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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10038審決取消請求事件 判例 特許
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平成23行ケ10315審決取消請求事件 判例 特許
平成24行ケ10004審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 24年 (行ケ) 10413号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/12/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年12月17日判決言渡

平成24年(行ケ)第10089号,第10413号 審決取消請求事件,同参加

事件

口頭弁論終結日 平成24年12月3日

判 決



原 告 大日本印刷株式会社



訴訟代理人弁護士 櫻 井 彰 人

弁理士 金 山 聡



参 加 人 株式会社ウイル・コーポレーション



訴訟代理人弁護士 生 田 哲 郎

中 所 昌 司

補 佐 人 弁 理 士 松 本 雅 利


被 告 ( 脱 退 ) 株式会社ウイルコホールディングス

(審決における表示は株式会社ウイルコ)




主 文

特許庁が無効2011−800117号事件について平成24年1月31日

にした審決を取り消す。

訴訟費用は参加人の負担とする。





事実及び理由

第1 原告の求めた判決

主文同旨



第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,特許

36条6項1号(サポート要件)適合性,進歩性,である。

1 特許庁における手続及び本件訴訟の経緯

被告(脱退)は,発明の名称を「印刷物」とする本件特許第4646686号(平

成17年4月19日出願〔特願2005−120502号〕 平成22年12月17


設定登録,特許公報は甲7,請求項の数4)の特許権者であった。

原告は,平成23年7月4日,本件特許につき無効審判を請求した(無効201

1−800117号)。その中で,被告は,平成23年9月27日付けで訂正請求を

したところ(甲23,特許請求の範囲減縮を行うとともに,請求項3及び4を削

除。,特許庁は,平成24年1月31日,
) 「訂正を認める。本件審判の請求は成り立

たない。」旨の審決をし,その謄本は同年2月9日原告に送達された。

参加人は,本件訴訟提起後の平成24年5月1日に被告からの分割により設立さ

れ,その際,被告から本件特許権を承継し,特許登録原簿に平成24年11月2日

受付でその旨の登録がされた。被告は,本件訴訟から脱退した。



2 本件発明の要旨

(1) 訂正前の請求項

【請求項1】(訂正前発明1)

「左側面部(2)と右側面部(3)が中央面部(1)の方へ折られて重ねられた印

刷物であって,

分離して使用するもの(4)が一方の側面部に印刷されており,分離して使用で




きるように周囲に切り込み(9)が入っていること,

分離して使用するもの(4)が落下しないように,中央面部(1)と,分離して

使用するもの(4)とが一過性の粘着剤により貼着されていること,

かつ,分離して使用するもの(4)を除く側面部(2及び3)と中央面部(1)

とが一過性の粘着剤により貼着されていることからなり,

当 該一方の側面部を開いても分離して使用するものが付いてこないことを特徴

とする印刷物。」

【請求項2】(訂正前発明2)

「分離して使用するもの(4)が落下しないように貼着するための一過性の粘着剤

が,塗布後でもその上から文字が書ける一過性の粘着剤であることを特徴とする請

求項1に記載の印刷物。」

(2) 訂正後の請求項

【請求項1】(訂正発明1)

「左側面部(2)と右側面部(3)が中央面部(1)の同一の面の方へ折られて重

ねられた葉書付き広告用印刷物であって,

葉書(4)が一方の側面部に印刷されており,分離して使用できるように周囲に

切り込み(9)が入っていること,

該葉書(4)が落下しないように,中央面部(1)と,該葉書(4)とが一過性

の粘着剤により貼着されていること,
かつ,該葉書(4)を除く側面部(2及び3)と中央面部(1)とが一過性の粘

着剤により貼着されていることからなり,

当 該一方の側面部を開いても該葉書 が付いてこないことを特徴とする葉書付き

広告用印刷物。(下線部は訂正部分)


【請求項2】(訂正発明2)

「該葉書(4)が落下しないように貼着するための一過性の粘着剤が,塗布後でも

その上から文字が書ける一過性の粘着剤であることを特徴とする請求項1に記載の




葉書付き広告用印刷物。(下線部は訂正部分)




3 原告主張の無効理由

(1) 訂正明細書発明の詳細な説明の欄は一切訂正されておらず,段落【00

08】には,課題を解決するための手段として,訂正前の発明が記載されており,

訂正後の特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されておらず,

特許法36条6項1号違反の無効理由がある。

(2) 訂正発明1及び2は,甲1に記載された発明,及び甲2ないし6,9ない

し19に記載された周知技術から当業者が容易に発明することができたものである。



4 審決の理由の要点

(1) 特許法36条6項1号違反について

訂正明細書発明の詳細な説明の欄は一切訂正されておらず,段落【0008】

には,課題を解決するための手段として,訂正前の特許請求の範囲に対応するもの

が記載されているが,訂正明細書の段落【0022】ないし【0029】【図5】


及び【図6】等には,訂正発明1及び2の実施例が記載されているから,課題を解
決するための手段として,訂正発明1及び2が訂正明細書発明の詳細な説明の欄

に記載されていないからといって直ちに特許法36条6項1号に規定する要件を満

たしていないとまではいえない。

(2) 進歩性について

@ 甲1(登録実用新案第3070251号公報)には,実質的に以下の発

明(甲1発明)が記載されていることが認められる。

「用紙を折畳み,その用紙の折畳み対向紙片どうしを擬似接着してなるとともに,

上記折畳み対向紙片の内側面に有価証券情報を印字し,その有価証券情報の印字

部を含む上記折畳み対向紙片の一部に,これをプリペイドカードとして抜き取り可

能とする加工を施してなるプリペイドカード付きシートであって,




前記用紙は,中紙3と中紙3の両側の一の外紙2と他の外紙4からなる用紙1を

用い,一の外紙2は中紙3の方へ折られて重ねられ,中紙3と他の外紙4を永久接

着せず,常時開いた状態に設け,一の外紙2の擬似接着面2a側に有価証券情報7

を印字するとともに,中紙3と一の外紙2をオープンタイプフィルム5で疑似接着

し,その有価証券情報7の印字部を含む外紙2の一部に,これをプリペイドカード

8として抜き取り可能とする抜き型での加工を施し,

前記抜き型による加工は,スリット9が,外紙2を切断し,オープンタイプフィ

ルム5の一方のフィルム5aをほぼ切断する深さとなるように有価証券情報7の印

字部外周に施されたものであり,

前記疑似接着の手段としてのオープンタイプフィルム5は,糊状のものを適用す

ることができる

プリペイドカード付きシート。」

A 訂正発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

【一致点】

「一方の側面部が中央面部の方へ折られて重ねられた印刷物であって,

分離して使用するものが一方の側面部に印刷されており,分離して使用できるよ
うに周囲に切り込みが入っていること,

該分離して使用するものが落下しないように,中央面部と,該分離して使用する

ものとが一過性の粘着剤により貼着されていること,

かつ,該分離して使用するものを除く一方の側面部と中央面部とが一過性の粘着

剤により貼着されていることからなり,

当該一方の側面部を開いても該分離して使用するものが付いてこない印刷物。」

【相違点1】

訂正発明1は「左側面部(2)と右側面部(3)が中央面部(1)の同一の面の

方へ折られて重ねられ」「側面部(2及び3)と中央面部(1)とが」一過性の粘


着剤により貼着されているのに対し,甲1発明は「一の外紙2は中紙3(中央面部)




