審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成24行ケ10038審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10208審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10396審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10315審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24行ケ10004審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10398号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/09/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年9月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成23年(行ケ)第10398号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年8月8日 判 決 原 告 X 被 告 特 許 庁 長 官 同指定代理人 豊 永 茂 弘 斉 藤 信 人 氏 原 康 宏 守 屋 友 宏 主 文 1 特許庁が不服2009−20849号事件について 平成23年10月12日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文1項と同旨 第2 事案の概要 本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記 2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は 成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のと おり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件出願及び拒絶査定 株式会社ホクコン(以下「訴外会社」という。)は,平成20年6月17日,発 明の名称を「水処理装置」とする特許出願(特願2008−157503)をし (甲6),平成21年7月14日,拒絶査定を受けた。 (2) 審判請求及び本件審決 訴外会社は,平成21年10月28日,拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は, これを不服2009−20849号として審理し,平成22年6月7日,本件審判 の請求は成り立たないとの審決をしたが,知的財産高等裁判所は,平成23年3月 17日,上記審決を取り消す旨の判決を言い渡した。 特許庁は,平成23年10月12日,本件審判の請求は成り立たないとの本件審 決をし,同年11月2日,その謄本が訴外会社に送達された。 (3) 特許を受ける権利の譲渡 原告は,平成23年11月25日,訴外会社から特許を受ける権利の譲渡を受け, 特許庁長官に届け出た(甲11)。 2 特許請求の範囲の記載 請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年6月11日付 け手続補正書(甲7)により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された, 以下のとおりのものである(以下,本件出願に係る明細書(甲6,7)を「本願明 細書」という。)。 上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器と,前記圧力容器 の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装 置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結 した噴霧装置が設けてある水処理装置 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明は,後記引用例に記載された発明 (以下「引用発明」という。)及び周知例1ないし4に記載された技術事項に基づ いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規 定により,特許を受けることができない,というものである。 ア 引用例:特開平6−170195号公報(甲1) イ 周知例1:特開2000−117243号公報(甲2) ウ 周知例2:特開平11−300376号公報(甲3) エ 周知例3:特開平10−57802号公報(甲4) オ 周知例4:特開2007−21341号公報(甲5) (2) なお,本件審決は,その判断の前提として,引用発明並びに本願発明と引 用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。 