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事件 平成 21年 (ワ) 8813号 損害賠償等請求事件
川崎市<以下略>
原告日 本防疫株式会社
同訴訟代理人弁護士本山信二郎
同訴訟代理人弁理士木戸基文
同訴訟復代理人弁護士古賀東子 大阪府岸和田市<以下略>
被告株式会社ピオニーコーポレーション
同訴訟代理人弁護士溝上哲也 岩原義則 江村一宏
同訴訟代理人弁理士山本進
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/12/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告に対し,1128万円及びこれに対する平成21年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1本件は,原告が完成させた発明について被告が自己を権利者として実用新案登録の出願をしてその登録を受けた後その実用新案権を一方的に放棄(実用新案法26条,特許法97条1項)したことにより,上記発明についての原告の特許を受ける権利侵害されたとして,原告が,被告に対し,主位的に,?不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金(逸失利益)1128万円及びこれに対する平成21年3月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,?被告による新商品(毒餌誘引用ボックス)の開発,販売は,商人である原告が被告のためにした協力,貢献によるものであったとして,商法512条の報酬請求権に基づき,上記?と同額の報酬金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1)ア原告は,建築物におけるネズミ,昆虫等の衛生害虫の防除等を目的として平成9年7月23日に設立された株式会社である。
イ被告は,レザーローラー,エプロンバンド,コンデンサーレザーその他紡織附属品の製作,販売等を目的として昭和28年1月16日に設立された株式会社であり,平成18年1月11日,「毒物,劇物販売」に係る業務が会社の目的に追加された。(甲3)(2)原告の代表取締役A(以下「A」という。)は,平成20年1月18日,原告を訪問した被告特器事業部の従業員B(以下「B」という。)及びCに自作(手作り)の毒餌誘引用ボックス(ボックス内の毒餌をネズミに摂食させ,外部で死に致らしめることにより,ネズミを駆除する装置)を示し,その後,これを被告に郵送して貸し渡した。
Aが自作した上記「毒餌誘引用ボックス」(以下「本件試作品」といい,本件試作品に具体化された技術的思想を「原告発明」という。)は,別紙1の写真のとおり,市販の透明ないし半透明の合成樹脂製ボックスの両側部に開口部を設け,各開口部に一対のパイプ部材を挿通した構造のものである。
(乙2,証人D,原告代表者)(3)ア被告は,平成20年6月4日,「毒餌誘引用ボックス」に係る考案について,被告を実用新案権者,A及び被告特器事業部営業次長のD(以下「D」という。)を考案者として実用新案登録出願(以下「本件実用新案登録出願」という。)し,同年7月23日,下記の実用新案登録がされ(以下,この実用新案権を「本件実用新案権」といい,本件実用新案権に係る考案〔【請求項1】〜【請求項4】〕を一括して「本件考案」という。
本件実用新案登録出願に係る願書並びに願書に添付した明細書〔以下「本件明細書」という。〕,実用新案登録請求の範囲,図面及び要約書を別紙2として添付する。),その後,本件実用新案権に係る公報が発行された。
記実用新案登録番号第3144063号考案の名称毒餌誘引用ボックス実用新案登録請求の範囲【請求項1】合成樹脂材料からなる下側本体と,合成樹脂材料からなり前記下側本体にヒンジ結合により開閉自在に設けられた蓋体と,前記下側本体の前記ヒンジ結合部とは他の辺において脱着自在に設けられる合成樹脂材料からなる短尺状のパイプ部材とからなり,このパイプ部材は,下側本体の前記ヒンジ結合部とは他の辺における側板に形成された開口部の両側および下端に互いに繋がる溝が形成されて,パイプ部材の長さ方向一端に前記溝に嵌入するフランジ部が形成され,フランジ部を溝に嵌入させることにより開口部から突出する状態と,開口部から突出せずに下側本体内に位置する状態とに付け替え可能に構成され,さらに前記下側本体の底板には仕切りにより複数の毒餌置き部が形成されていることを特徴とする毒餌誘引用ボックス。
【請求項2】平面形状が長方形であり,下側本体の長辺側の何れか一辺の上端でヒンジ部により蓋体が結合されており,下側本体の短辺側の互いに対向する側板には互いに対向する位置で開口部が形成されていて,この開口部にパイプ部材を脱着自在に設けてなることを特徴とする請求項1記載の毒餌誘引用ボックス。