の方へ折られて重ねられ,中紙3と他の外紙4を永久接着せず,常時開いた状態に

設け」られ,「中紙3と一の外紙2」は疑似接着されているものの,他の外紙4は,

疑似接着されていない点。

【相違点2】

分離して使用するものについて,訂正発明1は「葉書(4)」であるのに対し,甲

1発明は「プリペイドカード」である点。

【相違点3】

印刷物について,訂正発明1では「葉書付き広告用」印刷物であるのに対し,甲

1発明は訂正発明1のような用途の印刷物ではない点。

B 以下の理由により,訂正発明1は,甲1に記載された発明及び甲各号証

に記載の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものということはで

きない。

ア 相違点1について

(ア ) 訂正発明1は,左右の側面部が左右に開く,いわゆる3つ折りの観

音開きとなっており,左右の側面部が疑似接着されているものである。

(イ ) 甲2ないし4, 10に記載されているように,
9, 印刷物において,
用紙をいわゆる3つ折りの観音開きとし,左右の側面部を疑似接着することは,本

件出願前周知技術である。

(ウ ) 甲9,10には,印刷物において,用紙を3つ折りの観音開きや3

面の片開き等様々な折り形態として疑似接着すること,即ち,疑似接着する際に用

紙の折り形態は適宜選択できることが示されている。

(エ ) 甲1には,
【図1】及び【図3】に記載のように3つ折りのZ型,
【図

4】に記載のような3面の片開き型,並びに【図5】に記載のような2つ折り型が

記載されており,様々な折り形態で疑似接着することが記載されている。

(オ ) 甲1には,上記(エ)のように疑似接着の様々な折り形態が記載されて

おり,上記(ウ)に示されたように疑似接着の用紙の折り形態は適宜選択し得ることで




あるから,甲1発明において,疑似接着の用紙の折り形態として,上記(イ)に記載の

周知技術を採用し,訂正発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に

なし得る程度のことである。

イ 相違点2について

甲1発明において,隠蔽する必要のある「プリペイドカード」と「中紙3」とは,

密接に関連しており,通常,葉書は隠蔽する必要のないものであること,
「プリペイ

ドカード」は,通常,筆記性が要求されるものではないのに対し,
「葉書」は,通常,

筆記性が要求されるものであること,甲2の段落【0002】に「葉書きは大きさ

と厚さが定められているので一定の大きさ,特に厚さの基準に合致するため・・・」

と記載されているように,葉書には基準が定められていること等を考慮すると,甲

1発明における「プリペイドカード」を,隠蔽する必要がなく,筆記性が要求され,

さらに基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1には見出せず,また,各

甲号証から甲1発明の「プリペイドカード」に代えて「葉書」を採用する動機を見

い出すことはできないから,甲1発明において,相違点2にかかる構成を採用する

ことは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 相違点3について
甲2ないし4,11ないし16に記載のように印刷物に広告を設けることは本件

出願前周知技術であるから,甲1発明において広告を印刷し,広告用印刷物とする

ことまでは,当業者が容易になし得る程度のことといい得る。しかし,前記のとお

り,甲1発明における「プリペイドカード」を「葉書」に代えることが想到容易と

いえないから,甲1発明において,葉書付き広告用印刷物とすることまでは,当業

者が容易になし得る程度のこととはいえない。

C 訂正発明2は,訂正発明1を更に限定したものであるから,訂正発明1

と同様に,甲1に記載された発明及び甲各号証に記載の周知技術から当業者が容易

に発明をすることができたものと主張する請求人の理由を採用することはできない。





第3 原告主張の審決取消事由

1 訂正発明の技術的意義

訂正発明は,訂正前発明の「分離して使用するもの」を「葉書」に限定するもの

であるが,訂正明細書において,発明が解決しようとする課題に変更はなく,
「分離

して使用するもの」 「葉書」
を とした特有の発明の効果も記載されていない。また,

訂正明細書の発明の実施の形態及び図面(図5,6)には,
「分離して使用するもの」

一般の実施の形態が記載されており,葉書は,
「分離して使用するもの」の単なる一

例として記載されているだけで,
「分離して使用するもの」を「葉書」とする発明が

実施例を伴って開示されているわけではない。したがって,分離して使用するもの」


一般についての訂正前発明とこれを「葉書」限定した訂正発明との間に,発明が解

決しようとする課題と発明の効果に差異はなく,発明の特徴的構成部分も同じであ

り,両発明の技術的意義に実質的な差異はなく,本件特許に係る発明の技術的意義

は,両発明の解決しようとする課題に対応して,
「分離して使用するものを印刷物よ

り切り取る必要がなく,かつその周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,印

刷物に付いていて紛失させることなく,しかも手間がかからず分離して使用するも

のを利用することが出来ること」となる。
審決は,訂正前発明と訂正発明との技術的意義に実質的な差異はないこと,すな

わち,
「分離して使用するもの」を「葉書」に限定しても何ら技術的意義が生じない

ことを誤認し,その結果無効理由の判断を誤ったものである。



2 取消事由1(特許法36条6項1号違反の判断の誤り)

審決は,訂正明細書の段落【0022】ないし【0029】【図5】及び【図6】


等には,訂正発明1及び訂正発明2の実施例が記載されていると認定した(7頁8

行〜10行)。

しかし,訂正明細書の段落【0022】〜【0029】に記載された本件特許に

係る発明の第2の実施例は,あくまで「分離して使用するもの4」についてであり,




「葉書」については,段落【0026】に「分離して使用するもの4(例えば葉書

等)」と例示されているだけである。

また,訂正明細書の段落【0022】〜【0029】に対応する【図5】及び【図

6】において,分離して使用するもの4が「葉書」であることを窺わせる記載は一

切ない。よって,訂正明細書の段落【0022】〜【0029】【図5】及び【図


6】に,
「分離して使用するもの4」を「葉書」とした訂正発明1及び訂正発明2の

実施例が記載されているとはいえない。

さらに,訂正明細書の段落【0009】【0010】には,
, 「葉書」は,「分離し

て使用するもの」に一例として,チケット,クーポン券等と同列に記載されている

だけであり,訂正発明1が記載されているわけではない。

したがって,訂正明細書及び図面には,訂正発明及びその実施例は記載されてお

らず,訂正発明は特許法36条6項1号の規定に違反する。審決の上記判断は誤り

である。



3 取消事由2(訂正発明1,2の進歩性の判断の誤り)

(1) 訂正発明1は甲1発明から進歩性がないこと
ア まず,訂正前発明と甲1発明A(審決が訂正発明と一致しているとした

甲 1 発明の構成〔24頁下6行〜25頁3行〕に同発明の折り形態を加えた発明,

すなわち,甲1において「プリペイドカード」を「分離して使用するもの」とした

発明)との関係を見てみると,審決が認定した相違点2,3は,本件訂正(「分離し

て使用するもの」を「葉書」に限定し,
「印刷物」を「葉書付き広告用印刷物」に限

定する訂正)によって生じたものであることから,訂正前発明と甲1発明との相違

点は相違点1だけとなるところ,審決は,相違点1は当業者が容易になし得ると判

断しているから,訂正前発明は,甲1発明Aから当業者が容易に発明できたものと

なる。

また,訂正発明1の「葉書」は,
「分離して使用するもの」としてのチケットやク




ーポン券と同列に,その単なる一例として記載されているだけであり,
「分離して使

用するもの」一般についての訂正前発明とこれを「葉書」に限定した訂正発明1と

の間に,発明が解決しようとする課題と発明の効果に差異はなく,両発明の技術的

意義に実質的な差異はない。よって,訂正発明1は,訂正前発明から見て,技術的

意義のない発明となる。

イ 次に,訂正発明1と甲1発明との関係を見るに,前記のとおり,訂正発

明1の「葉書」は,
「分離して使用するもの」としての技術的意義しかなく,訂正発

明1と甲1発明との対比においては,訂正発明1の「葉書」は,
「分離して使用する

カード(もの)」の単なる一例として見るべきであり,甲1の「プリペイドカード」

は,「分離して使用するカード(もの)」としての「プリペイドカード」と見るべき

である。これにより,訂正発明1と対比すべき甲1発明は,
「分離して使用するカー

ド(もの)」としての「プリペイドカード」に係る甲1発明Bとなる。

そうすると,相違点2(「プリペイドカード」と「葉書」の相違)の容易想到性

判断においては,甲1発明Bの「分離して使用するカード(もの)」としての「プリ

ペイドカード」を訂正発明1の「葉書」に代えることは,動機付けがあり,当業者

容易に想到し得るものかを判断すべきである。
この点,後記のとおり,「プリペイドカード」と「葉書」は,「分離して使用する

カード(もの)」として共通し,甲1の「プリペイドカード」に記載された「有価証

券情報」は隠蔽すべき情報に限定されないから,
「プリペイドカード」を「葉書」に

代える動機付けはあり,相違点2は,当業者が容易に想到し得るものとなる。なお,


審決も,甲1発明の「プリペイドカード」と訂正発明1の「葉書(4)」とは「分離

して使用するもの」である点で共通すると認定している〔23頁24行〜25行〕。


ウ これに対し,審決は,訂正発明1の「葉書」が「分離して使用するカー

ド(もの)」の単なる一例であることを離れて,訂正発明1は「葉書」そのものに係

る発明であると認定し,また,甲1の「プリペイドカード」が「分離して使用する

カード(もの)」であることを離れ,甲1発明は「プリペイドカード」そのものに係




る発明である甲1発明Cと認定した上,訂正発明1と甲1発明Cを対比し,甲1の

「プリペイドカード」に記載された「有価証券情報」は,隠蔽すべき情報に限定さ

れるとして,
「プリペイドカード」 「葉書」
を に代える動機付けはなく,相違点2は,

当業者が容易に想到し得ないと判断している。

しかし,前記のとおり,訂正発明1と対比すべき甲1発明は,
「プリペイドカード」

そのものに係る甲1発明Cではなく,「分離して使用するカード(もの)」としての

「プリペイドカード」に係る甲1発明Bである。

また,後記のとおり,甲1の「プリペイドカード」に記載された「有価証券情報」

は,隠蔽すべき情報に限定すべきでない。

したがって,審決は,相違点2の容易想到性の判断において,訂正発明1の技術

的意義を見誤った結果,訂正発明1と対比判断すべき甲1の技術的内容を誤認した

ものである。

(2) 審決の甲1に関する認定・判断の誤り(26頁ウ,エ)

