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関連審決 無効2002-35464
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ16119特許権侵害差止 判例 特許
平成20ワ14169損害賠償請求事件 判例 特許
平成19ワ22715特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成18ワ11429特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成18ワ11429特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 協議 /  技術的思想 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  使用方法 /  実施可能要件 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  存続期間 /  出願経過 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  異議申立 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 32845号 特許権侵害差止等請求事件
さいたま市<以下略>
原告三水株式会社
同訴訟代理人弁護士小池豊
同 櫻井彰人
同訴訟代理人弁理士永井義久 東京都板橋区<以下略>
被告リ ンテック株式会社東京都江戸川区<以下略>
被告小 芝記録紙株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士村田真一
同 補佐人弁理 士八本佳子
同 渕田滋
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告リンテック株式会社は,別紙物件目録1記載のタコグラフ用記録紙を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2被告小芝記録紙株式会社は,別紙物件目録2及び3記載のタコグラフ用記録紙を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3被告らは,第1項及び第2項記載のタコグラフ用記録紙の既製品及び半製品を廃棄せよ。
4被告らは,原告に対し,連帯して8億5123万円及びこれに対する平成19年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1事案の概要本件は,記録紙に関する後記2,( )の特許の特許権者である原告が,?被2告らが製造販売するタコグラフ用記録紙が当該特許権を侵害すると主張して,被告らに対し,特許法100条に基づき,別紙物件目録1ないし3記載のタコグラフ用記録紙の生産,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,?上記行為は特許権侵害の共同不法行為であると主張して,被告らに対し,不法行為に(,,), よる損害賠償請求権に基づき 民法709条 719条 特許法102条2項損害賠償金として,各自8億5123万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお,本件特許権は平成22年1月25日の経過をもって存続期間が終了した。
2前提となる事実(証拠は各項に掲記)( ) 当事者1原告は,石油化学製品及び合成樹脂製品の製造及び販売並びにこれらの製造コンサルティング業を主たる目的とする株式会社である。
被告リンテック株式会社(以下「被告リンテック」という )は,紙の製。
造及び販売並びにパルプの販売等を目的とする株式会社である。
被告小芝記録紙株式会社(以下「被告小芝」という )は,記録紙の製造。
販売を目的とする株式会社である。
( ) 本件特許及び手続の経緯2,(「」,「」 原告は 次の特許 以下 本件特許 といい その特許権を 本件特許権という )の特許権者である。 。
本件特許の無効審判事件(無効2002-35464号事件)において,原告は,平成18年6月29日付け訂正請求書を提出したが,特許庁は同年9月19日付けで訂正拒絶理由通知を発した。そこで,原告は,同年10月6日に手続補正書を提出したところ,特許庁は,平成19年2月15日,こ(「」。),。 の訂正以下本件訂正というを認める審決をし同審決は確定した本件訂正後の本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」といい,別紙全文訂正明細書として添付する )の「特許請求の範囲」の請求項1記載の発 。
明を「本件特許発明」という。
(甲1,2,甲3の1,2,甲4,弁論の全趣旨)記ア特 許 番 号第2619728号イ発明の名称記録紙ウ出願日平成2年1月25日エ出 願 番 号特願平2-15644オ公開日平成3年9月27日カ公 開 番 号特開平3-220415キ登録日平成9年3月11日ク特許請求の範囲(本件訂正後のもの)【請求項1】下記(A)と(B)の重量比が1から3の範囲の組成物からなる着色原紙の色調を隠蔽する隠蔽層(5)が1から20ミクロンの膜厚で着色原紙(1a(1b)の表面に形成され,室温の尖針の記録ペンによ ),って前記着色原紙の色調が現出するものであることを特徴とする,タコグラフ用記録紙。
(A)隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子(B)成膜性を有する水性ポリマー( ) 本件特許発明構成要件の分説3本件特許発明構成要件を分説すると次のとおりであり,それぞれ「構成要件a」ないし「構成要件e」という。
a隠蔽層は着色原紙の色調を隠蔽するものであり,1から20ミクロンの膜厚で着色原紙の表面に形成されたこと。
b上記隠蔽層は,(A)隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子(B)成膜性を有する水性ポリマーの組成物からなること。
c上記組成物は (A)と(B)の重量比が1から3の範囲であること。 ,d上記隠蔽層は,室温の尖針の記録ペンによって前記着色原紙の色調が現出するものであること。
e前記aないしdを特徴とする,タコグラフ用記録紙であること。
( ) 被告らの行為4被告リンテックは,平成12年6月以降,タコグラフ用記録紙の原紙(原反)である別紙物件目録1記載の製品(以下「被告製品1」という )を製。
造し,これを被告小芝に販売している。
被告小芝は,被告リンテックから購入した別紙物件目録1記載のKL-1,, (, 4Sを印刷加工して 別紙物件目録2 3記載のタコグラフ用記録紙 以下順に「被告製品2「被告製品3」という )を製造販売している(以下, 」,。
被告製品1ないし3を併せて「本件被告製品」という。。)本件被告製品は,その製造期間によって隠蔽層の塗布液の組成物の配合割合が異なっており,平成11年10月から平成17年2月までの製造期間に係る薬品配合割合により製造された製品をロ’号製品といい,平成17年4月以降の製造期間に係る薬品配合割合により製造された製品をハ号製品という。被告製品1のうち,STY-13Sはハ号製品に該当するが,KL-1,, ’ 4Sは上記2期間を通じて製造されているため その製造期間に応じて ロ号製品に該当するものとハ号製品に該当するものがある。そのため,KL-14Sを印刷加工して製造する被告製品2,3も,製造期間に応じてロ’号() (, 製品に該当するもの 甲6の1〜4 とハ号製品に該当するもの 甲6の56)がある。
