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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ15276特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術的手段 /  先行技術 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明の利用 /  出願審査請求 /  権利移転 /  クレーム /  権利の濫用(権利濫用) /  優先日 /  対象製品 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  間接侵害 /  構成要件 /  課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  移転登録 /  発明の範囲 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 10511号 特許権侵害差止等請求事件

原告 ダイソー株式会社
訴訟代理人弁護士 滝井朋子
被告 大機エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 溝上哲也
同 岩原義則
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/10/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙目録(1)記載のイ号物件及びロ号物件を製造し、譲渡し、譲渡の申し出をしてはならない。
2 被告は、その占有する別紙目録(1)記載のイ号物件及びロ号物件並びにこれらの半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、5514万6678円及びこれに対する平成14年10月25日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「酸素発生陽極及びその製法」に関する特許権並びに「電解法」に関する特許権を有する原告が、被告製品である電極について、(1)その電極の製造、譲渡、譲渡の申し出が上記「酸素発生陽極及びその製法」に関する特許権を侵害するものであり、これによって原告が損害を被ったと主張して、その製造、譲渡、譲渡の申し出の差止め、その製品及び半製品の廃棄並びに損害の賠償を、
(2)被告がその電極を第三者に製造、譲渡、譲渡の申し出をした行為が、@上記「電解法」に関する特許権の間接侵害にあたると主張して、その製造、譲渡、譲渡の申し出の差止め、その製品及び半製品の廃棄を、A被告はその電極の譲渡を受けた第三者との共同不法行為によって上記「電解法」に関する特許権を侵害したものであって、これによって原告が損害を被ったと主張して、損害の賠償を、それぞれ求めた事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。) (1)ア 原告は、下記@及びAの各特許権(以下、「本件A特許権」及び「本件B特許権」といい、それぞれの明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件A発明」及び「本件B発明」と、それぞれの特許権にかかる明細書を「本件A明細書」及び「本件B明細書」という。)を有している(ただし、本件B特許権については、原告は、平成13年8月15日に権利移転登録を受けたものである。)(甲1ないし4)。
@ 本件A特許権 発明の名称 酸素発生陽極及びその製法 出願日 平成元年4月21日 出願番号 特願平1-103003号 公開日 平成2年11月20日 公開番号 特開平2-282491号 登録日 平成8年10月24日 特許番号 第2574699号 特許請求の範囲の請求項1は、別紙第2574699号特許公報(甲1)の該当欄記載のとおり A 本件B特許権 発明の名称 電解法 出願日 平成2年2月13日 出願番号 特願平2-29769号 優先日 平成元年2月14日 公開日 平成2年10月26日 公開番号 特開平2-263999号 登録日 平成12年10月27日 特許番号 第3123744号 特許請求の範囲の請求項1は、別紙第3123744号特許公報(甲3)の該当欄記載のとおり。
イ 本件A発明の構成要件は、次のとおり分説される。
A@ バルブ金属又はその合金よりなる導電性金属基体上に AA 350〜550℃の熱分解温度で AB 白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質を被覆した電極において、
AC 該基体と電極活性被覆層との間に、スパッタリング法により形成された結晶性金属タンタルを主成分とする AD 厚さ1〜3ミクロンの薄膜中間層を設けたことを特徴とする AE 酸素発生陽極。
ウ 本件B発明の構成要件は、次のとおり分説される。
B@ 少なくとも1個の陽極と少なくとも1個の陰極とを設けた電解槽内で BA 亜鉛化合物又は錫化合物を溶解、含有する酸性の水性電解液を電解することからなる工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法において、
BB 前記の電解液のpHはpH5又はそれ以下の強酸性のpH値であり、
BC 50〜70℃の電解液温度で、
BD 10キロアンペア/u〜40キロアンペア/uの陽極電流密度にて電流を流し、
BE 陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下で前記の電解を行うことからなり、
BF しかも上記の陽極としては、
BG-1(1) チタンまたはチタン合金製の支持体(基材)の表面上に (2) タンタルまたはタンタル合金製の外方表面層を設け (3) 且つ該外方表面層の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極、
-2(1) もしくは、タンタルまたはタンタル合金製の支持体(基材)の上に (2) 酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする、
BH 陽極の長時間の耐用寿命を有する電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法。
(2) 被告は、電極を製造し、新日本製鐵株式会社及び株式会社神戸製鋼所(両社をまとめて以下「訴外2社」という。)に対し、これを販売し、また、訴外2社の求めに応じて、訴外2社が使用した後の被告製電極に被覆加工をして納品している。
被告が製造し、訴外2社に対して販売した電極は、平成14年2月までは商品名「ハイデュラロード」(以下「イ号物件」という。)であり、平成14年5月以降は商品名「ハイデュラロードII」(以下「ロ号物件」という。)である(ただし、その構成については後記のとおり争いがある。)。
イ号物件及びロ号物件は、少なくとも、本件A発明の構成要件A@ないしB及びEを充足する。
2 争点 (1) イ号物件及びロ号物件は本件A発明の技術的範囲に属するか ア 技術的範囲の解釈 〔原告の主張〕 (ア) 本件A発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるとおりのものである。
したがって、本件A発明における構成要件ACのタンタルは、その特許請求の範囲に明確に記載されている「結晶性金属タンタル」であって、その全部すなわちα型、β型のいずれをも包含するものである。
(イ) 結晶性金属タンタルの中間層の厚みは、厚みを測定する場合の通常の方法に従って、実測によることが最も望ましい。
しかし、本件A明細書の実施例1の計算と同一の計算方法によって具体的膜厚を算出するのであれば、ここに示されている数値は、その表記方法が、
「40g」、「3ミクロン」という形式であることから、有効数字1桁であることが明らかであり、したがって、「40g」とあるのは「35〜44g」と、「3ミクロン」とあるのは「2.5〜3.4ミクロン」と読むべきである。また、計算にあたっては、タンタルの真の比重を用いて計算するべきであって、被告が後記〔被告の主張〕(イ)で主張するような換算をすべきものではない。
〔被告の主張〕 (ア) 本件A特許の出願経過及び審判経過、さらに、後記(2)〔被告の主張〕のとおり、本件A特許に記載不備及び進歩性欠如の無効理由があることに照らすと、仮に、本件A特許権が有効であるとしても、各先行技術文献に開示された技術事項などからして、結晶性金属タンタルを主成分とする中間層をスパッタリング法により導電性金属基体上に形成させる点は当業者にとって容易であり、その効果も当業者が予測可能なものであって進歩性を欠くというべきであるから、ただ本件A明細書において開示され、その作用が確認されている実施条件、すなわち、@350〜550℃の熱分解温度で電極活性物質を被覆する、Aα型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層を形成させる、B中間層の厚さは1〜3ミクロンとするという条件に限定して特許性が認められたものにすぎないというべきである。原告も、本件A特許の出願過程において、中間層となる結晶性タンタルがα-タンタルであると認識し、そのことを前提に手続補正をし、意見を述べている。
