関連審決 | 無効2011-800174 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22行ケ10389審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10130審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10257審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24行ケ10174審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10337審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10133号
審決取消請求事件
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原告 株式会社ブルーアンドピンク 訴訟代理人弁護士 岩井泉 同 鶴由貴 同 關健一 訴訟代理人弁理士 蔦田正人 被告Y 訴訟代理人弁護士 橋順一 同 兼松 由理子 同 向宣明 同 林田敏幸 訴訟代理人弁理士 林 直生樹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/12/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2011-800174号事件について平成24年3月14日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
特許庁は,被告の有する後記本件特許について,原告から無効審判請求を受け,審判請求不成立の審決をした。本件は,原告がその取消しを求めた訴訟であり,争点は,平成14年4月17日法律第24号による改正前の特許法(以下「特許法」という。)36条4項違反の有無及び同法29条2項違反の有無である。 1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする特許第3277180号(優先日平成12年10月3日,出願日平成13年5月29日,設定登録日平成14年2月8日,請求項数11。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成23年9月14日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された発明(以下,請求項ごとに「本件発明1」のようにいい,本件発明1ないし11を併せて「本件発明」という。また,特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を含めて「本件明細書」ということがある。)について無効審判を請求した(無効2011-800174号事件)。 特許庁は,平成24年3月14日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月19日に原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載(甲39)「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。 【請求項2】上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている,ことを特徴とする請求項1に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項3】両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた,ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項4】上記テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した,ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項5】上記破断部は,上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている,ことを特徴とする請求項4に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項6】上記シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである,ことを特徴とする請求項4または5に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項7】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の両面または片面に粘着剤を塗着すると共に,その幅方向両端に粘着性のない把持部を形成し,これを幅方向に細片状に切断する,ことを特徴とする二重瞼形成用テープの製造方法。 【請求項8】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の両面または片面に粘着剤を塗着し,該粘着剤が塗着されたシート状部材の両面または片面に,長手方向略中央に切欠溝を形成した剥離シートを貼付し,これを幅方向に細片状に切断する,ことを特徴とする二重瞼形成用テープの製造方法。 【請求項9】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した糸状部材に粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用糸。 【請求項10】両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた,ことを特徴とする請求項9に記載の二重瞼形成用糸。 【請求項11】上記糸状部材を,引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った,ことを特徴とする請求項9に記載の二重瞼形成用糸。」 3 審決の理由 審決の理由は別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。 (1) 特許法36条4項違反の有無について 請求人(原告)の主張は,要するに,当業者が過度の試行錯誤をすることなしに,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」を選定することがで き るか 否 かであり,その点が実 施 可能要件として重要であるとこ ろ,被請求人(被告)は,このような合成樹脂として3M社の#1522の基材を用いて実際に本件発明を実施している。3M社の#1522は,出願時においてカタログにも掲載されている汎用的なものであり(当事者間で争いがない。),誰でも容易に入手可能なものであるから,当業者は,過度の試行錯誤をすることなしに,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」を選択して実施することができる。したがって,特許法36条4項違反を理由として本件特許を無効とすることはできない。 (2) 特許法29条2項違反の有無について 本件発明は,甲第2号証(実願昭61-24573号(実開昭62-136545号)のマイクロフィルム)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって,特許法29条2項違反を理由として本件特許を無効とすることはできない。 