審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21ワ6505損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ22715特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20ワ8611特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20ワ36028特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ3529特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 冒認出願(冒認) / 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 協議 / 自然法則 / 反復(反復可能性) / 反復実施 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 物の発明 / 方法の発明 / 製造方法 / 新規性 / 共同研究 / 共同発明 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 29条の2(拡大された先願の地位) / 技術的範囲 / 出願公開 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 共有 / 着想 / 時効 / クレーム / 援用権(援用) / 存続期間 / 参酌 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 業として / 侵害 / 不法行為(民法709条) / 共同発明者 / 持分譲渡(持分の譲渡) / 同意 / 設定登録 / 移転登録 / 対価 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 合理的な理由 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
20年
(ワ)
30272号
損害賠償請求事件
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福岡市東区<以下略> X 原告 同訴訟代理人弁護士安倍久美子 同 柴田耕太郎 大阪市北区<以下略> 被告訴訟引受 人サントリーホールディングス株式会社 同訴訟代理人弁護士青柳?子 同訴訟復代理人弁護士粟田英一 東京都港区<以下略> 脱退被告サ ントリー酒類株式会社(旧商号サントリー株式会社) |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2009/12/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求被告訴訟引受人は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成20年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が,脱退被告の知的財産権に関する権利義務を承継した被告訴訟引受人(以下,被告訴訟引受人と脱退被告とを特に区別せず「被告」ということがある )に対し,被告は,原告のした発明につき,特許を受ける権利を 。 承継することなく特許を出願し,原告の特許を受ける権利を侵害したなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得の返還として,5000万円及びこれに対する不法行為の後ないし弁済期の翌日である平成20年12月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない )。 ( )当事者(甲46,乙26,32,33,弁論の全趣旨)1ア原告は,医師であり,平成元年4月から平成2年3月までの間は九州大学医学部第一外科の研究生であり,同年4月から平成4年3月までの間は同大学農学部の栄養化学研究室の研究生であった。 原告は,平成元年4月から平成4年3月までの間,九州大学農学部のα1教授の下で,上記栄養化学研究室(以下「α1研究室」という )にお。 いて研究に従事していた。 イ脱退被告は,酒類,清涼飲料その他の飲料及び食料品等の製造,販売等を業とする株式会社である。 脱退被告とα1教授とは,昭和63年以降,相互に研究成果を共有するという共同研究をしている関係にあった。 ウ被告訴訟引受人は,平成21年4月1日をもって,同日現在において脱退被告の保有する特許権等の知的財産権に関する一切の権利義務を吸収分割により承継した株式会社である。 ( )被告の有する特許権(その1)2ア(ア)被告は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許請求の範囲請求項1ないし19の発明を総称して 「本件発明1」という。 ,また,本件発明1に係る特許を「本件特許1」といい,本件特許1に係る明細書(別紙特許公報等参照)を「本件明細書1」という )を有し。 ていた。同特許は,平成21年7月21日,存続期間が満了した。 特 許 番 号第3001589号発明の名称リグナン類含有飲食物出願日平成元年7月21日登録日平成11年11月12日発明者β1及びβ2特許請求の範囲別紙本件特許1の特許請求の範囲(以下「別紙特許請求の範囲」という )の「平成13年2月26日付け訂正請求書」欄記載のとお 。 り(イ)リグナン類化合物とは,ゴマ種子,ゴマ粕及びゴマ油等に含まれる成分であり,セサミン及びエピセサミンは,リグナン類化合物の一種である。エピセサミンは,本来ゴマ種子には存在しておらず,ゴマ油からサラダ油などの精製処理を行う工程においてセサミンから生成する,セサミンの異性体である(甲8,45 。)(ウ)β1及びβ2は,いずれも,被告の従業員である。 イ本件特許1の出願から設定登録及び本件訂正に至るまでの経緯(ア)脱退被告は,平成元年7月21日,上記アの発明に係る特許の出願をした(以下「本件出願1」といい,その願書に添付した明細書(乙1の1)を「当初明細書」という。。)当初明細書における特許請求の範囲は,別紙特許請求の範囲の「出願」,(,,。 時 欄記載のとおり 2個の請求項であった 甲1 乙1の1 1の2本件出願1当時の請求項1及び2記載の発明を併せて,以下「本件出願当時の発明」という。。)(イ)脱退被告は,平成8年7月22日付け手続補正書(甲2)により,特許請求の範囲を,別紙特許請求の範囲の「平成8年7月22日付け手続補正書」欄記載のとおり,8個の請求項に補正した。 (ウ)本件出願1について 平成10年10月9日付けで拒絶理由通知 甲 , (3)がされたため,脱退被告は,平成11年1月11日付け手続補正書(甲4)により,特許請求の範囲を,別紙特許請求の範囲の「平成11年1月11日付け手続補正書」欄記載のとおり,19個の請求項に補正し(以下「本件補正」といい,同補正後の請求項1ないし19の発明を「本件訂正前の発明」という,同年11月12日,本件特許1の設 。)定登録がされた。 (エ)脱退被告は,平成13年2月26日,本件特許1に対する特許異議申立手続において訂正請求をし,同年5月8日付けで,訂正を認めた上で本件特許1を維持する旨の決定がされた(以下,上記訂正を「本件訂正」という。これにより,本件特許1の特許請求の範囲は,別紙特 。)許請求の範囲の「平成13年2月26日付け訂正請求書」欄記載のとおりに訂正された(乙21,22 。)( )被告の有する特許権(その2)3ア被告は,次の特許権(以下「本件特許権2」といい,その特許請求の範囲請求項1及び2の発明を併せて「本件発明2」という。また,本件発明2に係る特許を「本件特許2」といい,本件特許2に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書2」という )を有している。。 特 許 番 号第3075360号発明の名称コレステロール降下剤出願日平成2年10月3日登録日平成12年6月9日発明者β1,β3,α1教授及び原告特許請求の範囲請求項1及び2別紙特許公報の該当欄記載のとおりイβ3は,被告の従業員である(乙26(35頁。))( )被告の有する特許権(その3)4被告は,次の特許権(以下「本件特許権3」といい,その特許請求の範囲請求項1ないし6の発明を総称して 「本件発明3」という。また,本件発 ,明3に係る特許を「本件特許3」といい,本件特許3に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書3」という )を有している。なお,本件特許 。 ,「」 (), 3は 発明の名称を 発癌抑制剤 として出願されたものであるが 甲19その後,脱退被告は,平成12年2月14日付け手続補正書(甲20)により,発明の名称を「コレステロール及び胆汁酸の代謝阻害剤」に補正した。 特 許 番 号第3183664号発明の名称コレステロール及び胆汁酸の代謝阻害剤出願日平成2年10月22日登録日平成13年4月27日発明者β1,β3,α1教授及び原告特許請求の範囲請求項1ないし6別紙特許公報の該当欄記載のとおり( )脱退被告による特許出願(その1)5ア(ア)脱退被告は,平成3年8月9日,次の特許を出願した(甲21。以下「本件出願4」といい,その特許請求の範囲請求項1及び2の発明を併せて「本件発明4」という。また,出願時の明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書4」という。。)出 願 番 号特願平3-200757号公 開 番 号特開平5-43458号発明の名称乳癌抑制剤発明者β1,β4,α1教授及び原告特許請求の範囲請求項1及び2別紙特許公報の該当欄記載のとおり(イ)β4は,被告の従業員である(乙26(27頁。))イ脱退被告は,本件出願4について,特許法所定の期間内に審査請求をしなかった。そのため,本件出願4は,取り下げたものとみなされた(平成)。 11年5月14日法律第41号による改正前の特許法48条の3第4項( )脱退被告による特許出願(その2)6ア脱退被告は,平成3年8月23日,次の特許を出願した(甲10。以下「本件出願5」といい,その特許請求の範囲請求項1及び2の発明を併せて「本件発明5」という。また,出願時の明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書5」という。。)出 願 番 号特願平3-212295号公 開 番 号特開平5-51388号発明の名称過酸化脂質生成抑制剤発明者β1,β4,α1教授及び原告特許請求の範囲請求項1及び2別紙特許公報の該当欄記載のとおり, () イ本件出願5に対し 平成12年5月29日付けで拒絶理由通知 乙10, ()。, がされ 同年8月18日付けで拒絶査定 乙11 がされた これに対し脱退被告は,不服審判請求をしたものの,平成13年8月28日付けで,再度の拒絶理由通知(乙12)がされた。 ウそのため,脱退被告は,本件出願5を取り下げた。 ( )脱退被告の行為7脱退被告は,平成5年以後,セサミンを含有する「セサミンE」の名称を付した製品群(以下「被告製品」という )を製造,販売している。 。 