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関連審決 無効2011-800009
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成23行ケ10208審決取消請求事件 判例 特許
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平成23行ケ10431審決取消請求事件 判例 特許
平成23行ケ10315審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 24年 (行ケ) 10038号 審決取消請求事件

原告 株式会社岡村製作所
訴訟代理人弁護士 三村量一
同 中島慧
同 高島 茉莉恵
訴訟代理人弁理士 重信和男
同 小椋正幸
同 清水英雄
同 溝渕良一
同 堅田 多恵子
被告 日本ファイリング株式会社
訴訟代理人弁護士 鮫島正洋
同 和田祐造
同 小栗久典
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/12/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2011−800009号事件について平成23年12月21日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「図書保管管理装置」とする特許第2851237号(平成6年4月20日出願,平成10年11月13日設定登録,請求項の数7。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成23年1月19日(差出日),特許庁に対し,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2及び7に係る発明についての特許を無効にすることを求めて審判を請求した(無効2011-800009号)。
被告は,平成23年5月16日付けで訂正請求書(甲37)を提出し,特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
特許庁は,平成23年12月21日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年12月28日に原告に送達された。
2 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項の記載 (1) 請求項1の記載(本件訂正発明1) 「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,この複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と,各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあ るコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する搬送手段と, この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し, 前記書庫の複数の棚領域には,前記搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容され, 前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられていることを特徴とする図書保管管理装置。」 (2) 請求項2の記載(本件訂正発明2) 「前記移載手段は,前記手前側のコンテナを前記棚領域から取り出す取り出し機構と,前記奥側のコンテナを手前側に移動させる移動機構とを備え,前記奥側のコンテナは,前記移動機構によって手前側に移動させた状態で,前記取り出し機構によって棚領域から取り出されることを特 徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。」(3) 請求項7の記載(本件訂正発明3)「前記移載手段は,前記手前側のコンテナ及び前記奥側のコンテナを選択的に取り出して保持可能な第1及び第2の取り出し手段を備え,前記第1の取り出し手段で前記手前側のコンテナを取り出し保持させた状態で,前記第2の取り出し手段で前記奥側のコンテナを取り出して前記ステーションへの搬送に供させることを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。」3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。
(1) 結論ア 本件訂正は適法である。
イ 無効理由(進歩性)について 本件訂正発明1ないし3は,いずれも,甲第4号証(特開平5-151233号公報)に記載された発明(以下「甲4発明」という。),甲第1号証の3,同第2号証の3又は同第3号証の3に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び甲第5号証 (特開昭49-80780号公 報)に記載された発明(以下「甲5発明」という。)並びに甲第6号証ないし同第11号証,同第15号証ないし同第18号証,同第20号証ないし同第29号証に基づく従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
したがって,本件訂正発明1ないし3は,特許法29条2項違反を理由とする無効理由を有しない。
(2) 審決の認定 ア 甲4発明の内容 「書棚11を有する書庫と,書庫内に設置された書棚11に複数の図書33をケース13とともに収容する複数のコンテナ12と,この複数のコンテナ内の図書33の前記書庫内における格納ロケーションと,各コンテナ12に収容された複数の図書に付されたバーコード35のデータとをケース13のデータとともに対応させて記憶するハードディスク47と,貸し出しが要求された図書33のコードを入力することにより,前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて,該要求図書33がケース13とともに収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出してステーション(例えば,図10の26,30,31)にスタッカークレーン75,搬送コンベア77,搬送コンベア80,搬送コンベア82により搬送するとともに,返却が要求された際に複数の前記コンテナの中から所望のコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送し,返却が要求された図書に付されたバーコード35のデータとを任意のケース13のデータとともに入力することにより,前記返却図書がケース13とともに収容されたコンテナを書棚11内における格納ロケーションにスタッカークレーン75,搬送コンベア77,搬送コンベア80,搬送コンベア82により搬送する手段と,この搬送する手段により前記ステーションに搬送されて, 前記要求図書33に対する格納ロケーションや各コンテナ12に収容されたケースと図書のデータを対応させて記憶していた前記ハードディスクの記憶内容を削除し,または,前記返却図書を収容したケース13の書棚11内における格納ロケーションをハードディスク47へ新たに記憶させることにより,前記ハードディスクの記憶内容を更新する手段とを具備する図書入出庫管理装置。」 イ 本件訂正発明1と甲4発明の一致点「複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容された複数の図書を収容する複数のコンテナと,書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段により,前記ステーションに搬送されて,前記要求図書または前記返却が要求された図書の情報を入力することにより,前記要求図書または前記返却図書に関する前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備する図書保管管理装置。」である点。
ウ 本件訂正発明1と甲4発明との相違点 (ア) 相違点1 書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して,本件訂正発明1においては,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」と「それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」とを採用しているのに対し,甲4発明においては,このような図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域や棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナを用いていない点。
(イ) 相違点2 要求図書の取り出し搬送や返却図書の返却搬送と書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段に関して, 本件訂正発明1においては,要求図書の取り出しに際しては「要求図書が取り出されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」とともに,返却図書の返却に際しては「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送し,前記返却図書が収容されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」ものであるのに対し, 甲4発明においては,このような図書の寸法情報の入力により返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出す構成と図書の寸法に対応するコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する構成とを具備していない点。
(ウ) 相違点3 本件訂正発明1においては,「書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている」のに対して, 甲4発明においては,書庫の複数の棚領域から,搬送手段によってコンテナを取り出すものではあるが,奥行き方向に複数のコンテナを収容し,搬送手段には,コンテナを取り出す間口に対して手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段を備えたものであるかは不明である点。
審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,本件訂正発明1の認定・解釈の誤り,及び本件訂正発明1の作用効果の認定の誤り(取消事由1),相違点1の判断の誤り(取消事由2),相違点3の 判断の 誤り(取消事由3),相違点1及び 相違点 3による作用効 果の判断の 誤り(取消事由4),本件訂正発明2及び3の判断の誤り(取消事由5)があり,これらの誤りは,いずれも審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されなければならない。
1 本件訂正発明1の認定・解釈の誤り,及び本件訂正発明1の作用効果の認定の誤り(取消事由1) (1) 本件訂正発明1の認定・解釈の誤り 審決は,「『図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫』に関しては,その構成として,請求人が主張するような参考資料の図2のような構成ではなく,本件訂正発明1の図面である【図2】および【図11】に示すような構成であると解するのが自然である。」とした上で,「そして,このような構成を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という効果を奏するものであるから,この請求人の主張を採用することはできない。」としている(審決書41頁9行〜16行。上記【図2】及び【図11】について別紙1参照)。
