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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 21年 (ワ) 45432号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2012/09/13
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年9月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成21年(ワ)第45432号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年6月5日

判 決

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を3

0日と定める。

事実及び理由

第1 請求

1 被告らは,別紙物件目録記載の各動物用医薬品を製造し,販売し,譲渡し,

貸し渡し,輸出し,又は譲渡等の申出をしてはならない。

2 被告らは,別紙物件目録記載の各動物用医薬品を廃棄せよ。

3 被告らは,原告に対し,連帯して2200万円及びこれに対する平成22年

1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,ペット寄生虫の治療・予防用組成物に関する発明について特許権を

有する原告が,被告らの製造,販売等する動物用医薬品が原告の特許の特許発

明の技術的範囲に属するとして,被告らに対し,特許法100条に基づき,上

記動物用医薬品の製造,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法70


9条719条に基づき,損害金2200万円及びこれに対する不法行為の後

の日である平成22年1月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に

よる遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によ

り容易に認められる事実)

(1) 当事者

ア 原告は,フランス共和国リヨンに本店を有する法人である。原告は,動

物用医薬品の製造及び販売等を業とし,殺虫活性物質フィプロニルを主成

分とする犬・猫用の各ノミ・マダニ駆除剤「フロントライン」を製造し,

販売している。

(甲10ないし14,15の1・2)

イ 被告フジタ製薬株式会社(以下「被告フジタ製薬」という。)は,医薬

品,動物用医薬品及び獣医用医薬品の製造,販売及び輸出入等を業とする

株式会社である。

ウ 被告共立製薬株式会社(以下「被告共立製薬」という。)は,動物用の

医薬品,医薬部外品及び医療用具の製造,販売及び輸出入等を業とする株

式会社である。

(2) 本件特許権

原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。

特許番号 第3765891号

発明の名称 ペット寄生虫の治療・予防用組成物

優 先 日 平成7年9月29日


平成8年9月11日

出 願 日 平成8年9月27日

登 録 日 平成18年2月3日

(3) 本件各発明

本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の

特許請求の範囲の請求項1,同7,同25及び同26の記載は,本判決添付

の特許公報(以下「本件公報」という。)の各該当項記載のとおりである(以

下,請求項1に係る発明を「本件発明1」と,請求項7に係る発明を「本件

発明2」と,請求項25に係る発明を「本件発明3」と,請求項26に係る

発明を「本件発明4」といい,これらを併せて「本件各発明」という。)

(4) 本件各訂正発明

ア 被告フジタ製薬は,平成22年4月6日,本件特許について,特許無効

審判(無効2010−800061号)を請求し,これに対し,原告は,

同年11月26日,前記審判事件において,請求項1及び26等について,

特許請求の範囲減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,訂正

の請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。

イ 本件訂正請求は,請求項1を別紙訂正目録記載1のとおり訂正し,請求

項25を削除の上,請求項26を請求項25に繰り上げて同目録記載2の

とおり訂正するというものである(以下,訂正請求による訂正後の請求項

1に係る発明を「本件訂正発明1」と,訂正後の請求項1を引用する請求

項7に係る発明を「本件訂正発明2」と,請求項25に係る発明を「本件

訂正発明4」といい,これらを併せて「本件各訂正発明」という。)。


(甲35,41)

(5) 構成要件の分説

ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説し

構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」のようにいう。)。

1A 「(a) 〔化1〕で表される殺虫活性物質:

【化1】




(ここで,

R1はハロゲン原子,CNまたはメチル基を表し,

R 2はS(O)n R3,4,5−ジシアノイミダゾール−2−イルまたは

ハロアルキル基を表し,ここで,

R3はアルキルまたはハロアルキル基を表し,

R4は水素またはハロゲン原子を表すか,NR 5R6,S(O)mR7,C

(O)R7またはC(O)OR7,アルキル,ハロアルキル,OR8または−

N=C(R9)(R10)を表し,ここで,

R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子,アルキル,ハロアルキル,

C(O)アルキル,S(O)rCF3,アシルまたはアルコキシカルボニル基

を表すか, 5とR6とが一緒になって2価のアルキレン基を作り,この



ア ルキレン基は2価のヘテロ原子を1つまたは2つを含むことができ,

R7はアルキルまたはハロアルキル基を表し,

R8はアルキル,ハロアルキル基または水素原子を表し,

R9はアルキル基または水素原子を表し,

R10は単数または複数のハロゲン原子で置換されていてもよいフェ

ニルまたはヘテロアリール基を表し,

Xは炭素,三価の窒素原子またはC−R12を表し,

R12は水素原子,CNまたはNO2を表し,

yはSF5基,CN,NO2,S(O)rCF3,ハロゲン原子,ハロアル

キルまたはハロアルコキシ基を表し,

m,nおよびrは互いに独立に0,1または2の整数を表し,

pは1,2,3,4または5の整数を表し,

ただし,R 1 がメチルの場合は,R 3がハロアルキルで,R 4 がNH 2

で,pが2で,6位にあるyがClで,4位にあるyがCF3で,Xが

Nであるか,R2が4,5−ジシアノイミダゾール−2−イルで,R4が

Clで,pが3で,6位にあるyがClで,4位にあるyがCF 3で,

XがC−Clである)」から成り,

1B 「(b) ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共

重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれ

らの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」から成り,

1C 「(c) アセトン,ベンジルアルコール,ブチルジグリコール,ジ

プロピレングリコールn−ブチルエーテル,エタノール,イソプロパ


ノ ール,メタノール,エチレングリコールモノエチルエーテル,エチ

レングリコールモノメチルエーテル,ジプロピレングリコールモノメ

チルエーテル,プロピレングリコール,ジエチレングリコールモノエ

チルエーテル,エチレングリコールおよびこれらの溶媒の少なくとも

二つの混合物から成る群の中から選択される有機溶媒」から成り,

1D 「(d) エタノール,イソプロパノールおよびメタノールから成る

群の中から選択される有機溶媒とは異なる有機共溶媒」から成り,

1E 式(I)の化合物は1〜20%(w/v)の割合で存在し,

1F(1) 結晶化阻害剤は1〜20%(w/v)の割合で存在し

(2) 且つ(c)で定義した溶媒中に式(I)の化合物を10%(W/V),結

晶化阻害剤を10%添加した溶液Aの0.3mlをガラススライドに

付け,20℃で24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観

察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,

1G 有機溶媒(c)は組成物全体を100%にする比率で加えられ,

1H 有機共溶媒(d)は(d)/(c)の重量比(w/w)が1/15〜1/2と

なる割合で存在し,

1I 有機共溶媒(d)は水および/または溶媒c)と混和性がある,

1J 動物の身体の一部へ局所塗布することによって動物の全身へ拡散

する,直ちに使用可能な溶液の形をした,寄生虫からペットを治療ま

たは予防するための組成物。

イ 本件訂正発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,訂

正請求による訂正に係る構成要件1Cを「構成要件1C’」という。)。


1A 「(a) 〔化1〕で表される殺虫活性物質:

