ情報も含まれる。
また,原告は,「既存のデータベース」が地図情報システムの外部にあるか内部にあるかで大きく相違すると主張するが,そもそも,本件明細書(甲6-3)には,地図情報システムの「内部」又は「外部」との文言自体が全く記載されておらず,利用者の作成したデータベースのうち,何が地図情報の内部又は外部のものであるか,その区別さえ明らかではない。また,本件明細書の段落【0006】における「利用者特有の情報を利用者自身が作成して利用者データベースに格納しておくなど」との記載には,「利用者データベース」を地図情報システムの「外部」にあるデータベースに限定する文言はなく,また,「など」という文言からは更に広く利用者が作成したデータベースを含むことは明らかである。
以上のとおり,本件発明1の「既存データベース」が単に「利用者が作成した情報を格納したもの」を意味するにすぎないと解することに何ら矛盾はなく,「既存データベース」が地図情報システムの「外部」にある利用者自身のシステム内の独自のデータベースを指すという原告の主張は失当である。
したがって,本件審決が,相違点(イ)について,引用発明においても本件発明1と同様に文字情報と対象物を関連付けて表示しているから,当該相違点は格別なものとはいえないと判断したことは相当である。
(5)取消事由5に対し原告は,本件発明1は,システム外部の既存のデータベースから文字情報群を抽出して入力するという,引用例が開示していない構成を採用することにより,既存データベースの機能向上を支援しており,利用時にカーソルキーにより文字を入力する引用発明とは構成及び作用効果が相違している旨を主張する。
しかし,既に主張したように,「既存データベース」とは「利用者が作成した情報を格納したもの」であって,本件発明の文字情報も「メモ情報」と記載されているように利用者のデータベースとして登録することができることから,引用発明は,本件発明1における「既存のデータベース」に相当する構成を有する。したがって,本件発明1における「既存のデータベース」は,ユーザが作成した独自のデータベースを排除するものではなく,この「既存のデータベース」が住所録等のあらかじめ利用者が作成しているデータベースであるか,地図情報システムを利用するために利用者が作成したデータベースであるかは,そのデータベース内に記憶されている文字情報を検索キーとして利用する上で格別な相違はない。
以上のとおり,引用発明には,本件発明1における既存のデータベースに相当する構成があり,また,そのデータベース内に記憶されている文字情報(メモ情報)を検索キーとして検索等の操作を行うことができる。
したがって,相違点(ウ)は,引用発明からみて適宜実施できる程度のもので,格別な困難性がない。よって,これと同旨の本件審決に誤りはなく,原告の取消事由5の主張は失当である。
(6)取消事由6に対し甲4公報には,一つの対象物(図形領域)に対して複数のデータ識別名を登録すること,複数の対象物(図形領域)に対して,同じ言葉(データ識別名)を登録することが記載されており,本件発明2で本件発明1に付加された構成は,甲4公報に開示されているから,本件審決の判断に誤りはない。
(7)取消事由7に対し原告は,本件審決は本件発明1又は2の判断を誤っている以上,本件発明3に何ら進歩性は認められないとする判断も誤りである旨を主張するが,本件発明1及び2の判断に誤りがないことは上記のとおりである。また,原告は,引用例にはメモ情報と関連付けて記号を付加できることが示されているにとどまり,イメージ情報に関しての記述も示唆もないと主張するが,本件明細書の記載によれば,本件発明3の「イメージ情報」には「マーク」を含むことが明らかであるところ,「マーク」は「記号」に相当することから,本件発明3の「イメージ情報」は,引用例にも開示ないし示唆されている。
(8)取消事由8に対し原告は,本件審決は本件発明1〜3の判断を誤っている以上,本件発明4に何ら進歩性は認められないとする判断も誤りである旨を主張するが,本件発明1〜3の判断に誤りがないことは上記のとおりである。
当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告主張の取消事由について順次判断する。
2 取消事由1について(1)原告は,本件発明1はシステム外部の既存データベースとの直接的な連携を実現し既存のデータベースの機能を向上させる作用効果を有しているのであり,外部データ(既存データベース)との直接的な連携をしていない引用発明とは基本的に相違している,と主張する。
しかし,まず,本件明細書(平成16年6月17日付け手続補正書〔甲6-3〕添付の全文訂正明細書をいう。以下同じ。)には,「直接的な」「連携」という用語は用いられていない。また,下記(2)のとおり,本件発明1における「既存のデータベース」の位置付けに関連する本件明細書の記載を検討しても,原告のいう「直接的な連携」の意味は明らかではないし,引用発明との基本的な相違があると認められるものでもない。
(2)本件明細書には,次の記載がある。