ア 引用発明:側部に液体の供給口,底部に排出口が設けてあるオゾン反応タン ク1と,オゾン反応タンク1の供給口には液体を供給する液体管路4が接続してあ り,オゾン反応タンク1内部には,オゾンガスが供給されると共に供給口に連結し たスプレーノズル2,3が設けてある反応装置 イ 一致点:被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある容器と,前記容器の 供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,被処理水にオゾンガスが供給 され,前記容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある水処理装置 ウ 相違点1:本願発明では,被処理水の供給口が容器の「上部」に設けられて いるのに対して,引用発明では,オゾン反応タンク1(容器)の「側部」に設けら れている点 エ 相違点2:本願発明では,「容器の供給口には被処理水を供給する管路が接 続してあり,この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあ り,容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」のに対して,引用発明 では,「オゾン反応タンク1(容器)の供給口には液体(被処理水)を供給する液 体管路4(管路)が接続してあり,オゾン反応タンク1内部には,オゾンガスが供 給されると共に供給口に連結したスプレーノズル2,3(噴霧装置)が設けてあ る」点 オ 相違点3:本願発明では,「圧力容器」であるのに対して,引用発明では, オゾン反応タンク1(容器)が「圧力容器」であるかどうか不明である点 4 取消事由 容易想到性の判断の誤り (1) 一致点・相違点の認定の誤り (2) 相違点2及び相違点3に係る判断の誤り 第3 当事者の主張 〔原告の主張〕 (1) 一致点・相違点の認定の誤りについて ア 本願発明は,エジェクターを使用することによって,オゾンを被処理水に溶 解させて被処埋水を圧力容器内に高圧で供給し,圧力容器内に大気圧以上の圧力の オゾンが存在するようにして課題を解決したものである。これに対し,引用発明は, オゾン反応タンク内におけるオゾン圧力を高める手段が皆無であり,反応装置であ るオゾン反応タンク内のオゾン圧力を高めるという発想自体がなく,本願発明と共 通する技術とはいえない。 イ 本件審決は,エジェクターの有無を相違点2,圧力容器であるか否かを相違 点3としているが,本願発明において,エジェクターと圧力容器は圧力容器内のオ ゾンガス圧力を高めるために密接不可分なものである。よって,引用例のオゾン反 応タンクが圧力容器であるか不明であると認定した時点で,本件審決は部品の機能 を無視し,相違点について誤った判断をしたことになる。 ウ 本願発明において,オゾンは,エジェクターによって圧力容器内に大気より 高い圧力として供給されるのに対して,引用発明では,単に噴霧装置に直接被処理 水が供給されて噴霧されているにすぎないという根本的な相違点がある。 本願発明は,圧力容器を使用した水処理装置であることを前提とし,圧力容器内 のオゾン圧力を高めるということが発明の課題の一つであり,圧力容器に圧力を高 めたオゾンを供給する手段としてエジェクターを採用したものであるのに対し,引 用発明は,圧力容器を使用することを前提とした水処理装置でないことは明らかで あり,本件審決において「圧力容器であるか否かが不明である」と認定して一致点 ・相違点を認定したのは誤りである。 (2) 相違点2及び相違点3に係る判断の誤りについて ア 本願発明のエジェクターは,従来のエジェクターとは異なり,単に被処理水 とオゾンとを混合させることだけではなく,被処理水とオゾンを混合して圧力容器 にノズルで放出することによって圧力容器内のオゾンガス圧力を噴射した被処理水 の圧力に依存させるものであるが,引用例には,本願発明のこのような新規な技術 思想についての開示がない。 イ また,引用発明は,エジェクターを使用してオゾンガスを被処理水に溶解す ることを否定してオゾン容器内にノズルで被処理水を単に噴霧するとしたものであ るから,エジェクターとノズルを組み合わせることはあり得ない。 本願発明は,圧力容器とエジェクターを組み合わせることにより供給される被処 理水の圧力を高め圧力容器内のオゾンガス圧力を維持するものであるが,引用例に は,この点についての記載はない。 ウ よって,相違点2及び相違点3についての本件審決の判断は誤っている。 〔被告の主張〕 (1) 一致点・相違点の認定の誤りについて ア 原告は,本願発明は,エジェクターを使用することによって,オゾンを被処 理水に溶解させて被処埋水を圧力容器内に高圧で供給し,圧力容器内に大気圧以上 の圧力のオゾンが存在するようにして課題を解決した旨主張する。 