@ 審決26頁ウの認定について

審決は,甲1の【考案が解決しようとする課題】の欄の記載から,甲1発明の「中

紙3」(中央面部)は,「プリペイドカード」に印字されている「有価証券情報」を
確実に隠蔽するためのものであると認定した。これは,あたかも,「有価証券情報」

を確実に隠蔽することだけが甲1発明の課題であり,この課題に対応するのが甲1

発明の「中紙3」の目的であるかのような認定である。

しかし,甲1の【考案が解決しようとする課題】の欄(段落【0009】)には,

製造過程での不良品の発生が少なく,高速・大量生産に好適で,かつカード購入者

にキーワード等の有価証券情報を正確に伝えることができるプリペイドカード付き

シートを提供することも記載されており,甲1発明は,
「有価証券情報」を確実に隠

蔽すること以外に,不良品の発生が少なく,高速・大量生産に好適で,有価証券情

報を正確に伝えることも課題とし,かかる課題を解決するために,従来のスクラッ

チにより有価証券情報を隠蔽する単体のプリペイドカード(段落【0003】【0





004】,図8,9)に代えて,「用紙を折畳み,その用紙の折畳み対向紙片どうし

を擬似接着してなるとともに,上記折畳み対向紙片の内側面に有価証券情報を印字

し,その有価証券情報の印字部を含む上記折畳み対向紙片の一部に,これをプリペ

イドカードとして抜き取り可能とする加工を施してなることを特徴とするプリペイ

ドカード付きシート。(
」【請求項1】,段落【0010】)という手段を講じている。

そうすると,甲1発明の特徴は,以下の?,?となる。

?従来の単体のプリペイドカードに代えて,
「用紙を折畳み,用紙の折畳

み対向紙片どうしを擬似接着し,上記折畳み対向紙片の一部に,これをプリペイ

ドカードとして抜き取り可能とする加工を施した」プリペイドカード付きシート

?従来のスクラッチにより有価証券情報を隠蔽することに代えて,用紙


を折畳み,用紙の折畳み対向紙片どうしを擬似接着し,その折畳み対向紙片の内

側面に有価証券情報を印字した」プリペイドカード付きシート

この場合,甲1発明において,上記?の特徴は,主に不良品の発生が少なく,高

速・大量生産に好適で,有価証券情報を正確に伝えるという課題に対応し,上記?

の特徴は,主に有価証券情報を確実に隠蔽するという課題に対応している。

ところで,甲1発明の「中紙3」は,用紙の折畳み対向紙片の一方となるもので,
特徴?,?に関係しているが,用紙の折畳み対向紙片の他方(外紙2)を疑似接着

させるためのものである点では,両特徴に共通している。そうすると,甲1発明の

「中紙3」は,用紙の折畳み対向紙片の他方(外紙2)を疑似接着させるためのも

のであるという目的を有するところ,
「上記折畳み対向紙片の一部に,これをプリペ

イドカードとして抜き取り可能とする加工を施」すこと(特徴?に対応)により「プ

リペイドカード」の抜き取りが可能となり,製造過程での不良品の発生が少なく,

高速・大量生産に好適である等の作用効果が生じる。また,
「その折畳み対向紙片の

内側面に有価証券情報を印字」すること(特徴?に対応)により,有価証券情報を

確実に隠蔽するという作用効果が生ずる。甲1発明の「中紙3」の目的は,あくま

で,用紙の折畳み対向紙片の他方(外紙2)を疑似接着させることであり,有価証




券情報を確実に隠蔽することは,甲1発明の特徴?(その折畳み対向紙片の内側面

に有価証券情報を印字し疑似接着すること)により生ずる作用効果にすぎない。

したがって,甲1発明の「中紙3」(中央面部)の目的は,「プリペイドカード」

に印字されている「有価証券情報」を確実に隠蔽することであると認定した審決は,

甲1発明の課題が,
「有価証券情報」を確実に隠蔽することだけでなく,不良品の発

生が少なく,高速・大量生産に好適で,有価証券情報を正確に伝えることでもある

ことを看過して,この課題に対応する甲1発明の特徴?を看過し,その結果,用紙

の折畳み対向紙片の他方(外紙2)を疑似接着させるという甲1発明の「中紙3」

の目的を,甲1発明の上記特徴?(その折畳み対向紙片の内側面に有価証券情報を

印字し疑似接着すること)により生ずる作用効果と誤認したものである。

A 審決26頁エの判断について

ア 審決は,以下の a),b),c)を考慮して,甲1発明における「プリペイ

ドカード」を,「葉書」に代える動機が甲1には見出せないと判断した。

a) 甲1発明において,隠蔽する必要のある「プリペイドカード」と「中

紙」とは,密接に関連しており,通常,葉書は隠蔽する必要のないものであること。

b) 「プリペイドカード」は,通常,筆記性が要求されるものではないの
に対して,「葉書」は,通常,筆記性が要求されるものであること。

c) 甲2の段落【0002】に「葉書は大きさと厚さが定められている

ので一定の大きさ,特に厚さの基準に合致するため・・・」と記載されているよう

に,葉書には基準が定められていること。

しかし,甲1発明に他の公知発明(周知技術)を適用する動機付けは,甲1発明

と他の公知発明(周知技術)との間で共通する課題や機能・作用等が存在するかで

判断すべきものであり,甲1発明に複数の課題や機能・作用等があり,そのうちの

一つが他の公知発明(周知技術)にはないこと,あるいは,前者にはないが後者に

ある課題や機能・作用は,動機付けではなく,前者に後者を適用することを妨げる

阻害要因として判断すべきものである。




この点,審決が,甲1発明に要求されると認定する上記a)の「プリペイドカー

ド」は隠蔽する必要があること(この認定自体誤りである。)は,甲1発明が有する

複数の課題や機能・作用等の一つである。よって,上記a)の「プリペイドカード」

は隠蔽する必要があることは,動機付けではなく,阻害要因として判断すべきもの

である。また,甲1発明に要求されないと認定する上記b)の「筆記性」や上記c)