(弁論の全趣旨)( ) 構成要件の充足5本件被告製品は,構成要件aの「1から20ミクロンの膜厚」の点,構成要件cの「 A)と(B)の重量比が1から3の範囲であること」の点を除 (き,本件特許発明構成要件を充足する。
( ) 本件被告製品の隠蔽層の成分6本件被告製品における隠蔽層は,?スチレン/アクリル酸エステル共重合体,?スチレン/ブタジエン共重合体(SBR ,?スチレン/アクリル酸 )共重合体,?カゼイン,?その他の添加剤成分を成分とする組成物から構成される塗布液を塗布して乾燥させたものである。
「() 」 成分?は構成要件bのA 隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子(「」。),「() 以下 A成分 ということがあるに該当し 成分?は構成要件bのB成膜性を有する水性ポリマー (以下「B成分」ということがある )に該 」 。
当する。成分?はA成分,B成分のいずれにも該当しない(成分?,?がB成分に該当するか否かについては争いがあるものの,構成要件cの充足性の判断に際し,いずれもB成分に該当するものとして検討することにつき当事者間に争いはない。。)本件被告製品における隠蔽層の塗布液として配合される薬品は以下のとおりであり,それぞれ対応する成分?から?に該当する。
アローペイクHP-1055?スチレン/アクリル酸エステル共重合体() イニポールLX407F8B?スチレン/ブタジエン共重合体 SBRウジョンクリル61J?スチレン/アクリル酸共重合体エALACID730?カゼインオサーフィノール等?その他の添加剤( ) 先行訴訟の経緯7ア原告は,被告リンテックが平成9年1月から平成11年9月14日まで, (「」 の間に製造 販売したタコグラフ・チャート用紙の原紙 以下 イ号物件という )が,本件特許権を侵害するとして,被告リンテックに対し,特 。
(()) 許権侵害差止仮処分命令申立事件 当庁平成11年 ヨ 第22019号を申し立て,その本案事件として,特許権侵害差止等請求事件(当庁平成11年(ワ)第23013号)を提起した(以下,イ号物件を対象とする事件を「イ号事件」という。東京地裁は,平成13年7月17日,イ 。)号物件は本件特許発明(ただし,本件訂正前の特許請求の範囲請求項1記載の発明)の構成要件を充足すると判断し,イ号物件の製造等の差止め,廃棄請求及び損害賠償請求を認容する判決をした。被告リンテックはこの判決を不服として控訴したが棄却され(東京高裁平成13年(ネ)第4146号 ,上告及び上告受理申立ても棄却,不受理とされ(最高裁平成1 )5年(オ)第83号,同年(受)第82号 ,この判決は確定した。 )イまた,イ号物件を設計変更(塗布液の薬品配合割合を変更)したタコグラフ・チャート用紙の原紙(以下「ロ号物件」という )を製造,販売し。
た被告リンテックが,原告に対し,ロ号物件の製造,販売につき原告が本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めて特許権不侵害確認請求本訴事件(当庁平成11年(ワ)第21280号)を提起したところ,原告は,ロ号物件が本件特許権を侵害するとして特許権侵害差止請求反訴事件(当庁平成12年(ワ)第7516号)を提起した(以下,ロ号物件を対象とする事件を「ロ号事件」という。東京地裁は,平成1 。)3年4月12日,ロ号物件は本件特許発明(ただし,本件訂正前の特許請求の範囲請求項1記載の発明)の構成要件を充足しないと判断して,本訴請求を認容し,反訴請求を棄却した。原告はこの判決を不服として控訴したが棄却され(東京高裁平成13年(ネ)第2818号 ,この判決は確)定した。
なお,ロ号事件においてロ号物件とされた被告リンテックの製品は,イ号事件の特許権仮処分異議申立事件(当庁平成11年(モ)第12257号)において,被告リンテックがイ号物件とは異なる新処方の製品であるとして提出した物件(イ号事件の乙53。以下「乙53物件」という )。
である。乙53物件の一部は,ロ号事件の証拠として裁判所に提出され,残部は,原告が保管している。
(甲5,弁論の全趣旨)3争点( ) 本件被告製品は構成要件aを充足するか(争点1)1( ) 構成要件cの「 A)と(B)の重量比」は乾燥後の隠蔽層における重量 2 (比か乾燥前の塗布液における固形分の重量比か(争点2)( ) 本件被告製品は構成要件cを充足するか(A)と(B)の重量比が13 「(から3の範囲である」か否か (争点3))( ) 損害額(特許法102条項)4 2第3争点に関する当事者の主張1争点1(本件被告製品は構成要件aを充足するか)について( ) 原告1本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載からすると1,「から20ミクロンの膜厚」の「膜厚」とは塗布液が乾燥した後の記録紙における隠蔽層の膜厚のことであり,本件特許発明がタコグラフ用記録紙に関する「物」の発明であることからも 「膜厚」が塗布液乾燥後の記録紙におけ ,る隠蔽層の膜厚であることは明らかである。
また,被告製品2,3は,被告製品1の表面に目盛り等を印刷して型抜きしたものであるから,被告製品2,3に対応する被告製品1の隠蔽層の膜厚は同一である。
被告製品2,3の塗布液乾燥後の隠蔽層の膜厚は14.9〜17.7ミクロンの範囲内にあるから,本件被告製品は,いずれも構成要件aの「1から20ミクロンの膜厚」を充足する。
( ) 被告ら2構成要件aの「1から20ミクロンの膜厚」における「膜厚」とは,塗布液を塗布した状態における乾燥前の隠蔽層の膜厚を意味している。
被告リンテックが製造する被告製品1における隠蔽層の膜厚は,塗布液を塗布する時点では20ミクロンをはるかに超えるものであるから,本件被告,「 」。 製品は いずれも構成要件aの 1から20ミクロンの膜厚 を充足しない2争点2(構成要件cの「 A)と(B)の重量比」は乾燥後の隠蔽層におけ (る重量比か乾燥前の塗布液における固形分の重量比か)について( ) 原告1ア本件明細書の特許請求の範囲において「下記(A)と(B)の重量比が()」 1から3の範囲の組成物からなる着色原紙の色調を隠蔽する隠蔽層 5と記載されていることから,構成要件cにおける「重量比」が,塗布液の乾燥後に得られる「隠蔽層(5 」を構成する組成物におけるA成分とB )成分の重量比であることは明らかである。
本件明細書の発明の詳細な説明欄にも,構成要件cにおける重量比が,乾燥後の隠蔽層を構成する組成物の重量比ではなく,乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分の重量比であると解すべき記載はない。
,, 「」, また 本件特許発明は タコグラフ用記録紙という 物 の発明であり使用方法や製造方法の発明ではないため,塗布液の乾燥後に得られた隠蔽層を有するタコグラフ用記録紙としての「物」を対象にしているのであるから,構成要件cの重量比に関し,被告らが主張するように乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分の重量比であると解することはできない。
