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事件 平成 16年 (ワ) 793号 特許権侵害差止等請求事件
原告 日本圧着端子製造株式会社
訴訟代理人弁護士 松本司
同 岩坪哲
同 山形康郎
同 田上洋平
被告 エルジー電子ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 上谷清
同 宇井正一
同 笹本摂
同 山口健司
補佐人弁理士 島田哲郎
同 水野 みな子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載の液晶テレビ,液晶モニターを輸入し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,前項の液晶テレビ,液晶モニターを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金6006万円及びこれに対する平成16年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
原告は,被告に対して,被告が輸入販売している別紙被告製品目録記載の液晶テレビ等(以下「被告製品」という。)において,部品として使用されているプリント配線板用コネクタが,原告の有する特許権及び意匠権侵害するとして,被告製品の輸入販売等の差止及び廃棄並びに損害賠償を求めた。
1 争いのない事実等 (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有する。
特許番号 特許第3262726号 出願日 平成8年12月16日(特願平8-353511号) 登録日 平成13年12月21日 特許請求の範囲【請求項1】 「絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが,前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と,前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有し,前記ハウジング内に,前記両接触ピン部の中間に配設され,前記両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられ,一方,前記両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出し,そのはんだ付け部分が,前記両接触ピン部のピッチより大きいピッチに形成されており,前記開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合される雄コネクタであって,前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されていることを特徴とする雄コネクタ。」 (2) 出願経過 本件特許権の出願経過は,次のとおりである(乙2)。
@ 平成8年12月16日 特許出願(以下「本件特許出願」という。) A 平成13年7月31日 拒絶理由通知 B 平成13年9月25日 手続補正(以下,「本件補正」という。) 同 日 意見書提出(以下,同意見書を「本件意見書」という。) C 平成13年12月4日 特許査定 D 平成13年12月21日 設定登録 (3) 本件発明の構成要件 本件発明の構成要件は,次のとおりに分説することができる(以下,「構成要件A@」,「構成要件AA」などという。)。
A@ 絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが, A 前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と, B 前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有し, B@ 前記ハウジング内に, A 前記両接触ピン部の中間に配設され, B 前記両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられ, C@ 一方,前記両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出し, A そのはんだ付け部分が,前記両接触ピン部のピッチより大きいピッチに形成されており, D 前記開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合される雄コネクタであって, E@ 前記隔壁の両側面が, A 前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と, B 該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されていることを特徴とする F 雄コネクタ。
(4) 被告の行為 被告は,別紙「被告コネクタ構成説明書」及び「別紙被告コネクタ意匠説明書」記載のプリント配線板用コネクタ(以下「被告コネクタ」という。)が一体不可分に結合された被告製品を輸入販売していた。
なお,被告が現在も被告製品の輸入販売等を行っているとの原告の主張について,被告は否認している。
(5) 構成要件充足性 被告コネクタは,本件発明の構成要件AないしD及びFを充足する。
(6) 原告の有する意匠権 原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。
登録番号 意匠登録第1018719号 出願日 平成8年11月28日(意願平8-36513号) 登録日 平成10年6月12日 意匠に係る物品 プリント配線板用コネクタ 意匠の構成 別紙意匠目録記載のとおり 2 争点 (1) 被告コネクタは,本件発明の構成要件Eを充足するか。
(2) 被告コネクタは,本件発明と均等か。
(3) 被告製品の輸入販売等は,本件意匠権侵害となるか。
