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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成8ワ11205 判例 特許
平成17ワ5653不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成21ワ17204職務発明の対価請求事件 判例 特許
平成21ワ2208特許権侵害差止等請求事件 平成21ワ12412特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成9ネ3894 判例 特許
関連ワード 協議 /  有用性 /  実質的に同一 /  薬事法 /  後発医薬品 /  存続期間 /  延長登録 /  製造承認 /  特許発明 /  実施 /  侵害 /  設定登録 /  混同 /  変更 /  期間の延長 / 
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事件 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文


平成23年2月22日判決言渡 同日 判決原本領収 裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10423号,第1 0424号,第10425号,第104
26号,第10427号,第1 0428号,第1042 9号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成23年2月1日
判決
原 告 沢井製薬株式会社
原 告 シオノケミカル株式会社
原 告 大正薬品工業株式会社
原 告 大洋薬品工業株式会社
原 告 東和薬品株式会社
原 告 日医工株式会社
原 告 日本薬品工業株式会社
原 告 株式会社陽進堂
原告ら訴訟代理人弁護士 伊 原 友 己
加古尊温
弁理士 小谷悦司
小谷昌崇
戸田俊材
被 告 エーザイ株式会社
訴訟代理人弁護士 片 山 英 二
本多広和
弁理士 小 林 浩
日野真美
稲葉良幸
内藤和彦
山田 拓



訴訟復代理人弁護士 根 本 浩
弁理士 上 野 さ や か
主文
原告らの各事件請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 原告らが求めた判決
特許庁が無効2008?800238号 事件,無効2008?800239号事
件,無効2008?800240号事件, 無効2008?800241号事件,無
効2008?800242号事件,無効2 008?800243号事件,無効20
08?800244号事件の各事件につき ,平成21年11月25日にした各審決
を取り消す。
(本件訴訟の事件番号が順に上記審判 事件番号に対応する。)
第2 事案の概要
本件は,特許権の存続期間の延長登録に 対する無効審判請求を不成立とする審決
の取消訴訟である。争点は,本件延長登録 に先だってされた延長登録の理由となっ
た処分の対象物について特定された用途と ,本件延長登録におけるそれとが実質的
に同一であるか否か,である。
1 特許庁における手続の経 緯及び薬事法上の承認
(1) 本件延長登録と無効審判請求
被告は,昭和63年6月22日,名称を 「環状アミン誘導体」とする発明につい
て特許出願(特願昭63?153852号 )をし,平成8年11月7日に特許庁か
ら特許第2578475号として設定 登録を受けた(請求項の数6)。
被告は,平成19年11月22日に本件特許の存続期 間延長登録を出願し(20



07?700111号,700112号, 700113号,700114号,70
0115号,700116号,70011 7号),上記各出願につき延長の期間を
5年とする本件特許権の存続期間の延長登 録が平成20年6月25日にされたとこ
ろ(本件延長登録),原告らは,平成20 年11月7日,本件延長登録に対する無
効審判請求をした。
特許庁はこれらの請求を上記の出願番号 順に,無効2008?800238号事
件,800239号事件,800240号 事件,800241号事件,80024
2号事件,800243号事件,8002 44号事件として審理した上,平成21
年11月25日,いずれの事件についても 「本件審判の請求は,成り立たない。」
旨の審決をし,その謄本は平成21年 12月7日原告らに送達された。
(2) 先の延長登録
本件特許については,本件延長登録で理 由となった承認処分の対象で特定された
用途と実質的に同一の用途であると原告ら が主張する「軽度及び中等度のアルツハ
イマー型認知症における認知症症状の進行 抑制」をもって,承認処分の対象となっ
た物について特定された用途とし,その承認処分( 先の承認処分)を理由とする存続
期間延長登録が平成13年12月19日になされている (特願平11?70011
4号に基づく。2年11 月12日の期間延長)。
(3) 本件延長登録の理由となった処分
本件延長登録は,本件特許に係る発明の 実施について政令(特許法施行令)に定
める処分を受けることが必要であったとし て認められたものであり,その政令で定
める処分の内容は,次のとおり である(本件承認処分)。
・ 標題 医薬品 製造販売承認事項一部変更承認
・ 承認番号
700111号の出願につき211 00AMZ00662000号
700112号の出願につき211 00AMZ00663000号
700113号の出願につき219 00AMX01197000号



700114号の出願につき216 00AMZ00405000号
700115号の出願につき216 00AMZ00406000号
700116号の出願につき219 00AMX01198000号
700117号の出願につき213 00AMZ00373000号
・ 承認日 平成19年8月23日
・ 処分の対象となった物 塩酸ドネペジル
・ 処分の対象となった物について特定された用途
アルツハイマー型認知症における認知症 症状の進行抑制(ただし,軽度及び中等
度のアルツハイマー型認知症における 認知症症状の進行抑制を除く。)
・ 販売商品名
700111号の出願 につきアリセプト錠3?
700112号の出願 につきアリセプト錠5?
700113号の出願につき アリセプト錠10?
700114号の出願につき アリセプトD錠3?
700115号の出願につき アリセプトD錠5?
700116号の出願につき アリセプトD錠10?
700117号の出願につき アリセプト細粒0.5%
2 本件特許発明の要旨( 請求項1?6の記載)
【請求項1】
下記化学式で表される1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメト キシ?1?インダノ
ン)?2?イル〕メチルピペリジン又はそ の薬理学的に許容できる塩。(化学式は
省略)
【請求項2】
請求項1記載の1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメトキシ?1?インダノン)?
2?イル〕メチルピペリジン又はその薬理 学的に許容できる塩を有効成分とするア
セチルコリンエステラーゼ阻害剤。



【請求項3】
請求項1記載の1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメトキシ?1?インダノン)?
2?イル〕メチルピペリジン又はその薬理 学的に許容できる塩を有効成分とする各
種老人性痴呆症治療・予防剤。
【請求項4】
各種老人性痴呆症がアルツハイマー型老 年痴呆である請求項3記載の治療・予防
剤。
【請求項5】
1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメトキシ?1?インダノン)?2?イリデニ
ル〕メチルピペリジンを還元し,必要によ り造塩反応を行うことを特徴とする請求
項1記載の1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメトキシ?1?インダノン)?2?イ
ル〕メチルピペリジン又はその薬理学 的に許容できる塩の製造法。
【請求項6】
1?ベンジル?4?ピペリジンカルバルデヒドと 5,6?ジメトキシ?1?インダ
ノンを反応させて1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメトキシ?1?インダノン)?
2?イリデニル〕メチルピペリジンとし, 次いで還元し,必要により造塩反応を行
うことを特徴とする請求項1記載の1?ベンジル?4?〔(5,6?ジメトキシ?1
?インダノン)?2?イル〕メチルピペリ ジン又はその薬理学的に許容できる塩の
製造法。
3 審決の理由の要点
請求人(原告ら)は,本件延長登録が無効とされ るべき理由として,先の存続期
延長登録の理由となった処分(先の承認 処分)の対象となった物について特定さ
れた用途は,「軽度及び中等度のアルツハ イマー型認知症における認知症症状の進
行抑制」(先の用途)であり,これを効能 ・効果とする処分に基づいて当該延長登
録は認められたとした上で,先の用途と, 本件延長登録の理由となった処分(本件
処分)の対象となった物について特定され た用途(本件用途)である「アルツハイ



マー型認知症における認知症症状の進行抑制(但し,軽度 及び中等度のアルツハイ
マー型認知症における認知症症状の進行抑 制を除く。)」(実質的には「高度のア
ルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」)は,実質的に同一であ
り,本件延長登録は,本件特許発明実施 に特許法67条2項の政令で定める処分
を受けることが必要であったとは認められ ない場合の出願に対してされたものであ
ると主張する。
しかし,先の用途である「軽度及び中程 度のアルツハイマー型認知症における認
知症症状の進行抑制」と本件延長登録に係 る用途である「アルツハイマー型認知症
における認知症症状の進行抑制(但し,軽 度及び中程度のアルツハイマー型認知症
における認知症症状の進行抑制を除く。) 」(実質的には「高度アルツハイマー型
認知症における認知症症状の進行抑制」) は実質的に同一ではないから,本件延長
登録は,本件特許発明実施について安全 性の確保等を目的とする法律の規定によ
る許可その他の処分であって政令で定める ものを受ける必要がない場合の出願に対
してなされたものではない。
第3 原告ら主張の審決取消事由
特許法67条2項の「その特許発明につ いて・・・処分・・・を受けることが必
要である」との文言は,薬事法所定の承認 処分があったことをもって形式的に捉え
るべきではなく,薬事法14条1項の承認 の対象となる医薬品に関しては,物(有
効成分)と用途(効能・効果)の2つの観 点の異同につき処分を受けることが必要
であったか否かで判断されるべきであると ころ,審決には,本件承認処分と先の承
認処分の用途の同一性についての判断の誤 りがあるので,違法として取り消される
べきである。
1 「軽度及び中等度のアルツハイマー 型認知症」と「高度のアルツハイマー型
認知症」は,実質的には 同一の疾患であること
(1) 各種診断基準において,アルツハイマー 型認知症は,軽度,中等度,高度



と区分されることなく同一疾患 として取り扱われていること
認知症(dem entia)とは,発育過程で獲得した知能,記憶,判断力,理解力,抽
象能力,言語,行為能力,認識,見当識, 感情,意欲,性格などの諸々の精神機能
が,脳の器質的障害(原因疾患)によって 障害され,そのことによって独立した日
常生活・社会生活や円滑な人間関係を営め なくなった状態をいう。そして,認知症
の原因疾患は多種多様であり,認知症の原 因疾患が同一疾患でなければ特定の医薬
品について効能・効果が望めないから,そ の原因疾患を特定,診断することが医師
等に対して強く求められている。
アルツハイマー病は,認知症を引き起こ す数多くの原因疾患の1つであり,認知
症の原因疾患の診断基準として,WHOに よる国際疾病分類第10版(ICD?1
0)及びアメリカ精神医学会によるDSM ???TR(米国精神医学会診断統計便
覧第4版改訂版,DSM??の解説(Text)を最新の新しい知見を加えて大幅に改
訂(Revision)したもの) がある。これらICD?10,DSM???TRいずれ
の診断基準においても,アルツハイマー病 を原因疾患とする認知症はアルツハイマ
ー型認知症として,軽度及び中等度と高度 を区別せず同一疾患として取り扱われて
いる。アルツハイマー型認知症が軽度,中 等度,高度という区分によってそれぞれ
異なった疾患であるならば,ICD?10 ,DSM???TRにおいて,当然区別
されて取り扱われているはずのところ,そのような区別が全くされていないこと
は,いずれも同一の疾患であるからにほか ならない。軽度,中等度,高度といった
区分は,同一疾患であるアルツハイマー型 認知症の病期などを多数あるうちの特定
の評価スケールに基づいて区別した便 宜的なものにすぎない。
(2) アルツハイマー型認知症において は,軽度,中等度,高度の区別なく,同
一の特徴的な病理所見が認められること
アルツハイマー型認知症患者の脳組織の 病理学的所見として,老人斑,神経原繊
維変化,神経細胞の脱落が認められるが, これらの病理所見は,軽度,中等度,高
度の区別なく認められるアルツハイマー型 認知症の特徴的な病理所見である。アル



ツハイマー型認知症において,軽度,中等 度,高度の区別なく,同一の特徴的な病
理所見が認められることは,被告などの研 究者らによる雑誌論文等(甲25の1・
2,35,36の1・2,43)からも認 められる。すなわち,上記論文等によれ
ば,アルツハイマー型認知症においては, 老人斑,神経原繊維変化,神経細胞の脱
落という病理所見が疾患早期から現れ,緩 やかにかつ少しずつ進行していくもので
あり,そこには,軽度のみ,中等度のみ, 高度のみと区分されたものだけに認めら
れる特有・固有の病理所 見というものはない。
(3) アルツハイマー型認知症において, 軽度,中等度,高度の区別なく,同一
の特徴的な画像診断結果 が認められること
アルツハイマー型認知症の患者には,脳 組織の病理所見のみならず,画像診断結
果においても,軽度,中等度,高度の区別 なく同一の特徴的な脳の萎縮が認められ
る。
(4) アルツハイマー型認知症の病態は,軽度 ,中等度,高度などの区分によっ
て異なるものではなく, 同一のものであること
雑誌論文等(甲38の1,39,40) の記載によれば,アルツハイマー型認知
症の病態は,軽度,中等度,高度などの区 分によってそれぞれ異なるというもので
はない。また,被告作成の総合製品情報概 要?DI編?(甲9)の22頁8?9行
には,「本剤が,脳神経細胞の脱落抑制な ど,アルツハイマー型認知症の病態その
ものの進行に対して影響するかどうかにつ いて基礎的,臨床的検討はなされていな
い。」と記載されており,アルツハイマー型認知症の病態について,軽度,中等
度,高度にかかわらず,「脳神経細胞の脱 落抑制などアルツハイマー型認知症の病
態そのもの」と記載されている。審決は, 後記のとおり,病態と症状とを混同した
誤りがある。
(5) アルツハイマー型認知症は,進行性 ,連続性の疾患であり,その間に質的
変化が生じるものではないこと
アルツハイマー型認知症は,緩徐な発症 と持続的な認知機能の低下を特徴とする



