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事件 平成 23年 (行ケ) 10208号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年5月31日判決言渡

平成23年(行ケ)第10208号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年2月16日

判 決

原 告 サン・ケミカル・コーポレーション

訴訟代理人弁理士 E 永 和 徳

被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 菅 野 芳 男

同 長 島 和 子

同 樋 口 信 宏

同 芦 葉 松 美

主 文

1 特許庁が,不服2009−25855号事件について,平成23年2月18

日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文と同旨

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯等

原告は,発明の名称を「エネルギー硬化型フレキソ印刷液体インクによるウェッ

トトラッピングの方法および装置」とする発明について,平成15年2月19日に

特許出願(特願2003−569403。パリ条約による優先権主張外国庁受理平

成14年2月19日,米国。以下「本願」という。)をし,平成21年9月1日付

けで拒絶査定を受け,同年12月28日,これに対する不服の審判を請求し(不服

2009−25855号事件),同時に,手続補正書を提出した(以下「本件補




正」という。)。特許庁は,平成23年2月18日,「本件審判の請求は,成り立

たない。」との審決をし,その謄本は同年3月7日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項4の記載は,次のとおりである(甲

4。以下,この発明を「本願発明」という。また,本件補正後の本願の特許請求の

範囲,明細書及び図面を総称して,「本願明細書」(甲2,4)という場合がある。

なお,別紙図面1は本願明細書の【図1】である。)。

【請求項4】複数の重なり合ったインク層を被印刷体に順次的に塗布する装置で

あり,以下を含む装置:

被印刷体の経路および,前記被印刷体を前記経路に沿って移送する被印刷体ドラ

イブ;

前記経路に沿って位置する,複数のインク付けステーション,ここで当該インク

付けステーションは,希釈剤を含み粘度が周囲条件下で4000cps以下のイン

クを,前述の被印刷体に塗布するように適合されている;

前記経路に沿った前記被印刷体の移送を制御するコントロールシステム,

ここで前記一番目のインク層から前記希釈剤の一部が蒸発することにより,前記

インク付けステーションで前記被印刷体に塗布された一番目の液体インク層の粘度

が増加し,前記被印刷体が前記インク付けステーション間を移行する際,前記一番

目のインク付けステーションから間隔を置いて位置する次のインク付けステーショ

ンにおいて前記一番目のインク層上に塗布される前記二番目の液体インクをウェッ

トトラップするように,一番目のインクの粘度が二番目のインクの粘度よりも高く

される。

3 審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,当業者が,本願の

優先日前に頒布された刊行物である特開平7−156361号公報(甲1。以下

「引用例」という。)記載された発明(以下「引用発明」という。なお,別紙図面




2は,引用例に添付された段ボール印刷装置の側面図である。)に基づいて容易に

発明をすることができたとするものである。

(2) 審決が,上記の判断をするに当たり認定した引用発明の内容,本願発明と引

用発明との一致点,相違点は以下のとおりである。

ア 引用発明の内容

段ボールシートに,特性の異なる複数種類のインキにて印刷ができる印刷装置で

あって,

前記印刷装置は,3基の印刷ユニットを連結して構成され,

前記各印刷ユニットのメンテナンス,インキ替え,刷版の交換等は,各ユニット

間を開いて行われ,

前記段ボールシートの移行路の上流側の2基の印刷ユニットは,乾燥速度の速い

インキを使用する同じタイプの印刷ユニットで,下流側の1基の印刷ユニットは,

プリスロタイプの印刷ユニットであり,

前記上流側の2基の印刷ユニットには,段ボールシートの移行路の上方に設けた

回転版胴の上方に,該版胴に接してインキ供給用の主ロールが回転可能に配備され,

かつ,該主ロールに接触して該ロールとの間でインキ溜まりを形成する補助ロール

が配備され,

前記主ローラと前記補助ロールの上方に,主ロールあるいは補助ロールにインキ

を補給するインキ補給装置が配備され,該インキ補給装置は,インキタンクにポン

プを連繋し,ポンプの排出管を主ロールと補助ロールとの間に垂下させて構成され

ており,

前記インキタンクに収容されるインキは,粘度が500〜1000センチポイズ

で,約10秒で乾燥するものであり,

前記版胴の下方には,段ボールシートの移行路を挟んで印圧ロールが,版胴と印

圧ロールの上流側には,一対の送りロールが配備されている,

印刷装置。




イ 一致点

複数のインク層を被印刷体に順次的に塗布する装置であり,以下を含む装置:

被印刷体の経路および,前記被印刷体を前記経路に沿って移送する被印刷体ドラ

イブ;

前記経路に沿って位置する,複数のインク付けステーション,ここで当該インク

付けステーションは,希釈剤を含み粘度が周囲条件下で4000cps以下のイン

クを,前述の被印刷体に塗布するように適合されている;

前記経路に沿った前記被印刷体の移送を制御するコントロールシステム。

ウ 相違点

前記複数のインク層が,本願発明では,「重なり合った」ものであり,かつ,

「一番目のインク層から前記希釈剤の一部が蒸発することにより,前記インク付け

ステーションで前記被印刷体に塗布された一番目の液体インク層の粘度が増加し,

前記被印刷体が前記インク付けステーション間を移行する際,前記一番目のインク

付けステーションから間隔を置いて位置する次のインク付けステーションにおいて

前記一番目のインク層上に塗布される前記二番目の液体インクをウェットトラップ

するように,一番目のインクの粘度が二番目のインクの粘度よりも高くされる」も

のであるのに対して,引用発明では,そのようなものであるのか明らかでない点。

第3 当事者の主張

1 取消事由に係る原告の主張

審決には,(1) 一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1),(2) 本願

発明に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3) 本願発明の効果に関する判

断の誤り(取消事由3)があり,これらは,審決の結論に影響を及ぼすから,審決

は取り消されるべきである。すなわち,

(1) 一致点の認定の誤り及び相違点の看過(取消事由1)

