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関連審決 不服2001-20818
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  機能の共通性 /  内容中の示唆 /  着想 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  混同 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 66号 審決取消請求事件
原告 株式会社リコー
訴訟代理人弁理士 松村昌平
同 加藤和彦
同 鈴木康志
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 相馬 多美子
同 片岡栄一
同 高橋泰史
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2001-20818号事件について平成16年1月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「光学的情報記録再生装置及び光学的情報再生装置」とする発明につき,平成4年6月16日,特許出願し(以下「本件出願」という。
請求項の数は12である。),平成13年10月12日,拒絶査定を受け,同年11月22日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,この請求を不服2001-20818号事件として審理し,その結果,平成16年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年1月20日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲【請求項9】(別紙図面A参照) 「情報記録媒体である光ディスクにレーザ光を照射してデータの再生を行う光学的情報再生装置において,光ディスクを回転させる回転手段と,データエラーが生じたことを検知する検知手段とを備え,初期設定では前記回転手段により最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中で前記検知手段によりデータエラーを検知する度に前記回転手段により回転数を低下させてデータの再生を行い,前記検知手段によりデータエラーを検知しないときは,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行うことを特徴とする光学的情報記録再生装置。」(拒絶査定の対象となったのは請求項9で特定された発明である。以下,請求項9によって特定される発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平3-273564号公報(以下,審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下,審決と同様に「刊行物1の発明」という。)と特開昭61-218269号公報(以下,審決と同様に「刊行物2」という。)及び特開平2-92153号公報(以下,審決と同様に「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり,本願発明と刊行物1の発明との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「情報記録媒体である光ディスクにレーザ光を照射してデータの再生を行う光学的情報再生装置において,光ディスクを回転させる回転手段と,データエラーが生じたことを検知する検知手段とを備え,初期設定では前記回転手段により最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中で前記検知手段によりデータエラーの発生により,前記回転手段により回転数を低下させてデータの再生を行い,回転数を低下させる以外は,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行うことを特徴とする光学的情報記録再生装置。」 相違点 「データエラーの発生により光ディスクを回転させる回転手段の回転数を低下させる場合が,本願発明では,「データエラーを検知する度」であるのに対して,刊行物1の発明では,「誤り訂正を行った回数が所定値より多く,セットされている光磁気ディスクが低速回転モードで記録されたものであるとき」であり,そのままの回転数で光ディスクを回転させてデータの再生を行う場合が,本願発明では,「検知手段によりデータエラーを検知しないとき」であるのに対して,刊行物1の発明では,「誤り訂正を行った回数が所定値より少ないとき」である点。」
原告主張の取消事由の要点
審決は,一致点の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1),また,相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由2),これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤りによる相違点の看過) (1) 審決は,「刊行物1の発明の各セクタ毎に誤り訂正を行った回数を予め設定された所定値と比較する「コントローラ」は,エラーが生じたことを検知しているから,本願発明の「データエラーが生じたことを検知する検知手段」に相当する。」(審決書5頁4段)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