2争点( )本件特許1について1ア被告は,本件補正により,本件訂正前の発明について,原告の発明者名誉権及び特許を受ける権利を侵害したか(争点1-1)イ消滅時効の成否(争点1-2)( )本件特許2及び3並びに本件出願4及び5について2ア原告は 本件発明2ないし5の特許を受ける権利を被告に譲渡したか 争 , (点2-1)イ原告は,本件発明2ないし5の発明者か(争点2-2)ウ被告製品は,本件発明2及び3の技術的範囲に属するか(争点2-3)エ消滅時効の成否(争点2-4)( )原告の損害ないし損失(争点3)33争点に関する当事者の主張( )ア争点1-1(本件補正により原告の発明者名誉権等が侵害されたか)1について[原告の主張]前記1( )イのとおり,脱退被告は,平成元年7月21日,発明者を同2社の従業員であるβ1及びβ2として,本件出願当時の発明について本件出願1を行い,平成11年1月11日付けで,特許請求の範囲を別紙特許請求の範囲の「平成11年1月11日付け手続補正書」欄記載の請求項に補正する旨の本件補正を行った上,同年11月12日,本件訂正前の発明について,特許権の設定登録を受けた。 ,, , しかしながら 以下のとおり 本件訂正前の発明の発明者は原告であり脱退被告は,発明者である原告を発明者として記載せず,かつ,原告から同発明の特許を受ける権利を承継せずに,本件補正を行い,原告の発明者名誉権及び特許を受ける権利を侵害した。本件出願1がされた時点において,β1及びβ2が本件訂正前の発明を完成させていたものではない。 また,本件補正は,特許請求の範囲を当初明細書に記載した事項の範囲外のものとする違法なものであり,実際は,新たな特許出願と同視すべきものである。 (ア)本件訂正前の発明の発明者が原告であることaα1研究室において研究を行う以前の原告の研究原告は,α1研究室において研究に従事する以前,昭和59年5月から昭和61年1月までの間,ニューヨーク州立大学に留学し,アセタミノフェン(解熱鎮痛薬,風邪薬の一種)を大量に内服した時に起こる肝障害をプロピルチオウラシル(抗甲状腺剤の一種。以下「PTU」という )がいかなる機序で防御しているのかに関する研究を行 。 っていた。 bα1研究室における原告の研究(a)原告は,平成元年4月以降,α1研究室において研究を行うこととなり,ニューヨーク州立大学で使用していたアセタミノフェンの代わりに,毒性物質としてアルコールを使用して,アルコール性肝障害又はアルコール性脂肪肝作成時に,PTUと肝内グルタチオン(以下「GSH」という )を投与して,血清や肝臓の脂質パラ 。 メーター(コレステロール,中性脂肪,リン脂質,脂肪酸,糞便中胆汁酸等)を測定することを計画し,まず急性の,次に慢性のラットを用いたアルコール投与実験を行うこととした。 急性実験の群分けは,上記の目的から,対照群,アルコール群,GSH群,GSH+アルコール群,PTU群及びPTU+アルコール群とした。 (b)原告は,上記急性実験の測定を行っていた平成元年5月下旬から同年6月上旬ころ,α1教授から,セサミンをやってみないかと言われ,同教授と協議の上,上記慢性実験時に新たにセサミン群を,,,, 挿入することとし 対照群 アルコール群 GSH+アルコール群PTU+アルコール群及びセサミン+アルコール群の5群を設定した。なお,これらの実験当時は,摂食実験を行う際に必要なセサミンを単離する技術が存在しなかったため,原告は,セサミンとエピセサミンの等量混合物を用いることにした。また,α1教授は,原告に対して上記提言を行った際,セサミンの効能等に関して示唆をしたり,慢性実験にセサミンを使うよう指示をしたりしたわけではなく,単に,セサミンをやってみないかと言ったにすぎなかった。 (c)原告は,平成元年6月,雄のウイスターラット(体重約120g)を,1群6匹とし,上記(b)のとおり5群に分け,28日間飼育した。また,すべての群の食事は,市販の普通食を用い,飲み水中のアルコール濃度は,最初の8日間は3%エタノール溶液,次の8日間は5%エタノール溶液,残りの日数は7.5%エタノール溶液を用い,セサミン群では,普通食に,0.5%のセサミン及びエピセサミンの等量混合物(セサミンを51.3%,エピセサミンを.。「」。)。 478%含むもの以下セサミン混合物というを加えた(d)原告は,平成元年7月27日,上記ラットを屠殺し,ラットの肝臓及び血清を測定した。 76.42 その結果,アルコール群では,血清中のコレステロールが±,過酸化脂質が±,肝臓中のコレステロ3.97mg/dl1.540.11mg/dlールが±,過酸化脂質が±であっ2.730.14mg/dl371.6214.65mg/dlたのに対し,セサミン群では,血清中のコレステロールが± 41.18,過酸化脂質が±,肝臓中のコレステロー 1.80mg/dl0.780.07mg/dlルが±,過酸化脂質が±であり,2.220.08mg/dl323.5515.24mg/dlセサミン混合物をラット食餌に投与した群では,驚異的なコレステロール及び過酸化脂質の低下作用があることが認められた。 (e)原告は,平成元年12月14日,α1研究室での中間発表会において,上記(c)及び(d)の実験(以下「本件実験」という )の。 結果を発表した(甲9の1,9の2。上記結果を発表した際の報告書(甲9の1)を,以下「本件報告書」という。。)(f)さらに,原告は,ラットに市販の標準飼料のみを与える対照群と,これにセサミンとエピセサミンの等量混合物を加えた飼料を加えるセサミン群のラットを4週間飼育し,平成2年1月18日にラットを屠殺後,少なくとも1ないし2週間以内に数値を測定したところ,セサミン群において血中コレステロールが約20%低下してTable2 Exp. いたことを確認した 甲36の1 36の2 22の1 (,,(? ,22の2。以下「平成2年実験」という。同実験により, ) 。)原告は,アルコールの影響なくセサミンをラットに摂食させた時にも血中コレステロールが低下することを確認した。 c本件実験の意義(a)本件実験が行われる以前には,生体内でセサミンがコレステロール及び過酸化脂質を低下させる効果を有することを明らかにした動物実験等は発表されていなかった。原告は,本件実験により,セサミンが生体内で上記効果を有すること及び飲食物に含有することで効果を発揮することを初めて見い出した。 (b)本件実験は,飼料に0.5%のセサミン混合物を含有させた実験であるものの,物質が体内に与える影響については,一定程度の含有量で効果が確認された場合,同物質はその量にかかわらず体内で作用する効果があることを確認することができたとすることは,一般的なことである。 (c)本件実験は,飼料を用いた動物実験ではあるものの,原告は動物の健康の維持等を目的に本件実験を実施したのではなく,人間が健康の維持のためにセサミン及びエピセサミンなどを経口摂取することを前提としてプロトコールを作成している。また,動物実験によって人間の飲食物に関する際の作用効果を確認することは,一般に行われていることである。 (d)当該物質が生体内でどのような作用を持っているかを研究するための動物実験においては,いかなる方法で実験を行うかを発案する(プロトコールを作成する)ことが,最も重要である。本件実験では,アルコール投与を行い市販の普通食を用いるなどの実験を発案した者は原告であり,その結果,セサミンとエピセサミンの等量混合物が驚異的なコレステロール及び過酸化脂質の低下作用を有すること並びに飲食物に含有することで効果を発揮することを見い出したのであるから,本件実験の成果は,実験計画を作成した原告に帰属する。 (e)よって,原告は,遅くとも前記b(e)の発表がされた平成元年12月14日までに,セサミン単体,エピセサミン単体又はセサミン及びエピセサミンのいずれかが,血中コレステロール及び過酸化脂質を低下させる効果を有することを前提として,これらを飲食物に含有せしめること,すなわち 「セサミン及び/又はエピセサミ ,ンを添加したセサミン及び/又はエピセサミン含有飲食物」を発明(「」。),, した以下本件セサミン発明というものであり同発明は本件訂正前の発明を包含する。 (イ)本件出願1が行われた時点において,β1及びβ2は本件訂正前の発明を完成していなかったこと被告は,後記のとおり,本件訂正前の発明は,本件出願1がされた時点において,β1及びβ2によって既に完成されていたと主張する。 しかしながら,以下のとおり,本件出願1を行うまでにβ1及びβ2の行った実験等によっては,本件訂正前の発明が完成していたとは認められず,被告の主張は理由がない。 a本件出願1を行う前に脱退被告がセサミンに関して行った動物を用5いた摂食実験は,脱退被告が平成元年3月7日に発明の名称を「△-不飽和化酵素阻害剤」としてβ1及びβ2らを発明者として出願した特許の出願時の明細書 乙3の1 に記載された実施例2の実験 な () (お,この実験は,α1教授が行ったものであり,同実験の結果は,平成2年発行のアグリカルチュアル・アンド・バイオロジカル・ケミス()。) トリー誌に掲載された同教授の論文 乙34 にも記載されていると,当初明細書に記載された実施例7の実験のみである。 これらの実験においてラットに与えられた飼料は,いずれも,ゴマ油からの抽出物であり,その組成は,次のとおりである。 (a)△ -不飽和化酵素阻害剤の特許における実施例25抽出物のうちに占めるリグナンの割合は62%であり,リグナンの組成は,セサミンが30.2%,エピセサミンが66.3%,セサミノール+エピセサミノールが2.1%である。また,リグナン以外の割合は,植物ステロールが4%,油脂が30%である。 (b)当初明細書における実施例7抽出物のうちに占めるリグナン類化合物の割合は60.4%(セサミン19.6%,エピセサミン30.6%,セサミノール及びエピセサミノール10.2%)であり,リグナン類化合物以外の物質の割合が39.6%である。 上記実施例2には,上記(a)の飼料を与えることでラットの血漿中コレステロールが低下する傾向が認められた旨の実験記録の記載がある。また,上記実施例7には,上記(b)の飼料をラットに与えることで血漿中のコレステロール及びトリグリセライド(中性脂質)の低下が認められる旨の実験記録が記載されている。 bまた,前記△ -不飽和化酵素阻害剤の特許の出願時の明細書の実5施例1には,脱退被告がラットの肝臓ミクロゾームを用いた実験を行い,その実験結果から,セサミン及びエピセサミンは,いずれも,動(「」。) 物が生体内に持つジホモ-γ-リノレン酸 以下 DGLA というをアラキドン酸(以下「ARA」という )に変換する△ -不飽和化 。 5酵素を特異的に阻害することが明らかになった旨が記載されている。 被告は,後記のとおり,同実験によって,特段の事情のない限りセサミンとエピセサミンは同等の生理活性を有すると判断することができるので,セサミン及びエピセサミンを主成分とする上記aの実験結果によって,セサミン及びエピセサミンによるコレステロール低下作用等が確認されたと合理的に判断し得ると主張している。 cしかしながら,上記aの各実施例における飼料中に混合した物質には,油脂など,リグナン類化合物以外の物質も含まれている上,リグナン類化合物の中でも,セサミンと同じく有用な作用を有する可能性があるセサミノール及びエピセサミノールが含まれている。また,セサミンとエピセサミンは,例えば,エピセサミンの臓器への移行量はセサミンと比較して2倍以上高く,エピセサミンはセサミンに比べて肝臓のβ酸化系酵素の遺伝子発現及び酵素活性を顕著に上昇させるなど(甲45 ,生体内で及ぼす影響には大きな差がある。 )そうすると,これらの物質を混合した飼料を用いても,いかなる物質が単独であるいは互いに複合して作用して上記効果をもたらしたのかについては,不明であるといわざるを得ない。 , , , また 肝臓ミクロソームを用いた実験は 試験管内の実験であって生体内での作用効果を確認したものではない。単純化された試験管内と様々な作用が複雑に影響を与えあう生体内とでは,生じる作用が異なるため,物質が生体内で与える効果を調べるには,試験管内での実験では不十分である。 したがって,上記a及びbの実験を行っただけでは,aの実験に用いた飼料中に含まれた物質のいずれの効果によって血漿中のコレステロールの低下等が生じたのかを確認することはできず,同実験によって,セサミン及び/又はエピセサミンの降コレステロール降下等が確認されたとは認められない。 (ウ)被告の不法行為a本件補正は,特許請求の範囲を,出願当時の「リグナン類化合物」から 「セサミン及び/又はエピセサミン」に限定するなどの補正を ,行うものである。 しかしながら,前記(イ)のとおり,当初明細書には,セサミン単体ないしセサミンとエピセサミンの混合物に血中コレステロール又は血中中性脂質を低下させる効果があることを確認した旨の実験結果等は記載されていない。 したがって,本件補正は,特許請求の範囲に記載した技術的事項を出願当初の明細書に記載した事項の範囲外とする違法なものであり,新たな出願と同視すべきものである。 bまた,脱退被告は,α1教授と共同研究を行っていたものであり,この関係を通じて,原告の行った本件実験の結果,すなわち,原告が本件セサミン発明をしたことを当然に認識していた。 cよって,被告は,本件補正により,原告が発明者である本件訂正前の発明について,原告を発明者と記載せず,かつ,同発明を冒認して同発明に係る特許の設定登録を受けたものであり,同発明に係る原告の発明者名誉権及び特許を受ける権利を侵害した。 [被告の主張](ア) 原告は本件訂正前の発明を完成させていないこと原告は,本件実験を行うことにより原告が本件訂正前の発明を完成させたと主張する。 しかしながら,以下のとおり,本件実験は本件訂正前の発明を構成するものではなく,原告の主張は理由がない。 a本件訂正前の発明は,その請求項を大きな特徴で分類すれば,請求項1ないし19は飲食物に係る発明,請求項1ないし7はセサミン及び/又はエピセサミンを添加した飲食物の発明(そのうち請求項4ないし6はセサミン及び/又はエピセサミンを添加した液体飲料に係る発明 ,請求項8ないし13はセサミン及び/又はエピセサミン含有 )飲食物の製造方法の発明,請求項14ないし19は単離されたセサミン及び/又はエピセサミンを添加した飲食物及び製造方法の発明,請求項7,13,16及び19は 「血中コレステロール低下作用又は ,血中中性脂質低下作用を有する」との作用効果を「物」の発明のクレームに記載した発明となる。これらの請求項は,いずれも 「物」の,発明又は「物を製造する方法」の発明の構成として,具体的かつ客観的に特定されている。 b特許請求の範囲及び明細書の用語は 「その有する普通の意味で使用」 ,するものとされ,普通の意味とは異なる「特定の意味で使用しようとする場合」においては,明細書においてその意味を「定義」した上で使用しなければならない(特許法施行規則24条様式29「備考」参照 。)本件明細書1では 「飲食物」が普通とは異なる意味を有するとの定義 ,を行っていないので,特許請求の範囲及び明細書の詳細な説明に記載された「飲食物」の用語は普通の意味で解釈されるところ,広辞苑(第5版)では 「食品」について 「人が日常的に食物として摂取する物の総 ,,称。飲食物。食料品」と記載しており 「飲食物」と「食品」は同義とさ ,れている。また,広辞苑(第5版)では 「飼料」について 「飼養動物 ,,に与える食物。えさ」と記載されており,人が食物として摂取する「飲食物」と,動物に与えられる「飼料」とは,用語として明確に区別される。 c本件補正後の本件明細書1には,本件訂正前の発明について,次のとおり記載されている。 (a)産業上の利用分野「本発明は,降コレステロール作用及び/または降中性脂質作用を有するリグナン類化合物を含有する食品に関する (2頁3欄34行な」いし37行)(b) 従来の技術「そこで,本来の食品に加えることのできる無害な天然物で,嗜好に影響を与えず,しかも安全な降コレステロール作用及び降中性脂質作用を有する物質を有する飲食物の開発が強く望まれている (2頁」3欄38行及び4欄25行ないし29行)(c) 発明が解決しようとする課題「従って本発明は,降コレステロール作用及び降中性脂質作用を有する,天然物で安全な物質を添加した飲食物を提供しようとするものである (2頁4欄30行ないし33行) 」(d) 課題を解決するための手段「本発明者等は,上記の目的を達成するため種々研究した結果,胡麻種子,胡麻粕及び胡麻油中より単離したセサミン及び/又はエピセサミン(本明細書において「リグナン類化合物「リグナン類」又」,は「リグナン」と称する場合がある)が,血中コレステロール及び,, 血中中性脂質を低下させる作用を有する上に安全性が高く しかも精製品は無味無臭で白色を呈しているため,飲食品への配合に適するものであることを見い出し,本発明を完成した (2頁4欄34行」ないし43行)「本発明のリグナン類化合物もしくはリグナン類化合物を主成分とする抽出物を含有することを特徴とするリグナン類含有食品の種類は特に限定されない。しかし,降コレステロール作用及び降中性脂質, 。, 作用を考慮すると 油脂を含む食品への添加が考えられる 例えば肉,魚,ナッツ等の油脂を含む天然食品,中華料理,ラーメン,スープ等の調理時に油脂を加える食品,天プラ,フライ,油揚げ,チャーハン,ドーナッツ,カリン糖等の熱媒体として油脂を用いた食品,バター,マーガリン,マヨネーズ,ドレッシング,チョコレート,即席ラーメン,キャラメル,ビスケット,アイスクリーム等の油脂食品又は加工時油脂を加えた加工食品,おかき,ハードビスケット,あんパン等の加工仕上時油脂を噴霧又は塗布した食品等を上げることができる (中略)しかし,本発明は油脂食品に限っている 。 わけではなく,あらゆる食品に添加しコレステロール及び中性脂質改善食品とすることができる (3頁6欄23行ないし42行) 」「20重量%を越えると対象の食品によっては,風味の上で好ましくない場合もある (3頁6欄47行ないし48行) 」(e)実施例実施例4においてリグナン類含有マヨネーズが,実施例5においてリグナン類含有バターが,実施例8においてセサミン含有マヨネーズ及びセサミン含有バターが,実施例9においてセサミン含有ジュースが,実施例11においてセサミン含有マーガリンが記載されている。 d以上のとおり,本件訂正前の発明が 「人が日常的に食物として摂 ,取(飲食)する物」であるところの「飲食物」をその必須の構成要件とすることは,請求項における記載及び本件明細書1の全記載からして明確である。 eこれに対し,本件実験は,アルコール投与下の動物実験において,ラットの飼料としてセサミンとエピセサミンの混合物を配合した動物飼料を使用したにすぎない 「飼料」が「飲食物」に当たらないこと 。 ,, , については前記bのとおりであり動物実験に供した飼料をもってセサミン及び/又はエピセサミンを添加した「飲食物」であると主張することはできない。なお,当初明細書の実施例7は,本件出願当時の発明においてセサミンがコレステロール降下作用等を有することを確認するための実験系として,動物実験を行った結果を記載したものであり,実験動物の飼料を「飲食物の実施例」として記載したものではない。 また,セサミン又はエピセサミンという既知の物質について,コレステロール低下作用等の特定の作用を単に発見したにとどまる場合には,自然法則を利用した技術的思想の創作行為(特許法2条1項)は存在しないため,いかなる発明も成立せず,特許を受ける権利も発明者名誉権も発生しない。発明を完成したと認められるためには,既知の物質について発見した特定の性質を「飲食物の用途に用いる」という,具体的・客観的な「新しい着想」を行い,その着想の具体化として新規な飲食物の創製を行うなどして 「当業者が反復実施して目的とする技術的効果を ,上げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成」することが必要である。 しかしながら,本件実験の結果を記載した本件報告書には,原告が本件実験の担当者として確認したセサミンとエピセサミンの混合物の特定の性質を飲食物の用途に用いるという新しい着想を原告が行ったという事実も,新しい着想の具体化行為として本件訂正前の発明の請求項1ないし19において特定されている具体的な構成からなる飲食物及び液体飲料等を原告が創製したという事実も,具体的・客観的には一切記載されていない。すなわち,本件報告書には,単離したセサミン及び/又はエピセサミン含有の天然物の抽出物を添加した「飲食物」を製造したことも,これらの抽出物を添加した「飲食物の製造方法」も,単離されたセサミン及び/又はエピセサミンを添加した「飲食物」を製造したことも,一切記載されていない。 原告は,平成2年実験により,アルコールの影響なくセサミンをラットに摂食させた時にも血中コレステロールが低下したことを原告が確認したとも主張するが,同実験も,原告が行ったのは,既知物質であるセサミン(セサミンとエピセサミンの混合物)についての特定の作用の確認行為にとどまり,新しい何ものかを作り出すという創作(発明)行為はされていない。 f したがって 原告は セサミン及び/又はエピセサミンを添加した 飲 ,, 「食物」であることを発明の必須構成要件とする本件訂正前の発明の請求項1ないし7の発明も 「飲食物の製造方法」であることを必須の要件と ,する請求項8ないし13の発明も 「単離されたセサミン及び/又はエピ ,セサミンを添加した」ことを発明の必須の構成要件とする請求項14ないし19の発明も,発明していない。 g仮に,本件実験の結果に何らかの発明が示されているとしても,本件実験は,後記(イ)のとおり,当時一連のセサミン関連の研究を行っており,セサミンによるコレステロール低下傾向を既に見い出していたα1教授が,アルコール投与下の条件におけるセサミンの脂質代謝に対する影響に実験目的を定め,そのために,セサミンとエピセサミンの混合物を0.5%添加した群を追加して脂質データを取ることとしたものであり,原告は,α1研究室の他の大学院生らと共同してその実験を担当したというにすぎない。 原告は,本件実験が行われる以前は,セサミンに関する業績はなく,全くの門外漢であった者であり,セサミンの活性作用を検討する動物実験を行うことなど全く念頭になかった。 したがって,当該発明の発明者はα1教授であって,原告は,独立して技術思想の創作をしておらず,発明者たり得ない。 (イ)β1及びβ2が本件実験以前に本件訂正前の発明を完成していたこと本件出願1に至る経緯は次のとおりであり,β1及びβ2は,本件出願1より前に,本件訂正前の発明を完成していた。 a被告の研究者であるβ2は,昭和61年,京都大学農学部発酵生理及び醸造学講座との共同研究により 「モルティエレラ属糸状菌」が,人体 ,に有用なARA(アラキドン酸)含有の油脂を菌体内に著量蓄積することを発見した。 bβ1は,β2の後任者として,上記発見をさらに発展させるべく,ARAの生産性を上げることのできる培地の研究開発を京都大学の上記講座との共同研究で進めていたところ,当初の目的とは正反対に,胡麻油を培地に添加したときにARAの生産が抑えられて,前駆体であるDGLA(ジホモ-γ-リノレン酸)を菌体内に大量に蓄積するという,全く予想外の新規な現象を発見した。 cβ1は,引き続く研究開発として,ARAの産生を抑えてDGLAを菌体内に蓄積させる,胡麻中に含まれる成分の探索を行い,当該抑制機能を奏する化合物は,セサミン,エピセサミン及びセサミノールであることをつきとめた。 β1は,かかる新知見に基づいて,単離したセサミンを培地に添加す, ることによって人体に有用なDGLAを生産する方法の発明を完成させ昭和63年3月9日,被告により特許出願がされ,平成10年2月13日,発明の名称を「ビスホモ-γ-リノレン酸及びこれを含有する脂質」(「」。 の製造方法 として特許登録がされた 以下 DGLAの特許 というなお 「ビスホモ-γ-リノレン酸」とDGLAは,同義である。同特 , 。)許に係る明細書(乙49)には,実施例8において,リグナン抽出物からのセサミンの単離方法が開示されており,かかる単離したセサミンによってARAの生産が抑制され,DGLAが大量に生産されたことが,第3図に示されている。 