審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19ワ32196不当利得返還請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ3905特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | インターネット / アクセス / 進歩性(29条2項) / 公知技術 / 実質的同一 / 上位概念 / 下位概念 / 技術的範囲 / 同日出願 / 発明の詳細な説明 / 分割出願 / 実質的に同一 / 権利移転 / クレーム / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 実質的同一性 / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 信義則 / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 構成要件充足性 / 侵害 / 損害額 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 移転登録 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
23079号
損害賠償請求事件
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原告 タクトロン株式会社 同訴訟代理人弁護士 木下貴司 同 國政直子 同 高木浩二 同 野口政幹 同訴訟復代理人弁護士 布川博良 同 島本泰宣 同補佐人弁理士 梁瀬右司 被告 任天堂株式会社 同訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子 同 林 いづみ 同補佐人弁理士 役昌明 同 林紘樹 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/12/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,原告に対し,金40億円及びこれに対する平成15年10月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,インターネット等を利用した各種情報提供サービス及びコンテンツの制作等を目的とした株式会社である。 被告は,家庭用ゲーム機の製造・販売を主たる業務内容とする株式会社である。 (2) 本件特許権 データイースト株式会社(以下「データイースト」という。)は,次の特許権を有していた(以下「本件特許権」という。その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件特許発明1」,同請求項2の発明を「本件特許発明2」といい,併せて「本件特許発明」ということがある。なお,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)。 登録番号 第2877779号 発明の名称 図形表示装置及び方法 出 願 日 昭和59年10月2日 登 録 日 平成11年1月22日 特許請求の範囲 (請求項1) 「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と,図形発生手段と,を備え,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置」 (請求項2) 「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと,前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと,前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表示方法であって,図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法」 (3) 構成要件の分説 ア 本件特許発明1を構成要件に分説すると次のとおりである。 A-1 複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと, A-2 垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と, A-3 図形発生手段と,を備え, B 前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって, C 前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する D ことを特徴とする図形表示装置 イ 本件特許発明2の構成要件を分説すると次のとおりである。 A’-1 複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと, A’-2 垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと, A’-3 前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと, A’-4 前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表示方法であって, B’ 図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含む C’ ことを特徴とする図形表示方法 (4) 本件特許権の譲渡 平成15年3月14日,データイーストから原告に対する,本件特許権の移転登録手続がされた。 (5) 債権譲渡通知 データイーストは,平成15年3月29日,被告に対し,被告が本件特許発明を同年3月14日まで実施したことによって生じた損害賠償請求権等を原告に債権譲渡した旨通知し,上記債権譲渡通知はその後数日以内に被告に到達した。 (6) 被告の行為 被告は,平成13年3月21日から現在まで,ゲームボーイアドバンスという商品名の携帯ゲーム機(以下「被告製品」という。)を製造販売している。 2 本件は,本件特許権及び同特許権侵害に基づく被告に対する損害賠償請求権を譲り受けたと主張する原告が,被告に対し,被告製品は,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属し本件特許権を侵害するとして,民法709条に基づき,一部請求として40億円の損害賠償を請求する事案である。 3 本件の争点 (1) 原告の権利取得の有無 ア データイーストから原告に対する本件特許権及び被告に対する損害賠償請求権等の譲渡の有無 イ データイーストと原告との債権譲渡契約は通謀虚偽表示か ウ 原告の被告に対する本件請求は,法人格否認の法理に照らし,信義則違反か (2) 被告製品の構成 (3) 本件特許発明の技術的範囲の解釈 (4) 被告製品が本件特許発明1の構成要件を充足するか ア 構成要件A-1の充足性 イ 構成要件A-2の充足性 ウ 構成要件A-3の充足性 エ 構成要件Bの充足性 オ 構成要件Cの充足性 カ 構成要件Dの充足性 (5) 被告製品が本件特許発明2の構成要件を充足するか ア 構成要件A’-1の充足性 イ 構成要件A’-2の充足性 ウ 構成要件A’-3の充足性 エ 構成要件A’-4の充足性 オ 構成要件B’の充足性 カ 構成要件C’の充足性 (6) 損害の発生及びその額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(特許権等の譲渡の有無)について 〔原告の主張〕 (1) 債権譲渡 原告は,平成15年1月23日,データイーストから本件特許権及び同日までに発生していた本件特許権侵害に基づく被告に対する損害賠償請求権等の譲渡を受けた(以下「本件特許権等の譲渡」という。)。同特許権の譲渡については,同年3月14日に特許庁において登録され,債権の譲渡については,同月29日に内容証明郵便により被告に通知された。 (2) 貸付の事実 すなわち,本件特許権及び損害賠償請求権は,データイーストが原告に対して負担していた次の貸付債務(以下,番号に従い,@の貸付を「本件貸付@」などといい,本件貸付@ないしDを併せて「本件各貸付」という。)の代物弁済として,平成15年1月23日に,原告に譲渡されたものである。 @ 平成13年2月21日 1000万円(甲4の2) A 平成13年3月22日 1000万円(甲4の3) B 平成14年9月18日 600万円(甲4の4) C 平成14年9月26日 600万円(甲4の5) D 平成14年10月2日 900万円(甲4の6) なお,上記のうち本件貸付@ないしBについては,特許権譲渡契約書(甲4の1)における表記がそれぞれ「平成13年2月20日」「平成13年3月21日」「平成14年9月17日」となっているが,これは当該契約書作成の際に誤って実際に現金が授受(又は授受のために出金)された日付を記載してしまったことによるものである。 (3) 被告の主張に対する反論 ア 被告は,本件各貸付の事実が存在しない旨主張するが,本件各貸付のうち,本件貸付@ないしCについては,原告名義の預金口座からデータイースト名義の預金口座に対し,金員が振り込まれている。 また,本件貸付Dについては,有限会社JPC(以下「JPC」という。)名義の口座に振り込むことによってされている。その事情は,次のとおりである。すなわち,原告は,データイーストに対して資金を貸し付けるに際し,原告の取締役であるAから貸付原資を調達することにしたが,当時Aにおいても十分な現金を有していなかったため,Aは,自己が有する株券をJPCに売却して得た資金をもって原告に貸し付けることにした。そして,その際,原告がAから貸付を受ける資金はさらにデータイーストに対し貸し付けられることが予定されていたこと,データイーストにおいて資金需要が切迫していたなどの事情から,原告の意向により,AにJPCに事情を説明させた上,同社からAに支払われるべき株券売買代金を,A及び原告を介することなく,直接データイーストの口座に振り込む扱いにしたものである。 このように,本件各貸付については,金銭授受の外形的事実が客観的に存在し,かつ,その金銭授受の趣旨についても当事者間の返還の意思表示を示した金銭消費貸借契約書が存在するのであるから,本件各貸付の存在は明白である。 イ 被告は,データイーストの総勘定元帳に,本件各貸付と齟齬するような記帳が存在することを捉えて,貸付の事実が存在しない旨主張するが,仮にそうであったとして,それはあくまでデータイースト内における経理処理の正確性の問題にすぎず,これをもってデータイースト及び原告間における金銭消費貸借契約の存在を否定することはできない。 また,データイーストは,原告からの借入れの事実について「製品売上」としての記帳を行っているが,これによっても原告からの入金が存在した事実は明白である。なお,データイーストが「製品売上」として記帳したのは,会社の業績を粉飾するため,原告からの借入れを隠蔽して,収益である「製品売上」勘定に計上したにすぎないものと推認される。 〔被告の主張〕 (1) 債権譲渡の不存在 後記(2)のとおり,本件各貸付の事実が存在しない以上,これに対する代物弁済としての本件特許権等の譲渡の事実も存在しない。 また,損害賠償請求権の譲渡については,データイーストと原告間の平成13年2月21日付け譲渡契約書(甲4の1)によれば,別途債権譲渡契約を締結して確定日付をとるものと規定されているにもかかわらず,それがなく,したがって,譲渡契約の内容が不明である。 (2) 貸付の不存在 原告からデータイーストに対する本件各貸付の事実は存在しない。会社としての営業の実体がなく,データイーストと実質的に同一であった原告が,破産申立て直前の経済状況にあるデータイーストに対し,しかも返済を一度も得ることなくして累計4100万円にも及ぶ本件各貸付を繰り返していたということ自体およそあり得ないことである。その理由は,次のとおりである。 ア 本件各貸付に関する金銭消費貸借契約書(甲4の2ないし6)と原告の平成13年1月11日から平成14年9月30日までの総勘定元帳の写し(甲9)は,原告がデータイーストに対して現金で貸し付けた事実を立証する証拠としては不十分である。 すなわち,原告の平成13年1月11日から平成14年9月30日までの総勘定元帳の写し(甲9)には平成14年10月2日の相手科目名に「短期借入金」として450万円が2回記載されており,また,これが最後の貸金であってその残高欄には4100万円と記載されている。同総勘定元帳は,税理士Bの署名押印があるが,同税理士はデータイースト及び原告の監査役であるから,そのような者が作成した書類は信用できない。特に,甲第9号証が真に原告の総勘定元帳の一部のコピーであるならば,原告は,平成12年10月から平成15年9月まで,データイーストに対する貸付以外の活動を全くしていないことになる。これはまさに,原告に営業活動の実体がない証拠である。また,本件各貸付に関する金銭消費貸借契約書(甲4の2ないし6)においては,いずれの契約においても,「利息金」が契約日に現金で支払われたとされている。しかしながら,総勘定元帳(甲9)では,かかる「利息金」受領を示す勘定科目は存在していない。したがって,総勘定元帳(甲9)は形式的にすら,本件各貸付に関する金銭消費貸借契約書(甲4の2ないし6)の内容事実を示す総勘定元帳ではない。 イ 本件各貸付は,いずれも真実はデータイーストから原告あるいはJPCへの「製品売上」であるから,本件各貸付はすべて存在しない。すなわち,まず,本件貸付@及びAについては,データイーストの第25期の総勘定元帳(乙24)には,「製品売上」代金1000万円などと記載され,「金利」ではなく,「支払手数料」として25万円が振り込まれている。もし,貸付であるならば,これが「金利」ということになるが,このような高額の金利になるはずがない。契約書には,本来1万円の印紙を貼らなければならないのに,2000円の印紙しか貼付されていない。したがって,本件貸付@及びAは,貸付金ではない。 ウ データイーストの第27期の総勘定元帳(乙26の1・2)は,破産宣告後に作成されたものであるから,本来「製品売上」であったものを「短期借入金」名目に恣意的に仕分けした可能性が高い。 これに加えて,本件貸付@及びAは「製品売上」と明確に記載されていること,本件貸付Dを450万円ずつの2口に分けての振込は貸付金としては極めて不自然であること,契約書に印紙が貼られていないこと,この貸付については,現実の送金処理が,JPCからデータイーストへの送金という形を利用したことになっているが,Aが株式をJPCに売却し,その代金をJPCがデータイーストに支払うことにより,原告がデータイーストに実質的に貸し付けたとの原告の主張は,苦し紛れの言い逃れであり,主張しているだけでそれを裏付ける証拠は何ら提出されておらず,真実はJPCへの製品売上げであったと解するのが合理的であること,以上を考慮すれば,結局,本件貸付Dも不存在である。 エ 本件貸付B及びCについても,両者の貸付日付が不自然に極めて接近している。わずか8日間の間に2回に分けて貸付を実行することは不自然であること,契約書に印紙が貼られていないことからすれば,結局,これらの貸付も本件貸付@,A及びDと同様に,「製品売上」と解するのが合理的である。データイーストの第27期の総勘定元帳の「前期損益修正損」(乙26の2)こそは,送金の外形を利用して「貸付」があった旨の資料を作出すべく,恣意的に作成されたことの痕跡である。 (3) 原告の主張に対する反論 ア 代物弁済であるとの主張について 原告が代物弁済をしたと主張する時期は,データイーストが和議条件を履行することができずに同社の破綻が決定的になり,有限会社新宿エクスプレスに対する債権譲渡が行われた直後であり,また,同社の代表者が原告の役員に就任した直後に当たることを留意すべきである。 イ 「製品売上」との記載は粉飾決算したにすぎないとの主張について 総勘定元帳上の「製品売上」との記載が単に粉飾決算したものにすぎないなどということはあり得ない。その理由は次のとおりである。第1に,平成12年7月の和議認可(乙30)を含む決算期(平成13年3月期。乙22)において,重要なことは債務免除益の処理であり,そもそも営業損失など問題にならないので,粉飾によって営業利益を計上しようとする決算など無意味であり,不必要である。第2に,粉飾であろうがなかろうが,平成13年3月期の決算には大差がないので,不合理である。第3に,平成12年7月の和議認可の直後の時期に,銀行が「業績の好転がみられない」ことを理由として破産手続を検討するということは,そもそもあり得ない。 2 争点(1)イ(通謀虚偽表示)について 〔被告の主張〕 (1) 通謀虚偽表示 データイーストと原告との債権譲渡契約は通謀虚偽表示である。すなわち,前記1〔被告の主張〕(2)のとおり,本件各貸付の事実が存在しない以上,これに対する代物弁済としての本件特許権等の譲渡の事実も存在しないものであるが,仮に本件各貸付及び本件特許権等の譲渡のごとき外形があるとしても,それは,次の理由により,通謀虚偽表示としていずれも無効である。 ア データイーストと原告との実質的同一性 データイーストと原告は,本店所在地も同一で,同一人物が相互に取締役や代表取締役を兼ねるなど,次のとおり,実質的に同一会社である。したがって,原告は,会社としての営業の実体がなく,役員構成,本店所在地等の点でデータイーストに合計4100万円にも及ぶ貸付を繰り返す理由も能力もない。 (ア) 役員構成の同一 データイーストの代表取締役であるCは,もともと原告の代表取締役も兼任していた。平成12年1月18日に原告の代表取締役を辞任した後も原告の取締役にとどまり,本件特許権等の譲渡の直前である平成15年1月14日に辞任するまで,データイーストの代表取締役と原告の取締役を兼務していた。また,原告の代表取締役Dは,Cと実親子の関係にあって,住所も同じである(乙9,20,21)。Dは,平成12年1月18日,Cの後を受けて原告の代表取締役に就任した。平成14年12月10日にはデータイーストの取締役に就任し,それ以降,原告の代表取締役とデータイーストの取締役を兼務していた。さらに,Cの妻でDの母であるAは,原告の代表取締役であったが,Cと同じ平成12年1月18日に辞任し,それ以降,現在まで取締役である。 原告の監査役Bは,平成13年6月28日以前からデータイーストの監査役である。Bは,本件特許権等の譲渡の直前である平成14年1月14日に監査役に就任し,両者の監査役を兼務することになっている(乙9,10)。 このように,両社の役員構成は家族関係に裏付けられた非常に緊密なものである。 (イ) 本店所在地の同一 原告とデータイーストは,本店所在地の点でも全く同一である。すなわち,両社はもともと「新宿区(以下略)」を本店所在地としていたが,昭和59年に共に「杉並区(以下略)」へと本店を移転しており,データイーストが倒産するまでは,両社の本店所在地も,移転時期も全く同一であった(乙9,10)。 (ウ) 原告が営業活動の実体のある会社であることが示されていないこと 原告は,営業活動の実体のある会社であることを示す証拠として事務所の写真(甲11)を提出したが,それらには営業活動の実体は全く撮影されていないし,建物賃貸借契約書(甲12)も原告名義の賃貸借契約を証するのみであって,実体を証するものではなく,しかもその日付は平成15年3月24日であるので,それをもって,本件各貸付時及び本件特許権等の譲渡時に原告が実体のある会社であったことを示す証拠にはならない。 イ 本件各貸付に関する疑義 (ア) 和議会社に対する貸付 データイーストは,債務超過に陥り,平成12年4月6日和議開始決定を受け,同年8月9日和議認可決定が確定してから,何とか和議条件を実行していたが,その後,和議条件を実行することが不可能となり,平成15年6月13日に自己破産の申立てをし,同年6月25日破産宣告を受けた会社であるところ,本件各貸付は,データイーストが和議条件を実行しているはずの平成13年2月から平成14年10月までの間にされたものである。厳しい資金繰りにある和議会社に対し,合計4100万円にも及ぶ貸付を繰り返すというのは異例のことであり,貸付の必要性,回収のための保全措置等,やむにやまれぬ特殊な背景があってはじめて実行されるべきところである。しかし,原告はこうした点について何ら主張立証もしないのであるから,貸付の事実そのものの信用性がない。 (イ) 自己取引であること 本件各貸付がされた平成13年2月から平成14年10月までの当時,Cは原告及びデータイーストの取締役と代表取締役を兼任していたのであるから,本件各貸付は自己取引に当たる。 (ウ) 金銭の授受の立証がないこと 本件各貸付については,金銭の授受の立証がないことは,上記のとおりである。 ウ 本件特許権等の譲渡に関する疑義 (ア) 本件特許権等の譲渡と経営破綻の時期的関係 データイーストは,前述のとおり,和議開始後なんとか和議条件を実行していたが,和議債務の支払が不可能となり事実上破綻状態となった。平成15年1月20日,データイーストの有限会社新宿エクスプレスに対する債権譲渡が登記された(乙10)。原告は,その直後である同月23日に本件特許権等の譲渡がされたと主張する。しかし,同月20日の債権譲渡登記が経営破綻の兆候とみられることから,本件特許権等の譲渡なるものは,データイーストが事実上破綻した実質的危殆時期に該当していると考えられる。譲渡人であるデータイーストと譲受人である原告が実質的に同一の関係にありかつ原告に営業の実体がなかったことからすれば,本件特許権及び損害賠償請求権がデータイーストの破産財団に組み入れられるのを回避するため,実質的に同一の支配下にある原告を利用して,詐害的に代物弁済たる本件特許権等の譲渡及びその前提となる架空の貸付を仮装したものというべきである。 (イ) 甲第4号証の1によれば,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権については,特許移転登録完了後に別途債権譲渡契約を締結して確定日付をとるものと規定されている(7条)。しかるに別途の債権譲渡契約書なるものは提出されておらず,譲渡契約内容が不明である。したがって,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権が代物弁済たる本件特許権等の譲渡の対象となっているかどうかは疑わしい。 以上のとおり,本件各貸付及び本件特許権等の譲渡のような行為の外形があったとしても,これらは通謀虚偽表示としていずれも無効である。 (2) 原告の主張に対する反論 原告は,データイーストは,譲渡すること自体には真実の意思があり,したがって,通謀虚偽表示ではなく,詐害行為取消権,否認権行使の場面であるにすぎないと主張するが,本件特許権等の譲渡は,「貸付」を前提に,その「代物弁済」としてされたというのであるから,前提となる「貸付」が存在しない以上,代物弁済の真実の意思もあり得ない。したがって,本件特許権等の譲渡(代物弁済)は不存在である。 〔原告の主張〕 本件では,譲渡の意思は真意を伴っているのであって,通謀虚偽表示などではなく,民法上の詐害行為取消権又は破産法上の否認権行使の問題である。したがって,通謀虚偽表示との被告の主張は主張自体失当である。すなわち,被告の通謀虚偽表示との主張については,代物弁済契約当事者間において,特許侵害に基づく損害賠償請求権について権利移転の意思が存在することは動かすことのできない事実である。破産が予定されている法人において,ある特定の財産譲渡を仮装すること,つまり真実は当該法人に帰属したままにしておくということは,当該破産法人はやがて消滅することが予定されている以上,全くの意味のないことだからである。 3 争点(1)ウ(信義則違反)について 〔被告の主張〕 前述のとおり,原告会社は実体のない会社であり,実質的にデータイーストと同一の会社である(乙18ないし21)。 本件特許権等の譲渡は,データイーストの実質的な破綻時期において,破産財団に組み込まれることを防ぐ目的で,詐害的に,営業の実体がなくデータイーストと実質的に同一ともいえる原告を利用してされたものであるから,仮にデータイーストの破産管財人が本件特許権等の譲渡を否認すれば,直ちに原告は本件訴訟における請求の基礎を失うものである。そして,破産管財人の否認権行使如何によらず,本来,本件特許権により何らの利益を受ける立場ではない原告が,データイーストと別人格であることを前提とし,データイーストと別個独立の存在として,被告に本件請求をすることは,信義則に反する。 〔原告の主張〕 否認ないし争う。 4 争点(2)(被告製品の構成)について 〔原告の主張〕 (1) 被告製品の構成は,別紙被告製品目録1記載のとおりである。 (2) その概要は次のとおりである。 ア ディスプレイ画面上のX方向座標算出タイミング,及びY方向累積加算タイミングを示すタイミング信号と回転角度を含むパラメータとに基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と, イ スクリーンデータの領域と,1つのキャラクタが縦8ピクセル×横8ピクセルからなる絵柄を記憶したキャラクタデータの領域とを含む画像メモリと, ウ 当該単一の座標のうち上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得, エ 当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域内のキャラクタから単一のピクセルデータを得て, オ 該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する カ 携帯ゲーム機である。 〔被告の主張〕 (1) 別紙被告製品目録2記載のとおりである。 (2) その概要は次のとおりである。 被告製品は,同目録に構成・動作として示されているとおり,1ピクセル毎に表示すべき座標値を直接生成し,1ピクセル毎に独立して当該座標の表示処理を行っているものであり,パラメータによって表示すべき座標値を得,ついで座標値に対応する位置のキャラクタコードを,画像メモリのスクリーンデータの領域から1ピクセル毎に得るが,これは1ピクセル毎に1つのキャラクタコードを得ているものである。そして,この1つのキャラクタコードと1ピクセル毎に直接生成した座標値のデータに基づいて,1ピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から1つのピクセルデータを読み出して,表示画面のラスタ上に当該1ピクセルを表示する。このように,被告製品は,画面上のある1点に1つのピクセル(1ドット)を表示するに際して,表示すべき1ピクセル(1ドット)分のデータについての座標生成から表示までの一連のまとまった処理(1サイクル処理)を,1ピクセル(1ドット)毎という周期で行うことを本質的な特徴(以下「1ピクセル毎の1サイクル処理」ということがある。)とするものである。このような,1ピクセル毎に1サイクル処理をするという被告製品の考え方は,グラフィック方式の考え方であり,後記5〔被告の主張〕(2)イにおいて詳述するところの1サイクルに複数のピクセル(キャラクタラスタ)を表示する従来のキャラクタ方式の考え方からすれば,被告製品の考え方は予想外のものである。したがって,被告製品は,グラフィック方式の基本構成から出発しているものであって,キャラクタ方式の間接的なメモリ読み出し方法をメモリの容量を相対的に少なくするために利用しているという技術的な位置付けがされるものである。 (3) 以上のとおり,被告製品は,2つのメモリを用いるという点に関してはキャラクタ方式を用いながら,すべてをピクセル毎の動作として処理するという点ではグラフィック方式の動作を実現しているという,独自の構成を採用しているものである。 5 争点(3)(本件特許発明の技術的範囲の解釈)について 〔原告の主張〕 (1) 本件特許発明は,キャラクタ方式において図形を回転表示するという技術に特許性が認められているものであって,本件明細書に「図形の回転表示など,当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった」(4欄36行ないし38行)と記載されているとおり,本件特許発明はパイオニア発明である。すなわち,キャラクタ方式とは,画面への文字・絵柄表示の方法の1つである。この方式は2つの異なる属性のメモリを設け(グラフィック方式では1つのメモリでよい。),一方には文字・絵柄のコードを記述し,他方のメモリには文字・絵柄の具体的な視覚的イメージを記述する。文字・絵柄のコードを記述するメモリをスクリーンメモリ又はマップと呼び,文字・絵柄の具体的な視覚的イメージを記述するメモリをキャラクタメモリ,ピクセルメモリ,キャラクタジェネレータ又は図形発生器などという。スクリーンメモリ(又はマップ)から読み出されるデータは,キャラクタコードとか読出順序データといわれ,キャラクタメモリ(又はピクセルメモリ,又はキャラクタジェネレータ,又は図形発生器)から読み出されるデータは,ピクセルデータ又は図形データといわれる。このような構成をとることで,スクリーンメモリ(又はマップ)を書き換えるだけで,簡単に画面に表示される文字・絵柄を書き換えて変更することができ,視覚的イメージの書き換え,変更を必要としない表示器を提供することができる。本件特許発明は,図形の回転処理にあたって,このキャラクタとして保存されているデータを回転処理して読み出すところに特許性が認められているものである。 (2) 被告の主張に対する反論 ア 後記〔被告の主張〕(2)ア(唯一の実施例)について 被告が行っている本件特許請求の範囲の解釈は,被告の独断に基づく誤った限定解釈としか認められない。明細書の参酌は,限定的意味ではなく,発明の内容を把握するためのものでなければならない。また,実施例についても,本件特許発明の技術思想は,特許請求の範囲に具体的に示されており,その下位概念に相当するものが実施例として記載されていて,他の特許発明の明細書と何ら変わるところはない。したがって,本件特許請求の範囲は,実施例の具体的な構造そのものに限定的に解釈されるべきものではなく,被告がことさら強調する「唯一の実施例」なるものには何らの意味も見出せない。 イ 後記〔被告の主張〕(2)イ(公知技術の参酌)について 被告は,独自の定義にかかる「従来のキャラクタ方式」を前提に,本件特許発明は,単なる公知技術の組み合わせや組み合わせから生ずる不都合の改良にすぎないと主張しているが,そもそもその前提が誤っているのであるから,その結論も根拠のない誤りであることが明らかである。 被告は,「従来のキャラクタ方式」なる概念を前提として,本件特許発明と比較した上,本件特許発明は,従来のマップとキャラクタジェネレータをそのまま前提技術として採用し,これに「座標回転処理手段」を設け,かかる組み合わせによって生じる2つの問題点があると主張するが,その2点は,メモリ速度向上の工夫であり,回転表示の原理技術ではない。 また,被告は,座標回転処理の手段も公知であると主張する。確かに,座標変換技術自体は,被告のいうとおり公知であったが,座標変換技術は,ピクセル毎の変換で変換後座標を得るので,描画メモリが直接に表示メモリであるグラフィック方式での利用の可能性が考えられていただけで,キャラクタ方式のように属性の異なる2つの表示メモリを対象としたものに利用するなどということは,全く考えが及んでいなかったものである。 ウ 後記〔被告の主張〕(2)ウ(出願経過等に示された出願人による意見表明)について 平成9年2月28日付の分割出願当初の明細書(以下「本件当初明細書」という。乙12の1)は,本件明細書の記載と何ら矛盾するものではなく,これについて他の出願書類等から改めてその意味を解釈する必要はない。 また,後記昭和59年10月2日出願特許群の1つである特許(特願昭59-205667。以下「乙13特許」という。乙13)の明細書の記載は,従来知られていたキャラクタ方式の図形表示において,座標に回転を与えようとした場合に生ずる図形表示上の障害を述べているもので,このような障害を発生させずに,正しい任意の角度での図形の回転を可能ならしめるための技術思想を明らかにしたものが本件特許発明なのである。したがって,本件特許発明は,「1つのマップサイクル中に2種類の読出信号が発生してしまう」という局所的な問題点に解決を与えるための発明ではない。 被告のその余の主張も,本件特許発明の内容を「従来知られている技術の延長として 『1つのマップサイクル中に2種類の読出信号が発生してしまう』という課題を解決するもの」と歪曲,曲解した上,その誤った前提に基づくもので根拠がなく失当である。 なお,原告は,禁反言の法理に反する解釈などしていない。 〔被告の主張〕 (1) 本件特許発明は,まず,連続する座標を入力してこれに座標軸変換を行い,読出順序データ(2つの読出データの総称)を用いて,また読出順序データを用いて得られる図形データの中から第2の読出信号によって特定のピクセルデータを特定して,キャラクタの表示位置における1ラスタ(キャラクタラスタ)毎に,回転表示のための処理を行う点に特徴がある。すなわち,本件特許発明は,回転前の連続する座標を水平方向読出信号および垂直方向読出信号として順次入力し,座標軸の回転演算を行って回転後の座標を得,その座標を表示画面上の1キャラクタラスタ分の表示についてデータを読み出すための読出信号(第1の読出信号)として出力するが,1つの表示データでは回転表示ができないので,「マップ」上の隣接して連続する位置にある2つの読出データを読み出すために,2つの読出信号が出力されるものである。この2つの読出信号が,本件特許請求の範囲で「第1の読出信号」と総称されているものである。次いで,この2つの読出信号に基づいて座標に対応するマップ位置の読出データがマップから得られる。1つの読出データでは回転表示ができないので,2つの読出信号に基づいて,隣接して連続する位置にある2つの読出データが得られる。この得られた2つの読出データが,本件特許請求の範囲で「読出順序データ」と総称されているものである。そして「読出順序データ」(すなわち「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの隣接する読出データ)によって,キャラクタジェネレータからキャラクタラスタ毎に必要となる図形データが得られる。図形データは,キャラクタラスタ分のデータであるから,キャラクタラスタ分の複数のピクセルから成るものである。また,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの読出データであるところの読出順序データに対応した図形データが得られるのであるから,読出順序データに対応して得られるのも,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2種類の図形データである。そして,図形組立部においては,このようなキャラクタラスタ分の複数のピクセルから成る2種類の図形データの中から,読出信号(第2の読出信号)でピクセルデータをキャラクタラスタ分特定し,キャラクタラスタ分回転されたラスタデータに組み立てて,キャラクタの表示位置におけるラスタ上に当該組み立てられたキャラクタラスタ分のデータを表示する。本件特許発明は,以上のようにしてキャラクタラスタ毎に図形の回転処理を行い,その結果として画面全体の回転を達成するものである。 (2) 上記(1)の解釈は,次の点から裏付けられる。 ア 本件明細書の唯一の技術開示である実施例の記載 (ア) 一般に,発明の詳細な説明の欄に上位概念による発明の構成が詳細に説明されており,当業者が当該記載によって上位概念による発明についての具体的な各種の実施が可能である場合,あるいは,実施例が数例記載されていて当業者が当該記載から上位概念としての発明の技術思想を把握することが可能である場合には,当業者に理解された当該上位概念による発明の技術的範囲が,下位概念であるところの実施例のみに限定されることはあり得ない。しかしながら,発明の詳細な説明における発明の開示の記載が,唯一の実施例の説明のみに尽きており,実施例の説明以外には当該発明の技術開示となる記載が存在しない場合には,当該発明の特許請求の範囲の記載は当然のことながら,唯一の技術の開示であるところの当該実施例の説明から当業者が読みとれる技術思想の範囲内のものとして解釈されることになる。このような解釈は,特許制度は開示した技術の代償としての当該技術の独占を認める制度であるという,特許制度の根本からの要請である。 そして,本件明細書は,その記載を全体としてみた場合に,本件特許請求の範囲について,文言をもって特定された本件技術思想を詳細に説明した部分は,【実施例】の欄及び【図面】の欄以外には存在しない。すなわち,本件明細書は,何らかの上位概念の発明を説明開示した上で,下位概念の実施例が記載されているという明細書ではなく,当業者に開示した技術は,唯一の実施例しか存在しないという明細書である。 したがって,本件特許請求の範囲の記載を解釈するにあたり参酌されるべき本件明細書の記載とは,【実施例】の欄の記載及び【図面】の欄の説明以外には存在しない。したがって,本件特許発明においては,実施例の欄の説明によって,本件特許発明についての特許請求の範囲の記載が解釈されなければならない。 (イ) また,このことは,本件特許発明の出願経過からも明らかである。 すなわち,本件特許発明は親出願(特願昭59-205670。乙11の1)を,出願後13年を経過した後である平成9年2月28日になって分割出願したものである。親出願の当初明細書(乙11の1)は補正書(乙11の4,7及び13)によって補正されているが,親出願の当初明細書の記載は,【産業上の利用分野】【従来の技術】【発明が解決しようとする問題点】【問題を解決するための手段】【作用】【実施例】【発明の効果】【図面の簡単な説明】【図面】の欄からなっており,上記いずれの明細書(乙11の1,4,7及び13)においても,【産業上の利用分野】【従来の技術】【発明が解決しようとする問題点】の欄には,いかなる発明も記載されていない。また【問題を解決するための手段】【作用】【発明の効果】の欄には,親出願となる発明以外には,他の発明は,一切記載されていない。結局,本件特許発明は,上記明細書中の【実施例】【図面の簡単な説明】【図面】の欄に記載されているために分割の要件を満たし出願が許されているのである。以上のとおり,本件特許権が分割出願として成立しているのは,本件特許発明が,親出願の当初明細書中の実施例の記載のみから把握される発明にすぎないからである。そして親出願の当初明細書の実施例の欄の記載と,本件特許明細書の実施例の欄の記載は実質的に同一の文章である。したがって,親出願の当初明細書の実施例の欄の記載に示されている発明として分割出願が許された本件特許発明は,まさに本件明細書の実施例の欄の記載から,当業者が把握できる範囲内の発明として,正当に解釈されなければならない。以上のように,本件特許発明は,その分割出願の出願経過をみても,本件明細書中の実施例の欄の記載に基づいて特許請求の範囲の記載が解釈されるべき,特段の事由が存在している。 そして,本件明細書の実施例及び図面に示された技術思想によれば,後記6ないし12〔被告の主張〕の各構成要件の解釈において詳細に説明するとおり,本件特許発明の技術思想は,前記(1)のとおりとなる。 イ 公知技術の参酌 本件明細書に従来技術として記載されているとおり,本件特許出願当時の画像表示方式としては,グラフィック方式と,「キャラクタジェネレータとRAM(本件の「マップ」)を用いるキャラクタ方式」が知られていた。グラフィック方式はビデオRAMを用いて,表示画面上の1ピクセル毎に1ピクセルサイクルで表示処理を行うものである。 本件出願当時の従来技術である「キャラクタジェネレータとRAMを用いるキャラクタ方式」は,走査線方向の順序をもって並んだ複数のピクセル(キャラクタラスタ)をひとまとまりとして,キャラクタラスタ毎に表示処理を行うものであり,本件特許発明が大前提としている方式である(以下,この出願時の従来技術であるキャラクタラスタ毎の処理を行うキャラクタ方式を「従来のキャラクタ方式」という。)。 従来のキャラクタ方式については,乙第58ないし第60号証にその技術内容が示されているとおり,画面上の「複数個のピクセル」を走査する1表示期間中に,1つの読出信号によってRAMから当該「複数個のピクセル」に対応する1つの読出データが出力され,当該読出データをキャラクタジェネレータに入力して「1行分のスライスデータ」(走査線方向の順序をもって並んだ複数のピクセルからなるデータ)を出力して,表示するものである。 そして,従来のキャラクタ方式において,ある座標(HVカウンタの値)の上位桁をRAMに与え,下位桁をキャラクタジェネレータ,NAND回路,シフトレジスタから成るブロックに与えることによって,RAMとキャラクタジェネレータという2種類のメモリを用いて,当該座標に対応するピクセルデータを出力するという技術思想自体は公知のものである。 また,座標回転処理のための手段自体も公知である。すなわち,本件出願当時,公知の座標変換の技術としては,座標軸の変換によるもの(乙64)及び座標生成によるもの(乙63)の双方の技術が知られていた。本件特許発明は,このような座標変換の技術水準において,座標軸変換の手段に限定して,本件特許請求の範囲の減縮補正を行ったものである。したがって,座標軸変換以外の座標変換の技術は,本件特許発明から除外されている。 