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関連審決 訂正2010-390015
無効2009-800027
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10542審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10485審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10266審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  分割出願 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  同意 /  設定登録 /  請求の理由 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  訂正の許否 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 /  合理的な理由 /  申し立てない理由 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10221号 審決取消請求事件

原告不二精機株式会社
訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
同 福田あ やこ
同 宇田浩康
同 井?康孝
同 辻村和彦
同 井口喜 久治
同 川端さ とみ
同 森本純
同 中村理紗
同 山崎道雄
同 辻淳子
同 藤野睦子
訴訟代理人弁理士 野口繁雄
被告明晃化成工業株式会社
訴訟代理人弁理士 安田敏雄
同 安田幹雄
同 国立久
同 片桐務
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800027号事件について平成22年6月22日にした審決を取り消す。
第2基礎となる事実 1特許庁における手続の経緯 (1)設定登録被告は,発明の名称を「記録媒体用ディスクの収納ケース」とする特許第4143206号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成10年3月9日に出願された特許出願(特願平10-57080号)の分割出願として,平成11年2月24日,出願され(特願平11-46724号),平成20年6月20日,設定登録された(設定登録時の請求項の数は3であった。以下,設定登録時の明細書を図面とともに「訂正前明細書」という。甲17)。
(2)無効審判及び差戻決定原告は,平成21年2月16日,本件特許につき無効審判(無効2009-800027号,以下「本件無効審判」という。)を請求し(甲31),特許庁は,平成21年11月18日,請求項1に係る発明についての特許を無効とし,請求項2,3に係る発明についての審判請求は成り立たないとの審決をした(甲43)。これに対し,原告は,平成21年12月22日,審決取消訴訟(平成21年(行ケ)第10417号)を提起し,被告は,同月28日,審決取消訴訟(平成21年(行ケ)第10436号)を提起した。
被告は,平成22年2月15日,本件特許につき訂正審判(訂正2010-390015号)を請求した(甲44)。知的財産高等裁判所は,平成22年3月9日,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,決定により審決を取り消した(甲46)。
(3)差戻後の無効審判ア差戻後,本件無効審判については,特許法134条の3第2項の規定に基づいて指定した期間内に訂正請求がされなかったため,同条5項の規定に基づき,上記指定期間の末日に当たる平成22年3月29日に,訂正審判(訂正2010-390015号)の請求書(甲44)に添付された訂正明細書を同条3項の規定により援用した同条1項の訂正が請求されたものとみなされた(以下,同訂正請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を図面とともに「訂正明細書」という。本件訂正後も,請求項の数は3であった。)。
イ特許庁は,平成22年4月21日,被告に対し,訂正拒絶理由通知(平成22年4月16日起案)を発送した。また,特許庁は,同日,原告に対し,訂正審判請求書(甲44)及び訂正審判手続補正書(甲45)の副本,訂正請求書副本の送付通知(甲63)及び職権審理結果通知書(平成22年4月16日起案,甲47)を発送し,これらは,同月22日,原告に到達した。
ウ上記訂正請求書副本の送付通知(甲63)には,「本件無効審判について本件訂正請求がされたものとみなされた」旨,「本件訂正請求に対して意見があれば訂正審判請求書副本発送の日から30日以内に提出するよう促す」旨が記載されていた。また,上記職権審理結果通知書(甲47)には,本件訂正について,「合議の結果,拒絶すべきものと認められる」旨,「意見があれば同通知の発送の日から30日以内に意見書を提出するよう促す」旨が記載され,また,本件訂正を拒絶すべきものと認める理由が記載されていた。
エ被告は,上記訂正拒絶理由通知に対し,平成22年5月20日付け意見書(甲50)を提出し,同意見書は,同月24日,特許庁に受理された。
また,原告は,平成22年5月20日付け意見書(甲48)を提出して,「本件訂正は拒絶されるのが相当である」旨主張するとともに,同日付け上申書(甲49)を提出して,「本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明は進歩性を欠く」旨を主張した。
オ平成22年6月7日,無効審判の審理は終結し,審理終結通知書(甲65)は,同月10日,被告の同年5月20日付け意見書(甲50)の副本とともに原告に到達した(甲64)。
カ特許庁は,平成22年6月22日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月1日,原告に送達された。
2特許請求の範囲訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は次のとおりである(以下,訂正明細書の請求項1記載の発明を「訂正発明1」,請求項2記載の発明を「訂正発明2」,請求項3記載の発明を「訂正発明3」といい,訂正発明1ないし3を包括して「訂正発明」という。)。
(1)請求項1(訂正発明1)記録媒体用ディスクの記録面側を覆う樹脂製の保持板を有し,前記保持板に,記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌まるボス部が設けられていると共に,該保持板の一端部には上下ヒンジ部を介して樹脂製のカバー体が回動自在に枢支されている記録媒体用ディスクの収納ケースであって,前記保持板のディスクに対面する上面には,前記ボス部を囲む径小のスペーサ台と,この径小のスペーサ台の外側を囲む径大のスペーサ台とが隆起して形成され,前記径小のスペーサ台と径大のスペーサ台とが記録媒体用ディスクの記憶領域を除く部分に当接可能になっており,前記保持板の径小及び径大のスペーサ台の隆起高さは前記保持板の上面から1mm以下であり,かつ前記保持板とカバー体とを閉じた状態におけるケースの厚みが略5.2mmであり,前記カバー体の一端部には,前記保持板の一端部の上下ヒンジ部と揺動開閉自在に連結される上下ヒンジ部と,カバー体を閉じた状態のときに保持板におけるヒンジ部寄りの端部よりも外方へ突出する突出部分に断面鉤形に立ち上がる端面部とが設けられ,前記カバー体の上下ヒンジ部は保持板の上下ヒンジ部の上下内方に位置していて,前記カバー体の上ヒンジ部は保持板の上ヒンジ部に下側から対面しかつ前記カバー体の下ヒンジ部は保持板の下ヒンジ部に上側から対面しており,かつ前記カバー体の上下ヒンジ部は前記端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されていることを特徴とする記録媒体用ディスクの収納ケース。
(2)請求項2(訂正発明2)前記径小のスペーサ台の径内側において,前記ボス部に径方向の分断部を周方向に複数本形成して,各分断部間に指掛け可能であって記録媒体用ディスクを嵌脱するときに沈み込み作用と縮径作用とが可能な複数の操作片を形成していることを特徴とする請求項1に記載の記録媒体用ディスクの収納ケース。