したがって、本件A発明の技術的範囲もそのようなものに限定して解釈されるべきであり、構成要件ACの「結晶性金属タンタル」とは、α結晶構造のタンタルのみを意味し、構成要件ADの中間層の厚さは、厳密に1〜3ミクロンの範囲内にあることが必要である。
(イ) 結晶性金属タンタルの中間層の厚みの計測を、陽極中の任意の1点ないし2点の実測によることは、測定物を破壊する必要があり、現実の製品の製造販売過程においてはとり得ない方法である上に、実際の製品電極の厚みを正確に把握することもできない。最も一般に採用され、製造現場で品質管理に用いるのに適した計測方法は、被覆された中間層の質量と被覆面積から、タンタルの比重を用いてタンタル中間層の厚みを換算する重量法であり、本件A明細書の実施例1においても、このような重量法が用いられている。
ただし、上記の重量法による場合において、タンタルの比重に真密度(16.654)を用いると、実際にスパッタされた皮膜に生じる、原子空孔やピンホール等の隙間の部分が入っていない結果を示すものとなるので、その厚みは実際の厚みより過小評価されていることになる。本件A発明においては、その実施例1で、「このチタン板を乾燥後、高周波スパッタリング装置を用いて1時間処理を行いタンタルとして40g/u、厚さ3ミクロンのα型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層を基体上に形成させた。」とあるから、ここから計算すると、実際の厚みを判断する見かけ密度としては、13.333を用いるべきである(すなわち、イ号製品及びロ号製品のタンタル中間層の厚みは、タンタルの真密度を用いた計算値と比べれば、16.654/13.333=1.25 倍の厚みで換算するべきである)。
なお、原告は、本件A明細書の実施例1の表記において示されている数値は、有効数字1桁であると主張する。そもそも、有効数字とは、測定された数字を使う場合に、測定方法、測定機器の正確さが問題となるときに議論されるものであって、そもそも換算された数字に対して用いることはない。
そして、本件A明細書の実施例1では、1mm×30mm×10mmのチタン試料を用いているところ、これにチタンの比重(4.54g/cm3)を乗じると、試料重量は、1.362gとなる。ここで、本件A明細書記載の40g/uという重量は、0.012g に相当するから、1.362gのチタン板に、0.012gのタンタルをスパッタ法でコーティングしたことになり、その重量は、
1.362g+0.012g=1.374gであったと考えられる。そうすると、
重量の測定は最低4桁は読み取れる機器で測定されているはずであり、その重量差は、0.012gであるので、有効数字は2桁以上であったと考えるのが自然である。
もしも仮に、重量の差の側定値の有効数字が1桁であったとするならば、0.012gの最後の数字である「2」、すなわち、小数点以下3桁目を考慮できない測定をしていることになる。つまり、1.36g(1.355g〜1.364gに相当する)のチタン板にタンタルをスパッタし、1.37g(1.365g〜1.374gに相当する)の試料となったのであるから、1.365g-1.364g=0.001gから、1.374g-1.355g=0.019g相当のタンタルがスパッタされたことになる。そうするとこの実施例1では、0.001g/(10mm×30mm)=3.3g/uから 0.019g/(10mm×30mm)=63.3g/uという数字になってしまう。したがって、有効数字を1桁として測定機器を用いたならば、測定値で35〜44を意味する実施例1の40g/uという数字は、出るはずがない。
本件A発明の明細書全体の記載から判断して、40という数字は、測定値ではなく、厚さ3ミクロンを確保するために必要なタンタルの単位あたりの重量の換算値と見るべきであり、これを測定値として見たとしても、その有効数字は少なくとも2桁であって、その意味するところは39.5〜40.4と解するべきである。
また、原告は、実施例1のタンタルスパッタ膜厚さ「3ミクロン」の記載も有効数字1桁であると主張しているが、この記載は、特許の権利範囲を画する数値的限界を示すものであり、しかもその範囲は、「1ミクロン以上3ミクロン以下」なのであるから、その実施例1において表記が1桁であることを奇貨として有効数字も1桁であると主張するのは、許されるべきことではない。
構成要件の充足性 〔原告の主張〕 (ア) イ号物件の構成は、別紙目録(1)に記載のとおりであり、これを分説すると以下のとおりである。
a@ チタンよりなる基体上に、
aA 400℃〜500℃の熱分解温度で、
aB 酸化タンタルを混入した酸化イリジウムからなる電極活性物質を被覆した電極において、
aC 該基体と電極活性被覆層との間に、スパッタリング法により形成されたα相β相混合の結晶性金属タンタルを主成分とする aDイ 厚さ3ミクロン(誤差±0.5ミクロン)の薄膜中間層を設けた aE 酸素発生陽極。
(イ) なお、上記ア〔原告の主張〕(イ)のとおり、タンタルの真の比重を用い、有効数字1桁として計算すると、イ号物件が上記構成aDイを備えることは被告も自認するところである。また、イ号物件である、甲第6号証の1ないし3の写真の被写体である電極において、その中間層を実測した結果(甲5、8)も、イ号物件が上記構成aDイを備えることを裏付けている。
(ウ) 上記イ号物件の構成aC及びDを、本件A発明の構成要件AC及びDと対比すると、以下のとおりとなる。
C α相β相混合の結晶性金属タンタルは、両相の混合割合の如何を問わず、結晶性金属タンタルである。したがって、aCはACを充足する。
なお、イ号物件には、イリジウムのタンタルへの拡散層は存在しないが、仮に、被告が主張するように、イリジウムがタンタルスパッタ層に拡散しているとしても、この構成要件を充足することには変わりがない。
D イ号物件における中間層の厚さは本来3ミクロンであるべきことを意図して形成されている。ただ、スパッタリング加工技術の問題として、現実の生産品においては、±0.5ミクロンの範囲のばらつき誤差を生じている。したがって、イ号物件における中間層の厚さは3ミクロンとみなされるべきである。
したがって、aDイはADを充足する。
(エ) 以上のとおり、イ号物件は本件A発明の構成要件を全て充足する。
したがって、イ号物件は本件A発明の技術的範囲に属する。
〔被告の主張〕 (ア) イ号物件の構成は、別紙目録(2)に記載のとおりである。
(イ) イ号物件は、電極活物質層である酸化イリジウムを表面に担持する前段階において、チタン基体と酸化イリジウムとの界面にβ相を含む結晶構造のタンタルスパッタ膜を介在させ、担持の際の熱処理によりタンタルの結晶構造がβ相からα相に変化する時に形成される白金族金属であるイリジウムのタンタルへの拡散層が形成されることを特徴とするものであるから、その表面から順に、@酸化イリジウム層、Aイリジウムのタンタルへの拡散層、Bタンタルスパッタ層、Cチタン基体、という4層の構造を有しており、基体と電極活性物質被覆層との間にタンタルの中間層が形成されていない。すなわち、このイリジウムのタンタルへの拡散層が存在していれば、この拡散層では、タンタル-イリジウムの合金が形成されることにより、タンタル酸化物の成長が生じにくくなって、被告製品電極に独自の優れた耐久性を発揮させていることになるから、原告主張のように、拡散層の存在を無視し、または、単なる付加にすぎないということはできない。
また、イ号物件において形成されているタンタルスパッタ層は、α結晶構造ではなく、α相とβ相が混在した結晶質タンタルの層であるところ、上記ア〔被告の主張〕(ア)のとおり、本件A発明における「結晶性金属タンタル」とは、
α結晶構造のタンタルのみを意味すると解すべきであるから、イ号物件において形成されているタンタルスパッタ層は、本件A発明における「スパッタリング法により形成された結晶性金属タンタルを主成分とする…薄膜中間層」に該当しない。
したがって、イ号物件は、本件A発明の構成要件AC及びDを充足しない。
(ウ) 中間層の厚さの測定に際してとるべき方法は、上記ア〔被告の主張〕(イ)のとおりである。そうすると、別紙目録(2)添付イ号物件一覧表及びロ号物件一覧表の各「A特許換算膜厚」欄に記載のとおり、イ号物件におけるタンタルスパッタ層の厚さは、いずれも3ミクロンを超えている。そして、上記ア〔被告の主張〕(ア)のとおり、本件A発明の構成要件ADにおける「厚さ1〜3ミクロン」は、厳密に解すべきである。
したがって、イ号物件は、本件A発明の構成要件ADを充足しない。
(エ) なお、原告がイ号物件であると主張する、甲第6号証の1ないし3の写真の被写体である電極のうち、甲第6号証の1の写真の被写体である電極は、
仮にこれが被告製の電極であるとしても、被告が新日本製鐵八幡製鐵所(以下「八幡製鐵所」という。)において評価試験を行い、その終了後に八幡製鐵所が保管していた被告所有の試験用電極であり、そもそも試験研究のため使用されたもので、