【化1】




(ここで,

R1はハロゲン原子,CNまたはメチル基を表し,

R 2はS(O)n R3,4,5−ジシアノイミダゾール−2−イルまたは

ハロアルキル基を表し,ここで,

R3はアルキルまたはハロアルキル基を表し,

R4は水素またはハロゲン原子を表すか,NR 5R6,S(O)mR7,C

(O)R7またはC(O)OR7,アルキル,ハロアルキル,OR8または−

N=C(R9)(R10)を表し,ここで,

R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子,アルキル,ハロアルキル,

C(O)アルキル,S(O)rCF3,アシルまたはアルコキシカルボニル基

を表すか, 5とR6とが一緒になって2価のアルキレン基を作り,この


アルキレン基は2価のヘテロ原子を1つまたは2つを含むことができ,

R7はアルキルまたはハロアルキル基を表し,

R8はアルキル,ハロアルキル基または水素原子を表し,

R9はアルキル基または水素原子を表し,


R10は単数または複数のハロゲン原子で置換されていてもよいフェ

ニルまたはヘテロアリール基を表し,

Xは炭素,三価の窒素原子またはC−R12を表し,

R12は水素原子,CNまたはNO2を表し,

yはSF5基,CN,NO2,S(O)rCF3,ハロゲン原子,ハロアル

キルまたはハロアルコキシ基を表し,

m,nおよびrは互いに独立に0,1または2の整数を表し,

pは1,2,3,4または5の整数を表し,

ただし,R 1 がメチルの場合は,R 3がハロアルキルで,R 4 がNH 2

で,pが2で,6位にあるyがClで,4位にあるyがCF3で,Xが

Nであるか,R2が4,5−ジシアノイミダゾール−2−イルで,R4が

Clで,pが3で,6位にあるyがClで,4位にあるyがCF 3で,

XがC−Clである)」から成り,

1B 「(b) ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共

重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれ

らの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」から成り,

1C 「(c) ジプロピレングリコール n−ブチルエーテル,エチレン

グリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエー

テル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジプロピレングリ

コールモノメチルエーテルおよびこれらの溶媒の少なくとも二つの混

合物から成る群の中から選択される有機溶媒」から成り,

1D 「(d) エタノール,イソプロパノールおよびメタノールから成る


群の中から選択される有機溶媒とは異なる有機共溶媒」から成り,

1E 式(I)の化合物は1〜20%(w/v)の割合で存在し,

1F(1) 結晶化阻害剤は1〜20%(w/v)の割合で存在し

(2) 且つ(c)で定義した溶媒中に式(I)の化合物を10%(W/V),結

晶化阻害剤を10%添加した溶液Aの0.3mlをガラススライドに

付け,20℃で24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観

察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,

1G 有機溶媒(c)は組成物全体を100%にする比率で加えられ,

1H 有機共溶媒(d)は(d)/(c)の重量比(w/w)が1/15〜1/2と

なる割合で存在し,

1I 有機共溶媒(d)は水および/または溶媒c)と混和性がある,

1J 動物の身体の一部へ局所塗布することによって動物の全身へ拡散

する,直ちに使用可能な溶液の形をした,寄生虫からペットを治療ま

たは予防するための組成物。

ウ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説し

構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件2A」のようにいう。)。

2A 式(I)の化合物が1−[4−CF 3 2 ,6−Cl 2フェニル]3−シア

ノ 4−[CF3−SO]5−NH2ピラゾールである

2B 請求項1または2に記載の組成物。

エ 本件訂正発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。

2A 式(I)の化合物が1−[4−CF 3 2 ,6−Cl 2フェニル]3−シア

ノ 4−[C F3−SO]5−NH2ピラゾールである


2B 請求項1または2に記載の組成物。

オ 本件発明3を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説し

構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件3A」のようにいう。)。

3A 有機溶媒がジプロピレングリコール n−ブチルエーテル,エチレ

ングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエ

ーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジプロピレング

リコールモノメチルエーテルおよびこれらの溶媒の少なくとも二つの

混合物から成る群の中から選択されるグリコールエーテルである

3B 請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。

カ 本件発明4を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説し

構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件4A」のようにいう。)。

4A グリコールエーテルがジエチレングリコールモノエチルエーテルお

よびジプロピレングリコールモノメチルエーテルから成る群の中から

選択される

4B 請求項25に記載の組成物。

キ 本件訂正発明4を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,訂

正請求による訂正に係る構成要件4Bを「構成要件4B’」という。)。

4A グリコールエーテルがジエチレングリコールモノエチルエーテルお

よびジプロピレングリコールモノメチルエーテルから成る群の中から

選択される

4B 請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。

(6) 被告らによる動物用医薬品の製造・販売


被告フジタ製薬は,殺虫活性物質フィプロニルを主成分とする犬・猫用の

ノミ・マダニ駆除剤である別紙物件目録記載の各動物用医薬品(以下「各被

告製品」という。)を業として製造し,平成21年5月から,被告共立製薬

と共同し,各被告製品を業として販売している。

(甲3ないし8,9の1・2)。

(7) 各被告製品の構成

各被告製品の構成を本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件に対応させ

て分説すると,次の点は当事者間に争いがない。

1a フィプロニルから成り,

1b クロタミトンという結晶化阻害剤から成り,

1c ジエチレングリコールモノエチルエーテルという有機溶媒から成り,

1d エタノールという有機溶媒とは異なる有機共溶媒から成り,

1e フィプロニルは約10%(w/v)の割合で存在し,

1f(1) 結晶化阻害剤は約3%(w/v)の割合で存在し

(2) 且つジエチレングリコールモノエチルエーテル中にフィプロニル

を10%(W/V),結晶化阻害剤を10%添加した溶液の0.3ml をガ

ラススライドに付け,20℃で24時間放置した後にガラススライド

上を肉眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,

1g ジエチレングリコールモノエチルエーテルは組成物全体を100%に

する比率で加えられ,

1h エタノールはエタノール/ジエチレングリコールモノエチルエーテル

の重量比が1/15〜1/2となる割合で存在し,


1i エタノールは水と混和性がある,

1j 組成物。

(8) 各被告製品の本件発明1及び本件訂正発明1に対する充足性

各被告製品は,本件発明1の構成要件1A,CないしIを充足するが,構

成要件1Bを充足しない。また,各被告製品は,本件訂正発明1の構成要件

1A,C’ないしIを充足するが,構成要件1Bを充足しない。

2 争点及び当事者の主張

本件の争点は,@各被告製品の構成,A各被告製品が本件各発明及び本件各

訂正発明の技術的範囲に属するか,B本件各発明に係る請求項1,7,25及

び26並びに本件各訂正発明に係る請求項1,7及び25が特許無効審判によ

り無効にされるべきものと認められるか,C被告らの責任及び損害である。

(1) 争点@(各被告製品の構成)について

(原告の主張)

ア 本件発明1及び本件訂正発明1の各構成要件1Jに対比した構成(1j)

各被告製品は,犬若しくは猫の身体の一部へ局所塗布することによって

犬若しくは猫の全身へ拡散する,直ちに使用可能な溶液の形をした,ノミ

やマダニから犬若しくは猫を治療または予防するための組成物である。

イ 本件発明2及び本件訂正発明2の各構成要件2A Bに対比した構成
・ (2

a・b)

各被告製品は,フィプロニルが1−[4−CF3 2,6−Cl2フェニル]

3−シアノ 4−[CF3−SO]5−NH2ピラゾールである(2a) また,


各被告製品は,1aないしjの構成を有する組成物である(2b)。


ウ 本件発明3の構成要件3A・Bに対比した構成(3a・b)

各被告製品は,有機溶媒がジエチレングリコールモノエチルエーテルと

いうグリコールエーテルである(3a)。また,各被告製品は,1aない

しjの構成を有する組成物である(3b)。

エ 本件発明4の構成要件4A・B及び本件訂正発明4の構成要件4A・B

に対比した構成(4a・b)

各被告製品は,グリコールエーテルがジエチレングリコールモノエチル

エーテルである(4a)。また,各被告製品は,3a・b及び1aないし

jの構成を有する組成物である(4b)。

(被告らの主張)

ア 本件発明1及び本件訂正発明1の各構成要件1Jに対比した構成(1j)