審決は,上記第2の3の(2)のイ のとおり,一致点を認定した。

しかし,審決には,以下のとおり,一致点の認定を誤り,相違点を看過した誤り




がある。

ア 引用発明の「段ボールシートの移行路」と,本願発明の「被印刷体の経路」

とは相違するから,これを一致点とし,相違点と認定しなかった審決は誤りである。

すなわち,本願発明においては,1番目のインクの印刷の後には,印刷表面に何

も接触しないようにして第二のインク付けステーションまで移送され,その際,第

二のインク付けステーションにおいて第1のインクがウェットトラップするように,

1番目のインクの粘度が2番目のインクの粘度よりも高くされるように,被印刷体

の移送がコントロールシステムにより制御されるから,印刷されたインクは次のイ

ンク付けステーションにおける印刷まで乾燥してはならない。そのため,本願発明

の被印刷体の経路は印刷されたインクの表面と接触する送りロールを含まない。

これに対し,引用発明においては,第1の回転版胴(5)により印刷されたイン

クを保持する段ボールシートは,一対の送りロール(52)(52)を通過し,その後第2

の回転版胴(5)により印刷され,再度一対の送りロール(52)(52)を通過した後,

版胴(5a)により印刷される。この移送路において,一対の送りロール(52)(52)が,

印刷面と接触する。もし,送りロール(52)と接触する際にインクが十分に乾燥して

いなければインクは送りロール(52)に転写され,転写されたインクは次の段ボール

シートのインクと混合されるか,又は印刷すべきでない場所に印刷をすることとな

るから,一対の送りロール(52)(52)と接触するまでに,印刷面は十分に乾燥してい

なければならない。

したがって,本願発明における被印刷体の経路と,引用発明における段ボールシ

ートの移行路とは相違する。

イ 引用発明の「装置」と本願発明の「複数の重なり合ったインク層を被印刷体

に順次的に塗布する装置」とは相違するから,これを一致点とし,相違点と認定し

なかった審決は誤りである。

すなわち,本願発明においては第二のインク付けステーションにおいて第1のイ

ンクがウェットトラップするように,1番目のインクの粘度が2番目のインクの粘




度よりも高くされるのに対し,引用発明においては複数のインク層を前のインクが

乾燥してから印刷する点で相違する。

ウ 引用発明の「版胴」,「印圧ロール」及び「一対の送りロール」を合わせた

ものは,本願発明の「被印刷体を前記経路に沿って移送する被印刷体ドライブ」と

は相違するから,これを一致点とし,相違点と認定しなかった審決は誤りである。

すなわち,上記アのとおり,本願発明においては1番目のインクの印刷の後には,

印刷表面に何も接触しないようにして第二のインク付けステーションまで移送され

るので,最初の一組の印刷ユニットを除き,引用発明における「一対の送りロー

ル」を含まない点で相違する。

エ 引用発明において使用する「インク」は,エネルギー硬化型液体インクを包

含しない点で,本願発明で使用される「インク」と相違するから,これを一致点と

し,相違点と認定しなかった審決は誤りである。

すなわち,本願発明は,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された

方法を実施するための装置であり,請求項1記載の発明においてはエネルギー硬化

型液体インクを第1のインクとして使用し,請求項2及び3記載の発明においては,

エネルギー硬化型液体インクを第1のインク及び第2のインクとして使用するから,

本願発明に係る装置は,少なくとも第1のインクが,場合によっては第1及び第2

のインクがエネルギー硬化型液体インクであっても,当然に使用することができな

ければならない。

一方,引用例においては,第1のインク及び第2のインクはどちらもエネルギー

硬化型液体インクではないので,本願発明において使用されるインクと引用発明に

おいて使用されるインクは異なるものである。

なお,引用例の出願人が第1及び第2の印刷ユニットで使用されるインクとして

エネルギー硬化型液体インクを使用する意図のないことは,引用例と同一の出願人

により出願された特開平11−105251号公報(甲6)に示される。甲6には,

引用例に記載された装置と同様の装置が記載され,段落【0003】に,紫外線硬




化インキは高価であり,印刷部分の全てを紫外線硬化インキで印刷することは印刷

コストが高くなると記載されているから,引用例においても第1及び第2の印刷ユ

ニットで使用されるインクとしてエネルギー硬化型液体インクを使用することは意

図されていないと理解すべきである。

オ 引用発明の「複数のインク付けステーション」と本願発明の「複数のインク

付けステーション」とは相違するから,これを一致点とし,相違点と認定しなかっ

た審決は誤りである。

すなわち,上記アのとおり,本願発明における被印刷体の経路と,引用発明にお

ける段ボールシートの移行路とは相違する。

また,本願発明のインク付けステーションは一対の送りロールを有さず,印刷さ

れたインク層には次の印刷までロールなどと接触することなく移送されるのに対し,

引用発明における印刷ユニットは,一対の送りロール(52)(52),段ボールシートS

の移行路の上方に設けた回転版胴(5)と段ボールシートSの移行路を挟んで配置

される印圧ロール(51)で構成される点でも相違する。

カ 引用発明における「被印刷体を被印刷体の経路に沿って移送する被印刷体ド

ライブ(版胴,印圧ロール及び一対の送りロール)」は,本願発明のコントロール

された「前記経路に沿った前記被印刷体の移送」とは相違するから,これを一致点

とし,相違点と認定しなかった審決は誤りである。

すなわち,上記アのとおり,本願発明においては,経路に沿った前記被印刷体の

移送を制御するコントロールシステムにより,1番目のインク付けステーションか

ら間隔を置いて位置する次のインク付けステーションにおいて1番目のインク層上

に塗布される2番目の液体インクをウェットトラップするように被印刷体を移送す

る。そのために移送速度を変化させたり,インク付けステーション間の距離を変化

させたりする。

これに対し,引用発明における被印刷体ドライブについては,移送の速度を変え

ることも,インク付けステーション間の距離を変えることも記載されておらず,単




に一定速度でダンボールを移動するものにすぎない。

したがって,本願発明におけるコントロールされた被印刷体の移送と,被印刷体

ドライブとは相違する。

キ 審決は,本願発明と引用発明の相違点として,上記第2の3の(2)のウ のと

おり認定する。

しかし,審決の認定は誤りである。

上記ア,イ,カのとおり,本願発明と引用発明とは,本願発明は1番目のインク

付けステーションから,次のインク付けステーションにおいて1番目のインク層上

に塗布される2番目の液体インクをウェットトラップするように被印刷体の移送を

制御するコントロールシステムを有するのに対し,引用発明はそのようなシステム

を有しない点,本願発明は1番目のインクの粘度が2番目のインクの粘度よりも高

くされるものであるのに対し,引用発明は一対の送りロール(52)(52)と接触するま

でに印刷面は十分に乾燥していなければならず,1番目のインクの粘度が2番目の

インクの粘度よりも高くされるということはない点で相違する。これらの相違点を

看過した審決は誤りである。

(2) 本願発明に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2)