「【産業上の利用分野】本発明は,地図及び図面などの画像情報を提供するコンピュータシステムにおいて,既存の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる既存データベース機能向上支援ツールに関し,特に,画像上の任意の位置又は領域に対し,その場所に関連する任意の利用者情報を付加し得るようにすると共に,その利用者情報に含まれる文字情報を検索キーとして画像上での当該位置を求め得るようにした既存データベース機能向上支援ツールに関する。」(段落【0001】)「【発明が解決しようとする課題】ところで,最近では情報源が多様化し,所望の情報をネットワークを介して取り込んだり,CD-ROM等の光ディスクから得たりなど,様々な情報を色々な形で入手することができる。また,利用者特有の情報を利用者自身が作成して利用者データベースに格納しておくなど,独自のユーザデータベースを構築していることが多い。しかしながら,上述した従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持っている情報を利用することができなかった。例えば,地図,設計図,各種の構造図などの図形・画像に対して利用者の各種データベースの情報を関連づけて付加したい場合,付加する手段が存在しなかった。また,地図などの図形・画像に対し,該当の場所に関連する利用者の情報を合成して表示したり,利用者の設定情報をキーとして該当の場所を検索したりすることができなかった。本発明は上述した事情から成されたものであり,本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,既存の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる既存データベース機能向上支援ツールを提供することにある。さらに,本発明の他の目的は,付加した文字情報を検索キーとして図形・画像の当該位置を検索して所望の画像を表示できる既存データベース機能向上支援ツールを提供することにある。」(段落【0006】〜段落【0007】)「【課題を解決するための手段】本発明は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形の画像情報を処理対象として,予め記憶された前記画像情報のデータベースに基づいて前記図形の任意の部分の画像を表示する機能を有するコンピュータシステムにおける既存データベース機能向上支援ツールに関するものであり,本発明の上記目的は,利用者の文字情報を付加する対象物の領域を前記表示された図形の画像上にて指定する対象物指定手段と,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し,各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段と,入力された文字情報を検索キーとして前記登録された文字情報群を検索し,検索された文字情報に対応して登録されている前記対象物の領域情報に基づき前記図形の画像上での当該対象物の位置を求める画像位置検索手段と,前記画像位置検索手段により求めた当該対象物の位置が所定位置に配置されるように表示領域を調整して当該対象物を含む図形の画像を表示すると共に,前記検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する利用者情報表示制御手段とを備えることによって達成される。」(段落【0008】)「利用者は,作画して指定した場所に対し,その場所を管理するための任意の文字情報を入力装置1から入力する。入力装置1を介してユーザデータベースDB等から入力された文字情報は,文字情報登録手段32によって情報記憶部4内の文字情報記憶部42に登録される。
登録された図形情報と文字情報との対応は,情報記憶部4内の管理テーブル43に登録されて管理される。上記文字情報は,一つの場所に対して複数登録することができ,また,複数の場所に対して同一の文字情報を登録することができる。」(段落【0013】)「次に,『ファイル指定』による検索手順,すなわち,複数の文字情報(検索キー情報)を指定して当該位置を順次検索する手順を具体例を示して説明する。図10は,本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。画像上の該当の場所に関連する関連情報を入力する形態としては,前述のステップS14において第1の例として説明したように,関連情報をキーボード等から直接入力する形態の他に,図1に示したように入力装置1を介してユーザデータベースDBから関連情報を入力する形態がある。例えば,図10(A)に示すような,データ(文字情報群)が格納されたユーザデータベースD1があり,同図において,それぞれ“KEYA”〜“KEYE”が,画像位置の関連情報となる文字情報であると仮定する。この場合は,先ず利用者は,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。文字情報登録手段32では,テキストファイルTX1を入力し,前述のステップS15で説明したように該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,同図(C)に示すように,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。