しかし,本願明細書(【0013】)には,ポンプで被処理水の圧力を0.6M Paにすることで,被処埋水を圧力容器内に高圧で供給して圧力容器内に大気圧以 上の圧力のオゾンが存在するようにした技術が開示されているのであって,エジェ クターそのもので上記のようにする技術の開示はない。 イ 本願発明は,原告が主張するような「オゾンは,エジェクターによって圧力 容器内に大気より高い圧力として供給される」といった特定事項を有していない。 よって,原告の主張は,一致点・相違点の認定の誤りとして,根拠を欠く。 なお,仮に本願発明が上記特定事項を有するものであるとしても,後記のとおり, そのような特定事項に係る構成は当業者に自明であり,原告主張の当否は結論に影 響を及ぼさない。 ウ 原告は,本願発明においてエジェクターと圧力容器とは圧力容器内のオゾン ガス圧力を高めるために「密接不可分」なものであるにもかかわらず,審決は,相 違点の認定において,エジェクターの有無(相違点2)と圧力容器であるか否か (相違点3)とを分断して別々に認定したから誤りであると主張していると善解で きそうである。 しかし,本件審決は,相違点3についての判断において,相違点2と関連づけて 説示している。そして,後記のとおり,本件審決の相違点2及び相違点3について の判断に誤りはないから,原告の主張の当否は結論を左右しない。 しかも,引用例には,オゾン反応タンクが圧力容器であるか否かを示す記述がな いことから,相違点3の認定において,引用発明では,オゾン反応タンク(容器) が「圧力容器」であるかどうか不明であるとするのは当然のことであり,このこと をもって,部品の機能を無視しているということはできない。 (2) 相違点2及び相違点3に係る判断の誤りについて ア 本願明細書には,エジェクターそのものでもって,被処埋水を圧力容器内に 高圧で供給して圧力容器内に大気圧以上の圧力のオゾンが存在するようにするとい った技術事項の開示はない。そうすると,そのような開示があることを前提とする 原告の主張は,失当である。 イ 本願発明が,圧力容器とエジェクターを組み合わせることにより圧力容器内 に供給される被処理水の圧力を高くして圧力容器内のオゾンガス圧力を高く維持す るもの,すなわち,本願発明のエジェクターが,圧力容器内に供給される圧力を高 くした被処理水の圧力に圧力容器内のオゾンガス圧力を依存させるものであるとし ても,以下に述べるとおり,原告の主張は失当である。 (ア) 反応容器内に噴霧される被処理水及びオゾンガスの圧力を容器内の圧力よ りも高くすることは技術常識であり,また,被処理水にガスを供給するにあたり, 被処理水にガスを供給し,ガスが供給された被処理水(被処理水及びガス)を加圧 状態で送り出す機能を有する気液混合のためのエジェクターを管路に設けることは 本件出願前周知の事項であり(甲2,甲3,乙1),さらに,被処理水へのガスの 溶解量を増やすために容器内のガス圧を高くすることも本件出願前周知の事項であ る(甲5)。 そうすると,上記技術常識から,引用例には,容器内に噴霧される被処理水及び オゾンガスの圧力を容器内の圧力よりも高くするという技術思想が開示されている ということができ,引用発明について,被処理水にガスを供給するという点で共通 する上記周知の事項を適用すること,すなわち,被処理水を供給する管路に,被処 理水にオゾンガスを供給し,オゾンガスが供給された被処理水(被処理水及びオゾ ンガス)を加圧状態で送り出す機能を有する気液混合のためのエジェクターを設け ると共に,被処理水へのオゾンガスの溶解量を増やすために,微細な液滴を形成す ることに加えて,エジェクターが設けられた管路が接続された容器内のオゾンガス 圧力を高くすること(オゾン反応タンクを圧力容器にすること)は,当業者であれ ば容易に想到し得ることである。 (イ) 原告は,引用発明においてエジェクターとノズルとを組み合わせることを 想起できない旨主張する。 引用例(【0001】【0008】【0009】【0014】【0020】)の 記載によれば,引用例には,オゾンガスを用いる種々の反応において,溶液中でオ ゾンを目的物と反応させるためにオゾンガスを液体中に容易に溶解させるという課 題を解決するにあたり,エジェクターのような複雑で高価な設備を用いずとも課題 解決を図ることができる手段が開示されてはいるが,引用例では,エジェクターは, 「複雑で高価な設備」とされているにすぎないものである。 ウ したがって,相違点2及び相違点3についての本件審決の判断に誤りがある とはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 本願発明について (1) 本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであり,本願 明細書には,以下の記載がある(甲6,7)。 ア 本願発明は,分解処理が困難である有機溶媒を含む産業排水を処理するため の水処理装置である(【0001】)。 