審決は,「1 ・・・引用発明において,上流側の2基の印刷ユニットが使用す

るインキとして,段ボールシートを当該印刷ユニット間の距離だけ移送するのに要

する時間では完全に乾燥することがない同粘度の2種類のインキを用いるとともに,

各インクごとに,当該2種類のインクが重なり合う箇所がある刷版をそれぞれ用い

ることとして,当該2種類のインクが重なり合う箇所がある画像を印刷するように

なすことは,当業者が適宜なし得た設計上のことである。2 上記1のようになし

た印刷装置が形成した画像におけるインクが重なり合う箇所は,上流側の1基目の

印刷ユニットが印刷したインクの上に,上流側の2基目の印刷ユニットが印刷した

インクが印刷されることになるところ,前記上流側の1基目の印刷ユニットが印刷

したインクが,その上に2基目の印刷ユニットがインクを印刷する時点で,完全に




は乾燥していないが部分的に乾燥することにより,2基目の印刷ユニットが印刷す

るインクよりも粘度が高くなることは明らかである。」として,上記1のようにな

した印刷装置が形成した画像におけるインクが重なり合う箇所は,相違点に係る本

願発明の構成に相当し,引用発明において,本願発明の相違点に係る構成となすこ

とは,当業者が適宜なし得たと判断した。

しかし,審決の判断は誤りである。

ア 引用発明においては,一対の送りロール(52)(52)と接触するまでに印刷面は

十分に乾燥していなければならないから,引用発明に基づいて「上流側の2基の印

刷ユニットが使用するインキとして,段ボールシートを当該印刷ユニット間の距離

だけ移送するのに要する時間では完全に乾燥することがない同粘度の2種類のイン

キを用いる」ことは想到し得ない。

また,引用発明では,上流側の1基目の印刷ユニットが印刷したインクが,その

上に2基目の印刷ユニットがインクを印刷する時点で,完全に乾燥していなければ

ならないから,「上流側の1基目の印刷ユニットが印刷したインクが,その上に2

基目の印刷ユニットがインクを印刷する時点で,完全には乾燥していないが部分的

に乾燥することにより,2基目の印刷ユニットが印刷するインクよりも粘度が高く

なることは明らかである」ともいえない。

したがって,引用発明において,相違点に係る本願発明の構成となすことは,当

業者が適宜なし得たとはいえない。

イ 引用発明においては,以下のとおり,ウェットトラップを利用しないもので

あると考えられる。すなわち,

(ア) 引用発明において使用される紫外線硬化性インクの粘度は3000ないし3

500センチポイズである(引用例の段落【0004】)。一方,印刷ユニット1

で使用されるインクの粘度は500ないし1000センチポイズである。引用例の

図1に記載された装置において,仮に2番目の印刷ユニット1で印刷されたインク

の上にプリスロタイプのインクをウェットトラップさせようとすると,印刷ユニッ




ト1から印刷ユニット1aに到達するまでに粘度を少なくとも3000センチポイ

ズ以上にする必要があり,かかる要件を達成する条件で段ボールシートが移送され

なければならないが,かかる要件は引用例には記載されていない。

(イ) 同程度の粘度を有して乾燥しやすいインクを使用する1番目と2番目の2つ

の印刷ユニット間で必要とされる粘度の上昇と,2番目の印刷ユニットと粘度の高

いプリスロインクを使用する3番目の印刷ユニットとの間で必要とされる粘度の上

昇とはその程度を大きく異にするので,1番目と2番目の2つの印刷ユニット間の

段ボールシートの移送速度と,2番目の印刷ユニットと3番目の印刷ユニットの間

の移送速度とを変更する(2番目の印刷ユニットと3番目の印刷ユニットの間の移

送速度を遅くする)か,1番目と2番目の2つの印刷ユニット間の距離と,2番目

の印刷ユニットと3番目の印刷ユニットの間の距離とを変更する(2番目の印刷ユ

ニットと3番目の印刷ユニットの間の距離を大きくする)ことが必要とされるはず

であるが,引用例には,そのような記載はない。

そうすると,引用発明においては,1番目,2番目及び3番目の印刷ユニット間

の距離は等しく,段ボールシートは一定速度で移送されると理解される。この場合,

同程度の粘度を有して乾燥しやすいインクを使用する1番目と2番目の2つの印刷

ユニット間でウェットトラップできたとしても2番目と3番目の2つの印刷ユニッ

ト間では印刷されたインクの粘度上昇が十分でない,2番目と3番目の2つの印刷

ユニット間でウェットトラップできたとしても1番目と2番目の2つの印刷ユニッ

ト間では印刷されたインクは乾燥してしまう,ということになるはずである。

(ウ) ウェットトラップを利用して印刷するためには,印刷されたインクとその上

に印刷されるインクとの粘度の間に一定の相違が必要であり,本願発明においては,

被印刷体の移送速度を変えたり,インク付けステーション間の距離を変えたりして,

ウェットトラップが良好に行えるように調節している。

一方,引用例においては,印刷ユニット間においてそのような一定程度の粘度の

相違が生ずることも,そのような相違を発生させるために何らかの操作を行うこと




も記載されていない。

また,引用発明では本願発明で利用されるコントロールシステムについての記載

はなく,段ボールシートの移動速度や印刷ユニット間の距離についての記載もない。

ウ したがって,引用発明に基づいて本願発明を容易になし得ることはできない

から,「引用発明において,上記相違点に係る本願発明の構成となすことは,当業

者が適宜なし得たことである。」とした審決の判断は誤りである。

(3) 本願発明の効果に関する判断の誤り(取消事由3)