品質検査も行なわれていないものである。また、甲第6号証の2の写真の被写体である電極は、元々は、被告が製造し、八幡製鐵所において評価試験に使用された試験用電極であったものが、八幡製鐵所において保管中に再生用電極として製品化されたものである可能性が高い。さらに、甲第6号証の3の写真の被写体である電極に至っては、被告製の電極であるかも明らかではない。
このような電極の中間層を測定しても、イ号物件が原告主張の構成aDイを備えることの裏付けにはならない。
しかも、原告が測定結果とする甲第5、第8号証も、各1点ないし2点において測定したものにすぎず、その測定点数があまりに少なく、加えて測定結果の正確性にも問題がある。
したがって、甲第6号証の1ないし3の写真の被写体である電極の中間層の測定結果は、イ号物件が構成aDイを備えることを裏付けるものではない。
(オ) 以上のとおりであるから、イ号物件は構成要件AC及びDを充足せず、本件A発明の技術的範囲に属しない。
均等の成否 〔原告の主張〕 (ア) イ号物件及びロ号物件の構成は、別紙目録(1)に記載のとおりであり、イ号物件の構成を分説すると上記イ〔原告の主張〕(ア)のとおりであり、ロ号物件の構成は、イ号物件における構成aDイを下記aDロに置き換えることを除くほか、イ号物件と同一である。
aDロ 厚さ4ミクロン(誤差±0.5ミクロン)の薄膜中間層を設けた (イ) 上記イ号物件及びロ号物件の構成aCを、本件A発明の構成要件ACと対比すると、上記イ〔原告の主張〕(ウ)のとおり、aCは構成要件Cを充足する。したがって、イ号物件及びロ号物件は、少なくとも、本件A発明の構成要件A@ないしC及びEをいずれも充足する。
(ウ) ロ号物件の中間層の厚さは、3ミクロンを超えるが、以下のとおり、ロ号物件は本件A発明の構成と均等である。また、イ号物件の中間層の厚さは、上記イ〔原告の主張〕(ウ)のとおり3ミクロンとみなされるべきであるが、仮に中間層の厚さが3ミクロンを超えるものがあったとしても、ロ号物件と同様に本件A発明の構成と均等である。
すなわち、本件A発明は、高温・高電流密度・強酸という過酷条件下で電解を行うことによって実行される電気メッキ用に用いられる、バルブ金属等の導電性金属基体上に白金族金属等の電極活性物質を被覆した酸素発生用不溶性電極において、避けることのできなかった不働態化による短寿命という欠点の克服を課題とし、該基体と電極活性物質被覆層との間に、スパッタリング法により形成される結晶性金属タンタルを主成分とする薄膜中間層を設けることによりこれを解決したものであり、この点が本件A発明の技術的本質部分である。この際に、スパッタリング法という手法は、高価金属である結晶性金属タンタルを極薄膜として極力少量を用いながら、しかも均質かつ強固に膜を形成し得るという経済的有利性を伴う技術的利点をもたらす勝れた技術的手段であり、本件A発明の構成要件ADにおけるこの薄膜中間層の厚さ「1〜3ミクロン」は、こうした作用効果を達成し得る最有利な極限的数値として示されている。したがってこの中間層の厚さは、その経済的有利性を犠牲にすることをいとわなければ、若干増加したとしても、その技術的作用効果において何らの差異を生じないことは、上記の技術的原理からして当然のことである。
いわゆる均等の5要件に照らし、ロ号物件やイ号物件のうち中間層の厚さが3ミクロンを超えるものについて検討するに、中間層の厚さが3ミクロンより1(±0.5)ミクロン厚いという構成をとっても、(1)本件A発明の上記本質的部分に何らの変化を及ぼすものではなく、(2)本件A発明の目的を当然に達成することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)当業者が容易に想到し得る構成であり、(4)もとより、公知技術ではなく、またこれから推考容易でもなく、(5)拒絶理由除去のため意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情も存しない。
(エ) したがって、ロ号物件やイ号物件のうち中間層の厚さが3ミクロンを超えるものは、本件A発明の構成と均等というべきであり、本件A発明の技術的範囲に属する。
〔被告の主張〕 (ア) イ号物件及びロ号物件の構成は、別紙目録(2)に記載のとおりであり、ロ号物件の構成は、タンタルスパッタ層の厚さを3.5ないし4ミクロンと限定している点でイ号物件と異なり、他は同一である。
(イ) 上記イ〔被告の主張〕(イ)で述べたところは、ロ号物件においても同様である。
したがって、上記イ〔被告の主張〕(イ)で述べたとおり、イ号物件及びロ号物件は、いずれも、本件A発明の構成要件AC及びDを充足しない。
(ウ) 本件発明の構成要件ADのうち、薄膜中間層の厚さ「1〜3ミクロン」については、以下の理由から、これを超える厚さの構成を有する物件が本件A発明の構成と均等になることはないというべきである。
(a) 数値限界のある構成要件については、均等論は、そもそも適用されない。
そもそも、数値が構成要件化されている場合に、均等論の主張によって数値の拡大が許されるならば、誤差が必然的に生じる製品が対象となる場合でさえ、「もし、特許発明の要件の数値に対象製品の公差あるいは製造上の誤差の数値が加減されるものとすれば、対象製品の公差あるいは製造上の誤差の大小によって、特許発明の要件の数値の範囲が変化することになり不合理である。」(東京高等裁判所平成4年1月31日判決・知的財産権関係民事・行政裁判例集24巻1号128頁)として、構成要件の数値の範囲の変化を認めなかった判例の趣旨が没却される。つまり、数値が構成要件化されている場合には、構成要件の解釈は一律であって、技術的思想が同一か否かを問わず、その数値を拡大する均等論は認められないと解すべきである。
(b) 均等の第1要件について 本件A明細書において、「厚さ1〜3ミクロンの薄膜中間層を設けたことを特徴とする酸素発生陽極である。」、「本発明の目的を達成するためには1ミクロン以上の厚みを必要とする。通常厚み3ミクロンで十分である。」という記載があることに照らすと、「1〜3ミクロンの薄膜中間層」が本件A発明の特徴であり、その数値範囲は必要な条件とされているというべきである。そして、本件A明細書の記載によれば、本件A発明は、「金属タンタルを主成分とする薄膜中間層を設けることにより、従来問題視されていた電極基体と電極活性物質層との間に生じる不働態化現象を防ぎ電極活性物質の利用効率を改善することができ」るという作用効果を奏するとされているのであるから、「1〜3ミクロンの薄膜中間層」がA特許発明の本質的部分であることは明らかである。
したがって、中間層の厚さについて、「1〜3ミクロン」と異なる構成を有する物件は、いわゆる均等の第1要件を満たさない。
(c) 均等の第4要件について 本件A特許について、進歩性欠如の無効理由があることは、後記(2)〔被告の主張〕ウのとおりである。
そして、中間層の厚さについていえば、中間層の厚さを1〜20ミクロンとする特開昭53-95180号公報(乙29)が本件A特許の出願以前に公開されており、当業者が容易に推考できたものである。厚み1〜20ミクロンが既に公知であった以上、本件A特許の1〜3ミクロンに至るのは、容易であったといわざるを得ない。
したがって、中間層の厚さについて、「1〜3ミクロン」と異なる構成を有する物件は、いわゆる均等の第4要件を満たさない。
(d) 均等の第5要件について 本件A特許の出願当初の明細書には、中間層の厚さについて、「中間層は電極基体表面に完全に被膜できなくても基体の保護効果はかなり得られるが、本発明の目的を達成するためには0.5ミクロン更に好ましくは1ミクロン以上の厚みを必要とする。」と記載されていたところ、原告は、審査請求時に自発補正し、中間層につき、「通常厚み5ミクロン未満、特に3ミクロン以下が好ましい」との記述を追加した。
さらに、原告は、本件A特許につき拒絶査定を受け、その不服審判の手続中において、手続補正書を提出し、特許請求の範囲を、「厚さ1〜3ミクロンの薄膜中間層」と減縮する訂正をしている。また、原告は、上記拒絶査定不服審判における平成6年1月26日付審判請求理由補充書において、「スパッタリング法による金属タンタル薄膜の厚さは1〜3ミクロンが適当である。…また、この範囲より厚い被膜はスッパタリング法による加工が非常に困難となり高価な金属タンタルの使用上、経済的に好ましくない。さらに厚いタンタル膜は応力による剥離を起こし易い欠点がある。」と説明しており、厚さの上限値を3ミクロンとし、それ以上の厚さを意識的に除外している。
以上の経過に照らせば、原告は、本件A特許の出願手続において、
薄膜中間層の厚さにつき、3ミクロンを超えるものを特許請求の範囲から意識的に除外したものであるというべきである。したがって、薄膜中間層の厚さについて、
3ミクロンを超える構成を有する物件は、いわゆる均等の第5要件を満たさない。
以上のとおりであるから、中間層の厚さが3ミクロンを超える物件は本件A発明の構成と均等になることはない。