しかし,本件訂正発明1における「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,」との構成要件には,棚領域の「幅及び高さ」やそれに対応するコンテナが,図書の寸法とどのように対応しているのか特定されていないので,参考資料として審判事件弁駁書(甲39)の23頁に添付した図2(以下「参考資料の図2」という。)に示すように,棚領域がA4判用,B5判用,A5判用というように分類されていれば,図書のA4判,B5判,A5判の「幅及び高さ」より棚領域の「幅及び高さ」のそれぞれの長さが大きいものも含まれることになる。そのため,参考資料の図2のように図書を収納したコンテナを,同じく参考資料として審判事件弁駁書(甲39)の22頁に添付した図1(以下「参考資料の図1」とい う。)の棚領域に収納しても,図書の収納効率が上がらない場合がある(参考資料の図1及び図2について別紙2参照)。
したがって,収納効率を向上させるためには,棚領域やコンテナ内での図書の収容の仕方に関することについて何らかの特定をする必要があるが,棚領域及びコンテナと図書との関係は,【図2】及び【図11】に示されているだけでも,多様な形態がある(本件訂正明細書の段落【0022】【0023】【0041】参照)から,審決における「【図2】および【図11】に示すような構成であると解するのが自然である」というような認定では,実施例に示された構成のどこまでが本件訂正発明1の発明の要旨として認定されたものなのかが不明瞭となり,発明の要旨を特定することができない。
審決は,本件訂正発明1の認定につき,その請求項記載の文言を離れ,請求項では特定されていない事項を含めて解釈し,結果的に本件訂正発明1の要旨認定を誤っている。その結果,審理すべき対象を誤っていることになるから,審決は取り消されるべきである。
(2) 本件訂正発明1の作用効果の認定の誤り 審決は,本件訂正発明lの「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の構 成は,「本件訂正発明1の図面 である 【図2】および【図11】に示すような構成であると解するのが自然である。」とし,このような構成を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された「『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という効果を奏するものである」としている。
しかし,本件訂正明 細書には,実 施例の 変形例として 【図23 】と 共に,段落【0088】に「ここで,コンテナ12としては,例えば図23(a)に示すように,略箱状で内部の仕切り板12a,12bがないものを用いてもよい。・・・なお,この発明は上記実施例に限定されるものではなく,この外その要旨を逸脱しない範囲で種々変形 して実施 することができる。」と記載され,【 図23】におい て,コンテナを略箱状 のものとし,その内 部の仕切り 板のない構 成が 示されている。【図23】の変形例のコンテナは,仕切り板もない略箱状の構成であり,本の並び方については何ら特定されていないのであるから,これをもって,「書庫内における図書の収容効率を向上させる」ことができるものであるということはできない。
段落【0089】に記載された「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という効果は,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理手段において,「その書庫のコンテナを出し入れするための間口に対して奥行き方向に複数のコンテナを収容させるようにした」ことによる効 果であると 解す べきである(本件訂正明細書の段落【0016】【0077】【0078】参照)。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
2 相違点1の判断の誤り(取消事由2) (1) 周知技術の適用について判断の遺脱があること 審決は,「甲第20号証ないし甲第22号証,甲第28号証及び甲29号証に記載されているように,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けること,並びに,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが請求人の主張するように従来周知の技術的事項であって,また,甲第18号証,甲第23号証ないし甲第27号証に記載されているように自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが従来周知の技術的事項であるとしても,書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なるものであることまでが周知の技術であるとまではいえない。」(審決書40頁34行〜41頁4行)としている。
しかし,甲第1号証の3には,図書入出庫管理装置において,図書の寸法別に分類されたそれぞれ高さが異なる複数の棚領域を有する書庫が記載され,複数の図書を収容する複数のコンテナは,コンテナの幅は共通であるものの,図書の寸法別に分類された高さが異なる複数種類のコンテナが記載されている。そして,多種・多量の図書を保管する場合には,図書の高さのみならず,高さ及び幅寸法を図書に対 応する寸法にそれぞれ適用することは,甲第1号証の3の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が適宜採用し得る設計的事項であるといえる。
しかるに,審決は,請求人(原告)が周知技術の適用について以上のとおり主張したにもかかわらず,何ら判断しておらず,判断の遺脱がある。また,審決は,自動倉庫の技術分野と書庫の技術分野とが共通することを否定していないにもかかわらず,何故自動倉庫の分野の周知技術を書庫の技術に適用できないのかについて理由を示 しておらず ,判 断の 遺脱がある。これらの 点は,審決の結論に 影響するから,審決は取り消されるべきである。
(2) 審決の容易想到性判断は誤りであること ア 審決は,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」に 関しては,「本件訂正発明1の図面である 【図2】および【図11】に示すような構成であると解するのが自然である。」とし,段落【0089】に記載された「『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という効果を奏するものである」とし,以上を前提として,相違点1の構成について容易想到性を否定している。
しかし,前記(1)のとおり,この前提自体が誤りであるから,上記の容易想到性判断も誤りである。
イ 仮に,本件訂正発明1の相違点1の構成が【図2】及び【図11】に示すような構成であるとしても,甲4発明,甲1の3らの発明及び周知技術から容易に想到できることである。
すなわち,図書を書庫にスペース上効果的に配置するためには,棚領域のサイズは,図書のサイズになるべく一致させるのがスペース効率上適切であることは,周知のこと(例えば,甲48,49,53,54号証参照)であるから,書庫において,本件訂正発明1の【図11】のような「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する」ものとすることは,甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が適宜採用し得る設計的事項である。
しかも,甲49号証(「SYSTEM L-20」)には,図書のサイズ別(A4,B4,B5)に高さと幅を異ならせた寸法のコンテナに図書を収納すること,コンテナを図書の厚さ方向に書庫の棚(ラック)に対し格納することが示されており,そのラックの高さと幅は,図書が収納されたコンテナが格納される大きさであることが,本件特許の出願以前に示されているのであるから,書庫において,本件訂正発明1の【図11】のような「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する」ものとすることは,甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が適宜採用し得る設計的事項であるといえるものである。
3 相違点3の判断の誤り(取消事由3) (1) 甲4発明に甲5発明を適用する動機付けがあること ア 審 決は,「 『コンテナ12』 (本件訂正発明1における『 コンテナ 』に相当。)の収納位置が決められている甲4発明の書庫に,『載荷パレット』(本件訂正発明1における『コンテナ』に相当。)の収納位置が決められていない甲5発明の倉庫の技術を適用する動機付けが見出せない。」としている。
しかし,そもそも相違点3は,進歩性を生じさせるような差異ではない。甲4号証には,書棚に奥行き方向にコンテナを出し入れして図書の取り出し及び返却を行なうことが記載されており,相違点3は,結局のところ,棚の奥行き方向に複数の物品が収納されている場合に,前の物品を取り出してから奥の物品を取り出すという手段を備えているか否かに尽きる。このようなことは,書庫に限らず,押入れ,クローゼット,本棚,食器棚,冷蔵庫などの物品の保管庫を利用するに当たって,おしなべてごく当たり前に行なわれてきたことである。このような当たり前のことを示したにすぎない相違点3は,本来,特許法29条2項における進歩性を論じるに値しない事項である。
イ 審決は,動機付けが見出せない理由として,甲4発明は,「コンテナ12」の収納位置が決められている書庫であるのに対し,甲5発明は,「載荷パレット」の収納位置が決められていない倉庫の技術であることを挙げている。
しかし,そもそも,甲5号証には,載荷パレットの収納位置を元の収容位置に戻す必要がないものであるとも,またそうでないとも,収納位置に関しては何ら記載されていない。また,奥行き方向に配置した手前側と奥側の載荷パレットを連続して搬入・搬出するものであるとも記載されていない。したがって,甲5発明は「載荷パレット」の収納位置が決められていない倉庫の技術であるとの審決の認定は誤りである。
そして,甲4発明に甲5発明を適用する動機付けはある。
すなわち,相違点3に係る本件訂正発明1の「書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている」という構成の技術的意義を考慮すれば,本件訂正発明1は,この構成により,図書の収容効率を向上させ,図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができるものと解される(本件訂正明細書の段落【0016】【0077】参照)。
一方,甲5号証 には,審決が認定したとおり,「多段 積層 棚の複数の棚空間には,伸縮フオーク3によって載荷パレットを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の載荷パレットが収容された多段積層棚。」が記載されており,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容されるようにしてあるのであるから,甲5発明は,相違点3に係る本件訂正発明1の構成を有し,更に審決が摘記したように,「前後2重棚における前部棚空間4Aおよび後部棚空間4Bに対して,載荷パレット1A,lBの搬入および搬出を容易に行なうことができ,したがってリフト通路の両側にある多段積層棚の間隔をほとんど拡大することなく,多段積層棚の奥行寸法を倍増させて荷物の収容量をも倍増させることができるので,倉庫や工場等のスペースを有効に利用できる効果が得られる」(審決書24頁30行〜34行)ものであり,本件訂正発明1と同様の作用効果を奏するものと解される。
