審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21ワ1201特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22ネ10089特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ18950特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24ネ10080特許権侵害行為差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 製造方法 / 新規性 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 公知技術 / 技術的範囲 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 優先日 / 対象製品 / 出願経過 / 参酌 / 技術的意義 / 均等 / 均等侵害 / 置き換え / 置換 / 置換可能性 / 同一の作用効果 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 販売数量(販売数) / 不法行為(民法709条) / 設定登録 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
13824号
特許権侵害差止等請求事件
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原告岩 崎工業株式会社 訴訟代理人弁護 士加藤幸江 同 中務尚子 同 山田威一郎 訴訟代理人弁理 士清原義博 同 坂戸敦 被告ア スベル株式会社 訴訟代理人弁護 士山上和則 同 雨宮沙耶花 訴訟代理人弁理 士廣幸正樹 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/11/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は,別紙物件目録1-1,2-1,3-1,4-1,5-1,6-1,7-1,8-1,9-1の( )( )( )及び図面に記載の蓋体(以下,順に「イ134号蓋体」,「ロ号蓋体」,「ハ号蓋体」,「ニ号蓋体」,「ホ号蓋体」,「ヘ号蓋体」,「ト号蓋体」,「チ号蓋体」,「リ号蓋体」といい,併せて「被告各蓋体」という。)並びに別紙物件目録1-2,2-2,3-2,4-2,5-2,6-2,7-2,8-2,9-2の( )( )( )及び図面に記載の容器134(以下,順に「イ号容器」,「ロ号容器」,「ハ号容器」,「ニ号容器」,「ホ号容器」,「ヘ号容器」,「ト号容器」,「チ号容器」,「リ号容器」といい,併せて「被告各容器」という。また,被告各蓋体と被告各容器とを併せて「被告各製品」という。)を製造,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2被告は,被告各製品,被告各製品の半製品(別紙物件目録に記載の蓋体又は容器の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)及び被告各製品を製造するための金型を廃棄せよ。 3被告は,原告に対し,1795万5000円及びこれに対する平成21年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,発明の名称を「蓋体及びこの蓋体を備える容器並びにこの蓋体を成形する金型装置及びこの蓋体の製造方法」とする後記本件特許権を有する原告が,被告による被告各製品を製造販売等する行為が本件特許権を侵害する行為であるとして,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告各製品の製造販売等の行為の差止めと,同条2項に基づく被告各製品,被告各製品の半製品及び被告各製品を製造するための金型の廃棄をそれぞれ求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として1795万5000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年9月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない。)( )原告の特許権1ア原告は,次の特許権(以下,「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。また,本件特許権に係る出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」といい,特許請求の範囲の請求項1及び請求項9に記載の発明を順に「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」といい,両発明を併せて「本件各特許発明」という。)の特許権者である。 発明の名称蓋体及びこの蓋体を備える容器並びにこの蓋体を成型する金型装置及びこの蓋体の製造方法特許番号特許第4251461号出願日平成19年10月11日優先日平成18年10月13日登録日平成21年1月30日特許請求の範囲【請求項1】「食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋体であって,前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合するように隆起した周縁部と,該周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する一の領域を備え,該一の領域は,空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え,前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,前記フラップ部が前記凹領域に収容される第1位置にあるとき,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞し,前記周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高く,前記フラップ部が前記第1位置にあるとき前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成されるとともに,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立するとき前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすことを特徴とする蓋体。」【請求項9】「食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部を閉塞する蓋体からなるとともに前記食材を加熱可能な容器であって,前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合するように隆起した周縁部と,該周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する一の領域を備え,該一の領域は,空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え,前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,前記フラップ部が前記凹領域に収容される第1位置にあるとき,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞し,前記周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高く,前記フラップ部が前記第1位置にあるとき前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成されるとともに,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立するとき前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすことを特徴とする容器。」イ本件特許発明1は,次の構成要件に分説することが相当である(以下「構成要件A-1」などという。)。 A-1食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋体であって,B前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合するように隆起した周縁部と,C該周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する一の領域を備え,D該一の領域は,空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え,E前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,F前記フラップ部が前記凹領域に収容される第1位置にあるとき,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞し,G前記周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高く,H前記フラップ部が前記第1位置にあるとき前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成されるとともに,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立するとき前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすことを特徴とするI-1蓋体。 ウ本件特許発明2は,次の構成要件に分説することが相当である(以下「構成要件A-2」などという。)。 A-2食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部を閉塞する蓋体からなるとともに前記食材を加熱可能な容器であって,B前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合するように隆起した周縁部と,C該周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する一の領域を備え,D該一の領域は,空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え,E前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,F前記フラップ部が前記凹領域に収容される第1位置にあるとき,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞し,G前記周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高く,H前記フラップ部が前記第1位置にあるとき前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成されるとともに,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立するとき前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすことを特徴とするI-2容器。 ( )被告の行為2被告は,被告各蓋体と被告各容器を製造販売している。 なお,被告各蓋体のイ号蓋体ないしリ号蓋体は,順に被告各容器のイ号容器ないしリ号容器に使用されている蓋体である。 2争点( )被告各蓋体は本件特許発明1の技術的範囲に属するか(争点1)1( )被告各容器は本件特許発明2の技術的範囲に属するか(争点2) 2( )本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点3) 3ア本件各特許発明は平成16年11月29日に発行された意匠登録第1223954号公報(乙8,以下「乙8公報」といい,乙8公報に記載された発明を「乙8発明」という。)に記載された発明等に基づいて当業者が容易に発明することができたものか(争点3-1)イサポート要件に違反するか(争点3-2)( )原告の損害の額(争点4)4第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告各蓋体は本件特許発明1の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】( )被告各蓋体の構成1アイ号蓋体ないしヘ号蓋体イ号蓋体ないしヘ号蓋体の構成は,順に別紙物件目録1-1ないし同目録6-1のとおりであり,本件特許発明1の構成要件に対応させて分説すると次のとおりとなる。 a-1内部に食材を収容し,当該食材を加熱可能な容器における容器胴体部上方の開口部を閉塞する略四角形の蓋体であって,b蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部は,容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合するように隆起しており,c周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に,平面視略四角形環状に隆起する領域(参考図において色彩を付した部分を指す)を備え,d前記隆起領域には,空気抜き穴と,当該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,当該フラップ部を収容する凹領域が設けられており,eフラップ部は,前記隆起領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっており,f前記フラップ部が前記凹領域に収容される位置にあるときに,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞することになり,g前記周縁部の隆起は,前記隆起領域の隆起よりも高く,h前記フラップ部が凹領域に収容されている位置にあるときに,前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成され,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立する位置にあるときには,前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすi-1蓋体。 イト号蓋体ないしリ号蓋体ト号蓋体ないしリ号蓋体の構成は,順に別紙物件目録7-1ないし同目録9-1のとおりであり,本件特許発明1の構成要件に対応させて分説すると次のとおりとなる。 a’-1内部に食材を収容し,当該食材を加熱可能な容器における容器胴体部上方の開口部を閉塞する略円形の蓋体であって,b’蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部は,容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合するように隆起しており,c’周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に,平面視略U字状に隆起する領域(参考図において色彩を付した部分を指す)を備え,d’前記隆起領域には,空気抜き穴と,当該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,当該フラップ部を収容する凹領域が設けられており,e’フラップ部は,前記隆起領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっており,f’前記フラップ部が前記凹領域に収容される位置にあるときに,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞することになり,g’前記周縁部の隆起は,前記隆起領域の隆起よりも高く,h’前記フラップ部が凹領域に収容されている位置にあるときに,前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成され,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立する位置にあるときには,前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすi’-1蓋体。 ( )技術的範囲の属否2ア文言侵害(ア)構成要件A-1ないし構成要件Dについて上記構成a-1ないし構成dによれば,イ号蓋体ないしヘ号蓋体が構成要件A-1ないし構成要件Dを充足することは明らかである。 上記構成a’-1ないし構成d’によれば,ト号蓋体ないしリ号蓋体が構成要件A-1ないし構成要件Dを充足することは明らかである。 (イ)構成要件Eについてa「一の領域」について特許請求の範囲の記載から明らかにように,本件特許発明1にいう「一の領域」とは周縁部から離間して隆起する一つの領域を意味することは明らかである。 被告各蓋体においては,別紙物件目録1-1ないし9-1の各参考図において色彩を付した領域(以下「色付領域」という。)の内側にある「unix」というロゴマークそのものとそのロゴマークが記載される地からなる領域(以下「ロゴ領域」という。)は,その領域全体がその周囲の隆起部分たる色付領域より窪んでいるから,ロゴ領域は本件特許発明1にいう「一の領域」には含まれず,色付領域のみが「一の領域」に該当する。 この点,被告は,本件特許発明1にいう「一の領域」は本件明細書に記載の「フラップ部周囲領域」と解するほかないとして,「フラップ部周囲領域」に関する本件明細書の記載を根拠として,被告各蓋体のロゴ領域も「一の領域」に含まれると主張する。しかし,その字義から明らかなとおり,「一の領域」と「フラップ部周囲領域」とは異なる概念であって同義であるということはできない。被告各蓋体の色付領域とロゴ領域とは明らかに段差があるから,これら2つの部分が一体となって「一の領域」を構成するという被告の主張は不当である。 b「縁部」について「縁部」の辞書的な意義は「まわり。ふち。」であり,内縁と外縁の双方を含むことは明らかである。構成要件Eにおいても,「縁部」とは内か外かの限定が付されていないのであるから,外縁部と内縁部の両方を含むものとして解釈すべきである。 そして,被告各蓋体は,色付領域とロゴ領域との間に段差(屈曲点)が存在するから,かかる段差(屈曲点)が平面的に段差なく形成された色付領域の「ふち」に当たることは明らかである。 cしたがって,被告各蓋体は,そのフラップ部が本件特許発明1にいう「一の領域」に相当する色付領域の内縁部に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっているから,構成要件Eを充足する。 (ウ)構成要件Fないし構成要件I-1について上記構成fないし構成i-1によれば,イ号蓋体ないしヘ号蓋体が構成要件Fないし構成要件I-1を充足することは明らかである。 上記構成f’ないし構成i’-1によれば,ト号蓋体ないしリ号蓋体が構成要件Fないし構成要件I-1を充足することは明らかである。 (エ)したがって,被告各蓋体は本件特許発明1の構成要件をすべて充足する。 イ均等侵害仮に,被告各蓋体のフラップ部の基端部が「一の領域」の縁部ではなく内部に接続しており,被告各蓋体が構成要件Eを充足しないとしても,次のとおり均等侵害が成立する。 (ア)非本質的部分性(第1要件)本件特許発明1の本質的部分は,一体成型によるフラップ付きの食材加熱容器を効果的に製造すべく,フラップ部基端部を溶融樹脂が流入する際の助走区間となる段差のある部分に接続する形で設けたことである(原告は平成20年12月12日付け意見書[乙5]においても同様の意見を述べている。)。 被告各蓋体の構成のように,フラップ部基端部が,色付領域とロゴ領域の境界の段差部分に形成されたとしても,その解決手段は,本件特許発明1における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものであるから,被告各蓋体と本件特許発明1との相違点は本件特許発明1の本質的部分に係るものではない。 (イ)置換可能性(第2要件)被告各蓋体は,色付領域とロゴ領域の境界の段差部分にフラップ部基端部が形成されており,色付領域の縁部は,第1キャビティ(蓋体本体部を形成する溶融樹脂が流入するキャビティ)から第2キャビティ(フラップ部を形成する溶融樹脂が流入するキャビティ)に流入する溶融樹脂に対する助走区間の役割を担うこととなり,その結果,第2キャビティ内に流入する溶融樹脂は金型成型工程にとって理想的なものとなり,フラップ部基端部の肉厚の均一化及び固化後の樹脂内の内部応力の均一化を図ることができるとの作用効果を奏する。 したがって,フラップ部基端部が色付領域の縁部に形成されている被告各蓋体においても,本件特許発明1の目的を達成することができるから,被告各蓋体が本件特許発明1と同一の作用効果を奏することは明らかである。 (ウ)置換容易性(第3要件)フラップ部基端部を色付領域の縁部に形成することは,本件特許発明1の構成を前提に考えれば,設計上の微差にすぎないから,被告各蓋体の製造時において,当業者が被告各蓋体の構成への置換を容易に想到できたことは明らかである。 (エ)公知技術から容易推考でないこと(第4要件)フラップ部基端部を色付領域の縁部に形成された被告各蓋体の構成からなる容器ないし蓋体は,本件特許出願時に見られなかった技術であるから,本件特許出願の時点で,公知技術から容易に推考できたとはいえない。 (オ)意識的除外等の特段の事情がないこと(第5要件)原告は,平成20年12月12日付け手続補正書により,特許請求の範囲に「一の領域」及び「縁部」等の要件を付加したが,被告各蓋体におけるような色付領域とロゴ領域の境界の段差部分にフラップ部の基端部を形成するという構成を意識的に除外したものではない。 (カ)したがって,被告各蓋体の構成は構成要件Eと均等である。 ウ被告の公知技術除外の主張について被告は,特開2004-123143号公報(乙4,以下「乙4公報」という。)の図1及び図3を見ると,フラップ部の基端部がフラップ部の先端部よりも蓋体本体部中心位置から近い位置(以下「Y位置」という。)に配されている蓋体が記載されているから,フラップ部の基端部がY位置に配されている蓋体は本件特許発明1の技術的範囲から除外すべきであって,本件特許発明1にはフラップ部の基端部がフラップ部の先端部よりも蓋体本体部中心位置から離れた位置(以下「X位置」という。)に配されるという構成要件を付加すべき旨を主張する。 しかし,被告の主張は,構成要件の一部に公知の部分があれば,その部分を除外し,代わりに新たな構成要件を付加すべきというものであり,かかる主張は公知技術除外論の解釈を誤ったものである。 本件特許発明1と乙4公報に記載の発明とは,?食材を加熱可能な容器である点,?空気抜き穴である点,?隆起部(周縁部と一の領域)を有する点,?一の領域の縁部にフラップ部の基端部が接続する点で相違しており,フラップ部の基端部の位置をX位置に限定しなければ本件特許発明1の新規性・進歩性が否定されるというものではない。 本件特許発明1は,フラップ部の基端部の位置を何ら限定するものではなく,フラップ部の基端部の位置についての要件を付加する理由はない。 エ被告の包袋禁反言の主張について被告は,原告が,フラップ部の基端部がY位置に配された蓋体(乙4公報に記載の発明,以下「乙4発明」という。)の存在により特許法29条1項3号に該当する旨の拒絶理由通知を受けたこと,その後,特許請求の範囲からフラップ部の基端部がY位置に配される蓋体に関する請求項を削除し,その結果,特許権の設定登録がされたことからすれば,フラップ部の基端部がY位置に配される蓋体が本件特許発明1の技術的範囲に属する旨を原告が主張することは,包袋禁反言の法理により許されない旨を主張する。 しかし,原告は,被告が指摘する補正手続をした際に提出した意見書(乙5)において,拒絶理由通知で指摘された乙4発明との相違点として,?食材を加熱可能な容器である点,?空気抜き穴である点,?隆起部(周縁部と一の領域)を有する点,?一の領域の縁部にフラップ部の基端部が接続する点を指摘しただけである。このように,原告は,フラップ部の基端部がX位置とY位置のいずれに配されるかという点を乙4発明との相違点として主張したわけではないし,また,特許請求の範囲からフラップ部の基端部がY位置に配される蓋体を削除したことにより特許査定を受けたわけでもない。 したがって,本件において,被告が主張するような包袋禁反言の法理が適用される余地はない。 オまとめ以上に検討したとおりであるから,被告各蓋体は,いずれも本件特許発明1の技術的範囲に属する。 【被告の主張】( )被告各蓋体の構成1アイ号蓋体ないしヘ号蓋体(ア)イ号蓋体ないしヘ号蓋体が,順に別紙物件目録1-1ないし6-1の( ),( ),( )及び図面に記載の構成を有することは認める。 134(イ)イ号蓋体ないしヘ号蓋体が,原告主張のa-1,b,d,f,g,h及びi-1の各構成を有することは認める。 (ウ)原告主張の構成cについて蓋体の外縁である周縁部から囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に隆起領域があることは認める。しかし,別紙物件目録1-1ないし6-1の参考図の色付領域だけでなく,ロゴ領域も隆起領域の一部である。 (エ)原告主張の構成eについて否認する。 イ号蓋体ないしヘ号蓋体は,フラップ部が隆起領域の内部に一体的に接続する基端部を備えている。 イト号蓋体ないしリ号蓋体(ア)ト号蓋体ないしリ号蓋体が,順に別紙物件目録7-1ないし9-1の( ),( ),( )及び図面に記載の構成を有することは認める。 134(イ)ト号蓋体ないしリ号蓋体が,原告主張のa’-1,b’,d’,f’,g’,h’及びi’-1の各構成を有することは認める。 (ウ)原告主張の構成c’について蓋体の外縁である周縁部から囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に隆起領域があることは認める。しかし,別紙物件目録7-1ないし9-1の色付領域だけでなく,ロゴ領域も隆起領域の一部である。 (エ)原告主張の構成e’について否認する。 ト号蓋体ないしリ号蓋体は,フラップ部が隆起領域の内部に一体的に接続する基端部を備えている。 ( )技術的範囲の属否2ア文言侵害について-構成要件Eを充足しないこと-(ア)「一の領域」の意味本件明細書(段落【0018】)では,一の領域について,周縁部から離間していること(構成要件C-1),空気抜き穴とフラップ部と凹領域を備えていること(構成要件D-1),外縁部の隆起が他の領域の隆起よりも高いこと(構成要件G-1),一の領域の上面は外縁部と一の領域の中間にある中間領域の上面よりも上方にあること,としか定義していないから,?周縁部から離間し,?空気抜き穴とフラップ部と凹領域を備え,?中間領域よりも隆起し,?周縁部の隆起よりも低い,という要件を満たすものが「一の領域」に該当する。 なお,本件特許発明1にいう「一の領域」とは本件明細書に記載されている「フラップ部周囲領域」であると解するほかないが,本件明細書によれば,この「フラップ部周囲領域」は,中間領域より上方に隆起し,その周縁部(縁部)にフラップ部の基端部が接続されており,開口部(空気抜き穴)と,下方に窪んだ凹領域と,凹領域より下方に窪んだ凹部を備える領域であるから,中間領域より隆起した領域であれば,その領域内に突起があっても,凹みがあっても,本件特許発明1にいう「一の領域」に該当することは否定されない。 (イ)「縁部」の意味「縁部」との要件は,平成20年12月12日付け手続補正書(乙6)により追加されたものであるが,原告は,同日付け意見書(乙5)において,願書に最初に添附した明細書(以下「当初明細書」という。)段落【0035】の「フラップ部(22)の基端部(221)は,フラップ部周囲領域(212)の周縁部に接続する。」との記載事項に基づく補正であると説明している。 そして,周縁とは,「まわり。ふち。」のことであるから,フラップ部周囲領域の周縁部とは,隆起領域(フラップ部周囲領域)の外側の縁,すなわち外縁部を指すものと理解される。 したがって,構成要件Eの「縁部」とは,一の領域の外縁部を意味する。 (ウ)被告各蓋体のロゴ領域は,周縁部から離間し(上記?),中間領域よりも隆起しており(上記?),周縁部の隆起よりも低い(上記?)。 そして,被告各蓋体は,ロゴ領域と色付領域とを一体として見れば,空気抜き穴,フラップ部及び凹領域を備えている(上記?)から,被告各蓋体のロゴ領域も,本件特許発明1の「一の領域」に相当する部分となる。 そうすると,被告各蓋体のフラップ部の基端部は一の領域の内部に接続しており,一の領域の外縁部に接続しているとはいえないから,被告各蓋体は構成要件Eを充足しない。 イ均等侵害について(ア)非本質的部分性について(第1要件)原告は,本件特許発明1の本質的部分について,一体成型によるフラップ付きの食材加熱容器を効果的に製造すべく,フラップ部基端部を溶融樹脂が流入する際の助走区間となる段差のある部分に接続する形で設けた点にあると主張するが,フラップ部の隆起縁部の基端部に接続させなくても,蓋体本体部とフラップ部を同時射出成型するのに何ら困難性はなく,フラップ部基端部を溶融樹脂が流入する際の助走区間など不要である。 後記ウ,エのとおり,フラップ部の基端部がY位置に配される蓋体は公知であり,原告は,平成20年12月12日付け手続補正書(乙6)により,特許請求の範囲からフラップ部の基端部がY位置に配される蓋体を削除し,同日付け意見書(乙5)において,フラップ部の基端部がX位置に配される蓋体の作用効果を主張したのであるから,本件特許発明1の本質的部分は,蓋体本体部にフラップ部が一体的に接続し,かつ,フラップ部の基端部がX位置に配されることにある。 しかるに,被告各蓋体は,蓋体本体部とフラップ部が一体的に接続しているが,フラップ部の基端部はY位置に配されているから,被告各蓋体と本件特許発明1との相違点は,本件特許発明1の本質的部分に係るものである。 (イ)置換可能性について(第2要件)助走区間となる段差のある部分にフラップ部基端部を設けることによって,原告が主張するようなフラップ部基端部の肉厚の均一化及び固化後の樹脂内の内部応力の均一化を図るという作用効果を奏するわけではない。被告各蓋体が本件特許発明1と同一の作用効果を奏するとする原告の主張は,その前提において失当である。 (ウ)公知技術からの容易推考性(第4要件)フラップ部基端部をどこに設けるかは単なる設計事項であり,被告各蓋体は公知技術から容易に推考することができる。 (エ)意識的除外(第5要件)後記エのとおり,原告は,出願手続において,被告各蓋体のようなフラップ部の基端部がY位置に配される蓋体を本件特許発明1の技術的範囲から意識的に除外している。 (オ)以上のとおりであるから,被告各蓋体は,本件特許発明1についての均等侵害の成立要件を充足しない。 ウ公知技術の除外特開2004-123143号公報(乙4)の図1及び図3を見ると,フラップ部の基端部がY位置に配されている蓋体が記載されており,このような蓋体は公知である。 したがって,フラップ部の基端部がY位置に配されている蓋体は本件特許発明1の技術的範囲から除外すべきであり,フラップ部の基端部がX位置に配されるという構成要件を付加すべきである。 そして,被告各蓋体は,フラップ部の基端部がフラップ部の先端部よりも蓋体本体部中心位置から近い位置(Y位置)に配されているから,本件特許発明1の技術的範囲には属さない。 エ包袋禁反言(ア)本件特許出願の願書に最初に添附された特許請求の範囲には,その請求項2に「前記フラップ部の基端部が,該フラップ部の先端部よりも,前記蓋体本体部中心位置から離れた位置(X位置)に配されることを特徴とする請求項1記載の蓋体。」と記載され,請求項3には「前記フラップ部の基端部が,該フラップ部の先端部よりも,前記蓋体本体部中心位置から近い位置(Y位置)に配されることを特徴とする請求項1記載の蓋体。」と記載されていた(乙1)。 その後,原告は,平成20年4月21日付け手続き補正書により特許請求の範囲を補正し,フラップ部の基端部がX位置に配される蓋体は請求項3に,フラップ部の基端部がY位置に配される蓋体は請求項4になった(乙2)。 