ところで、中間層の厚さの測定に際してとるべき方法は、上記ア〔被告の主張〕(イ)のとおりである。そうすると、別紙目録(2)記載のとおり、イ号物件及びロ号物件におけるタンタルスパッタ層の厚さは、いずれも3ミクロンを超えている。
したがって、イ号物件及びロ号物件は、中間層の厚さの点だけを捉えても、本件A発明の構成と均等ではない。
(エ) 以上のとおりであるから、イ号物件やロ号物件について、原告が主張する均等は成立せず、これらは本件A発明の技術的範囲に属しない。
(2) 本件A特許に無効理由が存在することが明らかか 〔被告の主張〕 ア 本件A特許には、以下のとおり、明細書の記載不備及び進歩性の欠如という無効理由が存在することが明らかである。
このような無効理由が存在することが明らかな本件A特許権に基づく本件請求は、権利の濫用であって許されない。
イ 明細書の記載不備 本件A特許の出願過程において、拒絶理由通知に対応して、本件A発明の請求項1について、スパッタリング法により形成するタンタルを「結晶性金属タンタル」と補正している。これに対し、審判官から、「溶射技術によるもの及び非晶質によるものの各中間層と本願結晶質(スパッタリング法)との電極耐用性のデータが不明。」との質問がなされたにもかかわらず、スパッタリングで非晶質タンタル層の形成ができず、この点の対比成績がでないとの応答がなされるのみで、非晶質層と結晶質層の作用の差が不明なまま、請求項に「結晶性金属タンタル」の記載がなされているという不備がある。
また、本件A明細書の実施例1においては、「α型結晶構造のタンタル」とされていて、本願発明電極の中間層のX線回折図としても、α-タンタルスパッタリング被膜のみが提出されているにもかかわらず、特許請求の範囲の記載においては、β-タンタルが含まれるかのような「結晶性金属タンタル」の記載にとどまっているという不備もある。そもそも、結晶性金属タンタルには、α-タンタル(体心立方構造)とβ-タンタル(正方晶系構造)があり、従来技術では、基板上に酸素基あるいは水酸基の存在することがβ-タンタルの形成に不可欠であって、特にチタンの基体上にはβ-タンタルの形成が困難であるが、本件A発明が実施例1にないβ-タンタルを含むものとすれば、どのようにしてβ-タンタルを形成し、その結果、どのような効果があるのかが、データの裏付けをもって開示されなければならないのに、本件A発明において当業者が実施できる程度にこの点が開示されているとはいえない。
本件A明細書には、これらの点について全く記載がないから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されておらず、特許請求の範囲発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないから、特許法36条4項及び5項に違反する記載不備の無効理由があることが明らかである。
進歩性の欠如 (ア) 本件A発明は、その出願前に刊行されていた文献である、特開昭48-40676号公報(乙4)、特開昭62-284095号公報(乙5)、特開昭59-96287号公報(乙25)、特開昭53-95180号公報(乙29)、特開昭63-235493号公報(乙30)、特開昭56-71821号公報(乙31)及び昭和62年11月30日に東京大学出版会から発行された、堂山昌男他編「材料テクノロジー9『材料のプロセス技術I』」(乙18)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたもので、進歩性を欠くものであり、
特許法29条2項の無効理由があることが明らかである。
(イ) 本件A特許については、平成4年8月5日の出願審査請求の際の補正時に、@α型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層を形成させる、
A薄膜中間層の厚さは1〜3ミクロンとするとの実施条件を追加したという経過が存在するところ、これらは、出願当初の明細書に記載がなく、またその記載から見て自明な事項でもないから、上記補正は、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内ではなく、要旨を変更するものというべきである。このような場合、特許出願は手続補正書が提出された時にしたものとみなされるから、本件A発明の進歩性を判断するにあたっては、上記(ア)で掲げた文献に加えて、上記補正前に公開されていた、特開平2-247393号公報(乙6)及び特開平2-263999号公報(乙27)も、参酌されるべきである。
そして、本件A発明は、上記(ア)で掲げた各文献並びに上記の特開平2-247393号公報(乙6)及び特開平2-263999号公報(乙27)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたもので、進歩性を欠くものであるから、やはり特許法29条2項の無効理由があることが明らかである。
〔原告の主張〕 ア 本件A特許には、上記〔被告の主張〕イの記載不備はない。
すなわち、被告が指摘する特許庁審判官からの質問に対し、原告が回答したことで、発明の範囲は明確であるとして特許査定されたものである。
また、本件A特許の出願当時、結晶性金属タンタルにはα型、β型の二型が存在し、スパッタリング膜形成の際には操作条件の変更で例えばα型でもβ型でも簡単に作製され得ること、いずれの型であれ両型とも結晶性金属タンタルであることは公知の知見であった。
したがって、本件A特許に、被告が主張するような記載不備による無効理由は存在しない。
イ(ア) 上記〔被告の主張〕ウ(ア)で被告が掲げる文献によっては、当業者において本件A発明に容易に想到することはできない。
(イ) 本件A発明の構成要件は、金属タンタルをα型結晶構造に限定するものではなく、薄膜中間層の厚さについては、出願当初の明細書中に、「0.5ミクロン更に好ましくは1ミクロン以上の厚み」及び「3ミクロンの金属タンタルを主成分とする中間層」という記載が存在するのであるから、平成4年8月5日の補正は要旨変更にあたるものではない。
さらに、上記〔被告の主張〕ウ(ア)で被告が掲げる文献に加え、〔被告の主張〕ウ(イ)で被告が掲げる文献によっても、当業者において本件A発明に容易に想到することはできない。
(ウ) したがって、本件A特許に、被告が主張するような進歩性欠如による無効理由は存在しない。
(3) 訴外2社はイ号物件及びロ号物件を用いて本件B発明の技術的範囲に属する方法を実施しているか 〔原告の主張〕 ア 本件B発明の技術的範囲は、本件B明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるとおりのものである。
したがって、本件B発明の構成要件BG-1(2)のタンタルの外方表面層は、その厚みが5ミクロン以上のものに限定されない。(以下,閲覧制限により中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〔被告の主張〕 ア 後記(5)〔被告の主張〕のとおり、本件B特許は、進歩性の欠如という無効理由を有することに照らすと、仮に本件B特許権が有効であるとしても、本件B明細書に金属タンタル層の厚さについて「少なくとも5μm以上」等と記載されていることや、本件B特許権の請求項5において、金属タンタル層の厚さが「5ミクロン〜5mmの厚さ」とされていることから、少なくとも、本件B発明の技術的範囲については、その構成要件BG-1(2)の「タンタルまたはタンタル合金製の外方表面層」の厚みが、5ミクロン以上のものと限定して解釈されるべきである。
ところで、イ号物件及びロ号物件の構成は、別紙目録(2)に記載のとおりであり、そのタンタル層の厚さは5ミクロンに満たないから、イ号物件ないしロ号物件を用いた電気亜鉛メッキ法は構成要件BG-1(2)を充足せず、したがって、本件B発明の技術的範囲に属することはない。
イ イ号物件及びロ号物件の構成は、別紙目録(2)に記載のとおりであるところ、前記(1)イ〔被告の主張〕(イ)のとおり、イ号物件及びロ号物件は、いずれも、その表面から順に、@酸化イリジウム層、Aイリジウムのタンタルへの拡散層、Bタンタルスパッタ層、Cチタン基体とからなる4層の構造を有しており、タンタルの外方表面層の次にイリジウムのタンタルへの拡散層があるから、タンタルの外方表面層の次に酸化イリジウム層であることが必要である構成要件BG-1(3)前段を充足しない。
また、イ号物件及びロ号物件において、電気触媒的活性物質被覆層は酸化イリジウム層であるから、イ号物件及びロ号物件は構成要件BG-1(3)後段を充足しない。
さらに、イ号物件及びロ号物件において、支持体(基体)はチタン製であるから、イ号物件及びロ号物件は構成要件BG-2(1)を充足しない。
以上のとおり、イ号物件及びロ号物件は、いずれも、本件B発明の構成要件BGを充足しないから、イ号物件ないしロ号物件を用いた電気亜鉛メッキ法が、本件B発明の技術的範囲に属することはない。