イ 背景技術として,液体浄化装置の処理能力を向上させた浄化装置の提案とし て,上部に液体供給口と気体供給口が設けられ,下部に液体排出口が設けられた圧 力容器を備え,液体供給口から被処理水が供給され,圧力容器内に気体供給口から オゾン等の気体を供給して気体を被処理水に接触させて浄化すると共に,この浄化 した液体を液体排出口から圧力容器の外部に排出する液体浄化装置が知られている が,トリクロロエチレンなどの有機溶媒を分解する能力が十分でなかったり,汚水 浄化装置が酸素やオゾンを気体供給口から圧力容器内に供給し,圧力容器内の気体 圧力を1s/?〜3s/?にして被処理液に溶解させるものであるため,圧力容器 内圧力と比例的に関係する汚水浄化装置の処理能力が,オゾンや酸素の気体発生器 の能力に依存することになる。特にオゾンについては現存のオゾン発生装置の最高 供給圧力が3s/?に制限されていることから,汚水の処理能力に限界があり,ト リクロロエチレンなどの有機溶媒の分解処理に対しては十分な能力を有していると はいえない等の課題があった(【0002】〜【0005】)。 ウ 本願発明は,このような課題認識の下で,圧力容器を使用した汚水処理装置 において,気体と汚水の接触面積を大きくし,汚水(被処理水)へのオゾン等の気 体の溶解量を増大させて汚水処理装置の処理能力を向上させるものであり(【00 06】),圧力容器の供給口にオゾン発生装置がエジェクターを介して連結してあ り,圧力容器内部には噴霧装置が供給口に連結されて設け,エジェクターでオゾン と被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾンを混合した被処理水を噴霧供給する ことで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に噴霧によってオゾンと被処理水の接触 面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解させて有機汚染物を分解するという解決 手段と作用を有するものである(【0007】)。 本願発明によれば,被処理水供給口から圧力容器内に高圧で供給され,噴霧装置 で霧状に圧力容器内に噴霧された被処理水に,エジェクターで混合されたオゾンが 大きな接触面積で接触して被処理水に効率よく溶解されるという効果を生じるもの である(【0008】)。 エ また,実施例として,揮発性有機化合物(VOC)のトリクロロエチレン及 びシス−1,2−ジクロロエチレンを含有する被処理水を本願発明の水処理装置を 使用して処理試験を実施し,圧力容器として,内容積240L,被処理水140L ・水温12℃を,オゾン発生装置として,30g/h・濃度100ppm(Vol)のもの を,それぞれ使用し,上記2成分の濃度を測定したこと(【0012】),被処理 水を0.6MPaの圧力でエジェクターによりオゾン発生装置からのオゾンガスと 混合し,オゾンガスが0.2MPaの圧力に保持された圧力容器内に噴霧され,圧 力容器内が0.4MPaになるまで内圧を上昇させ,排出口より処理水を排出する ことで0.4MPaを保持したこと,本願発明との比較のため,従来技術について も同様の測定を実施した(圧力容器0.2MPa,エジェクター及び噴霧装置な し)結果,本願発明ではトリクロロエチレンは95%除去され,シス−1,2−ジ クロロエチレンは100%の除去率であり,本願発明の水処理装置が既存の水処理 技術に比べて効率的にVOCを分解することが示されたこと,従来技術ではオゾン 供給圧が0.3MPaであるため,圧力容器内圧は0.3MPaが限界であるが,本願 発明の水処理装置はこれに比べて2倍以上の圧力をかけることが可能であることか ら,ヘンリーの法則により,オゾンガスを2倍以上溶解させることができ,結果と して効率が劇的に向上すること,以上のような測定結果を分析した記載がある (【0013】)。 (2) よって,本願発明は,オゾンを被処理水に効率良く溶解させるために,エ ジェクターによって圧力容器内の圧力を高めるとともに,噴霧装置によってオゾン と被処理水の接触面積を増やすものであって,「エジェクター」と「噴霧装置」と を併用するものである。 2 引用発明について (1) 引用例(甲1)には,以下の記載がある。 ア 産業上の利用分野 この発明は,オゾンガスを用いる種々の反応において,溶液中でオゾンを目的物 と反応させるために,オゾンガスを液体に容易に溶解させる方法に関する(【00 01】)。 このような反応は,例えば,浄水,工業用水,工場排水,し尿排水,下水,食品 製造・保存,医療品製造,実験動物施設,超純水製造・半導体製造工業,医療,排 煙・排気処理,パルプ工業,水族館水処理,金属イオンの酸化,シアンやNOx等 の有害物質の酸化,脱色,脱臭,殺菌,有機物の酸化などの分野で適用される (【0002】)。 イ 従来の技術 従来,オゾンガスを液体に溶解させる方法としては,後記のごときディフューザ ー式接触溶解方法とエジェクターによる接触溶解方法が一般的であった。 @ ディフューザー式接触溶解方法(図3参照) プラスチック製ないしはセラミック製の多孔材よりなる散気板又は散気管を反応 槽内の水中に没するように設置し,オゾン発生器からこの散気板又は散気管にオゾ ンガスを供給し,ここから水中にオゾンガスを吹出して水と接触させ,オゾンを水 中に溶解させると同時に目的物と酸化反応させる。 Aエジェクターによる接触溶解方法(図4参照) 上記のような散気材の代わりに,エジェクターを使用し,加圧ポンプで加圧され た水をエジェクターのノズルより噴出させ,発生した負圧を利用してオゾン発生器 から来るオゾンガスを水に吸込み溶解させる同時に目的物との酸化反応を行わせる (【0003】〜【0005】)。 ウ 発明が解決しようとする課題 しかしながら,これらの方法ではそれぞれ次のような問題がある。 ディフューザー式接触溶解法では,接触反応器の構造は簡単であるが,気−液接 触面積が大きくないため,反応に長時間を要する上に,大型の接触反応器が必要で ある。エジェクターによる接触溶解法では,微細気泡の形成により気−液接触面積 が大きく,オゾンと液中成分との迅速な反応が行われるが,接触反応器の構造が複 雑で,しかも高価なエジェクターが必要である(【0007】【0008】)。 この発明の目的は,上記の点に鑑み,これら両者の欠点を克服するため,比較的 廉価で入手しやすいスプレーノズルで微細な液滴を形成し,気−液接触面積を大き くしてオゾンと液中成分との反応及び液中へのオゾンの溶解を容易にすることにあ る(【0009】)。 エ 課題を解決するための手段 この発明は上記目的を達成すべく工夫されたもので,その第1のものは,一つの スプレーノズルからオゾンガスと液体を同時に噴射し,液体中にオゾンを溶解させ ると共に液中成分と反応せしめることを特徴とする,スプレー式オゾンガス溶解・ 反応法である(【0010】)。 オ 作用 この発明の方法ではスプレーノズルを使用するので,同ノズルにより微細な液滴 を形成することができる。そのため,得られた液滴とオゾンガスとの接触面積が大 きくなり,液中へのオゾンガスの溶解及び液中成分とオゾンとの反応が容易かつ速 やかに行なわれる。その結果,反応装置は従来のものより小型のものでよく,また エジェクターのような複雑で高価な設備は用いる必要がない(【0014】)。 カ 実施例1 図1において,オゾン反応タンク内に下向きに設けられた上部スプレーノズルと 下部スプレーノズルに,それぞれ液体管路が配され,また上下スプレーノズルに, それぞれガス管路が配されている。 この構成において,液体管路によって2個のスプレーノズルに液が供給され,ガ ス管路によってスプレーノズルにオゾンガスが供給され,スプレーノズルからオゾ ンガスと液が同時にオゾン反応タンク内にスプレーされる。この結果,液中にオゾ ンが溶解すると共にオゾンが液中成分と反応せしめられる。処理液はタンク底部か ら排出され,また排オゾンはタンク頂部から排出される(【0016】【001 7】)。 キ 発明の効果 この発明の方法ではスプレーノズルを使用するので,同ノズルにより微細な液滴 を形成することができる。そのため,得られた液滴とオゾンガスとの接触面積を増 大することができ,液中へのオゾンガスの溶解及び液中成分とオゾンとの反応を容 易かつ速やかに行わせることができる。その結果,反応装置を従来のものより小型 化することができ,またエジェクターのような複雑で高価な設備を用いる必要がな い(【0020】)。 (2) 以上の記載のとおり,引用発明は,オゾンガスを用いて種々の反応を行う 反応装置に関するものであって(【0001】),従来のディフューザー式接触溶 解法では,接触反応器の構造は簡単であるが,気−液接触面積が大きくないため, 反応に長時間を要する上に,大型の接触反応器が必要であるという問題があり,ま た,従来のエジェクターによる接触溶解法では,微細気泡の形成により気−液接触 面積が大きく,オゾンと液中成分との迅速な反応が行われるものの,接触反応器の 構造が複雑で,しかも高価なエジェクターが必要であるという問題があったので (【0006】【0007】),引用発明は,これらの問題を克服するために,比 較的廉価で入手しやすいスプレーノズルにより微細な液滴を形成することによって, 得られた液滴とオゾンガスとの接触面積を増大させて,液中へのオゾンガスの溶解 及び液中成分とオゾンとの反応を容易かつ速やかに行わせることができ,その結果, 反応装置を従来のものより小型化することができ,またエジェクターのような複雑 で高価な設備を用いる必要がないという効果を奏するものである(【0020】)。 そうすると,引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクタ ーに替えて,エジェクターより接触反応器の構造が簡単で安価なスプレーノズルを 用いるものであると認められる。 3 相違点の認定について (1) 相違点3の認定について 原告は,本願発明は,圧力容器を使用した水処理装置であることを前提とするの に対し,引用発明は,圧力容器を使用することを前提とした水処理装置でないこと は明らかであり,本件審決において「圧力容器であるか否かが不明である」として 相違点を認定したのは誤りであると主張する。 