について

原告の主張は否認する。各被告製品は,犬又は猫の全身へ拡散するので

はなく,その体表に広く拡散するにすぎない。

イ 本件発明2及び本件訂正発明2の各構成要件2A Bに対比した構成
・ (2

a・b)について

原告の主張は否認する。

ウ 本件発明3の構成要件3A・Bに対比した構成(3a・b)について

原告の主張は否認する。

エ 本件発明4の構成要件4A・B及び本件訂正発明4の構成要件4A・B

に対比した構成(4a・b)について

原告の主張は否認する。


(2) 争点A(各被告製品が本件各発明及び本件各訂正発明の技術的範囲に属す

るか)について

(原告の主張)

ア 本件発明1及び本件訂正発明1について

(ア) 各被告製品は,犬若しくは猫の身体の一部へ局所塗布することによ

って犬若しくは猫の全身へ拡散する,直ちに使用可能な溶液の形をし

た,ノミやマダニから犬若しくは猫を治療又は予防するための組成物で

あるから,本件発明1及び本件訂正発明1の各構成要件1Jの「動物の

身体の一部へ局所塗布することによって動物の全身へ拡散する,直ちに

使用可能な溶液の形をした,寄生虫からペットを治療又は予防するため

の組成物」に当たる。

(イ) 各被告製品中の結晶化阻害剤であるクロタミトンは,構成要件1B

の「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体,

ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合

物の中から選択される結晶化阻害剤」と異なる。

a しかしながら,本件発明1及び本件訂正発明1は,殺虫活性物質フ

ィプロニルや結晶化阻害剤等の各成分が公知でありながら,それらを

一定の質量割合で組み合わせることにより,効果が低く,使用が容易

とはいえず,大きさや毛皮の種類とは無関係に全ての種類の家畜に容

易に使用することもできず,動物の身体全体に散布する必要がある上,

乾燥すると結晶化現象が起き,毛皮の外観に影響を与えたり毛皮がべ

とついたりするという従来の殺虫剤が有していた課題を解決したもの


である。このため,本件発明1及び本件訂正発明1の実質的な価値は,

結晶化阻害剤等の各成分に特定の化合物を選択したことではなく,殺

虫活性物質フィプロニルの拡散効果と結晶化阻害剤等の各成分を一定

の質量割合で組み合わせるという配合条件にある。本件発明1及び本

件訂正発明1の実質的な価値が結晶化阻害剤等の各成分に特定の化合

物を選択したことにあるならば,その化合物は構成要件1F(2)に定め

る結晶化阻害効果を有し,構成要件1F(2)は不要だったはずである。

なお,原告は,本件特許の出願手続において,構成要件1Bの結晶

化阻害剤を「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン

共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこ

れらの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」に補正したが,この

補正は,本件明細書の【0017】・【0018】に挙げた結晶化阻

害剤として使用可能な多数の化合物のうち,ポリオキシエチレン−脂

肪酸エステル,ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル,アル

キルスルフェート等の乳化剤,ポリビニルアルコール等の重合体が文

献に記載されているという理由で拒絶理由通知を受けたため,これら

を除外する趣旨で行ったにすぎない。このため,補正して本件特許を

取得したからといって,本件発明1及び本件訂正発明1の実質的な価

値が結晶化阻害剤に特定の化合物を採用したことにあるわけではな

い。

したがって,構成要件1Bのうち「ポリビニルピロリドン,酢酸ビ

ニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソル


ビタンエステルおよびこれらの混合物」という構成は,本件発明1及

び本件訂正発明1の本質的部分ではない。

構成要件1Bのポリビニルピロリドンという結晶化阻害剤は,下図

(a)のとおり,脂溶性N−エチル ピロリドン ビルディングブロック

で構成され,アミド部分を含むため,殺虫成分であるフィプロニル分

子との間で分子間水素結合をすることができる。一方,各被告製品中

のクロタミトンという結晶化阻害剤も,下図(b)のとおり,N−エチ

ル ピロリドン ビルディングブロックのアミド部分と類似するN−エ

チル アミド部分を含むため,フィプロニル分子との間で分子間水素結

合をすることができる。このため,ポリビニルピロリドンもクロタミ

トンも,フィプロニルの有機溶媒への溶解を促進させるとともに,溶

液の結晶化を阻害し,毛皮をべとつかせない。

図(b) 図(a)




原告は,本件発明1及び本件訂正発明1の作用効果と各被告製品の

作用効果が同一かどうかを検証するため,構成要件1F(2)に定める結

晶化阻害効果が構成要件1Bに定める化合物の場合とクロタミトンの


場合のいずれでも得られるかどうかを,比較実験したところ,構成要

件1Bに定める化合物の場合とクロタミトンの場合のいずれにおいて

も,構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が得られた。なお,被告

らも比較実験を行っているが,約80%超という高い相対湿度の下で,

構成要件1Bに定める化合物の場合にだけ,風を溶液に当てるなどし

た形跡があり,不適切な実験である。

したがって,構成要件1Bの「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル

/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタ

ンエステルおよびこれらの混合物」という構成をクロタミトンと置き

換えても本件発明1及び本件訂正発明1の目的を達することができ,

同一の作用効果を奏する。

c クロタミトンを外用液状製剤の結晶化阻害剤として使用し得るこ

とは,平成8年2月13日に公開された公開特許公報(特開平8−4

0898号)(以下「甲24公報」という。)の【0014】の記載

により,公知となっていた。

したがって,構成要件1Bの「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル

/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタ

ンエステルおよびこれらの混合物」という構成をクロタミトンに置き

換えることは,当業者が平成21年5月以降における各被告製品の製

造等の時点において容易に想到することができた。

d 前記aのとおり,本件発明1及び本件訂正発明1の技術的意義は,

殺虫活性物質フィプロニルの拡散効果や結晶化阻害剤等の各成分を一


定の質量割合で組み合わせるという配合条件にあり,新規性進歩性

もその点にある。このため,各被告製品の成分であるフィプロニルと

クロタミトン,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,エタノー

ルを本件発明1及び本件訂正発明1にいう質量割合で組み合わせるこ

とを開示した公知技術も本件特許の出願時には存在しなかった。なお,

原告は,平成16年9月7日,拒絶理由通知を受けて意見書を提出し

たが,この意見書において,結晶化阻害剤として使用可能な化合物を

限定したことによる新規性進歩性を主張したことはない。

したがって,各被告製品は,本件特許の出願時における公知技術

同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものでな

い。

e 前記aのとおり,原告は,構成要件1Bの結晶化阻害剤を補正した

が,この補正は,結晶化阻害剤として使用可能な化合物の一部が文献

に記載されているという理由で拒絶理由通知を受け,平成16年当時

は「除くクレーム」が例外的にしか認められなかったため,これを除

外する意図で行ったにすぎない。また,構成要件1Bにおける化合物

が少ないのは,上記文献に記載された化合物を除く使用可能な全ての

化合物を記載することが困難であり,特許出願のプラクティスとして,

特に好ましい代表例だけを挙げたからである。原告は,実施例に結晶

化阻害剤としてポリビニルピロリドンとポリオキシエチレン化された

ソルビタンエステルに相当するポリソルベート80を使用する場合だ

けを挙げたが,発明の内容が実施例に記載した内容に限定されるわけ


でもない。このため,原告の側において各被告製品が本件発明1及び

本件訂正発明1の技術的範囲に属しないことを承認したり外形的にそ

のように解されるような行動をとったりしたものではない。

したがって,各被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の

範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。

f そうであるから,各被告製品中のクロタミトンは,構成要件1Bの

構成において均等である。

イ 本件発明2ないし4並びに本件訂正発明2及び4について

各被告製品は,フィプロニルが1−[4−CF3 2,6−Cl2フェニル]