ウ 訴外2社における操業条件は、被告が関与するところではなく、被告の知るところではないが、メッキの操業条件については、訴外2社やその同業他社が公開した文献において、本件B発明の構成とは異なる条件が開示されていることに照らせば、訴外2社において、特許として成立し公開されている本件B発明を実施しているとは考えられず、この点についての原告の立証は不十分である。
(4) 被告による訴外2社のためのイ号物件及びロ号物件の製造並びに訴外2社へのイ号物件及びロ号物件の譲渡は本件B特許権の侵害にあたるか ア 訴外2社と共同した本件B特許権の侵害にあたるか 〔原告の主張〕 被告は、訴外2社が、上記(3)の〔原告の主張〕のとおり、イ号物件又はロ号物件を用いて、業としてイ号方法を実施して本件B特許権を侵害するにあたり、訴外2社のその行為及びそれが本件B特許権を侵害するものであることを十分に知りながら、訴外2社に対し各々イ号物件ないしロ号物件を販売して提供し、もって共同して原告の有する本件B特許権を侵害したものであり、これは被告と訴外2社との共同不法行為にあたる。
〔被告の主張〕 被告は、訴外2社の工程には関与しておらず、具体的操業条件も知らない。訴外2社が被告と同視し得る立場にもなく、被告が訴外2社をして本件B発明を実施させたということもできない。
したがって、仮に訴外2社が本件B発明を実施していたとしても、被告が訴外2社と共同して本件B特許権を侵害したとはいえない。
イ 本件B特許権の間接侵害にあたるか 〔原告の主張〕 訴外2社は、上記(3)の〔原告の主張〕のとおり、イ号物件又はロ号物件を用いて、業としてイ号方法を実施しているのであるから、訴外2社はイ号方法の実施により本件B特許権を侵害しているものである。
イ号物件及びロ号物件は、その構成から明らかであるとおり、イ号方法の構成bG(1)〜(3)の構成を有し、よって本件B発明の構成BG-1(1)〜(3)を充足するところの、「チタンの支持体(基体)の表面上にタンタルの外方表面層を設け且つ該外方表面層の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極」であり、本件B発明の課題の解決に不可欠なものである。
被告は、訴外2社が本件B発明の実施であるイ号方法を実施するにあたり、本件B発明の存在及びイ号物件及びロ号物件が本件B発明の実施であるイ号方法に陽極として用いられることを知りながら、業としてこれらを生産し、イ号方法の実施者である訴外2社に対し譲渡等又は譲渡等の申出をしたものであるから、被告の行為は特許法101条4号に規定する本件B特許権の間接侵害にあたる。
〔被告の主張〕 被告は、訴外2社の工程には関与しておらず、具体的操業条件も知らない。
したがって、仮に訴外2社が本件B発明を実施していたとしても、被告による訴外2社へのイ号物件及びロ号物件の譲渡等が特許法101条4号に規定する本件B特許権の間接侵害にあたるとはいえない。
(5) 本件B特許に無効理由が存在することが明らかか 〔被告の主張〕 本件B発明は、その出願前に刊行されていた文献である、特開昭59-96287号公報(乙25)、特開昭63-235493号公報(乙30)、特開昭58-77592号公報(乙52)、特開昭62-136590号公報(乙53)、特開昭57-198292号公報(乙54)、特開昭59-140383号公報(乙55)、特開昭60-155699号公報(乙56)、特開昭57-192281号公報(乙57)、特開昭62-284095号公報(乙58)、昭和46年10月25日にオーム社から刊行された友野理平著『実用めっきマニュアル』(乙49)、昭和57年5月31日に丸善株式会社から刊行された日本鉄鋼協会編『第3版鉄鋼便覧 VI』(乙50)及び昭和62年12月21日に株式会社産業技術サービスセンターから刊行された最新表面処理技術総覧編集委員会編『最新表面処理技術総覧』(乙51)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたもので、進歩性を欠くものであり、特許法29条2項の無効理由があることが明らかである。
このような無効理由が存在することが明らかな本件B特許権に基づく本件請求は、権利の濫用であって許されない。
〔原告の主張〕 上記〔被告の主張〕で被告が掲げる文献によっては、当業者において本件B発明に容易に想到することはできない。
したがって、本件B特許に、被告が主張するような進歩性欠如による無効理由は存在しない。
(6) 損害額 〔原告の主張〕 ア 被告は、平成9年1月から平成10年12月までの間に、イ号物件を合計4.62u販売した。
原告がイ号物件相当品を販売することにより得られた利益は、1u当たり105万4529円である。
したがって、原告は、被告による上記イ号物件の販売により、487万1925円の損害を被った。
イ 被告は、平成10年1月から平成14年9月までの間に、新日本製鐵株式会社の求めに応じて合計25.18uの、株式会社神戸製鋼所の求めに応じて合計49.26uの、それぞれ使用済み陽極を被覆加工してイ号物件ないしロ号物件を製造し、これを納品した。
原告が使用済み陽極を被覆加工してイ号物件相当品ないしロ号物件相当品を製造し、これを納品することにより得られた利益は、新日本製鐵株式会社分については1u当たり66万2138円、株式会社神戸製鋼所分については1u当たり68万2138円である。
したがって、原告は、被告による上記イ号物件ないしロ号物件の製造により、5027万4753円の損害を被った。
ウ 合計 5514万6678円 〔被告の主張〕 否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号物件及びロ号物件は本件A発明の技術的範囲に属するか)について まず、本件A発明の構成要件ADに関する争点について判断する。
(1) 薄膜中間層の厚さ(「1〜3ミクロン」)の測定方法について ア 本件A明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」の項には、以下のとおりの記述がある。
(ア) 産業上の利用分野の項 「本発明は酸素発生を伴う電解工程,特にスズ,亜鉛,クロム等の電気メッキの不溶性陽極に関するものである。」 (イ) 発明が解決しようとする課題の項 「本発明の目的のスズ,亜鉛,クロム等の電気メッキ用陽極として検討されている酸素発生用不溶性陽極において問題とされている基体の不働態化を経済的に有利な方法で防ぎ、長寿命の電極を提供することにある。」 (ウ) 課題を解決するための手段の項 「本発明者らは、酸素発生用不溶性陽極において、中間層に電極活性物質で発生する酸素による不働態化に対し金属タンタル又はその合金が十分な抵抗力を有する事を見出し、更にこれら金属を電極基体上で薄膜化した保護層として利用する事により経済的に電極基体の不働態化を防ぎ、電極活性物質の利用効率を向上させた長寿命の電極を開発した。」 「すなわち本発明はバルブ金属又はその合金よりなる導電性金属基体上に350〜550℃の熱分解温度で白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質を被覆した電極において、該基体と電極活性物質被覆層との間に、スパッタリング法により形成された結晶性金属タンタルを主成分とする厚さ1〜3ミクロンの薄膜中間層を設けたことを特徴とする酸素発生陽極である。」 「中間層は電極基体表面に完全に被覆できなくても基体の保護効果はかなり得られるが、本発明の目的を達成するためには1ミクロン以上の厚みを必要とする。通常厚み3ミクロン以下で十分である。また中間層自体は多孔質であることを要しない。」 「次に、このようにして電極活性能を持たない中間層を設けた基体上に、電気化学的に活性を有する電極被覆層を設ける。」 「このような電極活性物質の被覆法としては熱分解を用いる。すなわちこれらの金属塩溶液を数回塗布乾燥し最終的に350〜350℃〔判決注:「350〜550℃」の誤記と認める。〕の温度で加熱処理する。このようにして金属タンタルを主成分とする中間層を有する本発明電極を得ることができる。」 (エ) 発明の効果の項 「本発明電極は金属タンタルを主成分とする薄膜中間層を設けることにより、従来問題視されていた電極基体と電極活性物質層との間に生じる不働態化現象を防ぎ電極活性物質の利用効率を改善することができ、工業電解用陽極,例えば硫酸酸性溶液等の酸素発生陽極としての利用価値は大である。」 (オ) 実施例1の項 「厚さ1mm,大きさ30mm×10mmの市販のチタン板をアセトンにより脱脂した後、80℃のショウ酸で12時間エッチング処理し電極基体とした。
このチタン板を乾燥後、高周波スパッタリング装置(〜10-4Torr・アルゴンガス,高周波印加電圧2KVの条件)を用いて1時間処理を行いタンタルとして40g/u,厚さ3ミクロンのα型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層を基体上に形成させた。
さらに下記に示すような液組成の電極被覆波〔判決注・「液」の誤記と認める。〕を調整し、タンタル薄膜中間層上に塗布した。
