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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 22年 (ワ) 11353号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2012/03/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年3月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成22年(ワ)第11353号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年1月26日

判 決

原 告 P1

同訴訟代理人弁護士 小 松 陽 一 郎

同 辻 村 和 彦

同 井 口 喜 久 治

同 川 端 さ と み

同 森 本 純

同 中 村 理 紗

同 山 崎 道 雄

同 辻 淳 子

同 藤 野 睦 子

被 告 ニューメディカ・テック販売株式会社

(以下「被告ニューメディカ・テック販売」という。)

被 告 株 式 会 社 大 倉

(以下「被告大倉」という。)

上記2名訴訟代理人弁護士 川 下 清

同 今 田 晋 一

同 高 橋 幸 平

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求


1 被告らは,別紙イ号製品目録記載の製品(以下「イ号製品」という。)を製造

し,販売し,貸渡し,若しくは,販売又は貸渡しの申出(販売又は貸渡しのた

めの展示を含む。)をしてはならない。

2 被告らは,前項記載の製品を廃棄せよ

3 被告ニューメディカ・テック販売は,原告に対し,812万5000円及び

これに対する平成22年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員

を支払え。

4 被告大倉は,原告に対し,693万円及びこれに対する平成22年8月26

日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 仮執行宣言

第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「貯水タンク及び浄水機」とする特許第411363

8号の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告ニューメデ

ィカ・テック販売によるイ号製品の製造販売等及び被告大倉によるイ号製品の

販売等がいずれも本件特許権を侵害する旨主張して,特許法100条1項,2

項に基づき,被告らに対し,イ号製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求める

とともに,特許権侵害不法行為に基づき,被告ニューメディカ・テック販売

に対し,812万5000円及びこれに対する不法行為の日の後である平成2

2年8月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の

支払(うち元金693万円及びこれに対する遅延損害金の支払の限度で被告大

倉との連帯債務)を,被告大倉に対し,693万円及びこれに対する不法行為

の日の後である平成22年8月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割

合による遅延損害金の支払(被告ニューメディカ・テック販売との連帯債務)

をそれぞれ求める事案である。

1 判断の基礎となる事実

以下の事実については,当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨に


より,容易に認定できる。

(1) 当事者
ア 原告は,本件特許権の特許権者である。

イ 被告ニューメディカ・テック販売は,浄水器・浄水装置・浄化装置・風

呂浄化保温装置・環境関連装置の輸出入,販売及び取り付け工事並びに保

守点検等を目的とする株式会社である。

ウ 被告大倉は,建設業,宅地造成業,浄水器のレンタル及び販売等を目的

とする株式会社である。

(2) 本件特許権

ア 原告は,下記の特許権(本件特許権)を有している(甲1,2。以下,

下記の特許を「本件特許」という。また,下記の特許請求の範囲の各請求

項に係る発明を「本件発明1」「本件発明2」といい,併せて「本件発明」


といい,さらに,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。 。



登 録 番 号 第4113638号

発 明 の 名 称 貯水タンク及び浄水機

出 願 日 平成11年6月24日

登 録 日 平成20年4月18日

特許請求の範囲

【請求項1】(本件発明1)

「透明樹脂によって形成されたタンク本体と,該タンク本体に環状の

弾性部材から構成されたスペーサーを介して取付けられ,透明な紫外

線カット樹脂から形成された水位表示板とを備えていることを特徴と

する貯水タンク。」

【請求項2】(本件発明2)

「請求項1に記載の貯水タンクを備えていることを特徴とする浄水


機。」

イ 本件発明1は,次の構成要件に分説することができる。

A 透明樹脂によって形成されたタンク本体と

B−1 該タンク本体に環状の弾性部材から構成されたスペーサーを

介して取付けられ,

B−2 透明な紫外線カット樹脂から形成された水位表示板とを

C 備えていることを特徴とする貯水タンク

なお,本件発明2(請求項2)の構成要件は,請求項1の上記各構成要

件に加え,以下の構成要件Dからなる。

D を備えていることを特徴とする浄水機

(3) 被告らの行為

被告ニューメディカ・テック販売は,遅くとも平成21年5月末から,業

としてイ号製品の製造販売,貸渡し,並びに販売及び貸渡しの申出(販売及

び貸渡しのための展示を含む。)をしている。

被告大倉は,遅くとも平成21年5月末から,業としてイ号製品の販売,

貸渡し,並びに販売及び貸渡しの申出(販売及び貸渡しのための展示を含む。)

をしている。

2 争点

(1) イ号製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

(2) 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか

(争点2)

(3) 原告の損害(争点3)

第3 争点に係る当事者の主張

1 争点1(イ号製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について

【原告の主張】

(1) イ号製品の構成


ア イ号製品の構成は,以下のとおりである。

a 半透明の樹脂によって形成されたタンク本体と

b−1 該タンク本体の水位表示板取付台座部に矩形枠状の弾性のある樹

脂から構成された部品(厚さは0.1mmである。)を介して取付け

られ,

b−2 青色透明なUVカット高分子樹脂から形成された水位表示板と,

b−3 該タンク本体,該矩形枠状の部品及び該水位表示板の接合部を覆

うコーキングとを

c 備えていることを特徴とする貯水タンク

d を備えていることを特徴とする逆浸透膜浄水器

なお,構成b−1の「水位表示板取付台座部」の構造は,別紙図面の図

1ないし3のとおりである。

イ 構成b−1の「弾性のある樹脂から構成された部品」について,被告ら

は「帯状の両面接着テープ」と特定するが,被告らの特定は,上記部品の

異なる特性に着目したものにすぎない。

また,構成b−1の「矩形枠状」について,被告らは,両面接着テープ

は途切れることなく連続した状態に貼られていないことから「矩形枠状」

とはいえないと主張するが,両面接着テープが矩形枠状に途切れることな

く配置されていることは,実験結果(甲10の1実験(3))からも裏付け

られている。

(2) 文言侵害の成立

構成要件A,B−2,C及びDについて

イ号製品の上記構成a,b−2,c及びdは,それぞれ構成要件A,B

−2,C及びDを充足する。

構成要件B−1(「環状の弾性部材から構成されたスペーサー」)につい




(ア) 「環状」について

a 上記(1)イのとおり,イ号製品の水位表示板とタンク本体との間の

部品(両面接着テープ)は矩形枠状であり,構成要件B−1の「環状」

に該当する。

b なお,仮に,製造過程において,両面接着テープ間に若干の隙間が

残っていたとしても,当該隙間は,その後の工程において,水位表示

板,両面接着テープ及びタンク本体(水位表示板取付台座部)を覆う

コーキング(被告らの主張によると環状構造となっている。)によっ

て塞がれている。したがって,イ号製品の両面接着テープは,コ―キ

ングと一体となって,又はコーキングに補われて,空気や水の出入り

可能な隙間を有さない「環状」の構造となっている。

(イ) 「弾性部材」について

広辞苑第六版によると,
「弾性」とは「外力によって形や体積に変化を

生じた物体が,力を取り去ると再び元の状態に回復する性質。体積弾性

と形状弾性とがある。」とされ,「部材」とは「建築などで,構造の部分

をなす材。構成材。」とされる(甲22)。

また,岩波理化学辞典第5版によると,
「弾性」とは「外力によってひ

ずみ(変形)を受けた物体がそのひずみをもとにもどそうとする力を生

ずる性質。体積変化するひずみに現われる体積弾性とそうでないときの

形状弾性とが区別される。一般の弾性は両者の複合である。すべての物

体は多少とも弾性をもつ。」とされる(甲23)。

イ号製品の両面接着テープが,上記性質を備えた「弾性部材」である

ことは,その写真(甲8の2)によって明らかである。

(ウ) 「スペーサー」について

a 本件明細書の記載について

「スペーサー」の意義について,本件明細書【0016】【発明の



実施の形態】)には,「スペーサー32は,環状の弾性部材,例えば,

合成ゴム等から構成されており,水位表示板31とタンク本体33と

を断熱している」と記載されている。

イ号製品の弾性のある樹脂から構成された部品(両面接着テープ)