3−シアノ 4−[CF3−SO]5−NH2ピラゾールであるから,本件発明

2の構成要件2Aの「式(I)の化合物が1−[4−CF3 2,6−Cl2フェ

ニル]3−シアノ 4−[CF 3−SO]5−NH 2ピラゾールである」に当た

る。各被告製品は,本件発明1の構成要件1A,CないしJを充足すると

ともに,構成要件1Bにおいて均等であるから,本件発明2の構成要件

Bの「請求項1…に記載の組成物」という構成においても均等であり,ま

た,各被告製品は,本件訂正発明1の構成要件1A,C ないしJを充足す

るとともに,構成要件1Bにおいて均等であるから,本件訂正発明2の構

成要件2Bの「請求項1…に記載の組成物」という構成においても均等

ある。

また,各被告製品は,有機溶媒がジエチレングリコールモノエチルエー

テルというグリコールエーテルであるから,本件発明3の構成要件3Aに

当たる。各被告製品は,本件発明1の構成要件1A,CないしJ及び本件


訂正発明1の構成要件1A,C ないしJを充足するとともに,構成要件

Bにおいて均等であるから,本件発明3の構成要件3Bの「請求項1…に

記載の組成物」という構成においても均等である。

さらに,各被告製品は,グリコールエーテルがジエチレングリコールモ

ノエチルエーテルであるから,本件発明4の構成要件4Aに当たる。前記

のとおり,各被告製品は,本件発明3の構成要件3Aを充足するとともに,

構成要件3Bにおいて均等であるから,本件発明4の構成要件4Bの「請

求項25に記載の組成物」という構成においても均等であり,また,各被

告製品は,本件訂正発明1の構成要件1A,C ないしJを充足するととも

に,構成要件1Bにおいて均等であるから,本件訂正発明4の構成要件

B の「請求項1…に記載の組成物」という構成においても均等である。

ウ 以上のとおり,各被告製品は,本件各発明及び本件各訂正発明と均等

あり,本件各発明及び本件各訂正発明の技術的範囲に属する。

(被告らの主張)