なお,利用者により登録指示がされ,図形情報との対応付けが行われた文字情報(図10(C)の例では“KEYA”〜“KEYE”)は,図8に示したように,該当の図形情報に対応する管理コードと共に文字情報記憶部42に登録される。」(段落【0027】)「【発明の効果】以上のように本発明によれば,画像の任意の領域について任意の文字情報を関連情報として登録することができると共に,その関連情報を指示することにより,関連情報に対応する画像上での位置を求めることができる。そのため,画像の任意の領域に対して,利用者の情報を登録して管理することが可能となり,利用者が持っている情報を有効利用できるようになる。例えば,顧客管理ソフトなど既存のデータベースの住所データや顧客データを利用して,市街地図の上に当該領域を示す情報として表示することができるようになる。さらに,登録した文字情報を検索キーとして画像上での位置を検索して当該画像を表示することができるので,利用者の設定情報をキーとして該当の場所を検索する情報検索システムを容易に構築することが可能となる。」(段落【0034】)(3)本件明細書(甲6-3)の上記各記載によれば,本件発明1の「既存データベース」とは,利用者特有の情報につき利用者自身が作成した独自のユーザデータベースを含むものであるが,画像情報の検索及び表示を行うコンピュータシステムの「外部」に存在するものに限定する記載はない。したがって,本件発明1が,システム「外部」の既存データベースの存在を不可欠の要素とする旨の原告の主張は,明細書の記載に基づかないものであって採用できない。
また,上記の本件明細書の記載によれば,本件発明1では,既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力することで,図形・画像に対して,利用者の各種データベースの情報を関連付けて付加することができるものと解される。したがって,本件発明1において,既存データベースとの「直接的な連携」を実現し,既存のデータベースの機能を向上させるという作用効果があるとしても,それは,もっぱら,既存のデータベースから抽出したテキスト形式のファイルを入力するという構成によりもたらされるものと認められる。そして,本件審決では,「本件発明1では,入力するテキスト形式のファイルが,既存のデータベースから抽出したものであるのに対し,引用発明ではカーソルキーにより文字を入力する点」を,本件発明1と引用発明との相違点(ウ)として認定し,当該相違点に関する容易想到性の判断を行っているのであるから,本件審決が本件発明1と引用発明との基本的な技術的思想の相違を看過したということもできない。
(4)以上のとおり,取消事由1に係る原告の主張は,採用することができない。
3 取消事由2について(1) 構成Bにつきア 「文字情報を付加する」の点につき原告は,本件審決が,対象物に「利用者の文字情報を付加する」ことが引用例に示されていると認定したのは,本件発明1の「文字情報」と引用発明の「メモ情報」との意義が異なることを看過した認定であって誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は,本件発明1の構成Bにおける「利用者の文字情報」が,画像情報の検索・表示を行う利用者のコンピュータシステムの外部に置かれた既存の各種データベースから得られる文字情報を意味するものであることを前提とするところ,上記2のとおり,本件発明1において,「既存のデータベース」が原告の主張するような意味での「外部」に存在するものに限定されているわけではない。そうすると,原告の上記主張は,前提を欠き,採用することができない。
イ 「対象物の領域を指定し」の点につき(ア)原告は,本件発明1が対象物を領域として指定するのに対して,引用発明は対象物を点として指定するものであるから,本件審決が,引用発明が「対象物の領域を地図画像上にて指定する」ステップを有しているといえると認定したのは誤りであると主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。。
(イ)地図上の対象物(例えば建物)は,面としての広がりを持ち,特定の領域を有するものであり,縮尺及び表示装置の精度の兼ね合いにより,点としてしか表示されない場合があるとしても,建物が領域を有することには変わりがない。したがって,本件発明1において,地図画像上で,ある建物内の一点をマウスでクリックする等の操作によって当該建物を指定することも,「対象物の領域を……指定する」ことに含まれる。
一方,引用例においても対象物である施設は特定の領域を有するものであるから,引用例にも,対象物の領域を地図画像上で指定することが記載されていると認められる。
本件審決の上記認定は,以上の趣旨をいうものとして是認することができ,原告主張の誤りはない。
(ウ)原告は,本件発明1においては対象物の位置及び形状の両方の情報が登録されるのに対して,引用発明においては対象物の位置の情報しか登録されないから,両者には相違があると主張する。