以上の出願当時の技術水準の下においては,公知の従来のキャラクタ方式と公知の座標変換手段を,単に組み合わせたのみでは明らかに進歩性を欠如し,発明性はない。 そして,「従来のキャラクタ方式」においても,90度回転(特開昭56-143488。乙61),180度回転(特開昭57-158685。乙62)等は出願当時既に公知の技術だったのであり,本件特許発明はパイオニア発明などではない。すなわち,乙第61号証も,乙第62号証も,さらには本件特許発明も,キャラクタジェネレータから複数ピクセル分の回転前のデータを読み出した後に,シフトレジスタやセレクタでピクセルデータを回転後の方向に並べ換えるという技術を用いている点では,同じである。このような技術では,90度単位の回転であれば回転後も回転前のキャラクタラスタ表示区域に同じ縮尺で収まるのであるが,90度以外の回転では回転角度により図形の大きさが変わってしまう。本件特許発明は,このように回転角度によって図形の大きさが変わってしまうにもかかわらず,当該公知の技術をあえて用いて45度の回動を試みたという発明にすぎないのである。この点で本件特許発明は,従来のキャラクタ方式で90度,180度等の回転を実現した上記公知の技術同様に,従来のキャラクタ方式群における,1つの工夫を提供したにすぎない。 以上の公知の技術を参酌するならば,本件特許発明が公知の技術に対して行った新たな技術の追加とは,「従来のキャラクタ方式」による「複数のピクセル」毎の処理において, @ 2つの読出データである「読出順序データ」を用いる A 「図形発生手段」において,「従来のキャラクタ方式」と同じく走査線の方向をもって並んだ,2つの読出データに対応する,複数のピクセルであるところの「図形データ」を得て,これを,「第2の読出信号」によってピクセルデータを特定して,回転方向に並べ換えを行う という技術手段を提供したことにあることは明白である。 しかし,上記@の手段は,後記同日出願特許群の1つである乙13特許(特願昭59-205667)が発明として特定して特許登録を得ているところであるから,本件特許発明としての特徴は上記Aの方に重点があることになる。このような結論は,前述した本件明細書の記載に基づく解釈と一致する。 ウ 出願経過等に示された出願人による意見表明 (ア) 解釈資料としての出願人の意見表明 本件出願人は,昭和59年10月2日に,本件唯一の実施例を共通にする同日出願を多数行った(乙11の1,13ないし17)。その中の1件が本件特許の親出願(乙11)である。したがって,これら多数の同日出願特許群の各明細書中に記載されている,共通する唯一の実施例についての説明,共通する従来技術の問題点への認識等に関する説明は,同一出願人による説明あるいは意見表明として,すべてが本件特許発明の解釈に関して参酌される。 本件明細書の記載は,本件当初明細書(乙12の1)と正反対の内容となっているから,このような正反対の記載については,同一出願人による同日出願特許群の明細書の記載を参酌して,本件明細書の記載の意味内容を解釈する以外には,本件明細書の矛盾する記載を理解することはできない。そして,乙13特許においては,「このとき,キヤラクタジエネレータ記憶データの読出し開始位置を水平方向または垂直方向にシフトすることによって,表示される画面も,水平方向または垂直方向にシフトさせることができる。【発明が解決しようとする課題】しかしながら,表示図形を角度を変えた方向から見た状態を表示しようとした場合,読出信号の座標に回転を与えることになるが,マツプはマツプサイクル毎に読出信号を発生するようになっているので,読出信号の座標に回転を与えると,その回転状況によっては1つのマツプサイクル中に2種類の読出信号が発生してしまう。このような状態になると表示側はどちらの信号を使用して良いかわからないので,従来の装置でこのような表示を行うことは不可能であった。」(乙13の4欄4ないし19行)と記載されている。この記載は,同一の出願人によって,同一内容の従来技術を記載した上で,「従来のキャラクタ方式」が回転表示を行うことができなかったとする本件出願人の意見を具体的に述べた記載である。よって,上記の記載を本件特許発明の解釈に関して参酌するときには,本件明細書の「手法は未知のものであった」との記載は,「従来のキャラクタ方式」を用いる場合に,「1つのマツプサイクル中に2種類の読出信号が発生してしまう」という,極めて局所的かつ具体的な問題点に対処する解決手法がわからなかった,というにすぎない。そして,このような具体的な問題点に対して,2つの読出データを得た上で「図形発生手段」で対処する,という1つの解決手段を提供したのが本件特許発明である。 (イ) 禁反言の法理が適用されるべき,本件出願経過における意見表明 出願経過における出願人の意見表明は,出願経過で表明した権利の範囲に反する主張を権利者が行う場合には,禁反言(信義則違反)として,このような主張を禁じるという極めて強い効果が特別に認められているものである。したがって,侵害訴訟において,これと異なる主張を行って権利範囲を拡張して主張することは禁反言の法理によって許されない。 6 争点(4)ア(構成要件A-1の充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件A-1の解釈 ア 「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容」の意義 「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容」とはキャラクタジェネレータに記憶されている個々のキャラクタであり,これを「指示するデータ」とはキャラクタコードのことであり,このデータを記憶するものがマップである。 イ 「マップ」の意義 「マップ」とは,キャラクタジェネレータ内のキャラクタを指示する読出順序データ,つまりキャラクタコードが記憶されているものである。 被告は,「マップ」とは,出願当時の従来のキャラクタ方式において,キャラクタジェネレータとペアとして使用されるメモリのうちの,他方のメモリであるRAM(リフレッシュメモリ)のことであると解釈されるなどと主張するが,上記RAMとは,「複数個のピクセルからなる区域」そのものを指示するデータを記憶するものではない。RAMに区域情報はなく,コード情報のみであって,コード情報とは,例えばASCIIコードで「P」は,16進数の「50」であり,当該RAMに記憶されているのは,このコードだけであって,文字の大きさや字体(ゴシック,明朝など)を表すこともなく,ましてや区域情報などはどこにも記憶していないものである。したがって,被告の上記のような解釈は当を得たものではない。 (2) 構成要件A-1と被告製品との対比 ア 「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶する」について キャラクタ方式・グラフィック方式は共に公知であり,前者は機能の異なる2つのメモリを用いて表示を実現するが,後者は表示画面に1対1に対応する1つのメモリで構成される。被告製品がキャラクタ方式で構成されていることは,被告自身が認めるところであり,実際,1つの画像メモリをスクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域とに区別し,これらの属性の異なる2つの領域を1つの画像メモリの中で区別しているだけであるので,スクリーンデータの領域のメモリとキャラクタデータの領域のメモリという2つのメモリを有しているのと同一である。したがって,被告製品がキャラクタ方式を採用している以上,唯一つのピクセルからなる表示内容を指示するデータを記憶する構成はとられていない。被告製品は,水平方向に240ピクセルの解像度を有し,そこに8×8ピクセルの領域の図形を表示する機器であるから,(非拡大・縮小表示時)走査線上に(240/8)=30個の図形を表示するものである。被告製品は,画像メモリ領域内にスクリーンデータの領域を有し,ここにあるデータは,画面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」に対応した「独立した表示内容を指示するデータ」を記憶するものである。 イ 「マップ」について 被告製品が,同じくキャラクタ方式を採用している被告の製品であるスーパーファミコン(SFC)と,座標変換手段に入れる信号に差がある以外,全く同じ表示技術の思想であることは,乙第51号証(陳述書)からも明らかである。 被告製品の画像メモリに含まれるスクリーンデータの領域には,単一の座標の一部である第1の読出信号により読出されるデータ(キャラクタコードであり,キャラクタジェネレータ上の何番目のキャラクタかを示すもの)を有し,また,このキャラクタコードと単一の座標の一部である第2の読出信号に基づいて単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示するものである。 したがって,被告製品の「スクリーンデータの領域」は,ブラウン管の画面上の複数個のピクセルからなる区域毎に対応した独立した内容を指示するデータを記憶している。よって,被告製品は,構成要件A-1の「マップ」の構成要件を充足する。 ウ 以上により,被告製品は,構成要件A-1を充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件A-1の解釈 ア 「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容」の意義 「複数個のピクセルからなる区域毎」とは,ブラウン管の画面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」を意味する(17欄48行から18欄14行【0060】)。例えば,「区域」が16ピクセルで構成され,走査線上に256個のピクセルが表示されるとき,1つの走査線には256/16=16個という数の区域が生じることになる。 イ 「マップ」の意義 「マップ」とは,ブラウン管の画面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」に対応した独立した表示内容を指示するデータを記憶するものであり,かかる構成によって,走査線(ラスタ)上に「N個」という所定数の「図形」を表示するためのものである。すなわち,本件明細書においては,特別な定義をすることなく「マップ」という用語を従来技術を示すものとして使用している。しかしながら,「キャラクタジェネレータ」という用語とは異なり,「マップ」という用語は,本件出願当時,図形の表示技術の分野において一般に使用されていた用語ではなく,本件明細書に特有の用語である。したがって「マップ」の意義内容は,本件明細書の記載によって判断することになるが,本件明細書の従来の技術の欄には,次のとおりの記載がある。「マップ部4およびキャラクタジェネレータ5はグラフィックディスプレイにおけるビデオRAMに相当する図形を表示するためのメモリを構成している。」(3欄35行ないし38行)。「【0006】このような装置においては,表示される文字は,マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。つまり,1つの文字を変更するには,マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。したがって,こうした表示装置は,グラフィックディスプレイにおけるビデオRAMの更新に比べて,遥かに高速に処理を行うことができ,ビデオゲーム機等の高速動画処理のための表示装置に適している。」(4欄15ないし22行)。 以上の本件明細書の記載によれば,従来のキャラクタ方式で使用される2種類のメモリの1つであって,キャラクタジェネレータとペアとなるメモリとして,マップという用語が使用されていると当業者は理解する。したがって,「マップ」とは,出願当時の従来のキャラクタ方式において,キャラクタジェネレータとペアとして使用されるメモリのうちの,他方のメモリであるRAM(リフレッシュメモリ)のことであると解釈されるのである。本件明細書の図23のマップ部4は,表示においては,走査線の進行に合わせて,マップ部4からデータ(例えば「A」を指示する番号)が読み出され,画面上の複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容(例えば「A」)が以降の回路に指示される。その指示によってキャラクタジェネレータ5から対応する表示内容(「A」の各行のデータ)が読み出され,シフトレジスタ6によってピクセルデータとして出力され,表示される(【0003】参照)。 すなわち,本件明細書の記載によっても,「マップ」とは,表示においてどのキャラクタのキャラクタラスタを走査線に合わせて画面上に表示するかを,複数個のピクセルからなる区域毎に後続の回路に指示するデータを記憶するものとして記載されている。 (3) 構成要件A-1と被告製品との対比 上記のとおり,「マップ」とは,出願当時の従来のキャラクタ方式において,キャラクタジェネレータとペアとして使用されるメモリのうちの,他方のメモリであるRAM(リフレッシュメモリ)のことであるから,被告製品の画像メモリに含まれるスクリーンデータの領域が「マップ」に該当する。しかし,被告製品は,前記4〔被告の主張〕(2)のとおり,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して表示するという基本構成を有するところから,被告製品の画像メモリに含まれるスクリーンデータの領域に記憶されたデータ(キャラクタコード)は,ピクセル毎に読み出されるものであって,かかるピクセル毎に読み出されたデータ(キャラクタコード)に基づいて単一のピクセルデータを得て,その単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示するものである。したがって,被告製品のスクリーンデータの領域は,ブラウン管の画面上の複数個のピクセルからなる区域毎に対応した独立した内容を指示するデータを記憶していない。 7 争点(4)イ(構成要件A-2の充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件A-2の解釈 ア 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」の意義 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」とは,ブラウン管のようなラスタスキャン方式を採用する図形表示装置において,基本である表示位置を表す信号であって,本件特許発明1の図形の回転表示技術が,出力信号をX方向の座標軸及びY方向の座標軸にそれぞれ対応させて表される直交座標を,任意の角度だけ傾斜させ,新たな直交座標に変換して図形を表示するものであるところから,座標変換前のアドレス(回転前座標)を示す信号であり,直交座標で表される信号のうち,メモリの水平方向及び垂直方向の読み出しに用いられる信号を意味するものである。 イ 「第1の読出信号」の意義 「指定された回転量に対応した第1の読出信号」とは,座標回転処理手段によって算出形成された座標変換後の単一の座標のうち,マップに供給されキャラクタコードを指定する上位ビットのことである。このように本件特許発明1においては,座標変換後の信号のうち,上位側ビットを「第1の読出信号」というのであって,それ以上の意味はない。 被告は,「第1の読出信号」とは,読出順序データの「ナウ」を「マップ」から読み出すための信号と,読出順序データの「ネクスト又はバック」をマップから読み出すための信号の双方の信号を含む構成であることを必須の構成とすると主張するが,「第1の読出信号」は2つのデータから成るのではなく,ピクセル表示毎にどちらかのデータのみ用いられ,他方は使われない,又は無視されるものである。2つのデータを同時に読み出すのは,遅いメモリ速度に対応する工夫に過ぎず,本件特許発明1において本質的なものではない。本件明細書に記載されている唯一の本件実施例においても,マップを16ピクセル毎に読み出す回路構成なので,「ナウ」と「ネクスト又はバック」を同時に読み出しているのであって,それらの内容は表示するピクセル毎にキャラクタデータを対応させるための工夫に過ぎず,必須の構成ではない。 ウ 「第2の読出信号」の意義 「指定された回転量に対応した第2の読出信号」とは,座標回転処理手段によって算出形成された座標変換後の単一の座標のうち,図形発生部に供給され図形データを得る下位ビットのことである。このように本件特許発明1においては,座標変換後の信号のうち,下位ビットを「第2の読出信号」というのであって,それ以上の意味はない。本件実施例において第2の読出信号に対応するのは,CHG・AD(H)信号,CHG・AD(V)信号,CHG・NO信号,M・T信号である。 エ 「座標回転処理手段」の意義 「座標回転処理手段」とは,座標回転処理手段に入力される座標変換前の直交座標の水平方向読出信号及び垂直方向読出信号に対し,指定された回転量にしたがってアフィン変換を行い,座標変換後の直交座標を算出するものである。 本件実施例で示している座標変換処理手段は,Hカウンタ・Vカウンタを入力として,1ピクセル毎に座標変換を行い,回転後の座標を出力しているものである。 さらに,被告は,「座標回転処理手段」は,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」が入力される構成に限定されることに反する主張は禁反言として許されない旨主張するが,原告はこれに反する主張をしたことなどない。 ラスタスキャン方式の表示器においては,水平方向に表示を実現するための信号は,水平方向読出信号と呼称する方がHカウンタという専門用語を用いるより適切な表現であるし,Vカウンタについても,垂直方向読出信号と呼称した方が適切である。本件実施例では,Hカウンタ,Vカウンタを利用しているが,Hカウンタ,Vカウンタは,もともと水平方向読出信号,垂直方向読出信号の1つである。 (2) 構成要件A-2と被告製品との対比 ア 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され」について (ア) 被告製品の構成は,AGBマニュアル大全集(甲15の1ないし7。以下「本件マニュアル大全集」という。)に記載されている。甲第15号証の5に記載された被告製品の「演算回路」における次のピクセルの座標の生成方法によれば,次のピクセルの座標とは,被告の主張する「単一の座標」であり,座標変換後の座標であることは明白であるから,演算回路には,座標変換前のタイミング信号が入力され,座標変換後の単一の座標がピクセル毎に出力されているということになる。しかし,タイミング信号という言い方はいかにも抽象的な表現であり,信号の意味を表わしていない。問題は被告がいうタイミング信号が何のタイミング信号かということであるが,例えば,座標変換後のピクセル毎の信号も,タイミング信号ということができるのである。また,「累積して加算することによって次のピクセルの座標を生成するためのタイミング信号」との説明から,被告製品の「タイミング信号」とは,通常のデジタル回路で各部の同期をとるために使用されるクロック信号の如きものであり,座標(この場合,2次元座標)を生成するための水平用及び垂直用のクロック信号であると考えられる。しかし,ラスタスキャン方式の画面表示において,水平方向,垂直方向のドット,ラインを特定することで2次元座標の1点を特定し,その特定された1点に対応するデータをしかるべきメモリから読み出して画面上に表示する上で,タイミング信号であるクロック信号とカウンタのカウント値は,いずれもメモリから表示すべきデータを読み出すのに必要な読出信号であるという点において何ら変わりはない。したがって,座標変換前の信号を,タイミング信号というか,カウンタ信号を使うかは,キャラクタ方式にとって重要なものではない。 以上により,Hクロック信号・Vクロック信号と同義である被告のタイミング信号は,ラスタスキャン方式での基本となる「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」ということができ,構成要件A-2を充足している。 (イ) 被告の主張に対する反論 被告は,被告製品のタイミング信号は,本件特許発明1の「座標回転処理手段」,すなわち,座標を新たな座標に変換する手段に入力されているものではないことを理由に,被告製品のタイミング信号が構成要件A-2を充足しない旨主張する。しかし,新しい座標(回転後座標)を得るのに,変換前座標を指示せずに得られるわけはないのであって,被告製品の行う座標変換式にも変換前座標値があるはずであるから,被告の主張は誤りである。