ア 本件発明1及び本件訂正発明1について

(ア) 本件発明1及び本件訂正発明1の各構成要件1Jについては,本件

明細書に組成物が全身へ拡散する機構が記載も示唆もされていないた

め,充足性を判断することができない。

(イ) クロタミトンは,構成要件1Bの結晶化阻害剤と異なる。

a 本件発明1及び本件訂正発明1は,動物の身体全体に散布する必要

がない上,乾燥しても結晶化現象が起きず,毛皮の外観に影響を与え

たり毛皮がべとついたりしないような組成物を提供することを目的と


するから,成分が少量ゆえに高濃度であるにもかかわらず結晶化しな

いことは必須であり,結晶化阻害剤は本件発明1及び本件訂正発明1

の本質的部分である。しかも,原告は,結晶化阻害剤として使用可能

な化合物が文献に記載されているという理由で拒絶理由通知を受けた

のに対し,組成物が毛皮を通過できるような結晶化阻害剤としての開

示はないと主張し,構成要件1Bの結晶化阻害剤を「ポリビニルピロ

リドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレ

ン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合物の中から選択さ

れる結晶化阻害剤」に限定する旨補正して本件特許を取得したから,

結晶化阻害剤として選定した化合物も本件発明1及び本件訂正発明1

の本質的部分である。

これに対し,殺虫活性物質フィプロニルの拡散効果は,文献に記載

されており,本件発明1及び本件訂正発明1の本質的部分ではない。

したがって,構成要件1Bのうち「ポリビニルピロリドン,酢酸ビ

ニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソル

ビタンエステルおよびこれらの混合物」という構成は,本件発明1及

び本件訂正発明1の本質的部分である。

構成要件1Bのポリビニルピロリドンと各被告製品中のクロタミト

ンは,化学構造も吸湿性等の物性も全く異なる。ポリオキシエチレン

化されたソルビタンエステルは,アミド部分を含まない。1−メチル

−2−ピロリドン等も,クロタミトンと同じN−アミド部分を含むが,

結晶化阻害効果が得られない。


被告らは,本件発明1及び本件訂正発明1の作用効果と各被告製品

の作用効果が同一かどうかを検証するため,構成要件1F(2)に定める

結晶化阻害効果が構成要件1Bに定める化合物の場合とクロタミトン

の場合のいずれでも得られるかどうかを,次の方法で比較実験したと

ころ,構成要件1Bに定める化合物の場合には,いずれの方法でも,

構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が安定して得られなかった

のに対し,クロタミトンの場合には,いずれの方法でも,構成要件

F(2)に定める結晶化阻害効果が得られた。なお,原告の比較実験は,

ガラススライドでなく,時計皿を使用しているから,不適切な実験で

ある。

@ 滴下試験法 一定量の溶液を滴下した後に析出する結晶の量を

測定する方法。本件明細書に記載されている方法で

ある。

A 塗布試験法 一定量の溶液を滴下し,ほぼ一定の面積に塗り広

げた後に析出する結晶の量を測定する@の代替方

法。

B 加水析出法 一定量の溶液にフィプロニルの溶解度が低い水を

加えた後に析出する結晶の量を測定する@の代替方

法。

したがって,構成要件1Bの「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル

/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタ

ンエステルおよびこれらの混合物」という構成をクロタミトンと置き


換えれば本件発明1及び本件訂正発明1の目的を達することができる

が,同一の作用効果を奏するとはいえない。

c 各被告製品は,被告ら独自の膨大な調査や実験,臨床試験によって

開発された。

甲24公報にはクロタミトンの記載があるが,これは,水虫薬の主

成分たる硝酸オキシコナゾールの溶剤として用いられる低級アルコー

ルの量を減らして皮膚への刺激を軽減させるとともに,酸性の硝酸オ

キシコナゾールを弱アルカリ域においても安定化させるために配合さ

れたものである。このため,甲24公報は,主成分が異なる上,クロ

タミトンを使用する目的も異なり,クロタミトンをフィプロニル等の

殺虫活性物質の結晶化阻害剤として使用し得ることを開示していな

い。

本件明細書にも,結晶化阻害剤の選択方法については記載されてお

らず,ポリビニルピロリドンとポリソルベート80をフィプロニル等

の殺虫活性物質の結晶化阻害剤として使用する実施例しか挙げられて

いない。

したがって,構成要件1Bの「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル

/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタ

ンエステルおよびこれらの混合物」という構成をクロタミトンに置き

換えることは,当業者が平成21年5月以降における各被告製品の製

造等の時点において容易に想到することができなかった。

d 原告は,拒絶理由通知を受けて提出した意見書において,各成分を


一定の質量割合で組み合わせたことではなく,結晶化阻害剤として使

用可能な化合物を限定したことによる新規性進歩性を主張していた

にすぎない。そして,クロタミトンを外用液状製剤に使用し得ること

は,昭和63年8月30日に公開された各公開特許公報(特開昭63

−208517・208518号)や平成5年10月19日に公開さ

れた公開特許公報(特開平5−271077号)により,公知となっ

ていた。

したがって,各被告製品は,当業者が本件特許の第1優先権主張日

である平成7年9月29日時点で公知技術から容易に推考できたもの

である。

e 原告は,本件特許の出願当初,結晶化阻害剤につき,請求項1では

構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果で限定するにとどめるとと

もに,請求項10では【0017】・【0018】に記載した多数の

化合物を挙げていたが,前記dのとおり,既に公知であったクロタミ

トンを挙げていなかった。また,原告は,上記化合物の一部が文献に

記載されているという理由で拒絶理由通知を受けたため,結晶化阻害

剤を構成要件1Bの「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピ

ロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステル

およびこれらの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」に限定する

旨補正して本件特許を取得した。さらに,原告は,実施例でも結晶化

阻害剤として2種類の化合物を使用する場合しか挙げていないから,

構成要件1Bに定める化合物以外の結晶化阻害剤でも同様の作用効果


を有することを本件明細書に記載したとはいえず,構成要件1Bに定

める化合物が特に好ましい代表例だけを挙げたものともいえない。こ

のため,原告の側において少なくとも各被告製品が本件発明1及び本

件訂正発明1の技術的範囲に属しないことを外形的に承認したかのよ

うに解されるような行動をとったものといえる。

したがって,各被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の

範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある。

f そうであるから,各被告製品中のクロタミトンは,構成要件1Bの

構成において均等でない。

イ 本件発明2ないし4並びに本件訂正発明2及び4について

原告の主張は否認するか,これを争う。各被告製品は,本件発明1及び

本件訂正発明1の各構成要件1Bにおいて均等でないから,本件発明2の

構成要件2B,本件発明3の構成要件3B,本件発明4の構成要件4B,

本件訂正発明2の構成要件2B及び本件訂正発明4の構成要件4B’の

構成において均等でない。

ウ 以上のとおり,各被告製品は,本件各発明及び本件各訂正発明と均等

なく,本件各発明及び本件各訂正発明の技術的範囲に属しない。

(3) 争点B(本件各発明に係る請求項1,7,25及び26並びに本件訂正発

明に係る請求項1,7及び25が特許無効審判により無効にされるべきもの

と認められるか)について

(被告らの主張)

本件各発明及び本件各訂正発明は,動物の身体全体に散布する必要がない


上,乾燥しても結晶化現象が起きず,毛皮の外観に影響を与えたり毛皮がべ

とついたりしないような組成物を提供することを目的とするから,成分が結

晶化しないことは必須である。本件明細書には,本件発明1の構成要件1A

ないしD又は本件訂正発明1の構成要件1A,B,C’及びDに定める成分

構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が得られることを裏付ける実施

例が記載されてないため,被告らは,前記(2)(被告らの主張)ア(イ)bのと

おり,その検証を含む実験をしたところ,フィプロニルが溶解せずに組成物

を構成できなかったり構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が安定して

得られなかったりしたものである。構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果

を安定して得るには,湿度を低くするとともに,0.3mlの溶液が流れ落ち

ないよう,密閉容器を用いるなどして空気の流れを受けにくくし,通常より

大きなスライドガラスを使用する必要があった。しかし,このような実験条

件は,本件明細書中の発明の詳細な説明に記載されていない。このため,本

件各発明及び本件各訂正発明は,本件明細書に記載された実験をしても,発

明の目的を実現することができず,実現するには当業者であっても過度の試

行錯誤を要するものといえる。

したがって,本件各発明に係る請求項1,7,25及び26並びに本件各

訂正発明に係る請求項1,7及び25は,発明の未完成,いわゆるサポート

要件違反又は実施可能要件違反(平成14年法律第24号による改正前の特

許法36条4項)により特許無効審判で無効とされるべきものと認められる。

(原告の主張)

原告の実験によれば,本件発明1及び本件訂正発明1の各構成要件1Bに


定める化合物で構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が得られる。また,

当業者であれば,技術常識を適用し,インビトロの試験として,約60ない

し75%といった平均的な相対湿度の下で,空気を溶液には直接当てず,0.

3mlの溶液を保持するのに十分な大きさのスライドガラスを使用して実験す

ることができるから,そのような実験条件が本件明細書中の発明の詳細な説

明に記載されていなくても,過度の試行錯誤を要するものといえない。

仮に特定の化合物の組合せで構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が

得られなければ,当該組合せは,本件各発明や本件各訂正発明の技術的範囲

に属しないだけである。なお,原告は,前記の前提事実(4)のとおり,本件訂

正請求により,構成要件1F(2)に定める結晶化阻害効果が得られないと被告

らが主張する有機溶媒の一部を削除した。

したがって,本件各発明に係る請求項1,7,25及び26並びに本件各

訂正発明に係る請求項1,7及び25は,発明の未完成,いわゆるサポート

要件違反又は実施可能要件違反(平成14年法律第24号による改正前の特

許法36条4項)により特許無効審判で無効とされるべきものとは認められ

ない。

(4) 争点C(被告らの責任及び損害)について

(原告の主張)