の「基準等」も,動機付けではなく,阻害要因として判断すべきものである。動機

付けと阻害要因とではその判断が大きく異なってくるものであり,審決が,阻害要

因として判断すべき上記 a) b),c)を動機付けとして判断したことは,誤りであ


る。

イ 甲1発明における「プリペイドカード」を,
「葉書」に代える動機付け

は,甲1発明の「プリペイドカード」と周知技術としての「葉書」との間で共通す

る課題や機能・作用等(属性)が存在するかで判断されるものである。

ここで,前記のとおり,甲1発明の「中紙3」は,用紙の折畳み対向紙片の他方

(外紙2)を疑似接着させるという目的を有し,折畳み対向紙片の一部に,これを

プリペイドカードとして抜き取り可能とする加工を施すことにより,プリペイドカ


ード」の抜き取りが可能となり,かつ,その折畳み対向紙片の内側面に有価証券情
報を印字することで,有価証券情報を確実に隠蔽するという作用効果が生じ,これ

により,甲1発明の「プリペイドカード」は,「中紙」に疑似接着されて保持され,

抜き取りが可能となり,かつ,印字された「有価証券情報」が確実に隠蔽されると

いう属性(課題や機能・作用等)を有することとなる。そして,この「プリペイド

カード」の,「中紙」から抜き取りが可能となる属性は,「中紙」から分離して使用

するものであるという属性に含まれ,
「有価証券情報」は情報に含まれるから,甲1

発明の「プリペイドカード」は,
「中紙」に疑似接着されて保持され,分離して使用

するものであって,かつ,印字された情報が確実に隠蔽されるという属性(課題や

機能・作用等)を有することとなる。

ところで,用紙の一部が葉書となっており,この葉書を分離して使用するものと




した葉書付き印刷物は,甲2,3や甲14〜16に記載されているように,本件特

許出願前から周知である。また,甲17には,上片1,中片2及び下片3からなり,

各片をZ型の三折形式に折畳んで重ね合わせ面を擬似接着させ,中片2を返信用葉

書とした送り状が記載されており,この返信用葉書となる中片2は,他の部分に疑

似接着して保持され,分離して使用するものに該当する。したがって,甲1発明の

「プリペイドカード」と「葉書」は,少なくとも「中紙」に疑似接着して保持され,

分離して使用するものという属性(課題や機能・作用等)において共通し,前者を

後者に代える動機付けは十分にあるといえる。

なお,甲1発明の「プリペイドカード」と「葉書」とは共通する属性があるため,

前者が有する属性のうち,印字された情報が確実に隠蔽されるという属性は,動機

付けとしての共通する属性であるかを判断する必要はなく,前者を後者に代える際

の阻害要因となるかを判断すれば足りる。

ウ 甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代えることを妨げる阻

害要因があるかを検討するに,上記 a)に関し,審決は,「プリペイドカード」は隠

蔽する必要があると認定しているが,正確には,
「プリペイドカード」は印字された

情報が確実に隠蔽されるという属性(課題や機能・作用等)を有する,である。そ

して,「葉書」に印字された情報が疑似接着により確実に隠蔽されることは,甲5,

6に記載されているように,本件出願前から周知である。よって,
「葉書」に印字さ

れた情報は疑似接着により隠蔽してもよく,印字された情報が確実に隠蔽されるこ

とは,少なくとも,
「プリペイドカード」を「葉書」に代えることを妨げる阻害要因

とはならない。

また,審決は,上記 a)から,「プリペイドカード」の「有価証券情報」は,隠蔽

すべき情報であると判断しているが,これは,誤りである。なぜならば,
「有価証券

情報」を隠蔽することは,
「中紙」と「有価証券情報」を印字した「外紙2」を疑似

接着させることにより生ずる作用効果にすぎず,甲1発明においては,
「外紙2」に

印字する「有価証券情報」が,隠蔽すべき情報かそうでない情報かという情報自体




の種類は問題としないからである。すなわち,甲1発明の「外紙2」には,隠蔽す

べき情報以外の情報が印字され,これが疑似接着により隠蔽されてもよいからであ

る。さらに,後記のとおり,審決が,上記 a)において「通常,葉書は隠蔽する必要

のないものであること」と認定したことも誤りである。

次に,上記 b)に関し,審決が認定するように,「葉書」に要求される「筆記性」

が「プリペイドカード」には要求されないとしても,「プリペイドカード」に「筆記

性」があってもよく,
「葉書」に「筆記性」が要求され,
「プリペイドカード」に「筆

記性」が要求されないことは,
「プリペイドカード」を「葉書」に代えることを妨げ

る阻害要因とはならない。なお,甲1発明の「プリペイドカード」は,
「有価証券情

報」が印字されるものであり,当然に印字適性が要求されるが,印字適性と筆記性

は同義であり(共にインキにより文字を形成できるという性質である。,
) 審決が「プ

リペイドカード」には「筆記性」が要求されないと判断したこと自体,誤りである。

さらに,上記 c)に関し,甲1においては,プリペイドカード付きシートを形成す

る用紙1やプリペイドカード8について,その大きさ,厚さを制限する旨の記載,

すなわち,用紙1やプリペイドカード8の大きさ,厚さについて,甲1発明の「プ

リペイドカード」を「葉書」に代えることを妨げる記載はない。よって,
「葉書」に
定められた「基準」が「プリペイドカード」にないことは,
「プリペイドカード」を

「葉書」に代えることを妨げる阻害要因とはならない。

以上より,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代えることを妨げる阻

害要因は,存在しない。

B 小括

以上より,甲1発明は,
「有価証券情報」を確実に隠蔽すること以外に,不良品の

発生が少なく,高速・大量生産に好適で,有価証券情報を正確に伝えることも課題

としており,甲1発明の「中紙3」は,用紙の折畳み対向紙片の他方(外紙2)を

疑似接着させるためのものであり,この疑似接着により,
「プリペイドカード」の抜

き取りが可能となり,かつ,有価証券情報を確実に隠蔽するという作用効果が生ず




る。そして,甲1発明の「プリペイドカード」と「葉書」は,少なくとも,「中紙」

に疑似接着して保持され,分離して使用するものであるという属性(課題や機能・

作用等)において共通し,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動

機付けは十分にある。

また,プリペイドカード」
「 は印字された情報が確実に隠蔽されるものであること,

あるいは,「葉書」に本審決が認定するような「筆記性」が要求され,「基準」が定

められていることは,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える阻害要

因とならない。

したがって,審決が,甲1発明の課題を看過して「中紙3」の目的を誤認し,甲

1発明の「プリペイドカード」を,隠蔽する必要がなく,筆記性が要求され,さら

に基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1には見出せないと判断したの

は,誤りである。

(3) 審決の甲2,3に関する認定・判断(26頁〜27頁オ〜ク)の誤り

審決は,甲1発明において,
「中紙」の目的との関係で,
「プリペイドカード」は,

隠蔽する必要があるものとの判断を前提に,甲2,3は葉書自体が有する情報を隠

蔽するものではないとして,甲1発明に甲2,3に記載された事項を適用しようと
する動機が見出せないと判断した。

しかし,前記のとおり,甲1発明の「中紙3」の目的は,用紙の折畳み対向紙片

の他方(外紙2)を疑似接着させることにあり,
「有価証券情報」を隠蔽することは,

甲1発明の「その折畳み対向紙片の内側面に有価証券情報を印字し疑似接着するこ

と」により生ずる作用効果にすぎない。甲1発明の「プリペイドカード」に要求さ

れる属性(課題や機能・作用等)は,
「中紙」に疑似接着されて保持され,分離して

使用するものであって,印字された情報が確実に隠蔽されることである。

この点,甲2,3の「葉書」は,印刷物(用紙)の一部を形成し,他の部分に疑

似接着されて保持され,この印刷物から分離して使用するものであるという属性(機

能・作用)を備えている。また,
「葉書」に印字された情報は疑似接着により隠蔽し




てもよく,印字された情報が確実に隠蔽されることは,少なくとも,
「プリペイドカ

ード」を「葉書」に代えることを妨げる阻害要因とはならない。

したがって,甲1発明の「プリペイドカード」を甲2,3の「葉書」に代える動

機付けは十分にあり,阻害要因もなく,甲1発明に甲2,3に記載された事項を適

用しようとする動機が見出せないと判断した審決は,この「プリペイドカード」に

要求される属性(課題や機能・作用等)を誤認し,動機付けと阻害要因の判断を誤

ったものである。

(4) 甲17〜19に関する認定・判断の誤り(審決27頁ケ〜シ)