ア 甲2発明の内容 「合成樹脂により形成した細いシート(1)に, 粘着剤層(3)を設けることにより構成した, 二重瞼形成用粘着シート片(9)。」 イ 本件発明1と甲2発明との一致点 「合成樹脂により形成した細いテープ状部材に, 粘着剤を塗着することより構成した, 二重瞼形成用テープ。」 ウ 本件発明1と甲2発明との相違点(以下「相違点1」という。) 「合成樹脂」について,本件発明1においては,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し,甲2発明はその点が不明である点。 エ 相違点1に係る容易想到性について 甲第2号証には,甲2発明の実施形態は湾曲形状(三日月形状)の形態として記載されている以上,伸ばせば湾曲形状(三日月形状)は損なわれてしまうから,これを本件発明1のように「延伸」させて使用することは想定されていないはずであるし,そのような使用形態は把握できない。 また,甲第2号 証 には,甲2発明の実 施 形態 として,テープ状部材たるシート(1)がマット法等によって光散乱性を付与された表面を有するものが記載されているところ,このようなマット法等によって凹凸が付与されるものは,「延伸」されることには適さないと考えるのが妥当である。 したがって,このような実施形態を包含する甲2発明を「延伸」させて使用することは予定されていないというべきであり,甲2発明の「合成樹脂」を「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ものとすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 |
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取消事由に係る原告の主張
審決には,特許法36条4項違反の判断の誤り(取消事由1)及び同法29条2項違反の判断の誤り(取消事由2)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は違法として取り消されるべきである。 1 特許法36条4項違反の判断の誤り(取消事由1)(1) 本件発明1における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という性質は,合成樹脂固有の性質である。被告は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という性質は,本件発明1において格別な意義を有すると主張するが,そうであれば,本件明細書の発明の詳細な説明にその格別な意義について記載する必要がある。しかるに,本件明細書の発明の詳細な説明はその記載を欠くので,特許法36条4項に違反する。審決の判断は,原告の主張を十分に理解しておらず,誤りである。 すなわち,そもそも合成樹脂は,ばねのような弾性的性質と粘性的性質を合わせ持つ粘弾性体であって,荷重をかけると弾性変形が始まって伸び(弾性的性質),その後,遅れて粘性部分が負荷時間とともに伸び(粘性的性質・クリープ現象),その後,除重すると,ばね部が短時間で弾性回復し,粘性部は徐々に回復する(甲41)。言い換えれば,合成樹脂は,固有の性質として,引張方向に荷重すると同方向に伸びるように変形し,除重すると元の状態に縮む特性を有するのである。 被告は,合成樹脂が延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有することを指摘する拒絶理由通知(甲42)に対し,「『延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂』とは,ポリエチレン全てがそのような性質を有することを意味しているのではなく,ポリエチレンの中でもそのような性質を有するものを意味しています。」との意見を述べた(甲1)。しかし,被告のいう「延伸可能で延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂」がどのようなものであるのか,明細書には何ら言及がない。 (2) 甲32(審判事件答弁書)における被告の主張に対し ア 「延伸」について 被告は,「延伸」とは,JIS工業用語大辞典からすると,「断面積を減少させ,その物理的性質を変更するために材料を引き延ばすこと」を意味すると主張しているが(甲32・4頁),これは合成樹脂の性質を意味するにすぎない。 イ 延伸後の長さについて被告は,「本件明細書の【0016】には『図3・・・から,合成樹脂から成るテープ状部材が,使用者自らが両手の指先で両端を把持して引っ張ることにより,数倍の長さに延伸させることができるものであることが開示されている」と主張しているが(甲32・5頁),「数倍の長さに延伸させる」ということは図3から全く分からないし,そもそも延伸させるのであれば1倍よりも長い長さになることは明らかであり,当該延伸の性質は合成樹脂が有する固有の性質であるから,何ら格別の意義を有するものではない。 被告は,「延伸後のテープが,少なくとも二重瞼のひだが形成される目頭から目尻 にかけての長さを有することも明らかである」と主張しているが(甲32 ・ 5頁),長さ何センチメートルのテープを延ばして目頭から目尻にかけての長さを有するようになるのか明確でなく,少し伸びれば,被告の主張する「延伸」という要件を満たすとも考えられる。 ウ 「延伸後にも弾性的な伸縮性」の程度について 被告は,「延伸後のテープ状部材1が,瞼7に貼り付けた際に,瞼7の弾性に抗して瞼7と共に収縮し,凸曲面を成している瞼7に,貼り付け方向に沿ったくい込みを形成することができる程度の弾性的な伸縮性を有している」と主張するが(甲32・6頁),本件発明1は,「テープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて」(【0008】)と記載されているように,テープ状部材を瞼に押し当てて瞼にくい込ませているのであるから,テープ状部材は,瞼に貼り付けた際,凸局面を成した瞼に沿った形にはなっていない。したがって,延伸後にも弾性的な伸縮性の意義は,被告の上記主張からは明確になっていないし,本件明細書にも,弾性的な伸縮性がどの程度のものであるのか,全く説明がなされていない。 2 特許法29条2項違反の判断の誤り(取消事由2) (1) 本件発明1について ア 審決は,本件発明1と甲2発明との 相違点1を,「本件発明1においては『延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する』と特定しているのに対し,引用例では必ずしも特定されていない点。」と認定しているところ,甲第2号証には,甲2発明の実施例として,プラスチックシートの素材について,「ポリエチレン・・・その他の合成樹脂で形成されている。」と記載されており,弾性的な伸縮性を有する材料が示されている。したがって,本件発明1は,甲第2号証に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を有しない。 イ 審決は,「伸縮性のあるテープを使用することにより強くテープを押し付けることなく二重瞼ができる被験者も存在する可能性を排除できない」としているが,テープを強く押し付けなければ瞼にテープが貼り付かないから,そもそも二重瞼はできない。