イ被告らは,本件特許の出願経過や先行訴訟において原告が「混合割合」又は「配合割合」と述べていることを根拠に,原告は構成要件cの重量比が乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分の重量比であることを前提としていた旨主張するが,原告は,乾燥後の隠蔽層を構成する組成物が所定の重量比となるよう,塗布液の原料液の混合割合又は配合割合を定めて塗布することを述べたにすぎない。
また,中空孔ポリマー粒子の供給源であるローペイクHP-1055のガラス転移温度(約106℃)より低い温度で乾燥した場合には,A成分とB成分の,塗布液を構成する組成物の固形分の重量比と乾燥後の隠蔽層を構成する組成物の重量比は同一となるが,被告リンテックのように,通常では考えられないガラス転移温度以上の温度(160℃)で乾燥する場合には,ローペイクHP-1055粒子が成膜化しA成分の一部がB成分に変化することから,塗布液を構成する組成物の固形分の重量比と乾燥後の隠蔽層を構成する組成物の重量比が同一となることはない。ガラス転移温度以上の温度で乾燥するとA成分であるローペイクHP-1055粒子が成膜化してB成分に変化することは,隠蔽層の白色度が低下することから明らかである(ローペイクHP-1055粒子の融着で粒子間の隙間が減少し白色度が低下する。。)( ) 被告ら2ア本件明細書の発明の詳細な説明欄には 「隠蔽性を有する水性の中空孔 ,ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーの重量比は1〜3であり,両。」, 者を混合して得られた塗布液が着色原紙に塗布されるとの記載があり混合前の塗布液における固形分の重量比を述べている。また,本件明細書の実施例1の配合?1から5の具体例では,乾燥前の塗布液における固形分の重量比が記載されているものの,本件明細書には塗布液乾燥後の隠蔽層の組成物を何らかの分析方法で測定した重量比やその測定方法が記載されているわけではない。また,本件特許の出願経過,過去の訴訟での原告の発言,イ号事件及びロ号事件の判決において,原告,特許庁及び裁判所は,組成物や塗布液の「混合割合」又は「配合割合」などと述べ,構成要件cの「重量比」は乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分の重量比を意味するものとしてきた。したがって,構成要件cの「重量比」は,乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分の重量比を意味するものと解すべきである。
本件明細書には「隠蔽層」の組成物の重量比の測定方法について何ら記載がない(現在でも本件被告製品の隠蔽層の組成物の重量比を測定する方法は存在しないから仮に原告が主張するように構成要件cの重 。),,,「量比」を塗布液の乾燥後に得られる隠蔽層を構成する組成物の重量比と解,, 。 した場合には 本件特許は 実施可能要件違反となるといわざるを得ないイ原告は,構成要件cの「重量比」は,塗布液の乾燥後に得られる隠蔽層を構成する組成物の重量比であると主張するが,A成分とB成分の,乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分の重量比と乾燥後の隠蔽層を構成する組成物の重量比は同一であるから,塗布液における固形分の重量比によって充足性を判断すべきである。原告は,中空孔ポリマー粒子の供給源であるローペイクHP-1055をガラス転移温度以上の温度(160℃)で乾燥すると,ローペイクHP-1055粒子が成膜化しA成分の一部がB成分に変化すると主張するが,根拠のない憶測にすぎない。原告が成膜化の根拠とする隠蔽層の白色度低下の要因としては,B成分の増加による空隙の減少以外にも,バインダー成分の濡れ(流動化)による粒子間距離(), () の減少 空隙の減少粒子の変形による粒子間距離の減少 空隙の減少等があり,A成分とB成分の重量比と白色度の関係は定量性を有するものではないから,ガラス転移温度以上の加熱によりローペイクHP-1055粒子の一部が成膜化したと認めることはできない。
3争点3(本件被告製品は構成要件cを充足するか〔A)と(B)の重量 「(比が1から3の範囲である」か否か )について〕(1) 原告アATR法による定量分析による本件被告製品の隠蔽層のA成分とB成分の重量比(ア) 原告は,原告の保管に係る乙53物件(以下「原告保管乙53物件」という )を標準物質としてATR法により本件被告製品の隠蔽層の組 。
成物の定量分析を行った。
ATR法による定量分析の標準物質として使用した原告保管乙53物件は,ロ号事件において配合割合は特定されたものの,大まかな成分しか特定されなかったことから,原告は,IR(ATR法)分析法,ガスクロマトグラフ分析法,電子顕微鏡分析法等による化学分析により,?中空孔ポリマー粒子がローペイクHP-1055,?スチレン/ブタジエン共重合体(SBR)が旭化成工業株式会社製の旭化成ラテックスA5820,日本エイアンドエル株式会社製のXR-4165,XR-4164等の市販品に近い組成のもの,?スチレン/アクリル酸共重合体がジョンクリル680類似品,?カゼインがALACID730,?その他の添加剤がノプコートC104HSであると特定した。この分析結, (,,) 果は被告らが本件訴訟において開示した薬品名上記第22(6)とSBR以外の薬品において実質的に一致していた(?について原告が特定したジョンクリル680とジョンクリル61Jとは酸価がわずかに違うのみで実質的に変わらない。。)原告は,原告保管乙53物件の配合薬品を上記のように特定したことから,?SBR,?スチレン/アクリル酸共重合体,?カゼインの各成分における3点検量線を作成して,ロ’号製品(甲6の2)を中心に,原告保管乙53物件を標準物質としてATR法により定量分析を行った結果,本件被告製品の隠蔽層のA成分とB成分の重量比であるA/B比(以下「(A)と(B)の重量比」を「A/B比」ということがある )。
は2.67となった。
また,ロ号事件において裁判所に提出された乙53物件は当庁に保管,(「」。) されているが同乙53物件以下裁判所保管乙53物件というを標準物質としてATR法により定量分析をした結果,ロ’号製品(甲6の2)のA/B比が2.72,2.90,ハ号製品(甲6の5)のA/B比が2.88となった。
したがって,本件被告製品の隠蔽層のA/B比はいずれも「1から3の範囲」内の数値であり,構成要件cを充足する。
さらに,本件被告製品は,A成分であるローペイクHP-1055粒子がそのガラス転移温度(約106℃)以上の乾燥温度(160℃)で加熱されることにより,その粒子の一部が成膜化し,B成分である「成膜性を有する水性ポリマー」に変化することから,A/B比は上記のATR法による分析結果から求めた値よりも小さくなり 構成要件cの 1,「から3の範囲」により収束することなる。
以上より,本件被告製品はいずれも構成要件cを充足する。