刊行物1の発明の「コントローラ」(ドライブコントローラ10)は,光磁気ディスクを回転させた際に,8ワードまで誤り訂正が可能とされている状況で,各セクタ毎に誤り訂正を行った回数を予め設定された所定値と比較し,誤り訂正回数が所定値,例えば4ワードより大きい場合,当該光磁気ディスクを低速回転モードで記録が行われたものと判断するものであるから,データエラーを検知するものではない。すなわち,刊行物1の発明では,回転数を低下させる条件として,誤り訂正回数が所定値を上回ることとしているものの,データエラーが生じないように所定値を定めればよいのであるから,この所定値を超えてもデータエラーとなるわけではない。刊行物1の発明の「コントローラ」は,誤り訂正の回数を単に記録媒体の判別(高速モードで記録が行われた記録媒体か低速モードで記録が行われた記録媒体か)に利用しているにすぎない。刊行物1の発明の「コントローラ」は,本願発明における「データエラーが生じたことを検知する検知手段」には当たらない。
(2)(ア) 審決の「刊行物1の発明の「初期状態」は,光磁気ディスクが低回転速モードで記録されたものにも関わらず,高速回転モードで回転することは,本願発明の「初期設定」に相当し」(審決書5頁5段)との認定は誤りである。
審決のこの認定は,光磁気ディスクが低速回転モードで記録されたものであるにもかかわわらず,高速回転モードで回転する,という刊行物1の発明の「初期状態」は,本願発明の「初期設定」に相当するという意味と解される。しかしながら,本願発明は,光磁気ディスクを最大回転数で回転させ,「データエラーを検知する度に」回転数を低下させる装置であり,「最大」とは「最も大きい」という意味であって,「度」とは「何度か繰り返された中の一回」という意味であり,2回以上繰り返すことを意味するから,本願発明は,光磁気ディスクの回転数を2回以上低下させるということ,すなわち,少なくとも3段階の回転数を設定したものである。一方,刊行物1の発明の「初期状態」は,上記のとおり,データの再生開始時に,高速回転モードと低速回転モードのうち,高速回転モードを選択する状態をいうのであり,3段階以上の回転数を設定できるうちの最も大きい回転数を設定するという本願発明の「初期設定」とは異なるものである。刊行物1の発明は,本願発明の「初期設定では前記回転手段により最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い」との構成を備えていない。
(イ) 審決の「刊行物1の発明の初期状態の「高速モード」は,「低速モード」より高速で光磁気ディスクを再生するから,本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」に相当する。」(審決書5頁5段)との認定は誤りである。
上記のように,本願発明は,少なくとも3段階の回転数を設定することができる情報再生装置における最大の回転数を設定してデータの再生を行うものである。一方,刊行物1の発明は,高速回転モードと低速回転モードの回転数のうちで,高速回転モードを選択して再生を行うものである。
したがって,刊行物1の発明の「高速モード」は,本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」とは異なるものである。
また,一般的に,「最大」とは,三つ以上の候補があるもののうちで,最も大きいことをいい,二つのうちの一方を指す場合には用いられない。本願発明でも,「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中でデータエラーを検知する度に回転数を低下させて」いるのであるから,「最大回転数」とは三つ以上のいくつかの回転数で回転可能な装置における最大の回転数をいう。このような本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」という構成は,二つのモードしかもたない装置の高いほうの「高速回転モード」とは異なるものである。
(3) 審決は,「回転数を低下させる以外は,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行うこと」(審決書6頁1段)を一致点と認定した。しかし,この認定は誤りである。
本願発明は,「検知手段によりデータエラーを検知しないときは,」そのままの回転数で光ディスクを回転させるものであって,「回転数を低下させる以外は,」そのままの回転数で前記光ディスクを回転させるものではない。すなわち,本願発明は,検知手段によりデータエラーを検知しない時点における回転数で光ディスクを回転させるものであり,たとえ何度か回転数が低下した場合であっても,その後にデータエラーを検知しない限りそのままの回転数で光ディスクを回転させるものである。したがって,審決の上記認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点についての判断において「大量の情報を高速に伝達することを目的として,データエラーの検知がない限り最も速い速度で,また,エラーが検知される場合は,エラーの検知が有る場合のみ,速度を下げるデータの通信手段が刊行物2,3に記載されている。」(審決書6頁3段)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
刊行物2及び3には「大量の情報を高速に伝達することを目的として」に関する記載がない。すなわち,刊行物2には,「一般加入回線を介して画情報の通信を行なうファクシミリ通信」(甲6号証1頁右下欄9〜10行)についての記載があるだけであり,また,刊行物3には,「画像通信方式」(甲7号証右下欄1頁4〜5行)についての記載があるだけである。
しかも,刊行物2及び3記載の発明は,いずれも実際の画像情報の通信に先立って,刊行物2では「テストデータ」を,刊行物3では「回線状態チェック信号」を送信して,通信回線のチェックを行い,その通信回線の状況下で最も速く通信できる通信速度を設定し,その通信速度で画像情報の通信を行うものであるから,審決が認定する「データエラーの検知がない限り最も速い速度で」における「データ」とは,テストデータのことであり,実際に伝送したい情報である「画情報」とは異なるものである。