(3)請求項3(訂正発明3)前記径小のスペーサ台の径内側において,前記ボス部は保持板のディスクに対面する上面から立ち上がっていて記録媒体用ディスクの中央孔が嵌りかつ径方向内方へ傾き可能な周方向複数の立ち上がり部を有し,前記保持板のボス部まわりには,前記各立ち上がり部の根元部両側に径方向外方へ延びる対の径方向切欠を設け,この対の径方向切欠間にボス部に近い部分が高くなるように傾斜して撓み可能なバネ部を形成していることを特徴とする請求項1に記載の記録媒体用ディスクの収納ケース。
3本件訂正の内容(1)訂正前明細書の請求項1記載の発明訂正前明細書の請求項1の記載は,次のとおりであった(以下,訂正前明細書の請求項1記載の発明を「本件発明1」という。)。
記録媒体用ディスクの記録面側を覆う樹脂製の保持板を有し,前記保持板に,記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌まるボス部が設けられていると共に,該保持板の一端部には上下ヒンジ部を介して樹脂製のカバー体が回動自在に枢支されている記録媒体用ディスクの収納ケースであって,前記保持板のディスクに対面する上面には,前記ボス部を囲む径小のスペーサ台と,この径小のスペーサ台の外側を囲む径大のスペーサ台とが隆起して形成され,前記径小のスペーサ台と径大のスペーサ台とが記録媒体用ディスクの記憶領域を除く部分に当接可能になっており,前記保持板の径小及び径大のスペーサ台の隆起高さは前記保持板の上面から1mm以下であり,かつ前記保持板とカバー体とを閉じた状態におけるケースの厚みが略5.2mmであることを特徴とする記録媒体用ディスクの収納ケース。
(2)訂正の内容本件訂正は,特許請求の範囲変更する訂正事項a,発明の詳細な説明及び図面を変更する訂正事項b,cからなるものであり,訂正事項aないしcは,次のとおりであった(甲44)。
ア訂正事項a特許請求の範囲減縮を目的とし,訂正前明細書の請求項1(前記(1),本件発明1)に「前記カバー体の一端部には,前記保持板の一端部の上下ヒンジ部と揺動開閉自在に連結される上下ヒンジ部と,カバー体を閉じた状態のときに保持板におけるヒンジ部寄りの端部よりも外方へ突出する突出部分に断面鉤形に立ち上がる端面部とが設けられ,前記カバー体の上下ヒンジ部は保持板の上下ヒンジ部の上下内方に位置していて,前記カバー体の上ヒンジ部は保持板の上ヒンジ部に下側から対面しかつ前記カバー体の下ヒンジ部は保持板の下ヒンジ部に上側から対面しており,かつ前記カバー体の上下ヒンジ部は前記端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されている」との構成を追加し(以下,訂正事項aにより請求項1に追加された構成を「訂正事項aに係る構成」ということがある。),訂正明細書の請求項1(前記2(1),訂正発明1)のとおりとするものであった。
イ訂正事項b明りょうでない記載の釈明を目的とし,課題を解決するための手段として訂正前明細書の請求項1に係る構成が記載されていた【0006】に,訂正事項aに係る構成を追加し,訂正明細書の請求項1と同様の構成が記載されることとする。
ウ訂正事項c誤記の訂正を目的とし,実施例について記載された【0023】,【0032】及び【符号の説明】における「スペーサ台部」を「スペーサ台」と訂正する。
4審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
ア本件訂正の許否について本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号,2号及び3号に掲げる事項を目的とし,かつ同条5項で準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するから,本件訂正を認める。
イ訂正明細書の記載要件(特許法36条6項1号)について訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものではなく,発明の詳細な説明に記載されたものであるから,訂正明細書の請求項1の記載は,特許法36条6項1号の規定に違反するものではない。
ウ訂正発明1ないし3の進歩性について(ア)訂正発明1訂正発明1と甲1(特開昭60-148485号公報)記載の発明(以下「甲1発明」という。)との相違点1,2(後記(2)ウ(ア),(イ))に係る訂正発明1の構成は,当業者が容易に想到することができたが,相違点3(後記(2)ウ(ウ))に係る訂正発明1の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができなかったから,訂正発明1は,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(イ)訂正発明2訂正発明2と甲1発明との相違点1,2(後記(2)ウ(ア),(イ))に係る訂正発明2の構成は,当業者が容易に想到することができたが,相違点3,4(後記(2)ウ(ウ),エ)に係る訂正発明2の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができなかったから,訂正発明2は,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(ウ)訂正発明3訂正発明3と甲1発明との相違点1,2(後記(2)ウ(ア),(イ))に係る訂正発明3の構成は,当業者が容易に想到することができたが,相違点3,5(後記(2)ウ(ウ),オ)に係る訂正発明3の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができなかったから,訂正発明3は,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(2)審決が,訂正発明1ないし3に進歩性があるとの結論を導く過程において認定した甲1発明の内容,訂正発明1ないし3と甲1発明の一致点,相違点は,次のとおりである。
ア甲1発明の内容収納ケース本体1と,その一端側に一対の蝶番3を介して回転自在に取付けられた蓋2から構成されるディスク収納ケースであって,収納ケース本体1及び蓋2の材質はプラスチックであり,収納ケース本体1の中央には,高さが約1mmの円形の台座部分と,該台座部分の上面から上方に突出して形成され,円形に並んで配置される多数の突起部分とからなる突起1aが設けられる一方,収納ケース本体1の中央から離れた位置には,高さが約1mmであって円形リングの一部の形状を呈した二つの凸部1cが設けられ,収納ケース本体1にコンパクトディスク4を収納したとき,前記複数の突起部分がコンパクトディスク4の中心穴に嵌まり,前記台座部分の上面がコンパクトディスク4の中心穴近傍の無信号部に当接し,凸部1cの上面がコンパクトディスク4の外周近傍の無信号部に当接するようにしたディスク収納ケース。
イ訂正発明1ないし3と甲1発明の一致点「記録媒体用ディスクの記録面側を覆う樹脂製の保持板を有し,前記保持板に,記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌まるボス部が設けられていると共に,該保持板の一端部には上下ヒンジ部を介して樹脂製のカバー体が回動自在に枢支されている記録媒体用ディスクの収納ケースであって,前記保持板のディスクに対面する上面には,径小のスペーサ台と,この径小のスペーサ台の外側を囲む径大のスペーサ台とが隆起して形成され,前記径小のスペーサ台と径大のスペーサ台とが記録媒体用ディスクの記憶領域を除く部分に当接可能になっており,前記保持板の径小及び径大のスペーサ台の隆起高さは前記保持板の上面から1mm以下であり,前記カバー体の一端部には,前記保持板の一端部の上下ヒンジ部と揺動開閉自在に連結される上下ヒンジ部が設けられている,記録媒体用ディスクの収納ケース。」である点。
ウ訂正発明1と甲1発明の相違点(ア)相違点1訂正発明1は,径小のスペーサ台がボス部を囲むのに対して,甲1発明は,突起部分が台座部分の上面から上方に突出して形成されるものであるため,台座部分は突起部分を囲むものではない点。
(イ)相違点2訂正発明1では,保持板とカバー体とを閉じた状態におけるケースの厚みが略5.2mmであるのに対して,甲1発明では,収納ケース本体1と蓋2を閉じた状態におけるケースの厚みは特定されていない点。