そうすると,当業者は,甲4発明においても,甲5発明と同様に,複数の棚領域の間には,搬送手段が配置され,その搬送手段によってコンテナを取り出すものであるから,コンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナを配置すれば,奥行寸法を複数倍に増加することになり荷物の収容量をも増加することができ,また,搬入及び搬出をも容易に行なうことができることになると思考するといえる。図書の収容効率を向上させ,図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的にすることは当業者にとって周知の課題であり,そのために,図書を奥行き方向にも収容できるようにし,その収容箱や本箱を移動させることも周知のことであるから,甲4発明に接した当業者が,甲4発明の図書入出庫管理装置においても図書の収容効率を向上させ,その取り出し及び返却作業の能率を効果的にするための方策を検討することには動機付けがあるといえる。
(2) 周知技術の適用について判断の遺脱があること 審決は,「物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して,間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すことは甲第5号証ないし甲第11号証に記載されているように倉庫の分野では請求人主張のように慣用的に行われている従来周知の技術的事項であるということができる。」と認定しているが,「自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが請求人が主張するように従来周知の技術的事項であるとしても,書庫の分野で奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置することまでが周知の技術であるともいえない。」としている。
しかし,甲第5号証〜甲第11号証には,奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置することが記載されており,この点は,倉庫と同様に書庫についても周知の技術である。
審決は,原告が主張した倉庫においても書庫においても共通して周知である技術の適用について何ら判断しておらず,判断の遺脱がある。この点は,審決の結論に 影響するから,審決は取り消されるべきである。
4 相違点1及び相違点3による作用効果の判断の誤り(取消事由4) 審決は,「本件訂正発明1は,上記相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項と上記相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項とを備えることによって,全文訂正明細書の段落【0089】に記載されたとおりの『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という甲4発明・・・,甲1発明・・・及び甲5発明・・・並びに・・・従来周知の技術的事項からは予測できない作用効果を奏すると認められる。」と判断している。
しかし,相違点1による効果については,前記2(1)で述べたように,多種・多量の図書を保管する場合には,図書の高さのみならず,高さ及び幅寸法を図書に対応する寸法にそれぞれ適用することは,甲第1号証の3の発明及び周知技術に基づいて当業者が適宜採用し得る設計的事項であるといえる。そして,甲4発明におけるコンテナ及び書棚の高さ及び幅を図書に対応するそれぞれの寸法にすれば,必然的にその収納効率が向上することは明らかであり,相違点1に係る本件訂正発明1の構成により特段の効果を奏するとはいえない。本件訂正発明1の効果は,甲4発明,甲 1 の3らの発明,甲5発明,及び,従来周知の技術的事項から予測できるものでしかなく,特段の効果を見出すことができない。
また,相違点3による効果については,甲5発明と同様に奥行寸法に複数のコンテナを配置すれば,荷物の収容量をも増加することができ,また,搬入及び搬出をも容易に行なうことができるという甲5発明が備えている効果でしかない。
そして,相違点1,2及び相違点3による相乗効果もないことから,相違点1,2及び3による効果は,甲4発明,甲1の3らの発明,甲5発明及び周知技術が備えている効果でしかないものである。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
5 本件訂正発明2及び3の判断の誤り(取消事由5) 審決は,本件訂正発明2及び3は,本件訂正発明1をその構成の一部とするもの であるから,本件訂正発明1について述べたところと同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものであると判断している。
しかし,本件訂正発明2の「手前側のパレットを棚領域から取り出す取り出し機構と,奥側のパレットを手前側に移動させる機構とを備え,奥側のパレットは,手前側に移動させた状態で,棚領域から取り出される」点は,従来周知の技術的事項であるので,甲4発明との相違点に係る本件訂正発明2の構成は,従来周知の技術的事項を付加したにすぎない。してみると,甲4発明との相違点に係る本件特許発明2の構成は,甲4発明に,従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,本件訂正発明3の「コンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容されている場合のコンテナの取り出す際の機構として,手前側のコンテナ及び奥側のコンテナを選択的に取り出して保持可能な第1及び第2の取り出し手段を備えて,第1の取り出し手段で前記手前側のコンテナを取り出し保持させた状態で,前記第2の取り出し手段で前記奥側のコンテナを取り出す」点は,従来周知の技術的事項であるので,甲4発明との相違点に係る本件訂正発明3の構成は,従来周知の技術的事項を付加したにすぎない。してみると,甲4発明との相違点に係る本件特許発明3の 構成は,甲4発明に, 従来周知の 技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(本件訂正発明1の認定・解釈の誤り,及び本件訂正発明1の作用効果の認定の誤り)に対し (1) 本件訂正発明1を請求項1の記載文言を離れて解釈したものとはいえないこと 原告は,審決の認定について,本件訂正発明1の認定につき,その請求項記載の文言を離れ,請求項では特定されていない事項を含めて解釈し,結果的に本件訂正 発明1の要旨認定を誤っていると主張する。
しかし,審決において,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」につき,【図2】及び【図11】に示すような構成と解するのが自然であると認定したのは,請求人(原告)が主張する参考資料の図2のような構成ではないことを確認的に述べたにすぎず,【図2】及び【図11】に示す構成そのものに限定したものではない。審決が「示すような」と述べているのも,【図2】及び【図11】に示す構成そのものに限定する趣旨でないことを示しているにすぎない。したがって,審決の認定は,原告が主張するように,請求項記載の文言を 離れ,請求項では特定されていない事項を 含めて 解釈 したものではなく,原告の主張には理由がない。
原告が参考資料の図2のような構成の可能性を主張するのは,図2のような図書の収容方法をとることができることを主張するものといえるが,本件訂正発明1の発明の名称は「図書保管管理装置」であって,図書保管の「収容方法」の発明ではないこと,本件訂正発明1が図書の収容手法自体についての発明特定事項を含んでいないことからも,図書の収容方法そのものは本件訂正発明1の構成の対象外である。したがって,いかなる図書の収容方法をとるにしても,その「装置」自体がその「装置」の「構成」から所定の作用効果を奏すれば足りるのであって,利用者が当該「装置」を他の方法を用いて使用する(他の図書の収容方法を用いる)ことができるか否かは,当該発明の要旨認定・作用効果の解釈に影響を与えるものでない。
(2) 本件訂正発明1は「書庫内における図書の収納効率を向上させる」効果を奏しない構成とはいえないこと 原告は,審決の認定について,本件訂正発明1は,【図23】の変形例や,段落【0088】に本件訂正発明1を変形実施できることの記載があることを根拠に,本の並び方については何ら特定していないのであるから,「書庫内における図書の収容効率を向上させる」ことができないと主張する。
しかし,本件訂正発明1は,サイズ別に図書を収容するフリーロケーション方式 (図書が収納されるコンテナが図書の返却の都度決まり,図書とは固定的な関連性を有しない方式)を採用したものであるが,同方式では,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上する。また,同方式では,異なる分類の図書が返却されても,例えば,それらが全てA4サイズであれば,一括してコンテナに収容できるのであるから,コンテナの呼び出しは一回で済み,大幅な出納効率の向上が実現できるのである。そして,さらにコンテナを取り出す間口に対して奥行き方向に複数のコンテナを配置することで,さらなる収容効率の向上が実現できるのである。したがって,本件訂正発明1が採用したサイズ別フリーロケーション方式によれば,書庫内における図書の収容効率を向上させることは明らかである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対し (1) 原告の主張の要点 原告は,審決の認定について,発明の相違点1である「書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さが異なるものである」ことが周知の技術であるとまではいえず当該相違点1は容易に想到し得ない点につき理由が説明されておらず,周知技術の適用についての判断の遺脱があり,当該周知技術を甲4発明,甲1の3らの発明に適用すれば,相違点1は容易に想到できたものであり,当該認定は誤りであると主張する。
(2) 相違点1に係る審決の判断に誤りがないこと 審決は,その前段において,自動倉庫の分野で幅及び高さが異なる棚領域を設けることが周知の技術的事項であったとしても,「書庫に用いる棚領域において,その幅および高さがそれぞれ異なるものである」ことが周知の技術であるとまではいえないと述べ,そもそも「書庫に用いる棚領域において,その幅および高さがそれぞれ異なるものである」が周知の技術であることを認めていないのであって,当該技術を甲4発明に適用する前提を欠くと述べているのである。したがって,相違点1に容易に想到し得ないことは,明確に示されており,周知技術の適用についての 判断の遺脱はない。
審決はさらに,「甲第18号証,甲第23号証ないし甲第27号証に記載されているように自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが従来周知の技術的事項であるとしても,」と述べた上で,「甲4発明におけるその書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナにつき,甲1発明を適用できたとしても,書庫の複数の棚領域が,幅及び高さがそれぞれ異なるものとはならない。」と述べ ている。このように,仮に書庫と倉庫が共通の技術分野であったとしても,「書庫の複数の棚領域が,幅及び高さが異なる」構成にはならないことを明示しており,原告の主張する「当該周知技術を甲4発明,甲1の3らの発明に適用すれば,相違点1は容易に想到できたもの」とはならないことを極めて明確に示している。
(3) 相違点1は甲第1号証の3の発明及び周知技術に基づいて当業者が適宜採用し得る設計的事項といえないこと ア 審決の判断に誤りがないこと 原告は,コンテナ及び書棚の高さ及び幅を図書に対応するそれぞれの寸法にすることは,当業者が適宜採用し得る設計的事項であると主張する。
