運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24ネ10080特許権侵害行為差止等請求控訴事件 判例 特許
平成22ワ11353特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22ワ43749特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成23ワ8085各損害賠償等請求事件 判例 特許
平成22ワ18041特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  新規性 /  公然実施(29条1項2号) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  技術的手段 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  実質的に同一 /  対象製品 /  出願経過 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  均等侵害 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  発明の範囲 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  訂正明細書 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ワ) 27920号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2012/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年1月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成20年(ワ)第27920号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成23年10月25日

判 決

東京都葛飾区<以下略>

原 告 株式会社オビツ製作所

訴訟代理人弁護士 寺 内 從 道

補佐人弁理士 岩 木 謙 二
京都市下京区<以下略>

被 告 株式会社ボークス

訴訟代理人弁護士 伊 原 友 己

同 加 古 尊 温

補佐人弁理士 安 藤 順 一

同 上 村 喜 永
主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告は,別紙物件目録1及び2記載の各製品を製造し,販売し,又は販売の
ために所持してはならない。

2 被告は,その所有する前項記載の各製品を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成20年11月18

日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨



本件は,発明の名称を「ソフトビニル製大型可動人形の骨格構造および該骨

格構造を有するソフトビニル製大型可動人形」とする特許第3761523
号(以下,この特許を「本件特許1」 この特許権を
, 「本件特許権1」という。)

及び発明の名称を「可動人形用胴体」とする特許第3926821号(以下,

この特許を「本件特許2」,この特許権を「本件特許権2」という。)の特許

権者である原告が,被告による別紙物件目録1及び2記載の各製品(以下,別

紙物件目録1記載の製品を「イ号製品」,同目録2記載の製品を「ロ号製品」

といい,これらを総称して「被告各製品」という。)の製造,販売等が本件特
許権1及び2(以下,これらを併せて「本件各特許権」といい,また,本件特

許1と本件特許2を併せて「本件各特許」という。)の侵害に当たる旨主張し

て,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告各製品の製造,

販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害不法行為に基づく損

害賠償を求めた事案である。

2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全
趣旨により認められる事実である。)

(1) 当事者

ア 原告は,玩具及びかつらの製造,販売及びリース業務等を目的とする株

式会社である。

イ 被告は,各種模型及び玩具の卸し・小売販売及び中古品の売買等を目的

とする株式会社である。
(2) 特許庁における手続の経過等

ア 本件特許1

(ア) 原告は,平成15年1月22日,発明の名称を「ソフトビニル製大

型可動人形の骨格構造および該骨格構造を有するソフトビニル製大型

可動人形」とする発明について特許出願(特願2003−13775号。

以下「本件出願1」という。)をし,平成18年1月20日,本件特許



権1の設定登録(請求項の数10)を受けた。

(イ)a 被告は,平成22年2月19日,本件特許1について無効審判請
求(無効2010−800028号事件)をした。

原告は,上記無効審判において,同年5月10日,本件特許1の特

請求の範囲減縮等を目的とする訂正請求(以下「第1次訂正」と

いう。)をした。

特許庁は,同年10月27日,第1次訂正を認めた上で,本件特許

1の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決(以
下「本件特許1の第1次審決」という。)をした(乙87)。

これに対し原告は,同年12月8日,本件特許1の第1次審決の取

消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)

第10384号事件)を提起した後,平成23年1月12日,本件特

許1の特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判請求(訂正20

11−390002号事件)をした。
知的財産高等裁判所は,同年2月23日,特許法181条2項に基

づき,事件を審判官に差し戻すため,本件特許1の第1次審決を取り

消す旨の決定をした。

b 差戻し後の無効2010−800028号事件において,原告は,

平成23年3月22日,本件特許1の特許請求の範囲減縮等を目的

とする訂正請求(以下「第2次訂正」という。)をした。この結果,
特許法134条の3第4項により,前記aの訂正審判請求は取り下げ

られたものとみなされ,また,同法134条の2第4項により,第1

次訂正も取り下げられたものとみなされた。

その後,特許庁は,同年9月7日,第2次訂正を適法と認めた上で,

第2次訂正後の請求項1に係る発明について請求人(被告)主張の無

効理由はいずれも認められないとして,「平成23年3月22日付け



訂正請求書による訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」

との審決(以下「本件特許1の第2次審決」という。)をした(甲7
6)。

これに対し被告は,同年10月5日,本件特許1の第2次審決の取

消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)

第10317号事件)を提起し,同訴訟は,現在同裁判所に係属中で

ある。

イ 本件特許2
(ア) 原告は,平成14年4月23日にした特許出願(特願2002−1

21326号)の一部を分割して,平成17年2月1日,発明の名称

を「可動人形用胴体」とする発明について特許出願(特願2005−2

5336号。以下「本件出願2」という。)をし,平成19年3月9日,

本件特許権2の設定登録(請求項の数2)を受けた。

(イ)a 被告は,平成20年10月21日,本件特許2について無効審判
請求(無効2008−800213号事件)をした。

特許庁は,平成22年3月19日,原告が平成21年11月18日

付けでした訂正請求による特許請求の範囲等の訂正を認めないとし

た上で,本件特許2の請求項1及び2に係る発明についての特許を無

効とするとの審決(以下「本件特許2の第1次審決」という。)をし

た(乙75)。
原告は,平成22年4月30日,本件特許2の第1次審決の取消し

を求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第1

0136号事件)を提起した。

その上で,原告は,同年5月21日,本件特許2の請求項1及び2

に係る特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判請求(訂正20

10−390049号事件)をした(甲40)。



特許庁は,同年6月21日,本件特許2の特許請求の範囲及び明細

書を上記訂正審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正
明細書のとおり訂正することを認める旨の審決をし,同審決は,同年

7月1日に確定した(以下,この審決を「本件訂正審決」といい,本

件訂正審決による訂正を「本件訂正」という。)。この結果,特許法

128条により,本件特許2は,当初から本件訂正後の特許請求の範

囲により特許査定がされ,その特許権の設定登録がされたものとみな

された。
b 知的財産高等裁判所は,平成22年7月16日,特許法181条

項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,本件特許2の第1次審決

を取り消す旨の決定をした。

特許庁は,同年9月15日,本件訂正後の請求項1及び2に係る発

明について請求人(被告)主張の無効理由及び職権で通知した無効理

由はいずれも認められないとして,「本件審判の請求は,成り立たな
い。 との審決
」 (以下「本件特許2の第2次審決」という。 をした
) (甲

41)。なお,本件特許2の第2次審決について,被告は,その出訴

期間内に審決取消訴訟を提起しなかった。

(ウ) 被告は,平成22年11月26日,本件特許2について無効審判請

求(無効2010−800216号事件)をした。

特許庁は,平成23年7月1日,原告が同年2月15日付けでした訂
正請求による特許請求の範囲等の訂正は不適法であるとした上で,本件

特許2の請求項1及び2に係る発明(本件訂正後のもの)について請求

人(被告)主張の無効理由はいずれも認められないとして,「訂正を認

めない。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件特

許2の第3次審決」という。)をした(甲75)。

これに対し被告は,同年8月5日,本件特許2の第3次審決の取消し



を求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10

255号事件)を提起し,同訴訟は,現在同裁判所に係属中である。
(3) 発明の内容

ア 本件特許1

(ア) 本件特許1の設定登録時の特許請求の範囲は,請求項1ないし10

から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1

に係る発明を「本件発明1」という。)。

「【請求項1】
ソフトビニル製の外皮と,該外皮とは別体で,かつ該外皮によって

覆われてソフトビニル製大型人形を構成する骨格構造であって,

左右の脚部骨格と,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,該

腰部骨格に連結される胴部骨格と,該胴部骨格と連結される左右の腕

部骨格で一連の人形骨格群を構成し,

前記胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と
連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され

ており,

腹骨格部は,その一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端

側に胸部骨格連結部を備え,

前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連

結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に
回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連

結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される

第二嵌入杆を備えたことを特徴とするソフトビニル製大型可動人形

の骨格構造。」

(イ) 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各



構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。

A ソフトビニル製の外皮と,
B 該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製大

型人形を構成する骨格構造であって,

C 左右の脚部骨格と,

D 該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,

E 該腰部骨格に連結される胴部骨格と,

F 該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で
G 一連の人形骨格群を構成し,

H 前記胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と

連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され

ており,

I 腹骨格部は,その一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端

側に胸部骨格連結部を備え,
J 前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連

結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に

回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

K 前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連

結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される

第二嵌入杆を備えたことを特徴とする
L ソフトビニル製大型可動人形の骨格構造。

イ 本件特許2

(ア) 本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1及び2から成り,その請

求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1に係

る発明を「本件発明2」といい,また,本件発明1と本件発明2を併せ

て「本件各発明」という。)。



「【請求項1】

少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に,前記上
半身部品と下半身部品とが,揺動可能,かつ分離・組み立て可能に連

結される可動人形用胴体であって,

前記上半身部品は,スラッシュ成形により接合線なく一体成形さ

れ,かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体

と,

該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで
構成され,

前記芯材は,下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結

する下半身連結部材を備え,

前記下半身連結部材は,下半身部品の上端と対向し,前記軟質製本

体下端の開口に位置して備えられ,

前記下半身部品は,前記軟質製本体下端の開口と対向する上端を開
放し,外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体

と,

前記腰部本体内に備えられ,前記下半身連結部材を差し込み連結可

能な上半身部品連結構造とを備え,

前記上半身部品連結構造は,前記下半身連結部材と対向し,前記腰

部本体の開放部位に位置して備えられ,
前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は,円柱状の棹部

と,該棹部を嵌合し,かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可

能な円筒状の差込み穴とによって構成され,

前記上半身部品と前記下半身部品は,軟質製本体下端の開口と腰部

本体の開放部位にそれぞれ位置している前記棹部と前記差込み穴と

の上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結され



ることを特徴とする可動人形用胴体。」

(イ) 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各
構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。

A 少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に,前記上

半身部品と下半身部品とが,揺動可能,かつ分離・組み立て可能に連

結される可動人形用胴体であって,

B 前記上半身部品は,スラッシュ成形により接合線なく一体成形さ

れ,かつ下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体
と,

C 該軟質製本体内に嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで

構成され,

D 前記芯材は,下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結

する下半身連結部材を備え,

E 前記下半身連結部材は,下半身部品の上端と対向し,前記軟質製本
体下端の開口に位置して備えられ,

F 前記下半身部品は,前記軟質製本体下端の開口と対向する上端を開

放し,外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体

と,

G 前記腰部本体内に備えられ,前記下半身連結部材を差し込み連結可

能な上半身部品連結構造とを備え,
H 前記上半身部品連結構造は,前記下半身連結部材と対向し,前記腰

部本体の開放部位に位置して備えられ,

I 前記下半身連結部材と前記上半身部品連結構造は,円柱状の棹部

と,該棹部を嵌合し,かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可

能な円筒状の差込み穴とによって構成され,

J 前記上半身部品と前記下半身部品は,軟質製本体下端の開口と腰部



本体の開放部位にそれぞれ位置している前記棹部と前記差込み穴と

の上下方向の差込み又は引き抜きのみによって着脱自在に連結され
ることを特徴とする

K 可動人形用胴体。

(4) 被告の行為等

ア 被告は,被告各製品を製造及び販売し,また,販売のために所持してい

る。

イ 被告各製品のうち,イ号製品の構成は,別紙イ号製品説明書及び別紙イ
号製品の構成図(1)ないし(3)記載のとおりであり,ロ号製品の構成は,別

紙ロ号製品説明書及び別紙ロ号製品の構成図(1)ないし(3)記載のとおり

である。

なお,別紙イ号製品及び別紙ロ号製品の上記各構成図(1)は,被告各製

品の外皮の上に骨格部をオーバーラップさせて表記した図面であり,上記

各構成図(2)及び(3)は,被告各製品の骨格部を構成する部材を分解した図
面である。

ウ(ア) イ号製品は,本件発明1の構成要件AないしG及びIを充足し,ま

た,ロ号製品は,本件発明1の構成要件A,CないしG及びIを充足す

る。

(イ) 被告各製品は,本件発明2の構成要件Kを充足する。

3 争点
(1) 本件の争点は,被告各製品が本件各発明の技術的範囲にそれぞれ属する

か否か(争点1),本件各発明に係る本件各特許に特許無効審判により無効

にされるべき理由があり,原告の本件各特許権の行使が特許法104条の3

第1項により制限されるか否か(争点2),被告が賠償すべき原告の損害

額(争点3)である。

(2) なお,争点2に関し念のため付言するに,原告は,本件訴訟の中で,被



告各製品が,第2次訂正後の本件特許1の請求項1に係る発明及び平成23

年2月15日付け訂正請求による訂正後の本件特許2の請求項1に係る発
明の技術的範囲にそれぞれ属する旨の主張もしているが,上記主張は,上記

各訂正により争点2で被告が主張する各無効理由が解消されたことの具体

的な理由の主張を伴うものではないことに照らすと,その主張自体,本件各

特許権に基づく権利行使の制限を否定する対抗主張に当たるものとは認め

られないので,このような対抗主張の成否は,本件の争点とはいえない。

第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件各発明の技術的範囲の属否)について

(1) 原告の主張

ア 本件発明1について

(ア) イ号製品

イ号製品は,本件発明1の構成要件をすべて充足するか又は仮に構成

要件Jを充足しないとしても,本件発明1と均等なものとして,本件発
明1の技術的範囲に属する。

構成要件充足性

イ号製品が本件発明1の構成要件AないしG及びIを充足するこ

とは,前記争いのない事実等(4)ウ(ア)のとおりであるところ,イ号

製品は,以下のとおり,構成要件H及びJないしLを充足するから,

本件発明1の構成要件をすべて充足する。
(a) 構成要件Hの充足

イ号製品の胴部骨格は,腹部骨格と胸部骨格から構成され,腹部

骨格は腰部骨格に,胸部骨格は腹部骨格にそれぞれ連結しており,

かつ,それぞれの部位に連結部があって,各連結部において駆動可

能に構成されている。

この点に関し被告は,後記のとおり,構成要件Hにおける「駆動」



との用語が,「モーター等の動力によって動くこと」を意味すると

した上で,イ号製品の胴部骨格はそのような構成を欠く旨主張する
が,上記「駆動」とは,「力を加えれば動くこと」を意味するもの

であって,モーター等の駆動力を用いるものに限定すべき根拠はな

いから,被告の上記主張には理由がない。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Hを充足する。

(b) 構成要件Jの充足

@ イ号製品の腹部骨格の一端側にある腰部用連結部は,構成要件
Jの「腰部骨格連結部」に当たり,また,イ号製品の腰部用連結

部にある嵌合部は,腰部骨格にある腹部用連結部の嵌合部受けに

嵌合されている。

しかるところ,構成要件Jにいう「揺動」が,「前後方向に揺

れ動くこと」,「左右方向に揺れ動くこと」若しくは「上下方向

に揺れ動くこと」のいずれかの動き又は任意の動きの組み合わせ
からなる動きを意味することは,当業者の常識に照らして明らか

である。

そして,イ号製品の腰部用連結部は,腹部骨格との連結部にお

いて,前後方向及び左右方向に揺れ動くことが可能な状態で連結

されているから,構成要件Jの「腹部骨格との連結部において揺

動可能に連結される」構成を有している。
したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Jのうち,「前

記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連

結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合

穴に嵌合される第一嵌入杆を備え」との部分を充足する。

A 次に,イ号製品においては,腰部用連結部の嵌合部が腰部骨格

にある腹部用連結部の嵌合部受けに嵌合されるに当たり,回動し



ないような規制が施されていることからすると,イ号製品の腰部

用連結部は,「嵌合穴に嵌合される第一嵌入杆」を備えているも
のの,その「第一嵌入杆」は,「回動可能」に嵌合されるものと

はいえない。

しかし,イ号製品は,被告が従前製造及び販売していた構成要

件Jの「回動可能に嵌合される第一嵌入杆」を備えた製品につい

て,第一嵌入杆を回動しないように規制する設計変更がされたも

のであり,この設計変更は,イ号製品の回動可能箇所を本件発明
1より1箇所少なくすることによって本件特許権1の侵害の責

めを回避するための改変にすぎないから,これをもって本件特許

権1を侵害していないとすることは,当事者の公平の理念に反す

るものといえる。

したがって,イ号製品は,「腰部骨格連結部」が「回動可能に

嵌合される第一嵌入杆」を備えるとの構成を実質上充足するもの
と解すべきであるから,本件発明1の構成要件Jを充足する。

(c) 構成要件Kの充足

イ号製品の腹部骨格の一端側にある胸部用連結部は,構成要件

の「胸部骨格連結部」に当たるところ,腹部骨格との連結部におい

て,前後方向及び左右方向に揺れ動くことが可能な状態で連結され

ているから,上記胸部用連結部は,腹部骨格との連結部において揺
動可能に連結されている。

また,イ号製品の上記胸部用連結部にある嵌合部は,胸部骨格に

ある腹部用連結部の嵌合部受けに回動可能な状態で嵌合されてい

る。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Kを充足する。

(d) 構成要件Lの充足



イ号製品は,ソフトビニル製外皮からなる全高580oの可動人

形であるから,その骨格構造は,「ソフトビニル製大型可動人形の
骨格構造」に該当する。

この点に関し被告は,後記のとおり,構成要件Lの「ソフトビニ

ル製」との文言は,人形の骨格部の材質をも含めて規定しているも

のと解し得るとした上で,イ号製品の骨格部がソフトビニル製では

ないことから,構成要件Lを充足しない旨主張する。

しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)をみる
と,「ソフトビニル製の外皮」(構成要件A) 「骨格構造」 「該
, は,

外皮」と「別体」(構成要件B)との記載があること,本件出願1

の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書1」と

いう。甲1)の段落【0009】に,「各骨格A乃至Eの材質は,

ABS樹脂,その他の樹脂,若しくは金属製など任意に選択され

る。」との記載があることからすると,構成要件Lの「ソフトビニ
ル製」との文言が,人形の外皮の材質のみを規定したものであるこ

とは明らかであるから,被告の上記主張には理由がない。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Lを充足する。