審決は,このように「テストデータ」ないし「回線状態チェック信号」を画像情報と混同し,その上,画像情報を「大量の情報」と混同して,上記のとおり認定したものである。
(2) 審決は,相違点についての判断において「刊行物1の発明も,できる限り高速回転で再生動作をおこなわせて,データを高速に得ることを求めており,刊行物1の発明でも,データエラーを検知したときは,回転数を低下させている」(審決書6頁3段)と認定している。しかし,この認定は誤りである。
刊行物1の発明は,データエラーを検知して回転数を低下させるものではない。すなわち,刊行物1の発明は,光磁気ディスクを回転させた際に,8ワードまで誤り訂正が可能とされている状況で,各セクタ毎に誤り訂正を行った回数を予め設定された所定値と比較し,誤り訂正回数が所定値,例えば4ワードより大きい場合,当該光磁気ディスクを低速回転モードで記録が行われたものと判断して,回転数を低速回転モードに設定するものである。したがって,刊行物1の発明では,回転数を低下させる条件を,誤り訂正回数が所定値を上回ることとしているものの,データエラーが生じないように所定値を定めればよいのであるから,この所定値を超えてもデータエラーとなるわけではない。誤り訂正によりデータの誤りは訂正されているわけであるから,データエラーは生じていないのである。刊行物1の発明は,誤り訂正の回数を,単に高速モードで記録が行われた記録媒体か低速モードで記録が行われた記録媒体かの記録媒体の判別に利用しているにすぎない。
本願発明における「データエラー」は,信号処理系において発生したものである。一般的に,光ディスク情報記録媒体には,データの誤りが存在することは周知の事実である。このような誤りは,その後の誤り訂正により訂正されるものであるから,本願発明における「データエラー」は,そのような誤りを検出するものではない。本願発明の課題や本願発明が単に「データエラーを検知する検知手段」とせずに,「データエラーが生じたことを検知する検知手段」(請求項9)をその構成としていることを考慮すれば,本願発明は,光ディスク上にあらかじめ存在し,信号処理系に入力される前に,既に発生しているデータの誤りを検知するものではなく,信号処理系で発生した,誤り訂正しきれなかったデータエラーを検知するものであることは明らかである。
これに対し,刊行物1には,誤り訂正回数が所定値(例えば,4ワード)より大きい場合に,回転数を低下させる技術については記載されているものの,誤り訂正しきれなかったデータエラーなど信号処理系に入力された以後で発生したデータエラーを検知して回転数を低下させる技術については記載されていない。すなわち,刊行物1の発明は,誤り訂正回数が所定値を超え,誤り訂正しきれなかった場合をデータエラーと判断するものではない。
(3) 審決は,「刊行物2,3に記載されているように,エラーの生じる度毎に,段階的に光磁気ディスクの回転手段をさげていくことにより,できる限り光磁気ディスクの高速回転を維持し,エラーの生じないときは,速度を下げないで初期状態で光磁気ディスクを回転させるように構成することは,当業者が容易に推考できたたことと認められる。」(審決書6頁3段)と判断している。しかし,この判断も誤りである。
(ア) 特許・実用新案審査基準によると,進歩性を判断するための動機づけとなり得るものとして,技術分野の関連性,課題の共通性,作用・機能の共通性,引用発明の内容中の示唆,の四つが挙げられている。
しかしながら,本願発明と刊行物1の発明は同じ光情報再生装置である点で技術分野に関連性があるものの,刊行物2及び3記載の発明であるファックシミリ装置とは技術分野の関連性はない。
また,本願発明の,ディスクメディアの性能,すなわち,ディスクの機械特性とアクチュエータの特性とに合致した回転数で,効率よく情報の再生を行いたいという課題は,いずれの刊行物にも記載されていない。そして,いずれの刊行物も本願発明の課題を教示してはおらず,本願発明の課題は,いずれの刊行物からも容易に着想し得る課題ではない。また,本件出願の願書に添付した明細書及び図面(以下,併せて「本願明細書」という。)における「ディスク媒体でエラーが発生した場合に限り回転数を低下させて,データのリード/ライトを行う,という技術思想は存在しない。」(甲4号証【0011】)という技術水準を考慮すると,本件出願時において,本願発明の上記課題は,当業者にとって自明な課題とはなっていない。したがって,本願発明と刊行物1ないし3記載の発明との間に課題の共通性はない。また,低速回転モードで記録された記録媒体であっても高速回転モードで読み出せる場合には高速回転モードで読み出しを行うことによって,高データ転送レート化を図りたいという刊行物1の発明の課題と,画像情報転送前の通信回線のチェックを素早く完了したいという刊行物2及び3に記載の通信手段の課題とは共通の課題とはいえない。
さらに,送信側と受信側で通信を行う刊行物2及び3記載の発明の発明特定事項と,記録媒体から情報の再生を行う本願発明の発明特定事項又は刊行物1の発明の発明特定事項との間に,作用・機能の共通性はない。
また,刊行物1,2及び3中に本願発明を示唆するような記載はない。
以上からすれば,刊行物1の発明に刊行物2及び3記載の発明を適用する動機づけはないというべきである。
(イ) 仮に,刊行物1の発明に刊行物2,3記載の発明を適用することができたところで,これらから想到される発明は,実際の情報の再生前に,記録媒体を高速モードで回転し,高速モードで記録が行われたものか低速モードで記録が行われたものかについてチェックし,低速モードであると判別された場合には回転数を低速モードに低下して,実際の情報の再生が開始されるような発明である。これはデータ再生中にデータエラーを検知した場合に回転数を低下させるという本願発明とは根本的に相違するものである。