しかし,「コンテナ及び書棚の高さ及び幅を図書に対応するそれぞれの寸法にする」構成が設計的事項というには,当該構成を端的に示した文献の存在を主張立証すべきであるが,原告において,そのような主張立証はされていない。この点が,審決において「書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なることまでが周知の技術であるとまではいえない。」(41頁3,4行)という判断で示され,原告の上記主張を明確に排斥しており,その判断に誤りはない。
イ 相違点1が設計的事項でない根拠 (ア) 甲1の3の発明を適用しても,相違点1を克服できないこと そもそも,原告が挙げる甲1の3の発明は,棚領域の高さが異なるものが記載されているだけで,幅は共通であるし,図書の寸法別に分類されたものでもない。
この点につき,審決は,甲1発明は,「図書の寸法別に分類された高さが異なる 複数の棚領域を有する書庫」であると認定するが,当該認定は誤りである。
すなわち,甲1号証の3に記載されている棚領域,書庫及びコンテナは,「複数の高さの棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された高さを有する,コンテナの高さに合わせた複数の図書を収容する複数のコンテナ」である。
他方,審決は,本件訂正発明1と甲4発明との相違点1として,「本件訂正発明1においては,『図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫』と『それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ』とを採用しているのに対し,甲4発明においては,このような@図書の寸法別に分類された A幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域やB棚領域に対応した寸法を有する・・コンテナを用いていない点」を認定している。
しかるに,甲1号証の3には,「高さがそれぞれ異なる複数の棚領域」しか開示されていないから,そもそもA(幅及び高さが異なる点)を開示しておらず,したがって,棚領域に「対応する寸法を有するコンテナ」(B)も開示していない。また,甲1号証の3において収容される対象物は図書に限定されていないから,開示されている「高さが異なる棚領域」「高さが異なるコンテナ」は,「図書の寸法別に分類された」ものでもない(@)。
したがって,甲4発明に甲1の3の発明を適用しても,相違点1に係る@を克服することはできない。
(イ) 「周知技術」,「従来の図書館において知られている技術常識」を適用しても相違点1を克服できないこと そもそも,倉庫の分野においては,その寸法に対応した(@),幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)(B)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」(A)という概念を観念することはできない。
したがって,自動倉庫の分野において,幅及び高さが異なる棚領域を設けること が周知であったとしても,それは,そこに収容する物品の寸法に対応したものではないという点で,本件訂正発明1とは異なる。したがって,甲4に倉庫の周知技術を 適 用できたとしても, 上 記 相違点 1のう ち ,「図書の寸法別に分類された」(@)点を克服することができない。
現に,原告が引用した甲20,甲22,甲28,甲29のいずれもコンテナや棚領域が「荷物の寸法別に分類された」(@)点は開示していないのであるから,まさに審決の述べるとおり,「書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なるものであることまでが周知の技術であるとまではいえない」のである。
(4) 自動化書庫と自動倉庫は本件訂正発明1との関連において同一の技術分野といえないこと ア 原告は,自動化書庫は自動倉庫の技術の一分野であると主張する。
しかし,図書の場合,出入庫が一冊単位で,一つの図書について複数回繰り返し要求され,かつ出庫だけでなく必ず返却作業を伴うものである点,荷物系とは,収容対象物の動きの複雑さと入出庫の回数で大きく異なる。すなわち,倉庫の荷物の場合,一つの荷物が入庫され,それが出荷のために出庫されるという一回の入出庫で完了するもので,出庫に対応する入庫作業はあるものの,返却作業という概念がそもそもなく,返却に伴う出納効率という概念もない。この点で,図書の入出庫において出納効率が重視される度合いは,荷物において取り出しにかかる作業効率が重視される度合いの比ではない。このように,自動化書庫と自動倉庫は,物品を自動的に入出庫するシステムという程度での共通点しかなく,本件特許発明1の構成との関係での技術上の共通点が一切見当たらない。
したがって,自動化書庫が自動倉庫の技術の一分野であるとの原告主張には理由がない。
イ 原告は,甲49を挙げて書庫が倉庫の一分野であると主張しているが,甲49は原告自身が作成したものであり,頒布・公開されたことは認められず,刊行物といえない。「各地の顧客等に対し頒布した刊行物」と述べるが,当該事実は立証 されていない。仮に刊行物であるとしても,「図書そのものを『物品』としてとらえた場合の『物品管理』」と記載され,単に図書を物品としてとらえる旨の記載があるにすぎず,図書を物品ととらえたから,自動書庫でなく自動倉庫になるという類のものでもなく,自動書庫と自動倉庫の技術分野の共通性に関する言及はない。
ウ 倉庫においては,返却目的の作業という概念がそもそもなく,したがって,返却効率という概念もないので,以下のように考えられる。
相違点1は,本件訂正発明1が,サイズ別フリーロケーション方式を実現している一つの根拠となっている。ここで,図書に関しては,その寸法が数種類に規格化されていることから,図書の返却の際に,図書の内容を問わず同一の寸法の図書を一つのコンテナに返却することによって大幅な出納効率の向上を実現できる(例えば,図書が20冊返却されたとしても,すべてA4の図書であれば,A4のコンテナを1個呼び出せば足りる。)。
他方,倉庫においては「返却」が存在しないから,そもそもサイズ別フリーロケーションで出納効率を上げようとするニーズすら存在しない。
また,「入庫」について鑑みるに,荷物において本件訂正発明1の発想(サイズ別フリーロケーション)を採用しようとすると,荷物では寸法が規格化されているわけではないから,多種多様な寸法にかかるコンテナを設計する必要があり,入庫の際には, 荷物の寸法に応 じて空きのある棚に入庫しなけれ ばならないことになり,出納効率は大幅に低下する(荷物が20個入庫する場合は,多種多様な寸法であることが通常であるから,寸法の種類だけの空きのある棚に入庫しなければならない。)。
つまり,ニ ーズ が存 在しないのに 加えてここでも,図書= 寸法が数 種類に規格化,荷物=寸法規格なし,という性質に基づいて,図書の場合はサイズ別フリーロケーション方式を適用する条件が存在するのに対し,荷物(倉庫)の場合はその条件を欠くのであるから,書庫と共通する倉庫における周知技術を甲4発明,甲1の3らの発明に適用するということはできないのである。
(5) 仮に,自動化書庫と自動倉庫の技術分野が共通していたとしても,本件訂正発明1の解決しようとする課題等からみて適用する動機付けが認められず,また相違点1に到達し得ないこと 相違点 1を 埋め,甲4発明に基づき相違点 1に容 易に 想到 し得 るというためには,単に技術の一分野であるか否かが問題ではなく,発明の解決しようとする課題等からみて適用する動機付けがあるか否かが問題となる。
本件の場合,甲4号証には,そもそもサイズ別に図書を管理する技術的思想そのものが開示されていない。また貸し出し及び返却時のカウンターステーションでの作業を容易化するという出納効率向上を技術的課題として挙げており,収容効率向上に関 する言及はなく ,サ イズ別の「書庫の複数の棚領域が,幅及び高さが異なる」構成を導入する動機たり得るものがない。原告は,書庫の技術が倉庫の技術の一分野であることを繰り返し述べるにすぎず,その適用の動機付けに相当する示唆等を何ら示しておらず,理由がない。
したがって,書庫に関する技術が仮に原告主張のとおり倉庫に関する技術の一分野であったとしても,原告が挙げる倉庫に関する技術(甲20〜甲22,甲28,甲29)は,出納効率の向上の点からは適さないものである。それだけでなく,原告が挙げる 倉庫に 関する技術を適 用しても,審決の述べるとおり,当 該技術 は,「幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けること」にすぎず,「図書の寸法別」という発想はなく,図書の寸法別の棚領域になりようがないのである。
3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)に対し (1) 原告の主張の要点 原告の主張する取消事由3は,要するに下記の2点であると思われる。
ア 相違点3は進歩性を生じさせるような差異でなく,進歩性を論じるに値しない事項であり,発明の特徴点である相違点3の技術的意義を考慮すれば,相違点は搬出入の対象が図書と荷物で異なるのみであり,両者を格別に区別する理由は見いだせず,甲4発明に甲5発明を適用する動機付けがあり,また相違点3は慣用手段 にすぎないので,本件訂正発明1に容易に想到可能であるのに,動機付けがないとして容易想到性なしと判断した誤りがある。
イ 倉庫・書庫に共通して周知の技術である「奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置すること」の適用については何ら判断が示されていないから,当該周知技術の適用についての判断の遺脱があり,当該周知技術を甲4発明,甲5発明に適用すれば,相違点3は容易に想到できたのに,できないと判断した誤りがある。
(2) 動機付けに関する審決の判断に誤りはないこと(上記(1)のアに対し) ア 総論 審決の認定は,甲5発明の「載荷パレット」の場合,収納位置が決められていないことからも分かるとおり,載荷パレット内の一つ一つを区別して管理する必要のないロット単位の通過物流主体の荷物系のシステムであり,一冊ごとに取り出しかつ返却を要する図書系の物流とは大きく異なるもので,奥側のみ,あるいは手前側のみの載荷パレットの取り出し及び返却という処理の必要性がなく,このような取り出し・返却の作業効率の向上(出納効率の向上)という技術的課題を考慮する必要のない構成である。このような甲5発明を,収納位置が決められている甲4発明に適用する動機付けが見当たらないとしているものであり,誤りはない。
イ 甲5発明を甲4発明に適用する阻害要因があること(出納効率の低下を解決し得ないこと) 甲4発明の自動化書庫の場合,取り出し・返却の対象が一冊ごとに必要となるケースに収納された図書である性質上,一冊ごとに取り出し,返却する性質のものであり,手前 側のコンテナの取り出し・ 返却と,奥 側のコンテナの取り出し・ 返却は,連続の動作ではなく別個の動作であることが前提となる。
また,コンテナは元の収納位置に戻さなければならない。なぜなら,貸し出しの対象とする図書を一冊取り出すためにコンテナを書庫から取り出したとしても,当該コンテナに入っている他の図書を管理するためには,コンテナを元の収容位置に 戻す必要があるからである。
したがって,甲5発明のような奥行き複数 配置技術を 適用し,奥側 に「コンテナ」を格納する場合には,手前側の「コンテナ」をいったん取り出し,取り出し口以外の場所に仮置きした上で,奥側の「コンテナ」を格納し,仮置きした手前側の「コンテナ」を元の位置に格納し直すという手間がかかる。
また,奥側の「コンテナ」を取り出してこれに格納する場合,手前側の「コンテナ」をいったん取り出し,取り出し口以外の場所に仮置きした上で,奥側の「コンテナ」を取り出し,仮置きした手前側の「コンテナ」を元の位置に格納し直すという手間がかかる。