均等侵害

イ号製品においては,腰部用連結部の嵌合部が腰部骨格にある腹部

用連結部の嵌合部受けに嵌合されるに当たり,回動しないような規制
が施されており,イ号製品の腰部用連結部は,「回動しないように規

制されて嵌合される第一嵌入杆」を備えている点で,構成要件Jの「回

動可能に嵌合される第一嵌入杆」を備える「腰部骨格連結部」の構成

と相違し,構成要件Jを充足しないとしても,次のとおり,イ号製品

は,最高裁平成10年2月24日判決で示された均等の成立要件(5

要件)をすべて充足しているから,本件発明1と均等なものとして,



本件発明1の技術的範囲に属する。

(a) 相違部分が本質的部分でないこと(第1要件)
本件明細書1の「発明が解決しようとする課題」(段落【000

4】)及び「発明の効果」(段落【0037】)の記載によれば,

本件発明1の本質的部分は,従前の技術が人形の各部位をゴム紐で

結んだり,針金で結んだりしていたため,人形に一定の所望する姿

態を保持させたり,自立させたりすることができず,また,人形の

素材が重くならざるを得ないという欠点があったことから,これら
の課題を解決する方法として,人形全体を骨格構造(一連の骨格群)

で支えることとした点にある。これに加えて,人形ができる限り人

間に近い動きをすることが望ましいことから,本件発明1において

は,人形の連結箇所の数箇所において揺動や回動をする構成も採用

しているが,この点は,本件発明1の付加的な作用効果にすぎず,

発明としての本質的部分に関係するものではない。
しかるところ,イ号製品においては,本件発明1の特許請求の範

囲(請求項1)中に記載されている4箇所及び本件明細書1の実施

例に記載されている14箇所の合計18箇所の揺動又は回動の動

きをする構成のうちの1箇所である腰部骨格連結部の第一嵌入杆

と腰部骨格との連結箇所のみを回動しない構成に置き換えている

ものにすぎないところ,本件発明1全体の技術的思想及び全体の構
成からみれば,上記相違部分は,本件発明1の本質的部分であると

はいえない。

(b) 作用効果の同一性(置換可能性)(第2要件)

本件発明1の構成要件Jの腰部骨格連結部における「回動可能に

嵌合される第一嵌入杆」の構成を「回動しないように規制されて嵌

合される第一嵌入杆」に置き換えた場合においても,本件発明1の



作用効果,すなわち,人形全体を一連の骨格群で支えると同時に,

できる限り人体の動きを擬して揺動,回動するように構成し,もっ
て人形が自力で立ち,かつ一定の姿勢を保つことができるようにす

るとともに,従前の技術よりも軽量化と破損しにくさを実現すると

いう作用効果を奏することができる。上述のように,本件明細書1

に記載された合計18箇所もある揺動や回動の動きをする構成の

うちの1箇所にすぎない腰部骨格連結部の第一嵌入杆と腰部骨格

との連結箇所を回動しない構成に置き換えたとしても,その作用効
果は,本件発明1の作用効果とほぼ同一である。

(c) 置換容易性(第3要件)

本件発明1の構成要件Jの腰部骨格連結部における「回動可能に

嵌合される第一嵌入杆」の構成を「回動しないように規制されて嵌

合される第一嵌入杆」に置き換えることは,回るものを回らないも

のにするだけのことであり,特別高度な創意工夫を必要とするもの
ではなく,人形製造業界が属する技術分野の当業者であれば,イ号

製品の製造が開始された平成16年ないし平成17年当時,容易に

想到することができたものである。

(d) 公知技術からの容易推考性の不存在

本件発明1が,本件出願時における公知の技術との関係で新規

性,進歩性を有するものであることは,後記2(2)のとおりである
ところ,イ号製品は,人形全体を一連の骨格群で支えるという

技術的思想に基づき,かつ,人体の動きにできる限り擬するた

め本件 発明 1と ほぼ 同一箇 所に おい て揺 動や回 動の 動き を す

るよう構成しながら,そのうちの一箇所である腰部骨格連結部

の第一嵌入杆と腰部骨格との連結箇所を回動しない構成とした点

において本件発明1と構成を異にするだけである。



被告は,後記のとおり,イ号製品の構成は,本件出願1の出願

当時における公知技術である,株式会社バンダイ(以下「バンダ
イ」という。)の製造・販売に係る「LIMITED MODEL HG SERIES 11

第3使徒サキエル」という商品名のプラモデル(乙65の1ないし

20。以下「第1商品」という。)から容易に推考し得るもので

あった旨主張する。

しかしながら,第1商品は,以下の点において,本件発明1

と相違し,これらの相違点に係る本件発明1の構成を備えてい
ない点で,イ号製品とも相違するものであるところ,これらの

相違点 に係 る構 成を 第1商 品に 適用 する ことを 当業 者が 容 易

に想到することができたものとはいえないから,被告の上記主

張は,失当である。

(第1商品と本件発明1との相違点)

@ 第1商品は,「プラスチックキット」として販売されている
ものであって,所定の目的・作用効果を発揮するための構成を備

えた「可動人形」(構成要件L)ではない点において,本件発明1

と相違する。

A 本件発明1の骨格構造によれば,本件発明1に係る可動人形は

自立できるものであるが,第1商品は自立できないものである

から,この点において,本件発明1と相違する。
B 第1商品は,「骨格構造」が「外皮」を「着る」又は「取り

付ける」だけであり,「外皮」に覆われてはおらず,足首部や手

首部は「外皮」からはみ出している。

したがって,第1商品は,「外皮に覆われ」 「骨格構造」
た (構

成要件B)ではない点において,本件発明1と相違する。

C 第1商品は,「ソフトビニル製大型人形」(構成要件B,L)



とはいえず,また,一般に「可動人形」(構成要件L)と称され

る範疇のものともいえない点において,本件発明1と相違する。
D 第1商品は,「腹骨格部」の「他端側に胸部骨格連結部を備

え」との構成(構成要件I)を備えていない点において,本件発

明1と相違する。

E 第1商品は,「腰部骨格連結部」が「腹骨格部」との連結部

において「揺動可能」に連結されるとの構成(構成要件J)を備

えていない点において,本件発明1と相違する。
F 第 1 商 品 は,「胸部骨格連結部」を有しておらず,そのた

め,「胸部骨格連結部」が「腹骨格部」との連結部において「揺

動可能」に連結されるとの構成(構成要件K)を備えていない点

において,本件発明1と相違する。

(e) 意識的除外不存在(第5要件)

本件特許1の出願経過をみても,腰部骨格連結部の第一嵌入
杆と腰部骨格との連結箇所を回動しないように規制した構成が,

特許請求の範囲(請求項1)から意識的に除外されたという事

情は認められない。

(f) 小括

以上によれば,イ号製品は,本件発明1と均等なものとして,そ

技術的範囲に属する。
(イ) ロ号製品

ロ号製品は,本件発明1の構成要件をすべて充足するか又は仮に構成

要件Jを充足しないとしても,本件発明1と均等なものとして,本件発

明1の技術的範囲に属する。

構成要件充足性

ロ号製品が本件発明1の構成要件A,CないしG及びIを充足する



ことは,前記争いのない事実等(4)ウ(ア)のとおりであるところ,ロ

号製品は,以下のとおり,構成要件B,H及びJないしLを充足する
から,本件発明1の構成要件をすべて充足する。

(a) 構成要件Bの充足

ロ号製品は,ソフトビニル製の外皮とは別体で,かつ,当該外皮

によって覆われた人形を構成する人形骨格群を有する。

また,ロ号製品は,ソフトビニル製外皮からなる全高370o(3

7cm)の人形であるところ,本件明細書1の段落【0001】にお
ける「本明細書において「大型」とは,例えば全高60cm程度以上

の人形をいうが,特に限定はされず,一般的な30cm程度の人形よ

りも大きい人形の全てをいう。」との記載によれば,構成要件Bに

おける「大型人形」が,30cm程度の人形よりも大きい人形のすべ

てを意味することは明らかであるから,全高37cmのロ号製品は,

構成要件Bの「大型人形」に当たる。
以上によれば,ロ号製品は,本件発明1の構成要件Bを充足する。

(b) 構成要件H,J及びKの充足

ロ号製品が,本件発明1の構成要件H,J及びKを充足すること

は,イ号製品の場合(前記(ア)a(a)ないし?)と同様である。

(c) 構成要件Lの充足

ロ号製品は,前記(a)で述べたとおり,ソフトビニル製外皮から
なる全高370oの可動人形であるから,その骨格構造は,「ソフ

トビニル製大型可動人形の骨格構造」に該当する。

したがって,ロ号製品は,本件発明1の構成要件Lを充足する。

均等侵害

ロ号製品においても,腰部用連結部の嵌合部が腰部骨格にある腹部

用連結部の嵌合部受けに嵌合されるに当たり,回動しないような規制



が施されており,ロ号製品の腰部用連結部は,「回動しないように規

制されて嵌合される第一嵌入杆」を備えている点で,構成要件Jの「回
動可能に嵌合される第一嵌入杆」を備える「腰部骨格連結部」の構成

と相違し,構成要件Jを充足しないとしても,ロ号製品の構成は,本

件発明1と均等なものとして,本件発明1の技術的範囲に属する。

その詳細は,イ号製品について述べたこと(前記(ア)b)と同様で

ある。

(ウ) 小括
以上のとおり,被告各製品は,いずれも本件発明1の技術的範囲に属

するから,被告による被告各製品の製造及び販売は,本件発明1に係る

本件特許権1の侵害行為に,被告各製品の販売のための所持はその侵害

とみなす行為(特許法101条3号)に該当する。

イ 本件発明2について

被告各製品(イ号製品及びロ号製品)は,以下のとおり,本件発明2の
構成要件をすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。

(ア) 本件発明2における「上半身部品」及び「下半身部品」の意義

a 本件発明2は,構成要件Aのとおり,「可動人形用胴体」を「上半

身部品」と「下半身部品」に分けたことを構成要素の一つとしている

が,「上半身部品」と「下半身部品」に分けたことは,本件発明2に

特有の構成ではなく,本件発明2の前提要件の一つにすぎない。
この点,人形やフィギュアの業界において,「上半身」 「下半身」


の区分けに特段の決まりがあるものではなく(甲44ないし47),

一般的な常識から判断しても,胴体部分の上下方向(胴体の鉛直方向)

のどこかを境にして上下に二分したものを,「上半身」と「下半身」

に分けて称することに何ら疑義のないところである。

そして,本件発明2においては,可動人形用胴体を二分するに当た



り,どこを境にして二分したかは重要ではなく,胴体部分のどこかを

境にして上下に二分した上側と下側のそれぞれの構成において,構成
要件BないしJの着脱 連結構造を採用した点に発明としての本質が


ある。

したがって,本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)

における「上半身部品」及び「下半身部品」の意義は,胴体部分の上

下方向(胴体の鉛直方向)のどこかを境にして上下に二分した上側の

部品と下側の部品をそれぞれ意味するのであって,「上半身部品」
と「下半身部品」との境が特定の部位に限定されるものではない。

b この点に関し被告は,後記のとおり,本件訂正に係る訂正明細書(以

下,図面を含めて「本件明細書2」という。甲40)の段落【000

1】の「本明細書において,「上半身部品」とは,腰より上の部分を

いい,「下半身部品」とは腰から下の部分(腰部含む)をいうものと

する。」との記載や,段落【0010】及び【図1】の記載を根拠と
して,本件発明2における「上半身部品」と「下半身部品」の境目は,

腰部と腹部の間になる旨主張する。

しかし,これらの記載は,本件発明2の一実施形態における「上半

身部品」と「下半身部品」について説明しているにすぎず,上記記載

によって,本件発明2の特許請求の範囲の「上半身部品」と「下半身

部品」の意義が限定されるものではない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。

c 以上を前提に,被告各製品をみれば,被告各製品の胴体部におい

て「上半身部品」に相当するのは,外皮においては上胴部外皮の部分,

骨格部においては胸部骨格から上の部分であり,「下半身部品」に相

当するのは,外皮においては下胴部外皮の部分,骨格部においては腹

部骨格から下の部分と認められる。



このことは,被告が,被告自身の広告等(甲48ないし54(いず

れも枝番を含む。))において,被告各製品における「上胴部」の構
成部分を「上半身(パーツ) と,
」 「下胴部」の構成部分を「下半身(パ

ーツ)」と称し,本件発明2における「上半身部品」及び「下半身部

品」と同義の用語を使用していることからも明らかである。

(イ) 構成要件充足性

構成要件Aの充足

被告各製品においては,「上半身部品」に相当する上胴部外皮及び
胸部骨格から上の骨格部分と,「下半身部品」に相当する下胴部外皮

及び腹部骨格から下の骨格部分とが別成形されている。

また,被告各製品においては,「上半身部品」を構成する「芯材」

である胸部骨格の腹部用連結部に嵌合部受けが備えられ,また,「下

半身部品」を構成する「芯材」である腹部骨格の胸部用連結部に嵌合

部が備えられ,この「嵌合部受け」と「嵌合部」との差込み又は引き
抜き操作によって,「上半身部品と下半身部品とが分離・組み立て可

能に連結」されている。

さらに,被告各製品においては,胸部骨格と腹部骨格とが上記「嵌

合部受け」と「嵌合部」との連結部位で回動可能であり,しかも,腹

部骨格は前後左右に回動できるため,連結した後の胸部骨格と腹部骨

格は,「嵌合部受け」と「嵌合部」との連結部位の回動及び腹部骨格
の前後左右の回動により,「揺動可能」である。

そして,被告各製品が「可動人形用胴体」であることは明らかであ

る。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Aを充足する。

構成要件Bの充足

被告各製品の上胴部外皮は,「下端に開口を設けた塩化ビニル樹脂



製の中空の軟質製本体」に当たり,また,「接合線なく一体成形され」

ていて,「上半身部品」を構成していることが明らかである。
したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Bを充足する。

構成要件Cの充足

被告各製品の上胴部外皮は,構成要件Cの「軟質製本体」に当たる

ところ,その内には,構成要件Cの「硬質合成樹脂製の芯材」に当た

る胸部骨格から上の骨格部分が「内装」されている。

また,被告各製品の胸部骨格から上の骨格部分は,上胴部外皮の下
端の開口よりも大きな横幅を有しているから,この骨格部分を上胴部

外皮に内装する際には,上胴部外皮の開口を広げるようにして「嵌入」

されることが明らかである。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Cを充足する。

構成要件Dの充足について

被告各製品の胸部骨格は,「上半身部品」の「軟質製本体内に嵌入
して内装される」「芯材」に当たるところ,当該胸部骨格は,「下半

身部品」である腹部骨格との連結部材として,腹部用連結部の嵌合部

受けを備えている。すなわち,被告各製品の胸部骨格は,上記嵌合部

受けに,腹部骨格の胸部用連結部にある嵌合部が差込まれることによ

り,「下半身部材」である腹部骨格と連結されている。

そして,胸部骨格と腹部骨格との連結が,「揺動可能」かつ「分離
・組み立て可能」であることは,前記aのとおりである。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Dを充足する。

構成要件Eの充足

被告各製品の胸部骨格にある腹部用連結部の嵌合部受けは,構成要

件Eの「下半身連結部材」に当たるところ,当該嵌合部受けは,「軟

質製本体」に当たる上胴部外皮の「下端の開口」に位置して備えられ



ている。

また,上記嵌合部受けは,「下半身部品」である腹部骨格の上端と
対向している。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Eを充足する。

構成要件Fの充足

被告各製品の下胴部外皮は,「下半身部品」を構成し,構成要件

の「外表面にネジ穴や接合線を有しない一体成形された腰部本体」に

当たる。
また,上記下胴部外皮は,「軟質製本体」に当たる上胴部外皮の「下

端の開口と対向する上端を開放」している。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Fを充足する。

構成要件Gの充足

被告各製品の腹部骨格にある胸部用連結部の嵌合部は,「腰部本

体」に当たる下胴部外皮内に備えられ,「下半身連結部材」に当たる
胸部骨格にある腹部用連結部の嵌合部受けと対向し,当該嵌合部受け

を「差し込み連結可能」な構成となっており,「上半身部品」である

胸部骨格を連結する構造となっている。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Gを充足する。

構成要件Hの充足

被告各製品の「上半身部品連結構造」に当たる腹部骨格にある胸部
用連結部の嵌合部は,「下半身連結部材」に当たる胸部骨格にある腹

部用連結部の嵌合部受けと対向しており,また,「腰部本体」に当た

る下胴部外皮の上端にある「開放部位」に位置して備えられている。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Hを充足する。

構成要件Iの充足

被告各製品の「上半身部品連結構造」に当たる腹部骨格にある胸部



用連結部の嵌合部は,「円柱状の棹部」に当たる。

また,被告各製品の「下半身連結部材」に当たる胸部骨格にある腹
部用連結部の嵌合部受けは,上記「円柱状の棹部」に当たる嵌合部

を「嵌合」し,かつ「上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な

円筒状の差込み穴」となっている。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Iを充足する。

構成要件Jの充足

被告各製品の「上半身部品」に当たる上胴部外皮及び胸部骨格から
上の骨格部分と「下半身部品」に当たる下胴部外皮及び腹部骨格から

下の骨格部分とは,「軟質製本体」に当たる上胴部外皮の下端の開口

に位置している上記嵌合部受けと,「腰部本体」に当たる下胴部外皮

の開放部位に位置している上記嵌合部との「上下方向の差込み又は引

き抜きのみによって着脱自在に連結」されている。

したがって,被告各製品は,本件発明2の構成要件Jを充足する。
構成要件Kの充足について

被告各製品が本件発明2の構成要件Kを充足することは,前記争い

のない事実等(4)ウ(イ)のとおりである。

l 小括

(a) 以上によれば,被告各製品は,本件発明2の構成要件をすべて

充足し,その技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告各製品の製造及び販売は,本件発明

2に係る本件特許権2の侵害行為に,被告各製品の販売のための所

持はその侵害とみなす行為(特許法101条3号)に該当する。

(b) 被告は,後記のとおり,本件発明2は,上半身部品を捩った場

合に,腹部付近で皮膚に相当する「軟質製本体」が捩れるという効

果を実現することを目的としているものであるところ,被告各製品



においては,腹部」 「胸部」
「 及び が一体成形された「軟質製本体」(上

半身部品)が存在せず,その結果,腹部付近における外皮の捩れは
全く生じないものであり,本件発明2に特有の作用効果を奏しない

ものであるから,本件発明2の技術的範囲に属さない旨主張する。

しかしながら,被告主張の本件発明2の特有の作用効果なるもの

は,本件発明2の一実施形態についての記載である本件明細書2の

段落【0015】及び図5の記載に基づく効果にすぎず,本件発明

2の特有の作用効果とはいえないから,被告の上記主張は失当であ
る。

(2) 被告の主張

ア 本件発明1について

(ア) イ号製品

構成要件充足性について

イ号製品は,以下のとおり,本件発明1の構成要件H,JないしL
をいずれも充足しない。

(a) 構成要件Hの非充足

構成要件Hにおいて,「可動」という用語とは異なる「駆動」と

いう用語があえて用いられていることからすれば,構成要件Hにい

う「駆動」とは,「モーター等の動力によって動くこと」を意味す

ると解し得るところ,イ号製品の胴部骨格は,モーター等の動力に
よって動くことができる構成を欠いている。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Hを充足しない。

