審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成20ネ10083損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成17ネ10040特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成19ネ10098特許権侵害差止等請求控訴事件 平成20ネ10005附帯控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成18ネ10007損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成17ネ10024特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 確実性 / 技術的思想 / 使用方法 / 新規性 / 29条1項3号 / 容易に実施 / 進歩性(29条2項) / 周知技術 / 慣用技術 / 公知技術 / 上位概念 / 技術的範囲 / 技術常識 / 明確性 / 発明の詳細な説明 / 遡及 / 分割出願 / 模倣 / クレーム / 抵触 / 原出願日 / 出願経過 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 侵害 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 混同 / 発明の範囲 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
21年
(ネ)
10040号
損害賠償請求控訴事件
|
---|---|
控訴人 X 訴訟代理人弁護士横井盛也 被控訴人パナソニック電工株式会社 訴訟代理人弁護士小松陽一郎 同 平野和宏 同 福田あやこ 同 宇田浩康 同 井崎康孝 同 辻村和彦 同 井口喜久治 同 森本純 同 中村理紗 同 山崎道雄 同 辻淳子 同 藤野睦子 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/12/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1本件控訴を棄却する。 2控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
第1控訴の趣旨1原判決を取り消す。 2被控訴人は,控訴人に対し,3600万円及びこれに対する平成20年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。 4仮執行宣言第2事案の概要【以下,略称は原判決の例による 】。 1一審原告である控訴人は,特許第3752588号(発明の名称「開き戸の地震時ロック方法 ,出願日(分割) 平成16年6月7日〔原出願日 平成8 」〕, 。。) 年5月27日登録日 平成17年12月22日 請求項の数4 本件特許権の特許権者であるところ,本件訴訟は,電気機械器具等の製造及び販売を業とする株式会社である被控訴人(一審被告)に対し,同人の製造販売する原判決別紙イ号ないしニ号物件目録記載のロック装置(被告各物件)を取り付けた家具・吊り戸棚を製造販売している行為は控訴人の上記特許権(請求項1,3及び4)を侵害するとして,不法行為に基づく損害賠償合計17億8300万円の内金として,3600万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年4月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2原審の大阪地裁は,平成21年4月27日,?被告各物件は請求項1の構成要件Cを充足しないから本件特許権を侵害するものとは認められない,?請求項1の構成要件Dの「自由端でない位置」との記載は発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるから特許法36条6項1号のサポート要件を充たさ, , ず 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして。, 。 控訴人の請求を棄却した そこで これに不服の控訴人が本件控訴を提起した3当審における主たる争点は,原審と同様に,?被告各物件は本件各特許権を侵害するか(原審における争点1 ,及び?本件特許は特許無効審判により無 )効とされるべきものか(同じく争点2-1〜4 ,である。)4なお,本件特許の請求項1,3及び4記載の発明に対し,被控訴人から無効審判請求がなされ,特許庁が平成21年8月6日付けでこれを認容する審決を, (() したことから 控訴人が当庁に審決取消訴訟を提起し 当庁平成21年 行ケ第10272号 ,本件訴訟と並行して審理が進められている。 )第3当事者の主張当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,構成要件の分説を含め,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。 1当審における控訴人の主張( )争点1(本件特許権侵害の有無)についての原判決の判断に対し1原判決は,被告各物件は球(3)を利用して係止手段を回動させるという構成を採用しており,地震のゆれによってアーム(4)が自らロック位置に回動することは期待も想定もされていないとし,いずれも構成要件Cの「該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し」との要件を充足するとは認められないと判断した。しかし,これは以下のア〜オのとおり,力学の技術常識を無視した誤った内容のものである。 ア第1の理由としてゆれの力で の で は理由・原因を示す広 ,「」 「」 ,「」(辞苑)のであり,技術常識としてイ号物件(被告物件)の球の地震時の動きは「ゆれの力で」であり,係止体がそれに押されて動いたとしても「ゆれの力で」球を介して係止体が動く以外の何ものでもない。 イ第2の理由として,実施例においてゆれの力と重力が併用されているものについて「ゆれの力で」と本件明細書(甲1〔特許公報 )に定義され〕ているから 「ゆれの力で」とは他の力が協力している場合を含む。した ,がって,ゆれの力と重力により球が動くことは「ゆれの力で」に該当し,イ号物件が「ゆれの力で」に該当しないとすること自体,明らかな誤りである。 そもそも「力」が伝わって対象物が動くということは,本件特許の技術分野の力学の知見を有している当業者であれば常識である。明細書及びクレームは,特許の技術分野の当業者を基準に解釈すると特許法は規定している。当業者を基準にして明細書及びクレームを解釈するのは,特許権者に与えられた特許法の基本的権利ないし利益である。 ウ第3の理由として最大加速度818ガルの兵庫県南部地震波のように微小なゆれの後に非常に大きなゆれとなる直下型地震波について球(136ガル以上で凹溝部に落下する)と係止体(335ガルでロック位置に独自に移動する)が大きいゆれになった瞬間(例えば136ガルより小さい微小なゆれから一気に335ガルより大きいゆれが生じた瞬間)に同時に作動することになる。 すなわち係止体は球に押されることなく,独自にロック位置に到るのであり,その後に開き戸がロック位置まで開けば,その係止具は係止体に係止することになる。そこでは係止体が球に押されることなくロック位置に到っているのであるから,その後の動きは特許請求の範囲と関係ない。 上記のとおり,兵庫県南部地震波のように微小なゆれの後に非常に大きなゆれとなる直下型地震波は日本で頻繁に起こり,むしろ開き戸の地震対策はこの直下型地震波への対策が重要であり,このような地震波では球の補助なく係止体が独自にロック位置に移動,すなわち「係止手段が地震のゆれの力で…ロック位置に移動 ,することになる。」したがって 「球に押されるから『ゆれの力で』ない」との原判決の理 ,由に従ったとしても,被告各物件は予想されるすべての地震波について球に押されてロック位置に移動することを前提にした原判決は明らかな誤りである。 原判決の「…被告各物件では球(3)を利用して係止手段を回動させるという構成を採用しており,地震のゆれによってアーム(4)が自らロック位置に回動することは期待も想定もされていない。… (32頁5行〜」7行)との判示は誤りであり,アーム(4)は現に「自らロック位置に回動する 。被告各物件は,特に兵庫県南部地震に代表される直下型地震で 」は球の補助なく,係止体が独自にロック位置に移動することは明らかである。 エ第4の理由として球の補助による効果は,以下のとおり球なしの係止体で扉側の係止具の取付け位置を下げた場合と比較して著しい効果はない。 (ア)地震検出感度前後方向の地震検出感度であるが,球ありでその補助によりロック位置に到る感度は136ガルになっているが,球なしで扉側の係止具の取付け位置を5.5mm下げた場合のロック位置に到る感度は168ガル(イ号物件ないしニ号物件の下げないもともとの状態での感度である335ガルより大幅に感度向上)であり,球ありの136ガルと比較して実質的差異はない。 (イ)地震検出方向すなわち地震対策付き棚に完全な左右方向のゆれはもちろんであるが左右12°方向までのゆれの領域では980ガルという極めて大きいゆれがかかっても開き戸はロックに必要な2cm以上の開きにはならないのである。これは左右方向のゆれに対して地震検出する必要性はそれほどないということであり,球ありの場合に完全な左右方向のゆれに対しても地震検出できるという利点も実質的にはなくてもよい程度のものである。 一方,球なしの係止体が980ガルのゆれでロック位置に到るゆれの方向の領域は左右10°方向までの領域以外であり,この領域は開き戸が2cm以上開く領域より広い。 したがって左右にずれたゆれがかかった場合に開き戸が2cm以上開けば必ず球なしの係止体はロック位置に到っていることになり,球なしでも左右にずれたゆれの検出が十分可能になっている。 ここで注意すべきことは,以上は左右にずれたゆれのみとする仮定の説明であるが,現実にはほとんど全ての地震は南北方向と東西方向のゆ( ), れが同時に伝わって建物をゆらす 技術的に表現すると平面振動 から左右にずれたゆれのみの検出感度をことさら取り上げて強調するメリットはない。要するに地震検出方向についても,球なし係止体だけの場合と球ありの場合は比較しても実質的差異がない。 したがって原判決は「ゆれの力で」を実施例通りのものと作用効果の比較を全くすることなく形式的に解釈したものであり,従来の機能的クレームの判例において作用効果が著しいか否かという基準で実施例と対象物に差異があるか否かを判断するという下級審の以下の裁判例に反する。機能的クレームについて,東京地裁昭和52年7月22日判決(昭和50年(ワ)第2564号,コインロッカー事件 ,東京高裁昭和5)3年12月20日判決(昭和51年(ネ)第783号,ボールベアリング自動組立装置事件 ,大阪地裁平成元年8月30日判決(昭和60年 )(ワ)第5558号,加熱プレス事件 ,東京地裁平成10年12月2 )2日判決(平成8年(ワ)第22124号,磁気媒体リーダー事件)等である。 オ第5の重要な理由は,係止体がそれとは別体のゆれ検出体に押される構成は実願昭59-19709号(実開昭60-130973号)のマイクロフィルム(考案の名称「扉の係止金具 ,公開日 昭和60年9月2日, 」出願人 株式会社西製作所,甲23 ,実開平6-45030号公報(考案 )の名称「引戸キャツチャー ,公開日 平成6年6月14日,出願人 ケー 」ジーパルテック株式会社,甲24)等に示された従来公知の構成である。 すなわち上記実開昭60-130973号(甲23)は揺動板(7)がゆれ検出体の球 9 に押される構成であり 実開平6-45030号 甲 (),(24)は係止杆(3)がゆれ検出体の振子(2)に押される構成である。 したがって 「ゆれの力で」の「で」は,当業者(当然に力学の知識が ,ある)の常識により普通の意味である「理由・原因を示す (広辞苑)と」解釈すべきである。 「 」, そもそも特許法70条1項は 特許請求の範囲の記載に基づいて とし同2項は「明細書の記載及び図面を考慮して」であり,すなわち「基づいて」と「考慮して」は異なるということを原判決は誤解している。原判決は 「明細書の記載及び図面に基づいて」及び「特許請求の範囲の記載を ,無視」して特許法違反の解釈をしている。 