(ウ)相違点3訂正発明1は,カバー体の一端部には,カバー体を閉じた状態のときに保持板におけるヒンジ部寄りの端部よりも外方へ突出する突出部分に断面鉤形に立ち上がる端面部が設けられ,カバー体の上下ヒンジ部は保持板の上下ヒンジ部の上下内方に位置していて,カバー体の上ヒンジ部は保持板の上ヒンジ部に下側から対面しかつカバー体の下ヒンジ部は保持板の下ヒンジ部に上側から対面しており,かつカバー体の上下ヒンジ部は前記端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されているものであるのに対して,甲1発明は,そのような構成を備えない点。
エ訂正発明2と甲1発明の相違点前記ウの相違点1ないし3に加え,下記の相違点4。
相違点4訂正発明2は,径小のスペーサ台の径内側において,ボス部に径方向の分断部を周方向に複数本形成して,各分断部間に指掛け可能であって記録媒体用ディスクを嵌脱するときに沈み込み作用と縮径作用とが可能な複数の操作片を形成しているのに対して,甲1発明は,そのような構成を備えていない点。
オ訂正発明3と甲1発明の相違点前記ウの相違点1ないし3に加え,下記の相違点5。
相違点5訂正発明3は,径小のスペーサ台の径内側において,ボス部は保持板のディスクに対面する上面から立ち上がっていて記録媒体用ディスクの中央孔が嵌りかつ径方向内方へ傾き可能な周方向複数の立ち上がり部を有し,保持板のボス部まわりには,前記各立ち上がり部の根元部両側に径方向外方へ延びる対の径方向切欠を設け,この対の径方向切欠間にボス部に近い部分が高くなるように傾斜して撓み可能なバネ部を形成しているのに対して,甲1発明は,そのような構成を備えていない点。
第3取消事由に関する原告の主張審決は,手続上の瑕疵(取消事由1),訂正の許否の判断の誤り(取消事由2),記載要件違反に関する判断の誤り(取消事由3),訂正発明1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4),訂正発明2,3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)があるから,違法として取り消されるべきである。
1手続上の瑕疵(取消事由1)審判手続には,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵があり,その瑕疵は審決の結論に影響を及ぼす。その理由は,以下のとおりである。
(1)事実の経過ア特許庁は,平成22年4月21日,原告に対し,訂正審判請求書(甲44)の副本と,本件訂正を拒絶する旨記載した職権審理結果通知書(甲47)を同時に発送し,同月22日,それらが原告に到達した。これを受けて,原告は,本件訂正が拒絶され,本件訂正前の請求項について進歩性の判断がされることを予測し,本件訂正前の請求項についての発明が進歩性を欠くとの主張立証に力を尽くした。このような原告の主張立証活動は,合理的なものといえる。
職権審理結果通知書(甲47)には,訂正拒絶理由に関連して,本件訂正に係る事項につき,「被告が挙げる『指掛け部を設けることができる』ということの技術的意義は,本件発明の『薄型化』という本来の技術的意義と何ら関係がないので,実質上特許請求の範囲変更するものである」との理由が示され,本件訂正を拒絶する旨記載されていた。
イ被告は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)において,上記訂正拒絶理由に関連した判断に対し,「本件訂正に係る発明特定事項は,カバー体の上下ヒンジ部の構成を具体化し,また,ディスク収納ケースの厚みが半減するのに伴いカバー体の厚さ方向の寸法が半減するところ,それにもかかわらず強度を維持し,ケース厚みを半減させる効果を奏するという技術的意義を有する」旨の意見を述べた(甲50,3頁14行ないし6頁8行)。
平成22年5月20日付け意見書(甲50)に記載された被告の主張は,訂正審判請求書(甲44)では全く主張されていなかったものであり,同意見書(甲50)が提出される前に,原告が,被告の上記主張を前提として本件訂正について意見を述べることは不可能であった。
そして,平成22年6月10日,審理終結通知書(甲65)と被告の同年5月20日付け意見書(甲50)の副本が同時に原告に到達したため(甲64),被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対して原告が反駁する機会は全く与えられなかった。
ウそれにもかかわらず,審決は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に記載されていた意見をほぼ全面的に容れ(審決書14頁10行ないし34行),さらに,「本件訂正にかかる事項の技術的意義は,『指掛け部を設けることができる』というものであるとは限らないし,仮にそのような技術的意義があるとしても,全体としては,本件発明1がもつ技術的意義との関連において理解しうる」旨述べ(審決書14頁35行ないし15頁15行),職権審理結果通知書(甲47)で示した見解と矛盾する見解を述べた上,本件訂正を認めるとの判断をした。
(2)手続上の瑕疵被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対して原告が反駁する機会が与えられていたとすれば,原告は,本件訂正の適否に関する主張や本件訂正後の各請求項を前提とする進歩性欠如の主張をすることができたから,本件審決の結論が変わる可能性があった。
そのため,審判官は,原告に対し,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対する反駁の機会を与えるべきであり,そのための釈明をすべきであったが,それにもかかわらず,そのような釈明はされなかった。
したがって,審判手続には,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵があり,その瑕疵は審決の結論に影響を及ぼす。
2訂正の許否の判断の誤り(取消事由2)本件審決が,訂正事項aにつき,特許請求の範囲減縮を目的とするものであり(特許法134条の2第1項1号),訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり(特許法134条の2第5項,126条3項),実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものとはいえない(特許法134条の2第5項,126条4項)とした判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1)特許請求の範囲拡張又は変更(特許法126条4項)について ア本件発明1の技術的意義との関係について審決は,訂正事項aに係る構成が,従来の厚形ケースでは採用されていなかったものであり,薄形化したケースにおいてカバー体の強度の維持又は増強に役立つとの判断を前提として,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものとはいえないと判断したと考えられる。
しかし,訂正事項aに係る構成は,従来のケースにおいて極めて一般的に採用されていた技術常識であり,ケースの薄形化に際して初めて採用されたものではない。また,カバー体の一端部に断面鉤形に立ち上がる端面部が設けられ,カバー体の上下ヒンジ部が端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されるなどの,訂正事項aに係る構成が採られたとしても,それによって,従来技術との比較において,カバー体の強度の維持又は増強が図られることはなく,その点について,被告の説明はなく,審決や訂正明細書に何らの記載もない。さらに,ケースを薄形化しても,側壁及びヒンジ部の厚みや素材の選択により,強度の維持又は増強を図ることができる。
そして,訂正事項aに係る構成のうち,カバー体の突出部分に設けられた断面鉤形の端面部は,訂正明細書の【0014】の記載によれば,指掛け部としての技術的意義を有するにとどまる。
したがって,訂正事項aに係る構成は,本件発明1が有する技術的意義との関連においては理解できず,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものである。