@ 前提となる認定・判断の誤り

審決は,甲2,3と同様に,甲17〜19の周知技術からは,甲1発明に該周知

技術を適用しようとする動機付けが見出せず,他の甲号証からも甲1発明の「プリ

ペイドカード」に代えて,葉書」
「 を採用することを示唆する記載はないと判断した。

しかし,前記のとおり,甲1発明の「中紙3」は,用紙の折畳み対向紙片の他方

(外紙2)を疑似接着させるためのものであり,
「プリペイドカード」に要求される

属性(課題や機能・作用等)は,
「中紙」に疑似接着されて保持され,分離して使用

するものであって,印字された情報が確実に隠蔽されることであり,審決の上記の
認定・判断は,動機付けと阻害要因の判断を誤ったものである。

したがって,審決が,甲1発明に甲17〜19の周知技術を適用する動機が見出

せなく,他の甲号証に「葉書」を採用する示唆がないと判断したのは,その前提に

おいて誤っている。

A 「ケ」の判断について

審決は,甲1発明の「中紙3」の目的を誤認した結果,
「プリペイドカード」に要

求される属性(課題や機能・作用等)を誤認し,動機付けと阻害要因の判断を誤っ

たものであるが,仮に,審決が認定しているように,甲1発明の「プリペイドカー

ド」は情報を隠蔽すること自体が要求されるとしても,審決の「ケ」の判断(27

頁)は,誤りである。




シートの一部を返信用の葉書とした印刷物において,その葉書に記載された事項

(秘密情報)を隠蔽するために擬似接着ないし接着することは,甲17〜19に示

されているように,本件特許出願前から広く一般に行われている(甲28の8頁下

4行〜末行)。したがって,「葉書」の中には,記載された事項を隠蔽する必要があ

るものも存在し,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機付けは

あるといえる。

この点,審決は,甲17〜19は,いずれも配達や郵送等の受取人が特定される

特殊なシートの返信用葉書であることを前提としているとし,甲1発明の「プリペ

イドカード」は,受取人が特定されているものではないから,甲1発明に甲17〜

19の周知技術を適用しようとする動機付けが見出せないとした。

しかし,甲1の「プリペイドカード」の受取人に関する記載(段落【0028】,

【0030】)によれば,甲1発明の「プリペイドカード」は,店頭等で不特定の者

が購入する場合(段落【0028】の購入者の場合)と,特定の者に郵送する場合

(段落【0030】の「往復はがき」として利用する場合)があり,受取人が特定

されているものといないものの両方を含んでいる。

したがって,甲1発明の「プリペイドカード」を,受取人が特定されていないも
のとして,甲1発明に甲17〜19の周知技術を適用しようとする動機付けが見出

せないと判断した審決は,甲1の記載に反し,誤りである。

そもそも,「葉書」に記載された事項を隠蔽する必要さえあれば,「プリペイドカ

ード」と「葉書」の属性は共通し,隠蔽する必要があると審決が認定した甲1発明

の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機付けは十分あるといえ,
「プリペイ

ドカード」の受取人が特定されているかいないかは,
「プリペイドカード」 「葉書」


自体がもつ属性ではなく,単なる使い方の相違にすぎず,当該動機付けの有無に何

ら影響するものではない。

よって,審決が「プリペイドカード」の受取人が特定されているかいないかによ

って,当該動機付けの有無を判断したことは,誤りである。




B 「コ」「サ」の判断について


審決は,甲17〜19と甲1発明との構成上の相違を挙げ,これと,甲1発明の

「プリペイドカード」に筆記性が要求されず,基準等が設けられていないことから,

甲1発明の「プリペイドカード」に代えて,
「葉書」を採用する動機が見出せないと

判断した(28頁コ)。これは,甲1発明に甲17〜19の周知技術を直接適用する

ことの容易想到性を判断しているに等しいものである。

しかし,甲17〜19は,あくまで葉書に記載された情報を隠蔽することは本件

特許出願前から周知であり,情報を隠蔽する点においても甲1発明の「プリペイド

カード」と「葉書」は共通することを示すものであり,甲1発明に甲17〜19の

周知技術を適用することの容易想到性を判断するためのものではない。

よって,甲17〜19からは,情報を隠蔽する点においても甲1発明の「プリペ

イドカード」と「葉書」は共通し,前者を後者に代える動機付けがあるかだけを判

断すれば十分であり,これを超えて,甲1発明と甲17〜19の組み合わせの容易

想到性を判断した審決は誤りである。

また,前記のとおり,審決が認定する甲1発明の「プリペイドカード」に筆記性

が要求されないこと(これ自体誤りである)や基準等が設けられていないことは,
阻害要因として判断すべきであり,いずれも甲1発明の「プリペイドカード」 「葉


書」に代えることを妨げる阻害要因とはならない。

したがって,審決が,甲17〜19から,甲1発明の「プリペイドカード」に代

えて,「葉書」を採用する動機が見出せないと判断したことは,誤りである。

C 小括

以上より,審決が,甲17〜19の周知技術からは,甲1発明に該周知技術を適

用しようとする動機付けが見出せなく,他の甲号証に「葉書」を採用する示唆がな

いと判断したことは,その前提とする認定・判断において誤っている。仮に,審決

が認定しているように,甲1発明の「プリペイドカード」は隠蔽すること自体が要

求されるとしても,隠蔽すること自体が要求される葉書は,甲17〜19から周知




であり,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機付けはあるとい

える。

また,甲1発明と甲17〜19の構成の相違は,当該動機付けを妨げるものでは

なく,甲1発明の「プリペイドカード」に審決が認定する筆記性が要求されないこ

とや基準等が設けられていないことは,阻害要因として判断すべきであるが,その

ような阻害要因もない。

したがって,甲1発明の「プリペイドカード」は,受取人が特定されていないと

して,あるいは,構成が相違し,筆記性が要求されず,基準等が設けられていない

として,当該動機付けを否定する審決は,誤りである。

(5) 審決の相違点3の判断の誤り

審決は,相違点3について,広告用印刷物とすることまでは,当業者が容易にな

し得る程度のことと判断しているが,相違点2の判断に基づき,甲1発明における

「プリペイドカード」を「葉書」に代えることは想到容易といえないから,甲1発

明において,葉書付き広告用印刷物とすることまでは,当業者が容易になし得る程

度のこととはいえないと判断した。

しかし,前記のとおり,甲1発明において,相違点2に係る構成を採用すること
は当業者が容易に想到し得る程度のものであり,葉書付き広告用印刷物とすること

も同様に当業者が容易になし得る程度のものである。

したがって,甲1発明において,相違点3に係る構成を採用することは当業者が

容易に想到し得る程度のものであり,これを否定する審決は誤りである。

(6) まとめ

以上より,審決が,甲1発明の「中紙3」は,
「プリペイドカード」に印字されて

いる「有価証券情報」を確実に隠蔽するためのものであると認定し,甲1発明にお

ける「プリペイドカード」を隠蔽する必要がなく,筆記性が要求され,さらに基準

が定められている「葉書」に代える動機が甲1には見出せないと判断したのは,誤

りである。




また,この誤った認定・判断を前提として,甲1発明に甲2,3に記載された事

項,あるいは,甲17〜19の周知技術を適用しようとする動機が見出せないと判

断したことは,誤りである。

そして,甲1発明の「中紙」は,用紙の折畳み対向紙片の他方(外紙2)を疑似

接着させるためのものであり,甲1発明の「プリペイドカード」と「葉書」は,
「中

紙」に疑似接着して保持され,この分離して使用できるものであるという属性が共

通し,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機付けは十分にある

といえ,「プリペイドカード」に審決が認定するような隠蔽性が要求され,「葉書」

に審決が認定するような筆記性が要求され,
「基準」が定められていることは,いず

れも阻害要因とはならない。

仮に,審決が認定しているように,甲1発明の「プリペイドカード」は隠蔽する

こと自体が要求されるとしても,隠蔽すること自体が要求される葉書は,甲17〜

19から周知であり,甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機付

けはあるといえ,
「プリペイドカード」の受取人が特定されていないとして,あるい

は,構成が相違し,筆記性が要求されず,基準等が設けられていないとして,当該

動機付けを否定したことは,誤りである。
したがって,訂正発明1は,甲1発明から当業者が容易に発明できたものであり,

甲1発明の「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機付けがなく,相違点2は

当業者が容易に想到できないとして,これを否定する審決は,訂正発明の技術的意

義及び甲1の技術的内容を誤認し,甲1発明に公知発明(周知技術)を適用する動

機付けと阻害要因の判断を誤ったもので,誤りである。

よって,審決が,訂正発明1は,甲1に記載された発明及び甲各号証に記載の周

知技術から当業者が容易に発明することができたものでないと主張する原告の理由

を採用することはできないと判断したことは,誤りである。同様に,審決が,訂正

発明2は,訂正発明1を更に限定したものであるから,訂正発明1と同様に,甲1

に記載された発明及び甲各号証に記載の周知技術から当業者が容易に発明すること




ができたものでないと主張する請求人の理由を採用することはできないと判断した

こと(28頁19行〜22行)は,誤りである。



第4 参加人の反論

1 取消事由1に対し

訂正明細書の段落【0026】には,
「分離して使用するもの4(例えば葉書等)」

と明記されていること,訂正明細書には,
「分離して使用するもの,たとえば葉書等」

(段落【0001】,
)「葉書,チケット,クーポン券等の分離して使用するもの」
(段

落【0006】,
)「分離して使用するものが葉書,チケット,又はクーポン券である

ことが好適である」
(段落【0009】,
)「分離して使用するものが葉書の場合には,

すぐに葉書を出してもらえるというレスポンス向上の期待がさらに多くなり」段落


【0012】 との記載があることに加え,
) 訂正発明の実施例である【図5】 【図
及び

6】では,分離して使用するもの4が縦長の長方形にて描かれているところ,訂正

明細書中で,
「分離して使用するもの」の葉書以外の例として挙げられているチケッ

トやクーポン券は,横長の長方形であることが多いことに鑑みれば,
【図5】 【図
及び

6】の「分離して使用するもの」は,葉書を念頭において描いたものであると当業
者は解釈することは自明であるに照らすと,訂正明細書及び図面には,
「分離して使

用するもの」を「葉書」に限定した,訂正発明及びその実施例が記載されているた

め,訂正発明は,特許法36条6項1号の規定に違反しているとはいえない。



2 取消事由2に対し

(1) 訂正前発明は無関係であること

ア 審決では訂正が認められているから,審決で問われるべきは訂正発明が

甲1発明に関して特許性があるか否かであって,訂正前発明が甲1発明に関して特

許性があるか否かは問題とならない。

イ 訂正前発明の特許性について議論するとしても,訂正明細書の段落【0




012】に記載されているように,
「分離して使用するもの」が葉書の場合とチケッ

ト・クーポン券等の場合では想定されている作用効果に違いがある。すなわち,チ

ケットやクーポン券等の場合には,その性質上,原則として消費者に特別な利益を

もたらすものであるから,訂正発明のような特別な工夫をしなくても,消費者が自

ら自発的にこれを切り離すことが期待される。これに対し,広告用印刷物に付属さ

れた葉書の場合には,例えば,資料請求用葉書や商品購入申込用葉書など,一般に

大量に不特定多数の一般消費者に送り付けられ,また,多くが商品や通信教育など

の案内など,必ずしも直ちに消費者に特別な利益をもたらすとはいえない場合も多

い。このような葉書の場合には,よほどの工夫を凝らさないと,葉書付き広告用印

刷物を手にした消費者は,それをそのまま廃棄等することも多々あるところであり,

事実,葉書のレスポンス率が極めて低いという問題があった。この問題を解決する

訂正発明の場合は,消費者が,擬似接着された印刷物を開くと自動的に葉書が外枠

から切り離され,当該一方の側面部を開いても該葉書が付いてこない」
「 ことになる。

これによって,チケット・クーポン券等と比較して,わざわざ切り取って使用する

ことに興味・動機がなかった消費者も,自動的に葉書を手にすることになり,レス

ポンス率の向上が得られることになる。
このように,訂正発明1と本件訂正前発明を比較するとしても,
「葉書」に限定さ

れた訂正発明1は,より優れた技術的意義を有している。

(2) 甲1に関する「ウ」「エ」の認定・判断につき(審決26頁ウ,エ)