ところが,原告は,フラップ部の基端部がY位置に配される蓋体が記載された引用文献があるので特許法29条1項3号に該当する旨の平成20年10月21日付け拒絶理由通知を受けたので,同年12月12日付け手続補正書(乙6)により,請求項4として記載していたフラップ部の基端部がY位置に配される蓋体を削除し,請求項3に記載していたフラップ部の基端部がX位置に配される蓋体については請求項7にして維持し,その結果,特許査定を受けた。 (イ)上記(ア)のような出願経過にかんがみると,原告が,本訴において,フラップ部の基端部がY位置に配される蓋体が本件特許発明1の技術的範囲に属すると主張することは,禁反言の法理により許されない。 被告各蓋体は,フラップ部の基端部がY位置に配されているから,本件特許発明1の技術的範囲には属さない。 オまとめ以上に検討したとおりであるから,被告各蓋体は本件特許発明1の技術的範囲に属さない。 2争点2(被告各容器は本件特許発明2の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】( ) 被告各容器の構成1アイ号容器ないしヘ号容器イ号容器ないしヘ号容器の構成は,別紙物件目録1-2ないし同目録6-2のとおりであり,本件特許発明2の構成要件に対応させて分説すると次のとおりとなる。イ号容器ないしヘ号容器は,蓋体として順にイ号蓋体ないしヘ号蓋体を使用しているため,蓋体に関する構成(以下のbないしh)は,イ号蓋体ないしヘ号蓋体の構成(上記1【原告の主張】( )アb1ないしh)と同じである。 a-2食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,当該容器胴体部の開口部を閉塞する略四角形の蓋体からなる食材を加熱可能な容器であり,b蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部は,容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合するように隆起しており,c周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に,平面視略四角形環状に隆起する領域(参考図において色彩を付した部分を指す)を備え,d前記隆起領域には,空気抜き穴と,当該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,当該フラップ部を収容する凹領域が設けられており,eフラップ部は,前記隆起領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっており,f前記フラップ部が前記凹領域に収容される位置にあるときに,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞することになり,g前記周縁部の隆起は,前記隆起領域の隆起よりも高く,h前記フラップ部が凹領域に収容されている位置にあるときに,前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成され,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立する位置にあるときには,前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすi-2容器。 イト号容器ないしリ号容器ト号容器ないしリ号容器の構成は,別紙物件目録7-2ないし同目録9-2のとおりであり,本件特許発明2の構成要件に対応させて分説すると次のとおりとなる。被告各容器7ないし被告各容器9は,蓋体として順に被告各蓋体7ないし被告各蓋体9を使用しているため,蓋体に関する構成(以下のb’ないしh’)は,被告各蓋体7ないし被告各蓋体9の構成(上記1【原告の主張】( )イb’ないしh’)と同じである。 1a’-2食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,当該容器胴体部の開口部を閉塞する略円形の蓋体からなる食材を加熱可能な容器であり,b’蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部は,容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合するように隆起しており,c’周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に,平面視略U字状に隆起する領域(参考図において色彩を付した部分を指す)を備え,d’前記隆起領域には,空気抜き穴と,当該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,当該フラップ部を収容する凹領域が設けられており,e’フラップ部は,前記隆起領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっており,f’前記フラップ部が前記凹領域に収容される位置にあるときに,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞することになり,g’前記周縁部の隆起は,前記隆起領域の隆起よりも高く,h’前記フラップ部が凹領域に収容されている位置にあるときに,前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成され,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立する位置にあるときには,前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなすi’-2容器。 ( )技術的範囲の属否2被告各容器の上記構成によれば,被告各容器が本件特許発明2の技術的範囲に属することは明らかである。 構成要件Eに関して文言侵害及び均等侵害が成立すること並びに被告の公知技術除外及び包袋禁反言の主張に対する反論については,上記1【原告の主張】( )で主張したとおりである。 2【被告の主張】( )被告各容器の構成1アイ号容器ないしヘ号容器(ア)イ号容器ないしヘ号容器が,別紙物件目録1-2ないし6-2の( ),( ),( )及び図面に記載の構成を有することは認める。 134(イ)イ号容器ないしヘ号容器が,原告主張のa-2,b,d,f,g,hびi-2の各構成を有することは認める。 (ウ)原告主張の構成cについて蓋体の外縁である周縁部から囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に隆起領域があることは認める。しかし,別紙物件目録1-2ないし6-2の参考図の色付領域だけでなく,ロゴ領域も隆起領域の一部である。 (エ)原告主張の構成eについて否認する。 イ号容器ないしヘ号容器は,フラップ部が隆起領域の内部に一体的に接続する基端部を備えている。 イト号容器ないしリ号容器(ア)ト号容器ないしリ号容器が,別紙物件目録7-2ないし9-2の( ),( ),( )及び図面に記載の構成を有することは認める。 134(イ)ト号容器ないしリ号容器が,原告主張のa’-2,b’,d’,f’,g’,h’及びi’-2の各構成を有することは認める。 (ウ)原告主張の構成c’について蓋体の外縁である周縁部から囲まれる領域内部において,周縁部から離間した位置に隆起領域があることは認める。しかし,別紙物件目録7-2ないし9-2の参考図の色付領域だけでなく,ロゴ領域も隆起領域の一部である。 (エ)原告主張の構成e’について否認する。 ト号容器ないしリ号容器は,フラップ部が隆起領域の内部に一体的に接続する基端部を備えている。 ( )技術的範囲の属否2構成要件Eに関して文言侵害及び均等侵害が成立しないこと並びに公知技術の除外及び包袋禁反言の法理により被告各容器が本件特許発明2の技術的範囲に属さないことについては,上記1【被告の主張】( )で主張したとお2りである。 3争点3-1(本件各特許発明は乙8発明等に基づいて当業者が容易に発明することができたものか)について【被告の主張】( )乙8発明1ア構成要件A-1,A-2の開示乙8発明は,「食品用ふた物」に係るものであり,乙8公報の斜視図には蓋が容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋付きの容器が描かれている。 したがって,乙8発明は,本件特許発明1の構成要件A-1及び本件特許発明2のA-2に相当する構成を備えている。 イ構成要件Bの開示乙8公報のA-A断面図を見れば,同図の蓋体の符号1の部分は,容器の開口部を形成する容器の縁部と嵌合するように隆起しており,蓋体の外周輪郭形状を定めていることは明らかであるから,本件各特許発明にいう「周縁部」に相当する。 したがって,乙8発明は本件各特許発明の構成要件Bに相当する構成を備えている。 ウ構成要件Cの開示乙8公報のA-A断面図を見れば,同図の符号2の部分は,周縁部から離間して隆起しているから,本件各特許発明にいう「一の領域」に相当する。 したがって,乙8発明は,本件各特許発明の構成要件Cに相当する構成を備えている。 エ構成要件Gの開示乙8公報のA-A断面図を見れば,符号1の部分(周縁部)の隆起は符号2の部分(一の領域)の隆起よりも高い。 したがって,乙8発明は,本件各特許発明の構成要件Gに相当する構成を備えている。 オ構成要件I-1,I-2の開示乙8公報には蓋体を備える容器が記載されているから,乙8発明は,本件特許発明1の構成要件I-1及び本件特許発明2の構成要件I-2に相当する構成を備えている。 ( )乙4発明2ア構成要件Dの開示乙4発明は,開閉蓋付き蓋体容器に係るものである。 乙4発明の小径の注出口(4a)は,蓋体(2)の天板部(2a)の一部の片寄りに設けられ,容器の中身を取り出す小径の注出口であるから(乙4公報段落【0013】),本件各特許発明にいう「空気抜き穴」に相当する。 乙4発明の嵌合筒壁(3a)は,ヒンジ蓋(3)の内面に突設されており,注出口(4a)の内周面に嵌合して密着するから(乙4公報段落【0018】),本件各特許発明にいう「空気抜き穴を閉塞可能な突起部」に相当する。 乙4発明のヒンジ蓋(3)は,嵌合筒壁(3a)が形成されているので,本件各特許発明にいう「フラップ部」に相当する。 乙4発明の開口蓋面(4)は,ヒンジ蓋の下に凹状に連接して形成されているから(乙4公報段落【0015】),本件各特許発明にいう「フラップ部を収容する凹領域」に相当する。 したがって,乙4発明は本件各特許発明の構成要件Dに相当する構成を備えている。 イ構成要件Eの開示乙4発明では,ヒンジ蓋(3)が蓋体(2)の天板(2a)にヒンジ(3b)を介して開閉自在に連結させるように形成されているから(乙4公報段落【0015】),ヒンジ(3b)は本件各特許発明にいう「基端部」に相当する。 乙4発明では,ヒンジ蓋(3)と蓋体(2)を一体に成形している(乙4公報段落【0013】)。 したがって,乙4発明は,本件各特許発明の構成要件Eに相当する構成を備えている。 ウ構成要件Fの開示乙4発明では,ヒンジ蓋(3)は,閉じたときには開口蓋面(4)に収容され,同時に,嵌合筒壁(3a)が注出口(4a)の内周面に密着している(乙4公報図2,段落【0018】)。 