進行性,連続性の疾患であり,その間に質 的変化が生じるものでないことは,先の
承認処分及び本件承認処分における審査当 局のアルツハイマー型認知症の捉え方に
も現れている。すなわち,先の承認処分に 係る審査報告書(甲5)添付の調査会に
おける審査概要に「効能・効果に関して, 本薬の効果はアルツハイマー型痴呆の治
療ではなく症状の進行を抑制するものであ ることから,効能・効果を適切な記載と
するよう検討を求めた・・・,効能・効果 に関連する使用上の注意に『本剤がアル
ツハイマー型痴呆の病態そのものの進行を 抑制するという成績は得られていない。
』と記載された。また,アルツハイマー型 痴呆以外の痴呆性疾患患者に投与されな
いよう明確に注意喚起するよう求めたとこ ろ,効能・効果に関連する使用上の注意
に『アルツハイマー型痴呆以外の痴呆性疾 患において本剤の有効性は確認されてい
ない』と記載された。」(13頁)と記載 されているとおり,先の承認処分では,
その対象が「軽度・中等度」のアルツハイ マー型痴呆であったにもかかわらず,審
査当局は,使用上の注意において,そのような限定を付すことを全く求めなかっ
た。審査当局が,アルツハイマー型認知症 について,軽度,中等度,高度によって
それぞれ異なった別疾患であると捉えてい たならば,使用上の注意において「本剤
が『軽度及び中等度の』アルツハイマー型 痴呆の病態そのものの進行を抑制すると
いう成績は得られていない」,「『軽度及 び中等度の』アルツハイマー型痴呆以外
の痴呆性疾患において本剤の有効性は確認 されていない」との注意喚起の記載をす
るはずであり,とりわけ後者については, 他の痴呆性疾患患者に投与されないよう
にするための注意喚起であるから,「軽度 及び中等度の」という制限を付記するは
ずである。
また,先の承認処分に係る審査報告書(甲5)添付の審査概要書(その2)に
は,「本薬はあくまでも対症療法薬である 。しかしながら,アルツハイマー型痴呆
は進行性の疾患であり,本邦ではアルツハ イマー型痴呆の中核症状に対する薬剤が
ない現状を考慮すると,本薬の臨床上の有 用性は存在すると考えた。」(16頁)
と記載されており,審査当局はここでも軽 度,中等度,高度の区別をしていない。



このような各記載からすれば,当局が, 先の承認処分時において,アルツハイマ
ー型認知症について,軽度,中等度,高度 によってそれぞれ異なる疾患ではなく,
いずれも同一の疾患であると捉えていたこ とが認められる。だからこそ,本件承認
処分における効能・効果の記載についても 「重症度に依らず」,「アルツハイマー
型認知症」と一括りとすること ができたのである。
加えて,アルツハイマー型認知症は,緩 徐な発症と持続的な認知機能の低下を特
徴とする進行性,連続性の疾患であり,そ の間に質的変化が生じるものでないこと
は,文献(甲31)の記 載からも認められる。
さらに,文献(甲41の1・2)に「重 症認知症患者の治療におけるドネペジル
の使用は増えており,」(甲41の1の2 頁,2の10頁)と記載されているよう
に,従前から,(塩酸)ドネペジルが高度 (重度)アルツハイマー型認知症患者に
も使用されていた事実があり,臨床試験に おいても,本件医薬品の治験データとし
て提出されている外国試験(外国324試 験)(甲3の18頁)において,中等度
と高度が一括りとして取り扱われている。 その上,先の承認処分によって保険診療
上認められた本件医薬品の適応範囲か否か の判断は,高度についてはその適応に含
まれていなかったことから,対象患者が中 等度か高度かの判定で決まるはずである
ところ,このような判定をどのような尺度 をもってどのように行うのか全く定めら
れていなかった。
(6) 小括
以上のとおり,アルツハイマー型認知 症において,「軽度及び中等度」と「高
度」という区分により異なった別疾患であ ることを裏付けるものはなく,各種診断
基準において同一疾患として取り扱われて いること,軽度,中等度,高度の区別な
く同一の特徴的な病理所見及び画像診断結 果が認められること,アルツハイマー型
認知症の病態が軽度,中等度,高度の区分 によって病態が異なるものではなく同一
のものであること,アルツハイマー型認知 症は進行性,連続性の疾患であるが,そ
の間に質的変化が生じて別疾患に転化する ものではないこと,軽度,中等度,高度





という区分は,同一疾患であるアルツハイ マー型認知症の経過(病期)を便宜的に
分けただけのものにすぎないこと,審査当局においても,先の承認処分時におい
て,アルツハイマー型認知症について,軽 度,中等度,高度によってそれぞれ異な
った別疾患ではなく,いずれも同一の疾患 であると捉えていたことが窺えることな
どからすれば,「軽度及び中等度のアルツ ハイマー型認知症」と「高度のアルツハ
イマー型認知症」とは,疾患としては実質 的に同一の疾患(「アルツハイマー型認
知症」という特定の同一疾患)であること は明らかである。軽度,中等度,高度と
いう区分や初期,中期,後期という区分な どは,同一疾患であるアルツハイマー型
認知症の経過(病期)を多数のうちの特定 の評価スケールによって便宜的に分けた
だけのものにすぎない。
2 「軽度及び中程度のアルツハイマー 型認知症」と「高度アルツハイマー型認
知症」の「症状」の相違をもって「病態」 が異なるとの誤った判断に基づいて,本
件医薬品の両者に対する効能・効果は 実質的に異なるとの判断をした誤り
審決は,評価スケールの1つであるFA STの区分に示された「症状」がアルツ
ハイマー型認知症の「病態」であるとして ,「症状」の相違をもって「病態」が異
なると判断し,「軽度及び中程度のアルツ ハイマー型認知症」と「高度アルツハイ
マー型認知症」を異なる「病態に基づいて 区別し得る実質的に異なる疾患である」
とし,さらに「医薬品の効能・効果とは当 該医薬品が適用される疾患をいうと理解
することが相当である」から,疾患が異な ることをもって「高度のアルツハイマー
型認知症における認知症症状の進行抑制」 は,「軽度及び中等度のアルツハイマー
型認知症における認知症症状の進行抑制」 と実質的に異なる効能・効果であると判
断したが,かかる判断は以下の 理由から誤りである。
(1) 前記のとおり,「軽度及び中等度のアル ツハイマー型認知症」と「高度の
アルツハイマー型認知症」とは,軽度,中等度,高度などという区分にかかわら
ず,疾患としては実質的に同一の疾患(「 アルツハイマー型認知症」という特定の
同一疾患)である。



また,処分(承認)の対象となった本件医薬品(アリセプト錠3?,アリセプト錠
5?,アリセプト錠10?,アリセプトD 錠3?,アリセプトD錠5?,アリセプ
トD錠10?,アリセプト細粒0.5%) は,後記のとおり,アセチルコリンエス
テラーゼ阻害剤であり,その作用機序との 関係では,アセチルコリン作動性神経細
胞の脱落が本件医薬品が効能・効果をもたらすアルツハイマー型認知症の主要な
「病態」であるといえる。そして,アルツ ハイマー型認知症は,「軽度及び中等度
のアルツハイマー型認知症」から「高度ア ルツハイマー型認知症」に進行する進行
性疾患であるから,「軽度及び中等度のア ルツハイマー型認知症」の病態も,それ
が進行した「高度アルツハイマー型認知症 」の病態も,本件医薬品との関係におい
て,アセチルコリン作動性神経細胞の脱落を病態とする点において同じであるか
ら,両者は病態に基づいて区別し得な い実質的に同一の疾患である。
よって,「軽度及び中等度のアルツハイ マー型認知症」と「高度のアルツハイマ
ー型認知症」とが疾患として実質的に同一 のものであり,本薬の薬理作用も同一の
ものである以上,「高度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑
制」と「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑
制」とは実質的に同一の 効能・効果である。
(2) 審決が,FASTの区分に示された「症 状」をもって「病態」としたのは
明らかに誤りである。
ア すなわち,アルツハイマー型認 知症の「病態」は,医学的には「症状」
とは異なる概念である。例えば,「脳神経 疾患ビジュアルブック」(甲38の1)
の196頁には,アルツハイマー病の項に おいて,「病態」のタイトルを付して,
「・アミロイド仮説:アミロイドβ(Aβ )タンパクという異常なタンパクからな
る老人斑(SP)の出現が病態の主体であ る。・そのほか,変性した神経原線維の
出現,アセチルコリン作動性神経細胞の顕 著な脱落により,脳細胞が急激に減少し
て脳が萎縮し,知能低下や人格崩壊が起こ る。」と記載され,別に「症状・臨床所
見」のタイトルを付して,「・前駆状態と しての軽度認知機能障害,・緩徐進行性



の近時記憶障害と時間や場所の失見当識が 主体,・後期には人格/行動変化,精神
症状が現れる。これらを認知症随伴心理行 動異常(BPSD)という。」と記載さ
れていることから,アルツハイマー型認知 症の「病態」は,「症状」とは異なる概
念であることがわかる。
また,「診断と治療」(甲43)の22 42頁左欄8行?右欄2行には,アルツ
ハイマー病の「病態」の記載からも,アル ツハイマー病の「病態」とは,医学的に
は,脳神経細胞の脱落等の脳の変化あるい はそれを引き起こす機序のようなものを
意味すると考えられ,アルツハイマー病の 「症状」とは別異の概念であることがわ
かる。
その他,アルツハイマー病の「病態」に ついて,同様の記載は,からだの百科事
典(甲39)やMedical Dictionary(甲40)等にみられる。
加えて,アルツハイマー型認知症の「病 態」が「症状」とは異質のものであるこ
とは,被告及び審査当局においても認識さ れている。すなわち,被告が作成した医
薬品インタビューフォーム(甲6)の13 頁11行?12行には「本剤はアセチル
コリンエステラーゼ阻害剤であり,コリン 作動性神経系の賦活によりアルツハイマ
ー型認知症の症状を改善することを目的と しており,病態そのものの進行を抑制す
る薬剤ではない。」と記載されており,ま た,被告作成の総合製品情報概要?DI
編?(甲9)の22頁8行?9行には,「 本剤が,脳神経細胞の脱落抑制など,ア
ルツハイマー型認知症の病態そのものの進 行に対して影響するかどうかについて基
礎的,臨床的検討はなされていない。」と記載されているとおり,被告は,「病
態」と「症状」の用語を区別して,それら 用語の意味を使い分けている。そして,
本件承認処分に係る審査の結果認められた 本件医薬品の効能・効果は,「アルツハ
イマー型認知症における認知症症状の進行 抑制」であるから,本件医薬品が進行を
抑制するという成績がない,脳神経細胞の脱落などのアルツハイマー型認知症の
「病態」は,本薬が進行を抑制するという 成績があるアルツハイマー型認知症の認
知症「症状」とは異質のものであることが ,被告にも認識されていることは明らか



である。審査当局も,先の承認処分に係る 調査において,「効能・効果に関して,
本薬の効果はアルツハイマー型痴呆の治療 ではなく症状の進行を抑制するものであ
ることから,効能・効果を適切な記載とす るよう検討を求めたところ,・・・・効
能・効果に関連する使用上の注意に『本剤 がアルツハイマー型痴呆の病態そのもの
の進行を抑制するという成績は得られてい ない。』と記載された。」(甲5,13
頁)として,従前から,「病態」と「症状 」の用語を区別して,それら用語の意味
を使い分けているのであり,審査当局にお いても,アルツハイマー型認知症の「病
態」が「症状」とは異質のもの であることは認識されて いるところである。
しかるに,審決は,アルツハイマー型認 知症の「症状」を「病態」であると判断
し,「症状」の相違をもって「病態」が異 なると判断したものであり,かかる判断
は明らかに誤りである。
イ そもそも,FASTなどの評価 スケールは認知症の有無及び程度(病状
の段階)を測るためのものに過ぎず,一義 的に確立確定されたものではなく,まし
て疾患を区別するためのものではない。す なわち,評価スケールというものは,特
定されたものが1つだけあるのではなく, 任意に多数存在しているものであり(甲
44の「目次」等参照),これらの評価ス ケールのうちどれを使っても同じ結論を
導き出すことができるというものではなく ,用いた評価スケールによってそれぞれ
導き出される結論は異なり,一義的な結論を導き出すことはできない。このこと
は,「これらの(FASTなどの:原告ら 注)知的機能検査法は,痴呆の疑いのあ
る老人のスクリーニングおよびその知的機 能の段階づけをすることができるが,痴
呆の診断はあくまでも臨床的診断基準に基 づき,医師によって慎重に行わなければ
ならないことを留意していただきたい。」 (甲44の冒頭の「利用にあたって」に
おける大塚俊男医師及び本間昭医師に よる記述)からも明らかである。
また,「高度」という用語自体,明確に 定義付けされているものではなく,数多
くある評価スケールのうち,どの評価法を 用いて,どの程度であれば,高度認知機
能障害というのかも定かではなく,認知機 能を評価するといってもどの評価法を用