(イ) 被告らは,タコグラフ用記録紙の隠蔽層の特殊性から定量誤差が大きくATR法による定量分析はA/B比の判断になじまないと主張するが,被告らが主張するタコグラフ用記録紙の隠蔽層の特殊性には何ら根拠がなく,本件被告製品の隠蔽層が均一であることは原告が提出した各(,,,,,)。 種証拠 甲40 62 78 84 90 93等 から明らかである(ウ) また,被告らは,原告保管乙53物件のブタジエン基に起因する吸光度比(967?907?)がロ号製品としては小さすぎるため,原告保-1 -1/管乙53物件を標準物質として作成された検量線に基づく定量分析は正しい重量比を示すものではないと主張するが,標準物質として使用した原告保管乙53物件が劣化していないことは,以下の各事実から明らかである。
?原告保管乙53物件の吸光度比(967?907?)は,ロ号事件時- 1 - 1/に被告リンテックが測定した劣化していないロ号製品の吸光度比(甲33資料2-3-1 と実質的に同一であり また 他のロ号製品 甲 ),,(35)の吸光度比とも実質的に同一であること。
?原告保管乙53物件が劣化した場合,吸光度比(967?907?)-1 -1/が減少する一方で1700〜1720?のエステル基付近のピークに大きな拡がりが認められるはずであるが,原告保管乙53物件のエステル基付近のピークには大きな拡がりは認められないこと。
?原告保管乙53物件は,塗工日が平成11年9月8日とされ,同年9月17日までに印刷し被告リンテックが原告に提出したものであるが,原告保管乙53物件の吸光度比は,平成11年9月24日の測定,.. , 以降10年近くの間 約0 99〜1 05の範囲でほぼ一定であり劣化した痕跡がないこと。
?タコグラフ用記録紙はビニル袋に入れるなど通常の保管状態で保管する限り劣化しないこと。
?甲6の1〜3のKTCチャート紙は,いずれも製造後5年以上経過しているが劣化していないこと。
被告らが原告保管乙53物件が劣化していると主張する根拠は,原告保管乙53物件のブタジエン基に起因する吸光度比が,被告らがロ号製品と称する各物件の吸光度比に比べて小さいという点にあるが,被告らがロ号製品と称する各物件が真にロ号製品であることの立証は全くない。ロ号製品として争いがない物件は,原告保管乙53物件,裁判所保管乙53物件及び甲35のみである。
(エ) さらに,本件被告製品の隠蔽層におけるA/B比が3より大きいとの被告らの主張は,被告ら提出の加工管理表(乙48の1〜48の62の2)及び調薬ノート(乙49の1〜49の4の2)に基づくものであるが,加工管理表及び調薬ノートの記載には被告らの主張と矛盾する点がある上,実際の製造現場の薬品配合割合を示していることの立証は存在せず かえって 加工管理表等に基づくハンドコート試料の吸光度比 9 ,, (67?907?)が,実際の製造現場で製造された市販品(本件被告製-1 -1/品)の吸光度比と異なることから,加工管理表及び調薬ノートが実際の製造現場の薬品配合割合を示しているとは認められず,誤りである。
イ隠蔽層用塗布液の配合薬品の固形分量から求めたA成分とB成分の重量比(ア) 被告リンテックがタコグラフチャート用記録原紙を製造するための設備とほぼ同一の設備(東京製紙株式会社〔以下「東京製紙」という 〕。
が有する設備)を使用し,同様の塗工条件において,被告リンテックが使用する隠蔽層用塗布液と配合薬品及び配合割合が同一の塗布液を用いることにより,本件被告製品と実質的に同一の製品を実機生産することができる。
本件被告製品の隠蔽層は均一であるから,実機生産品である本件被告製品と加工管理表(乙48の1〜48の62の2)及び調薬ノート(乙49の1〜49の4の2)記載の薬品配合割合により調製されたハンドコート試料は,配合物の分布が均一であればIRが同一となり,また,組成比が同一であればIRは全領域で一致することから,IRの全領域, 。 で重ね書きすると一致するはずであるが 現実には全く一致しなかった他方,加工管理表及び調薬ノートに記載された薬品配合割合にSBR及びカゼインを加えた塗布液を塗布して調製したハンドコート試料及び実機生産品(被告リンテックと実質的に同一の設備,条件で製造したもの)は,IRの全領域で本件被告製品と一致した。
したがって,本件被告製品は,加工管理表等に記載された薬品配合割合のとおりに配合された塗布液を塗布して製造されたものではなく,加工管理表等に記載の薬品配合割合にSBR及びカゼインを加えた塗布液を使用して製造されたものと認められるため,本件被告製品の隠蔽層の組成比は,加工管理表等に記載の薬品配合割合にSBR及びカゼインを加えた塗布液の組成比に一致することになる。
(イ) そこで,加工管理表等に記載された薬品配合割合にSBR及びカゼインを加えた配合薬品の固形分量から本件被告製品のA/B比を求めると,ロ’号製品(甲6の2)及びハ号製品(甲6の6)共に2.90となるから,本件被告製品は構成要件cをいずれも充足する。
本件被告製品と加工管理表等に記載の薬品配合割合にSBR及びカゼインを加えて製造した実機品(被告リンテックと実質的に同一の設備,条件で製造したもの)のIRを重ね書きしてすべての領域で一致させ,一致した実機品を本件被告製品と同一の組成比を持つ製品とみなしてその配合薬品の固形分量から定量分析することは,結果の信頼性が極めて高い定量分析法である。
(ウ) また,本件被告製品は,A成分であるローペイクHP-1055粒子がそのガラス転移温度(約106℃)以上の乾燥温度(160℃)で加熱されることにより,その粒子の一部が成膜化し,B成分である「成膜性を有する水性ポリマー」に変化することから,A/B比は上記の固形分量から求めた値よりも小さくなり,構成要件cの「1から3の範囲」により収束することなる。
したがって,本件被告製品はいずれも構成要件cを充足する。
(エ) 被告らは,東京製紙の製造条件と被告リンテックの製造条件が異なる点を取り上げて,原告が製造した実機生産品は,被告リンテックと同等の製造設備を用いて同一の製造条件により製造された本件被告製品と実質的に同一の実機生産品であるということはできず,原告の主張は前提において誤りであると主張する。
しかし,本件進行協議期日において行われた立会実験時の実験室内における製造条件が実機生産の場合と実質的に同等であるとする被告らの主張からすると,東京製紙で製造された実機生産品が被告リンテックと同等の製造設備を用いて製造されたものとしても何ら問題はなく,被告。, () らの主張は失当である また 東京製紙の実機生産品の物性 印刷適正は,被告らから提出された実機生産品の原反紙(乙55)と同一であるから,東京製紙の実機生産品の物性(印刷適正)が本件被告製品と異なるとの被告らの主張は誤りである。
(オ) 被告らは,実機生産品とハンドコート試料のIRを重ね書きしても一致しないのは,実機生産においてはマイグレーションが生じるなどの原因により隠蔽層が不均一であることを挙げるが,本件被告製品の隠蔽層が均一であることは各実験や解析の結果により明らかである。マイグレーションは短時間に1000℃程度の温度により乾燥させるという過酷な製造条件で発生するものであって,被告リンテックの製造工程における通常の乾燥条件では発生しないものである。また,被告らが使用するSBR(ニポールLX407F8B)はマイグレーションが生じないように開発されたものであり,マイグレーションが発生すると層間剥離強度が低下(バインダー力が悪化)するが,本件被告製品にバインダー力が低下している事実は存在しない。