しかし,原告主張の点に相違があるとしても,後記(エ)のとおり,それは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜変更できる設計事項にすぎないというべきであるから,本件審決が,当該相違は実質的な相違点ではないとの見解に立って一致点の認定を行ったことに誤りはないし,本件発明1の進歩性の判断の当否に影響するものでもない。
(エ)本件明細書には,対象物の領域の指定に関連して,次の記載がある。
「【0010】【作用】本発明にあっては,対象となる画像図上の任意の領域に対し,その場所に関連する任意の文字情報を付加させることができ,独自の情報システムを容易に構築することが可能になると共に,付加した文字情報を検索キーとして画像上での当該位置を求めることができるので,利用者の設定情報をキーとして該当の場所を検索する情報検索システムを容易に構築することが可能となる。」「【0016】まず,利用者は,図5(A)に示すように,情報を付加したい場所P1が含まれる地図の部分,例えば,図4の画像部F1の部分を背景画像として表示装置2の表示部2aに表示する(ステップS11)。次に,利用者は,図5(B)に示すように,表示された画像上の該当の場所P1を,その領域を囲む図形G1を作画して指定する(ステップS12)。」「【0017】該当の場所P1が指定されると,中央処理部3内の図形情報登録手段31は,作画された図形G1の作画情報と共に,画像上の座標値を図形情報として図形情報記憶部41に記憶する。例えば,図6に示すように,表示装置2の表示領域が幅400ドット,高さ200ドットと仮定すると,図形の表示領域の左上隅の座標値(180,110)を表示画像部の画像ファイル上での位置情報と共に,図形G1の座標情報として記憶する(ステップS13)。」(オ)本件明細書の上記段落【0016】【0017】の記載及び【図6】によれば,情報を付加する場所P1についての「図形情報」は,図形G1の「作画情報」と図形G1の表示領域の左上隅の座標情報とから成り,この図形情報が「図形情報記憶部」に記憶されるものである。
そして,「作画情報」が具体的にどのような方法で記述され記憶されるかについての説明は本件明細書には存しないから,当業者にとって周知慣用の方法のうちいかなるものでも採用できると解するほかない。このように,本件明細書にいう「図形情報」は,図形の表示領域の左上隅という1点の座標情報以外に「作画情報」を有するわけであるが,その作画情報の具体的内容について特段の限定はなく,利用者が必要とする図形情報の詳細度や,利用するハードウェア資源の能力(処理速度,記憶容量等)に応じて,本件発明1を実施する者において適宜定めることができる程度の事柄であると解される。
また,本件明細書の上記引用の各段落には,情報を付加する場所P1についての「図形情報」が,図形の表示領域の左上隅という1点の座標情報に加えて「作画情報」を有することによる特有の効果については,何ら記載がない。もちろん,1点の座標値以外に,対象物の形状を表象する「作画情報」を有することによって,画面上に表示される建物の形状が現実の建物に近いものになる等の効果は生じるであろうが,本件発明1は,画面上への表示方法を特許請求の範囲中の構成として含むものではないし,当該効果は,図形情報として座標情報以外に作画情報も有することによって当然に生じる効果にすぎない。そうすると,情報を付加する場所P1についての「図形情報」を,1点の座標情報だけでなく「作画情報」を有するものとすること(すなわち,対象物を領域として指定すること)は,当業者にとって単なる設計事項にすぎないというべきである。
(カ)したがって,構成Bの「対象物の領域を指定し」の点につき一致点の認定の誤り及び相違点の看過をいう原告の主張は,採用することができない。
(2)構成Cにつき「各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索 ア原告は,引用例にはことは全く記載されていないから,構成Cについての本キーとして登録する」件審決の一致点の認定は誤りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。
イ「対応付け」について(ア)引用例(甲1)には,次の記載がある。
「【0010】メモ情報の登録は以下のようにして行う。……ユーザは,……カーソル移動キーを操作することによってカーソルを登録したい施設の位置に移動し,その後,登録キーを操作する。以上の操作によって,登録したい施設の位置が決定される。
尚,かかる施設の位置は,地図上における経度,緯度を示す座標情報に換算されて登録される。」「【0011】以上の操作が終了すると,……,ユーザはカーソルキー(矢印キー)を操作することによって文字列上における文字を選び,“情報”の位置に施設の内容を示す文字を入力する。……」「【0012】このようにして“情報”および“記号”の入力が終了すると,ユーザは設定キーを操作する。かかる設定キーの操作に応答してメモ情報の位置,内容および記号を示す各情報が図1における記憶回路4に互いに関連づけて記憶される。かかるメモ情報に関する記憶回路4のメモリマップを図4に示す。同図において,nはメモ情報の登録順序を示す。また座標情報は,前述したように,地図上における経度,緯度を示すものである。」引用例の上記記載及び【図4】によれば,引用発明の記憶回路4には,施設の座標情報とメモ情報とが「メモリマップ」によって関連付けて記憶されているものと認められる。そして,上記記載【0011】によれば,メモ情報は,文字によるものであることが明らかである。