【請求項3】下側本体は透明乃至半透明の材料で作られていることを特徴とする請求項1または2記載の毒餌誘引用ボックス。
【請求項4】パイプ部材は透明乃至半透明の材料で作られていることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項記載の毒餌誘引用ボックス。
イ本件明細書(段落【0007】)によれば,本件考案の効果は,(ア)「毒餌誘引用ボックスが鼠の通りそうな床面や地面に置かれた状態で,毒餌の誘引効果により,鼠はパイプ部材より毒餌誘引用ボックス内に入って毒餌を食べることになる。毒餌の種類にもよるが,例えば遅効性の毒餌を食べた鼠はパイプ部材を通って毒餌誘引用ボックスから簡単に出ることができ,その後徐々に毒餌の効果により死に至ることになる。従って,鼠を強制的に捕獲するのではなく鼠を駆除するために鼠に毒餌を食べさせ鼠を外部で死に至らしめるようにし,繰り返し使用可能な毒餌誘引用ボックスを提供することができる。」(イ)「下側本体にパイプ部材を設けることにより,毒餌誘引用ボックスが置かれる周りの環境により毒餌誘引用ボックス内に厨房の水や雨水などが入ろうとするのを防止することができる。また,下側本体にパイプ部材を設けることにより,毒餌誘引用ボックス内に人間の手が入りにくくなり,例えば子供が間違って毒餌誘引用ボックス内の毒餌を取ろうとしても取ることができず,安全である。」(ウ)「特に下側本体を透明乃至半透明の材料で作られておれば,鼠は毒餌誘引用ボックス内の毒餌を毒餌誘引用ボックスの外から見ることができるとともに毒餌の誘引効果により,鼠はパイプ部材より毒餌誘引用ボックス内に入って毒餌を食べることになる。そして,パイプ部材より毒餌誘引用ボックス内に入って毒餌を食べている鼠を毒餌誘引用ボックスの外から別の鼠が見ることもでき,これにより別の鼠は誘われて毒餌誘引用ボックスに入り,毒餌を食べることになり,誘引効果が向上する。毒餌誘引用ボックスと同様にパイプ部材も透明乃至半透明の材料で作っておけばより効果的である。」というものである。
(4)被告は,平成20年10月頃から,「ラットクル」という商品名で,本件考案の実施品である「毒餌誘引用ボックス」を販売している(以下この商品を「被告製品」という。)。
(5)被告は,平成20年10月24日,本件実用新案権を放棄し,同年11月17日,本件実用新案権の登録が抹消された。
3争点(1)原告発明について原告の特許を受ける権利侵害されたか(主位的請求)(2)原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか(予備的請求)(3)損害ないし相当な報酬の額(主位的請求,予備的請求)4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(原告発明について原告の特許を受ける権利侵害されたか)についてア原告(ア)原告発明が特許要件を満たしていることa(a) 原告発明は,下記のとおり,構成要件A〜Cから成る。
記【1】A毒餌誘引用ボックスにおいて,B前記ボックスの側板が透明ないし半透明であることを特徴とする毒餌誘引用ボックス。
【2】C前記側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材が取り付けられていることを特徴とする上記【1】記載の毒餌誘引用ボックス。
(b) 上記【1】に係る発明(以下「原告発明1」という。)では,側板を透明ないし半透明にしたことから,ネズミがボックス内の餌を認識することができ,ボックス内への誘引効果が高いという効果を有する。また,上記【2】に係る発明(以下「原告発明2」という。)では,側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材を取り付けるようにしたので,狭い隙間を通り道とするネズミの性質を利用することができ,ボックス内への誘引効果が高いという効果や,ボックス内に水が入ることを防止することができるという効果も有している。
b本件試作品の製作当時,一般に市販されていた毒餌誘引用ボックスは,その内部に殺鼠剤が置かれることから,人の誤食による事故を防止するため,ボックスを黒色の不透明な材料で作り,内部を見えないようにしており,側板を透明ないし半透明にした「毒餌誘引用ボックス」は存在しなかった。
plastdiversity社(ポルトガル共和国)の製造するネズミ用の毒餌誘引用ボックス「Bait station PETI」(乙3,4。以下「PETI」という。)は,原告発明とは対象となるネズミの種類が異なる(原告発明ではクマネズミ,ドブネズミなどのラットを対象としているのに対し,PETIではハツカネズミなどのマウスを対象としている。)ことから容器の大きさも異なるほか,透明度も異なっており(PETIの平行光線透過率は23%であり,本件試作品の60%に比べて著しく低く,ネズミがボックス内の餌を認識することができない。),原告発明と同一であるとはいえない。