(ウ) 審決の上記判断中,「エラーの生じないときは,速度を下げないで初期状態で光磁気ディスクを回転させるように構成することは,当業者が容易に推考できたたことと認められる。」との判断は,次の理由によっても誤りである。
本願発明は,「データの再生を行っている途中で検知手段によりデータエラーを検知する度に回転手段により回転数を低下させてデータの再生を行い,前記検知手段によりデータエラーを検知しないときは,そのままの回転数で光ディスクを回転させてデータの再生を行う」であり,「エラーの生じないときは,速度を下げないで初期状態で光磁気ディスクを回転させる」ものではない。すなわち,本願発明は,たとえ,データエラーを検知して回転数が低下しても,その後データエラーを検知しない場合は,その検知しないときの回転数のままで光ディスクを回転させてデータの再生を行うものであり,初期状態に戻して光ディスクを回転させるものではない。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 刊行物1には,「信号処理系8」にデータエラーが発生し,データの誤り訂正が行われ,誤り訂正回数が「ドライブコントローラ10」(刊行物1の発明における「コントローラ」)に送出され,この「ドライブコントローラ10」は,誤り訂正を行った回数を判定し,この誤り訂正回数が所定値より多いときにはディスク駆動モータの回転数を下げるようにする構成が記載されている。
刊行物1記載の「ドライブコントローラ10」は,データの誤り訂正回数が予め設定された設定値より大きいかどうかを判別するものであり,データエラーがどの程度生じたかを検知するものであるから,その限りで,データエラーが生じたことを検知するものであるといえる。
したがって,刊行物1の発明における「コントローラ」が,本願発明における「データエラーが生じたことを検知する検知手段」に対応するものであることは明らかである。
(2)(ア) 刊行物1の発明における「初期状態」とは,最初の状態のことであり,高速回転モードで記録されたディスクの場合に加え,低速回転モードで記録されたディスクの場合でも,高速回転モードで再生を行うように設定されており,前記「初期状態」の高速回転モードは,ディスクの種類に関わらず,ディスクが最初に回転するモードであるから,その意味で本願発明の「初期設定」に相当する。
したがって,刊行物1の発明における「初期状態」は,本願発明の「初期設定」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
(イ) 刊行物1の光磁気ディスク装置は,「高速回転モード」と「低速回転モード」とを有し,二つのモードのうち「高速回転モード」は,光磁気ディスク装置が設定し得る最大の回転数で回転されるモードであって,二つのモードの中で,最も大きい速度という意味で,刊行物1の発明における「高速回転モード」が本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」ことに相当する。
(3) 刊行物1の発明は,「データエラーが生じたことを検知する検知手段」を備え,「初期設定では前記回転手段により最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生」を行い,「回転数を低下させる以外は,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行う光学的情報記録再生装置。」であるから,本願発明と刊行物1の発明とは,審決に記載のとおりの一致点を有するものであり,審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 刊行物2及び3において,ファクシミリ装置が送信機から受信機へ伝送しようとする情報は,画像情報であり,大量の情報といえるものである。また,刊行物2に「通信時間削減の為9600BPS等の高速度のモデムが使用される場合が多いが,」(甲6号証1頁右下欄9行〜11行)と記載されていることから,情報を高速で伝達することを目的としていることも明らかである。
したがって,審決において,刊行物2及び3記載の発明に関し「大量の情報を高速に伝達することを目的として」と認定したことに誤りはない。
また,刊行物2及び3記載の発明は,ファクシミリ装置において,画情報の伝送に先立つテストデータの送信に関するものであるものの,刊行物2及び3記載の発明におけるテストデータの送信状態から通信速度を決定する方法は,エラーが発生してテストデータが受信機側で正しく受信できない場合は,最も速い通信速度から一段階ずつ低下させながら通信速度を選択するものであり,エラーが発生しない場合は通信速度を低下させることなく設定するものである。刊行物2及び3記載の画像情報は,テストデータで設定されたエラーが発生しない範囲の高速の通信速度で伝送されるのであるから,刊行物2及び3に「データエラーの検知がない限り最も速い速度で,また,エラーが検知される場合は,エラーの検知が有る場合のみ,速度を下げるデータの通信手段」(審決書6頁3段)が記載されているとした審決の認定に誤りはない。
(2) 刊行物1の発明の「信号処理系8」(さらには「誤り訂正符号・復号器12」)は,再生時に誤り訂正を行うものであり,この誤り訂正は,再生データのエラーの検出に伴って行われるものである。
データエラーについて,本願明細書には,単に「信号処理系16において,データエラーが発生した場合に,回転制御系13により光ディスク媒体2の回転数をダウンさせ,」(甲4号証【0051】)と記載されているだけであり,データエラーが「信号処理系16」に発生するものであることが示されているにすぎない。
刊行物1に記載された「信号処理系8」も,光ピックアップで読み出された情報(データ)の誤り(エラー)を訂正してドライブコントローラ10に送るものである。