は,水位表示板とタンク本体を隙間なく固着して両者を断熱しており,

上記実施例の項に記載された「スペーサー」の特徴と一致する。

b 製造業分野における説明について

製造業分野では「スペーサーとは,間にはさんで空間を確保するた

めの器具のこと」(甲9)と説明されている。

イ号製品の弾性のある樹脂から構成される部品(両面接着テープ)

は0.1mmの厚さを有し,タンク本体と水位表示板との間の空間を確

保する構造を有しており,
「スペーサー」に該当する。なお,実際に両

面接着テープであっても,様々な分野でスペーサーとして活用されて

いる(甲14の1〜5)。

出願経過について

本件特許の出願経過では,「スペーサー」に「環状の弾性部材から

構成された」との限定が付されているところ,これは「スペーサー」

が,タンク本体と水位表示板との間の空間が完全に閉鎖されるように,

切れ間なく連続する閉じた構造であって空気の漏れをできるだけ回避

するために弾性部材から構成されたものであることを要求する趣旨で

ある。

イ号製品における矩形枠状の弾性のある樹脂から構成された部品

(両面接着テープ)は,タンク本体と水位表示板との間の空間が完全

に閉鎖されるように切れ間なく連続した閉じた構造であって,空気の

漏れをできるだけ回避し得る弾性部材から構成されたものであり,上

記趣旨に合致する。


d 作用効果からの説明について

イ号製品においても,本件発明と同様の課題(水位表示板の結露に

より貯水量が読み難くなるとともに,貯水タンクの周囲にカビやバク

テリアが生じ,不衛生になること。)に対し,矩形枠状の弾性のある樹

脂から構成された部品(両面接着テープ)によって,水位表示板とタ

ンク本体が断熱され,水位表示板の結露を回避することができるので

あり(このことは,甲10の1,甲19,甲28の各実験結果からも

明らかである。,本件発明と同じ作用効果を奏する。


したがって,イ号製品の矩形枠状の弾性のある樹脂から構成された

部品(両面接着テープ)は,その作用効果に照らしても「スペーサー」

に該当する。

e イ号製品の水位表示板取付台座部について

イ号製品の水位表示板取付台座部の構造は,以下のとおり,矩形枠

状の弾性のある樹脂から構成された部品(両面接着テープ)を「スペ

ーサー」と解することに影響を与えない。

(a) イ号製品における矩形枠状の弾性のある樹脂から構成される部

品(両面接着テープ)による0.1mmの厚さの密閉された空気層

は,それ自体断熱性を有する。

すなわち,極めて薄い空気層が存在する場合に,高い断熱効果・

保温効果が得られることは,日常的に実感しているところであり,

熱伝導率の理論値を計算すると,タンク本体と水位表示板との間に

空気層がない場合と比較して,密閉した0.1mmの空気層を設けた

場合,層構成体全体の熱伝導率が明らかに減少する結果が得られる。

また,イ号製品のタンク本体(筐体部)に,両面接着テープを用い

て水位表示板を直接取り付け,0.1mmの厚さの空気層を作って実

験をしたところ,タンク本体(筐体部)表面に結露が生じる条件下


でも水位表示板表面には結露がない状態が観察された(甲19) そ


して,0.1mmの空気層の熱伝導率を実測値に基づいて計算したと

ころ,上記理論値と合致する値が導かれ,0.1mmの厚さの空気層

が有意な断熱性を示すことが確認された(甲28)。

以上の理論及び実験結果によれば,イ号製品においては,矩形枠

状の弾性のある樹脂から構成された部品(両面接着テープ)のみで

本件発明の作用効果を生じているものといえ,水位表示板取付台座

部の構成によって作用効果の発現が追加されることがあっても,そ

れは定量的な差にすぎず,矩形枠状の弾性のある樹脂から構成され

た部品(両面接着テープ)により本件発明の効果が生じることを否

定するものではない。

(b) 被告らは,両面接着テープの断熱効果についての実験結果(乙2

2)に基づき,どのような貼付方法・手段でもほぼ同様の推移で温

度変化していると主張し,矩形枠状の弾性のある樹脂から構成され

た部品(両面接着テープ)による断熱効果の意義を否定する。

しかしながら,そもそも乙22実験については信頼性が低い上,

そうでないとしても,むしろ,乙22実験の結果は,矩形枠状の弾

性のある樹脂から構成された部品(両面接着テープ)に断熱効果が

あることを立証するものといえる。

(c) また,出願経過での意見書(甲13)には,
「…特に,この環状の

弾性部材から構成されたスペーサーを介していることにより,タン

ク本体と水位表示板との間の空間は完全に閉鎖されているので」と

記載されている。このような点からすると,本件発明における断熱

効果は,矩形枠状の弾性のある樹脂から構成される部品(両面接着

テープ)を介してタンク本体と水位表示板が接着され,そこに密閉

空間が生じることに起因すると考えるべきであり,たとえイ号製品


の水位表示板取付台座部により断熱効果が増大していたとしても,

かかる断熱効果全体は,上記密閉空間が生じることに起因するもの

というべきである。

被告らは,空間が密閉された場合に断熱効果が生じることについ

て,輻射伝熱等の影響を無視したものであり,その効果は証明され

ていないと主張するが,かかる主張が誤りであることは,上記(a)

の理論及び実験結果に加え,小澤意見書(甲26,27)からも明

らかである。

f 「スペーサー」該当性についての予備的主張

なお,仮に,厚さ0.1mmの弾性のある樹脂から構成された部品(両

面接着テープ)が「スペーサー」に該当しないとしても,これと水位

表示板取付台座部とが一体となって「スペーサー」に該当する。

(3) 均等侵害の成立

ア 水位表示板取付台座部の取付けについて

イ号製品において,厚さ0.1mmの弾性のある樹脂から構成された部

品(両面接着テープ)とこれと一体となった水位表示板取付台座部の構成

が「スペーサー」に該当しないとしても,イ号製品については均等侵害

成立する。

(ア) 第1要件(非本質的部分性)

本件発明は,タンク本体と水位表示板の間にスペーサーを介在させる

構成によりタンク本体と水位表示板の間の空間を密閉して断熱効果を

得ることが本質的部分である。

したがって,スペーサーの厚みを充分に確保するか,水位表示板取付

台座部を設けることによって薄いスペーサーにより閉鎖された空間の

容積を確保するかは,本件発明の本質的部分と無関係であり,上記相違

点は,本件発明の本質的部分ではない。


(イ) 第2要件(置換可能性

上記相違点に関し,イ号製品のように水位表示板取付台座部を設ける

ことによっても,本件発明の目的を達成することができ,同一の作用効

果を奏する(仮に,イ号製品の断熱効果が多少高いとしても,それは量

的なものにすぎず,作用効果の同一性を否定するものではない。。


(ウ) 第3要件(置換容易性

イ号製品のように,両面接着テープの厚みに加えて水位表示板取付台

座部のような凸部を設けて密閉空間の容積を確保する構成をとること

は,技術的障壁もなく,当業者がイ号製品を製造する時点において容易

に想到することができたものである。

(エ) 第4要件(公知技術との同一性又は容易推考性)

イ号製品の構成は,本件特許の出願時における公知技術と同一ではな

く,そこから容易に推考できたものでもない。

(オ) 第5要件(意識的除外等の特段の事情がないこと)

本件特許の出願経過において,スペーサーを介して水位表示板を接着

させるタンク本体部分の形状について何ら言及・限定はなく,イ号製品

の構成を意識的に除外したというような特段の事情は認められない。

イ コーキングの付加について

イ号製品におけるコーキングは,弾性のある樹脂から構成された部品

(両面接着テープ)による密閉に対して付加的に設けられたものであると

ころ,仮に,両面接着テープには空気や水の出入り可能な間隙があり(上

記(2)イ(ア)参照),コーキングによって,水や空気の出入りが遮断されて

いるとしても(すなわち,本件発明の「環状の弾性部材により構成された

スペーサー」という構成について,イ号製品では両面接着テープ及びコー

キングという異なる構成を取っているとしても),均等侵害が成立する。

(ア) 第1要件(非本質的部分性)