(4) 原告の被った損害額はいくらか。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件Eの充足性)について (原告の主張) (1) 被告コネクタの構成 被告コネクタは,次の構成を有する。
a@ ハウジング2内には2本のピンコンタクト3,3が収容されている。
A 該ピンコンタクト3は,ハウジング2の中心線A-Aと平行して該ハウジングの開口部4に向けて突出する接触ピン部と,3a,3aを有する。
B 更に,前記ハウジングから延出して,プリント配線板にはんだ付けされるはんだ付け部3b’,3b’を末端に有するリード部3b,3bを有する。
b@ 前記ハウジング内2には, A 前記両接触ピン部3a,3aの中間に配設され, B 該両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁5が設けられている。
c@ 一方,前記ピンコンタクト3の両リード部3b,3bは,互いに横外側方へ屈曲して延出している。
A 該屈曲部から更に下方に屈曲し次いで前方に屈曲したはんだ付け部3b’,3b’間のピッチd1が,前記両接触ピン部3a,3a間のピッチd2より大きいピッチに形成されている。
d 前記開口部4に他の雌コネクタが挿入して嵌合されるコネクタベースである。
e@ 前記隔壁5の両側面が, A 前記絶縁ハウジング2の中心線A-Aと略平行に延びる基部平行面5a,5aと, B 該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面5b,5bとにより形成されている。
f 以上の特徴を有するコネクタベースである。
(2) 構成要件EAの充足性 被告コネクタの構成eは,以下のとおりの理由で,構成要件EAを備えている。
構成要件EAの「隔壁の両側面が・・・,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と・・・により形成されている」の意義 本件発明は,「インバータ基板の小型化に伴って,該インバータ基板とバックライトの間を電気的に接続するコネクタには小型で,しかも高電圧に対応できるものが求められている」との課題に対し,「コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして,高電圧に対応できるように構成した高電圧対応型のコネクタを提供すること」を目的とした発明である。
本件発明の本質的な部分は,「絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが,前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と,前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有」し,「前記両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出し,そのはんだ付け部分が前記両接触ピン部のピッチより大きいピッチに形成されており,前記開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合され」,「前記ハウジング内に,前記両接触ピン部の中間に配設され,前記両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられ」るとの構成を採用することによって,コンタクト間の沿面距離と空間距離を保持し,良好な端子間の電気的接触を保ちつつ短絡(ショート)事故を回避し,かつコネクタサイズの小型化を実現した点に存在する。
以上のとおり,雌雄コネクタを正しい嵌合に導くために,雄コネクタの隔壁について楔状のテーパ面とした点は,必須の構成であるが,これに対して,それに連続する「基部平行面」が厳密に平行である点は,必須の構成であるとはいえない。
イ 対比 被告コネクタは,隔壁(別紙1被告コネクタ構成説明書の第2図)が,先細の楔形を形成するテーパ面(5b)と,絶縁ハウジングの中心線と略平行に延びる基部平行面(5a)が連続して形成され,隔壁は,基部平行面が略平行といえる程度の僅かなテーパ面として構成されている。
本件特許権の明細書(以下「本件明細書」という。)の実施例(甲2(以下「本件特許公報」という。)の図3)と被告コネクタを示す第2図(いずれも隔壁部分を含む横断面)とを対比すれば,被告コネクタの隔壁と,本件発明の実施例における隔壁の各形状構造が実質的に同一であり,隔壁における「基部平行面」の存在ないしその程度が,製造公差の範囲内ともいえる程度の微差にすぎないことは明らかである。
したがって,被告コネクタは,本件発明の構成要件EAを充足する。
(被告の認否・反論) (1) 被告コネクタの構成 被告コネクタが構成aないしdを有することは認めるが,構成eを有することは否認する。
被告コネクタの隔壁の両側面は,基部から先端に向かって徐々に先細りしていく形状(つまり,すべてテーパ面)であり,被告コネクタの隔壁は「基部平行面」と「テーパ面」に分かれていない。
(2) 構成要件EAの充足性 被告コネクタの構成eは,以下のとおりの理由により,構成要件EAの「基部平行面」を具備しないので,同構成要件を充足しない。
構成要件EAの「隔壁の両側面が・・・,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と・・・により形成されている」の意義 本件明細書の記載及び原告の提出した意見書の記載に照らすならば,隔壁の両側面に「基部平行面」があるという点は,本件発明の本質的な部分であり,必須の構成である。すなわち, (ア) 本件明細書には「また,この嵌合状態で隔壁7の基部平行面8,8が欠除部23の開口平行面30,30に密着するので,雄コネクタ1と雌コネクタ2はがたつくことなく正しい嵌合姿勢に保たれる。」(6欄45〜48行)と記載されているように,本件発明は,隔壁に「基部平行面」を有するが故に,「がたつくことなく正しい嵌合姿勢に保たれる」という効果を奏するものである。