イ審決の判断についてそれにもかかわらず,審決は,本件発明1の「ディスク収納ケースの薄型化」という技術的意義と,「ディスク収納ケースのカバー体及び保持板の強度維持ないし増強」という技術的意義を,合理的な理由なく結び付けるとともに,「ディスク収納ケースのカバー体及び保持板の強度維持ないし増強」という技術的意義を,相違点3に係る「カバー体の一端部に断面鉤形に立ち上がる端面部が設けられること」,「カバー体の上下ヒンジ部が端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されること」との構成と,合理的な理由なく結び付けた上,相違点3に係る構成を含む訂正事項aに係る構成は,全体としてみれば,本件発明1がもつ技術的意義との関連において理解し得るものであるとし,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものであるとまではいえないとした。
したがって,訂正事項aにつき,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものとはいえないとした審決の判断は,誤りである。
(2)特許請求の範囲減縮(特許法134条の2第1項1号),訂正前明細書に記載した事項の範囲(特許法134条の2第5項,126条3項)について前記(1)アのとおり,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものであるから,本件訂正の目的が特許請求の範囲減縮を目的とするものであるとの審決の判断は誤りであり,また,訂正事項aが,訂正前明細書等に記載した事項の範囲であるとの審決の判断も誤りである。
3記載要件(特許法36条6項1号)に関する判断の誤り(取消事由3)審決が,訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,特許法36条6項1号の規定に違反するものではないとした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1)ケースの厚みについて訂正明細書発明の詳細な説明には,ディスク収納ケースの厚みが略5.2mmになったとの結論のみが記載されており(【0015】),その理由は記載されていないから,ケースの厚みを略5.2mmに限定しているとは解釈できないし,また,ケースの厚みを一定以上に保つことが課題であるとの記載もない。そうすると,訂正明細書発明の詳細な説明中には,ケースの厚みが略5.2mmであるとの発明特定事項が明確に記載されているとはいえない。
(2)中央固定部の構成について訂正明細書発明の詳細な説明には,ケースの薄型化という課題を解決するために,「ケースを2枚構成とし,かつ,図3に示す中央固定部の構成を備える」という手段のみが記載されているが,請求項1(訂正発明1)には,ボス部すなわち中央固定部について,「記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌まるボス部」と規定されているのみであり,図3に示される事項が特定されていない。そのため,訂正発明1には,図3に示す中央固定部の構成を備えるものとするとの内容が反映されておらず,また,例えば,ボス部の全体厚が極めて厚いなど,ケースの薄型化をもたらさない構成についても特許を請求することとなる。
そうすると,訂正発明1は,請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。
(3)特許法36条1項1号違反についてしたがって,訂正発明1は,請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるから,特許法36条6項1号に違反する。
4訂正発明1についての容易想到性の判断の誤り(取消事由4)相違点3に係る訂正発明1の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができなかったとした審決の判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,相違点3に係る訂正発明1の構成は,本件特許出願前に頒布された多数の特許公報等(甲51ないし62,枝番号を含む。以下,同じ。)に記載され,ディスク等情報記録媒体の収納ケースの分野において極めてよく知られており,技術常識といえる。本件特許出願前に頒布された特許公報等には,相違点3に係る構成が図面で示されているものの,その技術的意義が文章によって記載されていない場合がほとんどであり,これは,同構成が技術常識であることを示している。
甲51ないし62には,相違点3に係る訂正発明1の構成がすべて開示されている。そして,甲51ないし62に示されたディスク等の収納ケースが,カバー体が保持板の内方に収まる「内カバー構造」であり,甲1発明が,カバー体が保持板の外側を覆う「外カバー構造」であるとしても,「内カバー構造」も「外カバー構造」も,2ピースからなるディスクケースにおいて,ディスクを固定するボス部がいずれのピースに設けられているかの点が異なるにすぎず,基本構造は変わらない。そのため,甲51ないし62に示された技術常識を甲1発明に適用することは可能である。
そうすると,相違点3に係る訂正発明1の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり,相違点3に係る訂正発明1の構成は容易に想到し得たということはできないとした審決の判断は,誤りである。
5訂正発明2,3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)審決が,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができなかったとした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1)訂正発明2と甲1発明の相違点4,訂正発明3と甲 1 発明の相違点5に係る技術は,その特徴を踏まえて分析すると,次の三つの技術に分けることができる。
ディスク収納ケースにおいて,独立したリング状,又はボス部との間に一段低くなった環状の部分が存在しないボス部と連続した形のリング状であり,ボス部を囲む径小のスペーサ台を有し,径小のスペーサ台の径内側において,ボス部に径方向の分断部を周方向に複数本形成して,各分断部間に,指掛け可能であってディスクを嵌脱するときに沈み込み作用と縮径作用とが可能な複数の操作片を形成する技術(技術1)ディスク収納ケースにおいて,ボス部を囲む独立したリング状の径小のスペーサ台を設ける技術(技術2)ディスク収納ケースにおいて,ボス部を,保持板のディスクに対面する上面から立ち上がっていてディスクの中央孔が嵌りかつ径方向内方へ傾き可能な周方向の複数の立ち上がり部を有するものとし,ボス部まわりに立ち上がり部の根元部両側に径方向外方へ延びる対の径方向切欠を設け,この対の径方向切欠間にボス部に近い部分が高くなるように傾斜して撓み可能なバネ部を形成する技術(技術3)(2)上記技術1ないし3は,本件特許出願前に頒布された多数の特許公報等(甲13ないし15,18ないし30)に記載された技術常識である。
また,甲8には,ディスク取り外しの際に,ボス部を押し下げたときに当接片8がディスクの下方への連れ移動を阻止してディスクがボス部から外れ易くする機能を果たすことが記載されているが(【0009】),リング状の径小のスペーサ台が,甲8の当接片8と同様に,ディスク取り外しの際に,ボス部を押し下げたときにディスクの下方への連れ移動を阻止する機能を果たすことは,甲13ないし15,18ないし30のうちの多くの文献が示しているとおり,技術常識である。そのため,ディスク取り外し操作時におけるボス部押し下げに伴うディスクの下方への連れ移動防止手段として,甲8の当接片8に置き換えて同じ効果を有しかつ技術常識であるリング状の径小のスペーサ台を採用することは,容易に想到し得た。
したがって,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,ディスク収納ケースという同一分野における本件特許出願時の技術常識を組み合わせたものにすぎず,当業者は容易に想到することができた。
なお,甲13ないし15,18ないし30に記載された上記技術1ないし3は技術常識であるから,特許庁は立証の有無にかかわらずそれを認識しておくべきであるし,原告が提出した上記証拠を採用しないことは許されない。