したがって,刊行物1の発明の「コントローラ」(「ドライブコントローラ10」)は,「信号処理系8」からの(データエラーが生じた場合の)誤り訂正回数と予め設定された所定値とを比較し,所定値より大きい場合には,光磁気ディスクの駆動モータの回転数を切換えて,高速回転モードから低速回転モードとするものであるから,審決の「データエラーを検知したときは,回転数を低下させている」(審決書6頁3段)との認定に誤りはない。
(3)(ア) 刊行物1の発明は,光学的情報記録再生装置を対象とするものであり,できる限り高速で再生動作を行わせ,データを高速に伝送することをその技術課題とするものである。そして,この課題の解決のために,低速モードで記録されている光磁気ディスクを,誤り訂正回数が所定値より少ない場合には,高速モードでデータを再生するものである。したがって,刊行物1の発明は,本願発明と同様の課題を解決するものということができる。
そして,審決が認定したように,本願発明と刊行物1の発明とは,回転数を低下させる場合が,本願発明では「データエラーを検知する度」であるのに対して,刊行物1の発明では「誤り訂正を行った回数が所定値よりも多いとき」である点で相違するものの,誤り訂正は,データの誤りを検知して誤り訂正を行うのであるから,刊行物1の発明は,設定された所定回数ほどデータの誤りが検知された場合に駆動モータの回転数を下げるものと理解することができる。
また,刊行物2及び3には,ファクシミリ通信に関し,情報を高速に伝送することを目的として,データを最も高い通信速度で送信し,受信データにエラーが検出された場合には,順次,通信速度を一段階ずつ下げて送信することが記載されている。
情報の伝送の技術と情報の記録再生の技術とは伝送路を介するか記録媒体を介するかの違いだけであって共通する技術も多い。したがって,刊行物2及び3に記載のデータエラーを検出する度に速度を低下させるという技術を刊行物1の発明の駆動モータの回転数の切換えに用いて,「誤り訂正の回数が所定値を超えた場合」,すなわち「所定回数ほどデータの誤りが検知された場合」に替えて,「データエラーを検出する度に」駆動モータの回転数を下げるようにすることは当業者であれば容易に想到し得たものである。
(イ) 刊行物1の発明は,再生データの誤り訂正回数が所定値より少ない場合,すなわちデータエラーの程度が小さいと考えられる場合には初期の高速回転モードのままで光磁気ディスクを回転させて情報の再生を行うものである。
一方,本願発明は,「検知手段によりデータエラーを検知しないときは,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行う」(請求項9)ものである。
そうすると,刊行物1の発明における「初期状態で」の「高速回転モード」とは,本願発明における「初期設定」における「最大回転数」に相当するものであるということができる。
したがって,刊行物1の発明が,データの誤り訂正回数が所定値より少ない,すなわち,データエラーの程度が小さいと考えられる場合には,初期の高速回転モード(初期回転数)のままで光磁気ディスクを回転させて情報の再生を行うものである以上,データエラーの生じない場合,単に,速度を下げない初期状態(初期回転数)で光磁気ディスクを回転させるように構成することは当業者が容易に推考できたことである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 原告は,審決の「刊行物1の発明の各セクタ毎に誤り訂正を行った回数を予め設定された所定値と比較する「コントローラ」は,エラーが生じたことを検知しているから,本願発明の「データエラーが生じたことを検知する検知手段」に相当する」との認定は誤りである,と主張する。
刊行物1においては「再生動作においてはデータ・・・が光ピックアップ6により読取られ,信号処理系8の変復調器11を経てドライブコントローラ10で読取られる。このデータ中,誤り訂正コード情報は第1図に示すように誤り訂正符号・複合器12により復号されてドライブコントローラ10に与えられるとともに,復号した際の誤り訂正を行なった回数の情報もこのドライブコントローラ10に与えられる。ドライブコントローラ10ではこの誤り訂正回数が予め設定された所定値,例えば4ワードより大きい場合には,セットされている光磁気ディスク1が低速回転モードにより書込まれたものであると判断し,それ以降の記録動作又は再生動作を低速回転モードによる回転数に切換えて行う。」(甲5号証3頁左下欄14行〜右下欄10行)との記載がある。
この記載から明らかなように,刊行物1の発明においては,再生動作において,データの読み誤りが生じた都度,その誤りが訂正され,その誤りが訂正された回数が,誤り訂正コード情報と共に,ドライブコントローラ10に与えられるのであるから,同コントローラ10は,データ読取りの誤りがどの程度生じたかを検知する検知手段であるということができる。
原告は,刊行物1の発明では,回転数を低下させる条件として,誤り訂正回数が所定値を上回ることとしているものの,データエラーが生じないように所定値を定めればよいのであるから,この所定値を超えてもデータエラーとなるわけではない,と主張する。しかし,本願明細書には,データの誤り訂正機能については何の記載も示唆もない(甲3,4号証)。そして,本願発明における「データエラー」とは,本願明細書中の「この第3の実施例では,光ディスクドライブ1の信号処理系16において,データエラーが発生した場合に,回転制御系13により光ディスク媒体2の回転数をダウンさせ,再びデータのライト/リード動作を実行することにより,データエラーを起さない回転数で,ライト/リードが行えるようにしている。」(甲4号証【0051】)との記載及び図6からすれば,単に,データの記録・再生動作中の,信号処理系16におけるデータの記録・読取りの誤りを意味するものであり,原告が主張するように,誤り訂正機能によっても訂正することが不可能なものと解することはできない。刊行物1の発明において,誤り訂正機能が働いている場合においても,本願発明の「データエラー」に相当するデータの読み誤りは生じていると解すべきであり,原告の上記主張は採用し得ない。