被告製品においても,変換前座標値の入力は存在する。それは,変換前座標の座標点のタイミング,すなわち,モニタ画面上の走査線が正に光って表示する点(光点)である。このときに変換演算が行われており,このタイミングは,Hクロック,Vクロックのタイミング(信号)で実現される。もし,このタイミング信号がHクロック,Vクロックではなく,他の信号であるならば,正しい変換後座標を得ることは不可能である。そして,これらHクロック,Vクロックは,Hカウンタ,Vカウンタの源であり,ともに「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」と同義である。 被告は,被告製品のタイミング信号には,「演算回路にレジスタの値を入力するタイミングを示す信号」(以下「レジスタ値入力タイミング信号」という。),「X方向の増加分(dx,dy)を累積加算するX方向座標算出タイミングを示す信号」(以下「X方向座標算出タイミング信号」という。),「Y方向の増加分(dmx,dmy)を累積加算するY方向累積加算タイミングを示す信号」(以下「Y方向累積加算タイミング信号」という。)の3つがあると主張するが,「レジスタ値入力タイミング信号」とは回転角度を含むパラメータを示すものであり,図形の回転表示においては,「X方向座標演算タイミング」「Y方向累積加算タイミング」がタイミング信号と解されるべきものである。本件マニュアル大全集の描画機能の項目(甲15の6の15頁)に記載されたX方向座標算出及びY方向累積加算の演算方法の説明によれば,レジスタの値の入力は,図形回転のために生成される単一の座標に関して重要な要素とはならず,構成要件の対比との関係においても必要ないことが示されているというべきである。よって,「レジスタの値を入力するタイミング信号」は,図形の回転表示のための被告製品の構成の説明においては,不要なものである。 イ 「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する」について 被告製品は,「当該単一の座標のうち上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域内のキャラクタから単一のピクセルデータを得て,」という構成を有している。したがって,被告製品は,画像メモリのスクリーンデータの領域からキャラクタコードが読み出される。ところで,キャラクタコードを読み出すために与える信号とは,単一の座標のうち,その上位ビット部分である。そして,単一の座標のうち,その上位ビット部分とは,まさに「第1の読出信号」のことである。同様に,ピクセルデータを読み出すために与える信号は,被告製品においては,キャラクタコードと単一の座標の下位各3ビット部分である。この単一の座標のうち,下位各3ビット部分は,まさに「第2の読出信号」である。 以上のとおり,被告製品は,「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する」との構成要件を充足する。 ウ 「座標回転処理手段」について 被告製品の「演算回路」には,座標変換前の(タイミング)信号が入力されている。この信号が,走査線の表示位置を示すHクロック信号,Vクロック信号であることは上記のとおりである。そして,被告製品では,Y方向累積加算タミングを示すタイミング信号と回転角度を含むパラメータなどの座標変換前の信号が演算回路に入力され,アフィン変換が行なわれて,それによって表示すべき変換後の座標値を得,座標変換後の座標がピクセル毎に出力されているのであるから,これは,構成要件A-2の「座標回転処理手段」にほかならないものである。 エ 以上により,被告製品は,構成要件A-2をすべて充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件A-2の解釈 ア 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」の意義 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」の技術的意義内容については,本件実施例に,「Hカウンタ2およびVカウンタ3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号発生器を構成している。」(3欄33ないし35行【0002】)と記載されていることから,HカウンタとVカウンタで発生される読出信号を意味するものである。また,特許請求の範囲に文言として明記されているとおり,読出信号であるところから,マップ(ランダムアクセスメモリ)からデータを読み出すことができるような信号であることを必須の要件とする。したがって,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され」との要件は,HカウンタとVカウンタによって発生される読出信号であって,かつ,マップからデータを読み出すことができるような信号が,「座標回転処理手段に入力される」ことを必須の構成要件とするものである。本件実施例における「垂直方向読出信号」及び「水平方向読出信号」は,本件明細書の図1においてHカウンタ11及びVカウンタ10で発生され,出力される信号であり,本件明細書【0003】に「Hカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データ3が順次読出され」と記載されているとおり,いずれも「マップ」からデータを読み出すことができる読出信号であり,かつ,いずれも「座標回転処理手段」である座標回転処理部12に入力されるものであるとの技術が開示されている。 イ 「第1の読出信号」の意義 「第1の読出信号」とは,表示画面上の複数個のピクセル(キャラクタラスタ)に対応するデータを読み出すための読出信号であって,読出順序データの「ナウ」をマップから読み出すための信号と,読出順序データの「ネクスト又はバック」をマップから読み出すための信号の双方の信号を含む構成であることを必須の構成とするものである。すなわち,唯一の技術開示である本件実施例においては,「ナウ」の読出データを読み出すための読出信号のほかに,補正データ発生器によって,回転方向に応じてプラスマイナスが加算された「ネクスト又はバック」の座標の読出データを読み出すための読出信号が,「第1の読出信号」として座標回転処理手段から出力されている。このように本件実施例においては,補正データ発生器という手段が設けられていることによって,「第1の読出信号」とは2つの読出信号を意味することが当業者に明瞭に示されている。 また,本件特許発明1は,出願当時の従来技術であるキャラクタラスタ毎の処理を行うことを大前提の技術としているのであるから,「第1の読出信号」も従来技術と同様に,画面上の複数のピクセル(キャラクタラスタ分)に対応するものとして,マップに供給されるものである。この点は唯一の開示技術である本件実施例に「表示タイミング信号の繰返し期間中は……ラッチ13aを設けてデータを固定する」(19欄12行ないし15行【0063】)と記載されているとおり,マップに与えられるのはラッチ13aで「複数個のピクセルからなる区域毎」に固定された,複数のピクセルに対応する「第1の読出信号」である。 ウ 「第2の読出信号」の意義 「第2の読出信号」とは,特許請求の範囲の構成要件Bの文言として明記されているとおり,「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」ることを必須の構成とする。 そして,「第2の読出信号」は,特許請求の範囲に文言として明記されているとおり,図形発生手段において読出順序データをキャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて図形データを得るための信号と,同じく図形発生手段において図形組立部で図形データの中のピクセルデータを特定して得るための他の信号との,双方の信号を含むものであることを必須の構成要件とする。 本件特許発明1の唯一の開示技術であるところの本件実施例の記載においては,キャラクタジェネレータ部から図形データを得るために読出順序データと共に「図形発生手段(前段)」たるキャラクタジェネレータ読出信号発生部に供給されているのは,「H4信号,V4信号,CHG・AD信号,V4L信号」であるから,これらの信号が図形データを得るための「第2の読出信号」である。 本件実施例の記載においては,「図形発生手段(後段)」(本件実施例においては図形組立部)において図形データの中のピクセルデータを特定して得るために供給されているのは,単独の「CHG・NO信号」であるから,当該信号が図形データの中のピクセルデータを特定して得るための「第2の読出信号」である。 エ 「座標回転処理手段」の意義 (ア) 「座標回転処理手段」の技術的意義内容については,本件実施例に,「座標軸に回転を与えるということは図2に示すように,Vカウンタ10の出力信号をX方向の座標軸に対応させ,Hカウンタ11の出力信号をY方向の座標軸に対応させて表わした直交座標を,点線で示すように角度θだけ傾斜させて,x軸-y軸で表わされる新たな直交座標に変換することである。」(5欄39行ないし44行【0011】)と記載されていることからして,HカウンタとVカウンタで発生される読出信号を座標軸に対応させて入力し,新たな直交座標に変換することを意味するものである。したがって,「座標回転処理手段」とは,特許請求の範囲の記載の文言及び発明の詳細な説明の記載により,HカウンタとVカウンタで発生される読出信号を座標軸に対応させて入力し,新たな直交座標に変換するという構成を具備することを必須の構成とするものである。 (イ) 構成要件A-2の「座標回転処理手段」は,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」が入力される構成に限定されることに反する主張は,禁反言として許されない。 すなわち,構成要件A-2の「座標回転処理手段」は,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」が入力されるとの構成要件は,平成10年4月16日付拒絶理由通知書(乙12の3)によって,審査官から技術事項が不明であるとの通知を受けて,審査官からの「本願発明は,『座標回転処理部』を備えており,この『座標回転処理部』は前記『水平,垂直方向読出信号』が入力され,指定された回転量に対応した直交座標を表す出力」するものであることを明確にするようにとの指示に従って,本件出願人によって現行の構成が特許請求の範囲の記載に限定されて,減縮がされたものである。従前は何らの限定がされていなかった技術手段について,本件出願人が上記のような限定を加えて減縮補正したのであるから意識的除外に当たる。したがって,減縮によって除外された技術手段について,本件訴訟において権利範囲を主張することは,禁反言の法理によって許されない。 (ウ) 以上を総合すれば,「座標回転処理」とは,HカウンタとVカウンタによって走査線の順序で発生された信号を,新たな直交座標に変換することによって,走査線の順序とは異なる順序の信号に変換することであり,「座標回転処理手段」とは,かかる座標回転処理を行う構成を具備することを必須の構成要件とするものである。 (2) 構成要件A-2と被告製品との対比 ア 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」について (ア) 被告製品の「演算回路」には,角度を示すパラメータ以外には,タイミング信号が入力されるのみである。被告製品の演算回路に入力される「タイミング信号」とは,新たな座標に変換されるための「垂直方向読出信号及び水平方向読出信号」ではなく,累積して加算することによって次のピクセルの座標を生成するためのタイミングを示す信号である。 したがって,被告製品は,前記〔被告の主張〕(1)アで述べた「HカウンタとVカウンタによって発生される読出信号であって,かつ本件マップからデータを読み出すことができるような信号」とはいえず,構成要件A-2における「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され」との構成要件を充足しない。 すなわち,被告製品のタイミング信号の内容については,本件マニュアル大全集の「BG回転拡大縮小処理の演算方法」の欄(甲15の6の15頁)に示されているところである。その記載によれば,被告製品においては,「レジスタ値入力タイミング信号」によって演算回路に入力されるレジスタの値は,本件マニュアル大全集の「BG回転拡大縮小処理の演算方法」の1)項に記載されているとおりであり,座標の算出方法は,2)項に記載されているとおりであり,次のラインの描画開始点座標を算出する方法は,3)項に記載されているとおりである。このように,被告製品は,「演算回路にレジスタの値を入力するタイミング」「X方向座標算出タイミング」及び「Y方向累積加算タイミング」を示す3つの信号からなるタイミング信号に基づいて,本件マニュアル大全集の「BG回転拡大縮小処理の演算方法」で示す方法によって座標を生成しているものであり,本件特許発明1のように,「回転前の座標値」(すなわち垂直方向読出信号および水平方向読出信号)を演算回路に入力しているものではない。また,被告製品のタイミング信号は,データを読み出すことができる信号ではなく,アドレスを指定できないのであるから(タイミング信号でアドレスを指定するには,タイミング信号をカウンタなど何らかの手段でアドレス信号に変換する必要がある),原告が解釈主張している「メモリの水平方向,垂直方向の読出に用いられる信号」ではないことは明らかである。 (イ) 原告の主張に対する反論 原告は,タイミング信号がクロック信号に該当すると主張するが,被告製品のタイミング信号は「HクロックやVクロック」ではなく,HVカウンタに入力されてカウントされているものではないことは,上記の説明から明らかである。 また,原告は,ラスタスキャン方式の画面表示において,水平方向,垂直方向のドット,ラインを特定することで2次元座標の1点を特定し,その特定された1点に対応するデータをしかるべきメモリから読み出して画面上に表示する上で,タイミング信号であるクロック信号とカウンタのカウント値は,いずれもメモリから表示すべきデータを読み出すのに必要な読出信号であるという点において何ら変わりはないと主張するが,本件マニュアル大全集(甲15の6の15頁)の記載のとおり,ディスプレイ画面上のX方向・Y方向に対応するのはタイミング信号ではない。 イ 「第1の読出信号」について 被告製品の回転表示は,1ピクセル毎の1サイクル処理によるものであって,1ピクセル毎に唯一つの座標値(単一の座標のうち上位ビット)を画像メモリのスクリーンデータの領域に供給して,1ピクセル毎に対応する「唯一つのキャラクタコード」を得るものである。したがって,前記〔被告の主張〕(1)イで述べたような「複数のピクセル」に対応し2つの読出信号を総称する,「第1の読出信号」の構成要件を充足しない。 ウ 「第2の読出信号」について 被告製品は,画像メモリのキャラクタデータの領域から1ピクセル毎に,唯一つのキャラクタコードと座標の下位各3ビットによって,唯一つのピクセルデータを得ているのであるから,「読出順序データ」(「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つ)をキャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて,適切に図形データを得るための信号は存在せず,唯一つのキャラクタコードとともに供給される下位各3ビットは上記「第2の読出信号」の構成要件を充足しない。また,被告製品は,画像メモリのキャラクタデータの領域から1ピクセル毎に,唯一つのキャラクタコードによって,唯一つのピクセルデータを既に得ているのであるから,この得られた「唯一つのピクセルデータ」について,さらに,ピクセルデータを特定するなどという「第2の読出信号」は存在せず,被告製品はこのような「第2の読出信号」の構成要件を充足しない。 エ 「座標回転処理手段」について 前記〔被告の主張〕(1)エのとおり,「座標回転処理手段」とは「座標回転処理」を行う手段であり,構成要件A-2における「座標回転処理」とは,複数個のピクセルからなる区域毎の図形を回転表示するために,HカウンタとVカウンタによって走査線の順序で発生された信号を,新たな直交座標に変換することによって,走査線の順序とは異なる順序の信号に変換することである。これに対し,被告製品の「演算回路」は,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して表示するために,タイミング信号と角度を含むパラメータとに基づいて,参照開始点に「増加分」を累積加算することにより参照開始点から相対的に座標を生成するのであって,HカウンタとVカウンタによって走査線の順序で発生された信号を,新たな直交座標に変換することによって,走査線の順序とは異なる順序の信号に変換しておらず,また,変換前の座標を変換後の座標へ座標変換するものでもない。したがって,被告製品は,構成要件A-2における「座標回転処理手段」との構成要件を充足しない。 8 争点(4)ウ(構成要件A-3の充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件A-3の解釈 ア 「図形発生手段」とは,キャラクタ方式における表示画像を発生させるキャラクタジェネレータのことであり,また,本件明細書に,「グラフィックディスプレイであっても,極めて高速に図形の回転表示が行なえる。」(22欄49行ないし50行)と明記していることから,ピクセル単位の処理まで含む概念であることは明白である。 本件実施例では,キャラクタジェネレータ読出信号発生部14,キャラクタジェネレータ15及び図形組立部16を併せて「図形発生手段」としているが,これは,出願当時のメモリのアクセス速度が遅いので,メモリを4つ用意し,キャラクタジェネレータの後にシフトレジスタとセレクタを設けることによって必要なデータを使用するようにしているにすぎないのであって,被告の主張する「キャラクタラスタ」という概念に限定されるものではない。 イ 被告の主張に対する反論 本件明細書の【発明の実施の形態】に,「キャラクタジェネレータ部15と,図形組立部16とを合わせて図形発生部という」(5欄37行ないし38行)と明記されているところ,被告の主張する「図形発生手段(前段)」とはキャラクタジェネレータ部15であり,「図形発生手段(後段)」とは図形組立部16であるから,前段と後段に分割することは,本件特許発明1を正しく示してはいない。本件特許請求の範囲の解釈に当たり,図形発生手段を前段と後段に分割してすることが当を得ないものであることは明らかである。 また,そもそも図形組立部は特許請求の範囲に入っておらず,メモリの4倍のスピードで動作させるための単なる回路設計上の工夫にすぎないものであって,図形組立部は,「図形発生手段」の必須要件ではない。 (2) 構成要件A-3と被告製品との対比 被告製品は,キャラクタコードと単一の座標の下位各3ビット部分(第2の読出信号)で,図形を表示するためのピクセルデータを得ている。つまり,キャラクタコードによって,画像メモリのキャラクタデータの領域に記憶されているキャラクタのうち,表示すべきキャラクタの種類が決まり,第2の読出信号によって,そのキャラクタ内の特定のピクセルが定まるものであるから,被告製品も構成要件A-3にいう「図形発生手段」を備えており,構成要件A-3を充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件A-3の解釈 ア 「図形発生手段」は,構成要件Bとして本件特許請求の範囲に記載されている図形発生手段,すなわち,読出順序データと第2の読出信号を供給して図形データを得るという図形発生手段の構成(以下「図形発生手段(前段)」という。)と,構成要件Cとして本件特許請求の範囲に記載されている図形発生手段,すなわち,既に得られた図形データの中から第2の読出信号によって特定したピクセルデータを得て図形を回転表示するという図形発生手段の構成(以下「図形発生手段(後段)」という。)から成るものであり,かかる2段階の処理を行う構成とすることによって,複数のピクセルデータを回転表示するものである。 「図形発生手段(前段)」は,本件特許請求の範囲に明記されているとおり,読出順序データと(読出順序データをキャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて適切に図形データを得るための第2の読出信号とが供給されて,図形データ(走査線方向の順序をもって並べられた複数のピクセル)が得られる構成である。