したがって,乙4発明は,本件各特許発明の構成要件Fに相当する構成を備えている。 エ構成要件Hの開示乙4発明のヒンジ(3b)は,ヒンジ蓋(3)が閉じているとき,開口蓋面(4)に相対している溝となり,また,ヒンジ(3b)の反対側の面(蓋体2の表面)は,フラットに形成されているのでヒンジ蓋(3)を開口蓋面(4)に対して直立させたときに平坦な面をなす(乙4公報図2,図4)。 したがって,乙4発明は,本件各特許発明の構成要件Hに相当する構成を備えている。 ( )進歩性の欠如3電子レンジ対応の容器の蓋体にフラップ付きの加熱用空気抜き穴を配設するのは,本件特許出願当時,本件各特許発明に関する技術分野では常識であったから(乙9,10),乙8発明の容器の蓋構造に乙4発明のフラップ構造を空気抜きとして組み合わせることは,当業者が容易になし得たことである。 そして,乙8発明の容器の蓋に空気抜きのフラップ構造を配置するとすれば,本件各特許発明にいう「一の領域」に相当する部分に配置することは普通に考えられることである上,フラップの基端部を中央よりに配置するか,縁寄りに配置するか,縁に接続して配置するかということに技術的な困難性はない。 したがって,本件各特許発明は,乙8発明等に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 【原告の主張】( )構成要件Eに相当する構成が開示されていないこと1被告は,乙4及び乙8ないし乙10を指摘して本件各特許発明が進歩性を欠くと主張するが,乙8に記載の蓋体にはそもそもフラップ部が記載されていないし,乙9及び乙10に記載の蓋体については,フラップ部の記載はあるものの,フラップ部は蓋体とは別の部材から構成されている上,フラップ部の基端部は一の領域の縁部に接続していない。 また,乙4公報には,フラップ部の記載があるものの,このフラップ部の基端部も一の領域の縁部に接続していない。 被告が指摘する上記各証拠には,本件各特許発明を特徴付ける構成要件Eに関する構成が開示されてないから,これらの証拠から本件各特許発明に想到することができないことは明らかである。 ( )乙4発明と乙8発明を組み合わせることの阻害要因の存在2乙4発明の容器は,調味料等の粉粒体を収容するための粉体容器であって,食材を収容して加熱可能な容器ではなく,設けられた穴は粉体振出用穴であって空気抜き穴ではない。粉体振出用穴は,容器を傾けて粉体を振り出した時に粉体が蓋体上面に付着しないように蓋体の周縁部近傍に設ける必要があるため,粉体振出用穴を塞ぐためのフラップ部も必然的に蓋体の周縁部近傍に設けられることとなる。 他方,乙8発明の容器の蓋構造は,周縁部が隆起しているから,その構造からして周縁部近傍にフラップ部を設けることは困難である。 したがって,乙8発明の容器の蓋構造に乙4発明のフラップ構造を組み合わせることには阻害要因がある。 ( )フラップ部の基端部の位置について3被告は,乙8発明の容器の蓋に空気抜きのフラップ構造を配置するとすれば,本件各特許発明にいう「一の領域」に相当する部分に配置することは普通に考えられることであるところ,フラップの基端部を中央よりに配置するか,縁寄りに配置するか,縁に接続して配置するかということに技術的な困難性はないから,本件各特許発明に想到することは容易である旨主張する。 しかし,フラップ部の基端部が蓋体に一体的に接続する蓋体を製造するための金型構造においては,基端部が一の領域の縁部に接続されている場合,一の領域の縁部の隆起部が,フラップ部以外の部分を形成するキャビティ(第1キャビティ)からフラップ部を形成するキャビティ(第2キャビティ)に溶融樹脂が流入する際の助走区間の役割を果たして溶融樹脂の流入を円滑に誘導する効果を有するものであるから,フラップ部の基端部の位置は重要な技術的意義を有するものである。被告の上記主張は失当である。 ( )したがって,本件各特許発明は,乙8発明等に基づいて当業者が容易に発4明することができたとはいえない。 4争点3-2(サポート要件違反があるか)について【被告の主張】本件明細書の記載からは,本件各特許発明においてはフラップ部の基端部の配される位置はX位置であるとしか解釈することができない。 したがって,フラップ部の基端部がY位置に配された蓋体あるいは容器が本件各特許発明の技術的範囲に含まれるというのであれば,本件特許には特許法36条6項1号に違反する無効理由がある。 【原告の主張】本件明細書の段落【0023】には,フラップ部の基端部の配される位置がX位置でもY位置でもよいことが記載されているのであるから,特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細な説明に記載されている。したがって,本件特許は特許法36条6項1号に違反しない。 5争点4(原告の損害の額)について【原告の主張】原告は,平成18年11月から現在に至るまで,本件特許発明2に係る容器を製造販売している。 被告は,平成20年12月ころから,被告各容器を製造販売しており,平成21年2月から7月までの販売数量は42万個を下らない。 被告による被告各容器の出荷価格は142.5円であり,利益率は30%である。 したがって,特許法102条2項により,原告の損害は1795万5000円と推定される(42万個×142.5円/個×0.3=1795万5000円)。 【被告の主張】争う。 第4当裁判所の判断1争点1(被告各蓋体は本件特許発明1の技術的範囲に属するか)及び争点2(被告各容器は本件特許発明2の技術的範囲に属するか)について当裁判所は,被告各製品はいずれも構成要件Eを充足しないことから,被告各蓋体は本件特許発明1の技術的範囲に属するものではなく,被告各容器は本件特許発明2の技術的範囲に属するものではないと判断するが,その理由は以下に詳述するとおりである。 ( )「一の領域の縁部」の意義1ア構成要件Eに係る特許請求の範囲は,「前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,」というものである。 原告は,被告各製品の色付領域が本件各特許発明にいう「一の領域」に相当し,被告各製品のフラップ部は色付領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えているから,被告各製品は構成要件Eを充足すると主張する。 これに対し,被告は,被告各製品の色付領域だけでなくロゴ領域も本件各特許発明にいう「一の領域」に相当するから,被告各製品のフラップ部の基端部は「一の領域」の内部に接続していることになり,したがって,構成要件Eの「前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備える」との要件を充足しないと主張する。 そこで,まず,本件各特許発明にいう「一の領域」の意義について検討し,さらに,それに基づいて「一の領域の縁部」の意義について明らかにする。 イ特許請求の範囲の記載特許請求の範囲には,「一の領域」について,「周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する」領域であること(構成要件C),「空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え」ていること(構成要件D),「周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高」いこと(構成要件G)が記載されている。 ウ本件明細書の記載特許請求の範囲の「一の領域」という用語は,後記検討する平成20年12月12日付け手続補正書(乙6)による補正で特許請求の範囲に追加されたものであるが,その補正に際し,明細書の発明の詳細な説明中に「一の領域」との用語を用いた説明を追加する補正はしなかったため,本件明細書中には「一の領域」という用語についての説明はもとより,その用語そのものの記載がない。 ただし,後記エで認定するとおり,特許請求の範囲に「一の領域」なる用語を追加する補正は,下記の本件明細書の【発明の詳細な説明】の【発明を実施するための最良の形態】の段落【0033】ないし段落【0037】の記載を根拠とするものである。 記(ア)段落【0033】「蓋体(2)は,略平板状に形成される蓋体本体部(21)と,フラップ部(22)を備える。 蓋体本体部(21)は,蓋体本体部(21)外周輪郭形状を定める周縁領域(211)と,フラップ部(22)周囲を取り囲むフラップ部周囲領域(212)と,周縁領域(211)とフラップ部周囲領域(212)の間に配されるとともにこれら領域(211,212)を接続する中間領域(213)の3つの領域からなる。図1(判決注:下記図1)及び図2(判決注:下記図2)に示す蓋体(2)においては,フラップ部周囲領域(212)は,蓋体本体部(21)の中央部分を占めるが,本発明においては,これに限定されるものではなく,周縁領域(211)に隣接して形成されてもよい。」図1 図2(イ)段落【0034】「図1及び図2に示す例において,周縁領域(211)とフラップ部周囲領域(212)は,中間領域(213)に対して上方に隆起している。 また,周縁領域(211)は,フラップ部周囲領域(212)よりも高く隆起している。」(ウ)段落【0035】「・・・フラップ部(22)の基端部(221)は,フラップ部周囲領域(212)の周縁部に接続する。フラップ部(22)は,基端部(221)を軸として,上下に回動可能である。」(エ)段落【0036】「フラップ部(22)下面には,突起部(222)が形成される。フラップ部周囲領域(212)には,開口部が形成される。フラップ部(22)が下方に回動し,フラップ部(22)が,フラップ部周囲領域(212)上面に対して並行に配されると,突起部(222)は,開口部(121)と嵌合する。」(オ)段落【0037】「・・・フラップ部周囲領域(212)は,下方に窪んだ凹領域(122)と,凹領域(122)に隣接して形成されるとともに凹領域(122)よりも深く窪んだ凹部(123)を備える。 フラップ部(22)が,下方に回動し,フラップ部(22)の上面が蓋体本体部(21)の上面に対して平行となったとき,フラップ部(22)の弧状に湾曲した先端部(224)の一部が,凹部(123)上部を横切り,凹部(123)で形成される空間上部で側方に突出する。また,フラップ部(22)の領域のうち凹部(123)上部を横切る領域以外の領域は,凹領域(122)と重なり合う。 開口部(121)は,凹領域(122)内に形成される。フラップ部(22)が,下方に回動し,フラップ部(22)の上面が蓋体本体部(21)の上面に対して平行となったとき,突起部(222)の周面に形成された突条部(223)は,蓋体(2)下面と係合する。この状態において,フラップ部(22)上面は,凹領域(122)を取り囲むフラップ部周囲領域(212)の上面と面一となる。 このように凹部(123)が,フラップ部周囲領域(212)に形成されることで,凹部(123)中に使用者が指を挿入可能となり,指先でフラップ部(22)を引掛け,フラップ部(22)を上方に回動させることが容易となる。