いているかを含めて定められた方法がない のが現状である(甲22添付の添付資料
3)。
そして,評価スケールの1つであるFA STについても,アルツハイマー型痴呆
についてその「病期」をADLの障害の程 度によって分類したものにすぎないので
あって,そもそも疾患を区別することを目 的とするものでもなく,「内容の具体性
と一般性は一致しないことが多」く(甲4 4の62頁),「具体的な記述により重
症度の評価がしやすい一方,記述されてい る症状の経過と患者の経過とがつねに一
致するわけではないことを頭に入れて評価 を行う必要がある」(甲45)という程
度の評価スケールにすぎない。
したがって,FASTの区分を用いて, アルツハイマー型認知症について,ある
程度,病期(経過)を便宜的に区分するこ ととはできたとしても,それによって,
別疾患かどうかまで区別することなど到底 できるものではない。付言すれば,評価
スケールというものは,疾患を表すもので はなく,疾患の本質について何かを語る
というものでは全くないのである。
(3) 以上のとおり,評価スケールの1 つにすぎないFASTの区分に示された
「症状」をアルツハイマー型認知症の「病 態」であると誤った判断をし,それに基
づいて,「病態」が異なるから「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」と
「高度のアルツハイマー型認知症」が異な るとし,疾患が異なるから効能・効果が
異なるとした審決の判断が誤っ ていることは明らかである。
(4) なお,被告が,アルツハイマー型 認知症について,軽度及び中等度と高度
とが異なった別疾患であると主張すること は自己矛盾を含んでいる。すなわち,被
告においては,アルツハイマー病の終末期 患者の脳の病理学的知見,言い換えれば
「高度」の疾患の病理学的知見に基づき「 軽度及び中等度」に対する本件医薬品の
開発を開始しているところ,かかる経緯か らすれば,被告がアルツハイマー型認知
症について,軽度,中等度,高度の区分な くいずれも同一疾患として捉えていたこ
とは明らかであり,本事件において,アル ツハイマー型認知症について,軽度及び



中等度と高度とが異なった別疾患であると 主張すること自体に自己矛盾を含んでい
るといえる。
3 医薬品の薬理作用の異同にかかわらず「軽 度及び中等度のアルツハイマー型
認知症」と「高度のアルツハイマー型認知 症」に対する効能・効果は異なるとの判
断をした誤り
審決は,「軽度及び中等度のアルツハイ マー型認知症」と「高度のアルツハイマ
ー型認知症」が実質的に異なる疾患である との誤った判断に加えて,「医薬品の薬
理作用の異同にかかわらず,『高度のアル ツハイマー型認知症における認知症症状
の進行抑制』は,『軽度及び中等度のアル ツハイマー型認知症における認知症症状
の進行抑制』と異なる効能・効果である。」と判断したが(14頁27行?32
行),かかる判断は以下 の理由から誤りである。
すなわち,医薬品の効能・ 効果は,その医薬品の薬理 作用に基づく作用部位・
作用機序によってもたらされる。したがっ て,医薬品の効能・効果を対比するに際
しては,当該医薬品の作用部位との関係に おける疾患について,あるいは当該医薬
品の作用機序との関係における 症状について,対比する ことが不可欠である。
本件医薬品は,脳内コリン作動性神経系 の顕著な障害が認められているアルツハ
イマー型認知症において,アセチルコリン を分解する酵素であるアセチルコリンエ
ステラーゼを用量依存的に阻害することに より脳内アセチルコリン量を増加させ,
脳内コリン作動性神経系を賦活するという 薬理作用(作用部位・作用機序)を有す
る薬剤である(甲6,21頁5?8行)。 したがって,「軽度及び中等度のアルツ
ハイマー型認知症」と「高度のアルツハイ マー型認知症」は,本件医薬品によって
賦活可能な脳内コリン作動性神経系に広狭 の差があるにすぎず,その広狭の差に対
して,脳内アセチルコリン量を増加させて 脳内コリン作動性神経系の賦活を促進す
るために,アセチルコリンエステラーゼ阻 害剤である本薬を用量依存的に働かせて
いるのであり,両アルツハイマー型認知症 はともに同一の作用部位が本件医薬品に
よって賦活される点で実質的に 同一の疾患である。



また,本件医薬品は,上記のとおり,ア セチルコリンを分解する酵素であるアセ
チルコリンエステラーゼを用量依存的に阻 害することにより脳内アセチルコリン量
を増加させ,脳内コリン作動性神経系を賦 活するという作用機序を有する薬剤であ
る。したがって,本薬が脳内コリン作動性 神経系を賦活することにより進行抑制さ
れる「軽度及び中等度のアルツハイマー型 認知症における認知症症状」と,用量を
変えて同様に脳内コリン作動性神経系の賦 活を促進することにより進行抑制される
「高度のアルツハイマー型認知症における 認知症症状」とでは,実質的に,認知症
症状の進行抑制に寄与する脳内コリン作動 性神経系の賦活を促進するための用量を
変える差異があるにすぎず,両認知症症状 はともに,同一の作用機序に基づいて脳
内コリン作動性神経系が賦活されることにより改善されるといえる。言い換えれ
ば,両認知症症状の進行抑制効果はともに ,同一の作用機序から導き出せるもので
ある点で,また同一の薬理効果により必然 的に生じるものである点で,本件医薬品
の「軽度及び中等度のアルツハイマー型認 知症」と「高度のアルツハイマー型認知
症」に対する効能・効果 は実質的に同一である。
しかるに,審決は,本件医薬品の「薬理 作用の異同にかかわらず,本薬の効能・
効果が異なる」と判断しており,本件医薬 品の作用部位との関係における疾患につ
いて,また本薬の作用機序との関係におけ る認知症症状について何ら審理すること
なく,効能・効果(用途)が実質的に異な るとの誤った判断をしており,かかる判
断が誤りであることは明らかである。
薬事法所定の承認処分をもって特許 法上の用途(効能・効果)も異なるとの
判断をした誤り
審決は,「上記(5?2)において認定 したとおり,塩酸ドネペジルを有効成分
とするアルツハイマー型認知症症状の進行 抑制剤について,我が国においてはその
適用対象の患者の病態が『軽度及び中等度 』に対してのみ承認されていたが,日本
人の『高度』のアルツハイマー型認知症患 者を対象とした国内臨床試験の結果に基
づき,塩酸ドネペジルが『高度』の認知症 症状の進行抑制に対する有効性を示すこ



とが認められ,さらに,国内臨床現場に『 高度』のアルツハイマー型認知症の進行
抑制に使用できる薬剤を初めて提供する意 義が考慮され,効能・効果に『高度のア
ルツハイマー型認知症』における認知症症 状の進行抑制を追加する本件処分がなさ
れたのであるから,本件処分において,『 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知
症における認知症症状の進行抑制』と『高 度のアルツハイマー型認知症における認
知症症状の進行抑制』は,実質的に異なる 効能・効果であると認識されていたこと
は明らかである。なお,このことは,先の 承認処分後,承認された医薬品が薬価基
準に収載された際には,薬価基準の改正に 伴う留意事項として,『軽度・中等度ア
ルツハイマー型認知症患者』に適用した際 のみ保険適用がされると記載されている
ことと整合するものである。」(12頁3 5行?13頁14行)として,薬事法
定の承認処分である本件承認処分をもって ,特許法67条2項所定の処分であると
し,先の承認処分と本件承認処分とは特許 法上の用途(効能・効果)も異なると判
断した。
しかしながら,特許法上の用途(効能・ 効果)の同一性は,薬事法所定の承認申
請区分やそれに基づく承認の枠組みに基づ いて形式的に判断されるべきものではな
い。
本件承認処分に係る審査報告書(甲3) には,「本薬は,日本人高度アルツハイ
マー型認知症患者を対象とした国内 231試験において,SIB及びCIBIC Plusの二つの
主要評価項目で,ともに有効性が示された ことから,現行の軽度及び中等度と併せ
て,重症度に依らず認知症症状の進行を抑 制する効果を有すると判断した。したが
って,本薬の効能・効果から『軽度及び中 等度』の限定を削除し,本薬をアルツハ
イマー型認知症における認知症症状の進行 を抑制する薬剤と位置付けることは妥当
と考える。」(28頁2行?6行)と記載 されており,審査当局は,本件医薬品の
効能・効果に係る認知症症状の進行抑制効果が,重症度に依らないとの判断を示
し,本件承認に係る疾患を「アルツハイマ ー型認知症」に統一している。効能・効
果から重症度の限定を削除することは,そ の効能・効果に係る疾患名が同一である



と審査当局が認識していたからこそなされ たのであり,審査当局は,先の承認処分
に係る疾患名も,本件処分に係る疾患名も ,「アルツハイマー型認知症」である点
において同一であると認識していたことは 明らかである。加えて,「軽度及び中等
度のアルツハイマー型認知症」と「高度の アルツハイマー型認知症」の進行抑制効
果はともに同一の作用機序から導き出せる ものである点で,また同一の薬理効果に
より必然的に生じるものである点で,効能 ・効果は実質的に同一であることは前記
のとおりである。
したがって,特許法上の医薬用途として 対比すれば,先の承認処分における用途
と本件承認処分における 用途は同一である。
なお,審決は,薬事法所定の承認処分が なければ保険適用が受けられないことを
もって,実質的に異なる効能・効果である かのような判断をしているようである。
しかし,先の承認処分と後の処分において ,物(有効成分)と用途(効能・効果)
実質的に同一である場合に特許期間の登 録延長が認められるか否かについては,
「最初に薬事法14条1項による処分を受 けて,所定の有効成分,効能・効果を有
する医薬品について製造承認を得た特許権 者は,その有効成分,効能・効果を有す
る医薬品に関して,特定の品目に限ってで あれ,特許発明実施することができる
ようになっていたのであるから,同じ有効 成分,効能・効果の範囲内で,剤型,用
法,用量等の変更の必要上,再度処分を受 ける必要が生じたとしても,特許期間の
登録延長を認めることはできないというべ きである。」(東京高裁平成12年2月
10日判決[平成10年(行ケ)第362号],甲27の1)とされているとお
り,保険適用の有無は薬事行政にかかる諸 事情にすぎず,特許権存続期間延長登録
の可否とは無関係である。
よって,薬事法所定の承認処分である本 件処分をもって,特許法上の用途(効能
・効果)も異なるとした審決の判断が 誤っていることは明らかである。
5 審決が維持された場合に生じる弊害等
アルツハイマー型認知症は同一の病理学 的変化が連続して進行していくという進



行性,連続性の疾患であって,その進行に 伴って諸般の症状が進行するにすぎず,
同一患者における進行度の違いを病期で表 現しているにすぎないところ,病期を統
一的,画一的に区別できる客観的な方法は なく,先の承認処分及び本件承認処分に
おける「中等度」と「高度」の区別についても統一的,画一的な客観的手法はな
い。高度アルツハイマー型認知症に関し本件特許権の存続期間延長が認められる
と,軽度及び中等度アルツハイマー型認知 症に対してはいわゆる後発薬を使用でき
るが,高度アルツハイマー型認知症に対しては後発薬は使用できないことになる
が,上記のとおり,「中等度」と「高度」 の区別について統一的,画一的な客観的
手法がないことに照らすと,かかる事態は医療現場に混乱が生じさせるものであ
る。また,現場の医師からすれば,後発医 薬品の適用範囲内かを客観的に確認する
基準や方法がないことから,特許権侵害の 事態が生じるのを避けるため,やむを得
ず先発医薬品(すなわち被告製品であるア リセプト)を使用し続けざるをえなくな
り,このことは医療費抑制のための後発医 薬品推奨の社会的価値を無視してしまう
ことになる。加えて,先発医薬品が本件特 許権の効力の及ばない「軽度及び中等度
アルツハイマー型認知症」までも事実上独 占することを許容することになるが,こ
れは発明の奨励と存続期間満了後の第三者 の事業活動の事由との調和を図る特許制
度の趣旨に反するものである。進行性疾患 の病期の一部のみを便宜的に取り出して
の特許権の期間延長は認 められるべきではない。
第4 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告 ら主張の取消事由は理由がない。
1 用途の同一性は効能・効果の同 一性により判断されること
特許法は,同法67条2項の政令で定める処分の対象となった「物」及び「用
途」ごとに特許権の存続期間の延長登録の 出願をすべきであるという制度を採用し
ており,処分の対象となった「物」は「有 効成分」を,「用途」は「効能・効果」
を意味するものと解される(知財高裁平成 19年7月19日判決〔平成18年(行