本件発明1も,「テープ状部材の・・部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて・・」(【0008】)と記載しており,貼り付けるために押し当てるのであり,審決がいうように目の形状に沿って貼り付けるものではない。 瞼に沿ってテープ状部材を貼り付けて円弧とし,その後にテープ状部材が収縮して弦のようになる関係は,本件発明1では形成されない。本件発明1のテープは瞼に貼り付けるのであるから極細いテープであって,弾性的な収縮性は強くないと想定され,瞼の弾力性でテープが跳ね返される状態であれば,極細のテープの収縮性の効力も生じない。 (2) 本件発明2について本件発明2は,本件発明1において,「上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている」点を限定したものである。 本件発明1については上記(1)で述べたとおりである。 甲第2号証には,本件発明1の構成のほか,「プラスチックシートの何れか一方の裏面に粘着剤層を設ける」(甲2・1頁)との構成が開示されている。 したがって,本件発明2は,甲2発明に基づいて進歩性を有さず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1又は本件発明2において,「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」点を限定したものである。 本件発明1については上記(1)で述べたとおりである。 両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた構成は,周知事項である(甲3〜6)。 したがって,本件発明3は,甲2発明に周知事項を付加したものであって,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (4) 本件発明4について 本件発明4は,本件発明1の二重瞼形成用テープにおいて,「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」という限定を付すものであるところ(審決書31頁),審決においては,甲5事項の「セパレータ3に形成された切割線41は,請求人が主張するように,本件発明4の『引張りによって破断する破断部』に相当するということはできる」と判断されている(審決書31〜32頁)。 さらに,審決においては,「甲5事項のセパレータ3は,本件発明4のような各テープ毎の『剥離シート』というよりは,複数本の粘着テープ全体のいわば担体として機能するものであるから,甲5事項のセパレータ3が本件発明4の『剥離シート』に相当するということはできないし,そもそも予め各テープが単体として分離されている甲2発明に,このような甲5事項を適用することは困難である。」と判断されている(審決書32頁)。しかるに,本件発明4においては,本件発明1の二重瞼形成用テープに「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」点が本件発明1と異なる点であるところ,セパレータもしくは剥離シートが複数本の粘着テープに対応するものであるか単体のテープにのみ対応するものであるのかは,本件発明4において,格別な意義を有するものではない。また,審決において「甲5事項を適用することは困難である」とした理由が明らかにされていない。複数本の粘着テープに対応させるセパレータもしくは剥離シートを,予め分離されている単体のテープに対応させるということは,当業者であれば容易想到であって,格別,困難な事情は見当たらない。 (5) 本件発明5について 本件発明5は,本件発明4において,「上記破断部は,上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成された」点を限定したものである。 甲5では,「粘着シートを所定幅(即ち,矩形状粘着シートの長さ)に裁断したのち,セパレータ3側から長尺方向(長手方向)に切割線4を形成する。・・・切割線4の形成位置を図3を用いて説明すると,端部(図3中右側)から全体幅の50%以下…となるように形成する」(【0023】),「切割線4および41の形成,矩形片状粘着シートを作成するための切断(ハーフカット)は,ミシン目や破線のような不連続線であっても連続切れ目のような連続切断船であってもよい)」(【0025】)と記載されており,ミシン目や破線は,その一部が切り欠かれた切欠溝に相当する。 したがって,本件発明4については上記(4) で述べたとおりであり,本件発明5は,甲5において示された構成であり,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (6) 本件発明6について 本件発明6は,本件発明4において,「シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」という限定を付すものである。 甲2発明においては,シリコーンの?離層を有する点が記載されており(甲2・5頁),この点は周知事項であるから,本件発明6は,本件発明4に周知事項を付加したものにすぎず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (7) 本件発明7について ア 本件発明7と甲2発明とは,合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の両面または片面に粘着剤を塗着する工程を有する二重瞼形成用テープの製造方法が記載されている点で一致している(甲31・36頁,審決書33頁)。 イ 相違点は,以下の点である。 @ 本件発明7は「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し,甲2発明はその点が不明である。 A 本件発明7は,シート状部材の幅方向両端に粘着性のない把持部を形成しているのに対し,甲2発明はそのような構成を有していない。 B 本件発明7は,シート状部材を幅方向に細片状に切断するのに対し,甲2発明はそのような構成を有していない。 ウ 相違点の検討 相違点@は,本件発明1と同じ構成であり,上記(1)で述べたとおりである。 相違点Aは,上記(3)で述べたとおり,両端に粘着性のない把持部を形成することは周知事項である。 相違点Bは,周知事項である(甲3〜7)。 したがって,本件発明7は,甲2発明に基づいて進歩性を有さず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (8) 本件発明8について ア 本件発明8と甲2発明とは,合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の両面または片面に粘着剤を塗着する工程を有する二重瞼形成用テープの製造方法が記載されている点で一致している(甲31・37頁,審決書・34頁)。 イ 相違点は,以下の点である。 @ 本件発明8は「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し,甲2発明はその点が不明である。 A 本件発明8は,粘着剤が塗着されたシート状部材の両面または片面に,長手方向略中央に切欠溝を形成した剥離シートを貼付しているのに対し,甲2発明はそのような構成を有していない。 B 本件発明8は,シート状部材を幅方向に細片状に切断するのに対し,甲2発明はそのような構成を有していない。 ウ 相違点の検討相違点@は,本件発明1と同じ構成であり,上記(1)で述べたとおりである。 