本件発明は,タンク本体と水位表示板の間にスペーサーを介在させる

構成によりタンク本体と水位表示板の間の空間を密閉して断熱効果を

得ることが本質的部分であり, 空間を密閉するために,スペーサー自体

を環状にするか,スペーサーの外周部分をコーキング剤によるコーキン

グで環状に覆うかは,本件発明の本質的部分とは無関係である。

したがって,上記相違点は,本件発明の本質的部分ではない。

(イ) 第2要件(置換可能性

上記相違点に関し,イ号製品のようにコーキング剤によるコーキング

でスペーサーを環状に覆うことによって,タンク本体と水位表示板の間

の空間を密閉することによっても,本件発明の目的を達成することがで

き,同一の作用効果を奏する。

(ウ) 第3要件(置換容易性

イ号製品のように,スペーサーの周囲を環状に連続した状態になるよ

うにコーキング剤によるコーキングで覆う構成については,そもそもコ

ーキングは空気や水などの漏れを防ぐためにありふれて利用されてお

り,採用するに当たってさしたる障害もないため,当業者がイ号製品を

製造する時点において容易に想到することができたものである。

(エ) 第4要件(公知技術との同一性または容易推考性)

イ号製品の構成は,本件特許の出願時における公知技術と同一又はそ

れから容易に推考できたものではない。

(オ) 第5要件(意識的除外等の特段の事情がないこと)

本件特許の出願経過において,水位表示板を取り付けた後に,スペー

サーをコーキング剤によるコーキングで覆って環状とすることを意識

的に除外したというような特段の事情は認められない。

【被告らの主張】

(1) イ号製品の構成


ア 上記【原告の主張】(1)記載のイ号製品の構成のうち,a,b−2,c,

dについては認め,b−1,b−3については否認する。

構成要件B−1,B−2に対応するイ号製品の構成は以下のとおり特

定すべきである。

b−1’ 該タンク本体の一側面に該タンク本体と一体的に成型された

凸状の矩形枠と該矩形枠の凸部上面内周側の,該矩形枠の三辺

に段差を設けて形成された段部とによって構成された水位表示

板取付台座部と,

b−2’ 該段部及び該段部のない該矩形枠の凸部上面内周側の一辺の

タンク本体表面に,該矩形枠の凸部上面内周に沿って貼られた

帯状の両面接着テープによって固着された,青色透明なUVカ

ット高分子樹脂から形成された水位表示板と

b−3’ 該水位表示板表面と該矩形枠上面との間隙部を被うコーキン



なお,水位表示板取付台座部の構造が,別紙図面の図1ないし3記載の

とおりであることは認める(ただし,同図面のうち「矩形枠状の合成樹

脂から構成された部品」の形状については,下記ウのとおり争う。)。

ウ 原告は,水位表示板をタンク本体に取り付ける「弾性のある樹脂から

構成された部品」(両面接着テープ)の形状が,「矩形枠状」であると

主張する。

しかしながら,両面接着テープは,水位表示板を水位表示板取付台座

部に固着させる手段として,作業者が水位表示板の各辺に,その長さに

併せて適当に切り取って貼り付けて使用しているにすぎず,矩形枠状で

はない。

原告は,実験結果(甲10の1実験(3))に基づき矩形枠状に貼られて

いると主張するが,同実験では,水位表示板取付台座部と水位表示板と


の間に,水の侵入を防止するためのコーキング剤が残存して隙間を塞い

でいた可能性も否定できず,同実験は矩形枠状であることを立証するも

のではない。

(2) 文言侵害の成否

構成要件A,B−2,C及びDについて

イ号製品が,構成要件A,B−2,C及びDを充足することは認める。

構成要件B−1(「環状の弾性部材から構成されたスペーサー」)に

ついて

(ア) 「環状」について

a 「環状」という要件は,原告が出願経過において特許庁審査官に

提出した意見書(甲13)によって,タンク本体と水位表示板との間

の空間を「完全に閉鎖されている」状態にする機能を有するものに

限定されている。

しかしながら,イ号製品において空間が完全に閉鎖されているの

は,水位表示板取付台座部に水位表示板を両面接着テープで固着さ

せた上から,隙間部分をコーキング剤でコーキングする手法による

ものであって,両面接着テープによるものではない。したがって,

イ号製品の両面接着テープは「環状」の要件を充たさない。

なお,原告が主張するように,両面接着テープが「矩形枠状にぐ

るりと途切れることなく配置されている」としても,それのみでは

同要件を充足しない。

b 原告のコーキング剤によるコーキングと一体となって「環状」を充

足するという主張は争う。

(イ) 「弾性部材」について

「弾性部材」とは,外力によってひずみを生じそのひずみを元に戻そ

うとする力を生じる性質(弾性)を発揮することを主眼とした部材をい


うのであって,種々のゴム製品などがこれに当たる。

イ号製品の両面接着テープは,外力によってひずみを生じるが,「弾

性部材」と称するに足りる「弾性」を有していないし,「弾性」を発揮

することを主眼とするものでもない。単に,固着のために使用されてい

るものにすぎず,「弾性部材」とはいえない。

(ウ) 「スペーサー」について

a スペーサーの意義について

イ号製品について,両面接着テープは固着手段として用いられて

いるにすぎず,「空間を確保する」目的機能を有しないことは明ら

かであり,「スペーサー」には該当しない。

原告は,両面接着テープが「スペーサー」として機能する例を挙

げるが(甲14の1〜5),これらは,そういう目的に使用される

特殊な両面テープがあることを述べているにすぎず,汎用品の両面

接着テープにまでスペーサーの用途があることを立証するものでは

ない。

また,原告は,甲19等の実験結果を提出して,両面接着テープ

が「スペーサー」に該当すると主張するが,これらの実験は,タン

ク本体と水位表示板との間の空間が大きければ熱の伝わり方が悪い

という熱力学の常識に沿った結果をもたらしただけである。

b 本件明細書,出願経過について(作用効果)

(a) 本件明細書によれば,「スペーサー」はタンク本体と水位表示

板とを断熱する機能を有するものである。

しかしながら,乙22の実験によれば,水位表示板を水位表示

板取付台座部に取り付けた場合に,より大きな断熱効果が生じて

おり,一方で,両面接着テープの貼り付け方等によっては有意な

差は認められない。したがって,イ号製品の両面接着テープには


断熱効果がないことが明らかである。

(b) また,原告は,出願経過における意見書(甲13)では,スペ

ーサーによる断熱効果について,当該空間が完全に閉鎖されること

の効果を主張しているところ,当該意見書により,本件発明の作用

効果は,出願当初の「スペーサー」を介してという構成において有

していた断熱効果のうち,「環状の弾性部材から構成されたスペー

サーを介していることにより,タンク本体と水位表示板との間の空

間は完全に閉鎖されている」ことによって生じる断熱効果のみに限

定され,それ以外の効果は除外されたといえる。

しかしながら,熱工学上,伝熱には,伝導伝熱,対流伝熱,輻

射伝熱の3種の形態があるところ,空間が完全に閉鎖されていて

も,スペーサーによる伝導伝熱が生じるし,また対流・輻射伝熱

の影響を無視することはできず,断熱効果が生じるとはいえない。

また,乙22の実験によっても,空間の密閉が高くても断熱効果

には大きな影響がないことが確認されている。

したがって,密閉空間により断熱効果が生じるとはいえないこ

とから,このような密閉機能をもって「スペーサー」に該当する

ということもできない。

c 原告の主張に対する反論

原告は,イ号製品の水位表示板取付台座部の構造は,両面接着テー

プを「スペーサー」と解することに影響を与えないと主張する。

しかし,水位表示板を両面接着テープを介さずに直接,水位表示板

取付台座部に取り付けた場合でも,同取付台座部によって確保された

空間によって,断熱効果があるから(乙22),両面接着テープと作

用効果との間には条件関係がない。

また,タンク本体に水位表示板を両面接着テープで直接貼り付けた


ときに生じる断熱効果が生じているとしても,それは,タンク本体と

水位表示板との間に空間が確保されていることによって生じる効果

であるところ,原告の出願経過における意見書(甲13)の記載によ

れば,本件発明の作用効果は,空間を完全に閉鎖することにより生じ

る断熱効果に限定されており,空間を確保することによって生じる断

熱効果は除外されているというべきである(なお,空間を完全に閉鎖

することによる断熱効果も生じないことは上記b(b)のとおりであ

る。)。

したがって,いずれにしても両面接着テープをもって「スペーサー」

と解することはできない。

d 原告の予備的主張について

原告の両面接着テープに水位表示板取付台座部を付加した構成が

「スペーサー」に該当するとする主張は争う。

(3) 均等侵害の成否

ア 両面接着テープ及び水位表示板取付台座部の構成をもってする均等

主張について

原告の上記主張は,均等の5要件のうち,第1,第4,第5要件を充

たさないため,均等侵害は認められない。

(ア) 第1要件(非本質的部分性)