c上記bのとおり,毒餌誘引用ボックスは,誤食事故防止のため,内部及び殺鼠剤が見えないようにすることが常識であり,これを透明ないし半透明にすることを妨げる特段の事情(阻害要因)が存在する。
したがって,本件試作品の製作前,特開2007-274919号公報(甲23,乙9)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)として,筐体及び扉の少なくとも一方を透明材によって形成することで,仲間と群れたがるというネズミの習性を利用し,内部に無毒な餌(例えば,イカの天ぷらやロースカツ,米や麦等)を置いて複数のネズミを筐体内に誘引するようにした発明が開示されていたが,市販の毒餌誘引用ボックスに乙9発明を組み合わせることによって原告発明に容易に想到し得たということはできない。
また,本件明細書に従来技術として記載されている発明(特開2004-8101号公報〔甲22〕)は,板紙(不透明な材料)で作られた「鼠捕獲装置」であり,毒餌誘引用ボックスを透明ないし半透明の材料で作るという原告発明に対する示唆はないから,本件実用新案登録出願当時の従来技術の内容から原告発明に容易に想到することはできない。
d被告は,本件発明を含む考案を実用新案登録を受けることができると考えて出願したにもかかわらず,本件訴訟において本件発明の特許要件を否定するのは矛盾した態度というべきである。
(イ)本件考案と原告発明との関係本件考案は,原告発明の構成要件を全て有し,その効果も原告発明と共通するもので,原告発明に依拠したもの(原告発明を含むもの)である。
(ウ)原告発明について特許を受ける権利侵害されたこと上記(イ)のとおり,本件考案は原告発明を含むものであるが,前記第2の2(3)のとおり,被告を権利者として本件実用新案登録出願がされた。しかし,被告は,発明者であるAから原告発明を含む本件考案について実用新案を受ける権利を承継していないから,本件実用新案登録出願は,いわゆる冒認出願である。
また,被告は,本件考案が登録実用新案公報に掲載されて一般に公開された後,本件実用新案権を一方的に放棄したことから,原告は,被告から本件実用新案権を譲り受けることも,自ら新たに特許出願(又は実用新案登録出願)することも不可能になった。
被告による上記行為(冒認出願及び本件実用新案権の放棄)は,原告の特許を受ける権利を故意に侵害するもの(不法行為)である。
イ被告(ア)原告発明1には,以下のとおり新規性がなく,特許要件を満たさない。
aPETIと同一plastdiversity社(ポルトガル共和国)が2000年(平成12年)2月10日に製造を開始したPETI(乙3,4)の構成は,(a)毒餌誘引用ボックスにおいて(b)前記ボックスの側面も含めた全体が半透明であることを特徴とする毒餌誘引用ボックスである。
原告発明1とPETIとの間に相違点はなく,原告発明の構成要件AとPETIの構成(a),原告発明の構成要件BとPETIの構成(b)は,それぞれ一致する。したがって,原告発明1に新規性がないことは明らかである。
b乙9発明と同一平成19年10月25日に公開された乙9発明は,以下の構成要件(a)〜(g)によって特定されたものである。
【請求項1】(a)少なくとも一つの開口部を備えた筐体と,(b)この筐体の開口部を閉塞する扉とを備えたネズミ捕獲器であって,(c)上記扉が,上記開口部の内側方向に開くように上記筐体に回動自在に取り付けられており,(d)また,上記扉が上記開口部の外側方向に開くことを規制する外開き規制手段を備えたことを特徴とするネズミ捕獲器。
【請求項2】(e)上記筐体が,ペットボトルの底面を切除したものによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のネズミ捕獲器。
【請求項3】(f)上記筐体及び扉の少なくとも一方が,透明材によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のネズミ捕獲器。
【請求項4】(g)上記筐体及び扉の少なくとも一方が,ピンク色系の透明材によって形成されていることを特徴とする請求項3に記載のネズミ捕獲器。
以上のとおり,乙9発明は,「筐体及び扉の少なくとも一方が透明材によって形成されていることを特徴とするネズミ捕獲器」に係る発明を開示しているところ,この発明は,原告発明1と一致している(原告発明1の下位概念たる発明である)から,原告発明1に新規性はない。
(イ)原告発明2には,以下のとおり進歩性がなく,特許要件を満たさない。
a原告発明2は,原告発明1に構成要件C(前記側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材が取り付けられていること)を組み合わせたものである。
原告発明1が公知であることは上記(ア)のとおりであり,また,構成要件Cについては,従来品である「イギリス製の殺鼠剤BOX」(甲4の写真?)により開示された技術である。