相違点Aは,上記(4)で述べたとおり,甲5事項に同一の構成が示されている。 相違点Bは,上記(7)で述べたとおりである。 したがって,本件発明8は,甲2発明に基づいて進歩性を有さず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (9) 本件発明9について ア 本件発明9と甲2発明とは,合成樹脂により形成した基材に粘着剤を塗着することにより構成した二重瞼形成用品という点で一致している(甲31・38頁,審決書36頁)。 イ 相違点は,以下の点である。 @ 本件発明9は,合成樹脂が「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し,甲2発明はその点が不明である。 A 本件発明9は,基材として,糸状部材を用いているのに対し,甲2発明では細いテープ状部材を用いている。 B 本件発明9は,二重瞼形成用品が二重瞼形成用糸であるのに対し,甲2発明は二重瞼形成用粘着シート片である。 ウ 相違点の検討 相違点@は,本件発明1と同じ構成であり,上記(1)で述べたとおりである。 相違点A及び相違点Bについては,細いテープ状部材の幅を狭くすれば実質的に「糸」になるのであって,実質的には重複するものであって相違はない。仮に,実質的に重複するといえないとしても,細長い部材を糸状部材にすることは格別困難なものではない。 したがって,本件発明9は,甲2発明に基づいて進歩性を有さず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (10) 本件発明10について 本件発明10は,本件発明9において,「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」ものであり,同構成は,上記(3)で述べたとおり,周知事項である。したがって,本件発明10は,本件発明9が進歩性を有しない以上,進歩性を有さず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 (11) 本件発明11について 本件発明11は,本件発明9において,「上記糸状部材を引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った」ものであるが,同構成は,本件発明4及び本件発明5の構成を組み合わせたものと実質的に同一であり,甲5事項に記載されている。 したがって,本件発明11は,上記(4)及び上記(5)に述べたところと同じ理由により進歩性を有さず,特許法29条2項の要件を満たしていない。 |
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被告の反論
原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。 1 取消事由1(特許法36条4項違反の判断の誤り)に対し (1) 本件明細書の記載並びに技術常識に基づけば,本件発明における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の意義は明確であり,また,本件明細書には,そのような条件を満たす合成樹脂として「ポリエチレン」が例示されている。そして,被告が現に本件発明の実施品に使用している3M社の♯1522が,本件特許の出願時において既にカタログに掲載されていた汎用品で誰でも入手可能であったことからすれば,本件発明における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」を選定するに当たり,当業者であれば,過度の試行錯誤を必要としなかったといえる。よって,審決の判断に誤りはない。 原告は,甲41を引用して,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」という特性は,合成樹脂であれば本来有する固有の性質にすぎず,請求項1に記載されている「物」を特定するに当たって何らの意義も有しないと主張するが,甲41に合成樹脂の一般特性が記載されているからといって,本件発明における合成樹脂についての「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定が,甲41に記載の合成樹脂の一般特定を意味するとは到底いえず,また,本件特許の実施可能要件が否定されるものでもない。 原告は,甲1を引用して,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂」がどのようなものであるのか明細書には言及がないと主張するが,本件発明における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂」がどのようなものであるかは,本件明細書の記載並びに技術常識を考慮すれば明確であるといえる。 (2) 甲32(審判事件答弁書)における主張について ア 「延伸」について 本件明細書の【0010】には,「上記テープ状部材1としては,両端を持って引っ張ったときに伸長し,しかも,弾性的に復帰しようとする収縮力が作用するものであればよいが,特に,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂により形成するのが望ましい。」と記載されている。そして,「延伸」という用 語 は, 当業 者において,「その断面 積 を 減少 し及び又 は 配 向によってその物理的性質を改良するために熱可塑性プラスチックシート,棒又はフィラメントを引き伸ばす工程」(JIS工業用語大辞典第4版/日本規格協会)と理解されるところ,本件発明においても,一般需要者によって,本件発明に係る「二重瞼形成用テープ」が使用される場面を前提に,同様の意味を有する用語として用いられている。したがって,これら明細書の記載及び技術常識を勘案すれば,本件発明における「延伸」とは,「断面積を減少させ,その物理的性質を変更するために材料を引き伸ばすこと」を意味し,このとき,「断面積を減少させ,その物理的性質を変更する」とは「弾性領域から塑性領域に移行させる」ことを意味しているにほかならない。 原告は,「延伸」とは合成樹脂の性質を意味するにすぎないと主張するが,上記のとおり,本件発明における「延伸」とは,「弾性領域から塑性領域に移行させるために材料を引き伸ばす」行為を意味しているのであって,合成樹脂の性質そのものを意味しているのではない。 イ 延伸後の長さについて 原 告は,被告が審判事件 答 弁書(甲32)において,「本件明細書の【0016】には『図3は,・・・』の記載から,・・・数倍の長さに延伸させることができるものであることが開示されている。また,・・・延伸後のテープが,少なくとも二重瞼のひだが形成される目頭から目尻にかけての長さを有することも明らかである」と述べたことに対し,「数倍の長さに延伸させる」ということは図3からは分からないし,長さ何センチメートルのテープを延ばして目頭から目尻にかけての長さを有するようになるのか,明確でない等と主張する。 しかし,本件特許の図3におけるテープの状態を,同図1に示すものとの縮尺関係に基づいて理解すれば,当該テープが「数倍の長さに延伸可能」であることが見て取れる。そのとき,この「延伸可能」の意義を理解するに当たって特に重要なのは,「使用者自らが両手の指先で両端を把持して引っ張ることにより,」延伸させることができる点である。また,延伸前の元のテープの長さをどの程度とするかについても,延伸後の長さや「弾性的な伸縮性」等を考慮して適宜設計し得る程度の事項であって,当業者に過度の試行錯誤を強いるものではない。 