本件発明の本質的部分は,「環状の弾性部材から構成されたスペー

サー」を介して空間を確保した構成にあり,水位表示板取付台座部に

より空間を確保する構成は,技術思想として別個のものである。

(イ) 第4要件(公知技術との同一性または容易推考性)

タンク本体に水位表示板台座取付部を設けることは,出願当時から

公知技術であり,また,当業者が容易に推考できたものである。

(ウ) 第5要件(意識的除外等の特段の事情がないこと)


本件発明は,「スペーサーを介して」を「環状の弾性部材から構成

されたスペーサーを介して」と限定することによって特許された。

したがって,均等を論じる上では,「環状の弾性部材から構成され

たスペーサーを介して」取り付ける以外の方法は,除外されたものと

いえる。

イ 両面接着テープ及びコーキングの構成をもってする均等の主張につい



均等侵害を検討するに当たってコーキングまで考慮する場合,本件発

明の「環状の弾性部材から構成されたスペーサー」とは異なるイ号製品

の構成としては,タンク本体と一体的に成型された水位表示板取付台座

部に,水位表示板を両面接着テープで固着し,その間をコーキング剤に

よってコーキングした構成と捉えるべきである。したがって,水位表示

板取付台座部の相違を考慮しない原告の相違点の捉え方は誤りである。

なお,原告の主張を前提としても,上記主張は,均等の5要件のうち,

第1,第4,第5要件を充たさず,均等侵害は認められない。

(ア) 第1要件(非本質的部分性)

コーキングによって空間を完全に閉鎖するのは,単に水位表示板取

付台座部と水位表示板との間に形成されている空間に水が浸入するの

を防止するものであり,本件発明の技術思想とは全く異なる。

(イ) 第4要件(公知技術との同一性または容易推考性)

イ号製品のように,矩形の物品を貼り付けるに際してその四囲に両

面接着テープを貼り付けることは周知慣用技術である。

また,水位表示板とタンク本体の間にほぼ静止した空気層を生じさ

せることによってタンク本体と水位表示板との間に,顕著な断熱効果

が生じることは技術常識であり(原告も自認している。),二重ガラ

スの間に密封された空気層を挟み込むことによって断熱効果をもたら


す技術も公知技術である。さらに,水位表示板取付台座部と水位表示

板との間の隙間をコーキング剤によってコーキングすることは,水密

をもたらす技術として技術常識である。

したがって,イ号製品は,本件発明の特許出願時における公知技術

と同一又は当業者が出願時に容易に推考できたものである。

(ウ) 第5要件(意識的除外等の特段の事情がないこと)

環状の弾性部材から構成されたスペーサー以外のものは,出願経過

における意見書(甲13)で意識的に除外されている。したがって,

イ号製品が,水位表示板取付台座部に,環状の弾性部材から構成され

たものではない両面接着テープで水位表示板を固着したとしても,均

等の第5要件を欠くことは明白である。

2 争点2(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ

るか)について

【被告らの主張】

本件特許は,以下のいずれかの理由に基づき特許無効審判により無効にされ

るべきものと認められるから,本件特許権に基づく権利行使は,特許法104

条の3によりすることができない。

(1) 新規性の欠如

ア 本件発明1と乙2発明との一致点及び相違点

昭和58年7月5日に公開された特開昭58−112954号公報(乙

2)には,水やガソリンなどの液体用タンクのゲージに関し,透明なプラ

スチツク材であるポリエチレンからなる燃料タンク3と,該燃料タンク3

に粘着バンド14を介して取付けられ,透明な紫外線カット樹脂から形成

された水位表示可能なアクリル片13とを備えた液体用タンク(以下「乙

2発明」という。)が記載されている。

そして,本件発明1と乙2発明とは,本件発明1の「水位表示板」が「ス


ペーサー」を介して「タンク本体」に取り付けられ,その「スペーサー」

が環状の弾性部材から構成されているのに対し,乙2発明の「粘着バンド

14」は弾性ではあるが,「環状」であるか否かは不明である点において

相違し,その余において一致する。

なお,原告は,乙2発明が「燃料タンク」についての発明であって「貯

水タンク」である本件発明1とは相違すると主張するが,乙2発明は「液

体用タンク」についての発明であり,これは「貯水タンク」を包含する。

また,原告は,作用効果の相違についても主張するが,本件発明1にお

いて,原告が主張する「貯水タンクやその周囲に藻やバクテリアを発生す

ることなく」という作用効果は得られず,結露防止についても解決課題と

するほど発生可能性が高いものではないから,作用効果の相違を論じる意

味はない。

イ 本件発明1は乙2発明に対する新規性がないこと

上記アの相違点である環状の構成については,空間を閉鎖することによ

って水の浸入を防止するのは技術常識であるし,環状の弾性部材を,タン

ク本体および水位表示板のような2つの部材の対向面間の空間を完全に

閉鎖することは,周知慣用技術である(乙5〜15)。なお,本件発明1

構成要件は「水位表示板」であるのに対し,これに対応する乙2発明の

構成は「アクリル片13」であって,水位表示について記載がないが,液

体タンクの液位視認窓に水位表示の目盛を付することも,周知慣用技術

ある(乙18〜20)。

したがって,本件発明1は,乙2発明に対する新規性がない。

(2) 進歩性の欠如@(乙2発明を主引例とする主張)

ア 本件発明1と乙2発明との相違点

本件発明1と乙2発明との相違点は上記(1)アのとおりである。

イ 本件発明1には進歩性がないこと


乙5ないし15には,本件発明1のように,「水位表示板」を「環状の

弾性部材から構成されたスペーサー」を介して「タンク本体」に取り付け,

「タンク本体」と「水位表示板」との間の空間を完全に閉鎖して閉鎖空間

による優れた断熱効果を得ることが記載されている。

乙2発明において,アクリル片13を環状のOリングやパッキンを用い

て燃料タンク3に取付け,燃料タンク3とアクリル片13との間の空間を

閉鎖して断熱効果を得るという上記相違点にかかる構成は,乙5ないし1

5に基づき,当業者が容易に想到可能である。乙2発明も,液体を扱うタ

ンクである以上,ゲージとタンク本体との間の隙間に水が浸入することを

防止することが考慮されるのであって,乙10ないし15に記載された気

密又は水密な構成を実現するためのOリングやパッキンを採用するのは

当然である。

したがって,本件発明1は,仮に新規性があるとしても,乙2発明に乙

5ないし15の周知技術を組み合わせることで容易になし得たものであ

り,進歩性がない。

(3) 進歩性の欠如A(乙16発明を主引例とする主張)

