関連審決 | 不服2002-20192 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10550審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10203審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10452審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10281審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10445審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 周知技術 / 技術常識 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 発明の範囲 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10629号
審決取消請求事件
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原告 株式会社東芝 訴訟代理人弁理士 須山佐一 同須山英明 同堀口浩 同原拓実 同小林幹雄 同村井賢郎 同小柴亮典 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 綿谷晶廣 同 吉水純子 同柳和子 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/06/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2002-20192号事件について平成17年7月5日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成7年3月8日,発明の名称を「はんだ合金およびそれを用いたはんだ付け方法」とする発明につき,特許出願(特願平7-48409号。以下「本願」という。)をし,平成14年7月22日付け手続補正書をもって,明細書の特許請求の範囲の補正をした(以下,この補正後の明細書を図面を含め「本願明細書」という。)が,同年9月17日,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をした。 特許庁は,これを不服2002-20192号事件として審理し,その結果,平成17年7月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲は,請求項1ないし6から成り,その請求項1,2の記載は次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」,請求項2に係る発明を「本願発明2」という。)。 【請求項1】 亜鉛を3〜12重量%含有し,残部が実質的に錫からなり,酸素含有量が100ppm以下であることを特徴とするはんだ合金。 【請求項2】 亜鉛を3〜12重量%,アンチモン,インジウム,金,銀,および銅から選ばれる少なくとも1種を3重量%以下含有し,残部が実質的に錫からなり,酸素含有量が100ppm以下であることを特徴とするはんだ合金。 3 本件審決の内容本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明1,2は,特開平6-344181号公報(甲7。以下「刊行物1」という。)に記載された発明と,特開昭60-206596号公報(甲8。以下「刊行物2」という。),特開平2-175094号公報(甲6。以下「刊行物3」という。)記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願は拒絶を免れないというものである。 本件審決は,刊行物1に,次のとおりの「刊行物1発明」及び「刊行物1インジウム発明」が記載されているとした上で,本願発明1と刊行物1発明を,本願発明2と刊行物1インジウム発明をそれぞれ対比して,一致点及び相違点を,次のとおり認定した。 (1) 本願発明1と刊行物1発明との対比(刊行物1発明の内容)亜鉛を9重量%含有し,残部が実質的に錫からなるはんだ合金。 (一致点)「亜鉛を9重量%含有し,残部が実質的に錫からなるはんだ合金」である点。 (相違点)本願発明1は酸素含有量が100ppm以下であるのに対して,刊行物1発明は酸素含有量が規定されない点。 (2) 本願発明2と刊行物1インジウム発明との対比(刊行物1インジウム発明の内容)亜鉛を6〜10重量%,インジウムを3〜10重量%含有し,残部が実質的に錫からなるはんだ合金。 (一致点)「亜鉛を6〜10重量%,インジウムを3重量%含有し,残部が実質的に錫からなるはんだ合金」である点。 (相違点)本願発明2は,酸素含有量が100ppm以下であるのに対して,刊行物1インジウム発明は酸素含有量が規定されない点。 |
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当事者の主張