ケ)第10311号〕,乙4)。
2 厚生労働省が新効能医薬 品として承認していること
医薬品の製造販売の承認については,薬 事法第14条の規定に基づき,これを製
造販売しようとする者から申請があった場 合に,申請に係る医薬品の成分・分量,
用法・用量,効能・効果,副作用等に関す る所要の審査を行った上で,厚生労働大
臣が品目ごとにその承認を与えることとさ れており,承認申請にあたっては,その
時点における医学薬学等の学問水準に基づ き,倫理性,科学性及び信頼性の確保さ
れた資料により,申請に係る医薬品の品質 ,有効性及び安全性を立証するための十
分な根拠が示される必要がある(薬食発第 0331015号「医薬品の承認申請に
ついて」,甲11の1頁)。そして,医薬 品医療機器総合機構(当局)は,申請に
係る医薬品の成分・分量,用法・用量,効 能・効果,副作用等に関する所要の審査
に必要な情報を精査して,申請に係る医薬品の申請区分(甲11別表2?
(1)),承認申請書に記載される「効能 ・効果」の記載について審査し,その妥
当性について判断する。ここで,申請に係 る医薬品は,上記別表に記載のように,
例えば(1)新有効成分含有医薬品,(2 )新医療用配合剤,(3)新投与経路医
薬品,(4)新効能医薬品,(5)新剤型 医薬品,(6)新用量医薬品,(7)剤
型追加に係る医薬品などに分類されるとこ ろ,本件処分に係る医薬品は「(4)新
効能医薬品」として審査され,承認された ものである。上記通知(甲11)によれ
ば,「(4)新効能医薬品」は,「既承認 医薬品等と有効成分及び投与経路は同一
であるが,効能・効果が異なる医薬品をいう」と定義されている。「新効能医薬
品」については,当局の専門の審査官が, 上記承認申請書に添付すべき資料(申請
資料)を精査した結果,既承認医薬品と効 能・効果が異なるものであるか否か調査
し,その新効能についての有効性を審査し ,その新効能について有効性が認められ
ると判断して初めて効能追加の一部変 更承認を得られるのである。
このように,本件承認処分においては, 当局の専門の審査官が,本件医薬品は既
承認医薬品である軽度及び中等度アルツハ イマー型認知症における認知症症状の進



行抑制と効能・効果が異なる「新効能医薬 品」として妥当であると判断し,有効性
・安全性に関する審査を行っているのであ るから,このような医薬品の審査におけ
る専門性を備えた担当官の判断を覆して, 本件承認処分の追加効能・効果が先の承
認処分の効能・効果と異なるものではない と判断することには無理がある。存続期
延長登録出願の審査に際して,医薬品の 製造販売承認を担当する当局の専門の審
査官の判断は尊重されるべきである。
審決は,本件承認申請に対する審査の経 緯を認定した上,これに基づき,「効能
・効果に『高度のアルツハイマー型認知症 』における認知症症状の進行抑制を追加
する本件処分がなされた」のであるから, 本件処分において,「軽度及び中等度ア
ルツハイマー型認知症における認知症症状 の進行抑制」と「高度アルツハイマー型
認知症における認知症症状の進行抑制」は ,実質的に異なる効能・効果であるとし
て認識されていたことは明らかである旨判 断している(13頁5?10行)。審決
は,当局の審査において「軽度及び中等度 アルツハイマー型認知症における認知症
症状の進行抑制」と「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑
制」が効能・効果が異なるものとして扱わ れ,本件医薬品の効能・効果にその「高
度アルツハイマー型認知症における認知症 症状の進行抑制」という新たな効能・効
果を追加することが承認されたことをもっ て,軽度及び中等度アルツハイマー型認
知症における認知症症状の進行抑制と高度 アルツハイマー型認知症における認知症
症状の進行抑制が実質的に異なる効能・効 果であると判断しているのであり,その
点に何ら誤りはない。
また,製造販売承認により医薬品の販売 は法的には可能となるものの,その医薬
品について薬価が決定され,「使用薬剤の 購入価格(薬価基準)」に収載されなけ
れば,保険給付の対象とならず,事実上, 当該医薬品を患者に施用したり処方した
りすることはできない(健康保険法第63 条,第64条,保険医療機関及び保険医
療養担当規則第19条,平成18年厚生労 働省告示第107号)。薬価収載された
際に記載される「効能・効果」は,製造販 売承認時の「効能・効果」そのものであ



るところ,塩酸ドネペジルの最初の承認の 際には,保険発第156号「薬価基準の
一部改正について」(甲18)の「?2 アリセプト錠3mg,同5mgの保険適
用上の取扱い等」の欄に「(1)効能又は 効果 『軽度及び中等度のアルツハイマ
ー型痴呆における痴呆症状の進行抑制』で あることから,軽度又は中等度のアルツ
ハイマー型痴呆であることが確認された患 者に対して使用した場合に限り算定でき
るものであること。」と記載された。上記 留意事項は,先の承認処分に係る医薬品
は高度アルツハイマー型認知症患者には保 険適用できないこと,すなわち,薬事法
上,軽度及び中等度アルツハイマー型認知 症と高度アルツハイマー型認知症とは別
の疾患として取り扱われていることの証左 である。審決も,上記の留意事項として
「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症 患者」に適用した際のみ保険適用がされ
ると記載されていることを,軽度及び中等 度アルツハイマー型認知症における認知
症症状の進行抑制と高度アルツハイマー型 認知症における認知症症状の進行抑制が
効能効果を異にすることの根拠として おり,その点に何ら誤りはない。
3 先の承認処分と本件承認処分の効能 ・効果は疾患の病態等を考慮しても異な
ること
広辞苑第5版(甲20)によれば,「病 態」は「?病気の容態。病状。?病的状
態」である。また大辞泉第1版(乙8)に よれば,「病態」は「?病気のぐあい。
病状。容態。?病的な状態」である。
そして,アルツハイマー型認知症の病態 (病気の容態,病状,病的状態,症状な
ど)は,例えば,米国で作成されたFAST(Functi onal Assessmen t Staging)に
よって評価されることが一般的であるとこ ろ(甲21),軽度アルツハイマー型認
知症の病態(病気の容態,病状,病的状態 ,症状など)は,FASTの段階4に相
当し,また,中等度アルツハイマー型認知症の病態(病気の容態,病状,病的状
態,症状など)は,FASTの段階5に相 当する。FASTにおいて特徴とされて
いる「夕食に客を招く段取りをつけたり, 家計を管理したり,買物をしたりする程
度の仕事に支障をきたす。」(軽度アルツ ハイマー型認知症),「介助なしでは適



切な洋服を選んで着ることができない。入 浴させるとき何度もなだめすかして説得
することが必要なことがある。」(中等度 アルツハイマー型認知症),といった健
常者であればできるはずの日常生活におけ る比較的複雑な判断を要する仕事に支障
をきたすというのが病態(病気の容態,病状,病的状態,症状など)である。一
方,高度アルツハイマー型認知症の病態(病気の容態,病状,病的状態,症状な
ど)は,FASTの段階6と7に相当する。高度アルツハイマー型認知症では,
(6-a)ボタンが掛けられないなどの不適切な着衣,(6-b)入浴に介助が必要,(6-c)
トイレの水を流せない,(6-d)尿失禁,(6 -e)便失禁,(7-a) 6語に限定された言語
機能の低下,(7-b)語彙は一つの単語となる,(7-c)歩行能力の喪失,(7-d)着座能
力の喪失,(7-e)笑う能力の喪失,( 7-f)昏迷および昏睡などといった病状,すなわ
ち生活に最低限必要な機能の障害が見られ る。このような高度アルツハイマー型認
知症の病態が,上記FASTの表に記載の 軽度及び中等度アルツハイマー型認知症
の病態と実質的に同一であると考える専門 医は皆無であるし,専門医でなくともア
ルツハイマー型認知症患者を診療する医師 においては,その病態の違いは容易に認
識できる。「軽度及び中等度アルツハイマ ー型認知症」と「高度アルツハイマー型
認知症」とは,病態において大きく異 なるというべきである。
審決は,上記病態の相違について正しく 認定した結果,本件承認処分に係る医薬
品の「効能・効果」は先の承認処分の「効 能・効果」と実質的に同一でないという
正しい判断をなしたものである。
また,軽度及び中等度,高度アルツハイ マー型認知症の全てについて,その病態
の変化を評価し,医薬の効能・効果を評価 するのに適する認知機能評価尺度は,今
もって存在しない。そのため,世界的にも ,軽度アルツハイマー型認知症,中等度
アルツハイマー型認知症及び高度アルツハ イマー型認知症で通して治験を行って,
医薬品の製造承認を得たという例はこれま で見られない。Aが,見解書(甲22)
において,「ADの薬効評価では,認知機 能検査と臨床像の変化を評価する全般臨
床評価の2つが主要評価項目として用いら れる。軽度・中等度ADあるいは高度A



Dを問わずに,認知機能の推移を評価でき る認知機能検査は国内外を問わず存在し
ない。その理由は,以下の通りである。A Dを含む認知症患者を対象として認知機
能検査を実施する際には,質問の意味を理 解し,課題を遂行できる能力が求められ
る。しかし,軽度・中等度AD患者に適し た課題は高度AD患者にとっては難し過
ぎ,質問の意味を理解できないため課題を 遂行できず,得られた結果に基づいて高
度ADの経過を評価することができない。 一方,高度ADに適した課題は軽度・中
等度ADでは容易すぎ,ほぼ全員が正解す るという結果となり,軽度・中等度のA
Dの経過を評価することができない。従っ て,単一の評価方法で,軽度・中等度A
Dと高度ADの両方を同時に評価すること はできない。」(6頁2行?11行),
「ADの病態が軽度・中等度であるか,高 度であるかを問わず,すべてのADにお
ける認知症症状の経過を評価することが可 能な,単一の評価方法は存在しない。従
って,軽度・中等度ADの評価に適した評価方法を用いて行った臨床試験の結果
を,高度ADを含む全範囲のADについて の効果であると推測することも科学的に
不可能である。したがって,1つの臨床試 験によって,軽度・中度ADにおける認
知症症状の進行抑制を効能・効果とし,か つ高度ADにおける認知症症状の進行抑
制を効能・効果とすることはできない。つ まり,軽度・中等度ADを対象とした臨
床試験結果を用いて得られた製造承認をも って,高度ADのそれを取得することは
科学的な観点から不可能といえる。」(6 頁19?26行)と述べているように,
軽度及び中等度アルツハイマー型認知症と 高度アルツハイマー型認知症とでは,そ
の病態の違いが大きすぎるために,共通の 評価方法によって適切に評価することが
できない。このような状況を考慮すれば, 審決が,FASTの評価スケールをもっ
て,軽度,中等度及び高度アルツハイマー 型認知症を別疾患と判断したことに何ら
誤りはない。
以上より,先の承認処分及び本件承認処 分に係る医薬品の適用対象となる疾患は
「病態」において全く異なるから,先の承 認処分に係る「効能・効果(用途)」と
本件承認処分に係る「効能・効果(用途) 」を仮に病態等を考慮して実質的に検討