(イ)一方,本件明細書(甲6-3)には,上記(1)イ(エ)に引用した段落【0016】【0017】の記載に続けて,次の記載があり,これらの記載が,「各文字情報を各対象物の領域と対応付けて当該対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段」に対応するものと認められる。
「【0018】続いて,利用者は,該当の場所P1に関連する文字情報の登録指示を行なう。
………」「【0019】関連情報が入力され,利用者により登録指示がされると,文字情報登録手段32では,該当の図形情報と文字情報との対応付けを行ない,文字情報を文字情報記憶部42に登録する。………」「【0023】上記の手順により,図形の情報と地図上の位置を表わす文字情報とを関連付けることができる……。」(ウ)そうすると,引用発明の「メモ情報」,「座標情報」,「記憶回路4」は,それぞれ,本件発明1の「文字情報」,「領域情報」(「図形情報),「文字情報記憶部」に対応するものということができるから,「本件発明1の構成Cは,引用発明と『………各文字情報を各対象物の 本件審決が,と領域と対応付けて………する利用者情報登録手段』を備えている」(14頁第3段落)認定したことに誤りはない。
ウ「検索キーとして登録」について「本件発明1の構成Cは,引用発明と『………各文字情報を (ア)原告は,本件審決が………対象物の検索キーとして登録する利用者情報登録手段』を備えている」(14頁第と認定したのは誤りであると主張し,その理由として,引用発明 3段落)の「メモ情報」は検索のマッチングには一切使用されておらず,利用者の単なる地図表示位置の選択項目の機能しか有していないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。
(イ)引用例(甲1)には,次の記載がある。
「【0013】次にメモ情報の表示について説明する。通常の地図表示モードにおいて,モードの変更をキー入力部7を介して入力すると,表示画面は,図5の右上に示す画面,即ち表示画面の下部にタッチパネルとして機能するモード変更キーが表示された画面に切り替わる。メモ情報を表示する場合,ユーザはかかるモード変更キーからメモキーを選択して操作する。かかるメモキーの操作に応答して表示画面は,図5の左上の画面,即ちメモ情報のリストを示す画面に切り替わる。かかる表示画面は,上述した如くして図1の記憶回路4に記憶されたメモ情報を読み出すことによって映写される。
ここでメモ情報のリストは,記憶回路4に登録された順番に映写される。ユーザは,かかるリストから表示したいメモ情報を選択しこれを入力する。メモ情報の選択の入力は,上記と同様,タッチパネルによって行う。このようにしてメモ情報の指定がなされると,対応するメモ情報の施設の位置が地図上に表示される。かかるメモ情報の表示は,図2のフローチャートに従ってマイコン1によって実行される。」引用例の上記記載によれば,引用発明においては,ユーザが,【図5】の左上の画面に示されたメモ情報のリストの中から,表示したいメモ情報(例えばAの「ガソリンスタンド」)を選択して入力すると,当該メモ情報に対応付けられた施設(ガソリンスタンド)の位置が,地図上に表示されるものであると認められる。
そして,「コンピュータソフトウェア事典」(平成2年4月15日丸善「後日での利用を想定して蓄積された情報の中から,ある 株式会社発行,甲17)に特定の属性をもつ情報を選択する行為を情報検索(information retrieval)という。」と説明されているとおり,一般に,「検索」とは「選 (1029頁左3〜5行)択」を含むものであるから,引用発明において上記のとおりメモ情報を選択して施設の位置を地図上に表示することも,メモ情報を検索キーとして特定の施設(ガソリンスタンド)を検索していることにほかならない。
(ウ)原告は,一般に「検索」とは,データ処理の手掛かりとなる検索キーや条件式等を入力し,データベースの中から,検索キーや条件式に合致するデータを,自動的に引き出すことを意味し,本件発明1でいう「検索」とはこのような意味であるのに対し,引用発明における「選択」は検索には当たらないと主張する。しかし,原告の主張するような意味での「検索」は,「コンピュータソフトウェア事典」(甲17)の上記引用「検索の対象となる情報の形態によって,情報検索システムにはそれぞ 箇所の後に,れ固有の特徴がある。マイクロ資料の検索システムはその一例である。しかし,本章では,コンピュータ技術に基づく狭義の情報検索,情報検索システムに焦点をあてて解説として言及されている「狭義の情報検索」に相 する。」(1029頁左15〜19行)当するものであり,本件発明1にいう「検索」が,狭義の情報検索に限られるとすることはできない。
(エ)また,本件明細書の「発明の詳細な説明」を参酌しても,本件審決の上記認定は相当である。
すなわち,本件明細書(甲6-3)には,文字情報の登録及び検索について,次のような実施例が開示されている。
「【0018】続いて,利用者は,該当の場所P1に関連する文字情報の登録指示を行なう。