すなわち「ゆれの力で」の解釈について,?当業者の日本語常識,技術常識を考慮して?公知技術を考慮して?以上とともに「明細書の記載及び図面を考慮して」全てを考慮して解釈するというのが特許法70条2項の「明細書の記載及び図面を考慮して」との規定の趣旨であり 「明細書の記載及び図面だ ,けで」解釈せよと規定しているわけではない。 本件特許の場合の「ゆれの力で」は当業者の日本語常識,技術常識で理解可能なのであるから普通の日本語の意味である 理由・原因を示す広 「」(辞苑)と解釈すべきである。 また 「ゆれの力で」の態様として「球の補助」は,上記甲23,24 ,で公知なのであるから,当業者は「球の補助」も「ゆれの力で」に当然含まれると容易に想到可能であり,その様な状況で実施例に限定解釈する必要はないのである。特許法70条1項と2項を理由もなく事務的に逆に解釈し,しかも力学を知らなければ当業者でない,その当業者の技術常識を全く無視し,公知技術を無視し,特許法を無視することは許されない。 直下型地震波では球の補助なく係止体が独自にロック位置に到るという事実だけで原判決の誤りは明らかであるが,原判決は,多くの観点で特許法を無視する誤りを犯している。 (2)争点2-2(サポート要件違反)についての原判決の判断に対し原判決は,構成要件Dの「自由端でない位置」との記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法36条6項1号の定める要件を充たすとは認められないとしたが,誤りである。 ,() 「 , ア第1の理由として 本件明細書 甲1 の 図5は本発明の方法を示し該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付ける点に重要な特徴がある。開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合 から遠いため地震時の開き戸 2 の動きが最も大きくロッ ) ()ク機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。… (段落【0009 )との記載につい 」】ての解釈を原判決は誤っている。 本件明細書には,?「自由端から蝶番側へ離れた位置…重要な特徴がある ,?「自由端に取り付けると開き戸(2)の動きが最も大きくロック 」が不安定になるという問題が生じる ,?「自由端から蝶番側へ離れた位 」置…開き戸(2)の動きが少なくなる」との記載があるところ,もし「自由端から蝶番側へ離れた位置」=「動きが少ない」と本件明細書に記載していたとすれば 「自由端から蝶番側へ離れた位置」とは「動きが最も大 ,きい」の否定にはならない。 しかし 「自由端から蝶番側へ離れた位置」=「動きが少なくなる」と ,本件明細書に記載しているのであるから,その「動きが少なくなる」こと「」「」。 の否定は 動きが少なくならない のであり 動きが最も大きい となるすなわち「自由端…動きが最も大きい…問題が生じる…自由端から蝶番側へ離れた位置…動きが少なくなる…ロックが確実」との文章の流れであり 「自由端…動きが最も大きい」とした直後に「自由端から蝶番側へ離 ,れた位置…動きが少なくなる」としているのであるから「動きが少なくなる」とはその直前にある「動きが最も大きい」を否定する表現と理解するのが自然である。 「」「」 つまりその直前の表現は 動きが大きい ではなく 動きが最も大きいであるから,それに続く表現として「動きが少ない」でなく 「動きが少,」 「」 。 なくなる と 動きが最も大きい を否定する表現になっているのである,,「」 したがって文章の論理のみならず 文章の流れに注意すれば自由端「 」, の否定として 自由端から蝶番側へ離れた位置 と表現しているのであり逆に「自由端から蝶番側へ離れた位置」の否定は「自由端」と表現していることは争いの余地がない,極めて明快な論理構造である。 したがって 「自由端から蝶番側へ離れた位置」=「自由端」の否定で ,あり 「自由端」の否定とは言葉で表現すれば「自由端でない位置」とい ,うことになる。したがって特許請求の範囲の表現である「自由端から蝶番側へ離れた位置」=「自由端でない位置」は全く同じである。 すなわち「自由端でない位置」と「自由端から蝶番側へ離れた位置」が同じでないとした原判決は誤りである。 原判決は本件明細書の図5のとおりに特許請求の範囲を限定解釈したいのであろうが,そのような明細書の記載を無視して限定解釈せよとの規定など特許法のどこにもない。原判決は限定解釈したいがために理由もなくサポート要件違反としたものと思われる。明細書の用語の解釈についてはその明細書で定義された場合は一般的な定義に優先する,と特許法で定められている。 イ第2の理由として,原判決は,自由端に近接した位置では,開き戸の動きが自由端に取り付けた場合と同様にロックが不安定となるおそれがあり 「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することができるとは ,認められない旨判示した(35頁7行〜11行 。)しかし,原判決でいう「効果がない」とは 「進歩性に足る十分な効果 ,がない」との意味に用いている。本件明細書の記載を改めて検討すると,「 」, 図示された構成について 自由端から蝶番側へ離れた との概念で把握しさらに「自由端…問題が生じる」との概念が記載されているのであり,原判決でいう「自由端に近接した位置」は何ら除外されていない。 すなわち 「自由端から蝶番側へ離れた」との概念について検討すれば ,たとえば1mm離れていても「離れた」なる概念に含まれるし,少なくとも「自由端…問題が生じる (自由端でない)との概念に含まれる。 」そもそもサポート要件とは,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えてクレームしてはならないとの要件であり,発明の詳細な説明に記載された範囲では効果がない(一切効果がない場合と十分な効果がない場合のいずれの場合でも)または効果のない範囲が含まれている場合にそれをクレームしてはならないとの要件ではない。 原判決は,発明の詳細な説明に記載された範囲では効果がないまたは効果のない範囲が含まれており,それをクレームしているからサポート要件違反としているのであり,すなわち原判決はサポート要件そのものを効果の有無と混同している。 もしも「自由端に近接した位置」では十分な効果がないのであれば,その構成要件は進歩性を主張できないということになるだけであり,サポート要件違反ではない 「自由端に近接した位置」では,一切効果がないの 。 ではなく,わずかでも効果はある。 つまりクレームの「自由端でない」なる表現には「自由端に近接した位置」を含んでいるが,それは発明の詳細な説明に記載された範囲に含まれるのであるからサポート要件違反には該当しない。 本件特許では「自由端でない」なる構成要件は審査の過程で周知技術であり進歩性(控訴人の主張では,進歩性とは特許に足る十分な効果があるということである)がないことが引用例により明らかになった構成要件である。 すなわち本件特許の出願時(平成16年6月7日)の請求項1(乙2の15)は 「マグネットキャッチなしの開き戸において地震のゆれの力で ,ロック位置に開き戸の障害物が移動する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付けた開き戸の地震時ロック方法」であったところ,平成16年12月7日付け拒絶理由通知(乙2の16)において 「…ロック装置を開き戸の自由端でない位 ,, (,) 置に取り付けることは 実公平2-40218号公報 特に 第1図参照及び実公平6-45582号公報(特に,第3図参照)に記載されているように周知技術であ」るとされた。 ここで,上記実公平2-40218号公報(考案の名称「家具における扉のラッチ装置 ,出願人 株式会社伊藤喜工作所,公告日 平成2年10 」月26日,甲25)には第3図に示されるとおり扉7の自由端でない(自由端に近い)位置にロック装置が取り付けられ,実公平6-45582号公報(考案の名称「ヒンジ装置 ,出願人 コーエイ産業株式会社,公告日 」平成6年11月24日,甲26)には第5図に示されるとおり扉11の自由端でなく,蝶番に非常に近い,本件特許の図5よりもさらに蝶番に近い位置にロック装置が取り付けられている。 , (), そして 平成16年12月13日付け手続補正 乙2の17 において請求項1は「マグネットキャッチなしの開き戸において開き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側で検出した地震のゆれの力でロック位置に開き戸の障害物が移動する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付けた地震終了までわずかに開かれたままとなる開き戸の地震時ロック方法 (下線部は減縮補正した部分で 」あるとして控訴人が付記)と補正された。 さらに,平成17年9月10日付け手続補正(乙2の24)後の請求項1(本件特許発明1)は 「マグネットキャッチなしの開き戸において開 ,き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手段を設け,該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け,前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前期ロック位置となる開き戸の地震時ロック方法」とされている(下線は控訴人が付記 。)以上の通り,上記「地震終了までわずかに開かれたまま (審査段階)」「 」(), 及び 押すまで閉じられずわずかに開かれた査定時 とされた補正は「自由端でない」なる構成要件が周知技術であり進歩性(この進歩性とは特許に足る十分な効果)がないことが審査の過程で明らかになったことで「作動が確実なロック方法の提供」との課題解決のためのクレーム全体としての進歩性を確保するために減縮補正した構成要件である。 そして審査の過程で進歩性(特許に足る十分な効果)がないことが明らかになった場合に効果の主張がそのまま特許された明細書に残っていること自体を特許法は無効理由とはしていない。すなわちそのような場合には「自由端でない」なる構成要件には特許に足る十分な効果はない(進歩性がない)と認定されるだけである。しかしながら十分な効果がなくても,例えば自由端が蝶番から450mmの位置にある開き戸であれば,自由端から1mm離れれば開き戸の動きは449/450の動きになり,開き戸の動きが最大の場合と449/450の動きの場合で,前者ではロックしないが後者ではロックに間に合うというゆれの状況がありうるから,仮に進歩性に足る十分な効果でなくてもわずかでも効果はある。 したがって原判決の「 一定程度)離れた位置」でなければ「発明の詳 (細な説明に記載された発明の範囲を超えている」との指摘については,わずかでも効果があり,仮に進歩性に足る十分な効果でなくても「発明の詳細な説明に記載された発明の範囲内」であり単に進歩性に足る十分な効果がないだけであり,原判決の指摘は誤りである。 ウまた,原判決の「…『押すまで閉じられずわずかに開かれた』という構成は,一旦係合した後の係合状態を維持するためのものと解されるから,かかる構成をもって,自由端に近接した位置における係合が確保できるとは解されない(37頁8行〜11行)との指摘は誤りである。 。」すなわち「押すまで閉じられずわずかに開かれた」という構成によって係合時と係合後のいずれにおいても「作動が確実なロック方法の提供」との課題解決に貢献している。すなわちロック装置が「自由端に近接した位置」であろうと「自由端から(一定程度)離れた位置」であろうといずれに取り付けられようと係合時と係合後のいずれにおいても,以下に述べるとおり 「作動が確実」になる。 ,まず係合時であるが地震のゆれで開き戸が開閉のばたつきを始めると「押すまで閉じられずわずかに開かれた」ではないゆれの波毎にロックと解除を繰り返す場合には,ロック装置をどこに取り付けてもロックが間に合わずに開いてしまう危険が極めて大きい。すなわち「押すまで閉じられ」 「」, ずわずかに開かれた の場合は係合が1回だけで 作動が確実 であるがそうでない場合はゆれの波毎に何度も係合しなければならないのであるから,どの取り付け位置であっても極めて係合しない危険が高くなり,係合時の「作動が確実」ではない。 