(イ) また,原告(本件特許出願人)は,拒絶理由通知に対する本件補正と同時に提出した本件意見書において,本件発明は,「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」(構成要件E)との構成により,「がたつくことなく正しい嵌合状態に保持される」という効果を奏すると明確に指摘している。
以上のとおり,本件発明において,基部平行面は,雌雄コネクタを「がたつくことなく正しい嵌合状態に保つ」との効果を奏するための本質的部分である。したがって,被告コネクタは,基部平行面を有しないので,本件発明の構成要件EAを充足しない。
2 争点(2)(被告コネクタは本件発明と均等か) (原告の主張) 仮に,被告コネクタの隔壁の両側面が,基部から先端に向かって徐々に先細りしていく形状であって,隔壁の両側面が「基部平行面」と「テーパ面」とに分かれていないとしても,被告コネクタは,本件発明の均等物である。
(1) 非本質的部分 被告コネクタの「隔壁の両側面がテーパ面」であるとの構成と本件発明の構成要件EAとの相違は,本件発明の本質的部分における相違ではない。
ア 前記1の原告の主張(2)アで述べたとおり,本件発明の本質的部分は,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして,高電圧に対応できるような高電圧対応型のコネクタを提供するとの目的を達成するために,構成要件Aのとおりのピンコンタクト,同Bのとおりの隔壁を設け,雌雄コネクタを正しい嵌合に導く隔壁にテーパ面を設けた点にある。すなわち,テーパ面に連続する基部平行面の存在は,本件発明の本質的部分ではない。 したがって,被告コネクタと本件発明の前記の相違は,本件発明と本質的部分における相違ではない。
イ 確かに,原告は,先願である特開平10-125384号(乙2の2添付)公開特許公報(以下「先願公報」という。)に基づく拒絶理由通知に対する応答として,構成要件Eの追加を内容とする本件補正を行い,また,本件意見書を提出した。
しかし,本件補正によって追加された「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面」との構成は,本件発明の本質的部分であると理解すべきではない。
すなわち,拒絶理由通知における引用例である先願公報に記載されたコネクタは,その第2図に端的に示されているとおり,隔壁が「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる面(基部を含めて平行面)」よりなるものである。そして,本件意見書における,「拒絶理由に引用された前記の先願発明の明細書又は図面には,…補正された本願の請求項1に係る発明の特徴とする構成,すなわち『前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている』構成については記載されていません。」との陳述は,「補正された本願の請求項1に係る発明は,先願発明とは同一ではない」ことを表明したにすぎず,「基部平行面を有するものでなければ本件特許請求の範囲に含まれ得ない」ことを表明したものではない。
ウ また,本件補正は,出願当初明細書の【0012】欄に記載された実施例,「隔壁7の両側面は,絶縁ハウジング3の中心線と平行に延びる短い基部平行面8,8と,該基部平行面8,8に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面9,9とにより形成されている」との記載に根拠を置くものである。
本件補正に適用される平成12年12月改訂の審査基準の下では,補正に関する特許法17条の2第3項(新規事項の加入禁止)は,当初明細書に文字通り記載された事項か,当該事項から一義的直接的に導かれる事項しか補正によって明細書等に追加し得ないという運用であり,補正可能範囲は極めて狭隘であった。
このような審査基準の下で,仮に,原告が,先願公報に記載された発明と本願発明との同一性を回避する目的で,「基部平行面」に触れることなく,単純に「先細の楔形を形成するテーパ面9,9」について限定を加えるとすると,新規事項に抵触するおそれがあった。
以上の制約の下で,原告(本件特許出願人)が,本件補正により,コネクタの隔壁の形状について「基部平行面」と「テーパ面」から形成されていると限定したとしても,「基部平行面」から形成されているとの点が本件発明の本質的部分になると解することはできない。
エ さらに,本件補正においては,先願公報(拒絶引例)が「基部平行面」を有する発明であるにもかかわらず,原告が「基部平行面」をクレームに追加しているのであるから,第三者は,本件補正により新たに限定した事項が拒絶引例を回避する目的で追加されたものとは理解しないはずである。したがって,「基部平行面を有しない」ものが,本件発明の均等の範囲に含まれると解釈したとしても,何ら第三者の信頼を害することはない。
なお,米国特許5108317公報(乙3)には本件発明の本質的要素であるピンコンタクトの構成は何ら開示されていないから,本件発明の本質的部分を画定する参酌資料たり得るものではない。
(2) 置換可能性置換容易性 被告コネクタの隔壁が「テーパ面」からなっていても,「がたつくことなく正しい嵌合状態を保持する」との作用・効果を奏するから,置換可能性がある。
また,被告コネクタは,構成要件EAの「基部平行面」に換えて,楔状のテーパ面と連続する絶縁ハウジングの中心線と略平行な緩やかなテーパ面としたものであり,その置換は容易である。
(3) 意識的除外等の特段の事情の不存在 前記のとおり,本件補正によって追加された「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面」との構成は,拒絶理由通知における引用例である先願公報そのものに備わっている構成と同一である。したがって,原告が,このような事項を追加する補正をしたことにより,「基部平行面」を備えないものを意識的に除外したと解されるべきではない。