図7は,関連情報をキーボード等から直接入力する場合の登録画面の一例を示しており,登録したい関連情報(=検索キー情報:本発明では,当該文字情報が該当の場所P1の検索キーとなる)を,表示部2a内のテキストボックスWaの中に入力する。
関連情報としては,例えば,地図の当該部分P1の住所を示す文字列「〜町〜丁目xxx」や顧客情報等,その場所を管理するための情報を表わす任意の文字列を入力する。………」「【0024】検索の操作には,単一の検索キーを指定する「文字列指定」の操作と,複数の検索キーを指定する「ファイル指定」とがある。先ず,「文字列指定」がされた場合の検索手順について説明する。利用者により「文字列指定」の検索コマンドが指定されると,表示制御手段34では,図9(A)に示すような案内画面を表示部2aに表示する。利用者は,表示部2a内のテキストボックスWaに検索キーを入力し,検索ボタンを指示する。検索ボタンが指示されると,画像位置検索手段33では,文字情報記憶部42に登録されている検索キーを検索し,登録されていれば,管理テーブル43を参照して対応する図形情報を図形情報記憶部41から読み込む。」「【0025】そして,図形情報に基づいて画像上での当該位置を求め,画像ファイル5から該当の画像情報を読み込む。表示制御手段34では,図9(B)に示すように,当該位置P1が表示画面上の所定の位置……に配置されるように,表示領域を調整して地図の画像を表示する。……」本件明細書の上記段落【0018】によれば,利用者は,特定の場所P1に関連する文字情報(「関連情報」)として,表示部2aのテキストボックスWaに例えば「ガソリンスタンド」と入力することができ,その場合,段落【0024】【0025】で説明される検索及び表示の操作では,表示部2a内のテキストボックスWaに「検索キー」として「ガソリンスタンド」と入力することによって,場所P1が地図上に表示されることになる。
本件明細書に開示されるこのような文字情報の登録及び検索の手順は,上記(イ)で検討した引用発明における手順と,大部分の構成において一致している。相違する点は,検索に当たって特定の文字情報(「ガソリンスタンド」)を指定するに際し,本件発明1では表示部2aのテキストボックスWaに「ガソリンスタンド」と入力し,コンピュータ(中央処理部3と情報記憶部4)の内部で管理テーブル43を参照して場所P1(ガソリンスタンド)が抽出されるのに対して,引用発明では,本件発明1の管理テーブル43に相当するメモ情報の一覧が画面上に表示され(図5の左上の図),ユーザが手動でガソリンスタンド(同図のAの行)を抽出する,という点のみである。
そして,上記の相違点は,一連の手順のうちのある部分をコンピュータ内部の自動処理として行うか,画面表示を介した利用者の手作業として行うか,という相違にすぎず,設計事項の域を出ないといわざるを得ない。
(3)構成Dにつき原告は,引用例には,入力された文字情報を検索キーとして登録された文字情報群を検索することも,検索された文字情報に対応して登録されている対象物の領域情報に基づき,図形の画像上での当該対象物の位置を求める画像位置検索手段も示されていなから,構成Dについて本件発明1と引用発明とが一致するとした本件審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,一般に検索は選択も含むものであって,引用発明においてメモ情報を選択して施設の位置を地図上に表示する操作が,メモ情報を検索キーとして特定の施設を検索しているのにほかならないことは,上記(2)のとおりである。したがって,構成Dについて本件発明1と引用発明とは一致するとした本件審決の認定に誤りはない。
(4)構成Eにつき原告は,引用例には,本件発明1の「検索された文字情報を前記当該対象物と関連付けて合成して表示する」ことは記載されていないから,構成Eについて本件発明1と引用発明とが一致するとした本件審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告がその理由として主張する実質的内容は,引用例においては「メモ情報」が「検索キー」として用いられているのではないことを主張しているのにすぎないから,上記(3)で説示したのと同様の理由により,原告の構成Eについての主張も採用することができない。
4 取消事由3について原告は,本件発明1は,地図に加えて設計図や構造図に適用されることにより,CADシステム業界や設計業界といった異業種での利用を可能にしたものであるから,本件審決がこの点に進歩性は認められないと判断したのは誤りであると主張する。しかし,そもそも,本件発明1が地図に適用されるものを含み,この点において同じく地図を対象とする引用発明と一致している以上,本件発明1が設計図や構造図に適用される場合を含むことが相違点になるものではない。したがって,本件審決が,相違点(ア)に進歩性は認められないとしたことに,誤りはない。