このような奥側のコンテナの取り扱いは,収納位置が固定されている関係上,極めて煩雑な 処理となり,図書の取り出し・ 返却効 率を 著しく 低下させるものであり,自動化書庫として使い物にならないほどに出納効率が低下し,現実的でない。
本件訂正発明1の「フリーロケーション方式」は,「図書の寸法情報を入力することにより,当該返却図書の寸法に対応するコンテナの中から空きのあるコンテナを取り出す構成」を備えるからこそ,甲5発明を適用しても,出納効率の面でも問題とならない運用ができるのである。大量搬入・搬出が前提となる自動倉庫の場合,載荷パレットを元の収容位置に戻す必要はなく,このような自動化書庫とは基本的な物流の違いがある甲5発明を,本件訂正発明1の上記の構成を備えない甲4発明に適用できるものではないのである。このことは甲5発明が甲4発明に適用するに適さないものといえ,甲5発明を甲4発明に適用する阻害要因である。
ウ 甲5発明と甲4発明は課題が相違することからも甲5発明を甲4発明に適用する阻害要因があること 甲4発明は,「貸し出し及び返却時の作業を容易化する」(【0009】)こと,すなわち出納効率の向上が技術的課題であったものである。
甲5発明は,「リフト通路の両側にある多段積層棚の間隔をほとんど拡大することなく,多段積層棚の奥行寸法を倍増させて荷物の収容量をも倍増させることがで きるので,倉庫や工場等のスペースを有効に利用できる効果が得られる。」(397頁右上コラム8行〜12行)と記載されているとおり,収容効率の向上という技術的課題を図るべく奥行き方向に複数の載荷パレットを配置する構成が採用されたものである。当然のことながら,奥行き方向に複数の載荷パレットを配置する構成を採用すると,奥行き方向に1つの載荷パレットを配置する構成に比して出納効率が低下する。収容効率を上げると,出納効率が低下するという関係にある。だとすると,出納効率の向上という技術的課題を克服するためになされた甲4発明に,出納効率を低下させる甲5発明を適用する動機たり得るものが存在しないばかりでなく,適用を阻害する要因があるといえる。
エ 動機付けに関する原告の主張の誤り 原告は,「発明の特徴点である相違点3の技術的意義を考慮すれば,相違点は搬出入の対象が図書と荷物で異なるのみであり,両者を格別に区別する理由は見いだせず」と主張するが,相違点3の技術的意義を考慮すれば,むしろ自動化書庫は出入庫が一冊単位でなされる図書の出納効率の向上という技術的課題を有する点で自動倉庫と全く異なるものであり,単純に搬出入の対象が図書と荷物で異なるだけのものではなく,原告の主張が誤りであることは明白である。
(3) 周 知技術 の認定に 関 する審決の判 断 に 誤 りがないこと( 上 記 (1) のイに対し) 審決は,自動倉庫が書庫の技術分野と共通するとしたとしても,倉庫の分野ではともかく,書庫の分野では「奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置すること」が周知の技術でないことを明確に述べている。
この点につき,原告は,当該構成が,書庫の分野でも周知の技術であったことの根拠として,倉庫の分野における文献が甲5〜甲11,甲55,甲56)を挙げるのみで,書庫の分野における当該構成を示すものでなく,審決の認定を覆すに足りるものではない。
なお,審決では,「書庫の分野で奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコン テナ等の容器を配置することまでが周知の技術であるともいえない」と述べ,奥行き方向複数コンテナ配置技術が書庫の分野で周知の技術であるといえないことを認定しているが,周知技術といえないどころか,有り得ないものであったことは,奥行き方向複数コンテナ配置のためにはフリーロケーション方式の技術が必須であること,フリーロケーション方式の技術は荷物系でそのニーズすらなかったことからも明白であるし,原告が書庫の分野における奥行き方向複数配置の文献を挙げることができないことが,何より当該認定が正しいことを強く裏付ける。
なお,甲56には,「図書館等の本棚,・・に応用できる」との言及はあるものの,甲56発明を物品収納設備として用いる場合には,図書館等の本棚として単に転用するだ けではなく ,応用する 必要があることを示 しており,書庫の分野 では「奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置すること」が周知の技術であることを示すに足りるものとは到底いえない。
4 取消事由4(相違点1及び相違点3による作用効果の判断の誤り)に対し 審決が明確に述べているとおり,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項と,相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項とを備えることにより,「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という作用効果を奏するものであり,この点に何ら誤りはない。
本件相違点1及び3に係る構成に容易に想到し得ない以上,当該相違点1及び3に係る本件訂正発明1の発明特定事項により,書庫内における図書の収容効率を向上させるという作用効果を予測することができないことは明白である。
原告は,相違点1,2及び3による相乗効果もないと述べているが,原告が相違点2と主張する構成を本件訂正発明1が備えることにより,相違点1及び3に係る構成を実現することができ,「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という作用効果 と,出 納効 率の 向上という作用効果を 両立させることができたのである。したがって, 相違点2と相違点1及び3との 相乗 効果があることは明白 であり,原告の主張が誤りであることは明らかである。
5 取消事由5(本件訂正発明2及び3の判断の誤り)に対し (1) 本件訂正発明2について 原告は,本件訂正発明2と甲4発明との相違点に係る構成につき,通常よく行われているように当たり前の取り出し方であり,その例として甲5号証,甲6号証を挙げる。
しかしながら,甲5号証及び甲6号証のいずれも,自動倉庫に関する発明に関する構成が記載されているにすぎず,書庫に関する発明ではなく,自動化書庫において,上記相違点に係る構成を採用することは通常よく行われているものでもなく,当たり前の取り出し方ということはできない。
したがって,原告の上記主張に理由がないことは明らかである。
(2) 本件訂正発明3について 原告は,本件訂正発明3と甲4発明との相違点に係る構成につき,通常よく行われているように当たり前の取り出し方であり,従来周知の技術的事項であると述べた上,その根拠として甲7号証,甲8号証及び甲9号証を挙げる。
しかしながら,甲7号証,甲8号証及び甲9号証のいずれも,自動倉庫に関する発明に関する構成が記載されているにすぎず,書庫に関する発明ではなく,自動化書庫において,上記相違点に係る構成を採用することは通常よく行われているものでもなく,当たり前の取り出し方ということはできない。
したがって,原告の上記主張に理由がないことは明らかである。
当裁判所の判断
当裁判所は,取消事由2ないし5はいずれも理由があり,審決には取り消されるべき違法があるものと判断する。
1 取消事由1(本件訂正発明1の認定・解釈の誤り,及び本件訂正発明1の作用効果の認定の誤り)について(1) 審決の認定審決は,相違点1についての検討の中で,次のとおり述べている。
「上記(2-1-2)請求人の主張概要イ)について検討するに,『図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫』に関しては,その構成として,請求人が主張するような参考資料の図2のような構成ではなく,本件訂正発明1の図面である【図2】および【図11】に示すような構成であると解するのが自然である。そして,このような構成を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という効果を奏するものであるから,この請求人の主張を採用することはできない。」(審決書41頁8行〜16行) (2) 原告の主張 原告は,要旨次のとおり主張する。
本件訂正発明1の「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと」の構成要件には,参考資料の図2(甲39の23頁,以下「参考資料の図2」という。別紙参照)のようなものも含まれるから,参考資料の図2のように図書を収納したコンテナを参考資料の図1(甲39の22頁 ,以下「参考資料の図1」という。別紙参照)の棚領域に収納しても,図書の収納効率が上がらない場合がある。
また,棚領域及びコンテナと図書との関係は,【図2】及び【図11】に示されただけでも,多様な形態があるから,審決の認定では,実施例に示された構成のどこまでが本件訂正発明1の発明の要旨として認定されたのか不明瞭となり,発明の要旨を特定することができない。
(3) 審決の説示について そこで,まず,審決の説示を確認する。
審決は,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の 構成は,「参考資料 の図2のような 構成ではな」いと述べ ている。しかし,そもそも,参考資料の図2は,コンテナ内の図書の収容の仕方につい て説明した図であり,「書庫」の構成を示した図ではないから,「書庫」が,参考資料の図2のような構成を取り得るものではない。
また,審決は,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の構成は,「【図2】および【図11】に示すような構成であると 解するのが 自然 である」と 述べ ている。しかし,本件特許 公報の【図2】は,コンテナの構成及びコンテナ内の図書の収容について説明した図であり,「書庫」の構成を示した図ではないから,「書庫」が,【図2】に示すような構成であると解 するのは困難である。したがって,この点 に関 する審決の認定は誤りである。
もっとも,本件特許公報の【図11】は,実施例における書棚の分類を示す図であるが,審決の言わんとするところは,「書庫」の構成について,「【図11】に示すような構成であると解するのが自然である」ということであり,このような構成を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という効果を奏するものである,というものであろうと解される。
そして,「参考資料の図2のような構成ではなく,本件訂正発明1の図面である【図2】・・・に示すような構成であると解するのが自然である」とした点については,「書庫」そのものの構成について認定したものではなく,「書庫」の「棚領域」に収容される「コンテナ」の 構成及びコンテナ内の図書の収容の 仕方について,「それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」として特定されていることに照らして,収容効率の観点から採用される蓋然性の高い例として認定したものであろうと解される。
以下,このような理解を前提として検討する。
(4) 審決の認定について ア 「書庫」の構成について 審決の認定,すなわち,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異な る複数の棚領域を有する書庫」の構成は,「【図11】に示すような構成であると解するのが自然である」との認定に誤りがあるかどうかを検討する。
「書庫」について,本件訂正発明1では,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する」と特定されているのみである。
この点,@特許請求の範囲の記載として,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する異なる複数の棚領域」(及びこれに対応するコンテナ)とするのであれば(これでも特定は不十分かもしれないが),審決が認定するような構成を導くことも可能であろうが,本件訂正発明1の上記記載では,そのようにはなっておらず,構成の特定方法が十分ではないと解する余地がある。