第4被告の反論原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,審決の認定,判断に誤りはない。
1手続上の瑕疵(取消事由1)に対し審判手続には,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵はない。その理由は,以下のとおりである。
本件無効審判において,特許庁は,原告に対し,審理終結通知書(平成22年6月9日発送,甲65)を送付する前に,訂正審判請求書(甲44)の副本を送達し(平成22年4月21日発送),訂正請求書副本の送付通知(甲63)において意見書の提出を促し,弁駁の機会を与えた。また,原告に対して職権審理結果通知書(甲47)を送付し,意見書の提出を促した。このように,特許庁は,訂正審判請求書の副本を原告に送達して弁駁の機会を与え,職権審理の結果を当事者に通知し,意見を申し立てる機会を与えたものであって,本件審判手続は特許法の規定に従って進められた。
原告に対して発送された職権審理結果通知書(甲47)には,本件訂正を拒絶する旨記載されていたが,職権審理結果通知書は,審判官が本件訂正の許否を職権審理してある程度の心証を得た結果を示したものにすぎず,本件訂正を拒絶するとの確定した判断を示したものではない。相手方当事者である被告にも意見を申し立てる機会が与えられているから(特許法134条の2第3項),被告から提出される意見書に基づいて審判官の判断が覆る場合のあることは,原告も当然了知すべきである。
したがって,審判手続に,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵はない。
2訂正の許否の判断の誤り(取消事由2)に対し審決が,訂正事項aにつき,特許請求の範囲減縮を目的としたものであり,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものとはいえないとした判断に誤りはない。
その理由は,以下のとおりである。
(1)特許請求の範囲拡張し又は変更(特許法126条4項)について訂正事項aに係る構成は,本件発明1における保持板とカバー体の上下ヒンジ部の構成を具体化したものである。
記録媒体用ディスクの収納ケースにおける保持板やカバー体にはある程度の強度をもたせる必要があることは自明な課題であり,本件発明1は収納ケースの全体厚を薄くするものであって,薄型化に伴う強度の低下が懸念されるから,ヒンジ部も含めたカバー体の構成について強度を配慮したものとすることは,本件発明1の技術的意義との関連において理解し得るものである。
そして,カバー体の一端部に断面鉤形に立ち上がる端面部が設けられることや,カバー体の上下ヒンジ部が端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されることは,ヒンジ部を含めたカバー体の強度について配慮したものである。
訂正明細書の【0014】には,カバー体の突出部分に設けられた断面鉤形の端面部が指掛け部として利用できることが記載されているが,これは,図9に示された実施例において奏する作用効果にすぎず,本件発明1に新たな目的効果を付加するものではない。
したがって,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものではない。
(2)特許請求の範囲減縮(特許法134条の2第1項1号),訂正前明細書に記載した事項の範囲(特許法134条の2第5項,126条3項)について原告は,訂正事項aが,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものであることを前提として,本件訂正の目的が特許請求の範囲減縮(特許法134条の2第1項1号)を目的とするものであるとした審決の判断の誤り,訂正事項aが訂正前明細書等に記載した事項の範囲(特許法134条の2第5項,126条3項)であるとの審決の判断の誤りを主張するが,原告の主張は,その前提において採用することができない。
3記載要件(特許法36条6項1号)に関する判断の誤り(取消事由3)に対し審決が,訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,特許法36条6項1号の規定に違反するものではないとした判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1)ケースの厚みについて訂正明細書の【0015】には,従来の標準タイプの収納ケースは3枚構成で全体厚が10.4mm前後であったのに対し,訂正発明の実施例ではその半分の5.2mmに抑えることに成功した旨記載されており,収納・梱包など収納ケースの取り扱いの観点から,その厚さを6mm又は7mmにするより,5.2mmにする方が好ましいことは明白である。したがって,ケースの厚みが5.2mmであることは,発明の詳細な説明に記載されている事項であり,当業者にとってその数値が選択された理由は明らかであり,その数値は限界的意味も有する。
(2)中央固定部の構成について訂正明細書発明の詳細な説明には,「中央固定部の形状を図3に示す形状としたこととがあいまって,」(【0015】)との記載があり,図3には,ボス部5,径小のスペーサ台6,分断部10,操作片11,径方向切欠17,バネ部20等の正面図が示されている。前記ボス部5は「記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌まる」部位であり,前記径小のスペーサ台6は「ボス部を囲む」部位であり,「中央固定部の形状」は「ボス部」のみを示すものではなく,「径小のスペーサ台6」も含むものであり,「径小のスペーサ台6」は隆起しているものであって,薄型化の強度維持にも寄与するものである。
したがって,訂正発明1の中央固定部の構成は,発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
4訂正発明1についての容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し審決が,相違点3に係る訂正発明1の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとした判断に誤りはない。
その理由は,以下のとおりである。
(1)甲1には,「第1図は従来のコンパクトディスク収納ケースで,本体1と,その一側端に蝶番3を介して回転自在に取付けられた蓋2から構成されており」(1頁左下欄19行ないし右下欄1行)との記載があり,第1図及び第2図に示す従来技術並びに第3図を参酌すると,本体1の一側端に蝶番3を介して蓋2を回転自在に取付けており,蓋2のヒンジ部には蝶番3の軸受孔が形成され,蓋2の上下ヒンジ部は側面部を延長する形で形成され,本体1の上下ヒンジ部も側面部を延長する形で形成され,蓋2の側面部は本体1の側面部の上下外方に位置し,蓋2の上下ヒンジ部は本体1の上下ヒンジ部の上下外方に位置し,蓋2の上ヒンジ部は本体1の上ヒンジ部に上側から対面しかつ蓋2の下ヒンジ部は本体1の下ヒンジ部に下側から対面したものである。
蓋2が本体1の一側端に回転自在に取付けられているのは,この構成を前提としたものであり,蓋2の上下ヒンジ部を本体1の上下ヒンジ部の上下内方に位置させたのでは,蝶番3の軸受孔が存在しなくなり,蓋2の上下ヒンジ部と本体1の側面部の上下外方に位置する蓋2の側面部とが繋がらなくなる。
そして,甲2ないし8を参酌しても,そのような変更をする動機づけはない。
(2)甲51ないし62は,単に技術常識を立証するにとどまるものではない上,本件審判手続において提出されておらず,本件審判の判断を経ていないから,それらに記載された公知技術との対比における進歩性欠如等の無効原因を本訴において新たに主張することはできない。
また,甲51ないし62記載のディスク収納ケースは,カバー体の上下縁が保持板の上下側面部の上下内方に収まる,いわば「内カバー構造」であるのに対し,甲1ないし7記載のディスク収納ケースは,カバー体の上下側面部及び上下ヒンジ部が,保持板の上下側面部及び上下ヒンジ部を上下外方から覆い,カバー体が保持板の外側を覆う,いわば「外カバー構造」である。
ディスク収納ケースの「内カバー構造」と「外カバー構造」は,構造が基本的に異なるから,「外カバー構造」である甲1記載のディスク収納ケースに,甲51ないし62の「内カバー構造」のディスク収納ケースの技術的事項を適用することは,容易に想到することができない。