(b) 構成要件Jの非充足

構成要件Jにおける「揺動」がいかなる動きを意味するのかが明

らかではないことからすると,イ号製品の腰部用連結部が「腹部骨

格との連結部において揺動可能に連結される」構成を有しているも



のと認めることはできない。

また,イ号製品の腰部用連結部の嵌合部は,腰部骨格にある腹部
用連結部の嵌合部受けに嵌合された後,回動できる構成とはなって

いないから,上記腰部用連結部は,「腰部骨格に備えた胴部下端骨

格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆」の構成も備

えていない。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Jを充足しない。

(c) 構成要件Kの非充足
構成要件Kにおける「揺動」がいかなる動きを意味するのかが明

らかではないことからすると,イ号製品の胸部用連結部が「腹部骨

格との連結部において揺動可能に連結される」構成を有しているも

のと認めることはできない。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Kを充足しない。

(d) 構成要件Lの非充足
構成要件Lの「ソフトビニル製」との文言は,人形の外皮のみな

らず,骨格部の材質をも含めて規定しているものと解し得るとこ

ろ,イ号製品の骨格部は,ABS樹脂製であって,ソフトビニル製

ではない。

したがって,イ号製品は,本件発明1の構成要件Lを充足しない。

均等侵害について
イ号製品が,腰部骨格連結部における「回動可能に嵌合される第一

嵌入杆」の構成(構成要件J)を欠く点を除き,本件発明1の構成要

件をすべて充足するとしても,イ号製品について,原告主張の均等

害は成立しない。

そもそも均等論は,相手方の製品の構成の一部が特許発明の構成要

件の一部とは「異なる構成」に置換されている場合であっても特許発



明の技術的範囲に属するものと評価し得るものとする判例法理であ

るところ,かかる判例法理の射程は,相手方の製品に「異なる構成」
が存在する場合に限られ,当該構成自体が「存在しない」場合には及

ばないというべきである。

しかるところ,イ号製品においては,本件発明1の構成要件Jのう

ち,腰部骨格連結部における「回動可能に嵌合される第一嵌入杆」の

構成が存在しないのであるから,均等論の判例法理が及ばない事案で

あって,本件において原告が均等論を主張してイ号製品の特許侵害
論じるのは不適切である。

仮に,本件のような事案においても均等論が適用されるとしても,

イ号製品については,以下のとおり,均等が成立するための要件を満

たさないので,均等侵害は成立しない。

(a) 相違部分が本質的部分であること

原告は,本件発明1の本質的部分は,人形全体を骨格構造(一
連の骨格群)で支えることとした点にある旨主張するが,本件

出願1の出願前の時点で,それぞれの身体部位が別成形され,その

各関節部が可動する硬質樹脂製の骨格構造を備え,その外側にスラ

ッシュ成形の手法により制作された中空の継ぎ目のない軟質性の

ソフトビニル製外皮を被せる構成の人形商品が広く一般に販売さ

れており(例えば,乙105),人形商品において,かかる構
成をとることは周知技術となっていた。

このように,原告が本件発明1の本質的部分として主張する

点は,上記周知技術によって実現される作用効果にすぎず,本

件発明1の固有のものとはいえない。そして,仮に本件発明1

について固有の作用効果があるとすれば,胴部骨格の各部が連

結され,それらが可動するという点にあるものと考えられると



ころ,その中でも枢要部といえる腰部骨格連結部における「回動

可能に嵌合される第一嵌入杆」の存在(構成要件J)は,本件発
明1の中核的部分(本質的部分)といわざるを得ない。

したがって,腰部骨格連結部における「回動可能に嵌合される

第一嵌入杆」の構成(構成要件J)を欠くイ号製品は,本件発明

1との相違部分が本質的部分ではないとの要件(第1要件)を欠

くものである。

(b) 置換可能性の欠如
原告の主張によれば,本件発明1の作用効果は,人形が自力で立

ち,かつ一定の姿勢を保つことができるようにするとともに,人形

の材質を従前技術よりも軽量化し,破損しにくいものとするという

ものとされるところ,本件発明1においては,かかる作用効果を奏

するために,実施例も含めて合計18箇所の接合箇所において,そ

れぞれ特定された揺動や回動の動きをする構成が採用されている。
しかるところ,イ号製品においては,枢要部である腰部骨格連結

部における「回動可能に嵌合される第一嵌入杆」の構成(構成要件

J)が存在しないのであるから,原告の主張するような作用効果を

奏しないことは明らかである。

したがって,イ号製品は,本件発明1との相違部分が置換可能で

あるとの要件(第2要件)を欠くものである。
(c) 置換容易性の欠如

イ号製品においては,腰部用連結部の嵌合部が腰部骨格にある腹

部用連結部の嵌合部受けに嵌合されるに当たり,回動しないような

規制が施されているが,かかる構成には,積極的な技術的意味があ

る。

すなわち,人形の上記部分が回動自在であると,人形の胴体枢要



部において関節の可動部分が多すぎ,かえって,ユーザーが人形を

抱いたり,椅子に座らせておくといった場合に,人形のポーズを決
めにくくなるという問題があり,また,実際の人体においても,腰

の回動は,背骨全体が捩じれるようにして腰の線と肩の線が変位す

るものであるから,人形の上記部分が回動するのは,人体の動きと

して不自然であることも判明した。

そこで,被告は,イ号製品において,人形としての安定感や扱い

易さ,更には動きの自然さといった観点から,あえて上記部分の回
動を規制したものであるところ,このように上記部分の回動をあえ

て規制することの積極的な技術的意義については,当業者が容易に

想到し得なかったものである。

したがって,イ号製品は,本件発明1との相違部分について置換

が容易であるとの要件(第3要件)を欠くものである。

(d) 公知技術からの容易推考性の存在
イ号製品の構成は,以下のとおり,本件出願1の出願前の平成9

年11月ころに日本国内において発売された第1商品から容易に

推考し得るものであるから,第4要件を欠くものである。

@ 第1商品(乙65の1ないし20) アニメキャラクター
は, 「第

3使徒サキエル」を模した人形であり,外皮と,外皮とは別体で

外皮によって覆われる骨格構造を備えている。また,当該外皮は,
ソフトビニル製である。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件A,B及びL

の構成を備えている。

A 第1商品の骨格構造は,別紙第1商品の構成図(1)ないし(3)

のとおり,左右の脚部骨格と,左右の脚部骨格が連結される胴体

部骨格と,胴体部骨格と連結される左右の腕部骨格とによって構



成されている。

そして,別紙第1商品の構成図(2)に示す各部材について,胴
体部骨格を構成する一方側腕部骨格連結部材と他方側腕部骨格

連結部材(以下,これらを併せて「両側腕部骨格連結部材」とい

う。),逆T字状部材,U字状部材,逆U字状部材,上側ブロッ

ク部材,棒状部材,下側ブロック部材及び脚部骨格連結部材の上

部を連結させた部材を「胴部骨格」とみなし,脚部骨格連結部材

の下部を「腰部骨格」とみなすと,第1商品の胴体部骨格は,「左
右の腕部骨格と連結される胴部骨格」と,「左右の脚部骨格と連

結される腰部骨格」とが連結して構成されているといえる。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件CないしGの

構成を備えている。

B 第1商品の胴部骨格を構成する逆U字状部材,上側ブロック部

材,棒状部材,下側ブロック部材及び脚部骨格連結部材の上部を
連結させた部材を「腹骨格部」とみなし,両側腕部骨格連結部材,

逆T字状部材及びU字状部材を連結させた部材を「胸骨格部」と

みなすと,第1商品の胴部骨格は,「腰部骨格と連結される腹骨

格部」と,「腹骨格部と連結される胸骨格部」とから構成されて

いるといえる。

また,腹骨格部を構成する逆U字状部材は,胸骨格部を構成す
るU字状部材の軸受孔に突起軸を差し込むことによって回動可

能に連結されている。

そうすると,第1商品の胴部骨格は,「腰部骨格と連結される

腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格

によって駆動可能に構成されて」いるといえる。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Hの構成を備



えている。

C 第1商品の腹骨格部を構成する脚部骨格連結部材の上部を「腰
部骨格連結部」とみなし,逆U字状部材を「胸部骨格連結部」と

みなすと,第1商品の腹部骨格は,「その一端側に腰部骨格連結

部を備えるとともに,他端側に胸部骨格連結部を備え」ていると

いえる。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Iの構成を備

えている。
D 第1商品の腰部骨格連結部を構成する脚部骨格連結部材の上

部は,下側ブロック部材の対軸を挟み込むことによって,腹骨格

部と揺動可能に連結されている。

また,腰部骨格連結部を構成する脚部骨格連結部材の上部は,

腰部骨格連結部を構成する脚部骨格連結部材の下部と一体的に

形成され,回動不可能とされている。
したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Iの構成のう

ち,腰部骨格連結部が「腹骨格部との連結部において揺動可能に

連結」されているとの構成を備えているが,腰部骨格連結部にお

ける「回動可能に嵌合される第一嵌入杆」の構成を備えていない。

E 第1商品の胸部骨格連結部を構成する逆U字状部材は,腹骨格

部を構成する上側ブロック部材を挟み込むことによって,腹骨格
部と揺動可能に連結されている。

また,胸部骨格連結部を構成する逆U字状部材は,胸骨格部を

構成するU字状部材の軸受孔に突起軸を差し込むことによって

回動可能に連結されている。

そうすると,第1商品の胸部骨格連結部は,「腹骨格部との連

結部において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた



嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え」ている。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Kの構成を備
えている。

F 以上によれば,第1商品は,腰部骨格連結部における「回動可

能に嵌合される第一嵌入杆」の構成(構成要件J)を欠く点を除

き,本件発明1の構成をすべて備えているものといえる。

そして,以上を前提に第1商品とイ号製品とを対比すると,両

者は,腰部骨格連結部における「回動可能に嵌合される第一嵌入
杆」の構成(構成要件J)を欠く点を除き,本件発明1の構成を

すべて備えている点で一致し,(T)人形の寸法,(U)腰部用連結

部(腰部骨格連結部)と腰部骨格の連結方法(第1商品では,腰

部骨格連結部と腰部骨格が一体的に形成されて回動不可能とさ

れているのに対し,イ号製品では,腰部用連結部の嵌合部が腰部

骨格にある腹部用連結部の嵌合部受けに回動不可能に嵌合され
ている。)の点で相違する。

しかるところ,これらの相違点は,当業者が適宜設計し得る事

項にすぎない。

したがって,イ号製品は,公知技術である第1商品から容易に

推考し得たものといえる。

(e) 意識的除外の存在
本件発明1の構成要件Jの腰部骨格連結部における「回動可能に

嵌合される第一嵌入杆」の構成は,本件出願1の出願時における特

請求の範囲の請求項1には全く記載がなかったが(「…,腰部骨

格は,…胴部骨格の下端側と連結する胴部下端骨格連結部とを備え

て構成され,」との記載があるのみであった。),平成17年5月

17日付け手続補正書によって追加されたものである。すなわち,



原告は,上記手続補正において,腹骨格部の一端側に備えた腰部骨

格連結部と腰部骨格の胴部下端骨格連結部との連結の態様を,嵌入
杆を嵌合穴に嵌合するものに限定し,かつ,それが回動可能なもの

に限定したものである。

してみると,原告は,本件特許1の出願経過において,胴部骨格

と腰部骨格との連結態様につき,嵌合方式ではあるものの,回動し

ない構成のものは,本件発明1の技術的範囲から意識的に除外した

ものというべきである。
したがって,腰部骨格連結部における「回動可能に嵌合される第

一嵌入杆」の構成(構成要件J)を欠くイ号製品は,本件発明1の

技術的範囲から意識的に除外された構成のものに当たり,均等の第

5要件を欠くものである。

c 小括

以上のとおり,イ号製品は,本件発明1の構成要件H,JないしL
をいずれも充足せず,また,均等侵害も成立しないから,本件発明1

技術的範囲に属さない。

(イ) ロ号製品

構成要件充足性

ロ号製品は,以下のとおり,本件発明1の構成要件B,H,Jない

しLをいずれも充足しない。
(a) 構成要件Bの非充足

本件明細書1には,全高60p程度以上の人形についての作用効

果のみが明示されていることからすると,構成要件Bの「大型人形」

とは,全高60p程度以上の人形に限定されるものと解されるとこ

ろ,ロ号製品の全高は370oにすぎないから,構成要件Bの「大

型人形」とはいえない。



したがって,ロ号製品は,本件発明1の構成要件Bを充足しない。

(b) 構成要件H,J及びKの非充足
ロ号製品が,本件発明1の構成要件H,J及びKを充足しないこ

とは,イ号製品の場合(前記(ア)a(a)ないし(c))と同様である。

(c) 構成要件Lの非充足

ロ号製品が,本件発明1の構成要件Lのうち,「ソフトビニル製」

でないことは,前記(ア)a(d)のとおりであり,また,「大型」可

動人形に当たらないことは,上記(a)のとおりである。
したがって,ロ号製品は,本件発明1の構成要件Lを充足しない。

均等侵害について

ロ号製品が,腰部骨格連結部における「回動可能に嵌合される第一

嵌入杆」の構成を欠く点を除き,本件発明1の構成要件をすべて充足

するとしても,ロ号製品について,原告主張の均等侵害が成立しない

ことは,イ号製品の場合(前記(ア)b)と同様である。
c 小括

以上のとおり,ロ号製品は,本件発明1の構成要件B,H,Jない

しLをいずれも充足せず,また,均等侵害も成立しないから,本件発

明1の技術的範囲に属さない。

イ 本件発明2について

被告各製品(イ号製品及びロ号製品)は,以下のとおり,本件発明2の
技術的範囲に属さない。

(ア) 本件発明2における「上半身部品」及び「下半身部品」の意義

本件明細書2の段落【0001】では,「上半身部品」と「下半身部

品」について,「なお,本明細書において,「上半身部品」とは,腰よ

り上の部分をいい,「下半身部品」とは腰から下の部分(腰部含む)を

いうものとする。」と定義づけられている。



また,本件明細書2の段落【0010】及び本件発明2の実施形態を

示す図1においては,符号2の腰部と符号1の脚部とが「下半身部品」,
符号46の腹部より上位部が「上半身部品」とされている。

このような本件明細書2の記載によれば,本件発明2における「上半

身部品」と「下半身部品」の境目は,腰部と腹部の間とされているもの

といえる。

(イ) 構成要件の非充足

被告各製品の胴体部は,別紙イ号製品の構成図(1)及びロ号製品の構
成図(1)のとおり,いずれも骨盤よりはるか上位の「みぞおち」付近

で,「胸部」以上の「上胴部」と,腹部以下の「下胴部」とが連結され

ているところ,原告は,上記「上胴部」を「上半身部品」,上記「下胴

部」を「下半身部品」と決めつけ,これを前提に,本件発明2の各構成

要件充足の主張を展開している。

しかし,このような「上半身部品」及び「下半身部品」のとらえ方は,
上記のとおり,本件明細書2の記載から導かれる「上半身部品」 「下
及び

半身部品」の意義を全く無視したものであり,その結果,原告の構成要

件充足性の主張は,「上半身部品」と「下半身部品」に関連するすべて

構成要件において失当であって,被告各製品は,本件発明2の各構成

要件をいずれも充足しない。

(ウ) 作用効果の不奏功
a 本件明細書2の「発明の効果」の記載(段落【0007】)からす

れば,本件発明2の可動人形用胴体においては,「人間的なリアルな

動き」や「肌表情」が表現できる構成のものであること及びその上半

身部品が「一体成形」されたものであることが求められることが分か

る。

そして,ここで言う「人間的なリアルな動き」や「肌表情」に関す



る本件明細書2の記載(段落【0015】)をみれば,本件発明2の

目的とするところは,上半身本体を一体成形することにより,上半身
部品を回転させたときに,皮膚(外皮)の捩れを表現することにある

といえる。すなわち,本件明細書2の段落【0003】ないし【00

05】の記載等によれば,従来の可動人形用胴体において,分割成形

された前面側(腹側)と背面側(背中側)とを貼り合わせた場合に生

じる接合線の解消については先願発明があるものの,いまだ解決され

ていない課題として,上半身本体(外皮)の捩れの表現の問題があっ
たところ,本件発明2は,その各構成要件を備えることにより,この

ような外皮の捩れを表現できるようにした点に技術的意義があるも

のと理解できる。

このように,本件発明2においては,上半身部品を捩った場合に,

腹部付近で皮膚に相当する「軟質製本体」が捩れるという効果を実現

することを正に目的としているのであり,これこそが本件発明2の効
果とされる「人間的なリアルな動き」あるいは「肌表情」の表現が意

味するところである。

b しかるところ,被告各製品においては,「腹部」及び「胸部」が一

体成形された「軟質製本体」(上半身部品)が存在しない。

そして,被告各製品においては,「腹部骨格」と「腰部骨格」が一

体で(下胴部),胸部骨格において上胴部骨格と連結されており,そ
のそれぞれに別体である外皮(上胴部外皮,下胴部外皮)が被せられ

ている結果,上胴部外皮と下胴部外皮とが,それぞれ別個独立に回転

する構造になっている。その結果,被告各製品においては,腹部付近

における外皮の捩れは全く生じない。

このように,被告各製品は,本件発明2に特有の作用効果を奏しな

いものであるから,そのようなものが,本件発明2の技術的範囲に属



することはあり得ない。

2 争点2(本件各特許権に基づく権利行使の制限の成否)について
(1) 被告の主張

本件各発明に係る本件各特許には,それぞれ以下のとおりの無効理由があ

り,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条

の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件各特許権を行使するこ

とができない。

ア 本件特許1について
(ア) 無効理由1(新規性の欠如)

本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の出願前の平成9年11月

ころに日本国内において発売されたバンダイの製造・販売に係

る「LIMITED MODEL HG SERIES 11 第3使徒サキエル」という商品名の

プラモデル(第1商品)に係る発明(以下「第1商品発明」という。)

と同一であるから,本件発明1に係る本件特許1には,特許法29条
項2号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

a 本件発明1と第1商品との対比

(a) 第1商品(乙65の1ないし20) アニメキャラクター
は, 「第

3使徒サキエル」を模した人形であり,外皮と,外皮とは別体で外

皮によって覆われる骨格構造を備えている。また,当該外皮は,ソ

フトビニル製である。
したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件A,B及びLの

構成を備えている。

(b) 第1商品の骨格構造は,別紙第1商品の構成図(1)ないし(3)