したとしても,同一でないと解するの が妥当であり,審決に誤りはない。
4 「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知 症」と「高度アルツハイマー型認
知症」は,疾患としては実質的に同一の疾 患(「アルツハイマー型認知症」という
特定の同一疾患)であるとの主張につき
(1) 各種診断基準において同一疾患として取 り扱われているとの主張について
ア 原告らは,本件医薬品のインタ ビューフォーム(甲6)の「安全性(使
用上の注意等)に関する項目」において「 他の認知症性疾患との鑑別診断に留意す
ること」とあること(36頁),及び「効 果又は効能に関連する使用上の注意」欄
において「アルツハイマー型認知症以外の 認知症性疾患において本剤の有効性は確
認されていない」と記載されていること( 13頁)を取り上げて,患者の認知症の
原因疾患がアルツハイマー型認知症という 同一の特定疾患でなければ本薬について
効能・効果が望めないことを明らかにして いるとか,これらの記載は,認知症の原
因疾患について,他の原因疾患と見誤るこ となく,原因疾患を特定し診断しなけれ
ばならないことを強く裏付ける ものである。と主張する。
しかし,本件医薬品は,先の承認処分に より軽度及び中等度アルツハイマー型認
知症における認知症状の進行抑制に効果が あると認められ,本件承認処分によって
高度アルツハイマー型認知症における認知 症状の進行抑制に効果があると認められ
たことにより,結果的に,これらの疾患の 何れに対しても有効性が認められたもの
であり,その他の疾患に対しては臨床試験 が行われておらず,有効性は認められて
いない。前記の本件医薬品のインタビュー フォームの記載は,その点について注意
を促すものに過ぎず,その限りにおいて「 疾患を特定し診断」しなくてはならない
というにすぎない。上記インタビューフォ ームの記載は,何らアルツハイマー型認
知症が軽度・中等度・高度の区 別なく同一疾患であるこ との根拠とはならない。
かえって,上記インタビューフォームに おいては,軽度及び中等度アルツハイマ
ー型認知症と高度アルツハイマー型認知症 は,それぞれに異なるものとして記載さ
れている。例えば,「2.用法及び用量」中の「(1)承認を受けた用法及び用



量」として,「高度のアルツハイマー型認 知症患者には,5mgで4週間以上経過
後,10mgに増量する。」,「(2)用 法及び用量に関連する使用上の注意」と
して,「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知 症患者を対象とした後期臨床第II
相試験において,…その結果,5mg群は 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知
症における認知症症状の進行抑制に有効であるが,・・ ・。」(甲6,13頁)な
どの記載がされており,軽度及び中等度ア ルツハイマー型認知症と高度アルツハイ
マー型認知症は,それぞれに異なる病態として捉えられていることが明らかであ
る。
イ また,原告らは,国連の専門機 関の1つである世界保健機構(WHO)
により統計の目的で作成された「疾病およ び関連保険問題の国際統計分類の第10
改訂版」(ICD?10,甲32)及び米 国精神医学会診断統計便覧第4版改訂版
(DSM???TR,甲33)を挙げて, これらの診断基準のいずれもが,アルツ
ハイマー型認知症について,軽度,中等度 ,高度を区別していないことをもって,
これらの疾患が同一疾患として扱われ ているのだと主張する。
しかし,認知症の原因疾患というのは, それぞれに見られる脳病理組織所見や症
状によって認知症を分類しているものにす ぎず,その「原因」を取り除くことによ
って認知症が治癒するという ようなものではない 。した がって,原因疾患の診断
基準が必ずしも治療法を異にする認知症の 種類を規定するわけではない。また,分
類というものは,ある時点で世界をみる一 つの方法にすぎず(甲32,11頁18
行),どのような基準でもって,何をどの 程度細かく分類するかということは,そ
の分類の使用目的や効率などに照らして決 められるべきものである。したがって,
ある分類において,アルツハイマー型認知 症の軽度,中等度,高度をそれぞれ区別
していないからといって,特許存続期間延 長登録に関して,これらが同一の疾患で
あると判断されるべき理 由にはならない。
高度アルツハイマー型認知症は,前記の とおり,薬事法において効能・効果が既
存の「軽度及び中等度アルツハイマー型認 知症」とは異なると認められたものであ



り,「病態」の全く異なる別の疾患である 。したがって,「軽度,中等度,高度な
どという区分は同一疾患であるアルツハイ マー型認知症の病期などを多数あるうち
の特定の評価スケールに基づいて区別され た便宜的なものにすぎない」との原告ら
の主張は失当である。
(2) 同一の特徴的な病理所 見が認められるとの主張について
原告らは,アルツハイマー型認知症とい う特定疾患では,老人斑,神経原繊維変
化,神経細胞の脱落という病理所見が,疾 患早期から現れ,緩徐にかつ少しずつ侵
していくものであり,そこには,軽度のみ ,中等度のみ,高度のみなど区分された
ものだけに認められる特有・固有の病理所 見というものはなく,軽度,中等度,高
度によってアルツハイマー型認知症がそれ ぞれ異なった別疾患であるというには無
理があると主張する。
しかし,老人斑は,アルツハイマー病だ けでなく,老化に伴い非認知症脳に出現
することも知られている。神経原線維変化 も加齢に伴って出現し,アルツハイマー
病への疾患特異性は低い。また,死亡後の 脳を解剖検索した結果,生前にアルツハ
イマー型認知症の症状があった人の脳に, 老人斑や神経原線維変化が見られること
が多いことは知られており,老人斑,神経 原線維変化,神経細胞脱落などの病理所
見とアルツハイマー型認知症の病状には相 関がみられることは事実であるが,一方
で,個々の例について見る場合には,老人 斑,神経原線維変化,神経細胞脱落など
の病理所見と生前のアルツハイマー型認知 症の病状が一致しない例も見られる。こ
のため,老人斑や神経原線維変化がアルツ ハイマー型認知症とどのような関係があ
るのかについては,結局,まだ明らかにな っていないというべきである。そして,
老人斑,神経原線維変化,神経細胞脱落な どの病理所見と,アルツハイマー型認知
症との関係は明らかではないのであるから ,軽度,中等度,高度アルツハイマー型
認知症が異なる疾患であるか否かについて は,病状,病態に注目して疾患の異同を
論ずるべきである。老人斑,神経原線維変 化,神経細胞脱落などの病理所見をもっ
て,軽度,中等度,高度アルツハイマー型 認知症が同一疾患であると断ずる原告ら



の主張は失当である。
なお,原告らは,被告の研究者らによる 雑誌論文(甲35,甲36の1・2,甲
25の1・2,甲43)に,アルツハイマ ー型認知症において,軽度,中等度,高
度の区別なく,同一の特徴的な病理所見が 認められることが記載されているかのよ
うに主張するが,誤りである。何れの論文 も,アルツハイマー病では,神経細胞の
脱落などの病理所見が見られると述べるに とどまり,軽度,中等度,高度アルツハ
イマー型認知症がそれぞれ異なる疾患 であることを否定していない。
(3) 同一の特徴的な画像診断結果 が認められるとの主張について
原告らは,アルツハイマー型認知症の患 者には,画像診断結果においても,同一
の特徴的な脳の萎縮まで認められるのであ り,そこには,軽度のみ,中等度のみ,
高度のみなど区分されたものだけに認めら れる特有・固有の画像診断結果はないと
主張する。
しかし,神経細胞の萎縮と数の減少は, 画像検査によって正確に把握することは
難しく,アルツハイマー病の病態解明の主役にはなっていない。X線CT,MR
I,PET,SPECTなどの画像検査に ついてはいずれも決定的なものはなく,
アルツハイマー型の可能性が高いという範 囲での判断がなされるにすぎない。前記
のとおり,そもそも軽度アルツハイマー型認知症,中等度アルツハイマー型認知
症,高度アルツハイマー型認知症において ,同一の特徴的な病理所見が認められる
とはいえないのであり,画像診断についても同様に,軽度アルツハイマー型認知
症,中等度アルツハイマー型認知症,高度 アルツハイマー型認知症において,同一
の特徴的画像診断結果が認めら れるという事実はない。
したがって,これらの疾患について,同 一の特徴的画像診断結果が認められるか
らアルツハイマー型認知症として同一疾患 であるとの原告ら主張には根拠がない。
(4) アルツハイマー 型認知症の病態の解釈について
原告らは,雑誌論文等の記載を参照して ,「アルツハイマー型認知症の病態は,
軽度,中等度,高度などの区分によって, それぞれ病態が異なるものではなく,同



一のものである」旨主張する。
しかし,ある言葉・用語は,狭義で用い られる場合も広義で用いられる場合もあ
り,使用する文脈によっても当然に意味が 異なる。「病態」という用語についても
同様に,使用者によって,また文脈に応じ て異なる意味で用いられることは常識で
ある。
また,原告らは,「病態」を「病態生理 」を意味するものと解しているようであ
る。「病態生理学」とは,人体の正常な機 能が異常をきたしたり,調節機能が破綻
して病気の身体機能の状態と破綻をきたす 原因を解き明かす学問であり(乙11,
12),疾患の原因を「病態生理」,「病 態」ということはある。しかし,本件に
おいては,この解釈は全く失当である。原 告らは,薬理作用を「脳内コリン作動性
神経系の顕著な障害(脱落:括弧内は被告 が追記)が認められているアルツハイマ
ー型認知症において,アセチルコリンを分 解する酵素であるアセチルコリンエステ
ラーゼを用量依存的に阻害することにより 脳内アセチルコリン量を増加させ,脳内
コリン作動性神経系を賦活する」作用と捉 えている。とすると,「病態」が「アセ
チルコリン作動性神経細胞の脱落(障害) 」で,「薬理作用」が「アセチルコリン
作動性神経細胞の障害治癒のためにアセチ ルコリンエステラーゼ阻害による脳内コ
リン作動性神経系の賦活」と解釈すること になり,「病態」と「薬理作用」の二方
向から疾患の同一性を比較検討すべきとこ ろ,両者ともに疾患のメカニズムの観点
から一方向の分析しかできなくなってしま う。疾患の同一性の判断において,その
疾患の原因となるメカニズムを検討すると しても,臨床的にその患者がどのような
病的な状態・病状・容態・症状を呈してい るかを観察することなく疾患の同一性を
判断することは適切でない。
したがって,その疾患のメカニズムから の同一性の検討は「薬理作用」の同一性
判断に任せるとすれば,「病態」は「病態 生理」すなわち疾患の原因ではなく,患
者の病気の容態,病状,病的状態,症状な どと解して,その疾患の臨床的な同一性
の検討も行うべきであり,本件事案におい て,「病態」は,患者の病気の容態,病





状,病的状態,症状などで把握 するのが妥当である。
(5) 進行性・連続性疾患であり, 質的変化がないという主張について
ア 原告らは,「アルツハイマー型認知症は,進行性,連続性の疾患であ
り,その間に質的変化が生じる(別疾患に 転化する)ものではない」と主張する。
しかし,アルツハイマー型認知症の場合 は,病態あるいは個々の病状が進行によ
って顕著に変化するものであり,病態の相 違から異なる疾患と判断できる以上,こ
のような主張は失当である。
また,原告らは,アルツハイマー型認知 症が進行性,連続性の疾患であり,その
間に質的変化が生じる(別疾患に転化する )ものでないことは,先の承認処分及び
本件承認処分における審査当局のアルツハイマー型認知症の捉え方にも現れてお
り,先の承認処分に際して,効能・効果に 関連する使用上の注意に,?本剤がアル
ツハイマー型痴呆の病態そのものの進行を 抑制するという成績は認められていない
ことと,?アルツハイマー型痴呆以外の痴 呆性疾患において本剤の有効性は確認さ
れていないことが記載されたが,「軽度及 び中等度」との記載が付されなかったこ
とから,審査当局が,先の承認処分時において,アルツハイマー型認知症につい
て,軽度,中等度,高度によってそれぞれ 異なった別疾患ではなく,いずれも同一
の疾患であるととらえていたことが優 に認められると主張する。
しかし,この主張は意味不明である。先 の承認処分における効能・効果として,
例えば添付文書に「軽度及び中等度のアル ツハイマー型認知症における認知症症状
の進行抑制」と記載されている以上,「使 用上の注意」の欄に,わざわざ「軽度及
び中等度の」アルツハイマー型認知症以外 の認知症性疾患において本剤の有効性は
確認されていない,などと記載する必要は 全くない。この注意書きの記載は,本薬
がアルツハイマー型認知症の症状の進行を 抑制するものであることと,適用対象が
アルツハイマー型認知症である旨注意 を喚起したものにすぎない。
なお,審査当局の判断という点でいえば ,前記のとおり,塩酸ドネペジルの最初
の承認の際に薬価基準に効能・効果に関する留意 事項が付記されており(甲1