審決は,「本願発明の効果は,当業者が,引用発明の奏する効果から予測するこ

とができた程度のものである」と判断した。

しかし,審決の判断は誤りである。

引用発明においては,第1のインクは第2のインクが印刷される前に乾燥される

ので,前記1番目のインク層上に塗布される前記2番目の液体インクをウェットト

ラップすることにより得られる処理速度の向上の効果は得られない。

本願発明においては,第1のインク及び第2のインクとしてエネルギー硬化型液

体インクが使用される場合,第1のインクと第2のインクの印刷後,例えば紫外線

に暴露することにより同時に硬化することができる。これにより硬化設備の数を減

らすことができ,また硬化のためのラインを省けるので,全体としてのライン長が

短くなり,設備投資が軽減できるという効果が得られる。特により多くのインクが

重ね塗りされる場合には,紫外線硬化装置の削減される数も多くなるので,非常に

大きな生産性の向上と経費節減効果が得られる(甲2の段落【0009】)。しか

し,いずれの効果も引用発明では得られない。

以上のとおり,本願発明には,顕著な効果がある。

2 被告の反論

以下のとおり,審決には,取り消されるべき判断の誤りはない。

(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)に対し

原告は,審決には,一致点の認定の誤り及び相違点を看過した誤りがあると主張




する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

ア 原告は,引用発明の「段ボールシートの移行路」と,本願発明の「被印刷体

の経路」とは相違すると主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。

本願明細書(甲2)の段落【0049】の記載からすれば,非接触式ローラは被

印刷体経路に用いられる好ましい一例にすぎず,本願発明の「被印刷体の経路」は,

接触式ローラを有する経路を排除するものでない。また,本願の特許請求の範囲

は,「・・・被印刷体の経路および,前記被印刷体を前記経路に沿って移送する被

印刷体ドライブ・・・」と記載されており,本願発明の「被印刷体の経路」が,被

印刷体の印刷された表面と接触しない旨の限定はない。

一方,引用例には,送りロール(52)(52)と接触するまでに,印刷面はすでに十分

に乾燥していなければならないとする記載も示唆もなく,印刷機において,被印刷

体を移送するローラに完全には乾燥していないインキを有する印刷面が接触するこ

とは,本願優先日前周知の事項であるから(乙1ないし乙3),引用発明において,

送りロールと接触するまでに印刷面が十分に乾燥している必要はない。

したがって,本願発明の「被印刷体の経路」は,引用発明における,印刷面に接

触して被印刷体を移送する手段を有する経路を包含するものである。

イ 原告は,引用発明の「装置」と本願発明の「複数の重なり合ったインク層を

被印刷体に順次的に塗布する装置」とは相違すると主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。

フレキソ印刷機において,印刷ないし移送は秒単位で行われる(甲1の段落【0

002】,乙7)。フレキソ印刷の印刷速度,すなわち被印刷体の移送速度は秒単

位であるから,インキの乾燥する時間に約10秒もかかる(甲1の【0026】)

引用発明の上流側の1基目の印刷ユニットで印刷されるインキは,2基目の印刷ユ

ニットへ移送される間に,完全には乾燥していないと考えるのが妥当である。引用




発明は,「紫外線硬化性インキを使用し,紫外線照射装置(7)を働かせればイン

キを瞬時に乾燥させることができ」(甲1の段落【0018】)る効果を狙った段

ボールシートの印刷装置であり,インクが十分に乾燥するまで10秒間も待ってか

ら次の印刷ユニットに送るようなことは,製造能率上あり得ない。引用発明におい

て,被印刷体は,上流側の1基目の印刷ユニットによる印刷後,数秒程度で2基目

の印刷ユニットに移送され,2基目の印刷ユニットが印刷すると考えるべきであり,

少なくとも,上流側の1基目の印刷ユニットが印刷したインクが,その上に2基目

の印刷ユニットがインクを印刷する時点で,完全に乾燥していなければならないと

いうことはあり得ない(乙8,乙9)。

また,引用例には,複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する記載も

示唆もなく,ウェットトラップ印刷法は,本願優先日前における技術常識であるこ

と(甲2の段落【0001】,乙4ないし乙6)を考慮すれば,引用発明において,

複数のインク層を前のインクが乾燥してから印刷する必要はない。

したがって,引用発明の「装置」と本願発明の「複数の重なり合ったインク層を

被印刷体に順次的に塗布する装置」が相違するとはいえない。

なお,原告は,本願発明においては第二のインク付けステーションにおいて第1

のインクがウェットトラップするように,1番目のインクの粘度が2番目のインク

の粘度よりも高くされる点で引用発明と相違すると主張するが,この点は,審決も

相違点として判断している。

ウ 原告は,引用発明の「版胴」,「印圧ロール」及び「一対の送りロール」を

合わせたものは,本願発明の「被印刷体を前記経路に沿って移送する被印刷体ドラ

イブ」とは相違すると主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。

上記アのとおり,本願発明は,印刷面に接触して被印刷体を移送する手段を有す

る経路を包含するものと解すべきものである。したがって,原告の主張は前提にお

いて誤りがある。




エ 原告は,引用発明において使用する「インク」は,エネルギー硬化型液体イ

ンクを包含しない点で,本願発明で使用される「インク」と相違すると主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。