詳細に検討すれば,まずロック装置が「自由端」に取り付けられれば最も危険の確率が大きく係合が1回だけになる利点は最も大きく,次に「自由端に近接した位置」に取り付けられれば危険の確率は「自由端」に次いで大きいのであるから係合が1回だけになる利点は次いで大きく,さらに「自由端から(一定程度)離れた位置」に取り付けられれば,危険の確率は前記よりは少なくなるもののやはり大きいのであるから,係合が1回だけになる利点は十分にある。 次に係合後については 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」の場 ,合にはそうでない場合と比較して原判決も認める通り「いったん係合した後の係合状態を維持」するのであるから,極めて「作動が確実」である。 以上の通りであり,控訴人が主張しているのは「自由端でない」なる構成要件が仮にわずかな効果であり(またはわずかな効果の領域を含んでおり)進歩性に足る十分な効果でないとしても審査の過程でクレーム全体の進歩性を確保するために減縮補正された「押すまで閉じられずわずかに開かれた」という構成要件によって係合時と係合後のいずれにおいても「作動が確実」との課題に対応している,と主張するものである。 原判決は特許になる過程の出願経過をほとんどチェックせず特許発明を特許公報のみで解釈したとしか思えない。特許発明は特許公報のみで解釈してはならない。特に出願経過において特許請求の範囲の減縮補正が行われたケースの大半は,当初の特許請求の範囲では進歩性が確保できない場合に減縮補正した構成要件によって進歩性を確保することを最大の目的としており,本件特許もまさにそれに該当する。 エまた「自由端…動きが最も大きい…問題が生じる」の「問題が生じる」につき,原判決は「十分に」離す 「十分に」少なくなるとの意味に限定 ,。 , 解釈している 自由端が蝶番から450mmの位置である開き戸であれば自由端から1mm離れれば開き戸の動きは449/450の動きになり,0.1mm離れれば449.9/450の動きになり 「わずかに」離せ,ば「わずかに」動きしろが少なくなるということは当業者の技術常識で読めば自明である。明細書は技術説明文であることを忘れてはならない。法律文や契約文と異なり技術常識で読まれることを前提に書かれた文章である。原審は本件明細書を技術常識で読んでいない。何故ならば開き戸の動きが最大の場合と,449/450または449.9/450の動きの場合で,前者ではロックしないが後者ではロックに間に合うというゆれの状況があり得ることを全く理解していないからである。 ( )本件特許発明1の「押すまで閉じられず」についての当審における主張3ア「押すまで閉じられず」との構成要件は,本件特許発明1の本質的構成要件であるが,原判決はそれを理解していないので,原審での主張を以下のとおり要約,敷衍する。 本件特許発明1の「押すまで閉じられず」との構成要件は,上記(2)で主張したとおり,本件特許の出願時の請求項1(乙2の15)である「マグネットキャッチなしの開き戸において地震のゆれの力でロック位置に開き戸の障害物が移動する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付けた開き戸の地震時ロック方」() , 法下線は控訴人が付記 が審査及び不服審判手続きの過程で補正され「マグネットキャッチなしの開き戸において開き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手段を設け,該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け,前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる開き戸の地震時ロック方法 (下線は控訴人が付記)となった構成要件である。 」すなわち「押すまで閉じられず」との構成要件は「ロック位置」なる概念を「係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置」と減縮補正した構成要件である。地震時ロック方法の従, (), 来公知の方式として 開き戸を閉じたままロックする方式 公知例は多い地震のゆれの波毎に開き戸がばたつく方式(米国特許第5,035,451号,発明の名称「外乱応答性磁性ラッチ ,特許の日 1991年7月3 」0日,乙3)があったが,前者は解除方法が複雑で使用者に説明しなければならないという問題があり,後者は地震が終了すれば解除操作が不要であるという利点はあるものの係合と解除が繰り返されるから地震時に開放してしまう危険が極めて大きい。 そこで本件特許発明1の「押すまで閉じられず」との方式は,開き戸を閉じたままロックする方式と比較して開き戸を押せば解除できるのであるから解除方法が簡単であり,地震のゆれの波毎に開き戸をばたつかせず係合が一回だけであるから地震時に開放してしまう危険が極めて少ない(言い換えれば作動が確実)という非常に優れた方式である。なぜこの「押すまで閉じられず」との方式に従来誰も気付かなかったかといえば 「開き,戸がわずかに開かれ」ても地震時の収納物の落下による人的被害は少しの隙間から小物が落下しても実質的にない,ということに気付かなかったからである。 それではなぜ本件特許発明1において気付いたのかといえば,それはロック方法を試作してはテストし,失敗してはそれを繰り返し,その過程である時 「押すまで閉じられず」との方式にすれば簡単解除と確実作動 ,の両者がうまくいくことに気付いたからである。 以上の通り本件特許発明1の「押すまで閉じられず」との構成要件は明らかに従来公知の方式と比較して進歩性があり社会に貢献するものである。 イ「押すまで閉じられず」の要件についての本件特許発明1の実施例と被告各物件との差異まず開き戸の動きを整理すれば,本件特許発明1の実施例においては,第1ステップ開き戸は地震のゆれで開く方向に動く第2ステップ開き戸はわずかに開かれたロック位置に係止体の後端の弾性体で保持される第3ステップ開き戸は使用者に押されて閉じる以上である。 他方被告各物件においては第1ステップ開き戸は地震のゆれで開く方向に動く第2ステップ開き戸はわずかに開かれたロック位置に弾性体を有する雄雌締結構造で保持される第3ステップ開き戸は使用者に押されて閉じる以上である。 つまり本件特許発明1の実施例を被告各物件は弾性体を有する雄雌締結構造で「閉じられず」保持される構造に設計変更しただけである。すなわち被告各物件は従前からの慣用技術である開き戸が閉じられた状態を保持するための(慣用技術の)弾性体を有する雄雌締結構造を転用して「閉じられず」保持される構造にしただけである。 開き戸を閉じられた状態に保持する弾性体を有する雄雌締結構造が従前からの慣用技術であることは甲5(慣用技術の写真7枚,平成20年2月8日控訴人撮影)に示される洋箪笥の開き戸,電子レンジの開き戸等から明らかである。 「押すまで閉じられず」と発明することは,成功するか否か全く保証のない状態で開発作業をした控訴人が得た成果であるが,他方それを見た模倣者である被控訴人はうまくいくことを知って実施料を支払わずコストを安く自社製品に転用するべく組織的に,慣用技術を用いて極めて容易に実施例と異なる構造に設計変更したのである。 以上の状況でもし裁判所に技術開発についての理解がなく,事務的にクレームを実施通りに限定解釈するという運用をされるのであれば全く控訴人は救われない 控訴人は 模倣 と確信しているが 仮に被控訴人が 模 。「」,「倣ではない」といった場合に裁判所が判断する基準としては,既に過去に数多くの裁判例がある(具体的には指摘しない 。)上記「弾性体を有する雄雌締結構造」の作用効果,慣用技術,技術思想に注目し,決してクレームを実施例通りに限定解釈するべきではない。さらに,以上の作用効果,慣用技術,技術思想についての判断は技術的な内容についての判断であるから,法律の専門家である裁判官の基準でなく,本件特許発明の技術者(当然開き戸の慣用技術を知っている技術者)であればどういう判断になるかという基準に基づくべきである。 ウ原判決がサポート要件と混同した進歩性について付言すると,クレームの1つの用語(この場合は「自由端でない )に著しい効果がなくても, 」他の用語(この場合は「押すまで閉じられず )に著しい効果があればク 」レーム全体として特許性がある。 「自由端でない」も自由端から1mm離れたらどれだけ効果があるのかという問題は,わずかであっても効果はあるものである。 その上で特許請求の範囲に「押すまで閉じられず」との構成の限定(審査の過程で「自由端でない」は進歩性がないことが明らかになったことによる限定)がありその効果は直線グラフ的でなくそうでない場合より著しいという効果である。本件特許発明1の「自由端でない…押すまで閉じられず」も各々性質は異なるものの効果はあるのであるから,両者によって本件特許の「作動が確実」という効果を達成しているのであり,クレーム全体としての進歩性のみならずサポート要件の無効理由も全くない。 「押すまで閉じられず」は本件特許発明1の本質的構成要件であり,出願人及び発明者が地震時の開き戸の自動ロック方法を兵庫県南部地震前から開発と試作を繰り返してきた成果である。兵庫県南部地震前は,出願人及び発明者がキッチンメーカー,家具メーカーに自動ロック方法を提案しても全く無視されたが,地震後になれば出願人及び発明者が完成した本件特許発明の方式が最も「作動が確実」であることが明らかになり,被控訴人(一審被告)が工業用ファスナーメーカーであるニフコに本件特許発明の方式を模倣させて製作したのが被告各物件である。 特許発明はあくまで技術的思想であり,当業者がクレームからその表現に抵触する構成を「想到可能」であれば,その構成は当然特許法70条1項により技術的範囲に含まれ,抵触する。 特許発明を意匠デザインのように実施例通りに解釈してもよいとは特許法のどこにも規定されていない。特許法70条の1項と2項を逆に解釈することは特許法違反である。 裁判所は「法律専門家の物差し」でなく 「当業者であればクレームの ,表現に抵触する設計変更を『想到可能』か否か」という「当業者基準」で判断,すなわち法律専門家が想到不可能であっても当業者なら容易に想到可能か否かで判断すべきである。 (4)分割要件違反(争点2-1)に対する補足的主張そもそも「自由端でない」との特許請求の範囲の記載はサポート要件違反でないから分割違反にならない。つまり,図1ないし図4の実施例,原出願の図20,図25を結合して分割出願としたことに分割要件違反はない。 なぜならば 「自由端でない」との概念に図20と図25はいずれも含ま ,れるし,図20と図25はいずれも開き戸の動きが最も大きくないのであるから明細書に記載されている「自由端…ロックが不安定」という問題の解決の効果において同じである。また,図1ないし図4の実施例は天板下面に取り付けられており,左右方向の位置について明細書に記載がないということは,左右方向については任意の位置に取り付けられると解釈するのが通常の解釈である。 したがって,図1ないし図4の実施例で開示された発明と図20及び図25に開示された「自由端でない」という発明の両者を結合,すなわち「ゆれの力でロック位置に移動」という発明と「自由端でない」という発明を結合した構成に限定した新たな発明を分割発明とすることは特許法違反ではない。 (5)明確性要件違反(争点2-3)に対する補足的主張本件特許発明1の「わずかに開かれる…係止…押すまで閉じられずわずかに開かれた」について 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」係止状態 ,は地震のゆれの力で閉じられず(ゆれの力より大きい)押す力では閉じられる係止状態であればよいのであるから,その様な係止状態は一定の力で保持される係止状態であればよい。したがって,それを達成するには慣用技術を用いれば可能であるから具体的な構成を想定できる。 また,本件特許発明1の文章の順序は実施例でのプロセス説明の順序と同じであるし,急激に大きい地震のゆれが生じた場合は係止手段の移動開始と開き戸の開き開始は同時である。 すなわち係止手段が移動するゆれの力(小さい)と開き戸がわずかに開く() , ゆれの力 大きい のいずれよりも大きい地震のゆれが急激に生じた場合は係止手段の移動と係止が同時になる場合がある。係止手段が移動するのも開き戸がわずかに開くのもいずれも「ゆれの力」によると明細書に説明されているのであるから,急激に大きい地震のゆれが生じた場合は係止手段の移動開始と開き戸の開き開始は同時であると説明がなくても当業者であれば想到できる現象である。 