ア 本件発明1について

(ア) 本件発明1と乙16発明との相違点

平成11年3月23日に公開された特開平11−77027号公報

(乙16)には,水道水を貯留するための貯水槽22を備えた浄水器に

関し,貯水槽22内の水量を表示する水位計66を備えた発明(以下「乙

16発明」という。)が記載されている。

乙16発明の水位計66は外側ケース12の前面側の左寄りの位置に

設置されており,本件発明1の貯水タンクのように,タンク本体に環状

の弾性部材から構成されたスペーサーを介して取り付けられた水位表

示板とは相違している。


(イ) 本件発明1には進歩性がないこと

しかしながら,乙17の浄水器のような水位表示部(乙18〜21も

参照)を備えた浄水器本体を貯水用のタンクとして乙16発明に適用す

ることに何ら技術的困難性はない。

一方,乙17の浄水器のような水位表示部を備えた浄水器本体を,透

明なプラスチツク材であるポリエチレンからなる燃料タンク3と,透明

な紫外線カット樹脂から形成された水位表示可能なアクリル片13と

を備えた乙2発明の「液体用タンク」に置き換えることも,当業者であ

れば容易に成し得たものである。

そうすると,結局のところ,乙16発明に乙2発明を適用することに

ついても技術的困難性はなく,その場合の本件発明1との実質的な相違

点は,上記(1)アの本件発明1と乙2発明との相違点と同じになる。

したがって,本件発明1は,仮に新規性があるとしても,乙16発明

に乙2発明,並びに乙5ないし15及び乙17ないし21の周知技術

組み合わせることで容易になし得たものであり,進歩性がない。

イ 本件発明2について

本件発明2は,本件発明1の貯水タンクを備えていることを特徴とする

浄水機であるところ,本件発明1と同様に,乙16発明に乙2発明,並び

に乙5ないし15及び乙17ないし21の周知技術を組み合わせること

により当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性がない。

【原告の主張】

(1) 新規性が否定されないこと

ア 本件発明1と乙2発明との相違点

本件発明1と乙2発明は,透明(半透明を含む)なタンク本体及び透明

な紫外線カット樹脂で構成された水位表示板を備えた点においてその構成

が共通するものの,本件発明1が「貯水タンク」についての発明であり,


タンク本体に「環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して」水位

表示板が取付けられているのに対し,乙2発明が「燃料タンク」について

「粘着バンド14」は環状の弾性部材から構成されるとはさ
の発明であり,

れていない点において異なっている。また,本件発明1は紫外線の透過に

よる貯水タンクや水位表示部内部における藻やバクテリアの発生や,結露

水に起因するタンク周囲や水位表示部内部のカビやバクテリアの発生,並

びに藻,カビ,バクテリア,及び結露による視認性の低下を問題としてい

るのに対し,乙2発明は燃料タンクの日光に曝されることによるポリエチ

レン材の劣化を問題にしていることに起因して,その具体的な解決課題,

解決手段及び作用効果についても大きく異なる。

なお,被告らは,本件発明1において「貯水タンクやその周囲に藻やバ

クテリアを発生することなく」という作用効果は得られないと主張するが,

タンク本体を覆う筐体そのものが透明樹脂でないと考えられること(本件

明細書【0002】【0004】【0010】等参照)について理解を誤る

ものである。

新規性が否定されないこと

そもそも,本件発明1は,乙2発明とは上記アのような相違点を有する

のであるから,乙2発明に対して新規性がないという主張は失当である。

また,被告らは,被告らの主張する相違点(タンク本体および水位表示

板のような2つの部材の対向面間の空間を完全に閉鎖する点及び閉鎖空間

による優れた断熱効果を得る点)は,本件特許の出願日以前の周知慣用技

術に過ぎない(乙5〜15)と主張するが,乙5ないし15の技術は,主

に建築分野において,快適な居住空間を実現するために断熱効果又は結露

防止効果を得るために複層ガラスという技術が存在したということ,又は

機械分野において,気密又は水密な構成を実現するためにOリングやパッ

キンを用いることが知られていたことを示すにとどまり,被告らの主張す


る相違点に係る周知技術を示したものではない。

(2) 進歩性が否定されないこと@(乙2発明を主引例とする主張について)

本件発明1と乙2発明とでは,その解決課題において大きく相違する。

すなわち,燃料タンクにおけるポリエチレンタンクの日光による劣化を防

止することをその解決課題とする乙2発明には,貯蔵する燃料と外気の温度

差やバクテリアの発生といった問題が存在しないため,乙5ないし9に記載

された断熱効果や結露防止効果を得るための複層ガラスや,乙10ないし1

5に記載された気密又は水密な構成を実現するためのOリングやパッキンを

採用する解決課題,優位性ないし動機づけ等は存在しない。また,乙2発明

に,乙5ないし9,あるいは乙10ないし15の技術を採用することの示唆

等も見当たらない。

したがって,乙2発明に,乙5ないし15の技術を適用して,当業者が本

件発明1を容易に想到できたとはいえず,本件発明1の進歩性が否定されな

いことは明らかである。

(3) 進歩性が否定されないことA(乙16発明を主引例とする主張について)

進歩性の判断基準について

進歩性の判断基準は,当該発明と主引例との一致点と相違点を抽出し,

その相違点について,副引例ないし周知技術から容易に想到できるかどう

かを検討するものである。

被告らの主張は,かかる判断基準によるものではなく,裁判例が許容さ

れないとする「後知恵」である。

イ 本件発明1と乙16発明の一致点及び相違点

本件発明1と乙16発明は,貯水タンクの存在において一致する。一方,

本件発明1が,「透明樹脂によって形成されたタンク本体」(構成要件A)

を有し,「該タンク本体に環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介

して取り付けられ,(構成要件B−1)「透明な紫外線カット樹脂から形
」 ,


成された水位表示板とを」(構成要件B−2)を備えた貯水タンクである

のに対し,乙16発明は,貯水槽22が透明樹脂によって形成されている

とはされておらず(相違点1),環状の弾性部材から構成されたスペーサ

ーを有さず,また水位計66は,貯水槽22ではなく外側ケース12に取

り付けられており(相違点2),なおかつ,水位計66が透明な紫外線カ

ット樹脂から形成されているとはされていない点(相違点3)において相

違する。

また,乙16発明は,その課題及び作用効果においても,本件発明1と

大きく異なる。

進歩性が否定されないこと

(ア) 乙17ないし21は上記各相違点に関するものではないこと

乙17ないし21は,いずれも貯水タンク内の水量を直接視認する構

成ではなく,貯水タンク内と同じ水位を保つものと思料される貯水タン

クと連通した透明の管構造の水位を確認し,間接的に貯水タンク内の水

量を把握する構成である。

したがって,本件発明1と乙16発明との上記各相違点に係るもので

はなく,乙17ないし21に関する被告らの主張は,それ自体失当であ

る。

(イ) 乙16発明に乙2発明を組み合わせ得ないこと

乙16発明は,三層構造を有する浄水器の発明であって,貯水槽部分

は内蔵されており,燃料タンクについての乙2発明のような日光による

貯水部分の劣化の問題は生じない。加えて,乙16発明は既に間接的に

貯水槽の水位を確認できる水位計を備えている。さらに,乙16発明の

解決課題は,三層構造を有する浄水器において,外ケース内に内ケース

を挿入して浄水器を組み立てようとする際の配線の接続を容易にして

組立性を向上し得る浄水器を提供することであって,貯水槽を透明にす


ることや紫外線カットの透明部材を設けることと結びつかない。

そもそも,三層構造の乙16発明については,乙2発明における透明

なポリエチレンタンクと当該タンクに取り付けられた紫外線カット機

能のあるアクリル片を採用して,外部から視認の可能な貯水槽水位計と

することはできず(技術的阻害事由),また,乙16発明の構成をかか

る構成に置き換える動機づけも,乙2発明に係る構成を採用する必要性

も全く存在しない。

したがって,乙16発明に乙2発明を組み合わせ得ない。

(ウ) また,乙16発明に強いて乙2発明を組み合わせたとしても,結局,

本件発明1の進歩性が否定されないことは,上記(2)のとおりである。

エ 本件発明2について

上記イ及びウで述べたところと同様の理由から,本件発明2もまた,本

件発明1と同様に進歩性は否定されない。

3 争点3(原告の損害)について

【原告の主張】

(1) 被告ニューメディカ・テック販売の行為により生じた損害

被告ニューメディカ・テック販売は,遅くとも平成20年9月から平成2

2年6月までの22か月間で,イ号製品を被告大倉に対して1000台,そ

の他の取引先に対して100台販売している。

イ号製品の販売単価は,被告大倉に対しては少なくとも13万7500円

であり,その他の取引先に対しては少なくとも25万円である。また,その

相当実施料率は,少なくともその販売高の5%を下らない。

したがって,特許法102条3項に基づき,被告ニューメディカ・テック

販売による本件特許権侵害により生じた原告の損害の額は,以下の計算式よ

り,少なくとも812万5000円となる。

(計算式)


{13万7500円(単価)×1000台(累積販売台数)

