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関連審決 不服2007-24241
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  創作性(創作) /  方法の発明 /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  手続違反 /  試行錯誤 /  着想 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10229号 審決取消請求事件
原告 SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン 合同会 社
訴訟代理人弁理士 松井光夫
同 村上博司
同 石渡保敬
同 小平哲司
被告 特許庁長官
指定代理人 藤村聖子
同 倉田和博
同 川本真裕
同 川上溢喜
同 紀本孝
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/12/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2007−24241号事件について平成22年6月9日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
全容
2第1請求主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成12年9月14日,発明の名称を「プラスチック成形品の成形方法及び成形品」とする発明について,特許出願(特願2000-280041号〔甲6の1及び2〕。出願人の名称は,組織変更前の当時の商号「日本ジーイープラスチックス株式会社」。)をしたが,平成19年7月31日に拒絶査定がされ,これに対し,同年9月3日,不服の審判(不服2007-24241号事件)を請求した。
特許庁は,平成22年6月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
2特許請求の範囲平成19年1月30日付け手続補正書(甲6の2)により補正された後の本件出願の明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】 最大径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形方法において,該熱可塑性樹脂を溶融して金型内部に射出する際の該金型の温度が,射出される熱可塑性樹脂の荷重変形温度より0〜100度高くなるように設定され,それによりゲートマークの発生が防止されることを特徴とする成形方法。」3審決の理由審決の理由の概要は,以下のとおりである。
(1) 審決は,特開平10-100216号公報(以下「刊行物1」という。
3甲1)に記載された発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)の内容,及び本願発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア刊行物1記載の発明の内容「ゲート11を有する金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形法において,溶融された熱可塑性樹脂を金型内部に射出する際の金型温度が,射出する熱可塑性樹脂の熱変形温度より0〜100度高くなるように設定され,高品質外観を有する射出成形品を得る方法。」(審決書2頁27行〜30行)イ一致点「ゲートを有する金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形方法において,該熱可塑性樹脂を溶融して金型内部に射出する際の該金型の温度が,射出される熱可塑性樹脂の荷重変形温度より0〜100度高くなるように設定された成形方法」である点(審決書3頁8行〜11行)ウ相違点「[相違点1]本願発明は,ゲートが『最大径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲート』であるのに対し,刊行物1記載の発明のゲートは径が不明である点。
[相違点2]本願発明は,『ゲートマークの発生が防止される』のに対し,刊行物1記載の発明は高品質外観を有するものの,ゲートマークの発生が防止されるか否かは不明である点。」(審決書3頁12行〜19行)(2)審決は,相違点に係る容易想到性について,次のとおり判断した。
「(相違点1について)射出成形の技術分野において,径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型は,従来周知の事項である(例4えば,特開平6-97695号公報の段落【0013】には『径0.8mm』のピンポイントゲートが記載され,特開平5-60995号公報の段落【0011】には『ゲート径は1.2mm』のピンポイントゲートが記載されている点等参照)。
そこで,刊行物1記載の発明を,最大径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用することの容易想到性について検討する。
刊行物1記載の発明の技術的課題は,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良を解消し,高品質外観を有する射出成形品を得ることである(上記記載事項(イ)参照)。