「 」 したがって 係止手段が…移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止との表現は,急激に大きい地震のゆれが生じた場合は係止手段の移動開始と開き戸の開き開始は同時であると想到できるのみならず,技術課題として出願時から意識し,それを指摘していた現象でもある。 当業者が力学の常識で本件明細書を読めば 「係止手段が…移動しわずか ,に開かれる開き戸の係止具に係止」との表現は明確性要件違反ではない。 2当審における被控訴人の主張( )控訴人の主張( )に対し11ア控訴人の主張( )は,以下のとおりに整理することができる。 1?「ゆれの力で (構成要件C)の「で」は「理由・原因を示す」語で 」あり,被告各物件の球(3)の地震時の動きは「ゆれの力で」実現する,()() , ものであるから アーム 4 が球 3 に押されて作動するとしても被告各物件は 「ゆれの力で」球を介して係止手段が移動する構成を採 ,用している。 ?本件明細書の実施例には,ゆれの力と重力とが併用された構成が開示されているから 「ゆれの力で (構成要件C)は,ゆれの力と他の力が ,」協力している場合を含む。 ?被告各物件は,兵庫県南部地震波のように微少なゆれの後に非常に大きなゆれとなる直下型地震波では,球(3)とアーム(4)とが同時に作動するので,アーム(4)は,球(3)の補助なく,独自にロック位置に到る。 ?被告各物件において,球(3)はアーム(4)を補助する部材であって,被告各物件が球(3)を具備したことによる作用効果は,球なしの装置で受け具(5)の取り付け位置を下げた場合と比較して,著しい差はない。被告各物件が構成要件Cを充足しないと判断した原判決は,機能的クレームにかかるこれまでの裁判例が示してきた判断基準に反するものである。 ?係止体がそれとは別体のゆれ検出体に押される構成は公知技術であるから 「球の補助」がなされる構成も「ゆれの力で (構成要件C)に含 , 」。() , まれる 被告各物件において球 3 は係止体を補助する部材であって「球の補助」のある被告各物件は 「ゆれの力で (構成要件C)を充足 ,」するものである。 ,,,。 しかしながら 控訴人の上記主張は 以下に述べるとおり 失当であるイ控訴人の主張?に対する反論控訴人の上記主張?は 「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物 ,としてロック位置に移動し (構成要件C)がいわゆる機能的クレームで 」あることを無視して,明細書の記載を何ら考慮せず,本件明細書(甲1)に開示されている技術思想(なお,原判決は,その30頁10行〜11行において,本件明細書に開示されている技術思想は 「地震のゆれによっ,」。),, て係止手段が自ら移動する である旨判示していると無関係に ただ「で」の国語的な意味のみを理由として 「係止手段が地震のゆれの力で ,開き戸の障害物としてロック位置に移動」するものであれば,すべて構成要件Cを充足すると主張するものである。したがって,控訴人の主張?には理由がない。 ウ控訴人の主張?に対する反論(),() 原判決が判示するとおり 29頁10行〜11行本件明細書 甲1において 「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位 ,置に移動し (構成要件C)なる構成につき具体的に開示していると解さ 」れる部分は,実施例としての段落【0006】及び図1ないし図4のみである。本件明細書の段落【0006】には,わずかに 「開き戸(2)が,図1の様に閉じられた閉止状態では家具,吊り戸棚等の本体(1)側の装置本体(3)に開き戸(2)側の係止具(5)が近接している。この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される 」と記載されているにすぎず,図2及び図3の記載をも参酌 。 すれば,本件明細書には 「係止手段が,他の部材を介することなく,ゆ ,れの力によって自ら移動し,その後,自らの重力によって,自らロック位置に移動する」構成が開示されているにすぎない。 本件明細書が「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し (構成要件C)について開示している技術思想は,わず 」かに 「係止手段が,他の部材を介することなく,ゆれの力によって自ら ,移動し,その後,自らの重力によって,自らロック位置に移動する」構成にすぎない。 原判決は,同構成要件につき 「…少なくとも地震のゆれによって係止 ,手段が自らロック位置に移動する構成であることを要する… (30頁1」3行〜14行)旨判示しているが,これは,まさに 「係止手段が,他の,部材を介することなく,ゆれの力によって自ら移動し,その後,自らの重力によって,自らロック位置に移動する」構成であることを要する旨判示したものである。 したがって,本件明細書は,ゆれの力と重力とが併用された構成を広く開示するものではなく,ゆれの力と他の力が協力している構成を広く開示するものでもない。また,ゆれの力と重力とが併用された構成を開示しているとの控訴人の前提は誤りであるが,かような前提から,何故 「ゆれ,の力で (構成要件C)が,ゆれの力と重力以外の他の力が協力している 」, 。, 場合をも含むと導きうるのか 控訴人の論理は全く理解できない よって控訴人の主張?には理由がない。 エ控訴人の主張?に対する反論(ア)控訴人が主張するとおりアーム(4)が球(3)の作用なく独自にロック位置に到ることがあったとしても,地震時ロック装置として作動するためには,アーム(4)をロック位置で保持して,受け具(5)と係合することまで必要である。 原判決が 「…仮にアーム(4)がロック位置に到達したとしても, ,これを保持する構成がなければアーム(4)は自重によって直ちに元の位置に戻ってしまうが,被告各物件では,開き戸が開く際に係止手段たるアーム(4)がロック位置にないと係合に到らないのであるから,確実なロックを期するためには,アーム(4)をロック位置に保持する機。 ,() 構が必須となる かかる問題を解決するために 被告各物件では球 3を利用したものであり,地震のゆれではなく球(3)の重さを利用してアーム(4)をロック位置まで移動させるとともに,これを保持するというのが,被告各物件の係合に係る基本的な技術思想と認められる 」。 ( ),, () 31頁22行〜32頁4行 と判示するとおり 被告各物件は 球 3の重さを利用することによって,アーム(4)をロック位置まで移動させ,その状態を保持することを基本的な技術思想としているのである。 , (),,() 被告各物件は 球 3 を具備していなければ そもそも アーム 4をロック位置に保持することができず,ラッチとして確実な作動を実現することはできない。 実際,被控訴人において耐震ラッチ作動実験を実施して,球を具備した被告物件(イ号物件)とイ号物件から球を取り外したものそれぞれに対して?兵庫県南部地震と水平方向のみが同一の地震波,?兵庫県南部地震と全てが同一の地震波を加えたところ,乙23の1(パナソニック電工知的財産センター株式会社 Aの「報告書 ,平成21年8月18日 」作成)の実験結果が示すとおり,球を具備したイ号物件では,各実験のいずれにおいてもアーム(4)が受け具(5)にロック(係合)したのに対し,イ号物件から球を取り外したものでは,各実験のいずれにおい()()()(), てもアーム 4 が受け具 5 にロック 係合 せず アンロック家具の扉が開いた。 また,直下型地震以外のゆれとして,?宮城沖地震と同一の地震波,(, ?宮城沖地震と同一の波形で振幅を120%にした地震波 実験?では控訴人が335ガル以上の加速度が加わるとアーム(4)が独自に移動, , する旨主張していることを受けて 加速度が335ガル以上となるよう振幅を宮城沖地震の120パーセントとした )を加えたところ,同実 。 験においても,乙23の1の実験結果が示すとおり,球を具備したイ号物件ではアーム(4)が受け具(5)にロック(係合)したのに対し,イ号物件から球を取り外したものではアーム 4 が受け具 5 にロッ ()()ク(係合)しなかった(アンロック 。)これら実験結果が示すとおり,控訴人が強調する兵庫県南部地震波に代表される直下型地震波についても,また,宮城沖地震波についても,イ号物件では 球の具備なくしては アーム 4 が受け具 5 にロッ ,,()()(),,()() ク 係合 せず 球の具備があって はじめてアーム 4 と受け具 5との確実なロック(係合)が実現するものである。 よって 控訴人の上記主張は 係止手段と係止具とを確実にロック 係 ,, (止)させるという本件特許発明の課題解決の実現のための技術思想が本件特許発明の技術思想と相違するということにつき一切の考慮をせず,ただ,地震の加速度が大きな場合に,被告各物件のアーム(4)がロック位置に到る場合があり得る点だけを強調したものにすぎず,控訴理由として何の意味もなしていない。 (イ)また,本件特許発明は,そもそも 「従来において作動が確実な開 ,。」(【】) き戸の地震時ロック方法は未だ開発されていない段落 0002として 「従来の課題を解決し作動が確実な開き戸の地震時ロック方法 ,の提供を目的とする(段落【0003 )ものである。すなわち,本 。」】件特許発明は,兵庫県南部地震波に代表される直下型地震波に特化した地震時ロック方法等を提供するものではなく,一般的な地震に対応するための地震時ロック方法等を提供することを課題とするものである。 控訴人の主張?は,上記のとおり,確実な作動の実現につき一切考慮することなく,アーム(4)がロック位置へ移動することだけを強調している点において既に誤っているが,さらに,一般的な地震について論ずるのでなく,直下型地震波の場合だけを取り上げた主張をしている点においても,不適切である。 (ウ)さらに,控訴人は,球(3)は136ガル以上の加速度により凹溝部に落下する また アーム 4 は335ガル以上の加速度によりロッ ,,()ク位置に独自に移動するとして,これら前提のもと上記主張?を展開しているが,これら加速度の値は,控訴人が独自の見解・解釈によって算出したものであって,客観的合理性を欠いている。 以上のとおりであるから,控訴人の主張?には理由がない。 オ控訴人の主張?に対する反論(ア)原判決が「…被告各物件では球(3)を利用して係止手段を回動させるという構成を採用しており,地震のゆれによってアーム(4)が自らロック位置に回動することは期待も想定もされていない。また,被告各物件では,係合に到るまでアーム(4)をロック位置で保持しなければならず,球(3)はそのための役割をも果たすのであるから,原告が,『』。」 主張するような 単なる 係止体を補助する 部材とは認められない(),,() 32頁5行〜10行 と判示するとおり 被告各物件では アーム 4を回動させ,また,アーム(4)をロック位置で保持させるに当たり,球(3)が積極的かつ重要な役割を果たしているのであって,球(3)は,控訴人が主張するような係止体を補助する部材ではない。 (イ)また,控訴人は,球を具備していなくても,受け具(5)の取り付け位置を下げれば,球を具備する被告各物件と比較して,地震検出感度や地震検出方向につき著しい効果の差はない旨主張する。 控訴人は様々なデータを示しているが,これらデータは,いずれも,実験の基礎条件等の特定,データの算出根拠,理論的根拠等の裏付けを全く欠くものである。控訴人は,何ら実験的・理論的裏付けもなく,独, , 自の見解に従って 作用効果に著しい差がない旨主張しているにすぎず失当である。 (ウ)さらに,控訴人は,従来の機能的クレームにかかる裁判例は,作用効果が著しいか否かという基準で実施例と対象物に差異があるか否かを判断しているとして,原判決がこれら裁判例に反する旨主張する。 しかし,機能的クレームにかかるこれまでの裁判例で,作用効果が著しいか否かという基準のみで実施例と対象物とを比較検討して技術的範囲を画したものはない。少なくとも,機能的・抽象的に記載されたクレームについては,明細書に開示された技術思想に属していない構成までもが技術的範囲に含まれることがないよう,その技術的範囲については限定的な解釈がなされているのであって,実施例と比較して作用効果に著しい差異があるか否かのみで判断して,技術的範囲を拡張的に捉えたものは1件もない。 