他方, A「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域」という構成の内容が必ずしも明確でないので,発明の詳細な説明参酌することができるところ,本件訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理装置に係る発明であり,この方式は,「例えば,A4版の図書を収容するコンテナ,B5版の図書を収容するコンテナ及びA5版以下の図書を収容するコンテナのように,収容する図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類のコンテナを用意しておき,それぞれのコンテナを大きさ別に分類して書庫に収容するようにしたものである。」(甲32【0009】)とあるので,図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有するコンテナ(及びこれに対応する棚領域)の構成であると解する余地もある。
そこで 検討 するに,原告の主 張は,基本 的 に@の立場 によるものであり,例えば,参考資料の図1(及び図2のコンテナを含む。)に記載されている書庫のように,図書の寸法別に分類された,幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫であれば(具体的には,棚領域がA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば),図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」より棚領域の「幅及び高さ」のそれぞれの 長さが長 い書庫であっても,本件訂正発明1の「書庫」の特定事項を満たしているというのである。しかし,この主張は,やや理 屈が勝った議論であって,収容(収納)効率の向上という観点からは,実際に図2のコンテナを含む図1のような書庫が使用されるものとは考えにくい。
これに対し,被告の主張は,基本的にAの立場によるものであり,審決も,実際の図書の保管管理状況を念頭において判断しているように思われる。しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲の解釈に関しては,上記@かAかという点で明確でないところがあり,また,発明の詳細な説明においても,明確に「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する」と 規定されていないことに照 らして判断 すると,審決の上記認定が,本件訂正発明1の「書庫」の構成として,参考資料の図1に記載されているような書庫は本件訂正発明1の「書庫」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。
イ 「コンテナ」の構成について 「コンテナ」について,本件訂正発明1では,「この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」と特定されているのみである。そうすると,上記アの説示に照らして,参考資料の図2に記載されているようなコンテナ,すなわち,複数の同じサイズの図書を収容するコンテナであれば,例えば,コンテナがA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば,図書のA4版,B5版,A5版の「幅及び高さ」よりコンテナの「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長いコンテナであっても,本件訂正発明1の「コンテナ」の特定事項を満たしているといえる。
したがって,「参考資料の図2のような構成ではな」いとの審決の認定が,参考資料の図2に記載されているようなコンテナは,本件訂正発明1の「コンテナ」には含まれないとの趣旨のものであるとすれば,その限りにおいて認定は正確でないということになる。
ウ 本件訂正発明1の効果について 審決は,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」の構成は,「【図11】に示すような構成であると解するのが自然 である」とした上,このような構成を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という効果を奏するものであると認定している。
この点について,被告は,本件訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式を採用したものであり,同方式によれば,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上するし,さらにコンテナを取り出す間口に対して奥行き方向に複数のコンテナを配置することで,さらなる収容効率の向上が実現できるから,本件訂正発明1が採用したサイズ別フリーロケーション方式によれば,書庫内における図書の収容効率を向上させることは明らかであると主張する。
確かに,被告が主張するように,サイズ別フリーロケーション方式を採用した場合,同じサイズの図書をまとめて一つのコンテナに収容することができ,これが収容効率の向上につながることが予想される。
しかし,収容効率の向上をいうのであれば,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する棚領域」,「及びこれに対応するコンテナ」と特定する構成の方が,より明確であったといえる。
エ 以上のとおり,審決の認定には正確性を欠くところがあるが,審決は,相違点 1の容 易想到性 判 断 において,後記2 (1)ウ のとおり 述べ るにと ど まり,「書庫」の構成に関して,図書の幅及び高さと棚領域との大小関係については何ら言及していない。そこで,原告主張の審決の認定の誤りが取消事由にどこまで影響を与えるかについては,次項以下で,実質的な検討を進める。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について (1) 審決の認定・判断 相違点1に係る審決の認定・判断は,要旨次のとおりである。
ア 相違点1 「書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して,本件訂 正発明1においては,『図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫』と『それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ』とを採用しているのに対し,甲4発明においては,このような図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域や棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナを用いていない点。」 イ 甲1発明 「図書入出庫管理装置において,図書の寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類のコンテナを収容するための,図書の寸法別に分類された高さが異なる複数の棚領域を有する書庫。」 ウ 容易想到性判断 「甲1発明の書庫に用いる複数の棚領域は,高さのみが異なる(6.0インチ〜18.0インチ)5種類のコンテナ(容器)を用いるものであるから,その複数の棚領域が高さに加えて幅までも異なるものではない。
ここで,甲第20号証ないし甲第22号証,甲第28号証及び甲29号証に記載されているように,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けること,並びに,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが請求人の主張するように従来周知の技術的事項であって,また,甲第18号証,甲第23号証ないし甲第27号証に記載されているように自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが従来周知の技術的事項であるとしても,書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なるものであることまでが周知の 技術であるとまではい えない。
したがって,甲4発明におけるその書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナにつき,甲1発明を適用できたとしても,書庫の複数の棚領域が,幅及び高さがそれぞれ異なるものとはならない。」 (2) 周知技術について 審決は,「甲第20号証ないし甲第22号証,甲第28号証及び甲29号証に記載されているように,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けること,並びに,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが・・・従来周知の技術的事項であ」ると述べているところ,原告は,審決には周知技術の適用について判断の逸脱があると主張する。
しかし,審決は,「書庫に用いる棚領域において」は周知技術であるとまではいえないとの判断を示しているのであるから,それが合理性を有しているか否か,あるいは理由不備があるか否かという点はさておき,判断遺脱があるとはいえない。
よって,この点に関する原告の主張は,採用することができない。
そこで,以下,容易想到性の判断に関する事項として,審決が指摘する甲第20号証ないし同第22号証,同第28号証及び同第29号証に記載されている周知の事項について検討する。
ア 甲第20号証(特開昭59-182103号公報)の記載 (ア) 甲第20号証には,次の記載がある。
「本発明は,入力装置と,処理装置と,制限重量及び容積で定まる所定の許容容量を有する複数の棚とを備え,体積又は重量の少くとも何れか一方が異なる複数種の物品を,該棚に格納する管理システムにおいて,前記複数種の物品毎に前記棚の許容容量未満となる最大格納許容数を算出する手段と,該算出された物品毎の最大格納許容数を管理する管理テーブルと,各棚の各物品在庫数を管理する在庫テーブルと,検索手段とを備え,前記入力装置から入庫する物品の種別及び数量が入力された際,前記管理テーブルと,前記在庫テーブルとを用いて,該物品の入庫可能な棚を索出することを特徴とする入庫棚の検索方式である。」(2頁左上欄1行ないし13行) 「・・・体積V1で重量W1なる物品A,体積V2で重量W2なる物品B及び体積V3で重量W3なる物品Cの計3種の物品の入庫管理の場合を例 にとる。倉庫は第1図(d)に示すような最大収容容量Zなる棚Dが,複数個配列された構成となっ ている。本実施例では収容単位Uを定め,物品A,B及びCと,棚Dの最大収容容量Zとは,次の関係を有するものとする。
物品A・・・・V1×W1=U 物品B・・・・V2×W2=2U 物品C・・・・V3×W3=4U 最大収容容量Z=8U 但し,Uは収容単位 換言すれ ば,1個 の棚 Dには, 物品A なら8個 まで,また物品B なら4個まで,そして物品Cなら2個まで収容可能となるわけである。」(2頁右上欄6行ないし左下欄1行) (イ) 上記記載によれば,物品A,B,Cは,その体積が異なることは明らかであるが,幅及び高さが異なることは明らかではない。そもそも1 個の棚Dに対して,物品A,B,Cのいずれも収容可能なものであるから,甲第20号証には,幅が異なる棚領域を設けること,並びに,幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されているとはいえない。
イ 甲第21号証(特開平4-256607号公報)の記載 (ア) 甲第21号証には,次の記載がある。