1 原告主張の本件審決の取消事由本件審決が認定した刊行物1発明の内容,本願発明1と刊行物1発明の一致点及び相違点,刊行物1インジウム発明の内容,本願発明2と刊行物1インジウム発明の一致点及び相違点は認める。 しかし,本件審決は,本願発明1と刊行物1発明の相違点の判断を誤り(取消事由1),本願発明2と刊行物1インジウム発明の相違点の判断を誤った結果(取消事由2),本願発明1,2の進歩性を否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。 (1) 取消事由1(本願発明1と刊行物1発明の相違点の判断の誤り)ア 本件審決は,「本願発明1における「はんだ合金の脆化」とは,具体的には「合金内のボイド数」及び「はんだ接合のシェア強度」により評価される,「接合強度の低下」現象であるといえる。」(審決書4頁30行〜33行)と認定している。 しかし,「はんだ合金の脆化」は,はんだ合金そのものが脆くなる現象であり,単純に合金内のボイド数の増加だけの原因で惹き起こされるものではなく,異種材料界面,結晶粒界,転位等が複雑に関係して生じる現象である。また,接合強度は,はんだ合金自体の脆化によって変化し得るものであるが,それ以外に,はんだ合金と被接合体との境界部における接着力等の他の要因によっても変化するものであり(例えば,被接合体とはんだ合金との境界部にボイド等の空隙が存在し,接合面積に対して実際に被接合体とはんだ合金が接触する面積が小さい場合や,被接合体とはんだ合金のぬれ性が極めて低い場合等),「はんだの脆化」と「接合強度の低下」とは関連するものではあるが,全ての条件下において「はんだ合金の脆化」が「接合強度の低下」を示すものではない。 したがって,本件審決の上記認定は誤りである。 イ 本件審決は,刊行物2の記載に基づいて,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であったといえる。」(審決書5頁24行〜26行)と判断している。 (ア) Pb(鉛)基合金では,酸化物がボイド発生の原因になり,それがぬれ不良やガス発生をもたらして気密封止を不完全にしたり,熱伝導性の低下をもたらす原因となるが,Pb基合金の酸素含有量は,通常でも21.3〜42.5ppm程度の低い値の範囲にとどまっている。 一方,Sn(錫)-Zn(亜鉛)合金の成分元素であるZnは,非常に高い酸化性を備えており,このため市販のファイブ9(99.999%)の高純度亜鉛粉末では0.42%(4200ppm),通常の高純度亜鉛粉末では2.00%(20000ppm)もの多量の酸素を含有している(甲16)。 したがって,本願発明1のはんだ合金における酸素含有量の「100ppm以下」は,4200〜20000ppmの酸素含有量を脱酸により元の値の40分の1〜200分の1にしたものであるのに対し,刊行物2(甲8)のPb基合金における「1ppm以上20ppm以下」(特許請求の範囲)の酸素含有量は,21.3〜42.5ppm程度の酸素含有量を脱酸により元の値の95%程度〜40分の1程度にしたにすぎない。 本願発明1のSn-Zn合金とPb基合金の酸素含有量が同じく100ppm以下であるとしても,両者は,その製造プロセス及び含有酸素のはんだ合金に与える影響が全く異なるものである。 (イ) Sn-Zn合金では,含有酸素が合金内部まで拡散して合金内に析出したZnや溶解しているZn原子を酸化するのに対し,Pb基合金では,専ら合金の表面で酸化が行われる。 このような酸素の結合状態の違いから予想されることは,Sn-Zn合金では酸素が合金の性質そのものに対する影響であり,Pb基合金の場合には表面状態に対する影響である。実際に,Sn-Zn合金では,酸素含有量が合金の「脆さ」に影響を与えており,Pb基合金では,「脆さ」にはさほど影響はなく,専ら表面の性質であるぬれ性やボイド(マクロボイド)に影響が現れている。 Sn-Pb合金のボイドは,刊行物2に記載されたとおり,はんだ付けの際の酸化物からのガス発生に起因するものであるが,Sn-Zn合金では酸素がZn原子と強く結合しているため,ガス発生によるボイドの生成はない。Sn-Zn合金に生成するボイドは,原子の拡散速度の差に由来するカーケンダルボイドであり,ガス発生に由来するものではない(甲17)。 要するに,Sn-Zn合金では,Znの反応性がPbに比べて著しく大きいことから,酸素に対する反応のメカニズムや反応生成物がPb基合金とSn-Zn合金との間で相違することが推測されるし,Sn-Zn合金でのみ溶存酸素が合金の脆化に影響を与えるという,Sn-Pb合金では発生しない新たな現象が生じるから,Pb基合金に対する酸素の影響からSn-Zn系に対するそれを予測することは,当業者にとっての予測可能性の範囲を超えていたものと考えられる。 なお,Sn-Zn合金の酸化による脆化は,他のSn基合金に比べて特異なその組織も関係するものと考えられる。すなわち,「錫-鉛合金,錫-ビスマス合金,錫-インジウム合金」などのSn-Zn合金以外のSn基合金は,状態図(甲19)に示されるように,固溶量の多い元素の組合せとなっているに対し,Sn―Zn合金では,本願明細書の第1図(甲2)に示すように,ほとんど固溶しない元素の組合せとなっており,このように,酸素と結合性の高いZn相が存在する系では,高い濃度で固溶する酸素がZn相表面に影響を与えて応力を発生させ,その結果として合金の脆化を推進させることが考えられる。 (ウ) Sn-Zn合金では,Znが合金内で針状の結晶を形成し,この針状のZn結晶が高い酸化性を有するため合金内で酸素と結合して合金そのものを脆くするのに対し,Sn-Pb合金では,霜降り状にSn-Pb結晶を形成するため,酸化によるSn-Pb合金の脆化は起こらない。