5訂正発明2,3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)に対し審決が,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,甲1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができなかったとした判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1)相違点4に係る訂正発明2の構成について訂正発明2は,径小のスペーサ台の径内側に設けられ,かつ該スペーサ台によって囲まれるボス部に,径方向の分断部が周方向に複数本形成され,かつ沈み込み作用と縮径作用とが可能な複数の操作片が形成されるものであり,径小のスペーサ台とボス部のそれぞれが保持板に形成されている。
甲8には,ボス部5にスリット6Aが形成されているが,スリット6Aを囲むスペーサ台については記載がない。また,甲2には中心ピン10の周りに記録体Dに接触する径小の環状支持帯14を形成することが記載されているが,中心ピン10には沈み込み作用と縮径作用とが可能な複数の操作片は存在しない。さらに,甲3ないし7のいずれにも,相違点4に係る構成は記載されていない。
したがって,相違点4は,甲2ないし甲8を参酌することによって当業者が容易に想到し得たということはできない。
(2)相違点5に係る訂正発明3の構成について訂正発明3は,径小のスペーサ台の径内側に設けられ,かつ該スペーサ台によって囲まれるボス部が,径方向内方へ傾き可能な周方向複数の立ち上がり部を有し,径小のスペーサ台の径内側でかつ保持板のボス部まわりに,各立ち上がり部の根元部両側に径方向外方へ延びる対の径方向切欠を設け,この対の径方向切欠間にボス部に近い部分が高くなるように傾斜して撓み可能なバネ部が形成されている。
甲8には,ボス部5にスリット6A及び支持片7が形成されているが,スリット6A及び支持片7を囲むスペーサ台については記載がない。また,甲2には,中心ピン10の周りに記録体Dに接触する径小の環状支持帯14を形成することが記載されているが,中心ピン10に近い部分が高くなるように傾斜して撓み可能なバネ部は存在しない。甲3ないし7のいずれにも,相違点5に係る構成は記載されていない。
したがって,相違点5は,甲2ないし8を参酌することによって当業者が容易に想到し得たということはできない。
第5当裁判所の判断当裁判所は,審決には,取り消されるべき違法はないと判断する。
1手続上の瑕疵(取消事由1)について審判手続には,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵はない。その理由は,以下のとおりである。
原告は,?特許庁が,平成22年4月21日,原告に対し,訂正審判請求書(甲44)の副本と,本件訂正を拒絶する旨記載した職権審理結果通知書(甲47)を同時に発送し,同月22日,それらが原告に到達したこと,?被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)には,訂正審判請求書(甲44)では全く主張されていない主張が記載されていたこと,?平成22年6月10日,審理終結通知書(甲65)と被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)の副本(甲64)が同時に原告に到達したこと,?審決は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に記載されていた意見を容れ,職権審理結果通知書(甲47)で示した見解と全く矛盾する見解を述べた上,本件訂正を認めたこと,などの経過を前提として,審判官は,原告に対し,平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対する反駁の機会を与えるべきであり,そのための釈明をすべきであったが,そのような釈明はされなかったから,審判手続には,適切な釈明権の行使を怠ったとの手続上の瑕疵があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することはできない。
(1)差戻後の本件無効審判の審理の経過は,前記第2,1(3)のとおりである。
職権審理結果通知は,当事者又は参加人が申し立てない理由について審理したときに,その審理の結果を当事者等に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えるものであり(特許法134条の2第3項),意見書の提出を前提としていることからすると,意見書を参酌した上で,その後の審判官の見解が,職権審理結果通知書の記載と変わる場合のあることを予定しているものと認められ,職権審理結果通知書の記載が,審決の結論又は理由を拘束するとの法的根拠はない。
そうすると,本件訂正を拒絶する旨の職権審理結果通知書(甲47)の記載とは結論及び理由を異にして,本件訂正を認める旨の審決が行われたとしても,その点をもって違法ということはできない。
(2)原告に送付された訂正請求書副本の送付通知(甲63)には,「本件無効審判について本件訂正請求がされたものとみなされた」旨,「本件訂正請求に対して意見があれば訂正審判請求書副本発送の日から30日以内に提出するよう促す」旨が記載されていた。そして,前記(1)のとおり,職権審理結果通知書の記載は,審決の結論又は理由を拘束することはなく,審判官の見解は,職権審理結果通知書の記載と変わる場合があり得るから,原告は,審判官の見解が職権審理結果通知書の記載と変わる場合にも備えて,本件訂正請求について意見を述べることができ,その機会が与えられていたということができる。
(3)原告は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)には,訂正審判請求書(甲44)で主張されていなかった事項が記載されていた旨主張する。ところで,特許法156条2項は,審判長は,職権審理通知をした後であっても,当事者の申立てにより又は職権で審理の再開をすることができる旨規定する。したがって,原告は,被告の平成22年5月20日付け意見書(甲50)に対する反論が必要であると判断した場合には,審理の再開を申し立て,再開された審理において,被告の上記意見書に対する反論をすることができたといえる。それにもかかわらず,原告は,審理の再開を求めることすら行わなかった。
(4)以上の事情を考慮すると,本件において,審判官に,審理終結の前に原告に対して反論の機会を与えるための釈明をすべき義務があったとする根拠はないし,そのような釈明が行われなかったとしても,それによって原告の反論の機会が失われたということはできない。
したがって,審判手続に,適切な釈明がされなかったとの手続上の瑕疵があると原告の主張は,理由がない。
2訂正の許否の判断の誤り(取消事由2)について本件審決が,訂正事項aにつき,特許請求の範囲減縮を目的としたものであり,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものとはいえないとした判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1)特許請求の範囲拡張又は変更(特許法126条4項)についてア本件発明1は,「保持板の一端部には上下ヒンジ部を介して樹脂製のカバー体が回動自在に枢支されている」との構成を備えるものであり,訂正事項aは,上記構成に係る保持板の一端部,及び保持板とカバー体の上下ヒンジ部の構成を細部にわたって具体化し,特許請求の範囲を,従前の特許請求の範囲の中で,更に具体化された構成を備えたものに限定するものである。
訂正事項aは,請求項に記載した事項を,より広い意味を表す表現に入れ替えるなどして特許請求の範囲拡張するものではないし,請求項に記載した事項を別の意味を表す表現に入れ替えることによって特許請求の範囲により画される発明の技術的範囲を変えるものではなく,発明の対象を変更するものでもない。
また,明細書の発明の詳細な説明及び図面について行われた訂正事項b及びcを考慮に入れても,発明の詳細な説明又は図面の記載を訂正することによって特許請求の範囲拡張され又は変更されたものとは認められない。