しかし,引用例には,容器の圧力について何も記載されていないから,圧力容器 かどうか不明であって,本件審決が,本願発明と引用発明の相違点を「圧力容器で あるか否かが不明である」と認定した点に誤りはない。 なお,仮に,本件審決の相違点3の認定に問題があるとしても,本件審決は,相 違点3についての検討において,引用発明の容器を「圧力容器」にすることの容易 想到性を判断しているものである。したがって,相違点3の認定の誤りが,本件審 決の結論に影響するとはいえない。 (2) 相違点2及び相違点3を別個に認定したことについて 原告は,本件審決は,エジェクターの有無を相違点2,そして,圧力容器である か否かについて相違点3として挙げているが,エジェクターと圧力容器は圧力容器 内のオゾン圧力を高めるため密接不可分なものであり,引用例のオゾン反応タンク が圧力容器であるか不明であると認定した時点で,化学反応装置の対比において必 須である部品の機能を無視しており,相違点について誤った判断をしたとも主張す る。 しかし,本件審決は,相違点3についての検討において,相違点2についての検 討を引用しつつ,「圧力容器」にすることについての容易想到性を判断しているこ とから,相違点2と相違点3を併せて検討したものということができる。よって, 本件審決が相違点2と相違点3を分けて認定したことによって,それが本件審決の 結論に影響するとはいえない。 4 相違点2に係る判断について (1) 周知例について 本件審決が認定したとおり,一般に,被処理水にガスを供給することについて, 圧力を高める機能を有するエジェクターを用いることは,本件出願前周知の事項で ある(甲2)。 また,同様に,被処理水にガスを供給することについて,「被処理水を供給する 管路にガスが供給されるエジェクターを設ける」ことは,本件出願前周知の事項で ある(甲3,4)。 (2) 相違点2の容易想到性 ア 本願発明は,「この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが 設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」もの であるから,「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用するものである。 他方,引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターに替 えて,エジェクターより接触反応器の構造が簡単で安価なスプレーノズルを用いる ものであるから,スプレーノズルは,エジェクターの代替手段である。 そうすると,引用発明において,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジ ェクターを敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない。 イ また,仮に,引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても,スプ レーノズルがエジェクターの代替手段であるから,その場合は,引用発明における スプレーノズルに替えてエジェクターを適用することになるところ,引用発明には, 本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの 示唆や動機付けがあるとはいえない。 他に,水処理装置において,エジェクターと噴霧装置とを併用することについて, 記載や示唆があるとは認められない。 ウ したがって,一般に,被処理水にガスを供給することについて,被処理水を 供給する管路に「ガスが供給されるエジェクター」を設けることが,本件出願前周 知の事項であったとしても,引用発明において,エジェクターとスプレーノズル (噴霧装置)とを併用することは,当業者にとって容易であるとはいえない。 そして,本願発明は,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用する ことによって,エジェクターでオゾンと被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾ ンを混合した被処理水を噴霧供給することで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に 噴霧によってオゾンと被処理水の接触面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解さ せて有機汚染物を分解するものであり,それによって,オゾンが被処理水に効率よ く溶解され,汚染水処理装置の処理能力が向上するという顕著な効果を奏するもの である。 