+25万円(単価)×100台(累積販売台数)}×5%(相当実施料率)

=812万5000円

(2) 被告大倉の行為により生じた損害

被告大倉は,平成20年9月から平成22年の6月までの22か月間に,

イ号製品を少なくとも1000台貸し渡している。

イ号製品の1台あたりのレンタル価格は月額6300円であり,またその

相当実施料率は少なくともその売上高の5%を下らない。

したがって,特許法102条3項に基づき,被告大倉による本件特許権侵

害により原告に生じた損害の額は,以下の計算式により,少なくとも693

万円となる。

(計算式)

6300円(単価)×22カ月(レンタル期間)

×1000台(レンタル台数)×5%(相当実施料率)

=693万円

(3) なお,被告大倉の行為により生じた損害は,被告ニューメディカ・テッ

ク販売の行為により生じた損害とその限度で同一であるから,被告大倉と被

告ニューメディカ・テック販売が原告に対して負う損害賠償債務は,被告大

倉が原告に対して負う損害賠償債務の限度で連帯債務となる。

【被告らの主張】

争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(イ号製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について

イ号製品が,構成要件A,B−2,C及びDを充足することは当事者間に

争いがないが,当裁判所は,以下に述べるとおり,イ号製品は,本件発明の

構成要件B−1にいう「スペーサー」を具備しないものと認めるから,その


技術的範囲に属しないものと判断する。

(1) イ号製品の構成について

ア 当事者の主張

構成要件B−1,同B−2に対応するイ号製品の構成について,原告

は,

b−1 該タンク本体の水位表示板取付台座部に矩形枠状の弾性のある

樹脂から構成された部品を介して取付けられ,

b−2 青色透明なUVカット高分子樹脂から形成された水位表示板と,

b−3 該タンク本体,該矩形枠状の部品及び該水位表示板の接合部を覆

うコーキングとを

と特定して主張するのに対し(なお,b−1は構成要件B−1,b−2は

構成要件B−2に対応し,b−3は,構成要件B−1のうち「環状の」の

充足性についての予備的主張に対応する構成である。,被告らは,


b−1’ 該タンク本体の一側面に該タンク本体と一体的に成型された

凸状の矩形枠と該矩形枠の凸部上面内周側の,該矩形枠の三辺

に段差を設けて形成された段部とによって構成された水位表示

板取付台座部と,

b−2’ 該段部及び該段部のない該矩形枠の凸部上面内周側の一辺の

タンク本体表面に,該矩形枠の凸部上面内周に沿って貼られた

帯状の両面接着テープによって固着された,青色透明なUVカ

ット高分子樹脂から形成された水位表示板と

b−3’ 該水位表示板表面と該矩形枠上面との間隙部を被うコーキン



と特定すべき旨主張している。

被告らの上記主張のうちb−1’,b−2’については,原告とは異

なる分説によって主張するものであるが,構成要件B−1の充足の有無


を議論する前提としては,被告ら主張の構成b−2’から構成要件B−

2に対応する部分を除いた部分を被告ら主張の構成b−1’と一体とし

て捉え,次のb−1”のとおり整理した上で検討を進める(なお,被告

ら主張の構成b−2’のうち構成要件B−2に対応する部分(「青色透

明なUVカット高分子樹脂から形成された水位表示板と」)が,構成要

件B−2を充足することについて争いがない。)。

b−1” 該タンク本体の一側面に該タンク本体と一体的に成型された

凸状の矩形枠と該矩形枠の凸部上面内周側の,該矩形枠の三辺

に段差を設けて形成された段部とによって構成された水位表示

板取付台座部と,該段部及び該段部のない該矩形枠の凸部上面

内周側の一辺のタンク本体表面に,該矩形枠の凸部上面内周に

沿って貼られた帯状の両面接着テープによって固着された,

イ 原告主張の構成b−1と被告ら主張を前提とする構成b−1”につい



構成要件B−1(「該タンク本体に環状の弾性部材から構成されたス

ペーサーを介して取付けられ,」)は,タンク本体に水位表示板を取り

付ける態様を特定するために必要な事項を記載したものであり,原告主

張の構成b−1も被告ら主張の構成を前提に整理したb−1”も,これ

に対応するイ号製品の構成を特定したものであるが,両者を比較すると,

@水位表示板取付台座部の構成及びそれと水位表示板の固着方法につい

て,b−1(原告の主張)は構成要件B−1に即して簡潔に記載するに

とどめているのに対し,b−1”(被告らの主張)はより詳細に記述表

現して特定されていること,Ab−1(原告の主張)は「矩形枠状の弾

性のある樹脂から構成された部品」(これが「両面接着テープ」である

ことは原告も認めている。)について「矩形枠状」とされているのに対

し,b−1”(被告らの主張)では何ら限定がないことの違いがあるも


のといえる。

この点,上記@については,証拠(甲8の3,4)及び同部分のイ号

製品における具体的態様を図示した別紙図面の図1ないし3(ただし,

同図面のうち「矩形枠状の合成樹脂から構成された部品」の形状を除く。)

によれば,いずれの構成も認定することができることから,より詳細に

認定されたb−1”(被告らの主張)を前提に検討することとする。他

方,上記Aについては,当裁判所は,後記のとおり,両面接着テープが

矩形枠状か否か(すなわち両面接着テープに隙間があるか否か)につい

ては認定するまでもなく,イ号製品が本件発明の技術的範囲に属しない

ものと判断するので,この点について,特段限定のないb−1”(被告

らの主張)を前提に検討することとする。

ウ 原告主張の構成b−3と被告ら主張の構成b−3’について

イ号製品において,水位表示板と水位表示板取付台座部とは,両面接着

テープによる接着に加え,その接着部分を外側から,さらにコーキング剤

によりコーキングしていることについては当事者間に争いがないところ,

構成b−3(原告の主張)と構成b−3’(被告らの主張)とを比較する

と,コーキングが覆う部位について,前者は「該タンク本体,該矩形枠状

の部品及び該水位表示板の接合部」と捉えるのに対し,後者は「該水位表

示板表面と該矩形枠上面との間隙部」と捉える点に違いがあるものといえ

る。この点については,証拠(甲8の1〜4,乙23の1〜4)及び弁論

の全趣旨によれば,コーキングが用いられるのは,水位表示板表面と矩形

枠上面の接合部であると認められるため,次のb−3”のとおり特定する

(なお,原告の主張(b−3)は,両面接着テープが矩形枠状に貼られて

いるとの構成(b−1)を前提にするものと理解できるが,上記イのとお

り,当裁判所は,両面接着テープが矩形枠状か否かについては認定するま

でもなく争点1について判断ができると考えるため,この点について限定


のない形で特定する。 。


b−3” 該水位表示板及び水位表示板取付台座部との接合部を覆うコー

キングとを

(2) 文言侵害について

構成要件B−1の「スペーサー」の解釈について

(ア) 特許請求の範囲の記載

証拠(甲9)によれば,製造業分野において「スペーサー」とは,

間にはさんで空間を確保するための器具を指すものと解される。そし

て,特許請求の範囲に,「該タンク本体に環状の弾性部材から構成され

たスペーサーを介して取付けられ,透明な紫外線カット樹脂から形成さ

れた水位表示板」と記載されていることからすると,構成要件B−1の

「スペーサー」とは,水位表示板のタンクへの取り付けに介在して,そ

の間に空間を確保する部品であり,形状は環状であるとともに,材質

は弾性部材で構成されるものであることが明らかである。

(イ) 本件明細書の記載について

また,本件明細書には,以下の記載が認められる。

a 段落【0006】(【発明が解決しようとする課題】)

「また,貯水タンクに貯えられている水の水温と外気温との温度差

により,水位表示板の表面に結露が生じるため,上記の方法を用いる

と,結露により貯水量が読み難くなるとともに,貯水タンクの周囲に

カビやバクテリアが生じ,不衛生になるとの問題点があった。」

b 段落【0007】(【発明が解決しようとする課題】)

「そこで,この発明は,貯水タンクやその周囲に藻やバクテリアを

発生させることなく,使用者が外部から貯水量を容易に視認すること

ができる貯水タンク及び当該貯水タンクを備えた浄水機を提供するこ

とを目的とする。」


c 段落【0008】(【課題を解決するための手段】)