そもそも,控訴人が多数挙げた裁判例の中で,特許請求の範囲の記載が機能的・抽象的であるとして,その解釈につき判示したものは,わず, ((), かに 東京地判昭和52年7月22日 昭和50年 ワ 第2564号コインロッカー事件 ,東京高判昭和53年12月20日(昭和51年 )(ネ)第783号,ボールベアリング自動組立装置事件 ,京都地判平)((),), 成2年7月30日 平成元年 ヨ 第909号 きざみ葱包装体事件東京地判平成2年12月26日(昭和62年(ワ)第13156号,風力推進装置事件 ,東京地判平成10年12月22日(平成8年(ワ) )第22124号,磁気媒体リーダー事件)のみである。 その余の裁判例は,クレーム解釈に当たり上位概念化を示したものであったり,また,クレーム解釈において他の考慮要素とともに作用効果をも斟酌したものにすぎず,いわゆる機能的クレームについて判示したものではない。 また,裁判例についての控訴人の要約は,裁判例が示した判断内容と全くかけ離れてしまっている。控訴人は,各裁判例が作用効果のみに着目して技術的範囲を決定したかのように記載をしているが,全く事実に反する。 以上のとおり,控訴人の主張?には理由がない。 カ控訴人の主張?に対する反論上記オのとおり,被告各物件において,球(3)は,控訴人が主張するような,単なる係止体を補助する部材ではない。控訴人の主張は,その前提において既に誤っている。 また控訴人は,実開昭60-130973号(甲23 ,実開平6-4)5030号(甲24)をもって,係止体がそれとは別体のゆれ検出体に押される構成が公知技術である旨主張するが,これら公報記載の考案において控訴人が「ゆれ検出体」に相当するとする「重錘(9(甲23「振)」),子 2甲24 は いずれも扉の閉鎖に伴う衝突力あるいは慣性によっ ()」() ,て移動するものであって,地震のゆれを検出するものではない。 したがって,これら公報を以て,係止体がそれとは別体のゆれ検出体に押される構成が公知技術であるとする控訴人の上記主張には無理がある。 ましてや,球を積極的に利用してアームをロック位置まで移動させ,アームがロック位置にある状態を係合に到るまで保持するという被告各物件の構成(技術思想)は公知のものではない。 よって,控訴人の主張?には理由はない。 ( )控訴人の主張( )に対し22ア控訴人は,サポート要件違反とする原判決に関し,以下のとおり主張している。 ?「自由端でない位置」は,地震時の開き戸の動きが最も大きい位置ではない位置であって,動きが少なくなる位置と同義であるから,これは 「自由端から蝶番側へ離れた位置」と同義である。 ,?本件明細書の発明の詳細な説明には「開き戸(2)の自由端に取り付けると…問題が生じる場合がある (段落【0009 )と記載され 」】ているのであるから 「開き戸の自由端でない位置「自由端に近接 , 」,した位置」は,発明の詳細な説明に記載がなされたものである 「自。 由端に近接した位置」であっても,わずかでも効果はあるにもかかわらず,原判決は,自由端に近接した位置では十分な効果がなく,かかる位置を含むクレームの記載となっていることを以てサポート要件違反に当たると認定しており,効果の有無とサポート要件違反とを混同している。 しかしながら,実質的に公開されていない発明について権利を認めることはサポート要件の趣旨に反するものであり,単に請求項に対応する表現が明細書中に存在するかどうかということではなく,実体的に請求項に係る発明が詳細に説明されているかどうかが問題とされるべきである。そして,発明は,その発明特有の作用効果を奏するものであり,当該作用効果。, を果たし得る具体的構成を明細書に開示しなければならない そうすると発明特有の作用効果を果たし得ない構成が請求項に含まれているのであれば,仮に形式的に請求項に対応する表現が明細書中に存在するとしても,実体的に請求項に係る発明が詳細に説明されているとはいえず,サポート要件違反となるというべきである。 以上の観点から控訴人の主張?,?に対し反論すると,次のとおりである。 イ控訴人の主張?に対する反論(ア)控訴人の解釈は文理からかけ離れた解釈であること「離れる」には 「遠ざかった位置にある。へだたった所にいる 」 , 。 等の意味があり(広辞苑第6版2283頁「自由端から蝶番側へ離れ ),た位置」とは 「自由端から蝶番側へ一定程度離れた位置」を意味し, ,「自由端に近接した位置」を含まないと解するのが自然であり,控訴人の上記主張は 「自由端でない位置」及び「自由端から蝶番側へ離れた ,位置」の文理からかけ離れた解釈であり,ただ強引な理屈を展開したものというよりほかない。 (イ)本件明細書の記載の参酌について控訴人は,本件明細書の段落【0009】の記載である 「図5は本,発明の方法を示し,該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである 」を根拠とする。。 しかし,原判決が判示するとおり,本件特許発明の課題は「作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供」することにあり(段落【0003,段落【0009】には,ロック装置を開き戸の自由端に取り付け 】)ると,地震時の開き戸の動きが大きく,ロックを確実に作動させることができないため 「自由端から蝶番側へ離れた位置」に取り付ける趣旨 ,の記載がなされているのであって,かかる本件明細書の記載を参酌すれば 「自由端から蝶番側へ離れた位置」は,ほんのわずかでも自由端か ,ら蝶番側へ離れれば足りるのでなく,上記課題を解決するに足りるだけ十分に,すなわち,あくまで,自由端から蝶番側へ一定程度離れた位置( )。 と解するよりほかないのである 原判決34頁下5行〜35頁11行よって,控訴人の主張?は単なる詭弁というほかなく,全く理由がない。 ウ控訴人の主張?に対する反論(ア)「自由端に近接した位置」について本件明細書に記載がないこと上記のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,課題解決のためのラッチの取り付け位置として 「自由端から蝶番側へ一定程度離れた ,位置」のみが記載されており 「自由端に近接した位置」については何 ,ら記載がなされていない。 段落【0009】の「開き戸(2)の自由端に取り付けると…問題が生じる場合がある」の記載をもって 「開き戸の自由端でない位置」及 ,び「自由端に近接した位置」に取り付ける構成につき開示があるとする控訴人の主張には無理があるといわざるを得ない。 (イ)「自由端に近接した位置」における作用効果また,控訴人は 「自由端に近接した位置」であっても,わずかでも ,効果はある旨主張するが,原判決が判示するとおり,本件各特許発明の作用効果は,地震時のロックが確実になることにあるところ,自由端に近接した位置では,開き戸の動きは,依然,自由端に取り付けた場合とほぼ同程度に大きいのであるから,上記作用効果を奏するものとは認め得ない(原判決36頁11行〜17行 。)(ウ)「押すまで閉じられずわずかに開かれた」構成控訴人は,本件特許発明は 「自由端でない位置」なる構成と「押す ,まで閉じられずわずかに開かれた」構成とを具備することによって,作動が確実との課題を解決することができるとし,自由端に近接した位置であっても 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」構成と合わせて ,課題を解決することができるとして 明細書の発明の詳細な説明には 自 , 「由端でない位置」すべてについて記載がなされており,明細書のサポート要件違反には当たらない旨主張する。 しかし,原判決が37頁2行〜11行において判示するとおり,そもそも本件明細書には 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」構成に ,よって,作動を確実にするとの課題を解決することができるとの記載は全くなされていない。また,上記のとおり,段落【0009】には「開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる」と記載され,それに引き続き,取り付け位置を「自由端から蝶番側へ離れた位置」にする旨の記, , 載がなされているのであるから ラッチの取り付け位置にかかる構成は確実に係合するためのものであり,一方 「押すまで閉じられずわずか ,」 , に開かれた 構成は係合後の係合状態を維持するための構成であるから「押すまで閉じられずわずかに開かれた」構成は,確実な係合を確保するものではない。 なお,本件明細書には 「自由端でない位置」なる構成だけでは作動 ,,「 」 が確実との課題を解決できず押すまで閉じられずわずかに開かれた構成を具備することによって,作動が確実との課題を解決することができる旨の記載もない上,係止手段が係止具に係止するのが確実でなければ,係合後の係合状態を維持するための構成である「押すまで閉じられずわずかに開かれた」構成を具備していたとしても,地震時のロックが確実となることはない。 よって,控訴人の主張?は理由がない。 第4当裁判所の判断1当裁判所も,原判決と同じく,控訴人の本訴請求は棄却されるべきものと判断する。その理由は,以下に述べるとおり,被告各物件は本件特許権を侵害するものではなく(非侵害 ,また,本件特許権には,?サポート要件違反(3 )6条6項1号違反 ・?分割要件違反(同法44条1項,29条1項3号 ・ ) )?明確性要件違反(同法36条6項2号違反)があるから「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきもの」である(同法104条の3第1項 ,と)いうものである。 2被告各物件による本件特許権侵害の有無について, 。, ( )被告各物件は 本件各特許発明の構成要件Cを充足しない その理由は1,。 原判決26頁1行〜32頁21行記載のとおりであるから これを引用する( )控訴人の当審における主張に対する補足的判断2ア控訴人は,本件各特許発明の構成要件Cの「ゆれの力で」には,ゆれの力と重力により球が動き,これを介して係止体が動くものもこれに含まれるから,被告各物件は,その技術的範囲に属し,原判決は誤りである旨主張する。 しかし,この点については,原判決が判示する(29頁下10行〜30頁15行)とおり,本件明細書(甲1)には,他の部材を介して係止手段が移動することは開示も示唆もされていないから,本件各特許発明の「ゆれの力で (構成要件C)は,地震のゆれによって係止手段が自らロック 」。, 位置に移動する構成であることを要すると解される 原判決に誤りはなく控訴人の上記主張は採用することができない。 イまた控訴人は,被告各物件において,球を用いた場合でもこれを用いない場合でも,ロック作動の動きは同じであり,球に押されることなくロック位置に到る旨を主張し,甲27〜32を提出する。 しかし,乙23の1(パナソニック電工知的財産センター株式会社 Aの「報告書 ,平成21年8月18日作成)によれば,イ号物件を自由端 」から4cm離れた位置に取り付けた吊り戸棚(扉の幅は496mm)において,?兵庫県南部地震と水平方向のみが同一の地震波,?兵庫県南部地震と全てが同一の地震波,?宮城沖地震と同一の地震波,?宮城沖地震と同一の波形で振幅を120%にした地震波の4種類の地震波を加えたところ,球を具備したイ号物件ではアーム(4)が受け具(5)にロック(係合)したのに対して,球を取り外したイ号物件においては,アーム(4)が受け具(5)にロック(係合)しなかった(アンロック)ことが認められる。 ,, () そうすると 被告各物件において 球の力を借りずに係止手段 アームが係止具(受け具)に係合する場合がありうるとしても,球が存在しなくとも確実に係合し,これを保持することができるものとは認められない。 控訴人の上記主張は採用することができない。 , , ウさらに控訴人は 係止体がゆれ検出体に押される構成は公知であるから球の補助を受けるものも本件各特許発明の構成要件Cの「ゆれの力で」に含まれると主張し,それに沿う証拠として,甲23,24を提出する。 ( 〔 〕 (ア)甲23 実願昭59-19709号 実開昭60-130973号のマイクロフィルム,考案の名称「扉の係止金具 ,公開日 昭和60年 」9月2日,出願人 株式会社西製作所)には,以下の記載がある。 