一方,ピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型で成形した成形品においても,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良が生じることは,従来周知の技術的課題である(例えば,特開平11-198190号公報の段落【0005】には『この種の射出成形用金型を用いて射出成形を行うと,ジェッティングといわれるヘビの跡のようなマークがつく。』と記載され,実願平4-48898号(実開平6-11380号)のCD-ROMの段落【0005】には『多数のピンポイントゲート4を介して成形を行った場合,樹脂の合流部分でウエルドライン7,8が発生することは避けられない。』と記載されている点等参照)。
そうすると,ピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型で成形した成形品において,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良を解消するために,刊行物1記載の発明を適用することは,当業者であれば容易に想到し得るものである。
また,ピンポイントゲート又はトンネルゲートの最大径を『0.1mm〜3mm』と特定した点については,上記のようにこのような径を有するピンポイントゲート又はトンネルゲートが通常使用されているものに比べ5て,特別な数値であるとは認められない点,及び該数値範囲の上下限値に格別顕著な技術的意義あるいは臨界的意義があるとは認められない点を考慮すると,当業者が通常の.創作能力を発揮してピンポイントゲート又はトンネルゲートの最大径の最適値を見い出したにすぎない。
してみると,刊行物1記載の発明を上記周知のピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用し,本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものである。
(相違点2について)上記相違点2について検討するに,『ゲートマークの発生が防止される』という発明特定事項は,上記相違点1に係る本願発明の構成を有するものであれば,当然に生じる事項(効果)であると認められる。
そうすると,上記相違点1において検討したとおり,刊行物1記載の発明をピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用することが容易に想到し得るものである以上,本願発明の上記相違点2に係る構成は,実質的な相違点ではない。
なお,審判請求人は,審判請求書の平成19年11月15日付けの手続補正書において〔以上の通りですから,『ウエルドライン』,『ジェッティング』,『ゲートマーク』の三つを『表面外観』と言う言葉でくくり,同じ発想で理解し,同じ工夫で解決されるであろうと考える当業者は居ないと思います。
直径の小さいピンポイントゲートやトンネルゲートを有する金型の使用において生じる『ゲートマーク』を解決する有力な方法は従来知られていません。この点でも,『ゲートマーク』は『ウエルドライン』,『ジェッティング』とは状況が異なります。〕(【請求の理由】を参照。)と主張している。
しかしながら,例え『ゲートマーク』が『ウエルドライン』,『ジェッ6ティング』とは状況が異なり,本願発明がゲートマークの発生防止という新たな技術課題や作用効果の認識に基づくものであるとしても,本願発明は刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用しただけの構成であることは,上記で検討したとおりである。
さらに,刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用することの動機付けとなる従来周知の技術的課題(ウエルドラインやジェッティング等の外観不良の解消)があり,その適用にあたり阻害要因となる格別の技術的困難性があるとも認められない。
よって,請求人の上記主張は採用できない。」(審決書3頁21行〜5頁12行)。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)理由不備(取消事由1),(2)手続違反(取消事由2),(3)相違点の看過(取消事由3),(4)容易想到性判断の誤り(取消事由4)がある。
(1)取消事由1(理由不備)審決は,刊行物1(甲1)を主引用例として,刊行物1記載の発明と本願発明との一致点及び相違点を認定している以上,刊行物1記載の発明に周知技術(審決指摘の甲2及び甲3,又は甲4及び甲5)を適用することの容易想到性を論理づけする必要があるのにもかかわらず,相違点1についての検討をする際には,周知技術(甲2及び甲3,又は甲4及び甲5)を主引用例として,これに刊行物1記載の発明を適用して本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの論理づけ,すなわち,主引用例を差し替えて論理づけをしている点で,理由不備の違法がある。
被告は,刊行物1記載の発明に周知の金型を適用しても,周知の金型に刊行物1記載の発明を適用しても,組み合わせた結果としての発明に差異はな7いから許される旨を主張する。しかし,審決の容易想到性に関する判断が適法であるか否かについての争点は,組み合わせることが容易であるとの論理が成り立つか否かであって,組み合わせた結果が同様の構成となるか否かではない。
(2)取消事由2(手続違反)審決が周知文献として摘示した特開平6-97695号公報(甲2),特開平5-60995号公報(甲3),特開平11-198190号公報(甲4),実願平4-48898号(実開平6-11380号公報)のCD-ROM(甲5)は,いずれも審査及び審判において示されたことがなく,原告は,これらに記載された周知技術に刊行物1記載の発明を適用することについて意見を述べる機会を与えられていないから,審判手続には,特許法159条2項で準用する同法50条に反する違法がある。