「すなわち,この発明にかかる貯水タンクは,透明樹脂によって形

成されたタンク本体と,該タンク本体にスペーサーを介して取付けら

れ,透明な紫外線カット樹脂から形成された水位表示板とを備えてい

ることを特徴とする。」

d 段落【0010】(【課題を解決するための手段】)

「…また,水位表示板とタンク本体がスペーサーによって断熱され

ているため,水位表示板に結露せず,水位表示板が読み難くなったり,

その周囲にバクテリアが発生することがない。」

e 段落【0014】(【発明の実施の形態】)

「貯水タンク3は,浄水された水を貯えるためのものであり,図2

に示すように,水位表示板31,スペーサー32及びタンク本体33

から構成され,その正面には,水位表示板31が,スペーサー32を

介して筐体2の窓2aと対応する場所に接着剤によって取り付けられ

ている。」

f 段落【0016】(【発明の実施の形態】)

「また,スペーサー32は,環状の弾性部材,例えば,合成ゴム等

から構成されており,水位表示板31とタンク本体33とを断熱して

いる。」

g 段落【0019】(【発明の実施の形態】)

「このようにして構成された浄水機1は,…浄水を製造し,製造し

た浄水を貯水タンク3に貯える。…また,スペーサー32によって,

水位表示板31とタンク本体33とが断熱されているため,水位表示

板31に結露することなく,水位表示板31の表示が読み難くなった

り,水位表示板31の周囲にバクテリアが発生して不衛生になること

もない。」


h 段落【0021】(【発明の効果】)

「…また,水位表示板とタンク本体がスペーサーによって断熱され

ているため,水位表示板が結露せず,結露によって水位表示板が読み

難くなったり,水位表示板の周囲にバクテリア等を発生させることな

く,使用者が外部から水量を容易に視認することもできる。」

(ウ) 出願経過

a 原告は,本件特許の出願経過において,引例(甲12,乙2)を示

して特許法29条2項の規定に基づく拒絶理由通知を受けた(甲11)。

同引例には,
(甲12,乙2)は,液体用タンクのゲージに関し,特に

内容液体の液位が視認可能であることなどを特徴とするポリエチレン

タンク用のゲージに関する発明の公開特許公報であり,その「発明の

詳細な説明」欄には,
「第2図はアクリル片13をポリエチレンタンク

3の壁5に,片13端部付近の粘着バンド14により固定する一方法

を示している。」と記載され,第2図(FIG.2)には,タンク本体

の側面に粘着バンドでアクリル片を固着している断面図が示されてい

る。

b これに対し,原告は,本件発明の「スペーサー」を「環状の弾性部

材から構成されたスペーサー」に減縮補正するとともに,その理由に

ついて以下のとおりの意見述べている(甲13)。

「審査官殿は,引例1(注:本件における甲12,乙2)FIG.

2に記載された粘着バンド14は,厚みを有すると認められるので,

本願発明のスペーサーに相当し,紫外線カット樹脂を用いることも引

例1に記載されていると述べられ,このことによって,本願発明は,

引例1に比して,進歩性を欠如する旨,ご指摘されています。

しかしながら,引例1FIG.2においては,アクリル片13はポ

リエチレンタンク3の壁5に,片13の上下の両端部付近のみにおい


て粘着バンド14によって固定されていますので,片13の上下の両

端部以外の部分においては,片13と壁5との空間は開放されていま

す。従いまして,この開放された片13と壁5との間の空間には,空

気が流通しますので,片13と粘着バンド14によっては,断熱効果

は得られず,液位視認窓の結露を防止できません。

これに対しまして,本願発明におきましては,透明樹脂によって形

成されたタンク本体に,環状の弾性部材から構成されたスペーサーを

介して,透明な紫外線カット樹脂から形成された水位表示板が取り付

けられていることを必須の技術手段としています。特に,この環状の

弾性部材から構成されたスペーサーを介していることにより,タンク

本体と水位表示板との間の空間は完全に閉鎖されているので,優れた

断熱効果が得られ,水位表示板の結露が防止されることになります。」

(エ) 小括

以上によれば,構成要件B−1の「スペーサー」とは,水位表示板の

タンクへの取り付けに介在して,その間に空間を確保する部品であり,

形状は環状で,材質は弾性部材から構成されるものであり,また,そ

技術的意義は,水位表示板が結露することのないように,タンク本体

との間に断熱効果のある空間(間隔)を確保するためにあるものと解さ

れる。そして,さらに出願経過参酌すれば,この「スペーサー」は,

上記断熱効果を得るために,これによって確保する空間が完全に閉鎖さ

れていることも必須の要件とされているものと解されるべきである。

イ イ号製品の構成要件B−1充足性について

(ア) 原告は,イ号製品の構成のうち「矩形枠状の弾性のある樹脂から構

成された部品」,すなわち厚さ0.1mmの両面接着テープが,構成要件

B−1の「スペーサー」に該当すると主張する。

しかしながら,構成要件B−1の「スペーサー」とは,上記ア(エ)


のとおり水位表示板とタンク本体との間の完全に閉鎖された空間を確

保する構成を有するものをいうところ,イ号製品における水位表示板

とタンク本体との間の空間は,厚さ方向には水位表示板取付台座部と

両面接着テープが連続して一体となって構成されているが,そのうち,

水位表示板取付台座部は,横断面形状が底辺の長さが約110mm,

高さが3.1mmの直角三角形となる空間を確保しているのに対し,両

面接着テープは,これに厚さにして0.1mmの空間を付加するにすぎ

ないものである(別紙図面参照)。

原告は,この付加された厚さ0.1mmの空間に注目して,この空間

を形成する両面接着テープをスペーサーであると主張するが,水位表

示板取付台座部に水位表示板を取り付けるために両面接着テープを用

いることは当業者にとって周知慣用の手段であるし,そもそも二つの

部材を接着するためには何らかの接着手段を用いる必要があり,その

接着手段の厚み相当分が,二つの部材の間に生じることは避けられな

いことである。そして,証拠(甲14の1〜4)によれば,両面接着

テープの中にはスペーサーとして使用する目的の製品もあるが,その

目的も併存的なものであり,また,スペーサー用途ではない製品も存

在しており,イ号製品に用いられている厚さ0.1mmの両面接着テー

プは,接着手段として用いる両面接着テープとして一般的な厚みを有

するものと認められることも併せ考えると,イ号製品において用いら

れている両面接着テープに水位表示板取付台座部と水位表示板を接着

する手段以上の技術的意義があるものとは認められないというべきで

ある。よって,両面接着テープをもって,水位表示板が結露すること

のない断熱効果のある空間(間隔)を確保する旨の技術的意義を有す

る「スペーサー」であるとする原告の主張は失当といわなければなら

ない。


なお,原告は,両面接着テープによって0.1mmの厚さの空間が確

保されている以上,それ自体に断熱効果があり,水位表示板取付台座

部が確保する空間の厚さとの差は,定量的な差にすぎないと主張する

ところ,確かに証拠(甲19,甲28)に記載された実験によれば,

厚さ0.1mmの空間を確保するだけであっても何らかの断熱効果が

あることは否定できないものと認められる。しかし,上述のとおり二

つの部材を接着する限り,何らかの接着手段を用いる必要があり,そ

の接着手段の厚みによって空間が生じることは,スペーサーによる空

間確保をする以前の問題である。また閉鎖された空間がある以上,た

とえ僅かあっても断熱効果が生じるであろうことは,前掲証拠の実験

から合理的に推認されるから,原告主張の解釈を前提とすると,水位

表示板の接着のための接着手段自体による厚みさえあれば,それは,

すべて構成要件B−1にいう「スペーサー」に該当するというのと同

じことになるところ,そのような主張は採用することはできない(な

お,本件明細書の【0014】欄記載のとおり,本件発明の実施例に

おいても,水位表示板はスペーサーを介して,接着剤によって取り付

けられている。)。

(イ) また,原告はイ号製品の構成のうち,両面接着テープが,「スペ

ーサー」に該当しないとしても,これと「該タンク本体の水位表示板

取付台座部」が一体となって「スペーサー」に該当すると主張する。

しかしながら,構成要件B−1の「スペーサー」とは,上記ア(エ)