また,突起部(222)で開口部(121)を閉塞したとき,フラップ部(22)上面は,フラップ部周囲領域(212)上面から突出することがない。したがって,本発明の容器(1)を,例えば,冷蔵庫に収容したとき,他の容器を本発明の容器(1)上に積み重ねやすくなる。」エ出願経過特許請求の範囲の「一の領域」という用語は,平成20年12月12日付け手続補正書(乙6)による補正で特許請求の範囲に追加されたものであるが,その補正の経緯は,証拠(甲2,乙1ないし乙6)によれば,次のとおりと認められる。 (ア)原告は,平成19年10月11日に本件特許出願をし,その後,平成20年4月21日付け手続補正書を提出して特許請求の範囲を補正した。同補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項13(順に現時点の請求項1及び請求項9に対応する。)の記載は次のとおりであった。 (乙2)【請求項1】「食材を収容する容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋体であって,前記蓋体の外周輪郭形状を定める周縁領域を備える蓋体本体部と,直線状に形成された基端部を備え,該基端部を軸として回動可能に前記蓋体本体部と接続する平板状のフラップ部を備え,前記基端部は,前記外周輪郭より内方に存する領域内に位置し,該外周輪郭より内方に存する領域には,開口部が設けられ,前記フラップ部下面には,該フラップ部が前記蓋体本体部に平行に配される第1位置にあるとき,前記開口部を閉塞する突起部が形成され,前記蓋体本体部と前記フラップ部が一体的に同時射出成形型により形成されることを特徴とする蓋体。」【請求項13】「食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部上面の開口部を閉塞する蓋体からなる容器であって,前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定める周縁領域を備える蓋体本体部と,直線状に形成された基端部を備え,該基端部を軸として回動可能に前記蓋体本体部と接続する平板状のフラップ部を備え,前記基端部は,前記外周輪郭より内方に存する領域内に位置し,該外周輪郭より内方に存する領域には,開口部が設けられ,前記フラップ部下面には,該フラップ部が前記蓋体本体部に平行に配される第1位置にあるとき,前記開口部を閉塞する突起部が形成され,前記蓋体本体部と前記フラップ部が一体的に同時射出成形型により形成されることを特徴とする容器。」(イ)特許庁審査官は,原告に対し,平成20年10月21日付け拒絶理由通知書により,同年4月21日付け手続補正書による補正後の請求項1及び請求項13を含む発明について,引用文献として乙4発明を指摘し,同文献に記載の蓋体は,本体部とフラップを一体的に形成する手段が明らかではない点で本件発明と一見相違するが,「成型方法は製造プロセスであって,物である蓋体の相違を把握できる事項ではないから,両者は物として相違しない」などとして特許法29条1項3号等に該当するとの拒絶理由通知を発した。 (乙3)(ウ)原告は,上記(イ)の拒絶理由通知を受け,平成20年12月12日付けの手続補正書により,特許請求の範囲につき,上記(ア)の請求項1を現在の請求項1の内容(前記第2・1( )アの【請求項1】)に,上1記(ア)の請求項13を現在の請求項9の内容(前記第2・1( )アの 1【請求項9】)にそれぞれ補正した。 そして,原告は,同日付けの意見書(乙5)を提出し,その意見書において,補正後の特許請求の範囲に「一の領域」に関する要件を追加したことに関して下記の意見(乙5・5丁目以下)を述べた(下記意見書中の記載において指摘された出願時明細書の段落【0033】ないし段落【0037】の記載は,本件明細書の段落【0033】ないし段落【0037】に対応している。)。(甲2,乙1,5,6)記『補正後請求項1の「該周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する一の領域を備え,」との発明特定事項に係る補正は,出願時明細書段落番号(0033)の「蓋体本体部(21)は,蓋体本体部(21)外周輪郭形状を定める周縁領域(211)と,フラップ部(22)周囲を取り囲むフラップ部周囲領域(212)と,周縁領域(211)とフラップ部周囲領域(212)の間に配されるとともにこれら領域(211,212)を接続する中間領域(213)の3つの領域からなる」との記載事項及び出願時明細書段落番号(0034)の「図1及び図2に示す例において,周縁領域(211)とフラップ部周囲領域(212)は,中間領域(213)に対して上方に隆起している。」との記載に基づく。 補正後請求項1の「該一の領域は,空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え,」との発明特定事項に係る補正は,出願時明細書段落番号(0033)の「蓋体本体部(21)は,蓋体本体部(21)外周輪郭形状を定める周縁領域(211)と,フラップ部(22)周囲を取り囲むフラップ部周囲領域(212)と,周縁領域(211)とフラップ部周囲領域(212)の間に配されるとともにこれら領域(211,212)を接続する中間領域(213)の3つの領域からなる。」との記載事項,出願時明細書段落番号(0036)の「フラップ部周囲領域(212)には,開口部(121)が形成される。フラップ部(22)が下方に回動し,フラップ部が,フラップ部周囲領域(212)上面に対して平衡に配されると,突起部(212)は,開口部(121)と嵌合する。」との記載事項・・・及び出願時明細書段落番号(0037)の「フラップ部周囲領域(212)は,下方に窪んだ凹領域(122)と,凹領域(122)に隣接して形成されるとともに凹領域(122)よりも深く窪んだ凹部(123)を備える。」との記載事項に基づく。 補正後請求項1の「前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,」との発明特定事項に係る補正は,・・・出願時明細書段落番号(0035)の「フラップ部(22)は,平面視略半楕円形状をなす薄板状の部材であり,直線状に形成された基端部(221)を備える。フラップ部(22)の基端部(221)は,フラップ部周囲領域(212)の周縁部に接続する。」との記載事項に基づく。 ・・・補正後請求項1の「前記周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高く,」との発明特定事項に係る補正は,出願時明細書段落番号(0034)の「また,周縁領域(211)は,フラップ部周囲領域(212)よりも高く隆起している。」との記載事項に基づく。 ・・・補正後請求項9の「前記蓋体が,・・・を特徴とする容器。」との発明特定事項は,上記補正後請求項1の発明特定事項に対応し,上記補正後請求項1に示す補正の根拠と同一記載を補正の根拠とする。』ただし,原告は,特許請求の範囲に「一の領域」との用語を追加等する補正をしたが,明細書中に「一の領域」との用語を用いた説明を追加する補正はしなかったため,本件明細書中には「一の領域」という用語についての説明はもとより,その用語そのものの記載がない。 (エ)平成20年12月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に基づいて,平成21年1月8日に特許査定がされ,平成21年1月30日,本件特許権の設定登録がなされた。(甲1)オ検討(ア)以上に基づいて検討するに,特許請求の範囲の記載からは,「一の領域」とは,周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間して隆起し,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を備える,周縁部の隆起よりも低い領域を意味すると理解することができる。そして,特許請求の範囲の記載からは,「一の領域」は上面(最も高い面)から窪んだ領域として凹領域を有するものと理解することができるが,凹領域のほかに上面から窪んだ領域を有する態様を除外しているとまで解することはできない。 そして,本件明細書の記載をみても,「一の領域」の意義を一義的に明らかにする記載はない。 (イ)しかしながら,本件特許の出願経過を見ると,上記エのとおり,原告が,平成20年12月12日付け手続補正書により補正を行い,特許請求の範囲の請求項1及び請求項9に「一の領域」という用語を追加し,「一の領域」に関する構成として,「該周縁部により囲まれる領域内部において,前記周縁部から離間して隆起する一の領域を備え,該一の領域は,空気抜き穴と,該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,該フラップ部を収容する凹領域を備え,前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,」,「前記周縁部の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高く」という要件を追加した上,同日付け意見書において,出願時明細書の段落【0033】ないし【0037】の「フラップ部周囲領域」に関する記載を補正の根拠とする旨の意見を述べ,この補正後の特許請求の範囲に基づいて特許査定及び特許権の設定登録がなされたことが認められる。 このように,原告は,出願時明細書の段落【0033】ないし段落【0037】に記載された「フラップ部周囲領域」を「一の領域」に該当するものとして上記の特許請求の範囲の補正をしたことが明らかであるから(なお,補正後の特許請求の範囲の記載によれば,一の領域はフラップ部を備えるとされているから,フラップ部周囲領域とフラップ部を併せたものが一の領域とする趣旨であると考えられる。),かかる出願の経緯にかんがみれば,特許請求の範囲に記載された「一の領域」の意義については,出願時明細書の上記各段落に対応する本件明細書の記載部分(段落【0033】ないし段落【0037】)における「フラップ部周囲領域」に関する記載を参酌して解釈するのが相当である。 (ウ)そこで,本件明細書の段落【0033】ないし段落【0037】について見てみると,本件明細書の上記各段落には,フラップ部周囲領域は,フラップ部周囲を取り囲む領域であり,蓋体本体部の外周輪郭形状を定める周縁領域と中間領域によって接続されていること,フラップ部周囲領域は,中間領域に対して上方に隆起しているが,その隆起は周縁領域の隆起よりも低いこと,フラップ部周囲領域には,フラップ部に形成された突起部と嵌合する開口部,フラップ部を収容する下方に窪んだ凹領域と,凹領域に隣接して形成されるとともに凹領域よりも深く窪んだ凹部を備えていることが記載されている。