したがって,両者を組み合わせた原告発明2について,進歩性を認めることはできない。
bまた,原告発明2は,PETI(上記(ア)のとおり,原告発明1と同一である。)に,乙9発明を組み合わせることによって容易に想到することができるものであり,この点においても進歩性がない。
(ウ)本件考案は,原告が単独で完成したものではなく,また,原告発明に依拠したものでもない。したがって,本件考案について,被告を権利者とする本件実用新案登録出願をしたからといって,冒認出願には当たらない。
また,被告は,原告代理人から,平成20年10月20日付け内容証明郵便(甲18)により,原告にロイヤリティを支払わないのであれば本件実用新案登録出願を取り下げるよう求められたことから,既に登録されていた本件実用新案権を放棄したにすぎないのであって,一方的に権利を放棄したわけではない。
(エ)以上のとおり,被告は,原告発明について原告の特許を受ける権利侵害していない。
(2)争点(2)(原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか)についてア原告原告は,被告による商品化及び大量生産のため,本件試作品を提供し,何度も電子メール等で改良点を指摘しているが,これらの助言や指導は,善意の無償協力ではなく,「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をした」ものであるから,被告に対し,原告発明が特許要件を具備していたか否かにかかわらず,相当な報酬を請求することができる(商法512条)。
また,特許法35条3項ないし5項は,会社の従業者等が職務に属する発明について特許を受ける権利若しくは特許権を会社に承継させ,又は専用実施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有すると規定しているが,そのこととの均衡からしても,商人である原告が被告に対し同様の貢献を行った場合には,事前に明確な対価支払が合意されていない場合であっても,商法512条による報酬請求権が認められるべきである。
商取引上も,原告の発明,考案ないし寄与を被告が「ただ取り」することは許されるべきではない。現に,被告自身,原告に対し,被告製品の卸値を優遇することを提案していたのであって,原告の貢献に何らかの対価が発生することを認識していたはずである。
イ被告(ア)商人が他人にした行為であっても,「委託により,又は他人のためにする意思をもって」するのでなければ,商法512条の規定による報酬請求権を取得せず,また,委託を受けない当事者に対し,商法512条の規定に基づく報酬請求権を取得するためには,客観的にみて,その当事者のためにする意思をもって仲介行為をしたものと認められることを要し,単に委託者のためにする仲介行為の反射的利益が委託をしない当事者に及ぶだけでは足りないとするのが最高裁判所の判例(最高裁昭和44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁,最高裁昭和50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁)である。
(イ)本件において,被告から原告に対する委託は明示的にも黙示的にもなく,問題になるのは事務管理の成立を前提とする商法512条の報酬請求である。
しかしながら,本件において原告が提供したのは,新規性,進歩性が否定される情報(虚偽かつ有害な情報)だったのであり,被告にとって何ら役立つものではなかったのであるから,このような原告の行為について,「他人のため」にしたものと評価することはできない。
また,事務管理は,「義務なく他人のために事務の管理を始めた者」が「その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって,その事務の管理」をすることをいうが(民法697条1項),互いに自己の利益のためにする商品共同開発行為について,一方的に他方に対して事務管理が成立するなどということは考え難い。原告自身,自己を考案者ないし権利者として考え,その権利実現のために行動していたのであって,原告から被告への情報提供等は,自己が考案者ないし権利者であることを被告に認識させようとして行ったもので,正しく「自己のため」の行為であり,商法512条を適用する前提である「他人のため」の要件を欠いている。
そもそも共同開発の関係に至った当事者にとって,製品化に至るまで,双方からアイディアを出し合うというのは当然の行動であり,その際のそれぞれの情報提供やコストの負担について,商法512条の規定に基づく報酬請求権が発生するなどということは想定されていない。本件において,原告も被告も,それぞれ自己の費用負担で試作品の製作を行っただけであり,双方とも本来的に無償で行うという関係があったにすぎない。