(2) 被告らアATR法による隠蔽層の組成物の定量分析について(ア) 本件において分析の対象となっているタコグラフ用記録紙の隠蔽層の特殊性(ロット間のばらつき,経時変化,隠蔽層の不均一性,実機生産品とハンドコート試料を比較すると実機生産品の隠蔽層の吸光度比〔967?907?〕の方がハンドコート試料よりも大きい傾向にあること-1 -1/等)により,ATR法による定量分析の誤差が大きなものとなるため,本件被告製品の隠蔽層の組成物の定量分析を正確に行うことは困難であって,ATR法は,A/B比が「1から3の範囲」にあるか否かの判断にはなじまないといわざるを得ない。
(イ) 仮に,ATR法によるFT-IR分析により,タコグラフ用記録紙の隠蔽層のA/B比の定量が可能であるとしても,原告が主張するATR法による定量分析は,検量線作成に当たって標準物質として使用された原告保管乙53物件のブタジエン基に起因する吸光度比(967?907/?)がロ号製品としては小さすぎるため(本来のロ号物件における薬品配合割合であれば,吸光度比〔967?907?〕は1.2程度を示-1 -1/すべきところ,原告保管乙53物件は約1.0である,原告保管乙。)53物件を標準物質として作成された検量線によると,ブタジエンを含むSBR(B成分)が実際の値よりも常に大きく算出されてしまう(A/B比が常に小さく算出されてしまう)という根本的な問題点が存在するため,このような検量線に基づく定量分析が正しい重量比を示すものでないことは明らかである。
原告保管乙53物件のブタジエン基に起因する吸光度比(967?90/7?)がロ号製品としては小さすぎることは,?原告保管乙53物件,(, ) の吸光度比が 他のロ号製品 甲48 被告リンテック保管のロ号製品に対して極めて小さな値を示す(前者が約1.04なのに対し,後者は約1.2)こと,?原告保管乙53物件及び裁判所保管乙53物件は,実機生産品よりも小さな吸光度比(967?907?)の値を示すこと-1 -1/が確認されているロ号ハンドコート試料よりも更に小さな値を示すこと,?公証人立会いの下でロ号製品であることが確認されたもの(被告リンテックの工場において,公証人立会いの下でロ号製品の薬品配合割合であることを確認した上で製造した製品を封印し保管してきたものを,別の公証人立会いの下で開封し,その一部を取り出して裏面に公証, 。) 人の押印がなされたものであって ロ号製品であることは確実であるの吸光度比(967?907?)の値も,他のロ号製品(甲48,被告-1 -1/リンテック保管のロ号製品)と同様,約1.2であることから明らかである(乙51,56の1〜5,57 。このように,原告保管乙53物 )件がロ号製品としては極めて小さな吸光度比(967?907?)を示-1 -1/す原因としては,原告保管乙53物件が劣化(経時変化)している可能性が考えられる。
イ実機生産品の配合薬品の固形分量からの定量分析について原告は,被告リンテックの設備とほぼ同一の設備(東京製紙が有する設備)を使用し,同様の塗工条件において,被告リンテックが使用する隠蔽層用塗布液と配合薬品及び配合割合が同一の塗布液を用いることにより,本件被告製品と実質的に同一の製品を実機生産したと主張するが,原告が製造した実機生産品が,被告リンテックと同等の製造設備を用いて同一の製造条件により製造された,本件被告製品と実質的に同一の実機生産品であるということはできない。
原告は,ラインスピード(乾燥炉通過時間 ,設定温度,ノズルの風速 )を被告リンテックが開示した製造条件に近いものにして東京製紙の製造設備を用いて実機生産をしたようであるが,そもそも,ドライヤは乾燥させる材料の特性に合わせて各メーカーがオーダーメイドするのが常識であり,1つとして同じ乾燥条件のものは存在しないといってよい。被告リンテックと東京製紙の装置も当然異なり,同じ乾燥条件を再現しようとすれば,むしろ,風速,設定温度,乾燥時間を被告リンテックとは異なる条件に設定して乾燥条件が同じになるように調整することが必要であって,風速,設定温度,乾燥時間を機械的に被告リンテックの条件と合わせることで被告リンテックの乾燥条件を再現しようする原告の実験は,根本的に誤っている。
このように,ラインスピード(乾燥炉通過時間 ,設定温度,ノズルの )風速のみを被告リンテックの製造条件と近づけたからといって,被告リンテックの実機生産を再現したといえないことは明らかである。実際,東京製紙の実機生産品の物性(印刷適正)は本件被告製品と異なっている。したがって,原告が製造した実機生産品が,被告リンテックと同等の製造設備を用いて同一の製造条件により製造された本件被告製品と実質的に同一の実機生産品であるということはできず,原告の主張は前提において誤りである。
また,原告の主張は,隠蔽層用塗布液の処方が同一であれば実機生産品とハンドコート試料のIRが全領域で一致することを前提としたものであるが,隠蔽層用塗布液の処方が全く同じであっても,実機生産品とハンドコート試料とでは,乾燥速度の違いによるマイグレーション(隠蔽層用塗布液中の水分が隠蔽層表面に向かって急速に蒸発するために,バインダー成分が隠蔽層表面に向かって移動すること )等により隠蔽層における組 。
成分布が異なり不均一な構造となるために吸光度比が異なるものであるから,原告の主張はこの点においても前提に誤りがある。
ウローペイクHP-1055粒子の成膜化について原告は,本件被告製品の隠蔽層のA成分であるローペイクHP-1055粒子は,ガラス転移温度(約106℃)以上の乾燥温度(160℃)で加熱されることにより,粒子の一部が成膜化しB成分に変化すると主張する。
しかし,原告提出の写真(甲65【添付1 )からはローペイクHP- 】1055粒子が成膜化していることを確認することはできない。また,原告が成膜化の根拠とする隠蔽層の白色度低下の要因としては,B成分の増加による空隙の減少以外にも,バインダー成分の濡れ(流動化)による粒子間距離の減少(空隙の減少 ,粒子の変形による粒子間距離の減少(空 )隙の減少)等があり,A/B比と白色度の関係は定量性を有するものではないから,ガラス転移温度以上の加熱によりローペイクHP-1055粒子の一部が成膜化したと認めることはできない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明において乾燥温度として記載されている50〜200℃の範囲内である110〜200℃の範囲で乾燥すれば,A成分は成膜化する可能性があるにもかかわらず,本件明細書には成膜化したA成分がB成分になることについては何ら記載も示唆もされていない。このような本件明細書の記載にかんがみれば,本件特許発明において,A成分が乾燥温度等によってB成分に変化するという技術的思想は存在しないというべきであって,原告が主張するように成膜化されたA成分がB成分に該当すると解することは,本件明細書の記載を逸脱するものであって許されない。
さらに,本件特許発明の特許請求の範囲では,B成分を「成膜性を有する水性ポリマー」としており 「成膜化された水性ポリマー」とは定めて ,おらず,また,本件明細書においても,B成分は隠蔽層において現実に成膜化された状態の水性ポリマーのみを意味し,同一成分の水性ポリマーであっても成膜化していない(バインダーとして作用していない)水性ポリマーはB成分から除外される,というような別段の定義も記載されていない。したがって,A成分が成膜化し得るのであれば,A成分のすべてが成膜性を有することになるのであるから,実際に成膜化しているか否かにかかわらずA成分のすべてがB成分に該当することになる。そうすると,原告が主張するように,加熱乾燥によりローペイクHP-1055粒子の一部が成膜化する可能性があるのであれば,ローペイクHP-1055粒子のすべてが成膜性を有することになりB成分に該当することになるから,他にもB成分が存在する本件被告製品においては,A/B比は必ず1よりも小さくなり,構成要件cは充足されないことになる。