「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,棚に沿って水平に走行可能な荷移載装置付き自動台車の走行経路が上下複数段に設けられ,前記走行経路の端に隣接して,前記各段走行経路上の前記自走台車との間で荷を受渡しする荷搬入搬出用昇降装置が設けられた自動倉庫装置に関するものである。」 「【0005】 【実施例】以下,本発明の一実施例を添付の例示図に基づいて説明すると,図1及び図2に於いて,1A,1Bは間隔を隔てて立設された立体棚であり,夫々上下方向4段の大横巾荷収納区画2を備えた下側ゾーン3と,上下方向3段の小横巾荷 収納区画4を備えた上側ゾーン5とを備えている。6A〜6Dは,立体棚1A,1Bの下側ゾーン3に於ける大横巾荷収納区画2の各段に対応して立体棚1A,1B間に設定された上下方向4段の自走台車走行経路であって,各走行経路6A〜6Dには,大横巾荷WLを搬送する自走台車7が左右一対のガイドレール8を介して支持されている。9A〜9Cは,立体棚1A,1Bの上側ゾーン5に於ける小横巾荷収納区画4の各段に対応して立体棚1A,1B間に設定された上下方向3段の自走台車走行経路であって,各走行経路9A〜9Cには,小横巾荷WSを搬送する自走台車10が左右一対のガイドレール11を介して支持されている。」 (イ) 上記記載によれば,甲第21号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
ウ 甲第22号証(実願昭63-58087号(実開平1-162410号)のマイクロフィルム)の記載 (ア) 甲第22号証には,次の記載がある。
「この考案は,倉庫などにおける物品の収納保管および検索取出しを自動的に行えるようにした自動保管検索装置およびその棚構造に関する。」(2頁2行ないし4行) 「第11図は,その自動保管検索装置の概略構成を示す正面図であって,収納エリア1は,幅寸法の広い広幅棚2が配列されたエリア1aと,幅寸法の狭い狭幅棚3が配列されたエリア1bとからなっている。収納エリア1の前方は,その収納エリア1の棚開放側に沿って移動自在にコラム4が設けられ,そのコラム4には昇降自在に支持台5が設けられている。そして,この支持台5上には各棚2,3との間でコンテナ6,7の出し入れを行う図示しないピッカーが設けられており,広幅棚2はこれに対応する幅寸法の広いコンテナ6の収納場所に専用し,また狭幅棚3はこれに対応する幅寸法の狭いコンテナ7の収納場所に専用するように構成されている。」(2頁11行ないし3頁4行)(イ) 上記記載によれば,甲第22号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領 域を設けることが記載されていると認められる。
エ 甲第28号証(特開昭59-172306号公報)の記載 (ア) 甲第28号証には,次の記載がある。
「本発明は,自動倉庫に用いられる入出庫クレーンに関するものであって,小幅の荷と大幅の荷の何れでも左右-対のガイドにより案内させ乍ら安全良好に移載させることが出来,しかも従来のように荷の幅に応じて間隔を変更する可動式ガイドを必要としない構造簡単な自動倉庫用入出庫クレーンを提供するものである。
以下,本発明の一実施例を添付の例示図に基づいて説明すると,1は自動倉庫用入出庫クレーンの一定走行経路脇に立設された棚であって,大幅の荷2を収容する区画3と小幅の荷4を収納する区画5とを有し,各区画3,5は,夫々前後一対の支柱6間に架設された左右一対の荷受具7a,7bと,後側の支柱6に取付けられた左右一対のストッパー8a,8bとを備えている。前記入出庫クレーンは,支柱9に昇降可能に支持されたキャレッジ10を備え,このキャレッジ10上には,前記棚1の収納区画3,5に対して遠近方向に移動可能で且つ昇降自在な荷押し引き移載手段11が設けられ,更にこの移載手段11の移動経路の左右両側に,小幅の荷4を支持する左右一対の下側支持面12と,この下側支持面12よりも高い位置に於て大幅の荷2を支持する左右一対の上側支持面13と,上下両支持面12,13間に位置し且つ小幅の荷4の左右両側を案内する左右一対の下側ガイド14と,上側支持面13よりも高い位置にあって且つ大幅の荷2の左右両側を案内する左右一対の上側ガイド15とが設けられている。尚,前記移載手段11は周知のものであるから,その支持構造と駆動構造の図示及び説明は省略するが,この実施例では前後一対の係止片16a,16bの内,図示の棚1側に位置する係止片16aのみが使用される。」(1頁左下欄17行ないし2頁左上欄9行)甲第28号証の第1図には,大幅の荷2を収容する区画3と小幅の荷4を収納する区画5は,各荷に対してその幅だけでなく高さがそれぞれ異なることが示されている。
(イ) 上記記載によれば,甲第28号証には,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
オ 甲第29号証(実願昭58-161944号(実開昭60-72405号)のマイクロフィルム)の記載 (ア) 甲第29号証には,次の記載がある。
「各種の部品を自動倉庫に格納する場合には,それらの部品を容器に収納するのが普通である。その際,様々な寸法の部品を同一寸法の容器に収納するのでは,ある容器は満杯であっても,ある容器は空間が多いという状態が生じ,したがって倉庫全体のスペース効率が悪化してしまう。この欠点は,扱う部品の形状や寸法に応じて,幅寸法の異なる大小二種類の容器を使い分けるとともに,倉庫内の格納棚を大容器専用の部分と小容器専用の部分とに分けることで,或る程度解消できる。」(1頁最下行ないし2頁9行) 「第1図は本考案による搬送台を用いた自動倉庫の概略構成を示している。棚装置1は多数の幅広格納棚2と多数の幅狭格納棚3とを有している。この棚装置1の前方には左右方向4で移動させられるコラム5が設けられている。コラム5には上下方向6で移動させられる搬送台7が備えられている。かくして搬送台7は格納棚2,3の前面に沿って上下左右に移動し,そして棚装置1やコラム5に設けたマークを読み取ることで所望の格納棚に対応した位置に停止し,その格納棚に対し容器8又は9の出し入れを行なう。ここで容器8は幅広格納棚2に格納される幅広容器であり,一方,容器9は幅狭格納棚3に格納される幅狭容器である。」(4頁10行ないし5頁3行) (イ) 上記記載によれば,甲第29号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
カ 甲第21号証等に記載されている周知技術の内容上記イないしオによれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けること,又は,自動倉庫 の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されており,これらのことが従来周知の技術的事項であるといえる。
また,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。
以上によれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証の記載から,次の事項が周知技術であることが認められる。
「収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容する複数のコンテナを備えた自動倉庫。」 (3) 相違点1に係る容易想到性について ア 甲4発明と上記(2)で認定した周知技術は,コンテナ等に収容物を収容し,このコンテナを,棚等を有する収容場所に格納するものである点で共通する。
したがって,甲4発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。
この点,審決は,本件訂正発明1と甲4発明の相違点1について,発明特定事項である「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」に関しては,その構成として,本件訂正発明1の図面である【図2】及び【図11】に示すような構成であると解するのが自然であると認定・判断し,また,「書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なることまでが周知の技術であるとまではいえない」とした上,甲4発明,甲1発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえないとの判断をしている。
しかし,取消事由1について検討したとおり,審決の上記認定は,その前提において正 確性 を欠く とこ ろがあることから,審決が,「書庫に用いる棚領域におい て」という点について,上記【図2】及び【図11】に示すような構成に限定して解釈しているとすれば,それが「その幅及び高さがそれぞれ異なることまでが周知の技術であるとまではいえない」との判断に影響を与えているものといえる。
また,仮に,取消事由1で検討したように,本件訂正発明1がフリーロケーション方式を採用したもので,図書のサイズにそれぞれ応じた棚領域及びコンテナを有する書庫(Aの見解)であると解し,書庫の形式をそのように限定したとしても,甲4発明(及び甲1発明)に上記周知技術を適用し,「書庫に用いる棚領域において」採用することについて,すなわち相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることについて,格別の阻害要因があると認めることはできない。この点は,項を改めて詳述する。
イ 被告は,周知技術の属する倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した「棚領域」という概念を観念することはできず,自動倉庫の分野において,幅及び高さが異なる棚領域を設けることが周知であったとしても,それは,そこに収容する物品の寸法に対応したものではなく,棚領域が「荷物の寸法別に分類された」構成は開示されていないという点で,本件訂正発明1とは異なると主張する。
しかし,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,また,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。そして,この収容容器(コンテナ)が収容される棚領域は,当然のことながら,収容物の大きさ(寸法)に対応したものになる(なお,原告が当該構成を端的に示した文献の存在を主張立証していない,との被告の非難は当たらない。)。
したがって,倉庫(自動倉庫)の技術分野においては,その寸法に対応した,幅及び高さがそれぞれ異なる収納容器(コンテナ)や,当該収納容器のみを集積した 「棚領域」という概念を観念することができないとの被告の主張は理由がない。
そして,本件の 場合 ,図書は,その幅及び高さが複数 種類に限 定されているため,収容物が図書に限定された場合には,限定のない場合と比較して収容効率が向上するという効果が予想されるが,収容効率を更に向上させるために,荷物の大きさを揃えて,それに対応するコンテナに収容する方がよいことは,当業者が技術常識に照らして容易に予測し得るところであって,図書の場合は,規格上,それが更にA4版,B5版等に特定されたものというべきである。被告は,本件訂正発明1が採用したフリーロケーション方式では,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上すると主張するが,このような効果は,収容物の大きさに応じた収納容器を用いることで収容効率が向上するという効果から当業者が予測し得る程度のものであり,それ以上に格別なものとはいえない。
ウ 被 告は,原告が 掲げ る倉 庫に 関する 技術(甲20 〜甲22,甲28,甲29)は,出納効率の向上の点からは適さないものであると主張する。
確かに,図書の場合,出入庫が一冊単位で,一つの図書について複数回繰り返し要求され,かつ出庫だけでなく必ず返却作業を伴うものである点,荷物系とは,収容対象物の動きの複雑さと入出庫の回数で大きく異なる,との被告の主張は理解できる。