ウ 「延伸後にも弾性的な伸縮性」の程度について原告は,被告が審判事件答弁書(甲32)において,「『延伸後のテープ状部材1が,瞼7に貼り付けた際に,瞼7の弾性に抗して瞼7と共に収縮し,凸曲面を成している瞼7に,貼り付け方向に沿ったくい込みを形成することができる程度の弾性的な伸縮性を有している』ことが開示されているといえる。」と述べたことに対し,本件発明1は,テープ状部材を瞼に押し当てて瞼にくい込ませているのであるから,テープ状部材は瞼に貼り付けた際,凸曲面を成した瞼に沿った形にはなっていないため,延伸後にも弾性的な伸縮性の意義は被告の主張からは明確になっていないし,本件明細書にも弾性的な伸縮性がどの程度のものであるのか説明がなされていないと主張する。 しかし,被告の各実験結果からも,本件発明において,テープの延伸後の弾性的な伸縮性が二重瞼の形成に寄与する場合があることは明らかである。そして,そのときの二重瞼形成メカニズムを模式的に捉えれば,瞼にテープを押し付けるという操作は,テープを瞼に単に貼り付けるという作用を奏するにすぎず,本件発明においては,テープの押し付けによる瞼に対する作用と,テープの収縮による瞼に対する作用とを分離して捉えることができる。 したがって,本件発明における「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」なる事項の意義は明確である。 2 取消事由2(特許法29条2項違反の判断の誤り)に対し (1) 本件発明1について 本件発明1における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」という構成は,二重瞼の形成に関して特有の技術的意義を有しており,本件発明1に係る二重瞼形成用テープは,そのような合成樹脂から成るテープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して二重瞼を形成するものである。 これに対し,甲2発明に係る整形用粘着シート片9は,眼球に沿った凸曲面を成す瞼の表面に適合させるために,湾曲形状(三日月形状)に形成されていて,しかも, マッ ト法 等 によって表面に 凹凸 が付 与されていることからすれ ば,明らかに「延伸」させての使用に適しておらず,「延伸」させての使用を想定したものではないことは自明であるといえる。また,甲2には,シート片9を「延伸」させて使用することや,その延伸後の弾性的な伸縮性を利用して二重瞼を形成することについては何ら記載されていないし,示唆されてもいない。 したがって,本件発明1は,甲2発明に対し,明らかに進歩性を有している。 (2) 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1の二重瞼形成用テープにおいて,さらに「粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている」という限定を付すものであるから,本件発明1と同様の理由により,原告のいずれ主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1又は本件発明2において,さらに「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」という限定を付すものであるから,本件発明1と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (4) 本件発明4について 本件発明4は,本件発明1又は本件発明2において,さらに「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」という限定を付すものであるから,本件発明1と同様の理由により,原告いずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (5) 本件発明5について 本件発明5は,本件発明4において,さらに「破断部は,上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている」という限定を付すものであるから,本件発明1及び本件発明4と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (6) 本件発明6について 本件発明6は,本件発明4又は本件発明5において,さらに「シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」という限定を付すものであるから,本件発明1及び本件発明4と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (7) 本件発明7について本件発明7は,二重瞼形成用テープの製造方法に係るものであるが,本件発明1と同様に,「合成樹脂」について,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定がなされている。したがって,本件発明1と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (8) 本件発明8について 本件発明8も,二重瞼形成用テープの製造方法に係るものであるが,本件発明1と同様に,「合成樹脂」について,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定がなされている。したがって,本件発明1と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (9) 本件発明9について 本件発明9は,二重瞼形成用糸に係るものであるが,本件発明1と同様に,「合成樹脂」について,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定がなされている。したがって,本件発明1と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (10) 本件発明10について 本件発明10は,本件発明9において,さらに「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」という限定を付すものであるから,本件発明1と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 (11) 本件発明11について 本件発明11は,本件発明9において,さらに「糸状部材を,引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った」という限定を付すものであり,実質的に本件発明4の限定事項と本件発明5の限定事項とを組み合わせたものである。したがって,本件発明1及び本件発明4と同様の理由により,原告のいずれの主張や証拠方法に基づいても,その進歩性を否定することはできない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はないものと判断する。 1 取消事由1(特許法36条4項違反の判断の誤り)について(1) 発明の詳細な説明の記載 本件明細書(甲39)の発明の詳細な説明には,本件発明1の構成及び作用効果について次の記載がある。 「【0004】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明に係る二重瞼形成用テープは,基本的には,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とするものである。