dβ1は,次の研究段階として,セサミンによるARAの生成抑制とDGLAの蓄積という作用についてのメカニズムを解明することに従事した。 β1は,セサミンは高度不飽和脂肪酸の生成合成における酵素に影響を与える,という想定を立てて調査を行い,結果として,セサミンがDGLAからARAを生成させる△ -不飽和化酵素を特異的に阻害するこ5とを見い出した。 eさらに,β1は,哺乳動物も△ -不飽和化酵素を持っていることか5ら,セサミンは微生物(菌体)だけでなく,動物の生合成系でも特異的な阻害作用を奏するのではないかという着想を得て,ラットの肝臓ミクロソーム(動物系)を用いて実験を行い,単離したセサミン及び単離し5たエピセサミンが,動物が生体内に持つDGLAをARAに変換する△-不飽和化酵素を特異的に阻害することを見い出した。 動物の生体内において,セサミンが△ -不飽和化酵素を阻害すること5により生体内におけるARA量に対するDGLA量を飛躍的に上昇させることができれば,DGLAから生じるエイコサノイドによる種々の薬理効果(抗炎症作用,抗血栓作用,血圧降下作用等)を期待することができる。 β1は,上記知見に基づき,セサミンやエピセサミンなどを有効成分とする,△ -不飽和化酵素阻害剤の発明(以下「△ -不飽和化酵素阻5 5害剤発明」という )を完成させた。被告は,β1らから同発明に係る特 。 許を受ける権利を譲り受け,平成元年3月7日,同発明について特許の,,(, , 出願を行い 平成12年5月26日 特許登録がされた 乙3の1 56 。)f一方,α1教授は,昭和63年春に日本農芸化学会で発表された,β1らによる,胡麻油が微生物によるARAの生産においてARAの産生を抑えてDGLAを蓄積するという学会発表(乙28)に興味を持ち,また,β1が昭和63年にα1教授を訪問した際に伝えた,β1が行う予定としていた,ラットの肝臓ミクロソームを用いた動物系でのセサミンによる△ -不飽和化酵素阻害作用の確認実験(上記eの実験)の話に5触発され,β1の実験と並行して動物系でセサミンの作用を確認することを思い立った。 α1教授は,昭和63年8月ないし9月にかけて,ラットによる動物実験(以下「昭和63年実験」という )を実施し,セサミン等のリグナ 。 ン類化合物を含む胡麻油抽出物による△ -不飽和化酵素の阻害作用を確5認した(乙34 。)被告は,α1教授が上記経緯でセサミンについての研究を開始したことから,α1教授との間で相互に研究成果を共有するという共同研究を開始し,α1教授から昭和63年実験のデータの結果を受け取り(乙3,), () 1 32△ -不飽和化酵素阻害剤発明の特許出願明細書 乙3の15に,実施例2として記載した。なお,同明細書の実施例1として,β1の行った前記eのラットの肝臓ミクロソームの実験の結果が記載されている。 5g昭和63年実験の本来の目的は,微生物系におけるセサミンによる△-不飽和化酵素阻害作用が動物系においても認められることを確認することにあったが,α1教授は,もともと脂質代謝の研究を専門としていたことから,昭和63年実験においても,脂質代謝のルーチンの測定項目として,実験に用いたラットの血漿中のコレステロール及びトリグリセリドを測定していた。 その結果,昭和63年実験では,セサミン等のリグナン類化合物を含有する胡麻油抽出物を飼料に加えた群と飼料に加えない群とでは,加えた群においてコレステロール値が低下する傾向がデータとして読みとれた。この事実は,△ -不飽和化酵素阻害剤発明の出願明細書に明記され5ている。 hβ1は,昭和63年実験のデータが示すセサミンによるコレステロール低下傾向に注目し,セサミンによるコレステロール降下作用を直接の実験目的とする動物実験を実施することとし,平成元年初頭から同年3月ころにかけて,次のとおり動物実験を行った(以下「平成元年実験」という 。。)この実験で用いたセサミン及びエピセサミンを主成分とする抽出物の分析結果は,当初明細書の実施例3に記載されているとおり,セサミン19.6%,エピセサミン30.6%,セサミノール及びエピセサミノール10.2%であり,抽出物中のリグナン類化合物の含有量は60.4%であった。 同実験の結果は,当初明細書の第1表に記載されているとおり 「リグ,ナン無」の場合には血漿コレステロールは±?であったのに112.74.9/dl対し 「リグナン有」の場合には±?であって,同実験によっ , 76.24.3/dlて,セサミン及びエピセサミンを主成分として含む抽出物によって有意にコレステロールが低下したことが確認された。 また,β1は,前記eのとおり,生体に対する△ -不飽和化酵素の阻5害活性に関して,セサミンとその異性体であるエピセサミンがほぼ同等の活性を示すことを既に確認していた。 i上記知見からすれば,特段の事情がない限り,セサミンとエピセサミンは同等の生理活性を有すると判断することができるため,β1は,平成元年実験の結果によって,セサミン及び/又はエピセサミンによるコレステロール低下作用を確認することができたと合理的に判断し得ると考えた。また,△ -不飽和化酵素阻害剤発明の特許出願は医薬としての5用途発明であったことから,β1は,被告の商品化事業として,セサミン等を機能因子としたコレステロール降下作用を有する機能性食品(飲食物)を開発することに想い到った。なお,当時の技術常識としては,, , セサミンの作用としては 昆虫の殺虫協力作用等が知られていただけで人に対する作用は知られていなかったため,セサミンを「飲食物」に用いるという発想を行うこと自体,当時としては画期的な着想であった。 jそこで,β1は,当初明細書の実施例3に記載されている方法によって,セサミン等のリグナン類を主成分として含有する抽出物を製造した上で,同明細書の実施例8に記載されているとおり,高速液体クロマト, 。 グラフィーを用いてセサミンを分取して 単離したセサミンを取得したまた,β1は,飲食物の実例として,セサミンは水に溶けないことから,脂溶性のバター,マーガリン及びマヨネーズを実施例として思いつき,当初明細書の実施例に記載されている方法により,リグナン類含有バター(実施例5 ,リグナン類含有マヨネーズ(実施例4 ,単離した ) )セサミン含有マーガリン(実施例11)等を調製した。 さらに,β1は,水に溶けないセサミンでも,シクロデキストリンで,, 包接すれば水溶性になるのではないかと考え αーシクロデキストリンβーシクロデキストリン,γ?シクロデキストリンによってセサミンの包接を試みた結果,β?シクロデキストリンで包接すれば単離したセサミンが水溶性になることが分かった。そこで,β1は,当初明細書の実施例9に記載のとおり,β-シクロデキストリンを水に溶かし,ここにスターラ?で攪拌しながら少量のアセトンに溶かした単離したセサミンを加えて,単離したセサミン10%含有シクロデキストリン包接化合物を製造した上で,この粉末をジュースに加えて,単離したセサミンを含有するジュース(液体飲料)を製造した。 k以上のとおり,β1は,本件訂正前の発明を含む当初明細書に開示されている発明(本件出願当時の発明)を,当業者が反復実施できる程度にまで具体的・客観的構成として完成し,平成元年5月29日付けで 発明者をβ1及びβ2として 同発明に係る特許出願依頼書 乙 , , (36)を作成し,被告の特許情報部に提出した。 よって,β1及びβ2は,遅くとも平成元年5月29日までには,本件訂正前の発明を含む本件出願当時の発明を完成した。 (ウ) 本件補正は不法行為に当たらないことa当初明細書(乙1の1)には,発明の詳細な説明として,前記(ア)記載のもののほか,次の記載がある。 (a) 従来の技術「近年,成人病として増加の一途をたどりつつある動脈硬化の最も重要な危険因子と考えられている高脂血症は,遺伝性,非遺伝性のものも含まれるが,血清コレステロールもしくは血清トリグリセライド値が上昇する病気であり,特に低比重リポ蛋白コレステロールは動脈内膜細胞に取り込まれて沈着し,動脈粥状硬化の主因となると考えられている。従来,抗高脂血症剤としては,高コレステロール血症用にγーオリザノール,ソイステロール,メリナミド,パンテチン,ニコチン酸製剤,クロフィブラート系誘導体,蛋白同化ホルモン,プロブコール及びコレスチラミンが高トリグリセライド血症,, ,, 用に パンテチン ニコチン酸トコフェロール 蛋白同化ホルモンニコチン酸誘導体,クロフィブラート系誘導体及びデキストラン硫酸が治療薬として使用されてきたが,これらの中には胃腸障害,発癌性,肝障害などの副作用のあるものがあり,機能性食品の機能性因子として食品中に使用することができなかった (1頁16行ない」し2頁17行)(b)具体的な説明「本発明で使用するリグナン類化合物としては,セサミンセサミノ,ール,エピセサミン,エピセサミノール,セサモリン(中略)等を挙げることができ,これらを単独で,または混合して使用することができる (5頁7行ないし6頁1行 , 」 )「リグナン類化合物及びリグナン類化合物を主成分とする抽出物は,, 本来食用油脂中に含まれていた有効成分及びその抽出物であるため, 。 油脂への添加は容易で 上記の食品等に添加する上でも都合が良いしかし,本発明は油脂食品に限っているわけではなく,あらゆる食品に添加しコレスレロール及び中性脂質改善食品とすることができる (10頁11行ないし18行) 」「以上,リグナン類化合物もしくはリグナン類化合物を主成分とする抽出物の作用及びこれらを含有する食品に関して,降コレステロール作用及び降中性脂質作用について説明したが,特出願平1-052950に記載されているようにリグナン類化合物又はリグナン類化合物を主成分とする抽出物がジホモ-γ-リノレン酸をアラキドン酸に変換するΔ -不飽和化酵素を特異的に阻害する阻害剤となり5うることが見出されている。そして,ジホモ-γ-リノレン酸含量の増加に伴いそのエイコサノイドを上昇させることで種々の薬理効果が期待でき,例えば抗炎症作用,抗血栓作用,血圧降下作用等が期待でき,関連する疾患,例えば炎症性疾患,心臓欠管及び血栓症の疾患,精神医学的疾患,胸部及び前立腺疾患,糖尿病,子宮内膜症,栄養素欠乏,月経周期不規則,ならびに悪性腫瘍の治療に利用できる。したがって,本発明の機能性として抗血栓作用,抗炎症作用及び血圧降下作用等をあげることができる。さらに,これら作用がプロスタグランジン1群由来の効果より,γ-リノレン酸及びジホモ-γ-リノレン酸を併用することで効果を有意義に高めることができる (14頁11行ないし15頁12行) 」(c)実施例実施例7には,4週令(102g)の雄SD系ラットを,リグナン類化合物を含有する食品(実施例3記載のリグナン類化合物を主成分とする抽出物を加えた実施例5記載のリグナン類含有バター)を与え, ,「,, る群と 与えない群とに分けて3週間飼育したこと3週間後 体重肝重量,血漿コレステロール,血漿トリグリセライド,及び血漿リン脂質を測定した。この結果を第1表に示す。これらの結果から明らかなように,リグナン類化合物を含有する食品を与えても,3週間の飼育中,体重の増加量,肝重量は差はなく成長に影響しなかった。そして,リグナン類含有食品を与えることで,血漿中のコレステロール及びトリグリセライドの低下が認められた (18頁9行ないし19頁3 」行)ことが記載されている。 実施例3には,上記動物実験に使用されたリグナン類化合物の抽出物は 「セサミン19.6%,エピセサミン30.6%,セサミノール ,及びエピセサミノール10.2%で,抽出物中のリグナン類化合物の含量は60.4%であった」ことが記載されている(16頁15行ないし17頁4行 。)また,第1表には 「リグナン無」群の血漿コレステロール値は112. ,7±4.9mg/dlであるのに対して 「リグナン有」群の血漿コレステロー ,ルは76.2±4.3mg/dlであることが測定値をもって記載されており,実施例3に記載されたセサミン及びエピセサミンを主成分とする抽出物の添加によって血漿コレステロールが降下したことが示されている 1(9頁 。)