しかし,収容物の出納効率の観点からみると,上記周知技術は,収容物の種類ごとに収容容器を用いるのではなく,収容物の寸法等に応じて収容容器を使い分けるものであるから,複数種類の収容物を収容する場合であっても,当該収容物が同一の収容容器に収容されるものであるならば,当該収容容器を用いるだけで足りる。
また,収容物の種類に応じて,収容容器の種類を増やせばスペース効率は向上するが,必ずしも収容物の種類に応じて収容容器の種類を増やす必要はない(例えば,甲第28号証,同第29号証には,収容容器を大小二種類とすることが記載されている。)。
また,出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題であり(甲48,55),出納効率の点において多少の相違があるとしても,必ずしも周知技術を適用することの阻害要因となるものではない(なお,効果の相違については後に判断する。)。
したがって,上記周知技術は出納効率の向上の点からは適さないものであるとの被告の主張は理由がない。
そして,上記認定の周知技術を甲4発明に適用するに際して,コンテナの種類を複数種類とし,各棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容するコンテナを得ることは,上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことである。
(4) 小括 よって,原告主張の取消事由2は理由がある。
3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)について (1) 審決の認定・判断 相違点3に係る審決の認定・判断は次のとおりである。
ア 相違点3 「本件訂正発明1においては,『書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている』のに対して,甲4発明においては,書庫の複数の棚領域から,搬送手段によってコンテナを取り出すものではあるが,奥行き方向に複数のコンテナを収容し,搬送手段には,コンテナを取り出す間口に対して手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段を備えたものであるかは不明である点。」イ 甲5発明「倉庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容される倉庫。」 ウ 容易想到性判断 「『コンテナ12』(本件訂正発明1における『コンテナ』に相当。)の収納位置が決められている甲4発明の書庫に,『載荷パレット』(本件訂正発明1における『コンテナ』に相当。)の収納位置が決められていない甲5発明の倉庫の技術を適用する動機付けが見出せない。
そして,甲第18号証,甲第23号証ないし甲第27号証に記載されているように自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが請求人が主張するように従来周知の技術的事項であるとしても,書庫の分野で奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置することまでが周知の技術であるともいえない。
そして,本件訂正発明1の相違点3に係る発明特定事項を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という効果を奏するものである。
よって,甲4発明の書庫に,甲5発明の倉庫の技術を適用できるとは認められないから,相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項は,甲4発明,甲5発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。」 (2) 相違点3に係る容易想到性について ア 審決は,コンテナの収納位置が決められている甲4発明に,コンテナの収納位置が決められていない甲5発明が適用できないとする。
また,この点について,被告は,甲5発明の「載荷パレット」の場合,収納位置が決められていないことからも分かるとおり,載荷パレット内の一つ一つを区別して管理する必要のないロット単位の通過物流主体の荷物系のシステムであり,一冊ごとに取り出しかつ返却を要する図書 系の 物流とは大 きく異なるもので,奥 側のみ,あるいは手前側のみの載荷パレットの取り出し及び返却という処理の必要性がなく,このような取り出し・返却の作業効率の向上(出納効率の向上)という技術的課題を考慮する必要のない構成であると主張する。
しかし,甲第5号証には,載荷パレットの収納位置に関して,これを元の収容位置に戻す必要があるとも,そうでないとも記載されていないし,奥行き方向に配置した手前側と奥側の載荷パレットを連続して搬入・搬出するものであるとも記載されていない。
したがって,審決が,甲5発明を「収納位置が決められていない」倉庫の技術であると特定して認定した点は,誤りである。
また,物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して,間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すことは,甲第5号証に記載され,審決でも認定しているように,倉庫の分野では慣用的に行われている従来周知の技術的事項である。そして,甲4発明と甲5発明とは,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通するから,この周知の技術的事項を甲4発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。
イ 被告は,甲4発明は,「貸し出し及び返却時の作業を容易化する」こと,すなわち,出納効率の向上という技術的課題を克服するためになされた発明であるから,出納効率を低下させる甲5発明を適用することは阻害要因があると主張する。
しかし,甲4発明と甲5発明は,上記のとおり,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通しており,その主たる相違は,収容物が図書であるか一般的な荷物であるかの点にあるといえるところ,出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題である(甲48,55)。したがって,甲4発明において,収容効率を向上させるために,甲5発明を適用することは,当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。よって,被告の主張は採用することができない。
ウ 被告は,本件訂正発明1の「フリーロケーション方式」は,「図書の寸法情報を入力することにより,当該返却図書の寸法に対応するコンテナの中から空きの あるコンテナを取り出す構成」を備えるからこそ,甲5発明を適用しても,出納効率の面でも問題とならない運用ができるのであり,このような構成を備えない甲4発明に甲5発明を適用した場合に,使い物にならないほどに出納効率が低下することは明らかであると主張する。
しかし,被告主張の上記出納効率の相違については,主として相違点2に係る構成によるものというべきであり,このような構成を備えることにより甲5発明を適用しても出納効率の面でも問題にならない運用ができるというのは,相違点2に係る上記構成に基づく効果である。
したがって,被告の 上記主張 は, 相違点 3の容易想到性判 断に係る主張 としては,失当である。
(3) 小括 よって,原告主張の取消事由3は理由がある。
4 取消事由4(相違点1及び相違点3による作用効果の判断の誤り)について (1) 審決の判断 本件訂正発明1の作用効果に係る審決の判断は次のとおりである。
「そして,本件訂正発明1は,上記相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項と上記相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項とを備えることによって,全文訂正明細書の段落【0089】に記載されたとおりの『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という甲4発明(甲第4号証に記載された発明),甲1発明(甲第1号 証 の3または甲第2号 証 の3または甲第3号 証 の3に記載された発明)及び甲5発明(甲第5号証に記載された発明)並びに甲第6号証ないし甲11号証及び甲第20号証ないし甲第29号証に基づく従来周知の技術的事項からは予測できない作用効果を奏するものと認められる。」 (2) 本件訂正発明1の作用効果について ア まず,相違点1に係る本件訂正発明1の構成は,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」と「それぞれが収容さ れた棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」とを採用していることである。
前記2(3)のとおり,本件訂正発明1において,上記棚領域を有する書庫及びコンテナを採用したこととの関係で得られる「書庫内における図書の収容効率を向上させる」という効果は,当業者が予測できないような格別のものと認めることはできない。全文訂正明細書の段落【0089】には,本件訂正発明1の効果として,収容効率の向上という上記の効果と合わせて,「自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率も効果的に向上させ得る」ことが記載されているところ,このうち収容効率の向上という効果は,主として相違点3に係る発明特定事項を採用したことによる効果であるといえる。
仮に,本件訂正発明1において,書庫の寸法及びコンテナの寸法と収容され イる図書の寸法との間に図書の収容効率を向上させるような関係が特定されていたとしても,この発明特定事項を採用したことによる収容効率の向上と,相違点3に係る発明特定事項を採用したことにより得られる収納効率の向上とは,それぞれ独立して生じるものであるから,その効果の大きさは,それぞれの収容効率の向上から得られる効果を足し併せたものであり,それぞれの発明特定事項から得られる収納効率の向上という効果から当業者が予測できる程度のものでしかなく,相乗効果であるとはいえない。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
ウ なお,本件訂正発明1の効果については,上記のとおり,全文訂正明細書の段落【0089】に,収容効率の向上という効果に加えて,取り出し及び返却作業の能率(出納効率)の向上についても記載されている。出納効率の向上という効果は,主として相違点1及び2に係る発明特定事項を採用したことによるものであると考えられるところ,審決は,相違点2の容易想到性,相違点2に係る発明特定事項を採用したことによる効果については何ら判断していないため,相違点2に係る点は,本件訴訟における審理の対象には含まれていない(原告も相違点2について は取消事由に挙げていない。)。本件訂正発明1の効果について十全たる判断をするためには,相違点2に係る構成による効果の相違も含めて,審理が必要である。
(3) 小括よって,原告主張の取消事由4は理由がある。
5 取消事由5(本件訂正発明2及び3の判断の誤り)について審決は,本件訂正発明2及び3について,本件訂正発明1について述べたところと同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたとすることはできないと判断している。
しかし,上記2ないし4で判示したところから明らかなように,本件訂正発明1は進歩性を有していないから,本件訂正発明1が進歩性を有することを前提とする審決の上記判断は誤りである。
したがって,原告主張の取消事由5は理由がある。
6 まとめ以上のとおり,取消事由2ないし5はいずれも理由があり,審決には取り消されるべき違法がある。
結論
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 芝俊