上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着することができる。また,上記二重瞼形成用テープは,両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けることができる。」 「【0008】上記構成を有する二重瞼形成用テープによって二重瞼を形成するには,テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて,該粘着剤によりテープ状部材をそこに貼り付け,そのまま両端の把持部を離す。これにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮むが,本来,瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので,弾性的に縮んだテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって,二重瞼のひだが形成される。両端の不要な部分はその後に切除すればよい。 【0009】このようにして,上記テープ部材は瞼に直接二重にするためのひだを形成するので,前記従来の方法のように,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく,自然な二重瞼を形成することができ,しかも,テープ状部材の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼のひだを形成したい位置に押し付ければよいので,簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。また,上記従来の方法では,瞼の皮膚を接着したり,瞼に片面粘着テープ等を貼り付けたりするとき,自分の操作でひだを作るためにプレッシャー等を用いる必要があるが,本発明の二重瞼形成用テープは,それ自身の収縮によって二重瞼を形成するので,上記プッシャー等を用いる必要がなく,二重瞼形成を安全かつ容易に行うことができる。 【0010】 【発明の実施の形態】図1は本発明の二重瞼形成用テープの一実施例を示している。この二重瞼形成用テープは,基本的には,弾性的に伸縮する細いテープ状部材1の表裏に粘着剤2を塗着することにより構成することができるものである。上記テープ状部材1としては,両端を持って引っ張ったときに伸長し,しかも,弾性的に復帰しようとする収縮力が作用するものであればよいが,特に,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂により形成するのが望ましい。このテープ状部材1は,一般的には幅が1〜3mm程度の細い帯状に形成されるが,幅が必ずしもその範囲内である必要はなく,また明確な帯状を形成していなくても差し支えない。更に,上記接着剤2としては,皮膚用に用いられる各種粘着剤を利用することができる。」 (2) 判断 上記記載によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の二重瞼形成用テープにより二重瞼を形成する方法について,二重瞼形成用テープを構成するテープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態 でテープ状部材を瞼に 押し 当 てて貼り付け,両端の把持部を離すことにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮み,このようにして弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼に食い込む状態になって二重瞼のひだが形成されること,二重瞼形成用テープを構成するテープ状部材について,「両端を持って引っ張ったときに伸長し,しかも,弾性的に復帰しようとする収縮力が作用するもの」であることが必要があること,そのようなテープ状部材の材質として,特に,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂」が望ましいことが記載されているものと認められる。 そして,被告は,3M社製の合成樹脂テープである#1522を用いて本件発明1の実施品を製造しており,同テープの材料である合成樹脂は,「延伸後にも弾性的な伸縮性」を有し,同テープは,本願の出願当時既に広く市販され容易に入手可能なものである(弁論の全趣旨)。また,「延伸後にも弾性的な伸縮性」を有する合成樹脂をそうでない合成樹脂から区別するために特別な装置や手順を必要とする等の事情は見当たらない。 そうすると,上記(1) の記載に接した当業者は,格別の試行錯誤 をすることな く,本件発明1の「テープ状部材」の材料として「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」を選択することができたものと認められる。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。 (3) 原告の主張についてア 原告は,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という性質は,合成樹脂固有の性質であり,この性質が本件発明1において格別な意義を有するというのであれば,本件明細書の発明の詳細な説明はその記載を欠くと主張する。 しかし,製造時に高延伸させられた合成樹脂の中には,それ以上にほとんど延伸させることができないものや,延伸させることができたとしても,瞼に貼り付けても瞼へのくい込みによってひだが形成されるほどの弾性的な伸縮性を有さないものがあり得ることは,技術常識であり,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という性質が合成樹脂固有の性質であるということはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ 原告は,「テープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて」(【0008】)との記載からみて,本件発明1はテープ状部材を瞼に押し当てて瞼にくい込ませているのであり,テープ状部材は瞼に貼り付けた際,凸局面を成した瞼に沿った形にはなっていないから,延伸後にも弾性的な伸縮性の意義は,被告の主張(「延伸後のテープ状部材1が,瞼7に貼り付けた際に,瞼7の弾性に抗して瞼7と共に収縮し,凸曲面を成している瞼7に,貼り付け方向に沿ったくい込みを形成することができる程度の弾性的な伸縮性を有している」との主張)からは明確になっていないし,本件明細書において弾性的な伸縮性がどの程度のものであるのかの説明がなされていないと主張する。 原告の上記主張は,二重瞼形成用テープによる二重瞼のひだの形成に作用しているのは,テープ状部材の瞼への押し当てによるくい込みのみであり,「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という性質を有する「テープ状部材」の弾性的な縮みによるくい込みは,二重瞼のひだの形成には作用していないという趣旨のものと解される。 