a実用新案登録請求の範囲・「取付け座板と,この取付け座板の表面から突出する突片と,この突片に端を支持させた水平のピンとで構成した扉枠側金具と,突片が嵌入する開口を有する取付けボックス5と,このボックスに組み込むと共に,上記ボックス内の奥側に位置する末端を水平のピンにより回動自在に取付けた揺動板と,扉の閉鎖にともない扉枠側金具のピンと係合し,かつ扉の開放にともない上記ピンから外れるよう揺動板の先端に設けたフック部と,扉の閉鎖にともなう衝突力により揺動板の上縁末端部から先端に強制移動させる転がり重錘と,揺動板の下縁と接触してフック部の先端がピンよりも低い位置で停止するようボックス内に設けたストッパと,揺動板の先端縁にピンとの接触により上記揺動板を起る方向に回動させるよう設けた弧状縁部と,揺動板に先端が降下するよう回動性を付与したバネとで構成した扉側金具とから成る扉の係止金具 」。 b図面の簡単な説明・「第1図はこの考案に係る係止金具の一部切欠側断面図,第2図及び第3図は同上の作用を示す一部切欠側面図である。 A…扉枠側金具,B…扉側金具,1…座板,2…突片,3…ピン,4…開口,5…ボックス,6…ピン,7…揺動板,8…フック部,9…重錘,10…ストッパ,11…弧状縁部,12…バネ」c図面・第3図(イ)また,甲24(実開平6-45030号公報,考案の名称「引戸キャツチャー ,公開日 平成6年6月14日,出願人 ケージーパルテッ 」ク株式会社)には,以下の記載がある。 a実用新案登録請求の範囲・「 請求項1】引戸Aの開放端側に取り付けられるケーシング1内に作 【動片21を有する振子2の上端部を左右揺動自在に軸22にて枢支すると共に,振子2の揺動によって作動片21に押されて回転し,戸枠Bまたは戸Aの一部に固着された受金具4に係合する鉤部31を先端部に形成した係止杆3を前記ケーシングまたは戸枠B側に軸32にて枢支したことを特徴とする引戸キャツチャー 」。 b要約・「振子の慣性モーメントを利用して戸を閉めたその瞬間のみ戸を戸枠に, 係止させることにより戸枠への衝突時の反動による戸の半開きを防止し戸の開放時には何ら抵抗なく開けることができる引戸キャツチャーを提供すること ( 目的 )」【】c図面・【図3】 ・ 図4】【(ウ)上記(ア),(イ)によれば,甲23,甲24は,引戸を閉めた際の半開き状態を防止することに関するものであり,甲23の重錘9は 「扉,の閉鎖にともなう衝突力」により移動するもの,甲24の振子2は,その慣性モーメントによる揺動によって係止杆3が移動しその瞬間のみ係, () , 止するものであり 一時的に係止したフック部8とピン3 甲23 や鉤部31と受金具4(甲24)は係止状態を保持することができないから,いずれも球が地震のゆれの力により移動し係止状態を保持する被告各物件とは異なる。控訴人の上記主張は採用することができない。 3サポート要件(特許法36条6項1号)違反の有無について控訴人は,原判決が,構成要件Dの「開き戸の自由端でない位置」との記載は発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法36条6項1号の定めるサポート要件を充たすとは認められないと判断したのは誤りであると主張する。 , , 当裁判所も 本件特許権にはサポート要件違反があると判断するものでありその理由は以下のとおり付加するほか,原判決32頁23行〜37頁18行記載のとおりであるから,これを引用する。 ( )本件明細書(甲1〔特許公報 )には,以下の記載がある。 1 〕ア特許請求の範囲(以下「本件特許発明1」等という )。 ・【請求項1】マグネットキャッチなしの開き戸において開き戸側でなく家具,吊り戸棚等の本体側の装置本体に可動な係止手段を設け,該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け,前記係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる開き戸の地震時ロック方法・【請求項3】請求項1の開き戸の地震時ロック方法を用いた家具・【請求項4】請求項1の開き戸の地震時ロック方法を用いた吊り戸棚イ発明の詳細な説明・「本発明は開き戸を地震時に自動ロックして収納物の落下を防止する開き戸の地震時ロック方法に関するものである(段落【0001【技術分 。」】,野 )】・「従来において作動が確実な開き戸の地震時ロック方法は未だ開発されていない(段落【0002【背景技術 ) 。」】,】・「本発明は以上の従来の課題を解決し作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とする(段落【0003【発明が解決しようとする 。」】,課題 )】・「本発明は以上の目的達成のためにマグネットキャッチなしの開き戸において地震のゆれの力でロック位置に開き戸の障害物が移動する内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付けた開き戸の地震時ロック方法(請求項1記載の発明)等。」(【】,【 】) を提案するものである段落 0004課題を解決するための手段・「本発明の開き戸の地震時ロック方法は特に家具,吊り戸棚等の天板下面において開き戸の自由端でない位置に地震時ロック装置を取り付けるため開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる(段落【0005【発明の効果 ) 。」】,】・「以下本発明の開き戸の地震時ロック方法を図面に示す実施例に従い説明する。 図1は本発明の方法に用いることが可能なロック装置を示し,該ロック装置は家具,吊り戸棚等の本体(1)に固定された装置本体(3)を有する。 該装置本体(3)には地震のゆれの力で動き可能に係止手段(4)が支持される。係止手段(4)は係止部(4a)を有し装置本体(3)の停止部(3a)で停止されるものである。 次に開き戸(2)に係止具(5)が取り付けられ前記係止手段(4)が地震のゆれの力で動いた際にその係止部(4a)が係止される係止部(5b)を有する。一方係止手段(4)の戻り路に弾性手段(6)が設けられている。 以上の実施例に示した比較のための地震時ロック装置の作用は次の通り。() , である すなわち開き戸 2 が図1の様に閉じられた閉止状態では家具()()()() 吊り戸棚等の本体 1 側の装置本体 3 に開き戸 2 側の係止具 5。 () が近接している この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段 4が動いて係止具(5)に接触する。 更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。 この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。 当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。 該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。 次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。 これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。 この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図1の初期状態へと戻ることになる(段落【0006【発明を実施するための最良の形態 , 。」】, 】なお【0007】は欠落)・「以上に実施例を図示したが,要するに図示の開き戸の地震時ロック装置は可動な障害物(開き戸(2)の障害物という意味である)としての係止手段(4)について該障害物自体を地震のゆれの力でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置であることが判る(段落【0008 ) 。」】・「図5は本発明の方法を示し,該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。 開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸(2)の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。 地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。 マグネットキャッチなしでコスト削減したい場合にこの取り付け方法でロックが確実になるという非常に重要な効果が達成出来る。 次に図6に示されるT,B,S1,S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである(段落【0009 ) )。」】ウ図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である )。 (本発明の方法に用いる地震時ロック装置の断面側面図) ・ 図1【】(同上作動状態図) ・ 図2【】(同上作動状態図) ・ 図3【】(同上作動状態図) ・ 図4【】(本発明の方法の概念図) ・ 図5【】(本発明の方法の概念図) ・ 図6【】エ上記ア〜ウによれば,本件各特許発明は,開き戸を地震時に自動ロックして収納物の落下を防止する開き戸の地震時ロック方法に関する発明である(甲1,段落【0001 )ところ,作動が確実な開き戸の地震時ロッ 】ク方法は未だ開発されていない(段落【0002 )として,作動が確実 】な開き戸の地震時ロック方法を提供することを目的とするものである(段落【0003。】)本件各特許発明においては その目的を達成するため 内付け地震時ロッ ,,(【】, ク装置を開き戸の自由端でない位置に取り付ける等とし 段落 0004【課題を解決するための手段,これにより開き戸の動きが最も大きい自 】)由端でないためロックが確実になるとする(段落【0005【発明の効】,果。】)そして,本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には「内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具…に取り付け…」と記載されているところ,この「自由端でない位置」に関する記載として,発明の詳細な説明には 「本発明の開き戸の地震時ロック方法は…開き戸の ,自由端でない位置に地震時ロック装置を取り付けるため開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる(段落【00。」05「図5は本発明の方法を示し,該方法は開き戸(2)の自由端か 】),ら蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。 開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸 2 の動きが最も大きくロック機構にとってロッ ()クが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になるのである。…次に図6に示されるT,B,S1,S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである(段落【00)。」09 )と記載され,図5には「ロック装置」の,図6には「T位置」の 】記載がそれぞれある。 しかし,図5の「ロック位置」について,上記のとおり「…本発明の方, 」, 法を示し …自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける「本発明の方法は,…T位置にロック装置を取り付ける…(開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付ける…(段落【0009 ) )。」】とするが,ロック装置,T位置が自由端からどの程度離れた位置であるかについて,発明の詳細な説明には何らの記載がない。また,本件明細書中には 「自由端」自体についても【発明の詳細な説明【図面の簡単な説 , 】,明【符号の説明】等にも一切説明がない。 】,上記によれば,本件特許発明1の目的は,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を提供するものであり,そのためロック装置を「自由端でない位置」に取り付けるとするものであるところ,自由端は開き戸の動きが最も大きいためこの自由端でない位置にこれを取り付けるとするが,自由端でない位置がいかなる位置であるのかにつき,発明の詳細な説明には何ら具体的な記載がないものである。