エ本件被告製品製造時の隠蔽層用塗布液の薬品配合割合からA/B比が3よりも大きいことは明らかであること上記2,(2)のとおり,構成要件cの「 A)と(B)の重量比」は, (隠蔽層用塗布液に配合された各薬品の固形分の重量比から求めるのが最も端的かつ確実な方法であるし,本件明細書及び本件特許の出願経過におい, , ても 乾燥後の隠蔽層からA/B比を求める手段は何ら開示されておらず隠蔽層用塗布液の配合薬品の固形分の重量比からA/B比が求められることが当然の前提となっている。
本件被告製品製造時の隠蔽層用塗布液の薬品配合割合は 加工管理表 乙,()( ) 48の1〜48の62の2 及び調薬ノート 乙49の1〜49の4の2,, , に記載されたとおりであるから 仮に ?スチレン/ブタジエン共重合体?スチレン/アクリル酸共重合体,?カゼインのすべてがB成分であるとしても,本件被告製品である,ロ’号製品及びハ号製品の隠蔽層用塗布液の配合薬品の固形分のA/B比が3を超えていることは明らかであるから(乙50の別表1及び3 ,本件被告製品はいずれも構成要件cを充足し )ない。
4争点4(損害額)について( ) 原告1ア被告リンテックは,遅くとも平成12年6月より平成19年11月30日まで,被告製品1を製造し原反として専ら被告小芝のみに販売し,被告小芝はこれにタコグラフ・チャートの目盛りを印刷して裁断し,被告製品2,3として販売しているところ,原告は被告らの実施期間のうち,平成12年6月から平成17年12月31日までの本件被告製品の実施により原告が被った損害につき賠償請求する。
上記期間における被告リンテックにおける被告製品1の売上高は3億9865万円であり,被告小芝における被告製品2,3の合計売上高は13。 , 億7998万円を下らない この期間における本件被告製品の売上利益は被告製品1につき2億1105万円,被告製品2,3につき5億6280万円を下るものではない。
したがって,特許法102条2項により,被告製品1の実施により原告が受けた損害額は2億1105万円,被告製品2,3の実施により原告が受けた損害額は5億6280万円となる。そして,被告らの行為は共同不法行為を構成するから,被告らは,原告に対し,連帯して損害額合計7億7385万円の支払義務を負う。
イまた,本件事案の内容に照らせば,原告は被告らによる特許権侵害相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用として,上記損害額7億7385万円の10%に相当する7738万円の損害を受けた。
ウよって,原告は,被告らに対し,連帯して8億5123万円の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告ら否認ないし争う。
第4当裁判所の判断1争点1(本件被告製品は構成要件aを充足するか)について本件明細書(甲3の2)の「特許請求の範囲」の請求項1における「隠蔽層(5)が1から20ミクロンの膜厚で着色原紙(1(1)の表面に形成ab),され」との記載,及び「発明の詳細な説明」の「課題を解決するための手段」における 「塗布液が着色原紙に塗布される。塗布方法は,エアーナイフコー ,ター…等であり,均一に,かつ温風(50〜200℃)乾燥により,20〜1ミクロンの膜厚の塗膜が形成される量を塗布させねばならない。より好ましい乾燥後の膜厚は10〜3ミクロンである(判決注:下線は判決において付 。」加した )との記載からすると,構成要件aの「膜厚」とは,着色原紙に塗布 。
した塗布液が乾燥した後の隠蔽層の膜厚を意味することは明らかである。
被告らは,構成要件aの「膜厚」とは塗布液を塗布した状態における乾燥前の隠蔽層の膜厚を意味すると主張するが,本件明細書の記載や本件特許の出願経過等において被告らの主張を根拠づけるものはなく,採用することはできない。
本件被告製品における塗布液乾燥後の隠蔽層の膜厚は,14.9〜17.7ミクロンの範囲にあるから(乾燥後の隠蔽層の膜厚が1〜20ミクロンの範囲内であることは当事者間に争いがない,本件被告製品は本件特許発明の構 。)成要件aを充足する。
2争点2(構成要件cの「 A)と(B)の重量比」は乾燥後の隠蔽層におけ (る重量比か乾燥前の塗布液における固形分の重量比か)について(1) 本件明細書甲3の2の発明の詳細な説明の作用において隠 () 「」 「」,「蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーの重量比が1未満のときは充分な隠蔽性が得られず,しかも室温の記録ペンのペン圧で中空孔ポリマー粒子が潰れ難くなり,記録できない。また重量比が3以上となると実用可能な隠蔽層を形成することができない 」と記載されて。
いることからすると,本件特許発明における構成要件cの技術的意義は,記録紙の状態において隠蔽性と記録性の作用を有することにあると解されること,また,本件特許発明の特許請求の範囲の「重量比が1から3の範囲の組成物からなる着色原紙の色調を隠蔽する隠蔽層」との記載からすると,構成要件cの「重量比」は,記録紙となった状態,すなわち,塗布液乾燥後の隠蔽層を構成する組成物における重量比を意味すると解するのが相当である。
もっとも,塗布液の固形分は乾燥後もそのまま不揮発分として残るため,通常は,塗布液における固形分の重量比と塗布液乾燥後の隠蔽層における重量比は一致するものである(当事者間に争いはない 。したがって,構成要 )「」 , , 件cの 重量比 は 必ずしも乾燥後の記録紙の状態で測定する必要はなく乾燥前の塗布液における固形分の重量比を測定することによっても構成要件cを充足するかを判断することができるといえる。本件明細書の「発明の詳細な説明」の「実施例」として,塗布液における固形分の重量比による薬品配合割合が記載されていることからすると,本件特許発明においては,塗布液における固形分の重量比と塗布液乾燥後の隠蔽層における重量比が一致することを当然の前提としており,乾燥の前後で重量比が変化することを想定していないものといえる。
(2) この点,原告は,中空孔ポリマー粒子の供給源であるローペイクHP-1055のガラス転移温度(約106℃)以上の加熱乾燥(160℃)により製造された本件被告製品の場合には,ローペイクHP-1055粒子が成膜化しA成分の一部がB成分に変化することから,A成分とB成分の,塗布液を構成する組成物の固形分の重量比と乾燥後の隠蔽層を構成する組成物の重量比が同一となることはないと主張する。