本願発明が,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された方法を実施

するための装置であり,請求項1ないし3に記載されたエネルギー硬化型液体イン

クを当然に使用することができなければならないものであることも,特許請求の範

囲の記載において特定されていない。

したがって,原告の主張は前提において誤りがある。

オ 原告は,引用発明の「複数のインク付けステーション」と本願発明の「複数

のインク付けステーション」とは相違すると主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。

上記アのとおり,本願発明は,印刷面に接触して被印刷体を移送する手段を有す

る経路を包含するものと解すべきものである。したがって,原告の主張は前提にお

いて誤りがある。

カ 原告は,引用発明における「被印刷体を被印刷体の経路に沿って移送する被

印刷体ドライブ(版胴,印圧ロール及び一対の送りロール)」は,本願発明の「前

記経路に沿った前記被印刷体の移送を制御するコントロールシステム」とは相違す

ると主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。

(ア) 本願明細書の図1及び図2の装置は,被印刷体の移送速度を変化させたり,

インク付けステーション間の距離を変化させたりするものではあるが,これらの装

置は実施例にすぎず,本願発明が,被印刷体の移送速度を変化させたり,インク付

けステーション間の距離を変化させたりするものであることは,特許請求の範囲

記載において特定されていないから,原告の主張は前提において誤りがある。

(イ) また,本願の特許請求の範囲の請求項4は,被印刷体がインク付けステーシ

ョン間を移行する期間に,当然,1番目のインク層から希釈剤の一部が蒸発し,2




番目の液体インクをウェットトラップするように1番目の液体インクの粘度が2番

目の液体インクの粘度より高くなるという現象を規定するにすぎない。この点は,

本願明細書の段落【0027】,【0029】の記載から,本願発明が,1番目の

インクが被印刷体に塗布されると希釈剤が蒸発して迅速かつ比較的大きな粘度の変

化により印刷前は同程度であった2番目のインクの粘度より高くなるという現象を

利用する実施態様を含むと理解できる点からも明らかである。

(ウ) したがって,引用発明における「被印刷体を被印刷体の経路に沿って移送す

る被印刷体ドライブ(版胴,印圧ロール及び一対の送りロール)」は,本願発明の

「前記経路に沿った前記被印刷体の移送」と相違するものではなく,これを相違点

と認定しなかった審決に誤りはない。

キ 原告は,本願発明と引用発明は,本願発明は1番目のインク付けステーショ

ンから,次のインク付けステーションにおいて1番目のインク層上に塗布される2

番目の液体インクをウェットトラップするように被印刷体の移送を制御するコント

ロールシステムを有するのに対し,引用発明はそのようなシステムを有しない点,

本願発明は1番目のインクの粘度が2番目のインクの粘度よりも高くされるもので

あるのに対し,引用発明は一対の送りロール(52)(52)と接触するまでに印刷面は十

分に乾燥していなければならず,1番目のインクの粘度が2番目のインクの粘度よ

りも高くされるということはない点で相違し,これらの相違点を看過した審決は誤

りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

審決は,本願発明が1番目のインク付けステーションから,次のインク付けステ

ーションにおいて1番目のインク層上に塗布される2番目の液体インクをウェット

トラップするように被印刷体の移送を制御するコントロールシステムを有する点を,

引用発明との相違点として認定している。

また,上記アのとおり,引用発明において,一対の送りロール(52)(52)と接触す

るまでに印刷面が十分に乾燥していなければならない必要性はないから,原告の主




張は前提を欠く。

(2) 取消事由2(本願発明に係る容易想到性判断の誤り)に対し

原告は,引用発明に基づいて本願発明を容易になし得ることはできないから,審

決の「引用発明において,上記相違点に係る本願発明の構成となすことは,当業者

が適宜なし得たことである。」との判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

ア 上記(1)ア のとおり,引用発明において,複数のインク層を前のインクが乾

燥してから印刷する必要はないから,引用発明は複数のインク層を前のインクが乾

燥してから印刷することを前提とした原告の主張は,前提を欠く。

イ また,原告は,引用発明においては,1番目,2番目及び3番目の印刷ユニ

ット間の距離は等しく,段ボールシートは一定速度で移送されると理解されること

等を前提として,引用発明はウェットトラップを利用しないものである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

審決は,引用発明において,上流側の2基の印刷ユニットがウェットトラップを

行うことについて判断しているものであり,粘度の高いプリスロインクを使用する

3番目の印刷ユニットの存在を根拠に,1番目,2番目及び3番目の印刷ユニット

間の距離は等しく,段ボールシートは一定速度で移送されると理解されるとする原

告の主張は失当である。なお,3番目の印刷ユニットを使用するか否かは使用者が

自由に決定し得ることであるし,プリスロタイプの印刷ユニット(1a)にて印刷され

た細線部が,印刷ユニット(1)(1)にて印刷されたべた刷り部と重なるものと

も限らない。むしろ,引用発明の具体的実施例の細線はバーコードを念頭としたも

のであるから(甲1の段落【0013】),べた刷りと重ならない(ウェットトラ

ップを考慮する必要がない)ものと考えるのが妥当である。原告の主張は,引用発

明がウェットトラップを利用しないことの根拠とはならない。

また,原告は,本願発明が,被印刷体の移送速度を変化させたり,インク付けス

テーション間の距離を変化させたりするものであることを前提とするが,上記(1)




カ のとおり,本願発明が,被印刷体の移送速度を変化させたり,インク付けステ

ーション間の距離を変化させたりするものであることは,特許請求の範囲の記載に

おいて何ら特定されていない。

仮に,本願発明において,被印刷体の移送速度が変化させたり,インク付けステ

ーション間の距離を変化させたりすることが特定されているとしても,そのような

印刷機は,本願明細書(甲2)に記載のとおり,市販されているものであるから,

引用発明において,被印刷体の移送速度を変化させたり,インク付けステーション

間の距離を変化させたりすることは当業者が容易に想到することである。

ウ したがって,「引用発明において,上記相違点に係る本願発明の構成となす

ことは,当業者が適宜なし得たことである。」との審決の判断に誤りはない。

(3) 取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤り)に対し

原告は,本願発明により顕著な効果が得られると主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

上記(1)ア のとおり,引用発明において,複数のインク層を前のインクが乾燥し

てから印刷する必要はないから,原告の主張は前提において誤りがある。また,本

願発明が使用するインクは,上記(1)エ のとおり,何ら特定されていないから,本

願発明がエネルギー硬化型液体インクを使用するものであることを前提とした原告

が主張する効果は,本願発明の効果ではない。

したがって,「本願発明の効果は,当業者が,引用発明の奏する効果から予測す

ることができた程度のものである。」とした審決の判断に,誤りはない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由2(本願発明に係る容易想到性

判断の誤り)には理由があり,審決は取り消されるべきものと判断する。

1 取消事由2(本願発明に係る容易想到性判断の誤り)について

審決は,「1 ・・・引用発明において,上流側の2基の印刷ユニットが使用す

るインキとして,段ボールシートを当該印刷ユニット間の距離だけ移送するのに要




する時間では完全に乾燥することがない同粘度の2種類のインキを用いるとともに,

各インクごとに,当該2種類のインクが重なり合う箇所がある刷版をそれぞれ用い

ることとして,当該2種類のインクが重なり合う箇所がある画像を印刷するように

なすことは,当業者が適宜なし得た設計上のことである。2 上記1のようになし

た印刷装置が形成した画像におけるインクが重なり合う箇所は,上流側の1基目の

印刷ユニットが印刷したインクの上に,上流側の2基目の印刷ユニットが印刷した

インクが印刷されることになるところ,前記上流側の1基目の印刷ユニットが印刷

したインクが,その上に2基目の印刷ユニットがインクを印刷する時点で,完全に

は乾燥していないが部分的に乾燥することにより,2基目の印刷ユニットが印刷す

るインクよりも粘度が高くなることは明らかである。」として,上記1のようにな

した印刷装置が形成した画像におけるインクが重なり合う箇所は,相違点に係る本

願発明の構成に相当し,引用発明において,相違点に係る本願発明の構成となすこ

とは,当業者が適宜なし得たと判断した。

しかし,審決の判断は誤りである。

(1) 認定事実

ア 本願明細書(甲2)には,次の記載がある。すなわち,

特許請求の範囲の【請求項4】の記載は,上記第2の2のとおりである。

発明の詳細な説明

【技術分野】

【0001】

発明の分野

当発明は,フレキソカラー印刷の方法および装置,より正確には,エネルギー硬

化型フレキソ印刷用液体インクを使用した,フレキソ印刷では「ウェットトラッピ

ング」として知られているウェットトラップ印刷法を実施するための方法および関

連装置に関連するものである。

【0002】




発明の背景

マルチカラーインプレッション印刷工程では,一般的に,複数の単色インク層の

連続的な重ね刷りが要求される。高品質の画像再生が望まれる場合,後に続く印圧

ユニットが先に塗布されたインク層に逆転移するのを避けることが重要である。こ

のような転移により通常色と色の間で汚濁が起こり,望ましくない演色を招くこと

になる。

【0003】

当技術分野において,この問題はいくつかの方法で対処されてきた。好ましくな

い色の汚濁を防ぐ最も単純な方法は,インク層の重ね刷りを行う前に,先に塗布さ

れた各インク層を乾燥させることである。この方法は効果的ではあるものの,各イ

ンク層を塗布した後,インクを完全に乾燥させる必要があるという,大きな不利点

がある。インクを完全に乾燥させるのには時間とエネルギーがかかるため,生産性

が下がり,生産コストが増加してしまうのである。

【0004】

印刷工程の促進を目指し,ウェットトラッピングが開発された。本発明において

「ウェットトラッピング」とは,各インク付けステーションで溶着または塗布され

たインク層が乾燥する前に,その上に次のインク層を溶着して,色彩効果あるいは

視覚効果を提供する工程,と定義される。ウェットトラッピングを行う際に,重ね

合わされるインク層のタック特性が異なるものであるよう操作することが重要であ

る。

【0011】

米国特許第5,690,028号は,特にセントラルインプレッション(CI)