(2) 原告は,審決の「刊行物1の発明の「初期状態」は,・・・本願発明の「初期設定」に相当」するとの認定は誤りであるとし,その根拠として,本願発明の「初期設定」は,3段階以上の回転数を設定できるうちの最も大きい回転数を設定するというものであり,刊行物1の発明の「初期状態」とは,異なるものであると主張し,同様の理由で,審決の「刊行物1の発明の初期状態の「高速モード」は,「低速モード」より高速で光磁気ディスクを再生するから,本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」に相当する。」(審決書5頁5段)との認定は誤りである,と主張する。
確かに,本願発明の「初期設定では・・・最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中で・・・データエラーを検知する度に・・・回転数を低下させてデータの再生を行い」(請求項9)との構成において,「データエラーを検知する度」が複数回であることを前提とした構成であるとすると,「初期設定」における「最大回転数」とは,3段階以上の回転数における最も大きい回転数を意味することになる。これに対し,刊行物1の発明は,誤り訂正を行った回数が多い場合には,高速回転モードから低速回転モードに下げるとの構成であり(甲5号証),同発明における高速回転モードは,初期状態のものであり,最大の回転数のものであるものの,2段階の回転モードを前提とするものである。
しかし,刊行物1の発明における「初期状態」とは,文字どおり,最初の状態のことであり,同発明においては,高速回転モードで記録されたディスクの場合に加え,低速回転モードで記録されたディスクの場合でも,高速回転モードで再生を行うように設定されているのであるから(甲5号証),前記「初期状態」の高速回転モードは,ディスクの種類に関わらず,ディスクが最初に回転するモードであって,その意味で本願発明の「初期設定」に相当する,と解することも可能である。また,刊行物1の発明は,「高速回転モード」と「低速回転モード」とを有し,二つのモードのうち「高速回転モード」は,光磁気ディスク装置が設定し得る最大の回転数で回転されるモードであって,二つのモードの中で,最も大きい速度という意味で,刊行物1の発明における「高速回転モード」が本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」ことに相当する,と解することも可能である。このように考えれば,審決の一致点の認定に誤りはない。そして,審決は,本願発明の「データエラーを検知する度に」の構成については,これを相違点として認定し,この相違点については,「刊行物2,3に記載されているように,エラーの生じる度毎に,段階的に光磁気ディスクの回転手段をさげていくことにより,できる限り光磁気ディスクの高速回転を維持し,・・・ように構成することは,当業者が容易に推考できたことと認められる。」(審決書6頁3段)と判断しているところである。
進歩性の判断における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提として行われるものであり,相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,また,一致点の認定をどの程度の抽象度において行うかは,審決において共通部分を考慮して,適宜なし得ることである。
本件における一致点の認定についても,どの程度の抽象度によって行うかは審決が適宜行うことができるのであり,審決の上記一致点の認定に誤りはないのである。すなわち,本願発明の「データエラーを検知する度に」との構成を踏まえて「初期設定」及び「最大回転数」との構成を解釈すれば,原告が主張するような一致点の認定の誤りを指摘することが可能となるものの,本件の審決のように一致点を認定した上で,「データエラーを検知する度に」との構成を相違点として認定し,この相違点に係る構成の容易想到性について判断すれば,3段階以上の回転数に係る構成の容易想到性についても,上記構成と裏腹のものとして,同時に判断することになるのである。したがって,審決が,刊行物1の発明の「高速回転モード」が,本願発明における「初期設定」に相当し,また,「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」にも相当すると認定した上で,本願発明の「データエラーを検知する度に」の構成については,これを相違点として認定し,相違点についての判断の中で,これについての判断を示したものである以上,審決には,相違点の看過はなく,一致点認定の誤りもないということができるのである。
(3) 原告は,本願発明は,「検知手段によりデータエラーを検知しないときは,」そのままの回転数で光ディスクを回転させるものであって,「回転数を低下させる以外は,」そのままの回転数で前記光ディスクを回転させるものではないから,審決の「回転数を低下させる以外は,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行う」との一致点の認定は誤りである,と主張する。
しかしながら,審決は,一致点の認定において,「データエラーの発生により,・・・回転数を低下させてデータの再生を行い,回転数を低下させる以外は,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行う」と認定しているのであり,審決のこの認定は,「回転数を低下させる以外は」との条件を,「検知手段によりデータエラーを検知しないとき」と,「誤り訂正を行った回数が所定値より少ないとき」との双方を含む広い意味で用いているものと認めることができる。審決に誤りがないことは明らかである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決の「大量の情報を高速に伝達することを目的として,データエラーの検知がない限り最も速い速度で,また,エラーが検知される場合は,エラーの検知が有る場合のみ,速度を下げるデータの通信手段が刊行物2,3に記載されている。」(審決書6頁3段)との認定が誤りである,と主張する。