本件明細書のかかる記載は,特許請求の範囲から理解される「一の領域」の上記意味内容と整合するものであり,とりわけ,フラップ部周囲領域が上面(最も高い面)から窪んだ領域として凹領域に加えて凹部を備えていると記載されていることからすれば,「一の領域」は凹領域以外に窪んだ領域を有する態様を含むものと理解するのが素直である。 そして,本件明細書の他の記載を見ても,「一の領域」あるいは「フラップ部周囲領域」に関して,上記で検討した意味内容と異なるような説明をしている個所は見当たらない。 (エ)したがって,本件特許発明にいう「一の領域」とは,周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間して隆起し,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を備える,周縁部の隆起よりも低い領域を意味し,凹領域のほかに一の領域の上面(最も高い面)から窪んだ領域を有する態様も含むものと解するのが相当である。 (オ)そして,以上に基づいて「一の領域の縁部」の意義について検討すべきところ,「縁」とは字義的には「へり。ふち。」を意味し(広辞苑第6版),また本件明細書(段落【0034】,図1及び図2)においても,フラップ部の基端部がフラップ部周囲領域のへりの部分に接続している態様が記載されているから,「一の領域の縁部」とは要するに「一の領域」のへりの部分を指すものと解される。 (カ)以上の解釈を総合すると,構成要件Eにいう「前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備える」とは,周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間して隆起し,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を備える,周縁部の隆起よりも低い領域を意味し,凹領域のほかに一の領域の上面(最も高い面)から窪んだ領域を有する態様も含む「一の領域」のへりの部分にフラップ部が一体的に接続する基端部を備えていることを意味するものと解するのが相当である。 ( )被告各製品との対比2アイ号蓋体ないしヘ号蓋体について(ア)イ号蓋体ないしヘ号蓋体の構成イ号蓋体ないしヘ号蓋体が,順に別紙物件目録1-1ないし6-1の( ),( ),( )及び図面に記載の構成を有すること,「a-1内部に 134食材を収容し,当該食材を加熱可能な容器における容器胴体部上方の開口部を閉塞する略四角形の蓋体であって,」,「b蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部は,容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合するように隆起しており,」,「d色付領域(別紙物件目録1-1ないし6-1の参考図において色彩が付された部分)には,空気抜き穴と,当該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,当該フラップ部を収容する凹領域が設けられており,」,「f前記フラップ部が前記凹領域に収容される位置にあるときに,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞することになり,」,「g前記周縁部の隆起は,前記色付領域の隆起よりも高く,」,「h前記フラップ部が凹領域に収容されている位置にあるときに,前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成され,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立する位置にあるときには,前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなす」及び「i-1蓋体」との各構成を有することは争いがない。 また,証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば,?イ号蓋体ないしヘ号蓋体には,周縁部と色付領域との間に配されて周縁部と色付領域とを接続する平坦な領域(以下「中間領域」という。)があること,?色付領域は,平面視略四角形環状に隆起する領域であり,その領域に接続した内側には「unix」というロゴタイプが記載された領域(ロゴ領域)が配置されていること,?色付領域とロゴ領域は,いずれも,蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部によって囲まれる領域内部において,周縁部から離間して中間領域に対して上方に隆起しているが,その隆起は周縁部の隆起よりも低いこと,?色付領域の隆起は,ロゴ領域の隆起よりも高いこと,?フラップ部は,色付領域とロゴ領域が接する段差のある部分(色付領域が形成する環状内側のへりの部分)に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっていること,以上の事実が認められる。 (イ)構成要件Eとの対比以上を前提に,まずイ号蓋体ないしヘ号蓋体が構成要件Eにいう「一の領域」に相当する部分を備えるかを検討する。 上記(ア)のとおり,イ号蓋体ないしヘ号蓋体のロゴ領域が平面視略四角形環状の色付領域の内側に接続して配置されていること,色付領域とロゴ領域は隆起の程度は異なるが,いずれも両領域と周縁部との間に配置された中間領域との関係では上方に隆起していることからすれば,かかる隆起領域は,周縁部により囲まれる領域内部においては,周縁部から離間して隆起したものとしての一体性があるといえる。すなわち,イ号蓋体ないしヘ号蓋体においては,色付領域及びロゴ領域は一体となってまとまりのある隆起領域を形成していると捉えることが相当である。 そして,イ号蓋体ないしヘ号蓋体のかかる隆起領域は,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を備えており,また周縁部の隆起よりも低い領域であることが認められるから,これらは本件特許発明1にいう「一の領域」に相当するものと認めるのが相当である(なお,色付領域の隆起は,ロゴ領域のロゴタイプそのものの隆起よりも高く,その間に高低差があることが認められるが,上記( )で説示したとおり,本件各特許発明にいう1「一の領域」は,凹領域のほかに一の領域の上面(最も高い面)から窪んだ領域を有する態様をも含むものと解されるから,色付領域とロゴ領域に高低差があることは,これらを一体のものと見て「一の領域」と認定することを妨げるものではない)。 そうすると,イ号蓋体ないしヘ号蓋体においては,フラップ部は,色付領域とロゴ領域が接する段差のある部分に一体的に接続する基端部を備えているところ,上記認定説示のとおり,色付領域とロゴ領域を併せた一体の隆起領域が本件各特許発明にいう「一の領域」に相当するのであるから,上記認定のフラップ部が一体的に接続する基端部は「一の領域」の内部に備わっているのであって,一の領域の「縁部」に備わっているとはいえないことになる。 したがって,イ号蓋体ないしヘ号蓋体は,構成要件Eの「前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備える」との要件を充足するとはいえない。 イト号蓋体ないしリ号蓋体について(ア)ト号蓋体ないしリ号蓋体の構成ト号蓋体ないしリ号蓋体が,順に別紙物件目録7-1ないし9-1の( ),( ),( )及び図面に記載の構成を有すること,「a’-1内部134に食材を収容し,当該食材を加熱可能な容器における容器胴体部上方の開口部を閉塞する略円形の蓋体であって,」,「b’蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部は,容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合するように隆起しており,」,「d’色付領域(別紙物件目録7-1ないし9-1の参考図において色彩が付された部分)には,空気抜き穴と,当該空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,当該フラップ部を収容する凹領域が設けられており,」,「f’前記フラップ部が前記凹領域に収容される位置にあるときに,前記突起部が前記空気抜き穴を閉塞することになり,」,「g’前記周縁部の隆起は,前記色付領域の隆起よりも高く,」,「h’前記フラップ部が凹領域に収容されている位置にあるときに,前記フラップ部の前記凹領域に相対する面には,凹溝が形成され,前記フラップ部が前記凹領域に対して直立する位置にあるときには,前記凹溝が形成される面とは反対側の面は平坦な面をなす」及び「i’-1蓋体」との各構成を有することは争いがない。 また,証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば,?ト号蓋体ないしリ号蓋体には,周縁部と色付領域との間に配されて周縁部と色付領域とを接続する平坦な領域(以下「中間領域」という。)があること,?色付領域は,平面視略U字状に隆起する領域であり,その内側の略長方形部分に「unix」というロゴタイプが記載されたロゴ領域が接続して配置されていること,?ただし,ロゴ領域を形成する略長方形の一辺は,中間領域に直接,接続していること,?色付領域とロゴ領域は,いずれも,蓋体の外周輪郭形状を定める周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間して中間領域に対して上方に隆起しているが,その隆起は周縁部の隆起よりも低いこと,?色付領域の隆起は,ロゴ領域の隆起よりも高いこと,?フラップ部は,色付領域とロゴ領域が接する段差のある部分(そのうち色付領域が形成する略U字状の内側に形成される略長方形部分の底辺に接する部分)に一体的に接続する基端部を備えて,当該基端部を軸に回動するようになっていることが認められる。 (イ)構成要件Eとの対比上記(ア)のとおり,ト号蓋体ないしリ号蓋体のロゴ領域が平面視略U字形状の色付領域に接続してその内側に配置されており,色付領域とロゴ領域はいずれも中間領域に対して上方に隆起しているという構造からすれば,ト号蓋体ないしリ号蓋体においては,色付領域とロゴ領域を併せた平面視略U字形状の領域が一体となってまとまりのある隆起領域を形成していると捉えるのが相当である。 そして,ト号蓋体ないしリ号蓋体のかかる隆起領域は,周縁部により囲まれる領域内部において,周縁部から離間して隆起し,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を備える,周縁部の隆起よりも低い領域であることが認められるから,色付領域とロゴ領域の双方を含む一体の隆起領域をもって,本件特許発明1にいう「一の領域」に相当するものと認めるべきである。 