(4) 小括 被告コネクタにおける,楔状のテーパ面と連続する絶縁ハウジングの中心線と略平行な緩やかなテーパ面としたとの構成は,本件発明の構成要件EAの「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面」と均等である。
(被告の反論) (1) 本件発明の本質的部分 本件発明の本質的部分は,「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」との構成(構成要件E)にあり,被告コネクタがこの点において異なるものであることは明らかである。
(2) 置換可能性 被告コネクタは,本件発明の「基部平行面と開口平行面の密着によるがたつき防止」効果を奏しないから,作用効果は同一ではなく,置換可能性がない。
(3) 公知技術からの容易推考 コネクタの挿入を容易かつ確実にするために,被告コネクタのように「隔壁の両側面を先細の楔形(すべてテーパ面)に形成する」ことは,本件特許出願当時,当業者に広く知られた周知技術であり,この周知技術を先願発明の構成に適用しても,特に「新たな効果を奏する」ことはない。
隔壁の形状が「すべて平行面」である先願発明と,「すべてテーパ面」である被告コネクタとは,隔壁の形状が異なるのみであり,この相違点は「課題解決のための具体化手段における微差」(周知技術の付加であって,新たな効果を奏するものではないもの)にすぎないから,両者は実質的に同一である。
したがって,被告コネクタは,本件特許出願当時における公知技術実質的に同一である。
(4) 意識的除外等の特段の事情 本件特許権の出願経過に照らせば,原告が「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」との構成を追加したことにより,同構成を具備しないコネクタについて,すべて本件発明の技術的範囲から除外する意思を表示していたと解すべきであることは明らかである。
3 争点(3)(意匠権侵害の有無)について (原告の主張) (1) 本件意匠の特徴 本件意匠は,下記の特徴を有する。
ア 基本的構成 I プリント配線板用コネクタ(べース)は,ハウジングと,これに後方背面側から前方正面側に向けて嵌合固着される一対のピンコンタクトからなる。
U ハウジングは矩形扁平筒状で,平面視短辺側の前方正面側が相手方コネクタ(ソケット)を挿入可能に開口されるとともに,同じく後方背面側にはピンコンタクトを嵌合可能な2つの穴が設けられている。
V ハウジングの内部中央には長辺方向に内部を2分割する内壁が設けられ,該内壁の小口が正面側から観察可能である。
具体的態様 I 矩形扁平筒状のハウジングは,上面の長短辺の長さ比は約4対3,側面の長短辺の長さ比は約2.2対1である。
U ハウジングの正面側の開口部は側面上部略3分の1が矩形状(左側面から見てL字状,右側面から見て逆L字状)に切り欠いている。
V 上記開口部の下半分は,両側面が側壁の厚み方向内側半分を残して左側面から見てL字状,右側面から見て逆L字状に切削されているため,正面視においては高さ方向略中央部がフランジ状に外側にやや突出したような外観を呈している。なお,該切削部には基板との接合補強用の金属片が設けられている。
W 背面側後端部は,上面は幅方向(平面視短辺方向)全長にわたり,下面は幅方向両端を除いた部分がそれぞれ庇状に外側に突出しているため,断面コの字状を呈している。
V 背面側後端部中央にはハウジング後端の上下面を連絡する支持壁があり,該支持壁は中実である。
Y ピンコンタクトは,リード部が接触ピン部の後端から横方向に屈曲したのち後方へ延びる中間部分と,該中間部分の後端から下方へ屈曲して延びる脚部分と,該脚部分の下端から前方正面側は屈曲して延びるはんだ付け部分とからなっている。
(2) 被告コネクタの意匠 被告コネクタは,被告コネクタ意匠説明書記載の意匠(以下「被告意匠」という。)の構成を有する。
(3) 被告意匠の特徴 ア 基本的構成 I プリント配線板用コネクタ(べース)は,ハウジングと,これに後方背面側から前方正面側に向けて嵌合固着される一対のピンコンタクトからなる。
U ハウジングは矩形扁平筒状で,平面視短辺側の前方正面側が相手方コネクタ(ソケット)を挿入可能に開口されるとともに,同じく後方背面側にはピンコンタクトを嵌合可能な2つの穴が設けられている。
V ハウジングの内部中央には長辺方向に内部を2分割する内壁が設けられ,該内壁の小口が正面側から観察可能である。
具体的態様 I 矩形扁平筒状のハウジングは,上面の長短辺の長さ比は約4対3,側面の長短辺の長さ比は約2.2対1である。
U ハウジングの正面側の開口部は側面上部略3分の1が矩形状(左側面から見てL字状,右側面から見て逆L字状)に切り欠いている。また,ハウジング上面の開口側は左右に長手方向の僅かな切り込みがある。
V 上記開口部の下半分は,両側面が側壁の厚み方向内側半分を残して左側面から見てL字状,右側面から見て逆L字状に切削されているため,正面視においては高さ方向略中央部がフランジ状に外側にやや突出したような外観を呈している。なお,該切削部には基板との接合補強用の金属片が設けられている。
W 背面側後端部は,上面は幅方向(平面視短辺方向)全長にわたり,下面は幅方向両端を除いた部分がそれぞれ庇状に外側に突出しているため,断面コの字状を呈している。
V 背面側後端部中央にはハウジング後端の上下面を連絡する支持壁があり,該支持壁は中空であるとともに,支持壁を構成する縦方向の2本の桟がわずかに後方に突出している。
Y ピンコンタクトは,リード部が接触ピン部の後端から横方向に屈曲して垂下する中問部分と,該中間部分の後端から下方へ屈曲して延びる脚部分と,該脚部分の下端から後方へ屈曲しているはんだ付け部分とからなっている。