のとおり,左右の脚部骨格と,左右の脚部骨格が連結される胴体部

骨格と,胴体部骨格と連結される左右の腕部骨格とによって構成さ

れている。



そして,別紙第1商品の構成図(2)に示す各部材について,胴体

部骨格を構成する両側腕部骨格連結部材,逆T字状部材,U字状部
材,逆U字状部材,上側ブロック部材及び棒状部材を連結させた部

材を「胴部骨格」とみなし,下側ブロック部材及び脚部骨格連結部

材を連結させた部材を「腰部骨格」とみなすと,第1商品の胴体部

骨格は,「左右の腕部骨格と連結される胴部骨格」と,「左右の脚

部骨格と連結される腰部骨格」とが連結して構成されているといえ

る。
したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件CないしGの構

成を備えている。

(c) 第1商品の胴部骨格を構成する逆T字状部材,U字状部材,逆

U字状部材,上側ブロック部材及び棒状部材を連結させた部材

を「腹骨格部」とみなし,両側腕部骨格連結部材を連結させた部材

を「胸骨格部」とみなすと,第1商品の胴部骨格は,「腰部骨格と
連結される腹骨格部」と,「腹骨格部と連結される胸骨格部」とか

ら構成されているといえる。

また,腹骨格部を構成する逆T字状部材は,胸骨格部を構成する

両側腕部骨格連結部材の連通孔に連通軸を差し込むことによって,

胸骨格部と回動可能に連結されている。

そうすると,第1商品の胴部骨格は,「腰部骨格と連結される腹
骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によ

って駆動可能に構成されて」いるといえる。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Hの構成を備え

ている。

(d) 第1商品の腹骨格部を構成する部材のうち,上側ブロック部材

及び棒状部材を連結させた部材を「腰部骨格連結部」とみなし,逆



T字状部材を「胸部骨格連結部」とみなすと,第1商品の腹部骨格

は,「その一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端側に胸
部骨格連結部を備え」ているといえる。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Iの構成を備え

ている。

(e) 第1商品の腰部骨格連結部を構成する上側ブロック部材は,腹

骨格部を構成する逆U字状部材の逆U字状溝部に対軸を挟み込む

ことによって,腹骨格部と揺動可能に連結されている。
また,腰部骨格連結部を構成する棒状部材は,腰部骨格を構成す

る下側ブロック部材の貫通孔に下端を差し込むことによって,腰部

骨格と回動可能に連結されている。

そうすると,第1商品の腰部骨格連結部は,「腹骨格部との連結

部において揺動可能に連結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部

下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備
え」ているといえる。

したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Jの構成を備え

ている。

(f) 第1商品の胸部骨格連結部を構成する逆T字状部材は,腹骨格

部を構成するU字状部材のU字状溝部に対軸を挟み込むことによ

って,腹骨格部と揺動可能に連結されている。
また,胸部骨格連結部を構成する逆T字状部材は,胸骨格部を構

成する両側腕部骨格連結部材の連通孔に連結軸を差し込むことに

よって,胸骨格部と回動可能に連結されている。

そうすると,第1商品の胸部骨格連結部は,「腹骨格部との連結

部において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合

穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え」ているといえる。



したがって,第1商品は,本件発明1の構成要件Kの構成を備え

ている。
b 小括

以上によれば,第1商品は,本件発明1の各構成要件に係る構成を

すべて備えており,本件発明1は,本件出願1の出願前に公然実施

された第1商品発明と同一のものであるから,新規性が欠如してい

る。

(イ) 無効理由2(進歩性の欠如)
a 無効理由2−1

本件発明1は,以下のとおり,当業者が,第1商品発明及び本件出

願1の出願前に頒布された刊行物である特開平6−23154号公

報(乙67)に記載された発明(以下「乙67発明」という。)に基

づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1に

係る本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法1
23条1項2号)がある。

(a) 本件発明1と第1商品との対比

仮に,本件発明1と第1商品との間に相違点が認められるとして

も,それは,本件発明1では,「腰部骨格連結部」が,「腰部骨格

に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第

一嵌入杆を備え」る構成を有するのに対し,第1商品では,腰部骨
格連結部を構成する脚部骨格連結部材の上部が,腰部骨格を構成す

る脚部骨格連結部材の下部と一体に形成されているため,上記構成

を有しないという点に限られ,その余の構成は一致する。

その詳細は,前記1(2)ア(ア)b(d)に述べたとおりである。

(b) 相違点の容易想到性

@ 乙67の記載事項



乙67には,「請求項1」として,「連結した各部材の屈曲,

回動部分を変化させることによって,多様な形の骨組を形成する
人体像制作用芯材」(2頁左欄2行〜4行)が記載されている。

乙67の段落【0004】ないし【0006】によれば,乙

67の「人体像制作用芯材」の構成は,次のとおりである(各部

材の符号については,乙67の図1及び図2参照)。

T 乙67の「人体像制作用芯材」は,RF1〜9の各部材を連

結してなる右の脚部骨格と,LF1〜9の各部材を連結してな
る左の脚部骨格と,S20〜S24の各部材を連結してなる腰

部骨格と,S6〜S19の各部材を連結してなる胴部骨格と,

RH1〜9の各部材を連結してなる右の腕部骨格と,LH1〜

9の各部材を連結してなる左の腕部骨格とから構成されてい

る。

U 胴部骨格は,S7〜S19の各部材を連結してなる腹骨格部
と,S6の部材からなる胸骨格部とから構成されている。

腹骨格部は,一端側にS18からなる腰部骨格連結部を備え

るとともに,他端側にS7からなる胸部骨格連結部を備えてい

る。

腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部においてS19を回

転軸として揺動可能に連結されるとともに,腰部骨格に備えた
嵌入杆に回動可能に嵌合される嵌合穴を備えている。

V 胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部においてS9を回転

軸として揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌

入杆に回動可能に嵌合される嵌合穴を備えている。

W 上記各部材の連結した部分は,多少力を加えないと動かない

半固定状態で屈曲や回動をする。



A 容易想到性

前記(a)のとおり,第1商品は,「腰部骨格連結部」が,「腰
部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合

される第一嵌入杆を備え」ていない点で本件発明1と相違すると

ころ,乙67の「人体像制作用芯材」においては,腰部骨格連結

部に対応するS18が,腰部骨格に対応するS20〜S24の中

のS20に備えた嵌入杆に回動可能に嵌合される嵌合穴を備え

ている。
しかるところ,乙67の「人体像制作用芯材」と第1商品とは,

外皮によって覆われた人形を構成する骨格構造である点で共通

しており,また,乙67の「人体像制作用芯材」の「腰部骨格連

結部と腰部骨格の連結構造」を第1商品に適用することについて

は,何らの阻害事由もないことから,第1商品に乙67記載の「腰

部骨格連結部と腰部骨格との連結構造」の構成を適用し,「腰部
骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合さ

れる第一嵌入杆を備え」る構成(上記相違点に係る本件発明1の

構成)とすることは,当業者であれば容易に想到できたものであ

る。

なお,本件発明1においては,腰部骨格連結部の第一嵌入杆と

腰部骨格の嵌合穴を嵌合させているのに対し,乙67において
は,腰部骨格連結部の嵌合穴と腰部骨格の嵌入杆を嵌合させてお

り,嵌合穴と嵌入杆の位置関係が逆転しているが,嵌合穴と嵌合

杆の位置関係を入れ替えることは,当業者にとって容易に考えら

れる設計変更にすぎない。

(c) 小括

したがって,本件発明1は,当業者が,第1商品発明及び乙67



発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進

歩性が欠如している。
b 無効理由2−2

本件発明1は,以下のとおり,当業者が,乙67発明及び周知技術

に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明

1に係る本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同

123条1項2号)がある。

(a) 本件発明1と乙67発明との対比
本件発明1と乙67発明とは,@本件発明1では,骨格構造がソ

フトビニル製の外皮で覆われているのに対し,乙67の「人体像制

作用芯材」 ソフトビニル製の外皮によって覆われていない点
は, (以

下「相違点@」という。),A本件発明1では,腰部骨格連結部及

び胸部骨格連結部に嵌入杆が形成され,腰部骨格及び胸部骨格に嵌

合穴が形成されているのに対し,乙67の「人体像制作用芯材」で
は,腰部骨格連結部及び胸部骨格連結部に嵌合穴が形成され,腰部

骨格及び胸部骨格に嵌入杆が形成されており,嵌合穴と嵌入杆の位

置関係が逆転している点(以下「相違点A」という。)において相

違するが,その余の構成は一致する。

(b) 相違点の容易想到性

@ 相違点@について
人形の骨格構造をソフトビニル製の外皮によって覆うこと(相

違点@に係る本件発明1の構成)は,本件出願1の出願当時,周

知であった(例えば,第1商品,乙69,70)。

また,乙67の段落【0005】には,「制作するモデルに従

って,もしくは想像して,各々屈曲,回動部分を適当な位置に動

かし,全体の形を形成し固定する。尚,形成後基台A1に接して



いる部分は基台A1に固定する。そして人体の肉部分,被服部分

に相当する被覆部分,頭,手部分の制作にはいる。」と記載され
ており,「人体像制作用芯材」を外皮によって覆うことが示唆さ

れている。

したがって,当業者であれば,乙67の「人体像制作用芯材」

に上記周知技術を適用することは,容易に想到できたものであ

る。

A 相違点Aについて
乙67の「人体像制作用芯材」において,腰部骨格連結部と腰

部骨格の間及び胸部骨格連結部と胸部骨格の間で,嵌合穴と嵌入

杆を入れ替えて設けること(相違点Aに係る本件発明1の構成)

は,当業者とって容易に考えられる設計変更にすぎない。

(c) 小括

したがって,本件発明1は,当業者が,乙67発明及び周知技術
に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性

が欠如している。

c 無効理由2−3

本件発明1は,以下のとおり,当業者が,本件出願1の出願前の平

成13年に日本国内において発売されたバンダイの製造・販売に係

る「マジンガーZ EXTRA HEAVY VERSION」という商品名のプラモデ
ル(乙68の1ないし10。 「第2商品」
以下 という。 に係る発明
) (以

下「第2商品発明」という。),乙67発明及び周知技術に基づいて

容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1に係る本

件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条

1項2号)がある。

(a) 本件発明1と第2商品との対比



第2商品は,アニメキャラクター「マジンガーZ」を模したプラ

スチックキットであり,組み立てられた状態において合成ゴム製の
外皮及びスチロール樹脂製の外皮によって覆われた骨格構造を備

えたものである。

そして,本件発明1と第2商品とは,@本件発明1では,外皮が

ソフトビニル製であるのに対し,第2商品では,外皮がソフトビニ

ル製でない点(以下「相違点@」という。),A本件発明1では,

腰部骨格連結部と腰部骨格が嵌合穴と嵌入杆の嵌合によって回動
可能に連結されているのに対し,第2商品では,腰部骨格連結部が

腰部骨格と一体的に形成され,上記のように回動可能に連結されて

いない点(以下「相違点A」という。),B本件発明1では,胸部

骨格連結部と胸部骨格が嵌合穴と嵌入杆の嵌合によって回動可能

に連結されているのに対し,第2商品では,胸部骨格連結部が胸部

骨格と一体的に形成され,上記のように回動可能に連結されていな
い点(以下「相違点B」という。)において相違するが,その余の

構成は一致する。

(b) 相違点の容易想到性

@ 相違点@について

前記b(b)@のとおり,人形の骨格構造をソフトビニル製の外

皮によって覆うこと(相違点@に係る本件発明1の構成)は,本
件出願1の出願当時周知であったことからすると,第2商品にお

いて,合成ゴム製及びスチロール製樹脂の外皮に代えて,上記周

知技術を適用することは,当業者において容易に想到できたもの

である。

A 相違点A及びBについて

乙67には,人形の骨格構造において,腰部骨格連結部と腰部



骨格を嵌合穴と嵌入杆の嵌合によって回動可能に連結するこ

と(相違点Aに係る本件発明1の構成),胸部骨格連結部と胸部
骨格を嵌合穴と嵌入の嵌合杆によって回動可能に連結するこ

と(相違点Bに係る本件発明1の構成)が開示されている。

第2商品に乙67の上記開示事項を適用することは,当業者に

おいて容易に想到できたものである。

(c) 小括

したがって,本件発明1は,当業者が,第2商品発明,乙67発
明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたもので

あるから,進歩性が欠如している。

(ウ) 無効理由3(明確性要件違反)

本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,腰部骨格連結部と腹

骨格部の連結部の動作及び胸部骨格連結部と腹骨格部の連結部の動作

を表現する言葉として「揺動可能」なる文言が使用されている。
しかし,本件明細書1(甲1)の発明の詳細な説明の記載をみても,

上記各動作を表現する用語として「揺動可能」なる文言が一切使用され

ていないため,上記「揺動可能」との文言がどのような動作を示してい

るのかが不明である。

したがって,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,特許を受

けようとする発明が明確ではないから,本件発明1に係る本件特許1に
は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に

対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。

イ 本件発明2について

(ア) 無効理由1(進歩性の欠如)

本件発明2は,以下のとおり,当業者が,@本件出願2の原出願(特

願2002−121326号。以下「本件原出願」という。)の出願前



に日本国内において発売された株式会社メディコム・トイの製造・販売

に係る「REAL ACTION HEROES DevilMan COMIC VERSION」という商品名の
人形(乙89の1,2,検乙1。以下「第3商品」という。)に係る発

明(以下「第3商品発明」という。),A本件原出願の出願前に日本国

内において発売された被告の製造・販売に係る「幻の素体−A」という

商品名の人形(乙93の1,2。以下「第4商品」という。)に係る発

明(以下「第4商品発明」という。)又は株式会社壽屋の製造・販売に

係る「ACTIVE STYLING FIGURE SERIES NO.5 BATTLE ATHLETESS 大運動会
神崎あかり 訓練校服バージョン」という商品名の人形(乙97の1,

2。以下「第5商品」という。)に係る発明(以下「第5商品発明」と

いう。),及びB周知技術に基づいて,容易に発明をすることができた

ものであるから,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条2項

に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

a 本件発明2と第3商品との対比
本件発明2と第3商品(乙89の1,2,検乙1)とを対比すると,

以下のとおりの一致点及び相違点がある。

(a) 一致点

@ 上半身部品(上半身部材及び上半身カバー部材)と下半身部

品(腰部材)が別成形されるとともに,上半身部品(上半身部材

及び上半身カバー部材)と下半身部品(腰部材)とが,揺動可能,
かつ分離・組み立て可能に連結される可動人形用胴体である点

A 下端に開口を設けた中空の軟質製本体(上半身カバー部材)を

備える点

B 軟質製本体(上半身カバー部材)内に嵌入して内装される硬質

材料製の芯材(上半身部材)とで構成されている点

C 芯材(上半身部材)は,下半身部品(腰部材)と揺動可能かつ



分離・組み立て可能に連結する下半身連結部材(略逆T字状の乳

白色の部材)を備える点
D 下半身連結部材(略逆T字状の乳白色の部材)は,下半身部

品(腰部材)の上端と対向し,軟質製本体(上半身カバー部材)

下端の開口に位置して備えられている点

E 下半身部品(腰部材)は,腰部本体と,前記腰部本体内に備えら

れ,下半身連結部材(略逆T字状の乳白色の部材)を連結可能な

上半身部品連結構造(腰部材の「ねじ」,略逆T字状の乳白色の
部材の突起部分が嵌め込まれる「腰部材の突起の略円形の開口」,

略逆T字状の乳白色の部材の略逆T字の縦棒部分の柱状体が挿

入される「腰部材の前面部及び背面部を組み合わせたときに腰部

材の前面部の板状突出部と腰部材の背面部の板状突出部と間に

形成される隙間」)を備える点

(b) 相違点
@ 相違点@

中空の軟質製本体(上半身カバー部材)について,本件発明2

では,スラッシュ成形により成形された塩化ビニル樹脂製である

のに対し,第3商品では,このような限定がない点

A 相違点A

硬質材料製の芯材(上半身部材)について,本件発明2では,
合成樹脂製であるのに対し,第3商品では,合成樹脂製であるの

か否かが不明である点

B 相違点B

本件発明2では,腰部本体が一体成形されたものであり,下半

身連結部材と上半身部品連結構造とは,円柱状の棹部と,該棹部

を嵌合し,上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状



の差込み穴とによって構成されているのに対し,第3商品では,

このような構成を有せず,腰部材は前面部と背面部がねじによっ
て組み立てられるものであり,上半身部材と腰部材との連結構造

が,組み立て状態において腰部材のねじを外すことによって腰部

材の前面部と背面部とが分離して組み立て状態から腰部材を取

り外すことができ,組み立て状態から腰部材を取り外すと上半身

部材の下端の開口から略逆T字状の乳白色の部材が突出してお

り,組み立て状態から腰部材を取り外した状態において,略逆T
字状の乳白色の部材から脚部材を取り外すことができることと

なっている点。

b 相違点の容易想到性

(a) 相違点@について

人形制作の材質 手法としてスラッシュ成形により成形されたポ


リ塩化ビニルを採用することは,本件原出願の出願当時,周知技術
であった(例えば,乙17,18,101,102)。

そして,第3商品の上半身カバー部材も中空の軟質部材であるこ

とは明らかであるから,これを制作するに際して上記周知技術を適

用し,相違点@に係る本件発明2の構成とすることは,当業者にお

いて容易に想到できたものである。

(b) 相違点Aについて
人形の分野において,硬質の部材の材料として合成樹脂を採用す

ることは,本件原出願の出願当時,周知技術であった。

そして,第3商品の上半身部材も硬質材料製であるから,これを

製作するに際して上記周知技術を適用し,相違点Aに係る本件発明

2の構成とすることは,当業者において容易に想到できたものであ

る。



(c) 相違点Bについて

第4商品及び第5商品においては,「腰部本体」がいずれも「一
体成形された」ものであり,また,腹部と腰部との連結構造におい

ても,腹部において棒状部材を抜き差し可能に連結させる構造が採

用されており,相違点Bに係る本件発明2の構成と同様の構成を備

えている。

このように,相違点Bの構成は,第4商品及び第5商品で採用さ

れている連結構造を当てはめるだけで実現できるものであるから,
第3商品において第4商品又は第5商品が採用する上記構成を適

用することは,当業者において容易に想到できたものである。

c 小括

以上によれば,本件発明2は,当業者が,第3商品発明と第4商品

発明又は第5商品発明及び周知技術に基づいて,容易に発明すること

ができたものであるから,進歩性が欠如している。
(イ) 無効理由2(明確性要件違反)