のとおりタンク本体と水位表示板を介する部材であり,その材質につ

いては,弾性部材から構成されるものをいう。そして,タンク本体の

材質については構成要件において限定がないにもかかわらず,「スペ

ーサー」については弾性部材から構成される旨限定されていることか

らすると,「スペーサー」とは,タンク本体とは異なる材質から構成


され,タンク本体とは独立した部材であると解するのが相当である。

これに対し,イ号製品における水位表示板取付台座部は,タンク本

体と水位表示板との空間を確保するためのものといえるものの,タン

ク本体と一体形成されているから,これを両面接着テープと一体とし

てみても,構成要件B−1の「スペーサー」に該当すると認めること

はできない。

なお,イ号製品の水位表示板取付台座部の構造は「該タンク本体の一

側面に該タンク本体と一体的に成型された凸状の矩形枠と該矩形枠の

凸部上面内周側の,該矩形枠の三辺に段差を設けて形成された段部とに

よって構成」されており,両面接着テープは,「該段部及び該段部のな

い該矩形枠の凸部上面内周側の一辺のタンク本体表面に,該矩形枠の凸

部上面内周に沿って貼られ」るところ,該段部のない該矩形枠(水位表

示板の上辺に対応)については,その凸部上面内周側の一辺のタンク

本体表面,すなわち水位表示板取付台座部ではなくタンク本体に水位

表示板を直接取り付ける構造となっているのであって,台座部が水位

表示板との間の空間を確保する構造にはなっていない。そして,同部

分に貼られる両面接着テープの厚みをもって「スペーサー」といえな

いことは上記(ア)のとおりであるから,両面接着テープと該タンク本

体の水位表示板取付台座部を一体の構成としてみても,これがスペー

サーとしての「環状」になっているとはいえない。よって,この点に

おいても,両面接着テープと水位表示板取付台座部を一体としてみて

も,この構成をもって,本件発明にいう「スペーサー」に該当すると

認めることはできない。

ウ 小括

以上のとおり,イ号製品の構成は,構成要件B−1の「スペーサー」

を充足しないことから,文言侵害は認められない(なお,イ号製品の両


面接着テープが矩形枠状に貼られていたとしても,これを「スペーサー」

に当たるといえないことは上記説示から明らかである。)。

(3) 均等侵害について

ア 原告は,イ号製品の構成のうち「矩形枠状の弾性のある樹脂から構成さ

れた部品」,すなわち両面接着テープと「該タンク本体の水位表示板取付

台座部」が一体となった構成が,構成要件B−1の「環状の弾性部材によ

り構成されたスペーサー」を充足せず,この点において,本件発明とイ号

製品とは相違するとしても,イ号製品は,本件発明と均等であると主張す

る。

イ 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存す

る場合であっても,@当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,A当該

部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達する

ことができ,同一の作用効果を奏するものであって,Bこのように置き換

えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者

(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することが

できたものであり,C対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技

術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,

かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲

意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないのであれば,

対象製品は当該特許権の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり,

当該特許発明技術的範囲に属するということができる(最高裁第三小法

廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。

ウ(ア) そこで検討するに,本件明細書の記載(上記(2)ア(イ))によれば,

本件発明は,少なくとも,貯水タンクに貯えられている水の水温と外

気温との温度差により水位表示板の表面に結露が生じると,結露によ

り貯水量が読み難くなるとともに,貯水タンクの周囲にカビやバクテ


リアが生じ,不衛生になるといった問題点に鑑みて,そのような問題

点を解決した貯水タンク及び当該貯水タンクを備えた浄水機を提供す

るという課題を解決するため,その解決手段として,タンク本体に環

状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して水位表示板を取り付

けるという構成を採用したものであることは明らかである。

また原告は,本件特許の出願経過において,「本願発明におきまし

ては,…環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して,…水位

表示板が取付けられていることを必須の技術手段としています。特に,

この環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介していることによ

り,タンク本体と水位表示板との間の空間は完全に閉鎖されているの

で,優れた断熱効果が得られ,水位表示板の結露が防止されることに

なります。」との意見を述べており(上記(2)ア(ウ)),「環状の弾性

部材から構成されたスペーサー」を介して水位表示板を取り付けるこ

とを必須の技術手段と位置づけるとともに,スペーサーが「環状の弾

性部材」から構成されているからこそ,タンク本体と水位表示板との

間の空間が完全に閉鎖され,優れた断熱効果が得られるものであるこ

とを出願経緯において強調していたことが認められる。

さらに,証拠(乙5〜9)によれば,間に密閉空間を挟んだ二重ガ

ラス(複層ガラス)に関連した特許出願及びその出願明細書で触れら

れている従来技術に照らし,密閉した空間により断熱効果を得て結露

防止をするという技術そのものは,本件特許の出願当時,既に公知技

術であったと認められる。

(イ) 以上によれば,本件発明のうち解決手段を基礎付ける技術的思想の中

核をなすとともに,特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想

の中核をなす特徴的部分とは,原告が主張するような「タンク本体と

水位表示板の間にスペーサーを介在させる構成によりタンク本体と水


位表示板の間の空間を密閉して断熱効果を得ること」という,本件発

明の具体的構成を離れたより上位の概念で捉えられるべき技術思想で

はなく,その実現手段として,タンク本体に「環状の弾性部材から構

成されたスペーサーを介して」水位表示板を取り付けるということに

こそあり,そのような構成が本件発明の本質的部分であると解するの

が相当である。

(ウ) そうすると,本件発明とイ号製品との相違点である,「環状の弾性部

材から構成されたスペーサーを介して」水位表示板を取り付けるので

はなく,「該タンク本体の水位表示板取付台座部に矩形枠状の弾性の

ある樹脂から構成された部品を介して」水位表示板を取り付けること

(さらには,「該タンク本体,該矩形枠状の部品及び該水位表示板の

接合部を覆うコーキングとを」備えていることを含めた構成)は,本

件発明の本質的部分に係る相違というべきであるから,イ号製品は,

均等侵害の第1要件を充足するとはいえない。

エ また,本件特許の上記出願経過(上記(2)ア(ウ))に照らすと,原告は,

審査官の拒絶理由通知を受けて,特許請求の範囲の請求項1において,

「スペーサー」を「環状の弾性部材から構成されたスペーサー」に限定

する補正を行い,
「環状の弾性部材から構成されたスペーサーを介して,

…水位表示板が取付けられていることを必須の技術手段と」する旨の意

見を述べていたのであるから,タンク本体と水位表示板との間の空間を

確保する手段として,環状の弾性部材から構成されたスペーサー以外の

構成を採用することを意識的に除外したものといわなければならない。

したがって,タンク本体の一部を水位表示板取付台座部として閉鎖さ

れた空間を確保したイ号製品の構成は,意識的に除外されたものである

から,イ号製品は,均等侵害の第5要件も充足するとはいえない。

オ 以上のとおり,本件においては,均等侵害は成立するとは認められな


い。

2 小括

上記1のとおり,イ号製品は本件発明の技術的範囲に属するとは認められ

ないことから,本件では,その余について検討するまでもなく,原告の請求

には理由がない。

第5 結語

したがって,原告の請求は,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担

につき,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官 森 崎 英 二




裁判官 達 野 ゆ き




裁判官 網 田 圭 亮





(別紙)

イ号製品目録
製品名 浄水器

型番 GW−1500EX





(別紙図面)




図1 イ号製品:水位表示板取付部分の構成概要図




タンク本体 矩形枠状の合成樹脂 水位表示板
から構成された部品
(両面接着テープ。形状について当事者間に争いがある。)





図2 イ号製品:タンク本体の水位表示板取付台座部詳細





図3 イ号製品:タンク本体に水位表示板を取り付けた側面図

矩形枠状の合成樹脂から構成された部品

(両面接着テープ。形状について当事者間に争いがある。)




水位表示板 矩形枠状の合成樹脂 水位表示板
から構成された部品
(両面接着テープ。形状について当事者間に争いがある。)





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