ア 「ウ」の認定につき

原告は,甲1発明の特徴は?,?であるとして,特徴?の部分については,有価

証券情報を確実に隠蔽することは関係ないと主張する。

しかし,特徴?にせよ,特徴?にせよ,甲1発明は,有価証券情報を印字したプ

リペイドカードに係るものである以上,プリペイドカードに印字された有価証券情

報を確実に隠蔽する必要があることは,当然の前提である。そして,
「通常,葉書は

隠蔽する必要のないものである」(審決27頁27行)。そうすると,甲1発明にお




ける「プリペイドカード」を,隠蔽する必要がなく,筆記性が要求され,さらに大

きさ・厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せな

いとした審決の判断は妥当である。

イ 「エ」の判断につき

(ア) 原告主張の a),b),c)は,動機づけがないことの論拠となりうるものであ

り,原告の主張は誤りである。すなわち,特許・実用新案審査基準には,進歩性

判断において動機づけとなり得るものとして,課題の共通性等が挙げられている。

そして,隠蔽する必要の有無(a),筆記性の要求の有無(b),大きさ・厚さの基

準の有無(c)の相違は,課題に共通性がないことの根拠となり,したがって,動

機づけがないことの根拠となるものである。

また,上記 a),b),c)を阻害要因として判断するとしても,これらは阻害要因となる。

すなわち,隠蔽する必要の有無(a)に関しては,甲1の考案の課題として,
「有価

証券情報を確実に隠蔽できる」(段落【0009】)ことが挙げられているとおり,

甲1発明は,プリペイドカードの有価証券情報を隠蔽するためのものである。した

がって,このような甲1発明を,隠蔽する必要のない,むしろ,多くの需要者の閲

覧を獲得する要求がある広告物に付属する葉書に転用するという発想は,阻害され
ていたといえる。

筆記性の要求の有無(b)に関しては,プリペイドカードに関する甲1発明にお

いては,消費者は,シートから抜き取られたプリペイドカードに記載された有価証

券情報を知得することに興味があるのであって,当該プリペイドカードに新たに筆

記する必要はない。むしろ,重要な有価証券情報が記載されたプリペイドカードが

汚れてしまわないように,汚れをはじく,ツルツルした表面とするのが通常であり,

鉛筆やペンでその上から文字を記載することが非常に困難であるのが通常である。

これに対して,広告物に付属する葉書においては,訂正明細書の段落【0009】

にも記載のとおり,切り取った葉書に対して,消費者が,住所・氏名や商品の選択

について,筆記により情報を追加した上で返信する必要がある。しかし,葉書の接




着のために,従来からの通常の擬似接着剤を使用すると,その上からさらに鉛筆や

ボールペン等によって筆記することが,非常に困難になってしまう。そこで,筆記

性を要求されないプリペイドカードに関する甲1発明を,筆記性を要求される広告

物に付属の葉書に転用する発想に至るには,阻害要因があったといえる。なお,原

告は,甲1発明のプリペイドカードには有価証券情報が「印字」されるから当然に

筆記性も有する旨主張するが,製造段階で文字等が印字されることと,完成品の上

からペンや鉛筆で筆記することができる筆記性を有することは全く別のことである。

大きさ・厚さの基準の有無(c)に関しては,訂正発明の葉書の場合は,郵便法

や関連規則によって大きさ・厚さ・重量が制限されている。甲1発明を単純に葉書

付き広告用印刷物に転用する場合には,郵便法等によって制限されている大きさ・

厚さ・重量から外れてしまい,そもそも葉書付き広告用印刷物として機能できなく

なる可能性がある。また,甲1の図面において,プリペイドカード8をカードの通

常の大きさのものであるとすると,それを保持するプリペイドカード付きシートS

1〜S4は,およそ葉書程度の大きさである。加えて,甲1の明細書の段落【00

30】にも,
「なお,この図4のプリペイドカード付きシートS3は往復はがきとし

て利用することができる。」と記載されている。そうすると,甲1においては,抜き
取って利用されるプリペイドカードを保持するプリペイドカード付きシートの大き

さが葉書程度の大きさなのであるから,甲1に記載の発明のプリペイドカードを単

純に葉書に置き換えると,もはや保持シートによって保持することができなくなっ

てしまう。よって,この点からも,プリペイドカードに係る甲1発明を葉書に転用

することには,阻害事由があるといえる。

(イ ) 一般に,無効審判の請求人が,進歩性の欠如を主張立証するためには,

「主引用発明と副引用発明の組合せに阻害要因がないこと」といった消極的事実の

主張立証では不十分であり,組合せのための示唆,動機づけ等が存在することの積

極的事実の主張立証が必要である。そして,阻害要因の有無が問題となるのは,無

効を主張する原告が,上記の組合せが容易であることを主張立証し得た後に,抗弁




的な位置づけで議論される場合である。

この組合せの容易性について,原告は,@擬似接着とA分離して使用するという

共通点のみをもって,動機づけの根拠として主張している。しかし,これは,有価

証券情報を含むプリペイドカードに関する発明である甲1発明を,異なる分野であ

る葉書付き広告用印刷物の葉書に応用するための積極的な動機づけとはならず,容

易想到性の根拠とはならない。原告の主張は,引用発明と特許発明にわずかでも何

らかの共通点があれば,当業者は容易に想到し得るというに等しい。

(ウ ) 広告用印刷物は,
「商業印刷」と呼ばれる技術分野に属するのに対し,

プリペイドカードないしプリペイドカード付きシートは,「ビジネスフォーム印刷」

と呼ばれる技術分野に属し,甲1のプリペイドカード付きシートと,訂正発明の広

告用印刷物とでは,技術分野が大きく異なる。商業印刷とビジネスフォーム印刷と

は,印刷対象,印刷方法,印刷装置,需要者層等が大きく異なるため,通常は,同

一の事業者・事業部門が両方を行うことは少なく,異なる事業者・事業部門が,異

なる装置を使ってこれらの印刷を行うものである。

(エ ) 訂正発明の技術的課題は,葉書を広告用印刷物より切り取る必要がな

く,かつその周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告用印刷物に付いて
いて紛失させることなく,しかも手間がかからず葉書を利用することができる印刷