フレキソ印刷に適した,エネルギー硬化型インク使用のマルチカラー印刷における

ウェットトラッピング法を用いて,前述のインク粘度範囲の限界の問題解決を試み

ている。当該特許によると,エネルギー硬化型インクは被印刷体に塗布される前に

加熱され,先に塗布されたインク層よりも高い温度で被印刷体に塗布される。先に




被印刷体に塗布されたインク層の温度が,次に塗布されるあるいは重ね刷りされる,

加熱されたインクの温度よりも低いため,先に塗布されたインク層の粘度は次に塗

布されるインクの粘度よりも低くなる。この粘度の差により,粘度の低いインクが

粘度の高いインクの上に一方的に転移され,逆トラッピングおよびインクの混合を

防ぐことになる。

【0012】

このウェットトラッピング法によって希望の結果は得られるものの,被印刷体に

インクを塗布する前の各インク付けステーションに加熱ユニットを提供するために

は,既存の印刷機に大幅な改造が必要となる。さらに,ステーションの数が増える

のに伴い,一連のインク付けステーションにおけるインクの温度も上げなくてはな

らない。従って,その特性に悪影響を与えるレベルまでインクの温度を上げること

を防ぐため,被印刷体を冷やすか,印刷速度を遅くすることが必要となる。

【0014】

発明の要約

当発明は,少なくとも一つのエネルギー硬化型フレキソ印刷液体インクを使用し,

最初に印刷されたエネルギー硬化型フレキソ印刷液体インクを事前に乾燥させるこ

となく,その上に次の異なった色の類似のインクを印刷する,被印刷体への複数イ

ンク層の重ね合わせによるフレキソ印刷の方法を提供する。

【0015】

以下の順番により,ウェットトラッピングを行うために,被印刷体上に複数のイ

ンク層を塗布する方法:

(a)少なくとも一つの,粘度約4000cps以下の,非反応性の希釈剤を含む

エネルギー硬化型液体インク層を,被印刷体上に塗布する。当該エネルギー硬化型

液体インク層が,一番目の粘度を有する;

(b)塗布されたインク層の少なくとも一部分の非反応性希釈剤を蒸発させる。こ

れにより,塗布されたエネルギー硬化型液体インク層の粘度が増加する;




(c)少なくとも一層の,前述の先に塗布されたエネルギー硬化型インク層の増加

された粘度よりも低い粘度を有する,非エネルギー硬化型液体インクを,前述の被

印刷体,および増加した粘度を有する,前述のエネルギー硬化型インク層に塗布す

る; また,

(d)両方のインク層を,前述の被印刷体に固定する。

【0016】

当発明は,被印刷体上に複数のインク層を印刷する方法を提供する。この方法は

一番目と二番目のエネルギー硬化型液体フレキソ印刷インクの選択を含む。各イン

クは,希釈剤の重量に基づいた,重量パーセント50%以下の非反応性希釈剤を含

み,それぞれ4,000cps以下,望ましくは30から70cpsの間の粘度を

有する。一番目と二番目のエネルギー硬化型液体フレキソインクは順次被印刷体上

に塗布され,重なり合った部分を有する一番目と二番目のインク層を形成する。そ

のとき,二番目のインクは,前述の一番目のインク層の非反応性希釈剤の少なくと

も一部が蒸発した後に塗布される。

【0017】

この発明はまた,ウェットトラッピングを行うために,少なくとも一つのインク

層が非反応性希釈剤を含み,粘度が4000cps以下であるインク層を複数重ね

合わせて被印刷体に順次塗布する装置を提供する。この装置は以下を含む:

(a)被印刷体の経路,および前述の前もって決定された経路に沿って,前述の被

印刷体を移送するための被印刷体の駆動部;