8),それによれば,先の承認処分に係る 医薬品は高度アルツハイマー型認知症患
者には保険適用できないこと,すなわち, 薬事法上,軽度及び中等度アルツハイマ
ー型認知症と高度アルツハイマー型認知症 とは別の疾患であり,高度アルツハイマ
ー型認知症については,軽度及び中等度ア ルツハイマー型認知症とは別途薬事法
の許可を受ける必要があったと いうことが明らかである。
イ 次に,原告らは,文献(甲31 )の「ここでは便宜的に経過を「初期」
「中期」「後期」と3期に分けましたが, 実際にはこのようにきちんと分けられる
ものではありません。あくまで大まかな分 類にすぎませんが,介護者が問題点を認
識し,将来の介護計画を立てるうえでの参 考になるはずです」との記載(12頁)
を持ち出し,上記の区分などは,同一疾患であるアルツハイマー型認知症の経過
(病期)を便宜的に分けただけのもの にすぎないと主張する。
しかし,上記文献(甲31)には,上記 記載の直後に,「初期の症状」,「中期
の症状」,「後期の症状」それぞれの具体 的症状が明確に記載され,各期における
病態・病状・症状の相違が明確であり(乙 13),これらの症状はおおよそFAS
Tの区分による説明に該当するものである 。つまり,上記文献(甲31)は,アル
ツハイマー病,認知症などに罹患した患者 のいる家族に対するQ&A本という位置
付けにすぎず,臨床医などであればより明 確な区分(FASTなど)でより明確に
病態の相違を認識できるものである。
ウ さらに,原告らは,本件医薬品の 治験データとして提出されている外国試
験(甲3,18頁以降)において,中等度 と高度が一括り(同一疾患)として取り
扱われていると主張する。
しかし,かかる外国試験が実施された米 国では,当時,両者の評価スケールが臨
床試験時に存在したために,両者を対象と する臨床試験を実施できたにすぎない。
なお,米国においても,軽度及び中等度と 高度は別の効能・効果として承認が下り
ている(乙14,15)。日本において, 高度アルツハイマー型認知症の評価スケ
ールがはじめから存在していれば,軽度, 中等度及び高度において同時に臨床試験



をすることが可能であり,その場合は,特 許が登録されていたにもかかわらず,高
度アルツハイマー型認知症の部分について のみその特許を実施できなかった期間が
生じることはなかったのである。さらに, 重症度を問わず,軽度・中等度・高度が
全て1つの疾患と認識されているのであれ ば,軽度及び中等度についての臨床試験
の結果に基づいて,高度も含めてあらゆる アルツハイマー型認知症について効能・
効果が認められるはずであるが,実際には そのような取り扱いはされなかった。つ
まり,先の承認処分にかかる臨床試験では ,軽度及び中等度しか認められなかった
ということは,軽度及び中等度と高度とは 別疾患,別の効能・効果であることの証
である。
そもそも,存続期間延長制度は,特許が 登録されているにもかかわらず,官公庁
の手続に時間がかかることによって生じる 侵食された期間を填補するための制度で
ある。本件は,高度アルツハイマー型認知 症についても承認を早く受けたかったに
もかかわらず,当時,高度アルツハイマー 型認知症についての評価基準の問題で臨
床試験及び承認申請ができず,その後遅れ て承認を受けたという,まさに侵食され
た期間に対する救済を施すべき 典型例であると考える。
参考のために付言すると,軽度と中等度 の評価スケールは本剤の臨床試験開始時
に存在したために,両者につき同時に臨床 試験を実施でき,同時に承認を得ること
ができたが,軽度と中等度においても,そ の病態・症状の相違は明確に区別できる
から,本来別疾患と考え るのが妥当である。
5 「症状」の相違をもって「病態 」が異なると判断した点につき
(1) 軽度及び中等度と高度とは実質的 に異なる疾患であると判断した点につき
原告らは,「・・・本薬は,後述するよ うにアセチルコリンエステラーゼ阻害剤
であり,その作用機序との関係では,アセ チルコリン作動性神経細胞の脱落が,本
薬が効能・効果をもたらすアルツハイマー 型認知症の主要な『病態』であるといえ
る。そしてアルツハイマー型認知症は,『 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知
症』から『高度アルツハイマー型認知症』 に進行する進行性疾患であることから,



『軽度及び中等度のアルツハイマー型認知 症』の病態も,それが進行した『高度ア
ルツハイマー型認知症』の病態も,本薬と の関係において,アセチルコリン作動性
神経細胞の脱落を病態とする点において同 じであるから,両者は病態に基づいて区
別し得ない実質的に同一の疾患 である。」と主張する。
しかし,前記のとおり,医薬品の適用対 象となる疾患の「病態」と「薬理作用」
の二方向から当該医薬品の用途の同一性を 比較検討すべきことを考えれば,そのよ
うな主張が誤りであることは明らかである 。疾患のメカニズムからの同一性の検討
は「薬理作用」の同一性判断に任せ,その 疾患の臨床的な同一性の検討は患者の病
気の容態,病状,病的状態,症状など の面から考えるべきである。
したがって,本件事案において,「病態 」は,患者の病気の容態,病状,病的状
態,症状などで把握するのが妥当であり, FASTに記載のような区分による病状
によって捉えられるものである。アセチル コリン作動性神経細胞の脱落は,FAS
Tに記載の症状を呈する原因という意味で,病態の原因ということができるもの
の,それを病態そのものと判断 するのは妥当でない。
(2) FASTの区分に示された「 症状」をもって「病態」とした点につき
ア 原告らは,アルツハイマー型認 知症の「病態」は,医学的には「症状」
とは異なる概念である旨主張する。
被告は,常に「病態」=「症状」であると定義・解釈をしているわけではない
が,辞典などを参照すればわかるように,「病態」=病気の容態,病状,病的状
態,症状などと解釈する のが一般的である。
原告らは,「病態」は,医学的には「症 状」とは異なる概念であるとして,各文
献(甲38の1,甲43,甲39,甲40 )を挙げているが,これらは何れも「病
態生理」の意味で「病態」を用いている例 であると思われる。「病態」が,文脈に
よってそのように用いられるからといって ,審決が「病態」を一般的な意味,すな
わち病気の容態,病状,病的状態,症状な どの意味で用いていることに何ら問題は
ない。



イ 次に,原告らは,アルツハイマ ー型認知症の「病態」が「症状」とは異
質のものであることは,被告にも審査当局 にも認識されていると主張するが,かか
る主張が成り立たないことは前 記のとおりである。
ウ 原告らは,「FASTなどの評 価スケールは認知症の有無及び程度(病
状の段階)を測るためのものに過ぎず,一 義的に確立確定されたものではなく,ま
して疾患を区別するためのもの ではない」旨主張する。
しかし,FASTはアルツハイマー型認 知症の評価スケールとして国際的に最も
広く使われているものであり,軽度,中等 度,高度アルツハイマー型認知症の病態
を知る上で有用な評価スケールである。実 際に,本件高度アルツハイマー型認知症
の臨床試験においても,高度アルツハイマ ー型認知症の患者を抽出する際にFAS
Tが用いられている(甲3,1 0頁19?20行)。
したがって,FASTの評価スケールを もって軽度,中等度,高度アルツハイマ
ー型認知症の区別をしたからといって,こ れらが別疾患であるとの認定に影響する
ものではない。特に,前記のとおり,専門 家である当局が,高度アルツハイマー型
認知症を,軽度及び中等度アルツハイマー 型認知症とは異なる効能・効果として,
本薬を新効能医薬品であると判断した 事実は尊重されるべきである。
エ さらに,原告らは,被告におい ても,「アルツハイマー病の終末期患者
の脳の病理学的知見に基づき,すなわち, 被告がいう『軽度及び中等度』とは異な
る『高度』の疾患の病理学的知見に基づき 」軽度及び中等度に対する本薬の開発を
開始したと主張し,被告が軽度及び中等度 と高度が別疾患であると主張すること自
体に自己矛盾があるなどと主張する。
しかし,前記のとおり,疾患の同一性を 医薬品の適用対象となる疾患の「病態」
又は「薬理作用」の同一性によって判断し て,軽度,中等度,高度のアルツハイマ
ー型認知症がそれぞれ別疾患であると捉え られることができる以上,上記原告らの
主張は失当である。
(3) 薬理作用の異同にかかわらず両効能・効果は異なるとの判断をした点に



つき
審決が「当該医薬品の薬理作用の異同に かかわらず」高度アルツハイマー型認知
症の認知症症状の進行抑制が軽度及び中等 度のそれと異なる効能・効果であると判
断したことに対し,原告らは「医薬品の効 能・効果は,いうまでもなく,その医薬
品の薬理作用に基づく作用部位・作用機序 によってもたらされる。従って,医薬品
の効能・効果を対比するに際しては,当該 医薬品の作用部位との関係における疾患
について,あるいは,当該医薬品の作用機 序との関係における症状について,対比
することが不可欠である 。」と主張する。
しかし,医薬品が適用される疾患が異な れば効能・効果が異なるのものであると
ころ,本件においては疾患が異なるから効 能・効果が異なると判断した審決は,薬
理作用の異同を判断しなかった ことにつき何ら誤りはない。
(4) 薬事法所定の承認処分をもって特許法上 の用途(効能・効果)も異なると
の判断をした点につき
原告らは,特許法上の用途(効能・効果 )の同一性は,薬事法所定の承認申請区
分やそれに基づく承認の枠組みに基づいて 形式的に判断されるべきものではない,
と主張する。
しかし,軽度及び中等度アルツハイマー 型認知症と高度アルツハイマー型認知症
が異なる疾患であることは前記のとおりで ある。原告らは,審査報告書(甲3)に
おいて,本件医薬品の効能・効果に係る認 知症症状の進行抑制効果が重症度によら
ないとの判断を示し,本件承認処分に係る 疾患を「アルツハイマー型認知症」に統
一したと主張するが,薬剤が重症度の異な る2つの疾患に対してともに有効である
ゆえに,両疾患に対する効能・効果を合わ せて当該薬剤の効能・効果と位置づける
ことは何ら不自然ではない。
また,原告らは,作用機序,薬理効果が 同一であるとして効能・効果が同一であ
ると主張するが,それまでの原告らの主張 を繰り返すものにすぎず,これらが失当
であることはすでに反論 したとおりである。



さらに,原告らは,保険適用に関する審 決の判断について言及するが,保険適用
の範囲が限定されていたことが疾患を異に し,効能・効果を異にすることの1つの
根拠と考えることに何ら 不合理な点はない。
5 原告らの主張する弊害につき
認知症専門医にとっては中等度アルツハ イマー型認知症と高度アルツハイマー型
認知症との区別は明確であり,専門医でな い医師も判断が難しい場合には,専門医
に相談するはずであるから,結局,中等度 アルツハイマー型認知症と高度アルツハ
イマー型認知症との区別は医療 現場において明確に区別 し得ないものではない。
また,原告らの懸念は,後発医薬品の効 能・効果が「軽度及び中等度アルツハイ
マー型認知症の認知症症状の進行抑制」, 先発医薬品の効能・効果が「アルツハイ
マー型認知症の認知症症状の進行抑制」と 異なることになった場合,現場の医師が
この違いを理解しようとせず,あるいは単 に利便性の理由から軽度及び中等度アル
ツハイマー型認知症の場合も高度アルツハ イマー型認知症の場合も一律後発医薬品
を利用しないことにしてしまうことにある と推測される。しかし,かかる懸念は情
報の徹底により大部分が解決するものであ る。軽度及び中等度アルツハイマー型認
知症であれば後発医薬品を処方することが 可能であり,高度アルツハイマー型認知
症についても,特許期間満了後は効能追加 申請が行われることを医師に十分知って
もらえばよいことである。
第4 当裁判所の判断
1 アルツハイマー型認知症について
(1) アルツハイマー型認知症の定義,罹患の 原因,病態(病態生理),症状等
に関し,下記のア?オの文献に記載さ れているのは次のとおりである。
ア 南山堂「医学大辞典第19 版」(甲29,40)
(ア) 「痴呆」の項目
発育過程で獲得した知能,記憶,判断力,理解力,抽象能力,言語,行為能力,認識,見