しかし,前記(1) のとおり,【0008】には,本件発明1の二重瞼形成用テープによる二重瞼の形成方法について,「・・テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて,該粘着剤によりテープ状部材をそこに貼り付け・・これにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮むが,本来,瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので,弾性的に縮んだテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって,二重瞼のひだが形成される。・・」と記載されており,これによれば,二重瞼形成用テープによる二重瞼のひだの形成に作用しているのは,テープ状部材の瞼への押し当てによるくい込みのみではなく,「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という性質を有する「テープ状部材」の弾性的な縮みによるくい込みも併せて作用していることは明らかである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 ウ 原告は,「延伸後の長さ」や「延伸後にも弾性的な伸縮性の程度」について本件明細書において明確に述べられていない旨主張する。 しかし,【0008】には,「延伸後の長さ」や「延伸後にも弾性的な伸縮性の程度」について,テープ状部材の両端を把持して引っ張った状態でテープ状部材を瞼に貼り付け,そのまま両端の把持部を離した際に,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮み,これが貼り付けた瞼にくい込む状態となることが可能である程度の「延伸後の長さ」や「延伸後にも弾性的な伸縮性の程度」であればよいことが記載されているということができ,当業者が本件発明1を実施することができる程度の技術的事項が明確かつ十分に記載されているものと認められる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (4) 小括 よって,取消事由1には理由がない。 2 取消事由2(特許法29条2項違反の判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 甲2発明の概要 (ア) 甲第2号証には,次の記載がある。 「表面を光散乱性にした透明性プラスチツクシートと透明なプラスチツクシートで構成され,前記プラスチツクシートの何れか一方の裏面に粘着剤層を設けると共に他方の表面に剥離層を設け,前記一方のプラスチツクシートの粘着剤層に他方のプラスチツクシートの剥離層を貼り合わ せた粘着シートまたはテープ。」(実用新案登録請求の範囲) 「従来表面にマツト加工等して光散乱性にした薄いプラスチツクシートの裏面に粘着剤層を設け,これを剥離性台紙等に貼り合わせた粘着シート上に所望の形状例えば,上瞼の曲線に応当して三日月形状の切抜線を刻設し,刻設された所望の形状以外の不要のプラスチツクシートを剥ぎ取り若しくはそのままにして,瞼整形用貼着片として市販されているものがあるが,剥離性台紙上に貼着されている前記の瞼成形用貼着片の輪郭が識別し難く,使用するさい剥離性台紙からの剥ぎ取りが極めて困難であり,特に明かりが不充分であると一層はがしにくい。」(明細書2頁1〜12行) 「本案は台紙付粘着シートと台紙との光の透過率の差を利用して台紙の剥離面に貼着している所望形状の切抜シート片の識別と共に剥ぎ取り易くしたものである。 以下実施例について説明すると,透明なプラスチツクを加工等して所要の光散乱性な表面(2)を有する透明性プラスチツクシート(1)を形成し,該プラスチツク シートの 裏 面に粘着剤 層 (3)を設け,この粘着剤 層 付プ ラスチ ツ クシート(4)は表面に剥離層(7)を有する透明なプラスチツクシート(6)で形成された台紙(5)に貼着して台紙付粘着シート(8)を形成している。 上記透明性プラスチツクシート(1)若しくは透明なプラスチツクシート(6)は酢酸繊維素系プラスチツク,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,弗素樹脂,珪素樹脂,ポリアミド,ポリエステルその他の合成樹脂で形成されている。」(2頁19行〜3頁15行) 「上記の透明性プラスチツクシート表面の光散乱性はサンドブラスト法,エンボス法,化学的侵蝕法等によつて梨地や艶消し面を形成する謂ゆるマツト加工法のほか,印刷等によるコーテング法等で形成できる。・・・上記の如く形成された台紙付粘着シート(8)はこれを 切 抜 く等 して 所 望 形状の 切 抜 かれた粘着シート片(9)をその台紙上に形成したさい,この台紙上の粘着シート片はその輪郭が該台紙面と明確に識別することができる。このように台紙とこの台紙面に貼着している粘着シート片の識別をし易くしているのは,台紙付粘着シートの光透過率と台紙の光透過率の差異によつて生ずるもので,上記台紙の光透過率は台紙付粘着シートの透過率の約4.7〜30倍で,好ましくは約7〜27倍程度である。」(明細書4頁2行〜5頁7行) 「上記の粘着シートは二重瞼にするために瞼に貼着する左右対称の整形用粘着シート片(9)(第4〜5図),注射針等の傷口の止血その他皮膚に貼着する医療用粘着シート片(9)(第6図),脱毛用粘着シート片,書籍補修用粘着シート片その他の貼着してあることが判明し難いようにしたい部分に用いる各種の粘着シート片の切抜き用として特に有効に使用でき,切り抜き後,不要部分を第4〜6図の如く剥ぎ取つておけば台紙(5)の剥離面に残つた切抜かれた粘着シート片(9)はその輪郭が明瞭に見え,剥離も極めて容易にできるので,従来のように目印等を印刷する余分な手数が省略できるほか,粘着シートはプラスチツクシートで構成されているから寸法安定性がよく,切抜きその他作業性,形状の判別性にすぐれ,好能率で仕上りのよい切抜き片が得られる。」(明細書6頁3〜7頁3行) また,第4図には,整形用粘着シート片(9)が左右対称の湾曲した形状をしている様子が示されている。 (イ) 上記記載によれば,甲2発明の従来技術として,剥離性台紙等に貼り合わせられた粘着シート上に上瞼の曲線に応当する三日月形状のような所望の形状の切抜線を刻設したものが瞼整形用貼着片として市販されていたところ,剥離性台紙上の瞼整形用貼着片の輪郭が識別し難く剥ぎ取りが極めて困難であったことから,甲2発明は,台紙付粘着シートと台紙との光の透過率の差を利用し,目印等を印刷することなく所望形状の切抜シート片の識別及び剥ぎ取りを容易にしたものであることが認められる。 そうすると,甲2発明の「瞼整形用貼着片」は,「三日月形状」のような上瞼の曲線に沿った形状であり,この形状を利用して瞼の整形を行うものであって,瞼整形用貼着片を構成するプラスチツクシートは,変形しないものであることが予定しされているといえる。 イ 相違点1に係る容易想到性について 上記アのとおり,甲2発明の「瞼整形用貼着片」を構成するプラスチツクシートは,「三日月形状」のような上瞼の曲線に沿った形状を利用して瞼の整形を行うものであるから,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ものであるとはいえない。また,甲2発明の「瞼整形用貼着片」を構成するプラスチツクシートは,貼着の前後でその形状が維持されている必要があるから,貼着片であるプラスチツクシートは,「延伸」等によって変形することのないものであることが予定されているのであって,これを延伸可能なものに置換することはできない。 