本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)には,「軟質

製本体」なる文言が使用されている。

しかし,本件明細書2(甲40)の発明の詳細な説明の記載をみる

と,「軟質製本体」なる文言とは異なる「上半身部品本体41」なる文

言が多用されており(段落【0013】,【0014】等),本件訂正
後の請求項1における「軟質製本体」なる文言が,本件明細書2の発明

の詳細な説明におけるどの文言に該当するのかが不明瞭である。

したがって,本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)

は,特許を受けようとする発明が明確ではないから,本件発明2に係る

本件特許2には,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていな

い特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。



(2) 原告の主張

ア 本件発明1について
(ア) 無効理由1(新規性の欠如)に対して

a 本件発明1と第1商品とを対比すると,両者の間には,目的,構成

及び作用効果につき,次のような相違点がある。

(a) 第1商品は,「プラスチックキット」として販売されているも

のであって,所定の目的・作用効果を発揮するための構成を備え

た「可動人形」(構成要件L)ではない点において,本件発明1と相
違する。

(b) 本件発明1の骨格構造によれば,本件発明1に係る可動人形は

自立できるものであるが,第1商品を組み立てたものは自立できな

いものであるから,この点において,本件発明1と相違する。

(c) 第1商品を組み立てたものは,「骨格構造」が「外皮」を「着

る」又は「取り付ける」だけであり,「外皮」に覆われてはおらず,
足首部や手首部は「外皮」からはみ出している。

したがって,第1商品を組み立てたものは,外皮に覆われ」「骨
「 た

格構造」(構成要件B)ではない点において,本件発明1と相違す

る。

(d) 第1商品を組み立てたものは,「大型人形」(構成要件B,L)

とはいえず,また,一般に「可動人形」(構成要件L)と称される
範疇のものともいえない点において,本件発明1と相違する。

(e) 第1商品を組み立てたものは,「腹骨格部」が「他端側に胸部

骨格連結部を備え」るとの構成(構成要件I)を備えていない点に

おいて,本件発明1と相違する。

この点に関し,被告は,第1商品における逆T字状部材,U字状

部材,逆U字状部材,上側ブロック部材及び棒状部材を連結させた



部材を「腹骨格部」とみなし,両側腕部骨格連結部材(一方側腕部

骨格連結部材と他方側腕部骨格連結部材)を連結させた部材を「胸
骨格部」とみなすとした上で,上記逆T字状部材を「胸部骨格連結

部」とみなすことを前提に,第1商品が本件発明1の構成要件Iの

構成を備えている旨主張する。

しかしながら,第1商品においては,一方側腕部骨格連結部材と

他方側腕部骨格連結部材をそれぞれ鉛直方向で重ね合わせるとと

もに,蓋部材の内面に設けられている貫通していない孔部と,一方
側腕部骨格連結部材及び他方側腕部骨格連結部材のそれぞれに設

けられている貫通した孔部を連通させてなる連通孔に,逆T字状部

材の連通軸を差し込んではじめて連結固定するものであり,逆T字

状部材を組み込むことで初めて「胸骨格部」が形成されると考える

のが相当であるから,逆T字状部材は,胸骨格部を構成する部材で

あって,「腹骨格部」に備えられる「胸部骨格連結部」に当たるも
のではない。

したがって,被告の上記主張は失当である。

(f) 第1商品を組み立てたものは,「腰部骨格連結部は,腹骨格部

との連結部において揺動可能に連結される」との構成(構成要件J)

を備えていない点において,本件発明1と相違する。

この点に関し,被告は,第1商品の「腰部骨格連結部」を構成す
る上側ブロック部材は,「腹骨格部」を構成する逆U字状部材の逆

U字状溝部に対軸を挟み込むことによって,腹骨格部と「揺動可能」

に連結されている旨主張する。

しかしながら,第1商品を組み立てたものにおいて,上側ブロッ

ク部材は,「腹骨格部」を構成する逆U字状部材の逆U字状溝部に

対軸を挟み込むことによって,「前後方向」で「回動可能」に連結



されるものの,左右方向に揺れ動くことはできないから,「揺動可

能」に連結されるものとはいえない。
したがって,被告の上記主張は失当である。

(g) 第1商品を組み立てたものは,前記(e)のとおり,「胸部骨格

連結部」を有しておらず,そのため,「胸部骨格連結部」は,「腹

骨格部との連結部において揺動可能に連結される」との構成(構成

要件K)を備えていない点において,本件発明1と相違する。

b 以上によれば,本件発明1は,第1商品発明と同一の発明ではなく,
新規性を欠くものではないから,被告主張の無効理由1は理由がな

い。

(イ) 無効理由2(進歩性の欠如)に対して

a 無効理由2−1に対して

被告は,本件発明1と第1商品との相違点について,第1商品が,

本件発明1における「腰部骨格連結部」が「腰部骨格に備えた胴部下
端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え」る

との構成を有しない点に限られるとし,他方,乙67の「人体像製造

用芯材」は当該構成を備えているとした上で,当業者において,第1

商品及び乙67発明に基づいて本件発明1を容易に想到できた旨を

主張する。

しかしながら,本件発明1と第1商品との相違点は,前記(ア)aの
とおり多数に上るものである。そして,これらの相違点に係る本件発

明1の構成を第1商品に適用することが,当業者において容易に想到

できたことを認めるに足りる事情はない。

また,乙67をみても,乙67の「人体像製造用芯材」が,「腰部

骨格連結部」 「腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回


動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え」るとの構成を有することを示



す明確な記載はないから,この点においても,被告の上記主張は,そ

の前提を欠いている。
したがって,被告主張の無効理由2−1は理由がない。

b 無効理由2−2に対して

被告は,本件発明1と乙67発明との相違点は,被告主張の相違点

@及びAに限られるとした上で,乙67発明に上記相違点に係る構成

を適用し,本件発明1に想到することは,当業者において容易であっ

た旨を主張する。
しかしながら,乙67をみても,乙67の「人体像製造用芯材」に

おいて,「腰部骨格連結部」が,「腹骨格部との連結部において揺動

可能に連結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の

嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え」るとの構成(構成

要件J)や,「胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動

可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌
合される第二嵌入杆を備え」るとの構成(構成要件K)を有すること

を示す明確な記載はないから,乙67発明は,これらの構成を欠く点

においても,本件発明1と相違している。

そして,これらの相違点に係る本件発明1の構成を乙67発明に適

用することが,当業者において容易に想到できたことを認めるに足り

る事情はない。
したがって,被告主張の無効理由2−2は理由がない。

c 無効理由2−3に対して

被告は,本件発明1と第2商品との相違点は,被告主張の相違点@

ないしBに限られるとした上で,第2商品発明に乙67発明及び周知

技術を適用し,本件発明1に想到することは,当業者において容易で

あった旨を主張する。



しかしながら,第2商品は,「プラスチックキット」として販売さ

れているものであって,所定の目的・作用効果を発揮するための構成
を備えた「可動人形」(構成要件L)ではない点において,本件発明1

と相違し,また,第2商品を組み立てたものは自立できないものであ

るから,この点においても,本件発明1と相違する。そして,これら

の相違点に係る本件発明1の構成を第2商品に適用することが,当業

者において容易に想到できたことを認めるに足りる事情はない。

また,乙67をみても,乙67の「人体像製造用芯材」が,「腰部
骨格連結部」 「腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回


動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え」るとの構成を有することを示

す明確な記載はないから,この点においても,被告の上記主張は,そ

の前提を欠いている。

したがって,被告主張の無効理由2−3は理由がない。

(ウ) 無効理由3(明確性要件違反)に対して
被告は,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)における「揺動可

能」なる文言がどのような動作を示しているのか不明である旨主張す

る。

しかしながら「揺動」とは,読んで字のごとく「揺」れ「動」くこと

を意味し,また,「揺れる」とは,「前後・左右・上下などに動く」(広

辞苑第六版)という意味であることは明らかである。
また,本件明細書1(甲1)の段落【0019】では,「腹骨格部」

と「腰部骨格連結部」 「胸部骨格連結部」
及び との各連結部分における「揺

動」の具体的な動作の一実施形態の説明として,「…腰部骨格連結部5

1と胸部骨格連結部56は,夫々が前後左右に回動可能…」との記載が

あり,この動作が「揺動」の動作を示していることは明らかである。

このように,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)における「揺



動可能」との文言の意味は明確である。

したがって,被告主張の無効理由3は理由がない。
イ 本件発明2について

(ア) 無効理由1(進歩性の欠如)に対して

a 本件発明2と第3商品との一致点及び相違点について

被告は,第3商品における「上半身カバー部材」及び「上半身部材」

が,それぞれ,本件発明2の「軟質製本体」及び「芯材」に相当する

旨主張するが,第3商品の「上半身部材」は,人形(素体)の上半身
を構成する一部分であり,本件発明2における人形の「芯材」とは構

成も機能も全く異なるものである。

また,第3商品における「上半身カバー部材」は,人形の上半身部

分に着せて所定のキャラクターの上半身を表現するための装飾部材

であり,内部に芯材を内装してなる人形の「軟質製本体」に相当する

ものではない。
したがって,第3商品は,本件発明2における「軟質製本体」 「芯
及び

材」の構成をいずれも備えていないから,本件発明2の進歩性を否定

するための主引例となり得るものではない。

b 第4商品及び第5商品について

(a) 被告は,第4商品について,本件原出願の出願前に日本国内に

おいて発売された商品である旨主張するが,その事実を認めるに足
りる証拠はない。

(b) 被告は,第4商品及び第5商品について,腹部と腰部との連結

構造において,被告主張の相違点Bに係る本件発明2の構成と同様

の構成を備えている旨主張する。

しかるところ,本件発明2においては, 「上半身部品」と「下

半身部品」との連結は,「上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離



可能」な「上半身部品」側の「円柱状の棹部」と,「下半身部品」

側の「円筒状の差込み穴」との面接触による連結(構成要件I)と
し,「上半身部品」と「下半身部品」との間の「揺動可能」(構成

要件A,D)な作動は,「上半身部品」側における「芯材」と「下

半身連結部材」との連結部分で行われるものとして,連結機能と揺

動機能を構造的に区分けしている。

これに対し,第4商品及び第5商品においては,「腹部」と「腰

部」との間で「上下方向に差込み連結かつ引き抜き分離」し得る部
分を,腹部の「筒体」と「第二連結体の球体部」との嵌合箇所(第

4商品)又は腹部の「軸受け部」と「連結体の球体部」との嵌合箇

所(第5商品)とし,かつ,「上半身部品」と「下半身部品」との

間の「揺動可能」な作動箇所も,上記各嵌合箇所としており,連結

機能と揺動機能の構造的な区分けはされていない。

したがって,第4商品及び第5商品は,腹部と腰部との連結構造
において,本件発明2と大きく相違しているから,被告主張の相違

点Bに係る本件発明2の構成を備えているものとはいえない。

c 小括

したがって,被告主張の無効理由1は理由がない。

(イ) 無効理由2(明確性要件違反)に対して

被告は,本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)にお
ける「軟質製本体」なる文言について,本件明細書2の発明の詳細な説

明の記載では,「軟質製本体」とは異なる「上半身部品本体41」なる

文言が多用されていることから,「軟質製本体」の文言の意味が不明瞭

である旨主張する。

しかしながら,本件明細書2(甲40)の段落【0010】等の記載

によれば,本件明細書2中の「上半身部品本体41」が,本件訂正後の



請求項1における「軟質製本体」に当たるものであることは明らかであ

るから,「軟質製本体」の文言の意味が不明瞭であるなどとはいえない。
したがって,本件訂正後の請求項1における「軟質製本体」との文言

の意味は明確であるから,被告主張の無効理由2は理由がない。

3 争点3(原告の損害額

(1) 原告の主張

ア 被告が被告各製品を製造・販売した行為は,原告の本件特許権1を侵害

する不法行為に当たるから,被告は原告に対し,原告が受けた損害を賠償
する義務を負う。

イ 特許法102条2項によれば,被告が被告各製品を製造・販売したこと

によって受けた利益の額は,原告が受けた上記損害の額と推定される。

しかるところ,被告が平成18年1月20日から平成21年9月30日

までの間に被告各製品を製造・販売したことによって受けた利益の額は,

それぞれ以下のとおりである。
(ア) イ号製品について

a 被告がイ号製品自体を製造・販売して得た利益額

(a) 販売数量 2万7360体

? 1体の販売価額 2万1000円

? 販売総額 5億7456万円

? 利益率 50%
(e) 利益総額 2億3728万円

b 被告がイ号製品を使用した完成品人形を販売して得た利益額

(a) 販売数量 2万7000体

? 販売総額 13億3548万円

? 利益率 60%

? 利益総額 8億0128万8000円



(イ) ロ号製品について

a 被告がロ号製品自体を製造・販売して得た利益額
(a) 販売数量 1万3440体

? 1体の販売価額 1万9800円

? 販売総額 2億6611万2000円

? 利益率 50%

(e) 利益総額 1億3305万6000円

b 被告がロ号製品を使用した完成品人形を販売して得た利益額
(a) 販売数量 6600体

? 販売総額 2億9496万円

? 利益率 60%

? 利益総額 1億7697万6000円

(ウ) 以上の合計額 13億4860万円

ウ したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を侵害する不法行為
基づく損害賠償として,上記イ(ウ)の合計額の内金5000万円及びこれ

に対する平成20年11月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みま

で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ

る。

(2) 被告の主張

原告の主張は争う。
第4 当裁判所の判断

1 争点1(本件各発明の技術的範囲の属否)について

(1) 本件発明1について

ア 被告各製品の構成要件充足性について

(ア) 被告各製品の構成等

被告各製品のうち,イ号製品(検甲2)の構成は別紙イ号製品説明書



及び別紙イ号製品の構成図(1)ないし(3)に,ロ号製品(検甲3)の構成

は別紙ロ号製品説明書及びロ号製品の構成図(1)ないし(3)に,それぞれ
記載のとおりである。

そして,被告各製品が本件発明1の構成要件A,CないしG及びIを

充足することは当事者間に争いがない。

(イ) 構成要件Bについて

a イ号製品が本件発明1の構成要件Bを充足することは当事者間に

争いがない。
b 証拠(甲4の1ないし5,6の1ないし4,検甲3)によれば,ロ

号製品(検甲3)が,ソフトビニル製の外皮とは別体で,かつ当該外

皮によって覆われた人形を構成する骨格構造を有することは明らか

である。

また,本件明細書1(甲1)の段落【0001】の「本明細書にお

いて「大型」とは,例えば全高60cm程度以上の人形をいうが,特
に限定はされず,一般的な30cm程度の人形よりも大きい人形の全

てをいう。 との記載によれば,
構成要件Bの「大型人形」とは,「全

高が30cm程度よりも大きい人形の全て」を意味するものと解され

るところ,ロ号製品は,その全高が37cmであるから,上記「大型

人形」に当たるものといえる。

したがって,ロ号製品は,本件発明1の構成要件Bを充足する。
(ウ) 構成要件Hについて

a 被告各製品の「胴部骨格」は,別紙イ号製品説明書及び別紙ロ号製

品説明書のとおり,「腹部骨格」や「胸部骨格」等の複数の骨格から

構成されており,「腹部骨格」 「腰部骨格」
は に,「胸部骨格」 「腹


部骨格」にそれぞれ連結している。

また,「腹部骨格」と「腰部骨格」との間の連結部は,後記(エ)



aのとおり「揺動可能」に構成され,また,「胸部骨格」と「腹部骨

格」との間の連結部は,後記(オ)のとおり「揺動可能」かつ「回動可
能」に構成されている。

したがって,被告各製品は,その「胴部骨格」が,「腰部骨格と連

結される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数

骨格によって駆動可能に構成されて」いるものといえる。

b これに対し,被告は,構成要件Hにおける「駆動」の用語が,「モ

ーター等の動力によって動くこと」を意味するとした上で,被告各製
品の胴部骨格は,モーター等で動く構成を有していないから,構成要

件Hを充足しない旨主張する。

しかしながら,一般に「駆動」とは,「動力を与えて動かすこ

と。」(広辞苑第六版)を意味するが,その動力の供給源は,必ずし

もモーター等に限られるものではなく,また,本件明細書1(甲1)

においても,上記「駆動」の用語を被告主張のように限定すべきこと
を明示又は示唆する記載はないから,被告の上記主張は採用すること

ができない。

したがって,被告各製品は,本件発明1の構成要件Hを充足する。

(エ) 構成要件Jについて

a(a) 被告各製品の腹部骨格の一端側にある腰部用連結部が,本件発

明1における「腰部骨格連結部」(構成要件I)に当たることは当
事者間に争いがない。

しかるところ,証拠(検甲2,3)によれば,被告各製品の「腰

部用連結部」は,「腹部骨格」との連結部において前後方向及び左

右方向に揺れ動くことが可能な状態で連結されていることが認め

られる。

したがって,被告各製品は,その「腰部骨格連結部」が,「腹骨



格部との連結部において揺動可能に連結される」構成を有している

ものといえる。
(b) これに対し,被告は,構成要件Jにおける「揺動」がいかなる

動きを意味するのかが明らかではないとして,被告各製品の腰部用

連結部が「腹骨格部との連結部において揺動可能に連結される」構

成を有しているものと認めることはできない旨主張する。

しかしながら,一般に「揺動」とは,「揺れ動くこと。揺り動か

すこと。」(広辞苑第六版)を意味するところ,本件明細書1(甲
1)の記載をみても,構成要件Jにおける「揺動」の意義を上記の

ような一般的な語義と別異に理解すべき理由は認められないから,

被告の上記主張は採用することができない。

b また,証拠(検甲2,3)によれば,被告各製品の「腰部骨格」に

ある「腹部用連結部」の「嵌合部受け」は,構成要件Jの「腰部骨格

に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴」に,また,被告各製品の「腹
部骨格」にある「腰部用連結部」の「嵌合部」は,構成要件Jの「第