脆化は,はんだ合金そのものが脆くなる現象であるのに対し,接合強度は,接合部のバルク部分の破断強度と接合界面の剥離強度の合成された接合部全体の引っ張りに対する強度であって,脆化,ぬれ性の低下,ボイドの形成等により低下するものであり,合金組織上は全く異なる変化である。 (エ) したがって,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であった」との本件審決の上記判断は誤りである。 ウ 本件審決は,「刊行物3にも,Sn-Pb系を基本とはするが,はんだ組成にはよらずに,酸素量がはんだボールの発生,及び接合強度の低下に影響することが示されているといえる。」(審決書5頁31行〜33行)と判断している。 しかし,Znの高い酸化性から,Sn―Zn系はんだ合金では,合金に含有された酸素は,成分元素のZn表面に吸着されて酸化膜を形成し,さらにこの酸化膜やZn中をすり抜けて拡散反応が進行して厚い酸化物層を形成するのに対し(甲16),Pb基合金では,専ら,大気との接触界面である,はんだ粉末の表面で酸化反応が行われて合金表面に酸化膜が形成される。要するに,Sn-Zn合金では,含有酸素が合金内部まで拡散して合金内に析出したZnや溶解しているZn原子を酸化するのに対して,Pb基合金では,専ら合金の表面で酸化が行われる。 また,本願発明1は,固溶酸素の含有量を問題にするのに対し,刊行物3記載の発明は,フラックスに酸化防止剤の「脂肪酸アミン化合物」を混合してはんだ粉末の表面酸化を防ぐというものであるから,そもそも本願発明1と解決課題が相違している。 さらに,刊行物3には,酸化されたはんだ粉末がはんだボールの発生に影響を与えることは記載されているが,酸素がはんだ合金の接合強度の低下に影響を与えることすら開示されていないし,仮に接合強度の低下が生じるとしても,これは脆化によるものではなく,被接合体とはんだ合金との境界部における接着力の低下によるものと考えられる。 したがって,本件審決の上記判断も誤りである。 エ 本件審決は,「Pb系に限らず,Sn系のはんだ合金であっても,合金中の酸素含有量がぬれ不良によるはんだボールの発生や接合強度の低下に影響を及ぼすことは,当業者が容易に想到し得たことであったといえるから,刊行物1発明におけるPbを含まないSn-Znはんだ合金においても,はんだボールの発生,接合強度の低下を抑制するために,その合金中の酸素含有量に着目し,所定の接合強度を得るべくその量について検討し,刊行物2記載の数値範囲と重複する100ppm以下とすることに,格別の創意工夫を要したものとはいえない。」(審決書6頁5行〜12行)と判断している。 しかし,前述したとおり,Sn―Zn系はんだ合金は,Znの酸化性が非常に大きく,通常でも4200〜20000ppmもの多量の酸素を含有し,かつ酸化のメカニズムも表面の酸化にとどまらず内部に拡散して合金内部のZn原子を酸化しているのに対し,Pb基合金では,脱酸しない状態でも本願発明1の規定する酸素含有量の範囲内である21.3〜42.5ppm程度の酸素含有量であり,かつその酸化は専ら合金表面で行われている。両者は,通常の状態における酸素含有量,酸化のメカニズム,合金組織,ボイドの成因が著しく相違しており,したがって同量の酸素含有量であっても,その酸素含有量に到達させるためのプロセス及び含有酸素のはんだ合金に対する酸素の影響は,著しく相違している。 このように,両者間には技術の類似性がほとんどないにもかかわらず,単に両者の酸素含有量が重複する範囲に制限されている点にのみ着目して,刊行物1発明において,「刊行物2記載の数値範囲と重複する100ppm以下とすることに,格別の創意工夫を要したものとはいえない。」とした本件審決の上記判断は誤りである。 そして,刊行物2は,Sn-Pb系合金における専ら酸素の気体としての性質に由来するガス欠陥としてのボイドの問題の解決を図っているのに対し,刊行物1は,Pbを含まない融解温度の低いはんだを提供することを目的としており,また,本願発明1は反応性の高いZnと固溶酸素の反応に起因する脆化を抑制するというSn-Zn合金特有の問題を解決したはんだ合金の提供を目的とするものであって,いずれも解決課題が相違する。 したがって,刊行物2の技術を刊行物1発明に適用して,相違点に係る本願発明1の構成に想到することは,格別の相違工夫なくしてはなし得ないものであるから,本件審決の上記判断は誤りである。 (2) 取消事由2(本願発明2と刊行物1インジウム発明の相違点の判断の誤り)本件審決は,「上記本願発明1についてと同様の理由により,本願発明2も刊行物1,2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものといえる。」(審決書6頁17行〜19行)と判断している。 しかし,上記(1)から明らかなとおり,相違点に係る本願発明2の構成は,刊行物1,2の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものではないから,本件審決の上記判断は誤りである。 