(b)前もって決定された前述の経路に沿って間隔を取った複数のインク付けステ

ーション。前述のインク付けステーションは,非反応性希釈剤を含み,粘度400

0cps以下のインクを前述の被印刷体上に塗布する;および

(c)前述の被印刷体の前述の経路に沿った移送を制御するコントロールシステム。

このシステムにより,前述のインク付けステーションの一つで前述の被印刷体に

塗布された一番目の液体インク層の粘度が,前述の希釈剤の少なくとも一部の前述




の一番目のインク層からの蒸発によって増加する。増加した粘度は,前述の一番目

のインク付けステーションから間隔を置いた次のステーションで前述の一番目のイ

ンク層の上に塗布される二番目のインクの粘度よりも高く,また,前述の被印刷体

が前述のインク付けステーションの間を移送される際に,前述の二番目の液体イン

クをウェットトラップするのに充分な粘度となる。

【0018】

本発明によると,インク層の順次的印刷ステップは,エネルギー硬化型インクを

複数回順次的に印刷することにより,何度も繰り返される。このとき,毎回先刷り

された層の希釈剤の少なくとも一部分を乾燥させ,それによって次のインクの層を

印刷する前に,その粘度を増加させていく。

【0019】

さらに,本発明によると,この発明はまた,エネルギー硬化型インク層の希釈剤

の少なくとも一部を蒸発させることにより,被印刷体上のインク層の粘度を増加さ

せる工程である。この工程は,次のインクを塗布する前にインクの付いた表面を加

熱する,あるいは表面に空気を吹き付けることにより加速することができる。

【0039】

本発明に基づき,セントラルコントロール28,ローカルコントロール26,ま

たユーザーインターフェース40によって通常表されるコントロールシステムが,

さらにこの装置に提供される。このコントロールシステムは,一番目のインク付け

ステーション18のポイント「A」でウェッブ16に塗布された一番目のインク層

の粘度が,少なくとも一部分の非反応性希釈剤の蒸発により増加し,次に続くイン

ク付けステーション18’のポイント「B」で重ねて塗布された二番目のインクの

粘度よりも高く,二番目の液体インクをウェットトラップするのに充分な粘度とな

るように,装置をコントロールするため使用される。

イ 引用例(甲1)には,次の記載がある。

【0001】【産業上の利用分野】本発明は,段ボールシートに,特性の異なる




複数種類のインキにて印刷が出来る印刷装置に関するものである。

【0002】【従来の技術及びその問題点】従来の段ボール印刷は,殆どフレキ

ソタイプとプリスロタイプに2分される。フレキソタイプは,インキの粘度が200

〜300 センチポイズで,紙シートに付着すれば1秒程度で乾燥する速乾性インキが

使用するため,インキが乾燥するまでのタイムラグなしで,直ちにシートSを後加

工ラインに送り込むことができる利点がある。

【0003】ところが,粘度の低い速乾性のインキは印刷面に艶がなく商品価値

が低い。又,インク(判決注 原文のまま)を絶えず流動させなければ固まってし

まう。このため,インキを絶えず循環させインキが固まることを防止するための大

掛りな装置を必要とする。更に,この様に,循環管路にて常時インキを循環させる

と,インキの色替えの際,循環管路内のインキを洗い流さねばならず,多量のイン

キが無駄になる問題がある。

【0004】他方,プリスロタイプは,粘度が3000〜3500センチポイズで,紙に

付着したインキの乾燥に要する時間は長いが,印刷面に艶があり商品価値の高い印

刷が望めるインキを使用するものである。

【0006】上記プリスロタイプのインキ供給は,・・・多量のインキを循環さ

せる必要はないから,インキ変えの際に無駄となるインキ量は少なくてすむ。

【0007】しかし,粘度の高いインキを練りながら下流側のロールに順に受け

渡すため,版胴が実際にインキ供給を必要とする部分,即ち,版胴の凸部に均一に

インキを供給することが出来ず,印刷のインキ斑,ロールの左右での色振れ,ゴー

スト等の問題が生じる。

【0008】そこで出願人は,以前,版胴に接触し表面に微細な凹凸を形成した

主ロールと,該主ロールに対向して接触配備した補助ロールと,ロールにインキを

補給するインキ補給装置とで構成された段ボール印刷装置を提案した・・・。

【0013】【本発明が解決しようとする課題】上記出願人が以前提案した印刷

装置は,印刷面積の大きな所謂べた刷りは,美しく仕上がるが,バーコードの様な




細線の印刷は仕上りが悪く,細線の印刷に関しては,プリスロタイプの印刷の方が

優れていることが判った。

【0014】本発明は,使用するインキのタイプの異なる印刷ユニットを複数並

べ,夫々印刷ユニットによる印刷の長所を生かして,べた印りも,細線印刷も美し

く仕上げることのできる印刷装置を明らかにするものである。

【0015】【課題を解決する手段】本発明の印刷装置は,種類の異なる複数基

の印刷ユニット(1)(1)(1a)が,段ボールシートSの移行路に沿って配備され,

少なくとも1基の印刷ユニット(1a)は,インキ供給用ロール列(10)の上流側ロール

(11)に対してインキ供給装置(4)を配備し,下流側のロール(12)を版胴(5a)に接

して配備して構成され,少なくとも別の1基の印刷ユニット(1)は,表面全体に

微細な凹凸を形成した主ロール(13)を版胴(5)に接触して配置し,該主ロール

(13)に対向して補助ロール(14)を接触配備し,両ロール間(13)(14)にインキを補給

するインキ補給装置(3)を具えている。

【0017】【作用及び効果】1枚の段ボールシートの印刷面に,べた刷り部と,

細線部が混在している場合,べた刷り部は,凹凸面のロール(13)を有する印刷ユニ

ット(1)(1)にて印刷し,細線部は,プリスロタイプの印刷ユニット(1a)にて印刷

する様に,刷版を版胴にセットすれば,べた印刷も,細字印刷も美しく印刷できる。

【0018】プリスロタイプの印刷ユニットに於いて,紫外線硬化性インキを使

用し,紫外線照射装置(7)を働かせば,インキを瞬時に乾燥させることができ,

インキが乾燥するまでのタイムラグなしで,直ちにシートSを後加工ラインに送り

込むことができる利点がある。

【0020】【実施例】図1に示す如く,印刷装置は,種類の異なる複数基の印

刷ユニット(1)(1)(1a)をレール(18)上に移動可能に配備し,各ユニットを連結し

て構成される。各ユニットのメンテナンス,インキ替え,刷版の交換等は,各ユニ

ット間を開いて行なう。

【0021】実施例では,3基の印刷ユニットにて印刷装置が構成され,段ボー




ルシートSの移行路の上流側の2基は,乾燥速度の速いインキを使用する同じタイ

プの印刷ユニット,下流側の1基は,プリスロタイプの印刷ユニットである。印刷

ユニットの組合せ順,組合せ数は必要に応じて任意に決めれば良い。

【0022】上流側の2基の印刷ユニットは,段ボールシートSの移行路の上方

に設けた回転版胴(5)の上方に,該版胴に接してインキ供給用の主ロール(13)を

回転可能に配備する。該主ロール(13)に接触して該ロールとの間でインキ溜まりを

形成する補助ロール(14)を配備する。

【0023】主ロール(13)は表面の全面に亘って微細な凹凸を形成している。補

助ロール(14)は表面が硬質合成ゴムにて形成されている。主ロール(13)及び補助ロ

ールは共通のモータ(16)に連繋され,互いに逆方向に回転する。補助ロール(14)に

は変速装置(図示せず)が連繋され,主ロール(13)対して周速を違えて回転でき,

主ロール(13)から版胴(5)へのインキ供給量を調整できる。

【0024】補助ロール(14)はレバー(15)に支持され,該レバーに連繋されたシ

リンダ装置(17)の作動によって,主ロール(13)に接触離間可能である。