セサミンの単離方法については,実施例8において「実施例3で得たリグナン類化合物を主成分とする抽出物から△ -不飽和化酵素阻害5剤(特出願平1-052950)記載の方法に従って,セサミン,エピセサミン,セサミノール,エピセサミノールを得た」ことを記載している(6頁20欄1行ないし6行「△ -不飽和化酵素阻害剤(特 )。 5出願平1-052950)記載の方法」とは,△ -不飽和化酵素阻害5剤発明の願書に添付された明細書(乙3の1)に詳細に記載されている高速液体クロマトグラフィーを用いた単離方法のことであり,当初明細書の3頁7欄16行ないし8欄3行にも 「具体的には,逆相カラ ,ム(5C,溶離液にメタノール/水(60:40)を使って,上記18)抽出物を高速液体クロマトグラフィーで分取し,溶媒を留去した後,得られた結晶をエタノールで再結晶化することで,セサミン,エピセサミン,セサミノール,エピセサミノール等の各リグナン類化合物が得られる」として,セサミンの単離方法が開示記載されている。 b当初明細書の詳細な説明の項には,上記a(b)のとおり 「本発明で使,用するリグナン類化合物としては,セサミン,セサミノール,エピセサミン・・・・・を挙げることができ,これらを単独で,または混合して使用することができる」との記載があったことから,脱退被告は,本件, , 出願1について審査請求を行うに当たって 平成8年7月22日付けで請求項1及び2における「リグナン類含有飲食物」との記載を 「前記リ,グナン類化合物が,セサミン,エピセサミン,セサミノール,エピセサミノール,セサモリン (中略)からなる群より選ばれた少なくとも1つ ,, 。」 以上である 請求項1〜3のいずれか1項記載のリグナン類含有飲食物と限定する請求項4を加える等の補正を行った。これは,審査請求に当たり,明細書に具体的に開示がある化合物に限定したクレームを加えておくことにより,確実に権利化を図るためである。 その後 「リグナン抽出物」との記載のある公知例を引用例とした拒絶 ,(),,, 理由通知 甲3 がされたことから 脱退被告は これに対処するため平成11年1月11日付け手続補正書(甲4)によって,従前のすべての請求項における含有化合物を,当初明細書の実施例3に分析結果が記載されている「セサミン及び/又はエピセサミン」にさらに限定する減縮補正を行い,併せて,当初明細書に作用効果として記載のある血中コレステロール低下等の作用を物の発明のクレームに記載した請求項を追加し(本件補正 ,本件訂正前の発明に係る特許について,特許登録がさ )れた。 c以上のとおり,本件訂正前の発明は,当初明細書において既に開示されているものである。また,本件補正は,当初明細書に記載されていた事項の範囲内で減縮を行ったものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 ,, , さらに 仮に 原告が本件訂正前の発明の発明者であったとしても前記のとおり同発明は当初明細書に記載されており,同明細書が平成3年3月7日に出願公開されることによって刊行物公知となっている以上,本件補正のされた平成11年1月11日時点において,原告は,もはや同発明についての特許を受けることはできなかったものである(特許法29条の2等参照 。なお,原告は,平成2年実験により 「アルコ ) ,ールの影響なく,セサミン及びエピセサミンが生体内でコレステロール低下作用等を有することを初めて見出した」などと主張するが,同実験について,原告は,平成3年に刊行された「」にJournal of Lipid Research掲載された原告の論文(甲15の1)において 「?」として , Table2 Exp.発表しており,原告自らが刊行物公知としている。 したがって,本件補正は,原告の特許を受ける権利及び発明者名誉権を侵害するものではない。 イ争点1-2(消滅時効の成否)について[被告の主張]本件訂正前の発明の内容及び同発明の発明者として原告の名前が記載されていないことについては,平成12年1月24日,被告を特許権者として表記する特許公報(甲8)が発行されて,広く知らしめられている。 したがって,上記特許公報が発行された平成12年1月24日ころには,原告はかかる事実を知ったものと合理的に推認される。 被告は,平成21年7月2日の第3回弁論準備手続期日において,原告に対し,本件訂正前の発明に関する不法行為に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 [原告の主張]原告が被告により本件訂正前の発明が冒認されていることを知ったの, 。 は 被告製品が広告物等により広く知られた平成18年以後のことであるしたがって,消滅時効は完成していない。 ( )ア争点2-1(原告は,本件発明2ないし5の特許を受ける権利を被告2に譲渡したか)について[被告の主張]原告が本件発明2ないし5の発明者であったとしても,原告は,脱退被告に対し,これらの発明に関する特許を受ける権利を無償で譲渡したものであり,その旨の記載された譲渡証書(乙8,9,18,19。以下,本件発明2に係る譲渡証書(乙18)を「本件譲渡証書2 ,本件発明3に係る譲渡証 」書(乙19)を「本件譲渡証書3」などといい,これらの譲渡証書を併せて「本件各譲渡証書」という )も存在する。また,上記各譲渡については,他 。 の共同発明者も同意している。 したがって,脱退被告が本件発明2ないし5に関する特許を出願したことは,原告の権利ないし法的保護に値する利益を侵害するものではない。 [原告の主張](ア)原告が脱退被告に対して本件発明2ないし5の特許を受ける権利を無償で譲渡した事実はない。特別の利害関係がないにもかかわらず,自己の研究の成果であり,高い価値を有する,特許を受ける権利を,何らの対価も得ずに無償で譲渡することはあり得ない。 (イ)原告は本件各譲渡証書に押印しているものの,同押印のされた経緯は,次のとおりである。 a原告は,平成2年ころ,α1教授から教授室に呼ばれ,ある程度の厚さのある契約書を机上に提示され 「ここに契約書があります。 ,サントリーにセサミンの特許を取る権利を譲りたいのですが譲ってもらえますか。特許が取れて売り出したらサントリーの株式をくれるそうですよ 」と言われ,有償での譲渡契約書だと思って,その 。 契約書に原告の署名をした。なお,上記説明の際,額面額や評価額についての詳細な説明はなかった。 b原告は,その後,本件各譲渡証書に押印したものの,本件各譲渡証書は上記契約書に基づくものであると考えていた。 (ウ)原告は,上記の経緯で脱退被告との譲渡契約書に署名し,本件各譲渡証書に押印したものであるが,上記署名等に当たって,譲渡の対価である額面額や評価額についての合意がされたものではない。 売買契約において,価格は重要な要素であって,これが決まっていなければ売買の合意がされたと評価することはできない。したがって,上記署名及び押印をもって,原告と脱退被告との間に本件発明2ないし5の特許を受ける権利の譲渡契約が成立したと認めることはできない。 (エ)仮に,原告と脱退被告との間に上記特許を受ける権利を無償で譲渡する旨の契約が成立していたとしても,同契約には,対価の支払の有無という契約の重要な要素に瑕疵があり,錯誤により無効である。 [原告の主張に対する被告の反論](ア)原告と脱退被告との間で,本件発明2ないし5に係る特許を受ける権利に関して譲渡契約書を作成したことはない。 本件発明3については,米国でも特許出願されており,そのため,原告は,脱退被告の依頼を受けて,米国特許商標庁に提出するために,米COMBINED DECLARATION AND POWER OF 国特許出願書類である「(宣言書及び委任状 (乙48)及び「」ATTORNEY U. S. ASSIGNMENT 」)(合衆国譲渡証書 (乙51)に,β1,β3及びα1教授とともに, )共同発明者として署名している 原告は これらの書類への署名を有 。, ,「償での譲渡契約書」への署名であるなどと,誤って述べているにすぎない。 (イ)原告は,有償での譲渡契約書に基づくものと誤解して本件各譲渡証書に押印したという動機の錯誤を主張するようである。しかしながら,原告は,このような動機を上記押印時に被告に対して表示しておらず,動機の錯誤は成立しない。 イ争点2-2(原告は,本件発明2ないし5の発明者か)について[被告の主張](ア)本件発明2について本件明細書2には,α1教授から被告に提供された,α1教授指導下の動物実験のデータ(甲15の1・甲22の1の実験?・実験?に関する表1ないし表4,甲9の1の実験?・甲15の1の図1のデータ)が記載されている。 しかしながら,仮に,原告が上記実験の担当者であったとしても,原告は,α1教授の指示を受けて同教授の補助者として上記実験を担当したにすぎず,技術的思想の創作に関与していない者であるから,上記実験による発明(本件発明2)の発明者ではない。 原告が本件発明2の共同発明者として特許出願書類に記載されたのは,特許出願に先立ち,α1教授の温情として,実験を担当した原告の名前も, 。 載せてほしいとの希望があり 被告が同教授の希望を尊重したためであるまた,β1は,α1教授が平成2年8月に被告に開示した原告担当の動物実験のデータから読み取れる 「セサミンがコレステロールの吸収及び生 ,合成の両方を阻害する」というコレステロール降下作用のメカニズムについての新知見は,セサミンによるコレステロール降下の作用自体は既にα1教授やβ1が確認済みの知見にすぎないものの,コレステロール降下の有効成分としてセサミンを特定した「医薬」としての新規な用途発明として構成すれば,発明として成立させられるのではないかと考え,β1において先行技術を調査のうえ,出願に係る化合物をβ1が先にセサミンと同等の活性があると考えた8個の化合物に特定するなどして特許請求の範囲を作成し 「コレステロールの吸収を阻害し且つ生合成を阻害する化合物を ,用いた新規なコレステロール降下剤である」ことを発明の特徴として,本件明細書2に記載した「発明」を創出した。 以上のとおり,本件明細書2に記載された発明の創出に不可欠な具体的着想を示して,本件明細書2に記載された「コレステロール降下剤」発明を完成させたのは,β1である。 (イ)本件発明3について本件明細書3には,α1教授から被告に提供された,α1教授による動物実験のデータ(甲15の1の表5,甲22の1の表9のデータ)が記載されている。 しかしながら 仮に 原告が上記実験の担当者であったとしても 上記(ア) ,, ,と同様,原告は,α1教授の指示を受けて同教授の補助者として上記実験を担当したにすぎない者であるから,同実験による発明(本件発明3)の発明者ではない。 原告が本件発明3の共同発明者として特許出願書類に記載されたのは,本件発明2の特許出願に先立ちα1教授から被告に対して上記(ア)の希望が告げられたため,被告において,本件発明3についてもα1教授が同様の希望をするであろうと推察したためである。 また,β1は,α1教授が平成2年8月に被告に開示した原告担当の動物実験の結果として 「セサミンを投与するとコプロスタノールに分解され ,ることなくコレステロールのまま排泄される。セサミンは2次胆汁酸への変換を抑制する。コプロスタノールなどは発癌性があるとの報告もあるので生成抑制は好都合である」とした発言をさらに発展させて,セサミンを発癌抑制の有効成分として特定した「医薬」とする,新規用途の「発癌抑制剤」発明として特許出願することを考えた。そして,β1は,出願に係る化合物を,自己の知見に基づき,特許出願明細書における特許請求の範囲に特定し,また本件発明3への減縮補正にかかる特許請求の範囲を特定し,当該発明の特徴を本件明細書3記載のとおりに創出するなどして,同明細書に記載された発明を完成させた。 以上のとおり,本件発明3の創出に不可欠な具体的着想を示し,同発明を完成させたのは,β1である。 (ウ)本件発明4について本件明細書4には,α1教授から被告に提供された,α1教授の指導下における動物実験のデータ(甲23の1の図2のデータ)が記載されている。 しかしながら,仮に,原告が上記実験の一部を担当していたとしても,上記(ア)と同様,原告は,α1教授の指示を受けて同教授の補助者として上記実験の一部を担当したにすぎないものであるから,同実験による発明(本件発明4)の発明者ではない。原告が本件発明4の共同発明者として特許出願書類に記載された理由は,上記(イ)と同じである。 また,β1は,α1教授が被告に開示した甲第23号証の1の図2のグラフは 「セサミンを与えることにより雌ラットの乳癌の数及び腫瘍の大き ,さが抑制されている」ことを示していると理解できると判断し,メカニズムは判明しないものの,このデータを使って防衛的にセサミンを乳癌抑制剤の有効成分として特定した「医薬」の用途特許を出願することとした。 β1は,特許出願明細書における特許請求の範囲を,自らがセサミンと同効の化合物と考える化合物によって特定し,当該発明の特徴を本件明細書4記載のとおりに創出するなどして,同明細書に記載された発明(本件発明4)を完成させたものであるから,本件発明4の発明者はβ1である。 (エ)本件発明5について本件明細書5には,α1教授から被告に提供された,α1教授の指導下における動物実験のデータ(甲9の1の表3,甲22の1の表7,甲23の1の表2のデータ)が記載されている。 しかしながら,仮に,原告が上記実験の一部を担当していたとしても,上記(ア)と同様,原告は,α1教授の指示を受けて同教授の補助者として上記実験の一部を担当したにすぎないものであるから,同実験による発明(本件発明5)の発明者ではない。原告が本件発明5の共同発明者として特許出願書類に記載された理由については,上記(イ)と同じである。 β1は,以前にα1教授から別々に開示されていた甲第9号証の1の表3と,甲第23号証の1の表2のデータを合わせて考察すると 「セサミン,」 が直接のラジカル剤による過酸化脂質の生成を抑制する作用が認められると理解することができるのではないかと考え,セサミンを過酸化脂質生成「」 。 抑制の有効成分として特定した 医薬 の用途特許を出願することとしたそして,β1は,特許出願明細書における特許請求の範囲を,自らがセサミンと同効であることを確認しているエピセサミンを加えて「セサミン及び/又はエピセサミン」として特定し,当該発明の特徴を本件明細書5記, () 載のとおりに創出するなどして 同明細書に記載された発明 本件発明5を完成させたものである。したがって,本件発明5の発明者は,β1である。 [原告の主張]本件発明2ないし5に係る特許の出願書類に共同発明者として原告の名前が記載されているとおり,原告は,これらの発明の発明者である。ただし,本件発明2ないし5は,原告が単独で発明したものである。本件発明2ないし5に係る特許の出願書類には,原告のほかに3名(本件発明2及び3についてはβ1,β3及びα1教授,本件発明4及び5についてはβ1,β4及びα1教授 )が発明者として記載されているが,これらの者 。 は,上記発明の発明者として評価されるようなことは何ら行っておらず,形式的に発明者として記載されているにすぎない。 ウ争点2-3(被告製品は,本件発明2及び3の技術的範囲に属するか)について[原告の主張]被告製品は,健康に資する製品であるとして宣伝広告をしており,医薬品でないためその効用を明確には記載していないが,コレステロールを降下させる作用等を有することは,健康を維持するというキーワードに確実に含まれる。 したがって,被告製品は,健康食品ではあるものの,本件特許2及び3を実施するものである。 [被告の主張]本件発明2及び3は,特許請求の範囲の記載が「剤」形式で記載され,コレステロール降下(本件発明2)ないしコレステロール及び胆汁酸の代謝阻害(本件発明3)という一定の目的のみに使用する点に創作性が認められた発明である。このように,本件発明2及び3は,医薬(人の病気の,, ) , 診断 治療 処置又は予防のために使用する物 としての用途発明であり「飲食物 ,すなわち 「人体の栄養を主目的として飲食する物」を権利 」,範囲とするものではない。 ,,,,, これに対し 被告製品は 健康食品であり 被告は 被告製品についてコレステロール降下剤ないしコレステロール及び胆汁酸の代謝阻害剤としての医薬用途に用いることができる旨の宣伝広告,表記等を一切行っていない。 したがって,被告製品は,本件発明2及び3に係る特許権を実施するものではない。 エ争点2-4(消滅時効の成否)について[被告の主張](ア)原告は,遅くとも,平成7年12月12日には,被告がセサミンを含有する健康食品である被告製品を販売していることを知っていた(乙7の1,7の2 。)(イ)被告は,平成21年2月5日の第1回口頭弁論期日において,原告に対し,本件発明2及び3に関する不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 [原告の主張]被告の主張を争う。 被告は,当初,被告製品を悪酔いを防止する製品として販売していたものであり,原告は,被告製品がコレステロール低下作用などを活かした商品として販売されていることを知らなかった。 ( )争点3(原告の損害ないし損失)について3[原告の主張]ア本件訂正前の発明,本件発明2及び本件発明3について(ア)前記のとおり,被告は,原告に無断で本件補正を行うことにより,本件訂正前の発明について原告の特許を受ける権利を侵害した。また,被告は,本件発明2及び3について,原告から特許を受ける権利を譲り受けることなく同発明に係る特許を出願することにより,同発明について原告の特許を受ける権利を侵害した。 被告製品は,本件特許1ないし3を実施するものであり,被告は,被告製品の製造販売によって,平成13年には約25億円,平成18年に, (, は約266億円 平成19年には約305億円の売上げを得た 甲2526 。また,平成14年ないし平成17年の被告製品の売上金額は不 )明であるものの,少なくとも,平成13年と同じ年間25億円の売上げがあったと推定される。 このように,被告は,本件特許1ないし3を法律上の根拠なく利用して利得を得ており,原告が果たした貢献度を使用料相当額として売上げの1%と見ても,被告が原告に支払うべき対価(原告の損害)又は原告の受けた損失は,次のとおり6億9600万円を下らない。 (億×年+億+億)×=億万(円)2552663050.0169600原告は,本件訴訟において,不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得返還請求権に基づき,上記損害のうち4000万円(ただし,本件特許1に係るものとして3000万円,本件特許2及び3に係るものとして1000万円とする )及びこれに対する不法行為の後ないし弁済期 。 の翌日である平成20年12月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (イ)被告は,発明者である原告の承諾を得ることなく本件補正を行うことにより,本件訂正前の発明について原告の発明者名誉権を侵害し,原告に対し,慰謝料として1000万円の支払義務を負う。 原告は,本件訴訟において,上記損害のうち500万円及びこれに対する不法行為の後である平成20年12月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ本件発明4及び本件発明5について前記のとおり,脱退被告は,本件発明4及び本件発明5について,発明者である原告から特許を受ける権利を譲り受けることなく本件出願4及び本件出願5を行い,これらの発明について,原告の特許を受ける権利を侵害したものであり,原告に対し,慰謝料として1000万円の支払義務を負う。 原告は,本件訴訟において,上記損害のうち500万円及びこれに対する不法行為の後である平成20年12月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 [被告の主張]ア本件訂正前の発明,本件発明2及び本件発明3について(ア)原告が本件訂正前の発明,本件発明2及び本件発明3の発明者であったとしても,特許法66条1項は 「特許権は,設定の登録により発生す ,る」と規定しているので,自ら出願をしておらず,自己の名義で特許権の, 。 設定登録がされていない原告は 上記各発明に係る特許権を取得し得ないまた,特許を受ける権利に基づく特許権の移転登録手続請求及び特許権の返還請求は,いずれも認められていない。 したがって,原告は,上記各発明を実施するいかなる者に対しても,同特許権に基づく使用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有しない。 , 。 (イ)発明に対する独占権は 特許権の設定登録によって生ずるものであるしたがって,登録に至る前の特許を受ける権利に排他権を認めて損害賠償請求権を認めることは,我が国における特許制度にもとることとなる。 また,仮に,原告が本件訂正前の発明,本件発明2及び本件発明3について特許を受ける権利を保有していたとしても,これらの発明については,既に被告が特許権者として登録されているため,原告が重ねて特許を受けることはできず,原告において上記各発明に係る特許を受ける権利を保有する余地はない。 したがって,原告は,上記各発明を実施するいかなる者に対しても,同発明に係る特許を受ける権利に基づいて使用料相当額の損害賠償請求又は不当利得返還請求をすることはできない。 イ本件発明4及び5について次のとおり,本件発明4及び5は,いずれも,特許権として成立させることが可能な発明ではなかった。したがって,本件出願4及び5は,上記各発明に係る原告の特許を受ける権利を侵害するものではなく,原告には何らの損害も発生していない。 (ア) 脱退被告は,本件出願4をする以前に,平成2年10月22日付けで,セサミンによる発癌抑制効果について,発明の名称を「発癌抑制剤」とする出願を行っており(乙43の1,43の2。なお,前記第2の1( )のと4おり,脱退被告は,その後,同出願の発明の名称を「コレステロール及び胆汁酸の代謝阻害剤」に補正している,当該明細書中には,乳癌に対す 。)る抑制効果も示唆されていた。 そのため,脱退被告は,本件出願4については独立して特許登録がされる可能性はなく,審査請求費用を支払って審査請求をするまでもないと判断して,審査請求をしなかった。 また,上記「発癌抑制剤」発明の出願については,その後に,セサミンが制癌作用を有する旨が示唆されている公知例が存在することを理由とする拒絶理由通知(乙45)がされたため,脱退被告は,制癌作用を目的としない本件発明3に補正することで,ようやく特許登録に至っている(乙46,47,甲14 。)以上のとおり,本件発明4は,特許権として成立させることが可能な発明ではなかった。 (イ)脱退被告は,本件出願5について,平成12年5月29日付けで拒絶理由通知を受けた(乙10 。その理由は,被告の出願に係る「△ -不飽 )5和化酵素阻害剤」の明細書(乙5)にはセサミンに抗血栓作用のあることが記載されており,本件出願5も血栓症に効果を奏するものであるから,新規性を欠如するというものであった。 これに対し,脱退被告は,手続補正書及び意見書を提出したが,特許庁は,拒絶理由は解消されないとして,平成12年8月18日付けで拒絶査定を行った(乙11 。)そこで,被告は,不服審判請求をしたところ,平成13年8月28日付けで再度の拒絶理由通知を受けた(乙12 。その拒絶理由は,上記明細書 )(乙5)における,リグナン類含有化合物のうちセサミノール等が「生体内脂質過酸化抑制作用の可能性なども含めて検討されてきている」という記載等を詳細に引用して,進歩性の欠如を理由とするものであった。 