(4) 類似性について ア 本件意匠と被告意匠の基本的構成は同一であり,本体上面の開口部における左右の切り込みの有無,本体後方の上下面連絡支持壁が中実であるか否か,該支持壁部分の後方への僅かな突出の有無,ピンコンタクトの中間部及びはんだ付け部の各屈曲方向の点で本件意匠と相違するものの,その余の具体的態様も全く同一である。
イ 両意匠の上記相違点は,両者の美感に影響をもたらさない微細な差異であって,両者は美感を共通にする類似する意匠である。
ウ よって,被告意匠は本件意匠の範囲に属し,被告コネクタが一体不可分に結合した被告製品の輸入販売行為は本件意匠権侵害する。
(5) 視認性について ア 意匠法は,物品の形状,模様,色彩もしくはこれらの組合せであって視覚を通じ美感を起こさせるものに係る創作を保護するための法であり,商標などとは異なり,侵害対象の実施形態において,当該物品が外部から看取されるか否かは,意匠の成否ないし意匠権侵害の成否を決する絶対的な条件ではない。
現に,部品(部分品)に関しても,多数の意匠登録がなされている。この場合,外部から容易に看取できないよう筐体あるいは他の部品等で覆われた状態で物品が流通に置かれる限り,あまねく意匠権侵害が成立しないとすれば部品(部分品)に係る意匠権は,全く活用されないという不合理な結果となる。
イ 意匠に係る物品(部分品)が視認可能な状態で流通されている限りにおいて,その販売行為が禁止されれば意匠法の目的は達成されるとの反論も妥当でない。部品を製造した者については,部品に係る意匠権侵害しているとされたにもかかわらず,その部品を購入し,これを組み込んで完成品として販売する者については,部品に係る意匠権侵害していないという結論は,不合理である。
被告は,被告製品中に被告コネクタを不可分一体のものとして,かつ「液晶モニタ」としての機能の根幹をなす液晶画面バックライトヘの電力供給用部品として組み込んで,「輸入」,「販売」している。したがって,本件意匠と同一の意匠を備える被告コネクタを,これを一体不可分のものとして組み込んだ被告製品を「輸入」,「販売」する被告の行為は,意匠法2条1項3号の「意匠の実施」に該当する。
(被告の反論) (1) 独立性の欠如 意匠法における物品とは,経済的に一個の物品として独立して取引の対象とされる場合のその物品をいうのであるから,「流通過程に置かれた具体的な物品」を類否の判断の対象とすべきである。
被告が輸入販売していた被告製品は,液晶テレビ,液晶モニターである。
被告コネクタは,被告製品に内蔵されている一部品であるプリント配線板の,そのまた一部品にすぎない。すなわち,被告コネクタは,被告が輸入販売した被告製品の一構成部分にすぎず,「経済的に一個の物品として独立した取引の対象」ではない。
被告製品の輸入販売において,意匠法上,物品として類否の対象とされるべきは「流通過程に置かれた具体的な物品」である被告製品である。
そうすると,本件意匠に係る物品が「プリント配線板用コネクタ」であるのに対し,被告製品は,液晶テレビ,液晶モニターであり,両者は物品が異なるから,被告製品の意匠が本件意匠と同一又は類似とされる余地はない。
(2) 視認性の欠如 ア 意匠権侵害の判断においては,「流通過程において外観に現れず,視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状」を考慮することは相当でない。
すなわち,意匠法の保護法益は,意匠(デザイン)の有する顧客の需要を引き付ける力(意匠の需要吸引力)であるが,外部から容易に看取できないよう筐体あるいは他の部品等で覆われた状態においては,意匠の需要吸引力が発揮される余地は全くない。以上のとおり,意匠権侵害が成り立つためには,視認性が必要である。
イ 被告製品の販売行為においては,被告コネクタの形態は,外部から一切視認できず,「コネクタ」に関する本件意匠の需要吸引力は,全く利用されていない。「コネクタ」が一般需要者の目に触れない以上,「コネクタ」のデザインが被告製品を購入しようとする一般需要者の購買意欲を引き付けることはあり得ない。
したがって,被告製品の輸入販売行為は,本件意匠権侵害とはならない。
4 争点(4)(損害額)について (原告の主張) 被告は,遅くとも平成14年3月4日から平成15年12月31日までの間,被告製品を,平均単価8万5800円で少なくとも14万台販売した。
これにより,被告は,少なくとも12億0120万円の利益を得た(平均利益率10%)。
被告コネクタは,液晶表示装置のバックライト点灯に必要な高電圧を供給するための重要な接続部材であり,本件発明及び本件意匠は,その小型化と耐高電圧という相反する要求を実現していることにより,被告製品の販売数の増加に対して多大の寄与をしている。
したがって,本件特許権及び本件意匠権侵害と因果関係にある被告の利益は,少なくとも6006万円を下らない(寄与率5%)。
原告は被告に対し,6006万円の損害賠償請求権を有する。
(被告の認否) 原告の主張を争う。
当裁判所の判断
1 構成要件Eの充足性(文言侵害の有無)について (1) 構成要件EAの「隔壁の両側面が・・・,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と・・・により形成されている」の意義 原告は,コネクタの小型化と耐高電圧という相反する要求を実現することができるという本件発明の本質に照らすならば,構成要件EAの「基部平行面」は,厳密な意味で平行である必要はないと主張するので,この点について判断する。
ア 事実認定 争いのない事実等,証拠(甲2,乙1ないし3,枝番号の表記は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば,本件明細書の記載,出願経過,周知技術等について,以下の事実が認められる。