(ウ)被告が被告製品に係る卸値の優遇措置を原告に申し出たのは事実であるが,それは,原告発明が特許要件を具備していることを前提としたものであり,原告発明に新規性,進歩性がなかった場合にまでそのような措置を講じる理由はない。
(3)争点(3)(損害ないし相当な報酬の額)についてア原告(ア)損害額被告製品の定価は3300円/台であるが,被告は,これを1880円/台(ただし,出荷単位は10台)として,小売店,防除業者等に卸売している。日本国内の毒餌誘引用ボックスの購入層である防除業者は約4500社であり,そのうちの少なくとも500社が1社当たり60台(年間30台)購入すると見込まれるから,発売から2年間の予想売上げは,合計5640万円となる。
原告は,被告による違法行為がなければ,寄与に応じた相応の実施料を取得することができたはずであるところ,原告が取得し得る実施料ないし寄与は,1台につき卸値の20%が相当であり,これを上記予想売上額(5640万円)に乗ずれば,1128万円となる。
(イ)相当な報酬額商法512条の「相当な報酬」額は,原告の労力,貢献,成果及び被告の売上額その他の事情を総合的に考慮して算定することになる。
本件については,専門業者である原告が,当該分野の経験及び知識のない被告に対し,商品の考案・商品化を持ちかけ,商品化のための有意義な指導・助言を行った場合であるから,商法512条の「相当な報酬」額は,上記(ア)の実施料相当額と同額であると考えられる。
イ被告(ア)損害額について被告はもともと卸売が主流であり,購入層である防除業者(原告の主張によれば4500社)の全てに被告自らが販売することは想定されていない。また,卸値も,取引数量等に応じたランク分けがあり,全てを1880円/台(出荷単位は10台)で販売しているわけではない。
適正な実施料についても,原告の本件考案に対する貢献度や,被告が本件実用新案権を放棄するに至った事情等も勘案する必要があるところ,本件において,本件考案に対する原告の寄与は限定的であったこと,被告が本件実用新案権を放棄したのは原告の要求によるものであったこと,本件実用新案権の登録出願費用等は被告が全て負担していることなどの事情を考慮すれば,20%もの高率で認められるはずがない。
(イ)相当な報酬額について仮に,本件において,商法512条の適用が認められるとしても,「相当な報酬」額については,「取引額,仲介の難易,期間,労力その他諸般の事情を斟酌して」定められるべきである(最高裁昭和43年8月20日第三小法廷判決・民集22巻8号1677頁)。
本件における原告の予備的請求額は,主位的請求と同額であるが,何ら根拠がないものであり,過大な請求というしかない。
第3当裁判所の判断1争点(1)(原告発明について原告の特許を受ける権利侵害されたか)について(1)原告発明について原告は,原告発明を,【1】(原告発明1)A毒餌誘引用ボックスにおいて,B前記ボックスの側板が透明ないし半透明であることを特徴とする毒餌誘引用ボックス。
【2】(原告発明2)C前記側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材が取り付けられていることを特徴とする【1】記載の毒餌誘引用ボックス。
と特定している。
そして,前記第2の2(2)のとおり,Aは,平成20年1月18日,原告を訪問した被告特器事業部のB及びCに対し,本件試作品を提示しているところ,本件試作品は,上記構成要件A〜Cを全て備えているものと認められるから(乙2),原告発明は,遅くとも同日までに完成していたものと認められる。
そこで,以下これを前提として,原告発明が特許要件を満たすものであるか否かを検討する。
(2)原告発明1の新規性についてア証拠(甲26,乙3〜5)によれば,plastdiversity社(ポルトガル共和国)は,2000年(平成12年)2月10日からPETIを製造,販売しているところ,PETIは,箱形容器内部の仕切部分(booth)に殺鼠剤(rodenticide)を置いてネズミを誘引するもの(bait station)であり,「毒餌誘引用ボックス」ということができるから,原告発明1の構成要件Aの「毒餌誘引用ボックス」の構成を備えていることが認められる。
イまた,上記証拠によれば,PETIは,射出成形したプラスチックを材料として製造され,黒色の製品ほか,全体が半透明(semi-transparent)になっている製品があるところ,後者については,その側板も半透明になっているものであるから,原告発明1の構成要件Bの「前記ボックスの側板が透明ないし半透明であること」との構成を備えていることが認められる。