2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア 「はんだ合金の脆さ」については,間接的にせよ,「ボイド体積」や「シェア強度」(「接合強度」と同じ)の指標で評価できるものであり,実際,原告は,本願の審査時に特許庁に提出した平成14年8月12日付け上申書(甲11)において,上記指標を用いて「はんだ合金の脆さ」を評価しているのであるから,本件審決が,本願発明1における「はんだ合金の脆さ」を上記指標で評価されるものと認定した上で,刊行物2や周知技術に示されるところの酸素含有量と「ボイドの発生」や「接着強度の低下」との関係から,本願発明1の容易想到性を判断したことに何ら問題はない。 また,仮に本件審決の「はんだ合金の脆化」の技術的意味の認定に原告が主張する誤りがあるとしても,そのことは審決の結論に何ら影響を及ぼすものではない。 イ はんだ合金中の酸素の結合状態が合金中の金属種によって異なるとしても,はんだ合金に含まれる酸素は,はんだ合金に要求される特性(ボイドの発生が少ないこと,ぬれ性が大きいこと,接合強度が大きいこと等)の低下に関与し,上記特性の低下防止のため,はんだ合金中の「酸素」含有量を低減化することが求められていたことは,本願出願当時,公知ないし周知の事項であった(甲8,乙1,2)。 そして,刊行物1発明のSn-Zn系はんだ合金においても,はんだ合金は接合用の合金であるから,「接合強度の向上」が求められることは当然の課題であるところ,Pb基はんだ合金に限らずSn基はんだ合金やZn含有ろう合金(乙1ないし3)においても,「ボイド発生の抑制」,「ぬれ性の向上」,「接合強度の向上」のために酸素含有量を低減化することが求められていたことも,本願出願当時周知の事項であった。 ウ(ア) ZnはPbより易酸化性金属であるため,もしSn-Zn合金及びSn-Pb合金に同じような脱酸操作を施した場合には,Sn-Zn合金の酸素含有量がSn-Pb合金を上回ることは自明であり,同程度の酸素含有量にしようとすれば,Sn-Zn合金に対してより強度の脱酸操作を行う必要があることも明らかであるものの,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,Sn-Zn合金の酸素含有量を100ppm以下とするための「脱酸操作」を発明の特定事項としているわけではなく,本願発明1は,どのような脱酸操作を経たものであれ,「Sn-Zn合金の酸素含有量が100ppm以下である」合金自体の発明である。 また,本願明細書(甲2)の記載によると,本願発明1はSn-Zn系はんだ合金の酸素含有量を100ppm以下の数値とすること自体が解決すべき課題ではなく,「はんだ合金の脆化」の抑制という課題解決のためにはんだ合金の酸素含有量を規定したものであり,しかも,本願明細書には,酸素含有量と「脆化」抑制との関係について,「酸素ははんだ合金を脆くするおそれがある」(段落【0017】)と記載されているのみで,酸素含有量の低減化による具体的な「脆化」抑制効果が示されているわけではない。 さらに,Sn-Zn合金における酸素含有量を100ppm以下とすることが,本願出願当時不可能であったとか,著しく困難であったことの立証はない。 (イ) 本願発明1における酸素含有量の低減化による脆化抑制の効果は,刊行物2に示唆されているから,本願発明1の効果に関しても,刊行物2の記載及び技術常識(乙1,2等)から予測される範囲内のものである。 エ そして,本願発明1は,同様の課題解決に有効とされる刊行物2記載のSn基はんだ合金中の酸素含有量や,周知技術(乙2)におけるZn含有ろう合金中の酸素含有量と同程度の数値範囲としたものであるから,そのような数値範囲の限定は,当業者が容易になし得る設計的事項であるにすぎないというべきである。 そうすると,刊行物1発明のSn-Zn系はんだ合金において,「ボイドの成長」及び「シェア強度」により評価される「接合強度の低下」現象といえる「はんだ合金の脆化」の抑制のために酸素含有量を低減化し,低減化の程度を刊行物2又は乙2に示される範囲と重複する100ppm以下(相違点に係る本願発明1の構成)とすることは,刊行物2の記載及び周知事項(乙2)に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるから,本件審決の判断に原告主張の誤りはない。 (2) 取消事由2に対し前記(1)で述べたのと同様の理由により,本願発明2も刊行物1,2の記載及び周知事項に基づいて,相違点に係る本願発明2の構成を当業者が容易に想到することができたものであるから,本件審決の判断に原告主張の誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明1と刊行物1発明の相違点の判断の誤り)について(1) 原告は,本件審決が,「本願発明1における「はんだ合金の脆化」とは,具体的には「合金内のボイド数」及び「はんだ接合のシェア強度」により評価される,「接合強度の低下」現象であるといえる。」(審決書4頁30行〜33行)と認定したのは誤りであると主張する。 ア(ア) 本願明細書(甲2)には,次の記載がある。 @ 「【発明が解決しようとする課題】上述したように,鉛を含むはんだ合金を多量に使用した廃電子機器等を処理する際には,鉛を回収した後に処理することを義務付ける方向に進んでいることから,環境等に対して悪影響を及す鉛を用いないはんだ合金の開発が望まれている。鉛を用いないはんだ合金は一部で実用化されているものの,鉛-錫系はんだ合金に匹敵するようなはんだ付け性や耐侯性等は実現されていない。」