そうすると,ト号蓋体ないしリ号蓋体においては,フラップ部は,色付領域とロゴ領域が接する段差のある3方向の部分のうちロゴ領域が中間領域に直接接続する部分の対面方向の位置にある部分に一体的に接続する基端部を備えているところ,上記認定説示のとおり,色付領域とロゴ領域を併せた一体の隆起領域が本件各特許発明にいう「一の領域」に相当するのであるから,上記認定のフラップ部が一体的に接続する基端部は「一の領域」の内部に備わっているのであって,一の領域の「縁部」に備わっているとはいえないことになる。 したがって,ト号蓋体ないしリ号蓋体は,構成要件Eの「前記フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備える」との要件を充足するとはいえない。 ウ被告各容器についてイ号容器ないしリ号容器は,蓋体として順にイ号蓋体ないしリ号蓋体を使用しているから,被告各蓋体について上記で検討したところと同様,被告各容器についても構成要件Eを充足すると認めることはできない。 ( )均等侵害の成否3ア原告は,被告各製品が構成要件Eの「フラップ部は,前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部を備える」との要件を充足しないとしても,フラップ部基端部を色付領域とロゴ領域が接する段差部分に形成する構成を備える被告各容器は,本件特許権の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件各特許発明の技術的範囲に属すると解すべき旨を主張する。 イ被告各製品に特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,?該部分が特許発明の本質的部分ではなく,?該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?このように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないことの5つの要件(以下,順に「第1ないし第5要件」という。)を充足するのであれば,被告各製品は本件特許権の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり,本件各特許発明の技術的範囲に属するということができる(最高裁第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。 ウそこで,まず上記5要件のうち,第1要件について検討するため,本件各特許発明の本質的部分について検討すると,以下の点が指摘できる。 (ア)本件明細書の【発明が解決しようとする課題】には「・・・特許文献1に開示される容器は,従来の使用上の不便性を解消する優れた機能を発揮するが,製造コストが高いという問題点を有する。なぜなら,特許文献1の蓋体(L)は,多くの工程を要する2段成型プロセスを経て製造されるからである。」(段落【0007】),「図16に示す容器(C)は,2段成型プロセスを用いることなしに製造可能であるので,工程の煩雑さが低減される。しかしながら,尚,組み立て工程が必要とされ,十分に製造コストの低減を図ることはできない。更に,図16に示す容器(C)は,他の問題を招来する。即ち,フラップ部(F)と蓋体(L)は,組み立て工程により一体化されているものの,本来的には別個の部品である。したがって,長期間使用している間に,フラップ部(F)が蓋体(L)から外れてしまうという問題が発生する。フラップ部(F)を再装着可能な構造を採用することにより,フラップ部(F)が蓋体(L)から外れるという問題を緩和できるが,蓋体(L)から外れたフラップ部(F)を紛失した場合には,最早,修復不可能である。」(段落【0009】),「本発明は,上記実情を鑑みてなされたものであって,煩雑な製造プロセスを要することなしに製造可能な蓋体を提供することを目的とする。本発明の他の目的は,蓋体からフラップ部が外れることのない蓋体を提供することである。本発明は,更に,このような蓋体を利用した容器を提供する。」(段落【0010】)と記載されており,これらの記載は,フラップ部に関する構成が,本件各特許発明が解決しようとする課題に直接結びついてることを示しているといえる。 (イ)そして,証拠(乙4,乙8ないし乙10)によれば,公知技術に関し,?本件特許の優先日前に発行された乙8公報には,「食材を収容する容器の開口部を閉塞する蓋であって,前記蓋の外周輪郭形状を定めるととともに,前記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合するように隆起した周縁部と,該周縁部により囲まれる領域内部において,周縁領域から離間して隆起する隆起領域を備え,周縁部の隆起は,前記隆起領域よりも高い蓋体」(乙8発明)が記載されていること,?電子レンジ対応の容器の蓋体に,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を形成することは本件技術分野において技術常識であったこと,?本件特許の優先日前に発行された乙4公報には,容器の蓋体として,ヒンジ蓋3(フラップ部に相当するもの)を一体的に成形しているものが記載されていること,以上の事実が認められ,これら公知技術の内容に照らせば,蓋体にフラップ部を配設する手段として「一の領域の縁部」に一体的に接続する基端部を備えるという構成を採用したことが,従来技術には見られない本件各特許発明の特徴であるということができる。 (ウ)以上を総合すると,本件各特許発明は,蓋体にフラップ部を設けるという公知の構成を前提に,煩雑な製造プロセスを要することなく製造可能であり,蓋体からフラップ部が外れることのない蓋体を提供することを目的として,フラップ部が「一の領域の縁部」に一体的に接続する基端部を備えるという構成を採用したものであり,この点に本件各特許発明の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分があると認められ,上記構成が本件各特許発明の本質的部分であると解される。 そうすると,被告各製品のフラップ部が「一の領域」の縁部ではなく,その内部に一体的に接続する基端部を備えているという相違点は,本件各特許発明の本質的部分に係る相違というべきであることになるから,被告各製品は,本件特許の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものという原告の主張は採用できないことになる。 エこれに対し,原告は,本件各特許発明の本質的部分は,一体成型によるフラップ付きの食材加熱容器を効果的に製造すべく,フラップ部基端部を溶融樹脂が流入する際の助走区間となる段差のある部分に接続する形で設けたことにあるとし,フラップ部基端部を色付領域とロゴ領域が接する段差部分に形成するという被告各製品の解決手段は,本件各特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものであるから,被告各製品は,本件各特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等である旨の主張をする。 しかしながら,一体成型によるフラップ付きの食材加熱容器を効果的に製造すべく,フラップ部基端部を溶融樹脂が流入する際の助走区間となる段差のある部分に接続する形で設けたという原告主張にかかる解決手段の原理は,原告が公知技術を引用してなされた拒絶理由通知を受けてした補正手続に際して提出した意見書(乙5)において,引用された公知技術との差異として記載されているにすぎないものである。すなわち,本件明細書中には,煩瑣な製造プロセスをなくすという解決課題は明示されているものの,そこからさらに進んで,上記意見書に記載されたような溶融樹脂の流入を効率よくするという具体的な解決課題は記載されておらず,またフラップ部が「一の領域の縁部」に接続する基端部を備えることが,上記の効果をもたらし,その課題についての解決方法になることを示唆する記載も全くない。 そもそも特許法が,発明と出願による公開と引き換えに特許権を付与する仕組みを採用していることからするならば,均等の範囲に及んで特許権としての保護を受けるためには,当然,その本質的部分とされるべき技術的思想が明細書に開示されていなければならないことはもとより明らかなことである。 そうすると,明細書に明示されていないが出願手続中の意見書にだけ表れた記載に基づいて本件特許発明の本質的部分を認定して,これに基づいて被告各製品が本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるということはできないということになるから,均等を主張する原告の上記主張はこの点で既に採用できない(原告がいう本件各特許発明の本質的部分によれば,フラップ部の基端部が接続される段差のある部分は,溶融樹脂がフラップ部に流入する際の助走区間となることが前提となるが,本件明細書中,【発明を実施するための最良の形態】の図6に示された溶融樹脂を射出する射出口は,フラップ部の基端部が接続された段差のある側ではなくフラップが垂直に起立する側にあるから,射出口から射出された溶融樹脂が段差のある部分にいかなる態様で流出し,そこから段差のある部分を助走路としてフラップ部に流入するか,その詳細は明らかではないといえる。また射出口との位置関係をおいたとしても,段差のある部分は,「一の領域」と中間領域の接続する部分に形成されるところ,中間領域は,「一の領域」よりも低い位置関係にあるから,その位置関係からしても,フラップに溶融樹脂が流入する経路が,高い位置にある「一の領域」側からではなく低位置の中間領域側から段差のある部分を助走路として流入するという説明もにわかに理解し難い。)。 オさらに上記( )オで検討した本件特許請求の範囲の補正の経緯に鑑みれ1ば,原告は,本件特許の出願手続において,フラップ部の基端部を「一の領域の縁部」に限定し,反射的にフラップ部の基端部を「一の領域」の別の場所に配置する構成を意識的に除外したものということができるから,「一の領域」の内部にフラップ部の基端部を配置した被告各製品の構成は,本件各特許発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたものということができる。 そうすると,被告各製品が本件各特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるかという点については,上記イの第5要件も充足しないものということにもなる。 カしたがって,被告各製品が,本件特許の特許請求の範囲記載の構成と均等である旨の原告主張は採用できない。 ( )以上に検討したとおり,被告各蓋体が本件特許発明1の技術的範囲に属す4るとは認められず,被告各容器も本件特許発明2の技術的範囲に属するとは認められない。 したがって,被告各製品を製造販売等する被告の行為は原告の本件特許権を侵害するものではない。 第5結語以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森崎英二 |
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裁判官 | 達野ゆき |
裁判官 | 山下隼人 |