(ア) 本件明細書の記載 a 発明が解決しようとする課題 「【0004】・・・本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,小型化を図りながら,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして,高電圧に対応できるように構成した高電圧対応型のコネクタを提供することを目的としている。」 b 発明の実施の形態 「【0019】雄コネクタ1は,図8及び図9に示すように,インバータ基板43に両ピンコンタクト4,4のはんだ付け部分19,19と両補強金具20,20をはんだ付けして表面実装され,インバータ基板43の電源回路に接続されている。一方,雌コネクタ2の両ソケットコンタクト22,22に接続した2本の電線45,45は,バックライト42の両端に接続されていて,該雌コネクタ2を雄コネクタ1の絶縁ハウジング3の開口部5から挿入すると,欠除部23のテーパ面31,31が隔壁7のテーパ面9,9に係合すると共に,両側の案内突条29,29が案内溝12,12に係合して正しい嵌合位置に誘導され,雄コネクタ1の両ピンコンタクト4,4の接触ピン部15,15が挿通孔27,27を通じて各筒状体24,24内に進入し,ソケットコンタクト22のソケット部32,32に嵌合して電気的に接続される。そして,雄コネクタ1と雌コネクタ2とが図示のように嵌合が完了すると,雌コネクタ2の両係止突片28,28が雄コネクタ1の係止溝11,11に係合し,その係合時におけるクリック感によって正しい嵌合状態を確認することができる。また,この嵌合状態で隔壁7の基部平行面8,8が欠除部23の開口平行面30,30に密着するので,雄コネクタ1と雌コネクタ2はがたつくことなく正しい嵌合姿勢に保たれる。」 c 発明の効果 「【0021】・・・本発明によれば,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして高電圧に対応できるものでありながら,コネクタ全体を大幅に小型化できる。しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる。したがって,本発明のコネクタは,パソコンなどの液晶画面の光源となるバックライトの電源回路を構成するインバータ基板の小型化に適合できる利点を有しているものである。」 (イ) 出願経過 a 本件特許出願 原告は,平成8年12月16日,本件特許出願をした。出願当初明細書の特許請求の範囲は,次のとおり記載されていた。
「【請求項1】 絶縁ハウジンクに収容された2本のピンコンタクトが,前記ハウジングの中心線と平行して前記ハウジングの開口部に突出する接触ピン部と,前記ハウジンクから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部とを有し,前記開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合される雄コネクタであって,前記ハウジング内に,前記両接触ピン部の中間に配設され,かつ,前記両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられており,一方,前記両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出させ,そのはんだ付け部分のピッチが前記両接触ピン部のピッチより大きく形成されていることを特徴とする雄コネクタ。
【請求項4】 前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の雄コネクタ。」 b 拒絶理由通知 特許庁審査官は,平成13年7月31日(発送日),本件特許出願の請求項1に係る発明が先願公報に記載された発明と同一であるから特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとして,拒絶理由通知をした。
c 先願公報に記載された発明 先願公報には,@絶縁ハウジング内に2本のピンコンタクトが収容されている,A2本のピンコンタクトは,ハウジングの中心線と平行して開口部に突出する接触ピン部と,ハウジングから延出してプリント配線板にはんだ付けされるリード部を有する,Bハウジング内に両接触ピン部の中間に配設され,両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられる,C両リード部は,互いに横外側方へ屈曲して延出し,そのはんだ付け部分が,前記両接触ピン部のピッチより大きいピッチに形成されている,D上記隔壁の両側面の形状は基部から先端に向かって平行面で形成されている,E開口部に他の雌コネクタが挿入して嵌合される,との構成を有する「インシュレータ」(雄コネクタ)が記載されている。
先願公報に記載された「インシュレータ」は,本件発明の構成要件A,B,C,D及びFを備えている。
d 本件補正 原告は,平成13年9月25日,本件補正をした。本件補正により,出願当初明細書の請求項1に「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」(構成要件E)との限定を付した。
また,【発明の効果】として,「しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる。」ことを追加した。
e 本件意見書の提出 原告は,本件補正とともに,特許庁に対し,本件意見書を提出した。本件意見書には,次の記載がある。
「上記の手続補正書により,本願の請求項1に係る発明は,今回の拒絶理由通知書中で指摘されなかった請求項4に記載の構成,すなわち, 『前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている』構成を付加して限定補正しました。
上記のように補正された本願の請求項1に係る発明によれば,高電圧に対応できるものでありながら,コネクタ全体を大幅に小型化できることに加え,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる,という格別の効果を奏するものであります。」 「一方,拒絶理由に引用された前記の先願発明の明細書又は図面には,上記のように補正された本願の請求項1に係る発明の特徴とする構成,すなわち『前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている』構成については記載されていません。