(段落【0007】),「このようなことから,環境等に対して悪影響を及ぼすことがなく,かつ鉛-錫系はんだ合金に匹敵するようなはんだ付け性や耐侯性等を有するはんだ合金が強く求められている。」(段落【0008】),「本発明は,このような課題に対処するためになされたもので,環境等に対して悪影響を及す鉛を使用することなく,例えばはんだ付けに際して必要とされる条件を満足させたはんだ合金,およびそれを用いたはんだ付け方法を提供することを目的としている。」(段落【0009】)A 「ここで,はんだ合金に要求される特性は,(1)ぬれ性に優れること,(2)はんだ接続する機器に熱損傷等を与えない温度ではんだ付け可能である,すなわち融点が473K前後であること,(3)母材との反応により脆い金属間化合物や脆化層を形成しないこと,(4)自動化に適用可能な供給形態(ペーストや粉末等)がとれること,(5)はんだ合金に含まれる金属成分の酸化物がぬれ不良,ボイド,ブリッジ等の欠陥の発生原因とならないこと,等である。」(段落【0012】)B 「また,本発明のはんだ合金は,例えば酸素,窒素,水素等の不可避の不純物を少量含んでいても特に問題はないか,特に酸素ははんだ合金を脆くするおそれがあるため,その含有量は100ppm以下とする。」(段落【0017】)C 「【表1】表1から明らかなように,各実施例のはんだ合金は,低融点を有していると共に,ぬれ性についても従来の鉛-錫系はんだ合金と同様に良好であり,優れたはんだ付け性を有している。また,長時間の使用にも脆化等の性質の変化は見られず,従来の鉛-錫系はんだ合金と同様に,優れた耐候性を有している。これに対して,鉛-錫系はんだ合金は,従来から多量に使用されているように,低融点を有していると共に,ぬれ性や耐候性に優れているものの,鉛の毒性が環境等に対しても問題となる。」(段落【0025】)D 「【発明の効果】以上説明したように,本発明のはんだ合金は,低融点で,ぬれ性や耐候性に優れると共に,有害な鉛を含まずに環境安全性等に優れるものである。従って,環境等に対して悪影響を及すことがなく,かつはんだ付けに際して必要とされる条件を満足させたはんだ合金を安価に提供することが可能となる。」(段落【0026】)E 【表1】には,実施例1〜8のZn(亜鉛)-Sn(錫)系はんだ合金,比較例のPb(鉛)-Sn(錫)はんだ合金について,融点,ぬれ性,耐候性,安全性の項目別の「特性評価結果」が記載されており,実施例1(Zn9重量%を含有し,酸素濃度20ppmの合金),実施例2(Zn5重量%を含有し,酸素濃度32ppmの合金),実施例4(Zn10重量%とインジウム(In)2重量%を含有し,酸素濃度18ppmの合金)は,それぞれ融点が471K,486K,484Kで,ぬれ性等の特性評価結果はいずれの合金もすべて良好と記載され,一方,比較例1(Pb37重量%を含有し,酸素濃度121ppmの合金)は,融点が456Kで,ぬれ性及び耐候性は,良好であるが,安全性は不良と記載されている。 (イ) 本願明細書の上記各記載からは,不可避不純物である酸素がはんだ合金を脆くするおそれがあること(上記(ア)B),本願発明1のはんだ合金においては,酸素含有量を所定値以下(100ppm以下)に規定したことにより,はんだ付け後の「ぬれ性」及び「耐候性」が良好であり,長時間の使用にも「脆化」等の性質の変化はみられないこと(同C,E)が認められるものの,それ以上に「はんだ合金の脆化」の具体的内容を理解することは困難である。 イ 一方,原告が本願の審査の過程において特許庁に提出した平成14年8月12日付け上申書(甲11)中には,@「(1) 出願人は,・・・「請求項の規定にある,酸素含有量が100ppm以下であることによって,合金の脆化が改善されることが,錫-亜鉛系はんだ合金において特有の効果である」点を示すための実験成績証明書を3週間以内に提出する旨,申し述べておりましたが,この度,・・・実験成績証明書として提出させて頂きます。」,A「(2) 提出させていただく実験成績証明書は,・・・酸素含有量の異なるはんだ合金のソルダーペーストを用いて形成したはんだ接合について,はんだ内のボイドの状態及びシェア強度を測定した結果をまとめたものであります。」,B「(3) 実験成績証明書のグラフによりますと,錫-亜鉛はんだ合金において,合金はんだ合金の酸素含有量が増加するに従って平均ボイド体積が大きくなり,特に酸素含有量100ppm前後においてボイドが急激に成長することが示されています。また,これと共にシェア強度も急激に減少し合金が脆くなることが示されています。」,C「(4)・・・実験結果によりますと,錫-亜鉛系はんだ合金は,はんだ合金の酸素含有量が100ppm以下である時に,はんだ接合した合金のボイドの成長抑制及び合金の脆化抑制を特異的に示し,これらの規定による特有の効果であることが明らかです。このため,本願発明においては,錫-亜鉛系はんだ合金の酸素含有量を100ppm以下と規定したものであります。」との記載がある。 これらの記載によれば,甲11の実験は,「はんだ接合のシェア強度」が急激に低下したことをもって「はんだ合金の脆化」が生じたと評価し,シェア強度の変化と「はんだ合金内に生じるボイド」の体積増加(ボイドの成長)とを関連付けることによって,酸素含有量が増加するに従い,ボイド体積が増加し,これと共にシェア強度が低下し,合金が脆くなると結論づけているものと認められ,また,「はんだ合金内に生じたボイド」は,「ボイド数」により評価できるものであり,「シェア強度」は「接合強度」に相当するものと認められる。 