本件実施例においてはキャラクタジェネレータ読出信号発生部14及びキャラクタジェネレータ部15の構成がこれに対応する。 「図形発生手段(後段)」は,図形発生手段(前段)から図形データを得た後に,読み出されたときには走査線方向の順序で並んでいた図形データについて,図形発生手段(後段)において,第2の読出信号によって特定されたピクセルデータをピクセル単位で得て,第2の読出信号によって示される回転表示の方向にピクセルデータを並べ換えることによって新たな図形を組み立て,この新たな図形を当該区域毎の表示内容とすることによって図形を回転表示するものである。図形発生手段(後段)の構成は,本件実施例においては図形組立部がこれに対応する。 つまり,本件実施例に則して説明すると,図形発生手段(後段)は,回転表示を行う場合には区域毎の独立した表示内容となるべき新たな図形を組み立てるのに必要な「ナウ」と「ネクスト又はバック」の双方から成る読出順序データを受けて,キャラクタジェネレータから「ナウ」と「ネクスト又はバック」の双方に対応する図形データ(走査線の方向の順序で並んだ複数のピクセルデータ,すなわちキャラクタラスタ分の複数のピクセルデータ)を得た後に,読み出された時には走査線方向の順序で並んでいた図形データについて,図形組立部において,本件第2の読出信号によって特定されたピクセルデータをピクセル単位で得て,第2の読出信号によって示される回転表示の方向にピクセルデータを並べ替えることによって新たな「図形」を組み立て,この新たな「図形」を当該区域毎の表示内容とすることによって「図形」を回転表示する,との構成を技術的意義内容とするものである。 イ 原告の主張に対する反論 原告は,図形データの組み立て(図形組立部)を,単なる回路上の工夫であって発明の必須要件ではないと主張するが,本件実施例における図形組立部は図形発生手段(後段)そのものの構成の唯一の開示技術である。そして,図形発生手段(後段)の構成がなければ本件特許発明1は図形データ(回転前のデータ)を得るだけであって,回転表示はできないのであるから,図形発生手段(後段)の具備は,特許請求の範囲に文言として記載された必須不可欠の構成要件である。 (2) 構成要件A-3と被告製品との対比 被告製品は,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して表示しているものであるから,被告製品の画像メモリに含まれるキャラクタデータの領域は単一のピクセルデータを個別に出力するのみであり,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示するものである。また,被告製品の画像メモリのキャラクタデータの領域には,読出順序データも,読出順序データを適切に振り分けて,適切な図形データを得るための第2の読出信号も供給されていない。さらに,唯一つのキャラクタコードに基づいて得られる唯一つのピクセルデータは「図形データ」に該当しない。 したがって,「図形データ」「読出順序データ」「第2の読出信号」のいずれをも充足しないことからして,被告製品の画像メモリのキャラクタデータの領域は,「図形発生手段(前段)」の構成要件を充足しない。 9 争点(4)エ(構成要件Bの充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件Bの解釈 ア 「読出順序データ」の意義 「読出順序データ」とは,本件明細書には,「マップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,」(3欄41行ないし44行【0003】)と記載されているように,キャラクタコードのことである。 被告は,「読出順序データ」とは,表示画面上の「複数個のピクセル」(キャラクタラスタ分)に対応する読出データであって,マップ上で隣接する2つの読出データであるところの,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の読出データの両方のデータの総称である旨主張する。しかし,本件実施例では,マップの読出サイクルを16ピクセル毎に行っているため,16ピクセルの間に読出順序データは2種類発生するので,それを保持し,ピクセル表示に対応する読出順序データを用いて表示を行っているにすぎない。この際,2種類のデータを同時に使用するのではなく,2種類のデータを読み出しておいて,ピクセル表示毎にどちらかのデータのみが用いられ,他方は使用されないのであって,必要なデータを必要なタイミングで時々刻々と処理しているものである。すなわち,表示すべき1つのピクセルに対応する読出順序データは,1つである。「ナウ」と「ネクスト又はバック」は,後にピクセル毎に表示するピクセルデータをアクセスするための準備段階にすぎず,マップを16ピクセル毎に読み出すための回路の工夫にすぎない。 マップの読出サイクルをどのように設計するかは,使う部品の時代背景や設計者の意思で決まるが,回転表示の原理とは関係しない。したがって,これは,事前に読出を準備している工夫の1つで,必須の構成要件ではない。 また,被告は,独自のキャラクタラスタなる概念を前提として,本件特許発明1の「読出順序データ」は2つの読出データであることに反する主張は禁反言として許されない旨主張する。しかし,そもそも,本件特許発明1は,キャラクタラスタ毎の処理を前提とした発明ではない。また,被告のいう「キャラクタラスタ毎に2個の読出データが必要である」との指摘自体誤りである。本件実施例では,マップの読出サイクルを16ピクセルに設計しているものの,必ずしも16ピクセルにこだわる必要はない。本件特許権の特許請求の範囲にあるように,表示装置へ出力する各々のピクセルにマップの読出しデータ(読出順序データ又はキャラクタコード)が個々に対応できればよいのであって,上記被告の主張は失当である。 イ 「図形データ」の意義 「図形データ」とは,本件特許の請求の範囲に「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」とあり,続いて「該図形データによって図形表示を行う図形表示装置」と明記されているとおり,本件図形表示装置への出力であり,図形表示を行う1ピクセルデータを示すものであって,複数のピクセルを指すものではない。 ウ 以上から,「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」とは,単一の座標のうちの下位ビット(実施例では,下位4ビット)からなる第2の読出信号を図形発生部に供給し,マップから出力された読出順序データ(キャラクタコード)が図形発生部に入力されて指定された特定のキャラクタのうちの1つのピクセルを指定して,画面に表示するための図形データであるピクセルデータを得るということであり,また,「該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって」とは,図形発生部から出力された1つ1つのピクセルデータによって,ラスタスキャン方式の図形表示装置に図形を表示するということである。 (2) 構成要件Bと被告製品との対比 ア 「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得」について 被告製品では,キャラクタコードを読み出すために,変換後座標の単一の座標のうち,上位ビット部分からなる読出信号を画像データのスクリーンデータの領域に入力している。この読出信号は「第1の読出信号」に当たり,また,キャラクタコードは「読出順序データ」そのものであり,スクリーンデータの領域は「マップ」であるから,被告製品は,「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得」るとの構成要件を充足する。 イ 「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置」について ピクセルデータをキャラクタデータの領域から読み出すために与える信号はキャラクタコードと第2の読出信号である。キャラクタコードは「読出順序データ」そのものであり,ピクセルデータは「図形データ」である。よって被告製品は,「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置」との構成要件を充足する。 ウ 以上により,被告製品は,構成要件Bを充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件Bの解釈 ア 「読出順序データ」の意義 (ア) 「読出順序データ」とは,表示画面上の「複数個のピクセル」(キャラクタラスタ分)に対応する読出データであって,マップ上で隣接する2つの読出データであるところの,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の読出データの両方のデータの総称であり,本件明細書の【0067】に記載されているとおり,少なくとも回転表示を行う場合には「ナウ」のデータ(本件明細書の図8における「F」のデータ)と「ネクスト又はバック」のデータ(本件明細書の図8における「C」又は「B」のデータ)の両方のデータを含むという極めて特殊な構成を有するデータであって,これにより回転表示を行わない場合に比べて2倍の種類の本件図形データをキャラクタジェネレータから読み出すことができるようなデータであることを必須の構成要件とするものである。 (イ) 本件特許発明1の「読出順序データ」は2つの読出データであることに反する主張は,禁反言として許されない。 すなわち,本件の「読出順序データ」については,分割当初の明細書,審査請求時の明細書,第1回補正書において,次のとおり,回転するときには2つの読出データとして読み出されるものであることが,本件特許請求の範囲において限定されて,文言として明記されている。 @ 分割出願時の特許請求の範囲の記載(乙12の1)は,「1つのラスタ期間に前記マップよりN個以上2N個以下の読出順序データを読み出し,図形を回転表示する」である。 A 審査請求時の特許請求の範囲の記載(乙12の2)は,「1つの走査線に図形を表示するために,前記マップよりN個を越える読出順序データを得,図形の回転表示を可能にした」である。 B 平成10年6月12日付第1回補正書の特許請求の範囲の記載(乙12の4)「前記マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」である。 以上の記載における「N」とは,上記した各々の特許請求の範囲に記載されているとおり,各走査線上に表示される図形(すなわちキャラクタラスタ)の数「N」と同じである。したがって,上記記載によって,回転表示の際にはキャラクタラスタ毎に2個の読出データが必要であることが表明されているのである。 そもそも本件特許発明1は,回転したときの隣接する2つの読出データへのアクセス発生の問題点に対処することを目的として,そのための1つの工夫を提供する発明であるから,上記のような「N個以上」という記載は,「限定」というよりは発明を特定するための当然の記載である。本件においては,第2回目の補正によって現行の特許請求の範囲の記載に補正されたものであるが,上記@ABの特許請求の範囲において本件出願人の明確な意識的限定が表明されており,現行の特許請求の範囲はBの釈明として補正されたものである以上,侵害訴訟たる本訴において,回転するときにそもそもキャラクタラスタの数「N」とは一切関係なく,1ピクセル毎に常に唯一つだけの読出データを得る技術手段について,本件特許発明1の範囲に属すると主張して権利の拡張を図ることは,禁反言の法理によって許されない。 イ 「図形データ」の意義 「図形データ」とは,走査線方向の順序で並んだ複数のピクセルデータ(すなわちキャラクタラスタ毎の複数のピクセルデータ)によって図形を表わしたデータであり,読出順序データ(「ナウ」と「ネクスト又はバック」)に対応して得られるデータ(「ナウ」と「ネクスト又はバック」)であって,図形発生手段(前段)におけるメモリから読み出され,図形発生手段(後段)における図形組立部によって組み立てられて図形表示されるデータである。 本件特許発明1は,キャラクタラスタ毎の処理(実施例では16ピクセル毎の処理)を行うものであり,読出順序データと第2の読出信号を図形発生手段(前段)に供給して得られる「図形データ」も複数のピクセル群として得られているものである。なお,本件実施例では,図形組立部の構成を簡略化するために16×16のキャラクタを4分割して処理を行っているが,4ピクセル毎の処理を4回繰り返しているものであり,あくまでも複数ピクセルを一つのまとまりをして処理しているものである。 (2) 構成要件Bと被告製品との対比 ア 「読出順序データ」について 被告製品は,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して表示しているものであり,回転表示を行わない場合でも,回転表示を行う場合でも,画像メモリのスクリーンデータの領域から得るのは単一のキャラクタコードである。単一のキャラクタコードは単一のデータであるから,回転表示を行う場合に「ナウ」と「ネクスト又はバック」の両方を含むという極めて特殊な構造を有するデータではなく,また回転表示を行わない場合に比べて2倍の種類の本件図形データをキャラクタジェネレータから読み出すことができるようなデータでもない。したがって,被告製品は本件「読出順序データ」を具備していない。 イ 「図形データ」について 被告製品は,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して表示しているものであるから,そもそも,走査線方向の順序で並んだ複数のピクセルデータによって図形を表わしたデータを読み出すとの構成を一切有していない。したがって,「図形データを得」との構成要件を充足しない。 10 争点(4)オ(構成要件Cの充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件Cの解釈 ア 「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」の意義 「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎に独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」とは,キャラクタコードを図形発生部に供給してキャラクタジェネレータ内の特定のキャラクタを指定するとともに,単一の座標の下位ビットで構成される第2の読出信号で,図形発生部のうちのキャラクタコードで指定された特定のキャラクタのうちの1つのピクセルを指定することによって,特定されたピクセルデータを得て,図形を回転表示するというものである。 本件出願人の意見は,マップとキャラクタジェネレータを用いて図形を回転表示する場合の要部を述べたものであり,マップとキャラクタジェネレータで構成されるキャラクタ方式において,出願当時はこのような方法でしか図形を回転表示させることはできなかったものである。したがって,原告は,単に漠然と「マップとキャラクタジェネレータを用いて回転表示を行うところに発明性がある」などと言っているわけではない。 イ 「図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」の意義 「ピクセル単位で……図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」とは,ピクセル単位で出力されるデータの1つ1つが独立に読出順序データに対応したものであり,かつ,その1つ1つが第2の読出信号によって特定されるデータを得ることである。従来のキャラクタ方式では,ピクセル単位で出力されるこのデータの1つ1つが独立に読出順序データに対応していないので,回転表示できなかったことから,本件明細書の記載は,この違いを述べている部分であり,図形組立部のことをいっているわけではない。 (2) 構成要件Cと被告製品との対比 ア 「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」について 本件特許発明1の回転表示の技術は,表示に必要なピクセルデータを,キャラクタコードと対応させピクセル単位で得て,図形を回転表示させることである。被告製品は,画像メモリーのスクリーンデータの領域から1ピクセル毎にキャラクタコードを読み,これと単一の座標のうち下位各3ビットからなる第2の読出信号でピクセルデータを読み出して,ディスプレイ画面上に表示しているものであるから,「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」との構成要件を充足する。 イ 「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて」について 本件実施例で「ナウ」と「ネクスト又はバック」という表現を用いているのは,1つの表示するピクセルに,1つの読出順序データを対応させるための回路上の工夫であり,必須の要件ではない。必須なのは,1つの表示するピクセルに1つの読出順序データを対応させることである。被告製品では1つの表示するピクセルに1つのキャラクタコードが対応しているところ,読出順序データはキャラクタコードと同義であるから,被告製品は「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて」との構成要件を充足する。 ウ 「該読出順序データに対応する図形データ」について 被告製品は1つの画像メモリしか有していないが,その画像メモリには,スクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域があり,スクリーンデータの領域から読み出した読出順序データ(キャラクタコード)を基に,キャラクタデータの領域から図形データを得るものなので,「該読出順序データに対応する図形データ」との構成を備える。 エ 「図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」について 被告製品は,画像メモリのスクリーンデータの領域からキャラクタコードを読み出し,これと第2の読出信号でピクセルデータを読み出し,ディスプレイ画面上に表示しているものであるから,「前記図形発生手段は,ピクセル単位で……図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」との構成要件を充足する。 オ 以上により,被告製品は,構成要件Cを充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件Cの解釈 ア 「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」の意義 (ア) 「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」との技術的意義内容については,本件実施例に,「キャラクタジェネレータ読出信号発生部14から供給された信号によってキャラクタジェネレータ部15から読出されたデータは図形組立部16で図形に組立てられ,ブラウン管7に供給されて表示される。」(19欄39行ないし42行【0066】)と記載されているとおり,本件特許発明1においては,図形発生手段が,キャラクタジェネレータ部から読み出されたデータを図形組立部において図形に組み立ててブラウン管に表示することによって,「図形」を「回転表示」するものであるということである。 (イ) 構成要件Cの「図形発生手段」が本件特許発明1の発明性ある特徴であることに反する主張は,次のような出願経過を考慮すると,禁反言として許されない。 すなわち,本件出願経過において,特許請求の範囲の減縮は,次のとおりの経緯によって,2度にわたって行われた。 @ 平成10年4月16日付第1回拒絶理由通知書(乙12の3)において,審査官は,「1つの走査線に図形を表示するために,前マップよりN個を越える読出順序データを得,図形の回転表示を可能にした」と記載する本件特許請求の範囲の記載(乙12の2)に関連して,「特公平5-62747号公報のクレームの記載と実質同一(39条の適用)にならないように留意されたい」との通知を行った。上記公報とは乙13特許のことである。本件出願人は,このような指摘を受けて,特許請求の範囲を減縮するとともに(乙12の4),意見書(乙12の5)において,かかる減縮で付された限定要件であるところの,「マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを図形発生部に供給して,各々の読出順序データに対応する図形のデータであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」との構成において,本件特許発明1は乙13特許と「相違する」との意見を表明した。 