そのため,脱退被告は,もはや拒絶を解消する見込みがないと判断せざるを得ず,本件出願5を取り下げた。 以上のとおり,本件発明5は,特許権として成立させることが可能な発明ではなかった。 第3当裁判所の判断1争点1-1(本件補正により原告の発明者名誉権等が侵害されたか)について( )原告は,本件訂正前の発明の発明者か1ア発明とは,自然法則の利用に基礎付けられた一定の技術に関する創作的な思想であり,その創作された技術内容は,その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され,客観化されたものでなければならず,その技術内容がこの程度に構成されていないものは,発明としては未完成のものであって,特許法2条1項にいう「発明」とはいえない(最高裁昭和44年1月28日第三小法廷判決・民集23巻1号54頁参照 。)イ(ア)これを,本件訂正前の発明についてみるに,同発明の内容は,別紙特許請求の範囲の「平成11年1月11日付け手続補正書」欄記載のとおりであり 「セサミン及び/又はエピセサミン含有飲食物 (請求項 , 」1ないし3,7,14ないし16「セサミン及び/又はエピセサミ ),ン含有液体飲料 (請求項4ないし6「セサミン及び/又はエピセサ 」),ミン含有飲食物の製造方法 (請求項8ないし13,17ないし19) 」に関する発明である このように 本件訂正前の発明は いずれも飲 。,,,「食物」ないし「飲料」に関する発明である。 (イ)そこで,特許請求の範囲に記載された「飲食物」ないし「飲料」の意義について検討するに 「飲食物」ないし「飲料」という用語は,技 ,術用語として一義的に明確な意味を有しているものではなく,いわゆる日常用語である。 そして 「飲食物」とは 「飲みものと食べもの (広辞苑第5版20 ,,」),「」,「。。」() 7頁を飲料とは飲むためのもの飲みもの同213頁を,それぞれ意味するものであり 「飲みもの」とは 「飲用に供する ,,液体。飲料。水・酒・茶・ジュースの類(同2096頁)を 「食べ 。」,もの」とは 「人や動物が食用にするものの総称。また,飲み物に対し ,て,噛んで食べる物(同1671頁)を,それぞれ意味するもので 。」ある。また 「飲食物」は 「人が日常的に食物として摂取する物の総 ,,称 」を意味する「食品」と同じ意味を有するものでもある(同134 。 2頁 。)(ウ)本件明細書1の「発明の詳細な説明」の記載を見ると 「飲食物」,の意味を直接定義した箇所は見当たらないものの,次のような記載が存在する。 (a)産業上の利用分野「本発明は,降コレステロール作用及び/または降中性脂質作用を有するリグナン類化合物を含有する食品に関する (2頁3欄34行ないし 」37行)(b) 従来の技術「近年,成人病として増加の一途をたどりつつある動脈硬化の最も重要な危険因子と考えられている高脂血症は,遺伝性,非遺伝性のものも含まれるが,血清コレステロールもしくは血清トリグリセライド値が上昇する病気であり,特に低比重リポ蛋白コレステロールは動脈内膜細胞に取り込まれて沈着し,動脈粥状硬化の主因となると考えられている。従来,抗高脂血症剤としては,高コレステロール血症用にγーオリザノール,ソイステロール (中略)が治療薬として使用されてき ,たが,これらの中には胃腸障害,発癌性,肝障害などの副作用のあるものがあり,機能性食品の機能性因子として食品中に使用することができなかった (2頁3欄38行ないし4欄6行) 」「一般に食品には,バター以外にも食品を摂取することで血清コレステロール及び血清トリグリセライドの上昇を伴う食品が多く,解決方法としては風味を有する擬似的な食品を発明する以外はなかった。そこで,本来の食品に加えることのできる無害な天然物で,嗜好に影響を与えず,しかも安全な降コレステロール作用及び降中性脂質作用を有する物質を有する飲食物の開発が強く望まれている (2頁4欄21行」ないし29行)(c) 発明が解決しようとする課題「, , 従って本発明は 降コレステロール作用及び降中性脂質作用を有する」 天然物で安全な物質を添加した飲食物を提供しようとするものである(2頁4欄30行ないし33行)(d) 課題を解決するための手段「本発明者等は,上記の目的を達成するため種々研究した結果,胡麻種子,胡麻粕及び胡麻油中より単離したセサミン及び/又はエピセサミン(本明細書において「リグナン類化合物「リグナン類」又は「リ 」,グナン」と称する場合がある)が,血中コレステロール及び血中中性脂質を低下させる作用を有する上に安全性が高く,しかも,精製品は無味無臭で白色を呈しているため,飲食品への配合に適するものであ,」( ) ることを見い出し 本発明を完成した2頁4欄34行ないし43行「本発明のリグナン類化合物もしくはリグナン類化合物を主成分とする抽出物を含有することを特徴とするリグナン類含有食品の種類は特に限定されない。しかし,降コレステロール作用及び降中性脂質作用を, 。, , , 考慮すると 油脂を含む食品への添加が考えられる 例えば 肉 魚ナッツ等の油脂を含む天然食品,中華料理,ラーメン,スープ等の調理時に油脂を加える食品,天プラ,フライ,油揚げ,チャーハン,ドーナッツ,カリン糖等の熱媒体として油脂を用いた食品,バター,マ,,,,, ーガリン マヨネーズ ドレッシング チョコレート 即席ラーメンキャラメル,ビスケット,アイスクリーム等の油脂食品又は加工時油脂を加えた加工食品,おかき,ハードビスケット,あんパン等の加工仕上時油脂を噴霧又は塗布した食品等を上げることができる (中略)。 しかし,本発明は油脂食品に限っているわけではなく,あらゆる食品に添加しコレステロール及び中性脂質改善食品とすることができる」(3頁6欄23行ないし42行)「20重量%を越えると対象の食品によっては,風味の上で好ましくない場合もある (3頁6欄47行ないし48行) 」(e)実施例実施例4においてリグナン類含有マヨネーズが,実施例5においてリグナン類含有バターが,実施例8においてセサミン含有マヨネーズ及びセサミン含有バターが,実施例9においてセサミン含有ジュースが,実施例11においてセサミン含有マーガリンが記載されている。また,実施例8には 「・・・セサミン含有マヨネーズ及びセサミン含有バターを ,得た。同様に本発明記載の各種リグナン類化合物を単独であるいは組み合わせてリグナン類含有食品を得ることができる。なお,各リグナン類化合物は無色(白色)結晶で,無味無臭より食品本来の品質に影響を与えなかった (6頁11欄4行ないし9行)との記載がある。 。」「」「」 , (エ)上記(イ)認定の 飲食物 及び 飲料 という用語の通常の意味に上記(ウ)の明細書の記載を参酌すると,本件明細書1においては 「飲,食物」という用語は 「飲料」を含むものであり 「食品」と同義,す , ,なわち 「人が日常的に食物として摂取する物」という意味において使 ,用されているものと認められる。 ウ一方,本件実験は,セサミンとエピセサミンの等量混合物(セサミン混合物)を配合したラット飼料を用いた動物実験であり,同実験で用いられた飼料は,飼養動物に与える食物(えさ)であって,人が日常的に食物として摂取することができる物(上記イ(エ)の意味での「飲食物 )である」とは認められない。 セサミン単体,エピセサミン単体又はセサミンとエピセサミンの混合物を含有した飲食物(食品)に関する発明を完成したというためには,かかる飲食物について,その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることがで, 。 きる程度にまで具体化 客観化した技術内容を創作することが必要である本件実験は,脂溶性で水に溶けない性質を持つセサミン(乙26)について,その製造方法を工夫するなどして上記イ(エ)の意味での飲食物や液体飲料を具体的に製造したり,製造された物が食品として利用可能かどうかを味覚実験等を通じて検証するものでもない。また,本件実験の結果を記載した本件報告書にも,本件実験の結果が記載されているだけで,同実験により確認されたセサミン混合物の特定の性質を上記イ(エ)の意味での「飲食物」の用途に用いることが可能である旨の記載や,これを示唆する記載は特段存在しない。 したがって,本件実験により,原告が「飲食物」に関する発明である本件訂正前の発明を完成したと認めることはできない。 エ原告は,平成2年実験により,セサミン及びエピセサミンが生体内でアルコールの影響なくコレステロール低下作用等を有することを原告が初めて見い出したとも主張する。 しかしながら,平成2年実験も,本件実験と同様に,セサミンとエピセサミンの等量混合物(セサミン混合物)を配合したラット飼料を用いた動物実験であり,人が日常的に食物として摂取することができる物(飲食物)を具体的に製造したり,製造された物が食品として利用可能かどうかを味覚実験等を通じて検証するものではない。また,同実験の結果を記載した報告書(甲22の2)にも,実験の結果が記載されているだけで,実験により確認されたセサミン混合物の特定の性質を飲食物の用途に用いることが可能である旨の記載や,これを示唆する記載は特段存在しない。 したがって,原告が平成2年実験によって本件訂正前の発明を完成したと認めることもできない。 オこれに対し,原告は,本件実験は,飼料を用いた動物実験ではあるものの,原告は動物の健康の維持等を目的に本件実験を実施したのではなく,人間が健康の維持のためにセサミン及びエピセサミンなどを経口摂取することを前提としてプロトコールを作成し,本件実験を行ったものであり,動物実験によって人間の飲食物に関する際の作用効果を確認することも一般に行われていることから,原告は本件実験によって,セサミン単体,エピセサミン単体又はセサミン及びエピセサミンのいずれかが血中コレステロール及び過酸化脂質を低下させる効果を有することを前提として,これらを飲食物に含有せしめること,すなわち 「セサミン及び/又はエピセ ,サミンを添加したセサミン及び/又はエピセサミン含有飲食物 (本件セ」サミン発明)を発明したものであると主張する。 しかしながら,原告が 「人間が健康の維持のためにセサミン及びエピ ,セサミンなどを経口摂取すること(すなわち,食品として摂取すること)を前提としてプロトコールを作成し,本件実験を行った」こと及び「本件実験によって,セサミン及び/又はエピセサミンが血中コレステロール等を低下させることを前提として,これらを飲食物に含有せしめることを発明した」ことについては,これを裏付けるに足りる客観的証拠は存在しない上,?動物実験は,飲食物(食品)として使用するための作用効果を確認するために行うものに限られるわけではなく,医薬品や動物薬品等としての効果を確認するためのものも存在すること,?仮に,本件実験によりセサミン及び/又はエピセサミンが血中コレステロール等を低下させるとの作用効果が確認されたとしても,このような作用効果に鑑みると,同物質を医薬品の用途に用いることは格別,これを飲食物の用途に用いることに想い至ることが通常であるとは認め難いこと,?原告が本件実験の対象としてセサミン群を入れることとしたのは,α1教授から「セサミンをやってみないか」と言われたためであり,原告は,本件実験を行う以前には,セサミンの作用効果等について何も分かっていなかったこと(甲46)などを併せ考えると,原告が上記前提の下で本件実験を行い,同実験の結果からセサミン等を飲食物に含有せしめることに想到したとはにわかに認め難い。また,本件実験結果のみからは 「飲食物」に関する発明 ,の内容が具体的,客観的に開示されているとは認められないことについては,上記ウのとおりである。さらに,本件実験は,ラットにアルコールを連続して与えてアルコール性脂肪肝とし,このアルコール性脂肪肝に及ぼすセサミン混合物とGSHの影響を比較測定したものであるから,その実験結果は,あくまでも,アルコールの存在下のセサミン混合物のコレステロール低下効果等を示すにとどまり,本件実験の結果のみから,アルコールを投与しない場合のセサミン混合物の投与効果を判断することはできないというべきである。 