(3)取消事由3(相違点の看過)刊行物1は,ピンポイントゲート又はトンネルゲートに係る発明を記載したものではないから,審決の相違点1としては,「刊行物1記載の発明のゲートは径が不明である点。」のみならず,「刊行物1記載の発明のゲートがピンポイントゲート又はトンネルゲートではない点」をも相違点1に含めて認定すべきであったのに,審決は,ゲートの径のみを相違点として摘示し,刊行物1記載の発明がピンポイントゲート又はトンネルゲートではない点に係る相違点を看過した違法がある。
(4)取消事由4(容易想到性判断の誤り)ア仮に甲2及び甲3,又は甲4及び甲5記載の発明に刊行物1記載の発明を適用しても,次のとおり,本願発明の構成に想到することは容易ではない。
(ア)甲2記載の発明においては,その実施例をみると,金型温度が樹脂の荷重変形温度より低いか,又は著しく高いから,本願発明の構成に8想到することは容易ではない。
(イ)甲3記載の発明においても,金型温度が樹脂の荷重変形温度より低いから,本願発明の構成に想到することは容易ではない。
(ウ)甲4記載の発明は,ジェッティング(ヘビの跡のようなマークがつくこと)の問題を解決することを目的としている。しかし,ジェッティングは,ゲートから対面の金型の壁までの距離が比較的長い場合に発生するのに対し,ゲートマーク(光沢のムラ)は,ゲートからゲート裏側までの距離が短い(成形品が薄い)場合に限って起きるから,ジェッティングが発生する場合に刊行物1記載の発明を適用しても,もともとゲートマークは発生していないから,「それによりゲートマークの発生が防止されること」(本願発明の請求項1)とは無縁であり,本願発明の構成に想到することは容易ではない。
(エ)甲5記載の発明においては,ウェルドラインの問題を解決することを目的とする発明が開示されている。しかし,甲5記載の発明においては,仮にゲートマークが発生するとしても,それは操作パネルの裏側であるから,外観上の問題になることはない。したがって,刊行物1記載の発明を甲5記載の発明に適用してウェルドラインの発生を防止した時に自動的にゲートマークの発生を防止したとしても,その技術的意味はない。甲5にはゲートマークの概念も記載されていない。よって,甲5記載の発明に刊行物1記載の発明を適用しても本願発明の構成に想到することは容易ではない。
イ本願発明のゲートマーク(ゲート近傍の成形品表面に発生する光沢のムラ)の解決課題を提起したのは,本願発明が初めてであり(甲11),それを解決する手段も当然に従来から知られていなかったから,本願発明は,出願前に公知の発明から容易に想到することはできない。
すなわち,本願発明の発明者は,刊行物1記載の発明の発明者の1人で9あるが,刊行物1記載の発明(平成8年9月出願)から本願発明(平成12年9月出願)が単純に生まれたものではない。本願発明の発明者は,薄手の成形品を作るキャビティの端部ではなくて中央部にピンポイントゲートを持つ金型によって成形すると,ゲートと反対の側に2〜10mmほどの大きさの光沢異常が生じるという解決課題が存在することを発見した(本願発明以前には公知になっていない。)。その光沢異常には2種類あり,1つは他の場所に比べて光沢がある場合であり,もう1つは他の場所に比べて光沢がない場合である。これら2種類の不良現象の発生を解消するべく,種々の試行錯誤を行った。その結果,いずれも溶融樹脂が極めて狭いゲートを通過するときのせん断発熱が主原因になっていると考えた。すなわち,これらのゲートは他のゲートに比べてゲートの面積が極端に小さいために,太いランナーを通じて流れて来た溶融樹脂は,徐々に樹脂温度が下がり溶融粘度が高くなった樹脂が,この狭いゲートを通過するときに一気に流速が上がり(断面の径が1/4になれば,流速は16倍になる)非常に高いせん断が発生すると考えられる。ゲート裏面が他の場所に比べて光沢がある場合には,比較的肉厚の薄い成形品を速い射出速度で成形した場合,ゲート通過時のせん断により樹脂が発熱し,ゲート通過後もキャビティの肉厚が薄いので急激な体積膨張も起こらず,樹脂温度が高いままゲートの反対側の金型表面に着座するため光沢がでると推定された。また,ゲート裏面が他の場所に比べて光沢がない場合には,上記と同じようにゲート通過時に発生するせん断により樹脂が発熱し,この発熱で低分子量(モノマー)物質が発生し,ゲート通過後キャビティに流れる段階で急激な体積膨張が生じ,樹脂内圧が低下することで減圧になり低分子量物質(ガス分)が表面に浮いた状態で溶融樹脂が金型に着座し,ガス分の凹凸が成形品表面に転写され,その凹凸が光を乱反射して光沢がないように見えるものと推定された。本願発明の発明者は,このせん断発熱に着目し,どのよ10うに成形を行えばせん断発熱を抑えることができるのかについて検討した。
せん断発熱を抑えるためには,いくつかの方法が考えられる。例えば,射出速度を遅くすることでせん断発熱は抑えられるが,射出速度を遅くすると溶融樹脂が流れる距離が短くなり金型全体への樹脂の充填ができなくなったり(ショートショット),また,ゲート部と流動末端部での樹脂内圧力に大きな差が生じてソリや変形が発生したり,充填時間が長くなって成形サイクル時間が長くなったりするといった問題点が生ずる。また,ゲート径を大きくすることにより,せん断発熱を抑える方法もあるが,ゲートカットの際,ゲートが切れにくくなり,切子が金型内部に残ったり,ゲートではなく成形品が切れてしまったりする問題点が生ずる。そこで,本願発明の発明者は,ゲート通過時の溶融粘度を低いまま(樹脂温度が高い状態)に維持できればせん断発熱を抑えることができることを着想した。すなわち,溶融樹脂を金型キャビティに射出する際,金型温度を成形樹脂の荷重変形温度以上に保つことにより,溶融樹脂は成形機のノズルからゲートまでの間に冷やされることなく低い溶融粘度を維持したままゲートを通過することができ,溶融粘度が低いことにより樹脂の流れがスムーズになり,せん断発熱を極力抑えることができることを着想した。その結果,新たな問題点が発生することもなく,ゲートマークという従来知られていなかった外観不良を解消することに成功した。