上記の点について,原告は,PETIの透明度は低く(平行光線透過率23%),「半透明」とはいえない旨の主張をする。しかし,原告発明1の構成要件Bは,「半透明」について,平行光線透過率等の数値による限定を何ら加えていないから,PETIの透明度について定量的な議論をすることには意味がないというべきである。「半透明」とは,「透明の程度の少ないこと。なかば透き通っていること。」(広辞苑第6版)を意味し,「側板を透明ないし半透明にしたことから,ネズミがボックス内の餌を認識することができ,ボックス内への誘引効果が高い」という原告発明の効果に照らしても,ネズミがボックス内の餌を認知することができる程度に光を透過するものであれば「半透明」に該当するものと解すべきである。そして,PETIは,「BETTER CONTROL」(ボックス内の餌やネズミ等をヒトの視覚で確認することによって,よりよい管理を行うことができるという意味と解される。)を目的の一つとして設計されているものであり(乙4),その側板はボックス内の餌を認識できる程度に可視光を透過するものと認められるから,原告発明1の構成要件Bの「半透明」の構成を備えているというべきである。
また,原告は,容器の大きさや透明度が異なることを理由に,PETIは,原告発明とは対象となるネズミを異にしており(原告発明がクマネズミ,ドブネズミなどのラットを対象としているのに対し,PETIはハツカネズミなどのマウスを対象としている。),原告発明1と同一であるとはいえないとも主張する。しかしながら,原告発明がクマネズミ,ドブネズミなどのラットのみを対象としていると限定して解釈すべき根拠はない上,ドブネズミ,クマネズミ,ハツカネズミの3種は,いずれも屋内で普通に見られるもので,「家ネズミ」と総称されており,その視覚認知能力についてもほとんど差がないと考えられること(甲21)を考慮すれば,本件試作品とPETIのボックスの大きさや透明度が異なることが,PETIが原告発明1の構成要件A,Bの構成を備えるとの上記認定を左右するものではない。
さらに,原告は,毒餌誘引用ボックスは誤食事故防止のため内部及び殺鼠剤が見えないようにすることが常識であり,これを透明ないし半透明にすることを妨げる特段の事情(阻害要因)が存在するとも主張するが,毒餌誘引用ボックスに透明な側板を採用することの想到容易を検討するまでもなく,毒餌誘引用ボックスであるPETI自体が既に半透明の側板を備えているのであるから,原告の上記主張は理由がないことが明らかである。
ウ以上によれば,原告発明1は,PETIに実施された発明であり,新規性が認められないから(特許法29条1項2号),特許要件を満たさない。
(3)原告発明2の進歩性についてア原告発明2は,原告発明1に構成要件C「前記側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材が取り付けられていること」を組み合わせたものであるところ,同様の構成がもたらす本件考案の効果,すなわち「下側本体にパイプ部材を設けることにより,毒餌誘引用ボックス内の毒餌を取ろうとしても取ることができず,安全である。」(本件明細書の段落【0007】)との効果を奏するものと認められる。
そして,前示のとおりPETIは原告発明1の構成を全て備えるから,原告発明2とPETIとの相違点は,構成要件Cの点のみである。
イAが平成20年1月18日に被告特器事業部のB及びCに参考品(従来品)として提示したイギリス製の殺鼠剤ボックス(毒餌誘引用ボックス。
甲4の写真?〜?。以下「イギリス製殺鼠剤ボックス」という。)は,側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材を取り付けた構造を有していることが認められる。したがって,イギリス製殺鼠剤ボックス(上記事実から,本件発明が完成したと認められる平成20年1月18日より前に公然実施をされたことが明らかである。)は,構成要件Cの「前記側板に開口部を形成し,その開口部に開口部から突出する状態にパイプ部材が取り付けられていること」の構成を全て備えていること,イギリス製殺鼠剤ボックスも,原告発明2と同様に「開口部に……パイプ部材が取り付けられていること」の構成から,同様に,毒餌誘引用ボックス内に人間の手が入りにくくなり安全であるとの効果を奏するものであること,そして,このことは,後記のとおり誤食防止の課題を認識している当業者にとって,その外観自体から容易に認識できることが明らかである。
他方,甲24(平成15年7月8日発行の特開2003-189782号公報)の「殺鼠剤においても,ゴキブリ用毒餌剤のように一回の喫食で効果が現れるような製剤も開発されており,誤食を防止できる殺鼠剤用容器の開発が望まれている。従来の殺鼠剤用容器は開放型であったため,誤食防止機能が十分とはいえなかった。」(段落【0004】)との記載から,本件発明の完成前から,毒餌誘引用ボックスにおいて誤食防止が一般的な課題として当業者に認識されていたものと認められる。
そうすると,PETIに接した当業者にとって,誤食防止という課題を解決するため,イギリス製殺鼠剤ボックスにおいて公然実施されたパイプ部材についての上記構成を組み合わせて原告発明2とすることには,動機付けがあり,当業者が容易に想到し得たことというべきである。