【0026】インキタンク(31)に収容されるインキは,粘度が500〜1000 センチ

ポイズで,従来の段ボールシート印刷に使用する速乾性インキの乾燥時間約1秒,

遅乾性インキの乾燥時間約3分に対して,約10秒で乾燥する。

(2) 判断

ア 上記(1) 認定の事実によれば,本願発明は,ウェットトラップ印刷法に関し

て,従来,これによって生じる課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化の防止

等)の解決を目的としたものであり,その要件として,「前記一番目のインク層か

ら前記希釈剤の一部が蒸発することにより,前記インク付けステーションで前記被

印刷体に塗布された一番目の液体インク層の粘度が増加し,前記被印刷体が前記イ

ンク付けステーション間を移行する際,前記一番目のインク付けステーションから

間隔を置いて位置する次のインク付けステーションにおいて前記一番目のインク層

上に塗布される前記二番目の液体インクをウェットトラップするように,一番目の




インクの粘度が二番目のインクの粘度よりも高くされる。」との構成を含んでいる。

これに対して,引用発明は,段ボールシートに,特性の異なる複数種類のインキ

で印刷ができる印刷装置に関するものである。粘度の低い速乾性のインキは乾燥す

るまでのタイムラグなしで,直ちにシートSを後加工ラインに送り込むことができ

る利点がある反面,印刷面に艶がなく商品価値が低く,インキを絶えず流動させな

ければ固まってしまう等の問題があり,粘度の高いインキは,印刷面に艶があり商

品価値の高い印刷が望めるが,紙に付着したインキの乾燥に要する時間は長く,イ

ンキを練りながら下流側のロールに順に受け渡すため,版胴の凸部に均一にインキ

を供給することができず,印刷のインキ斑,ロールの左右での色振れ,ゴースト等

の問題があり,引用発明は,上記の課題を解決するため,使用するインキのタイプ

の異なる印刷ユニットを複数並べ,夫々印刷ユニットによる印刷の長所を生かして,

べた刷りも,細線印刷も美しく仕上げることのできる印刷装置に関する発明である。

そして,引用発明は,課題解決の手段として,種類の異なる複数基の印刷ユニット

が,段ボールシートSの移行路に沿って配備され,少なくとも1基の印刷ユニット

は,インキ供給用ロール列の上流側ロールに対してインキ供給装置を配備し,下流

側のロールを版胴に接して配備し,少なくとも別の1基の印刷ユニットは,表面全

体に微細な凹凸を形成した主ロールを版胴に接触して配置し,該主ロールに対向し

て補助ロールを接触配備し,両ロール間にインキを補給するインキ補給装置を具え

る構成としたものである。

引用例を検討すると,引用例には,上流側の1基目の印刷ユニットにより形成さ

れた画像と,これに続く2基目の印刷ユニットにより形成された画像とが重なり合

うことを前提とした記載や示唆はなく,したがって,上流側の1基目の印刷ユニッ

トと2基目の印刷ユニットによる印刷がウェットトラップ印刷法による旨の記載や

示唆はない。

また,引用例には,本願発明の「一番目のインク層から前記希釈剤の一部が蒸発

することにより,前記インク付けステーションで前記被印刷体に塗布された一番目




の液体インク層の粘度が増加し,前記被印刷体が前記インク付けステーション間を

移行する際,前記一番目のインク付けステーションから間隔を置いて位置する次の

インク付けステーションにおいて前記一番目のインク層上に塗布される前記二番目

の液体インクをウェットトラップするように,一番目のインクの粘度が二番目のイ

ンクの粘度よりも高くされる」との構成に係る記載や示唆はない。

さらに,ウェットトラップを利用して印刷するためには,印刷されたインクとそ

の上に印刷されるインクとの間において一定程度の粘度差のあることが必要である

が,引用例には,印刷ユニット間において一定程度の粘度差が生ずることも,その

ような粘度差を生じさせるための工程についても記載又は示唆はない。

以上のとおり,引用発明は,粘度の異なるインクの印刷ユニットを複数並べ,そ

れぞれの印刷ユニットの長所を生かして,べた刷りも,細線印刷も美しく仕上げる

ことのできる印刷装置を提供するものであるが,それらのインクを重ね刷りするこ

とを前提としたものではなく,重ね刷りによる課題(色の汚濁の防止,印刷時間の

長期化の防止等)の解決を目的としたものでもない。引用例には,重ね刷りによる

印刷工程の促進を目指して開発されたウェットトラップ(甲2の段落【000

4】)を採用することに関連した記載,及びウェットトラップを実施した際に生じ

る課題解決に関連した記載はない。

そうすると,本願発明の相違点に係る構成,すなわち「前記複数のインク層が,

重なり合ったものであり,かつ,一番目のインク層から前記希釈剤の一部が蒸発す

ることにより,前記インク付けステーションで前記被印刷体に塗布された一番目の

液体インク層の粘度が増加し,前記被印刷体が前記インク付けステーション間を移

行する際,前記一番目のインク付けステーションから間隔を置いて位置する次のイ

ンク付けステーションにおいて前記一番目のインク層上に塗布される前記二番目の

液体インクをウェットトラップするように,一番目のインクの粘度が二番目のイン

クの粘度よりも高くされる」との構成について,当業者が引用発明に基づいて,容

易に発明をすることができたものということはできない。




イ これに対し,被告は,@引用発明において,複数のインク層を前のインクが

乾燥してから印刷する必然性はない,A引用発明がウェットトラップを利用しない

ものとはいえないなどと主張する。

しかし,被告の主張は採用できない。すなわち,

引用例において,インクが未乾燥の状態でガイドローラと接触するとの記載はな

い。仮に,被印刷体を移送するローラが乾燥していないインクを有する印刷面に接

触する技術が周知であったとしても,そのことから直ちに,引用例においてウェッ

トトラップ印刷法を採用すること,同印刷法を採用した場合に生じ得る解決課題及

び解決方法が記載,示唆されていると解することはできない。

また,仮に,ウェットトラップ印刷法が,本願優先日前における技術常識であっ

たとしても,上記アのとおり,引用発明においては,インクを重ね刷りすることを

前提としておらず,重ね刷りによる解決課題(色の汚濁の防止,印刷時間の長期化

の防止等)を目的としたものではないから,引用発明からウェットトラップ印刷法

を採用する動機付けは生じない。

したがって,引用発明が,ウェットトラップの利用を前提としたものとは認めら

れず,当業者において,引用発明から,ウェットトラップすることを前提として,

本願発明における相違点に係る構成に至ることが容易であるとはいえない。

ウ 以上のとおり,本願発明は,当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をす

ることができたとする審決の判断には誤りがある。

2 小括

以上のとおり,原告の主張する取消事由2には理由があり,その余の点について

判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。被告は,その他

反論するが,いずれも採用の限りではない。

第5 結論

よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。





知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官
飯 村 敏 明




裁判官
池 下 朗




裁判官
武 宮 英 子





別紙図面

1 本願明細書の【図1】

本願発明に基づいて構成されたウェットトラッピング用のフレキソ印刷機を示す。




2 甲1の【図1】

段ボール印刷装置の側面図である。