物を提供することである(訂正明細書段落【0006】)のに対し,甲1発明の技術

的課題は,製造過程での不良品の発生が少なく,高速・大量生産に好適で,かつカ

ード購入者にキーワード等の有価証券情報を正確に伝えることができ,また当該有

価証券情報を確実に隠蔽できるプリペイドカード付きシートを提供することであり

(甲1の段落【0009】,広告用印刷物に関する訂正発明と,プリペイドカード


付きシートに関する甲1に記載の発明とでは,技術的課題が異なる。すなわち,訂

正発明は,広告用印刷物として,消費者に興味をもたせ,かつ,葉書のレスポンス

率の向上を目的とするのに対して,甲1発明は,有価証券情報を確実に隠蔽するこ

とを目的としており,これらの課題は全く異なる。




訂正発明は,広告用印刷物であるため,擬似接着された中身の情報に特に秘密性

はないが,消費者に興味を持たせ,広告面積を増加させるために擬似接着の構造に

して,さらに,葉書のレスポンス率を向上させるため,消費者が葉書をはさみなど

で切り取る手間がかからないように,擬似接着を開くだけで自動的に葉書が一方の

側面部から分離されるような仕掛けを施したものである。また,擬似接着で中身を

隠すことで,中に何が書いてあるか知らない消費者に対して,中身に対する興味を

抱かせるという効果も生じさせることができる(訂正明細書段落【0012】。こ


れに対し,甲1発明では,消費者がプリペイド(前払い)した代金の対価の商品そ

のものである有価証券情報を確実に隠蔽するという要請がある。また,消費者は,

前払いまでして購入したカードであり,当然,擬似接着部分を開く前から,その中

に有価証券情報が記載されているということは分かっており,むしろその数字ない

し記号等の配列を知るために,擬似接着部分を開くのであるから,訂正発明の場合

と異なり,擬似接着で隠すことによって,消費者の興味を更に増加させるというよ

うな効果は存在しないし,全く想定されていないという,大きな相違がある。

(オ ) 訂正発明と甲1発明とでは,発明の効果が全く異なる。すなわち,訂

正発明の効果は,印刷物に付いている葉書を切り取ろうとする意思を持たずに,印
刷物を開くと自動的に手にすることになり,葉書の使用者へのアピール力が高く,

すぐに返信してもらえるというレスポンス向上の期待がさらに多くなるという効果

がある(訂正明細書段落【0012】。これに対し,甲1発明の効果は,スクラッ


チによらず,折畳み対抗紙片どうしの擬似接着により有価証券情報が隠蔽されるこ

とから,カード購入者に有価証券情報を正確に伝えることと,その有価証券情報を

確実に隠蔽することができるとともに,カード製造過程からスクラッチ塗布工程を

省略することで,カードの汚れや欠け等のカード不良を減少させることが可能とな

り,また高速NIP(ノンインパクトプリンタ)による印字方式を採用することが

でき,高速・大量生産にも好適である等である(甲1の段落【0035】。


(カ ) 訂正発明と甲1発明とでは,サイズ・形状が異なる。すなわち,訂正




発明は,葉書付き広告用印刷物なのであるから必ず葉書の大きさより大きく,最大

値の制限は特になく,広告としての効果を狙って大きくすることもできる。また,

形状も広告としての効果を狙って様々に工夫することができる。これに対し,甲1

発明は,プリペイドカード付きシートなのであるから,大きさの最小値はカードの

大きさであり,また,プリペイドカードを保持して確実に消費者に届けるというこ

とが唯一にして最大の目的なのであるから,大きさとしては,封筒にちょうど入る

大きさなど,ある程度定型的なものに限られる。また,甲1発明の形状も,上記の

目的に鑑みて,整理・移動・保管の際に紛失・毀損・汚損することのないように,

実質的に長方形に限られる。

(キ ) 訂正発明と甲1発明では,消費者ないし交付の相手方となる対象者が

全く異なる。すなわち,訂正発明は,広告用印刷物なのであるから,未だ契約をし

ていない不特定多数の者に対して商品やサービスの購入等の契約を誘引するために,

同一の内容を印刷して交付されるものである。これに対し,プリペイドカードは,

「プリ(前もって)「ペイド(支払われた)
」 」という語源から明らかなとおり,既に

契約を締結して代金を前払いした特定の購入者に対して交付されるカードであって,

カード毎に異なる特定の番号や電磁記録を有するものである。
(ク ) 本件特許出願時においては,プリペイドカード付きシートに係る甲1

発明は実際には実施されていなかったか,少なくとも周知とはなっていなかった。

また,甲2,3に記載のような,擬似接着を用いた広告用印刷物も一般的なもので

はなかった。したがって,これらを組み合わせることは,容易ではなかった。

(ケ ) 訂正発明と甲1発明とでは,情報を隠蔽する目的が全く異なる。訂正

発明では左右の側面部を中央面部に折り重ねているので,これらが相互に接してい

る面,すなわち,中央面部の内面と左又は右側面部の内面で,葉書を除く部分に広

告用の印刷を施すことができる。訂正発明の対象とする広告用印刷物では,印刷物

の内容を不特定多数の人に見てもらうことが最も基本的な目的で,とりわけ,葉書

付きの印刷物では,広告主にとって,いかに葉書の返信率を高めるかが極めて重大




な関心事になっている。広告内容を見てもらうことが最も基本目的なので,広告情

報は本来隠す必要がないが,一過性の接着剤により紙を貼り合わせることでこれを

あえて隠すことにより見る人の興味を喚起し,しかも,紙の貼り合わせにより,印

刷物を流通段階でコンパクトにすることで経済性も向上させるようにしたのが,訂

正発明の従来技術である(訂正明細書の段落【0003】の特許文献2)
(新聞の折

り込みチラシなどは,チラシの大きさによって広告料金が変わるため,折りたたん

で擬似接着することでコンパクトにすることで,広告料金を低額にすることができ

る。。この従来技術(訂正明細書段落【0003】の特許文献2)では,隠すこと


で興味を喚起して,返信率の向上に寄与することができるが,葉書の切り離し作業

を伴うので,予想したほど返信率の向上には繋がらなかった。そこで,訂正発明で

は,一方の側面部を開くことで周囲の切り込みから葉書が分離され,側面部にあっ

た葉書が中央面部に残るようにしてサプライズを演出し,しかも,この段階では,

葉書により中央面部の情報が隠されているので,隠すことで喚起した興味が継続さ

れる。そして,中央面部から葉書を手に取った段階で,葉書及び中央面部に隠され

ていた情報が全て見えるようにしており,情報の全てを見た状態では,葉書を手に

持っているので,返信率の向上を図ることができる。
これに対して,甲1発明では,プリペイドカードに印刷されている有価証券情報

7は,不特定多数の人に見てもらうものではなく,隠蔽の目的は,購入者以外の第

三者に見られていないことを保証するための手段であり,隠蔽の目的が全く異なる。

したがって,甲1発明に,葉書付き広告用印刷物が開示されている甲各号証を組

合わせる動機付けがない。また,返信用の葉書に印刷されている情報は,隠す必然

性がないものであって,有価証券情報を確実に隠蔽する必然性があるプリペイドカ

ードに代替する動機付けもない。

(コ ) 訂正発明と甲1発明とでは,用途が大きく異なる。すなわち,訂正発

明の葉書は,返信させることを目的としており,双方向的な用途のものである。こ

れに対して引用発明1のプリペイドカードは,返信を目的としておらず,一方的に




事業者から購入者に対して交付されるものである。

(サ ) 以上のとおり,訂正発明と甲1発明とでは,技術分野,技術的課題,

発明の効果,サイズ,形状,対象者等が全く異なるのであるから,甲1発明から相

違点2に容易に想到できたとはいえない。

(3) 審決の甲2,3に関する「オ」〜「ク」の認定・判断について(26頁オ

〜ク)

原告は,甲1発明における「情報を確実に隠蔽すること」は,「目的」ではなく,

「作用効果」であるということを根拠に,審決の判断が誤りである旨主張する。し

かし,問題は,原告が副引用例として主張する,葉書に関する発明である甲2,3

発明を,
「プリペイドカード」に関する発明である甲1発明と組み合わせる動機づけ

があるか否かである。原告は,@擬似接着とA分離して使用するという共通点のみ

をもって,動機づけの根拠として主張しているが,これだけでは,異なる分野の技

術を応用するための積極的な動機づけということはできない。

(4) 甲17〜19関する認定・判断について(27頁ケ〜シ)

原告は,プリペイドカードも葉書も,記載された事項を隠蔽する場合があるとい

う点のみをもって,甲1の「プリペイドカード」を「葉書」に置き換えることが容
易であると主張する。確かに,葉書において記載された事項を隠蔽する必要がある

場合があり,その点で,甲1のプリペイドカードと共通性を有する場合はあるかも

しれない。

しかし,2つの技術分野に何らかの属性の共通性があれば,それのみをもって置

き換えが容易であるということはできない。甲1発明は,甲 1 の明細書の段落【0

001】にあるとおり,プリペイドカード付きシートに関するものであり,当該技

術分野に限定された発明である。他方,甲17〜19の発明は,各明細書に記載の

とおり,「送り状,詳しくは返信用葉書付き送り状」(甲17)「封書,さらに詳し


くは,返信用葉書等の返信用通信体を具備した封書であって,主としてダイレクト

メール用としての印刷表示を隠蔽して郵送しうる封書」
(甲18),
「隠蔽情報…を隠




蔽して伝達するのに適した三つ折り封書を作成するための封書用フォーム」(甲1

9)に関するものである。このように,甲1発明と甲17〜19に記載の発明とで

は,技術分野が異なる。

また,甲17〜19は,封書等に関するものであるから隠蔽すべき情報が記載さ

れているのはむしろ通常であり,必然性がある。これに対し,訂正発明は,封書等

ではなく,情報を隠蔽する必然性がない葉書付き広告用印刷物に関するものである。

したがって,封書等に関する甲17〜19をもって,甲1発明におけるプリペイ

ドカードを葉書に置き換えて,葉書付き広告用印刷物に関する訂正発明に想到する

ことについての動機づけがあるとはいえない。

また,原告は,甲1発明について,甲1の段落【0030】の末文の実施例のよ

うに特定の者に販売する場合もあり,この点で甲17〜19と共通するとも主張す

る。しかし,甲1の段落【0030】の末文の実施例は,プリペイドカード付きシ

ートの全体が葉書ないし往復葉書の場合であるから,シート全体よりも小さくなく

てはならないという制約を有する「分離して使用するもの」を葉書とすることはで

きず,阻害要因がある。

(5) 相違点3の判断につき
前記のとおり,甲1発明において,プリペイドカードを葉書に代えることは容易

想到ではないから,相違点3も容易想到ではない。

したがって,相違点3に関して,審決の判断は妥当である。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(特許法36条6項1号違反の判断の誤り)について