ウ 以上によれば,本件審決が,本願発明1における酸素含有量の特定は「はんだ合金の脆化」を抑制するためであるととらえた上で,本願明細書には,「はんだ合金の脆化」とは具体的にどのような現象であるのか記載されていないので,甲11を参酌して,「本願発明1における「はんだ合金の脆化」とは,具体的には「合金内のボイド数」及び「はんだ接合のシェア強度」により評価される,「接合強度の低下」現象であるといえる。」と認定したこと(審決書4頁18行〜33行)は是認できるものであって,上記認定の誤りをいう原告の主張は採用することができない。 (2) 原告は,本件審決が,刊行物2の記載に基づいて,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であったといえる。」(審決書5頁24行〜26行)と判断したのは誤りであると主張し,Sn―Zn合金とPb基合金とは,通常の状態における酸素含有量,酸化のメカニズム,ボイドの成因,合金組織などの点で相違する旨縷々主張する。 ア(ア) 刊行物2(甲8)には,次のとおりの記載がある。 @ 「特許請求の範囲」として,「(1) SnおよびInのうちの1種または2種:1〜65%を含有し,残りがPbと・・・不可避不純物としての酸素の含有量を1ppm以上20ppm未満として,気密封止性と熱伝導性を向上させたことを特徴とする半導体装置Pb合金ろう材。」(1頁左下欄)A 「シリコンチップをキャビティ底部へろう付けするに際しては,・・・ろう材中のボイド(空孔)の発生量が変化し,ボイドが多発する場合には,シリコンチップの接合強度が低下するばかりでなく,ろう材の熱伝導性も低下して・・・ICの信頼性が損なわれることになり,また,封着板4とセラミックケース1とのろう付けに際しても,ボイドが多発する場合には,・・・ICセラミック・パッケージの気密封止性に支障を来たし,・・・」(1頁右下欄17行〜2頁左上欄9行),「そこで,本発明者は,・・・安価でしかも信頼性の高い,すなわち上述のボイドを多発しないPb合金ろう材を得べく,鋭意研究を重ねた結果,まず第1に,ろう材中の酸化物がぬれ性に対する大きな阻害要因になっていることを見出し,この酸化物を低減させることがボイドの発生を抑制する上できわめて効果的であるという知見を得ると共に,第2に,ろう材中にその酸化物以外に固溶した状態で存在する酸素自体もガス欠陥を引き起こすばかりでなく,その固溶量が多いと,ろう付け雰囲気において容易に酸化物を形成し,それがボイドの発生を招くという知見を得,また,上記の酸化物と固溶酸素の量は,ろう材中の全酸素量の形で,まとめて表わすことができることもわかった。」(2頁右上欄3行〜17行)B 「(c)不可避不純物としての酸素」として,「通常の溶解鋳造圧延法によって製造されたろう材中には酸素が20ppm以上含まれており,このように酸素量が多いと,酸化物が内圧したり,固溶酸素が多量に存在することになって,ろう付け時のぬれ不良やガス発生を招来してボイドを発生させ,その結果封着板とセラミックケースとの間の気密封止が不完全になったり,あるいはシリコンチップとセラミックケース間の熱伝導性が低下してIC作動時にシリコンチップから発生する熱の放散を妨げて,ICの作動を不良にする原因ともなる。したがって,これらの酸素による悪影響が現われないようにするためには,不可避不純物としての酸素の含有量を20ppm未満としてボイドの発生要因を除去しておく必要があり・・・」(2頁右下欄13行〜3頁左上欄7行)C 「第1表および第2表に示される結果から,従来Pb合金ろう材1〜2は,SnまたはInの含有量がこの発明の範囲から外れているため,接着強度が低く,同3〜12は,Sn,InまたはAgの含有量がこの発明の範囲内に入つているものの,酸素含有量が多いため,ボイドの多発を招き,その結果接着強度も弱く,かつ気密封止性も不良となって信頼性に欠けると共に,全体として熱伝導性も低下しているのに対し,本発明Pb合金ろう材1〜12は,すぐれた接着強度を示すと共に,ろう材中の酸素量が1ppm以上20ppm未満のためボイド数は高々10個程度であり,その結果良好な気密封止性と熱伝導性を示していることがわかる。」(3頁右上欄20行〜4頁左下欄13行)D 第1表,第2表には,Pbを主成分とするPb基合金と並んで,Snを主成分とするもの(第1表のろう材4,第2表のろう材5)やInを主成分とするもの(第1表のろう材8,第2表のろう材8)についても,酸素含有量が少ない場合と多い場合との対比が示されており,それらはPb基合金と同様に酸素含有量の少ない場合の方が多い場合よりもボイド数が抑制され,強い接合強度が得られることが示されている。 (イ) 上記各記載によれば,刊行物2には,Pb基合金,Pbを含むSn基合金,Pbを含むIn基合金において,酸素は不可避不純物であるという認識の下に,はんだ合金中の酸化物と固溶酸素がろう付け時にボイド発生を招き,ぬれ性の低下,接合強度の低下を引き起こすという課題解決のため,はんだ合金中の酸素含有量を1ppm以上20ppm未満に低減化することにより,ボイド数を低減し,ぬれ性を向上させ,接合強度を改善する技術が開示されているものと認められる。 (ウ) 次に,本件審決が本願出願当時の技術水準を示すものとして引用(審決書5頁34行〜6頁4行)する特開平6-142975号公報(乙1)には,「ハンダ粒子1,1'の表面にPbOやSnO などXXによる酸化膜4が形成され,ハンダ溶融時にこれらのPbOやSnOなどの酸化膜4が,配線パターン3へのハンダ濡れを悪くする。」(段落【0018】),「還元処理されたハンダ粒子1を用いれば,ハンダ粒子1に存在する酸化物のハンダ粒子に対する相対的な量が減少し,配線パターン上へのハンダ濡れ性はさらによくなる。」(段落【0020】),「Pb-Sn系のハンダに限らず・・・Sn-Sb系のような類系にも適用できるのはいうまでもない。」(段落【0031】)との記載があり,上記記載によれば,Pb基合金に限らずSn-Sb系のような類系のはんだ合金においても,酸化物がぬれ性を低下させることが開示されているものと認められる。 (エ) 以上の(イ)及び(ウ)を総合すれば,本願出願当時,Pb基合金に限らず,Sn基合金,In基合金やSn-Sb系のような類系のはんだ合金においても,はんだ付け時のぬれ性の低下を防止し,ボイド生成を抑制し,接合強度を改善するため,はんだ合金中の酸素含有量を低減させることは公知であったものと認められるから,本件審決が,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であったといえる。」と判断したことに誤りはないというべきである。 イ これに対し原告は,Sn―Zn合金とPb基合金とは,通常の状態における酸素含有量,酸化のメカニズム,ボイドの成因,合金組織などの点で相違するものであるから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。 しかし,刊行物2及び乙1には,前記のとおり,はんだ合金中の酸素含有量がぬれ性の低下,ボイドの成因,接合強度の低下と関係することはPb基合金に特有のものでないことが開示されているところ,Sn―Zn合金とPb基合金とで,通常の状態における酸素含有量に違いがあり,Sn-Zn系はんだ合金において酸素含有量を低減するために特別の脱酸処理が必要となるとしても,その低減化を実現することが技術的に困難であったと認めるに足りる証拠はないし,また,本願明細書(甲2)には,原告が主張するような合金の種類による酸化のメカニズムの違い,ボイドの成因,合金組織と脆化との関係について言及した記載はなく,本願出願当時,原告が主張するそれらの差異や関係が当業者に自明のことであったと認めるに足りる証拠もないのであるから,刊行物2及び乙1に開示された,はんだ合金中の酸素含有量がぬれ性の低下,ボイドの生成,接合強度の低下と関係するとの知見が,Sn―Zn合金については当てはまらないと理解すべき事情はないのであって,本願出願当時,乙1に示される技術水準の下で,刊行物2に接した当業者は,そこに開示された事項から,Pb基合金に限らずSn―Zn合金その他の合金においても,合金中の酸素が接合強度の低下等に関与していることを理解するということができる。 したがって,仮にPb基合金とSn―Zn合金との間に,原告主張のような相違があるとしても,そのことは,本願出願当時,Pb基合金かどうかにかかわらず,はんだ合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることが公知の事項であったと判断することの妨げとなるものでないことは明らかであり,本件審決の上記判断の誤りをいう原告の主張は採用することができない。 (3) 原告は,本件審決が,「Pb系に限らず,Sn系のはんだ合金であっても,合金中の酸素含有量がぬれ不良によるはんだボールの発生や接合強度の低下に影響を及ぼすことは,当業者が容易に想到し得たことであったといえるから,刊行物1発明におけるPbを含まないSn-Znはんだ合金においても,はんだボールの発生,接合強度の低下を抑制するために,その合金中の酸素含有量に着目し,所定の接合強度を得るべくその量について検討し,刊行物2記載の数値範囲と重複する100ppm以下とすることに,格別の創意工夫を要したものとはいえない。」(審決書6頁5行〜12行)と判断したのは誤りであると主張する。 ア しかしながら,前記(2)ア(エ)のとおり,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であった」ものであり,本願出願当時,当業者としては,はんだ合金において,Pbを含むか否かにかかわらず,はんだ合金の接合強度を改善するために,合金の不可避不純物である酸素含有量を可能な限り低減化させる必要があることは,容易に理解し得ることであったところ,接合用のはんだ合金において,その接合強度の改善を図ることは当然の技術目標であることはいうまでもないから,当業者であれば,刊行物1発明のSn-Znはんだ合金においても,その接合強度を改善するために,酸素含有量を可能な限り低減化しようとすることは,容易に思いつくことであるといえる。 そして,前記のとおり,刊行物2には,Pb基合金,Pbを含むSn基合金等において,はんだ合金中の酸素含有量を1ppm以上20ppm未満に低減化することにより,ボイド数を低減し,ぬれ性を向上させ,接合強度を改善する技術が開示されているのであり,また,本願出願当時,Sn―Znはんだ合金における酸素含有量の低減化が他のはんだ合金に比べて特に技術的に困難であったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,刊行物1発明のSn-Znはんだ合金において,不可避不純物である酸素含有量を可能な限り低減化させるという課題の下に,それを100ppm以下(相違点に係る本願発明1の構成)とすることは,当業者であれば,コストや合金性能などを勘案しながら適宜なし得た事項であると認められる。