TaCl3 0.32g H2IrCl 6・6H 2O 1.00g 濃HCl 1.0ml n-ブチルアルコール 10.0ml これを120℃で10分間乾燥した後、490℃に保持した電気炉中で20分間焼成した。この電極活性物質の被覆操作を8回繰り返して10g/uのイリジウムを含むイリジウム酸化物を電極活性物質とする電極を作製した(電極活性被覆層の組成はIrO2(70重量%)-Ta 2O5(30重量%)と推定される)。
比較として、タンタル薄膜中間層を設けなかった以外は同様の処理をして比較用の電極を作製した。これら電極の被覆部分を一部シールして電極の有効部分を10mm×10mmとした後、…硫酸電解溶液中で陽極として用い…加速電解試験を行った。」 イ 上記のとおりの本件A明細書の記載に照らすと、本件A発明は、酸素発生を伴う工業的な電解工程に用いる不溶性陽極の寿命を長くするため、電極の導電性金属基体と電極活性物質の被覆との間に結晶性金属タンタルを主成分とする中間層を保護層として設け、また同時に、この効果を経済的に得るために、上記結晶性金属タンタルを主成分とする中間層を、スパッタリング法により薄膜として形成する点に技術的意義を有するものと認められる。
そして、本件A明細書には、本件A発明の実施品の製造方法として、導電性金属基体の上にスパッタリング法により結晶性金属タンタルを主成分とする薄膜中間層を設け、その上に電極活性物質の金属塩溶液を数回塗布乾燥した後に加熱処理して被覆層を形成する方法が一般論として開示され、さらに実施例として、上記ア(オ)のとおりの製造方法も具体例として開示されていることが認められる。
ところで、本件A明細書(甲1)には、結晶性金属タンタルと主成分とする薄膜中間層の厚さの計測方法については、直接の記載は存在しない。そして、
この点につき、原告は、厚みを測定する場合の通常の方法に従って、実測によることが最も望ましいと主張する。
(ア) しかしながら、電極に形成された中間層の厚さを実測するのは電子顕微鏡によることになるが、そのためには、当該電極を測定点で切断して切断片を作製する必要があるところ(実際に、甲第6号証の1ないし3、第8号証においても、原告は電極の中間層の厚さを実測するために電極を切断している。)、当業者において、電極の発明である本件A発明を実施するに際して、製造した電極を、中間層の厚さが本件A発明の要件を満たすかどうか計測するために切断していたのでは、現実的な本件A発明の実施は不可能になることは明らかである。そこで、本件A発明が電極の発明であることを考慮すれば、本件A発明を実施するには、結晶性金属タンタルを主成分とする薄膜中間層の厚さは、スパッタリングに用いられた結晶性金属タンタルの重量と金属基体の面積とを用いて算出して、これをもって製品管理に用いるのが実際的であり、また相当であるというべきである。本件A発明が工業的に利用される電極の発明であることを考慮すれば、尚更である。
ちなみに、乙第87号証の1ないし42、第88号証の1ないし32、第89号証の1・2によれば、被告も、イ号物件及びロ号物件を製造する際に、そのタンタル層の厚さは、スパッタリングに用いられた結晶性金属タンタルの重量と金属基体の面積とを用いて算出していたことが認められるところである。
もっとも、甲第22号証には、「購買仕様書 浦項総合製鉄光陽製鉄所 労務部購買1チーム」(訳文1頁)、「コーティング厚さはTa層:2〜3μm…厚さ立証シート提出」(訳文2頁)、「サンプルCのSEM表面写真…前から見たサンプルAとその厚さによって大きく大別し…3μmの厚さのTa」(訳文7頁)という記載がある。しかし、上記記載によっても、上記「厚さ立証シート」が電極を切断して電子顕微鏡で実測したものの提出を要求する趣旨であるとは認められないから、本件A発明を実施するには、結晶性金属タンタルを主成分とする薄膜中間層の厚さは、スパッタリングに用いられた結晶性金属タンタルの重量と金属基体の面積とを用いて算出するのが相当であるとの前記認定に反するものではない。
(イ) 一方、本件A明細書の唯一の実施例である実施例1の記載においても、「タンタルとして40g/u,厚さ3ミクロンのα型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層を基体上に形成させた。」、「さらに下記に示すような液組成の電極被覆波を調整し、タンタル薄膜中間層上に塗布した。…この電極活性物質の被覆操作を8回繰り返して10g/uのイリジウムを含むイリジウム酸化物を電極活性物質とする電極を作製した…これら電極の被覆部分を一部シールして電極の有効部分を10mm×10mmとした後、…硫酸電解溶液中で陽極として用い…加速電解試験を行った」として、用いられた基材面積当たりの金属タンタルの重量をわざわざ記載し、これによって作製した電極を用いて加速電解試験を行ったとしており、電極を切断して切断片を作製してタンタル薄膜中間層の厚さを電子顕微鏡で実測したことを窺わせる記載も存在しない。
そして、乙第92、第99、第100号証によれば、スパッタリングによるコーティングは、電気メッキと比べれば緻密でかなりピンホールが少ないものの、やはりピンホールが発生することや、形成される薄膜中に放電ガスの原子が混入するため、タンタルの真の比重を用いて算出した数値よりもタンタル層が厚くなることが本件A発明出願当時には知られていたことが認められる。したがって、
「タンタルとして40g/u」に続く「厚さ3ミクロン」との記載が、40g/uによって、タンタルの真の比重(16.654)を用いて算出した数値よりも薄膜の厚さが若干大きくなっていることも、何ら不自然ではないものと認められる。
そうだとすると、本件A発明の利用価値を前提に本件A明細書に接した当業者は、本件A明細書の実施例1の薄膜中間層の厚さについて、スパッタリングに用いられた結晶性金属タンタルの重量と基材の面積(40g/u)とを用いて算出したもの、すなわち、1u当たり40gのタンタルを用いてスパッタリングしたものと認識するものと認められる。
(ウ) ところで、本件A特許の出願から特許査定の審決に至る経過及びその過程で出願人である原告が特許庁に提出した書類中の記載は、後記(3)イ認定のとおりであって、本件A発明の「薄膜中間層の厚みが3ミクロン以下」との要件は、
平成6年1月17日の手続補正書によって加えられたものである。そして、乙第1号証によれば、本件A特許の出願時における明細書には、実施例1の「タンタルとして40g/u,厚さ3ミクロンのα型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層」以外には、薄膜中間層の厚みについて3ミクロンとする記載はなかったことが認められる。そうである以上、本件A発明の「薄膜中間層の厚みが3ミクロン以下」との要件の「3ミクロン」とは、実施例1における、40g/u(1u当たり40g)のタンタルを用いてスパッタリングしたものを指すものと解するほかはない。
(エ) 以上のとおり、本件A発明の構成要件ADにいう薄膜中間層の厚さの測定においては、スパッタリングに用いられた結晶性金属タンタルの重量と基体の面積を用いるものであり、そこにいう3ミクロンとは、40g/u(1u当たり40g)のタンタルを用いてスパッタリング法により薄膜を形成したときの厚さを指すものというべきである。
ウ 原告は、薄膜中間層の厚さを上記イのように結晶性金属タンタルの重量を用いて測定するのであれば、タンタルの真の比重を用いて計算するべきであると主張する。
しかし、本件A特許の出願時における明細書には、実施例1以外に薄膜中間層の厚みについて3ミクロンとする記載はなく、実施例1は40g/uのタンタルを用いてスパッタリングしたものと当業者が認識するものである以上、本件A発明の「3ミクロン」は、40g/u(1u当たり40g)のタンタルを用いてスパッタリング法により薄膜を形成したときの厚さを指すものと解すべきことは前示のとおりである。
また、原告は、薄膜中間層の厚さを、本件A明細書の実施例1の計算と同一の計算方法によって算出するのであれば、そこで表記されている「40g」及び「3ミクロン」という数値は有効数字1桁であるから、「40g」とあるのは「35〜44g」と、「3ミクロン」とあるのは「2.5〜3.4ミクロン」と読むべきであると主張する。
しかしながら、上記アのとおり、本件A明細書に記載された実施例1において、用いられた金属基体は、大きさ30mm×10mmであり、その表面積は300muであるところ(なお、本件A明細書には明確に記載がないものの、実施例1の記載において、加速電解試験を行うに際して、「これら電極の被覆部分を一部シールして電極の有効部分を10mm×10mmとした後、…陽極として用い、」と記載されていることに照らせば、スパッタリング法による金属タンタルの中間層の形成は、金属基体の片面上にのみされたものと認められる。)、40g/uは計算上300mu当たり0.012gに相当する。この重量が、実施例1において用いられた金属タンタルの重量(すなわち、スパッタリング後の基体の重量とスパッタリング前の基体の重量の差)であるが、ここで、仮に、基体の重量の計測が、0.01g単位でしかできないとしたならば、300mu当たり0.01gは計算上33g/uに、300mu当たり0.02gは計算上67g/uに(いずれも小数点以下四捨五入)、それぞれ相当するから、実施例1の記載のように40g/uという数値が現れることはあり得ない。したがって、実施例1においては、金属タンタルの重量は、少なくとも0.001g単位で計測されていたと認めるべきである。とするならば、上記のとおり、40g/uは計算上300mu当たり0.012gに相当するのであるから、この「40g」とあるのが有効数字1桁であるとはいえず、有効数字は少なくとも2桁以上と解するべきであるから、「40g」とあるのは「35〜44g」と読むべきとする原告の主張は採用することができない。