したがって,補正された本願の請求項1に係る発明は,先願発明とは同一ではありません。」 f 特許査定 特許庁は,平成13年11月22日,本件特許出願について特許査定した。
(ウ) 周知技術 絶縁ハウジング内に2本のピンコンタクトが収容され,2本のピンコンタクトがハウジングの中心線と平行して開口部に突出する接触ピン部を有し,両接触ピン部の中間に配設され,両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられた雄コネクタにおいて,隔壁の両側面の形状を,基部から先端に向かって先細りのテーパ面で形成することは,本件特許出願前の周知技術であった。
イ 「基部平行面」の意義について 以上認定した事実によれば,隔壁の両側面に「基部平行面」があるという点は,本件発明の必須の構成であり,その形状は,文字どおり平行であることを要するといえる。その理由は,以下のとおりである。
(ア) まず,本件明細書には,本件発明に係る雄コネクタの隔壁の技術的意義について,「この嵌合状態で隔壁7の基部平行面8,8が欠除部23の開口平行面30,30に密着するので,雄コネクタ1と雌コネクタ2はがたつくことなく正しい嵌合姿勢に保たれる。」(【0019】)と記載され,「発明の効果」として「雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持される」と記載されており,これらの記載によれば,本件発明に係る雄コネクタの隔壁の基部平行面は,雌コネクタの開口平行面に密着して,雄コネクタと雌コネクタをがたつくことなく正しい嵌合姿勢に保持するために採られた技術的手段であると認められ,本件発明にとって,「隔壁の基部平行面」は,この作用効果を奏するための必須の構成要素である解するのが相当である。
(イ) また,原告(本件特許出願人)は,拒絶理由通知に対する本件補正と同時に提出した本件意見書において,本件発明は,「前記隔壁の両側面が,前記絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,該基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」(構成要件E)との構成により,「がたつくことなく正しい嵌合状態に保持される」という効果を奏するとの意見を述べている。
(ウ) さらに,絶縁ハウジング内に2本のピンコンタクトが収容され,2本のピンコンタクトがハウジングの中心線と平行して開口部に突出する接触ピン部を有し,両接触ピン部の中間に配設され,両接触ピン部の先端より長く突出する隔壁が設けられた雄コネクタにおいて,隔壁の両側面の形状を,基部から先端に向かって先細りのテーパ面で形成することは,本件特許出願前の周知技術であったことに照らすならば,隔壁の両側面に「テーパ面」のほかに「基部平行面」があるという点こそが,本件発明を特徴づける構成であるということができる。
(2) 被告製品の構成及び対比 被告コネクタの隔壁の両側面の形状は,基部から先端に向かって先細りしている形状(すなわちテーパ面)を呈しており,平行面は存しない。
以上のとおり,被告コネクタの隔壁の両側面には構成要件EAの「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面」が存在しないから,被告コネクタは,構成要件Eを充足しない。
原告は,被告コネクタにおける,隔壁の両側面が,基部から先端に向かって徐々に先細りしていくとの構成は,本件発明の構成要件Eと実質的に同一である旨主張するが,上記と同様の理由により,採用できない。
2 均等侵害の有無について (1) 本件発明の本質的部分について ア 前記1(1)ア(ア)の本件明細書の記載によれば,本件発明は,高電圧対応型のコネクタにおいて,小型化を図りながら,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして,高電圧に対応できるようすることを発明が解決しようとする課題とし,この課題を解決するために特許請求の範囲請求項1記載の技術的手段を採用し,その結果,コンタクト間の沿面距離及び空間距離を大きくして高電圧に対応できるものでありながら,コネクタ全体を大幅に小型化でき,しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されるという効果を得ることを目的とするものである。
イ そして,前記ア(イ)の出願経過のとおり,本件特許出願の当初明細書においては,特許請求の範囲請求項1の発明は,本件発明の構成要件AないしD及びFからなる発明として記載されており,コネクタの隔壁の両側面の形状は限定されていなかったこと,特許庁審査官は,原告(出願人)に対し,上記請求項1の発明は先願公報に記載された発明と同一であるとして,拒絶理由通知を発したこと,先願公報には本件発明の構成要件AないしD及びFからなる雄コネクタ(インシュレータ)発明が記載されていたこと,原告は,上記拒絶理由通知に対し,本件補正を行い,これにより上記請求項1の発明に構成要件Eを付加して隔壁の両側面の形状を限定するとともに,発明の効果として,「しかも,雄コネクタと雌コネクタはがたつくことなく正しい嵌合状態に保持されると共に,嵌合状態の完了を容易に確認することができる。」ことを追加したこと,原告が本件補正と同時に提出した本件意見書においても,構成要件Eの限定を付した本件発明によれば,発明の効果として,上記のような格別の効果を奏するものである旨記載していること,本件特許出願前に,隔壁の両側面の形状を先細りのテーパ面で形成することは周知技術であったこと等の出願経緯があった。