なお,ジェッティング又はウエルドラインの解消という課題は,ゲートマークの解消という本願発明の課題に直接結びつくものではない。審決が甲4及び甲5のジェッティング又はウエルドラインをゲートマークと結びつけることには,誤りがある。ジェッティング又はウエルドラインの問題と本願発明におけるゲートマークの問題とは,発生機序等において異なるから,成形品の外観上の欠陥である点において共通すると理解して,容易想到性を論ずることは,誤りである。射出成形という技術分野においては,11これらを同列に捉える当業者はいない。
以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用して容易に発明されるものではない。
2被告の反論(1)取消事由1(理由不備)に対し原告は,「本願発明は刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用しただけの構成である」との審決の文言から,審決では,主引用例が従来周知の事項であり,刊行物1が従たる引用例とされていると主張する。
しかし,審決は,刊行物1の記載から方法の発明として刊行物1記載の発明を認定し,本願発明と対比して一致点・相違点を明らかにした上で容易想到性の有無の判断を行っていると解されるべきであって,刊行物1が主引用例であることは明らかである。よって,従来周知の事項を主引用例にしているとの原告の主張は,失当である。
また,審決は,本願発明について,当業者が刊行物1記載の発明,及び,従来周知の金型に基づいて容易に発明をすることができたと判断したと解されるべきである。刊行物1記載の発明と上記従来周知の金型を組み合わせて1つの発明を構成するに当たって,刊行物1記載の発明を上記金型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に差異はないから,審決に,理由不備の違法はない。
(2)取消事由2(手続違反)に対しア甲2及び甲3は,「射出成形の技術分野において,径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型は,従来周知の事項である」(審決書3頁22行,23行)ことを示すために提示したものである。そして,周知の事項(周知技術)は,当業者にとっては例示する必要がない程よく知られている技術であり,当業者が出願当時,当然認識している事項であるから,発明が公知技術から容易に想到できた12ことを判断するに当たって,周知の事項(周知技術)につき,あらためて反論する機会を与える必要はない。なお,原告も,「径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型が,従来周知」であることを認めている(原告準備書面(1)10頁16行,17行)。
イ甲4及び甲5は,従来周知の技術的課題を示すために挙げたものであって,刊行物1記載の発明をこれらに直接適用するために提示したものではないと解されるべきである。さらに,審決は,「ゲートマークの解消」を,周知の技術的課題として認定したのではなく,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良を生じることを周知の技術的課題として認定した上,刊行物1記載の発明を従来周知の金型に適用することにより外観不良を解消し,その結果としてゲートマークも解消されると判断したと理解されるべきである。周知の事項(周知技術)については,あらためて反論する機会を与えなくとも,審判手続の不備はない。
ウまた,拒絶理由通知書(甲21)には「引用文献1又は2に記載の成形方法を,通常利用されているサブマリンゲート,ピンポイントゲートを利用した金型による成形方法に適用することに何ら困難性は認められない。」と記載されている。そして,審決にも「刊行物1(判決注:上記拒絶理由通知書における引用文献1)記載の発明を上記周知のピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用し,本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものである。」(審決書4頁19行〜21行)と記載されている。したがって,上記拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶した拒絶査定(甲24)と審決は,刊行物1に記載された方法を主引用例として,当該主引用例と本願発明との相違点が,当該方法を周知の金型に適用して容易に想到し得るとした論理構成において共通する。よって,原告には意見を述べる機会が与えられて13おり,手続違反に係る原告の主張は,理由がない。
(3)取消事由3(相違点の看過)に対し 仮に,審決が,相違点として,刊行物1にピンポイントゲート及びトンネルゲートの記載がない点を摘示しなかったことに,正確性を欠く点があったとしても,審決は,相違点1として,本願発明の「ピンポイントゲート又はトンネルゲート」の構成を含めていると合理的に解される。また,審決は,相違点1に係る容易想到性の判断において,刊行物1にピンポイントゲート及びトンネルゲートの記載がないことを前提としている。よって,審決は,刊行物1にピンポイントゲート及びトンネルゲートの記載がない点を看過していないと解されるべきであり,審決のした相違点1の認定に誤りはない。