以上のとおりであるから、本件A発明の構成要件ADにいう薄膜中間層の厚さの測定において、中間層の厚さ3ミクロンは、スパッタリングに用いられた結晶性金属タンタルの重量が40g/uであることを意味するものというべきである。そして、この「40g」とあるのは、「35〜44g」を意味するものではなく、上記のとおり、多くとも40.5gに至るものではないと解するべきものである。
エ なお、有効数字の桁数とは別に、実施例を根拠として、特許請求の範囲技術的範囲の上限を「3ミクロン」とクレームした場合に、実施例における誤差の最大の範囲が権利範囲に含まれるとすることにも疑問があるところである。なぜなら、実施例において、0.5ミクロンの誤差があるのであれば、その誤差の範囲まで、すなわち、「3.5ミクロン未満」を上限として特許請求の範囲に記載すればよいのである。ところが、これをせずにおいて、特許請求の範囲に上限を「3ミクロン」と記載しておきながら、「3.5ミクロン未満」が技術的範囲であるとすることは、特許請求の範囲の記載の明確性を損なうものである。これと同様、40g/uのタンタルを用いるとの趣旨でクレームしておきながら、誤差を理由に45g/u未満としなければならない合理的理由も見いだせないところである。
(2) イ号物件及びロ号物件のタンタル層の厚さについて 上記(1)を前提に、イ号物件及びロ号物件のタンタル層の厚さについて判断する。
乙第86号証、第87号証の1ないし42、第88号証の1ないし32及び弁論の全趣旨によれば、被告が製造したイ号物件について、タンタルのスパッタリング前の基体重量、スパッタリング後の基体重量及びスパッタリングを行った面積は、それぞれ別紙目録(2)添付の別紙イ号物件一覧表の「スパッタ前重量」欄、「スパッタ後重量」欄及び「コーティング面積」欄に記載のとおりであること、被告が製造したロ号物件についても、タンタルのスパッタリング前の基体重量、スパッタリング後の基体重量及びスパッタリングを行った面積は、それぞれ同目録添付の別紙ロ号物件一覧表の「スパッタ前重量」欄、「スパッタ後重量」欄及び「コーティング面積」欄に記載のとおりであることが認められる。
そして、イ号物件及びロ号物件について、スパッタリングに用いられた金属タンタルの1u当たりの重量(スパッタリング後の基体重量とスパッタリング前の基体重量の差をスパッタリングを行った面積で除すことによって得られる。)は、上記の各数値を用いて計算すると、それぞれ同目録添付の別紙イ号物件一覧表及びロ号物件一覧表の「単位面積当りの重量」欄記載のとおり(小数点以下第2位で四捨五入)となる。
すると、イ号物件及びロ号物件は、いずれも、スパッタリングに用いられた金属タンタルの1u当たりの重量は、40.5g以上であると認められる。したがって、イ号物件及びロ号物件において、タンタル層の厚さは、本件発明Aの構成要件ADにいう3ミクロンを超えていると認めることができる。
上記のとおり、イ号物件のタンタル層の厚さは、3ミクロンを超えていることが認められるから、イ号物件は本件A発明の構成要件ADを充足しないものというべきである。
(3) 均等の成否について ア 一般に、物件に特許発明の構成と異なる部分があっても、@当該部分が特許発明の本質的部分ではなく、A当該部分を対象物件におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
Bこのように置き換えることに、当業者が、対象物件の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、C対象物件が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく、
D対象物件が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、当該対象物件は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である。
そして、原告は、イ号物件及びロ号物件について、中間層の厚さが3ミクロンを超え、本件A発明の構成要件ADを充足しないとしても、上記の5要件を充足するから、本件A発明の構成と均等であると主張する。
そこで、以下、中間層の厚さが3ミクロンを超え、本件A発明の構成要件ADを充足しないイ号物件及びロ号物件について、上記の5要件を充足するかについて検討する。
イ 乙第1ないし第3、第7、第8、第12、第19ないし第21、第23号証によれば、本件A特許の出願から特許査定の審決に至る経過は概ね以下のとおりであったこと、その過程で出願人である原告が特許庁に提出した書類中には以下の記載があったことが認められる。
(ア) 平成元年4月21日 特許出願 明細書の特許請求の範囲には中間層の厚さについての記載はなく、発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項に、「中間層は電極基体表面に完全に被覆できなくても基体の保護効果はかなり得られるが、本発明の目的を達成するためには0.5ミクロン更に好ましくは1ミクロン以上の厚みを必要とする。」と記載されているが、中間層の厚さの上限については記載がない。
(イ) 平成4年8月7日 手続補正書提出 明細書の発明の詳細な説明の上記(ア)の記載部分の後に、「通常厚み5ミクロン未満、特に3ミクロン以下が好ましい。」を挿入する補正を行う。
(ウ) 平成5年6月16日 拒絶理由通知 (エ) 平成5年9月13日 手続補正書及び意見書提出 手続補正書において、特許請求の範囲の請求項1を「バルブ金属又はその合金よりなる導電性金属基体上に白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質を被覆した電極において、該基体と電極活性被覆層との間に、スパッタリング法により形成された結晶性金属タンタルを主成分とする薄膜中間層を設けたことを特徴とする酸素発生陽極。」に補正する。
(オ) 平成5年10月26日 拒絶査定 (カ) 平成5年12月17日 不服審判請求 (キ) 平成6年1月17日 手続補正書提出 特許請求の範囲の請求項1を「バルブ金属又はその合金よりなる導電性金属基体上に350〜550℃の熱分解温度で白金族金属又はその酸化物を含む電極活性物質を被覆した電極において、該基体と電極活性被覆層との間に、スパッタリング法により形成された結晶性金属タンタルを主成分とする厚さ1〜3ミクロンの薄膜中間層を設けたことを特徴とする酸素発生陽極。」に補正し、明細書の発明の詳細な説明の上記(ア)及び(イ)の記載部分を、「中間層は電極基体表面に完全に被覆できなくても基体の保護効果はかなり得られるが、本発明の目的を達成するためには1ミクロン以上の厚みを必要とする。通常厚み3ミクロン以下で十分である。」と補正する。
(ク) 平成6年1月28日 審判請求理由補充書提出 「スパッタリング法による金属タンタル薄膜の厚さは1〜3ミクロンが適当である。膜厚が1ミクロン未満では皮膜の形成が不十分となり本発明の効果が十分に得られず、またこの範囲より厚い皮膜はスパッタリング法による加工が非常に困難になり高価な金属タンタルの使用上、経済的に好ましくない。さらに厚いタンタル膜は応力による剥離を起こし易い欠点がある。」との記載がある。
(ケ) 平成8年6月28日 審決(原査定取消し、特許査定) ウ 均等の要件@(相違部分が発明の本質的部分にあたらない)について 前記(1)ア及びイのとおり、本件A明細書の記載に照らすと、本件A発明は、酸素発生を伴う工業的な電解工程に用いる不溶性陽極の寿命を長くするため、
電極の導電性金属基体と電極活性物質の被覆との間に結晶性金属タンタルを主成分とする中間層を保護層として設け、また同時に、この効果を経済的に得るために、
上記結晶性金属タンタルを主成分とする中間層を、スパッタリング法により薄膜として形成する点に技術的意義を有するものと認められるところ、このうち、中間層の膜厚は、その下限を設定することで保護層としての効果を得つつ、その上限を設定することで高価な結晶性金属タンタルの使用量を抑え、これによって、電極の寿命の延長という要請と電極製造に要する費用抑制という要請を調和させるものとして設定されていると解することができる。
しかも、上記イ(ク)の原告が特許庁に提出した審判請求理由補充書の記載によれば、中間層の膜厚の上限とされた3ミクロンを超えると、スパッタリング法による加工が困難になることや、膜厚が厚くなると応力による剥離を起こし易くなることも、膜厚の上限を3ミクロンと設定した根拠とされたことが認められる。