エ よって,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,引用発明及 び本件出願前周知の事項に基づいて当業者であれば容易になし得るとした本件審決 の判断は,誤りである。 (3) 被告の主張について ア 被告は,本願発明のエジェクターが,圧力容器内に供給される圧力を高くし た被処理水の圧力に圧力容器内のオゾンガス圧力を依存させるものであるとしても, 反応容器内に噴霧される被処理水及びオゾンガスの圧力を容器内の圧力よりも高く することは技術常識であるから,引用例には,容器内に噴霧される被処理水及びオ ゾンガスの圧力を容器内の圧力よりも高くするという技術思想が開示されていると いうことができ,また,被処理水にガスを供給するにあたり,被処理水にガスを供 給し,ガスが供給された被処理水(被処理水及びガス)を加圧状態で送り出す機能 を有する気液混合のためのエジェクターを管路に設けることは本件出願前周知の事 項であり(甲2,甲3,乙1),さらに,被処理水へのガスの溶解量を増やすため に容器内のガス圧を高くすることも本件出願前周知の事項である(甲5)から,引 用発明に,被処理水にガスを供給するという点で共通する上記周知の事項を適用す ることは,当業者であれば容易に想到し得ることであると主張する。 しかし,上記のとおり,引用発明には,本願発明のようにエジェクターと噴霧装 置とを併用することの示唆や動機付けはないから,「被処理水にガスを供給するに あたり,被処理水にガスを供給し,ガスが供給された被処理水(被処理水およびガ ス)を加圧状態で送り出す機能を有する気液混合のためのエジェクターを管路に設 けること」が周知の事項であったとしても,引用発明に上記周知の事項を適用でき るとはいえない。 イ 被告は,引用例では,エジェクターは,「複雑で高価な設備」とされている にすぎないものであるから,引用発明においてエジェクターの適用を阻害する事由 はないと主張する。 しかし,引用例(【0008】【0009】【0020】)の記載によれば,引 用例では,エジェクターは,「複雑で高価な設備」とされ,それを採用しない引用 発明に至ったというのであるから,引用発明が,単にエジェクターを用いなくても よい発明であるとか,エジェクターを用いることによって,引用例に記載されてい る課題が解決できなくなるものではないとはいえない。 そして,仮に,引用発明にエジェクターの適用を阻害する事由がなかったとして も,上記のとおり,引用発明のスプレーノズルは,エジェクターの代替手段である から,引用発明にエジェクターを適用しようとすると,スプレーノズルに替えてエ ジェクターを適用するのが自然である。よって,引用発明にエジェクターを適用し ても,本願発明のようにエジェクターと噴霧装置とを併用する構成とはならない。 (4) 小括 以上のとおり,相違点2に係る本件審決の判断には,誤りがある。 5 相違点3に係る判断について (1) 周知例について 本件審決が認定したとおり,一般に,被処理水へのガスの溶解量を増やすために, 容器内の気圧(ガス圧)を高くすることは,本件出願前周知の事項である(甲5)。 また,同様に,エジェクターが設けられた管路を圧力容器に接続する(エジェク ターが設けられた管路が接続された容器が圧力容器である)ことも,本件出願前周 知の事項である(甲4)。 (2) 相違点3の容易想到性 ア 本件審決は,相違点2について検討したように,引用発明において,管路に は「オゾンガスが供給されるエジェクター」が設けてあるようにする際,被処理水 へのオゾンガスの溶解量を増やすために,上記周知の事項を適用することで,微細 な液滴を形成することに加えて,エジェクターが設けられた管路が接続された容器 内の気圧(ガス圧)を高くすること,つまり,「圧力容器」にすることは,当業者 であれば容易に想到し得ると判断したものである。 イ しかし,前記のとおり,引用発明において,エジェクターとスプレーノズル (噴霧装置)とを併用することは,当業者にとって容易であるとはいえないから, 引用発明において,管路には「オゾンガスが供給されるエジェクター」が設けてあ るようにする際とした本件審決の判断は,前提において誤っている。 また,上記のとおり,引用発明には,本願発明のようにエジェクターと噴霧装置と を併用することの示唆や動機付けはないから,「エジェクターが設けられた管路を 圧力容器に接続する(エジェクターが設けられた管路が接続された容器が圧力容器 である)こと」が,本件出願前周知の事項であったとしても,引用発明に上記周知 の事項を適用できるとはいえない。 ウ よって,相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは,引用発明及 び本件出願前周知の事項に基づいて当業者であれば容易になし得るとした本件審決 の判断は,誤りである。 (3) 小活 以上のとおり,相違点3に係る本件審決の判断は,誤りである。 6 結論 以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 部 眞 規 子 裁判官 井 上 泰 人 裁判官 齋 藤 巌 |