以上のとおり,本件出願人は,複数の読出順序データを得て,各々の読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転することが,乙13特許と区別される本件特許発明1の本質部分であるとの意見を表明して,特許請求の範囲を減縮した。したがって,このような意見表明に反した特徴を主張して権利の拡張を図ることは,禁反言の法理によって許されない。 A さらに,平成10年9月7日付第2回拒絶理由通知書(乙12の6)において,審査官は,上記@の補正にかかる特許請求の範囲の記載では,本件特許発明1が引用例(特開昭57-158685号公報。乙62)に記載する発明とは異なる回転表示が行えるとする根拠が見いだせないとの通知を行った。本件出願人はこのような指摘を受けて,本件特許発明1の構成要件Cの記載に補正するとともに,意見書(乙12の8)において,「この発明は,ピクセル単位で,読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得ることによって回転表示するものである」との意見を表明し,かかる構成によって引用例に対して進歩性を有するとの意見を表明した。 以上のとおり,本件出願人は,「図形発生手段」(構成要件C)において「回転表示するもの」である旨を表明しており,また「図形発生手段」(構成要件C)によって引用例からの進歩性が認められるものである旨を表明して,特許請求の範囲の記載を構成要件Cの文言に補正したものである。このように,特徴部分として構成要件Cという限定要件を付することによって特許登録を得た以上,侵害訴訟において本件特許発明1の発明性ある部分を,これと異なって主張することによって権利の拡張を図ることは,禁反言の法理によって許されない。 イ 「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて」の意義 「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて」とは,回転表示を行う場合には「前記区域毎」の独立した表示内容となるべき新たな図形を組み立てるのに必要な「ナウ」と「ネクスト又はバック」から成るところの読出順序データを図形発生手段が受けるという技術内容を意味するものであり,図形発生手段はそのような読出順序データを受けることを必須の構成要件としているものである。 ウ 「該読出順序データに対応する図形データ」の意義 「該読出順序データに対応する図形データ」の意義内容は,「ナウ」と「ネクスト又はバック」から成るところの読出順序データの,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の双方に対応する本件図形データを意味するものである。 エ 「図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」の意義 「ピクセル単位で,……図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」の意義内容については,図形発生手段(前段)から図形データを得た後に,読み出されたときには走査線方向の順序で並んでいた図形データについて,図形発生手段(後段)において第2の読出信号によって特定されたピクセルデータをピクセル単位で得て,第2の読出信号によって示される回転表示の方向にピクセルデータを並べ換えることによって新たな図形を組み立て,この新たな図形を当該区域毎の表示内容とすることによって「図形を回転表示する」ものである,と正当に解釈されるものである。 (2) 構成要件Cと被告製品との対比 ア 「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」について 被告製品は,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して表示しているものであり,画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示するだけである。被告製品は表示角度を指定して単一の座標を生成して単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することにより,結果として,角度0度の表示画像に対してディスプレイ画面全体の画像が回転した画像となる表示を行うことができるものであって,構成要件Cにいうように「図形を回転表示する」ものではない。 したがって,被告製品は,「前記図形発生手段は,……図形を回転表示する」との構成要件を充足しない。 イ 「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて」について 被告製品は,既述のとおり,そもそも本件読出順序データを具備していないのであるから,「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて」との構成要件を充足しない。 ウ 「該読出順序データに対応する図形データ」について 上記のとおり,「該読出順序データに対応する図形データ」とは,「ナウ」と「ネクスト又はバック」から成るところの本件読出順序データの,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の双方に対応する本件図形データであることをその技術的意義内容とするものであり,図形発生手段は読出順序データが供給され,該読出順序データの双方に対応する図形データをメモリから読み出すことを必須の構成としている。 これに対して,被告製品は,上記のとおり,そもそも「読出順序データ」を具備していない。しかも,被告製品は単一のキャラクタコードを得ているだけであるから,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の双方に対応するデータをメモリから読み出すことはそもそも不可能である。したがって,被告製品は,「該読出順序データに対応する図形データ」との構成要件を充足せず,「該読出順序データに対応する図形データ」を必須の構成とする「図形発生手段」の構成要件も充足しない。 エ 「図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」について 被告製品は,画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示するのであるから,そもそも「図形データ」を得ていない。したがって,図形データを得た後に図形データの中のピクセルデータを第2の読出信号で特定してもいないし,図形データを第2の読出信号で特定してピクセルデータをピクセル単位で得てもいないし,図形データを何らかの信号で特定してピクセルデータをピクセル単位で得ることによってピクセルデータを並べ換えて「図形を回転表示」してもいない。 したがって,被告製品は,いかなる点からしても,「前記図形発生手段は,ピクセル単位で……図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」との構成要件を充足しない。 11 争点(4)カ(構成要件Dの充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件Dの解釈 構成要件Dは,上記の構成要件をすべて備えていることを特徴とするラスタスキャン方式の図形表示装置であることを意味している。 (2) 構成要件Dと被告製品との対比 被告製品は,本件特許発明1の構成要件A-1ないし3,構成要件B,構成要件Cのすべての構成要件を具備しており,構成要件Dを充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件Dの解釈 構成要件Dとは,構成要件A-1ないし3,構成要件B,構成要件Cのすべての構成要件を具備することを必須要件とする図形表示装置である。 (2) 構成要件Dと被告製品との対比 被告製品は,以上に述べたとおり,構成要件A-1ないし3,構成要件B,構成要件Cのすべての構成要件を欠如しており,構成要件Dを充足しない。 12 争点(5)(本件特許発明2の構成要件充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 構成要件の解釈 本件特許発明2は,実質的に本件特許発明1と同一であるので,前記5ないし10で詳述した〔原告の主張〕は,本件特許発明2にもすべてあてはまる。 (2) 本件特許発明2と被告製品との対比 ア 前記6〔原告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件A’-1を充足する。 イ 前記7〔原告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件A’-2を充足する。 ウ 前記8〔原告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件A’-3及び4を充足する。 エ 前記9〔原告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件B’を充足する。 オ 前記10〔原告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件C’を充足する。 〔被告の主張〕 (1) 構成要件の解釈 本件特許発明1と2とは,その構成要件の技術的意義内容を同一にするものであるから,前記5ないし10で詳述した〔被告の主張〕は,本件特許発明2にもすべて当てはまる。 (2) 本件特許発明2と被告製品との対比 ア 前記6〔被告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件A’-1を充足しない。 イ 前記7〔被告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件A’-2を充足しない。 ウ 前記8〔被告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件A’-3及び4を充足しない。 エ 前記9〔被告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件B’を充足しない。 オ 前記10〔被告の主張〕(2)と同様の理由により,被告製品は構成要件C’を充足しない。 13 争点(6)(損害の発生及びその額)について 〔原告の主張〕 (1) 被告製品の売上額 被告製品は,平成13年3月21日に発売されて以降,順調に販売台数を伸ばし,少なく見積もっても,平成13年3月21日から同年12月31日までの販売台数は499万8000台であり,その売上金額は390億7200万円,平成14年1月1日から同年12月31日までの販売台数は357万8000台,その売上金額は259億4700万円,平成15年1月1日以降の国内販売台数も200万台を下らない。なお,被告製品の1台の単価は,平成14年2月1日までが9800円,それ以降は8800円である。 したがって,平成13年3月21日以降の被告製品の販売台数に単価を乗じた売上額は,少なくとも800億円を下らない。 (2) 通常受けるべき金銭の額 本件特許発明1及び2によるキャラクタ方式における図形回転機能は,被告製品のハードの機能として極めて重要なものであって,被告製品の成功にはなくてはならない重要な機能である。 したがって,本件特許の実施料率は,少なくとも5パーセントを下ることはない。 (3) 特許法102条3項に基づく損害金の額 以上により,損害額は,次のとおり,少なくとも40億円を下らない。 80,000,000,000× 0.05 = 4,000,000,000 〔被告の主張〕 被告が平成13年3月21日から被告製品を販売していること,被告製品の単価が平成14年2月1日以降,9800円から8800円に改訂されたことは認め,その余は否認ないし争う。 |
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争点に対する判断
1 争点(2)(被告製品の構成)について (1) 争いのない事実 ア 別紙被告製品目録1及び2によれば,被告製品が,その構成の説明において,@タイミング信号と角度を含むパラメータとに基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,Aスクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域とを含む画像メモリと,B当該単一の座標のうち上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,C当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得,D該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する,E携帯型ゲーム機であることについては,当事者間に争いがない。 イ 別紙被告製品目録1及び2によれば,被告製品がその動作の説明において,@上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち,上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,単一のキャラクタコードと,単一の座標のうち下位各3ビットで,単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示すること,A演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成された該単一の座標のうち上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域からキャラクタコードを得,単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎にキャラクタデータ領域から単一のピクセルデータを得て,単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,画面全体の画像の回転表示が行われるものであることは,当事者間に争いがない。 (2) 本件マニュアル大全集の記載について ア 本件マニュアル大全集(甲15の1ないし7)は,被告が被告のライセンシーのために作成したプログラム用のマニュアルであり,被告製品の構成と動作方法が記載されている(乙51)。 イ 本件マニュアル大全集(甲15の5の2頁)には,「BGモード詳細」として,別紙本件マニュアル大全集目録(1)の記載がある。 上記認定の事実によれば,被告製品は,キャラクタ方式を採用していることが認められる。 ウ 本件マニュアル大全集(甲15の6の13頁,14頁)には,「BGの回転・拡大・縮小機能」として,別紙本件マニュアル大全集目録(2)の記載がある。 上記認定の事実によれば,被告製品では,ある特定のピクセルデータの次にアクセスされるピクセルデータは,単に任意の距離(dx, dy)だけ離れた位置のピクセルデータが任意にアクセスされるものであって,回転拡大縮小のための座標の変換は,複数個のピクセルからなる区域やキャラクタの幅とは全く無関係であることが認められる。 エ 本件マニュアル大全集(甲15の6の15頁)には,演算回路に入力されるタイミング信号につき,別紙本件マニュアル大全集目録(3)の記載がある。 上記認定の事実によれば,被告製品においては,演算回路に,レジスタ値入力タイミング信号,X方向座標算出タイミング信号及びY方向累積加算タイミング信号の3つのタイミング信号が入力されるものであって,レジスタ値入力タイミング信号によって演算回路に入力されるレジスタの値はBGデータ参照開始点を含んでいるから,この参照開始点にX方向の増加分(dx,dy)を累積加算することで座標を算出し,この参照開始点にY方向の増加分(dmx,dmy)を累積加算することにより,次のラインの描画開始点座標を算出している。すなわち,I/Oポート(BGデータ参照方向開始点設定レジスタ)に与えるデータは回転計算後の座標であり,アフィン変換の演算式に座標変換前の座標(X1,Y1)を代入し,回転中心座標(X0,Y0)に具体的な数値を代入してアフィン変換を計算し,その解答(X2,Y2)を事前にこのレジスタにセットしていると認められる。つまり,被告製品では,回転中心座標(X0,Y0)の設定レジスタを必要とせず,画面左上の座標変換後のメモリの座標位置としてI/Oポートに中心を与える形式を実現しているものと認められ,この座標点をメモリアクセスの絶対座標位置として用いることにより,座標変換後の座標を相対的に生成しているものと認められる。 オ 本件マニュアル大全集(甲15の6の7頁)には,「キャラクタデータフォーマット」の項に,別紙本件マニュアル大全集目録(4)の記載がある。 上記認定の事実によれば,被告製品では,画像メモリのキャラクタデータの領域に記憶される各キャラクタには64個のピクセルデータが1ドット毎に1アドレスを持つという構成によって,記憶されている1つのアドレスによって直接1つのピクセルデータを得ているものと認められる。 (3) 被告製品目録中,構成の説明における原被告間の相違点について ア 原告は,前記(1)アの構成の説明@の「タイミング信号」の前に「ディスプレイ画面上のX方向座標算出タイミング,およびY方向累積加算タイミングを示す」を挿入すべきであると主張する。 しかしながら,前記(2)のとおり,被告製品においては,レジスタ値入力タイミング信号,X方向座標算出タイミング信号及びY方向累積加算タイミング信号の3つのタイミング信号が入力されてはじめて座標が生成されるものであるから,レジスタ値入力タイミング信号を考慮しない上記原告の主張は当を得たものではなく,記載するのであれば,上記3つのタイミング信号を記載すべきである。 イ 原告は,前記(1)アの構成の説明@の「角度」の前に「回転」を挿入すべきであると主張する。 しかしながら,上記認定のとおり,被告製品では,ある特定のピクセルデータの次にアクセスされるピクセルデータは,キャラクタの幅とは全く無関係であって,単に任意の距離(dx, dy)だけ離れた位置のピクセルデータが任意にアクセスされるものであり,回転中心座標(X0,Y0)の設定レジスタを必要とせず,画面左上の座標変換後のメモリの座標位置としてI/Oポートに中心を与える形式を実現しているものであって,この座標点をメモリアクセスの絶対座標位置として用いることにより,座標変換後の座標を相対的に生成しているものであるから,図形の回転表示のために,角度を指定するものではない。したがって,この点に関する原告の主張は失当である。 ウ 原告は,前記(1)アの構成の説明Aの「キャラクタデータの領域」の前に「1つのキャラクタが縦8ピクセル×横8ピクセルからなる絵柄を記憶した」を挿入すべきであると主張する。 しかしながら,被告製品のキャラクタデータの領域におけるデータのアクセスに際しては,1つのアドレス毎に複数のピクセルからなるデータを読み出しているものではなく,1つのアドレスによって直接1つのピクセルデータを得ているものであるから,キャラクタデータの領域が1つのキャラクタが縦8ピクセル×横8ピクセルからなる絵柄を記憶しているとしても,それは,被告製品における回転表示の動作に何ら影響するものではないと認められるから,原告の主張は失当である。 エ 被告は,前記(1)アの構成の説明Bの「上位ビットに基づいて」の後に「ピクセル毎に」を挿入すべきであると主張する。 この点,前記(2)イのとおり,被告製品では,ある特定のピクセルデータの次にアクセスされるピクセルデータは,キャラクタの幅とは全く無関係に単に任意の距離(dx, dy)だけ離れた位置のピクセルデータが任意にアクセスされるものであるから,被告製品は,当該単一の座標のうち上位ビットに基づいて「ピクセル毎に」画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得ているといえ,この点に関する被告の主張は理由がある。 オ 原告は,前記(1)アの構成の説明Cの「画像メモリのキャラクタデータの領域」と「から単一のピクセルデータ」との間に「内キャラクタ」を挿入すべきであると主張する。 しかしながら,上記ウと同様の理由により,キャラクタデータの領域に縦8ピクセル×横8ピクセルからなるキャラクタが記憶されていたとしても,被告製品では,1つのアドレスによって,そのキャラクタあるいは,そのキャラクタのうちの複数ピクセル毎にピクセルデータを得ているわけではないから,キャラクタ毎あるいは複数のピクセル毎にピクセルデータを得ていることを前提とする原告の主張は失当である。 (4) 動作の説明における相違点について ア 原告は,前記(1)イの動作の説明において,その冒頭に「ディスプレイ画面上のX方向・Y方向に対応するX方向座標算出タイミング,及び,Y方向累積加算タイミングを示すタイミング信号入力と回転角度を含むパラメータにより演算回路が動作する」を挿入すべきであると主張する。 しかしながら,前記(3)ア及びイにおいて述べたのと同様の理由により,原告の主張は失当である。 イ 原告は,前記(1)イの動作の説明において,前記(4)アの記載に続いて,「演算回路の動作は,ディスプレイ画面上のX方向・Y方向の変換前の座標を,回転角度を含むパラメータと共に走査線の動く時々刻々のタイミングで変換後の座標へ座標変換を行う。」を挿入すべきであると主張する。 しかしながら,前記(3)イにおいて述べたのと同様の理由により,被告製品は参照開始点に「増加分」を累積加算することにより参照開始点から相対的に座標を生成するのであって,「変換前の座標」を「変換後の座標へ座標変換」するものではないから,原告の主張は失当である。 ウ 被告は,前記(1)イの動作の説明における記述のうち,「上位ビットに基づいて」と「画像メモリのスクリーンデータの領域」との間に,「ピクセル毎に」の文言を付加挿入すべきと主張している。 この被告の主張は,前記(3)エにおいて述べたのと同様の理由により,理由がある。 エ 原告は,前記(1)イの動作の説明における記述のうち,「スクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,」と「単一のキャラクタコード」との間に「次に,得られた」を付加挿入し,さらに,上記「単一のキャラクタコード」と「単一の座標のうち下位各3ビットで,」との間に「が指定する画像メモリのキャラクタデータの領域に記憶されている縦8ピクセル×横8ピクセルからなるキャラクタのうち,演算回路から出力された」を付加挿入すべきであると主張する。 しかしながら,前記(3)ウにおいて述べたのと同様の理由により,この点に関する原告の主張は失当である。 オ 被告は,前記(1)イの動作の説明における記述のうち,「単一の座標のうち下位各3ビット」の後に,「とに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,」を挿入すべきであると主張する。 この被告の主張は,前記(3)ウにおいて述べたのと同様の理由により,理由がある。 カ 被告は,前記(1)イの動作の説明における記述のうち,「単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示」と「画面全体の画像の回転表示が行われる」との間に,「することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,」を付加挿入すべきであると主張する。 この被告の主張は,前記(3)エにおいて述べたのと同様の理由により,理由がある。 キ 被告は,前記(1)イの動作の説明における記述のうち,「画面全体の画像の回転表示が行われる」の後に,さらに,被告製品の動作及び表示上の効果を追加すべきであると主張する。 しかしながら,本件特許発明1との対比上必要な被告製品の動作の説明は,上記「画面全体の画像の回転表示が行われる」までで尽くされており,その余の記載の必要性は認められない。 (5) 以上によれば,被告製品の構成及び動作は,別紙被告製品目録3記載のとおりであると認められ,その構成及び動作を要約すると次のとおりである。 まず,3つのタイミング信号と角度を含む1つのパラメータが演算回路に供給されることによって,ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピクセル毎に1つのキャラクタコードが出力され,その1つのキャラクタコードと,上記生成された単一の座標の内の下位各3ビットに基づいて,1ドット1アドレスの構成を持つ画像メモリのキャラクタデータの領域からピクセル毎に単一のピクセルデータを出力し,1つの座標が生成される都度,当該単一のピクセルデータをディスプレイ上に表示しているものである。したがって,被告製品は,画面上のある1点に1つのピクセル(1ドット)を表示するに際して,表示すべき1ピクセル(1ドット)分のデータについての座標生成から表示までの一連のまとまった処理(1サイクル処理)を,1ピクセル(1ドット)毎という周期で行うこと(すなわち原告の主張する「1ピクセル毎の1サイクル処理」)をその特徴としているものと認められる。 2 争点(3)(本件特許発明の技術的範囲の解釈)について (1) 本件明細書の記載 本件特許発明の特許請求の範囲は,前記第2の1(2)のとおりであり,本件明細書には発明の詳細な説明として,以下の記載がある(甲2)。 ア 発明の属する技術分野(3欄9行ないし11行【0001】) この発明は,マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することが出来る図形表示装置に関するものである。 イ 従来の技術(3欄13行【0002】ないし4欄22行【0006】) 従来,キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために,マップ及びキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し,マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し,その読出したデータを,ラスタスキャン方式によって図形として表示している。この表示は図22に示すように先ず,画面の右端においてラスタA0を形成し順次,画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1〜Anを表示することによって図形を表示している。一つのラスタにはN個(例えば16個)のキャラクタが表示され,全て異なる図形の場合には,N種類の図形が表示できる。〔中略〕図23はこのような表示を行なう装置の一例を示すブロック図であり,1はディジタル信号を処理する処理装置,2はブラウン管の水平方向の走査位置を指定するためのHカウンタ,3はブラウン管の垂直方向の走査位置を指定するためのVカウンタ,4はキャラクタジェネレータの読出アドレス順序が記憶されたマップ部,5はキャラクタジェネレータ,6はシフトレジスタ,7はブラウン管であり,Hカウンタ2及びVカウンタ3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号発生器を構成している。マップ部4およびキャラクタジェネレータ5はグラフィックディスプレイにおけるビデオRAMに相当する図形を表示するためのメモリを構成している。 このように構成された装置において,処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データ3が順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,キャラクタジェネレータ5は例えば,図24に示すように,文字Aが記憶されている場合,文字Aの各行のデータが読出され,シフトレジスタ6に記憶される。〔中略〕 このように,マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では,1文字に1つの読出順序データ,即ち,N個の文字に対してN個の読出順序データを得,それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。 このような装置においては,表示される文字は,マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。つまり,1つの文字を変更するには,マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。したがって,こうした表示装置は,グラフィックディスプレイにおけるビデオRAMの更新に比べて,遥かに高速に処理を行うことができ,ビデオゲーム機等の高速動画処理のための表示装置に適している。 ウ 発明が解決しようとする課題(4欄26行【0007】ないし4欄41行【0008】) マップとキャラクタジェネレータとを用いる方式は,グラフィックディスプレイのビデオRAMを用いた方式のように描画用の1系統のメモリではなく,属性を異にし共に直接の描画用ではない2系統のメモリを必要とし,その分だけ複雑になる。例えば,前記のように表示位置を水平方向や垂直方向に移動表示させる位のことは可能だが,描画用メモリを持たないため,図形を拡大・縮小表示することが可能であるかどうかも明らかでなく,まして,図形の回転表示など,当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった。 この発明は,マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする。 エ 課題を解決するための手段(4欄43行ないし5欄23行【0009】) このような目的を達成するために,この発明は,複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と,図形発生手段と,を備え,前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置,を提供するばかりでなく,複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと,垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと,前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと,前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表示方法であって,図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法,を提供する。 オ 発明の実施の形態(5欄25行【0010】ないし22欄42行【0076】) 本件明細書に記載された唯一の実施例が記載されている。 カ 発明の効果(23欄4行ないし10行【0078】) この発明は,ピクセル単位で,区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するようにしたので,マップにキャラクタジェネレータを読み出す方式を取りながら,図形の回転を行なうことができるという効果がある。 (2) 本件特許発明の技術的範囲の解釈 ア 特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(特許法70条1項),特許請求の範囲の記載の解釈は,発明の詳細な説明の記載及び図面の記載を考慮してこれを行う(同条2項)。また,特許制度は,発明を公開した者に対し,一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに,第三者に対しても,この公開された発明を利用する機会を与え,もって産業の発達に寄与しようとするものであるから(最高裁平成10年(受)第153号同11年4月16日第二小法廷判決・民集53巻4号627頁参照),特許権者は,与えられる独占的な権利と引換えに,当業者に当該特許発明を十分に理解させる開示を行う必要がある。それゆえに,特許請求の範囲において記載されている発明は,発明の詳細な説明に記載されて基礎付けられていなければならず(同法36条6項1号),発明の詳細な説明には,当業者が「実施をすることができる程度に明確かつ十分に」記載されていなければならない(同条4項1号)。 もとより,同法70条2項の規定の趣旨は,限定的意味ではなく,明細書及び図面全体の理解から,特許請求の範囲に記載された発明の内容を把握すべきことをいうものと解される。したがって,特許請求の範囲の記載を正当に解釈するためには,「発明の詳細な説明」に示された具体的技術思想に基づいて解釈すべきである。そして,特許請求の範囲の記載が一義的に明確でない場合に,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に開示されていない技術思想までも含ませることはできない。よって,発明の詳細な説明の記載が不十分な発明に係る特許は,無効理由が存在するか(同法123条1項4号),そうでないとしても,その開示の限度で独占的な権利を与えられるにすぎないと解すべきである。 イ 前記(1)アのとおり,本件特許発明は,マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することができる図形表示装置に関するものである。そして,前記(1)イのとおり,従来の技術においては,マップとキャラクタジェネレータを用いて図形を表示することはできたが,図形の回転表示ができなかったことは,本件明細書の【発明を解決しようとする課題】の欄に,「マップとキャラクタジェネレータとを用いる方式は,……図形の回転表示など,当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった」と記載されているとおりである(4欄26行ないし38行【0007】)。 本件明細書には,「この発明は,マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする」(4欄39行ないし41行【0008】)と記載されてはいるものの,【課題を解決するための手段】の欄には,前記(1)エのとおり,本件特許発明1及び2の特許請求の範囲そのものが記載されているにすぎず,それ以上に,本件特許請求の範囲を説明する具体的な記述は全くない。本件明細書の大部分は,本件特許発明の実施例の説明が占めており,唯一の実施例が詳細に記載されている。 そして,本件特許発明の特許請求の範囲の記載には,「第1の読出信号」「第2の読出信号」「読出順序データ」など,それ自体語句として一義的に明確でない用語が含まれ,その図形の回転表示方法が一義的に明確であるとはいえないにもかかわらず,その点について唯一の実施例以外に十分な開示がされているとはいえない。すなわち,本件特許発明について,本件実施例以外の説明では,当業者がマップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を行うこと,すなわち本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に特許請求の範囲が説明されているとはいえない。 したがって,本件特許発明の特許請求の範囲の記載を解釈するには,本件明細書に記載された唯一の実施例に記載されている回転表示方法を考慮して解釈せざるを得ないというべきである。 ウ 原告は,実施例限定や出願人の意見表明による限定解釈は許されない旨主張する。しかしながら,特許請求の範囲の記載が一義的に明確でなく,発明の詳細な説明にも,当該実施例以外に当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分な説明がない場合には,当該特許は,無効とすべきか若しくは開示されていない技術思想を含まないよう開示の限度で独占的利益を与えられるにすぎないのであって,このことは,前記のとおり,特許法の予定しているところといわざるを得ない。また,出願人が拒絶理由通知に対する意見書や手続補正書において意見を表明し,それによって特許査定がされた場合には,侵害訴訟においてこれに反する主張をすることは,信義則上許されないというべきである。 エ 以下,上記のような観点から,本件特許発明の各構成要件を解釈することとする。 3 争点(4)イ(構成要件A-2の充足性)について (1) 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」の解釈 ア 構成要件A-2について,特許請求の範囲には「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と」と記載されている。 「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」とは,上記特許請求の範囲の記載によれば,「座標回転処理手段」に入力される信号であり,指定された回転量に対応した「第1の読出信号および第2の読出信号」を出力するための信号である。 イ 本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(甲2)。 「図1はこの発明の一実施例を示すブロック図であり,……,10は直交座標で表される読出信号の内,一方の座標軸を指定する信号を発生するVカウンタ,11は他方の座標軸を指定する信号を発生するHカウンタ,12は読出信号の座標系に回転を与える座標回転処理部,13はマップ部4の記憶内容を読出すための信号を発生するマップ読出信号発生部,14はキャラクタジェネレータ部から図形データを読出すための信号を発生するキャラクタジェネレータ読出信号発生部,15はキャラクタジェネレータ部,16はキャラクタジェネレータ部15から読み出したデータを図形に組立てる図形組立部である。」(5欄25行ないし37行【0010】) 「回転信号演算部12f,12gは,処理装置1から供給される回転量を表わす信号に応じてVカウンタ10,Hカウンタ11から供給されている信号に回転を与えるようになっており,アフィン変換を行なっている。」(8欄2行ないし6行) 「次に図形に回転を与える場合の動作について説明する。図5に示す座標回転処理部12は図形に回転を与えないとして説明したときの動作に加えて,加算器12iおよび加算器12jの端子aに供給されている信号に対して,回転信号演算部12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信号を加算する演算を行なう。このため,座標回転処理部12から出力される直交座標を表わす信号は回転信号演算部12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信号に対応した角度だけ座標系が回転して図2に点線で示すようになる。このように,座標系の回転が行なわれたことによって,Vカウンタ10およびHカウンタ11の出力信号が図形に回転を与えないときと同一の値であっても,メモリは異なった位置がアクセスされることになる。」(17欄22行ないし35行【0058】) ウ 上記本件明細書の記載によれば,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」は,HカウンタとVカウンタによって発生され,座標回転処理手段に入力されるところの,回転前の座標軸を指定する読出信号と解される。 (2) 構成要件A-2と被告製品との対比 ア 前記第4の1において認定したように,被告製品においては,角度を含むパラメータ以外には,レジスタ値入力タイミング信号,X方向座標算出タイミング信号及びY方向累積加算タイミング信号という3つのタイミング信号しか演算回路に入力されていないのであるから,座標回転処理手段に入力され回転前の座標軸を指定する信号である「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」を入力するものではないと解される。 したがって,被告製品は,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され」との要件を満たさず,その余の点について判断するまでもなく,構成要件A-2を充足しない。 イ この点,原告は,「タイミング信号」は,クロック信号と同義であるとした上で,ラスタスキャン方式の画面表示において,水平方向,垂直方向のドット,ラインを特定することで2次元座標の1点を特定し,その特定された1点に対応するデータをしかるべきメモリから読み出して画面上に表示する上で,タイミング信号であるクロック信号とカウンタのカウント値は,いずれもメモリから表示すべきデータを読み出すのに必要な読出信号であるという点において何ら変わりはなく,したがって,座標変換前の信号を,タイミング信号というか,カウンタ信号を使うかは,キャラクタ方式にとって重要なものではないと主張する。 しかしながら,構成要件A-2において「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」の意義を検討する上で前提となるのは,「座標回転処理手段」に入力される信号は何かということである。