5 取消事由4について原告は,本件発明1の「既存のデータベース」は,画像情報の検索と表示を行うコンピューターシステムの「外部」に存在する,利用者の独自のデータベースを指しており,地図情報システムの内部にある引用例のメモ情報とは,利用するデータベースが,地図情報システムの内部にあるか,外部にあるかで大きく相違しているから,相違点(イ)は格別なものとはいえないとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,取消事由1について前記2で説示したとおり,本件明細書の記載によれば,本件発明1の「既存データベース」とは,システムの「外部」か「内部」かを問わず,利用者が保有する情報に基づき利用者自身が作成した独自のユーザデータベースを意味すると解され,システムの「外部」に存在する既存の各種データベースに特定されているものではない。したがって,利用する既存データベースが,システムの「外部」にあることを前提とする原告の主張は,採用することができない。
6 取消事由5について(1)原告は,本件発明1は,システム外部の既存データベースの機能向上を支援することを目的とし,本件発明1の構成により,その目的を達成しているのに対し,引用例はかかる目的とは無縁のものであり,本件発明1の課題も認識していないから,本件審決が,「入力するテキスト形式のファイルが,既存のデータベースから抽出したもの」であることを「文字情報が既存データベースに格納されていた情報であること」に置き換え,「文字情報が既存データベースに格納されていた情報であること」と「メモ情報を利用者のデータベースとして登録すること」とが等価であると判断したのは,誤りであると主張する。
しかし,まず,本件発明1において既存データベースがシステムの「外部」にあることを前提とする原告の主張は,前記2で取消事由1について説示したとおり,採用することができない。
(2)また,本件審決が認定した相違点(ウ)は,入力の具体的な手段としてみた場合には,引用発明では文字情報をタッチパネルを利用して直接入力するのに対して,本件発明1では既存のデータベースから抽出したテキスト形式のファイルを貼り付ける方法を採用する,という点の相違である。しかし,この点も,以下のとおり,必要に応じて当業者が適宜選択できる設計事項であると認められる。
すなわち,本件発明1の構成Cによれば,文字情報の登録は,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力」することによって行われるものである。そして,本件出願日(平成7年1月13日)時点で,情報処理の分野において,データベースから一部の文字情報をテキスト形式のファイルで抽出し,他のファイルに一括して貼り付け「利用者 る技術が周知慣用のものになっていたことは,本件明細書(甲6-3)のは,データベースで管理しているデータの中から検索キーの部分KEYA,KEYB,……,KEYEだけを抽出し,例えば同図(B)に示すように,改行データを区分情報としてテキストファイルTX1に出力する。」(段落【0027】)「利用者は,『ファイル指定』の検索コマンドを ,指示し,テキストファイルTX1のファイル名を入力(或いは既に登録されているファイル名を一覧表の中から選択)して検索指示を行なう。ファイル名が入力されると,画像位置検索手段33では,テキストファイルTX1から文字情報群を読み込み,区分情報で区分された各データを各検索キーと見なし,同図(C)に示すように,文字情報記憶部42に展開する。」との記載において,データベース上のデータの一部をテキスト (段落【0028】)ファイルに出力して読み込むことが,その具体的方法につき特段の説明なくして開示されていることから明らかである。
そうすると,個々の情報を入力装置(タッチパネル,キーボード等)から入力することに代えて,必要な情報を他のデータベースから抽出したテキスト形式のファイルを一括して貼り付けるという構成も,設計事項の域を出ないといわざるを得ない。
7 取消事由6について(1)原告は,本件発明2についての本件審決の判断の誤りとして,甲4公報に,複数のデータ識別名を一つの図形領域に対応付けて登録すること,及び,その逆に一つのデータ識別名を複数の図形領域に対応付けて登録することが,開示されているとはいえない,と主張する。
そこで,甲4公報の内容を検討すると,甲4公報には,次の記載がある。
「作成するデータ対応表の構成を図5および図6に示す。図5の1のヘッダー情報部には,データ対応表名,図形名称,および作成日等の付属情報が格納される。このヘッダー情報部は,一つのデータ対応表の先頭に一つ作成される。2のデータ識別名情報部には,データ識別名についての情報が格納され,図形領域と対応付けたデータ識別名の数だけ作成される。複数のデータ識別名を一つの図形領域と対応付けたときには,データ識別名情報部に登録された全データ識別名の何番目と何番目が対応付けられたかを検索する。