当識,感情,意欲,性格などの諸々の精神機能が,脳の器質的障害(原因疾患)によって障
害され,そのことによって独立した日常生活・社会生活や円滑な人間関係を営めなくなった
状態をいう。(以下略)
(イ) 「アルツハイマー型痴呆」の項目
初老期発症のタイプを最初に記載したアルツハイマー にちなんでアルツハイ
Alzheimer
マー病 ,高齢期発症のタイプを19世紀初頭のピネル以来の記載にならっ
Alzheimer disease
senile dimentia senile dementia of
て老年痴呆 ,あるいはアルツハイマー型老年痴呆
( )と称し,あわせてアルツハイマー型痴呆という。(以下略)
Alzheimer type SDAT
(ウ) 「アルツハイマー病」の項目
初老期発症のタイプを最初に記載したアルツハイマー にちなんでアルツハイ
Alzheimer
senile dementia of Alzheimer
マー病,高齢期発症のタイプをアルツハイマー型老年痴呆
( )と称し,あわせてアルツハイマー型痴呆という。初老期には,40歳代後半か
type SDAT
ら50歳代にかけ,高齢期では70歳代後半以降に発症し,記憶障害,意欲障害,判断障
害,失語,失行,失認,人格障害,感情障害,鏡現象,クリューヴァー・ビューシー症候群
などの症状が現れ,高度の痴呆に陥り,さらにてんかん発作や筋固縮
Kl ver-Bucy syndrome
などの神経症状が加わり,最後は失外套症候群を示し,寝たきりとなって死に至る脳の変性
疾患である。脳の病理変化としては,老人斑(アミロイドβタンパクの沈着),アルツハイ
マー神経原線維変化(神経原線維変化),神経細胞消失がみられ,病状の進行とともに病変
は高度となり,著名な脳萎縮(⇒脳萎縮症)をきたす。側頭葉内側部の海馬と側頭・頭頂・
後頭葉接合部に病変が強い。病態として,アミロイドβタンパク(⇒β?タンパク)の異常
かつ早期の沈着,神経細胞内のリン酸化タウタンパクの貯留が重要であり,またアセチルコ
リンなどの神経伝達物質の異常現象が背景にあることなどが明らかにされている。(以下略)
イ 融道男等監訳「ICD?10 精神および行動の障害?臨床記述と診断
ガイドライン?新訂版」株式会社医学書院,「F0 病状性を含む器質性精神障
害」のうち「F00 アルツハイマー病型 認知症」の項目 58頁?59頁,(甲
32)
アルツハイマー病は,原因不明の一次性脳変性疾患であり,特徴的な神経病理学的および
神経科学的所見を伴う。発症は通常潜行性であり,緩徐ではあるが着実に数年かけて進行す



る。その期間は2ないし3年と短いこともあるが,時にはかなり長いこともある。・・・
(中略)・・・
脳には以下の特徴的な変化が認められる。とくに海馬,無名質,青斑核,側頭?頭頂葉皮
質および前頭葉皮質におけるニューロン数の著明な減少。対になった螺旋状のフィラメント
から成る神経原線維のタングルの出現。主にアミロイドから成り,その発展において一定の
進行を呈する神経原性老人斑(嗜銀性)(しかし,アミロイドのない斑があることも知られ
ている)および顆粒空胞状の小体。また,コリンアセチル基転移酵素,アセチルコリン自
体,さらに他の神経伝達物質と神経調節物質の著しい減少といった神経化学的変化も見出さ
れている。
はじめに述べたように,臨床症状は上記の脳の変化に伴っている。しかし,両者は必ずし
も並行して進行するわけでなく,一方は明白に存在するが,他方はほんのわずかしか認めら
れないこともある。それにもかかわらず,アルツハイマー病は,しばしば臨床的な根拠だけ
から推定診断をくだすことができるような臨床症状をもっている。アルツハイマー病型認知
症は現在のところ不可逆的である。(以下略)
ウ 落合慈之「脳神経疾患ビジュア ルブック」株式会社学研メディカル秀潤
社,196頁(甲38の1)
1 認知症 アルツハイマー病
Unit
・疾患概念
緩徐進行性の記憶障害を呈し,老年期の認知症性疾患のなかで最大の要因を占める。頭
頂葉および海馬を含む側頭葉内側が侵されやすく,病理組織学的には,アミロイドβタン
パクが凝集した老人斑の出現と,異常リン酸化タウタンパクからなる神経原線維変化(N
FT)の出現,アセチルコリン作動性細胞の脱落(消失・減少)によって特徴づけられ
る。
・病態
●アミロイド仮説 アミロイドβ(Aβ)タンパクという異常なタンパクからなる老人斑
(SP)の出現が病態の主体である。
●そのほか,変性した神経原線維の出現,アセチルコリン作動性神経細胞の顕著な脱落に
より,脳細胞が急激に減少して脳が萎縮し,知能低下や人格崩壊が起こる。



・病状・臨床所見
●前駆状態としての軽度認知機能障害(MCI)
●緩徐進行性の近時記憶障害と時間や場所の失見当識が主体
●後期には人格/行動変化,精神症状が現れる。これらを認知症随伴心理行動異常(BP
SD)という。
・検査・診断・分類
●臨床診断は病歴や臨床像による。
●神経心理検査
●画像検査(MRI,SPECT,FDG?PET,アミロイドPET)
●脳脊髄液のバイオマーカー(アミロイドβ42タンパク,リン酸化タウタンパクなど)
●確定診断は剖検での病理組織(以下略)
エ 監訳朝田隆「痴呆症のすべてに答える」株式会社医学書院,12頁?1
3頁(甲31)
Q17 アルツハイマー病はふつうどのように進行するのですか。大体は同じようなも
のですか。
これは十人十色です。症状の進行速度はさまざまであり,以下に示す症状は代表的なも
のですが,これらが必ずみられるというわけでもありません。基本的には緩やかに進行し
ます。
ここでは便宜的に経過を「初期」「中期」「後期」と3期に分けましたが,実際にはこ
のようにきちんと分けられるものではありません。あくまで大まかな分類にすぎません
が,介護者が問題点を認識し,将来の介護計画を立てるうえでの参考となるはずです。
[初期の症状]
アルツハイマー病の初期症状は見過ごされがちで,医師や親族あるいは友人であっても
年齢相応とみなしてしまうものです。とてもゆっくりと発症するので,発症がいつである
かを厳密に決めるのは容易ではありません。具体的には次のような症状が出てきます。
・言語の面での支障
・記憶の障害,とくに記銘力(新たに覚えること)の問題
・時間感覚の悪さ





・知っているはずの場所で迷う
・・・(中略)・・・
[中期の症状]
病気が進行するとともに問題はより明らかとなり,日常生活のさまざまな面に支障をき
たすようになります。
・忘れっぽさが顕著になり,とくに最近の出来事や人の名前などで目立つ
・独立して,支障のない生活を営めない
・料理,掃除,買い物ができない
・ひどく依存的になる
・排泄,入浴,清潔保持などの面で介助が必要となる
・衣類の着脱にも介助が必要となる
・会話がさらに困難になる
・徘徊して行方不明になる
・・・(中略)・・・
[後期の症状]
この時期にはいわゆる寝たきりとなり全面的な介護が必要となります。(以下略)
オ 大塚俊男・本間昭監修「高齢者 のための知的機能検査の手引き」株式会
社ワールドプランニング,「Functional Assess ment Staging(FAST)」の項目
59頁?64頁(甲44)
この文献(甲44)によれば, (FAST)とは,アルツハ
Functional Assessment Staging
イマー型認知症についてADL(判決注:日常生活動作能力)の障害の程度によって分類し
たものであり,対象の日常生活機能を総合的に評価し,認知症の中でも特にアルツハイマー
型認知症の重症度を判定することを目的とした知的機能検査法である。FASTはアルツハ
イマー型認知症について,正常老化を含めて全部で7段階に病期が分類されており,段階4
以上の臨床診断及びFASTにおける特徴は以下のとおりである。
・段階4(中等度の認知機能低下)
臨床診断は「軽度のアルツハイマー型認知症」であり,FASTにおける特徴は「夕
食に客を招く段取りをつけたり,家計を管理したり,買物をしたりする程度の仕事でも



支障をきたす。」である。
・段階5(やや高度の認知機能低下)
臨床診断は「中等度のアルツハイマー型認知症」であり,FASTにおける特徴は
「介助なしでは適切な洋服を選んで着ることができない。入浴させるときにもなんとか
なだめすかして説得することが必要なこともある。」である。
・段階6(高度の認知機能低下)
臨床診断は「やや高度のアルツハイマー型認知症」であり,FASTにおける特徴は
「( )不適切な着衣,( )入浴に介助を要する。入浴を嫌がる。( )トイレの水を
ab c
流せなくなる。( )尿失禁,( )便失禁」である。
de
・段階7(非常に高度の認知機能低下)の臨床診断は「高度のアルツハイマー型認知症」
であり,FASTにおける特徴は「( )最大限約6語に限 定された言語機能の低下。
a
( )理解し得る語彙はただ一つの単語となる。( )歩行能力の喪失,( )着座能力
bcd
の喪失,( )笑う能力の喪失,( )昏迷および昏睡」である。
ef
(2) 上記文献記載によれば,アルツハイマー病とは,原因不明の一次性脳変
性疾患であって,認知症の原因疾患の1つ であり,脳の病理変化としては,アミロ
イドβ(Aβ)タンパクという異常なタン パクからなる老人斑(SP)の出現,変
性した神経原線維の出現,アセチルコリン 作動性神経細胞の顕著な脱落による脳細
胞の急激な減少による脳の萎縮などがある こと,アルツハイマー型認知症は,緩や
かにかつ不可逆的に進行し,初期・中期・ 後期,あるいは軽度・中等度・高度とい
った段階に分けられるこ とが認められる。
2 先の承認処分と本件承認処分におけ る軽度及び中等度アルツハイマー型認知
症並びに高度アルツハイマー型 認知症の違いについて
審決は,病態が異なることを根拠にして ,「軽度及び中等度のアルツハイマー型
認知症」と「高度アルツハイマー型認知症 」は病態に基づいて区別し得る実質的に
異なる疾患であるとし(各審決書13頁? 14頁),被告も同趣旨の主張をする。
しかし,前記のとおり,各種医学書籍は アルツハイマー病ないしアルツハイマー



型認知症を1つの疾患として扱い,それを 初期・中期・後期,あるいは軽度・中等
度・高度といった段階に分けて いることが認められる。
また,本件承認処分に係る医薬品製造販 売承認事項一部変更承認申請書(甲2の
4)に変更の内容及び理由として「本申請 は,高度アルツハイマー型認知症患者を
対象とした臨床試験の結果より,『効能又 は効果』について,重症度に関係なく軽
度から高度に至るアルツハイマー型認知症 全般の認知症症状の進行抑制に使用でき
ることとします。また,それに伴い『用法 及び用量』を高度アルツハイマー型認知
症患者では1日10?に増量するように変 更する一部変更承認申請です。」と記載
されており,本件承認処分に係る承認申請(本件承認申請)に関する審査報告書
(甲3)に「本薬は,日本人高度アルツハイマー型認知症患者を対象とした国内
231試験において,SIB及びCIBIC p1 usの二つの主要評価項目で ,ともに有効性を示
したことから,既承認の軽度及び中等度と 併せて,重症度に依らず認知症症状の進
行を抑制する薬剤と位置付けられるとした 機構の判断は,専門協議において支持さ
れた。」(33頁)と記載されていること に照らすと,被告及び審査当局(独立行
政法人医薬品医療機器総合機構)はアルツ ハイマー型認知症をその重症度に応じて
軽度,中等度及び高度に分けて いることが認められる。
そうすると,先の承認処分及び本件承認 処分における「軽度及び中等度のアルツ
ハイマー型認知症」と「高度アルツハイマ ー型認知症」は実質的に異なる疾患とい
うよりも,アルツハイマー型認知症という 1つの疾患を重症度によって区分したも
のであると認めるのが相当である。
そして,本件承認申請に係る審査報告書 (甲3)の10頁,16頁によれば,本
件承認処分のための国内臨床試験及び外国 臨床試験における被験者の選択基準とし
て,観察開始日(投与4週前)のFASTが6以上の者,観察開始日(投与4週
前)のMini-Mental State Examination(MMSE:簡易認知機能検査)が1ないし
12点であるといった条件を満たす50歳以上の患者とされていることに照らす
と,本件承認処分における高度アルツハイ マー型認知症はFASTが6以上という



条件を満たすアルツハイマー型認知症を前 提としていると解される。より具体的に
は,前記FASTの分類基準によれば,軽度アルツハイマー型認知症の場合,更
衣,排泄,食事といった日常生活の基本的 な立ち振舞いは問題がないものの,中等
度のアルツハイマー型認知症では基本的な立ち振舞いに問題がみられるようにな
り,やや高度・高度のアルツハイマー型認 知症では,日常生活の基本的な立ち振舞
いの多くに障害が認められ,日常生活を他 人の介助なしには行うことができない状
態になると認められ,かかる点において軽 度及び中等度アルツハイマー型認知症と
高度アルツハイマー型認知症に 差異があることを前提と していると認められる。
3 先の承認処分と本件承認処分におけ る本件医薬品の薬理作用について
(1) 下記甲3,6の報告書 及び文献には,以下の記載がある。
ア 本件承認申請に際して独立行政 法人医薬品医療機器総合機構が作成した
「審査報告書」(平成19年7 月10日付け)6頁(甲3)
申請者は,今回の効能追加にあたり,本薬が において幅広い用量範囲で用量依
ex vivo
存的に脳内 を阻害すること(既承認時申請 資料ホ?1?2),臨床上,アルツハイ
AChE
J.Neurochem
マー型認知症の重症度とコリン作動性神経障害の程度がよく相関すること(
),高度アルツハイマー型認知症でもコリン作動性神経活性は十分残存
64:749-760,1995
していること( )等から,本薬は臨床において高度を含む様々な
JAMA281:1401-1406,1999
程度のアルツハイマー型認知症に対する効果を有すると考えられると主張している。
機構は,申請者が上記公表論文を引用して説明したように,アルツハイマー型認知症の
重症度は 活性と相関があり,重症になるに伴い 活性が低下することも踏ま
AChE AChE
え,高度アルツハイマー型認知症では,軽度及び中等度より本薬を高用量投与しなければ
臨床的効果が得られない理由,及び本薬が有効性を示すと考えられるコリン作動性神経障
害の程度(限度)を薬理学的に考察するように求めた。
申請者は,以下のように回答した。アルツハイマー型認知症が重症化するほどコリン作
動性神経の脱落が高頻度に起こり,シナプス間隙でのアセチルコリン(以下 )レベル
ACh
が減少すると推察され,より高用量の 阻害剤を用いて を強く阻害し,シナプ
AChE AChE