そうすると,訂正事項aは,特許法126条4項の「実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するもの」に該当しない。したがって,本件審決が,訂正事項aにつき,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものとはいえないとした判断に誤りはない。
イこれに対し,原告は,?訂正事項aに係る構成は,従来のケースにおいて極めて一般的に採用されていた技術常識であり,ケースの薄形化に際して初めて採用されたものではないこと,?カバー体の一端部に断面鉤形に立ち上がる端面部が設けられ,カバー体の上下ヒンジ部が端面部の上下端部とそれぞれ正面視鉤形に繋がって形成されるなどの,訂正事項aに係る構成が採られたとしても,それによって,従来技術との比較において,カバー体の強度の維持又は増強が図られることはないこと,?ケースを薄形化しても,側壁及びヒンジ部の厚みや素材の選択により,強度の維持又は増強を図ることができること,?訂正事項aに係る構成のうち,カバー体の突出部分に設けられた断面鉤形の端面部は,訂正明細書の【0014】の記載によれば,指掛け部としての技術的意義を有するにとどまること,などを主張し,訂正事項aにより請求項1に追加された構成は,本件発明1が有する技術的意義との関連においては理解できず,訂正事項aは,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものであると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,採用することができない。
すなわち,仮に,原告主張のとおり,訂正事項aに係る構成が採用されることにより,カバー体の強度の維持又は増強が図られることがなかったとしても,前記アのとおり,訂正事項aに係る構成は,保持板の一端部,及び保持板とカバー体の上下ヒンジ部の構成を細部にわたって具体化し,特許請求の範囲を,従前の特許請求の範囲の中で,更に具体化された構成を備えたものに限定するものであるから,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものであるとはいえない。
また,訂正事項aに係る構成と訂正発明との技術的関連性を問題とするとしても,訂正事項aに係る構成は,それによってどの程度の作用効果が得られるかはさておき,ケースの強度の維持又は強化という技術的事項と無関係であるとはいえず,訂正発明と技術的関連性を有するものといえる。
すなわち,訂正明細書には,「上記従来の収納ケースでは,その厚みが約10mm程度あり,厚いものであり,保管・収納に嵩張るものであった。本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであって,保管場所をとらないようにした,記録媒体用ディスクの収納ケースを提供することを目的とする。」(【0005】【発明が解決しようとする課題】)との記載があることから,訂正発明は,薄型化したディスク収納ケースの提供を課題としていると認められ,本件発明1及び訂正発明1は,上記課題に対応して「前記保持板とカバー体とを閉じた状態におけるケースの厚みが略5.2mm」との構成を備える。ケースを薄型化すると,厚み方向の部材の寸法が縮小するため,その分,強度が低下する可能性があり,薄型化したディスク収納ケースを提供するために強度の維持又は強化が必要になることは,当業者であれば容易に認識し得るものと認められ,強度の維持又は強化に関する技術的事項は,訂正発明と技術的関連性を有するといえる。そして,訂正事項aに係る構成が採られ,カバー体の突出部に断面鉤形に立ち上がる端面部を設け,又は端面部の上下端部を正面視鉤型形に繋げてカバー体の上下ヒンジ部を形成すれば,効果の大小はさておき,端面部がリブとしての機能を果たすなどして,カバー体の強度が維持・強化されるものと推認され,当業者であれば,それが薄型化による強度の低下に対処する一手段となる余地のあることは,容易に理解し得ると解される。なお,訂正明細書の【0014】の記載により,訂正発明1の実施例において,カバー体の突出部分に設けられた断面鉤形の端面部が,収納ケースをケースラック等から引き出すときの指掛け部として利用できることが認められるとしても,端面部の技術的意義がそれに限定されるとは解されない。
(2)特許請求の範囲減縮(特許法134条の2第1項1号),訂正前明細書に記載した事項の範囲(特許法134条の2第5項,126条3項)について原告は,訂正事項aが,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものであることを前提として,本件訂正の目的が特許請求の範囲減縮(特許法134条の2第1項1号)を目的とするものであるとした審決の判断の誤り,訂正事項aが訂正前明細書等に記載した事項の範囲(特許法134条の2第5項,126条3項)であるとの審決の判断の誤りを主張する。しかし,原告の主張は,その前提において採用することができないから,その前提に基づくその余の主張も採用できない。
3記載要件(特許法36条1項1号)に関する判断の誤り(取消事由3)について原告は,訂正明細書発明の詳細な説明中には,ケースの厚みが略5.2mmであるとの発明特定事項が明確に記載されていないこと,発明の課題を解決するための手段としてのボス部の構成が請求項に反映されていないことから,審決が,訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,特許法36条1項1号の規定に違反するものではないとした判断は誤りであると主張する。しかし,審決の上記の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1)特許法36条1項1号の意義特許法36条1項1号は,技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的に照らし,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する趣旨で設けられたものであるから,同号の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載された技術的事項を超えるか否かを必要かつ合目的的な解釈によって判断すれば足りると解される。
(2)訂正明細書の記載訂正明細書には,以下の記載がある。
ア従来技術については,次のとおりの記載がある。
「【0004】また,従来のケースは,一対のカバー体と保持板との3部材で構成されていたため,その厚みが約10mm以上あった。」イ発明が解決しようとする課題については,次のとおりの記載がある。
「【0005】【発明が解決しようとする課題】上記従来の収納ケースでは,その厚みが約10mm程度あり,厚いものであり,保管・収納に嵩張るものであった。
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであって,保管場所をとらないようにした,記録媒体用ディスクの収納ケースを提供することを目的とする。」ウ課題を解決するための手段を記載した【0006】には,本件訂正後の請求項1と同じ構成が記載されている。
実施例については,次のとおりの記載がある。
(ア)「【0010】なお,各スペーサ台6,7の隆起高さは,1mm以下でも十分である。
実施形態では0.7mm程度とした。・・・」(イ)「【0015】なお,上記のように,本実施形態において収納ケース1は,保持板2とカバー体3との2枚構成になっていることと,中央固定部の形状を図3に示す形状としたこととがあいまって,全体厚を極めて薄く形成できるものとなっている。すなわち,従来のこの種,収納ケースの多くでは,一対のカバー体と,その中に入れる保持板とを有した3枚構成であったため,その全体厚は,10.4mm前後となっていたが,本実施形態の場合は,その半分の5.2mm程度に抑えることに成功している。」(ウ)「【0016】また,現在公知の2枚構成のCD・DVD等のケ-スも存在するが,現状では上記構成の収納ケ-ス(図3)に示す様な中央の固定部の形状を持つものは存在しないことから,従来の約半分である5.2mm程度の厚みのこの種のケ-スは存在しない。それゆえ,この種のケ-スの50%のスリム化というのは上記構成の収納ケ-スにより,実用的な形で実施することが可能になったのである。・・・」(3)ケースの厚みについて訂正明細書の【0006】(前記(2)ウ),【0010】,【0015】,【0016】(前記(2)エ)の記載によれば,訂正明細書発明の詳細な説明には,訂正発明1の「前記保持板の径小及び径大のスペーサ台の隆起高さは前記保持板の上面から1mm以下であり,かつ前記保持板とカバー体とを閉じた状態におけるケースの厚みが略5.2mmであ」るとの構成に対応する技術的事項が記載されているものと認められる。