原告は,その理由として,刊行物2及び3には「大量の情報を高速に伝達することを目的と」することについての記載がない,と主張する。
しかしながら,刊行物2及び3記載の発明は,いずれもファクシミリ装置に関するものであり,実際の画像情報の伝送に先立って,通信回線のチェックを行い,その通信回線の状況下で最も速く通信できる通信速度を設定し,その通信速度で前記画像情報の伝送を行うものである(甲6,7号証)。そうすると,刊行物2及び3記載の発明は,最終的には,画像情報を最も早く通信できる通信速度で伝送することを目的としているということができ,また,ファクシミリ装置の画像情報は一般に大量の情報とみることができることからすれば,刊行物2及び3には,「大量の情報を高速に伝達することを目的と」する通信手段が記載されているとの審決の認定に誤りはない。
原告は,刊行物2及び3記載の発明は,いずれも実際の画像情報の通信に先立って,刊行物2では「テストデータ」を,刊行物3では「回線状態チェック信号」を送信して,通信回線のチェックを行い,その通信回線の状況下で最も速く通信できる通信速度を設定し,その通信速度で画像情報の通信を行うものであるから,審決が認定する「データエラーの検知がない限り最も速い速度で」における「データ」とは,テストデータのことであり,実際に伝送したい情報である「画情報」とは異なるものである,と主張する。
しかしながら,刊行物2及び3には,「データエラーの検知がない限り最も速い速度で,また,エラーが検知される場合は,エラーの検知が有る場合のみ,速度を下げるデータの通信手段」が記載されていること,及び,「データ」とはテストデータであること(甲6,7号証),並びに,一般にテストデータは,実際に伝送したい情報を模したもので,エラーが発生しやすい情報で構成することが通常であることからすれば,刊行物2及び3におけるテストデータとしては,実際に伝送したい情報である画像情報を用いることが想定されていると認めることができる。
したがって,「大量の情報を高速に伝達することを目的として,データエラーの検知がない限り最も速い速度で,また,エラーが検知される場合は,エラーの検知が有る場合のみ,速度を下げるデータの通信手段が刊行物2,3に記載されている。」とした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,審決の「刊行物1の発明も,できる限り高速回転で再生動作をおこなわせて,データを高速に得ることを求めており,刊行物1の発明でも,データエラーを検知したときは,回転数を低下させている」(審決書6頁3段)との認定が誤りである,と主張し,その根拠として,第1に,刊行物1の発明では,回転数を低下させる条件を,誤り訂正回数が所定値を上回ることとしているものの,この所定値は誤り訂正が可能な範囲で設定されているため,この所定値を超えることによりデータエラーとなるわけではない,と主張する。
しかし,刊行物1の発明では,データエラーを訂正する機能が付加されているため,データエラーを訂正し得る範囲内で,所定値を定め,データエラーが所定値に達したときに回転数を下げているものである。すなわち,刊行物1の発明では,所定値が1のときは1ワードのデータエラーで回転数を下げることになるし,所定値が4のときは,4ワードのデータエラーで回転数を下げることになるものであり,データエラーが訂正機能により訂正されているものの,所定数のデータエラーにより,回転数を下げていることに変わりはない。審決が,「刊行物1の発明でも,データエラーを検知したときは,回転数を低下させている」と認定したことに誤りはない。
原告は,審決の上記認定が誤りである根拠として,第2に,本願発明は,光ディスク上にあらかじめ存在し,信号処理系に入力される前に,既に発生しているデータの誤りを検知するものではなく,信号処理系で発生した,誤り訂正しきれなかったデータエラーを検知するものであるのに対し,刊行物1の発明は,誤り訂正回数が所定値を超え,誤り訂正しきれなかった場合をデータエラーと判断するものではない,と主張する。
しかし,審決の上記認定は,「データエラーの検知がない限り最も速い速度で,また,エラーが検知される場合は,エラーの検知が有る場合のみ,速度を下げるデータの通信手段が刊行物2,3に記載されている。」(審決書6頁3段)」との認定を受けて,刊行物1の発明においても,刊行物2及び3記載の発明と同様に,「データエラーを検知したときは,回転数を低下させている」と認定しているのであって,原告が主張するように本願発明の「データエラー」の検知について述べているものではないから,原告の主張は,そもそもこの点を誤解するものである。また,本願明細書には,上記のとおり,誤り訂正機能については何の記載もなく,本願発明における「データエラー」とは,本願明細書における「光ディスクメディアの性能に応じて決定される回転数より速い回転数で駆動されることによって・・・発生」(甲4号証【0016】)するものであるとの記載からすれば,信号処理系で発生したデータエラーを検知するものであるとはいえるものの,誤り訂正しきれなかったデータエラーを検知するものであるとする本願明細書上の根拠はない(甲3,4号証)のであって,本願発明は誤り訂正しきれなかったデータエラーを検知するものである,との原告の上記主張は,そもそも本願明細書に基づかない主張であり,採用することはできない。
(3) 原告は,刊行物1の発明に刊行物2及び3記載の発明を適用する動機づけはなく,審決の「刊行物1の発明も,できる限り高速回転で再生動作をおこなわせて,データを高速に得ることを求めており,刊行物1の発明でも,データエラーを検知したときは,回転数を低下させているから,刊行物2,3に記載されているように,エラーの生じる度毎に,段階的に光磁気ディスクの回転手段をさげていくことにより,できる限り光磁気ディスクの高速回転を維持し,エラーの生じないときは,速度を下げないで初期状態で光磁気ディスクを回転させるように構成することは,当業者が容易に推考できたたことと認められる。」(審決書6頁3段)」との判断は誤りである,と主張する。