上記のとおり,本件特許発明1では,地震時に自由端に比較して開き戸の動きが小さくなる「開き戸の自由端から蝶番側へ離れた位置」に取り付けを行うとするものであるところ,地震時には自由端において開き戸の動きが最も大きいからロックが確実ではなく,自由端近傍では開き戸の動きが自由端と同様に大きいため,ロックを確実にするためには,一定距離自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける必要があるものと解される。しかし,本件特許発明1の特許請求の範囲の「自由端でない位置」につき,どの程度の距離自由端から離れた位置であるのかにつき,発明の詳細な説明には一切記載がないこと,, , から 本件特許発明1は 発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず特許法36条6項1号に定める要件(いわゆるサポート要件)を充たさないというほかない。そして,本件特許発明1の開き戸の地震時ロック方法を用いた家具である本件特許発明3,同じく本件特許発明1の開き戸の地震時ロック方法を用いた吊り戸棚である本件特許発明4についても同様である。 そうすると,本件特許発明1,3及び4には,特許法36条6項1号に違反する無効理由があるというべきである。 ( )控訴人の主張に対する補足的判断2ア控訴人は 「自由端でない位置」とは,本件明細書(特許公報,甲1) ,の発明の詳細な説明に記載された「自由端から蝶番側へ離れた位置」と全く同じであるから,本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載された発明であり,サポート要件違反はない旨主張する。 しかし,上記のとおり,本件特許発明1において,地震時のロックを確実にするためには 「開き戸の自由端から蝶番側へ離れた位置」にロック ,装置を取り付ける必要があり 「開き戸の自由端でない位置」であれば自 ,由端近傍であっても地震時のロックが確実となるとは考えられないことから,特許請求の範囲の記載の「自由端でない位置」は,本件明細書の発明の詳細な説明の「自由端から蝶番側へ離れた位置」との記載と同義であると解することはできない。控訴人の上記主張は採用することができない。 イまた控訴人は,本件特許発明1の「自由端でない位置」には 「自由端,に近接した位置」を含み,これは発明の詳細な説明に記載された範囲に含まれるのであるからサポート要件違反には該当せず,また「自由端に近接した位置」では十分とはいえなくともわずかな効果はあるから,サポート要件違反はない旨主張する。 しかし,本件特許発明1は 「自由端でない位置 (特許請求の範囲の記 ,」載)にロック装置を取り付ける発明であるところ,本件明細書には 「自,由端から蝶番側へ離れた位置」にロック装置を取り付ける旨が記載されており,これは地震時において,一定程度自由端から離れた位置にロック装置を取り付けることで,そのような位置では自由端に比較して開き戸の動きが小さくなることを利用して,ロックを確実に行うとするものである。 そして,特許請求の範囲に記載の「自由端でない位置」には 「自由端近,傍」を含むものであって,明細書に記載の「自由端から離れた位置」とは同義とすることができないのは上記アのとおりである。 さらに 「自由端近傍」にロック装置を取り付けた場合には,地震時の ,動きが自由端と同様に大きいと判断されることから,そのような位置に置いてもロックが確実になされることは,本件明細書には示されていない。 控訴人はこの点について 「自由端に近接した位置」は一切効果がない ,, , のではなく 仮に十分ではないとしてもわずかな効果はある旨主張するが自由端では確実にロックすることが出来ないとしながら,わずかに開き戸の動きが小さい自由端近傍ではロックが確実に可能であるとは到底解することができないから,控訴人の上記主張は採用することができない。 ウさらに控訴人は,本件特許発明1について 「自由端でない位置」なる ,構成と 「押すまで閉じられずわずかに開かれた」構成とを具備すること ,によって,地震時のロック作動が確実となるとの課題を解決することができ,本件明細書の発明の詳細な説明には「自由端でない」いずれの位置についての記載もされているから,サポート要件違反には当たらない旨主張する。 控訴人は本件特許発明1は「自由端でない位置」なる構成と「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成を具備することによって,ロック装置の作動を確実に行うとの課題を解決することができるとしているが,その旨は本件明細書(甲1)には一切記載されていないし,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識に照。, らせばそのように解することができるとする適切な証拠もない 控訴人は「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成はいったん係合した後の係合状態を維持するものであって,これによってロックするための作動が確実であるとも主張するが,これとロック装置の取り付け位置によるロック装置の作動の確実性との関連についての記載は本件明細書には一切されていないから,控訴人の上記主張は採用することができない。 4分割要件違反(特許法44条1項・29条1項3号)の有無について, ,, ( )被控訴人は 本件特許権には分割要件違反があると主張し 当裁判所も1本件特許権には分割要件違反の無効理由があると判断する。その理由は,以下のとおりである。 ア本件特許出願の原出願の当初明細書(乙2の8。以下「原出願の当初明細書」という )には,以下の記載がある。 。 (ア)特許請求の範囲・【請求項1】横向きに可動な障害物を地震のゆれの力でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置・【請求項2】横向きに可動な障害物についてその動き停止手段を地震のゆれの力でロック位置に移動させる開き戸の地震時ロック装置・【請求項3】マグネットを有せず開き戸の機械的閉止保持機構を有する内付け地震時ロック装置において地震のゆれの力でロック位置に障害物が移動する開き戸の地震時ロック装置・【請求項4】マグネットを有せず開き戸の機械的閉止保持機構を有する内付け地震時ロック装置において地震のゆれの力で前記機械的閉止保持機構を構成する障害物の動き停止手段がロック位置に移動する開き戸の地震時ロック装置・【請求項5】障害物がその安定位置を中心に往復振動する請求項1又は3記載の開き戸の地震時ロック装置・【請求項6】動き停止手段がその安定位置を中心に往復振動する請求項2又は4記載の開き戸の地震時ロック装置(イ)発明の詳細な説明(下線は判決で付記)・「 発明の実施の形態】以下本発明の開き戸の地震時ロック装置を図面に 【示す実施例に従い説明する。 ここで本発明の理解を容易にするため図1乃至図9及び図14乃至図21に比較のためのロック装置(従って本発明ではない)について説明する。 図1は比較のためのロック装置を示し,該ロック装置は家具,吊り戸棚等の本体(1)に固定された装置本体(3)を有する。 該装置本体(3)には地震のゆれの力で動き可能に係止手段(4)が支持される。係止手段(4)は係止部(4a)を有し装置本体(3)の停止部(3a)で停止されるものである。 次に開き戸(2)に係止具(5)が取り付けられ前記係止手段(4)が地震のゆれの力で動いた際にその係止部 4a が係止される係止部 5 ()(b)を有する。 一方係止手段(4)の戻り路に弾性手段(6)が設けられている。 以上の実施例に示した比較のための地震時ロック装置の作用は次の通りである。 すなわち開き戸(2)が図1の様に閉じられた閉止状態では家具,吊り()()()() 戸棚等の本体 1 側の装置本体 3 に開き戸 2 側の係止具 5が近接している。この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。 更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。 この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。 当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。 次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。 この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図1の初期状態へと戻ることになる(段落【0005 ) 。」】・「図19は比較のための他の地震時ロック装置を示し,該ロック装置はゴム,ばね,弾性材料等の戸当たり(90)が装置自体に組み込まれた。() () 点に重要な特徴がある 戸当たり 90 は図示の実施例では開き戸 2側の係止具(5)に取り付けられ家具,吊り戸棚等の本体(1)側の装置本体(3)の正面に当接するものであり開き戸(2)の緩衝機能と共に閉止位置決め機能も負担している。 この様に閉止位置決め機能を地震時ロック装置自体が有する場合はロック機構にとってロックの位置決めが確実になるという非常に重要な効果を発揮する。 図20は比較のための他の地震時ロック装置を示し,該ロック装置は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けられた点に重要な特徴がある。 開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸 2 の動きが最も大きくロック機構にとっ ()てロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。 地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸 2 の動きが少なくなるためロック機構にとってロッ ()クが確実になるのである。 マグネットキャッチなしでコスト削減したい場合にこの取り付け方法でロックが確実になるという非常に重要な効果が達成出来る。 () , 図22 図21も同様 及び図24は本発明の地震時ロック装置を示し該ロック装置は係止手段(4)が横向きに突出するものである(これに対して図19は係止手段(4)が下向きに突出するものであった 。)すなわち図19は家具,吊り戸棚等の天板下面に固定された状態で係止手段 4 が下向きに突出するのに対して図22及び図24の地震時ロッ ()ク装置は家具,吊り戸棚等の天板下面又は底板上面に固定された状態で係止手段(4)が横向きに突出する(図19は開き戸(2)の上端付近() )。 の側面図であったが図22は開き戸 2 の開放端付近の平面図であるここで係止手段(4)が下向きに突出する場合は係止手段(4)を重力と併用して磁力により開き戸(2)の係止具(5)に係止させることになる。 これに対して係止手段(4)が横向きに突出する場合は係止手段(4)を重力と併用せず磁力だけにより開き戸(2)の係止具(5)に係止させることになる。 初期状態(地震のない通常の待機状態)では係止手段(4)は装置本体(3)の後端壁面(3h (図示のものはやや傾斜)で安定状態になっ )ている。 地震時には係止手段(4)が前進し前進位置で磁石(5c)の磁力(重力と併用せず)に吸着されて横向きに突出する。 これにより図19と同様に係止手段(4)の係止部(4a)が側方にある係止具(5)の係止部(5b)に係止される。 この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。 図22及び図24の本発明の地震時ロック装置のその他の解除等の作用については図19のものと同様である。 図23は本発明の他の地震時ロック装置を示し,該ロック装置は前述の図18の地震時ロック装置と類似する。 図23の地震時ロック装置においては家具,吊り戸棚等の天板下面又は底板上面に固定された状態で係止手段(4)が横向きに突出する(図23は平面図であることに注意 。)要するに以上の図21乃至図24の地震時ロック装置は図25に示されるB位置又はT位置に取り付けられそして係止手段(4)が横向きに突出するものである。図18及び図19のものは図25に示されるT位置に取り付けられそして係止手段(4)が下向きに突出するものである。 逆に図21乃至図24の地震時ロック装置を図25に示されるS1,S2又はS3の位置に取り付けた場合は係止手段(4)が下向きに突出することに気付くべきである。 