ウ以上によれば,原告発明2は,当業者がPETIに実施された発明及びイギリス製殺鼠剤ボックスに実施された発明に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから(特許法29条2項),特許要件を満たさないものである。
(4)なお,原告は,被告が本件発明を含む本件考案について新規性,進歩性があることを前提として実用新案登録出願をしておきながら,本件訴訟において,本件発明に特許要件がないなどと主張するのは,矛盾した挙動として許されないとも主張するが,被告が本件訴訟における防御方法として原告発明の特許要件を争うことが,原告との関係で背信的であるとか,信義誠実の原則に反するとまでは認めることはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
(5)以上によれば,原告発明1,2のいずれについても特許要件が認められず,原告発明について「特許を受ける権利」の侵害を観念することはできないから,被告による本件実用新案登録出願,本件実用新案権の放棄が原告の特許を受ける権利侵害したとすることはできない。したがって,これを前提とする原告の主位的請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
2争点(2)(原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか)について(1)商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において,その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず,委託がない場合であっても,商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には,第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが,後者の場合には,その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず,上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁,同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁,同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
そこで,上記見地に立って,本件について検討する。
(2)証拠(甲4,6,7,甲12の1〜6,甲14,30,乙2,10,乙11の1〜4,乙13,15〜18,証人D,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の開発経緯について,次の事実を認めることができる。
ア被告は,従前,原告との間で,被告が製造したハエ,蚊捕獲用吸着シートを原告に納品するという取引をしており,被告特器事業部のBが同取引の担当者であったが,後任のCに事務を引き継ぐことになったことから,平成20年1月18日,B及びCの両名が原告を訪問し,Aに挨拶をした。
Aは,防除業者である原告の代表取締役として,以前からネズミの効率的な駆除(毒餌の早期摂食等)についての研究を行っていたが,上記の挨拶を受けた際,B及びCに対し,従来品であるイギリス製殺鼠剤ボックス及びAが自作した本件試作品を示した上,「現在,市販されている毒餌誘引用ボックスは,黒色で内部が見えないため,ネズミが用心してなかなか中に入らない。容器を透明ないし半透明にして進入路を設置するなどした新商品を開発すれば売れる。」などと説明した。
そこで,B及びCは,本件試作品を商品化することについて検討することとし,Aに対し,本件試作品の貸出しを依頼した。
イ被告は,その後,原告から本件試作品及び従来品(イギリス製殺鼠剤ボックス)を借り受け,検討した結果これを商品化することを決定し,平成20年2月上旬頃,その旨を原告に電話で伝えた。
ウ被告は,被告製品の製作のため,平成20年2月下旬に設計図面(乙11の1〜4)を作成し,同年3月4日,Dがこの図面を持参して原告を訪問した。
その際,Aは,Dに対し,同図面上,容器の色がダークグレイとされていた点について,これを透明ないし半透明にすべきことを説いたほか,幾つかの意見を述べた。
他方,Dは,Aに対し,被告が製造する毒餌誘引用ボックスについて,原告との共同開発品ということにして,実用新案登録出願をしたいと提案したところ,Aもこれを了承した。
エAは,その後も,被告に対し,次のとおり被告製品について電子メールで意見を述べた。
(ア)平成20年3月5日の指摘事項aネズミの大きさに応じて大小2種類の毒餌誘引用ボックスを作成すれば便利であること。