一嵌入杆」にそれぞれ相当するものと認められるところ,上記「嵌合

部」は,上記「嵌合部受け」に回動しないような規制が施された状態

で嵌合されている。すなわち,被告各製品の「嵌合部」及び「腹部用

連結部」の上部(「嵌合部受け」を含む。)の各部材は,「嵌合部受

け」に対する「嵌合部」の回動が規制されるような形状とされている。
c したがって,被告各製品は,本件発明1の構成要件Jのうち,「前

記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連結さ

れるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に嵌合

される第一嵌入杆」を備えるとの構成は有しているが,「嵌合穴」

と「第一嵌入杆」との嵌合を「回動可能」なものとする構成を有して

おらず,この点において,構成要件Jを充足しない。



(オ) 構成要件Kについて

a 被告各製品の腹部骨格の一端側にある胸部用連結部が,本件発明1
における「胸部骨格連結部」(構成要件I)に当たることは当事者間

に争いがない。

しかるところ,証拠(検甲2,3)によれば,被告各製品の「胸部

用連結部」は,「腹部骨格」との連結部において前後方向及び左右方

向に揺れ動くことが可能な状態で連結されていることが認められる。

したがって,被告各製品は,その「胸部骨格連結部」が,「腹骨格
部との連結部において揺動可能に連結される」構成を有しているもの

といえる。

なお,被告各製品が,構成要件Kにおける「揺動可能に連結される」

との構成を有していない旨の被告の主張を採用できないことは,前記

(エ)a(b)と同様である。

b また,証拠(検甲2,3)によれば,被告各製品の「胸部骨格」にあ
る「腹部用連結部」の「嵌合部受け」は,構成要件Kの「胸骨格部に

備えた嵌合穴」に,また,被告各製品の「胸部用連結部」の「嵌合部」

は,構成要件Kの「第二嵌入杆」にそれぞれ相当するものと認められ

るところ,上記「嵌合部」は,上記「嵌合部受け」に回動可能な状態

で嵌合されている。

c したがって,被告各製品は,本件発明1の構成要件Kを充足する。
(カ) 構成要件Lについて

a 被告各製品は,ソフトビニル製外皮からなる可動人形であり,また,

被告各製品が「大型人形」であることは,前記(イ)のとおりである。

したがって,被告各製品の骨格構造は,「ソフトビニル製大型可動

人形の骨格構造」に当たる。

b これに対し,被告は,構成要件Lの「ソフトビニル製」との文言は,



人形の骨格部の材質をも含めて規定しているものと解し得るとした

上で,被告各製品の骨格部はソフトビニル製ではないことから,構成
要件Lを充足しない旨主張する。

しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)をみる

と,「外皮」については,「ソフトビニル製の外皮」(構成要件A)

と記載され,その骨格構造については,「該外皮とは別体」(構成要

件B)と記載されていること,本件明細書1の「発明の実施の形態」

の説明として,「なお,各骨格A乃至Eの材質は,ABS樹脂,その
他の樹脂,若しくは金属製など任意に選択される。」(段落【000

9】)との記載があることからすると,構成要件Lの「ソフトビニル

製」との文言は,人形の外皮の材質を規定したものであって,骨格構

造の材質を規定したものでないことは明らかであるから,被告の上記

主張は採用することができない。

c したがって,被告各製品は,本件発明1の構成要件Lを充足する。
(キ) 小括

a 以上のとおり,被告各製品は,構成要件AないしI,K及びLを充

足するが,構成要件Jの「腰部骨格連結部」は,「腰部骨格に備えた

胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆」を

備えるとの構成のうち,「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「嵌

合穴」との嵌合を「回動可能」なものとする構成を備えておらず,こ
の点において,構成要件Jを充足しないから,被告各製品は,本件発

明1の技術的範囲に属するものと認めることはできない。

b これに対し,原告は,イ号製品は,被告が従前製造及び販売してい

た「回動可能に嵌合される第一嵌入杆」を備える製品を設計変更し,

第一嵌入杆が回動しないように規制したものであり,この設計変更

は,本件特許権1の侵害の責めを回避するためのものにすぎないので



あって,当事者の公平の理念に反するから,イ号製品は,「腰部骨格

連結部」が「回動可能に嵌合される第一嵌入杆」を備えるとの構成(
構成要件J)を実質上充足するものと解すべきである旨主張する。

しかしながら,仮に原告が主張するように,被告が本件特許1を回

避するためにイ号製品における「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」

を回動しないように規制したとしても,そのことをもって公平の理念

に反するものとはいえないから,原告の上記主張は,その前提を欠く

ものであり,採用することができない。
イ 被告各製品の均等侵害の成否について

特許権侵害訴訟において,特許発明に係る特許請求の範囲に記載された

構成中に相手方が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異な

る部分が存する場合であっても,@当該部分が特許発明の本質的部分では

なく(第1要件),A当該部分を対象製品における構成と置き換えても,特

許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって
(第2要件),B上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製

造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),

C対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者

がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),か

つ,D対象製品特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意

識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(第5要件)とき
は,その対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとし

て,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁

平成6年(オ)第1083号同10年2月24第三小法廷判決・民集52

巻1号113頁参照)。

そこで,以下では,被告各製品について,均等の成立が認められるため

の上記各要件を満たすものか否か検討する。



(ア) 第1要件(相違部分が本質的部分ではないこと)について

上記アのとおり,被告各製品は,「腰部用連結部」の「嵌合部」(第
一嵌入杆)が,「腰部骨格」にある「腹部用連結部」の「嵌合部受け」

(嵌合穴)に回動しないように規制されて嵌合されているため,本件発

明1の構成要件のうち,構成要件Jの「腰部骨格連結部」の「第一嵌入

杆」と「嵌合穴」との嵌合を「回動可能」なものとする構成を備えてい

ないから,この点において構成要件Jを充足しないが,それ以外の構成

要件はいずれも充足している。
そこで,本件発明1の構成中の被告各製品の構成と異なる上記構成部

分(以下「本件相違部分」という。)が本件発明1の本質的部分ではな

いといえるかどうか検討する。

a 本件明細書1(甲1)の「発明の詳細な説明」には,次のような記

載がある(なお,下記(e)の記載中に引用する「図7」及び「図8」

については,別紙本件明細書1の図7及び図8参照)。
(a) 「【発明の属する技術分野】 本発明は,腕や脚などの身体の

各関節箇所にて屈曲作動できる大型の可動人形用の骨格構造と,そ

の骨格構造を有する大型の可動人形に関する。本明細書におい

て,「脚部」とは,足部の爪先から上脚の太腿付け根位置あたりま

でをいい,「足部」とは,爪先から踝あたりまでをいい,「下脚」

とは,その踝あたりから膝下あたりまでをいい,「上脚」とは,膝
上あたりから太腿の付け根位置あたりまでをいい,「腰部」とは,

その太腿付け根位置あたりから腰のラインあたりまでをいい,「胴

部」とは,その腰のラインあたりから首部あたりまで,かつ左右の

腕部付け根位置あたりまでをいい,「上腕」とは,その腕部付け根

位置から肘上あたりまでをいい,「下腕」とは,肘下あたりから手

首あたりまでをいい,「手部」とは,その手首あたりから指先まで



をいうものとする。また,本明細書において「大型」とは,例えば

全高60cm程度以上の人形をいうが,特に限定はされず,一般的な
30cm程度の人形よりも大きい人形の全てをいう。」(段落【00

01】)

(b) 「【従来技術】 腕・脚・腰・頭など身体の多数の関節箇所に

て夫々可動可能に連結されている人形(フィギュアともいう)が知

られている。特に,全高30cm前後の小型の人形が需要者に好まれ,

多数市場へ提供されているが,昨今,全高が大体50〜60cm以上
の大型の人形に対する需要者要求が高まっている。このような大型

の人形として,現在,例えば次の構成からなるものが知られている。

▲1▼「第一の従来技術」

図13に示すように,手100や脚200などの関節部分101,

201が球体になっていて,夫々の関節同士をゴム紐300で引っ

張って連結している,いわゆるビスクドールと呼ばれる白磁器製・
粘土製(焼成・非焼成)の人形が知られている(例えば,非特許文

献1参照。)。

▲2▼「第二の従来技術」

いわゆるマネキン人形といわれる等身大の人形にも,昨今は関節部

分で可動可能に構成されているものが提供されている。例えばその

一例を挙げると,手・足・頭部などの各部品の材質はFRP製で,
夫々は内部に通した針金などで連結されている人形が知られてい

る。」(段落【0002】)

(c) 「【発明が解決しようとする課題】

▲1▼「第一の従来技術の問題点」

図13に示す人形(ビスクドール)の場合,上述のような人形構造

であるため,人形自身でその全体を支える構造はなく人形自身で立



つことはできなかった。そのため,面白みに欠け,様々な動きのあ

る姿態を人形そのものの構造により求める傾向のある需要者ニー
ズに十分対応しえていなかった。また,上述した手足などの連結構

造により,夫々がぶらついているものであるため,小型の人形(フ

ィギュア)のように各屈曲させた状態を一定状態のまま保持させて

おくことはできなかった。そのため面白みに欠け,人間的な動きを

人形に求める傾向のある需要者ニーズに十分対応しえていなかっ

た。また,全体重量がかなりあり,重いばかりか,落とした際に欠
け易いという問題もあった。また,この種の人形は,量産性も無い。

▲2▼「第二の従来技術の問題点」

この人形の場合,所望関節箇所の内部針金を屈曲させることで,一

定状態のまま保持させる機能は有している。しかし,この人形にあ

っても内部の骨格構造で人形全体を支える構造ではなく,その人形

本体そのもので支えるものであるため,材質的にも全体重量がかな
りあり,重いばかりか,落とした際に欠け易いという第一従来技術

と同様の問題点を有している。また,量産ができないためコスト高

となり,価格的にも安価なものを求める需要者の要求と反する結果

となる。さらに,この種の人形は,元々が衣服などの展示のために

使用されるものであり,需要者が様々なポーズをその都度取らせて

楽しむという主旨の下で製作されているものではないため,頻繁に
各箇所で屈曲作動を繰り返すと,その部分の針金が折損してしまう

こともある。本発明は,従来技術の有するこのような問題点に鑑み

なされたものであり,その目的とするところは,上半身から下半身

まで連続した一連の骨格群を有し,所望箇所で屈曲動作ができると

共に,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できる技術的

構造を有すると共に,軽量・コスト安価な大型の人形を提供するこ



とである。」(段落【0004】)

(d) 「【課題を解決するための手段】 上記課題を達成するために
本発明がなした技術的手段は,ソフトビニル製の外皮と,該外皮と

は別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製大型人形を

構成する骨格構造であって,左右の脚部骨格と,該左右の脚部骨格

に連結される腰部骨格と,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,該

胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連の人形骨格群を構成

し,前記胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格
部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構

成されており,腹骨格部は,その一端側に腰部骨格連結部を備える

とともに,他端側に胸部骨格連結部を備え,前記腰部骨格連結部は,

腹骨格部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,腰部

骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合され

る第一嵌入杆を備え,前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部
において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合穴

に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備えたことを特徴とするソ

フトビニル製大型可動人形の骨格構造としたことである。 (段落


【0005】)

(e) 「【発明の実施の形態】 以下,本発明の一実施形態を図に基

づいて説明する。図は,本発明の一実施形態を示すものであって,
特に限定されるものではなく本発明の範囲内において適宜構成が

追加・変更されることがある。また,本実施形態では,人間を模写

した人形を代表例として説明するが,ロボットタイプ,怪獣タイプ

などの種々の外観形状を有する人形に適用される。図面は,本発明

ソフトビニル製大型可動人形の骨格構造と該骨格構造を有するソ

フトビニル製大型可動人形の一実施形態を示す。本実施形態のソフ



トビニル製大型可動人形は,複数の骨格の集合からなる人形骨格群

と,これら各骨格外周に備えられる人形外皮群にて構成されてい
る。」(段落【0008】),「胴部骨格Cは,図7および図8に

示すように,後述する腹部外皮H2内に内装される腹骨格部C

1(図8)と胸部外皮H3内に内装される胸骨格部C2(図7)の

二部構成からなり,少なくとも,腰部骨格Bの上端側と連結する腰

部骨格連結部51と,左右の腕部骨格Dと夫々連結する腕部骨格連

結部58とを備えて構成されている。また,本実施形態では,胴部
骨格Cの腰部骨格連結部51と対峙する側,すなわち胸骨格部C2

の上端側に首部骨格Eを一体的に連結する首部骨格連結部131

を備えている。図7又は図8の本実施形態に基づいて具体的に説明

すると,図8(a)(b)に示す腹骨格部C1は,両端に設けた夫

々の第一玉部(図面上で下側)52と第二玉部(図面上で上側)5

3を,夫々回動可能に嵌め込んだ断面視略U字状の腰部骨格連結部
51と胸部骨格連結部56からなり,該腰部骨格連結部51と胸部

骨格連結部56の夫々の端部には,第一嵌入杆54と第二嵌入杆5

5が夫々一体的に立設されている。また,特に限定されはしないが,

実施形態において,第一玉部52と第二玉部53を嵌め込む夫々

の嵌め込み部51a・51aと56a・56aは,各第一玉部52

と第二玉部53を嵌め込んだ時に,腰部骨格連結部51および胸部
骨格連結部56が所望位置でその状態(例えば,左右いずれかの方

向に所望角度をもって傾斜している状態)を維持できるように,各

第一玉部52と第二玉部53が夫々緊密に摺接するよう構成する

のが好ましい。このとき,嵌め込み部51a・51aと56a・5

6aは,夫々の曲面の曲率が各第一玉部52と第二玉部53の曲率

と同一若しくは近似するものとする。なお,嵌め込み部51a・5



1aと56a 56aは本実施形態に限定して解釈されるものでは


なく,本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。そして,この第
一嵌入杆54が,腰部骨格Bの胴部下端骨格連結部46の嵌合穴4

8に嵌合連結され,第二嵌入杆55が,胸骨格部C2に連結される。

図7(a)(b)に示す胸骨格部C2は,下方向に開口する中空筒

状の嵌合穴57を備えると共に,水平方向両側に左右の腕部骨格D

と夫々連結する腕部骨格連結部58を備えている。腕部骨格連結部

58は,夫々一端開口した中空筒状に形成されると共に,腕部骨格
連結穴58aを備え,該連結穴58a後述する左右の腕部骨格Dの

胴部上端骨格連結部60を嵌合連結する。なお,本実施形態では,

胴部骨格Cを,腹骨格部C1と胸骨格部C2の二部構成とし,かつ

腰部骨格Bと腹骨格部C1との連結部およびこの腹骨格部C1と

胸骨格部C2との連結部を夫々玉52,53を介して回動可能な構

造としたため,腰位置から胸位置までの動きが微調整でき,上半身
の様々かつ細かい動きが表現できる。すなわち,本実施形態の腹骨

格部C1構成を採用したことで,腰部骨格連結部51と胸部骨格連

結部56は,夫々が前後左右に回動可能(図8中,矢印Y1乃至Y

4で示す前後方向,矢印Y5乃至Y8で示す左右方向)で,かつ夫々

が水平方向にも所望範囲で移動(図8中,矢印Z1乃至Z4に示す水

平方向)することができるため,人形の胴体部分の様々な動きが表
現でき,色々な姿勢のバリエーションが楽しめる。なお,本実施

態の胴部骨格Cは本発明の一実施形態にすぎず限定解釈されるも

のではない。」(段落【0019】)

(f) 「【発明の効果】 本発明は上述の通りの構成としたため,自

立が可能で技術的構造を有すると共に,軽量・コスト安価な大型の

人形を提供することができ,需要者ニーズに十分応えることができ



る。すなわち,本発明特有の骨格構造を採用したことで,大型の人

形において外皮部分をソフトビニル製で構成しても,自立が可能
で,かつ様々な姿態を一定時間維持できると共に,軽量でかつ軟質

なため,落下・転倒などしても安全で,破損も防げる。」(段落【

0037】)

b 本件明細書1の上記aの記載と各図面(甲1)を総合すると,本件

明細書1には,身体の多数の関節箇所で可動可能に連結されている大

型の人形(フィギュア)に関し,従来技術である「関節同士をゴム紐
で引っ張って連結する,いわゆるビスクドールと呼ばれる白磁器製・

粘土製の人形」では,人形自体でその全体を支える構造がないため自

立することができず,また,連結部位を屈曲させた状態のまま保持さ

せておくことができないため,様々な動きのある姿態や人間的な動き

を人形に求める傾向のある需要者ニーズに十分対応し得なかったと

いう問題点があったこと,同じく従来技術である「FRP製のいわゆ
るマネキン人形のうち,各部品を内部に通した針金などで連結する人

形」では,人形全体を,内部の骨格構造ではなく人形本体そのもので

支える構造であるため,材質が重い上に,落とした際に欠けやすく,

また,量産ができないためコスト高となり,さらに,頻繁に各箇所で

屈曲作動を繰り返すと,その部分の針金が折損してしまうという問題

点があったことに鑑み,本件発明1は,上半身から下半身まで連続し
た一連の骨格群を有し,所望箇所で屈曲動作ができるとともに,自立

が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できる技術的構造を有する

とともに, ・
軽量 コスト安価な大型の人形を提供することを目的とし,

これを達成するための手段として,本件発明1の構成要件AないしL

のとおりの骨格構造を採用し,もって,大型の人形において外皮部分

をソフトビニル製で構成しても,自立が可能で,かつ様々な姿態を一



定時間維持できるとともに,軽量でかつ軟質なため,落下・転倒など

しても安全で,破損も防げるという作用効果を奏するものとした発明
であることが記載されているものといえる。

しかるところ,本件発明1の構成においては,構成要件J及びKの

とおり,@「腰部骨格連結部」と「腹骨格部」との揺動可能な連結,

A「腰部骨格連結部」 「第一嵌入杆」 「胴部下端骨格連結部」 「嵌
の と の

合穴」との回動可能な連結,B「胸部骨格連結部」と「腹骨格部」と

の揺動可能な連結,及びC「胸部骨格連結部」 「第二嵌入杆」 「胸
の と
骨格部」の「嵌合穴」との回動可能な連結という合計4箇所の揺動可

能又は回動可能な連結構造が存在するところ,本件発明1の特許請求

の範囲(請求項1)の記載と本件明細書1の上記記載を総合すれば,

上記各連結構造は,本件発明1の目的ないし作用効果のうち,人形

を「所望箇所で屈曲動作ができる」とともに,「様々な姿態を一定時

間維持できる」ものとするための構成にほかならず,しかも,これら
4箇所の連結構造が複合的に機能することによって,「所望箇所」で

の屈曲動作や「様々な姿態」の維持が実現されるという関係にあるも

のということができる。

そして,本件発明1の目的ないし作用効果のうち,人形を「所望箇

所で屈曲動作ができる」とともに,「様々な姿態を一定時間維持でき

る」ものとするという点は,従来技術の問題点,すなわち,前記ビス
クドールにおける「連結部位を屈曲させた状態のまま保持させておく

ことができないため,様々な動きのある姿態や人間的な動きを求める

傾向のある需要者ニーズに十分対応し得なかった」との問題点や,前

記マネキン人形における「頻繁に各箇所で屈曲作動を繰り返すと,そ

の部分の針金が折損してしまう」との問題点の解決と直接結びつくも

のであって,本件発明1の目的ないし作用効果の重要部分に関わるも



のであることが認められる。

してみると,本件発明1の構成のうち,被告各製品との相違部分で
ある「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「胴部下端骨格連結部」