被告製品において,座標回転処理手段に入力される信号は,タイミング信号のみであって,カウンタ信号などの読出信号そのものではないのであるから,キャラクタ方式においてタイミング信号がクロック信号と同義であり,クロック信号とカウンタ信号に差がないとしても,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され」の要件を充足しないことに変わりはないというべきである。 4 争点(4)エ及びオ(構成要件B及びCの充足性)について (1) 「読出順序データ」の解釈 ア 「読出順序データ」について,特許請求の範囲には,「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」(構成要件B),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて,該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件C)との記載がある。 「読出順序データ」は,上記特許請求の範囲の記載によれば,複数個のピクセルからなる区域毎の独立した表示内容のデータであり,第1の読出信号をマップに供給することによってマップより得られるものであって,さらに,第2の読出信号とともに図形発生手段に供給されて,対応する図形データのピクセルデータを得るものである。 イ 本件明細書には,従来技術及び「読出順序データ」に関して次の記載がある。 (ア) 従来技術 「従来,キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために,マップ及びキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し,マップから読み出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し,その読出した図形データをラスタスキャン方式によって図形として表示している。」(3欄13行ないし19行【0002】) 「Hカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され,その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され,」(3欄40行ないし44行【0004】) 「マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では,1文字に1つの読出順序データ,即ち,N個の文字に対してN個の読出順序データを得,それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。」(4欄9行ないし14行【0005】) 「このような装置においては,表示される文字は,マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。つまり,1つの文字を変更するには,マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。」(4欄15行ないし19行【0006】) (イ) 「読出順序データ」に関する記載 「マップ読出信号発生部13から供給された信号によってデータが読出されるマップ部4はブラウン管7のピクセルが縦横16個で囲まれる区域毎に独立した表示内容が記憶されている。このマップ部4は例えば,図8に示すようなデータすなわち,中央の2重線で囲まれた部分がアクセスされた時は文字Fを表わすデータが読出され,その右隣の部分がアクセスされた時は文字Bを表わすデータが読出され,左隣がアクセスされた時は文字Cを表わすデータが読出され,座標回転処理部12によって座標系に右方向の回転が与えられていると,マップ部4は図8の実線のようにアクセスされる。このため,1番目から11番目までのピクセルはFという文字を表示するためのデータが読出されるが,12番目から16番目までのピクセルはCという文字を表示するためのデータが読出される。一方,表示タイミング信号は16ピクセル毎に発生するようになっているので,図8の横方向の2重線をよぎる度に発生する。」(17欄48行ないし18欄14行【0060】) 「この結果,座標系に右回転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアクセスしたときは,表示タイミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示するための2種類のデータが必要になる。このように,座標系に右回転を与えたときは,表示タイミング信号期間中に現在アクセスしている部分の記憶内容の外に,その左隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。また座標系に左回転を与えて,図8の-点鎖線で示す矢印の方向にアクセスするときには,アクセス中の部分の記憶内容の外に,その右隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。そこで,アクセス中の部分の記憶内容を『ナウ』,その左隣の部分の記憶内容を『ネクスト』,右隣の部分の記憶内容を『バック』と定義する。」(18欄15行ないし27行【0061】) 「図6の補正データ発生器13bはこのような目的のために設けられており,ラッチ13aから供給されるマップのデータを読み出すための5ビットの信号に対して,第1表で示すような補正を行なっている。」(18欄29行ないし31行【0062】) 「この結果,加算器13cの入力側の端子aの信号は現在アクセス中の部分の記憶内容,すなわち,『ナウ』の信号であるが,出力側の端子cの信号は処理装置1から供給される信号に応じて補正データ発生器13bの信号が加算され,『ネクスト』または『バック』の信号を表わすことになる。すなわち,1ラスタ期間中に『ナウ』をN個読み出している他に,『ネクスト』または『バック』も読み出しているので,マップよりN個以上の読出順序データを読み出していることになる。」(18欄44行ないし19欄3行【0062】) 「前述の回転を行わない場合は,すべて『ナウ』を選択していたので,セレクタ14c〜セレクタ14fの端子は,bを選択するのみになっていたが,回転を行うときは,このように『ネクスト』が選択されると,読出順序データの『ネクスト』を用いることになる。このように,回転をする場合は『ナウ』と『ネクスト』または,『バック』の両方を用いるので,回転を行わないときに比べ,2倍の種類の読出順序データに対応するキャラクタジェネレータの選択が行われる。」(19欄43行ないし20欄1行【0067】) 「図20の例では,1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し,16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。すなわち,1つの読出順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応している。」(21欄4行ないし8行【0071】) ウ 前記イ(イ)認定の本件実施例の記載によれば,「読出順序データ」とは,表示画面上の「複数個のピクセル」に対応する読出データであって,マップ上で隣接する2つの読出データであるところの,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の読出データの両方のデータの総称であり,これにより回転表示を行わない場合に比べて2倍の種類の図形データをキャラクタジェネレータから読み出すことができるようなデータであると解される。 そして,本件実施例では,この2つの読出順序データに対応する図形データとCHG・AD(H)信号,CHG・AD(V)信号,CHG・NO信号,M・T信号(第2の読出順序データ)により,ピクセルデータを得て,図形を回転表示しているものである。そして,前記イ(ア)のとおり記載されているところを併せ考慮すると,本件実施例に記載された「読出順序データ」は,従来の技術に開示された読出順序データと同一の技術を前提としたものであるところ,キャラクタ方式では,「描画用メモリを持たないため,……,図形の回転表示など,当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり,その手法は未知のものであった」(4欄34行ないし38行【0007】)というのであるから,上記本件実施例に記載された以外の回転方式の手法は知られていなかったものである。 そうすると,マップから2つの読出順序データを得,これを図形発生手段に供給しないと,当時の技術では図形の回転表示を行なうことができないといわざるを得ず,本件実施例以外の回転表示方法による構成は,本件明細書中に一切開示されていない。すなわち,本件特許発明について,本件実施例以外の説明では,当業者がマップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を行うこと,すなわち本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に特許請求の範囲が説明されているとはいえないから,開示されていない技術思想を特許請求の範囲に含ませることはできない。 エ したがって,本件特許発明の「読出順序データ」は,マップより供給される2つの隣接するデータであると解される。 (2) 「第1の読出信号」の解釈 ア 「第1の読出信号」について,特許請求の範囲には,「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段」(構成要件A-2),「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,」(構成要件B)の記載がある。 「第1の読出信号」は,上記構成要件A-2の記載によれば,座標回転処理手段から出力される読出信号であって,また上記構成要件Bの記載によれば,マップに供給されてマップより読出順序データを得るための信号である。 イ 本件実施例には,「加算器12iはマップ部4の一方の座標上の位置を表わす5ビットのV信号,キャラクタジェネレータの縦方向座標軸上の位置を表わす2ビットのCHG・AD(V)信号,図形組立部16に供給する2ビットのCHG・NO信号を発生するようになっている。加算器12kはマップ4の他方の座標上の位置を表わす5ビットのH信号,キャラクタジェネレータの横方向座標軸上の位置を表わす2ビットのCHG・AD(H)信号,マスタタイミングを表わす2ビットのM・T信号を発生するようになっている。」(8欄7行ないし16行【0024】)と記載されているから,加算器12iのV信号,加算器12kのH信号によりマップ部の指定ができる。また,「回転信号演算部12f,12gは,処理装置1から供給される回転量を表わす信号に応じてVカウンタ10,Hカウンタ11から供給されている信号に回転を与えるようになっており,アフィン変換を行なっている。」(8欄2行ないし6行)のであるから,加算器12iのV信号,加算器12kのH信号は,回転させる場合にはアフィン変換をした後の信号である。そして,本件実施例においては,加算器12iのV信号,加算器12kのH信号をマップ4に直接供給するのではなく,マップ読出信号発生部13に供給し,後述のとおり,セレクタ13h及びセレクタ13iから,「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの信号をマップに供給し,マップから2つの読出順序データを得ている。 ウ 以上によれば,「第1の読出信号」は,座標回転処理手段から出力されマップに供給される2つの読出信号であって,マップから2つの読出順序データを得るための信号であると解される。 (3) 構成要件Bと被告製品との対比 前記1(5)において認定したとおり,被告製品は,3つのタイミング信号と角度を含む1つのパラメータが演算回路に供給されることによって,ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピクセル毎に1つのキャラクタコードが出力される構成と動作を備えているのである。 よって,被告製品は,マップに供給される2つの読出信号である「第1の読出信号」と,マップより供給される2つの隣接するデータである「読出順序データ」のいずれも備えていないと解され,したがって,被告製品は,「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得」の要件を充たさず,その余の点について判断するまでもなく,構成要件Bを充足しない。 (4) 構成要件Cと被告製品との対比 同様に,被告製品は,マップより供給される2つの隣接するデータである「読出順序データ」を備えていないから,その余の点について判断するまでもなく,構成要件Cを充足しない。 5 争点(5)(本件特許発明2の構成要件充足性)について (1) 構成要件の解釈 ア 構成要件A’-2の「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」の解釈は,前記3(1)と同様である。 イ 構成要件A’-3の「前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得る」の解釈は,前記4(1)及び(2)と同様である。 (2) 構成要件A’-2及び3と被告製品との対比 ア 構成要件A’-2と被告製品との対比については,前記3(2)と同様の理由により,被告製品の動作は,構成要件A’-2に記載されたステップを充足しない。 イ 構成要件A’-3と被告製品との対比については,前記4(3)と同様の理由により,被告製品の動作は,構成要件A’-3に記載されたステップを充足しない。 (3) よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品の動作は本件特許発明2の技術的範囲に属しない。 6 結論 以上のとおり,被告製品は,本件特許発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
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被告製品目録1以下に記載する携帯型ゲーム機(商品名「ゲームボーイアドバンス」)1.構成の説明ゲームボーイアドバンス(以下GBA)は,(1)ディスプレイ画面上のX方向座標算出タイミング,及びY方向累積加算タイミングを示すタイミング信号と回転角度を含むパラメータとに基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,(2)スクリーンデータの領域と,1つのキャラクタが縦8ピクセル×横8ピクセルからなる絵柄を記憶したキャラクタデータの領域とを含む画像メモリと,(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,(4)当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域内のキャラクタから単一のピクセルデータを得て,(5)該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する携帯ゲーム機である。 2.動作の説明GBAは,上記構成により,以下のように動作する。 ディスプレイ画面上のX方向・Y方向に対応するX方向座標算出タイミング,及び,Y方向累積加算タイミングを示すタイミング信号入力と回転角度を含むパラメータにより演算回路が動作する。 演算回路の動作は,ディスプレイ画面上のX方向・Y方向の変換前の座標を,回転角度を含むパラメータと共に走査線の動く時々刻々のタイミングで変換後の座標へ座標変換を行う。 演算回路によって生成された当該単一の座標のうち,上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得る。 次に,得られた単一のキャラクタコードが指定する画像メモリのキャラクタデータの領域に記憶されている縦8ピクセル×横8ピクセルからなるキャラクタのうち,演算回路から出力された単一の座標のうち下位各3ビットで1ピクセルを特定し,得られた単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する。 演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成された該単一の座標のうち上位ビットに基づいて画像メモリのスクリーンデータの領域より得られた単一のキャラクタコードと,演算回路から出力される単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に該キャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,得られた単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画像の回転表示が行われる。 被告製品目録2以下に記載する携帯型ゲーム機(商品名「ゲームボーイアドバンス」)1.構成の説明ゲームボーイアドバンス(以下GBA)は,(1)タイミング信号と角度を含むパラメータとに基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,(2)スクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域とを含む画像メモリとを有し,(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する,携帯型ゲーム機である。 2.動作の説明GBAは,上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,演算回路によって生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する。 演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画像の回転表示が行われる。上記の構成により,演算回路が正確に座標を出力すればそのまま正確な画像の回転表示が行われるため,回転角度によってキャラクタの大きさが変わることはなく,360度の全周にわたって画像の回転表示が行われる。 演算回路が縮小するように飛び飛びの座標を生成し,又は拡大するように重複した座標を生成したときには,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画像の縮小表示あるいは拡大表示が行われる。 上記した演算回路の座標生成の計算を組み合わせれば,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって,回転表示及び/又は拡大表示及び/又は縮小表示を,同時に組み合わせた画像表示を行うことができる。 GBAは上記構成によりピクセルデータを個別に読み出すため,単に読み出すピクセルデータのビット数を増やすだけで,回路構成を変更することなくフルカラーを達成できる。 被告製品目録3以下に記載する携帯型ゲーム機(商品名「ゲームボーイアドバンス」)1.構成の説明被告製品は,(1)レジスタ値入力タイミング信号,X方向座標算出タイミング信号及び被告方向累積加算タイミング信号の3つのタイミング信号と角度を含むパラメータとに基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,(2)スクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域とを含む画像メモリとを有し,(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する,携帯型ゲーム機である。 2.動作の説明被告製品は,上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,演算回路によって生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する。 演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画像の回転表示が行われる。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
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裁判官 | 東海林保 |
裁判官 | 田邉実 |