したがって,これらのいずれの点からみても,原告の上記主張は理由がない。 カ以上のとおり,本件実験により原告が本件訂正前の発明を完成したと認めることはできない。 かえって,証拠(乙1の1,3の1,4ないし6,23,26,30,31ないし34,36,49)及び弁論の全趣旨によれば,本件実験に先立ち,?β1は,単離したセサミンを培地に添加することによって人体に有用なDGLA(ジホモ-γ-リノレン酸)を生産する方法の発明を完成させ,昭和63年3月9日,脱退被告により特許出願がされていること(乙49。なお 「ビスホモ-γ-リノレン酸」とDGLAは,同義である,? , 。),, (), 次いで β1は ラットの肝臓ミクロソーム 動物系 を用いて実験を行い単離したセサミン及び単離したエピセサミンが,動物が生体内に持つDGLAをARAに変換する△ -不飽和化酵素を特異的に阻害することを見い出し5(乙3の1(第1図,第2図,セサミンやエピセサミンなどを有効成分と ))する△ -不飽和化酵素阻害剤発明を完成させ,平成元年3月7日,脱退被告5(,), , により特許出願がされたこと 乙3の1 乙6? 脱退被告とα1教授は, , 昭和63年以降 相互に研究成果を共有するという共同研究を開始したこと?α1教授は,昭和63年8月ないし9月にかけて,ラットによる動物実験(昭和63年実験)を実施し,セサミン等のリグナン類化合物を含有する胡麻油抽出物を飼料に加えた群と飼料に加えない群とでは,加えた群においてコレステロール値が低下する傾向が認められることを確認し,β1は,そのころ,α1教授から昭和63年実験のデータの結果を受け取ったこと(乙31,32,34 ,?β1は,平成元年初頭から同年3月ころにかけて, )セサミン及びエピセサミンを主成分とする抽出物(抽出物中のリグナン類化合物の含有量は,60.4%(セサミン19.6%,エピセサミン30.6%,セサミノール及びエピセサミノール10.2%)である )を用いたラッ。 トによる動物実験(平成元年実験)を行い,当初明細書の第1表に記載されているとおり,上記抽出物を加えた群では血漿コレステロール及び血漿トリグリセライドが有意に低下したことを確認したこと,?β1は,上記?,?及び?の実験結果によって,セサミン及び/又はエピセサミンによるコレステロール低下作用を確認することができたと合理的に判断し得ると考えたこと,?β1は,さらに,セサミンなどのリグナン類化合物を機能因子としたコレステロール及び/又は中性脂質降下作用を有する食品(飲食物)を, , 開発することに想い到り 当初明細書の実施例に記載されている方法によりリグナン類含有バター,リグナン類含有マヨネーズ,単離したセサミン含有マーガリン,単離したセサミンを含有するジュース等を調製したこと,?β1らは,平成元年5月29日付けで 「リグナン類含有食品」についての特 ,許出願依頼書(乙36)を脱退被告の特許情報部に提出したこと,などが認められる。 上記認定の事情に鑑みると,β1が,セサミンとその異性体であるエピセサミンとが特段の事情がない限り同等の生理活性を有すると判断し,平成元年実験の結果によってセサミン及び/又はエピセサミンによるコレステロール低下, 作用及び中性脂質低下作用を確認することができると判断したことについては合理的な理由があり,本件では,本件実験が行われる以前に,β1によって本件訂正前の発明が完成されていたことがうかがえる。 ( )本件補正は,原告の発明者名誉権等を侵害したか。 2本件実験及び平成2年実験によって原告が本件訂正前の発明を完成したとは認められないことについては,前記( )のとおりである。また,平成2年1Journal of Lipid実験の結果については,平成3年に頒布された刊行物である「」に掲載された原告の論文(甲15の1)に 「?」としてResearch Table2 Exp. ,記載されており,公知となっている(特許法29条3項参照 。)したがって,本件補正のされた平成11年1月11日時点において,原告は,同発明についての特許を受けることはできなかったというべきであり,本件補正は,本件訂正前の発明に係る原告の発明者名誉権及び特許を受ける権利を侵害するものではなく,不法行為は成立しない。 2争点2-1(原告は,本件発明2ないし5の特許を受ける権利を被告に譲渡したか)について( )本件発明2ないし5に係る特許について,前記第2の1( )ないし( )の1 36とおり,平成2年10月3日から平成3年8月23日までの間に,発明者を原告ほか3名(本件発明2及び3につきβ1,β3及びα1教授,本件発明4及び5につきβ1,β4及びα1教授)とし,特許出願人を脱退被告として特許出願がされたこと,上記出願に先立ち本件各譲渡証書が作成されていることは,当事者間に争いがない。 ,(,,,,,, ( )また証拠乙891318ないし202640ないし42248,51)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア本件各譲渡証書には,いずれも 「譲渡証書」という表題が付され,表題の ,右下に作成日(本件譲渡証書2(乙18)について平成2年9月26日,本件譲渡証書3(乙19)について同年10月5日,本件譲渡証書4(乙9)について平成3年8月1日,本件譲渡証書5(乙8)について同月20日 )。 が記載され 表題の左下に宛名 脱退被告の社名及び所在地 が不動文字 タ ,( )(イプ)で印刷されている。 そして,宛名の次に 「譲渡人」として,上記( )の発明者4名の住所及び ,1氏名が不動文字(タイプ)で記載され,その氏名の右横に,同発明者らが,それぞれ各人の押印をしている。 「譲渡人」欄の下には,不動文字で 「下記の発明に関する特許を受ける権 ,利を貴殿に譲渡したことに相違ありません 」と印刷され,その下に「発明の 。 名称」として「コレステロール降下剤 (本件譲渡証書2 「発癌抑制剤 (本 」),」件譲渡証書3乳癌抑制剤本件譲渡証書4過酸化脂質生成抑制剤本 ),「」(),「」(件譲渡証書5)と記載されている。 イ原告は,平成2年9月26日ころから平成3年8月20日ころまでの間に,上記アのとおり本件各譲渡証書に押印し,α1教授を経由して同証書を脱退被告に提出した。また,原告が本件各譲渡証書に押印をする以前に,β1,β3及びβ4は押印を終えていた。 ウ原告は,脱退被告が本件発明2及び3に係る特許を出願した後である平成2年11月6日に,脱退被告から,特許出願書類中の発明者の『 の異字体』のX表記を『 』に補正するために必要である旨説明され,脱退被告からの依頼を X受けて,福岡市東区長に対し,原告が同日現在「福岡市東区<以下略>に本籍を定めていないこと」の証明願(乙42)を申請した。 エ原告は,平成3年10月4日,脱退被告の依頼を受けて,本件発明3に関すCOMBINED DECLARATION AND POWER OF る米国特許出願書類である「(宣言書及び委任状 (乙48)に,β1,β3及びα1教授とATTORNEY 」)ともに,共同発明者として署名した。また,原告は,同日,β1,β3及びα1教授とともに,本件発明3の共同発明者4名が同発明に対する権利等を脱退被告に対して譲渡するための「U. S. ASSIGNMENT (合衆国譲渡証 」書 (乙51)に署名し,同証書は,同年10月21日,米国特許商標庁 )に提出された。 オ原告は,上記のとおり本件各譲渡証書を脱退被告に交付し,脱退被告により各発明に係る特許が出願がされて以後も,脱退被告に対し,上記特許を受ける権利の対価の支払を求めることはなかった。原告が脱退被告に対して上記対価の支払を最初に求めたのは,平成18年のことである。 ( )上記認定のとおり,?原告は,本件発明2ないし5に関する特許を受3ける権利を脱退被告に譲渡したことに相違ない旨が記載された本件各譲渡証書の「譲渡人」欄の原告の氏名の横に原告の印を押して,同証書を脱退被告に交付していること,?本件各譲渡証書には,上記各発明に関する特許を受ける権利の譲渡に当たって対価を支払う旨の記載,又は,対価の支払が想定されていることをうかがわせる記載は存在しないこと,? 原告は,脱退被告により,, 本件発明2及び3に関する特許が出願されたことを認識しつつ 約15年もの間脱退被告に対して特段対価の支払を請求することはなく,その間,脱退被告の特許出願手続に積極的に協力していたことが認められる。 これに加えて,? 本件各譲渡証書が作成された当時,原告は,α1教授の下で,α1研究室において研究に従事しており,本件発明2ないし5に関係するセサミン等に関する実験は,同研究室において行われたものであること,? α1教授は,上記?の実験等がされた当時,脱退被告と共同研究を行っており,脱退被告から,同被告の行った研究結果についていち早く開示を受けたり,研究のためのセサミン(当時は,単離したセサミンを精製する技術は公開されておらず,容易に入手し得ないものであった )の提供を受けるなど,色々と便宜を図って 。 もらっていたこと(乙26)などを併せ考えると,原告は,α1教授とともに,本件発明2ないし5に関する特許を受ける権利を脱退被告に無償で譲渡したものであり,原告は,本件各譲渡証書に押印する際にも,これによって,本件発明2ないし5の特許を受ける権利の共有持分を脱退被告に無償で譲渡するものであることを認識していたと認めるのが相当である(したがって,原告の錯誤無効の主張(前記第2の3( )ア参照)に理由がないことも明らかである。また,本件2 。)各譲渡証書には,共同発明者全員の氏名の記載及びこれら共有者の押印がされているので,他の共同発明者が原告から脱退被告に対する特許を受ける権利の共有持分の譲渡に同意していたことは明らかである。 ( )これに対し,原告は,原告が脱退被告に対して本件発明2ないし5の特4許を受ける権利を無償で譲渡した事実はなく,自己の研究の成果であり高い価値を有する特許を受ける権利を何らの対価も得ずに無償で譲渡することはあり得ない,原告が本件各譲渡証書に押印したのは,原告は平成2年ころにα1教授から教授室に呼ばれ,ある程度の厚さのある契約書を机上に提示され 「ここに契約書があります。サントリーにセサミンの特許を取る権利を ,譲りたいのですが譲ってもらえますか。特許が取れて売り出したらサントリーの株式をくれるそうですよ 」と言われ,有償での譲渡契約書だと思って 。 その契約書に署名したものであり,本件各譲渡証書は上記契約書に基づくものであると考えていたと主張し,原告本人の陳述書(甲46)中には,これに沿う部分がある。 しかしながら,原告の上記供述については,これを裏付けるに足りる客観的証拠が存在しない上,上記( )?及び?の事情に鑑みれば,当時脱退被告3とセサミン等の作用効果について共同で研究を行い,脱退被告から様々な便宜供与を受けていたα1教授及び同教授の下で研究に従事していた原告が,その研究に係る発明に関する特許を受ける権利を脱退被告に無償で譲渡することは,格別不自然なことではないと考えられる。原告の上記供述はにわかに信用し難いといわざるを得ず,これを採用することはできない。 ( )以上のとおり,本件発明2ないし5に係る特許を受ける権利は,本件出5願2ないし5がされる以前に,原告から脱退被告に譲渡済みであり,脱退被告は,同権利に基づいて本件出願2ないし5を行ったと認められる。 したがって,脱退被告が本件発明2ないし5について脱退被告を特許出願人として特許を出願した行為は,原告の特許を受ける権利を侵害するものではなく,原告の主張は理由がない。 3結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 阿部正幸 |
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裁判官 | 山門優 |
裁判官 | 舟橋伸行 |