3の図形領域情報部には,図形領域に関する情報が格納され,データ識別名に対応付けた図形領域の数だけ作成される。あるデータ識別名に複数の図形領域を対応付けたときには図形領域情報部に登録された全領域識別名の何番目と何番目が対応付いているかを検索する。」(段落【0022】〜段落【0025】)「以上,各支店の売上データを近畿地方図(都道府県分割)に表示する場合の実施例を示した。この実施例では,データと図形領域が1:1で対応付いているが,例えば,大阪府に梅田支店と大阪支店の2店がある場合でも対応付けることができる(複数:1の対応)。この場合,売上データは大阪府の位置に2店の売上の合計が表示される。」(段落【0035】〜段落【0036】)「(5)データと図形領域を1:1で対応させるばかりでなく,一つのデータと図形上の複数領域とを対応付けることにより,領域のグルーピングが可能となる。また,図形上の一領域に複数のデータを対応付けることにより,一領域上に複数データの合計値を表示させることができる。」(段落【0043】)・図5には,データ対応表の構成図として,データ識別名情報部に複数のデータ識別名が,図形領域情報部に複数の図形領域が登録されていることが図示され,図6には,データ対応表の各情報部のレイアウトとして,データ識別名情報部の一つのデータ識別名に対応して,「複数対応の時のデータ識別名の数」,「複数対応の時,次のデータ識別名が情報部内の何番目か」・・・「対応している図形領域の数」,「対応している領域識別名が情報部内の何番目か」の各項目が,また,図形領域情報部の一つの領域識別名に対応して,「複数対応の時の領域識別名の数」,「複数対応の時,次の領域識別名が情報部内の何番目か」・・・「対応しているデータ識別名の数」,「対応しているデータ識別名が情報部内の何番目か」の各項目が登録されていることが図示されている。
甲4公報の上記各記載によれば,甲4公報には,データ識別名と図形領域を一対一で対応付けるばかりでなく,一つのデータ識別名と図形上の複数領域とを対応付けること,及び,その逆の態様である,図形上の一領域に複数のデータ識別名を対応付けるという技術的事項が開示されている。そして,本件発明1と甲4公報はともに,文字情報と地図情報を対応させて登録し,表示するという同一の技術分野に属するものであるから,甲4公報に開示された技術的事項を本件発明1に適用し,本件発明2に想到することは,当業者であれば容易であったものと認められる。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に,誤りはない。
(2)原告は,甲4公報では,「データ識別情報部」や「図形領域情報部」は,データ表示システム内の「図形情報処理部」に格納されており,利用者が所有している「既存データベース」と連携して登録することを目的としたものではない,と主張する。
しかし,本件審決において,甲4公報は,本件発明2の進歩性を検討するに当たり,本件発明2に固有の相違点(文字情報と図形情報との対応付けにおいて,一対一以外の(複数対一又は一対複数の)対応付けを行うこと)が公知であることを示すために引用されたものである。文字情報が「既存データベース」から抽出されるものであるか否かは,本件発明1と引用発明との相違点として検討済みなのであるから,甲4公報におけるデータ識別名(本件発明1の「文字情報」に対応)が,既存データベースから抽出されるものかどうかは,本件発明2固有の相違点が想到容易であるか否かの検討には関係しない。
原告の上記主張は,本件審決の趣旨を正しく理解しないものであり,採用することができない。
8 取消事由7について原告は,本件発明3についての本件審決の判断の誤りとして,引用例には,メモ情報と関連付けて記号を付加できることが示されているが,単なる記号と本件発明3にいう「イメージ情報」とは表示の方法及び効果の両面において相違するから,対象物のイメージ情報を付加できるという本件発明3の構成は,当業者にとって容易に想到できるとはいえないと主張する。
しかし,「イメージ情報」の意義に関する本件明細書(甲6-3)中の記載は,「なお,上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可との記載のみであり,ここでイメージ情報の具体 能である。……」(段落【0033】)例として挙げられているのは「マーク」すなわち「記号」である。そして,引用例には,施設に対してメモ情報のほかに記号を関連付けることが開示されて「前記文字情報と共に利用者のイメ-ジ情報を当該対象 いるのであるから,本件発明3のという構成は,引用例にも明示されているというこ物の関連情報として付加できる」とができる。したがって,記号等のイメージ情報を付加することに当業者が格別の推考力を要したとは認められず,本件発明3は,引用発明に基づいて甲4公報を参酌することにより当業者であれば容易に想到し得るとした本件審決の判断に誤りはない。
9 取消事由8について本件発明4は,本件発明1〜3の「コンピュータシステム」が,受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステムであることを特定するものである。
「本発明は,地図情報表示装置に関し,例えばナビゲーション装 引用例(甲1)には,と記載されており,ナビゲーション置に用いて好適なものである。」(段落【0001】)装置が「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」に相当することは自明であるから,本件審決が,上記特定事項は引用例が備えている事項であり,本件発明4に進歩性は認められないと判断したことに,誤りはない。
10 結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