ケースの厚みについて略5.2mmという数字が選択された理由は,ケースの薄型化という訂正発明の課題を解決し,薄型化による作用効果を明らかなものとするために,従来のケース厚の約半分の厚さが示されたものと推認される。略5.2mmという数字が選択された理由やその限界的意味は,訂正明細書発明の詳細な説明には直接記載されていないが,前記の特許法36条1項1号の趣旨に照らせば,本件において,それらが直接記載されていないことをもって,同号に反する理由とすることはできない。
(4)中央固定部の構成について訂正明細書の課題を解決するための手段を記載した【0006】には,本件訂正後の請求項1と同じ構成が記載されており,実施例を記載した【0015】,【0016】には,図3の形状のボス部が示されている。そして,ボス部(中央固定部)が特定の構造のものでなければケースの厚みを5.2mm程度に薄くすることができないと解する合理的根拠は認められない。そのため,訂正明細書には,実施例として図3しか示されていないが,訂正明細書に接した当業者は,図3と異なる形状であっても,記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌るとの構成を備えつつ,保持板とカバー体からなるケースの厚さが略5.2mmとなるようなボス部を形成できることを,認識し得るものと推認される。【0015】には「なお,上記のように,本実施形態において収納ケース1は,保持板2とカバー体3との2枚構成になっていることと,中央固定部の形状を図3に示す形状としたこととがあいまって,全体厚を極めて薄く形成できるものとなっている。」と記載されており,【0015】,【0016】には,図3の形状のボス部しか示されていないが,それらは実施例についての記載であるから,それによって訂正発明1が図3の形状のものに限定されることはない。
そうすると,訂正明細書発明の詳細な説明には,図3の形状に限らず,記録媒体用ディスクの中央孔に対して着脱自在に嵌まるボス部についての技術的事項が記載されているものと認められ,前記の特許法36条1項1号の趣旨に照らし,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載された技術的事項を超えているものとは認められない。
(5)小括したがって,訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,特許法36条1項1号の規定に違反するものではなく,審決の同旨の判断に誤りはない。
4訂正発明1についての容易想到性の判断の誤り(取消事由4)について原告は,相違点3に係る訂正発明1の構成は,本件特許出願前に頒布された多数の特許公報等(甲51ないし62)に記載され,ディスク等情報記録媒体の収納ケースの分野において極めてよく知られており,技術常識といえるとの主張を前提として,相違点3に係る訂正発明1の構成は,このような技術常識に基づいて容易に想到し得たものであると主張し,審決が,その容易想到性を否定した判断は誤りであると主張する。しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することはできない。
すなわち,本件無効審判においては,甲1ないし8に記載された公知技術に基づく容易想到性が無効審判請求の理由とされており,甲51ないし62の特許公報等は,審判において証拠として提出されておらず,甲51ないし62に記載された公知技術との対比における進歩性欠如等の無効原因は,本件無効審判で審理判断されていないから,その無効原因を本訴において新たに主張することは許されない。また,仮に甲51ないし62の特許公報等に記載された技術が周知技術といえるものであったとしても,それらの特許公報等は,その内容に照らすと,容易想到性を判断するに当たり,本件無効審判で提出されていた甲1ないし8等に記載された公知技術を単に補うにとどまるものではなく,別途,容易想到性を基礎付ける公知技術を示すものと解されるから,その点からしても,甲51ないし62の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効原因を本訴において新たに主張することは許されない。したがって,原告の上記主張は,その前提において,採用することができず,それを前提とするその余の原告の主張も,採用することができない。
なお,甲51ないし62の特許公報等に記載された技術との対比における進歩性欠如等の無効原因は,本件無効審判とは別に,それらの無効原因に基づいて無効審判請求をした場合には,その無効審判において主張することができる。
5訂正発明2,3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)について原告は,訂正発明2と甲1発明の相違点4,訂正発明3と甲1発明の相違点5に係る技術は,本件特許出願前に頒布された多数の特許公報等(甲13ないし15,18ないし30)に記載された技術常識であるとの主張を前提として,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,このような技術常識に基づいて容易に想到し得たものであると主張し,審決がこれらの構成の容易想到性を否定した判断は誤りであると主張する。また,原告は,審決が,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等を証拠として採用しなかったことは誤りであると主張する。しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することはできない。
すなわち,本件無効審判においては,甲1ないし8に記載された公知技術に基づく容易想到性が無効審判の請求の理由とされていた。他方,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等は,仮にそれらに記載された技術が周知技術といえるものであったとしても,それらの内容に照らすと,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成の容易想到性を判断するに当たり,甲1ないし8に記載された公知技術を単に補うにとどまるものではなく,それとは別に,容易想到性を基礎付ける公知技術を示すものと解される。
そのため,本件無効審判においては,請求の理由の補正が許されない限り,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由を主張することは許されなかった。しかし,相違点4に係る訂正発明2の構成,相違点5に係る訂正発明3の構成は,本件訂正により追加,変更されたものではなかったから,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由を追加するとの無効審判請求の理由の補正は,訂正請求によって補正の必要が生じたものではなく,請求の理由の補正として許容される余地はなかった(特許法131条の2第2項1号参照)。したがって,本件無効審判においては,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由の判断をすることができなかったものであり,同旨の審決の判断に誤りはない。そして,本件無効審判において,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術に基づく進歩性欠如等の無効理由は審理判断されていないから,その無効理由を本訴において新たに主張することは許されない。
なお,甲13ないし15,18ないし30の特許公報等に記載された技術との対比における進歩性欠如等の無効原因は,本件無効審判とは別に,それらの無効原因に基づいて無効審判請求をした場合には,その無効審判において主張することができる。
6結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 知野明
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