の「嵌合穴」とを回動可能に連結する構成は,本件発明1の目的ない

し作用効果の重要部分を実現するために複合的に機能する構成中の

不可欠な部分をなすものということができるから,本件発明1の本質

的部分に当たるものというべきである。

c これに対し,原告は,本件発明1の本質的部分は,人形全体を骨格
構造(一連の骨格群)で支えることとしたという点にあり,人形の連

結箇所の数箇所において揺動や回動をする構成は付加的な作用効果

にすぎない旨を主張する。

しかしながら,平成11年2月1日発行の雑誌「月刊ホビージャパ

ン1999年2月号」(乙105)に株式会社ツクダホビーが販売す

る商品として掲載されている女性型関節可動人形「フルアクションド
ール」の構成(乙105の113ページ記載の写真4参照)をみると,

人形全体が硬質樹脂製の骨格構造にソフトビニル製の外皮を被せて

成るものであることが認められ,また,後記(イ)a及びbのとおり,

平成9年11月ころから日本国内において販売されている第1商品

においても,やはり硬質樹脂製の骨格構造にソフトビニル製の外皮を

被せて全体が形成される人形の構成が採用されていることが認めら
れる。

してみると,原告の上記主張に係る「人形全体を骨格構造(一連の

骨格群)で支える」という構成は,人形玩具の技術分野において,本

件出願1の出願前に周知技術となっていたものと認めるのが相当で

あり,そうである以上,このような構成を採用したことをもって,本

件発明1の本質的部分であるとすることはできない。



他方,本件明細書1の「発明の詳細な説明」の記載を総合すれば,

本件発明1における4箇所の揺動可能又は回動可能な連結構造が本
件発明1の目的ないし効果の重要部分を実現するための構成とされ

ているものと理解することができることは,前記bのとおりである。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

d 以上によれば,被告各製品は,均等の第1要件を満たすものとはい

えない。

(イ) 第4要件(公知技術からの容易推考性がないこと)について
被告は,被告各製品につき,本件出願1の出願前に発売された第1商

品(乙65の1ないし20)から容易に推考できたものであるとして,

当業者が特許発明の特許出願時における公知技術から対象製品を容易

に推考できたものではないとの要件(第4要件)を欠く旨主張するので,

以下検討する。

a 第1商品に係る発明ないし技術の公然実施
証拠(乙65の1ないし65の20,66)によれば,第1商品は,

購入者がプラスチック製の部材を組み立てて人形を完成させるいわ

ゆるプラモデル商品であり,平成9年11月ころから,日本国内にお

いて一般消費者向けに販売されたことが認められる。

したがって,第1商品に係る発明ないし技術は,本件出願1の出願

(平成15年1月22日)前に公然実施をされていたものといえる。
b 第1商品の構成

証拠(乙65の1ないし20)によれば,第1商品は,別紙第1商

品の構成図(1)ないし(3)に示すとおり,次のような構成を有すること

が認められる(以下,各構成を「第1商品の構成(a)」,「第1商品

の構成(b)」などという。)。

(a) ソフトビニル製のラバーパーツに被覆された状態になって人



形となる可動フレームであって,

(b) 可動フレームは,右腕フレーム,左腕フレーム,右脚フレーム,
左脚フレーム及びボディフレームを有し,

(c) ボディフレームは,別紙第1商品の構成図(2)に示すとおり,

蓋部材,一方側腕部骨格連結部材,他方側腕部骨格連結部材,逆T

字状部材,U字状部材,逆U字状部材,上側ブロック部材,棒状部

材,下側ブロック部材及び脚部骨格連結部材からなり,

(d) 脚部骨格連結部材の上部は,下側ブロック部材の対軸を挟み込
むことによって前後方向にのみ揺動可能に連結されており,

(e) 逆U字状部材は上側ブロック部材を挟み込むことによって前

後方向にのみ揺動可能に連結されており,

(f) 逆U字状部材は,U字状部材の軸受孔に突起軸を差し込むこと

によって回動可能に連結されている

(g) 可動フレーム。
c 第1商品と被告各製品との対比

(a) 被告各製品の構成

前記(ア)のとおり,被告各製品は,本件相違部分を除き,本件発

明1の各構成要件をいずれも充足する。

そうすると,本件発明1の各構成要件のうち,構成要件Jの本件

相違部分に係る構成を,被告各製品の構成に置き換えたものをもっ
て,被告各製品の構成と同視することができる。

したがって,第1商品と被告各製品との対比に当たっては,被告

各製品の構成,すなわち上記置き換え後の本件発明1の構成と上記

bの第1商品の構成とを対比するのが相当である。

しかるところ,上記置き換え後の本件発明1の構成を構成要件

分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「被告各製品



の構成A'」,「被告各製品の構成B'」などという。なお,以下の

下線部は,上記置き換え部分である。)。
A’ソフトビニル製の外皮と,

B’該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル

製大型人形を構成する骨格構造であって,

C’左右の脚部骨格と,

D’該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,

E’該腰部骨格に連結される胴部骨格と,
F’該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で

G’一連の人形骨格群を構成し,

H’前記胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格

部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に

構成されており,

I’腹骨格部は,その一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,
他端側に胸部骨格連結部を備え,

J’前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能

に連結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の

嵌合穴に回動しないように規制されて嵌合される第一嵌入杆を

備え,

K’前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能
に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌

合される第二嵌入杆を備えたことを特徴とする

L’ソフトビニル製大型可動人形の骨格構造。

(b) 対比

@ 被告各製品の構成A’及びB’について

第1商品の構成(a)における「ラバーパーツ」及び「可動フレ



ーム」が,被告各製品の構成A’の「外皮」及び構成B’の「骨

格構造」にそれぞれ相当することは明らかである。
そして,第1商品の可動フレームが,ラバーパーツとは別体で,

当該ラバーパーツに覆われてソフトビニル製人形を構成するこ

とも明らかであるから,被告各製品と第1商品とは,「ソフトビ

ニル製の外皮と,該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われ

てソフトビニル製人形を構成する骨格構造」を有する点で一致す

る。
他方,第1商品においては,人形の大きさが明らかではないか

ら,被告各製品と第1商品とは,前者のソフトビニル製人形が「大

型」(全高が30cm程度より大きいもの)であるのに対し,後

者のソフトビニル製人形は「大型」かどうか不明である点におい

て相違する。

A 被告各製品の構成C’ないしG’について
第1商品の各部材の位置関係等からすると,第1商品の構成(

b)における「右脚フレームと左脚フレーム」が,被告各製品の

構成C’における「左右の脚部骨格」に,第1商品の構成(c)

における「脚部骨格連結部材」の下部が,被告各製品の構成D’

における「左右の脚部骨格に連結される腰部骨格」に,第1商品

の構成(c)における「蓋部材」「一方側腕部骨格連結部材」「他
, ,
方側腕部骨格連結部材」 「逆T字状部材」 「U字状部材」 「逆
, , ,

U字状部材」,「上側ブロック部材」,「棒状部材」,「下側ブ

ロック部材」及び「脚部骨格連結部材」の上部を連結させた部材

が,被告各製品の構成E’における「腰部骨格に連結される胴部

骨格」に,第1商品の構成(b)における「右腕フレームと左腕フ

レーム」が,被告各製品の構成F’における「胴部骨格と連結さ



れる左右の腕部骨格」に,それぞれ相当するものと認められる。

したがって,被告各製品と第1商品とは,「左右の脚部骨格と,
該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,該腰部骨格に連結さ

れる胴部骨格と,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連

の人形骨格群を構成し」との点で一致する。

B 被告各製品の構成H’について

第1商品の「ボディフレーム」を構成する各部材の位置関係等

からすると,第1商品の構成(c)における「逆U字状部材」 「上

側ブロック部材」 「棒状部材」 「下側ブロック部材」
, , 及び「脚

部骨格連結部材」の上部を連結させた部材が,被告各製品の構成

H’における「腰部骨格と連結される腹骨格部」に,第1商品の

構成(c)における「蓋部材」 「一方側腕部骨格連結部材」 「他
, ,

方側腕部骨格連結部材」,「逆T字状部材」及び「U字状部材」

を連結させた部材が,被告各製品の構成H’における「腹骨格部
と連結される胸骨格部」 それぞれ相当するものと認められる。
に,

そして,第1商品の構成(e)及び(f)によれば,第1商品にお

いて,「腹骨格部」に相当する部材と「胸骨格部」に相当する部

材とが「駆動可能」に構成されていることは明らかである。

したがって,被告各製品と第1商品とは,「前記胴部骨格は,

腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨
格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成されており」との

点で一致する。

C 被告各製品の構成I’ないしK’について

第1商品において「腹骨格部」を構成する各部材(「逆U字状

部材」,「上側ブロック部材」,「棒状部材」,「下側ブロック

部材」及び「脚部骨格連結部材」の上部)をみると,上記「逆U



字状部材」は,「上側ブロック部材を挟み込むことによって前後

方向にのみ揺動可能に連結」(第1商品の構成(e))されるとと
もに,「U字状部材の軸受孔に突起軸を差し込むことによって回

動可能に連結」(第1商品の構成(f))されている。

してみると,上記「逆U字状部材」は,被告各製品の構成I’

における「腹骨格部」の「他端側」に備えた「胸部骨格連結部」

に相当するものであり,被告各製品の構成K’における「腹骨格

部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部
に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備えた」と

の構成を有するものといえる。

また,第1商品の上記「脚部骨格連結部材」の上部は,「下側

ブロック部材の対軸を挟み込むことによって前後方向にのみ揺

動可能に連結」(第1商品の構成(d))されているが,「腰部骨

格」に相当する部材(「脚部骨格連結部材」の下部)と一体に形
成されている。

してみると,上記「脚部骨格連結部材」の上部は,被告各製品

の構成I’における「腹骨格部」の「一端側」に備えた「腰部骨

格連結部」に相当するものであり,被告各製品の構成J’のう

ち,「腹骨格部との連結部において揺動可能に連結される」との

構成を有するものといえるが,「腰部骨格に備えた胴部下端骨格
連結部の嵌合穴に回動不能に嵌合される第一嵌入杆」を備えると

の構成は有しないものといえる。

したがって,被告各製品と第1商品とは,「腹骨格部は,その

一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端側に胸部骨格連

結部を備え」,「前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部に

おいて揺動可能に連結され」,「前記胸部骨格連結部は,腹骨格



部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部

に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備えた」と
の点で一致する。

他方,被告各製品と第1商品とは,前者の「腰部骨格連結部」

が「腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動不能に

嵌合される第一嵌入杆」を備えているのに対し,後者の「腰部骨

格連結部」に相当する部材は「腰部骨格」に相当する部材と一体

に形成されている点において相違する。
D 被告各製品の構成L’について

被告各製品と第1商品とは,「ソフトビニル製可動人形の骨格

構造」である点で一致するが,前者のソフトビニル製人形が「大

型」であるのに対し,後者のソフトビニル製人形は「大型」であ

るとはいえない点において相違する。

(c) 一致点及び相違点
@ 以上を総合すれば,被告各製品と第1商品とは,「ソフトビニ

ル製の外皮と,該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われて

ソフトビニル製人形を構成する骨格構造であって,左右の脚部骨

格と,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,該腰部骨格に

連結される胴部骨格と,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格

で一連の人形骨格群を構成し,前記胴部骨格は,腰部骨格と連結
される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複

数骨格によって駆動可能に構成されており,腹骨格部は,その一

端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端側に胸部骨格連結

部を備え,前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において

揺動可能に連結され,前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結

部において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌



合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備えたことを特徴と

するソフトビニル製可動人形の骨格構造」を有する点で一致し,
以下の点において相違するものといえる。

(相違点A)

被告各製品のソフトビニル製人形が「大型」(構成B’,L’)

であるのに対し,第1商品のソフトビニル製人形は「大型」であ

るかどうか不明である点

(相違点B)
被告各製品では,「腰部骨格連結部」が,腰部骨格とは別体に

形成された上で,「腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合

穴に回動しないように規制されて嵌合される第一嵌入杆」(構成

J’ を備えているのに対し,
) 第1商品では,「腰部骨格連結部」

に相当する部材が,「腰部骨格」に相当する部材と一体に形成さ

れている点
A これに対し,原告は,第1商品は,前記第3の1(1)ア(ア)b(

d)@ないしF記載の各相違点のとおり,本件発明1と相違し,

これらの相違点に係る本件発明1の構成を備えていない点でイ

号製品とも相違する旨主張する(以下,原告が主張する上記@な

いしF記載の各相違点を,それぞれ「@の相違点」,「Aの相違

点」などという。)。
そこで検討するに,まず,@及びAの各相違点並びにCの相違

点のうち「可動人形」(構成要件L)の点に係る原告の主張は,

本件発明1の構成要件Lにおける「可動人形」の意義について,

それぞれ一定の限定解釈をすることを前提とするものであると

ころ,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)や本件明細書1

の記載をみても,これらの限定解釈を是認すべき根拠は認められ



ないから,原告の上記主張は理由がない。

また,Bの相違点に係る原告の主張は,構成要件Bの「外皮に
よって覆われ」た「骨格構造」の範囲について,足首部や手首部

が含まれるものであることを前提とするものであるところ,本件

発明1の特許請求の範囲(請求項1)や本件明細書1の記載をみ

ても,上記「骨格構造」が足首部や手首部を含むものであること

は明示されておらず,他に,これを認めるべき根拠もないから,

原告の上記主張は理由がない。
さらに,DないしFの各相違点に係る原告の主張は,被告各製

品の構成中の各部材と第1商品の構成中の各部材との対応関係

について,前記(b)で認定した対応関係とは異なる対応関係を前

提とするものであるが,前記(b)掲記の各証拠に照らし,原告の

上記主張は,その前提において採用することができない。

なお,Cの相違点のうち,「ソフトビニル製大型人形」(構成
要件B,L)の点に係る原告の主張は,相違点Aと同一のもので

ある。

以上の次第であるから,原告の上記主張は,被告各製品と第1

商品との一致点及び相違点に関する前記@の認定を左右するも

のではない。

d 相違点に係る構成の容易想到性
(a) 相違点Aについて

プラモデル商品である第1商品において,組み立てによって完成

する人形の大きさをどの程度のものとするかは,当業者が適宜定め

ることのできる設計的事項というべきである。

したがって,第1商品において,完成した人形の大きさを「大型」,

すなわち全高30p程度より大きなものとすること(相違点Aに係



る被告各製品の構成)は,当業者が本件出願1の出願時において,

容易に想到し得たものと認められる。
(b) 相違点Bについて

相違点Bは,可動人形の骨格構造のうち,腰部骨格と連結する腹

骨格部の部材構成について,被告各製品では,腰部骨格とは別体に

形成された部材とし,腹骨格部にある第一嵌入杆(嵌合部)と腰部

骨格にある嵌合穴(嵌合部受け)が嵌合される構成とした上で,両者

が回動しないような規制を施した結果,当該連結部において回動不
能な構成となっているのに対し,第1商品では,腰部骨格を構成す

る部材と一体に形成された部材(一個の部材)とし,その結果,必然

的に腰部骨格と腹骨格部との連結部において回動不能な構成とな

っているというものである。

しかるところ,上記各構成は,腰部骨格と連結する腹骨格部の部

材を,腰部骨格を構成する部材と一体形成するか,別体形成して連
結(嵌合)するかという部材構成上の形式的な相違はあるものの,被

告各製品の嵌合部分に規制が施されていることによって,結局のと

ころ,腰部骨格と腹骨格部との連結部における回動が不能であると

いう点においては差異がないものであり,このような作用効果の観

点からみれば,両者の構成は実質的には同一のものと評価すること

ができる。
また,仮に,相違点Bに係る両者の構成が,実質的に同一のもの

とまではいえないとしても,玩具の技術分野において,部材を形成

するに当たり,一つの部品からなるものとするのか,複数の部品か

らなるものとするのかは,製造・組立ての効率性等を考慮して適宜

選択されるものである。とりわけ第1商品のように,複数の部品か

らなるキットをユーザーにおいて組み立てることが予定されたプ



ラモデル商品においては,ユーザーが組立て工程を楽しむという観

点も考慮して,単一の部品で構成し得る部材について複数の部品か
らなる構成を選択することもあり得るものといえる。一方で,複数

の部品からなる部材において,各部品に嵌合部と嵌合部受けを設

け,これらを嵌合させて部品を組み立てることは,周知慣用手段に

すぎない。

してみると,プラモデル商品である第1商品に係る上記構成を,

本件相違点Bに係る被告各製品の上記構成に置き換えることは,当
業者が適宜定める設計的事項にすぎないものと認められる。

e 小括

以上によれば,被告各製品は,当業者が,本件発明1の特許出願時

における公知技術である第1商品から容易に推考できたものである

と認められるから,均等の第4要件を満たさない。

(ウ) 総括
以上の次第であるから,その余の点につき判断するまでもなく,被告

各製品について,原告主張の均等侵害は認められない。

ウ まとめ

したがって,被告各製品は,本件発明1の構成要件Jを充足せず,また,

均等侵害も認められないから,本件発明1の技術的範囲に属するものとは

認められない。
(2) 本件発明2について

原告は,本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)におけ

る「上半身部品」及び「下半身部品」の意義について,可動人形用胴体の上

下方向のどこかを境にして上下に二分した上側の部品と下側の部品をそれ

ぞれ意味し,その境が特定の部位に限定されるものではないとした上で,被

告各製品の胴体部のうち,「上胴部外皮及び胸部骨格から上の骨格部分」



が「上半身部品」に,「下胴部外皮及び腹部骨格から下の骨格部分」が「下

半身部品」に相当することを前提に,被告各製品が本件発明2の各構成要件
を充足する旨を主張する。

これに対し,被告は,上記「上半身部品」及び「下半身部品」の境目は,

腹部と腰部の間であり,被告各製品における「上半身部品」及び「下半身部

品」のとらえ方に関する原告の主張は誤りであるとして,被告各製品が本件

発明2の構成要件AないしJを充足することを争っている。

そこで,以下では,まず,本件発明2の各構成要件における「上半身部品」
及び「下半身部品」の意義について検討し,それを踏まえて,被告各製品の

構成要件充足性を判断することとする。

ア 「上半身部品」及び「下半身部品」の意義

(ア) 本件明細書2(甲40)の「発明の詳細な説明」には,次のような

記載がある(なお,下記hの記載中に引用する「図5」については,別

紙本件明細書2の図5参照)。
a 「【技術分野】 本発明は,上半身部品と下半身部品とが揺動可能

に連結され,かつ分離・組み立て可能な可動人形用胴体の新規構造に

関する。なお,本明細書において,「上半身部品」とは,腰より上の

部分をいい,「下半身部品」とは腰から下の部分(腰部含む)をいう

ものとする。」(段落【0001】)

b 「【背景技術】 昨今の人形業界において,特にフィギュアと称さ
れる人間の身体(裸体)形態を忠実に模写した構成を有する人形にあ

っては,脚部や腰部などの各部位の人間的な動きが表現できる構成と

することは勿論のこと,外表面(肌面)の身体的リアルさも要求され

ているのが現実である。すなわち,より人間の身体的な特徴,例えば

胸部又は臀部分の肌感なども人間の胸部や臀部分と変わらないもの

としたいと欲しているものである。これは,例えば,特に水着を着用



させたり,あるいは衣裳などを着替えさせたりする度に,胸部や臀部

分などの肌を露出させる度合いの高い女性を模写したフィギュアに
あっては極めて重要であり,需要者の要求が高く,かつ当業者の追求

する要素でもある。」(段落【0002】),「従来の可動人形用胴

体は,前後に二つ割された腰部分片201,202が採用され,該二

つ割された前後の腰部分片201,202を合わせてネジ止め固着す

る際に,上半身部品100側の係止片(図示省略)と左右の脚部分側

の係止片(図示省略)を,両腰部分片201,202の合わせ面にお
ける係止箇所にて回動可能に連結しているものが知られていた(図2

0,図21)。従って,このように二つ割された腰部分片201,2

02をネジ止めして上半身部品100,下半身部品200,左右の脚

部分を分解可能に固着するものであったため,固着した際に必然的に

生じる合わせ目の線(接合線ともいう)800(図20,図21)が

下半身部品200の肌外表面に露呈しており,外観上の美観・リアル
さに欠けていた。さらに,ネジ穴900およびネジ901(図21)