被告らは,共同して,平成21年5月以降,各被告製品を業として製造販

売するなどして,本件特許権を侵害してきたから,原告は,被告らに対し,

各被告製品に係る製造販売等の差止請求権及び廃棄請求権,次の損害につい

ての損害賠償請求権を有する。


ア 特許法102条3項による損害額 2000万円

平成21年5月から同年11月までの間における各被告製品の合計売上

高は,少なくとも2億円を下らず,本件各発明及び本件各訂正発明の実施

料率は,少なくとも10%を下らないから,特許法102条3項による損

害額は,2億円の10%に当たる2000万円を下らない。

イ 弁護士費用 200万円

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

第3 当裁判所の判断

1 原告は,各被告製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するとして,各被告

製品の製造,譲渡等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めるが,訂正を認め

る旨の特許無効審判の審決が確定したことを認めるに足りる証拠はないから,

本件訂正請求に係る訂正の効果は,いまだ発生していない(平成23年法律第

63号による改正前の特許法134条の2第5項128条)。

したがって,原告の前記請求は,理由がない。

2 争点@(各被告製品の構成)について

(1) 本件発明1の構成要件1Jに対比した構成(1j)について

証拠(甲8,9の1・2,乙27)によれば,各被告製品は,犬若しくは

猫の肩甲骨間の皮膚へ局所滴下することによって犬若しくは猫の皮脂と共に

全身の皮膚へ広がる,直ちに使用可能な溶液の形をした,ノミやマダニから

犬若しくは猫を治療するための組成物であることが認められる。

(2) 本件発明2の構成要件2A・Bに対比した構成(2a・b)について


各被告製品は,フィプロニルから成るものであるところ,本件明細書の段

落【0014】の記載によれば,フィプロニルの化学式は,1−[2,6−C

l 2 4 −CF 3 フ ェニル]3−CN 4−[SO−CF 3] 5−NH 2 ピ ラゾー

ルであることが認められるから,各被告製品は,2aの構成を有する。

また,各被告製品は,前記の前提事実(7)のとおり,1aないしiの構成を

有するとともに,前記(1)のとおり,犬若しくは猫の肩甲骨間の皮膚へ局所滴

下することによって犬若しくは猫の皮脂と共に全身の皮膚へ広がる,直ちに

使用可能な溶液の形をした,ノミやマダニから犬若しくは猫を治療するため

の組成物である。

(3) 本件発明3の構成要件3A・Bに対比した構成(3a・b)について

各被告製品は,ジエチレングリコールモノエチルエーテルという有機溶媒

から成るものであるところ,本件明細書の段落【0016】の記載によれば,

各被告製品中のジエチレングリコールモノエチルエーテルは,グリコールエ

ーテルに属することが認められるから,各被告製品は,3aの構成を有する。

また,前記(2)のとおり,各被告製品は,1aないしiの構成を有するとと

もに,犬若しくは猫の肩甲骨間の皮膚へ局所滴下することによって犬若しく

は猫の皮脂と共に全身の皮膚へ広がる,直ちに使用可能な溶液の形をした,

ノミやマダニから犬若しくは猫を治療するための組成物である。

(4) 本件発明4の構成要件4A・Bに対比した構成(4a・b)について

前記(3)のとおり,各被告製品中のジエチレングリコールモノエチルエーテ

ルは,グリコールエーテルに属するから,各被告製品は,4aの構成を有す

る。


また,各被告製品は,前記の前提事実(7)のとおり,1aないしiの構成を

有し,前記(3)のとおり,3aの構成を有するとともに,犬若しくは猫の肩甲

骨間の皮膚へ局所滴下することによって犬若しくは猫の皮脂と共に全身の皮

膚へ広がる,直ちに使用可能な溶液の形をした,ノミやマダニから犬若しく

は猫を治療するための組成物である。

3 争点A(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか)について

(1) 本件発明1について

ア 各被告製品は,前記の前提事実(8)のとおり,本件発明1の構成要件1A,

CないしIを充足し,前記2(1)の認定事実によれば,構成要件1Jを充

足することが認められる。

したがって,本件発明1と各被告製品とは,構成要件1Bにおいて,本

件発明1が「(b) ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ ビニルピロリ

ドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこ

れらの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」から成るのに対し,各被

告製品ではクロタミトンという結晶化阻害剤から成る点で異なる。

イ 特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品と異なる

部分が存する場合であっても,@当該部分が特許発明の本質的部分ではな

く,A当該部分を上記製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的

を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,Bそのよう

置き換えることに,当業者が上記製品の製造等の時点において容易に想

到することができたものであり,C上記製品が,特許発明の特許出願時に

おける公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考で


きたものではなく,かつ,D上記製品が特許発明の特許出願手続において

特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情

もないときは,上記製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なも

のとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である

(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判

決・民集52巻1号113頁参照)。

ウ そこで,各被告製品が本件発明1の構成と均等なものとして,その技術

的範囲に属するかどうかについて以下検討する。

(ア) @非本質的要件について

a 本件公報(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の項に

は,次の記載があることが認められる。

(a) 「【発明の属する技術分野】本発明は寄生虫に寄生された動物

の治療と寄生される可能性のある動物の予報のための組成物に関す

るものであり,特に,ペット,特にネコとイヌに寄生する寄生虫を

抑制および駆除する組成物に関するものである。」(段落【000

1】)

(b) 「【従来の技術】ペットには下記a)〜c)の一種または複数の

寄生虫が寄生することが多い:

a)ネコノミ,イヌノミ(Ctenocephalides felis,Cteno-cephalides

種等)

b)ダニ(Rhipicephalus種,Ixodes種,Dermacentor種,Amblyoma種

等)


c)皮膚の爛れをおこす寄生虫(Demodex種,Sarcoptes種,Otodectes

種等)…

皮膚の爛れを起こす寄生虫は特に駆除が困難である。その理由は

そのような寄生虫に作用する活性物質の数が非常に少なく,さらに

頻繁に治療する必要があるためである。

多くの殺虫剤が知られているが,その活性は平均的であり,価格

もまちまちである。しかし,これらの殺虫剤,例えばカーバメート,

有機リン化合物,ピレスロイドなどを使用していると抵抗を獲得す

ることが多い。WO−A−87/03781およびEP−A−0,

295,117号には,抗寄生虫活性を含む広範囲の活性を有する

多数のN−フェニルピラゾール類が記載されている。」(段落【0

002】・【0003】)

(c) 「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は効果が高く

且つ使用が容易な動物の治療および予防のための新規な抗寄生虫組

成物を提供することにある。本発明の他の目的はおおきさや毛皮の

種類とは無関係に,全ての種類の家畜に容易に使用できる組成物を

提供することにある。本発明のさらに他の目的は動物の身体全体に

散布する必要のない効果的な組成物を提供することにある。本発明

のさらに他の目的は動物の体の一部に投与するだけで体全体に拡散

し,乾燥し,しかも,結晶化現象が起きないような組成物を提供す

ることにある。本発明のさらに他の目的は乾燥後に毛皮の外観に影

響を与えない組成物,特に結晶が残らず,毛皮がべとつかないよう


な組成物を提供することにある。上記目的は本発明によって達成さ

れる。」(段落【0004】)

(d) 「本発明で最も好ましい〔化3〕の化合物Aは,1−[2 ,6−

Cl2 4 −CF3 フェニル]3−CN 4−[SO−CF3] 5−NH2

ピラゾール,慣用名フィプロニルである。〔化3〕の化合物はWO

−A−87/3781,93/6089および94/21606や

EP−A−295,117に記載の方法および化学合成の専門家が

適宜行いえる他任意の方法で合成することができる。当業者はケミ

カルアブストラクツ(Chemical Abstracts)とその中で引用されてい

る文献の内容を全て自由に使用できれば,本発明化合物を化学的に

製造することができるはずである。」(段落【0014】)

(e) 「本発明組成物はペット,特にネコおよびイヌを対象にするも

ので,一般に皮膚に塗布することによって(スポットオン方式また

はポアオン方式で)投与されるが,この投与は一般に表面積10?

以下,特に5〜 10?の領域に対して行う局所投与で,好ましくは

動物の両肩の間の2 箇所に塗布する。本発明組成物は塗布後に動物

体全体に拡散し,その後は結晶化せずに乾燥するので毛皮の外観が

変化することはなく,特に白い付着物は観察されず,汚れた様子は

全くなく,手触りを損なうこともない。」(段落【0015】)

(f) 「本発明で使用可能な結晶化阻害剤b)としては特に下記▲1▼

〜▲5▼を挙げることができる:

▲1▼ ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,酢酸ビ


ニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリエチレングリコール,ベン

ジルアルコール,マンニトール,グリセロール,ソルビトール,ポ

リオキシエチレン化されたソルビタンエステル,レシチン,ソジウ

ムカルボキシメチルセルロース,アクリル誘導体,例えばメタクリ

レート等。

▲2▼ アルカリステアレート等のアニオン界面活性剤,特にス

テアリン酸ナトリウム,ステアリン酸カリウムまたはステアリン酸

アンモニム,ステアリン酸カルシウム,トリエタノールアミンステ

アレート,ソジウムアビエテート,アルキルサルフェート,特にソ

ジウムラウリルサルフェートおよびソジウムセチルサルフェート,

ソジウムドデシルベンゼンスルホネート,ソジウムジオクチルスル

ホスクシネート,脂肪酸,特にやし油に由来する脂肪酸。

カチオン界面活性剤,例えばN+ R’R”R'"R""Y-で
▲3▼

表される水溶性の第4級アンモニウム塩(ここで,Rは水酸化され

ていてもよい炭化水素基であり,Y-は強酸のアニオン,例えばハロ

ゲン化物のアニオン,硫酸イオンおよびスルホン酸イオンである。

使用可能なカチオン界面活性剤としてはセチルトリメチルアンモニ

ウムブロミドがある。

▲4▼ 非イオン性界面活性剤,例えばポリオキシエチレン化さ

れていてもよいソルビタンエステル等,特にポリソルベート80,

ポリオキシエチレン化されたアルキルエーテル,ポリエチレングリ

コールステアレート,ヒマシ油のポリオキシエチレン化誘導体,ポ


リグリセロールエステル,ポリオキシエチレン化された脂肪アルコ

ール,ポリオキシエチレン化された脂肪酸,エチレンオキシド/プ

ロピレンオキシド共重合体。

▲5▼ 両性界面活性剤,例えばラウリル置換されたベタイン化

合物。

好ましくは上記結晶化阻害剤の少なくとも2種類の混合物を用い

る。」(段落【0017】・【0018】)

(g) 「特に好ましい方法は結晶化阻害剤系すなわちポリマータイプ

の膜形成剤と界面活性剤との組み合わせを用いるものである。界面

活性剤は結晶化阻害剤b)として上記で挙げた化合物から選択する。

ポリマータイプの膜形成剤としては下記▲1▼〜▲3▼を挙げるこ

とができる:

▲1▼ 各種グレードのポリビニルピロリドン

▲2▼ ポリビニルアルコール

▲3▼ 酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体。

界面活性剤としては特に非イオン性界面活性剤が挙げられる。好

ましくはポリオキシエチレン化されたソルビタンエステル,特に各

種グレートのポリソルベート,例えばポリソルベート80を挙げる

ことができる。被膜形成剤および界面活性剤は上記の結晶化阻害剤

全量の範囲内で同量またはほぼ等量だけ使用することができる。こ

の系は毛の表面に結晶を残さず,毛皮の美的外観を保つという目的

が達成できるという特筆すべき利点を有している。すなわち,活性


物質の濃度が高いにも係わらず,毛皮がくっつき合ったりベト付い

た外観にならない。」(段落【0019】・【0020】)

b また,証拠(甲1,25,乙4,11,19)によれば,次の事実

が認められる。

(a) 本件発明1に対応する本件特許の特許請求の範囲の請求項1は,

平成8年9月の出願当初,結晶化阻害剤につき,構成要件1F(2)

に相当する「b)結晶化阻害剤:この結晶化阻害剤は,下記c)で定

義される溶媒中に式(I)の化合物を10%(W/V),この結晶化阻害剤

を10%添加した溶液Aの0.3mlをガラススライドに付け,20℃

で24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に,

観察可能な結晶の数が10個以下,好ましくはゼロであり,」とだけ

記載され,具体的な化合物は,従属項である特許請求の範囲請求項

10ないし15に,段落【0017】ないし【0020】とほぼ対

応する形で記載されていた。

(b) 原告は,平成16年7月12日付けで,特許庁審査官から,本

件特許の出願に係る発明のほとんどが,結晶化阻害剤を含めて,そ

の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明と

同一若しくはこれに基づいて容易に発明をすることができ,又は,

上記出願の日前に出願されて上記出願後に特許公報の発行がされた

発明と同一であるなどとして,拒絶理由通知を受けた。

これに対し,原告は,平成16年9月7日,特許請求の範囲請求

項1の結晶化阻害剤を構成要件1Bのとおりの化合物に特定し,そ


れ以外の化合物を記載した特許請求の範囲請求項10ないし13を

削除するなどといった補正をするとともに,特許庁審査官に対して

下記の記載を含む意見書を提出し,平成18年1月13日,特許査

定を得た。



「拒絶理由に鑑み,特許請求の範囲を対応米国特許出願の特許ク

レーム(米国特許第6,395,765号)とほぼ同じものに減縮

致しましたので,この補正に基づいて再度御審査をお願い致します

…。」(1頁35行〜38行)

「本発明の重要な利点は局所塗布(投与)用調剤における互いに

矛盾する下記の課題,すなわち

(1) 単に動物の毛皮に留めるのではなく,化合物を動物の毛皮を通

って動物の皮膚に届けることができる(動物に塗布できる)必要

がある。従って「溶剤系」であることが必要で,しかも,

(2) 局所投与した化合物が結晶化したり,動物の毛皮上に残留して

はならない。

という課題を解決した点にあります。上記の課題は互いに矛盾する

ものです。すなわち,濃縮組成物を使用すれば結晶化の問題があり

ます(例えば,毛皮で止まり,毛皮を通して皮膚に塗布できず,動

物から脱落する)。この問題は乾燥促進剤として「共存溶媒」を用

いた場合にはさらにひどくなります。従って,濃縮組成物と乾燥促

進剤とを一緒に用いることはできません。


本 発明がさらに解決すべき課題は,組成物全体(溶媒,共存溶媒,

結晶化阻害剤および活性成分のフェニルピラゾール)が活性成分を

皮脂中に供給できるものにしなければならない点です。すなわち,

組成物は毛皮を通過できなければならず,しかも,活性成分が毛皮

上で結晶化したり,残留せずに皮脂中に移行できなければなりませ

ん。

引例には各要素技術が一般的に記載されていますが,上記の課題

に対する認識がないため,その解決手段として本発明に定義の組合

せを用いるということは記載がありません。従って,本発明の構成

は新規です。」(3頁15行〜32行)

「本発明の投与法で得られるメカニズムは添付した下記文献(こ

れは(URLは省略)のプリントアウトです)に説明されています:

[参考文献1]“FRONTLINE:How FRONTLINE Works,”

この文献には本発明の化合物のフィプロニル(fipronil)をペッ

トに塗布した時に長期間その作用が継続する機構を説明していま

す。すなわち,フィプロニル(fipronil)は脂線中に取り入れられ,

天然オイル中に蓄えられ ,その後,「濾胞」から再度引き出され,

皮膚および毛皮へ再度塗布される。これはフィプロニル(fipronil)

がペットの皮膚および毛皮の天然オイル中に溶けたためである。こ

の機構は引例および先願には記載がない。」(4頁39行〜46行)