したがって,相違点1に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ 原告の主張について(ア) 原告は,甲第2号証には,甲2発明の実施例として,プラスチックシートの素材について,「ポリエチレン…その他の合成樹脂で形成されている。」と記載されており,弾性的な伸縮性を有する材料が示されているから,本件発明1は,甲第2号証に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると主張する。 しかし,上記記載は,プラスチックシートの素材が合成樹脂からなることを示すものにすぎず,「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ことを示すものであるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (イ) 原告は,審決が「伸縮性のあるテープを使用することにより強くテープを押し付けることなく二重瞼ができる被験者も存在する可能性を排除できない」としたことに対し,テープを強く押し付けなければ瞼にテープが貼り付かないから,そもそも二重瞼はできない等,本件発明1のテープの弾性的な収縮性は強いものではない旨を縷々主張する。 しかし,前記1において判示したとおり,本件発明1においては,二重瞼形成用テープを構成するテープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態でテープ状部材を瞼に押し当てて貼り付け,両端の把持部を離すことにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮み,このようにして弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼に食い込む状態になって二重瞼のひだが形成されるものであるから,テープ状部材を貼り付けるために押し当てるからといって,弾性的に縮んだテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成されるという作用が失われるものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 エ 小括よって,甲第2号証に基づいて本件発明1の進歩性を否定することはできない。 (2) 本件発明2について本件発明2は,本件発明1の二重瞼形成用テープにおいて,さらに「粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている」という限定を付すものである。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明2の進歩性を否定することはできない。 (3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1又は本件発明2において,さらに「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」という限定を付すものである。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明3の進歩性を否定することはできない。 (4) 本件発明4について 本件発明4は,本件発明1又は本件発明2において,さらに「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」という限定を付すものである。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明4の進歩性を否定することはできない。 (5) 本件発明5について 本件発明5は,本件発明4において,さらに「破断部は,上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている」という限定を付すものである。 したがって,本件発明1及び4について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明5の進歩性を否定することはできない。 (6) 本件発明6について 本件発明6は,本件発明4又は本件発明5において,さらに「シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」という限定を付すものである。 したがって,本件発明1及び4について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明6の進歩性を否定することはできない。 (7) 本件発明7について本件発明7は,二重瞼形成用テープの製造方法に係るものであるところ,本件発明1と同様に,「合成樹脂」について,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定がなされている。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明7の進歩性を否定することはできない。 (8) 本件発明8について 本件発明8は,二重瞼形成用テープの製造方法に係るものであるところ,本件発明1と同様に,「合成樹脂」について,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定がなされている。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明8の進歩性を否定することはできない。 (9) 本件発明9について 本件発明9は,二重瞼形成用糸に係るものであるところ,本件発明1と同様に,「合成樹脂」について,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という特定がなされている。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明9の進歩性を否定することはできない。 (10) 本件発明10について 本件発明10は,本件発明9において,さらに「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」という限定を付すものである。 したがって,本件発明1について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明10の進歩性を否定することはできない。 (11) 本件発明11について本件発明11は,本件発明9において,さらに「糸状部材を,引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った」という限定を付すものであり,実質的に本件発明4の限定事項と本件発明5の限定事項とを組み合わせたものである。 したがって,本件発明1及び本件発明4について述べたところと同様の理由により,甲第2号証に基づいて本件発明10の進歩性を否定することはできない。 (12) 小括よって,取消事由2には理由がない。 3 まとめ以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。 |
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結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 芝田俊文 |
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裁判官 | 西理香 |
裁判官 | 知野明 |