(4)取消事由4(容易想到性判断の誤り)に対し ア審決に周知の事項の根拠として挙げた甲2及び甲3は,「射出成形の技術分野において,径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型自体が周知であること」を示すためのものであって,本願発明の金型温度が示された引用文献として提示したものではない。審決は甲2及び甲3に記載された成形方法を引用して本願発明の容易想到性を肯定したものではないから,甲2及び甲3に記載された成形方法と本願発明が相違するとの原告の指摘は,審決が容易想到性を肯定した点の誤りとなるものではない。
甲2及び甲3に刊行物1記載の発明を適用することが容易想到ではないとする原告の主張は,審決の内容を正確に理解したものでなく,その主張は理由がない。
イ審決は,「トンネルゲートを有する金型で成形した成形品においても,ジェッティングが生じる」という技術的課題が周知であることの例として甲4を挙げ,「ピンポイントゲートを有する金型で成形した成形品においても,ウエルドラインが生じる」との技術的課題が周知であることの例と14して甲5を挙げ,全体として,ピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型で成形した成形品においても,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良が生じることが,従来周知の技術的課題であることを示したものであると理解されるべきである。審決は,刊行物1に記載された方法を甲4又は甲5に記載された金型に適用して,本願発明が容易想到であると判断したわけではないと理解されるべきである。したがって,甲4又は甲5に記載された金型に,刊行物1記載の発明を適用して,本願発明が容易に想到できると審決が判断したと理解して,これを前提に,審決の判断が誤りであるとする原告の主張は,理由がない。
ウまた,刊行物1には,「本発明は,・・・特に,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良,無機フィラー充填材料に起因する外観不良を解消し,また,成形品肉厚が1.5mm 以下の薄肉成形に際して溶融樹脂の流動を向上する,高品質外観を有する熱可塑性樹脂の射出成形品を得る方法に関するものである。」(段落【0001】)と記載され,刊行物1記載の成形方法によれば,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良を解消することができるだけではなく,薄肉成形においても外観不良を解消し得ることが示唆されている。そして,刊行物1記載の方法には,ゲートの大きさや種類の違いによって適用を阻害するような事情はない。このように,刊行物1に,成形品の肉厚にかかわらず,温度制御をしていない金型では,ウエルドラインやジェッティング等の外観不良が生じることが示唆されていることに照らせば,当業者が刊行物1記載の発明の方法をピンポイントゲートなどのゲートを有する金型に適用する動機づけは十分存在していたということができる。また,本願発明は,刊行物1記載の発明において,金型のゲートの大きさと種類を特定したものにすぎず,それ以外の成形品の肉厚や熱可塑性樹脂の特性など,成形にかかわる条件を,刊行物1記載の発明と異なるものに特定したことによって特異な効果を得たも15のではない以上,その結果としてゲートマークという外観不良を防止できたとしても,当業者が予測できないような効果ではない。よって,本願発明の構成に想到することが容易ではないとする原告の主張は,理由がない。
エまた,原告は,「ゲートマーク」の文字を含む文献を検索した結果を証拠(甲11)として提出し,本願発明の意味のゲートマークの問題を提起したのは本件発明者が初めてであると主張する。しかし,それは,本願発明においては,従来と異なる意味で「ゲートマーク」の語を用いていることを示すにすぎない。本願発明の意味でのゲートマークの解決課題は,周知のピンポイントゲートを有する金型に内在する解決課題であって,原告も主張するように,無塗装で許容されないような外観の問題として表れるものであり,外観の不良として簡単に確認できる(甲10)。そうすると,本願発明によりゲートマークの課題解決を発見できたとしても,それは,刊行物1記載の成形方法を,周知のピンポイントゲートを有する金型に適用した場合に外観不良が表れなかったことを確認したというにすぎないのであって,予測困難なことではない。
オ樹脂の射出成形の金型に使用されるゲートには,その形状及び機能が異なる多種のものが存在することは周知である。そして,刊行物1記載の発明においても,目的とする射出成形に適した形状及び大きさを有するゲートが採用されていることが明らかであるところ,径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型は周知である。さらに,本願発明は,「ゲートマークの発生が防止される」との特定がされているものの,その具体的な手段については,「最大径が0.1mm〜3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型」と特定している点が刊行物1記載の発明と相違するだけで,ほかに成形品の品質に影響を与えるような条件(成形品の肉厚や熱可塑性樹脂の特性など)は何ら特定されていない。そうすると,刊行物1記載の発明を該周知16のゲートを有する金型に適用する周知の技術的課題(ジェッティングやウエルドラインの防止等)があることに照らせば,本願発明は刊行物1記載の発明を従来周知の金型に適用したにすぎないものである。そして,「ゲートマークの発生が防止される」という相違点2に係る事項は,上記適用の結果,当然に得られるものである。上記のとおり,審決は,ジェッティング又はウエルドライン等の外観不良の解消という課題がゲートマークの解消という課題に直接結びつくものであると判断したのではなく,刊行物1記載の発明と周知のゲートを有する金型を組み合わせたものにおいては,「ゲートマークの解消」という課題の認識の有無にかかわらず,かかる構成から「ゲートマークの発生が防止される」という相違点2に係る事項が当然に得られるものと判断したと理解するのが相当であるから,審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(理由不備)について 当裁判所は,審決には,理由不備の違法があるから,審決は取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。