b内部の餌皿を弁当箱のように小さく分割すること。また,ブロック剤(固形の殺鼠剤)を使用している業者のために,これを固定するフック(針金)を設置すること。
c毒餌誘引用ボックス内に水が浸入し,中の餌が濡れて腐敗しないように,ボックス入口に段差又は勾配をつけること。
dボックスの外部表記は,「殺鼠剤」ではなく,誰にでも分かるよう「ネズミ駆除の毒エサ」とすること。
(イ)同月18日の指摘事項a海外製のボックス容器は全て黒であるが,原告の実験によれば,透明の容器の方がネズミが中の餌を認識し誘引喫食率が明らかに高いこと。
b透明タイプと人目につきやすい場所用の半透明タイプの2種類があればよいこと。
c販売の際には,「誘引喫食率の高さ」を強調すべきこと。
オ被告は,被告製品の試作品(第1次)を製作し,平成20年4月24日,これを原告に持参してAの検分を受け,それを踏まえて改良した試作品(第2次)の製作に向けた準備をすることになった。
また,Aは,同年5月25日,被告に対し,電子メールで,コンプライアンス(法令遵守)や農薬事故(誤食防止)などが原因となって既存の毒餌誘引用ボックス(外国製)が大量に売れていることを指摘した上,被告製品の販売戦略について,従来型の欠点(?厨房の床に置くと,床洗浄水が入り込み,殺鼠剤がダメになってしまうこと,?鍵をわざわざ買わなければいけないこと,?餌入れ容積が狭いこと,?全面が黒いので,ネズミが餌を認識するまで日数を要すること,?大きすぎること)に留意して宣伝すれば,大きな売上げが期待できるのではないかと意見を述べた。
カAは,平成20年8月6日,被告が持参した被告製品の試作品(第2次)を検分した上,被告に対し,同日から同月7日にかけて,電子メールで次の意見を述べた。
(ア)出入口から奥の出入口にかけての通路部分は,厨房床の洗浄水が入り込むので,水を排出できる勾配が必要であるが,これが難しいのであれば,通路部分に水切り穴を作ってはどうか。
ただし,棚の上に設置した場合,その穴から殺鼠剤がこぼれ落ちるので,穴の開いているタイプ(厨房床設置用)と穴の開いていないタイプ(通常用)の2種類をそろえることにしてはどうか。
(イ)透明感があればあるほど餌への食いつきが早いので,クリアの部分をもう少し透明にできないか。被告の試作品(第2次)は,外から中が全く見えないので,ネズミが中の餌を認識できない。
(ウ)「毒エサ危険」と「絶対にさわらないでください」の文字は,ボックスと同一色ではなく,赤色にした方が,見た目も商品価値もよい。
(エ)ボックス中央の丸部分に貼る,別売りの専用ステッカー(?施工業者,?施行責任者,?設置年月日,?連絡先が記載されたもの)があるとよい。
キ被告は,平成20年6月4日,本件実用新案登録出願をし,同年7月23日,実用新案登録がされた。
その後,Aは,被告に対し,本件考案のかなりの部分は自らの考案であるとして,ロイヤリティ(実施料)の支払を求めた。これに対し,被告は,ロイヤリティの支払はできないが,被告製品の原告に対する卸値を一割値引きする旨の提案をしたが,原告は,飽くまでもロイヤリティの支払を要求したことから,結局,両社の交渉は決裂することとなった。
ク被告は,原告の上記意見等を参考にして被告製品を完成させ,平成20年10月頃,その販売を開始した。
(3)上記(2)の認定事実によれば,原告は,ネズミの防除を専門とする業者としての立場から,被告製品について様々な意見を述べ,被告も,原告の意見を参考にし,その相当部分を取り入れて,被告製品を開発したことが認められる。しかしながら,上記(2)ウのとおり,被告製品は,そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。),Aによる上記の様々な意見やアドバイスも,共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって,必ずしも被告に利益を与える意思で,被告のために行われたものと認めることはできない。
したがって,本件において,原告は,客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから,被告に対し,商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。
原告は,本件において,特許法35条3項ないし5項との均衡からしても,商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが,特許法35条3項ないし5項は,いわゆる職務発明についての規定であり,本件とは前提とする状況が全く異なるから,原告の上記主張も採用することができない。
3よって,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 寺田利彦
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