が需要者の視覚に入るため,フィギュア全体としての外観上の美観を

損ね,リアルさは到底得られていなかった。そこで本発明者は,この

ような上半身部品と下半身部品が分離組み立て可能な可動人形にお

いて,下半身部品の肌表面から接合線800,ネジ穴900,ネジ9

01などを無くし,この種の人形の外観的リアルさを追求・提案する
ため先に出願している(例えば特許文献1を参照。)。

【特許文献1】特願2001−106020号公報」(段落【000

3】)

c 「【発明が解決しようとする課題】 次に本発明者は,未だに残る

下記課題を達成するため本願新規発明に至ったものである。すなわ

ち,人間の身体が各人によって様々であるように,このような可動人



形用胴体を使用したフィギュアにあっても,様々な身体形状,特に女

性を模写したフィギュアにあっては胸の形状・大きさが様々である。
特に,胸(乳房部)が極端に大きい形態が昨今需要者から要求されて

いる。また,これはフィギュアに限らず,美術デッサン用のモデルと

して利用される可動人形用胴体であっても同様である。従来,この種

の可動人形用胴体は,図19に示すように,ABS樹脂などの硬質合

成樹脂から上半身部品100と下半身部品200が別体若しくは一

体成形されているものが一般的である。しかし,図19に示すように
乳房部300が極端に大きい構成とした可動人形用胴体の場合,乳房

部300のアンダーバスト301位置と腹部400との接点(図19

に示すX部分)が鋭角になるため,このような硬質材で成形する場合,

型抜きが不可能であった。そこで従来は,ゴム型に樹脂を流し込んで

成形し,成型後ゴム型を伸張せしめて離型する,いわゆる流し込み成

形を採用することによりこの種の形態を得ていたが,この製法による
ことは,原料の注入から離型までの時間が長く掛かりコストが高くな

るという課題を抱えていた。」,「また,フィギュア用若しくは美術

デッサン用の可動人形用胴体では,上半身を右方向や左方向などに捩

じったポーズをとることが多々在る。従来のようにABS樹脂などの

硬質材から上半身部品100を成形する場合では,胸部分500と腹

部分400(若しくは腰部分600)を別体として分割成形したもの
でないと上述のように上半身を捩じった形態を表現することはでき

ない。しかし,このように上半身を複数の部分に分割してなるもので

は,各連結部位700が外観から目視され,外観的リアルさが低く,

外表面(肌面)の身体的リアルさに欠けていた。また,このように硬

質材からなるものでは,上半身を捩じった表現を採ったとしても,単

に分割部位(連結部位)700で捩じり表現をしているにすぎず,実



際の人間が上半身を捩じった時の肌表情は再現し得なかった。すなわ

ち,実際の人間が上半身を捩じった場合,皮膚のしわ,たるみ,筋肉
などの移動が肌表面に現れるものであるが,従来技術では到底成し得

るものではない。このような肌の細かい動き・表現は,人間により近

い肌表面を求めるフィギュア需要者からの要望も高く,また特に美術

用デッサンで使用される可動人形用胴体で望まれている現状がある。

すなわち,実物の裸体女性を描こうとする場合,そのためのモデルと

なる女性を探さなければならず,モデル探しが簡単にいかないばかり
か面倒であると共に,モデルに支払うコストも掛かるため,上述のよ

うな可動人形用胴体の提供が望まれていたものである。」(以上,段

落【0004】)

d 「本発明は,従来技術の有するこのような問題点に鑑みなされたも

ので,その目的とするところは,少なくとも上半身部品と下半身部品

が別成形されると共に揺動可能,かつ分離・組み立て可能に連結され
てなる可動人形用胴体において,可能な限り肌表面のリアルさを表現

しつつ,人間的なリアルな動き・肌表情が表現でき,かつ成形容易で

コストが安価である一体成形された上半身部品を有する分解組み立

て可能な可動人形用胴体を提供することである。」(段落【0005

】)

e 「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために本発
明の第1の発明は,少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形され

ると共に,前記上半身部品と下半身部品とが,揺動可能,かつ分離・

組み立て可能に連結される可動人形用胴体であって,前記上半身部品

は,スラッシュ成形により接合線なく一体成形され,かつ下端に開口

を設けた塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体と,該軟質製本体内に

嵌入して内装される硬質合成樹脂製の芯材とで構成され,前記芯材



は,下半身部品と揺動可能かつ分離・組み立て可能に連結する下半身

連結部材を備え,前記下半身連結部材は,下半身部品の上端と対向し,
前記軟質製本体下端の開口に位置して備えられ,前記下半身部品は,

前記軟質製本体下端の開口と対向する上端を開放し,外表面にネジ穴

や接合線を有しない一体成形された腰部本体と,前記腰部本体内に備

えられ,前記下半身連結部材を差し込み連結可能な上半身部品連結構

造とを備え,前記上半身部品連結構造は,前記下半身連結部材と対向

し,前記腰部本体の開放部位に位置して備えられ,前記下半身連結部
材と前記上半身部品連結構造は,円柱状の棹部と,該棹部を嵌合し,

かつ上下方向で差込み連結かつ引き抜き分離可能な円筒状の差込み

穴とによって構成され,前記上半身部品と前記下半身部品は,軟質製

本体下端の開口と腰部本体の開放部位にそれぞれ位置している前記

棹部と前記差込み穴との上下方向の差込み又は引き抜きのみによっ

て着脱自在に連結されることを特徴とする可動人形用胴体としたこ
とである。」(段落【0006】)

f 「【発明の効果】 本発明は,上述の通り構成したことにより,少

なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されると共に揺動可能,か

つ分離・組み立て可能に連結されてなる可動人形用胴体において,可

能な限り肌表面のリアルさを表現しつつ,人間的なリアルな動き・肌

表情が表現でき,かつ成形容易でコストが安価である一体成形された
上半身部品を有する分解組み立て可能な可動人形用胴体を提供し得

た。」(段落【0007】)

g 「【発明を実施するための最良の形態】 上半身部品40は,上端

と下端そして左右の腕部連結部位に夫々開口42,43,44を有し

てなる中空状の上半身部品本体41と,該本体41内に嵌め込み状に

内装される芯材48と,上記開口44を介して芯材48と連結される



左右の腕部36と,開口42を介して芯材48と連結される首部38

を備えて構成されている。なお,左右の腕部36は,手部37を有し
ている。また,顔部(頭部)は本実施形態では省略している。上記上

半身部品本体41を構成する軟質材は,芯材48の揺動作動によって

変形可能な程度に軟質であればよく,例えば,塩化ビニル樹脂などの

軟質合成樹脂材でスラッシュ成形等したものが代表例として挙げら

れる。なお,上記本体41の軟質材は,塩化ビニル樹脂などの軟質合

成樹脂材に限定されず,他の軟質合成樹脂材であってもよく,また軟
質ゴム材などから一体成形されるものであってもよい。上半身部品本

体41は,特にその全体的なスタイル,すなわち,痩せ型,中肉型,

太り型,あるいはウエストのくびれ程度,背中のラインなど種々選択

して適用可能であり限定されないが,本実施形態では本体41の前

面(胸部45)位置には極端に大きい乳房部47を一体成形している。

なお,本実施形態では,上半身本体41は,胸部45と腹部46とが
一体成形された一体物である。」(段落【0010】)

h 「上半身部品40の作動を図5を参照して説明する。従って,上半

身部品40を右方向あるいは左方向に捩じった場合,図5(c)のよ

うに第一芯材49・第二芯材54が揺動し,その動きに従って疑似皮

膚となる上半身部品本体41の第二芯材作動対応箇所周辺 第一芯材


49との連結箇所周辺が追随して変形するため,あたかも人間が体を
捩じった時に生じる皮膚のしわ・たるみ・筋肉の移動(図中Yで示す)

などが上半身部品本体41表面に表現される(図5(a)(b))。

このような表現方法は全く新規なものでこの種の可動人形用胴体に

おいて極めて人間の肌表面の表現に近いリアルさを表現でき

た。」(段落【0015】)

(イ) そこで,本件明細書2の上記(ア)の記載及び各図面(甲40)に基



づいて,本件発明2における「上半身部品」及び「下半身部品」の意義

について考察する。
a(a) 本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)におい

ては,「上半身部品」及び「下半身部品」の用語の意義について規

定した記載は存在しない。

しかるところ,前記(ア)aのとおり,本件明細書2の段落【00

01】では,「上半身部品」が「腰より上の部分」を意味し,「下

半身部品」が「腰部を含んだ腰から下の部分」を意味する旨が明確
に定義されている。他方,本件明細書2の他の記載をみても,この

ような「上半身部品」及び「下半身部品」の定義と矛盾する趣旨の

記載を見出すことはできない。

してみると,本件発明2の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項

1)における「上半身部品」及び「下半身部品」の意義についても,

上記定義と別異に理解すべき理由はなく,それぞれ,可動人形用胴
体における「腰を含まない,腰より上に位置する部品」及び「腰を

含んだ,腰より下に位置する部品」を意味するものと解するのが相

当である。

なお,「上半身」及び「下半身」という用語の一般的な意味をみ

ると,「上半身」とは「からだの,腰から上の部分。」,「下半身」

とは「体の,腰から下の部分。を意味するものとされているから
」 (い
ずれも広辞苑第六版),上記のような「上半身部品」及び「下半身

部品」の解釈は,用語の一般的意味との関係でも合理的なものとい

える。

(b)@ これに対し,原告は,本件明細書2の段落【0001】の上

記記載が本件発明2の一実施形態についての記載にすぎないか

のごとく主張するが,上記段落の記載位置やその内容からみて,



当該記載は,本件発明2の一実施形態のみを対象とした記載では

なく,本件明細書2の記載全体における「上半身部品」及び「下
半身部品」の用語を定義づける趣旨の記載であるものと認められ

るから,原告の上記主張は採用することができない。

A また,原告は,被告が,被告自身の広告等(甲48ないし54(い

ずれも枝番を含む。))において,「上半身部品」に相当するの

は,外皮においては上胴部外皮の部分,骨格部においては胸部骨

格から上の部分であること,「下半身部品」に相当するのは,外
皮においては下胴部外皮の部分,骨格部においては腹部骨格から

下の部分であることを前提として,被告各製品における「上胴部」

の構成部分を「上半身(パーツ) と,
」 「下胴部」の構成部分を「下

半身(パーツ)」と称している旨主張する。

確かに,原告が指摘する被告の広告において,胸部骨格から上

の部分に相当する部分(外皮)を「上半身パーツ」,腹部骨格か
ら下の部分に相当する部分(外皮)を「下半身パーツ」と称して

いることがうかがわれるが,そのことと本件発明2における「上

半身部品」及び「下半身部品」の用語の意義の解釈(本件訂正後

の請求項1の特許請求の範囲の解釈)とは別個の問題であるとい

えるから,上記の点は,前記(a)の判断を左右するものではない。

b(a) 更に言えば,上記のような「上半身部品」及び「下半身部品」
の解釈は,本件発明2の技術的意義との関係からみても,合理的な

ものとして是認できる。

すなわち,前記(ア)の本件明細書2の記載及び各図面(甲40)

を総合すれば,可動人形用胴体に関し,従来存在した硬質材からな

るものにおいては,上半身を捩った形態を表現する場合,胸部分と

腹部分を別体として分割成形することが必要であったが,このよう



な構成では,連結部位が外観から目視され,外表面(肌面)の身体的

リアルさに欠け,また,実際の人間が上半身を捩った時の肌表情,
すなわち,肌表面に現れる皮膚のしわ,たるみ,筋肉などの移動を

再現できず,人間により近い肌表面を求める需要者の要求を満たし

得ないといった課題があったこと(前記(ア)c)に鑑み,本件発明

2においては,構成要件AないしKのとおりの構成を採用すること

によって,少なくとも上半身部品と下半身部品が別成形されるとと

もに揺動可能,かつ分離・組み立て可能に連結されてなる可動人形
用胴体において,可能な限り肌表面のリアルさを表現しつつ,人間

的なリアルな動き・肌表情が表現できるという効果を実現した

点(前記(ア)d,f)に,その主たる技術的意義があるものという

ことができる。

この点,本件発明2の「上半身部品」の構成に着目して言えば,

本件発明2の「上半身部品」が,「下半身部品」とは別成形とされ
るとともに,「下半身部品」と揺動可能,かつ分離・組み立て可能

に連結するものとされ(構成要件A),かつ,「上半身部品」のうち,

肌表面を構成する部材について,「スラッシュ成形により接合線な

く一体成形された塩化ビニル樹脂製の中空の軟質製本体」とする構

成(構成要件B)が採用されたのは,従来技術では再現できなかった

とされる「実際の人間が上半身を捩った時に生じる肌表面に現れる
皮膚のしわ,たるみ,筋肉などの移動」を人形の上半身において再

現できるようにし(別紙「本件明細書2の図5」参照) もって,
, 「人

間的なリアルな動き・肌表情」を表現するという発明の効果を実現

するためのものといえる。

このような本件発明2における「上半身部品」の構成に係る技術

的意義からすれば,本件発明2の「上半身部品」は,人間が上半身



を捩ったときに「皮膚のしわ,たるみ,筋肉などの移動」が生じる

脇腹などの部位(別紙「本件明細書2の図5」参照)を含むもので
なければならないことが明らかである。

したがって,「腰を含まない腰より上に位置する部品」をもっ

て「上半身部品」とする前記aの解釈は,本件発明2における「上

半身部品」の構成に係る技術的意義に照らしても,合理的なものと

いうことができる。

(b) これに対し,原告は,本件明細書2の図5及び段落【0015
】は,本件発明2の一実施形態について記載したものであって,こ

れらの記載に基づく効果は,本件発明2の特有の作用効果とはいえ

ない旨主張する。

確かに,図5は,本件発明2の一実施形態を示した図面であって,

本件発明2の実施形態は図5のものに限られるものとはいえない

が,本件明細書2の段落【0004】,【0005】,【0007
】の記載(前記(ア)c,d,f)等を併せ考慮すれば,本件発明2

の主たる技術的意義は「可能な限り肌表面のリアルさを表現しつ

つ,人間的なリアルな動き,肌表情」を表現するという効果を奏す

るものとした点にあることは明らかであるから,本件明細書2の図

5及び段落【0015】の記載が本件発明2の一実施形態について

のものであるからといって,上記(a)の判断が左右されるものでは
ない。

c 以上のとおり,本件発明1の「上半身部品」とは,可動人形用胴体

における「腰を含まない,腰より上に位置する部品」を,「下半身部

品」とは,「腰を含んだ,腰より下に位置する部品」を意味するもの

と解される。

イ 被告各製品の構成要件充足性



(ア) 本件発明2における「上半身部品」及び「下半身部品」の意義につ

いて,上記ア(イ)cのとおりの解釈を前提に検討するに,被告各製品の
骨格部において,腰(広辞苑第六版によると,「人体の脊柱の下部で,

骨盤の上部の屈折し得る部分。」を意味するものとされている。)の部

分に相当するのは,「腰部骨格」及び「股関節部骨格」といえるから,

被告各製品(検甲2,3)の胴体部において,「上半身部品」(すなわ

ち,「腰を含まない,腰より上に位置する部品」)に相当するのは,骨

格部については「腹部骨格」及び「胸部骨格」,外皮については「下胴
部外皮」の上側部分及び「上胴部外皮」であり,「下半身部品」(すな

わち,「腰部を含んだ,腰から下に位置する部品」)に相当するのは,

骨格部については「腰部骨格」 「股関節部骨格」 外皮については
及び , 「下

胴部外皮」の下側部分であると認められる。

そうすると,被告各製品における「下胴部外皮」は,その一部が「上

半身部品」を構成し,残りの一部が「下半身部品」を構成していること
となり,被告各製品における「上半身部品」と「下半身部品」とは「別

成形」されたものとはいえないから,被告各製品は,本件発明2の構成

要件Aを充足しない。

(イ) また,被告各製品における外皮部分のうち,「上半身部品」を構成

する「下胴部外皮」の上側部分及び「上胴部外皮」は,それぞれ別成形

された部材であり,「スラッシュ成形により接合線なく一体成形され」
たものとはいえないから,被告各製品は,本件発明2の構成要件Bを充

足しない。

ウ まとめ

以上のとおり,被告各製品は,構成要件A及びBを充足しないから,そ

の余の構成要件の充足性について判断するまでもなく,被告各製品は,本

件発明2の技術的範囲に属するものとは認められない。



2 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 大 西 勝 滋




裁判官 石 神 有 吾