審決は,刊行物1(甲1)を主引用例として刊行物1記載の発明を認定し,本願発明と当該刊行物1記載の発明とを対比して両者の一致点並びに相違点1及び2を認定しているのであるから,甲2及び甲3記載の周知技術を用いて(併せて甲4及び甲5記載の周知の課題を参酌して),本願発明の上記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であるとの判断をしようとするのであれば,刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用して(併せて周知の課題を参酌して),本願発明の前記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くことが必要である。
しかし,審決は,相違点1及び2についての検討において,逆に,刊行物1記載の発明を,甲2及び甲3記載の周知技術に適用し,本願発明の相違点に係17る構成に想到することが容易であるとの論理づけを示している(審決書3頁28行〜5頁12行)。すなわち,審決は,「刊行物1記載の発明を上記周知のピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用し,本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものである。」(審決書4頁19行〜21行)としたほか,「上記相違点1において検討したとおり,刊行物1記載の発明をピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用することが容易に想到し得るものである以上,本願発明の上記相違点2に係る構成は,実質的な相違点ではない。」(審決書4頁26行〜29行),「本願発明は刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用しただけの構成であることは,上記で検討したとおりである。」(審決書5頁5行〜7行),「刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用することの動機づけとなる従来周知の技術的課題(ウエルドラインやジェッティング等の外観不良の解消)があり,その適用にあたり阻害要因となる格別の技術的困難性があるとも認められない。」(審決書5頁8行〜11行)などと判断しており,刊行物1記載の発明を,従来周知の事項に適用することによって,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの説明をしていると理解される。
そうすると,審決は,刊行物1記載の発明の内容を確定し,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点を認定したところまでは説明をしているものの,同相違点に係る本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るか否かについては,何らの説明もしていないことになり,審決書において理由を記載すべきことを定めた特許法157条2項4号に反することになり,したがって,この点において,理由不備の違法がある。
これに対し,被告は,審決では,本願発明について,当業者が刊行物1記載の発明,及び,従来周知の金型に基づいて容易に発明をすることができたと判断したと理解されるべきであり,刊行物1記載の発明と上記従来周知の金型とを組み合わせて1つの発明を構成するに当たり,刊行物1記載の発明を上記金18型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に相違はないから,理由不備の違法はないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,仮に,審判体が,本願発明について,当業者であれば,金型に係る特定の発明を基礎として,同発明から容易に想到することができるとの結論を導くのであれば,金型に係る特定の発明の内容を個別的具体的に認定した上で,本願発明の構成と対比して,相違点を認定し,金型に係る特定の発明に,公知の発明等を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易であったといえる論理を示すことが求められる。金型に係る特定の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合は,刊行物1記載の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合と,相違点の認定等が異なることになり,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到できたか否かの検討内容も,当然に異なる。そうすると,刊行物1記載の発明を主引用例発明としても,従来周知の金型を主引用例発明としても,その両者を組み合わせた結果に相違がないとする被告の主張は,採用の限りでない。
2結論以上によれば,原告の取消事由1(理由不備)に係る主張は,理由がある。
被告が縷々主張する点は,いずれも理由がない。よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明