(ア) 刊行物1には,次の記載がある。
「近年,コンピュータ(CPU)の高速化に伴い,その周辺装置の一つである情報記録再生装置にあっても高速化の要求が高まっている。この際,従来の装置,媒体を使用したシステムとのデータ互換性も求められる。そこで,従来は記録媒体の形状,フォーマット等は変更せずに,この記録媒体の回転数を上げることによりデータ転送速度の向上を図るようにしている。」(甲5号証1頁右下欄10行〜2頁左上欄1行) 「ここに,従来装置により低速回転で記録された情報を持つ記録媒体について,高速回転させて再生しようとすると,情報の書込み位置のバラツキ(一般に,ジッタと称される)が大きくなり,誤りの原因となるので,データ再生の信頼性が低下してしまうことがある。そこで,回転数の高い高速回転モードを持つ情報記録再生装置にあっても,低速回転で記録された媒体については回転数を下げて再生動作を行うように駆動モータの回転数を制御したいといえる。反面,低速回転で記録された媒体であっても高データ転送レート化のためには,高速回転駆動により再生したほうがよいので,一律に低速回転駆動で再生させるというのも得策ではなく,できる限り,高速回転で再生動作を行わせたほうがよいといえる。」(2頁左上欄3行〜17行) 「より具体的には,高速回転モードを持つ情報記録再生装置において,初期状態では高速回転モードで再生を行い,誤り訂正を行なった回数により記録時の記録媒体の回転数を判定し,低速回転モードで記録されたと判定した時には,駆動モータを低速回転モードの回転数に下げるようにした。
作用 ある回転数で記録媒体を回転駆動させながら行う再生動作において,再生時の回転数が記録時の回転数よりも高い場合には,誤りデータが多くなる一要因となり得る。一方,再生時の回転数が記録時の回転数よりも高い場合であっても良好なる状態で記録がなされた情報については誤りデータの少ない再生が可能となる。」(2頁右上欄13行〜3頁左下欄8行) 「本発明は,上述したように誤り訂正を行なった回数が多い場合には駆動モータの回転数を下げるようにしたので,再生時の回転数よりも少ない回転数で記録された媒体であっても良好なる状態で記録されたものについては高速回転で再生でき,誤りデータの多い場合だけ下げてそのデータ信頼性を確保すればよく,・・・」(4頁左上欄10行〜16行) これらの記載によれば,刊行物1の発明は,光学的情報記録再生装置において,データの書き込み位置のばらつきを考慮しつつ,できる限り高速で再生動作を行わせ,データを高速に伝送することをその技術課題とするものであり,また,誤りの多い場合に回転数を下げることにより,データの信頼性を確保しているものである。
(イ) 刊行物2及び3には,ファクシミリ通信に関するものではあるものの,情報を高速に伝送することを目的として,テストデータを最も高い通信速度で送信し,受信データにエラーが検出された場合には,順次,通信速度を一段階ずつ下げて通信速度を設定し,データを送信することが記載されている(甲6,7号証)。
そして,刊行物1の発明も,刊行物2及び3記載の発明も,共に情報を高速に伝送するためのものである点で共通しているから,情報伝送という同じ技術分野に属するものということができる。
したがって,刊行物1の発明と,刊行物2及び3記載の発明とは,技術分野に関連性があり,また,情報を高速に伝送するという共通の課題を有することから,刊行物2及び3記載の発明を刊行物1の発明に適用する動機づけはあるということができる。よって,刊行物1の発明に刊行物2及び3記載の発明を適用することにより,エラーの生じる度毎に,段階的に光磁気ディスクの回転手段をさげていき,エラーの生じないときは,速度を下げないでそのままの回転数で光磁気ディスクを回転させるようにし,できる限り光磁気ディスクの高速回転を維持する,との相違点に係る構成に想到することは,当業者にとって容易であると認められる。
(ウ) 審決が,上記のとおり「エラーの生じないときは,速度を下げないで初期状態で 光磁気ディスクを回転させるように構成することは,当業者が容易に推考できた」(下線付加)と判断した点について,原告は,この判断は誤りである,と主張する。
確かに,刊行物1の発明に刊行物2及び3記載の発明を適用した場合に,容易に想到し得るのは,上記のとおり,エラーの生じないときは,速度を下げないでそのままの回転数で光磁気ディスクを回転させるようにするとの構成である。この構成においては,エラーが一度も生じなかったときは,審決のいうとおり,「速度を下げないで初期状態で光磁気ディスクを回転させる」ことになるということができるものの,エラーが既に生じているときは,速度を下げないでそのままの回転数で 光磁気ディスクを回転させるようにすることになる。
しかし,審決は,上記のとおり「エラーの生じる度毎に,段階的に光磁気ディスクの回転手段をさげていくことにより,できる限り光磁気ディスクの高速回転を維持し,エラーの生じないときは,速度を下げないで初期状態で光磁気ディスクを回転させるように構成する」と述べているものであるから,エラーが一度以上生じている場合についてはできる限りそのままの高速回転を維持していくことを前段で述べ,エラーが一度も生じていない場合については後段で述べていると解することができるものである。原告の上記主張は,審決が述べた趣旨を誤解した上での批判であり,審決を原告が主張するように解する必要はないから,採用し得ないものである。
3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁
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