ス間隙の レベルを上げる必要があると考えられる。・・・
ACh
イ 被告及びファイザー株式会社「 医薬品インタビューフォーム(2008
年7月改訂〔改定第17版〕」 13頁,21頁(甲6)
・? 治療に関する項目
1 効能又は効果
( ) 効能又は効果に関連する使用上の注意
2
2)本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は
得られていない。
(解説)
本剤はアセチルコリンセルテラーゼ阻害剤であり,コリン作動性神経系の賦括によ
りアルツハイマー型認知症の症状を改善することを目的としており,病態そのものの
進行を抑制する薬剤ではない。
・? 薬効薬理に関する項目
2 薬理作用
( ) 作用部位・作用機序
1
アルツハイマー型認知症では,脳内コリン作動性神経系の顕著な障害が認められ
ている。本薬は,アセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるアセチルコリン
エステラーゼ(AChE)を可逆的に阻害することにより脳内ACh量を増加さ
せ,脳内コリン作動性神経系を賦括する。
(2) 上記文献記載によれば,本件医薬 品の薬理作用は,軽度及び中等度アルツ
ハイマー型認知症,高度アルツハイマー型 認知症のいずれにおいても,アセチルコ
リン(ACh)を分解する酵素であるアセ チルコリンセルテラーゼ(AChE)を
可逆的に阻害することにより脳内ACh量 を増加させ,脳内コリン作動性神経系を
賦括する点では同じであり,高度アルツハ イマー型認知症患者に対してはより高用
量のAChE阻害剤を用いてAChEを強く阻害するために用量が1日10?に増量されて
いることが認められる。



4 本件承認処分に至る経緯
(1) 前記審査報告書(甲 3)には,以下の記載がある。
ア 審査報告書1頁 「記」の欄
[販売名]
?アリセプト錠 ,?アリセプト錠 ,?アリセプト錠 ,?アリセプト 錠
3mg 5mg 10mg D
3mg D 5mg D 10mg 0.5%
,?アリセブト 錠 ,?アリセブト 錠 ,?アリセプト細粒
[一般名]
塩酸ドネペジル
・・・(中略)・・・
[申請区分]
?? ( ) ( ) ( ) 新効能・新用量・剤型追加に係る医薬品(再審査期間中でない
:1- 4 , 6 , 7 -2
もの)
????? ( ),( ) 新効能・新用量医薬品
:1- 4 6
イ 審査報告書3頁 審査報告(1)「?. 1.起源又は発見の経緯及び外
国における使用状況等に 関する使用」の欄
塩酸ドネペジル(以下,本薬)は,エーザイ株式会社で開発されたアセチルコリンエステ
ラーゼ(以下, )阻害剤であり,本邦では,「軽度及び中等度のアルツハイマー型痴
AChE
呆における痴呆症状の進行抑制」を効能・効果として,平成 年 月 日に「アリセプト
11 10 8
錠 」及び「アリセプト錠 」が,平成 年 月 日に「アリセプト細粒 」が,
3mg 5mg 13 3 15 0.5%
平成 年 月 日に「アリセプトD錠 」及び「アリセプトD錠 」が承認されてい
16 2 26 3mg 5mg
る。今般,高度アルツハイマー型認知症患者を対象とした臨床試験成績等に基づき,対象
患者に高度アルツハイマー型認知症患者も加えた「アルツハイマー型痴呆における痴呆症
状の進行抑制」を効能・効果として,高用量投与のため「アリセプト錠 」及び「ア
10mg
リセプトD錠 」の剤型を追加する承認がなされた。なお,現時点で本邦において,
10mg
高度のアルツハイマー型認知症の効能・効果を有する薬剤は承認されていない。
ウ 審査報告書7?8頁 審査 報告(1)審査の概要の欄
機構は,以下のように考える。本申請効能が認められた場合,軽度から高度のアルツハ



イマー型認知症に適用されることになり,・・・病態が進行した高度のアルツハイマー型
認知症においてはこれまでの2倍量が投与されることとなるが,・・・安全性上の悪影響
の増加も懸念される。
エ 審査報告書31頁 審査報告( 1)「IV.総合評価」の欄
機構は,以上のような検討を行った結果,高度アルツハイマー型認知症の患者に対する
本薬 日投与の有効性は認められ,安全性についても,投与初期に 日及び 日
10mg/ 3mg/ 5mg/
を経て適切に増量することにより大きな問 題はないと判断した。 日の安全性に関す
10mg/
る情報を引き続き収集する必要はあるものの,国内臨床現場に高度アルツハイマー型認知
症の進行抑制に使用できる薬剤を初めて提供する意義はあり,本申請は承認可能と判断し
た。今回の効能追加により新たに必要となる注意喚起や製造販売後に必要な情報収集等に
関しては,専門協議における議論を踏まえ,最終的に判断したい。
オ 審査報告書33頁 審査報告( 2)「3.効能・効果について」の欄
( )高度アルツハイマー型認知症の効能追加について
i
本薬は,日本人高度アルツハイマー型認知症患者を対象とした国内 試験におい
231
て, 及び の二つの主要評価項目で,ともに有効性を示したことから,
SIB CIBIC p1us
既承認の軽度及び中等度と併せて,重症度に依らず認知症症状の進行を抑制する薬剤
と位置付けられるとした機構の判断は,専門協議において支持された。
(2) 上記審査報告書の記載によれば,日本では,本件承認処分前において,
?塩酸ドネペジルは軽度及び中程度のアル ツハイマー型認知症における認知症症状
の進行抑制を効能・効果として承認されて いたが,高度のアルツハイマー型認知症
における認知症症状の進行抑制を効能・効 果とする承認は塩酸ドネペジルに対して
だけでなくいかなる薬剤に対しても一切な されていなかったところ,?塩酸ドネペ
ジルの高度アルツハイマー型認知症患者を 対象とした臨床試験成績等に基づき,塩
酸ドネペジルについて,対象患者に高度ア ルツハイマー型認知症患者も加えた「ア
ルツハイマー型痴呆における痴呆症状の進 行抑制」を効能・効果とする本件承認申
請がなされ,?この申請が独立行政法人医薬品医療機器総合機構において審査さ
れ,高度のアルツハイマー型認知症では, これまでの2倍量が投与されることに対



して安全性上の懸念が示されたが,投与初期に3mg/日及び5mg/日を経て適切に増量
することにより大きな問題はなく,国内臨 床現場に高度アルツハイマー型認知症の
進行抑制に使用できる薬剤を初めて提供す る意義はあり,本件承認申請は承認可能
とされたところ,?日本人高度アルツハイ マー型認知症患者を対象とした国内臨床
試験において有効性を示したことから,塩 酸ドネペジルを重症度に依らず認知症症
状の進行を抑制する薬剤と位置づけること が,専門協議において支持され,?独立
行政法人医薬品医療機器総合機構は,本件 承認申請を承認して差し支えないとの最
終的な判断をしたことが認められる。
5 先の承認処分における用途と本件承 認処分における用途の同一性について
前記認定によれば,軽度及び中等度アル ツハイマー型認知症と高度アルツハイマ
ー型認知症との差異は,緩やかにかつ不可 逆的に進行するアルツハイマー型認知症
の重症度による差異であると解されるとこ ろ,塩酸ドネペジルが軽度及び中等度ア
ルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有 効かつ安全であることが確認されていた
としても,より重症である高度アルツハイ マー型認知症症状の進行抑制に有効かつ
安全であるとするには,高度アルツハイマ ー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジ
ルを投与し,その有効性及び安全性を確認 するための臨床試験が必要であったと認
められる。
そして,「用途」とは「使いみち。用い どころ。」を意味するものであり,医薬
品の「用途」とは医薬品が作用して効能又 は効果を奏する対象となる疾患や病症等
をいうと解され,「用途」の同一性は,医 薬品製造販売承認事項一部変更承認書等
の記載から形式的に決するのではなく,先 の承認処分と本件承認処分に係る医薬品
の適用対象となる疾患の病態(病態生理) ,薬理作用,症状等を考慮して実質的に
決すべきであると解されるところ,本件の ように,対象となる疾患がアルツハイマ
ー型認知症であり,薬理作用はアセチルコ リンセルテラーゼの阻害という点では同
じでも,先の承認処分と後の処分との間で その重症度に違いがあり,先の承認処分



では承認されていないより重症の疾患部分 の有効性・安全性確認のために別途臨床
試験が必要な場合には,特許発明実施に ついて安全性の確保等を目的とする法律
の規定による許可その他の処分であって政 令で定めるものを受ける必要があった場
合に該当するものとして,重症度による用 途の差異を認めることができるというべ
きである。
よって,本件においては,前記判示のと おり,疾患としては1つのものとして認
められるとしても,用途についてみれば, 先の承認処分における用途である「軽度
及び中等度アルツハイマー型認知症におけ る認知症症状の進行抑制」と本件承認処
分における用途である「高度アルツハイマ ー型認知症における認知症症状の進行抑
制」が実質的に同一であるといえないとし て,存続期間の延長登録無効審判請求を
不成立とした審決は,その判断 の結論において誤りはない。
6 原告らの主張する弊害について
先の承認処分と本件承認処分における「軽度及び中等度アルツハイマー型認知
症」と「高度アルツハイマー型認知症」の 区別については,前記の本件承認処分に
至る経緯に鑑みると,FASTが6以上の アルツハイマー型認知症を「高度アルツ
ハイマー型認知症」とすることを前提とし ていると解される。しかし,先の承認処
分及び本件承認処分においてアルツハイマ ー型認知症のうちの「軽度」「中等度」
「高度」について明確な定義や基準が示さ れていないこと,FASTはアルツハイ
マー型認知症を病期や重症度によって区別 する判定基準の1つにすぎないこと(甲
44)に照らすと,軽度及び中等度アルツ ハイマー型認知症に対してはいわゆる後
発薬を使用できるが,高度アルツハイマー 型認知症に対しては後発薬は使用できな
いことになるという事態が医療現場に混乱 が生じさせるものであるとの主張自体を
あながち理由のないもの とすることはできない。
しかし,この主張自体仮定的なものであ るし,また,基準が一義的に明確ではな
いにしろ,アルツハイマー型認知症が初期 ・中期・後期,あるいは軽度・中等度・



高度といった段階に分けられることは前記 のとおりである。そして,本件全証拠に
照らしても,被告が,本件特許権の存続期 間を延長するために,アルツハイマー型
認知症の病期の一部(高度アルツハイマー 型認知症)のみをことさら便宜的に取り
出して,軽度及び中等度アルツハイマー型 認知症とは別に臨床試験等を行ったとは
認められない。また,先の承認処分と後の 処分との間でその重症度に違いがあり,
先の承認処分では承認されていないより重 症の疾患部分の有効性・安全性確認のた
めに別途臨床試験が必要であった場合には ,その臨床試験等のために費やした期間
は特許存続期間が浸食されており,特許発 明の実施について安全性の確保等を目的
とする法律の規定による許可その他の処分 であって政令で定めるものを受ける必要
があった場合に該当すると解されるこ とは前記のとおりである。
そうすると,原告らの指摘する医療現場 に混乱が生じるおそれや先の承認処分と
本件承認処分のいずれもアルツハイマー型 認知症という点では用途が同じであるこ
とを理由にして,先の承認処分と本件承認 処分の用途が同じであるということはで
きない。
第5 結論
以上によれば,原告ら主張の 取消事由は理由がない。
よって原告らの請求を棄却すること として,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平





裁判官
真辺朋子
裁判官
田邉 実

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