ところで、一般に、特許請求の範囲において、数値をもって技術的範囲を限定し、その数値に設定することに意義がある場合には、その数値の範囲内の技術に限定することで、その発明に対して特許が付与されたと考えるべきものであるから、特段の事情のない限り、その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分にあたると解するべきである。
これを本件A発明についてみるに、本件A発明の構成要件ADは、中間層の厚さの上限を3ミクロンと限定しているところ、上記のとおり、この上限の設定には、結晶性金属タンタルの使用量を抑制して経済性を高め、スパッタリング法による加工を容易にし、中間層の剥離が起き易くなることを防止するという意義があり、この点が本件A発明の本質的部分にあたらないというべき特段の事情も見当たらないから、中間層の厚さの上限が3ミクロンであることは、本件A発明の本質的部分であるというべきである。
したがって、タンタル層の厚さが3ミクロンを超える物件は、発明の本質的な部分において本件A発明の構成と相違するのであるから、前記均等の要件@を充足しない。
均等の要件A(置換可能性)について 前記(1)ア及びイのとおり、本件A明細書の記載に照らすと、本件A発明の目的は、酸素発生用不溶性陽極の寿命を経済的な方法で長くすることであり、本件A発明の構成要件ADにおける中間層の厚さの上限値を設定することにより、結晶性金属タンタルの使用量を抑制して経済性を高めるという効果が得られることが認められる。
ここで、タンタル層の厚さを、本件A発明の構成要件ADにおける上限値を超えたものに置き換えたならば、高価な結晶性金属タンタルの使用量がその分増加し、本件A発明において中間層の厚さの上限を設定することで実現しようとした経済性が損なわれ、酸素発生用不溶性陽極の寿命を経済的な方法で長くするという本件A発明の目的も達せられないことは明らかである。
したがって、タンタル層の厚さが3ミクロンを超える物件は、本件A発明の目的を達することができず、作用効果も同一ではないから、前記均等の要件Aを充足しない。
均等の要件D(対象物件が意識的に除外したものではない)について 上記イのとおり、本件A発明の特許請求の範囲の記載における中間層の厚さについては、その特許出願当初は数値的な限定は存在しなかったところ、拒絶査定に対して不服審判を請求した後の手続補正書によって、特許請求の範囲の記載において中間層の厚さを「1〜3ミクロン」と限定したものであることが認められる。
すなわち、中間層の厚さが3ミクロンを超えた物件は、本件A特許の出願手続において、拒絶査定を受け、不服審判を請求した後にされた手続補正によって、本件A発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるというべきである。
したがって、タンタル層の厚さが3ミクロンを超える物件は、本件A特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるものであるから、前記均等の要件Dを充足しない。
カ 以上のとおりであるから、タンタル層の厚さの点だけ捉えても、タンタル層の厚さが3ミクロンを超える物件は、前記均等の5要件を満たさず、本件A発明の構成と均等であるということはできない。
そして、上記(2)のとおり、イ号物件及びロ号物件は、いずれもタンタル層の厚さが3ミクロンを超えていると認められるのであるから、その余の構成要件の充足性について判断するまでもなく、これらが本件A発明の構成と均等であるということはできない。
(4) 結論 以上のとおり、イ号物件は、タンタル層の厚さが3ミクロンを超えるため、本件A発明の構成要件ADを充足せず、また、イ号物件及びロ号物件は、タンタル層の厚さが3ミクロンを超えるため、本件A発明の構成と均等ということはできないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件及びロ号物件は、結局本件A発明の技術的範囲に属するものということはできない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件A特許権に基づく原告の本件請求は、理由がないことが明らかである。
2 争点(3)(訴外2社はイ号物件及びロ号物件を用いて本件B発明の技術的範囲に属する方法を実施しているか)について(以下,閲覧制限により中略) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3) 以上のとおり、本件に現れた証拠によっては、訴外2社が、イ号方法を実 施していると認めることはできないのであるから、その余の点について判断 するまでもなく、訴外2社がイ号方法を実施していることを前提とした本件 B特許権に基づく原告の本件請求は、理由がないことが明らかである。
3 結論 以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
追加
(別紙)目録(1)1.イ号物件(商品名「ハイデュラロード」)チタンよりなる基体上に、400℃〜500℃の熱分解温度で、酸化タンタルを混入した酸化イリジウムからなる電極活性物質を被覆した電極において、該基体と電極活性被覆層との間に、スパッタリング法により形成されたα相β相混合の結晶性金属タンタルを主成分とする厚さ3(±0.5)ミクロンの薄膜中間層を設けた酸素発生陽極。
2.ロ号物件(商品名「ハイデュラロードII」)イ号物件において結晶性金属タンタルの薄膜中間層の厚さが4(±0.5)ミクロンの酸素発生電極。
3.イ号方法複数個の陽極と、1条の鋼板から成る陰極とを設けた電解槽内で(以下,閲覧制限により中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・陽極電流密度にて電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴う過酷な電解操作条件下で前記の電解を行うことからなり、しかも上記の陽極としては、チタンよりなる基体上に、
α相β相混合の結晶性金属タンタルの外方表面層を設け、該外方表面層の上に酸化タンタルを混入した酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする陽極の長時間の耐用寿命を有する電気亜鉛メッキ法。
(別紙)目録(2)1.イ号物件(商品名「ハイデュラロード」)導電性金属基体であるチタン基体1上に、熱分解温度で電極活性物質被覆層である酸化イリジウム層2を被覆した電極であって、ブラスト処理したチタン基体1の表面に、スパッタリングにて、β相が30〜50%含有されたα相とβ相が混合した結晶質タンタルをスパッタ層3として形成した後、前記タンタル表面に酸化イリジウム塩を塗布して約450℃の熱分解温度で焼成することで、酸化イリジウム層2を被覆する際における前記熱分解温度によりβ相からα相への相変態時の駆動力でイリジウムをタンタルスパッタ層の表面に拡散させた拡散層4を形成し、製品となった際には、その表面から順に、@酸化イリジウム層2、Aイリジウムのタンタルへの拡散層4、Bタンタルスパッタ層3’、Cチタン基体1とからなる4層の構造を有している酸素発生用電極である。
なお、α相とβ相が混合した結晶質タンタルがスパッタリングにて基体1上に形成される際の前記スパッタ層3の膜厚の検査は、下記の数式に基づく計算によってなされており、その各電極ごとの計算結果および単位面積当りのスパッタタンタルの重量は、添付イ号物件一覧表の膜厚欄および単位面積当りの重量欄記載のとおりであった。
2.ロ号物件(商品名「ハイデュラロードII」)導電性金属基体であるチタン基体1上に、熱分解温度で電極活性物質被覆層である酸化イリジウム層2を被覆した電極であって、ブラスト処理したチタン基体1の表面に、スパッタリングにて、β相が30〜50%含有されたα相とβ相が混合した結晶質タンタルをスパッタ層3として3.5〜4.5ミクロンの厚さとなるように形成した後、前記タンタル表面に酸化イリジウム塩を塗布して約450℃の熱分解温度で焼成することで、酸化イリジウム層2を被覆する際における前記熱分解温度によりβ相からα相への相変態時の駆動力でイリジウムをタンタルスパッタ層の表面に拡散させた拡散層4を形成し、製品となった際には、その表面から順に、
@酸化イリジウム層2、Aイリジウムのタンタルへの拡散層4、Bタンタルスパッタ層3’、Cチタン基体1とからなる4層の構造を有している酸素発生用電極である。
なお、α相とβ相が混合した結晶質タンタルがスパッタリングにて基体1上に形成される際の前記スパッタ層3の膜厚の検査は、下記の数式に基づく計算によってなされており、その各電極ごとの計算結果および単位面積当りのスパッタタンタルの重量は、添付ロ号物件一覧表の膜厚欄および単位面積当りの重量欄記載のとおりであった。
記厚み(μm)=10000×(Wa-Wb)/16.654/S但し、Wa:薄膜中間層の被覆後の電極板の質量(g)Wb:薄膜中間層の被覆前の電極板の質量(g)タンタルの比重:16.654S:被覆面積(cu)(別紙)イ号物件一覧表ロ号物件一覧表
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生