更に図18及び図19の地震時ロック装置を図25に示されるS1,S2又はS3の位置に取り付けた場合は係止手段(4)が横向きに突出する。 横向きに係止手段(4)が突出するものは前述の図10乃至図13に既に実施例が示されていたから図21乃至図24の地震時ロック装置はこれと同様に構成されただけである。 以上で図25に示されるT,B,S1,S2及びS3位置を(その他の実施例もあるが)例えば図18乃至24の地震時ロック装置は選択可能であることが理解されたことと思う(段落【0009 ) 。」】・「…例えば図1乃至図5のものの様に静止位置から前方へのみ動くことが出来るものではゆれのエネルギーを蓄積出来ない(感度が落ちる)だけでなく振動数の選択も出来ないのでありこの点で両者は相違するのである。… (段落【0012 ) 」】(ウ)図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である )。 (比較のための地震時ロック装置の断面側面図) ・ 図1【】(同上作動状態図) ・ 図2【】(同上作動状態図) ・ 図3【】(同上作動状態図) ・ 図4【】(比較のための他の地震時ロック装置の概念図) ・ 図20【】(本発明の地震時ロック装置の取り付け位置を示す正面図) ・ 図25【】(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば,原出願の当初明細書(乙2の8)には 「比較のためのロック装置(従って本発明ではない 」として本件明 , )細書(甲1)の図1〜図4と同内容である図1〜4が示され,そのため図面の説明としても「比較のための地震時ロック装置の断面側面図 ,」「同上作動状態図」とされている。 しかし,上記によれば,原出願の当初明細書においては,図18ない,, , , し図24の地震時ロック装置においては 取り付け位置として T BS1,S2及びS3位置が選択可能であるとされている(段落【0009 )が,図1〜4で示される比較のための地震時ロック装置について 】は,これをT位置に取り付けることについては記載がされていないということができる。 イ(ア)一方,本件特許の出願時(原出願からの分割出願時,平成16年6月7日)の明細書(以下「本件当初明細書」という。乙2の15)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ・「図8は本発明の方法を示し,該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある。 開き戸(2)の自由端に取り付けると蝶番(特にマグネットキャッチを用いずばね付き蝶番だけで開き戸(2)の閉止力を確保している場合)から遠いため地震時の開き戸 2 の動きが最も大きくロック機構にとっ ()てロックが不安定になるという問題が生じる場合があるからである。 地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸 2 の動きが少なくなるためロック機構にとってロッ ()クが確実になるのである。 マグネットキャッチなしでコスト削減したい場合にこの取り付け方法でロックが確実になるという非常に重要な効果が達成出来る。 次に図9に示されるT,B,S1,S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図8において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由)。」(【】) 端でない位置にロック装置を取り付けるのである段落 0009(イ)また,本件当初明細書(乙2の15)の図面には,図1〜図4として,上記ア(ウ)の原出願の当初明細書(乙2の8)及び上記3( )ウ記1載の本件明細書 甲1 と同一の図1〜図4が示されている また図 () 。,【面の簡単な説明】の記載内容は,本件明細書の記載と同一の記載内容で( )。 ある 上記ア(ウ)の原出願の当初明細書の記載とは異なることとなるまた,図8は本件明細書の図5と,図9は本件明細書の図6とそれぞれ同一である(平成17年4月26日付け手続補正〔乙2の20〕によりそれぞれ図5,図6とされたものである 。)ウ上記イのとおり,本件特許出願にかかる本件当初明細書(乙2の15)においては,図1〜図4で示されるロック装置をT位置に取り付けるものとされているところ,上記ア(エ)において検討したとおり,原出願の当初明細書(乙2の8)には,本件当初明細書と同一の図1〜図4で示される「比較のための地震時ロック装置」については,これをT位置に取り付けることについて,記載がされていなかったものである。 そうすると,本件特許出願は,原出願の当初明細書には記載されていない本件特許発明1に係るロック装置をT位置に取り付ける事項を含むものであるから,特許法44条1項に規定する適法な分割出願とすることはできない。そうすると,本件特許出願について,本件分割前の原出願の出願日(平成8年5月27日)への遡及を認めることは出来ず,その基準時は本件特許の出願日(分割出願の日)である平成16年6月7日となる。 そして,上記のとおり,原出願の公開公報(甲7,公開日 平成10年2月3日)には,本件特許発明1の実施例に用いられる地震時ロック装置と同一の地震時ロック装置及びその使用方法が開示され,その地震時ロック方法を用いた家具(本件特許発明3)及び吊り戸棚(本件特許発明4)についても開示されているから,本件特許発明1,3及び4は,原出願の公開公報(甲1)に記載された発明と同一であり,新規性(特許法29条1項3号)を欠如するものであり,無効理由がある。 ( )控訴人の主張に対する補足的判断2控訴人は,原出願の当初明細書記載の図1〜図4の実施例は天板下面にロック装置が取り付けられており,左右方向への動きは任意に選択可能であり,原出願の当初明細書の図1〜図4で示されるロック装置を,同じく図25(本件出願の当初明細書の図9)で示されるT位置に設ける発明は,原出願に記載されていた複数の発明を組み合わせて減縮したものであるから,適法な分割出願である旨主張する。 しかし,控訴人主張の減縮した発明については,上記( )のとおりT位置1にロック装置を設けることの記載自体がないものであるから,原出願の当初明細書には記載がないというほかなく,控訴人の上記主張は採用することができない。 5明確性要件違反(特許法36条6項2号)の有無について( )被控訴人は,本件特許発明1の「わずかに開かれる「わずかに開かれ1 」,た「開き戸の自由端でない位置」との記載はいずれも不明確であり,明確 」,性要件違反があると主張し,当裁判所も本件特許の特許請求の範囲の請求項1,3及び4の記載は明確ではなく,無効理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。 ア本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は前記のとおりであるところ,そこには 「…係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック ,位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する…「…係止後」,使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる…」との記載があり,それぞれ係止手段が係止具に係止してロック位置になると,開き戸をわずかに開いた位置で係止することが記載されている。 イまた,本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明の記載内容は上記のとおりであるところ,この「わずかに開かれ」については 「…更にゆれの力,により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。… (段落」【】)。,() 0006と記載されている そして 図3で示される係止手段 4が係止具(5)に係止している状態がロック装置が開き戸を「ロック」していると解されることから 「係止手段が…わずかに開かれる開き戸の係 ,止具に係止する「わずかに開かれた前記ロック位置となる開き戸 ,及 」, 」び「…更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。…」の各表現は,図3の状態を表わしていると判断される。 これらによれば,このときの図3における係止手段(4)の係止部(4)()() () a と係止具 5 の係止部 5b が係止している状況での開き戸 2と本体(1)との間隔が,本件特許発明1における「わずかに」であると一応理解できる。 上記のとおり本件明細書の発明の詳細な説明の記載と図面とを参酌した上で,本件特許発明1は,地震時において本体側に設けられた係止手段の係止部が,開き戸の係止具の係止部に当たり,それ以上開き戸が開かないようにするとの構成を理解したとしても,その開き戸が開く程度については,特許請求の範囲の記載に「わずかに」と極めて抽象的に表現されているのみで,特許請求の範囲の他の記載を参酌しても,その内容が到底明らかになるものとはいえない。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明にも,その「わずかに」で表わされる程度を説明したり,これを示唆するような具体的な記載はない。 そうすると,当業者にとって,その技術常識を参酌したとしても,本件特許発明1の「わずかに」と記載される程度を理解することは困難であっ, 。, て 特許請求の範囲の記載が不明確であるといわざるを得ない この理は本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明3・4についても同様である。そうすると,本件特許発明1,3及び4には明確性要件違反の無効理由があることになる。 ( )控訴人の主張に対する補足的判断2ア控訴人は,本件特許発明1の特許請求の範囲記載の「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成について,係止状態が,地震のゆれの力では閉じられず,ゆれの力より大きい押す力では閉じられる係止状態であれば足りるから,同構成については,慣用技術を用いることによって,実施例以外の具体的な構成を想定することができる旨主張する。 しかし 「わずかに」で表わされる特許請求の範囲の記載が明確でない ,ことについては,上記( )のとおりであり,慣用技術を用いることにより1その記載の範囲が明確になるものではないから,控訴人の上記主張は採用することができない。 イまた控訴人は,本件特許発明1の「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」との構成については,急激に大きい地震のゆれが生じた場合は係止手段の移動開始と開き戸の開き開始が同時であることは技術常識であり,発明の詳細な説明は小さいゆれから次第に大きいゆれになっていく地震についてのプロセスを説明したものであり,明確性要件違反はない旨主張する。 しかし,上記控訴人の主張によっても,係止手段のロック位置への移動と係止手段の係止具への係止が同時に生じるとすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,これが同時に生じる場合の説明はなされていないものである。一方,仮に本件特許発明1を,係止手段のロック位置への移動後に,係止手段の係止具へ係止が生じると解した場合には,開き戸が開く以前にすでに係止手段はロック位置にまで移動しているのであるから,本件特許発明1の課題である「開き戸の自由端に取り付けると蝶番から遠いため地震時の開き戸の動きが最も大きくロック機構にとってロックが不安定になる」という問題はそもそも生じないことになる。そうすると,いずれにしろ本件特許発明1が明確であるとする理由とはなり得ないものであって,控訴人の上記主張は採用することができない。 6結語以上のとおり,被告各物件は本件特許権を侵害するものではなく,かつ本件特許権には特許無効審判により無効にされるべき事由があるから,控訴人の被控訴人に対する本訴請求は棄却されるべきものである。 よって,これと結論を同じくする原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
---|---|
裁判官 | 今井弘晃 |
裁判官 | 真辺朋子 |