しかし,被告リンテックによる本件被告製品の製造工程における乾燥温度や条件によって,ローペイクHP-1055粒子が成膜化しA成分からB成分に変化し,塗布液の乾燥の前後でA成分とB成分の重量比が変動することを認めるに足りる的確な証拠はない。原告は,ガラス転移温度を超える温度による乾燥により隠蔽層の白色度が低下することが,A成分であるローペイクHP-1055粒子が成膜化しB成分に変化したことを示すものであると主張しそれに沿う証拠(甲65,79等)を提出するが,A成分のB成分への変化以外にも隠蔽層の白色度の低下をもたらす原因は考えられることから(膜厚の減少,バインダー成分の流動化による粒子間距離の減少,粒子の変形による粒子間距離の減少等 ,隠蔽層の白色度の低下から,直ちにA成分 )がB成分に変化したものと認めることはできず,原告の主張を採用することはできない。
したがって,構成要件cの「重量比」は,塗布液乾燥後の隠蔽層における重量比を意味するものと解すべきであるが,本件被告製品においては,塗布液乾燥後の隠蔽層におけるA成分とB成分の重量比は,塗布液における固形分の重量比と一致するものといえる。そのため,乾燥後の隠蔽層を構成する組成物のA/B比又は乾燥前の塗布液を構成する組成物の固形分のA/B比が1から3の範囲内の場合に,構成要件cを充足することになる。
3争点3(本件被告製品は構成要件cを充足するか〔A)と(B)の重量 「(比が1から3の範囲である」か否か )について〕(1) ATR法による定量分析についてア証拠(甲8〜13,20,64)によれば,原告は,以下の方法により本件被告製品の定量分析を行ったことが認められる。
?定性分析ロ号事件において開示されたロ号製品における塗布液の配合薬品及びその配合割合(SBRを16.5%含有等 ,原告保管乙53物件のAT )R法によるFT-IR分析等から,原告保管乙53物件の隠蔽層を形成する配合薬品を特定した(B成分のSBRはラテックスA5820を選定した。。)?検量線の作成?で特定した配合薬品を用い,それらの成分量を変化させたハンドコート試料(標準物質,試料11??〜?)を調製し,これらをATR法によりFT-IR分析をして成分量と吸光度比の関係をグラフ化し,3点検量線を作成した(B成分3種につきそれぞれ作成した。。)?未知試料の測定?の検量線作成と同様の方法で,未知試料(甲6の1〜5等)につき,ATR法によりFT-IR分析を行った。測定の際には,原告保管乙53物件,試料11??,?,?等を適宜挿入して測定し,吸光度比を求めた。
?定量計算上記?で求めた未知試料(甲6の1〜5等)の吸光度比を上記?で作成した検量線に当てはめ,対応する成分量を読み取り,必要に応じて,原告保管乙53物件,試料11-?〜?(ラテックスA5820をXR-4165又はXR-4164に代えて調製したハンドコート試料を含む )等の標準物質を用いて,読み取った成分量を補正する。これをB 。
成分3種について行い,これらを合計してA/B比を算出した。
イ上記アで認定した原告が行った定量方法においては,標準物質として,原告保管乙53物件,原告保管乙53物件で使用されているSBRとブタジエン含有率が近似するとして原告が選定したSBR市販品を用いて作製。,, された試料11-?〜?が採用されている すなわち 甲10の検量線は試料11-?〜?を用いて作成され,定量の際には,ロ号製品である原告。,, 保管乙53物件による補正も適宜行われている また 甲64においても甲10の検量線が用いられるとともに,裁判所保管乙53物件を標準物質として補正が行われている。
原告の主張する定量方法は,前提として,試料11-?〜?,原告保管乙53物件,裁判所保管乙53物件が標準物質として妥当なものでなければならないため,これらが標準物質として妥当か否かを検討する。
ウ試料11-?〜?について原告は検量線を用いて隠蔽層の各成分の定量を行うが,SBRの定量においては,ブタジエン基に起因する吸光度比(967?907?)がその-1 -1/指標となるため,正確な検量線を作成するためには,本件被告製品におけるSBRと少なくともブタジエン含有量が同一である試料を用いる必要がある。
上記アのように,原告は,当初,原告保管乙53物件の隠蔽層に用いられているSBRが不明であったため,ATR法によるFT-IR分析等から原告保管乙53物件の隠蔽層のSBRとしてラテックスA5820を選定し,これを用いて試料11-?〜?を調整し検量線を作成している。このラテックスA5820のブタジエン含有量は35%であり(甲8添付の実験報告書8-1の表2 ,実際に本件被告製品の隠蔽層に用いられてい )るSBRであるニポールLX407F8Bのブタジエン含有量40%(同表2)よりも少ないものである。ブタジエン含有量が少ないSBRを標準物質として検量線を作成した場合,測定した吸光度比をこの検量線に当てはめて得られるSBR量は実際のSBR量よりも多い値を示すことになり(ブタジエン基に起因する吸光度比が同じ場合,ブタジエン含有率が低いほどSBR量は多くなければならない,正確な定量分析をすることは 。)できない。その結果,B成分が実際よりも多く算定され,A/B比は本来の値よりも小さくなってしまう。
したがって,本件被告製品の隠蔽層に用いられているSBRとブタジエン含有量が異なるSBRを用いて調整された試料11-?〜?は,標準物質として妥当であると認めることはできない。
なお,原告は,検量線から読み取った成分量について試料11-?〜?を標準物質として補正するに当たり,SBRであるラテックスA5820をXR-4165又はXR-4164に代えて調製した試料も使用しているが,XR-4165及びXR-4164のブタジエン含有量は約33%に近似し(甲8添付の実験報告書8-1 ,ニポールLX407F8Bの )ブタジエン含有量40%よりも少ないため,これらを用いて調製される試料11-?〜?も,標準物質として妥当であると認めることはできない。
エ原告保管乙53物件及び裁判所保管乙53物件について証拠(乙51の資料11,12)によれば,平成21年1月27日及び同年2月17日の進行協議期日において行われた立会実験の結果,ロ号製品である原告保管乙53物件及び裁判所保管乙53物件の吸光度比(ブタジエン基に起因する吸光度比〔967?907?)は,ロ号製品の塗布液-1 -1/ 〕の薬品配合割合に基づき作成したハンドコート試料の吸光度比よりも低いことが認められる。そして,ハンドコート試料の吸光度比が実機生産品よりも小さいか否かについては争いがあるものの,少なくとも,ハンドコート試料の吸光度比が実機生産品の吸光度比よりも大きくはないという点については争いのないところである。
そうすると,ロ号製品の実機生産品よりも吸光度比が大きくはないロ号製品の薬品配合割合に基づくハンドコート試料より,原告保管乙53物件及び裁判所保管乙53物件の吸光度比が小さいということは,原告保管乙53物件及び裁判所保管乙53物件のブタジエンの含有量が,本来のロ号製品(実機品)よりも少ないことを意味しているのであるから,原告保管乙53物件及び裁判所保管乙53物件は,いずれも標準物質として妥当であると認めることはできない。このような原告保管乙53物件を標準物質として作成された検量線では,B成分が実際よりも多く算定されることになり,A/B比は本来の値より常に小さくなる。
この点,原告は,立会実験において測定したハンドコート試料は,被告リンテックの加工管理表(乙48の1〜48の62の2)に基づき調製されたものであり,この加工管理表は実際の製造現場における薬品配合割合を正確に示すものではないため,ハンドコート試料の吸光度比と比較しても意味がない旨主張する。