c 特許権は,従来技術では達成し得なかった技術的課題を解決する手

段を公開した代償として付与されるものであるから,このことを考慮


すれば,特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特

許発明の構成のうち,公開された明細書や出願関係書類の記載から把

握される当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分を

いうと解するのが相当である。

前記a及びbの認定事実を総合すれば,本件発明1は,犬猫等の動

物の大きさや毛皮の種類とは無関係に,体の一部に投与するだけで全

身の皮膚に拡散するとともに,乾燥しても結晶化せずに毛皮もべとつ

かせない動物用の抗寄生虫組成物を提供するという従来技術では達成

し得なかった相矛盾する技術的課題を解決するために,いずれも既知

の物質であるフィプロニルを中心とする特定の殺虫活性物質と特定の

結晶化阻害剤を一定の質量割合で組み合わせたものであり,これが本

件発明1特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分であると認めら

れるから,結晶化阻害剤に特定の化合物を選択することは,本件発明

1の本質的部分の一部であるということができる。

したがって,本件発明1の構成要件1Bにおける「ポリビニルピロ

リドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレ

ン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合物」との構成は,

本件発明1の本質的部分であるというべきである。

d 原告は,本件発明1の実質的な価値が結晶化阻害剤等の各成分に特

定の化合物を選択したことにあるならば,その化合物は構成要件1F

(2)に定める結晶化阻害効果を有し,構成要件1F(2)は不要だったは

ずであると主張する。しかしながら,構成要件1F(2)は,構成要件


Bに定めた結晶化阻害剤としての化合物に係る選択枠の中から,十分

な結晶化阻害効果を有した化合物を選択する基準となる要件であって,

構成要件1Bにおける構成が本件発明1の本質的部分であることを否

定するものではないから,原告の上記主張は,採用することができな

い。

(イ) B容易想到要件について

a 証拠(甲24,乙1ないし3,21,24,25)によれば,クロ

タミトンは,元来,鎮よう・鎮痛・収れん・消炎剤として公知であっ

たが,特開昭63−208517・208518号各公報により,昭

和63年8月30日には抗白せん剤であるトルナフテートを含有した

外用液剤又は外用ゲル乳剤の長期保管時における結晶化阻害剤として

公知となり,甲24公報により,平成8年2月13日にはイミダゾー

ル系抗真菌性薬物である硝酸オキシコナゾールを含有した外用液状製

剤の保管時における結晶化阻害剤としても公知となり,被告らが各被

告製品を製造販売するようになった平成21年5月当時,外用液状製

剤における結晶化阻害剤として公知であったと認められる。しかしな

がら,クロタミトンの上記各効能は,いずれも水虫薬の保管時におけ

る結晶化を阻害するものにすぎず,当業者が上記各効能から動物用の

抗寄生虫組成物の投与時における乾燥による結晶化を阻害する効能を

想到することは,当該効能が公知であったことを認めるに足りる証拠

がないことに鑑みれば,困難であったというべきである。

したがって,本件発明1の構成要件1Bの「ポリビニルピロリドン,


酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化され

たソルビタンエステルおよびこれらの混合物」との構成をクロタミト

ンに置き換えることは,当業者が平成21年5月以降における各被告

製品の製造等の時点において容易に想到することができたということ

はできない。

b 原告は,クロタミトンが本件発明1の構成要件1B中のポリビニル

ピロリドンに含まれるアミド部分と類似するエチルアミド部分を含

み,フィプロニル分子との間で分子間水素結合をすることができると

主張する。しかしながら,フィプロニル分子の結晶化阻害効果が結晶

化阻害剤のエチルアミド部分とフィプロニル分子との分子間水素結合

によって生じることを認めるに足りる証拠はない。また,証拠(乙8,

23)によれば,構成要件1B中のポリオキシエチレン化されたソル

ビタンエステルはアミド部分を有さず,逆に,1−エチル−2−ピロ

リドン,N、N−ジエチルアセトアミド,1−(2−ヒドロキシエチ

ル)−2−ピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体はエ

チルアミド部分を有するにもかかわらず結晶化阻害効果を生じないこ

とが認められる。そうであれば,クロタミトンがエチルアミド部分を

含むからといって,構成要件1Bの構成をクロタミトンと置き換え

ことに,当業者が各被告製品の製造等の時点において容易に想到する

ことができたとは考え難い。原告の上記主張は,採用することができ

ない。

(ウ) D意識的除外要件について


a 前記(ア)b認定のとおり,クロタミトンは,本件特許の出願当初に

おける明細書に記載されなかった上,原告は,補正により,本件各発

明において使用可能な結晶化阻害剤としての化合物を構成要件1Bの

構成における3種類の化合物とその組合せに限定したのである。これ

らの事実を総合すれば,原告の側においてクロタミトンを結晶化阻害

剤として用いる各被告製品が本件発明1の技術的範囲に属しないこと

を外形的に承認したように解されるような行動をとったものである。

したがって,各被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の

範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある。

b 原告は,構成要件1Bの結晶化阻害剤について補正したのは,文献

に記載されているという理由で拒絶理由通知を受けた化合物を除外す

る意図で行ったにすぎず,また,構成要件1Bにおける化合物が少な

いのは,使用可能な全ての化合物を記載することが困難であり,特許

出願のプラクティスとして,特に好ましい代表例だけを挙げたからで

あると主張する。しかしながら,特許権者の側において,特許発明

技術的範囲に属しないことをおよそ外形的に承認したように解される

ような行動をとったものである以上,特許権者が後にこれと反する主

張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないというべきであ

って,当該行動の理由を問擬する原告の上記主張は,採用することが

できない。

エ 以上に判示したところによれば,各被告製品は,本件発明1の構成と均

等なものとはいえず,本件発明1の技術的範囲に属するものと解すること


はできない。

(2) 本件発明2ないし4について

本件発明2及び3に係る特許請求の範囲の請求項7及び25は,本件発明

1に係る特許請求の範囲の請求項1に従属し,本件発明4に係る特許請求の

範囲の請求項26は,本件発明3に係る特許請求の範囲の請求項25に従属

するものであるところ,さきに判示したように,各被告製品は,本件発明1

技術的範囲に属するものと解することができないから,各被告製品は,本

件発明2ないし4の各構成と均等でなく,本件発明2ないし4の技術的範囲

に属するものと解することはできない。

4 結論

よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がな

いからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部




裁判長裁判官 高 野 輝 久




裁判官 志 賀 勝




裁判官 小 川 卓 逸

(別紙特許公報は省略)


(別紙)

当 事 者 目 録




フランス共和国<以下略>

原 告 メリアル エス アー エス

同訴訟代理人弁護士 熊 倉 禎 男

渡 辺 光

佐 竹 勝 一

同訴訟復代理人弁護士 相 良 由 里 子

同補佐人弁理士 山 崎 一 夫

田 代 玄

東京都品川区<以下略>

被 告 フジタ製薬株式会社

東京都千代田区<以下略>

被 告 共 立 製 薬 株 式 会 社

上記両名訴訟代理人弁護士 浜 田 治 雄

同補佐人弁理士 西 口 克

齊 藤 涼 子

赤 津 悌 二





(別紙)

物 件 目 録




1 製品名「マイフリーガード犬用」の動物用医薬品

2 製品名「マイフリーガード猫用」の動物用医薬品





(別紙)

訂 正 目 録




1 【請求項1】「下記の(a)〜(d)から成り,

式(I)の化合物は1〜20%(w/v)の割合で存在し,

結晶化阻害剤は1〜20%(w/v)の割合で存在し且つ(c)で定義した溶媒中に

式(I)の化合物を10%(W/V),結晶化阻害剤を10%添加した溶液Aの0.3ml

をガラススライドに付け,20℃で24時間放置した後にガラススライド上を肉

眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,

有機溶媒(c)は組成物全体を100%にする比率で加えられ,

有機共溶媒(d)は(d)/(c)の重量比(w/w)が1/15〜1/2となる割合で

存在し,

有機共溶媒(d)は水および/または溶媒c)と混和性がある,

動物の身体の一部へ局所塗布することによって動物の全身へ拡散する,直ちに

使用可能な溶液の形をした,寄生虫からペットを治療または予防するための組成

物:

(a) 〔化1〕で表される殺虫活性物質:

【化1】





(ここで,

R1はハロゲン原子,CNまたはメチル基を表し,

R 2はS(O)nR 3,4,5−ジシアノイミダゾール−2−イルまたはハロアル

キル基を表し,ここで,

R3はアルキルまたはハロアルキル基を表し,

R4は水素またはハロゲン原子を表すか,NR5R6,S(O)mR7,C(O)R7ま

たはC(O)OR 7,アルキル,ハロアルキル,OR 8または−N=C(R 9)(R10)

を表し,ここで,

R5およびR 6はそれぞれ独立に水素原子,アルキル,ハロアルキル,C(O)

アルキル,S(O)rCF3,アシルまたはアルコキシカルボニル基を表すか,R5

とR6とが一緒になって2価のアルキレン基を作り,このアルキレン基は2価の

ヘテロ原子を1つまたは2つを含むことができ,

R7はアルキルまたはハロアルキル基を表し,

R8はアルキル,ハロアルキル基または水素原子を表し,

R9はアルキル基または水素原子を表し,

R10は単数または複数のハロゲン原子で置換されていてもよいフェニルまた

はヘテロアリール基を表し,


Xは炭素,三価の窒素原子またはC−R12を表し,

R12は水素原子,CNまたはNO2を表し,

yはSF5基,CN,NO2,S(O)rCF3,ハロゲン原子,ハロアルキルまた

はハロアルコキシ基を表し,

m,nおよびrは互いに独立に0,1または2の整数を表し,

pは1,2,3,4または5の整数を表し,

ただし, 1がメチルの場合は, 3がハロアルキルで, 4がNH2で,
R R R pが2で,

6位にあるyがClで,4位にあるyがCF3で,XがNであるか,R2が4,5

−ジシアノイミダゾール−2−イルで,R4がClで,pが3で,6位にあるy

がClで,4位にあるyがCF3で,XがC−Clである),

(b) ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ ビニルピロリドン共重合体,ポリオ

キシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合物の中から選択

される結晶化阻害剤,

(c) ジプロピレングリコール n−ブチルエーテル,エチレングリコールモノ

エチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコ

ールモノエチルエーテル,ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよび

これらの溶媒の少なくとも二つの混合物から成る群の中から選択される有機溶

媒,

(d) エタノール,イソプロパノールおよびメタノールから成る群の中から選択

される有機溶媒とは異なる有機共溶媒。」(下線部分は,訂正部分を示す。)

2 【請求項25】「グリコールエーテルがジエチレングリコールモノエチルエー

テルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルから成る群の中から選択


される請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。」(下線部分は,訂正部

分を示す。)