また,本願明細書(甲2)を検討しても,本願発明1において酸素含有量を100ppm以下と特定したことに特段の臨界的意義は認められない。 したがって,刊行物1発明において,「刊行物2記載の数値範囲と重複する100ppm以下とすることは格別の創意工夫を要したものとはいえない。」とした本件審決の判断は,結論において誤りはないというべきであり,相違点1に係る本願発明1の構成は,当業者において容易に想到し得たものということができる。 イ(ア) これに対し原告は,Sn―Zn合金とPb基合金とは,通常の状態における酸素含有量が著しく相違しており,同量の酸素含有量であっても,その酸素含有量に到達させるためのプロセス等が著しく相違している旨主張する。 しかしながら,本願発明1は,酸素含有量を100ppm以下に規定したSn-Znはんだ合金の発明であり,酸素含有量を100ppm以下とするための製造プロセス等を発明の特定事項としているものではないし,刊行物2から把握されるのも,前記のとおり,接合強度を改善するために,はんだ合金中の酸素含有量を1ppm以上20ppm未満に低減するという技術的思想であって,酸素含有量を低減させる処理方法そのものではないのであり,また,前記のとおり,Sn-Znはんだ合金において酸素含有量を低減するために特別の脱酸処理が必要となるとしても,その低減化を実現することが技術的に困難であったと認めるに足りる証拠はないのであるから,原告主張のような相違があることは,相違点1に係る本願発明1の構成が当業者において容易に想到し得たものであるとの前記判断を妨げるものではない。 (イ) また,原告は,上記酸素含有量のほか,Sn―Zn合金とPb基合金とは,酸化のメカニズム,合金組織,ボイドの成因が著しく相違するなど,技術の類似性がほとんどない旨主張する。 しかしながら,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であった」ものであり,本願出願当時,Sn―Znはんだ合金における酸素含有量の低減化が他のはんだ合金に比べて特に技術的に困難であったと認められないことは,前記のとおりであるから,仮に原告主張のような相違があるとしても,そのことは,相違点1に係る本願発明1の構成が当業者において容易に想到し得たものであるとの前記判断を妨げるものではない。 (ウ) さらに,原告は,刊行物2は,Sn-Pb合金における専ら酸素の気体としての性質に由来するガス欠陥としてのボイドの問題の解決を図っているのに対し,刊行物1は,Pbを含まない融解温度の低いはんだを提供することを目的としており,また,本願発明1は反応性の高いZnと固溶酸素の反応に起因する脆化を抑制するというSn-Zn合金特有の問題を解決したはんだ合金の提供を目的とするものであって,いずれも解決課題が相違するから,刊行物2の技術を刊行物1発明に適用することは容易ではない旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,「Pb基合金か,そうでないかに拘わらず,合金中の酸素含有量がボイドの発生,及び接合強度の低下に影響していることは,公知の事項であった」ものであり,刊行物1発明においても,その接合強度の改善を図ることは当然の技術目標であるから,刊行物1発明に刊行物2記載の前記技術事項を適用して,不可避不純物である酸素含有量を可能な限り低減化させて,接合強度の改善を図ることには十分な動機付けがあるものであって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ なお,原告は,本件審決が刊行物3を引用したことの誤りを主張するが,既に検討したとおり,相違点に係る本願発明1の構成は,刊行物3を用いるまでもなく,刊行物1及び2に基づいて容易に想到し得るものであるから,原告の上記主張は,本件審決の結論に影響しない点を非難するものといわざるを得ない。 (4) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本願発明2と刊行物1インジウム発明の相違点の判断の誤り)について前記1で検討したとおり,原告主張の取消事由1は理由がなく,本願発明1は,刊行物1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願発明2について検討するまでもなく,本願を拒絶すべきものとした本件審決に誤りはない。 なお,本件審決は,本願発明2についても本願発明1と同様の理由により進歩性を否定しており,原告は,取消事由1と同様の理由により,本件審決の上記判断の誤りを主張するが(取消事由2),前記1で説示したのと同様の理由により,本願発明2についての本件審決の判断に誤りはない。したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。 3結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 嶋末和秀 |