訂正明細書の【技術分野】(段落【0001】,
)【発明が解決しようとする課題】

(段落【0004】 0006】,

, )【課題を解決するための手段】
(段落【0009】,


【発明の効果】
(段落【0012】)の記載に照らせば,
「分離して使用するもの」と

して例示された「葉書」は,「分離して使用するもの」の具体的な一態様といえる。




また,本件特許に係る発明は,訂正明細書中の第2の実施例(【図5】【図6】
, )に

相当するが,この実施例に関する説明として「分離して使用するもの4(例えば葉

書等)(段落【0026】
」 )と記載されており,「分離して使用するもの4」が図示

された形状に限られない旨が記載されている(段落【0023】。よって,
) 「分離し

て使用するもの」に関する上記実施例は,葉書」
「 に関する実施例とみることができ,

「葉書」に係る訂正発明は,訂正明細書実施例として記載されているものと認め

られる。訂正発明は特許法36条6項1号の規定に違反していないとした審決の判

断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。



2 取消事由2(訂正発明1,2の進歩性の判断の誤り)について

(1) 訂正発明1,2について

訂正明細書(甲7,25)によれば,訂正発明につき,次のことを認めることが

できる。訂正発明は,中央面部又は一方の側面部に分離して使用するもの(例えば

葉書等)が印刷され,かつその葉書等の周囲に切り込みが入っている印刷物に関す

るものであるところ,分離して使用するもの(葉書,チケット,クーポン券等)を

広告等の印刷物より切り取る必要がなく,かつその周囲に切り込みが入っているに
もかかわらず,広告等の印刷物に付いていて紛失させることなく,しかも手間がか

からず葉書,チケット,クーポン券等の分離して使用するものを利用することがで

きる印刷物を提供することを課題とし,その解決手段として,左側面部(2)と右

側面部(3)が中央面部とからなる印刷物であって,一方の側面部には,所定の箇

所に所定の大きさの分離して使用されるものが印刷されており,当該分離して使用

するものが落下しないように,当該分離して使用するものの裏面の中央面部に重な

る所定の部分,及び/又は中央面部の裏面の当該分離して使用するものに重なる所

定の部分に一過性の粘着剤が塗布されていること,当該左側面部の裏面及び当該右

側面部の裏面,及び/又は当該中央面部の裏面の分離して使用するものを除く所定

の部分に一過性の粘着剤が塗布されており,そのため,当該左側面部の裏面及び当




該右側面部の裏面を当該中央面部の方へ折った場合,当該中央面部に貼着し,かつ

中央面部は当該分離して使用するものに貼着すること,当該分離して使用するもの

の周囲に切り込みが入っていることからなるという構成を採用したものである。

(2) 甲1発明について

甲1によれば,甲1発明につき,次のことを認めることができる。甲1発明はプ

リペイドカードを添付してなるプリペイドカード付きシートに関するものである。

従来のプリペイドカードには磁気読取り方式や情報表示方式があるが,情報表示方

式とは,磁気記録層を持たず,キーワード等の情報を掲載表示するだけの方式であ

って,例えば情報としてキーワードを表示した場合,そのキーワードをカード提携

会社に連絡すると,カード購入時に購入者が先払いした金額相当のサービスを当該

カード提携会社から受けることができるというものである。従来の情報掲載方式の

プリペイドカードにおいては,カード基材の表面に表示された情報に財産的価値が

あり,該情報(有価証券情報)の盗用を防止するために有価証券情報上にスクラッ

チを塗布して有価証券情報を隠蔽し,カード購入者のみがスクラッチをコイン等で

擦って有価証券情報の取得ができるようにしていた。しかし,このような従来のプ

リペイドカードはスクラッチの塗布行程等が複数にわたることからカード製造工程
でカードの汚れ,有価証券情報等の欠損等の不良が発生しやすい,スクラッチを強

く擦りすぎると有価証券情報までも擦り取られてしまうおそれがある,スクラッチ

は構造上コイン等で容易に擦り落とせるものであるため,利用者による購入前にス

クラッチが剥がれ落ちてしまう可能性などの不具合があった。甲1発明は,製造過

程での不良品の発生が少なく,高速・大量生産に好適で,かつカード購入者にキー

ワード等の有価証券情報を正確に伝えることができ,また当該有価証券情報を確実

に隠蔽できるプリペイドカード付きシートを提供することを課題とし,その解決手

段として,用紙を折り畳み,その用紙の折畳み対向紙片同士を疑似接着してなると

ともに,上記折畳み対向紙片の内側面に有価証券上を印字し,その有価証券情報の

印字部を含む上記折畳み対向紙片の一部に,これをプリペイドカードとして抜き取




り可能とする加工を施してなるということを採用したものである。そして,折畳み

対向紙片同士の疑似接着により有価証券情報が隠蔽し,カード購入者に有価証券情

報を正確に伝えるとともに,カード製造過程からスクラッチ塗布行程を省略するこ

とでカードの汚れや欠け等のカード不良を減少させることが可能となるという効果

があるものである。また,キーワード等の有価証券情報が印字された部分はプリペ

イドカードとして抜き取って携帯することができるものである。

(3) 上記(2)からすれば,甲1発明は,プリペイドカードに記載された情報の隠

蔽を課題とするものであることが認められる。

一方で,甲1発明は,前記のとおり,

「用紙を折畳み,その用紙の折畳み対向紙片どうしを擬似接着してなるとともに,

上記折畳み対向紙片の内側面に有価証券情報を印字し,その有価証券情報の印字

部を含む上記折畳み対向紙片の一部に,これをプリペイドカードとして抜き取り可

能とする加工を施してなるプリペイドカード付きシートであって,

前記用紙は,中紙3と中紙3の両側の一の外紙2と他の外紙4からなる用紙1を

用い,一の外紙2は中紙3の方へ折られて重ねられ,中紙3と他の外紙4を永久接

着せず,常時開いた状態に設け,一の外紙2の擬似接着面2a側に有価証券情報7
を印字するとともに,中紙3と一の外紙2をオープンタイプフィルム5で疑似接着

し,その有価証券情報7の印字部を含む外紙2の一部に,これをプリペイドカード

8として抜き取り可能とする抜き型での加工を施し,

前記抜き型による加工は,スリット9が,外紙2を切断し,オープンタイプフィ

ルム5の一方のフィルム5aをほぼ切断する深さとなるように有価証券情報7の印

字部外周に施されたものであり,

前記疑似接着の手段としてのオープンタイプフィルム5は,糊状のものを適用す

ることができる

プリペイドカード付きシート。」

であるが,上記下線部分,すなわち,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型




による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,こ

れは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず,

利用者による携帯を予定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有

価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設け

られたものと解される。すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカー

ドを分離して使用できるようにすることも,請求項1〜8にその構成が包含されて

いるのみならず,考案の詳細な説明の段落【0010】【0024】【0026】
, , ,

【0030】【0031】【0035】にその構成が独立して説明されている事項
, ,

であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。

そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券

情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一

部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリ

ペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機

付けを包含するものというべきである。

かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,

本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(特開2004−133065
号公報〔甲3〕,特開平3−55272号公報〔甲16〕。そして,広告の一部に返


信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明ら

かである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するも

のとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当

業者にとって容易想到であるというべきである。

(4) 別の角度からみるに,返信用葉書を備え付けた郵便物であって,当該返信

用葉書に受取人の個人情報(氏名・会員番号・生年月日・電話番号・性別・住所な

ど) 預金残高,
, 借入金額などの隠蔽すべき情報が予め記載されたものも本件出願前

において周知の技術であった認められる(特開2000−177277号公報〔甲

17〕特開平2−108073号公報のマイクロフィルム
, 〔甲19〕。
)したがって,




隠蔽されるべき情報が記載され,かつ,顧客等に送付ないし交付される郵便物や書

面から分離して使用されるべきものとしてプリペイドカードと葉書は共通する一面

を有しているといえるから,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を

採用することは当業者にとって容易想到であるということもできる。

いずれにせよ,この判断と異なり,甲1発明の「プリペイドカード」に代えて「葉

書」を採用することは想到容易でないとし,甲1発明との間の相違点2,3に係る

訂正発明1の構成は容易想到ではないとした審決の判断は誤りであり,これを前提

とした訂正発明1,2についての容易想到性判断は誤りである。

(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさ

や厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないと

した。しかし,筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,
「分離して使

用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペ

イドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離さ

せることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,
「葉書」に筆

記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,
「プリペイドカ

ード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべきである。


第6 結論

以上より,原告の主張する取消事由2(訂正発明1,2の進歩性の判断の誤り)

には理由があり取消しを免れないから,原告の請求を認容することとして,主文の

とおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部



裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

真 辺 朋 子




裁判官

田 邉 実