しかし,立会実験におけるハンドコート試料は,弁理士会が公平中立な第三者として推薦した2人の立会人において,使用する薬品が加工管理表に記載された薬品と同一であること,その配合割合がロ号製品の塗布液の薬品配合割合を記載した表(ロ号処方配合表。乙51の資料2)の記載どおりであることを確認した上で,加工管理表記載の各薬品をロ号処方配合表記載の配合割合で調製したものである(乙51 。)このロ号処方配合表は,ロ号事件において被告リンテックが開示したロ号製品の塗布液の薬品配合割合と同一のものであり,この配合割合がロ号(, 製品の塗布液の薬品配合割合であることは争いのない事実である 原告も甲10の検量線作成に当たりこの配合割合に基づき標準物質を選定しており〔甲8 ,この配合割合がロ号製品の塗布液の薬品配合割合であること 〕を当然の前提としている。。)そして,上記第2,2,(6)のとおり,本件被告製品の隠蔽層用塗布液の配合に使用される薬品の薬品名も当事者間に争いはなく,この薬品名がいずれも加工管理表に記載されていることが認められる(乙48の1の2〜48の62の2。カゼインは天然物で組成は1種類しかないため,当業者であれば 「カゼイン」の記載がALACID730を意味するものと ,理解することができる〔甲8。なお,原告は,本件被告製品の隠蔽層 〕。)用塗布液には,上記第2,2,(6)記載の薬品以外の薬品が配合されてい(,,,,),, るとも主張するが上記第33(1)イ(ア)後記(2),アのとおりこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
そうすると,立会実験において調製されたロ号製品のハンドコート試料は,ロ号製品の塗布液の配合に使用される薬品と同一の薬品を,ロ号製品の塗布液の薬品配合割合と同一の割合で配合した塗布液により調製されたものといえ,実際に製造販売されていたロ号製品の塗布液の薬品配合割合と一致するものと認めるのが相当であるから,原告の主張を採用することはできない。
オ以上のとおり,試料11-?〜?,原告保管乙53物件,裁判所保管乙53物件は,いずれも標準物質として妥当であると認めることはできないから,これらを標準物質とする原告主張のATR法に基づく定量方法によっては,正確なA/B比を算定したものとすることはできず,構成要件cの充足を認めることはできない。
なお,原告は基準線判定法(IRのチャート上に引いた一定の基準線とブタジエン基の吸光度の頂点との位置関係に基づきA/B比を求めるもの)に基づき本件被告製品が構成要件cを充足するとも主張するが,基準線判定法は原告が主張する独自の判定法であって,科学的に十分な根拠を有するものと認めるに足りる証拠はなく,採用することができない。
(2) 実機生産品の配合薬品の固形分量からの定量分析についてア原告の主張は,本件被告製品が,加工管理表等に記載の薬品配合割合にSBR(加工管理表等に記載のSBRとは別のSBRであるスマーテックスN2M45又はラテックスA5820〔甲82,91の2 )及びカゼ〕インを加えた塗布液を使用して製造されたものであることを前提にするものである。
しかし,本件被告製品の隠蔽層用塗布液において,ニポールLX407F8B以外に原告が主張するSBRが配合されていることを認めるに足りる的確な証拠はないから,原告の主張は前提において理由がない。なお,原告は,本件被告製品(甲6の2,6の6)と加工管理表等に記載の薬品( ) 配合割合にSBR スマーテックスN2M45又はラテックスA5820及びカゼインを加えた塗布液を塗布した製品(以下「模擬品」という )。
のATR法によるIRチャートが全領域でほぼ一致したことを根拠に,本件被告製品と模擬品の組成比はほぼ同一であると主張するが,IRのチャートが一致したとしても,ブタジエン基等それぞれの基の含有総量が一致するというだけであって,当該基を含有するSBR等の成分の重量や種類が一致することまでを示すものではないから,採用することはできない。
また,原告の主張は,東京製紙が有する被告リンテックの設備とほぼ同一の設備を使用し,同様の塗工条件において配合薬品及び配合割合が同一の塗布液を用いることにより本件被告製品と実質的に同一の製品を実機生産することができることも前提とする。
, , しかし 東京製紙の設備は被告リンテックの設備とは同一ではないから乾燥条件が同一であるということはできず,本件被告製品の製造工程における乾燥条件と異なる乾燥条件において実機生産された製品の隠蔽層が,本件被告製品の隠蔽層と同一の物性を有するか否かは定かではない。本件() 被告製品の隠蔽層のブタジエン基に起因する吸光度比 967?907?-1 -1/は,原告が自認するように製造後にさらされる環境の相違によって変化し得るものであり(甲67 ,同一製品においても測定箇所によってある程 )度の幅が認められる(甲85の「公証原反4枚目 ,乙51の資料11, 」12の裁判所保管乙53物件)ことも併せて考慮すると,乾燥条件が異なる場合には,隠蔽層のブタジエン基に起因する吸光度比(967?907? /)が異なる可能性を否定することはできず,東京製紙の設備により本件1被告製品と実質的に同一の製品を実機生産することができると認めることはできない。
したがって,本件被告製品と実質的に同一の実機生産品の隠蔽層用塗布液の配合薬品の固形分量を根拠に,本件被告製品のA/B比が構成要件cを充足するとの原告の主張は,前提において理由がなく採用することができない。
イさらに,原告は,本件被告製品は,A成分であるローペイクHP-10()() 55粒子がそのガラス転移温度 約106℃ 以上の乾燥温度 160℃で加熱されることにより,一部が成膜化してB成分である「成膜性を有する水性ポリマー」に変化することから,A/B比は隠蔽層用塗布液の配合薬品の固形分量から求めた値よりも小さくなり 「1から3の範囲」に収 ,束すると主張する。
しかし,上記2,(2)で説示したとおり,被告リンテックによる本件被告製品の製造工程における乾燥温度や条件によって,ローペイクHP-1055粒子が成膜化しA成分からB成分に変化することを認めるに足りる的確な証拠はない。
また,仮にA成分の一部が成膜化した場合,いまだ成膜化していない残りの部分も既に成膜化した部分と同一の物質である以上,当該加熱温度において同様に成膜性を有することに変わりはなく,A成分のすべてが成膜性を有することになり,B成分(成膜性を有する水性ポリマー)にも該当することになる(B成分の「成膜性を有する水性ポリマー」は「中空孔ポリマー」を除外するものではない。そうすると,原告が主張するよう 。)にローペイクHP-1055粒子の一部が成膜化した場合,ローペイクHP-1055粒子のすべてが成膜性を有しB成分に該当することになるか, , ら 中空孔ポリマーとは異なるB成分が存在する本件被告製品においてはA/B比は必ず1よりも小さくなり,構成要件cを充足することはない。
そもそも,本件明細書には,A成分がそのガラス転移温度以上の乾燥温度で加熱されることにより一部が成膜化してB成分である「成膜性を有する水性ポリマー」に変化することについては記載も示唆もなく,成膜化したA成分がB成分に変化することは想定していないものというべきである。原告の上記主張は,本件明細書の記載に基づかないものであり,採用することができない。
ウ以上のとおり,本件被告製品が本件特許発明構成要件cを充足すると認めることはできない。
4結論よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 坂本康博