ウ 以上の諸事実に照らすならば,本件発明の本質的部分は,「隔壁の両側面が,絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面と,基部平行面に連続し,先細の楔形を形成するテーパ面とにより形成されている」(構成要件E)という技術的手段を採用し,雄コネクタと雌コネクタをがたつくことなく正しい嵌合状態に保持するところにあると認めるのが相当である。
そうすると,被告コネクタと本件発明の相違点は,本件発明の本質的部分に属するということができる。
(2) 意識的除外 ア 前記認定の出願経過によれば,本件発明は,出願当初の明細書の特許請求の範囲請求項1において,コネクタの隔壁の両側面の形状が限定されていなかったが,本件補正により,当該形状が構成要件Eのとおりに限定されたこと,拒絶理由通知で指摘された先願公報に記載された雄コネクタは,コネクタの隔壁の両側面の形状が基部から先端に向かって平行面で形成されており,また,当該形状をすべてテーパ面で形成することは本件特許出願前に周知技術であったこと等の事実が認められ,これらの事実に照らすならば,隔壁の両側面が「基部平行面」とこれに連続する先細の「テーパ面」とにより形成されていないもの,すなわち,隔壁の両側面のすべてがテーパ面で形成されているものは,本件発明から意識的に除外されたものと認めるのが相当である。
イ この点につき,原告は,本件補正により追加された「絶縁ハウジングの中心線と平行に延びる基部平行面」との構成は,先願公報そのものに備わっている構成であるから,原告が,このような補正をしたことにより,被告コネクタのような「基部平行面」を備えないものを意識的に除外したと解されるべきではないと主張する。
しかし,本件補正により追加されたのは,「隔壁の両側面が『基部平行面』とこれに連続する先細の『テーパ面』とにより形成されている」との構成であり,これは,先願公報に記載された雄コネクタの隔壁の両側面が「すべて平行面」により形成されているとの構成とは相違するのであるから,原告の上記主張は,前提において誤っており,採用することができない。
(3) 小括 以上のとおりであるから,被告コネクタについては,いわゆる均等侵害が成立するための要件(第1要件及び第5要件)を欠く。
したがって,被告コネクタが本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するということはできない。
3 本件意匠権侵害の有無について 原告は,被告コネクタの意匠が本件意匠と類似するとして,被告コネクタを部品として組み込んだ被告製品を輸入販売する被告の行為が本件意匠権侵害となる旨主張する。
しかし,当裁判所は,以下の理由から,被告の上記行為は本件意匠権侵害に当たらないと判断する。
(1) まず,意匠法における「意匠」とは,いわゆる部分意匠として登録されるような場合を除けば,物品全体の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであるから(意匠法2条1項参照),意匠とこれに基づいて表現された物品とは不可分の関係に立つというべきである。したがって,登録意匠と被告物品に係る意匠とが類似しているというためには,それぞれの「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」が単に類似するというだけでは足りないのであって,登録意匠に係る物品と被告物品とが類似していることも必要である。そして,この場合に,対比の対象とされる被告物品は,流通過程に置かれ,取引の対象とされる独立した物品を指すものというべきであって,単に,当該物品の一部を構成するにすぎない部分を指すと解すべきではない。
また,意匠は,「視覚を通じて美感を起こさせるもの」であるから,意匠権侵害の判断においては,流通過程において外観に現れず,視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状等を考慮すべきではない。
(2) 本件においては,本件意匠に係る物品は「プリント配線板用コネクタ」であるのに対し,被告製品は,液晶テレビ,液晶モニターであり,両者は物品が異なるから,被告製品の意匠が本件意匠と同一又は類似とされることはない。また,被告製品は,液晶テレビ及び液晶モニターという完成品であり,被告コネクタは,被告製品に内蔵されているプリント配線板の一部品として使用されているのであるから(当事者間に争いはない。),被告が取り扱う過程での被告製品の流通過程をみる限り,被告コネクタは,被告製品に内蔵されたままの状態で外観に現れず,被告製品の取引者,需要者が外部から視覚を通じて認識されることはない。そうすると,被告コネクタの意匠は,被告が関与する流通過程においては,本件意匠権の保護の対象とはならないというべきであるから,被告製品の輸入販売は,本件意匠権侵害とはならない。
(3) この点について,原告は,商標などとは異なり,意匠法は意匠に係る創作の保護法であるから,意匠権侵害が成立するためには,侵害対象の実施形態において当該物品が外部から看取されることが必須の条件になるということはない旨主張する。しかし,前記(1)に判示したところに照らし,原告の同主張は採用することができない。
また,原告は,被告コネクタは被告製品中に不可分一体のものとして組み込まれているから,そのような被告製品の輸入販売は意匠法2条1項3号の意匠の「実施」に該当する旨主張する。しかし,前記(1)に判示したとおり,意匠権侵害の有無の判断に際しては,流通過程に置かれた具体的な物品が対象となるものというべきである。そして,被告が輸入販売した物品は,液晶テレビ及び液晶モニターであるのに対し,本件意匠権の意匠に係る物品は,プリント配線板用コネクタであるから,液晶テレビ及び液晶モニターを輸入販売したとしても,本件意匠を実施したことにはならない。したがって,原告の上記主張も理由がない。
4 結語 以上の次第で,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 一場康宏